(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119302
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240827BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
F16F15/02 C
E04H9/02 341C
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026100
(22)【出願日】2023-02-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】519375136
【氏名又は名称】株式会社ティイソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】金 潤石
(72)【発明者】
【氏名】李 承佑
(72)【発明者】
【氏名】高 兄均
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AC19
2E139AC20
2E139BB02
2E139BB26
2E139BB34
2E139BC11
2E139BD32
3J048AD07
3J048BF01
3J048BF10
3J048CB01
3J048CB22
3J048DA07
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】可動方向ごとの固有振動数の調整が容易な振り子型制振装置を提供する。
【解決手段】第1・第2の吊り材11・12は、いずれも、制振対象である構造体81に取り付けられて、質量体2を、構造体81の振動に伴って受動的に揺動可能となるように、鉛直方向に吊り下げる。第1・第2の弾性部材31・32は、いずれも、鉛直方向に対して傾斜するように配置されるとともに、構造体81と質量体2との間、又は、構造体81と第1・第2の吊り材11・12との間を連結するように配置されている。第1・第2の弾性部材31・23は、いずれも鉛直面内に配置されているとともに、鉛直な仮想的対称軸を挟んで対称となるように配置されている。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の吊り材と、質量体と、弾性機構とを備えており、
前記第1及び第2の吊り材は、いずれも、制振対象である構造体に取り付けられて、前記質量体を、前記構造体の振動に伴って受動的に揺動可能となるように、鉛直方向に吊り下げる構成となっており、
前記弾性機構は、第1及び第2の弾性部材を備えており、
前記第1及び第2の弾性部材は、いずれも、鉛直方向に対して傾斜するように配置されるとともに、前記構造体と前記質量体との間、又は、前記構造体と前記第1及び第2の吊り材との間を連結するように配置されており、
かつ、前記第1及び第2の弾性部材は、いずれも鉛直面内に配置されているとともに、鉛直な仮想的対称軸を挟んで対称となるように配置されている
ことを特徴とする振り子型制振装置。
【請求項2】
前記鉛直面は、振動数を調整しようとする方向に沿うように設定されている
請求項1に記載の振り子型制振装置。
【請求項3】
前記構造体は、構造物の天井面、又は、前記構造物に固定されて前記第1及び第2の吊り材を支持可能な支持体である
請求項1又は2に記載の振り子型制振装置。
【請求項4】
前記第1及び第2の吊り材は、いずれも、静止状態において鉛直方向となるように配置されている、
請求項1又は2に記載の振り子型制振装置。
【請求項5】
請求項1に記載の振り子型制振装置を用いて前記構造体の制振を行うことを特徴とする制振方法。
【請求項6】
前記第1及び第2の弾性部材における傾斜角及び/又は弾性係数を調整することにより、前記鉛直面内において揺動する前記質量体の固有振動数を調整する工程を有する
請求項5に記載の制振方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物や橋梁などの構造物において発生する水平方向の振動を制御するための制振装置に関するものである。より具体的には、本発明は、可動方向ごとの固有振動数の調整が容易な振り子型制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物や橋梁などの構造物に台風などの風荷重が作用したり、地震荷重や交通荷重によって振動が発生した場合、これらの振動は構造物の安全性の問題となるだけでなく、構造物の使用者に不快感を与えることになる。このため制振装置を使用して振動を抑制したり、最小化することが試みられている。
【0003】
構造物についての代表的な制振装置として、同調質量ダンパー(TMD:Tuned Mass Damper)がある。TMDは構造物の振動によって受動的に振動する可動質量とダンパとを有しており、TMDを構造物に設置することで振動を制御することができる。
【0004】
図1に、水平に振動する構造物とTMDの振動力学モデルを示す。可動質量(質量m
T)は構造物の質量m
Sの数%程度である。例えば、風荷重、地震荷重などの原因によって構造物が揺れると、これに同調してTMDも揺れながら作動することになる。このとき、TMDに設けられた減衰器C
Tによって振動エネルギーが吸収され、構造物の振動も抑制される。このような制振効果を効率的に発揮するためには、構造物とTMDの固有振動数がほぼ等しくなる(例えば振動数比が98%~99%程度になる)ように設定する必要がある。
【0005】
制振装置は、構造物の振動方向に応じて上下方向の制振装置と水平方向の制振装置とに区分されるが、以下では水平方向の制振装置について説明する。また水平方向の制振装置は、スライド方式と振り子方式に区分されるが、以下では
図2のような、ワイヤ等の吊り材100により可動質量200を受動的に振動可能なように吊り下げた構造の振り子型制振装置について説明する。
【0006】
一般に、建物や橋梁などの構造物は、振動する方向に応じてさまざまな固有振動数を持つ。すなわち、高層ビルが水平に振動する場合、前後方向に揺れる固有振動数と左右方向に揺れる固有振動数が等しくないことが一般的である。橋梁主塔も橋軸方向に揺れる場合と橋軸直角方向に揺れる場合においてその固有振動数は同一ではない。
【0007】
前述のように、TMDの固有振動数は構造物の固有振動数とほぼ等しく設定される。したがって、振り子型制振装置の固有振動数も構造物の固有振動数とほぼ等しく設定されなければならない。
【0008】
一方、振り子型の制振装置、すなわち振り子型TMDにおける可動質量の固有振動数は、振動する振り子の長さ(具体的には吊り材の長さ)に依存する。すなわち、振り子長の逆数の平方根(ルート)に比例して固有振動数が低くなる。振り子型TMDにおいては、同じ長さの振り子を単数または複数使用することになるが、これは水平方向に動作する振り子型TMDの場合、動作方向に関係なく同じ固有振動数を有することを意味する。
【0009】
しかしながら、前述のように、一般に建物や橋梁などの構造物は、振動する方向に応じて異なる固有振動数を有する。したがって、この場合、振り子型制振装置は振動方向によって制御効果が著しく低下してしまう。
【0010】
上記のような問題を解決するために、
図3~
図7に示す技術が提案されている。この技術は、水平方向で動作する振り子型制振装置において、いずれかの方向には振り子の全長が可動するようにし、他の方向では振り子の一定長さが動作しないように拘束し、振り子型制振装置の振動方向によって固有振動数が異なるように設定できるものである。すなわち、
図3のように可動質量200を吊り材100で吊り下げることによって水平にX方向とY方向に動作する振り子型制振装置において、
図4及び
図5中の符号400で示す振動数調整装置を適切な位置に設置する。すると、
図6で示すように、X方向に振り子型TMDが稼動する場合には、振り子は振動数調整装置400によって一定長さ(L2)のみ作動するようになる。一方で
図7に示すように、Y方向に振り子型TMDが可動する場合には、振り子は振動数調整装置400の影響を受けないので、振り子の全長(L1+L2)が作動する。
【0011】
したがって、振動する方向に応じて可動質量200の固有振動数を異なるように設定することができる。ただし、このようなシステムによって振り子の固有振動数を調整する場合、振り子と振動数調整装置400との摩擦が問題となる。このような摩擦は振り子がY方向に作動する場合には大きくはないが、振り子がX方向とY方向に同時に作動する(つまり両方向の成分を持つ方向に作動する)場合には大きな摩擦力が発生するようになる。振動数調整装置400に摩擦の小さい材質を用いても、少なくとも数%程度の摩擦が予想され、この場合、振り子型TMDは小さな振動には機能しないという欠点を有することになる。
【0012】
また、別の従来技術として、
図8のような剛体装置500を吊り材100の間に設け、水平方向で作動する振り子型TMDが提案されている。この技術ではいずれかの方向には振り子の全長が可動するようにし、その別の方向では振り子の一定の長さが作動しないように拘束し、可動質量200の振動方向によって固有振動数が異なるように設定できるようにしている。
【0013】
すなわち、
図3のように水平にX方向とY方向に動作する振り子型制振装置において、
図8及び
図9に示す剛体装置(具体的には例えば矩形の鉄板)500を適切な大きさで設置する。すると、
図10のようにX方向には振り子の一定長さ(L1+L3)を作動させることができる。一方
図11のようにY方向には振り子の全長(L1+L2+L3)を作動させることができる。このようにして振動する方向に応じて可動質量200の固有振動数を異なるように設定することができる。ただし、このようなシステムによって可動質量200の固有振動数を調整する場合、振り子に設置された剛体装置500が振り子運動とは別に座屈などの独立した運動をして制振性能を低下させることがある。また、X方向の固有振動数の微調整が非常に難しいという欠点がある。
【0014】
さらに、下記特許文献1では、
図12のように傾斜したバネ601及びダンパ602をX方向とY方向に設けることにより、X方向とY方向の固有振動数を調整している。この技術では、傾斜したバネが可動質量200の重心点(G)、あるいは重心線に固定されるようになっており、吊り材100が可動質量の重心高さ(P)に固定されるようになっている。
【0015】
もし、傾斜バネが可動質量の重心点に固定されていない場合には、振り子型TMDがX方向とY方向に同時に振動する場合、ねじり方向に可動質量200が動くことになり制振効果を大きく減少させるようになるので、前記構成によりこの問題を解消している。また、X方向とY方向にバネを対称に配置せず、一方はバネ601、もう一方はダンパ602を配置しているので、可動質量200の重心点(G)や重心線上にバネを固定しないと、可動質量のねじり運動のまた一つの発生原因となる。さらに、この技術では振り子の長さによるTMDの振動数よりもX方向とY方向共に高い振動数に設定されるため、その分余計に振り子を長くする必要があり、TMDの設置空間が余計に求められる欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は前記のような状況に鑑みてなされたものであり、前記した欠点を解消して、可動方向ごとの固有振動数の調整が容易な振り子型制振装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記した課題を解決する手段は、以下の項目のように記載できる。
【0019】
(項目1)
第1及び第2の吊り材と、質量体と、弾性機構とを備えており、
前記第1及び第2の吊り材は、いずれも、制振対象である構造体に取り付けられて、前記質量体を、前記構造体の振動に伴って受動的に揺動可能となるように、鉛直方向に吊り下げる構成となっており、
前記弾性機構は、第1及び第2の弾性部材を備えており、
前記第1及び第2の弾性部材は、いずれも、鉛直方向に対して傾斜するように配置されるとともに、前記構造体と前記質量体との間、又は、前記構造体と前記第1及び第2の吊り材との間を連結するように配置されており、
かつ、前記第1及び第2の弾性部材は、いずれも鉛直面内に配置されているとともに、鉛直な仮想的対称軸を挟んで対称となるように配置されている
ことを特徴とする振り子型制振装置。
【0020】
(項目2)
前記鉛直面は、振動数を調整しようとする方向に沿うように設定されている
項目1に記載の振り子型制振装置。
【0021】
(項目3)
前記構造体は、構造物の天井面、又は、前記構造物に固定されて前記第1及び第2の吊り材を支持可能な支持体である
項目1又は2に記載の振り子型制振装置。
【0022】
(項目4)
前記第1及び第2の吊り材は、いずれも、静止状態において鉛直方向となるように配置されている、
項目1又は2に記載の振り子型制振装置。
【0023】
(項目5)
項目1に記載の振り子型制振装置を用いて前記構造体の制振を行うことを特徴とする制振方法。
【0024】
(項目6)
前記第1及び第2の弾性部材における傾斜角及び/又は弾性係数を調整することにより、前記鉛直面内において揺動する前記質量体の固有振動数を調整する工程を有する
項目5に記載の制振方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、可動方向ごとの固有振動数の調整が容易な振り子型制振装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】水平方向振動に対する構造物とTMDの力学モデルを示す図である。
【
図2】従来の振り子型制振装置の模式的な説明図である。
【
図3】従来の、X方向及びY方向に動作する振り子式制振装置の模式的な説明図である。
【
図4】振動数調整装置を用いた従来の振り子型制振装置の模式的な説明図である。
【
図6】
図4の装置がX方向に動作する状態を示す説明図である。
【
図7】
図4の装置がY方向に動作する状態を示す説明図である。
【
図8】別の振動数調整装置を用いた従来の振り子型制振装置の模式的な説明図である。
【
図10】
図8の装置がX方向に動作する状態を示す説明図である。
【
図11】
図8の装置がY方向に動作する状態を示す説明図である。
【
図12】さらに別の振動数調整装置を用いた従来の振り子型制振装置の模式的な説明図である。
【
図13】本発明の第1実施形態に係る振り子型制振装置の概略的な正面図にパラメータを付記した説明図である。
【
図14】
図13の装置における吊り材の配置状態を説明するための概略的な斜視図である
【
図15】
図13の装置がX方向に動作した状態を示す、パラメータを付記した説明図である。
【
図16】
図13からパラメータの記載を除外した模式的な説明図である。
【
図17】
図13の装置を側面から見た状態の模式的な説明図である。
【
図18】
図16の装置がX方向に動作した状態を示す説明図である。
【
図19】
図16の装置がY方向に動作した状態を示す説明図である。
【
図20】本発明の第2実施形態に係る振り子型制振装置を正面から見た状態の概略的な説明図である。
【
図21】
図20の装置を側面から見た状態の模式的な説明図である。
【
図22】本発明の第3実施形態に係る振り子型制振装置を正面から見た状態の概略的な説明図である。
【
図23】本発明の第4実施形態に係る振り子型制振装置を正面から見た状態の概略的な説明図である。
【
図24】本発明の第5実施形態に係る振り子型制振装置を正面から見た状態の概略的な説明図である。
【
図25】本発明の第6実施形態に係る振り子型制振装置を正面から見た状態の概略的な説明図である。
【
図26】本発明の第7実施形態に係る振り子型制振装置を正面から見た状態の概略的な説明図である。
【
図27】本発明の第8実施形態に係る振り子型制振装置を正面から見た状態の概略的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の第1実施形態に係る振り子型制振装置(以下単に「制振装置」又は「装置」と称することがある)を、
図13~
図19に基づいて説明する。
【0028】
(本実施形態の構成)
本実施形態の制振装置は、振り子機構1と、質量体2と、弾性機構3とを主要な構成要素として有している。
【0029】
本実施形態の振り子機構1は、具体的には、第1~第4の吊り材11~14から構成されている(
図14参照)。なお、
図14では、見易さのため、弾性機構3の記載を省略している。
【0030】
(振り子機構)
第1~第4の吊り材11~14は、いずれも、制振対象である構造体81に取り付けられて、質量体2を、構造体81の振動に伴って受動的に揺動可能となるように、鉛直方向に吊り下げる構成となっている。ここで構造体81は、例えば、建物や地盤等の構造物8に固定されて吊り材を支持可能な支持体(いわゆるフレーム)であるが、それに限らず、建物の天井面や橋梁の下面など、制振の対象となる物体であればよい。
【0031】
第1~第4の吊り材11~14は、いずれも、静止状態において鉛直方向となるように配置されている。これらの吊り材11~14は、例えばワイヤやロッドにより構成されているが、通常の各種の振り子機構の場合と同様の吊り材を使用することができる。
【0032】
(質量体)
質量体2は、適宜な錘であればよい。質量体2はTMDにおけるいわゆる可動質量として機能する。力学モデルに基づく質量体2の動作については後述する。
【0033】
(弾性機構)
本実施形態の弾性機構3は、第1・第2の弾性部材31・32を有している。第1・第2の弾性部材31・32は、いずれも、鉛直方向に対して傾斜するように配置されるとともに、構造体81と質量体2との間を連結するように配置されている。さらに、第1・第2の弾性部材31・32は、いずれも仮想的な鉛直面内に配置されているとともに、鉛直な仮想的対称軸5(
図13参照)を挟んで対称となるように配置されている。この仮想的な鉛直面は、固有振動数を調整しようとする方向(本例ではX方向)に沿うように設定されている。本実施形態における第1・第2の弾性部材31・32としては、例えばバネやゴムを用いることができるが、これらに限らず、必要な弾性係数と強度を持つ各種の機構を用いることができる。
【0034】
(本実施形態の制振装置の理論的背景)
ここで、本実施形態の制振装置の理論的背景について、
図13及び
図15を参照しながら説明する。
【0035】
図13に示す通り、制振装置における各パラメータを
振り子長さ:l
質量体の質量(可動質量):m
第1・第2の弾性部材の弾性係数:k
一方の弾性部材と鉛直方向(仮想的対称軸)との角度:φ
0
一方の弾性部材の長さ:L
0
弾性部材の両端部間距離(水平方向での距離):b
とする。
【0036】
例えば、本実施形態の制振装置の質量体2が
図15に示すように角度θだけ水平移動(x方向に移動)した場合に、弾性部材(図示例では第1弾性部材31)の長さの増分ΔLは次のように表すことができる。
【0037】
【0038】
ここで、式(1-3)は非線形式であるため、ここに次のようなTaylor Seriesを適用して線形式に導くとΔLは次のように表すことができる。
【0039】
【0040】
上記式に基づいて図に示す質量体2の運動方程式と固有振動数fを導き出すと次のようになる。ここで、gは重力加速度を示す。
【0041】
【0042】
式(3-4)から分かるように、振り子長さlと、可動質量mを有する振り子型制振装置において、弾性部材の弾性係数kとその長さL
0を適切に調整することにより、質量体2の固有振動数を高めることができる。つまり、固有振動数の調整が可能になる。ここで、前記の距離bは、弾性部材の下端の位置に応じて決まる。
図15では、質量体2が図中右方向に動く例を示したが、図中左方向に動く場合も、左右が逆になるだけであり、原理的には同様の動作となる。
【0043】
結論として、本実施形態の質量体2の固有振動数は、弾性係数kの平方根に比例して高くなる。また、b/L0、すなわち、弾性部材31・32の傾斜角度が大きくなるほど固有振動数が高くなることが分かる。
【0044】
(本実施形態の動作)
以上の理論的背景を踏まえて、本実施形態の制振装置の動作について、
図16~
図19をさらに参照しながら説明する。
【0045】
まず、
図16及び
図18に示すx方向の振動に関しては、理論的背景において説明した通り、弾性部材の弾性係数や傾斜角度などのパラメータに応じて、固有振動数を高めることができる。
【0046】
一方、
図17及び
図19に示すy方向の振動に関しては、弾性部材31・32は吊り材と平行の状態を維持し、長さの変化が発生しないため、弾性部材31・32による影響はほぼ無視できる。したがって、質量体2は、y方向においては吊り材の長さで決まる固有振動数で動作する。
【0047】
つまり、以上のようにして、本実施形態の制振装置によれば、x方向とy方向とで異なる固有振動数とすることができる。よって、制振対象の構造体におけるx方向の固有振動数が高く、y方向の固有振動数が低い場合には、それに整合するように本実施形態の制振装置を設置することによって、両方向においてそれぞれ良好な制振効果を得ることができる。
【0048】
さらに、本実施形態の制振装置によれば、例えばバネの交換のように非常に簡単な方法により第1・第2弾性部材31・32の弾性係数kを調整することができる。また、第1・第2弾性部材31・32と鉛直との角度も容易に調整可能である。
【0049】
本実施形態の制振装置は、
図4~
図7に示した従来の制振装置のような摩擦抵抗が発生しないため、小さな振動に対しても十分な振動制御効果を期待することができる。また、
図8~
図11に示した従来の制振装置のような剛体装置を必要としないので、座屈などの不安定現象を防ぐこともできる。さらに、本実施形態では、一対の弾性部材31・32を対称に配置したので、弾性部材31・32を質量体2の重心点に固定しなくても、ねじり挙動のような異常現象を防ぐことができ、高い制振効果を得ることができる。
【0050】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る振動装置を、
図20及び
図21に基づいて説明する。この第2実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に同様の構成要素については同一符号を用いることにより、記載の重複を避ける。
【0051】
この第2実施形態においては、複数の弾性機構3を、互いに平行となるように設ける(
図21参照)。各弾性機構3の構成は、第1実施形態と同様である(
図20参照)。
【0052】
第2実施形態の振動装置においては、第1実施形態と同様に、x方向(
図20参照)における固有振動数を高めることができる。y方向(
図21参照)における固有振動数はほぼ変化しない。
【0053】
第2実施形態の装置では、複数の弾性機構3を設けているので、質量体2に対するねじれの発生を確実に防止することができるという利点がある。このため、固有振動数の調整を確実に行うことができる。
【0054】
第2実施形態の振動装置における他の構成及び利点は前記した第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳細な説明は省略する。
【0055】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る振動装置を、
図22に基づいて説明する。この第3実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に同様の構成要素については同一符号を用いることにより、記載の重複を避ける。
【0056】
この第3実施形態においては、第1・第2の弾性部材31・32の端部(下端)どうしの間隔を狭め、質量体2の上面に取り付けている。第3実施形態の装置では、第1・第2弾性部材31・32の傾斜角が第1実施形態の装置よりも小さいので、他の条件が同じであれば、x方向における質量体2の固有振動数が、第1実施形態の装置よりも低くなる。
【0057】
第3実施形態の振動装置における他の構成及び利点は前記した第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳細な説明は省略する。
【0058】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る振動装置を、
図23に基づいて説明する。この第4実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に同様の構成要素については同一符号を用いることにより、記載の重複を避ける。
【0059】
この第4実施形態においては、第1・第2の弾性部材31・32の上端を離間させている。この例では、第1・第2の弾性部材31・32の上端を、吊り材11・12の上端よりも外側の位置に配置している。ただし、第1・第2の弾性部材31・32の上端を、吊り材11・12の上端よりも内側の位置に配置することは可能である。
【0060】
この第4実施形態の制振装置によれば、吊り材の間に収納空間を作ったり、天井面から突起物があった場合にも設置が容易であるという利点がある。また、弾性部材31・32の傾斜角の制約が少なくなるという利点もある。
【0061】
第4実施形態の振動装置における他の構成及び利点は前記した第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳細な説明は省略する。
【0062】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る振動装置を、
図24に基づいて説明する。この第5実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に同様の構成要素については同一符号を用いることにより、記載の重複を避ける。
【0063】
この第5実施形態においては、第1・第2の弾性部材31・32を交差して配置している。第1・第2の弾性部材31・32は、両者の弾性が干渉により相互に阻害されないような素材あるいは構造であることが好ましい。
【0064】
第5実施形態の振動装置における他の構成及び利点は前記した第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳細な説明は省略する。
【0065】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態に係る振動装置を、
図25に基づいて説明する。この第6実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に同様の構成要素については同一符号を用いることにより、記載の重複を避ける。
【0066】
この第6実施形態においては、第1・第2の弾性部材31・32の下端を吊り材11・12の中間位置に取り付けている。これにより第6実施形態は、第1・第2の弾性部材31・32が構造体81と吊り材との間を連結する構成となっている。また、第1・第2の弾性部材31・32の上端を構造体81に、相互に離間した状態で取り付けている。第6実施形態においては前記した第4実施形態と同様の利点を得ることができる。
【0067】
第6実施形態の振動装置における他の構成及び利点は前記した第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳細な説明は省略する。
【0068】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態に係る振動装置を、
図26に基づいて説明する。この第7実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に同様の構成要素については同一符号を用いることにより、記載の重複を避ける。
【0069】
この第7実施形態においては、第1・第2の弾性部材31・32の下端を吊り材11・12の中間位置に取り付けている。
【0070】
第7実施形態の振動装置における他の構成及び利点は前記した第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳細な説明は省略する。
【0071】
(第8実施形態)
次に、本発明の第8実施形態に係る振動装置を、
図27に基づいて説明する。この第8実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に同様の構成要素については同一符号を用いることにより、記載の重複を避ける。
【0072】
この第8実施形態においては、第1・第2の弾性部材31・32の上端を、構造体81から下方に突出した突出部82の下端に取り付けている。
【0073】
第8実施形態の振動装置における他の構成及び利点は前記した第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳細な説明は省略する。
【0074】
なお、本発明の内容は、前記各実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、具体的な構成に対して種々の変更を加えうるものである。
【0075】
例えば、前記した各実施形態では、
図3に示すような4本の吊り材を使用しているが、吊り材は2本以上であればよい。ただし少なくともX方向とY方向とに質量体2が揺動できる必要がある。吊り材が2本の場合、第1・第2弾性部材31・32は、いずれか2本の吊り材を含む鉛直面内に配置される。
【符号の説明】
【0076】
1 振り子機構
11~14 第1~第4の吊り材
2 質量体
3 弾性機構
31・32 第1・第2の弾性部材
5 仮想的対称軸
8 構造物
81 構造体
82 突出部
【手続補正書】
【提出日】2023-04-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の吊り材と、質量体と、弾性機構とを備えており、
前記第1及び第2の吊り材は、いずれも、制振対象である構造体に取り付けられて、前記質量体を、前記構造体の振動に伴って受動的に揺動可能となるように、鉛直方向に吊り下げる構成となっており、
前記弾性機構は、第1及び第2の弾性部材を備えており、
前記第1及び第2の弾性部材は、いずれも、鉛直方向に対して傾斜するように配置されるとともに、前記構造体と前記質量体との間、又は、前記構造体と前記第1及び第2の吊り材との間を連結するように配置されており、
かつ、前記第1及び第2の弾性部材は、いずれも鉛直面内に配置されているとともに、鉛直な仮想的対称軸を挟んで対称となるように配置されており、
前記鉛直面は、振動数を調整しようとする方向であるx方向に沿うように設定されており、
前記質量体は、前記x方向と交差するy方向において、前記第1及び第2の吊り材により受動的に揺動可能とされている
ことを特徴とする振り子型制振装置。
【請求項2】
前記質量体は、前記y方向において、前記吊り材の長さにより決まる振動数で揺動可能とされている
請求項1に記載の振り子型制振装置。
【請求項3】
前記構造体は、構造物の天井面、又は、前記構造物に固定されて前記第1及び第2の吊り材を支持可能な支持体である
請求項1又は2に記載の振り子型制振装置。
【請求項4】
前記第1及び第2の吊り材は、いずれも、静止状態において鉛直方向となるように配置されている、
請求項1又は2に記載の振り子型制振装置。
【請求項5】
請求項1に記載の振り子型制振装置を用いて前記構造体の制振を行うことを特徴とする制振方法。
【請求項6】
前記x方向を、前記構造体における固有振動数が高い方向に整合させ、前記y方向を、前記構造体における固有振動数が低い方向に整合させて、前記構造体の制振を行う
請求項5に記載の制振方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
(弾性機構)
本実施形態の弾性機構3は、第1・第2の弾性部材31・32を有している。第1・第2の弾性部材31・32は、いずれも、鉛直方向に対して傾斜するように配置されるとともに、構造体81と質量体2との間を連結するように配置されている。さらに、第1・第2の弾性部材31・32は、いずれも仮想的な鉛直面内に配置されているとともに、鉛直な仮想的対称軸5(
図13参照)を挟んで対称となるように配置されている。この仮想的な鉛直面は、固有振動数を調整しようとする方向(本例では
x方向)に沿うように設定されている。本実施形態における第1・第2の弾性部材31・32としては、例えばバネやゴムを用いることができるが、これらに限らず、必要な弾性係数と強度を持つ各種の機構を用いることができる。