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特開2024-11931電動車両の制御方法、及び、電動車両の制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011931
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】電動車両の制御方法、及び、電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
B60L15/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114287
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 彰
(72)【発明者】
【氏名】中島 孝
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125EE08
(57)【要約】
【課題】電動モータの性能を活かしつつ、外乱によって生じる振動を的確に抑制することができる電動車両の制御方法、及び、電動車両の制御装置を提供する。
【解決手段】この電動車両100の制御方法では、電動モータ14が出力すべきトルクを表す基本トルク目標値Tm1 、及び、電動車両100に作用する外乱によって生じる振動を補償する補償トルクTが演算される。また、電動モータ14が出力し得るトルク(TmaxP,TmaxR)に対する可変のマージンであるトルクマージンTmarginが設定される。そして、トルクマージンTmarginに基づいて、基本トルク目標値Tm1 を制限することにより、制限後トルク目標値Tm1-lim が演算される。その後、制限後トルク目標値Tm1-lim と補償トルクTに基づいて、最終トルク目標値Tmf が演算され、この最終トルク目標値Tmf にしたがって電動モータ14が制御される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを駆動源とする電動車両の制御方法であって、
前記電動車両の車両情報に基づいて、前記電動モータが出力すべきトルクを表す基本トルク目標値を算出し、
前記電動モータの回転状態を表すパラメータである回転パラメータに基づいて、前記電動車両に作用する外乱によって生じる振動を補償する補償トルクを演算し、
前記補償トルクに基づいて、前記電動モータが出力し得るトルクに対する可変のマージンであるトルクマージンを設定し、
前記トルクマージンに基づいて、前記基本トルク目標値を制限することにより、制限後トルク目標値を演算し、
前記制限後トルク目標値と前記補償トルクに基づいて、最終トルク目標値を演算し、
前記最終トルク目標値にしたがって前記電動モータを制御する、
電動車両の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両の制御方法であって、
前記補償トルクが小さいときに、前記トルクマージンが小さく設定される、
電動車両の制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電動車両の制御方法であって、
前記補償トルクは、車両駆動系のねじり振動を補償する、
電動車両の制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の電動車両の制御方法であって、
前記補償トルクに対して、前記ねじり振動の周波数以下の周波数成分を通過させるフィルタリング処理を実行し、
前記フィルタリング処理後の前記補償トルクに基づいて、前記トルクマージンを設定する、
電動車両の制御方法。
【請求項5】
請求項1に記載の電動車両の制御方法であって、
前記補償トルクの絶対値を演算し、
前記補償トルクの絶対値に基づいて、前記トルクマージンを設定する、
電動車両の制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電動車両の制御方法であって、
予め定める基準値であるオフセットトルクと、前記補償トルクの絶対値と、を加算した値を、前記トルクマージンに設定する、
電動車両の制御方法。
【請求項7】
請求項1に記載の電動車両の制御方法であって、
前記トルクマージンは、予め定める基準値であるオフセットトルクを用いて設定され、
前記補償トルクに基づいて前記オフセットトルクを補正することにより、前記トルクマージンが補正される、
電動車両の制御方法。
【請求項8】
請求項1に記載の電動車両の制御方法であって、
予め定められた第1オフセットトルクと、予め定められ、前記第1オフセットトルクよりも値が小さい第2オフセットトルクと、から、前記補償トルクに基づいていずれか一方を選択し、
前記トルクマージンは、選択された前記第1オフセットトルクまたは前記第2オフセットトルクを用いて設定される、
電動車両の制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の電動車両の制御方法であって、
選択された前記第1オフセットトルクまたは前記第2オフセットトルクに対して、車両駆動系に生じるねじり振動の周波数以下の周波数成分を通過させるフィルタリング処理を実行し、
選択された前記第1オフセットトルクまたは前記第2オフセットトルクと、前記フィルタリング処理後の前記第1オフセットトルクまたは前記第2オフセットトルクと、を比較し、いずれか大きい方の値を前記トルクマージンに設定する、
電動車両の制御方法。
【請求項10】
請求項1に記載の電動車両の制御方法であって、
前記制限後トルク目標値を用いて、車両駆動系の伝達特性に基づくフィードフォワード制御によって前記車両駆動系のねじりを抑制する第2トルク目標値を演算し、
前記第2トルク目標値と前記補償トルクに基づいて、前記最終トルク目標値を演算する、
電動車両の制御方法。
【請求項11】
請求項1に記載の電動車両の制御方法であって、
前記最終トルク目標値が、電動モータが出力し得るトルクを超えるときに、前記トルクマージンを変更する、
電動車両の制御方法。
【請求項12】
電動モータを駆動源とする電動車両の制御装置であって、
前記電動車両の車両情報に基づいて、前記電動モータが出力すべきトルクを表す基本トルク目標値を算出する基本トルク目標値算出部と、
前記電動モータの回転状態を表すパラメータである回転パラメータに基づいて、前記電動車両に作用する外乱によって生じる振動を補償する補償トルクを演算する補償トルク演算部と、
前記補償トルクに基づいて、前記電動モータが出力し得るトルクに対する可変のマージンであるトルクマージンを設定するトルクマージン設定部と、
前記トルクマージンに基づいて、前記基本トルク目標値を制限することにより、制限後トルク目標値を演算するトルク制限部と、
前記制限後トルク目標値と前記補償トルクに基づいて、最終トルク目標値を演算する最終トルク目標値演算部と、
前記最終トルク目標値にしたがって前記電動モータを制御する電動モータ制御部と、
を備える、電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の制御方法、及び、電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、全開加速時に、駆動系に生じるねじり振動を抑制する駆動系制振制御装置を開示している。この駆動系制振制御装置は、電動モータの回転数に応じて設定する上限トルクによって要求トルクを制限する構成となっているので、要求トルクが上限トルクに制限される全開加速時には、電動モータの回転数の振動によって上限トルクが振動し、その結果、駆動系にねじり振動が生じる。このため、特許文献1の駆動系制振制御装置は、ローパスフィルタを用いて、電動モータの回転数が含むねじり振動の共振周波数成分を減衰させ、上限トルクの振動を抑制することにより、全開加速時に駆動系に生じるねじり振動が抑制されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-128088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アクセル操作等に応じた要求トルクに、車両駆動系に生じるねじり振動等、外乱によって生じる振動を抑制する補償トルクをフィードバック制御によって重畳することによって、ねじり振動等を抑制する電動車両が知られている。このような電動車両では、電動モータが出力し得るトルクに対して予め固定のトルクマージンを設定し、補償トルクを重畳した場合でも電動モータが出力し得るトルクを超えないように要求トルクを制限する場合がある。
【0005】
しかし、電動モータを最大トルクで使用する全開加速時や強回生制御時において、補償トルクがトルクマージンよりも大きいときには、電動モータが出力すべきトルクは、電動モータが出力し得るトルクを超え、電動モータの性能的な限界によって制限される。すなわち、トルクマージンを固定的に設定すると、トルクマージンを設定しているにもかかわらず、全開加速時や強回生制御時に、外乱によって生じる振動が十分に抑制されない場合がある。
【0006】
一方、あらゆる走行シーンにおいて車両駆動系に生じるねじり振動等を十分に抑制するために、トルクマージンを大きい値に設定すると、トルクマージンによって要求トルクが大幅に制限されるため、電動モータの性能を活かしきれない。例えば、車両駆動系のねじり振動等があまり生じない路面で全開加速をするときには、トルクマージンの設定によって、電動車両の最大加速性能が損なわれる。
【0007】
本発明は、電動モータの性能を活かしつつ、外乱によって生じる振動を的確に抑制することができる電動車両の制御方法、及び、電動車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、電動モータを駆動源とする電動車両の制御方法である。この電動車両の制御方法では、電動車両の車両情報に基づいて、電動モータが出力すべきトルクを表す基本トルク目標値が算出され、電動モータの回転状態を表すパラメータである回転パラメータに基づいて、電動車両に作用する外乱によって生じる振動を補償する補償トルクが演算される。また、補償トルクに基づいて、電動モータが出力し得るトルクに対する可変のマージンであるトルクマージンが設定される。そして、トルクマージンに基づいて、基本トルク目標値を制限することにより、制限後トルク目標値が演算される。その後、制限後トルク目標値と補償トルクに基づいて、最終トルク目標値が演算され、最終トルク目標値にしたがって電動モータが駆動される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電動モータの性能を活かしつつ、外乱によって生じる振動を的確に抑制することができる電動車両の制御方法、及び、電動車両の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、電動車両の概略構成を示す説明図である。
図2図2は、電動車両の制御態様を示すフローチャートである。
図3図3は、アクセル開度-トルクテーブルの一例である。
図4図4は、電動車両の力学的モデルを示す説明図である。
図5図5は、電動モータの回転数とトルクの関係を示すグラフである。
図6図6は、基本トルク目標値制限処理のための構成を示すブロック図である。
図7図7は、フィルタリング処理部の構成例を示すグラフである。
図8図8は、制振制御処理のための構成を示すブロック図である。
図9図9は、バンドパスフィルタの構成例を示すグラフである。
図10図10は、整正路面を走行する場合におけるモータトルク等の推移を示すタイムチャートである。
図11図11は、路面状態が変化した場合におけるモータトルク等の推移を示すタイムチャートである。
図12図12は、路面状態が整正路面から不整路面に変化した場合におけるモータトルク等の推移を示すタイムチャートである。
図13図13は、第2実施形態における基本トルク目標値制限処理のための構成を示すブロック図である。
図14図14は、4WDの電動車両の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、電動車両100の概略構成を示す説明図である。図1に示すように、電動車両100には、バッテリ11、コントローラ12、インバータ13、電動モータ14、減速機15、回転センサ16、電流センサ17、ドライブシャフト18、及び、駆動輪19を備える。なお、電動車両とは、電動モータを駆動源または制動源とする車両をいう。電動モータを車両の駆動源または制動源の全部または一部として使用する車両は、電動車両である。すなわち、電動車両には、電気自動車の他、ハイブリッド車両や燃料電池自動車等も含まれる。本実施形態の電動車両100は、電動モータ14を駆動源及び制動源とするハイブリッド車両または電気自動車である。
【0013】
バッテリ11は、電動モータ14に電力を供給する。また、バッテリ11は、電動モータ14から回生電力の供給を受けることによって充電できる。バッテリ11は、インバータ13を介して電動モータ14に接続する。
【0014】
コントローラ12は、電動車両100の制御装置であり、電動車両100の車両情報に基づいて、電動車両100を構成する各部を制御する。例えば、コントローラ12は、車両情報に基づいて、PWM(Pulse Width Modulation signal)信号を生成する。そして、コントローラ12は、PWM信号にしたがって、インバータ13の駆動信号を生成する。これにより、コントローラ12は、電動モータ4の動作を電動モータ14の動作を制御する。
【0015】
車両情報は、電動車両100を構成する各部の動作状態または制御状態を示すパラメータである。例えば、電動車両100の車速V[km/h]、前後方向の加速度Ac[m/s]、アクセル開度(アクセルの操作量)θ[%]、ブレーキの操作量[%]、電動モータ4の回転子位相α[rad]、電動モータ4の三相交流電流i,i,i[A]、及び、バッテリ11の直流電圧Vdc[V](図示しない)等は、電動車両100の車両情報である。コントローラ12は、回転センサ16や電流センサ17等のセンサやその他図示しない計測器等からの入力により、これらの車両情報を適宜に取得する。
【0016】
また、コントローラ12は、演算により、その他の車両情報を取得する場合がある。本実施形態では、コントローラ12は、電動モータ4の回転子位相αを用いて、電動モータ14の回転速度ω[rad/s](機械角速度)を演算する。さらに、コントローラ12は、回転速度ωの単位を変換することにより、電動モータ14の回転数N[rpm]を演算する。回転速度ω及び回転数N等は車両情報である。そして、回転子位相α、回転速度ω、及び、回転数N等は、車両情報のうち、電動モータ14の回転状態を表すパラメータ(回転パラメータ)である。
【0017】
コントローラ12は、1または複数のコンピュータによって構成され、電動モータ4等の電動車両100の各部を、予め定める制御周期で制御するようにプログラムされている。コントローラ12が、電動車両100、または、電動車両100の各部を制御するために実行するプログラムは、電動車両100の制御プログラムである。電動車両100の制御プログラムは、例えば、メモリその他の記憶媒体に記憶される。また、電動車両100の制御プログラムは、電気通信回線等を介して、全部または一部が更新される場合がある。
【0018】
インバータ13は、コントローラ12から入力される駆動信号に応じて、スイッチング素子をオン/オフすることにより、バッテリ11から供給される直流電力を交流電力に変換し、電動モータ14に供給する。また、インバータ13は、回生制動力によって、電動モータ14が生じさせる交流電力を直流電力に変換し、バッテリ11に供給することにより、バッテリ11を充電する。
【0019】
電動モータ14は、例えば三相交流同期モータであり、インバータ13を介して供給される交流電力によって、アクセル開度θ等によって要求されたトルクを生じさせる。電動モータ14のトルクは、減速機15及びドライブシャフト18を介して駆動輪19に伝達され、電動車両100に駆動力を生じさせる。また、電動モータ14は、駆動輪19に連れ回されて回転するときに、回生制動力を発生し、電動車両100の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。
【0020】
減速機15は、電動モータ14の回転速度ωを減じてドライブシャフト18に伝達することにより、減速比に比例したトルクを生じさせる。
【0021】
回転センサ16は、電動モータ14の回転子位相αを検出し、コントローラ12に入力する。回転センサ16は、例えば、レゾルバやエンコーダである。
【0022】
電流センサ17は、電動モータ14に流れる電流を検出し、コントローラ12に入力する。本実施形態では、電流センサ17は、三相交流電流i,i,iをそれぞれ検出する。なお、電流センサ7は、三相交流電流i,i,iのうち、任意の2相の電流を検出し、残りの1相の電流は演算によって求めてもよい。
【0023】
図2は、電動車両100の制御態様を示すフローチャートである。図2に示すように、コントローラ12は、入力処理、基本トルク目標値算出処理、基本トルク目標値制限処理、制振制御処理、電流目標値算出処理、及び、電流制御処理、を実行する。
【0024】
ステップS201の入力処理は、コントローラ12が、車両情報の入力を受け、必要に応じてステップS202以降の処理に用いるパラメータ(車両情報)を算出する処理である。すなわち、コントローラ12は、入力処理を行う入力処理部として機能する。本実施形態においては、コントローラ12は、電動モータ14の三相交流電流i,i,i、及び、バッテリ11の直流電圧Vdcを取得する。また、コントローラ12は、アクセル開度θ及び回転子位相αを取得し、これらを用いて、電動モータ14の回転速度ωや回転数N、電動車両100の車速V[km/h]等を演算する。
【0025】
具体的には、コントローラ12は、回転子位相αを時間微分することにより、電動モータ14の電気角速度ωを演算する。その後、コントローラ12は、電気角速度ωを、電動モータ14の極対数で除算することにより、回転速度ωを演算する。さらに、コントローラ12は、回転速度ωに単位変換係数(60/2π)を乗じることで、回転数Nを演算する。また、コントローラ12は、回転速度ωを減速機5のファイナルギヤのギヤ比で除算することにより、駆動輪19の角速度ωを演算する。そして、コントローラ12は、駆動輪19の角速度ωに、駆動輪19の荷重半径r[m]を乗算し、これに単位変換係数(3600/1000)を乗算することにより、車速Vを算出する。
【0026】
なお、車速Vは、上記のように算出する代わりに、メータやブレーキコントローラ等の他のコントローラと通信することにより、直接に取得しても良い。また、駆動輪19に車輪速センサが設けられている場合には、コントローラ12は、その1または複数の車輪速センサの平均値等に基づいて、車速Vを取得することができる。この他、車速Vは、GPS(Global Positioning System)センサ等の出力を用いて算出することができる。また、車速Vは、前後加速度センサ等の出力を用いて推定することができる。
【0027】
ステップS202の基本トルク目標値算出処理は、電動モータ14が出力すべきトルクの基本的な目標値である基本トルク目標値Tm1 を算出する処理である。すなわち、コントローラ12は、基本トルク目標値算出処理を行う基本トルク目標値算出処理部として機能する。基本トルク目標値Tm1 は、運転者による電動車両100の操作に基づいて決定される。したがって、基本トルク目標値Tm1 は、電動モータ14(電動車両100)に対する要求トルクである。本実施形態では、コントローラ12は、アクセル開度-トルクテーブルを用いて、基本トルク目標値Tm1 を算出する。
【0028】
図3は、アクセル開度-トルクテーブルの一例である。図3に示すように、アクセル開度-トルクテーブルは、実験またはシミュレーション等に基づいて、電動モータ14の回転数N及びアクセル開度θと、基本トルク目標値Tm1 と、を対応付けたテーブルである。コントローラ12は、このアクセル開度-トルクテーブルを参照することにより、電動モータ14の回転数N及びアクセル開度θに応じた基本トルク目標値Tm1 を算出する。
【0029】
ステップS203(図2参照)の基本トルク目標値制限処理は、コントローラ12が、基本トルク目標値Tm1 の上限値、下限値、または、これらの両方を制限する処理である。すなわち、コントローラ12は、基本トルク目標値Tm1 を制限する基本トルク目標値制限部30(図6参照)として機能する。
【0030】
具体的には、コントローラ12(基本トルク目標値制限部30)は、電動モータ14が出力し得るトルクに対してトルクマージンTmarginを設定し、基本トルク目標値Tm1 を、電動モータ14が出力し得るトルクからトルクマージンTmarginを差し引いた範囲内に制限する。以下では、基本トルク目標値制限処理によって制限された基本トルク目標値Tm1 を、制限後トルク目標値Tm1-lim という。
【0031】
電動モータ14が出力し得るトルクは、電動モータ14の特性であって、電動モータ14の回転数Nに応じて定まる。以下では、電動モータ14が力行制御されるときに、電動モータ14が出力し得るトルクの最大値(上限値)を、最大力行トルクTmaxPという。最大力行トルクTmaxPは正値である。また、電動モータ14が回生制御されるときに、電動モータ14が出力し得るトルクの最小値(下限値)を、最大回生トルクTmaxRという。最大回生トルクTmaxRは負値であり、電動モータ14が出力し得るトルクの最小値(下限値)を表す。
【0032】
電動モータ14が力行制御される場合、制限後トルク目標値Tm1-lim は、最大力行トルクTmaxPからトルクマージンTmarginを減算した値(TmaxP-Tmargin)以下となるように制限される。電動モータ14が回生制御される場合、制限後トルク目標値Tm1-lim は、最大回生トルクTmaxRにトルクマージンTmarginを加算した値(TmaxR+Tmargin)以上となるように制限される。そして、本実施形態では、トルクマージンTmarginは、固定値ではなく、可変値である。特に、トルクマージンTmarginは、ステップS204の制振制御処理において算出される補償トルクTに基づいて可変に設定される。コントローラ12が上記のようにトルクマージンTmarginを設定し、基本トルク目標値Tm1 を制限するため具体的構成、すなわち、基本トルク目標値制限部30の構成については、詳細を後述する。
【0033】
ステップS204の制振制御処理は、制限後トルク目標値Tm1-lim を用いて、車両駆動系69(図8参照)に生じるねじり振動等を抑制する最終的なトルク目標値(以下、最終トルク目標値Tmf という)を演算する処理である。すなわち、コントローラ12は、制振制御処理を行う制振制御部60(図8参照)として機能する。
【0034】
本実施形態の制振制御処理では、少なくとも、電動モータ14の回転状態を表す回転パラメータに基づいて、電動車両100に作用する外乱dによって生じる振動が、電動モータ14が出力するトルク(以下、モータトルクTという)に対するフィードバック制御によって補償(低減または抑制)される。このフィードバック制御による補償で用いられるパラメータが補償トルクTであり、補償トルクTは、前述のとおり、トルクマージンTmarginの設定にも利用される。
【0035】
電動車両100に作用する外乱dは、典型的には、車両駆動系69において、ドライブシャフト18等のねじり振動(以下、車両駆動系69のねじり振動という)を生じさせる。このため、本実施形態の制振制御処理では、車両駆動系69のねじり振動が補償される。また、電動車両100に作用する外乱dは様々な要因によるものを含み得る。本実施形態では、外乱dは、主に、路面の凹凸等、路面の状態またはその変化に起因する外乱であるものとする。したがって、例えば、路面に凹凸がある不整路面を走行するシーンにおいて外乱dが電動車両100に作用し、実質的に凹凸を有しない整正路面を走行するシーンでは、電動車両100に作用する外乱dは小さく、実質的に無視できる程度のものとなる。したがって、上記のフィードバック制御で用いる補償トルクTの値は、例えば、不整路面を走行するシーンでは大きく、整正路面を走行するシーンでは小さい。
【0036】
コントローラ12が制振制御処理を行うための具体的構成、すなわち、制振制御部60の構成については、詳細を後述する。
【0037】
ステップS205の電流目標値算出処理は、コントローラ12が、電動モータ14のd軸電流i及びq軸電流iの目標値であるd軸電流目標値i 及びq軸電流目標値i (図示しない)を算出する処理である。具体的には、最終トルク目標値Tmf 、回転速度ω、及び、バッテリ11の直流電圧Vdcに基づいて、d軸電流目標値i 及びq軸電流目標値i (以下、dq軸電流目標値i ,i という)を算出する。本実施形態では、コントローラ12は、最終トルク目標値Tmf 、回転速度ω、及び、直流電圧Vdcと、dq軸電流目標値i ,i と、を対応付けるdq軸電流テーブル(図示しない)を予め保有する。したがって、コントローラ12は、このdq軸電流テーブルを参照することにより、最終トルク目標値Tmf 、回転速度ω、及び、直流電圧Vdcに応じたdq軸電流目標値i ,i を演算する。
【0038】
ステップS206の電流制御処理は、コントローラ12が、インバータ13を用いて電動モータ14の電流を制御することにより、最終トルク目標値Tmf に対応するモータトルクTを生じさせ、電動車両100を駆動(制動する場合を含む)する処理である。
【0039】
具体的には、コントローラ12は、まず、電動モータ14の三相交流電流i,i,iと、回転子位相αと、に基づいて、d軸電流i及びq軸電流i(以下、dq軸電流i,iという)を算出する。次に、コントローラ12は、dq軸電流目標値i ,i とdq軸電流i,iの偏差に基づいて、d軸電圧指令値V及びq軸電圧指令値V(以下、dq軸電圧指令値V,Vという)を算出する。さらに、コントローラ12は、dq軸電圧指令値V,Vと、回転子位相αと、に基づいて、三相電圧指令値V,V,Vを算出する。そして、コントローラ12は、三相電圧指令値V,V,V及び直流電圧Vdcに基づいて、各相に入力するPWM信号のデューティ比t,t,t[%]を算出する。コントローラ12は、このように求めたPWM信号にしたがってインバータ13のスイッチング素子を開閉することにより、電動モータ14の動作を制御する。その結果、コントローラ12は、最終トルク目標値Tmf で指定された所望のモータトルクTで、電動車両100を駆動する。
【0040】
上記の電流目標値算出処理、電流制御処理、または、電流目標値算出処理及び電流制御処理を実行するコントローラ12は、最終トルク目標値Tmf にしたがって電動モータ14を制御する電動モータ制御部を構成する。
【0041】
<車両モデル>
以下、電動車両100の車両モデルについて説明する。制振制御処理は、この車両モデルにしたがって構成される。そして、制振制御処理で算出される補償トルクTを用いるので、基本トルク目標値制限処理もまた、間接的に、この車両モデルにしたがって構成される。
【0042】
図4は、電動車両100の力学的モデルを示す説明図である。図4に示す各パラメータは、下記のとおりである。
【0043】
:電動モータのイナーシャ
:駆動輪のイナーシャ
M :車両の質量
KD :車輪駆動系のねじり剛性
:駆動輪と路面の摩擦に関する係数
N :オーバーオールギヤ比
r :駆動輪の荷重半径
ω :電動モータの回転速度
:電動モータのトルク
TD :駆動輪のトルク
F :電動車両に加わる力
V :電動車両の速度(車速)
ω :駆動輪の角速度
【0044】
図4に示す電動車両100の力学的モデルから、以下の運動方程式(1)~(5)を導くことができる。なお、式(1)から式(3)における記号「*」は時間微分を表す。
【0045】
【数1】
【0046】
モータトルクTから回転速度ωまでの伝達特性G(s)は、上記の運動方程式(1)~(5)から求めることができ、下記の式(6)で表される。また、式(6)における係数a~a及び係数b~bは、式(7)~(14)で表される。
【0047】
【数2】
【0048】
上記式(6)に示す伝達特性G(s)の極と零点を調べると、1つの極と1つの零点は極めて近い値を示す。これは、下記の式(15)におけるαとβが極めて近い値を示すことを意味する。
【0049】
【数3】
【0050】
したがって、式(15)においてα=βと近似する極零相殺を行うことにより、下記の式(16)のように、(2次)/(3次)形式の伝達特性G(s)を得ることができる。なお、伝達特性G(s)の減衰係数(図示しない)を「1」とすることにより、モータトルクTから回転速度ωまでの規範伝達特性G(s)が得られる。
【0051】
【数4】
【0052】
また、式(16)の分母において使用する係数a′と係数a′を用いて、固有振動角速度ωを下記の式(17)で表すことができる。さらに、固有振動角速度ωは、下記の式(18)によって共振周波数(固有振動周波数)fに変換することができる。
【0053】
【数5】
【0054】
<基本トルク目標値制限処理>
以下、コントローラ12が基本トルク目標値制限部30として実行する基本トルク目標値制限処理について詳述する。
【0055】
図5は、電動モータ14の回転数NとモータトルクTの関係を示すグラフである。図5に示すように、電動モータ14が出力し得るモータトルクTの範囲は、電動モータ14の特性により、回転数Nによって定まる。電動モータ14が出力し得るモータトルクTの最大値(上限値)は、図5の第1象限及び第2象限に実線で示す最大力行トルクTmaxPである。また、電動モータ14が出力し得るモータトルクTの最小値(下限値)は、図5の第3象限及び第4象限に実線で示す最大回生トルクTmaxRである。したがって、モータトルクTは、回転数Nに応じて、最大力行トルクTmaxPと最大回生トルクTmaxRで囲まれた範囲内で設定され得る。そして、電動モータ14が出力すべきモータトルクTがこの範囲を超えるときには、実際に出力されるモータトルクTは、電動モータ14の性能的限界により、最大力行トルクTmaxPまたは最大回生トルクTmaxRに制限される。
【0056】
電動車両100の制御において、電動モータ14が出力すべきモータトルクT、すなわち、電動モータ14(電動車両100)への要求トルクは、前述のとおり、原則として基本トルク目標値Tm1 によって表される。また、フィードバック制御による制振制御を行うので、この基本トルク目標値Tm1 には、後に、制振制御のための補償トルクTが重畳される。このとき、補償トルクTを重畳した基本トルク目標値Tm1 が、電動モータ14が性能的に出力し得る最大力行トルクTmaxPまたは最大回生トルクTmaxRを超える場合には、重畳した補償トルクTの全部または一部が実質的に無効化されるので、制振制御処理によって予定する制振効果の全部または一部が得られない。
【0057】
したがって、電動モータ14の性能限界によって制限されずに、補償トルクTの重畳による制振効果を得るためには、補償トルクTを重畳した基本トルク目標値Tm1 が、最大力行トルクTmaxPまたは最大回生トルクTmaxRを超えないように、基本トルク目標値Tm1 を予め制限しておく必要がある。このため、コントローラ12(基本トルク目標値制限部30)は、電動モータ14が性能的に出力し得る最大力行トルクTmaxPまたは最大回生トルクTmaxRに対し、トルクマージンTmarginを設定し、基本トルク目標値Tm1 を、図5において破線で示す範囲内の値をとる制限後トルク目標値Tm1-lim に、予め制限する。以下では、制限後トルク目標値Tm1-lim の最大値(上限値)、すなわち最大力行トルクTmaxPからトルクマージンTmarginを減算した値を、基本トルク目標値制限処理において、上限トルクTULという。同様に、制限後トルク目標値Tm1-lim の最小値(下限値)、すなわち最大回生トルクTmaxRにトルクマージンTmarginを加算した値を、基本トルク目標値制限処理において、下限トルクTLLという。また、上限トルクTUL及び下限トルクTLLを、トルクリミットと総称する。
【0058】
図6は、基本トルク目標値制限処理のための構成を示すブロック図である。図6に示すように、基本トルク目標値制限部30は、回転数N、及び、補償トルクTに基づいて、基本トルク目標値Tm1を制限することにより、制限後トルク目標値Tm1-lim を算出する。
【0059】
基本トルク目標値制限部30は、最大出力トルク演算部31、トルクマージン設定部32、トルクリミット演算部33、及び、トルク制限部34を備える。
【0060】
最大出力トルク演算部31は、電動モータ14の回転数Nに基づいて、電動モータ14が出力し得る最大のモータトルクTを演算する。本実施形態では、最大出力トルク演算部31は、電動モータ14の回転数Nと、最大力行トルクTmaxP及び最大回生トルクTmaxRと、を対応付けるテーブルを予め保有する。このため、最大出力トルク演算部31は、そのテーブルを参照することにより、電動モータ14の回転数Nに応じた最大力行トルクTmaxP及び最大回生トルクTmaxRを演算する。
【0061】
トルクマージン設定部32は、補償トルクT(前回値)に基づいて、トルクマージンTmarginを設定する。本実施形態では、トルクマージン設定部32は、絶対値演算部41、フィルタリング処理部42、オフセットトルク記憶部43、及び、補正部44を備え、これらを用いて、トルクマージンTmarginを演算する。
【0062】
絶対値演算部41は、補償トルクTの絶対値|T|を演算する。絶対値演算部41が演算する絶対値|T|は、予め設定された期間(例えば1制御周期)における補償トルクTの最大振幅を表す。すなわち、絶対値演算部41は、実質的に、補償トルクTの振幅を演算する振幅演算部である。
【0063】
フィルタリング処理部42は、補償トルクTの絶対値|T|に対し、特定の周波数成分を通過(特定の周波数成分以外の成分を低減)させるフィルタリング処理を行う。フィルタリング処理された補償トルクTの絶対値|T|(以下、フィルタリング処理後の補償トルク|Tfltという)は、トルクマージンTmarginの演算に使用される。本実施形態では、制振制御処理によって抑制する振動は、車両駆動系69におけるねじり振動であるから、フィルタリング処理部42が通過させる特定の周波数成分は、車両駆動系69におけるねじり振動の共振周波数成分を含む。すなわち、フィルタリング処理部42は、車両駆動系69におけるねじり振動の共振周波数成分を通過させ、その他の周波数成分の全部または一部を減衰させる。これにより、トルクマージンTmarginは、余分に確保されることなく、特に適切に設定される。
【0064】
図7は、フィルタリング処理部42の構成例を示すグラフである。図7に示すように、本実施形態のフィルタリング処理部42は、例えば、車両駆動系69におけるねじり振動の共振周波数fをカットオフ周波数とするローパスフィルタ(LPF)によって構成される。したがって、フィルタリング処理部42は、共振周波数f及びそれ以下の周波数成分を通過させ、概ね共振周波数fよりも大きい周波数成分を低減または除去する。なお、図7の横軸は対数スケールである。また、図7では、共振周波数fは、少なくとも通過帯域に含まれていればよく、必ずしもカットオフ周波数と厳密に一致している必要はない。但し、図7に示すように、共振周波数fをカットオフ周波数とする場合、トルクマージンTmarginは、特に適切に設定される。
【0065】
オフセットトルク記憶部43(図6参照)は、オフセットトルクToffsetを記憶する。オフセットトルクToffsetは、トルクマージンTmarginについて、実験またはシミュレーション等によって予め定める基準値(固定値)である。本実施形態では、オフセットトルクToffsetは、トルクマージンTmarginの最小値(下限値)である。
【0066】
補正部44は、フィルタリング処理後の補償トルク|Tfltを用いて、基準値であるオフセットトルクToffsetを補正することにより、トルクマージンTmarginを演算する。本実施形態では、補正部44は、オフセットトルクToffsetに、フィルタリング処理後の補償トルク|Tfltを加算することにより、トルクマージンTmarginを演算する。これにより、トルクマージンTmarginは補償トルクTに応じて可変に設定される。また、補償トルクT(特にその振幅)が大きくなると、トルクマージンTmarginはそれに応じて大きくなり、補償トルクTが小さいほど、トルクマージンTmarginは小さくなる。
【0067】
トルクリミット演算部33は、電動モータ14が出力し得る最大のモータトルクTと、トルクマージンTmarginと、を用いて、基本トルク目標値Tm1 に課すべきトルクリミットを演算する。本実施形態では、トルクリミット演算部33は、上限トルク演算部46及び下限トルク演算部47を備え、最大力行トルクTmaxP及び最大回生トルクTmaxRと、トルクマージンTmarginと、に基づいて、上限トルクTUL及び下限トルクTLLを演算する。
【0068】
上限トルク演算部46は、減算器によって構成される。すなわち、上限トルク演算部46は、最大力行トルクTmaxPからトルクマージンTmarginを減算することにより、上限トルクTULを演算する。
【0069】
下限トルク演算部47は、加算器によって構成される。すなわち、下限トルク演算部47は、最大回生トルクTmaxRにトルクマージンTmarginを加算することにより、下限トルクTLLを演算する。
【0070】
トルク制限部34は、トルクリミット演算部33が演算するトルクリミットによって、基本トルク目標値Tm1 を制限することにより、制限後トルク目標値Tm1-lim を演算する。続く制振制御処理は、この制限後トルク目標値Tm1-lim に基づいて行われる。本実施形態では、トルク制限部34は、基本トルク目標値Tm1 を、上限トルクTUL及び下限トルクTLLの範囲内に制限する。したがって、アクセルを全開にして加速するとき(以下、全開加速という)等、電動モータ14で最大限の力行トルクを生じさせるときには、制限後トルク目標値Tm1-lim は、上限トルクTULとなる。また、電動モータ14で最大限の回生トルクを生じさせる(以下、強回生という)には、制限後トルク目標値Tm1-lim は、下限トルクTLLとなる。
【0071】
<制振制御処理>
以下、コントローラ12が制振制御部60として実行する制振制御処理について詳述する。
【0072】
図8は、制振制御処理のための構成を示すブロック図である。図8に示すように、制振制御部60は、例えば、フィードフォワード補償部61、フィードバック補償部62、最終トルク目標値演算部63、によって構成される。但し、制振制御部60は、少なくともフィードバック補償部62を含むものであれば足りる。
【0073】
フィードフォワード補償部61は、制限後トルク目標値Tm1-lim に基づいて、電動車両100に生じる振動をフィードフォワード制御によって予め補償するためのトルク目標値(以下、FF補償後トルク目標値Tm2 という)を演算する。本実施形態では、フィードフォワード補償部61は、モータトルクTから回転速度ωまでの伝達特性G(s)を用いた制振フィルタによって構成される。すなわち、フィードフォワード補償部61は、制限後トルク目標値Tm1-lim をフィルタリング処理することにより、FF補償後トルク目標値Tm2 を演算する。本実施形態のフィードフォワード補償部61を構成する制振フィルタは、具体的には、規範伝達特性G(s)と、伝達特性G(s)の逆特性1/G(s)と、によって構成され、G(s)/G(s)で表される。
【0074】
フィードバック補償部62は、最終トルク目標値Tmf と電動モータ14の回転速度ωに基づいて、電動車両100に生じる振動をフィードバック制御によって補償するためにトルク目標値に対して重畳する補償トルクTを演算する。本実施形態のフィードバック補償部62は、外乱推定フィルタ64と補償トルク演算部65を含む。
【0075】
外乱推定フィルタ64は、最終トルク目標値Tmf と電動モータ14の回転速度ωに基づいて、電動車両100に作用する外乱dの推定値(以下、外乱推定値d^という)を演算する。外乱推定フィルタ64は、例えば、回転速度推定部66、回転速度偏差演算部67、及び、外乱推定部68によって構成される。
【0076】
回転速度推定部66は、電動車両100の車両モデルに基づき、最終トルク目標値Tmf を用いて、回転速度ωの推定値である回転速度推定値ω^を演算する。本実施形態では、回転速度推定部66は、伝達特性G(s)によって構成されるフィルタで、最終トルク目標値Tmf をフィルタリング処理することにより、回転速度推定値ω^を演算する。
【0077】
回転速度偏差演算部67は、回転速度推定値ω^と、電動モータ14の実際の回転速度ωと、の偏差Δωを演算する。本実施形態では、回転速度偏差演算部67は、回転速度推定値ω^から実際の回転速度ωを減算することにより、これらの偏差Δωを演算する。
【0078】
外乱推定部68は、偏差Δωに基づいて外乱推定値d^を演算する。本実施形態では、外乱推定部68は、バンドパスフィルタH(s)と、伝達特性G(s)の逆特性1/G(s)と、によって構成されるフィルタであり、H(s)/G(s)で表される。
【0079】
図9は、バンドパスフィルタH(s)の構成例を示すグラフである。図9の横軸は、対数スケールである。図9に示すように、バンドパスフィルタH(s)は、車両駆動系69におけるねじり振動の共振周波数fを通過させる。このため、外乱推定値d^は、実質的に、車両駆動系69にねじり振動を生じさせる外乱dの推定値であり、この外乱推定値d^を用いて演算される補償トルクTは、実質的に、車両駆動系69のねじり振動を補償する。
【0080】
なお、バンドパスフィルタH(s)を1次のハイパスフィルタと1次のローパスフィルタで構成する場合、バンドパスフィルタH(s)は下記の式(19)で表すことができる。また、式(19)で用いるハイパスフィルタの時定数τ及びカットオフ周波数fHC、並びに、ローパスフィルタの時定数τ及びカットオフ周波数fLCは、車輪駆動系におけるねじり振動の共振周波数fと予め定める所定係数kを用いて、下記の式(20)から式(23)で表される。
【0081】
【数6】
【0082】
補償トルク演算部65(図8参照)は、外乱推定値d^に基づいて、補償トルクTを演算する。本実施形態では、補償トルク演算部65は、外乱推定値d^に、実験またはシミュレーション等によって予め定めた係数KFB(ゲイン)を乗算することにより、外乱dによって生じる振動を抑制し、または、打ち消す補償トルクTを演算する。
【0083】
最終トルク目標値演算部63は、FF補償後トルク目標値Tm2 に補償トルクTを加算(重畳)することにより、最終トルク目標値Tmf を演算する。これにより、フィードフォワード補償及びフィードバック補償によって、車両駆動系69に生じるねじり振動等を抑制する最終トルク目標値Tmf が演算される。
【0084】
そして、コントローラ12が最終トルク目標値Tmf を出力するように電動モータ14を制御する。これにより、電動モータ14は最終トルク目標値Tmf を出力するための回転速度ωで回転し、最終トルク目標値Tmf に応じたモータトルクT(≒Tmf )が電動モータ14から車両駆動系69に入力される。このとき、車両駆動系69には外乱dが作用することがあるが、最終トルク目標値Tmf が上記のように外乱dによって生じる振動を抑制するように設定されているので、外乱dによる電動車両100の振動(特に車両駆動系69のねじり振動)が抑制される。なお、図8では、車両駆動系69の実際の伝達特性を便宜的にGp’(s)で表している。
【0085】
<作用>
以下では、比較例の電動車両と対比しながら、上記のように構成される本実施形態に係る電動車両100の作用を説明する。
【0086】
本実施形態に係る電動車両100(以下、実施例という)では、前述のとおり、補償トルクTに応じた可変のトルクマージンTmarginが設定される。これに対し、比較例の電動車両(以下、単に比較例という)では、トルクマージンTmarginが一定(固定)であり、発生し得る補償トルクTに対して十分に大きなトルクマージンTmarginが固定的に確保されてるものとする。トルクマージンTmarginの設定以外の要素については、比較例の電動車両は、本実施形態の電動車両100と同様である。例えば、比較例の電動車両は、本実施形態の電動車両と同じ制振制御処理が行われる。
【0087】
図10は、整正路面を走行する場合におけるモータトルクT等の推移を示すタイムチャートである。より詳細には、図10は、整正路面において、ある時刻tにステップ状に全開加速が開始される走行シーンにおけるモータトルクT等の推移を示すものである。ここでは、全開加速の開始後まもなく、要求トルクである基本トルク目標値Tm1 はトルクリミットである上限トルクTULに達して制限され、遅くとも時刻tまでには、制限後トルク目標値Tm1-lim は上限トルクTULに等しくなっているものとする。なお、図10に示す各タイムチャートの横軸は、時間[s]である。この例では、整正路面は、電動車両100に対して実質的に外乱dを生じさせない路面をいうものとする。
【0088】
図10(A)から図10(D)は、比較例におけるモータトルクT等の推移を示し、図10(E)から図10(H)は、実施例におけるモータトルクT等の推移を示す。具体的には、図10(A)は、比較例におけるモータトルクTの推移を示す。図10(B)は、比較例における前後加速度Acの推移を示す。図10(C)は、比較例における回転数Nの推移を示す。図10(D)は、比較例における補償トルクTの推移を示す。一方、図10(E)は、実施例におけるモータトルクTの推移を示す。図10(F)は、実施例における前後加速度Acの推移を示す。図10(G)は、実施例における回転数Nの推移を示す。図10(H)は、実施例における補償トルクTの推移を示す。
【0089】
なお、電動モータ14が出力するモータトルクTは、最終トルク目標値Tmf と等しいので、図10(A)及び図10(E)では、電動モータ14が出力するモータトルクTの推移として、最終トルク目標値Tmf の推移を実線で示している。また、図10(A)及び図10(E)では、制限後トルク目標値Tm1-lim の推移を破線で示している。
【0090】
図10(A)及び図10(E)に示すように、時刻tに全開加速が開始されると、比較例及び実施例のいずれにおいても、要求トルクである基本トルク目標値Tm1は、まもなく上限トルクTULに到達するので、制限後トルク目標値Tm1-lim は上限トルクTULとなる。
【0091】
一方、この例では走行路面は整正路面であるため、路面は電動車両100(車両駆動系69)に対して実質的に外乱dを生じさせない。このため、図10(D)及び図10(H)に示すように、全開加速の開始前後において、補償トルクTは実質的のゼロである。したがって、実施例において、設定されるトルクマージンTmargin(=TmaxP-TUL)は、基準値であるオフセットトルクToffsetとなるので、取り得るトルクマージンTmarginの中で最小の状態となる。
【0092】
また、図10(A)及び図10(E)に示すように、比較例と実施例でそれぞれ設定されるトルクマージンTmarginの大きさを基準とすると、実施例は比較例に対してトルクマージンTmarginが低減される。その結果、実施例における制限後トルク目標値Tm1-lim は、比較例における制限後トルク目標値Tm1-lim よりも高くなる。そして、補償トルクTが実質的にゼロである状況であるため、実施例における最終トルク目標値Tmf は、比較例における最終トルク目標値Tmf よりも高い。すなわち、実施例は、比較例よりも、最終トルク目標値Tmf を、電動モータ14の性能的限界である最大力行トルクTmaxPに漸近させることができる。
【0093】
これにより、図10(C)及び図10(G)に示すように、電動モータ14は、実施例では、比較例に対して、回転数Nが高くなるように制御される。そして、図10(B)及び図10(F)に示すように、実施例における前後加速度Acの到達点は、比較例における前後加速度Acの到達点よりも高くなる。
【0094】
すなわち、実施例は、トルクマージンTmarginを補償トルクTに応じて設定することによって、固定的なトルクマージンTmarginを設定する比較例よりも、電動モータ14の性能が活かされる。これは、全開加速という運転者の要求に、より適うものである。
【0095】
図11は、路面状態が変化した場合におけるモータトルクT等の推移を示すタイムチャートである。より詳細には、図11は、時刻tにおいて全開加速を開始した後、時刻tにおいて、走行路面が、相対的に駆動力が伝達されやすい第1の整正路面から、相対的に駆動力が伝達されにくい第2の整正路面に、変化した場合のモータトルクT等の推移を示す。図11(A)から図11(D)は比較例のモータトルクT等の推移を示し、図11(E)から図11(H)は実施例のモータトルクT等の推移を示す。また、図11(A)から図11(H)に示す各パラメータ等は、前述の図10と同様である。
【0096】
図11(A)及び図11(E)に示すように、時刻tに全開加速が開始されると、比較例及び実施例のいずれにおいても、要求トルクである基本トルク目標値Tm1は、まもなく上限トルクTULに到達するので、制限後トルク目標値Tm1-lim は上限トルクTULとなる。これは図10の走行シーンと同様である。
【0097】
一方、この例では、走行路面は整正路面であるものの、時刻tにおいて路面状態が変化することによって、一時的な外乱d(インパルス状の外乱)が生じる。このため、図11(D)及び図11(H)に示すように、時刻tにおいて路面状態が変化したときに、補償トルクTが一時的に変動する。このため、図11(A)及び図11(E)に示すように、比較例及び実施例のいずれにおいても、制振制御処理によって制限後トルク目標値Tm1-lim に補償トルクTが重畳されることにより、最終トルク目標値Tmf は制限後トルク目標値Tm1-lim を超えて変動する。
【0098】
このとき、比較例では、トルクマージンTmargin(=TmaxP-TUL)は、固定的に、かつ、十分な大きさで確保されているので、発生した補償トルクTは、確保されたトルクマージンTmarginの範囲内である。したがって、図11(A)に示すように、比較例では、補償トルクTの重畳によって最終トルク目標値Tmf が変動したときでも、この変動によって、最終トルク目標値Tmf が、電動モータ14の性能的限界である最大力行トルクTmaxPを超えることはない。すなわち、電動モータ14の性能的限界である最大力行トルクTmaxPによって、重畳した補償トルクTの全部または一部が制限(カット)されることがないので、比較例では、路面状態の変化によって生じ得る車両駆動系69のねじり振動が抑えられる。
【0099】
これに対し、実施例では、トルクマージンTmarginが補償トルクTに応じて可変に設定されるので、時刻tにおいて補償トルクTが生じると、これに応じて、トルクマージンTmarginが増加する。このため、図11(E)に示すように、実施例では、時刻tにおいて、制限後トルク目標値Tm1-lim (=上限トルクTUL)がステップ的に急峻に低下する。その結果、実質的に時刻tにおいて、実施例における最終トルク目標値Tmf は、比較例の最終トルク目標値Tmf と同程度にまで、急峻に低下する。その結果、実施例においても、補償トルクTの重畳によって最終トルク目標値Tmf が変動するが、その変動によっても、最終トルク目標値Tmf は、電動モータ14の性能的限界である最大力行トルクTmaxPを超えない範囲に抑えられる。したがって、実施例においても、重畳した補償トルクTの全部または一部が制限されることがないので、路面状態の変化によって生じ得る車両駆動系69のねじり振動が抑えられる。
【0100】
すなわち、図11(F)に示すように、実施例は、全開加速の開始後、路面状態の変化によって外乱dが生じる時刻tまで、比較例よりも電動モータ14の性能を活かし、比較例よりも全開加速の要求に適う高加速を実現する。その上で、実施例は、時刻tにおいて路面状態の変化(外乱d)が突発的に生じた場合でも、比較例と同様に、最終トルク目標値Tmf を、電動モータ14の性能的限界である最大力行トルクTmaxPを超えない範囲に抑え、少なくとも比較例と同程度に、路面状態の変化によって生じ得る車両駆動系69のねじり振動を抑えることができる。したがって、実施例では、比較例よりも電動モータ14の性能を活かしつつ、かつ、制振制御処理による制振効果が得られる。
【0101】
また、路面状態が変化した時刻t以降においては、比較例では、図11(B)に示すように、路面状態の変化に応じて、時刻tから前後加速度Acが一定程度低下する。これは、路面状態等に関わらず、一定のトルクマージンTmarginが確保されているため、図11(A)に示すように、比較例の制限後トルク目標値Tm1-lim は全開加速中においてほぼ一定となっているからである。
【0102】
これに対し、実施例では、時刻tに生じた一時的な補償トルクTが収束すると、図11(F)に示すように、前後加速度Acは徐々に回復(上昇)する。これは、トルクマージンTmarginが補償トルクTによって可変となっているからである。具体的には、図11(E)に示すように、補償トルクTの収束に応じてトルクマージンTmarginが漸減するので、実施例では、制限後トルク目標値Tm1-lim が徐々に回復する。このため、実施例では、前後加速度Acが徐々に回復する。
【0103】
したがって、時刻t以降について実施例と比較例を比べると、実施例では、電動モータ14の性能を活かして、比較例よりも加速し得る利点がある。
【0104】
なお、実施例において、補償トルクTの収束以降、制限後トルク目標値Tm1-lim (ひいては前後加速度Ac)が、急峻に回復するのではなく、徐々に回復しているが、これは、ローパスフィルタで構成されたフィルタリング処理部42の作用によるものである。すなわち、フィルタリング処理部42が設けられていることによって、トルクマージンTmarginは、補償トルクTの収束に遅れて徐々に、オフセットトルクToffsetに収束する。このため、実施例においては、補償トルクTの収束以降、制限後トルク目標値Tm1-lim (ひいては前後加速度Ac)が徐々に回復する。
【0105】
図12は、路面状態が整正路面から不整路面に変化した場合におけるモータトルクT等の推移を示すタイムチャートである。より詳細には、図12は、時刻tにおいて全開加速を開始した後、時刻tにおいて、走行路面が、整正路面から、定常的な外乱d(ここでは周期的な外乱d)を生じさせる不整路面に、変化した場合のモータトルクT等の推移を示す。図12(A)から図12(D)は比較例のモータトルクT等の推移を示し、図12(E)から図12(H)は実施例のモータトルクT等の推移を示す。また、図12(A)から図12(H)に示す各パラメータ等は、前述の図10及び図11と同様である。
【0106】
図12(A)及び図12(E)に示すように、時刻tに全開加速が開始されると、比較例及び実施例のいずれにおいても、要求トルクである基本トルク目標値Tm1は、まもなく上限トルクTULに到達するので、制限後トルク目標値Tm1-lim は上限トルクTULとなる。これは図10及び図11の走行シーンと同様である。
【0107】
一方、この例では、時刻tにおいて走行路面が整正路面から不整路面に変化することによって、時刻t以降、周期的な外乱dが生じる。このため、図12(D)及び図12(H)に示すように、走行路面が不整路面となった時刻t以降において、周期的な補償トルクTが生じる。このため、図12(A)及び図12(E)に示すように、比較例及び実施例のいずれにおいても、制振制御処理によって制限後トルク目標値Tm1-lim に補償トルクTCが重畳されることにより、最終トルク目標値Tmf は、制限後トルク目標値Tm1-lim を中心に、周期的に変動する。
【0108】
このとき、比較例では、トルクマージンTmargin(=TmaxP-TUL)は、固定的に、かつ、十分な大きさで確保されているので、発生した補償トルクTの振幅は、確保されたトルクマージンTmarginの範囲内である。したがって、図12(A)に示すように、比較例では、補償トルクTの重畳によって最終トルク目標値Tmf が周期的に変動したときでも、この周期的変動によって、最終トルク目標値Tmf が、電動モータ14の性能的限界である最大力行トルクTmaxPを超えることはない。すなわち、電動モータ14の性能的限界である最大力行トルクTmaxPによって、重畳した補償トルクTの全部または一部が制限(カット)されることがないので、比較例では、路面状態の変化によって生じ得る車両駆動系69のねじり振動が抑えられる。
【0109】
一方、実施例においては、トルクマージンTmarginが補償トルクTに応じて可変に設定されるので、補償トルクTが振動的に変化すると、その振幅に応じて、トルクマージンTmarginが増加する。このため、図12(E)に示すように、実施例では、時刻tにおいて、制限後トルク目標値Tm1-lim (=上限トルクTUL)がステップ的に急峻に低下する。その結果、実質的に時刻tにおいて、実施例における最終トルク目標値Tmf は、比較例の最終トルク目標値Tmf と同程度にまで、急峻に低下する。その結果、実施例においても、補償トルクTの重畳によって最終トルク目標値Tmf が周期的に変動するが、その周期的変動によっても、最終トルク目標値Tmf は、電動モータ14の性能的限界である最大力行トルクTmaxPを超えない範囲に抑えられる。したがって、実施例においても、重畳した補償トルクTの全部または一部が制限されることがないので、路面状態の変化によって生じ得る車両駆動系69のねじり振動が抑えられる。
【0110】
すなわち、図12(F)に示すように、実施例は、全開加速の開始後、路面状態の変化によって外乱dが生じる時刻tまで、比較例よりも電動モータ14の性能を活かし、比較例よりも全開加速の要求に適う高加速を実現する。その上で、実施例は、時刻tにおいて路面状態の変化(外乱d)が生じた場合でも、比較例と同様に、最終トルク目標値Tmf を、電動モータ14の性能的限界である最大力行トルクTmaxPを超えない範囲に抑え、少なくとも比較例と同程度に、路面状態の変化によって生じ得る車両駆動系69のねじり振動を抑えることができる。したがって、実施例では、比較例よりも電動モータ14の性能を活かしつつ、かつ、制振制御処理による制振効果が得られる。
【0111】
なお、上記図10から図12においては、全開加速をする走行シーンを例に挙げたが、強回生を行う走行シーンについても同様である。すなわち、本実施形態の電動車両100は、要求トルクである基本トルク目標値Tm1が上限トルクTULまたは下限トルクTLLによって制限される走行シーンにおいて、電動モータ14の性能を活かしつつ、かつ、制振制御処理による制振効果を得ることができる。
【0112】
[第2実施形態]
上記第1実施形態では、基本トルク目標値制限部30が含むトルクマージン設定部32が、絶対値演算部41、フィルタリング処理部42、オフセットトルク記憶部43、及び、補正部44によって構成される例を示したが、これに限らない。第1実施形態のトルクマージン設定部32とは異なる構成により、補償トルクTに応じたトルクマージンTmarginを設定することができる。以下では、第2実施形態として、第1実施形態とは異なるトルクマージン設定部32の構成例を説明する。トルクマージン設定部32以外の構成については、第1実施形態と同様である。
【0113】
図13は、第2実施形態における基本トルク目標値制限処理のための構成を示すブロック図である。図13に示すように、本実施形態では、トルクマージン設定部32は、絶対値演算部201、第1オフセットトルク記憶部202、第2オフセットトルク記憶部203、オフセットトルク選択部204、フィルタリング処理部205、及び、トルクマージン選択部206によって構成される。
【0114】
絶対値演算部201は、補償トルクTの絶対値|T|を演算する。絶対値演算部201が演算する絶対値|T|は、予め設定された期間(例えば1制御周期)における補償トルクTの最大振幅を表す。すなわち、絶対値演算部201は、実質的に、補償トルクTの振幅を演算する振幅演算部である。したがって、絶対値演算部201は、第1実施形態の絶対値演算部41と同様の構成である。但し、第1実施形態においては補償トルクTの絶対値|T|がそのままトルクマージンTmarginに寄与するが、本実施形態では、補償トルクTの絶対値|T|は、オフセットトルク選択部204に入力される。そして、補償トルクTの絶対値|T|は、トルクマージンTmarginに寄与する第1オフセットトルクTO1または第2オフセットトルクTO2の選択に用いられる。
【0115】
第1オフセットトルク記憶部202は、第1オフセットトルクTO1を記憶する。また、第2オフセットトルク記憶部203は、第2オフセットトルクTO2を記憶する。第1オフセットトルクTO1及び第2オフセットトルクTO2は、いずれも、トルクマージンTmarginについて、実験またはシミュレーション等によって予め定める基準値(固定値)である。本実施形態では、第1オフセットトルクTO1は、第2オフセットトルクTO2よりも大きい値に設定される。したがって、第1オフセットトルクTO1は、不整路面等、外乱d及びそれによる振動を生じさせやすい路面を走行するシーンにおいて発生し得る補償トルクTの程度を表す。また、第2オフセットトルクTO2は、整正路面等、相対的に外乱d及びそれによる振動を生じさせ難い路面を走行するシーンにおいて発生し得る補償トルクTの程度を表す。
【0116】
オフセットトルク選択部204は、補償トルクTの絶対値|T|に基づいて、第1オフセットトルクTO1または第2オフセットトルクTO2のいずれかを選択的に出力する。具体的には、オフセットトルク選択部204は、補償トルクTの絶対値|T|を、図示しない予め定める所定値(閾値)と比較する。そして、補償トルクTの絶対値|T|が所定値より大きいときに、電動車両100が走行する路面が外乱d及びそれによる振動を生じさせやすい走行シーンであると判定し、トルクマージンTmarginの演算に用いるオフセットトルクとして、第1オフセットトルクTO1を選択する。第1オフセットトルクTO1が選択されると、第2オフセットトルクTO2が選択された場合と比較して、トルクマージンTmarginは大きくなる。一方、補償トルクTの絶対値|T|が所定値以下であるときに、電動車両100が走行する路面が外乱d及びそれによる振動を生じさせにくい走行シーンであると判定し、トルクマージンTmarginの演算に用いるオフセットトルクとして、第2オフセットトルクTO2を選択する。第2オフセットトルクTO2が選択されると、第1オフセットトルクTO1が選択された場合と比較して、トルクマージンTmarginは小さくなる。オフセットトルク選択部204が選択したオフセットトルクは、フィルタリング処理部205及びトルクマージン選択部206に出力する。
【0117】
フィルタリング処理部205は、オフセットトルク選択部204によって選択されたオフセットトルクに対して、特定の周波数成分を通過(特定の周波数成分以外の成分を低減)させるフィルタリング処理を行う。オフセットトルク選択部204が第1オフセットトルクTO1を選択したときには、フィルタリング処理部205は、フィルタリング処理後の第1オフセットトルク(TO1-flt)を出力する。同様に、オフセットトルク選択部204が第2オフセットトルクTO2を選択したときには、フィルタリング処理部205は、フィルタリング処理後の第2オフセットトルク(TO2-flt)を出力する。フィルタリング処理部205は、例えば、第1実施形態のフィルタリング処理部42(図7参照)と同様に、ローパスフィルタによって構成される。
【0118】
トルクマージン選択部206は、オフセットトルク選択部204が選択したオフセットトルクと、フィルタリング処理部205が出力するフィルタリング処理後のオフセットトルクと、を取得し、これらのうちいずれか大きい方を、トルクマージンTmarginとして出力する(セレクトハイ)。
【0119】
具体的には、オフセットトルク選択部204が第1オフセットトルクTO1を選択した場合、トルクマージン選択部206は、第1オフセットトルクTO1と、フィルタリング処理後の第1オフセットトルク(TO1-flt)と、を比較し、これらのうちいずれか大きい方をトルクマージンTmarginに設定する。同様に、オフセットトルク選択部204が第2オフセットトルクTO2を選択した場合、トルクマージン選択部206は、第2オフセットトルクTO2と、フィルタリング処理後の第2オフセットトルク(TO2-flt)と、を比較し、これらのうちいずれか大きい方をトルクマージンTmarginに設定する。
【0120】
このように、オフセットトルク選択部204が選択したオフセットトルクと、フィルタリング処理部205が出力するフィルタリング処理後のオフセットトルクと、のセレクトハイにより、トルクマージンTmarginを設定すると、オフセットトルク選択部204が選択するオフセットトルクが、値が大きい第1オフセットトルクTO1から、値が小さい第2オフセットトルクTO2に変化したときには、この変化に迅速に追従して、トルクマージンTmarginが急峻に切り替わる。一方、これとは逆に、オフセットトルク選択部204が選択するオフセットトルクが、値が小さい第2オフセットトルクTO2から、値が大きい第1オフセットトルクTO1に変化したときには、この変化に緩慢に追従して、トルクマージンTmarginが緩やかに切り替わる。その結果、トルクマージンTmarginが、実質的に、第1オフセットトルクTO1または第2オフセットトルクTO2の2値から選択的に設定される場合でも、第1実施形態とほぼ同様に、上限トルクTULまたは下限トルクTLLが変化する。
【0121】
上記のように、トルクマージン設定部32を構成する場合も、電動車両100は、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。なお、本実施形態では、トルクマージンTmarginが、実質的に、第1オフセットトルクTO1または第2オフセットトルクTO2の2値から選択的に設定されるが、トルクマージン設定部32は、トルクマージンTmarginを、3以上の予め定めるオフセットトルクから選択的に設定するように構成されていてもよい。
【0122】
[第1変形例]
上記第1実施形態及び第2実施形態では、いわゆる2WD(two-wheel drive)の電動車両100を例に説明したが、上記第1実施形態及び第2実施形態の電動車両100の制御方法及び制御装置は、4WD(four-wheel drive)の電動車両にも好適である。以下では、第1変形例として、4WDの電動車両300の構成例を説明する。
【0123】
図14は、4WDの電動車両300の概略構成を示す説明図である。図14に示すように、電動車両300は、バッテリ11、コントローラ12、フロント駆動システムS、及び、リア駆動システムSを備える。バッテリ11は、フロント駆動システムS及びリア駆動システムSに共用される。
【0124】
フロント駆動システムSは、フロントインバータ13f、フロントモータ14f、フロント減速機15f、フロント回転センサ16f、フロント電流センサ17f、フロントドライブシャフト18f、及び、フロント駆動輪19fによって構成される。これら各部は、第1実施形態におけるインバータ13、電動モータ14、減速機15、回転センサ16、電流センサ17、ドライブシャフト18、及び、駆動輪19に対応する。
【0125】
同様に、リア駆動システムSは、リアインバータ13r、リアモータ14r、リア減速機15r、リア回転センサ16r、リア電流センサ17r、リアドライブシャフト18r、及び、リア駆動輪19rによって構成される。これら各部は、第1実施形態におけるインバータ13、電動モータ14、減速機15、回転センサ16、電流センサ17、ドライブシャフト18、及び、駆動輪19に対応する。
【0126】
したがって、電動車両300のコントローラ12は、バッテリ11の直流電圧Vdcやアクセル開度θを取得するとともに、フロント駆動システムSから、フロントモータ14fの三相電流i(=ifu,ifv,ifw)及び回転子位相αを取得する。同様に、電動車両300のコントローラ12は、リア駆動システムSから、リアモータ14rの三相電流i(=iru,irv,irw)及び回転子位相αを取得する。そして、電動車両300のコントローラ12は、これらの車両情報に基づいて、フロント駆動システムS及びリア駆動システムSを制御する。
【0127】
そして、電動車両300のコントローラ12は、第1実施形態または第2実施形態と同様に、補償トルクTに応じて可変に設定されるトルクマージンTmarginによって、フロント駆動システムSに対する基本トルク目標値Tm1f(図示しない)を制限するように構成される。また、電動車両300のコントローラ12は、第1実施形態または第2実施形態と同様に、補償トルクTに応じて可変に設定されるトルクマージンTmarginによって、リア駆動システムSに対する基本トルク目標値Tm1r(図示しない)を制限するように構成される。これにより、4WDの電動車両300は、第1実施形態または第2実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0128】
なお、電動車両300のコントローラ12は、フロント駆動システムSまたはリア駆動システムSのいずれか一方について、補償トルクTに応じて可変に設定されるトルクマージンTmarginによって、リア駆動システムSに対する基本トルク目標値を制限するように構成されていてもよい。
【0129】
[第2変形例]
上記第1実施形態、第2実施形態、及び、第1変形例のとおり、トルクマージンTmarginを変更する必要があるか否かは、補償トルクTを基本トルク目標値Tm1 (あるいはFF補償後トルク目標値Tm2 )に重畳することによって、最終トルク目標値Tmf が、電動モータ14の出力し得るトルク(TmaxP,TmaxR)を超えるか否かによって決まる。より具体的には、トルクマージンTmarginの変更についての要否は、予め定めるオフセットトルクToffset(またはTO1,TO2)、及び、予め定まる電動モータ14が出力し得るトルク(TmaxP,TmaxR)と、リアルタイム発生する補償トルクTと、の関係で定まる。
【0130】
この点、上記第2実施形態では、補償トルクTの絶対値|T|を、第1オフセットトルクTO1及び第2オフセットトルクTO2の切り替え判定に使用することにより、最終トルク目標値Tmf が、電動モータ14の出力し得るトルク(TmaxP,TmaxR)を超えるか否か、すなわち、トルクマージンTmarginを変更する必要があるか否か、に係る判定を行っている。しかし、上記第1実施形態では、補償トルクTの絶対値|T|(振幅)をトルクマージンTmarginの変動幅とすることにより、トルクマージンTmarginの変更要否に係る判定を省略している。したがって、第1実施形態においても、コントローラ12は、トルクマージンTmarginの変更要否に係る判定を実行し、その判定結果、トルクマージンTmarginの変更が必要であると判定されたときに、トルクマージンTmarginを変更する構成であってもよい。
【0131】
例えば、第1実施形態におけるコントローラ12(基本トルク目標値制限部30)は、第2実施形態のオフセットトルク選択部204と同様に、補償トルクTの絶対値|T|を所定値(閾値)と比較し、補償トルクTの絶対値|T|が所定値より大きいときに、補償トルクTの絶対値|T|をオフセットトルクToffsetに加算して、トルクマージンTmarginを設定する構成とすることができる。
【0132】
また、例えば、第1実施形態におけるコントローラ12(基本トルク目標値制限部30)は、基本トルク目標値Tm1 と補償トルクT(またはその絶対値|T|)を加算し、この加算値(Tm1 +T)を、電動モータ14が出力し得るトルク(TmaxP,TmaxR)と比較し、加算値(Tm1 +T)が、電動モータ14の出力し得るトルク(TmaxP,TmaxR)を超えるときに、トルクマージンTmarginを変更する構成としてもよい。
【0133】
このように、トルクマージンTmarginの変更要否を判定する場合、電動モータ14の限界(TmaxP,TmaxR)までその性能を活かした加速/減速を実現でき、その上で、補償トルクTが、電動モータ14が出力し得るトルク(TmaxP,TmaxR)によって制限され、制振制御処理による制振効果が低減されるおそれがあるときには、的確にトルクマージンTmarginを設定(増加)し、制振制御処理によって予定された制振効果を得ることができる。
【0134】
なお、上記のように、補償トルクTが重畳された最終トルク目標値Tmf が、電動モータ14の出力し得るトルク(TmaxP,TmaxR)を超えるか否かを判定し、その結果に応じてトルクマージンTmarginを設定する場合には、トルクマージンTmarginの増加量を、最終トルク目標値Tmf が電動モータ14の出力し得るトルク(TmaxP,TmaxR)を超える分量とすることができる。例えば、第1実施形態におけるオフセットトルクToffsetへの加算値を、オフセットトルクToffsetに対する補償トルクTの絶対値|T|の超過分(|T|-Toffset)とすることができる。この場合、電動モータ14は、その性能的限界まで活かされる。
【0135】
以上のように、第1実施形態、第2実施形態、及び、各変形例に係る電動車両の制御方法は、電動モータ14を駆動源とする電動車両100の制御方法である。この電動車両100の制御方法では、電動車両100の車両情報(θ等)に基づいて、電動モータ14が出力すべきトルクを表す基本トルク目標値(Tm1 )が算出されるとともに、電動モータ14の回転状態を表すパラメータである回転パラメータ(N)に基づいて、電動車両100に作用する外乱によって生じる振動を補償する補償トルク(T)が演算される。また、補償トルク(T)に基づいて、電動モータ14が出力し得るトルク(TmaxP,TmaxR)に対する可変のマージンであるトルクマージン(Tmargin)が設定される。そして、トルクマージン(Tmargin)に基づいて、基本トルク目標値(Tm1 )を制限することにより、制限後トルク目標値(Tm1-lim )が演算される。その後、制限後トルク目標値(Tm1-lim )と補償トルク(T)に基づいて、最終トルク目標値(Tmf )が演算され、この最終トルク目標値(Tmf )にしたがって電動モータ14が制御される。
【0136】
このように、基本トルク目標値Tm1 に補償トルクTを重畳する制振制御処理を行うために、トルクマージンTmarginを設定して、要求トルクである基本トルク目標値Tm1 を予め制限する場合に、補償トルクTに応じてトルクマージンTmarginを可変に設定すると、電動モータ14の性能を最大限に活かしつつ、かつ、外乱dによって振動が生じるときには、これを的確に抑制することができる。
【0137】
上記第1実施形態、第2実施形態、及び、各変形例に係る電動車両の制御方法では、具体的に、補償トルク(T)が小さいときに、トルクマージン(Tmargin)が小さく設定される。これにより、補償トルクTが小さい走行シーンでは、電動モータ14の性能を最大限に生かした加速(または減速)を実現することができ、かつ、補償トルクTが大きい走行シーンでは、制振制御処理によって予定される制振効果が損なわれることなく得られる。したがって、第1実施形態、第2実施形態、及び、変形例に係る電動車両の制御方法によれば、電動モータ14の性能を最大限に活かしつつ、かつ、外乱dによって振動が生じるときには、これを的確に抑制することができる。
【0138】
上記第1実施形態、第2実施形態、及び、各変形例に係る電動車両の制御方法では、補償トルク(T)は、車両駆動系69のねじり振動を補償するものである。外乱dによって生じる振動のうち、車両駆動系69のねじり振動は、特にドライブフィーリングに影響を及ぼしやすい。このため、上記のように、補償トルクTを、車両駆動系69のねじり振動を補償するものとすることにより、ドライブフィーリングに影響を及ぼしやすい車両駆動系69のねじり振動が、特に的確に抑制されやすい。
【0139】
特に、上記第1実施形態、及び、各変形例に係る電動車両の制御方法では、補償トルク(T)に対して、ねじり振動の周波数(f)以下の周波数成分を通過させるフィルタリング処理が実行され、フィルタリング処理後の補償トルク(|Tflt)に基づいて、トルクマージン(Tmargin)が設定される。このように、ねじり振動の周波数(f)以下の周波数成分を通過させるフィルタリング処理を施した補償トルク(|Tflt)に基づいてトルクマージンTmarginを設定すると、ねじり振動を抑制するために必要な分量のトルクマージンTmarginが設定される。すなわち、トルクマージンTmarginを増加させなければならないシーンにおいても、確保されるトルクマージンTmarginは必要最小限となる。したがって、上記のように、フィルタリング処理後の補償トルク(|Tflt)に基づいてトルクマージンTmarginを設定することによって、外乱dによって生じるねじり振動を抑制するシーンにおいても、電動モータ14の性能が最大限に活かされる。
【0140】
上記第1実施形態、第2実施形態、及び、各変形例に係る電動車両の制御方法では、補償トルク(T)の絶対値(|T|)が演算され、補償トルク(T)の絶対値(|T|)に基づいて、トルクマージン(Tmargin)が設定される。このように、補償トルクTの絶対値|T|(振幅)に基づいてトルクマージンTmarginを設定することにより、インパルス状の外乱dやステップ状の外乱d等、最大/最小の振幅が異なる外乱dが生じた場合でも、最終トルク目標値Tmf が、電動モータ14の出力し得るトルク(TmaxP,TmaxR)を超えないように、的確なトルクマージンTmarginが設定される。すなわち、外乱dの具体的な形態によらず、的確なトルクマージンTmarginが設定されやすくなる。
【0141】
特に、上記第1実施形態、及び、各変形例に係る電動車両の制御方法では、予め定める基準値であるオフセットトルク(Toffset)と、補償トルク(T)の絶対値(|T|)と、を加算した値が、トルクマージン(Tmargin)に設定される。このように、オフセットトルクToffsetと補償トルクTの絶対値|T|を加算することによってトルクマージンTmarginを設定すると、補償トルクTが実質的にゼロの状態であっても、オフセットトルクToffset分のトルクマージンTmarginを担保される。その結果、ステップ状の外乱d等に対する応答(演算)の遅れの影響が低減され、突発的に外乱dが生じたとしても、制振制御処理による制振効果が迅速かつ適切に得られやすい。
【0142】
また、上記第1実施形態、及び、各変形例に係る電動車両の制御方法では、トルクマージン(Tmargin)は、予め定める基準値であるオフセットトルク(Toffset)を用いて設定され、補償トルク(T)に基づいてオフセットトルク(Toffset)を補正することにより、トルクマージン(Tmargin)が補正される。このように、トルクマージンTmarginの基準となるオフセットトルクToffsetを定めておき、これを補償トルクTに応じて補正することによってトルクマージンTmarginを設定すると、走行シーンに応じて、特に適切なトルクマージンTmarginが設定されやすい。
【0143】
上記第2実施形態、及び、各変形例に係る電動車両の制御方法では、予め定められた第1オフセットトルク(To1)と、予め定められ、第1オフセットトルク(To1)よりも値が小さい第2オフセットトルク(To2)と、から、補償トルク(T)に基づいていずれか一方が選択される。そして、トルクマージン(Tmargin)は、選択された第1オフセットトルク(To1)または第2オフセットトルク(To2)を用いて設定される。このように、第1オフセットトルクTO1と第2オフセットトルクTO2を定めておき、これらから選択したオフセットトルクを用いてトルクマージンTmarginを設定することにより、簡易かつ迅速に、走行シーンに応じてた適切なトルクマージンTmarginが設定される。
【0144】
特に、上記第2実施形態、及び、各変形例に係る電動車両の制御方法では、選択された第1オフセットトルク(To1)または第2オフセットトルク(To2)に対して、車両駆動系69に生じるねじり振動の周波数(f)以下の周波数成分を通過させるフィルタリング処理が実行される。そして、選択された第1オフセットトルク(To1)または第2オフセットトルク(To2)と、フィルタリング処理後の第1オフセットトルク(To1-flt)または第2オフセットトルク(To2-flt)と、を比較し、いずれか大きい方の値がトルクマージン(Tmargin)に設定される。このように、オフセットトルクと、さらにフィルタリング処理されたオフセットトルクと、のセレクトハイにより、トルクマージンTmarginを設定すると、トルクマージンTmarginは、値が大きくなるときには迅速に変化し、値が小さくなるときには緩やかに変化する。したがって、外乱dが生じて、トルクマージンTmarginを大きくしなければならないシーンでは、迅速にこれに対応することができる。その後、制振のために大きなトルクマージンTmarginを確保しておく必要がなくなったときには、緩やかにトルクマージンTmarginを削減し、トルク段差等を生じさせずに、電動モータ14の性能的限界の近くまで、電動車両100を滑らかに加速(または減速)させることができる。
【0145】
上記第1実施形態、第2実施形態、及び、各変形例に係る電動車両の制御方法では、制限後トルク目標値(Tm1-lim )を用いて、車両駆動系69の伝達特性(G(s))に基づくフィードフォワード制御によって車両駆動系69のねじりを抑制する第2トルク目標値(Tm2 )が演算され、その後、この第2トルク目標値(Tm2 )と補償トルク(T)に基づいて、最終トルク目標値(Tmf )が演算される。このように、制振制御処理が、フィードフォワード制御による補償と、補償トルクTをフィードバックするフィードバック制御による補償と、によって構成されるときには、フィードフォワード制御及びフィードバック制御による各制振補償は、制限後トルク目標値Tm1-lim を用いて行われる。すなわち、トルクマージンTmarginの設定によるトルク制限は、フィードフォワード制御及びフィードバック制御による各制振補償よりも前に行われる。制振補償を行った後にトルク制限を実施すると、その制振補償のために重畳されたトルクの全部または一部がトルク制限によってカットされ、予定した制振効果が得られにくくなる場合がある。したがって、上記のように、フィードフォワード制御及びフィードバック制御による各制振補償よりも前に、トルクマージンTmarginの設定によるトルク制限を行うことによって、トルクマージンTmarginの設定によるトルク制限を行いつつ、制振制御処理によって予定しる制振効果を、より確実に得ることができる。
【0146】
上記第2実施形態、及び、第1実施形態をベースとする第2変形例に係る電動車両の制御方法では、最終トルク目標値(Tmf )が、電動モータ14が出力し得るトルク(TmaxP,TmaxR)を超えるときに、トルクマージン(Tmargin)が変更される。すなわち、最終トルク目標値Tmf が、電動モータ14の出力し得るトルクを超えるか否かを、直接的または間接的に判定し、最終トルク目標値Tmf が、電動モータ14の出力し得るトルクを超えるときにトルクマージンTmarginを変更する。このように構成することにより、電動モータ14の限界(TmaxP,TmaxR)までその性能を活かした加速/減速を実現しやすい。そして、補償トルクTが、電動モータ14が出力し得るトルク(TmaxP,TmaxR)によって制限され、制振制御処理による制振効果が低減されるおそれがあるときには、特に的確にトルクマージンTmarginを設定(増加)して、制振制御処理によって予定する制振効果を得ることができる。
【0147】
上記第1実施形態、第2実施形態、及び、各変形例に係る電動車両の制御装置は、電動モータ14を駆動源とする電動車両100の制御装置(コントローラ12)である。この電動車両100の制御装置(コントローラ12)は、電動車両100の車両情報(θ等)に基づいて、電動モータ14が出力すべきトルクを表す基本トルク目標値(Tm1 )を算出する基本トルク目標値算出部(S202)と、電動モータ14の回転状態を表すパラメータである回転パラメータ(N)に基づいて、電動車両100に作用する外乱によって生じる振動を補償する補償トルク(T)を演算する補償トルク演算部65と、補償トルク(T)に基づいて、電動モータ14が出力し得るトルク(TmaxP,TmaxR)に対する可変のマージンであるトルクマージン(Tmargin)を設定するトルクマージン設定部32と、トルクマージン(Tmargin)に基づいて、基本トルク目標値(Tm1 )を制限することにより、制限後トルク目標値(Tm1-lim )を演算するトルク制限部34と、制限後トルク目標値(Tm1-lim )と補償トルク(T)に基づいて、最終トルク目標値(Tmf )を演算する最終トルク目標値演算部63と、最終トルク目標値(Tmf )にしたがって電動モータ14を制御する電動モータ制御部(S205,S206)と、を備える。
【0148】
基本トルク目標値Tm1 に補償トルクTを重畳する制振制御処理を行うために、トルクマージンTmarginを設定して、要求トルクである基本トルク目標値Tm1 を予め制限する場合に、コントローラ12を上記のように構成し、補償トルクTに応じてトルクマージンTmarginを可変に設定することによって、電動モータ14の性能を最大限に活かしつつ、かつ、外乱dによって振動が生じるときには、これを的確に抑制することができる。
【0149】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態及び各変形例で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0150】
2:モータコントローラ,4:電動モータ,5:減速機,7:電流センサ,11:バッテリ,12:コントローラ,13:インバータ,13f:フロントインバータ,13r:リアインバータ,14:電動モータ,14f:フロントモータ,14r:リアモータ,15:減速機,15f:フロント減速機,15r:リア減速機,16:回転センサ,16f:フロント回転センサ,16r:リア回転センサ,17:電流センサ,17f:フロント電流センサ,17r:リア電流センサ,18:ドライブシャフト,18f:フロントドライブシャフト,18r:リアドライブシャフト,19:駆動輪,19f:フロント駆動輪,19r:リア駆動輪,30:基本トルク目標値制限部,31:最大出力トルク演算部,32:トルクマージン設定部,33:トルクリミット演算部,34:トルク制限部,41:絶対値演算部,42:フィルタリング処理部,43:オフセットトルク記憶部,44:補正部,46:上限トルク演算部,47:下限トルク演算部,60:制振制御部,61:フィードフォワード補償部,62:フィードバック補償部,63:最終トルク目標値演算部,64:外乱推定フィルタ,65:補償トルク演算部,66:回転速度推定部,67:回転速度偏差演算部,68:外乱推定部,69:車両駆動系,100:電動車両,201:絶対値演算部,202:第1オフセットトルク記憶部,203:第2オフセットトルク記憶部,204:オフセットトルク選択部,205:フィルタリング処理部,206:トルクマージン選択部,300:電動車両
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