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特開2024-119333熱応力解析方法及び熱依存性評価方法
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  • 特開-熱応力解析方法及び熱依存性評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119333
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】熱応力解析方法及び熱依存性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/16 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
G01N25/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026153
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇仁
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AA01
2G040AB07
2G040AB09
2G040BA02
2G040BA25
2G040CA02
2G040EA01
2G040HA16
(57)【要約】
【課題】温度依存性のある不可逆性の膨張・収縮に係わる物性と可逆性の物性を考慮して、簡易に熱応力解析の精度を向上させる技術を提案する。
【解決手段】対象とする材料の熱膨張係数と変数としての温度との積を有する膨張・収縮に関する項である温度依存項を有する解析モデルによって、当該材料の応力解析を行う熱応力解析方法であって、温度依存性のある不可逆性の膨張・収縮に係わる物性である第1の物性を有する材料を対象とし、第1の物性による、温度を変数した変化量を第1の物性の物性値として求め、求めた上記第1の物性の物性値で、上記温度依存項を補正した上記解析モデルを使用する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする材料の熱膨張係数と変数としての温度との積を有する膨張・収縮に関する項である温度依存項を有する解析モデルによって、当該材料の応力解析を行う熱応力解析方法であって、
温度依存性のある不可逆性の膨張・収縮に係わる物性である第1の物性を有する材料を対象とし、
第1の物性による、温度を変数した変化量を第1の物性の物性値として求め、
求めた上記第1の物性の物性値で、上記温度依存項を補正した上記解析モデルを使用する、
ことを特徴とする熱応力解析方法。
【請求項2】
対象とする材料について伝熱解析を行って、材料に発生する解析温度を求め、その解析温度に対応する上記第1の物性の物性値で、上記温度依存項を補正する、
ことを特徴とする請求項1に記載した熱応力解析方法。
【請求項3】
評価する熱変化を上記材料に付加する条件での熱応力解析方法であって、
上記評価する熱変化を複数の区画に区分し、上記伝熱解析で各区画毎に解析温度を求め、その各区画毎の解析温度に基づき、各区画毎に、上記解析モデルに反映する上記第1の物性の物性値を定数として求める、
ことを特徴とする請求項2に記載した熱応力解析方法。
【請求項4】
対象とする材料の熱膨張係数を有する解析モデルによって、当該材料の応力解析を行う熱応力解析方法であって、
温度依存性のある不可逆性の膨張・収縮に係わる物性である第1の物性を有する材料を対象とし、
第1の物性による、温度を変数した変化量を第1の物性の物性値として求め、
求めた上記第1の物性の物性値で、上記熱膨張係数を補正した上記解析モデルを使用する、
ことを特徴とする熱応力解析方法。
【請求項5】
対象とする材料について伝熱解析を行って、材料に発生する解析温度を求め、その解析温度に対応する上記第1の物性の物性値で、上記熱膨張係数を補正する、
ことを特徴とする請求項4に記載した熱応力解析方法。
【請求項6】
評価する熱変化を上記材料に付加する条件での熱応力解析方法であって、
上記評価する熱変化を複数の区画に区分し、上記伝熱解析で各区画毎に解析温度を求め、その各区画毎の解析温度に基づき、各区画毎に、上記熱膨張係数に反映する上記第1の物性の物性値を定数として求める、
ことを特徴とする請求項5に記載した熱応力解析方法。
【請求項7】
上記対象とする材料が耐火物である、
ことを特徴とする請求項1又は4に記載した熱応力解析方法。
【請求項8】
上記第1の物性は、線変化率である、
ことを特徴とする請求項7に記載した熱応力解析方法。
【請求項9】
対象とする材料について伝熱解析を行って、材料に発生する解析温度を求め、その解析温度での材料の線変化率若しくは体積変化量を、上記第1の物性の物性値とする、
ことを特徴とする請求項8に記載した熱応力解析方法。
【請求項10】
評価する熱変化を上記材料に付加する条件での熱応力解析方法であって、
上記評価する熱変化を、複数の区画に区分し、上記伝熱解析で各区画毎に解析温度を求め、その各区画毎の解析温度に基づき、各区画毎に、上記解析モデルに反映する上記第1の物性の物性値を定数として求める、
ことを特徴とする請求項9に記載した熱応力解析方法。
【請求項11】
上記解析温度は、各区画での最高温度を用いる、
ことを特徴とする請求項10に記載した熱応力解析方法。
【請求項12】
請求項1又は請求項4に記載の熱応力解析方法で、材料に発生する応力値、及び引張強さの少なくとも一方を評価する、熱依存性評価方法。
【請求項13】
熱変化に対し、温度依存性のある不可逆性の物性である第1の物性と、温度依存性のある可逆性の物性である第2の物性とを有する材料について、解析モデルで応力解析を行う熱応力解析方法であって、
対象とする材料について伝熱解析を行い、材料に発生する解析温度を求め、その解析温度での上記第1の物性の物性値を定数として求め、
上記第2の物性と変数としての温度とを演算する材料の温度依存の項を、上記求めた上記第1の物性の物性値で補正した解析モデルを使用する、
ことを特徴とする熱応力解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度依存性のある不可逆反応の第1の物性と温度依存性のある可逆性の第2の物性を有する材料の熱解析に関する。そして、本発明は、そのような材料(その材料からなる物品も含む。以下同様)について、解析モデルによって解析する熱応力解析方法、及びその解析方法を用いた熱依存性評価方法に関する。
【0002】
本発明が適用可能な好適な材料としては、例えば、加熱により焼結反応その他の化学反応が発生する材料である、耐火物やコンクリートなどの材料が例示出来る。そして、本発明は、例えば、これらの材料を用いた耐火壁等の使用時の耐熱評価を、使用環境での熱変化で発生する熱応力等を解析する場合などに適用可能である。
【0003】
第2の物性は、例えば、熱膨張係数(熱膨張率とも言う)である。第1の物性は、例えば、熱に不可逆反応を有する線変化率である。耐火物などでは、加熱による焼結反応(化学反応)によって、体積が非線形に膨張・収縮する不可逆反応が発生する。
【0004】
また、第2の物性の物性値は、例えば、材料そのものから規定される熱膨張係数の値そのもの、若しくは、熱膨張係数に応じた変化量である。また、第1の物性の物性値は、第1の物性の値そのもの、若しくは第1の物性に応じた材料の変化量である。
【背景技術】
【0005】
特許文献1には、化学反応による膨張エネルギーを入力し、エネルギー量からひずみ量を算出する方法が記載されている。
また、特許文献2には、コンクリート内の湿度を用いてコンクリート乾燥時のひずみ量を算出する方法が記載されている。
また、特許文献3には、温度変化における拘束条件の変化を考慮したシミュレーション方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6240721号公報
【特許文献2】特許第6986323号公報
【特許文献3】特開2010-52019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、発明者は、特許文献1~3に記載のような従来の解析方法では、一部の材料において、評価結果(解析結果)の精度が悪いとの知見を得た。すなわち、従来の解析方法は、温度依存性のある不可逆性の物性である第1の物性と温度依存性のある可逆性の物性である第2の物性を有する材料に対し、第1の物性と第2の物性の両方を考慮して熱応力解析を行って評価していない。このため、発明者は、第1の物性と第2の物性を有する材料に対し、従来の解析方法では評価結果(解析結果)の精度が悪い、との知見を得た。
【0008】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、温度依存性のある不可逆性の物性と可逆性の物性を考慮して、簡易に熱応力解析の精度を向上させる技術を提案する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題解決のために。本発明の一態様は、対象とする材料の熱膨張係数と変数としての温度との積を有する膨張・収縮に関する項である温度依存項を有する解析モデルによって、当該材料の応力解析を行う熱応力解析方法であって、温度依存性のある不可逆性の膨張・収縮に係わる物性である第1の物性を有する材料を対象とし、第1の物性による、温度を変数した変化量を第1の物性の物性値として求め、求めた上記第1の物性の物性値で、上記温度依存項を補正した上記解析モデルを使用する。
【0010】
ここで、材料の熱膨張係数と変数としての温度との積を有する膨張・収縮に関する項である温度依存項は、解析モデル式のうちの、温度依存性のある可逆性の物性による変化量を、温度を変数として表現した項である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、熱応力を解析する解析モデルの解析条件として、温度依存性のある可逆性の第2の物性の条件を、温度依存性のある不可逆性の第1の物性で補正する。この結果、本発明の態様によれば、温度依存性のある不可逆性の第1の物性と可逆性の第2の物性を有する材料に対し、解析モデルによる解析結果(評価結果)の精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に基づく実施形態に係る処理フローを説明する図である。
図2】第1の物性値である線変化率と温度との関係を示す図である。
図3】第1の物性値である熱膨張係数と温度との関係を示す図である。
図4】評価する熱変化の時系列の例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、解析対象の材料として耐火物を例に挙げて説明する。ただし、耐火物に限定されない。本発明は、温度依存性のある不可逆性の物性である第1の物性と、温度依存性のある可逆性の物性である第2の物性を有する材料(その材料からなる物品も含む)であれば適用可能である。ただし、第1の物性の熱により変化する性質が、第2の物性の熱により変化する性質が同じものを選択することが好ましい。
【0014】
本実施形態では、温度依存性のある可逆性の物性である第2の物性を、材料そのものから規定される熱膨張係数αとする。熱膨張係数αと、変数としての温度tとの積(演算)に基づき表現される量が、温度を変数とした第2の物性の物性値である。この第2の物性の物性値が、解析モデル式における温度依存項を規定する。また、熱膨張係数αの値そのものを、第2の物性の物性値としても良い。
【0015】
そして、第1の物性として、熱により膨張・収縮する性質を有する物性を用いる。
ここで、温度依存性のある不可逆性の膨張・収縮に係わる物性である第1の物性は、例えば、材料そのものから規定される温度依存性のある物性ではない。第1の物性は、例えば、温度変化に基づき、材料に発生する化学反応などによって発生する変化率である。その第1の物性によって、温度変化で発生する体積の変化量が、第1の物性の物性値となる。第1の物性を示す変化率(本実施形態では線変化率)の値そのものを、第1の物性の物性値としてもよい。
【0016】
本実施形態では、第1の物性として、主として加熱による焼結反応(化学反応)により体積変化する物性(線変化率)を例示する。ここで、耐火物は、焼結反応により、非線形で体積が減少する不可逆反応が発生する。
【0017】
そして、本実施形態では、その第1の物性の温度を変数とした物性の値として、線変化率と温度との関係を求めておく。図2にその例を示す。
なお、第1の物性としての熱膨張係数は、一般に、図3に示すように、温度変化に対し一定の値として設定される。
【0018】
(熱応力解析の方法)
熱応力解析の方法について、図1に示すフローに沿って説明する。
【0019】
<解析モデルの作成10>
本実施形態では、対象とする耐火物について、基準となる熱応力解析モデルを作成する。
熱依存の条件として、解析モデルのモデル式は、変数としての温度と第2の物性としての熱膨張係数αとの積を有する温度依存項を有する。
【0020】
ここで作成する、基準となる熱応力解析モデルの条件やモデル式の構成は、従来公知の方法によって設定する。そのモデルには、従来公知の方法によって、上記変数としての温度と第2の物性としての熱膨張係数αとの積を有する温度依存項が、熱依存の条件として設定されるとする。
例えば、第1の物性と第2の物性を合成して、各温度における関数を作成し、1つのパラメータとして与える方法がある。また、第1の物性により発生する体積変化量を、熱応力解析を実施するモデルに反映させ、第2の物性のみ与える方法などもある。
なお、この解析モデルは、例えば、設定した加熱条件(熱変化条件)、例えば評価する熱変化を材料に付加する条件で、材料に発生する応力や引張強さを求めるモデルとする。
【0021】
<伝熱解析20>
対象とする耐火物(材料)に対し、上記の設定した加熱条件(熱変化条件)で伝熱解析を行い、耐火物に発生する温度分布を解析温度として求める。
ここで、加熱条件として、耐火物を加熱して当該耐火物を生成する場合、一定の温度で加熱することなく、図4のように、温度変化を有する非定常の温度トレンド(温度変化の時系列)で加熱される。
【0022】
これに対し、本実施形態では、設定した温度変化(加熱)の時系列を、加熱の経過時間に沿って複数の区画に区分する。図4では、分かり易いように、区分数を抑えて4区画に区分した場合を記載している。実際には、もっと細かく区画を区分する。区分数が多いほど解析精度が上がる傾向にある。
そして、伝熱解析によって、各区画毎の代表とする解析温度を求める。
ここで、設定した加熱温度が一定温度の場合には、上記のように複数の区画に区分する必要はない。非定常に熱変化が発生する場合に、複数の区画に区分することが好ましい。
【0023】
本実施形態では、各区画における、最高温度を、その区画の解析温度とする。ここで、焼結反応は、その物体が経験している最高温度に依存して変化する。このため、解析を実施するまでに到達している最高温度を計算で用いる。区画の解析温度は、最高温度に限定されず、区画内の平均温度や、区画内の時間的に一番最後の時間の加熱温度などであってもよい。
【0024】
<線変化率演算30>
実際に、対象とする材料について加熱を行う加熱実験を行う。そして、この実験によって、図2のような、線変化率(第1の物性)と温度との非線形の関係を求める。本実施形態では、第1の物性は、熱変化での化学反応によって非線形で膨張・収縮する物性である。
なお、第2の物性としての熱膨張係数αと温度との関係は、例えば図3のような関係となっている。
【0025】
<第1の物性の物性値算出40>
伝熱解析20で求めた各区画毎の解析温度と、線変化率演算30で求めた温度に対する線変化率とに基づき、各区画における第1の物性の物性値g(t)を求める。tは、変数(パラメータ)としての温度を表す。
【0026】
物性値g(t)は、例えば、各区画における最大温度での線変化率に体積を掛けた、各区画毎に設定された体積の変化量である。なお、線変化率若しくは体積が減少する場合には、g(t)はマイナス値とする。本実施形態では、物性値g(t)は、各区画毎に定数として求められる。
なお、第2の物性の物性値を、温度を変数とした熱膨張係数そのものとした場合には、第1の物性の物性値を、温度を変数とした線変化率とする。このとき、第1の物性の物性値は、各区画毎に、対象とする区画の解析温度での線変化率(定数)とする。
【0027】
<解析モデルの更新50>
本実施形態では、第2の物性としての熱膨張係数αに基づき設定したモデル式中の温度依存項を、伝熱解析で求めた解析温度での第1の物性の値に応じた物性値によって、補正する。
ここでは、補正前の温度依存項を表す関数をf(t)と表現する。tは、変数(パラメータ)としての温度を表す。
【0028】
また、解析モデルが有する温度依存項の式を、F(t)とした場合、補正後(更新後)の温度依存項F(t)は、(1)式のように表現される。なお、モデルの更新前の温度依存項F(t)は、(2)式で表現される。
【0029】
F(t) =f(t) +g(t) ・・・(1)
F(t) =f(t) ・・・(2)
【0030】
ここで、f(t)は例えば、「α・t・V」などと記載される。Vは、材料の体積を示す。
なお、f(t)を、温度を変数とした熱膨張係数α自体とし、g(t)を線変化率自体としてもよい。この場合、第1の物性の物性値で、熱膨張係数α自体を補正したことになる。
また、g(t)に対し、補正量を適正化する換算係数を乗算しておいても良い。
【0031】
<熱応力解析(評価)60>
そして、求めた更新後の解析モデルを使用して、対象とする耐火物(材料)の熱応力解析を実行する。具体的には、評価する熱変化での加熱を材料に付与した場合に応じて発生する、対象とする耐火物(材料)に発生する熱応力の変化や引張強さの変化を求める。
そして、求めた熱応力や引張強さが、許容される範囲にあるかの評価を実行する。
【0032】
ここで、評価する加熱条件(熱変化の条件)によって、更新前の解析モデルで解析した場合に、熱応力や引張強さが、許容される範囲にあると評価されたとする。その耐火物を、実際に上記加熱条件(熱変化の条件)で加熱を実行した場合に、割れた耐火物が存在した。
【0033】
この割れた耐火物の解析条件で、上記の更新後の解析モデルを使用して熱応力解析をしたところ、解析で求められた熱応力や引張強さが、許容される範囲より大きい値になると解析された。
【0034】
このように、本実施形態では、熱応力解析時に、温度依存性のある不可逆性の第1の物性の物性値と、温度依存性のある可逆性の第2の物性の物性値とを反映した解析モデルを使用することで、対象とする材料について精度よく熱応力解析を行うことが可能となる。これによって、対象とする耐火物などの材料についての熱応力を適切に評価可能となる。
また、第1の物性の物性値を定数として反映することで、簡易にモデル式を更新可能となる。
【0035】
ここで、従来の解析手法では、伝熱解析の結果に対して、熱膨張係数やヤング率などを物性値として与えることで熱応力計算を行っている。そのため、従来の解析方法では、可逆性の第2の物性値と共に、温度依存性がある不可逆性の第1の物性を有した材料に関しては、精度良く熱応力解析を行うことが難しい。
【0036】
例えば、耐火物は、熱膨張係数で規定される加熱による体積変化とは別に、焼結反応などの熱変化に応じた化学反応によって、加熱温度に依存して体積膨張や収縮が発生する。そのため、第1の物性に応じた物性値で、解析モデルにおける熱依存性の項を補正しないと、解析モデルによって精度よく解析を行うことが出来ない。
【0037】
これに対し、本実施形態では、まず伝熱計算を行い、熱応力解析モデル内の温度分布を取得する。そして、温度分布から不可逆性の膨張・収縮に係わる物性値による変化量を算出し、その第1の物性に基づく変化量を、(1)式のように、熱応力解析モデルの温度依存性がある可逆性の物性の変化量に反映させる。
【0038】
そのように更新した解析モデルで、熱応力解析を行うことで、簡易に、第1の物性の影響を加味した解析が可能となり、解析結果の精度が向上する。なお、第1の物性による膨張・収縮には、熱膨張係数による膨張・収縮分も含まれるが、第1の物性による補正を行った方が精度が上がることを確認した。これは、化学反応による膨張・収縮の変化量の方が大きいことによると推定される。このため、第1の物性による物性値が所定閾値以上の場合にのみ反映させるようにしても良い。
そして、引張強さなどが温度依存性を有する際には、解析を行う際のモデル内部温度分布から引張強さを修正し、熱応力解析を行う。
【0039】
このように、本実施形態の解析方法では、温度依存性がある不可逆性の膨張・収縮に係わる物性と、温度依存性がある可逆性の物性を考慮することが出来るため、解析精度が向上する。そして、解析精度の向上により、耐火物のような温度依存性を有する材料を用いた設備、機器の設計時に活用することが出来る。
【0040】
(実施例)
本実施形態の解析方法によって、耐火物の熱応力解析を行った。
耐火物は、経験した最高温度に依存して体積量が不可逆変化する第1の物性(線変化)と、温度依存性を有する第2の物性(熱膨張係数)を有している。そして、通常の解析モデルには、第2の物性による温度変化量の項(温度依存項)が設定されている。
【0041】
これに対し、本発明に基づく解析モデルでは、第1の物性に基づく変化量を補正量として上記の温度変化量の項(温度依存項)に加えた。
ここでは、耐火物の使用として、加熱炉などの環境を想定する。そして、高温部を約1300℃、低温部を約50℃として、耐火物の内部温度を伝熱解析により算出した。
【0042】
非定常解析などを行った際には、図4に示すように、材料に付加される温度が上昇したり、下降したりすること得ることがある。そして、図4の各区間において、不可逆性物性に与える温度は、下記のように解析を行うまでの期間で最も高い温度を解析時の温度トレンド(温度変化の時系列)から与える。
【0043】
ここでは、各区画の解析温度を次のように設定した。
区間1:解析タイミングの温度
区間2:温度A
区間3:解析タイミングの温度
区間4:温度B
【0044】
材料として耐火物を例示しているので、上記のような条件で温度依存性のある不可逆性の膨張・収縮に係わる物性である線変化に与える温度を選定する。そして、焼結反応などで発生する線変化率に基づき体積変化量を求める。更に、各区画の体積変化率を、熱膨張係数で規定される体積変化率を規定する温度依存項に反映させて、更新後の熱応力解析モデルを求めた。この例では、第1の物性の物性値を各区画毎の解析温度に応じた定数として求めた。そして、その定数からなる物性値を、温度依存項に加算することで補正を行った。第1の物性の物性値は、線変化率の変化が小さくなる場合には、マイナス値とした。
【0045】
また、このときに用いた線変化は、実際に材料を加熱し、そのときの体積変化率を求めることで、求めた。
そして、熱膨張係数を用い、最高経験温度以下の範囲で熱応力計算を行う。応力計算の範囲が最高経験温度を超える場合、再度不可逆性の膨張・収縮に係わる物性値を与えなおし、熱応力の計算を行う。
また、強度の評価を行う際に、耐火物の引張強さは温度依存性があるため、評価するタイミングの解析モデル内の温度分布から引張強さを算出し、耐火物内の主応力と比較し評価を行った。
【0046】
補正を行わない基準となるモデル式をそのまま使用した場合には、不可逆性の体積変化量を考慮することが出来ず、引張強さより、低い熱応力が発生していた。
一方、補正を行った後のモデル式を用いた場合、不可逆性の体積変化も考慮することが出来、引張強さより、大きい応力を得ることが出来、実物と近い熱応力分を得ることが出来た。
この解析結果を用い、加熱炉内で使用されている耐火物の構成や材種の選定を行った。
【0047】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1) 対象とする材料の熱膨張係数と変数としての温度との積を有する膨張・収縮に関する項である温度依存項を有する解析モデルによって、当該材料の応力解析を行う熱応力解析方法であって、
温度依存性のある不可逆性の膨張・収縮に係わる物性である第1の物性を有する材料を対象とし、
第1の物性による、温度を変数した変化量を第1の物性の物性値として求め、
求めた上記第1の物性の物性値で、上記温度依存項を補正した上記解析モデルを使用する、
ことを特徴とする熱応力解析方法。
(2)対象とする材料について伝熱解析を行って、材料に発生する解析温度を求め、その解析温度に対応する上記第1の物性の物性値で、上記温度依存項を補正する。
(3)評価する熱変化を上記材料に付加する条件での熱応力解析方法であって、
上記評価する熱変化を複数の区画に区分し、上記伝熱解析で各区画毎に解析温度を求め、その各区画毎の解析温度に基づき、各区画毎に、上記解析モデルに反映する上記第1の物性の物性値を定数として求める。
(4)対象とする材料の熱膨張係数を有する解析モデルによって、当該材料の応力解析を行う熱応力解析方法であって、
温度依存性のある不可逆性の膨張・収縮に係わる物性である第1の物性を有する材料を対象とし、
第1の物性による、温度を変数した変化量を第1の物性の物性値として求め、
求めた上記第1の物性の物性値で、上記熱膨張係数を補正した上記解析モデルを使用する、
ことを特徴とする熱応力解析方法。
(5)対象とする材料について伝熱解析を行って、材料に発生する解析温度を求め、その解析温度に対応する上記第1の物性の物性値で、上記熱膨張係数を補正する。
(6)評価する熱変化を上記材料に付加する条件での熱応力解析方法であって、
上記評価する熱変化を複数の区画に区分し、上記伝熱解析で各区画毎に解析温度を求め、その各区画毎の解析温度に基づき、各区画毎に、上記熱膨張係数に反映する上記第1の物性の物性値を定数として求める。
(7)上記対象とする材料が耐火物である。
(8)上記第1の物性は、線変化率である。
(9)対象とする材料について伝熱解析を行って、材料に発生する解析温度を求め、その解析温度での材料の線変化率若しくは体積変化量を、上記第1の物性の物性値とする。
(10)評価する熱変化を上記材料に付加する条件での熱応力解析方法であって、
上記評価する熱変化を、複数の区画に区分し、上記伝熱解析で各区画毎に解析温度を求め、その各区画毎の解析温度に基づき、各区画毎に、上記解析モデルに反映する上記第1の物性の物性値を定数として求める。
(11)上記解析温度は、各区画での最高温度を用いる。
(12)本開示の熱応力解析方法で、材料に発生する応力値、及び引張強さの少なくとも一方を評価する熱依存性評価方法。
(13)熱変化に対し、温度依存性のある不可逆性の物性である第1の物性と、温度依存性のある可逆性の物性である第2の物性とを有する材料について、解析モデルで応力解析を行う熱応力解析方法であって、
対象とする材料について伝熱解析を行い、材料に発生する解析温度を求め、その解析温度での上記第1の物性の物性値を定数として求め、
上記第2の物性と変数としての温度とを演算する材料の温度依存の項を、上記求めた上記第1の物性の物性値で補正した解析モデルを使用する、
ことを特徴とする熱応力解析方法。
【符号の説明】
【0048】
10 解析モデルの作成
20 伝熱解析の実行
30 線変化率演算
40 第1の物性の物性値算出
50 解析モデルの更新
60 熱応力解析(評価)
図1
図2
図3
図4