(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119342
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】気体燃料インジェクタ
(51)【国際特許分類】
F02M 61/20 20060101AFI20240827BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20240827BHJP
F02M 61/04 20060101ALI20240827BHJP
F02M 61/10 20060101ALI20240827BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
F02M61/20 P
F02M21/02 S
F02M61/04 G
F02M61/10 D
F02D19/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026163
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】503108687
【氏名又は名称】ニコ精密機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】狩野 寿
(72)【発明者】
【氏名】朝井 友啓
【テーマコード(参考)】
3G066
3G092
【Fターム(参考)】
3G066AA02
3G066AB05
3G066BA06
3G066CC08T
3G066CC14
3G066CE12
3G092AA06
3G092AB06
3G092BB11
3G092DE03S
3G092FA12
(57)【要約】
【課題】油圧で弁体を移動させ、開口部を確実に開放して気体燃料を噴射できる気体燃料インジェクタを提供する。
【解決手段】気体燃料インジェクタ1は、開口部3を有するインジェクタボディ2と、棒状部5と大径部6と先端部7が力学的に一体構造とされた制御ピストン4と、気体燃料室8と、制御油が供給される第1制御油室9と、制御ピストンの後端に設けられた第2制御油室10と、第2制油御室の制御油を外部に導く流路を開閉するソレノイド弁16と、制御ピストンを閉方向に押圧するスプリング17を備える。第2制御油室の油圧をソレノイド弁で解放し、第1制御油室の油圧によって制御ピストンを後端方向に移動させ、開口部を開いてシリンダ内に気体燃料を噴射することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシプロエンジンのシリンダ内に気体燃料を噴射するための気体燃料インジェクタであって、
気体燃料をシリンダ内に噴射する開口部が先端に設けられたインジェクタボディと、
前記インジェクタボディの内部で摺動可能に支持される棒状部と、前記棒状部の後端に設けられた大径部と、前記棒状部の先端に設けられて前記開口部を内側から開閉する先端部を有する制御ピストンと、
前記インジェクタボディの先端の内部に前記開口部と連続するように前記棒状部及び前記先端部を囲んで設けられ、気体燃料が外部から供給される気体燃料室と、
前記棒状部と前記大径部を囲んで前記インジェクタボディの内部に設けられ、外部から制御油が供給される第1制御油室と、
前記制御ピストンの後端により区画されて前記インジェクタボディの内部に設けられ、前記第1制御油室に連通する第2制御油室と、
前記第2制油御室の制御油を外部に導く流路を開閉するソレノイド弁と、
前記インジェクタボディの内部に設けられ、前記インジェクタボディの先端に向けて前記制御ピストンを押圧するスプリングとを備え、
前記制御ピストンは、前記先端部、前記棒状部及び前記大径部が力学的に一体の構造とされ、
前記第2制御油室の制御油の油圧を前記ソレノイド弁により解放し、前記第1制御油室にある制御油の油圧によって前記制御ピストンを後端の方向に移動させることにより前記開口部を開いてシリンダ内に気体燃料を噴射する気体燃料インジェクタ。
【請求項2】
前記開口部の面積は、前記開口部の内径を5mm以上とした場合の面積に設定されており、前記制御ピストンの先端部の直径は、前記開口部の前記内径よりも大きく設定された請求項1に記載の気体燃料インジェクタ。
【請求項3】
前記インジェクタボディの内部に、前記棒状部を摺動可能に支持するとともに、気体燃料室と前記第1制御油室を区分けする円筒状の摺動支持部材を備え、
前記摺動支持部材は、その内側に前記棒状部との隙間をシールする内側シールと、その外側に前記インジェクタボディとの隙間をシールする外側シールを備えたフローティング構造を有する請求項2に記載の気体燃料インジェクタ。
【請求項4】
前記大径部の直径をDPB
前記棒状部の直径をDPS、
前記制御ピストンの前記先端部が前記開口部の周囲と接するシール部の直径をDFV、
気体燃料室内の気体燃料の圧力をPFG、
前記第1制御油室および第2制御油室の制御油の圧力をPCO、
前記第2制御油室の制御油の油圧が解放された場合に前記第2制御油室に残留する制御油の油圧の開放前の油圧に対する比率をPD、
前記スプリングの押圧力をFSP、
とした場合に、気体燃料を噴射する開弁の条件として、
PFG(DPS
2 -DFV
2 )π/4+PCO(PD・DPB
2 -DPS
2 )π/4-FSP>0
を満たす請求項1~3のいずれか1項に記載の気体燃料インジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシプロエンジンのシリンダ内部に気体燃料を噴射するための気体燃料インジェクタに係り、特に、インジェクタボディ内を摺動する一体構造の弁体を油圧で移動させることにより、開口部を確実に開放して気体燃料の噴射を行なうことができる気体燃料インジェクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体燃料インジェクタの従来技術としては、下記特許文献1乃至3に記載された発明を挙げることができる。
【0003】
特許文献1には、混焼ディーゼル機関等に使用されるガス噴射弁の発明が記載されている。このガス噴射弁は、押棒と針弁からなる分割構造の弁体を備えており、押棒に設けた受圧ピストン部に作動油の圧力を与えて持ち上げるとともに、針弁をガスの力で持ち上げることで噴口を開放し、蓄圧部から導入されたガスを所定時期あるいは所定時間噴射することができる。
【0004】
特許文献2には、従来の化石液体燃料に代わり、天然ガス、石油ガスといった化石気体燃料や水素ガスなどの気体燃料を噴射する内燃機関のインジェクタの発明が記載されている。このインジェクタは、気体燃料を噴射する噴口を、分割構造の弁体の下方部分であるニードルで開閉する。ニードルによる噴口の閉弁駆動は、制御室の作動油の圧力が、分割構造の弁体の上方部分である制御ピストンを介してニードルを下向きに押圧することで行なう。またニードルの開弁駆動は、ノズルチャンバ内に供給される高圧気体燃料の圧力によって行なわれる。なお、作動油が気体燃料とともに噴射されるのを防止するために、ニードル周りにはリングシールが設けられる。
【0005】
特許文献3には、内燃機関にガス燃料を噴射するガス噴射弁が記載されている。このガス噴射弁によれば、分割構造の弁体の下方部分であるニードル弁により、ノズル本体の端に設けられた噴射孔を開閉してガス燃料の噴射を断続する。ニードル弁は作動流体により噴射孔を閉じる方向に押圧され、作動流体によるニードル弁の押圧は電磁弁により切り替えられる。また、ニードル弁は噴射孔を開放する方向にガス燃料の圧力を受ける。なお、ニードル弁の外周にはガス燃料と作動流体の混合を阻止するOリングが設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭63-4365号公報
【特許文献2】特開2009-281298号公報
【特許文献3】特開2012-31825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、気体の燃料は液体の燃料と比較して、燃料の単位体積当たりの発熱量が小さい性質がある。そのため、シリンダ内部に気体燃料を噴射するインジェクタは、液体燃料を噴射するインジェクタと比較して、単位時間あたりに噴射する燃料の体積がより大きいことが必要となる。
【0008】
上述した特許文献1乃至3に開示された気体燃料を噴射する従来の噴射弁又はインジェクタの発明には、単位時間あたりにシリンダ内に噴射できる気体燃料の体積を十分に大きくするという課題の認識がなく、従って係る課題を解決する手段についての開示もなかった。
【0009】
本発明は、以上説明した従来の技術と、その課題に鑑みてなされたものであり、油圧を利用して弁体を移動させることで開口部を確実に開放して気体燃料を噴射できる気体燃料インジェクタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載された気体燃料インジェクタは、
レシプロエンジンのシリンダ内に気体燃料を噴射するための気体燃料インジェクタであって、
気体燃料をシリンダ内に噴射する開口部が先端に設けられたインジェクタボディと、
前記インジェクタボディの内部で摺動可能に支持される棒状部と、前記棒状部の後端に設けられた大径部と、前記棒状部の先端に設けられて前記開口部を内側から開閉する先端部を有する制御ピストンと、
前記インジェクタボディの先端の内部に前記開口部と連続するように前記棒状部及び前記先端部を囲んで設けられ、気体燃料が外部から供給される気体燃料室と、
前記棒状部と前記大径部を囲んで前記インジェクタボディの内部に設けられ、外部から制御油が供給される第1制御油室と、
前記制御ピストンの後端により区画されて前記インジェクタボディの内部に設けられ、前記第1制御油室に連通する第2制御油室と、
前記第2制油御室の制御油を外部に導く流路を開閉するソレノイド弁と、
前記インジェクタボディの内部に設けられ、前記インジェクタボディの先端に向けて前記制御ピストンを押圧するスプリングとを備え、
前記制御ピストンは、前記先端部、前記棒状部及び前記大径部が力学的に一体の構造とされ、
前記第2制御油室の制御油の油圧を前記ソレノイド弁により解放し、前記第1制御油室にある制御油の油圧によって前記制御ピストンを後端の方向に移動させることにより前記開口部を開いてシリンダ内に気体燃料を噴射することを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載された気体燃料インジェクタは、請求項1に記載の気体燃料インジェクタにおいて、
前記開口部の面積は、前記開口部の内径を5mm以上とした場合の面積に設定されており、前記制御ピストンの先端部の直径は、前記開口部の前記内径よりも大きく設定されたことを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載された気体燃料インジェクタは、請求項2に記載の気体燃料インジェクタにおいて、
前記インジェクタボディの内部に、前記棒状部を摺動可能に支持するとともに、気体燃料室と前記第1制御油室を区分けする円筒状の摺動支持部材を備え、
前記摺動支持部材は、その内側に前記棒状部との隙間をシールする内側シールと、その外側に前記インジェクタボディとの隙間をシールする外側シールを備えたフローティング構造を有することを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載された気体燃料インジェクタは、請求項1~3のいずれか1項に記載の気体燃料インジェクタにおいて、
前記大径部の直径をDPB
前記棒状部の直径をDPS、
前記制御ピストンの前記先端部が前記開口部の周囲と接するシール部の直径をDFV、
気体燃料室内の気体燃料の圧力をPFG、
前記第1制御油室および第2制御油室の制御油の圧力をPCO、
前記第2制御油室の制御油の油圧が解放された場合に前記第2制御油室に残留する制御油の油圧の開放前の油圧に対する比率をPD、
前記スプリングの押圧力をFSP、
とした場合に、気体燃料を噴射する開弁の条件として、
PFG(DPS
2 -DFV
2 )π/4+PCO(PD・DPB
2 -DPS
2 )π/4-FSP>0
を満たすことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載された気体燃料インジェクタによれば、気体燃料を噴射するための開弁の動作を確実に行うことができる。
【0015】
レシプロエンジンのシリンダ内に燃料を噴射するインジェクタでは、燃料を噴射するための開弁の動作と、燃料の噴射を停止するための閉弁の動作を確実に行うことが求められる。ここで、インジェクタに供給される気体燃料の圧力が充分に高い場合には、インジェクタの開弁の動作において、気体燃料の圧力によって弁に発生する開方向の力を利用することができる。しかし、気体燃料の圧力がそれほど高くない場合には、開弁の動作における気体燃料の圧力の寄与は限定的となる。そこで請求項1に記載の発明では、制御ピストンにおいて棒状部と大径部の間に段差を設け、この段差に作用する制御油の油圧を開弁の動作に利用する。段差に制御油の油圧が作用すると、制御ピストンを開弁方向(後端側)に引く力が生じる。さらに、制御ピストンの先端部、棒状部、および大径部は、力学的に一体の構造としたので、大径部で生じた制御ピストンを開弁方向に引く力は、先端部まで直接伝達される作用が得られる。なお、ここで「力学的に一体の構造」とは、各部が同一材質の素材から一体的に作り出されている場合のほか、例えば棒状部と大径部は異なる部品であるが、両部品が軸方向の力を時間的遅れなく直接伝達できるよう互いに締結又は固定されて一体化されている場合も意味する。
【0016】
なお、特許文献2及び特許文献3には、請求項1に記載したものと類似した構成を備えたインジェクタ及びガス噴射弁が記載されている。しかしこれらのインジェクタ及びガス噴射弁では、気体燃料の圧力が低い場合については充分な考慮がなされていない。これらの従来技術では、インジェクタ及びガス噴射弁の内部の先端に位置するニードルまたはニードル弁と、これらを押す制御ピストンまたは作動杆とは別体とされており、ニードルまたはニードル弁を開弁方向に引き動かすことはできず、気体燃料の圧力によってニードルまたはニードル弁が押し上げられて開弁される構造となっている。
【0017】
請求項2に記載された気体燃料インジェクタによれば、請求項1に記載された構造において、気体燃料インジェクタの開口部の内径を充分に大きくしたため、単位時間あたりでより多くの体積の気体燃料をシリンダ内部に噴射することが可能となる。
【0018】
このように、気体燃料を噴射する開口部の面積が大きい場合には、レシプロエンジンのシリンダ内の圧力によって制御ピストンを押し開こうとする力が大きくなる。レシプロエンジンのシリンダ内の圧力は、ピストンが圧縮上死点付近で燃焼が行われたときに最大圧力となるが、この最大圧力が制御ピストンに作用しても制御ピストンが開口部を閉じた状態を維持する必要がある。そのため、請求項1に記載したように、必要な押圧力を有するスプリングによって閉じた状態を維持するように制御ピストンを押圧する必要がある。一方、シリンダ内に気体燃料を供給する際には、このスプリングの押圧力に抗して制御ピストンを開弁方向に引き動かして開口部を開く必要がある。そのため、請求項1に記載したように、制御ピストンの段差に制御油の油圧を作用させて制御ピストン全体をスプリングの押圧力に抗して後端に向けて引き動かす構造とする必要がある。
【0019】
請求項3に記載された気体燃料インジェクタによれば、摺動支持部材が、インジェクタボディと気体燃料室の軸心のずれを小さくし、制御ピストンを良好に摺動させ、開口部の封止を確実にする。
【0020】
インジェクタボディの内部で制御ピストンを良好に摺動させるためには、インジェクタボディの内面と制御ピストンの軸心を正確に一致させる必要がある。ここで、特許文献に2及び3に記載されているように、インジェクタ内部の先端に位置するニードルまたはニードル弁と、これらを押す制御ピストンまたは作動杆が、互いに別体で分離した構造であれば、インジェクタボディの先端側と後端側とで軸心が多少ずれていても、分離構造の継ぎ目でずれが吸収されるため問題とならない。
【0021】
しかし、請求項1に記載したように、制御ピストンの先端部、棒状部、および大径部を力学的に一体の構造とした場合には、この軸心のずれが問題となる。そこで、さらに請求項3に記載したような構造とすれば、フローティング構造の摺動支持部材によって棒状部を支持することができるため、制御ピストンの先端部が当接する開口部と、制御ピストンの中間の棒状部を支持する摺動支持部材と、制御ピストンの後端の大径部を支持する部分との軸心にわずかにずれがあったとしても、これが吸収され、制御ピストンを良好に摺動させることができ、また開口部の確実な封止が確保される。また、摺動支持部材の外周面とインジェクタボディの内周面の隙間、また摺動支持部材の内周面と制御ピストンの棒状部の外周面の隙間を小さくすることによって、摺動支持部材は、気体燃料室側におけるインジェクタボディと制御ピストンの軸心のずれを小さくするインローの機能を奏する効果が得られる。
【0022】
請求項4に記載された気体燃料インジェクタによれば、開弁の動作を確実に行なうことができる。
【0023】
請求項4に記載された構成は、気体燃料インジェクタにおいて気体燃料を噴射する開弁の動作を確実に行うための条件を式に表したものであり、この条件を満たすことで開弁の動作が確実に行われる。
【0024】
ここで、開弁の条件を満たすためには、請求項4の条件式において、左辺第2項を大きくとることが望ましく、制御ピストンの棒状部の直径DPSに対して、大径部の直径DPBを大きくすることが望ましい。具体的には、大径部の直径DPBを、棒状部の直径DPSの1.5倍以上とすることで、制御油圧による充分な開弁力を得ることができる。
【0025】
また、制御ピストンの先端部が開口部の周囲と接するシール部の直径DFVに制御ピストンの棒状部の直径DPSの大きさを近づけることで、気体燃料の圧力にPFGによって制御ピストンが受ける力の影響を小さくできるため、特に気体燃料の圧力PFGが比較的高い場合には、制御油の圧力を利用した動作に有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】分図(a)は、無噴射状態にある実施形態の気体燃料インジェクタの先端部を模式的に示した断面図であり、分図(b)は、噴射状態にある実施形態の気体燃料インジェクタの先端部を模式的に示した断面図である。
【
図2】分図(a)は、無噴射状態にある実施形態の気体燃料インジェクタの後端部を模式的に示した断面図であり、分図(b)は、噴射状態にある実施形態の気体燃料インジェクタの後端部を模式的に示した断面図である。
【
図3】分図(a)は、無噴射状態にある実施形態の気体燃料インジェクタを模式的に示した断面図であり、分図(b)は、噴射状態にある実施形態の気体燃料インジェクタを模式的に示した断面図であり、分図(c)は、実施形態の気体燃料インジェクタにおける設計諸元と、各設計諸元を表す符号を示す表図である。
【
図4】分図(a)は実施形態の気体燃料インジェクタの分図(b)中のA-A切断線における縦断面図であり、分図(b)は実施形態の気体燃料インジェクタの平面図である。
【
図5】
図4(b)中のB-B切断線における実施形態の気体燃料インジェクタの上半部分の断面図である。
【
図6】
図4(b)中のC-C切断線における実施形態の気体燃料インジェクタの上半部分の断面図である。
【
図7】
図4(b)中のE-E切断線における実施形態の気体燃料インジェクタの上半部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1~
図3は、本発明の実施形態である気体燃料インジェクタの基本的な構成を模式的に示した図であり、各図における分図(a)、(b)は気体燃料の無噴射状態と噴射状態をそれぞれ示している。
【0028】
図1~
図3を参照して、本発明の実施形態である気体燃料インジェクタ1の基本的な構成を説明する。
この気体燃料インジェクタ1は、図示しないレシプロエンジンのシリンダ内に気体燃料を噴射するための装置であり、気体燃料をシリンダ内に噴射する開口部3が先端に設けられたインジェクタボディ2を本体としている。インジェクタボディ2の内部には、制御ピストン4が上下方向に移動自在となるように設けられている。制御ピストン4は、インジェクタボディ2の内部に摺動可能に支持された棒状部5と、棒状部5の後端(図示上端)に設けられた大径部と、棒状部5の先端(図示下端)に設けられて開口部3を内側から開閉する先端部7を有している。この制御ピストン4は、先端部7と棒状部5と大径部6が力学的に一体の構造とされている。「力学的に一体の構造」とは、各部が同一材質の素材から一体的に作り出された構造でもよいし、全部又は一部の部品が別部品であるが、別部品どうしが締結又は固定されて一体化しており、軸方向の力を時間的遅れなく直接伝達できるような構造でもよい。
【0029】
インジェクタボディ2の先端の内部には、棒状部5及び先端部7を囲んで気体燃料室8が設けられている。気体燃料室8は開口部3と連続している。気体燃料は、外部から気体燃料室8に供給される。
【0030】
インジェクタボディ2の内部には、棒状部5と大径部6を囲んで第1制御油室9が設けられている。第1制御油室9には、外部から所定の圧力の制御油が常時供給される。また、インジェクタボディ2の内部には、制御ピストン4よりも上方の位置に、制御ピストン4の後端により区画された第2制御油室10が設けられている。第2制御油室10は、微小な連通路11を介して第1制御油室9に連通している。
【0031】
インジェクタボディ2の内部には、棒状部5を摺動可能に支持するとともに、気体燃料室8と第1制御油室9を区分けする円筒状の摺動支持部材12が設けられている。摺動支持部材12は、その外周面に、インジェクタボディ2の内周面との隙間をシールする外側シール13が設けられている。また、図示しないが、摺動支持部材12の内周面に、棒状部5の外周面との隙間をシールする内側シールが設けられている。このように、摺動支持部材12は、インジェクタボディ2と棒状部5の間でフローティング構造となっている。
【0032】
インジェクタボディ2の後端には、第2制御油室10の制御油を外部に導く流路15を開閉するソレノイド弁16が設けられている。また、インジェクタボディ2の内部には、気体燃料室8内と第1制御油室9内に、インジェクタボディ2の先端に向けて制御ピストン4を押圧するスプリング17がそれぞれ設けられている。
【0033】
以上の構成によれば、ソレノイド弁16が流路15を閉止して第1制御油室9と第2制御油室10に制御油が存在している状態では、制御ピストン4は、制御油の油圧とスプリング17の押圧力によって先端の側に押され、インジェクタボディ2の開口部3を先端部7により内側から閉止して気体燃料の噴射を阻止する。
【0034】
ソレノイド弁16が流路15を開放すると、第2制御油室10から制御油が流路15を経て外部に逃げるため、第2制御油室10の制御油の油圧が急激に低下するが、第1制御油室9の制御油の油圧は短時間で低減することはなく、高圧を維持する。このため、棒状部5と大径部6に加わった制御油の油圧による軸方向の押圧力は後端に向き、先端部7はインジェクタボディ2の開口部3から離れて開口部3は開放され、気体燃料が噴射される。
【0035】
図1~
図3を参照して、以上説明した気体燃料を噴射する開弁の動作を確実に行うための条件について説明する。
図1は、気体燃料インジェクタ1の先端側(下端側)の構造を示している。
図1(a)は、制御ピストン4が下がって開口部3を閉じ、気体燃料が噴射されない無噴射状態を示しており、
図1(b)は、制御ピストン4が上がって開口部3が開き、気体燃料が噴射される噴射状態を示している。気体燃料室8にある気体燃料の圧力P
FGは、制御ピストン4の棒状部5の直径D
PSと先端部7によるシール部の直径D
FVの面積の差分に力として作用する。
【0036】
D
PS>D
FVの場合は、気体燃料の圧力による力、P
FG(D
PS
2 -D
FV
2 )π/4が図中上向きの開弁方向に作用し、D
PS<D
FVの場合は力、P
FG(D
FV
2 -D
PS
2 )π/4が図中下向きの閉弁方向に作用する。気体燃料が噴射されるシリンダ内の圧力P
CYはD
FVの面積に図中上向きの開弁方向に作用するので、弁が閉じている
図1(a)の状態では、制御ピストン4に作用する力は次の式(1.1)で計算される。
P
FG(D
PS
2 -D
FV
2 )π/4+P
CYD
FV
2 π/4
=(P
FGD
PS
2 +(P
CY-P
FG)D
FV
2 )π/4 …(1.1)
但し、上向き(開弁方向)が正(+)
【0037】
弁が開いている
図1(b)の状態では、棒状部5及び先端部7の周辺に気体燃料の圧力P
FGが一様に加わっていると仮定すると、制御ピストン4に作用する力は次の式(1.2)で計算される。
P
FGD
PS
2 π/4 …(1.2)
但し、上向き(開弁方向)が正(+)
【0038】
先端部7が開口部3を開く瞬間、直径がDFVである先端部7のシール部の下流側には、気体燃料の高速の流れが発生し、圧力低下が生じて圧力が存在しないと仮定することができる。この場合、制御ピストン4に作用する力は次の式(1.3)で計算される。本仮定は最も開弁条件成立が難しい状況を想定している。
PFG(DPS
2 -DFV
2 )π/4 …(1.3)
但し、上向き(開弁方向) が正(+)
【0039】
図2は、気体燃料インジェクタ1の後端側(上端側)の構造を示している。
図2(a)は、制御ピストン4が下がって開口部3が閉じられ、気体燃料が噴射されない無噴射状態を示しており、
図2(b)は、制御ピストン4が上がって開口部3が開き、気体燃料が噴射される噴射状態を示している。
【0040】
図2に示すように、気体燃料インジェクタ1の後端側では、制御ピストン4の周辺、すなわち第1制御油室9と第2制御油室10には圧力P
COの制御油が存在している。この圧力P
COは、制御ピストン4の後端の第2制御油室10では直径D
PBの大径部6に対して作用し、大径部6の下側の第1制御油室9では、直径D
PBの大径部6と、直径D
PSの棒状部5の断面積の差分に力として作用する。また直径D
PBの大径部6は、インジェクタボディ2の内部の後端に設けられた円筒部材18の内周面と摺動するようになっているが、この円筒部材18とインジェクタボディ2の内周面の間には作動油が流通できる微少な隙間が設けられているため、第1制御油室9に供給された作動油は、この隙間と連通路11を経て第2制御油室10に流入する。しかしながら、ソレノイドを作動させて第2制御油室10に連通する流路15を開放し、第2制御油室10の圧力を外部に逃がすと、第1制御油室9の制御油が直ちに第2制御油室10に流入することはなく、第1制御油室9の圧力を保持した状態で、第2制御油室10の圧力を第1制御油室9よりも下げることが出来る。また、円筒部材18と制御ピストン4の間に設けられたスプリング17は、制御ピストン4を図中下向きに押す力を発生させている。
【0041】
第1制御油室9と第2制御油室10に制御油の圧力P
COが一様に存在している場合には、制御ピストン4の上側と下側に同じ圧力が作用するため、制御油の圧力によって制御ピストン4に作用する力は下向きのみである。先端部7が開口部3を閉じている
図2(a)の状態では、制御ピストン4に作用する力は次の式(1.4)で計算される。
-P
COD
PS
2 π/4-F
SP …(1.4)
但し、上向き(開弁方向)が正(+)
【0042】
第2制御油室10の制御油の圧力を開放した際には、直径D
PBの大径部6の上端に作用する力が減少する。第2制御油室10の圧力開放に伴う制御油圧の圧力低下率PDを0.5(50%)とすると、先端部7が開口部3を開いている
図2(b)の状態では、制御ピストン4に作用する力は次の式(1.5)で計算される。
-(1-0.5)P
COD
PB
2 π/4+P
CO(D
PB
2 -D
PS
2 )π/4-F
SP
=P
CO(0.5D
PB
2 -D
PS
2 )π/4-F
SP …(1.5)
但し、上向き(開弁方向)が正(+)
【0043】
図3は、
図1及び
図2に示す状態を統合した図であり、気体燃料インジェクタ1の全体としての構造を示している。
図3(a)は、制御ピストン4が下がって開口部3が閉じられ、気体燃料が噴射されない無噴射状態を示しており、
図3(b)は、制御ピストン4が上がって開口部3が開き、気体燃料が噴射される噴射状態を示している。
図3(c)は、気体燃料インジェクタ1の設計諸元、すなわち気体燃料インジェクタ1の性能を規定する各部の寸法や圧力、力等を示す記号を一覧で示す表図である。
【0044】
図3に示した大径部6の直径D
PB、棒状部5の直径D
PS、先端部7のシール部の直径D
FV、スプリング17の押圧力F
SP、制御油の圧力P
CO、気体燃料の圧力P
FG、シリンダ内の圧力P
CY、および第2制御油室10の圧力開放時の圧力低下率PDに関して、無噴射及び噴射が成り立つ条件を以下に式(1.6)、(1.7)、(1.8)で示す。
【0045】
無噴射が成り立つ条件は、式(1.1)+式(1.4)によって得られる次式(1.6)である。
(PFGDPS
2 )π/4+(PCY-PFG)DFV
2 )π/4-(PCODPS
2 )π/4-FSP ={(PFG-PCO)DPS
2 +(PCY-PFG)DFV
2 }π/4-FSP< 0…(1.6)
但し、上向き(開弁方向)が正(+)
【0046】
制御ピストン4がフルリフトした状態で噴射が成り立つ条件は、式(1.2)+式(1.5)によって得られる次式(1.7)である。
PFGDPS
2 π/4 …(1.2)
PFG(DPS
2 -DFV
2 )π/4+PCO(PD・DPB
2 -DPS
2 )π/4-FSP>0
…(1.7)
但し、上向き(開弁方向)が正(+)
【0047】
開弁直後の噴射が成り立つ条件は式(1.3)+式(1.5)によって得られる次式(1.8)である。
PFG(DPS
2 -DFV
2 )π/4+PCO{(PD)DPB
2 -DPS
2 })π/4-FSP
={PFG(DPS
2 -DFV
2 )+PCO{(PD)DPB
2 -DPS
2 }}π/4-FSP>0
…(1.8)
但し、上向き(開弁方向)が正(+)
【0048】
以上説明したように、本実施形態の気体燃料インジェクタ1によれば、常時与えられる制御油の圧力とスプリング17の押圧力によって閉弁し、制御ピストン4の後端側にある第2制御油室10の制御油の圧力を開放することで開弁を行なうことができる。そして、その際、
図3に示した各諸元を、前記式(1.8)を満たすように設定することにより、気体燃料を噴射する開弁の動作を確実に行うことができる。
【0049】
図4~
図7を参照して、本発明の実施形態である気体燃料インジェクタ1の構成を説明する。
図4~
図7は、本発明の実施形態である気体燃料インジェクタ1の構成を実機に基づいて断面で示した詳細図である。
図1~
図3に示した模式図と基本的な構成は共通しており、構成部材の参照符号は共通している。しかしながら、詳細図は、主要部材以外の構成部材を模式図よりも多く含んでおり、また各部材、部品等の寸法比についても模式図とは相違点がある。但し、基本的な構造、機能、作用、効果等は模式図の構造例と同様であるため、共通する構造等については
図1~
図3を参照して説明した内容を適宜援用するものとする。
【0050】
図4に示すように、細長い円筒形とされたインジェクタボディ2の先端には、気体燃料を噴射するための開口部3が設けられている。またインジェクタボディ2の内部の空洞には、棒状の制御ピストン4が上下方向に移動自在となるように設けられている。制御ピストン4は、インジェクタボディ2の内部に摺動可能に支持された棒状部5と、棒状部5の後端(図示上端)に設けられた大径部6と、棒状部5の先端(図示下端)に設けられて開口部3を内側から開閉する先端部7を有している。なお、開口部3の内径は5mm以上とされており、制御ピストン4の先端部7の直径は、開口部3の内径よりも大きく設定されている。この制御ピストン4は、先端部7と棒状部5と大径部6が力学的に一体の構造とされている。この実施形態では、先端部7と棒状部5が同一の素材から製造された部品であり、大径部6は棒状部5に固定されたつば付きの筒体6aによって構成されている。
【0051】
図4に示すように、インジェクタボディ2の先端の内部には、棒状部5及び先端部7を囲んで気体燃料室8が設けられている。気体燃料室8は開口部3を介してシリンダ内に連通している。インジェクタボディ2の中央部の外周面には、気体燃料供給孔20が設けられている。インジェクタボディ2内には、気体燃料供給孔20と気体燃料室8を連通させる複数の(
図1では1カ所のみが図示されている)気体燃料供給路21が設けられており、気体燃料は外部から気体燃料供給孔20及び気体燃料供給路21を経て気体燃料室8に供給される。
【0052】
図4及び
図6に示すように、インジェクタボディ2の内部には、棒状部5と大径部6を囲んで第1制御油室9が設けられている。また、インジェクタボディ2の内部には、制御ピストン4よりも上方の位置に、制御ピストン4の後端によって区画された第2制御油室10が設けられている。
【0053】
図4(b)に示すように、インジェクタボディ2の後端面には、制御油供給孔22が設けられている。また、
図4(a)、
図5及び
図6に示すように、インジェクタボディ2には制御油供給孔22に連通する制御油供給路23が形成されており、所定の圧力の制御油が外部から制御油供給孔22及び制御油供給路23を経て第1制御油室9に供給されるようになっている。
【0054】
図4(a)に示すように、大径部6の後端は、インジェクタボディ2の内部の後端に設けられた円筒部材18の内周面と摺動するようになっている。この円筒部材18とインジェクタボディ2の内周面の間には、制御油が流通できる図示しない微少な隙間及び連通路(
図2及び
図3における連通路11に相当する。)が設けられているため、第1制御油室9に供給された制御油は第2制御油室10に流入する。
【0055】
図4(a)に示すように、円筒部材18と制御ピストン4の間にはスプリング17が設けられており、図中下向きに制御ピストン4を押す力を発生させている。
【0056】
図4(a)に示すように、インジェクタボディ2の内部には、棒状部5を摺動可能に支持するとともに、気体燃料室8と第1制御油室9を区分けする円筒状の摺動支持部材12が設けられている。摺動支持部材12は、その外周面に、インジェクタボディ2の内周面との隙間をシールする外側シール13が設けられている。また、摺動支持部材12の内周面には、棒状部5の外周面との隙間をシールする内側シール14が設けられている。これら外側シール13及び内側シール14は、さらばね等の弾性手段によって摺動面の所定位置にシール部材を押し付けて位置を固定する機能を備えており、第1制御油室9の制御油の圧力と、気体燃料室8の気体燃料の圧力が変動しても、これら圧力を受ける摺動支持部材12の位置が大きくは変動しないようになっている。このように、摺動支持部材12は、インジェクタボディ2と棒状部5の間でフローティング構造により支えられている。
【0057】
図4(a)、
図6及び
図7に示すように、インジェクタボディ2の後端には、オリフィスを備えた流路15が第2制油御室10に連通して設けられている。この流路15は、インジェクタボディ2の後端に設けられたソレノイド弁16によって開閉することができる。開放された流路15から流出した制御油は、ソレノイド弁16の中心を貫通する図示しない油路を通過して、
図7に示すように、インジェクタボディ2の外に排出孔24からドレンとして排出される。
【0058】
以上の構成によれば、ソレノイド弁16が流路15を閉止して第1制御油室9と第2制御油室10に制御油が存在する状態では、制御ピストン4は、制御油の油圧とスプリング17の押圧力によって先端の側に押され、インジェクタボディ2の開口部3を先端部7が内側から閉止して気体燃料の噴射を阻止する。
【0059】
ソレノイド弁16が流路15を開放すると、第2制御油室10から制御油が流路15を経て外部に逃げるため、第2制御油室10の制御油の油圧が急激に低下するが、第1制御油室9の制御油の油圧は短時間で低減することはなく、高圧を維持する。このため、棒状部5と大径部6に加わった制御油の油圧による軸方向の押圧力は後端に向き、インジェクタボディ2の開口部3から先端部7が離れて開口部3は開放され、気体燃料が噴射される。
【0060】
上記実施例によれば、レシプロエンジンのシリンダ内に気体燃料を噴射するための気体燃料インジェクタ1において、閉弁時には、気体燃料を噴射する開口部3を通じてシリンダ内の最大圧力が制御ピストン4に作用しても、制御油の油圧による力とスプリング17による押圧力によって、閉弁の状態を確実に維持できる。また、気体燃料を噴射する開弁時には、制御油の圧力を利用して制御ピストン4を引き上げることにより、開口部3を確実に開放することができる。また、気体燃料インジェクタ1の開口部3の開口面積を充分に大きく設定することにより、単位時間あたりでより多くの体積の気体燃料をシリンダ内部に噴射することが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1…気体燃料インジェクタ
2…インジェクタボディ
3…開口部
4…制御ピストン
5…棒状部
6…大径部
7…先端部
8…気体燃料室
9…第1制御油室
10…第2制御油室
12…摺動支持部材
13…外側シール
14…内側シール
15…流路
16…ソレノイド弁
17…スプリング