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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119343
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】気体燃料インジェクタ
(51)【国際特許分類】
   F02M 61/20 20060101AFI20240827BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20240827BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20240827BHJP
   F02M 61/04 20060101ALI20240827BHJP
   F02M 61/10 20060101ALI20240827BHJP
   F02M 61/08 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
F02M61/20 P
F02M21/02 S
F02D19/02 D
F02M61/04 G
F02M61/10 D
F02M61/08 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026164
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】503108687
【氏名又は名称】ニコ精密機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】狩野 寿
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 俊之
【テーマコード(参考)】
3G066
3G092
【Fターム(参考)】
3G066AA02
3G066AB05
3G066BA06
3G066CC08T
3G066CC14
3G066CC40
3G066CE12
3G092AA06
3G092AB06
3G092BB11
3G092DE03S
3G092FA12
(57)【要約】
【課題】油圧で弁体を押し出して開弁し、気体燃料を噴射する気体燃料インジェクタを提供する。
【解決手段】気体燃料インジェクタ1は、開口部3を有するインジェクタボディ2と、棒状部5と第1大径部6と封止弁部7を有する制御ピストン4と、開口部と連続する気体燃料室8と、棒状部と第1大径部の先端側とに面してインジェクタボディ内に設けられた第1制御油室9と、制御ピストンの後端に区画された第2制御油室10を備える。ソレノイド16が流路15を開放すると第1制御室の油圧が解放され、第2制御室の油圧が制御ピストンを先端方向に移動させて開弁を行う。所定圧力の制御油がインジェクタの外部から供給されていれば内部機構により確実かつ速やかに、良好な応答性で開弁できる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシプロエンジンのシリンダ内に気体燃料を噴射するための気体燃料インジェクタであって、
気体燃料をシリンダ内に噴射する開口部が先端に設けられたインジェクタボディと、
前記インジェクタボディの内部で移動可能に支持される棒状部と、前記棒状部に設けられた第1大径部と、前記棒状部の先端に設けられて前記開口部を外側から開閉する封止弁部を有する制御ピストンと、
前記インジェクタボディの先端の内部に前記開口部と連続するように前記棒状部及び前記封止弁部に面して設けられ、気体燃料が外部から供給される気体燃料室と、
前記棒状部と前記第1大径部の先端側とに面して前記インジェクタボディの内部に設けられた第1制御油室と、
前記制御ピストンの後端により区画されて前記インジェクタボディの内部に設けられた第2制御油室と、を備え、
前記第1制御室の制御油の油圧を解放することで前記第2制御室の制御油の油圧により前記制御ピストンを先端方向に移動させて開弁を行う気体燃料インジェクタ。
【請求項2】
前記インジェクタボディの内部に、前記インジェクタボディの後端に向けて前記制御ピストンを押圧するスプリングを備えた請求項1に記載の気体燃料インジェクタ。
【請求項3】
前記インジェクタボディの内部に、前記第1大径部と前記第2制御油室の間に設けられて前記制御ピストンを囲む低圧エリアを備えた請求項2に記載の気体燃料インジェクタ。
【請求項4】
前記制御ピストンは、前記気体燃料室と前記第1制御油室との間に設けられ、その先端側が前記気体燃料室に面し、その後端側が前記第1制御油室に面する第2大径部を有する請求項3に記載の気体燃料インジェクタ。
【請求項5】
前記第1制御油室からの制御油を外部に導く流路を開閉するソレノイド弁を備える請求項1~4のいずれか1項に記載の気体燃料インジェクタ。
【請求項6】
前記インジェクタボディに設けられて外部から供給される制御油を前記第2制御油室に供給する第1制御油供給ラインと、
前記制御ピストン又は前記インジェクタボディに設けられて前記第2制御室から前記第1制御油室に制御油を供給する第2制御油供給ラインと、
を備える請求項1~4のいずれか1項に記載の気体燃料インジェクタ。
【請求項7】
前記第1大径部は、その内側に前記棒状部との隙間をシールする内側シールと、その外側に前記インジェクタボディとの隙間をシールする外側シールを有するとともに、軸方向に変位しないように前記棒状部に取り付けられた円筒状部材である請求項1~4のいずれか1項に記載の気体燃料インジェクタ。
【請求項8】
前記第1大径部の後端側において前記棒状部と前記インジェクタボディの隙間をシールする後端側シールと、
前記第2大径部と前記インジェクタボディの隙間をシールする先端側シールを備える請求項4に記載の気体燃料インジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシプロエンジンのシリンダ内部に気体燃料を噴射するための気体燃料インジェクタに係り、特に、油圧による弁体の開放動作機構をインジェクタ外部に設けることなく、インジェクタ内部に設けた機構により油圧で弁体を外側に押し出して開口部を開放し、良好な応答性をもって気体燃料の噴射を確実に行なうことができる気体燃料インジェクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体燃料インジェクタの従来技術としては、下記特許文献1乃至4に記載された発明を挙げることができる。
【0003】
特許文献1には、混焼ディーゼル機関等に使用されるガス噴射弁の発明が記載されている。このガス噴射弁は、押棒と針弁からなる分割構造の弁体を備えており、押棒に設けた受圧ピストン部に作動油の圧力を与えて持ち上げるとともに、針弁をガスの力で持ち上げることで噴口を開放し、蓄圧部から導入されたガスを所定時期あるいは所定時間噴射することができる。
【0004】
特許文献2には、従来の化石液体燃料に代わり、天然ガス、石油ガスといった化石気体燃料や水素ガスなどの気体燃料を噴射する内燃機関のインジェクタの発明が記載されている。このインジェクタは、気体燃料を噴射する噴口を、分割構造の弁体の下方部分であるニードルで開閉する。ニードルによる噴口の閉弁駆動は、制御室の作動油の圧力が、分割構造の弁体の上方部分である制御ピストンを介してニードルを下向きに押圧することで行なう。またニードルの開弁駆動は、ノズルチャンバ内に供給される高圧気体燃料の圧力によって行なわれる。なお、作動油が気体燃料とともに噴射されるのを防止するために、ニードル周りにはリングシールが設けられる。
【0005】
特許文献3には、内燃機関にガス燃料を噴射するガス噴射弁が記載されている。このガス噴射弁によれば、分割構造の弁体の下方部分であるニードル弁により、ノズル本体の端に設けられた噴射孔を開閉してガス燃料の噴射を断続する。ニードル弁は作動流体により噴射孔を閉じる方向に押圧され、作動流体によるニードル弁の押圧は電磁弁により切り替えられる。また、ニードル弁は噴射孔を開放する方向にガス燃料の圧力を受ける。なお、ニードル弁の外周にはガス燃料と作動流体の混合を阻止するOリングが設けられる。
【0006】
特許文献4には、ディーゼル機関用燃料ガス噴射弁の発明が記載されている。このガス噴射弁は、外側方向に開くきのこ弁13を備えており、きのこ弁13の先端側には燃料ガス噴射孔14を有するアトマイザチップ15が取り付けられている。コントロール油圧室10に油圧を付加することでスピンドル2をボディの先端側に押し、きのこ弁13を開弁させて燃料ガス噴射孔14から燃料ガスを噴射させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭63-4365号公報
【特許文献2】特開2009-281298号公報
【特許文献3】特開2012-31825号公報
【特許文献4】実開昭59-24959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、気体の燃料は液体の燃料と比較して、燃料の単位体積当たりの発熱量が小さい性質がある。そのため、シリンダ内部に気体燃料を噴射するインジェクタは、液体燃料を噴射するインジェクタと比較して、単位時間あたりに噴射する燃料の体積がより大きいことが必要となる。
【0009】
上述した特許文献1乃至3に開示された気体燃料を噴射する従来の噴射弁又はインジェクタの発明には、単位時間あたりにシリンダ内に噴射できる気体燃料の体積を十分に大きくするという課題の認識がなく、従って係る課題を解決する手段についての開示もなかった。
【0010】
また、上述した特許文献4に開示されたディーゼル機関用燃料ガス噴射弁は、きのこ弁13を外側方向に移動させて開弁する構造を有しており、より多くの体積の気体燃料をシリンダ内部に噴射することについての配慮が見られる。しかしながら、このガス噴射弁は、外部から供給されるコントロール油による加圧又は解放によって、開弁又は閉弁を行うものであり、コントロール油の加圧、解放を切り替える機構を燃料ガス噴射弁の外部に別途設ける必要があるため機構が複雑化し、また、開弁、閉弁の切り換え動作における応答性が充分ではなかった。
【0011】
本発明は、以上説明した従来の技術と、その課題に鑑みてなされたものであり、油圧による弁体の開放動作機構をインジェクタの外部に設けることなく、インジェクタの内部に設けた機構によって油圧で弁体を外側に押し出して開口部を開放し、良好な応答性をもって気体燃料の噴射を確実に行なうことができる気体燃料インジェクタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載された気体燃料インジェクタは、
レシプロエンジンのシリンダ内に気体燃料を噴射するための気体燃料インジェクタであって、
気体燃料をシリンダ内に噴射する開口部が先端に設けられたインジェクタボディと、
前記インジェクタボディの内部で移動可能に支持される棒状部と、前記棒状部に設けられた第1大径部と、前記棒状部の先端に設けられて前記開口部を外側から開閉する封止弁部を有する制御ピストンと、
前記インジェクタボディの先端の内部に前記開口部と連続するように前記棒状部及び前記封止弁部に面して設けられ、気体燃料が外部から供給される気体燃料室と、
前記棒状部と前記第1大径部の先端側とに面して前記インジェクタボディの内部に設けられた第1制御油室と、
前記制御ピストンの後端により区画されて前記インジェクタボディの内部に設けられた第2制御油室と、を備え、
前記第1制御室の制御油の油圧を解放することで前記第2制御室の制御油の油圧により前記制御ピストンを先端方向に移動させて開弁を行うことを特徴としている。
【0013】
請求項2に記載された気体燃料インジェクタは、請求項1に記載の気体燃料インジェクタにおいて
前記インジェクタボディの内部に、前記インジェクタボディの後端に向けて前記制御ピストンを押圧するスプリングを備えたことを特徴としている。
【0014】
請求項3に記載された気体燃料インジェクタは、請求項2に記載の気体燃料インジェクタにおいて、
前記インジェクタボディの内部に、前記第1大径部と前記第2制御油室の間に設けられて前記制御ピストンを囲む低圧エリアを備えたことを特徴としている。
【0015】
請求項4に記載された気体燃料インジェクタは、請求項3に記載の気体燃料インジェクタにおいて、
前記制御ピストンは、前記気体燃料室と前記第1制御油室との間に設けられ、その先端側が前記気体燃料室に面し、その後端側が前記第1制御油室に面する第2大径部を有することを特徴としている。
【0016】
請求項5に記載された気体燃料インジェクタは、請求項1~4のいずれか1項に記載の気体燃料インジェクタにおいて、
前記第1制御油室からの制御油を外部に導く流路を開閉するソレノイド弁を備えることを特徴としている。
【0017】
請求項6に記載された気体燃料インジェクタは、請求項1~4のいずれか1項に記載の気体燃料インジェクタにおいて、
前記制御ピストン又は前記インジェクタボディに設けられて外部から供給される制御油を前記第2制御油室に供給する第1制御油供給ラインと、
前記インジェクタボディに設けられて前記第2制御室から前記第1制御油室に制御油を供給する第2制御油供給ラインと、
を備えることを特徴としている。
【0018】
請求項7に記載された気体燃料インジェクタは、請求項1~4のいずれか1項に記載の気体燃料インジェクタにおいて、
前記第1大径部は、その内側に前記棒状部との隙間をシールする内側シールと、その外側に前記インジェクタボディとの隙間をシールする外側シールを有するとともに、軸方向に変位しないように前記棒状部に取り付けられた円筒状部材であることを特徴としている。
【0019】
請求項8に記載された気体燃料インジェクタは、請求項4に記載の気体燃料インジェクタにおいて、
前記第1大径部の後端側において前記棒状部と前記インジェクタボディの隙間をシールする後端側シールと、
前記第2大径部と前記インジェクタボディの隙間をシールする先端側シールを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載された気体燃料インジェクタによれば、制御油の油圧により開弁、閉弁の動作が行われる気体燃料インジェクタにおいて、封止弁部を外側に押し出すことで開弁の動作が実現できる。この開弁の動作は、気体燃料インジェクタの内部において第1制御室の制御油の油圧を解放することにより、第2制御室の制御油の油圧によって制御ピストンを先端方向に移動させることで行われる。このため、所定圧力の制御油がインジェクタの外部から内部に供給されていれば、開弁の動作を確実かつ速やかに行なうことができる。従って、制御油の加圧、解放の動作を行うための機構をインジェクタの外部に別途設ける必要がなく、開弁、閉弁の動作における応答性が良好となる。
【0021】
請求項2に記載された気体燃料インジェクタによれば、制御ピストンが後端方向に押圧されることにより開口部が封止弁部で封止される閉弁動作が確実に行われる。閉弁力の付加を油圧に加えてスプリングによっても行うことで、万一、制御油圧の供給に問題が生じた場合であっても気体燃料インジェクタは閉弁状態を維持できるため、エンジンのシリンダ内に気体燃料が過剰に供給される事態を防止できる。
【0022】
請求項3に記載された気体燃料インジェクタによれば、第1大径部と第2制御油室の間に低圧エリアを設けたことにより、第1制御油室の油圧の解放に伴う第2制御室の油圧による開弁の動作が一層容易となる。
第1制御油室と第2制御油室には、制御ピストンを油圧で動作させるために所定の圧力の制御油が供給される。ここで、第1制御油室には、制御ピストンの第1大径部が面しており、第2制御油室には、第1大径部より外径の小さい制御ピストンの棒状部が面している。従って、第1制御油室と第2制御油室との間には、制御ピストンの相対的に太い部分と細い部分の境界となる段差が存在することとなる。従って、制御ピストンが移動して前記段差が位置を変えると、第1大径部と第2制御油室の間において制御油を保持できる空間の体積には変化が生じるが、第1大径部と第2制御油室との間の空間は低圧エリアであるため、この体積の変化によって特に問題が生じることはない。例えば、この低圧エリアを、外気圧のドレンラインに連通させることによって第1制御油室と第2制御油室に対して圧力差が生じるようにしておけば、制御ピストンの移動に伴って低圧エリアに体積変化が生じても低圧エリア内に顕著な圧力の変化は生じず、低圧エリアの体積変化が制御ピストンの移動に影響を与えることはなく、開弁の動作は円滑である。
【0023】
請求項4に記載された気体燃料インジェクタによれば、気体燃料インジェクタが閉弁状態にある場合に、制御ピストンの第1大径部と第2大径部が制御油圧から受ける力の大きさを適宜調整することにより、制御ピストンの動作を円滑化することができる。
まず制御ピストンは第1大径部を有しているため、第1大径部と棒状部の段差に第1制御油室の油圧が加わると、後端方向の力、すなわち閉弁方向の力を受ける。請求項3までの構成であれば、この力が大きすぎた場合、制御ピストンを第2制御油室の油圧によって先端方向に動かす動作、すなわち開弁方向の動作の実現は難しくなる可能性がある。ところが、請求項4の構成、すなわち第1制御油室と気体燃料室の間に第2大径部を設けた構成によれば、第1制御油室の制御油の油圧は、第2大径部と棒状部の段差に加わり、制御ピストンを先端方向(開弁方向)に動かす力を発生させるので、第1大径部に加わる後端方向(閉弁方向)への力をこの力で相殺することができる。従って、制御ピストンの第1大径部と第2大径部が制御油圧から受ける力の大きさを適宜に設定すれば、特に閉弁時に制御ピストンに加わる力を適切な範囲で小さくしておけば、開弁時における制御ピストンの動作を円滑化することができる。例えば、第2制御油室に面する制御ピストンの小径部の面積=第1大径部の断面積-第2大径部の断面積とすれば、閉弁状態において制御油圧により制御ピストンに加わる力の影響をゼロにできる。また、第2大径部の気体燃料室側の段差には燃料ガスの圧力によって後端方向(閉弁方向)に押す力が働くため、燃料ガスの圧力が封止弁部の段差を先端(開弁)方向に押す力を相殺でき、燃料ガス圧力に対抗して閉弁状態に保つために設けているスプリングは、押圧力の小さいもので用が足りる。
【0024】
請求項5に記載された気体燃料インジェクタによれば、第1制御室の制御油の油圧を解放する動作を電気的に行うソレノイド弁を有しているため、気体燃料インジェクタの開弁、閉弁の機械的な動作をインジェクタ内で完結できる。なお、ソレノイド弁と、これによって流路を開閉するアーマチェアを、制御ピストンの後端側の軸線上において、第2制御室の後端側に配置すれば、気体燃料インジェクタの全体を細長いコンパクトな形態とすることができる。
【0025】
請求項6に記載された気体燃料インジェクタによれば、第1制御油室と第2制御油室は制御油の供給方向について直列となるため、第1制御油室と第2制御油室に対する制御油の供給ラインは製造しやすい単純化した構成とすることができ、このような構成のために制御油の流通は円滑となり、制御油の制御による気体燃料インジェクタの開弁動作を確実に行なうことができる。なお、例えば第2制御油室を直列の上流側とし、外部から供給される制御油を最初に第2制御油室に供給する構成とした場合、開弁のために下流側の第1制御室の制御油の油圧を解放しても第2制御油室の油圧は確保されるため、開弁動作は確実に行われる。また実施形態に記載したように、第1制御油室と第2制御油室を連通する第2制御油供給ラインを制御ピストンの軸心上に設ければ、気体燃料インジェクタを全体として細くコンパクトにすることに寄与する。
【0026】
請求項7に記載された気体燃料インジェクタによれば、制御ピストンが、先端方向(開弁方向)及び後端方向(閉弁方向)に円滑に摺動することができる。すなわち、封止弁部による開口部の開閉が円滑になる。
インジェクタボディの内部において、制御ピストンは、少なくとも略中間の第1大径部と、後端側の第2制御室付近において、それぞれ摺動的に支持されている。ここで各支持部の軸心にわずかなずれがある場合にはスムーズな摺動が得られない恐れがある。そこで、略中間に位置する第1大径部を構成する円筒状部材をフローティング構造で支持するものとした。すなわち、第1大径部の円筒状部材は、制御ピストンの一部として移動することにより、制御ピストンの軸心と平行な方向については制御油による押圧力を棒状部に伝達するが、軸心と垂直な方向については変位を許容する構造とされている。このため、前述した軸心のずれは吸収されるので、制御ピストンは、軸心と平行な方向については円滑に摺動することができる。また、円筒状部材とインジェクタボディの隙間に制御油が入り込むのを防止できるので、この隙間に入り込んだ制御油が摺動時のせん断により発熱するのを抑えることができる。また、制御油の漏れの抑制は、高圧で送油が必要な制御油の流量の低下につながり、その結果、制御油を吐出するポンプのサイズを小さくでき、その吐出に必要な動力を小さくできる効果をもたらす。
【0027】
請求項8に記載された気体燃料インジェクタによれば、ピストンの摺動に伴う制御油の低圧側への漏れ、燃料ガス側への漏れを抑制でき、また摺動部分に入り込んだ制御油が摺動に伴うせん断により発熱する不都合な現象を抑えることができる。また、制御油の漏れの抑制は、高圧で送油が必要な制御油の流量の低下につながり、その結果、制御油を吐出するポンプのサイズを小さくでき、その吐出に必要な動力を小さくできる効果をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】分図(a)は、無噴射状態にある実施形態の気体燃料インジェクタの先端部を模式的に示した断面図であり、分図(b)は、噴射状態にある実施形態の気体燃料インジェクタの先端部を模式的に示した断面図である。
図2】分図(a)は、無噴射状態にある実施形態の気体燃料インジェクタの後端部を模式的に示した断面図であり、分図(b)は、噴射状態にある実施形態の気体燃料インジェクタの後端部を模式的に示した断面図である。
図3】分図(a)は、無噴射状態にある実施形態の気体燃料インジェクタを模式的に示した断面図であり、分図(b)は、噴射状態にある実施形態の気体燃料インジェクタを模式的に示した断面図である。分図(c)は、実施形態の気体燃料インジェクタにおける設計諸元と、各設計諸元を表す符号を示す表図である。
図4】実施形態の気体燃料インジェクタを示す図であって、分図(a)は分図(b)中のA-A切断線における縦断面図であり、分図(b)は平面図である。
図5図4(b)中のG-G切断線における実施形態の気体燃料インジェクタの上半部分の断面図である。
図6図4(b)中のF-F切断線における実施形態の気体燃料インジェクタの上半部分の断面図である。
図7図4(b)中のB-B切断線における実施形態の気体燃料インジェクタの断面図である。
図8図4(b)中のC-C切断線における実施形態の気体燃料インジェクタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1図3は、本発明の実施形態である気体燃料インジェクタ1の基本的な構成を模式的に示した図であり、各図における分図(a)、(b)は気体燃料の無噴射状態と噴射状態をそれぞれ示している。
【0030】
図1図3を参照して、本発明の実施形態である気体燃料インジェクタ1の基本的な構成を説明する。
この気体燃料インジェクタ1は、図示しないレシプロエンジンのシリンダ内に気体燃料を噴射するための装置であり、気体燃料をシリンダ内に噴射する開口部3が先端に設けられたインジェクタボディ2を本体としている。インジェクタボディ2の内部には、制御ピストン4が上下方向に移動自在となるように設けられている。制御ピストン4は、インジェクタボディ2の内部に移動可能に支持された細径の棒状部5と、棒状部5の中央部よりも後端(図示上端)側に設けられた第1大径部6と、棒状部5の先端(図示下端)に設けられて開口部3を外側から開閉する封止弁部7と、第1大径部6と封止弁部7の間に設けられた第2大径部12を有している。この制御ピストン4は、封止弁部7と棒状部5と第1大径部6と第2大径部12が力学的に一体となった構造で製造されている。すなわち、各部が同一材質の一の素材から一体的に作り出された構造でもよいし、全部又は一部の部品が別部品として製造されたが、別部品どうしが締結又は固定されて一体化しており、軸方向の力を時間的遅れなく直接伝達できるような構造であってもよい。棒状部5は、封止弁部7と第2大径部12の間の部分(先端部)、第2大径部12と第1大径部の間の部分(中央部)、第1大径部より後端側の部分(後端部)を含み、各部分の太さは同一とは限らないものである。
【0031】
インジェクタボディ2の先端の内部には気体燃料室8が設けられている。気体燃料室8は、封止弁部7が開口部3を閉止した閉弁状態では、棒状部5と封止弁部7と第2大径部12によって区画された空間であり、インジェクタボディ2の外部から供給される所定圧力の気体燃料を保持している。封止弁部7が開口部3から離れた開弁状態では、気体燃料室8は開口部3を介してシリンダに連通するので、気体燃料室8内の気体燃料は開口部3を経てシリンダ内に噴射される。
【0032】
インジェクタボディ2の内部には第1制御油室9が設けられている。第1制御油室9は、制御ピストン4の第1大径部6から第2大径部12の後端に相当する位置に設けられた空間であり、第1大径部6と、第1大径部6から先端に向けて突出した棒状部5を囲んでいる。第1制御油室9には、後述する第2制御油室10から、第2制御油供給ライン22を介して所定の圧力の制御油が常時供給される。第2制御油供給ライン22は、その大部分が、制御ピストン4の中心を軸線に平行に形成された孔路である。第1制御油室9にある制御油の圧力は、第1大径部6に対しては、後端に向けた閉弁方向の力を発生させ、また第2大径部12に対しては、先端に向けた開弁方向の力を発生させる。なお第2制御油供給ラインは制御ピストン4以外の場所に設けることも可能であり、例えばインジェクタボディ2に孔路を形成して第1制御油室と第2制御油室を連通するような制御油供給ラインを設けることもできる。
【0033】
インジェクタボディ2の後端には、内部の空洞を閉止する円板型のオリフィスプレート13が取りつけられている。このオリフィスプレート13には、制御油を後端側(図示上端側)の面の中心に導く斜めの流路15が設けられている。この流路15にはオリフィスが設けられている。インジェクタボディ2には、第1制御油室9にある制御油をインジェクタボディ2の後端側に向けて導く導油路14が形成されている。導油路14は、斜めの流路15に連通している。この流路15の出口はソレノイド弁16によって開閉することができる。従って、ソレノイド弁16が流路15を開放すると第1制御油室9にある制御油は導油路14から流路15を経てインジェクタボディ2の外部に排出される。
【0034】
インジェクタボディ2の内部には第2制御油室10が設けられている。第2制御油室10は、制御ピストン4の後端側の棒状部5と、棒状部5を内挿するシリンダ19と、オリフィスプレート13とによって、インジェクタボディ2の内部に区画されている。模式図である図1図3には示していないが、インジェクタボディ2には、制御油を外部から第2制御油室10に供給する第1制御油供給ライン21(図6参照)が設けられている。
【0035】
インジェクタボディ2の内部において、第1制御油室9の内部には、インジェクタボディ2の後端に向けて制御ピストン4を押圧するスプリング17が設けられている。
なお、図2および図3では、インジェクタボディ2の内部において、第2制御油室10の内部には、シリンダ19を先端方向に押圧して固定するためのつるまきバネのスプリングが図示されているが、これは皿バネでもよく、また省略も可能である。
【0036】
インジェクタボディ2の内部において、第1大径部6と第2制御油室10の間には、制御ピストン4を囲むように低圧エリア20が設けられている。この低圧エリア20は、インジェクタボディ2の内部に形成されたドレン路27(図1図3には不図示、図7参照)を経てインジェクタボディ2の外部に連通している。従って、低圧エリア20には制御油が存在しない場合もあるが、第1制御油室6と第2制御油室10にある所定圧力の制御油が低圧エリア20に漏れる場合もあり、その場合には、漏れた制御油はドレン路27から外部に排出されるので、低圧エリア20に制御油が溜まって制御ピストン4を先端に向けて押圧することはなく、閉弁状態とすべき時期に開弁状態となってしまうような不具合が生じることはない。
【0037】
以上の構成において、ソレノイド弁16が流路15を閉止し、第1制御油室9と第2制御油室10に所定圧力の制御油が存在している状態では、第1制御油室9の制御油は、制御ピストン4を後端側に押して閉弁させる方向の力を制御ピストン4に発生させ、第2制御油室10の制御油は、制御ピストン4を先端側に押して開弁させる方向の力を制御ピストン4に発生させるが、この気体燃料インジェクタ1においては、逆方向であるこれら2つの力の大きさは同一となり、制御油が制御ピストン4に与える力による影響がゼロとなるように構成されている。従って、ソレノイド弁16が流路15を閉止している時は、制御ピストン4はスプリング17の押圧力によって後端の側に押され、インジェクタボディ2の開口部3を封止弁部7により外側から閉止して気体燃料の噴射は阻止される。
【0038】
ソレノイド弁16を作動させて流路15を開放すると、第1制御油室9の制御油は、導油路14及び流路15を経て外部に逃げるため、第1制御油室9の制御油の油圧は急激に低下する。第1制御油室9と第2制御油室10は第2制御油供給ライン22によって連通してはいるが、第2制御油室10には継続して制御油が供給されているため、第1制御油室9の減圧に連動して第2制御油室10の制御油の圧力が短時間で低減することはなく、第2制御油室10の制御油は所定の圧力を維持することができる。このため、制御ピストン4に加わる制御油による軸方向の押圧力は先端に向き、封止弁部7はインジェクタボディ2の開口部3から離れて開口部3は開放され、気体燃料が噴射される。
【0039】
図1図3を参照して、実施形態の気体燃料インジェクタにおいて、気体燃料を噴射する開弁の動作を確実に行うための条件について説明する。
図1は、気体燃料インジェクタ1の先端側(下端側)の構造を示している。図1(a)は、制御ピストン4が上がって開口部3を閉じ、気体燃料が噴射されない無噴射状態を示しており、図1(b)は、制御ピストン4が下がって開口部3が開き、気体燃料が噴射される噴射状態を示している。気体燃料室8にある気体燃料の圧力PFGは、第2大径部12の直径DFPの面積と、封止弁部7の直径DFVの面積の差分に、力として作用する。
【0040】
構造上、DFP<DFVであるため、気体燃料の圧力による力、PFG(DFV 2 -DFP 2 )π/4が図中下向きの開弁方向に作用する。気体燃料が噴射されるシリンダ内の圧力PCYは、封止弁部7の直径DFVの面積に図中上向きの開弁方向で作用するため、弁が閉じている図1(a)の状態では、制御ピストン4に作用する力は次式(1.9)で計算される。
FG(DFV 2 -DFP 2 )π/4-PCYFV 2 π/4
={(PFG-PCY)DFV 2 -PFGFP 2 }π/4 …(1.9)
但し、下向き(開弁方向)が正(+)
【0041】
弁が開いている図1(b)の状態では、弁径DFVである封止弁部7の上流側に気体燃料の圧力PFGが加わっており、同下流側にシリンダ内の圧力PCYが加わっていると仮定すると、制御ピストン4に作用する力は次式(1.10)であり、式(1.9)と同じである。
{(PFG-PCY)DFV 2 -PFGFP 2 }π/4 …(1.10)
但し、下向き(開弁方向)が正(+)
【0042】
封止弁部7が開口部3を開く瞬間、直径がDFVである封止弁部7の上流側には、気体燃料の高速の流れが発生し、圧力低下が生じて圧力が存在しないと仮定することができる。この場合、気体燃料の圧力が制御ピストン4に与える力は次式(1.11)で計算される。本仮定は最も開弁条件成立が難しい状況を想定している。
-PCYFV 2 π/4 …(1.11)
但し、下向き(開弁方向) が正(+)
【0043】
図2は、気体燃料インジェクタ1の後端側(上端側)の構造を示している。図2(a)は、制御ピストン4が上がって開口部3が閉じられ、気体燃料が噴射されない無噴射状態を示しており、図2(b)は、制御ピストン4が下がって開口部3が開き、気体燃料が噴射される噴射状態を示している。
【0044】
図2に示すように、制御ピストン4の下側にある第1制御油室9と、制御ピストン4の上側にある第2制御油室10には、圧力PCOの制御油が存在している。この圧力PCOは、上側の第2制御油室10では、棒状部5の後端部における直径DPSの面積に対して作用し、下側の第1制御油室9では、第1大径部6の直径DPBの面積と、第2大径部12の直径DFPの面積の差に対する力として作用する。また、第1制御油室9と第2制御油室10の間であって、直径DPBである第1大径部6と、直径DPSである棒状部5を囲む位置には、第1制御油室9及び第2制御油室10の油圧よりも圧力が低い低圧エリア20が設けられている。このため、第1制御油室9の油圧と第2制御油室10の油圧が互いに影響を及ぼすことはなく、制御ピストン4の後端側に作用する開弁方向の力と、先端側に作用する閉弁方向の力は、それぞれ独立して制御ピストン4に作用することとなる。
【0045】
第2制御油室10に面している直径DPSの棒状部5は、インジェクタボディ2に固定されたシリンダ19の内周面と微少な隙間をもって摺動し、また第1制御油室9に面している直径DPBの第1大径部6は、インジェクタボディ2の内周面と微少な隙間をもって摺動するように構成されているため、第1制御油室9の圧力を開放すれば、制御ピストン4の上端に面している第2制御油室10よりも圧力を下げることが出来る。また第1制御油室9にはスプリング17を設け、図中の上向き(閉弁方向)に制御ピストン4を押す力を発生させている。
【0046】
第1制御油室9と第2制御油室10に制御油の圧力PCOが一様に存在している場合には、制御ピストン4の後端側、すなわち第2制御油室10では、直径DPSである棒状部5の面積に対して開弁方向の力が作用しており、また制御ピストン4の先端側、すなわち第1制御油室9では、直径DPBである第1大径部6の面積と、直径DFPである第2大径部12の面積の差に対して閉弁方向又は開弁方向の力が作用する。従って、弁が閉じている図2(a)の状態では、制御ピストン4に作用する力は次式(1.12)で計算される。
COPS 2 π/4-PCO(DPB 2 -DFP 2)π/4-FSP
=PCO(DPS 2 -DPB 2 +DFP 2)π/4-FSP …(1.12)
但し、下向き(開弁方向) が正(+)
【0047】
ピストン下側の第1制御油室9の圧力を開放した際には、直径DPBである第1大径部6の面積と、直径DFPである第2大径部12の面積の差に対して作用する力が減少する。第1制御油室9の圧力開放に伴う制御油圧の圧力低下率PDを0.5(50%)とすると、封止弁部7が開口部3を開いている図2(b)の状態では、制御ピストン4に作用する力は次式(1.13)で計算される。
COPS 2 π/4-(1-0.5)PCO(DPB 2 -DFP 2)π/4-FSP
=PCO{DPS 2 -0.5(DPB 2 -DFP 2)}π/4-FSP …(1.13)
但し、下向き(開弁方向) が正(+)
【0048】
図3は、図1及び図2に示す状態を統合した図であり、気体燃料インジェクタ1の全体としての構造を模式的に示している。図3(a)は、制御ピストン4が上がって開口部3が閉じられ、気体燃料が噴射されない無噴射状態を示しており、図3(b)は、制御ピストン4が下がって開口部3が開き、気体燃料が噴射される噴射状態を示している。図3(c)は、気体燃料インジェクタ1の設計諸元、すなわち気体燃料インジェクタ1の性能を規定する各部の寸法、圧力、力等を示す記号を一覧で示す表図である。
【0049】
図3(c)に示した第1大径部6の直径DPB、棒状部5の後端部の直径DPS、第2大径部12の直径DFP、封止弁部7のシール部の直径DFV、スプリング17の押圧力FSP、制御油の圧力PCO、気体燃料の圧力PFG、シリンダ内の圧力PCY、および第1制御油室9の圧力開放時の圧力低下率PDに関して、無噴射及び噴射が成り立つ条件を以下に式(1.14)、(1.15)、(1.16)で示す。
【0050】
無噴射が成り立つ条件は、式(1.9)+式(1.12)によって得られる次式(1.14)である。
{(PFG-PCY)DFV 2 -PFGFP 2 }π/4+PCO(DPS 2 -DPB 2 +DFP 2)π/4
-FSP
={(PFG-PCY)DFV 2 -(PCO-PFG)DFP 2 +PCO(DPS 2 -DPB 2 )}π/4 -FSP <0 …(1.14)
但し、下向き(開弁方向) が正(+)
【0051】
制御ピストン4がフルリフトした状態で噴射が成り立つ条件は、式(1.10)+式(1.13)によって得られる次式(1.15)である。
{(PFG-PCY)DFV 2 -PFGFP 2 }π/4+PCO{DPS 2 -(PD)(DPB 2 -DFP 2)}π/4-FSP
={(PFG-PCY)DFV 2 +{(PD)PCO-PFG}DFP 2 +PCO{DPS 2 -(PD)DPB 2 }}π/4-FSP >0 …(1.15)
但し、下向き(開弁方向) が正(+)
【0052】
開弁直後に噴射が成り立つ条件は、式(1.11)+式(1.13)によって得られる次式(1.16)である。
-PCYFV 2 π/4+PCO{DPS 2 -(PD)(DPB 2 -DFP 2)}π/4-FSP
={-PCYFV 2 +PCO{DPS 2 -(PD)(DPB 2 -DFP 2)}}π/4-FSP>0
…(1.16)
但し、下向き(開弁方向) が正(+)
【0053】
以上説明した実施形態の気体燃料インジェクタ1において、
直径がDPSである棒状部5の後端部の断面積=( 直径がDPBである第1大径部の断面積-直径がDFPである第2大径部の断面積)、との関係が成立する場合、すなわち、次式(2.1)が成立するように構成した場合、
PS 2 =DPB 2 -DFP 2 …(2.1)
閉弁状態において、制御油の油圧が制御ピストン4に与える開弁方向の力と閉弁方向の力が同一となり、制御ピストン4に加わる力をゼロとすることができる。
【0054】
実施形態の気体燃料インジェクタを、前記式(2.1)で設計した場合、開弁時における第1制御油室9の圧力低下率PDを50%とすると、開弁時には、第2制御油室10において棒状部5の端面に加わる油圧力の50%を、制御ピストン4を先端の方向に移動させて開口部を開く力として利用できる。
【0055】
前記式(2.1)に基づいて、第2制御油室10の油圧力の50%を開弁に利用できるような構成を実現できるのは、第1大径部6と第2制御油室10の間に、制御ピストン4を囲むように、ドレン路27(図1図3には不図示、図7参照)が連通する低圧エリア20を設けたことによる。すなわち、低圧エリア20があれば、第1制御油室6と第2制御油室10から制御油が低圧エリア20に漏れたとしても、この制御油はドレン路27から外部に排出されるので、低圧エリア20に溜まった制御油が制御ピストン4を押圧して閉弁すべき時期に開弁してしまう不具合を避けることができる。
【0056】
また、実施形態の気体燃料インジェクタ1によれば、スプリング17の押圧力FSPは、気体燃料の圧力PFGにより開弁しようとする力、すなわち( 封止弁部7の直径DFV-第2大径部12の直径DFP) ×気体燃料の圧力PFGよりも大きくなるように設定する必要があるが、( 封止弁部7の直径DFV-第2大径部12の直径DFP) を小さくする、すなわちDFVにDFPを近づけることによって、気体燃料の圧力PFGに対抗して閉弁状態を保つスプリング17の押圧力FSPをなるべく小さく設計することができる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態の気体燃料インジェクタ1によれば、常時与えられる制御油の圧力とスプリング17の押圧力によって閉弁し、第1制御油室9の制御油の圧力を開放することで、制御ピストン4を先端側に移動させて開口部3を開放し、開弁して気体燃料を噴射することができる。そして、その際、図3(c)に示した各諸元を、前記式(1.16)を満たすように設定することにより、気体燃料を噴射する開弁の動作を確実に行うことができる。
【0058】
図4図8を参照して、本発明の実施形態である気体燃料インジェクタ1の構成を説明する。
図4図8は、本発明の実施形態である気体燃料インジェクタ1の構成を実機に基づいて断面で示した詳細図である。図1図3に示した模式図と基本的な構成は共通しており、構成部材の参照符号は共通している。しかしながら、詳細図は、主要部材以外の構成部材を模式図よりも多く含んでおり、また各部材、部品等の寸法比についても模式図とは相違点がある。但し、基本的な構造、機能、作用、効果等は模式図の構造例と同様であるため、共通する構造等については図1図3を参照して説明した内容を適宜援用するものとする。
【0059】
図4に示すように、先細の円筒形とされたインジェクタボディ2の先端には、気体燃料を噴射するための開口部3が設けられている。またインジェクタボディ2の内部の空洞には、棒状の制御ピストン4が上下方向に移動自在となるように設けられている。制御ピストン4は、インジェクタボディ2の内部に移動可能に支持された細径の棒状部5と、棒状部5の中央部よりも後端(図示上端)側に設けられた第1大径部6と、棒状部5の先端(図示下端)に設けられて開口部3を外側から開閉する封止弁部7と、第1大径部6と封止弁部7の間に設けられた第2大径部12を有している。この制御ピストン4は、封止弁部7と棒状部5と第1大径部6と第2大径部が力学的に一体となった構造で製造されている。
【0060】
第1大径部6は、棒状部5に外挿して設けられた円筒状部材23によって構成されている。円筒状部材23は、その外周面に、インジェクタボディ2の内周面との隙間をシールする外側シール24が設けられている。また、円筒状部材23の内周面には、棒状部5の外周面との隙間をシールする内側シール25が設けられている。また円筒状部材23は、制御ピストン4の軸心と平行な方向については位置がずれないように固定される。このように、第1大径部6である円筒状部材23は、制御ピストン4の一部として移動することにより、制御ピストン4の軸心と平行な方向については制御油による押圧力を棒状部5に伝達するが、軸心と垂直な方向については変位を許容するフローティング構造によって支えられている。従って、制御ピストン4を構成する各部品の軸心にずれがあったとしても、これを吸収することができるので、制御ピストン4は、軸心と平行な方向については円滑に摺動することができる。また、円筒状部材23とインジェクタボディ2の隙間に制御油が入り込むのを防止できるので、この隙間に入り込んだ制御油が摺動時のせん断により発熱するのを抑えることができる。また、制御油の漏れの抑制は、高圧で送油が必要な制御油の流量の低下につながり、その結果、制御油を吐出するポンプのサイズを小さくでき、その吐出に必要な動力を小さくできる効果が得られる。
【0061】
インジェクタボディ2の先端の内部には気体燃料室8が設けられている。気体燃料室8は、封止弁部7が開口部3を閉止した閉弁状態では、棒状部5と封止弁部7と第2大径部によって区画された空間である。インジェクタボディ2の外周面には、気体燃料供給孔30が設けられている。インジェクタボディ2内には、気体燃料供給孔30と気体燃料室8を連通させる気体燃料供給路31が設けられており(図8も参照)、気体燃料は外部から気体燃料供給孔30及び気体燃料供給路31を経て気体燃料室8に供給される。気体燃料室8には所定圧力の気体燃料が常時供給されており、封止弁部7が開口部3から離れた開弁状態では、開口部3からシリンダ内に気体燃料が噴射される。
【0062】
インジェクタボディ2の内部には第1制御油室9が設けられている。第1制御油室9は、制御ピストン4の第1大径部6から第2大径部12の後端に相当する位置に設けられた空間であり、第1大径部6の先端側の一部と、第1大径部6から先端に向けて突出した棒状部5の一部を囲んでいる。第1制御油室9には、後述する第2制御油室10から、第2制御油供給ライン22を介して所定の圧力の制御油が常時供給される。第2制御油供給ライン22は、その大部分が、制御ピストン4の中心を軸線に平行に形成された孔路である。第1制御油室9にある制御油の圧力は、第1大径部6に対しては、後端に向けた閉弁方向の力を発生させ、また第2大径部に対しては、先端に向けた開弁方向の力を発生させる。
【0063】
インジェクタボディ2の後端には、内部の空洞を閉止する円板型のオリフィスプレート13が取りつけられている。このオリフィスプレート13には、その先端側(図示下端側)の面の外周付近に同心円状の周溝32が形成されており、また周溝32に供給された制御油を後端側(図示上端側)の面の中心に導く斜めの流路15が設けられている。この流路15にはオリフィスが設けられている。インジェクタボディ2には、第1制御油室9にある制御油をインジェクタボディ2の後端側に向けて導く導油路14が形成されている。導油路14は、オリフィスプレートの先端側(図示下端側)の面に形成された周溝32を介して、斜めの流路15に連通している。この流路15の出口はソレノイド弁16によって開閉することができる。従って、ソレノイド弁16が流路15を開放すると第1制御油室9にある制御油は導油路14から流路15を経てインジェクタボディ2の外部に排出される。
【0064】
インジェクタボディ2の内部には第2制御油室10が設けられている。第2制御油室10は、制御ピストン4の後端側の棒状部5と、棒状部5を内挿するシリンダ19と、オリフィスプレート13の先端側(図示下端側)の面とによって、インジェクタボディ2の内部の後端側に区画された比較的狭い空間であり、図4ではその空間の厚みが線の太さ程度に現わされる。制御油は、インジェクタボディ2の外部から供給され、第2制御油室10に最初に供給される。具体的には図4に示すように、インジェクタボディ2の供給孔26から供給された制御油は、図5及び図6に示すように、第1制御油供給ライン21を経てシリンダ19の外周から第2制御油室10に供給される。
【0065】
図4に示すように、インジェクタボディ2の内部において、第1制御油室9の内部には、インジェクタボディ2の後端に向けて制御ピストン4を押圧するスプリング17が設けられている。
【0066】
インジェクタボディ2の内部において、第1大径部6と第2制御油室10の間には、制御ピストン4を囲むように低圧エリア20が設けられている。図7に示すように、低圧エリア20は、インジェクタボディ2の内部に形成されたドレン路27を経てインジェクタボディ2の外部に連通している。従って、第1制御油室9と第2制御油室10にある所定圧力の制御油が低圧エリア20に漏れたとしても、この制御油はドレン路27から外部に排出されるので、低圧エリア20に所定圧力の制御油が溜まって制御ピストン4を先端に向けて押圧することはなく、閉弁状態とすべき時期に開弁状態となってしまうような不具合が生じることはない。
【0067】
図4(a)に示すように、第1大径部6の後端側において、棒状部5とインジェクタボディ2の間には、両部材の隙間をシールする後端側シール28が設けられている。また、第2大径部12とインジェクタボディ2の間には、両部材の隙間をシールする先端側シール29が設けられている。後端側シール28と先端側シール29の構成は、前述した外側シール24及び内側シール25と同様である。
【0068】
制御ピストン4は、第1大径部6において外側シール24及び内側シール25で支えられているだけでなく、その後端側及び先端側においても、それぞれ後端側シール28と先端側シール29によって支えられている。従って、制御ピストン4が軸心と平行な方向について円滑に摺動する機能は、外側シール24及び内側シール25のみである場合に較べて一層確実である。また、制御ピストン4の摺動に伴う制御油の漏れを抑制してせん断による制御油の発熱を抑え、同時に制御油の流量を少なくできる効果は、外側シール24及び内側シール25について説明したのと同様である。
【0069】
以上の構成によれば、ソレノイド弁16が流路15を閉止し、第1制御油室9と第2制御油室10に所定圧力の制御油が存在している状態では、第1制御油室9の制御油は、制御ピストン4を後端側に押して閉弁させる方向の力を制御ピストン4に発生させ、第2制御油室10の制御油は、制御ピストン4を先端側に押して開弁させる方向の力を制御ピストン4に発生させるが、この気体燃料インジェクタ1においては、逆方向であるこれら2つの力の大きさを同一として制御ピストン4に与える力がゼロとなるように構成できる。その場合、制御ピストン4はスプリング17の押圧力によって後端の側に押されるので、押圧力の弱い低コストのスプリング17を採用したとしても、インジェクタボディ2の開口部3を封止弁部7によって外側から確実に閉止することができ、気体燃料の噴射を阻止することができる。
【0070】
ソレノイド弁16を作動させて流路15を開放すると、第1制御油室9の制御油は、導油路14及び流路15を経て外部に逃げるため、第1制御油室9の制御油の油圧は急激に低下する。第1制御油室9と第2制御油室10は第2制御油供給ライン22によって連通してはいるが、第2制御油室10には制御油が継続して供給されており、第1制御油室9の減圧に連動して第2制御油室10の制御油の圧力が短時間で低減することはなく、第2制御油室10は所定の圧力を維持する。このため、第2制御油室10の油圧によって制御ピストン4には軸方向について先端に向けた力が働くが、制御ピストン4の移動に伴って低圧エリア20に体積変化が生じても、低圧エリア20内に顕著な圧力の変化は生じないため、制御ピストン4は特に支障なく移動することができる。このため、封止弁部7が開口部3から外向きに離れる開弁の動作は円滑であり、必要なタイミングで安定した気体燃料の噴射が行なえる。
【0071】
1…気体燃料インジェクタ
2…インジェクタボディ
3…開口部
4…制御ピストン
5…棒状部
6…第1大径部
7…封止弁部
8…気体燃料室
9…第1制御油室
10…第2制御油室
12…第2大径部
15…流路
16…ソレノイド弁
17…スプリング
20…低圧エリア
21…第1制御油供給ライン
22…第2制御油供給ライン
23…円筒状部材
24…外側シール
25…内側シール
28…後端側シール
29…先端側シール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8