(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119344
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ワイヤハーネスの検査器具
(51)【国際特許分類】
G01B 11/16 20060101AFI20240827BHJP
H02G 1/06 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G01B11/16 Z
H02G1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026166
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 茂樹
【テーマコード(参考)】
2F065
5G352
【Fターム(参考)】
2F065AA65
2F065BB12
2F065CC25
2F065DD03
2F065FF58
2F065GG24
2F065LL02
2F065LL21
2F065QQ25
2F065RR06
2F065UU07
5G352CA08
(57)【要約】
【課題】ワイヤハーネスが変形している位置を高精度に特定する。
【解決手段】
ワイヤハーネスの検査器具は、散乱光を放射する散乱光放射部材と、前記散乱光放射部材の第1面に配置された第1遮蔽層と、を備え、前記散乱光放射部材の変形に応じて、前記第1遮蔽層における前記散乱光の遮蔽度合いが変化する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
散乱光を放射する散乱光放射部材と、
前記散乱光放射部材の第1面に配置された第1遮蔽層と、
を備え、
前記散乱光放射部材の変形に応じて、前記第1遮蔽層における前記散乱光の遮蔽度合いが変化する、
ワイヤハーネスの検査器具。
【請求項2】
前記第1遮蔽層は、遮蔽されない前記散乱光の色を第1色に変換して放射する、
請求項1に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項3】
前記第1遮蔽層は、
前記第1色に染色された透光性を有するシート状の第1フィルムと、
前記第1フィルムと前記散乱光放射部材との間に配置された第1遮蔽部と、
を含む、
請求項2に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項4】
前記第1遮蔽部は、前記散乱光放射部材の前記第1面に沿って所定の間隔を隔てて配置された複数の第1遮蔽板を含む、
請求項3に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項5】
前記第1遮蔽層は、前記第1フィルムの前記散乱光放射部材と接する面の反対面に配置され、前記第1遮蔽部を通過した前記散乱光を遮蔽する第1補助遮蔽部をさらに含み、
前記第1補助遮蔽部は、前記反対面に沿って、隣り合う前記第1遮蔽板の間の間隔に対応して配置された複数の第1補助遮蔽板を含む、
請求項4に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項6】
前記間隔の長さは、検査対象のワイヤハーネスに含まれる線材のサイズに応じて決定される、
請求項4に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項7】
前記間隔の長さは、前記散乱光放射部材の最大伸びにさらに基づいて決定される、
請求項6に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項8】
前記第1遮蔽層は、
前記第1色に染色された透光性を有するシート状の第1母材と、
光の遮蔽性を有し、前記第1母材内に分散された複数の第1粒子と、
を含む、
請求項2に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項9】
前記第1粒子の粒子径は、前記第1遮蔽層の厚さの1/3以下である、
請求項8に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項10】
前記検査器具は、前記散乱光放射部材の第1面に対向する第2面に配置された第2遮蔽層をさらに備え、
前記散乱光放射部材の変形に応じて、前記第2遮蔽層における前記散乱光の遮蔽度合いが変化する、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項11】
前記第2遮蔽層は、遮蔽されない前記散乱光の色を第2色に変換して放射する、
請求項10に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項12】
前記第2色は、前記第1色とは異なる、
請求項11に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項13】
前記第2色は、前記第1色の補色である、
請求項11に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項14】
前記第2遮蔽層は、
前記第2色に染色された透光性を有するシート状の第2フィルムと、
前記第2フィルムと前記散乱光放射部材との間に配置された第2遮蔽部と、
を含む、
請求項11に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項15】
前記第2遮蔽層は、
前記第2色に染色された透光性を有するシート状の第2母材と、
光の遮蔽性を有し、前記第2母材内に分散された複数の第2粒子と、
を含む、
請求項10に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項16】
前記散乱光放射部材は、帯状をなし、
前記第1面は、前記散乱光放射部材の2つの主面のうちの一方である、
請求項1に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項17】
前記散乱光放射部材は、円柱状をなし、
前記第1面は、前記散乱光放射部材の周面のうち軸方向に延びる領域である、
請求項1に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項18】
前記散乱光放射部材は、前記散乱光放射部材の厚さをt、前記検査器具の最小曲率半径をRとしたときに、ε>t/2Rを満たす最大伸びεを有する可撓性部材である、
請求項1に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項19】
前記散乱光放射部材は、光を一定の透過率で透過させるとともに散乱光を発生させる光透過部材である、
請求項1に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項20】
前記光透過部材は、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、又は塩化ビニルによって構成される、
請求項19に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【請求項21】
前記散乱光放射部材は、自発光部材である、
請求項1に記載のワイヤハーネスの検査器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤハーネスの検査器具に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、光ファイバを利用して対象物の曲がり及び伸びを検出する伸縮可能な分散型光ファイバセンサ(DFOS)が開示されている。DFOSは、マルチモーダルセンシング用の伸縮性ライトガイド(SLIMS)を備える。SLIMSは、2つの長尺のポリウレタンエラストマコアを含む。1つのコア(染色コア)には長手方向の複数位置に染色領域が設けられており、各染色領域は互いに異なる色に染色されている。他方のコア(透明コア)には染色領域が設けられていない。SLIMSの一端には白色LEDが取り付けられ、他端にはカラーセンサが取り付けられる。DFOSでは、SLIMSが変形した場合に、カラーセンサによって染色コア及び透明コアから検出される光の色及び強度の組み合わせにより、SLIMSの長手方向における変形の位置、大きさ、及び変形モード(引っ張り、曲げ、又は圧縮)を特定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ヘダン バイ,外5名,“Strechable distributed fiber-optic sensors”,[online],令和2年11月13日,Science,[令和4年11月30日検索],インターネット<https://www.researchgate.net/publication/345973849_Stretchable_distributed_fiber-optic_sensors>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に開示されたDFOSでは、SLIMSが変形した箇所に対応する色によって変形の位置を検出するため、位置の分解能は染色領域の配置間隔及び色の種類に依存する。染色領域の配置間隔が大きければ分解能が低くなり、複数の染色領域において同一の色が用いられていればどの染色領域が変形しているかを特定することができない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るワイヤハーネスの検査器具は、散乱光を放射する散乱光放射部材と、前記散乱光放射部材の第1面に配置された第1遮蔽層と、を備え、前記散乱光放射部材の変形に応じて、前記第1遮蔽層における前記散乱光の遮蔽度合いが変化する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、ワイヤハーネスが変形している位置を高精度に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るワイヤハーネスの検査器具の一例を説明するための斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る検査器具の構成の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る検査器具の変形前の状態を説明するための断面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る検査器具が伸びた状態を説明するための断面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る検査器具が曲がった状態を説明するための断面図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る検査器具の使用例を示す図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る検査器具の構成の一例を示す断面図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る検査器具の変形前の状態を説明するための断面図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係る検査器具が伸びた状態を説明するための断面図である。
【
図10】
図10は、伸長率と検査器具から放射される光量との関係の一例を示すグラフである。
【
図11】
図11は、第2実施形態に係る検査器具が曲がった状態を説明するための断面図である。
【
図12】
図12は、第3実施形態に係る検査器具の構成の一例を示す断面図である。
【
図13】
図13は、第3実施形態に係る検査器具が伸びた状態を説明するための断面図である。
【
図14】
図14は、第3実施形態に係る検査器具が曲がった状態を説明するための断面図である。
【
図15】
図15は、第1実施形態に係る検査器具の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本開示の実施形態の概要>
以下、本開示の実施形態の概要を列記して説明する。
【0009】
(1) 本実施形態に係るワイヤハーネスの検査器具は、散乱光を放射する散乱光放射部材と、前記散乱光放射部材の第1面に配置された第1遮蔽層と、を備え、前記散乱光放射部材の変形に応じて、前記第1遮蔽層における前記散乱光の遮蔽度合いが変化する。検査対象のワイヤハーネスに検査器具を沿わせるように配置した状態で、ワイヤハーネスが変形されると、ワイヤハーネスの変形に応じて検査器具も変形する。検査器具の変形箇所の遮光度合いは変化し、他の箇所よりも大きい比率で散乱光が漏出する。したがって、検査器具において、ワイヤハーネスの変形位置に対応する箇所が他の箇所よりも大きく光るため、ワイヤハーネスの変形位置を高精度に特定することができる。
【0010】
(2) 上記(1)において、前記第1遮蔽層は、遮蔽されない前記散乱光の色を第1色に変換して放射してもよい。これにより、検査器具において、ワイヤハーネスの変形位置に対応する箇所が第1色で光るため、検査器具の変形箇所を容易に特定することができる。
【0011】
(3) 上記(2)において、前記第1遮蔽層は、前記第1色に染色された透光性を有するシート状の第1フィルムと、前記第1フィルムと前記散乱光放射部材との間に配置された第1遮蔽部と、を含んでもよい。これにより、第1遮蔽部における遮蔽率を変化させることにより、散乱光の一部を第1遮蔽部から漏出させ、漏出した散乱光が第1フィルムを通過することによって第1色の散乱光を放射することができる。
【0012】
(4) 上記(3)において、前記第1遮蔽部は、前記散乱光放射部材の前記第1面に沿って所定の間隔を隔てて配置された複数の第1遮蔽板を含んでもよい。複数の第1遮蔽板を均等な間隔で並べることにより、第1遮蔽部全体で、第1遮蔽部を通過する散乱光の量を均一化することができる。検査器具の変形箇所においては、変形前よりも第1遮蔽板の間の間隔が大きくなるため、散乱光の遮蔽率を減少させることができる。
【0013】
(5) 上記(4)において、前記第1遮蔽層は、前記第1フィルムの前記散乱光放射部材と接する面の反対面に配置され、前記第1遮蔽部を通過した前記散乱光を遮蔽する第1補助遮蔽部をさらに含み、前記第1補助遮蔽部は、前記反対面に沿って、隣り合う前記第1遮蔽板の間の間隔に対応して配置された複数の第1補助遮蔽板を含んでもよい。これにより、第1遮蔽部を通過する散乱光を第1補助遮蔽板によって遮蔽することができ、検査器具の変形していない箇所において、第1遮蔽層から漏出する散乱光の量を低減することができる。
【0014】
(6) 上記(4)又は(5)において、前記間隔の長さは、検査対象のワイヤハーネスに含まれる線材のサイズに応じて決定されてもよい。これにより、隣り合う第1遮蔽板の間隔の長さを、検査対象に対して適切な値に決定することができる。
【0015】
(7) 上記(6)において、前記間隔の長さは、前記散乱光放射部材の最大伸びにさらに基づいて決定されてもよい。これにより、隣り合う第1遮蔽板の間隔の長さを、散乱光放射部材の変形に関する特性の1つである最大伸びに対して適切な値に決定することができる。
【0016】
(8) 上記(2)において、前記第1遮蔽層は、前記第1色に染色された透光性を有するシート状の第1母材と、光の遮蔽性を有し、前記第1母材内に分散された複数の第1粒子と、を含んでもよい。これにより、複数の第1粒子によって散乱光を遮蔽することができる。検査器具の変形箇所においては、変形前よりも第1粒子の間の間隔が大きくなるため、散乱光の遮蔽率を減少させることができる。
【0017】
(9) 上記(8)において、前記第1粒子の粒子径は、前記第1遮蔽層の厚さの1/3以下であってもよい。これにより、第1母材内で第1粒子を均一に分散させることができる。
【0018】
(10) 上記(1)から(9)のいずれか1つにおいて、前記検査器具は、前記散乱光放射部材の第1面に対向する第2面に配置された第2遮蔽層をさらに備え、前記散乱光放射部材の変形に応じて、前記第2遮蔽層における前記散乱光の遮蔽度合いが変化してもよい。これにより、第1遮蔽層及び第2遮蔽層の両方から散乱光が放射されているか、又は、第1遮蔽層及び第2遮蔽層のいずれかから散乱光が放射されているかによって、検査対象の変形の種類、例えば、伸び、曲げを特定することができる。
【0019】
(11) 上記(10)において、前記第2遮蔽層は、遮蔽されない前記散乱光の色を第2色に変換して放射してもよい。これにより、検査器具において、ワイヤハーネスの変形位置に対応する箇所が第2色で光るため、検査器具の変形箇所を容易に特定することができる。
【0020】
(12) 上記(11)において、前記第2色は、前記第1色とは異なってもよい。これにより、検査器具の曲がった箇所において第1色で光っているか第2色で光っているかによって、曲がった方向を特定することができる。さらに、検査器具の変形箇所が第1色及び第2色のいずれか一方で光っているか、第1色及び第2色の混合色又は第1色及び第2色の両方で光っているかによって、変形の種類を特定することができる。
【0021】
(13) 上記(11)において、前記第2色は、前記第1色の補色であってもよい。これにより、第1色と第2色とを明確に区別することができる。さらに、第1色と第2色との混合色(白色)が第1色及び第2色とは明確に異なるため、変形の種類を容易に特定することができる。
【0022】
(14) 上記(11)から(13)のいずれか1つにおいて、前記第2遮蔽層は、前記第2色に染色された透光性を有するシート状の第2フィルムと、前記第2フィルムと前記散乱光放射部材との間に配置された第2遮蔽部と、を含んでもよい。これにより、第2遮蔽部における遮蔽率を変化させることにより、散乱光の一部を第2遮蔽部から漏出させ、漏出した散乱光が第2フィルムを通過することによって第2色の散乱光を放射することができる。
【0023】
(15) 上記(10)において、前記第2遮蔽層は、前記第2色に染色された透光性を有するシート状の第2母材と、光の遮蔽性を有し、前記第2母材内に分散された複数の第2粒子と、を含んでもよい。これにより、複数の第2粒子によって散乱光を遮蔽することができる。検査器具の変形箇所においては、変形前よりも第2粒子の間の間隔が大きくなるため、散乱光の遮蔽率を減少させることができる。
【0024】
(16) 上記(1)から(15)のいずれか1つにおいて、前記散乱光放射部材は、帯状をなし、前記第1面は、前記散乱光放射部材の2つの主面のうちの一方であってもよい。これにより、検査器具を帯状に構成することができ、検査対象のワイヤハーネスに沿って帯状の検査器具を配置することができる。
【0025】
(17) 上記(1)から(15)のいずれか1つにおいて、前記散乱光放射部材は、円柱状をなし、前記第1面は、前記散乱光放射部材の周面のうち軸方向に延びる領域であってもよい。これにより、検査器具を円柱状に構成することができ、検査対象のワイヤハーネスに沿って帯状の検査器具を配置することができる。
【0026】
(18) 上記(1)から(17)のいずれか1つにおいて、前記散乱光放射部材は、前記散乱光放射部材の厚さをt、前記検査器具の最小曲率半径をRとしたときに、ε>t/2Rを満たす最大伸びεを有する可撓性部材であってもよい。これにより、変形に対する耐久性が高い検査器具を構成することができる。
【0027】
(19) 上記(1)から(18)のいずれか1つにおいて、前記散乱光放射部材は、光を一定の透過率で透過させるとともに散乱光を発生させる光透過部材であってもよい。これにより、例えば光透過部材の一端から光を入射することにより、散乱光を発生させることができる。
【0028】
(20) 上記(19)において、前記光透過部材は、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、又は塩化ビニルによって構成されてもよい。これにより、変形に対する耐久性が高い光透過部材を構成することができる。
【0029】
(21) 上記(1)から(18)のいずれか1つにおいて、前記散乱光放射部材は、自発光部材であってもよい。これにより、散乱光放射部材に光を入射しなくても、散乱光を発生させることができる。
【0030】
本開示は、上記のような特徴的な構成を備えるワイヤハーネスの検査器具として実現することができるだけでなく、上記検査器具を備えるワイヤハーネスの検査装置として実現したり、上記検査器具を用いたワイヤハーネスの検査方法として実現したりすることができる。
【0031】
<本開示の実施形態の詳細>
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態の詳細を説明する。なお、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0032】
[1.第1実施形態]
[1-1.検査器具の構成]
図1は、第1実施形態に係るワイヤハーネスの検査器具の一例を説明するための斜視図である。
【0033】
第1実施形態に係る検査器具10は、長尺の帯状をなしている。以下の説明において、検査器具10の長手方向を「X方向」、その厚さ方向を「Y方向」、その幅方向を「Z方向」という。以下の説明では、Y方向を便宜上「上下方向」ともいう。ただし、これは説明を簡単にするためであり、検査器具10が使用されるときに、Y方向を上下方向とするように検査器具10が配置されるとは限られない。
【0034】
検査器具10は、光透過部材100と、第1遮蔽層110と、第2遮蔽層120とを含む。光透過部材100、第1遮蔽層110、及び第2遮蔽層120は、Y方向に積層されている。
【0035】
光透過部材100は、扁平な帯状をなす。光透過部材100のX方向に直交する断面は矩形であり、例えば、光透過部材100の幅は厚さよりも大きい。光透過部材100は、2つの主面を有する。ここで、光透過部材100の「主面」とは、光透過部材100の最も面積が大きい面を意味する。光透過部材100の1つの主面、すなわち、図中上側の主面を「第1面」(上面)といい、他の1つの主面、すなわち、図中下側の主面を「第2面」(下面)という。第1面と第2面とはY方向において互いに対向している。
【0036】
第1遮蔽層110は、光透過部材100の第1面に配置されている。第1遮蔽層110は、シート状をなしており、光透過部材100の第1面の全体を被覆している。
【0037】
第2遮蔽層120は、光透過部材100の第2面に配置されている。すなわち、第1遮蔽層110と第2遮蔽層120との間に光透過部材100が配置されている。第2遮蔽層120は、シート状をなしており、光透過部材100の第2面の全体を被覆している。
【0038】
図2は、第1実施形態に係る検査器具の構成の一例を示す断面図である。
【0039】
光透過部材100は、光を一定の透過率で透過させるとともに散乱光を発生させる。例えば、光透過部材100の長手方向の一端から光が入射されると、光透過部材100は入射された光を透過しつつ、一定の割合の光を散乱する。光透過部材100は、「散乱光放射部材」の一例である。
【0040】
光透過部材100は、可撓性を有する透明な合成樹脂に、フィラーとしての粒子が混入されて構成されている。フィラーは、例えば白色等の光の反射性を有する粒子である。光透過部材100に入射された光(可視光)の一部がフィラーによって反射されることで、散乱光が発生する。
【0041】
フィラーは、光透過部材100の透過率を低下させ、光を吸収せずに散乱させる。フィラーは、可視光を透過して母材と異なる屈折率を持つ材料の粒子、又は、可視光を反射する白色粒子である。具体的には、フィラーは、酸化チタン粒子、ガラスビーズ、炭酸カルシウム粒子、アルミ粉、マイカ粒子等である。フィラーの粒子径dfは、光透過部材100の厚みtに対して十分小さい。例えば、df≦t/10であり、dfは100μm以下である。
【0042】
検査器具10の長さは、例えば10mm以上30m以下である。例えば、車両用のワイヤハーネスは、10mm以上5m以下の長さを有する。このため、検査器具10の長さは、10mm以上5m以下であってもよい。光透過部材100は、一端から入射された光のうちの所定割合(例えば、50%以上)の光が他端に到達する程度の透過率を有する。光透過部材100の透過率は、例えば80%以上99%以下である。すなわち、光透過部材100は、入射された光のうちの1%から20%の光を散乱する。
【0043】
光透過部材100の透過率は、フィラーとして用いる粒子の種類及びフィラーの含有量によって制御することができる。
【0044】
光透過部材100の散乱光は、様々な方向へ向かう。すなわち、散乱光の一部は、第1遮蔽層110及び第2遮蔽層120へ向かう。第1遮蔽層110は、散乱光の少なくとも一部を遮蔽する。
【0045】
光透過部材100の変形に応じて、第1遮蔽層110における散乱光の遮蔽度合いは変化する。例えば、光透過部材100の変形に応じて、第1遮蔽層110における散乱光の遮蔽度合いは減少する。検査器具10の長手方向の一部が変形した場合、その変形箇所における散乱光の遮蔽度合いが減少し、第1遮蔽層110を通過する散乱光の量が増大する。したがって、検査器具10の変形箇所において放射される光の量が他の箇所よりも大きくなる。
【0046】
第1遮蔽層110は、遮蔽されない散乱光の色を第1色に変換して放射する。
図2に示すように、第1遮蔽層110は、第1フィルム111と、第1遮蔽部112とを含む。第1フィルム111は、第1色に染色された透光性を有するシート状のカラーフィルムである。
【0047】
第1遮蔽部112は、第1フィルム111と光透過部材100との間に配置されている。すなわち、光透過部材100の上方に第1遮蔽部112が配置され、第1遮蔽部112の上方に第1フィルム111が配置されている。
【0048】
第1遮蔽部112は、複数の第1遮蔽板112Aを含む。複数の第1遮蔽板112Aは、光透過部材100の第1面に沿って等間隔に配置されている。すなわち、複数の第1遮蔽板112Aは一定のピッチpで配置されている。隣り合う第1遮蔽板112Aの間には、一定の長さdの間隔112Bが設けられている。全ての第1遮蔽板112AのX方向長さw(=p-d)は同一である(ただし、X方向の端に位置する第1遮蔽板112Aを除く)。
【0049】
間隔112Bの長さは、検査対象のワイヤハーネスに含まれる線材のサイズに応じて決定することができる。間隔112Bの長さは、光透過部材100の最大伸びεにさらに基づいて決定することができる。例えば、光の漏れが大きすぎると歪みの変化の検出が困難となるため、d<0.5・pとすることができる。また、圧縮最大歪み-εcに対しては、光透過部材100からの光を完全に遮蔽して検査器具10の変形前後における光の量の差異を検出できなくなるときのdよりも大きくすべきであるため、d>p・εcとすることができる。すなわち、dの範囲は、p・εc<d<0.5・pと規定することができる。なお、圧縮歪みの検出が不要な条件も想定する。
【0050】
第1遮蔽板112Aは、Z方向に長い長方形の板であり、光透過部材100の第1面の幅全体に渡って配置されている(
図1参照)。第1遮蔽板112Aは、アルミニウム、銅等の金属又は合成樹脂によって構成されている。第1遮蔽板112Aの弾性率は、光透過部材100の弾性率よりも低く、例えば光透過部材100の弾性率よりも一桁以上低い。
【0051】
第2遮蔽層120は、散乱光の少なくとも一部を遮蔽する。
【0052】
光透過部材100の変形に応じて、第2遮蔽層120における散乱光の遮蔽度合いは変化する。例えば、光透過部材100の変形に応じて、第2遮蔽層120における散乱光の遮蔽度合いは減少する。検査器具10の長手方向の一部が変形した場合、その変形箇所における散乱光の遮蔽度合いが減少し、第2遮蔽層120を通過する散乱光の量が増大する。したがって、検査器具10の変形箇所において放射される光の量が他の箇所よりも大きくなる。
【0053】
第2遮蔽層120は、遮蔽されない散乱光の色を第2色に変換して放射する。
図2に示すように、第2遮蔽層120は、第2フィルム121と、第2遮蔽部122とを含む。第2フィルム121は、第2色に染色された透光性を有するシート状のカラーフィルムである。
【0054】
例えば、第2色は、第1色とは異なる。具体的な一例では、第1色は赤であり、第2色は青である。ただし、第1色及び第2色の組み合わせはこれに限られない。例えば、第2色は、第1色の補色であってもよいし、第1色と同色であってもよい。
【0055】
第2遮蔽部122は、第2フィルム121と光透過部材100との間に配置されている。すなわち、光透過部材100の下方に第2遮蔽部122が配置され、第2遮蔽部122の下方に第2フィルム121が配置されている。
【0056】
第2遮蔽部122は、複数の第2遮蔽板122Aを含む。複数の第2遮蔽板122Aは、光透過部材100の第2面に沿って等間隔に配置されている。すなわち、複数の第2遮蔽板122Aは一定のピッチで配置されている。隣り合う第2遮蔽板122Aの間には、一定の間隔122Bが設けられている。全ての第2遮蔽板122AのX方向長さは同一である(ただし、X方向の端に位置する第2遮蔽板122Aを除く)。例えば、第2遮蔽板122Aのピッチは第1遮蔽板112Aのピッチpと同一であり、隣り合う第2遮蔽板122Aの間隔122Bの長さは隣り合う第1遮蔽板112Aの間隔112Bの長さdと同一である。すなわち、第2遮蔽板122AのX方向長さは、第1遮蔽板112AのX方向長さwと同一である。
【0057】
第2遮蔽板122Aは、Z方向に長い長方形の板であり、光透過部材100の第2面の幅全体に渡って配置されている。第2遮蔽板122Aは、アルミニウム、銅等の金属又は合成樹脂によって構成されている。第2遮蔽板122Aの弾性率は、光透過部材100の弾性率よりも低く、例えば光透過部材100の弾性率よりも一桁以上低い。例えば、第2遮蔽板122Aは、第1遮蔽板112Aと同じ材料によって構成されている。
【0058】
[1-2.検査器具の機能]
[1-2-1.変形前状態]
図3は、第1実施形態に係る検査器具の変形前の状態(通常状態)を説明するための断面図である。
【0059】
検査器具10の一端から白色光が入射されると、光透過部材100の全体において均一に散乱光が生じる。散乱光の一部は、第1遮蔽板112Aの間隔(ギャップ)112B及び第2遮蔽板122Aの間隔122Bを通過し、第1フィルム111及び第2フィルム121から外部へ放射される。第1フィルム111からは赤い光が放射され、第2フィルムからは青い光が放射される。
【0060】
第1遮蔽部112における間隔112Bの長さdは等しく、各間隔112Bの間の距離(w)も等しい。第2遮蔽部122における間隔122Bの長さは等しく、各間隔122Bの間の距離も等しい。すなわち、検査器具10のX方向全体において、光透過部材100の上側及び下側のそれぞれに、同一幅の間隔112B,122Bが均一に設けられている。したがって、検査器具10が変形していない状態においては、検査器具10の上面の第1遮蔽板112Aの各間隔112Bに対応する箇所から均一な量の赤い光が放射され、検査器具10の下面の第2遮蔽板122Aの各間隔122Bに対応する箇所から均一な量の青い光が放射される。例えば、検査器具10の上面及び下面のそれぞれから放射される赤及び青の光が混合され、紫の光が放射される。
【0061】
[1-2-2.伸長状態]
図4は、第1実施形態に係る検査器具が伸びた状態を説明するための断面図である。
【0062】
検査器具10の一部又は全体が引っ張られた場合、検査器具10の変形箇所(以下、「変形範囲」ともいう)の長さLは、L+Δ(Δ:伸長量)に変化する。
【0063】
変形範囲に含まれる間隔112B,122Bのそれぞれは変形範囲の伸長量Δに応じて伸長する。具体的には、変形後の間隔112Bの長さd’は、式(1)によって表される。
d’=d+(w+d)×ε ・・・(1)
【0064】
光透過部材100の弾性率が高いため、変形範囲に含まれる間隔112B,122Bは上述のように伸長するが、弾性率が低い第1遮蔽板112A及び第2遮蔽板122Aはほとんど伸長しない。つまり、変形範囲において、第1遮蔽板112A及び第2遮蔽板122Aの伸長量に比べて間隔112B,122Bの伸長量は大きい。
【0065】
間隔112B,122Bの伸長量は、変形範囲の長さLに対する伸長量Δの割合Δ/L(すなわち、単位長さ当たりの伸長量。以下、「伸長率」という)に比例する。したがって、間隔112B,122Bを通過する散乱光の検査器具10の変形前後における増加量は、伸長率Δ/Lに比例する。この結果、検査器具10の上面から放射される赤い光及び下面から放射される青い光は、検査器具10の変形前よりも伸長率Δ/Lに比例して増大し、変形範囲における紫の光の量が増加する。
【0066】
[1-2-3.曲げ状態]
図5は、第1実施形態に係る検査器具が曲がった状態を説明するための断面図である。
【0067】
検査器具10の一端が下がるように検査器具10の一部又は全体が曲げられた場合、検査器具10の変形範囲において、光透過部材100の上側、すなわち、第1遮蔽層110に近接している部位が伸長し、光透過部材100の下側、すなわち、第2遮蔽層120に近接している部位が縮短する。変形後の間隔112BのX方向長さdoは、変形前の間隔112BのX方向長さdより大きく、変形後の間隔122BのX方向長さdiは、変形前の間隔112BのX方向長さdより小さい。
【0068】
光透過部材100の弾性率が高いため、変形範囲に含まれる間隔112Bは変形範囲の曲率半径Rに応じて伸長し、変形範囲に含まれる間隔122Bは曲率半径Rに応じて縮短する。その一方で、弾性率が低い第1遮蔽板112A及び第2遮蔽板122Aはほとんど伸縮しない。つまり、変形範囲において、第1遮蔽板112Aの伸長量に比べて間隔112Bの伸長量は大きく、第2遮蔽板122Aの縮短量に比べて間隔122Bの縮短量は大きい。
【0069】
変形範囲の曲率Kは、1/Rで表される。光透過部材100の厚みをtとすると、変形範囲の上側(伸長側)の伸長率はKt/2で表され、変形範囲の下側(縮短側)の縮短率(伸長率の反数)はKt/2で表される。すなわち、変形範囲の下側の伸長率は-Kt/2である。
【0070】
間隔112Bの伸長量は、変形範囲の伸長側の伸長率Kt/2に比例し、間隔122Bの伸長量は、変形範囲の縮短側の伸長率-Kt/2に比例する。したがって、間隔112Bを通過する散乱光の検査器具10の変形前後における増加量は、変形範囲の伸長側の伸長率Kt/2に比例し、間隔122Bを通過する散乱光の検査器具10の変形前後における増加量は、変形範囲の縮短側の伸長率-Kt/2に比例する。この結果、検査器具10の上面から放射される赤い光は、検査器具10の変形前よりも伸長率Kt/2に比例して増大し、検査器具10の下面から放射される赤い光は、検査器具10の変形前よりも伸長率Kt/2に比例して減少する。
【0071】
[1-3.光透過部材の材料]
光透過部材100は、変形に対して高い耐久性が求められる。このため、光透過部材100の最小曲率半径をRminとしたとき、光透過部材100の最大伸びεは、ε>t/2Rを満たすことが好適である。例えば、t=2mm,Rmin=5mmとすると、ε>20%となる。
【0072】
上記条件から、光透過部材100の材料は、伸び110~120のポリカーボネート(PC)、伸び100~1000のシリコーン樹脂、又は伸び50~150のポリ塩化ビニル(PVC)とすることができる。
【0073】
[1-3.検査器具の使用]
ワイヤハーネスを対象に配策する際、ワイヤハーネスに過剰な変形が加えられると、ワイヤハーネスの強度が低下し、断線等の異常の原因となる。また、ワイヤハーネスの配策位置が不適切であると、ワイヤハーネスが過剰に変形した状態で配策され、ワイヤハーネスの強度が低下し、断線等の異常の原因となる。検査器具10は、ワイヤハーネスを取付対象に取り付ける際の検査、又はワイヤハーネスの配策位置を決定する際の検査に用いられる。
【0074】
図6は、第1実施形態に係る検査器具の使用例を示す図である。検査器具10は、検査対象であるワイヤハーネス20に沿って配置される。例えば、検査器具10は、ワイヤハーネス20に接着されたり、ワイヤハーネス20と共に粘着テープで巻き付けられたりして、ワイヤハーネス20に固定される。
【0075】
ワイヤハーネス20が引っ張られたり曲げられたりすると、検査器具10もワイヤハーネス20と同様に伸びたり曲がったりする。検査器具10の一端から白色光を入射すると、検査器具10の変形箇所は、他の箇所とは異なる状態で光を放射する。検査器具10が一方向に曲げられると、曲がった箇所が赤く光り、検査器具10が反対方向に曲げられると、曲がった箇所が青く光る。検査器具10が引っ張られると、伸びた箇所の両側から赤及び青の光りが放射され、赤及び青に光ったり、混合色である紫に光ったりする。したがって、検査器具10の変形箇所における放射光の色により、ワイヤハーネス20の変形の種類(伸び、曲げ)を特定することができる。
【0076】
放射される光量は、変形量に応じて変化する。すなわち、検査器具10の変形量(伸び量、曲げ量)が大きくなるほど、放射される光量は増大する。例えば、検査器具10からの放射光量のキャリブレーションを事前に実施しておくことで、放射光量によって変形量を計測することができる。
【0077】
[2.第2実施形態]
図7は、第2実施形態に係る検査器具の構成の一例を示す断面図である。
【0078】
第2実施形態に係る検査器具10Aの第1遮蔽層210は、第1補助遮蔽部230をさらに含む。第1補助遮蔽部230は、第1フィルム111の光透過部材100と接する面の反対面、すなわち、第1フィルム111の上面に配置される。第1補助遮蔽部230は、第1遮蔽部112を通過した散乱光を遮蔽する。
【0079】
具体的には、第1補助遮蔽部230は、複数の第1補助遮蔽板230Aを含む。複数の第1補助遮蔽板230Aは、第1フィルム111の上面に沿って、隣り合う第1遮蔽板112Aの間の間隔112Bに対応して配置される。すなわち、各第1補助遮蔽板230Aは、各間隔112Bの上方に配置されている。
【0080】
第2実施形態に係る検査器具10Aの第2遮蔽層220は、第2補助遮蔽部240をさらに含む。第2補助遮蔽部240は、第2フィルム121の光透過部材100と接する面の反対面、すなわち、第2フィルム121の下面に配置される。第2補助遮蔽部240は、第2遮蔽部122を通過した散乱光を遮蔽する。
【0081】
具体的には、第2補助遮蔽部240は、複数の第2補助遮蔽板240Aを含む。複数の第2補助遮蔽板240Aは、第2フィルム121の下面に沿って、隣り合う第2遮蔽板122Aの間の間隔122Bに対応して配置される。すなわち、各第2補助遮蔽板240Aは、各間隔122Bの下方に配置されている。
【0082】
第1補助遮蔽板230A及び第2補助遮蔽板240Aは、アルミニウム、銅等の金属又は合成樹脂によって構成されている。第1補助遮蔽板230A及び第2補助遮蔽板240Aの弾性率は、光透過部材100の弾性率よりも低く、例えば光透過部材100の弾性率よりも一桁以上低い。
【0083】
なお、第2実施形態に係る検査器具10Aのその他の構成は、第1実施形態に係る検査器具10の構成と同じであるため、同一構成要素には同一符号を付し、説明を省略する。
【0084】
図8は、第2実施形態に係る検査器具の変形前の状態(通常状態)を説明するための断面図である。
【0085】
上述したように、各第1補助遮蔽板230Aは各間隔112Bの上方に配置され、各第2補助遮蔽板240Aは各間隔122Bの下方に配置されている。通常状態において、第1補助遮蔽板230Aは間隔112Bの少なくとも一部を被覆し、第2補助遮蔽板240Aは間隔122Bの少なくとも一部を被覆する。
図8の例では、通常状態において、第1補助遮蔽板230Aは間隔112Bの全体を被覆し、第2補助遮蔽板240Aは間隔122Bの全体を被覆している。これにより、間隔112Bを通過した散乱光のほとんどは、第1補助遮蔽板230Aによって遮蔽され、間隔122Bを通過した散乱光のほとんどは、第2補助遮蔽板240Aによって遮蔽される。
【0086】
図9は、第2実施形態に係る検査器具が伸びた状態を説明するための断面図である。
【0087】
検査器具10Aが伸長したとき、変形範囲に含まれる間隔112B,122Bのそれぞれが伸長し、弾性率が低い第1遮蔽板112A及び第2遮蔽板122A並びに第1補助遮蔽板230A及び第2補助遮蔽板240Aはほとんど伸長しない。つまり、変形範囲において、第1遮蔽板112A及び第2遮蔽板122A並びに第1補助遮蔽板230A及び第2補助遮蔽板240Aの伸長量に比べて間隔112B,122Bの伸長量は大きい。
【0088】
変形範囲において、間隔112B及び122Bを通過する散乱光の量は変形前よりも増大する。変形範囲の伸長量Δに応じて、第1補助遮蔽板230Aが間隔112Bを遮蔽しない範囲、及び、第2補助遮蔽板240Aが間隔122Bを遮蔽しない範囲のそれぞれが変形前より増大する。例えば、変形前には第1補助遮蔽板230Aが間隔112Bの全てを被覆し、第2補助遮蔽板240Aが間隔122Bの全てを被覆している場合、変形後には第1補助遮蔽板230Aが間隔112Bを被覆しない範囲が生じ、第2補助遮蔽板240Aが間隔122Bを被覆しない範囲が生じる。言い換えれば、第1補助遮蔽板230AのX方向長さは、間隔112Bが伸長した場合に、伸長後の間隔112Bの長さd’よりも短く設定される。第2補助遮蔽板240AのX方向長さも同様である。
【0089】
図10は、伸長率と検査器具から放射される光量との関係の一例を示すグラフである。図において、縦軸は光量を示し、横軸は伸長率Δ/L又はKt/2を示す。
図10では、第1遮蔽層210から放出される光量と検査器具10Aの伸長率との関係を示しているが、第2遮蔽層220から放射される光量についても同様である。
【0090】
第1補助遮蔽板230AのX方向長さをsとしたとき、(s-d)/pの大きさに応じて、第2遮蔽層220から放射される光量は変化する。図において、(s-d)/pが小さいときの光量と伸長率との関係を実線のグラフで示し、(s-d)/pが大きいときの光量と伸長率との関係を破線のグラフで示す。(s-d)/pが小さい場合のグラフ及び(s-d)/pが大きい場合のグラフの両方において、光量は伸長率Δ/Lに概ね比例している。すなわち、(s-d)/pの大小を問わず、第1遮蔽層210から放射される光量は伸長率Δ/Lに概ね比例することが分かる。
【0091】
図に示すように、(s-d)/pが小さい場合のグラフを右にシフトすると、(s-d)/pが大きい場合のグラフに一致する。したがって、伸長率Δ/Lが同じ場合には、(s-d)/pが大きい場合の光量よりも、(s-d)/pが小さい場合の光量の方が大きい。つまり、(s-d)/pが小さいほど、伸長率Δ/Lに対する光量の感度が高くなる。
【0092】
図9に戻り、第1補助遮蔽板230Aが間隔112Bを被覆しない範囲から散乱光が漏れ出し、第2補助遮蔽板240Aが間隔122Bを被覆しない範囲から散乱光が漏れ出す。したがって、検査器具10Aの変形範囲の上面からは赤の散乱光が放射され、下面からは青色の散乱光が放射される。これにより、検査器具10Aの変形範囲は部分的に紫色に発光する。紫の光量は、伸長率Δ/Lに比例する。したがって、光量を測定することで、伸長率Δ/L又は伸長量Δを計測することができる。
【0093】
図11は、第2実施形態に係る検査器具が曲がった状態を説明するための断面図である。
【0094】
検査器具10Aの一端が下がるように検査器具10Aの一部又は全体が曲げられた場合、検査器具10Aの変形範囲において、光透過部材100の上側、すなわち、第1遮蔽層210に近接している部位が伸長し、光透過部材100の下側、すなわち、第2遮蔽層220に近接している部位が縮短する。
【0095】
光透過部材100の弾性率が高いため、変形範囲に含まれる間隔112Bは変形範囲の曲率半径Rに応じて伸長し、変形範囲に含まれる間隔122Bは曲率半径Rに応じて縮短する。その一方で、弾性率が低い第1遮蔽板112A及び第2遮蔽板122A並びに第1補助遮蔽板230A及び第2補助遮蔽板240Aはほとんど伸縮しない。つまり、変形範囲において、第1遮蔽板112A及び第1補助遮蔽板230Aの伸長量に比べて間隔112Bの伸長量は大きく、第2遮蔽板122A及び第2補助遮蔽板240Aの縮短量に比べて間隔122Bの縮短量は大きい。
【0096】
上述した検査器具10Aが伸長した状態と同様に、変形範囲の上側、すなわち伸長側においては、間隔112Bを通過する散乱光の量は変形前よりも増大する。変形範囲の上側の伸長率Kt/2に応じて、第1補助遮蔽板230Aが間隔112Bを遮蔽しない範囲が変形前より増大する。例えば、変形前には第1補助遮蔽板230Aが間隔112Bの全てを被覆している場合、変形後には第1補助遮蔽板230Aが間隔112Bを被覆しない範囲が生じる。第1補助遮蔽板230Aが間隔112Bを被覆しない範囲から散乱光が漏れ出す。したがって、検査器具10Aの変形範囲の上面からは赤の散乱光が放射される。
【0097】
その一方、変形範囲の下側、すなわち縮短側においては、間隔122Bを通過する散乱光の量は変形前よりも減少する。変形範囲の下側の縮短率Kt/2に応じて、第2補助遮蔽板240Aが間隔112Bを遮蔽しない範囲が変形前より減少する。例えば、変形前には第2補助遮蔽板240Aが間隔122Bの全てを被覆している場合、変形後にも第2補助遮蔽板240Aは間隔122Bの全てを被覆する。したがって、検査器具10Aの変形範囲の下面からは青色の散乱光がほとんど放射されない。これにより、検査器具10Aの変形範囲の上面は部分的に赤色に発光する。赤色の光量は、伸長率Kt/2に比例する。したがって、光量を測定することで、曲率K又は曲率半径Rを計測することができる。
【0098】
[3.第3実施形態]
図12は、第3実施形態に係る検査器具の構成の一例を示す断面図である。
【0099】
第3実施形態に係る検査器具10Bの第1遮蔽層310は、第1母材311と、複数の第1粒子312とを含む。第1母材311は、第1色(赤)に染色された透光性を有するシート状の可撓性合成樹脂である。第1粒子312は、光の遮蔽性を有する。第1粒子312は、第1母材311内に分散されている。
【0100】
検査器具10Bの第2遮蔽層320は、第2母材321と、複数の第2粒子322とを含む。第2母材321は、第2色(青)に染色された透光性を有するシート状の可撓性合成樹脂である。第2粒子322は、光の遮蔽性を有する。第2粒子322は、第2母材321内に分散されている。
【0101】
なお、第3実施形態に係る検査器具10Bのその他の構成は、第1実施形態に係る検査器具10の構成と同じであるため、同一構成要素には同一符号を付し、説明を省略する。
【0102】
例えば、第1母材311及び第2母材321は、光透過部材100と同程度の弾性率を有する。第1母材311及び第2母材321の材料は、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、又はポリ塩化ビニルである。例えば、第1母材311及び第2母材321の材料は、光透過部材100の材料と同一でもよい。
【0103】
第1粒子312及び第2粒子322は、例えば光の吸収性を有する黒色の粒子である。第1粒子312及び第2粒子322の材料は、例えばカーボン又はシリカである。
【0104】
通常状態において、所定割合の散乱光を遮蔽する量の第1粒子312が第1母材311に含有される。同様に、所定割合の散乱光を遮蔽する量の第2粒子322が第2母材321に含有される。
【0105】
例えば、第1粒子312の粒径dpは、第1母材311のY方向長さの1/3以下である。これにより、第1粒子312を均一に第1母材311内に分散させることができ、第1遮蔽層310の全体で均一な遮蔽率を得ることができる。
【0106】
第1粒子312の粒径dpが可視光の波長である350~750nmと同等またはこれより小さい場合、レイリー散乱、ミー散乱による光散乱が主体となり、周波数(色)依存性が生じてしまう。このため、変形箇所において特定の色の散乱光を放射することができなくなるおそれがある。したがって、粒径dpは、可視光の波長より大きくてもよい。すなわち、dp>0.001mmであってもよい。第2粒子の粒径も、第1粒子の粒径dpと同じ条件で決定することができる。
【0107】
図12は、検査器具10Bの変形前の状態(通常状態)を示している。通常状態においては、第1遮蔽層310において、光透過部材100からの散乱光の一部又は全部が第1粒子によって遮蔽される。例えば、光透過部材100からの散乱光の一部は、第1遮蔽層310を透過してもよい。第2遮蔽層320においても同様に、散乱光の一部が透過されてもよい。
【0108】
図13は、第3実施形態に係る検査器具が伸びた状態を説明するための断面図である。
【0109】
検査器具10Bが伸長したとき、変形範囲における光透過部材100、第1遮蔽層310及び第2遮蔽層320の全てがX方向に伸長する。したがって、第1遮蔽層310における第1粒子312の密度及び第2遮蔽層320における第2粒子322の密度のそれぞれが低下する。言い換えれば、第1遮蔽層310における第1粒子312の間の距離が増大し、第2遮蔽層320における第2粒子322の間の距離が増大する。
【0110】
光透過部材100からの散乱光の第1遮蔽層310及び第2遮蔽層320のそれぞれにおける透過量が増加し、第1遮蔽層310から放射される第1色の光の量及び第2遮蔽層320から放射される第2色の光の量が増加する。したがって、検査器具10Bの変形範囲の上面からは赤の散乱光が放射され、下面からは青色の散乱光が放射される。これにより、検査器具10Bの変形範囲は全体的に紫色に発光する。紫の光量は、伸長率Δ/Lに比例する。したがって、光量を測定することで、伸長率Δ/L又は伸長量Δを計測することができる。
【0111】
図14は、第3実施形態に係る検査器具が曲がった状態を説明するための断面図である。
【0112】
検査器具10Bの一端が下がるように検査器具10Bの一部又は全体が曲げられた場合、検査器具10Bの変形範囲において、光透過部材100の上側、すなわち、第1遮蔽層310に近接している部位及び第1遮蔽層310が伸長し、光透過部材100の下側、すなわち、第2遮蔽層320に近接している部位及び第2遮蔽層320が縮短する。
【0113】
変形範囲における第1遮蔽層310は曲率半径Rに応じて伸長し(伸長率Kt/2)、変形範囲における第2遮蔽層320は曲率半径Rに応じて縮短する(伸長率-Kt/2)。
【0114】
第1遮蔽層310における第1粒子312の密度はKt/2に反比例して低下する。したがって、第1遮蔽層310から放出される赤色の光量は、Kt/2に比例して変形前より増加する。
【0115】
第2遮蔽層320における第2粒子322の密度はKt/2に比例して増加する。したがって、第2遮蔽層320から放出される青色の光量は、Kt/2に反比例して変形前より減少する。
【0116】
例えば、伸長側の赤色の光量、又は縮短側の青色の光量を測定することで、曲率K又は曲率半径Rを計測することができる。
【0117】
第1遮蔽層310の厚みtfが大きすぎると、変形箇所の第1遮蔽層310の内部において歪みの分布が発生し、変形に対する光量の変化の感度が低下する。光透過部材100の厚みをttとすると、第1遮蔽層310内の歪みεfは曲率Kに対して、Ktt/2≦εf≦K×(tt/2+tf)であり、第1遮蔽層310内の歪み変動率は2tf/ttである。第1遮蔽層310の歪み変動率を抑制するためには、第1遮蔽層310の厚みを小さくすることができる。例えば、歪み変動率20%以下を基準とし、tf?tt/10とすることができる。さらに具体的には、1/100≦tf/tt≦1/10とすることができる。
【0118】
[4.変形例]
検査器具は、帯状でなくてもよい。例えば、検査器具は、円柱状をなしてもよい。
【0119】
図15は、第1実施形態に係る検査器具の変形例を示す斜視図である。本変形例に係る検査器具10_1は、コアとして光透過部材100_1を含み、光透過部材100_1の被覆として第1遮蔽層110_1及び第2遮蔽層120_1を含む。第1遮蔽層110_1は、光透過部材100_1の上側半分を覆い、第2遮蔽層120_1は、光透過部材100_1の下側半分を覆う。すなわち、Z軸を0°としたときに、第1遮蔽層110_1は、X軸を中心として0°~180°の範囲で光透過部材100_1を覆い、第2遮蔽層120_1は、180°~360°の範囲で光透過部材100_1を覆う。
【0120】
第2実施形態に係る検査器具10Aに対応した円柱状の検査器具を構成することもできる。すなわち、上述した検査器具10_1の最も外側に、第1補助遮蔽部及び第2補助遮蔽部を設けてもよい。
【0121】
第3実施形態に係る検査器具10Bに対応した円柱状の検査器具を構成することもできる。すなわち、円柱状の光透過部材の外側に、透光性を有する合成樹脂である第1母材に第1粒子を分散させた第1遮蔽層と、透光性を有する合成樹脂である第2母材に第2粒子を分散させた第2遮蔽層とを設けてもよい。この場合、上述した検査器具10_1と同様に、光透過部材の上側半分を第1遮蔽層で覆い、下側半分を第2遮蔽層で覆うことができる。
【0122】
円柱状の検査器具において、光透過部材の周囲を覆う遮蔽層の数は2に限られない。例えば、単一の円筒形の遮蔽層によって、光透過部材の周囲を覆ってもよい。他の例では、X方向に延びる円弧板状の3以上の遮蔽層を、光透過部材の円周方向に配置してもよい。具体的な一例では、中心角が90°の4つの円弧板状の遮蔽層(第1遮蔽層、第2遮蔽層、第3遮蔽層、及び第4遮蔽層)によって光透過部材の周面を覆うことができる。この場合において、第1遮蔽層、第2遮蔽層、第3遮蔽層、及び第4遮蔽層のそれぞれが、互いに異なる色で染色されていてもよい。さらに具体的には、第1遮蔽層と第2遮蔽層とが対向し、第3遮蔽層と第4遮蔽層とが対向する場合、第1遮蔽層と第2遮蔽層とは互いに補色関係の色の組み合わせであり、第3遮蔽層と第4遮蔽層とは互いに補色関係の色の組み合わせであってもよい。
【0123】
上述した各実施形態及び各変形例において、散乱光発生部材は光透過部材ではなく、自発光部材であってもよい。自発光部材は、例えば、シュウ酸ジフェニルと過酸化水素水とを混合することによって蛍光を生じるケミカルライトであってもよい。
【0124】
[5.補記]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的ではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及びその範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0125】
10,10A,10B,10_1 検査器具
20 ワイヤハーネス
100,100_1 光透過部材
110,110_1 第1遮蔽層
111 第1フィルム
112 第1遮蔽部
112A 第1遮蔽板
112B 間隔
120,120_1 第2遮蔽層
121 第2フィルム
122 第2遮蔽部
122A 第2遮蔽板
122B 間隔
210 第1遮蔽層
230 第1補助遮蔽部
230A 第1補助遮蔽板
220 第2遮蔽層
240 第2補助遮蔽部
240A 第2補助遮蔽板
310 第1遮蔽層
311 第1母材
312 第1粒子
320 第2遮蔽層
321 第2母材
322 第2粒子