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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119345
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】転炉精錬方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/35 20060101AFI20240827BHJP
   C21C 5/46 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C21C5/35
C21C5/46 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026168
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】三浦 槙也
【テーマコード(参考)】
4K070
【Fターム(参考)】
4K070AB03
4K070AC14
4K070BA05
4K070BB08
4K070CF02
(57)【要約】
【課題】P濃度が0.01質量%以下の低りん鋼を低コストに、かつ安定して製造可能な転炉精錬方法を提供する。
【解決手段】脱炭吹錬において吹き付ける全酸素量の70%以上の酸素を吹き付けた時点から、前記酸素とともに粉状CaOの吹き付けを開始し、上吹きランスから吹き付ける粉状CaOの質量流量をA(kg/min)、前記粉状CaOとともに吹き付ける酸素の質量流量をB(kg/min)とした場合に、固気比(A/B)を0.5~1.25とし、かつ、前記粉状CaOの吹き付けを行っている間、縮合率γが25%以下となるように制御する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルを有する上吹きランスから酸素を溶鉄に吹き付けて脱炭吹錬を行う転炉精錬方法であって、
前記脱炭吹錬において吹き付ける全酸素量の70%以上の酸素を吹き付けた時点から、前記酸素とともに粉状CaOの吹き付けを開始し、
前記上吹きランスから吹き付ける粉状CaOの質量流量をA(kg/min)、前記粉状CaOとともに吹き付ける酸素の質量流量をB(kg/min)とした場合に、固気比(A/B)を0.5~1.25とし、かつ、
前記粉状CaOの吹き付けを行っている間、以下の(1)式~(3)式で定義される縮合率γが25%以下となるように制御することを特徴とする転炉精錬方法。
γ=100×(X-X')/X ・・・(1)
X=PCD/2+H×tanθ ・・・(2)
X'=PCD/2+(-1.68×10-8×n+4.57×10-8)×H2+(-2.89×10-5×n+3.81×10-5×θ-2.33×10-4)×H ・・・(3)
式中において、PCDは、ナット座ピッチ直径(mm)を表し、θは前記ノズルの中心軸と鉛直方向との間のノズル傾斜角(deg)を表す。Hは前記溶鉄の静止浴面から前記上吹きランスのノズル先端までの距離(mm)を表し、nは前記ノズルの孔数を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低りん鋼を溶製するための転炉精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転炉を用いて溶銑を精錬するプロセスとして、1基の転炉でスラグを排滓(中間排滓)することなく脱りんと脱炭とを連続して行うプロセス(以下、第1のプロセス)と、第1の転炉で溶銑脱りんを行い、その後第1の転炉から出湯した溶銑を第2の転炉に装入し、第2の転炉で脱炭を行うプロセス(以下、第2のプロセス)と、1基の転炉で脱りんを行った後に、脱りんによって生成したスラグを排滓(中間排滓)したうえで、同一の転炉で引き続き脱炭を行うプロセス(以下、第3のプロセス)とが開発されている。
【0003】
第1のプロセスでは、中間排滓がないため、精錬時の熱ロスが少なく、生産性も高いものの、吹錬全体においてスラグ塩基度を高める必要があるため、副原料であるCaO源の使用量が多くなり、コストの面で不利である。また、低りん鋼を溶製する場合にはスラグ量を多くする必要があるところ、スロッピングによりスラグ量が減少するなどして狙い通りに低りん鋼を溶製することが難しい。
【0004】
第2のプロセスは、精錬能力が高く低りん鋼の溶製が第1のプロセスに比べ容易である一方で、2基の転炉を必要とするために、設備費が高くなるとともに、放散熱ロスが増大して鉄鉱石やスクラップの溶解能力が低下し易い。第3のプロセスは、第2のプロセスに比べ、全体の吹錬時間を短縮でき、脱りんに必要なフラックス量を低減でき、精錬時の熱ロスを低減できる。しかしながら、第3のプロセスでは、中間排滓量を安定的に制御することが難しく、例えば、精錬完了後の溶鋼中のP濃度を低濃度まで低減することが困難となる場合がある。
【0005】
また、近年では、P濃度がより低い低りん鋼を製造する要望も高く、そのためには、脱炭吹錬前に行われる脱りん吹錬のみでは不十分であり、脱炭吹錬においてもCaO源を供給してさらにP濃度を下げる必要がある。
【0006】
転炉吹錬では、脱りん反応を安定して進行させるために、生石灰(CaO)や、軽焼ドロマイト(CaO・MgO)等の精錬剤を添加する。ところが、CaOやMgOは、単体では融点が2000℃以上であるため、精錬剤の溶解が進まず、脱りん反応の進行を阻害する。そこで、投入するCaO源の一部あるいは全部を粉状CaOとして、上吹きランスから搬送用ガスを用いて転炉内の溶銑に吹き込む技術や吹き付ける技術が提案されている。
【0007】
この技術の特徴としては次のことが挙げられる。粉状CaOを酸素とともに上吹きランスから高温(2000℃超)の火点へ吹き付けることで、火点では上吹きした酸素と溶銑とが反応して高温のFeO系融体が生成され、さらにこのFeO系融体へ粉状CaOが到達することにより、CaO-FeO系融体が生成される。このように上吹きした粉状CaOは速やかに溶解し、かつ生成されたCaO-FeO系融体の脱りん能は非常に高いため、脱りん反応を高効率で進めることができる。また、粉状CaOを溶銑に吹き付けることで、湯面上スラグとバルクメタルとの間で起こるパーマネント反応だけではなく、粉状CaOが浴内を浮上途中に溶銑を脱りんするトランジトリー反応の効果も享受できると考えられている。以上のように、上吹きランスから粉状CaOを吹き付けることは脱りん反応を促進させるため、粉状CaOを吹き付ける条件を最適化するために様々な検討が行われている。
【0008】
特許文献1には、第1のプロセスにおいて、CaO源の溶解を促進して低りん化させるために、吹錬の全期間の90-100%の間に生石灰を追装する方法が開示されている。特許文献2には、第1のプロセスにおいて、脱りんを促進させるために、吹錬初期及び吹錬末期にCaO源を吹き付ける方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献3には、第1のプロセス及び第2のプロセスの脱炭吹錬において、ランスノズルから噴出される気体噴流の溶鉄表面への動圧を制御したうえでCaO源の全量または一部を、ランスノズルを通して溶銑に吹き付ける方法が開示されている。さらに特許文献4には、第3のプロセスの脱炭吹錬において、吹錬初期にのみCaO源を吹き付ける方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016-79434号公報
【特許文献2】特開2015-92018号公報
【特許文献3】国際公開第2013/094634号
【特許文献4】特開2020-105562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、CaO源の添加量が非常に多く、コストの面で不利である。また、CaO源の追装時期が限定的であることから、P濃度が0.01質量%以下の低りん鋼を製造することは難しい。特許文献2に記載の方法も、CaO源の添加量が非常に多く、コストの面で不利である。また、吹錬中期から末期にかけて復りんしてしまう虞があり、P濃度が0.01質量%以下の低りん鋼を製造することは難しい。
【0012】
また、特許文献3に記載の方法は、予備処理後の持ち越しスラグ量等により脱炭吹錬後のP濃度に差異が出やすく、P濃度が0.01質量%以下の低りん鋼を安定して製造することができない。さらに、特許文献4に記載の方法は、吹錬中期から末期にかけて復りんしてしまう虞があり、P濃度が0.01質量%以下の低りん鋼を製造することは難しい。
【0013】
本発明は前述の問題点を鑑み、P濃度が0.01質量%以下の低りん鋼を低コストに、かつ安定して製造可能な転炉精錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、脱炭吹錬初期に上吹きランスから粉状CaOを吹き込むと、脱炭吹錬後半に復りんしてしまい、低りん鋼を安定して製造できないと考え、脱炭吹錬後半に粉状CaOを吹き付けることを前提に、より詳細な吹き付け条件について鋭意検討を行った。そこで、流体解析を行い、上吹きランスからの酸素ジェットと粉状CaOの軌跡を調査した。その結果、粉状CaOは直進性が高く、上吹きランスのノズル中心線の延長上に到達している一方で、酸素ジェットは多孔ノズルから吐出される他の酸素ジェットの影響を受け、縮合する傾向があるとの知見が得られた。このような知見から、粉状CaOの火点への供給割合の減少を抑えることによって、粉状CaOの吹き付けによる脱りん効果が向上すると考えた。
【0015】
さらに、本発明者らは、送酸速度を一定にして粉体の供給速度を変化させた条件、つまり、固気比を変えた条件で、同様に流体解析を行い、粉体の浴面における流速を比較した結果、浴面での粉体の流速が最大となる最適固気比の範囲が存在することを見出した。以上の流体解析の結果から、脱炭吹錬後半に粉状CaOを吹き付ける最適な条件を見出し、本発明に至った。
【0016】
本発明は以下の通りである。
[1]
複数のノズルを有する上吹きランスから酸素を溶鉄に吹き付けて脱炭吹錬を行う転炉精錬方法であって、
前記脱炭吹錬において吹き付ける全酸素量の70%以上の酸素を吹き付けた時点から、前記酸素とともに粉状CaOの吹き付けを開始し、
前記上吹きランスから吹き付ける粉状CaOの質量流量をA(kg/min)、前記粉状CaOとともに吹き付ける酸素の質量流量をB(kg/min)とした場合に、固気比(A/B)を0.5~1.25とし、かつ、
前記粉状CaOの吹き付けを行っている間、以下の(1)式~(3)式で定義される縮合率γが25%以下となるように制御することを特徴とする転炉精錬方法。
γ=100×(X-X')/X ・・・(1)
X=PCD/2+H×tanθ ・・・(2)
X'=PCD/2+(-1.68×10-8×n+4.57×10-8)×H2+(-2.89×10-5×n+3.81×10-5×θ-2.33×10-4)×H ・・・(3)
式中において、PCDはナット座ピッチ直径(mm)を表し、θは前記ノズルの中心軸と鉛直方向との間のノズル傾斜角(deg)を表す。Hは前記溶鉄の静止浴面から前記上吹きランスのノズル先端までの距離(mm)を表し、nは前記ノズルの孔数を表す。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、P濃度が0.01質量%以下の低りん鋼を低コストに、かつ安定して製造可能な転炉精錬方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態で用いる精錬炉の構造を説明するための図である。
図2】上吹きランスの先端部分の詳細な構造例を示す模式図である。
図3】上吹きランスからのジェットの広がりを説明するための図である。
図4】固気比と浴面における粉体粒子の速度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る転炉精錬方法について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態で用いる精錬炉の構造を説明するための図である。図1に示すように、精錬炉1は、炉体11と上吹きランス2とを有している。上吹きランス2は、鉛直方向(図1の上下方向)に昇降可能なランスである。炉体11は、上部に開口部12が形成された精錬容器であり、内側は耐火物に覆われている。上吹きランス2には、上端側に接続されるガス供給経路(不図示)から酸素ガスが供給され、下端に形成される少なくとも2つのノズル孔から酸素ガスのジェット3がスラグ4および溶鉄5に向けて噴射される。
【0020】
炉体11の底部には、底吹き羽口6が設けられ、この底吹き羽口から攪拌用のガスが炉体11内の溶鉄5に吹き込まれる。底吹き羽口の羽口数は特に限定されないが、通常は1つ以上5つ以下である。また、使用するガス種は大きく分けて、酸素ガスと不活性ガスが挙げられ、不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。底吹き羽口の形状としては、単管ノズル、二重管ノズル、集合管ノズル、ポーラスノズル等が挙げられる。使用するガス種が酸素の場合は、二重管ノズルの羽口の内管からO2ガス、内管と外管との間の間隙からCO2やN2、LPG等の冷却ガスを吹き込むことができる。
【0021】
図2は、上吹きランス2の先端部分の詳細な構造例を示す模式図である。図2(a)は、上吹きランス2の先端部分のランス中心軸に平行な面における断面構造例を示し、図2(b)は、上吹きランス2を鉛直方向の下側から見た構造例を示している。図2(a)において、上吹きランス2は外筒21、中管22および内管23の三重管で構成され、範囲24はノズル出口径、範囲25はノズル傾斜角を表している。なお、図2(a)では、ラバールノズルの例を示しているが、ストレートノズルであってもよく、ランス仕様に関しては、特に規定はない。
【0022】
また、図2(b)において、上吹きランス2は先端部分には周縁孔26および中心孔27を有しており、範囲28はPCD(Pitch Circle Diameter)を表している。PCDとは、ナット座ピッチ直径のことであり、同心円周上に沿って存在する周縁孔26の中心点を結ぶ円の直径のことである。図2(b)に示すように、上吹きランス2は先端部分に中心孔27を有しており、中心軸の周囲には、複数のノズルの出口である複数の周縁孔26があり、同心円状に配置されている。なお、周縁孔26は必ずしも同一円周上に配置する必要はなく、また、必ずしも等間隔に配置する必要もない。さらに、図2(b)では中心孔27を有しているノズルを例示したが、中心孔を有していなくてもよい。
【0023】
まず、粉状CaOの吹き付けを行う期間について説明する。本実施形態の転炉精錬方法においては、脱炭吹錬において吹き付けられる全酸素量の70%以上の酸素が吹き付けられた時点から、粉状CaOの吹き付けを開始する。ここで、粉状CaOとは、平均粒径500μm以下のCaO粉であり、脱炭吹錬とは、中間排滓の後で、転炉内にCaO源を追加した上で脱炭を行う工程であり、それ以外の脱炭条件については特に限定されるものではない。
【0024】
粉状CaOの吹き付けの開始時点が早すぎると、以下の問題が生じる。脱炭吹錬の早い段階から脱炭吹錬末期まで粉状CaOを吹き付けようとすると、必要な粉状CaOの量が過度に増加し、コストの面で不利である。一方で、コストを抑えるため、粉状CaOの吹き付けを早期に終了してしまうと、脱炭吹錬後半において復りんが生じてしまい、目的とする低りん鋼を製造することができなくなる。粉状CaO吹き付けが、脱炭吹錬において吹き付けられる全酸素量の70%以上の酸素が吹き付けられた時点から開始されることで、上記の問題が回避される。
【0025】
なお、脱炭吹錬において吹き付けられる全酸素量の95%超の酸素が吹き付けられた時点から粉状CaOの吹き付けを開始すると、粉状CaOの添加時間が短くなり、脱りん効果が不十分となる場合がある。また、脱炭吹錬において吹き付けられる全酸素量の70%以上の酸素が吹き付けられた時点から粉状CaOの吹き付けを開始した場合であっても、早い段階で粉状CaOの吹き付けを止めた場合も同様に脱りん効果が不十分となる場合がある。そこで、以下の(4)式で表される粉状CaOの吹付期間率を5%以上確保することが好ましい。
吹付期間率(%)=100×(粉状CaOの吹付中の酸素量(Nm3))/(脱炭吹錬において吹き付けられる全酸素量(Nm3)) ・・・(4)
【0026】
次に、粉状CaOを吹き付ける際の酸素ジェットの条件について説明する。図3は、上吹きランス2からの酸素ジェットの広がりを説明するための図である。ここで、図3を参照しながら各パラメータについて説明する。図3において、Hは溶鉄の静止浴面7から上吹きランス2の先端までの距離(ランス高さ)(mm)を表す。厳密には、ランス高さHは溶鉄の静止浴面7から上吹きランス2のノズル出口の中心までの距離である。Rは炉半径(mm)を表し、炉半径Rは主に溶鉄の静止浴面での半径を指している。PCDは前述したようにナット座ピッチ直径(mm)を表す。また、θはノズルの中心軸と鉛直方向との間のノズル傾斜角(deg)を表す。
【0027】
酸素ジェットの干渉度合いを定量評価するために、下記(1)式によって、酸素ジェットの縮合度γを定義する。酸素ジェットの縮合度γは以下のように計算する。まず、酸素ジェットが直線的に進み偏向しないものと仮定した場合の、溶鉄の静止浴面7の中心から上吹きランスのノズル中心線と溶鉄の静止浴面7との交点までの距離Xは、以下の(2)式により幾何学的に算出することができる。そして、酸素ジェットの干渉の影響を考慮して流体解析にて算出した、溶鉄の静止浴面7の中心から上吹きランスのノズルから噴出する酸素ジェット中心部の軌跡と溶鉄の静止浴面7との交点までの距離X'を用いることで、縮合度γを計算できる。縮合度γが低いほど酸素ジェットの独立性が高く、縮合度γが高いほど酸素ジェットが偏向し合体傾向が強くなっていることを表す。なお、距離X'は、酸素ジェットの軌跡を算出する流体解析ツールとしてFluent18.0(登録商標)を用いて、以下の(3)式により定義する。(3)式中のnは、上吹きランスのノズル孔数(周縁孔26の個数)を表す。
γ=100×(X-X')/X ・・・(1)
X=PCD/2+H×tanθ ・・・(2)
X'=PCD/2+(-1.68×10-8×n+4.57×10-8)×H2+(-2.89×10-5×n+3.81×10-5×θ-2.33×10-4)×H ・・・(3)
【0028】
ここで距離X'は、ノズル傾斜角、ノズル孔数、PCDを変化させた条件で流体解析を行うことにより求めたものである。具体的には、各条件下の距離X'をランス高さの二次関数と仮定し、定式化(X'=aH2+bH+PCD/2)した後に、係数aとbそれぞれについて、ノズル傾斜角、ノズル孔数を用いて回帰分析を行い、(3)式を導出した。
【0029】
一方で粉状CaOは酸素ジェットよりも直進性が高く、幾何学計算で算出した距離Xを中心に、ある程度広がりながら浴面に衝突すると考えられる。また、粉状CaOは、酸素ジェットの噴流が干渉・偏向したとしても、酸素ジェットへの追従性が悪い。そのため、縮合度γが大きくなるほど粉状CaOが火点に供給される割合が減少し、脱りん能に影響を及ぼすと考えられる。しかし、多孔ノズルを用いる限り、酸素ジェットは干渉の影響を受けるため、縮合度γを0とすることは実質不可能と考えられる。
【0030】
そこで、縮合度γを25%以下に制御すれば、火点にある一定量の粉状CaOを供給することができる。ランス高さが大きくなるほど縮合度γは大きくなることから、ランス高さHを下げることによって縮合率γを25%以下に制御することができ、脱りん率を増大させることができる。なお、上述したように距離X'は上吹きランスのノズル傾斜角θ、PCD、ノズル孔数nの影響を大きく受けるので、これらのパラメータを調整した上吹きランスを用いることによっても縮合度γを低くすることができる。
【0031】
一方で、上吹きランスのノズル傾斜角θが大きくなるほど、酸素ジェットにより耐火物が溶損するリスクが増大する。そのため、ノズル傾斜角θは25°以下とすることが好ましい。また、ノズル孔数nは、縮合度を低くする理由から5~8個とすることが好ましい。以上の点を考慮し、さらにランス高さも下げ過ぎると、ランスへの地金付着頻度が増大することから、縮合率γは15%以上とすることが好ましい。
【0032】
次に、酸素ジェットとともに吹き付ける粉状CaOの量について説明する。粉状CaOを酸素ジェットとともに溶銑に吹き付けることで、湯面上スラグとバルクメタルとの間で起こるパーマネント反応だけではなく、浴内に侵入した粉状CaOが浴内を浮上途中に溶銑を脱りんするトランジトリー反応の効果も享受できる。このため、粉状CaOを浴内に深く侵入させることが、脱りん反応に効果的であり、浴面上の粉体速度を増大させる必要がある。
【0033】
ここで、上吹きランスから吹き込む粉状CaOの質量流量をA(kg/min)とし、吹き込む酸素の質量流量をB(kg/min)としたときの固気比(A/B)と、浴面における粉体速度との関係の流体解析による結果を図4に示す。図4に示すように、固気比が大きくなり過ぎると、粉体の加速ができなくなり、浴面における粉体速度が減少する。
【0034】
一方で、固気比が小さすぎると、上吹きランスから吹き付けられる粉状CaOの量が減少するため、スラグ中への溶解速度が小さい塊状のCaOの量が相対的に増加する。これにより、CaOの滓化率が悪化し、脱りん反応が進行しにくくなる。流体解析の結果、固気比には最適範囲が存在し、その固気比の範囲は0.5~1.25の範囲であることが確認された。
【0035】
さらに、前述したように、縮合度γを25%以下に制御する方法としてランス高さを低くすることが有効であるが、浴面における粉体速度を増大させる観点からも、ランス高さを低くすることは有効である。このように、ランス高さを低くすることは、粉状CaOの火点供給量の増加および侵入深さの増大の二つの観点から脱りん反応に有利であるといえる。
【0036】
次に、脱炭吹錬におけるその他の条件について説明する。脱炭吹錬における酸素ジェットの流量は特に限定しないが、サイクルタイム短縮の理由から、酸素ジェットの流量は100~200Nm3/h・ton-steelの範囲とすることが好ましい。また、ノズル出口径についても特に限定しないが、ノズル出口径が小さいほど浴面における粉体速度が増加する。前述した範囲のノズル孔数、および酸素ジェットの流量の範囲から、ノズル出口径は40~80mmとすることが好ましい。
【0037】
また、本実施形態は、図1図3に示すように、上吹きランス2が炉体11の中心軸上に設置されている例について説明したが、寸法精度上、上吹きランス2の位置が中心軸上からずれていてもよい。意図的に上吹きランス2を中心軸上からずらして設置する場合、距離Xは幾何学的形状を考慮して計算すればよい。
【0038】
また、本実施形態は、1基の転炉で脱りん吹錬を行った後に、脱りんによって生成したスラグを中間排滓したうえで、同一の転炉で引き続き脱炭吹錬を行うプロセス(第3のプロセス)を前提として説明したが、第1の転炉で溶銑の脱りん吹錬を行い、その後第1の転炉から出湯した溶銑を第2の転炉に装入し、第2の転炉で脱炭吹錬を行うプロセス(第2のプロセス)で適用してもよい。また、1基の転炉でスラグを排滓(中間排滓)することなく脱りん吹錬と脱炭吹錬とを連続して行うプロセス(第1のプロセス)で適用することも可能であるが、脱りん吹錬と脱炭吹錬とを連続して行っているため、全吹錬期間の40%の段階から脱炭吹錬とみなし、脱炭吹錬において吹き付けられる全酸素量の70%以上の酸素が吹き付けられた時点から粉状CaOの吹き付けを開始するものとする。
【実施例0039】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0040】
まず、図1に示したような精錬炉として、炉半径R=5500mmの転炉を用意し、P濃度が0.12質量%程度の溶銑およびスクラップを合計で350t装入した。そして、フラックス等を添加し、ノズル孔数nが6、各ノズルの出口径が70mm、ノズル傾斜角θが23°、PCDが250mmの上吹きランスから酸素ジェットを吹き付けて脱りん吹錬を行い、生成されたスラグを中間排滓した。このとき、脱りん吹錬後の溶銑中P濃度は約0.060質量%であり、中間排滓率は50~70%であった。
【0041】
続いて、前記の上吹きランスから酸素ジェットを吹き付けて脱炭吹錬を実施し、脱炭吹錬の途中からさらに粉体CaOを酸素ジェットともに吹き付けた。脱炭吹錬では、ランス高さ、粉体供給速度、粉体吹付タイミング等をヒートによって変化させた。なお、脱炭吹錬での酸素ジェットの流量は157Nm3/h・ton-steelとした。また、脱炭吹錬では、以下の(5)式で表される脱炭吹錬時の装入塩基度は4.3、スラグ原単位は50kg/t、吹止時の溶鋼温度は1680℃、吹止時の溶鋼中C濃度は0.035質量%とした。
装入塩基度={C1×(1-(α/100))+C2}/{S1×(1-(α/100))+S2} ・・・(5)
C1:脱りん吹錬におけるCaO換算量(kg/ton-steel)
C2:脱炭吹錬におけるCaO換算量(kg/ton-steel)
S1:脱りん吹錬におけるSiO2換算量(kg/ton-steel)
S2:脱炭吹錬におけるSiO2換算量(kg/ton-steel)
α:中間排滓率(%)
【0042】
実験では、吹止時の溶鋼中P濃度が0.01質量%以下であった場合を○と評価し、P濃度が0.01質量%よりも高かった場合を×と評価した。表1に実験結果を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1中の下線は、本発明の範囲から外れていることを示す。実施例1~5は、粉状CaOの吹き付け開始タイミング、縮合率γおよび固気比が所定の条件を満たしていたため、吹止時の溶鋼中P濃度が0.01質量%以下であった。一方、比較例1では、粉状CaOの吹き付け開始タイミングが早すぎたため、粉状CaOの吹き付けが終了した後の脱炭吹錬末期で復りんが起こり、吹止時の溶鋼中P濃度が0.01質量%以下とならなかった。比較例2では、縮合率γが25%より大きかったため、粉状CaOの火点供給量が不足し、吹止時の溶鋼中P濃度が0.01質量%以下とならなかった。比較例3では、固気比が高すぎたため、粉体CaOの浴内への侵入深さが小さかったことから、吹止時の溶鋼中P濃度が0.01質量%以下とならなかった。同様に、比較例4~7は、縮合率、固気比、粉状CaOの吹き付け開始タイミングのうち、2つが所定の条件から外れていたため、いずれも吹止時の溶鋼中P濃度が0.01質量%以下とならなかった。
【符号の説明】
【0045】
1 精錬炉
2 上吹きランス
3 ジェット
4 スラグ
5 溶鉄
6 底吹き羽口
7 静止浴面
11 炉体
12 開口部
図1
図2
図3
図4