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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119346
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】アリルアルコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/60 20060101AFI20240827BHJP
   B01J 27/182 20060101ALI20240827BHJP
   C07C 33/03 20060101ALI20240827BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C07C29/60
B01J27/182 Z
C07C33/03
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026173
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智司
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 貴美
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 政史
(72)【発明者】
【氏名】岡村 淳志
(72)【発明者】
【氏名】永村 裕生
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA02B
4G169BB14A
4G169BB14B
4G169BC01A
4G169BC04B
4G169BC06B
4G169BD03A
4G169BD07A
4G169BD08A
4G169CB21
4G169CB63
4G169DA06
4G169EC03Y
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC13
4H006BA03
4H006BA04
4H006BA35
4H006BC10
4H006FE11
4H039CA22
4H039CG10
(57)【要約】
【課題】1,2-プロパンジオールを原料として、アリルアルコールを効率良く製造することができる新たなバイオアリルアルコールの製造方法を提供する。
【解決手段】アリルアルコールを製造する方法であって、該製造方法は、触媒存在下で、1,2-プロパンジオールからアリルアルコールを生成する反応工程を含み、該触媒は、アルカリ金属と、リン、ホウ素、及び硫黄からなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含むことを特徴とするアリルアルコールの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリルアルコールを製造する方法であって、
該製造方法は、触媒存在下で、1,2-プロパンジオールからアリルアルコールを生成する反応工程を含み、
該触媒は、アルカリ金属と、リン、ホウ素、及び硫黄からなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含む
ことを特徴とするアリルアルコールの製造方法。
【請求項2】
前記触媒は、アルカリ金属とリンを含むことを特徴とする請求項1に記載のアリルアルコールの製造方法。
【請求項3】
前記触媒は、アルカリ金属リン酸塩を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のアリルアルコールの製造方法。
【請求項4】
前記反応工程は、気相脱水反応であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアリルアルコールの製造方法。
【請求項5】
前記反応工程における反応温度は、250~500℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアリルアルコールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリルアルコールの製造方法に関する。詳しくは、プロパンジオールから効率良くアリルアルコールを製造することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止に向けた取組みが全世界的に活発に進められ、カーボンリサイクルの観点から各種化学品のバイオ化に注目が集まっている。なかでも、アリルアルコール(「2-プロペン-1-オール」)は、エピクロロヒドリンやジアリルフタレート樹脂の原料として工業的に大量に使用されており、そのバイオ化ニーズは高い。
【0003】
一方、グリセリンは、バイオディーゼル製造過程等で多量に副生され、比較的安価に入手できる。グリセリンは、1,2-プロパンジオールや1,3-プロパンジオールに誘導することが可能であり、これら誘導品も有用なバイオマス原料と考えることができる。更に、1,2-プロパンジオーや1,3-プロパンジオールは、上記したグリセリンを出発原料とする方法以外にも、糖の水素化分解等による製造方法も提案されており、将来的にはこれらは安価なバイオマス原料として多量に入手可能となると見込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/059745号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況を踏まえ、1,3-プロパンジオールを原料としたアリルアルコールの製造方法が提案されている(特許文献1)。しかし、1,2-プロパンジオールを原料としたバイオアリルアルコールの製造方法については、これまでに提案されていなかった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みて、1,2-プロパンジオールを原料として、アリルアルコールを効率良く製造することができる新たなバイオアリルアルコールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、アリルアルコール(「2-プロペン-1-オール」)の製造方法を種々検討したところ、1,2-プロパンジオールからアリルアルコールを生成する反応において、アルカリ金属と、リン、ホウ素、及び硫黄からなる群より選択される少なくとも一種の元素を含む触媒を用いることにより、アリルアルコールを効率良く製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の態様の発明を提供する。
[1]アリルアルコールを製造する方法であって、上記製造方法は、触媒存在下で、1,2-プロパンジオールからアリルアルコールを生成する反応工程を含み、上記触媒は、アルカリ金属と、リン、ホウ素、及び硫黄からなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含むことを特徴とするアリルアルコールの製造方法。
[2]上記触媒は、アルカリ金属とリンを含むことを特徴とする上記[1]に記載のアリルアルコールの製造方法。
[3]上記触媒は、アルカリ金属リン酸塩を含むことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のアリルアルコールの製造方法。
[4]上記反応工程は、気相脱水反応であることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれかに記載のアリルアルコールの製造方法。
[5]上記反応工程における反応温度は、250~500℃であることを特徴とする上記[1]~[4]のいずれかに記載のアリルアルコールの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアリルアルコールの製造方法によれば、1,2-プロパンジオールからアリルアルコールを効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0011】
<アリルアルコールの製造方法>
本発明は、アリルアルコール(「2-プロペン-1-オール」)を製造する方法であって、上記製造方法は、触媒存在下で、1,2-プロパンジオールからアリルアルコールを生成する反応工程を含み、上記触媒は、アルカリ金属と、リン、ホウ素、及び硫黄からなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含むことを特徴とするアリルアルコールの製造方法である。本発明のアリルアルコールの製造方法は、1,2-プロパンジオールからアリルアルコールを効率良く製造することができる。
【0012】
本発明のアリルアルコールの製造方法において、上述した特定の元素を含む触媒を使用することにより、1,2-プロパンジオールからアリルアルコールを効率良く製造できるのは、下記の理由によると推測される。すなわち、リン、ホウ素、硫黄から形成されるリン酸、ホウ酸、硫酸の酸性水素原子(プロトン)の一部、又は全部が、塩基性を示すアルカリ金属に置換され、酸点、塩基点が共存する触媒活性点が形成されることで、1,2-プロパンジオール選択脱水によるアリルアルコール生成が促進されると推測される。
【0013】
(触媒)
本発明のアリルアルコールの製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも称する。)において使用する触媒は、アルカリ金属と、リン、ホウ素、及び硫黄からなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含むことを特徴とする。このような特定の元素を含む化合物を触媒活性種として含む触媒を用いることで、1,2-プロパンジオールからアリルアルコールを効率良く製造することができる。
【0014】
上記アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられるが、活性がより高く、アリルアルコールをより効率良く製造することができる点で、リチウム、セシウムが好ましく、セシウムがより好ましい。
【0015】
上記触媒は、アルカリ金属と、リン、ホウ素、及び硫黄からなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含む。より高いアリルアルコール選択性が得られる点で、上記触媒は、アルカリ金属と、リン、及び、ホウ素からなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含むことがより好ましく、アルカリ金属とリンを含むことが更に好ましい。
【0016】
上記アルカリ金属と、リン、ホウ素、及び硫黄からなる群より選択される少なくとも一種の元素を含む化合物としては、リン酸、ホウ酸、又は、硫酸の部分中和物及び完全中和物が挙げられ、例えば、CsHPO、CsHPO、CsPO、LiHPO、LiHPO等のアルカリ金属リン酸塩、KHBO等のアルカリ金属ホウ酸塩、CsHSO等のアルカリ金属硫酸塩等が挙げられる。なかでも、アルカリ金属リン酸塩が好ましい。
【0017】
上記触媒は、上記アルカリ金属と、リン、ホウ素、及び硫黄からなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含む化合物を担体に担持したものであることが好ましい。
【0018】
上記担体としては、無機酸化物を含むものが挙げられ、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア等の金属酸化物を含むものが挙げられる。なかでも、上記無機酸化物としては、比表面積が大きい点で、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、ジルコニア(ZrO)、及び、セリア(CeO)からなる群より選択される少なくとも一種の金属酸化物が好ましく、化学的に不活性な表面を持ち、表面積が大きい点で、シリカがより好ましい。
【0019】
上記担体の形状は特に限定されず、例えば、球状、円柱状、破砕状等の形状であってよい。
上記担体のサイズは特に限定されず、反応器の大きさ等に応じて適宜選択すればよい。
【0020】
上記触媒中のアルカリ金属の含有量は、担体1モルに対して、0.01~0.3モルであることが好ましく、より好ましくは0.02~0.2モル、更に好ましくは0.02~0.1モルである。
【0021】
上記触媒中のリン、ホウ素、又は硫黄の含有量は、担体1モルに対して、0.01~0.9モルであることが好ましく、より好ましくは0.02~0.6モル、更に好ましくは0.02~0.3モルである。
【0022】
上記触媒中のアルカリ金属と、リン、ホウ素、又は硫黄とのモル比(アルカリ金属/リン、ホウ素、又は硫黄)は、高いアリルアルコール収率が得られる点で、好ましくは0.5/1~5/1であり、より好ましくは1/1~3/1であり、更に好ましくは1.5/1~2.5/1である。
【0023】
上記触媒の比表面積は、活性点を高分散に保持できる点で、好ましくは5~400m/gであり、より好ましくは10~300m/gであり、更に好ましくは20~300m/gである。
上記比表面積は、BET法により測定して得られる方法であり、具体的には実施例に記載の方法により求めることができる。
【0024】
上記触媒の酸強度Hは、より高いアリルアルコール選択率が得られる点で、好ましくは1.5以上、より好ましくは3.3以上、更に好ましくは4.8以上である。
上記触媒の塩基強度Hは、より高い活性が得られる点で、好ましくは9.3以下、より好ましくは7.2以下である。
上記酸強度H、及び、塩基強度Hは、ハメット指示薬法により測定して求めることができる。
【0025】
(触媒の調製方法)
上記触媒を調製する方法は、特に限定されないが、例えば、上記アルカリ金属リン酸塩を含む触媒を調製する方法としては、上記アルカリ金属リン酸塩を調製する工程、及び、上記アルカリ金属リン酸塩を上記担体に担持させる工程を含む方法が好ましく挙げられる。
【0026】
上記アルカリ金属リン酸塩を調製する工程としては、特に限定されず、公知の方法で行うことができ、例えば、リン酸塩以外のアルカリ金属塩と、リン酸又はリン酸塩とを混合してアルカリ金属リン酸塩を得る方法等が挙げられる。
【0027】
上記リン酸塩以外のアルカリ金属塩としては、例えば、アルカリ金属の硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、水酸化物、塩化物が挙げられる。
上記リン酸塩としては、例えば、リン酸水素二アンモニウム等のアンモニウム塩等が挙げられる。
【0028】
上記リン酸塩以外のアルカリ金属塩と、リン酸又はリン酸塩との混合は、溶媒中で行うことが好ましい。
上記溶媒としては、例えば、水(好ましくはイオン交換水、蒸留水等の純水)が挙げられる。
【0029】
上記リン酸塩以外のアルカリ金属塩とリン酸又はリン酸塩との混合割合は、調製しようとするアルカリ金属リン酸塩の種類等に応じて適宜調整すればよい。
【0030】
上記アルカリ金属リン酸塩を担体に担持させる工程としては、特に限定されず公知の方法で行うことができ、例えば、上記アルカリ金属リン酸塩を含む溶液に担体を接触させた後、乾燥、その後焼成する方法等が挙げられる。
【0031】
上記アルカリ金属リン酸塩を含む溶液に担体を接触させる方法としては、例えば、上記アルカリ金属リン酸塩を含む溶液に担体を浸漬したり、担体に上記アルカリ金属リン酸塩を含む溶液を少量ずつ含浸させたりする方法等が挙げられる。上記アルカリ金属リン酸塩を含む溶液に担体を接触させる際、後の乾燥工程で溶媒の除去が容易になる点で、白熱ランプを照射する等を行ってもよい。
【0032】
上記乾燥は、公知の方法で行うことができ、例えば、ヒーター等の公知の加熱手段で加熱して溶媒を蒸発させるとよい。
乾燥温度は、上記アルカリ金属リン酸塩を含む溶液の溶媒が蒸発する温度であればよく、例えば、水溶液の場合、好ましくは60~200℃、より好ましくは80~180℃、更に好ましくは100~150℃である。
【0033】
乾燥時間は、溶媒が十分に蒸発できるのであれば特に限定されず、例えば、好ましくは1~50時間、より好ましくは2~40時間、更に好ましくは4~20時間である。
【0034】
上記乾燥後に生成物を焼成して、酸化又は熱分解させることにより、上記アルカリ金属リン酸塩が担体に担持した触媒を調製することができる。
【0035】
焼成温度は、特に限定されず、アルカリ金属リン酸塩、担体の種類等に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは300~800℃、より好ましくは350~700℃、更に好ましくは400~600℃である。
【0036】
焼成時間は、好ましくは、1~10時間、より好ましくは2~8時間、更に好ましくは3~6時間である。
【0037】
上記アルカリ金属リン酸塩を含む触媒の調製方法において、上記アルカリ金属リン酸塩を調製する工程と、上記アルカリ金属リン酸塩を上記担体に担持させる工程とは同時に行ってもよい。例えば、上記リン酸塩以外のアルカリ金属塩の水溶液とリン酸との混合溶液に担体を浸漬し、乾燥させた後、焼成することにより、上記アルカリ金属リン酸塩を担体に担持させることができる。
【0038】
上記アルカリ金属リン酸塩を含む触媒の調製方法は、上述した工程以外に、触媒の調製方法において通常行われる他の工程を含んでいてもよい。
【0039】
(反応工程)
本発明の製造方法では、触媒として、上述した触媒以外の他の触媒を更に含んでいてもよい。上記他の触媒としては、所望の反応を触媒するものであれば特に限定されず、公知の触媒を使用することができる。
【0040】
反応工程において、使用する触媒総量100質量%に対して、上述した触媒の使用量は90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。
【0041】
本発明のアリルアルコールの製造方法では、上述した触媒の存在下で、1,2-プロパンジオールからアリルアルコールを生成する反応工程を含む。
上記反応工程は、触媒を設置した反応器内に、原料として、1,2-プロパンジオールを供給して行う方法が好ましい。
【0042】
上記反応工程は、気相脱水反応であることが好ましい。上記気相脱水反応は、1,2-プロパンジオールと触媒とを気相接触反応させて、1,2-プロパンジオールを脱水する反応である。このような反応により、アリルアルコールが生成される。
【0043】
上記反応工程において使用する反応器は、特に制限されず、固定床、移動床、流動床等のどのような形式であってもよいが、固定床流通式であることが好ましい。
【0044】
上記反応工程の反応温度は、250~500℃であることが好ましい。上記反応工程の反応温度は、高転化率が得られる点で、より好ましくは300~475℃であり、更に好ましくは325~450℃である。
なお、上記反応工程における「反応温度」とは、原料ガスを流通した状態での触媒層の温度を意味する。
【0045】
上記反応工程の反応圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれであっても実施できるが、通常は常圧からやや加圧の雰囲気で行うことが好ましい。
【0046】
上記反応工程において、空間速度は、アリルアルコールへの転化が良好となる点で、100~20000h-1であることが好ましく、200~10000h-1であることがより好ましく、500~8000h-1であることが更に好ましい。
上記空間速度は、触媒層に供給される反応ガスの供給速度(mL/h)を、触媒層体積(mL)で除することで求めることができる。なお、触媒層に供給される反応ガスの供給速度(mL/h)は、標準状態(0℃、1気圧)での供給速度を用いる。
【0047】
上記反応工程は、不活性ガス流通下で行ってもよい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス(N)、アルゴンガス、ヘリウムガス、又は、それらの混合ガス等の反応に供しない不活性のガスが挙げられる。
【0048】
不活性ガス流通下で反応を行う場合、触媒に供給される1,2-プロパンジオールと不活性ガス(希釈ガス)に占める1,2-プロパンジオールのモル分率が0.01~0.9となるように上記不活性ガスを供給することが好ましい。上記モル分率は、より好ましくは0.05~0.8であり、更に好ましくは0.1~0.6である。
【0049】
本発明のアリルアルコールの製造方法は、上記反応工程以外に、濃縮工程、精製工程等、アリルアルコールの製造方法において通常行われる公知の工程を含んでいてもよい。
【0050】
本発明のアリルアルコールの製造方法において、1,2-プロパンジオールからアリルアルコールへの転化率は、25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、35%以上であることが更に好ましい。
なお、上記転化率(モル%)は、100-(出口1、2-プロパンジオールモル流速/入口1、2-プロパンジオールモル流速)により求めることができる。
【0051】
以上のとおり、本発明のアリルアルコールの製造方法は、1,2-プロパンジオールからアリルアルコールを効率良く生成することができる。
【実施例0052】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
(触媒1)
リン酸水素二アンモニウム((NHHPO、ナカライテスク社製)0.139gと塩化セシウム(CsCl、ナカライテスク社製)0.177gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.9gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらリン酸水素二アンモニウムと塩化セシウムを溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒1の組成は、モル比でCs/P/SiO=0.0333/0.0333/1であった。
下記の方法により測定した比表面積は251.9m/gであった。ハメット指示薬法により酸強度H、塩基強度Hを測定したところ、酸強度H+3.3(Methyl yellow)までの酸点の存在が確認され、塩基点についてはH+7.2(Bromothymol Blue)でも塩基色を示さず、H+7.2以上の塩基点が存在しないことがわかった。
【0054】
[BET比表面積の測定方法]
株式会社マウンテック社製の全自動BET比表面積測定装置 Macsorb1210を用いて、以下条件にてBET1点法で測定した。
前処理温度:200℃
前処理時間:1時間
測定手法:流動法
吸着ガス:窒素(30vol%N2/He)
測定温度:-195.8℃
【0055】
(触媒2)
触媒1の調製における塩化セシウム(CsCl、ナカライテスク社製)0.177gを0.266gに変更した以外は触媒1と同様にして触媒2を調製した。得られた触媒2の組成は、モル比でCs/P/SiO=0.05/0.0333/1であった。
上記の方法により測定した比表面積は200.7m/gであった。ハメット指示薬法により酸強度H、塩基強度Hを測定したところ、酸強度H+4.8(Methyl red)までの酸点、塩基点についてはH+7.2(Bromothymol Blue)までの塩基点が存在することがわかった。
【0056】
(触媒3)
触媒1の調製における塩化セシウム(CsCl、ナカライテスク社製)0.177gを0.355gに変更した以外は触媒1と同様にして触媒3を調製した。得られた触媒3の組成は、モル比でCs/P/SiO=0.0666/0.0333/1であった。
上記の方法により測定した比表面積は178.7m/gであった。ハメット指示薬法により酸強度H、塩基強度Hを測定したところ、酸強度H+4.8(Methyl red)までの酸点、塩基点についてはH+7.2(Bromothymol Blue)までの塩基点が存在することがわかった。
【0057】
(触媒4)
触媒1の調製における塩化セシウム(CsCl、ナカライテスク社製)0.177gを0.443gに変更した以外は触媒1と同様にして触媒4を調製した。得られた触媒4の組成は、モル比でCs/P/SiO=0.0833/0.0333/1であった。
上記の方法により測定した比表面積は153.2m/gであった。ハメット指示薬法により酸強度H、塩基強度Hを測定したところ、酸強度H+4.8(Methyl red)までの酸点、塩基点についてはH+7.2(Bromothymol Blue)までの塩基点が存在することがわかった。
【0058】
(触媒5)
触媒1の調製における塩化セシウム(CsCl、ナカライテスク社製)0.177gを0.532gに変更した以外は触媒1と同様にして触媒5を調製した。得られた触媒5の組成は、モル比でCs/P/SiO=0.0999/0.0333/1であった。
上記の方法により測定した比表面積は106.2m/gであった。ハメット指示薬法により酸強度H、塩基強度Hを測定したところ、酸強度H+4.8(Methyl red)までの酸点、塩基点についてはH+7.2(Bromothymol Blue)までの塩基点が存在することがわかった。
【0059】
(触媒6)
リン酸水素二アンモニウム((NHHPO、ナカライテスク社製)0.243gと硝酸リチウム(LiNO、ナカライテスク社製)0.253gを20mLの0.1N硝酸水溶液に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.8gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらリン酸水素二アンモニウムと硝酸リチウムを溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒6の組成は、モル比でLi/P/SiO=0.123/0.0613/1であった。
上記の方法により測定した比表面積は258.9m/gであった。ハメット指示薬法により酸強度H、塩基強度Hを測定したところ、酸強度H+1.5(Benzeneazodiphenylamine)までの酸点、塩基点についてはH+7.2(Bromothymol Blue)でも塩基色を示さず、H+7.2以上の塩基点が存在しないことがわかった。
【0060】
(触媒7)
塩化セシウム(CsCl、ナカライテスク社製)0.177gを20mLの蒸留水に溶解した。担体のシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)1.9gを蒸発皿に移した。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながらリン酸水素アンモニウムと塩化セシウムを溶解した水溶液をスポイトで滴下し、水分を蒸発させた。すべて滴下した後、110℃で一晩乾燥させ、500℃で3時間焼成した。得られた触媒7の組成は、モル比でCs/SiO=0.0333/1であった。
上記の方法により測定した比表面積は245.6m/gであった。ハメット指示薬法により酸強度H0、塩基強度H-を測定したところ、酸強度H+6.8(Neutral red)で酸性色を示さず、また、H+7.2(Bromothymol Blue)でも塩基色が観察されなかった。このことから、塩化セシウムのみをSiOに担持した触媒7では、酸点、塩基点がほぼ存在しないことがわかった。
【0061】
(実施例1)
触媒1(0.5g)をガラス製の固定床流通式反応器に充填し、窒素30cm/分の流通下、400℃で1時間前処理を行った。反応温度に設定後、1,2-プロパンジオールを1.8g/時間で供給してアリルアルコールの製造反応を開始した。反応器出口ガスは氷水浴に配置されたトラップに導入し、ここで未反応原料、生成物を捕集した。トラップで捕集された液体成分はGC-FIDにより定量分析を行った。トラップで捕集されない気体生成物についてはGC-TCDに導入して分析した。これら分析結果より、以下式により転化率、選択率を算出した。
転化率(%)=100-(出口1、2-プロパンジオールモル流速/入口1、2-プロパンジオールモル流速)
選択率(%)=100×[(生成物モル流速×生成物の炭素数)/(転化した1、2-プロパンジオールモル流速×3)]
反応は5時間継続し、1時間毎に反応成績を計測した。400℃で得られた反応結果を表1に示す。なお、表1の結果は、1~5時間の計測値の平均値である。
【0062】
(実施例2)
触媒1の代わりに触媒2を使用した以外は実施例1と同様にして、400℃で1,2-プロパンジオールからのアリルアルコール製造反応を実施した。得られた結果を表1に示した。
【0063】
(実施例3)
触媒1の代わりに触媒3を使用した以外は実施例1と同様にして、375、400、425℃で1,2-プロパンジオールからのアリルアルコール製造反応を実施した。得られた結果を表1に示した。
【0064】
(実施例4)
触媒1の代わりに触媒4を使用した以外は実施例1と同様にして、400℃で1,2-プロパンジオールからのアリルアルコール製造反応を実施した。得られた結果を表1に示した。
【0065】
(実施例5)
触媒1の代わりに触媒5を使用した以外は実施例1と同様にして、375、400℃で1,2-プロパンジオールからのアリルアルコール製造反応を実施した。得られた結果を表1に示した。
【0066】
(実施例6)
触媒1の代わりに触媒6を使用した以外は実施例1と同様にして、400℃で1,2-プロパンジオールからのアリルアルコール製造反応を実施した。得られた結果を表1に示した。
【0067】
(比較例1)
触媒1の代わりに、何も担持していないシリカ(SiO、富士シリシア社製CARiACT Q-10)を使用した以外は実施例1と同様にして、400℃で1,2-プロパンジオールからのアリルアルコール製造反応を実施した。得られた結果を表1に示した。
なお、ここで使用したシリカについて、液体窒素温度での窒素吸着量より測定した比表面積は306m/gであった。ハメット指示薬法により酸強度H、塩基強度Hを測定したところ、酸強度H+3.3(Methyl yellow)までの酸点の存在が確認され、塩基点についてはH+7.2(Bromothymol Blue)でも塩基色を示さず、塩基点がほぼ存在しないことがわかった。
【0068】
(比較例2)
触媒1の代わりに触媒7を使用した以外は実施例1と同様にして、400℃で1,2-プロパンジオールからのアリルアルコール製造反応を実施した。得られた結果を表1に示した。
【0069】
【表1】
【0070】
表中の記載は、下記のとおりである。
AAL:アリルアルコール
PO:プロピレンオキサイド
PAL:プロピオンアルデヒド
PL:プロピレン
【0071】
表1より、アルカリ金属であるセシウムと、リンを含有する触媒1~5を用いて、375℃、400℃、又は425℃で1,2-プロパンジオールを反応させると、高い転化率で反応が進行し、アリルアルコールが高選択的に生成することがわかる(実施例1~5)。アルカリ金属成分としてリチウムと、リンを含有する触媒6を用いた場合でも、高い転化率で反応が進行し、かつ、アリルアルコールが高選択的に生成することがわかる(実施例6)。
【0072】
一方、SiOのみでは、反応はほとんど進行しなかった(比較例1)。SiOにアルカリ金属であるセシウムのみを担持した触媒7では、SiOのみを用いた場合に比べていくらか転化率は上昇するものの、その転化率は「15.7%」と非常に低い値であり、アリルアルコール選択率は「4.5%」と僅かであった(比較例2)。
【0073】
以上より、アルカリ金属とリンを含む触媒を用いることで、1,2-プロパンジオールから効率良くアリルアルコールを製造できることがわかる。