(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119357
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】オフフレーバーが抑制された発酵アルコール飲料
(51)【国際特許分類】
C12G 3/02 20190101AFI20240827BHJP
【FI】
C12G3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026198
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】白鞘 大志
(72)【発明者】
【氏名】太田 拓
(72)【発明者】
【氏名】吉田 聡
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115AG09
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、実質的にホップを使用しない発酵アルコール飲料であって、ヤギの体臭様のオフフレーバー、及び、チーズ様のオフフレーバーなどのオフフレーバーが抑制された発酵アルコール飲料、及びその製造方法等を提供することにある。
【解決手段】イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下の発酵アルコール飲料の製造において、pH3.4~4.6に調整した発酵前液を発酵させて発酵後液を得る工程を含むことを特徴とする、前記発酵アルコール飲料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下の発酵アルコール飲料の製造において、
pH3.4~4.6に調整した発酵前液を発酵させて発酵後液を得る工程を含むことを特徴とする、前記発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
発酵前液のpH3.4~4.6への調整が、無機酸、有機酸、及び、それらの塩からなる群から選択される1種又は2種以上を含有させることを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
発酵前液が、麦芽を含まず、酵母エキス及び植物タンパク分解物からなる群から選択される1種以上であるものを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
発酵前液が、麦芽を含まず、酵母エキス、豆類タンパク分解物、穀類タンパク分解物及びイモ類タンパク分解物からなる群から選択される1種以上であるものを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の製造方法によって製造された、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下の発酵アルコール飲料。
【請求項6】
イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下の発酵アルコール飲料の製造において、
pH3.4~4.6に調整した発酵前液を発酵させて発酵後液を得る工程を含むことを特徴とする、前記発酵アルコール飲料において、ヤギの体臭様のオフフレーバー、及び、チーズ様のオフフレーバーを抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフフレーバーが抑制された発酵アルコール飲料、及びその製造方法等に関する。より詳細には、実質的にホップを使用しない発酵アルコール飲料であって、ヤギの体臭様のオフフレーバー、及び、チーズ様のオフフレーバーなどのオフフレーバーが抑制された発酵アルコール飲料、及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵アルコール飲料である、ビールや発泡酒は、主原料として麦芽を、副原料として米、麦、コーン、スターチ等の澱粉質原料、及びこれにホップ、水を原料として製造されるが、日本の酒税法においては、ビールは、水を除く麦芽使用量が50重量%以上66.7重量%未満及び、25重量%以上50重量%未満及び、25重量%未満の3種類が規定されている。
【0003】
ビールも発泡酒も、いずれも麦芽の活性酵素や、カビ等由来の精製された酵素を用いて、麦芽や副原料である澱粉質を糖化させ、この糖化液を発酵させて、アルコールと炭酸ガスに分解して、アルコール飲料としているものである点で共通している。従って、ビールの作り方も、発泡酒の作り方も、その基本においては、大きく変わるものではない。
【0004】
一方、発泡性を有するその他の発泡性酒類には、「その他の醸造酒(発泡性)」や「リキュール(発泡性)」がある。発泡性のその他の醸造酒は、麦又は麦芽を使用せず、マメ類、穀類などの植物タンパク質等を酵素で分解して必要とする窒素源を得、糖化液を加えて発酵させるものである。従って、「発泡性のその他の醸造酒」の作り方についてもビール又は発泡酒の作り方と基本的に大きく変わるものではなく、ビール又は発泡酒の製造装置を使用してつくることが可能である。
【0005】
近年、ビールや発泡酒及びその他の醸造酒のような発酵アルコール飲料において、香味の多様化等の目的から、種々の原料、種々の添加物を用いて、多種の味覚及び風味を有する発酵アルコール飲料の製造方法が開示されている。麦芽以外の原料を用いるものとして、例えば、麦汁を、小麦、馬鈴薯、トウモロコシ、もろこし、大麦、米、又はタピオカから得たデンプンに基くグルコースシロップ及び可溶性タンパク質材料、水及びホップから調製し、これを発酵させてビールタイプ飲料を製造する方法(特許文献1)、米、麦、ヒエ、アワなどの穀類を原料として、低アルコールの発酵飲料を製造する方法(特許文献2)等が開示されている。また、大豆タンパク分解物を、発酵アルコール飲料の製造に際しての、ビール酵母による発酵のための窒素源として利用することが知られている(特許文献3)。
【0006】
ところで、麦芽及びホップを使用したビール様麦芽飲料において、麦汁煮沸をpH3.5を超えてpH4.4以下で行うことによって、旨味やコク感を有し、不快臭を示さず、しかも穀物香が低減されたビール様麦芽飲料を製造する方法が記載されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-37462号公報
【特許文献2】特開2001-37463号公報
【特許文献3】特開2006-238877号公報
【特許文献4】特開2014-33638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
実質的にホップを使用しない発酵アルコール飲料において、ヤギの体臭様のオフフレーバー、及び、チーズ様のオフフレーバーなどのオフフレーバーが特に問題となっていた。
本発明の課題は、実質的にホップを使用しない発酵アルコール飲料であって、ヤギの体臭様のオフフレーバー、及び、チーズ様のオフフレーバーなどのオフフレーバーが抑制された発酵アルコール飲料、及びその製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意検討した結果、実質的にホップを使用しない発酵アルコール飲料の製造において、pH3.4~4.6に調整した発酵前液を発酵させて発酵後液を得ることによって、ヤギの体臭様のオフフレーバー、及び、チーズ様のオフフレーバーなどのオフフレーバーを抑制できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下の発酵アルコール飲料の製造において、
pH3.4~4.6に調整した発酵前液を発酵させて発酵後液を得る工程を含むことを特徴とする、前記発酵アルコール飲料の製造方法;
(2)発酵前液のpH3.4~4.6への調整が、無機酸、有機酸、及び、それらの塩からなる群から選択される1種又は2種以上を含有させることを含む、上記(1)に記載の製造方法;
(3)発酵前液が、麦芽を含まず、酵母エキス及び植物タンパク分解物からなる群から選択される1種以上であるものを含む、上記(1)又は(2)に記載の製造方法;
(4)発酵前液が、麦芽を含まず、酵母エキス、豆類タンパク分解物、穀類タンパク分解物及びイモ類タンパク分解物からなる群から選択される1種以上であるものを含む、上記(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法;
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の製造方法によって製造された、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下の発酵アルコール飲料;
(6)イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下の発酵アルコール飲料の製造において、
pH3.4~4.6に調整した発酵前液を発酵させて発酵後液を得る工程を含むことを特徴とする、前記発酵アルコール飲料において、ヤギの体臭様のオフフレーバー、及び、チーズ様のオフフレーバーを抑制する方法;
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、実質的にホップを使用しない発酵アルコール飲料であって、ヤギの体臭様のオフフレーバー、及び、チーズ様のオフフレーバーなどのオフフレーバーが抑制された発酵アルコール飲料、及びその製造方法等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、
[1]イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下の発酵アルコール飲料の製造において、pH3.4~4.6に調整した発酵前液を発酵させて発酵後液を得る工程を含むことを特徴とする、前記発酵アルコール飲料の製造方法;(以下、「本発明の製造方法」とも表示する。);
[2]本発明の製造方法によって製造された、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下の発酵アルコール飲料(以下、「本発明の飲料」とも表示する。);
[3]イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下の発酵アルコール飲料の製造において、pH3.4~4.6に調整した発酵前液を発酵させて発酵後液を得る工程を含むことを特徴とする、前記発酵アルコール飲料において、ヤギの体臭様のオフフレーバー、及び、チーズ様のオフフレーバーを抑制する方法(以下、「本発明の抑制方法」とも表示する。);
等の実施態様を含む。
【0013】
(本発明の発酵アルコール飲料)
本発明の飲料としては、本発明の製造方法によって製造された、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下の発酵アルコール飲料である限り、特に制限されない。
【0014】
本明細書において「発酵アルコール飲料」とは、炭素源、窒素源、および水などを原料として酵母により発酵させたアルコール含有炭酸飲料をいう。本発明の飲料のアルコール度数としては、特に制限されず、例えば0.1(v/v)%以上、1(v/v)%以上、又は、3(v/v)%以上が挙げられる。アルコール度数の上限として、例えば12(v/v)%以下、8(v/v)%以下、又は、6(v/v)%以下が挙げられる。なお、本発明の飲料は、蒸留酒を含有していなくてよいが、蒸留酒を含有していてもよい。
【0015】
本発明の発酵アルコール飲料は、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下である。イソα酸はホップを使用したビールや麦汁に多く含まれる苦味成分であるので、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下である発酵アルコール飲料は、「ホップに由来する成分を実質的に含まない」発酵アルコール飲料であることを意味する。
なお、本明細書において、「ホップに由来する成分を実質的に含まない」とは、発酵アルコール飲料を製造する際に、原材料として、ホップおよびホップに由来する成分をいずれも積極的に添加しないことを意味し、発酵アルコール飲料の製造の際にホップ由来の成分が不可避的に混入する態様は包含する。原材料として、ホップおよびホップに由来する成分をいずれも積極的に添加しない場合、製造される発酵アルコール飲料におけるイソα酸の含有量は例えば0.1質量ppm以下となる。
また、発酵アルコール飲料の原材料として、ホップおよびホップに由来する成分が積極的に添加されているか否かは、酒税法、食品表示法、食品衛生法、JAS法、景品表示法、健康増進法あるいは業界団体が定めた規約や自主基準等によって定められた原材料表示から確認することもできる。例えば、ホップおよびホップに由来する成分が含まれている場合、原材料表示の原材料名に「ホップ」のように表記される。一方、「ホップに由来する成分を実質的に含まない」発酵アルコール飲料では、原材料表示の原材料名に「ホップ」との表記がされない。
【0016】
本発明の飲料は、麦芽飲料であっても、非麦芽飲料であってもよいが、本発明の意義をより多く享受する観点から、非麦芽飲料であることが好ましく、「その他の醸造酒(発泡性)(1)」に分類される飲料であることがより好ましい。本明細書において、「麦芽飲料」とは、原料の一部として麦芽を使用して製造される飲料を意味し、「非麦芽飲料」とは、原料の一部として麦芽を使用することなく製造される飲料を意味する。また、本発明の飲料は、清酒、果実酒、甘味果実酒であってもよいが、清酒、果実酒、甘味果実酒でないことが好ましい。上記の「清酒」としては、米を原料として発酵させたアルコール飲料が挙げられ、中でも、本願出願日当時に日本で有効な酒税法でいう清酒が挙げられる。酒税法でいう清酒とは、以下に掲げる酒類でアルコール分が22度(22v/v%)未満のものである。
(イ)米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの。
(ロ)米、米こうじ、水及び清酒かすその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの。但し、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む)の重量の100分の50を超えないものに限る。
(ハ)清酒に清酒かすを加えて、こしたもの。
上記の「果実酒」及び「甘味果実酒」としては、果実を原料として発酵させたアルコール飲料が挙げられ、中でも、本願出願日当時に日本で有効な酒税法でいう果実酒や甘味果実酒が挙げられる。果実酒としては、ワイン、シードルなどが挙げられる。
【0017】
(本発明の製造方法)
本発明の製造方法としては、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下の発酵アルコール飲料の製造において、pH3.4~4.6に調整した発酵前液を発酵させて発酵後液を得る工程を含むことを特徴とする、前記発酵アルコール飲料の製造方法である限り、特に制限されない。
【0018】
本発明の飲料は、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下の発酵アルコール飲料の製造において、pH3.4~4.6に調整した発酵前液を発酵させて発酵後液を得る工程を含むこと以外は、一般的な発酵アルコール飲料と同様にして製造することができる。そこで、一般的な発酵アルコール飲料の製造方法を説明する。
【0019】
発酵工程を経て製造される発酵アルコール飲料は、一般的には、仕込、発酵、貯酒、濾過の工程により製造することができる。
【0020】
(発酵前液)
本明細書において「発酵前液」としては、それを酵母で発酵させることによって、発酵アルコール飲料を製造することができる液体である限り特に制限されないが、酵母が資化可能な炭素源、及び、窒素源、並びに水を含む液体が好ましく挙げられる。かかる発酵前液としては、例えば、仕込工程によって調製される発酵前液が挙げられる。かかる仕込工程としては、穀物原料及び糖質原料からなる群より選択される1種以上の原料(以下、「穀物原料等」とも表示する。)から、発酵前液を調製する方法が挙げられる。なお、発酵前液は、発酵原料液ということもできる。
【0021】
発酵前液を調製する方法としては、特に制限されず、糖質原料を単に水に含有させて発酵前液を調製する方法や、穀物原料等と水とを含む混合物を加温し、澱粉質を糖化して糖液を調製した後、得られた糖液を煮沸し、その後、固体分の少なくとも一部を除去して発酵前液を調製する方法などが挙げられる。
【0022】
上記の糖質原料としては、糖類、すなわち、比較的低分子で水に溶け、一般に甘味を有する炭水化物が挙げられる。糖質原料としては、平成11年6月25日付けの酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達第3条において規定される糖類、すなわち、「三糖類以下で水に溶け一般に甘味を有する炭水化物又はこれらのものの混合物」であることが好ましい。糖質原料とする糖類は、単糖類、二糖類及び三糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種であってよく、さらに四糖以上の糖類を含んでいてもよい。単糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、タガトース等が挙げられる。二糖類としては、例えば、ショ糖、ラクトース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、セロビオース等が挙げられる。三糖類としては、例えば、マルトトリオース、イソマルトトリオース、ラフィノース等が挙げられる。四糖以上の糖類としては、例えば、スタキオース、マルトテトラオース等が挙げられる。好ましい糖質原料として、例えば、グルコース、フルクトース、マルトース、マルトトリオース等が挙げられる。
糖類の形態は、例えば、粉末状、顆粒状、ペースト状、液状等であってもよい。液状の糖類としては、例えば、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、高果糖液糖、砂糖混合異性化液糖等の液糖であってもよい。糖類はグラニュー糖又は上白糖であってもよい。
【0023】
上記の穀物原料としては、大麦、小麦、ライ麦、燕麦、及びこれらの麦芽等の麦類、米、トウモロコシ、大豆等の豆類、イモ類等が挙げられるが、香味バランスを整えるのが難しく、本発明の意義をより多く享受する観点から、麦芽ではない穀物原料、すなわち、米、トウモロコシ、大豆等の豆類、イモ類が好ましく挙げられ、大豆等の豆類、トウモロコシがより好ましく挙げられ、大豆、トウモロコシがさらに好ましく挙げられる。穀物原料は、穀物シロップ、穀物エキス等として用いることもできるが、粉砕処理して得られる穀物粉砕物として用いることもできる。穀物類の粉砕処理は、常法により行うことができる。穀物粉砕物としては、麦芽粉砕物、コーンスターチ、コーングリッツ等のように、粉砕処理の前後において通常なされる処理を施したものであってもよい。本発明においては、用いられる穀物粉砕物は、麦芽粉砕物であってもよい。麦芽粉砕物は、大麦、例えば二条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものであってよい。また、本発明において用いられる穀物原料としては、1種類の穀物原料であってもよく、複数種類の穀物原料を混合したものであってもよい。例えば、主原料として麦芽粉砕物を、副原料として米、トウモロコシ、豆類、及び、イモ類からなる群から選択される1種又は2種以上の粉砕物を用いてもよいし、主原料として、米、トウモロコシ、豆類、及び、イモ類からなる群から選択される1種を、副原料として、前記群から選択されるその他の1種又は2種以上を用いてもよい。
【0024】
上記の窒素源としては、酵母エキス、植物タンパク分解物、動物タンパク分解物などが挙げられる。本明細書において、植物タンパク分解物とは、植物に由来するタンパクの分解物である。すなわち、植物タンパク分解物は、植物に由来するタンパクを加水分解することにより得られる。植物タンパクの加水分解は、例えば、酵素処理、酸処理又はアルカリ処理により行われる。植物タンパク分解物は、植物ペプチドを含む。植物タンパク分解物は、さらに遊離アミノ酸及び植物タンパクからなる群より選択される1以上を含んでもよい。
【0025】
植物タンパク分解物は、植物のタンパク分解物であれば特に限られないが、例えば、豆類、穀類及びイモ類からなる群より選択される1以上のタンパク分解物であることが好ましく、豆類タンパク分解物からなる群より選択される1以上であることが特に好ましい。これらのタンパク分解物としては、プロテアーゼ等の酵素で分解した物が好ましく挙げられる。なお、本明細書における「植物タンパク分解物」には、米のタンパク分解物、及び、果実のタンパク分解物のいずれも包含されない。
【0026】
上記の豆類タンパク分解物としては、例えば、大豆、エンドウ、小豆、黒豆、緑豆、大正金時、トラ豆、ヒヨコ豆、ソラ豆、ウズラ豆、ハナ豆、ヒラ豆及びヒタシ豆からなる群より選択される1以上のタンパク分解物が挙げられ、大豆タンパク分解物及びエンドウタンパク分解物からなる群より選択される1以上であることが好ましく挙げられ、大豆タンパク分解物がより好ましく挙げられる。
【0027】
上記の穀類タンパク分解物としては、例えば、トウモロコシ、米類及び麦類からなる群より選択される1以上のタンパク分解物であることが挙げられ、トウモロコシタンパク分解物が好ましく挙げられる。上記の麦類タンパク分解物としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦及び燕麦からなる群より選択される1以上のタンパク分解物が挙げられ、大麦タンパク分解物及び小麦タンパク分解物からなる群より選択される1以上であることが好ましく挙げられる。
【0028】
なお、豆類タンパク分解物、穀類タンパク分解物及びイモ類タンパク分解物は、発芽していない豆類、穀類又はイモ類に由来するタンパクの分解物であってもよいし、発芽した豆類、穀類又はイモ類に由来するタンパクの分解物であってもよい。
【0029】
本明細書において、動物タンパク分解物とは、動物に由来するタンパクの分解物である。すなわち、動物タンパク分解物は、動物に由来するタンパクを加水分解することにより得られる。動物タンパクの加水分解は、例えば、酵素処理、酸処理又はアルカリ処理により行われる。動物タンパク分解物は、動物ペプチドを含む。動物タンパク分解物は、さらに遊離アミノ酸及び動物タンパクからなる群より選択される1以上を含んでもよい。
【0030】
動物タンパク分解物は、動物のタンパク分解物であれば特に限られないが、例えば、乳タンパク、食肉、魚肉、動物性コラーゲン、動物の卵からなる群から選択される1以上のタンパク分解物であることが挙げられ、乳タンパクの分解物が好ましく挙げられる。これらのタンパク分解物としては、プロテアーゼ等の酵素で分解した物が好ましく挙げられる。
【0031】
本発明における発酵前液の好適な態様として、「麦芽以外の穀物原料及び糖質原料からなる群より選択される1種以上の原料」、「窒素源」、及び、「水」を含む発酵前液が好ましく挙げられ、中でも、「糖質原料」、「酵母エキス及び植物タンパク分解物からなる群から選択される1種以上であるもの」、及び、「水」を含む発酵前液がより好ましく挙げられ、「糖質原料」、「植物タンパク分解物からなる群から選択される1種以上であるもの」、及び、「水」を含む発酵前液がさらに好ましく挙げられ、「糖質原料」、「大豆タンパク分解物」、及び、「水」を含む発酵前液がより好ましく挙げられ、「グルコース」、「マルトース」、「大豆タンパク分解物」、「酵母エキス」、及び、「水」を含む発酵前液が特に好ましく挙げられる。また、これらの発酵前液において、pH調整剤として、リン酸を用いることが好ましい。
【0032】
上記の発酵前液には、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で、穀物原料等、水、窒素源以外に、飲料に通常配合され得る副原料を加えてもよい。当該副原料としては、例えば、高甘味度甘味料、酸化防止剤、塩類、食物繊維、果汁、苦味料、着色料、香草、香料等が挙げられる。また、必要に応じて、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ等の糖化酵素や、プロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。これらの各原料は、一般に市販されているものを使用することができる。なお、かかる副原料は、発酵後液に加えてもよい。
【0033】
上記の高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。
【0034】
上記の酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。
【0035】
上記の塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどを用いることができる。
【0036】
上記の食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
【0037】
本発明における発酵前液の糖度としては、特に制限されないが、例えば3~30°P、7~25°Pなどが挙げられる。発酵前液の糖度は、使用する穀物原料等の量や、使用する水の量を調整することによって調整することができる。
【0038】
(発酵前液におけるpHの調整)
本発明における発酵前液としては、pH3.4~4.6に調整した発酵前液である限り、特に制限されないが、ヤギの体臭様のオフフレーバー、及び、チーズ様のオフフレーバーなどのオフフレーバーをより多く抑制する観点から、pH3.4~4.2であることが好ましい。
【0039】
本発明において、発酵前液のpHを調整する方法は特に制限されないが、発酵前液を調製するいずれかの段階で、pH調整剤を発酵前液に含有させる方法が挙げられる。本明細書においてpH調整剤としては、発酵前液のpHを調整し得る物質である限り、特に制限されないが、例えば、無機酸、有機酸、及び、それらの塩からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられ、中でも、リン酸、希硫酸、希塩酸、亜硫酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、酢酸、アスコルビン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、アジピン酸、及び、それらの塩からなる群から選択される1種又は2種以上が好ましく挙げられ、中でも、リン酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、酢酸、アスコルビン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、及び、アジピン酸からなる群から選択される1種又は2種以上がより好ましく挙げられ、中でも、リン酸、及び、乳酸からなる群から選択される1種又は2種がさらに好ましく挙げられ、中でも、リン酸がより好ましく挙げられる。上記の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩が挙げられる。pH調整剤は市販されているものを用いることができる。
【0040】
本発明において、pH調整剤の使用量としては、本発明における発酵前液のpHが3.4~4.6である限り特に制限されず、用いる穀物原料等の種類や量、並びに、用いるpH調整剤の種類などに応じて、適宜設定することができる。
【0041】
本明細書において、pHは、20℃におけるpHを指し、pHメーター(例えば、本体機器「HM-41X」;電極「ST-5741C」;いずれも東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて常法により測定することができる。
【0042】
(発酵前液の発酵)
本発明の製造方法や、本発明の抑制方法は、pH3.4~4.6に調整した発酵前液を発酵させて発酵後液を得る工程を含んでいる。発酵前液を発酵させる方法は、常法を用いることができ、例えば、発酵前液に酵母を接種してアルコール発酵を行う方法が好ましく挙げられる。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母Saccharomyces cerevisiaeであってもよく、下面発酵酵母Saccharomyces pastorianusであってもよい。
【0043】
アルコール発酵開始時の酵母の密度は特に制限されないが、例えば、1×106個/mL以上、3×109個/mL以下とすることができる。酵母は、アルコール発酵を行う酵母であれば特に限られず、例えば、ビール酵母、ワイン酵母、焼酎酵母及び清酒酵母からなる群より選択される1以上が挙げられる。アルコール発酵の条件は、発酵前液中において酵母によるアルコール発酵が行われる条件であれば特に制限されないが、例えば、当該発酵前液を0℃以上、40℃以下の温度で、1日以上、14日以下の時間維持することにより行うことができる。
【0044】
(発酵後液)
発酵前液を発酵することによって、発酵後液を得ることができる。発酵後液から、常法によって、発酵アルコール飲料を製造することができる。例えば、発酵後液を例えば5℃以下の低温条件下で貯蔵した後、濾過工程によって、酵母及び不溶性のタンパク質などを除去することにより、発酵アルコール飲料を製造することができる。当該濾過処理は、酵母を濾過除去可能な手法であればよく、例えば、珪藻土濾過、平均孔径が0.4~1.0μm程度のフィルターによるフィルター濾過等が挙げられる。
【0045】
また、発酵後液に、任意の添加物を添加してもよい。例えば、水や、蒸留酒を添加して、アルコール度数を調整してもよい。
【0046】
(容器詰め)
製造された発酵アルコール飲料は、容器に充填することができる。本発明の飲料を充填する容器としては、特に限定されるものではない。具体的には、ガラス瓶、缶、可撓性容器等が挙げられる。可撓性容器としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の可撓性樹脂を成形してなる容器が挙げられる。可撓性容器は、単層樹脂からなるものであってもよく、多層樹脂からなるものであってもよい。
【0047】
容器に充填された容器詰発酵アルコール飲料は、必要に応じて、加熱殺菌処理されてもよい。加熱殺菌処理は、保管中の微生物増殖を防ぐために十分な殺菌強度であればよく、発酵アルコール飲料のアルコール濃度等を考慮して適宜決定することができる。例えば、60~85℃で0.5~60分間程度、好ましくは60~80℃で1~30分間程度、より好ましくは60~70℃で5~15分間程度の加熱殺菌処理を行うことができる。
【0048】
(本発明の抑制方法)
本発明の抑制方法としては、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下の発酵アルコール飲料の製造において、pH3.4~4.6に調整した発酵前液を発酵させて発酵後液を得る工程を含むことを特徴とする、前記発酵アルコール飲料において、ヤギの体臭様のオフフレーバー、及び、チーズ様のオフフレーバーを抑制する方法である限り、特に制限されない。
【0049】
本発明の抑制方法は、本発明の発酵アルコール飲料、及び、本発明の製造方法に関する記載に従って実施することができる。
【0050】
(オフフレーバーの抑制)
本発明の飲料は、ヤギの体臭様のオフフレーバー、及び、チーズ様のオフフレーバーが抑制された発酵アルコール飲料である。本明細書において「ヤギの体臭様のオフフレーバー」とは、ヤギの体臭のようなオフフレーバーを意味する。「ヤギの体臭様のオフフレーバー」は発酵アルコール飲料や清酒の官能評価において「脂肪酸臭」としても知られる不快臭であり、主にカプロン酸などに起因すると考えられる。一方、本明細書において「チーズ様のオフフレーバー」とは、腐敗したチーズのようなオフフレーバーを意味する。「チーズ様のオフフレーバー」は、主に酪酸などに起因すると考えられる。また、本発明の飲料は、「ヤギの体臭様のオフフレーバー」、及び、「チーズ様のオフフレーバー」以外のオフフレーバーも抑制されていることが好ましい。「全体的なオフフレーバー」としては、上述のヤギの体臭様オフフレーバーとチーズ様のオフフレーバーに加えて、イチゴミルク様のオフフレーバー、鼻の奥を刺激する酸臭オフフレーバーのようなオフフレーバーが挙げられる。
【0051】
本明細書において、「オフフレーバーが抑制された」飲料としては、用いる発酵前液のpHが3.4~4.6に調整されていないこと、好ましくは、用いる発酵前液のpHが5.5以上であること以外は、同種の原料を同じ最終濃度となるように用いて同じ製法で製造した飲料(以下、「コントロール飲料」とも表示する。)と比較して、オフフレーバーが抑制された飲料などが挙げられる。
【0052】
ある飲料における、オフフレーバーの程度や、かかるオフフレーバーの程度が本発明におけるコントロール飲料と比較してどのようであるか(例えば、オフフレーバーが抑制されているかどうか、どの程度抑制されているか)は、訓練されたパネルであれば、容易かつ明確に決定することができる。
【0053】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例0054】
試験1.[発酵前液のpHの、発酵アルコール飲料のオフフレーバーへの影響]
発酵前液のpHが、発酵アルコール飲料のオフフレーバーにどのような影響を与えるかを、以下の実験により調べた。
【0055】
(1.発酵アルコール飲料の調製)
大豆タンパク質2.3kgと酵母エキス1.23kgを300Lの湯中に投入して混合した後、市販のプロテアーゼを添加してタンパク質分解液を得た。次に、液糖を含む湯の中に、前述のタンパク質分解液を加えて糖度を18.9°Pに調整し、15分程度煮沸した。その後、再度、冷水を加えて糖度を12.6°Pに調整し、冷却することで仕込み液(仕込液A)を得た。この仕込液A(pH6.5)を対照区(試験区1)用の仕込液とした。一方、仕込液Aにリン酸をそれぞれ所定量添加して、試験区2用の仕込液(pH5.5)、試験区3用の仕込液(pH4.6)、試験区4用の仕込液(pH4.4)、試験区5用の仕込液(pH4.2)、試験区6用の仕込液(pH4.0)、試験区7用の仕込液(pH3.8)、試験区8用の仕込液(pH3.4)、試験区9用の仕込液(pH2.8)を得た。試験区1~9用の各仕込液にビール酵母を添加し、1週間発酵させて、アルコール濃度約5.5v/v%の発酵アルコール飲料(試験区1~9)を得た。なお、試験区1の発酵アルコール飲料は、コントロール飲料である。また、試験区1~9の発酵アルコール飲料は、原材料として、ホップおよびホップに由来する成分をいずれも用いていない。
【0056】
(2.酪酸濃度、及び、カプロン酸濃度の測定)
試験区1~9の各発酵アルコール飲料において、酪酸濃度、及び、カプロン酸濃度を測定した。その結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
(3.官能評価試験)
試験区1~9の各発酵アルコール飲料の3種類のオフフレーバーの程度について、訓練した専門パネル6名によって、以下の表2に記載されるような9段階の評価基準でそれぞれ官能評価試験を行った。官能評価の対照としては、コントロール飲料である、試験区1の発酵アルコール飲料を用いた。また、上記の3種類のオフフレーバーとは、(1)主にカプロン酸に由来するヤギの体臭様のオフフレーバー、(2)主に酪酸に由来するチーズ様のオフフレーバー、(3)全体的なオフフレーバーである。全体的なオフフレーバーとしては、ヤギの体臭様オフフレーバーとチーズ様のオフフレーバーに加えて、イチゴミルク様のオフフレーバー、鼻の奥を刺激する酸臭オフフレーバーを評価した。なお、9段階のうち、いずれの1段階の差も、同程度のオフフレーバーの差とした。また、各試験区の飲料におけるオフフレーバーの程度の評価としては、各パネルの評価点の平均値の小数第2位を四捨五入した値を採用した。
【0059】
【0060】
試験区1~9の各発酵アルコール飲料についてのオフフレーバーの官能評価試験の結果を表3に示す。
【0061】
【0062】
表3の結果から、発酵前液のpHが3.4~4.6である場合(試験区3~8)は、発酵前液のpHが6.5である場合(対照;試験区1)と比較して、3種類のオフフレーバー(ヤギの体臭様のオフフレーバー、チーズ様のオフフレーバー、全体的なオフフレーバー)が好ましく抑制されており、発酵前液のpHが3.4~4.2である場合(試験区5~8)は、より好ましく抑制されていることが示された。
なお、ヤギの体臭様のオフフレーバー、及び、チーズ様のオフフレーバーは、それぞれ主にカプロン酸、及び、酪酸に由来すると考えられる。表3の試験区3~8において、試験区1(対照)と比較して、ヤギの体臭様のオフフレーバーや、チーズ様のオフフレーバーが抑制されたことは、表1の試験区3~8において、試験区1(対照)と比較して酪酸濃度、及び、カプロン酸濃度が低下したことが寄与していると考えられた。
本発明によれば、実質的にホップを使用しない発酵アルコール飲料であって、ヤギの体臭様のオフフレーバー、及び、チーズ様のオフフレーバーなどのオフフレーバーが抑制された発酵アルコール飲料、及びその製造方法等を提供することができる。