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特開2024-119364合わせガラスの製造方法、機能性フィルム、及び合わせガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119364
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】合わせガラスの製造方法、機能性フィルム、及び合わせガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20240827BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C03C27/12 N
B32B17/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026213
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】523220503
【氏名又は名称】セントラル硝子プロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】森 直也
(72)【発明者】
【氏名】坂田 元気
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 健介
【テーマコード(参考)】
4F100
4G061
【Fターム(参考)】
4F100AA01
4F100AA01B
4F100AG00
4F100AG00A
4F100AJ04
4F100AJ04E
4F100AK01
4F100AK01B
4F100AK25
4F100AK25D
4F100AK51
4F100AK51B
4F100AK51D
4F100AK53
4F100AK53B
4F100AK53D
4F100AR00C
4F100AR00D
4F100AS00C
4F100AT00E
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100CB00
4F100CB00B
4F100GB32
4F100JB14
4F100JB14D
4F100JB16
4F100JB16B
4F100JD06
4F100JD06C
4F100JD10
4F100JD10C
4F100JL11
4F100JL11B
4F100JN10C
4F100JN18
4F100JN18C
4G061AA26
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB16
4G061CB19
4G061CD02
4G061CD03
4G061CD18
4G061DA23
4G061DA32
4G061DA36
(57)【要約】
【課題】機能層を劣化因子から保護するのに適する合わせガラスの製造方法を提供すること。
【解決手段】基材、保護層、機能層及び接着剤層がこの順に積層された機能性フィルムと、ガラス板αとガラス板βとを準備し、ガラス板αに前記接着剤層を接触させて、前記機能性フィルムを前記ガラス板αに貼り付け、前記機能性フィルムから前記基材を除去して保護層を露出させ、前記保護層を覆うように樹脂中間膜を設け、ガラス板βを前記樹脂中間膜によって貼り合わせて合わせガラスを製造する、合わせガラスの製造方法。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、保護層、機能層及び接着剤層がこの順に積層された機能性フィルムと、ガラス板αとガラス板βとを準備し、
ガラス板αに前記接着剤層を接触させて、前記機能性フィルムを前記ガラス板αに貼り付け、
前記機能性フィルムから前記基材を除去して保護層を露出させ、
前記保護層を覆うように樹脂中間膜を設け、ガラス板βを前記樹脂中間膜によって貼り合わせて合わせガラスを製造する、合わせガラスの製造方法。
【請求項2】
前記機能層は、位相差層、偏光反射層、赤外反射層、赤外吸収層、又は可視光線吸収層である請求項1に記載の合わせガラスの製造方法。
【請求項3】
前記機能層は、液晶材料を含む光学機能層である請求項1に記載の合わせガラスの製造方法。
【請求項4】
前記液晶材料がネマティック液晶である請求項3に記載の合わせガラスの製造方法。
【請求項5】
前記保護層は、硬化性樹脂層、熱可塑性樹脂層、又は無機材料層である請求項1又は2に記載の合わせガラスの製造方法。
【請求項6】
前記硬化性樹脂層が、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びポリエンポリチオール樹脂からなる群から選択された少なくとも1種である請求項5に記載の合わせガラスの製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂層が、(メタ)アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート及びトリアセチルセルロースからなる群から選択された少なくとも1種である請求項5に記載の合わせガラスの製造方法。
【請求項8】
前記保護層、前記機能層及び前記接着剤層の厚さの合計が35μm以下である請求項1又は2に記載の合わせガラスの製造方法。
【請求項9】
前記機能性フィルムを前記ガラス板αの表面の一部にのみ貼り付ける、請求項1又は2に記載の合わせガラスの製造方法。
【請求項10】
前記接着剤層の厚さが100μm以下である、請求項1又は2に記載の合わせガラスの製造方法。
【請求項11】
前記接着剤層には可塑剤が含まれない、請求項1又は2に記載の合わせガラスの製造方法。
【請求項12】
前記樹脂中間膜が可塑剤を20重量%以上含む、請求項1又は2に記載の合わせガラスの製造方法。
【請求項13】
前記ガラス板α及び前記ガラス板βが湾曲している、請求項1又は2に記載の合わせガラスの製造方法。
【請求項14】
基材、保護層及び機能層がこの順に積層された機能性フィルム。
【請求項15】
前記機能層上にさらに接着剤層が設けられた請求項14に記載の機能性フィルム。
【請求項16】
前記接着剤層には可塑剤が含まれない、請求項15に記載の機能性フィルム。
【請求項17】
ガラス板αと、ガラス板βと、前記ガラス板αが前記ガラス板βと対向する面に貼り付けられた機能性フィルムと、前記ガラス板αと前記ガラス板βの間にある樹脂中間膜とを備える合わせガラスであって、
前記機能性フィルムは、接着剤層、機能層及び保護層がこの順に積層されてなり、前記接着剤層が前記ガラス板αに貼り付けられており、
前記保護層の主面が前記樹脂中間膜に覆われている、合わせガラス。
【請求項18】
基材、機能層及び接着剤層がこの順に積層された機能性フィルムと、ガラス板αとガラス板βとを準備し、
ガラス板αに前記接着剤層を接触させて、前記機能性フィルムを前記ガラス板αに貼り付け、
前記機能性フィルムから前記基材を除去して機能層を露出させ、
前記機能層上に保護層を形成し、
前記保護層を覆うように樹脂中間膜を設け、ガラス板βを前記樹脂中間膜によって貼り合わせて合わせガラスを製造する、合わせガラスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合わせガラスの製造方法、機能性フィルム、及び合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に対しヘッドアップディスプレイ(以下HUDと記載)機能を搭載する開発が行われている。HUDとは、自動車のウィンドシールドやコンバイナーといった透明板に映像を投影し、透明板に形成される虚像を運転手が認識することによって、運転手が運転中に視線をあまり動かさずに自動車の情報を取得することができる技術である。
現在は透明板を楔型にしたタイプと、透明板に偏光映像を投影するタイプに大別される。偏光映像を投影するタイプでは、透明板内に偏光の挙動を操作する機能層が設けられることが多い。
【0003】
特許文献1には、機能層として使用可能な光学フィルムとして、(A)光学機能層と(B)ブロック層とを備える光学フィルムが記載されている。(B)ブロック層は、(B-1)熱可塑性樹脂と(B-2)紫外線硬化樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物とされている。(B)ブロック層を設けることにより、(A)光学機能層として設けられる位相差素子を劣化因子から保護することができるとされている。
【0004】
また、自動車のフロントガラスに熱線反射機能を持たせるため、特許文献2及び特許文献3には、熱線反射フィルム等の機能性フィルムを2枚の中間膜に挟持して合わせガラスに挟み込むことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2021/039394号
【特許文献2】特開2009-035439号
【特許文献3】特開2009-035440号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において、光学フィルム10は2枚の中間膜201に挟持された構成であり、かつ、劣化因子は合わせガラス用中間膜に含まれる可塑剤であるため、光学機能層を劣化因子から保護するためには、光学機能層の両面にブロック層を設けるか、一方の面にブロック層102を有し、他方の面が支持基板であるようにするなどして、光学機能層の両面を保護する必要があった。
【0007】
また、特許文献2及び特許文献3においても、中間膜の可塑剤に由来して、熱線反射フィルムが劣化する可能性があった。
【0008】
本開示は、上記の問題に対応するためになされたものであり、機能層を劣化因子から保護するのに適する合わせガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、機能層の両面に中間膜を設けるのではなく、機能層の片面をガラスに貼り付けることで機能層と中間膜の接触面をガラス貼り付け面の反対側のみとし、そこに保護膜を設けることで、機能層の保護を達成できることを見出し、本開示を完成させるに至った。
【0010】
本開示は次のとおりである。
【0011】
本開示(1)は、基材、保護層、機能層及び接着剤層がこの順に積層された機能性フィルムと、ガラス板αとガラス板βとを準備し、ガラス板αに前記接着剤層を接触させて、前記機能性フィルムを前記ガラス板αに貼り付け、前記機能性フィルムから前記基材を除去して保護層を露出させ、前記保護層を覆うように樹脂中間膜を設け、ガラス板βを前記樹脂中間膜によって貼り合わせて合わせガラスを製造する、合わせガラスの製造方法である。
【0012】
本開示(2)は、前記機能層は、位相差層、偏光反射層、赤外反射層、赤外吸収層、又は可視光線吸収層である(1)に記載の合わせガラスの製造方法である。
【0013】
本開示(3)は、前記機能層は、液晶材料を含む光学機能層である(1)又は(2)に記載の合わせガラスの製造方法である。
【0014】
本開示(4)は、前記液晶材料がネマティック液晶である(3)に記載の合わせガラスの製造方法である。
【0015】
本開示(5)は、前記保護層は、硬化性樹脂層、熱可塑性樹脂層、又は無機材料層である(1)~(4)のいずれかに記載の合わせガラスの製造方法である。
【0016】
本開示(6)は、前記硬化性樹脂層が、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びポリエンポリチオール樹脂からなる群から選択された少なくとも1種である(5)に記載の合わせガラスの製造方法である。
【0017】
本開示(7)は、前記熱可塑性樹脂層が、(メタ)アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート及びトリアセチルセルロースからなる群から選択された少なくとも1種である(5)又は(6)に記載の合わせガラスの製造方法である。
【0018】
本開示(8)は、前記保護層、前記機能層及び前記接着剤層の厚さの合計が35μm以下である(1)~(7)のいずれかに記載の合わせガラスの製造方法である。
【0019】
本開示(9)は、前記機能性フィルムを前記ガラス板αの表面の一部にのみ貼り付ける、(1)~(8)のいずれかに記載の合わせガラスの製造方法である。
【0020】
本開示(10)は、前記接着剤層の厚さが100μm以下である、(1)~(9)のいずれかに記載の合わせガラスの製造方法である。
【0021】
本開示(11)は、前記接着剤層には可塑剤が含まれない、(1)~(10)のいずれかに記載の合わせガラスの製造方法である。
【0022】
本開示(12)は、前記樹脂中間膜が可塑剤を20重量%以上含む、(1)~(11)のいずれかに記載の合わせガラスの製造方法である。
【0023】
本開示(13)は、前記ガラス板α及び前記ガラス板βが湾曲している、(1)~(12)のいずれかに記載の合わせガラスの製造方法である。
【0024】
本開示(14)は、基材、保護層及び機能層がこの順に積層された機能性フィルムである。
【0025】
本開示(15)は、前記機能層上にさらに接着剤層が設けられた(14)に記載の機能性フィルムである。
【0026】
本開示(16)は、前記接着剤層には可塑剤が含まれない、(15)に記載の機能性フィルムである。
【0027】
本開示(17)は、ガラス板αと、ガラス板βと、前記ガラス板αが前記ガラス板βと対向する面に貼り付けられた機能性フィルムと、前記ガラス板αと前記ガラス板βの間にある樹脂中間膜とを備える合わせガラスであって、前記機能性フィルムは、接着剤層、機能層及び保護層がこの順に積層されてなり、前記接着剤層が前記ガラス板αに貼り付けられており、前記保護層の主面が前記樹脂中間膜に覆われている、合わせガラスである。
【0028】
本開示(18)は、基材、機能層及び接着剤層がこの順に積層された機能性フィルムと、ガラス板αとガラス板βとを準備し、ガラス板αに前記接着剤層を接触させて、前記機能性フィルムを前記ガラス板αに貼り付け、前記機能性フィルムから前記基材を除去して機能層を露出させ、前記機能層上に保護層を形成し、前記保護層を覆うように樹脂中間膜を設け、ガラス板βを前記樹脂中間膜によって貼り合わせて合わせガラスを製造する、合わせガラスの製造方法である。
【発明の効果】
【0029】
本開示によって、機能層を劣化因子から保護するのに適する合わせガラスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1A図1B図1C図1D、及び図1Eは、本開示の合わせガラスの製造方法の工程の一例を模式的に示す工程図である。
図2図2は、保護層、機能層及び接着剤層の厚さの合計値と透視ひずみの関係を示すグラフである。
図3図3は、本開示の合わせガラスを含むヘッドアップディスプレイ装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図4図4は、本開示の合わせガラスを含むヘッドアップディスプレイ装置の構成の別の一例を模式的に示す断面図である。
図5図5A図5B図5C図5D、及び図5Eは、本開示の合わせガラスの製造方法の工程の一例を模式的に示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本開示の実施形態に係る合わせガラスの製造方法、機能性フィルム及び合わせガラスについて図面を用いて説明する。
また、上記合わせガラスを用いたヘッドアップディスプレイ装置についてもそれぞれ図面を用いて説明する。
【0032】
[本開示の合わせガラスの製造方法の第一の態様]
本明細書には、本開示の合わせガラスの製造方法として2つの態様を記載している。
本開示の合わせガラスの製造方法のうちの第一の態様は、基材、保護層、機能層及び接着剤層がこの順に積層された機能性フィルムと、ガラス板αとガラス板βとを準備し、ガラス板αに前記接着剤層を接触させて、前記機能性フィルムを前記ガラス板αに貼り付け、前記機能性フィルムから前記基材を除去して保護層を露出させ、前記保護層を覆うように樹脂中間膜を設け、ガラス板βを前記樹脂中間膜によって貼り合わせて合わせガラスを製造する、合わせガラスの製造方法である。
以下、本開示の合わせガラスの製造方法のうちの第一の態様について説明する。以下の説明で、単に本開示の合わせガラスの製造方法という場合は本開示の合わせガラスの製造方法のうちの第一の態様を意味する。
【0033】
図1A図1B図1C図1D、及び図1Eは、本開示の合わせガラスの製造方法の工程の一例を模式的に示す工程図である。
【0034】
本開示の合わせガラスの製造方法で使用する機能性フィルムについて説明する。
図1A及び図1Bには機能性フィルムを準備する手順の一例を示している。図1Aには、基材90、保護層60及び機能層50が積層された機能性フィルム1aを示しており、図1Bには、機能性フィルム1aの機能層50上に接着剤層40が形成された機能性フィルム1bを示している。
【0035】
本開示の合わせガラスの製造方法では、基材、保護層、機能層及び接着剤層がこの順に積層された機能性フィルム(図1Bに示す機能性フィルム1b)を準備する。
【0036】
基材としては、(メタ)アクリル樹脂(PMMA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等が挙げられる。
基材は透明なシートであってもよく、非透明なシートであってもよい。
【0037】
基材はガラス板への機能性フィルムの貼り付けの作業性を安定させるためにある程度の厚さを有していることが好ましく、基材の厚さは40μm以上であることがより好ましく、60μm以上であることがさらに好ましい。一方、基材の厚さは200μm以下であってもよい。
機能性フィルムが合わせガラスの一部に設けられる場合、基材、保護層、機能層及び接着剤層の厚さの合計が大きくなるため、基材を残した状態で合わせガラスを作製してしまうと、機能性フィルムの輪郭部分での透視ひずみが大きくなってしまう。特に、基材の厚さが40μm以上である場合は、本開示の合わせガラスの製造方法の第一の態様のように、基材を除去してから合わせガラスを作製するのが好ましい。
【0038】
保護層は、中間膜の可塑剤から機能層を保護する役割を有しており、可塑剤が透過しにくい性質を有している層である。
保護層としては、硬化性樹脂層、熱可塑性樹脂層、又は無機材料層が挙げられる。
保護層が硬化性樹脂層である場合、シリコン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びポリエンポリチオール樹脂などが挙げられるが、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びポリエンポリチオール樹脂からなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
硬化性樹脂層の硬化性としては、UV硬化性、熱硬化性、湿気硬化性等が挙げられる。硬化性樹脂がこれらの硬化性のうちの複数の性質を有していてもよい。
保護層が熱可塑性樹脂層である場合、熱可塑性樹脂層が、(メタ)アクリル樹脂(PMMA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)からなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
これらの樹脂材料からなる保護層は、樹脂材料を含む樹脂溶液を基材に塗布し、必要に応じて硬化することにより形成することができる。
【0039】
保護層が樹脂層である場合、架橋密度が高い樹脂層であることが好ましい。保護層である樹脂層の架橋密度が高いと中間膜に含まれる可塑剤が保護層を透過しにくいために、保護層を設ける効果がより効果的に発揮される。樹脂層の架橋密度としては5.00×10-4[mol/cm]以上であることが好ましく、2.00×10-3[mol/cm]以上であることがより好ましい。また、2.00×10-1[mol/cm]以下であってもよい。
【0040】
保護層が樹脂層である場合、樹脂のガラス転移温度が高い樹脂層であることが好ましい。樹脂のガラス転移温度としては20℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。また、200℃以下であってもよい。
【0041】
保護層が無機材料層である場合、金属、金属酸化物、金属窒化物などの膜が挙げられる。金属としては、ZnAl、Ti、NiCr、Nb、ステンレス鋼などが挙げられる。金属酸化物としてはシリカ、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、インジウムスズ酸化物等が挙げられる。金属窒化物としては、窒化シリコン、窒化アルミニウム、窒化チタンなどが挙げられる。これらの無機材料層からなる保護層はスパッタリング、湿式コーティング等の方法により形成することができる。
【0042】
また、保護層がフィルムやシートであってもよく、基材に保護層を積層して保護層を形成することや、基材と保護層が一体化したフィルムを用いることができる。フィルムやシートの材質としては、保護層の材料として挙げた硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、基材の材質として挙げた樹脂等を使用することができる。
なお、アクリル樹脂は屈折率がガラスと近く、エポキシ樹脂は高い保護性能を持つため、アクリル樹脂とエポキシ樹脂が積層構造となるフィルムを用いると好ましい。
【0043】
保護層の厚さは2~30μmであることが好ましく、3~20μmであることが好ましい。保護層の厚さが2μm以上であると可塑剤の透過を充分に防止することができる。一方、保護層を過度に厚くしても可塑剤の透過防止能は向上せず、光歪みの原因となり得るので、保護層の厚さが30μm以下であることが好ましい。
【0044】
なお、基材と保護層の間に、基材を除去する際に基材がはがれやすくなるような離型層があってもよい。例えば、基材の表面をシリコン樹脂やフッ素樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂などで表面処理することなどが考えられる。
【0045】
基材に保護層を形成した後、保護層上に機能層を形成する。機能層としては、以下の(A)~(D)の機能のうちの少なくとも1つの機能を有する層であることが好ましい。
(A)光の位相又は振動方向を変化させる
(B)光に含まれる特定の振動方向又は回転方向の光を透過及び/又は反射する
(C)光に含まれる赤外線を吸収、透過及び/又は反射する
(D)光に含まれる可視光線を吸収又は反射する
【0046】
機能層が(A)の光の位相又は振動方向を変化させる機能を有する場合、機能層は例えば位相差層(1/2λ層、1/4λ層など)であり、機能性フィルムは位相差フィルムとなる。
位相差層としては液晶材料を含む液晶層を使用できる。位相差層としては、配向処理したポリエチレンテレフタレート(PET)やトリアセチルセルロース(TAC)等の透明プラスチックシートなどの基材フィルム上に、液晶材料を塗布し、熱処理や光処理などで液晶配向を固定化したものなどを使用できる。配向処理のために基材上に形成する配向膜は、ポリイミドやポリビニルアルコールを塗布乾燥させた後にナイロン布などで一方向に擦る(ラビング)か、光配向性材料を塗布乾燥させた後に偏光照射することで形成することができる。なお、配向膜を用いずに配向させる方法として、基材表面を直接ラビングすることや、配向性液晶を偏光照射することもできる。基材上に形成した保護層に対してラビングなどを行い液晶材料の配向膜として使用することもできる、
液晶材料として、ポリエステル、ポリアミド、ポリエステルイミド等の主鎖型液晶ポリマーや、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリマロネート、ポリエーテル等の側鎖型液晶ポリマーや、重合性液晶等が挙げられる。重合性液晶とは、分子内に重合性基を有する液晶材料である。
また、位相差層としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー等のプラスチックフィルムを一軸又は二軸延伸した位相差フィルムも用いることができる。
【0047】
機能層が(B)の光に含まれる特定の振動方向又は回転方向の光を透過及び/又は反射する機能を有する場合、機能層は例えば偏光層、偏光反射層などであり、機能性フィルムは偏光フィルム又は偏光反射フィルムとなる。
偏光層としては、ヨウ素化合物分子を含むPVA(ポリビニルアルコール)層を使用できる。偏光層としては、PVA(ポリビニルアルコール)にヨウ素化合物分子を吸着させ、延伸してヨウ素化合物分子が一方向に配向したものを使用できる。基材フィルムに上記のPVA層を積層することで、偏光フィルムとなる。
偏光反射層としては、コレステリック液晶を含む液晶層を使用することができる。さらにその液晶層の前後に液晶材料を含む液晶層を1/4λ層として有してもよい。偏光反射フィルムとしては、基材フィルムの表面にコレステリック液晶を固定化したものを使用できる。
【0048】
機能層が(C)の光に含まれる赤外線を吸収、透過及び/又は反射する機能を有する場合、機能層は例えば赤外吸収層や赤外反射層などであり、機能性フィルムは赤外線吸収/反射フィルムとなる。
赤外吸収層や赤外反射層としては、赤外線を吸収及び/又は反射する染料又は顔料を含む樹脂層を使用できる。赤外線吸収/反射フィルムとしては、樹脂材料に前述の染料又は顔料を混合して、基材フィルム上に塗布し、乾燥させたものを使用できる。
赤外反射層としては、屈折率の異なる2種類以上の樹脂や誘電体薄膜を積層してなる多層膜、偏光性を有する液晶層の積層膜、及び金属膜や金属膜の積層膜等が挙げられる。
【0049】
機能層が(D)の光に含まれる可視光線を吸収する機能を有する場合、機能層は例えば可視光線吸収層であり、機能性フィルムは可視光線吸収フィルムとなる。可視光線吸収層としては、染料、顔料やカーボンブラックなど可視光線を吸収する材料を含む樹脂層を使用できる。可視光線吸収フィルムとしては、機能層を構成する樹脂材料に可視光線を吸収する材料を混合して、基材フィルム上に塗布し、乾燥させたものを使用できる。
また、機能層が(D)の光に含まれる可視光線を反射する機能を有する場合、機能層は例えば増反射層などであり、機能性フィルムは可視光線反射フィルムとなる。
増反射層としては、可視光線を反射する材料を含む樹脂層を使用できる。可視光線反射フィルムとしては、機能層を構成する樹脂材料に可視光線を反射する材料を混合して、基材フィルム上に金属や金属化合物の薄膜を製膜したものを使用できる。ほかにも、増反射層として、樹脂間の屈折率差で光を反射する、屈折率が異なる樹脂層(例えば、PETとPMMAなど)を交互に数百層重ねた層を使用することができる。
【0050】
また、上記の(A)~(D)の機能のうちの少なくとも1つの機能を有する層に代えて、光の干渉効果を有する光学薄膜を機能層として用いることもできる。
また、機能層が光に影響を与える機能以外の機能を有する場合、その機能としては音や振動の減衰や増幅(遮音・防振)、外部刺激による光制御(調光)、導電、低誘電、蛍光、ホログラム、デザイン等が挙げられる。
【0051】
本開示の合わせガラスの製造方法で使用する機能性フィルムが備える機能層としては、位相差層、偏光反射層、赤外反射層、赤外吸収層、又は可視光線吸収層であることが好ましい。
また、機能層は、液晶材料を含む光学機能層であってもよく、液晶材料を含まない層であってもよい。この中でも液晶材料を含む層であることが好ましく、液晶材料は、ネマティック液晶、スメクティック液晶、コレステリック液晶、ディスコティック液晶など特に限定されないが、ネマティック液晶であることが好ましい。液晶材料としてのネマティック液晶は、樹脂中間膜に含まれる可塑剤により劣化しやすいため、機能層を保護することが特に有効である。
【0052】
機能層の厚さは7μm以下であってもよく、6μm以下であってもよく、5μm以下であってもよく、3μm以下であってもよい。また、機能層の厚さは0.5μm以上であってもよく、1μm以上であってもよく、3μm以上であってもよく、4μm以上であってもよい。
【0053】
接着剤層としては、ガラス板に接着するものであれば特に限定されない。例えば、接着剤層が熱可塑性樹脂層、熱硬化性樹脂層、UV硬化性樹脂層、可視光硬化性樹脂層又は湿気硬化性樹脂層であることが好ましい。また、接着剤層が粘着剤層であってもよい。
【0054】
接着剤層が熱可塑性樹脂層である場合、熱可塑性樹脂としては、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、アクリル樹脂(PMMA)、ウレタン樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)等が挙げられる。接着剤層がUV硬化性樹脂層、可視光硬化性樹脂層である場合、UV硬化性樹脂又は可視光硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。接着剤層が熱硬化性樹脂層である場合、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
接着剤層が湿気硬化性樹脂層である場合、湿気硬化性樹脂としてはシリコン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂等が挙げられる。
これらのなかでは熱可塑性樹脂であるポリビニルブチラールが好ましい。
【0055】
また、接着剤層が熱可塑性樹脂層、熱硬化性樹脂層、UV硬化性樹脂層、可視光硬化性樹脂層又は湿気硬化性樹脂層である場合、接着剤層がさらにシランカップリング剤を含むことが好ましい。シランカップリング剤としては、官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤(3-(2-アミノエチルアミノ)-プロピルトリメトキシシラン等)、官能基としてビニル基を有するシランカップリング剤(7-オクテニルトリメトキシシラン等)、官能基としてエポキシ基を有するシランカップリング剤(8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、又は信越化学工業株式会社製X-12-984S等)、官能基としてメルカプト基を有するシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製X-12-1154等)、官能基として酸無水物基を有するシランカップリング剤(3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等)等が挙げられる。
【0056】
接着剤層が粘着剤層である場合、両面粘着シートの貼付か、粘着剤の塗布により形成されることが好ましい。両面粘着シートは、2枚の基材の間に粘着剤を挟み込んで両面粘着シートを形成した後に、基材を剥離して得られる。基材としてはPET(ポリエチレンテレフタレート)、アクリル樹脂等が好ましい。粘着剤層を構成する粘着剤としては、アクリル樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ゴムなどが挙げられ、特に透明で粘着力が高いアクリル樹脂を含むことが好ましい。
【0057】
また、接着剤層において接着性を発揮する樹脂は樹脂中間膜を構成する樹脂と同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよい。
言い換えると、接着剤層が熱可塑性樹脂層、熱硬化性樹脂層、UV硬化性樹脂層、可視光硬化性樹脂層若しくは湿気硬化性樹脂層、又は、粘着剤層である場合のいずれにおいても、接着剤層に含まれる、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、UV硬化性樹脂、可視光硬化性樹脂若しくは湿気硬化性樹脂又は粘着剤層の接着樹脂層を構成する樹脂は、樹脂中間膜を構成する樹脂と同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよい。
【0058】
接着剤層の厚さは特に限定されるものではないが、100μm以下であることが好ましい。また、20μm以下であることがより好ましい。また、5μm以上であってもよい。
接着剤層は樹脂中間膜と区別される構成であり、接着剤層の厚さは樹脂中間膜の厚さよりも薄くなる。
また、接着剤層は接着剤を含む樹脂溶液を保護層に塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0059】
接着剤層は可塑剤を含まないことが好ましい。また、接着剤層が可塑剤を含む場合にその含有量は接着剤層の重量に対して0.1重量%以下であることが好ましい。
接着剤層に含まれないことが好ましい可塑剤としては、樹脂中間膜として用いられるポリビニルブチラールに含まれる可塑剤が挙げられる。例えば、トリエチレングリコールジ(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール(2-エチルブチレート)、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソノニルフタレート、トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート等が挙げられる。
【0060】
保護層、機能層及び接着剤層の厚さの合計が35μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが特に好ましい。なお、5μm以上であってもよい。
保護層、機能層及び接着剤層の厚さの合計値は、透視ひずみに影響する。透視ひずみはJIS R 3212(2021)「自動車用安全ガラス試験方法」に規定される試験方法である。
図2は、保護層、機能層及び接着剤層の厚さの合計値と透視ひずみの関係を示すグラフである。
図2の横軸には保護層、機能層及び接着剤層の厚さの合計値[総厚:μm]を示し、縦軸には透視ひずみ[分]を示している。測定位置は、図1Eに点線Sで囲んだ、保護層、機能層及び接着剤層と樹脂中間膜の境界、すなわち、保護層、機能層及び接着剤層の輪郭の周辺の領域である。実車取り付け角度θは30°とした。
JIS R 3211(2021)「自動車用安全ガラス」によると透視ひずみの最大許容値は2分であることから、透視ひずみが2分以下となる、総厚35μm以下の領域を透視ひずみの観点から良好な領域と定める。
【0061】
次に、上述した機能性フィルムを使用した合わせガラスの製造工程を説明する。
合わせガラスの製造においては二枚のガラス板(ガラス板α及びガラス板β)を準備する。二枚のガラス板のうち機能性フィルムを貼り付けるガラス板をガラス板αとする。
ガラス板の材質としては、ISO16293-1で規定されているようなソーダ石灰珪酸塩ガラスの他、アルミノシリケートガラスやホウケイ酸塩ガラス、無アルカリガラス等の公知のガラス組成のものを使用することができる。
ガラス板のそれぞれの厚みは、例えば、0.4mm~3mmとしてもよい。
【0062】
また、ガラス板は湾曲していることが好ましい。
そして、湾曲しているガラス板の凸となっている面を機能性フィルムを貼り付ける面として、合わせガラスの内側の面とすることが好ましい。
湾曲の程度は、JASO M501 (Japanese Automotive Standards Organization standard M501)に規定する「だぶり」として規定される、曲面ガラスの短辺方向の曲り深さとして定める。
だぶりは、ガラス板の曲がり具合を定量化したものであり、最大曲げ量、又は、ガラス板の対応する基準線からの最大距離として定義される。基準線は、ガラス板の上端と下端の中心に沿って仮想的に描画される線である。
ガラス板のだぶりは、1mm以上であってもよく、3mm以上であってもよく、5mm以上であってもよく、25mm以下であってもよく、20mm以下であってもよく、15mm以下であってもよい。
【0063】
図1Cには、第三主面23と第四主面24を有するガラス板α(20)を示している。
そして、ガラス板α(20)に接着剤層40を接触させて、機能性フィルム1bをガラス板α(20)に貼り付けた状態を示している。
機能性フィルム1bはガラス板α(20)の第三主面23に貼り付ける。
【0064】
機能性フィルムはガラス板αの表面の一部にのみ貼り付けることが好ましい。
機能性フィルムは、合わせガラスの全面に渡って設けられていなくてもよい。機能性フィルムが投影光に作用する機能を有する場合、機能性フィルムは投影光が照射される領域に設けられる必要があるものの、投影光が照射される領域以外の領域には設けられていなくてもよい。
機能性フィルムを構成する材料は高価であるので、投影光が照射される領域以外の領域には機能性フィルムを設けないようにすることで、ヘッドアップディスプレイ装置に使用する合わせガラスのコストを低減することができる。
【0065】
続いて、図1Dに示すように、機能性フィルム1bから基材90を除去して保護層60を露出させる。図1Dには、接着剤層40、機能層50及び保護層60が積層された機能性フィルム1cを示している。
次に、図1Eに示すように、保護層60を覆うように樹脂中間膜30を設け、ガラス板β(10)を樹脂中間膜30によって貼り合わせて合わせガラス100を製造する。
ガラス板β(10)は第一主面11と第二主面12を有するガラス板である。
ガラス板β(10)及びガラス板α(20)との間隔は、樹脂中間膜の厚さにより調整することができるが、例えば0.01mm~2.5mmとしてもよい。
【0066】
樹脂中間膜として使用される材料は、ガラス板に接着するものであれば特に限定されない。例えば、樹脂中間膜を構成するポリマーが軟化する温度で加熱することで、二枚のガラス板を合わせ化するもので、ポリマーとして、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、アクリル樹脂(PMMA)、ウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)等を使用することができる。
また、湿気や紫外線などによって硬化する接着剤や粘着剤を用いることもできる。なお、樹脂中間膜は複数の樹脂層で構成されていても良い。
【0067】
樹脂中間膜が可塑剤を含む場合に、機能層を劣化因子から保護するという本開示の合わせガラスの製造方法の効果が好適に発揮されるので、樹脂中間膜として可塑剤を含むものを使用することができる。
可塑剤としては、例えば、トリエチレングリコールジ(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール(2-エチルブチレート)、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソノニルフタレート、トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート等が挙げられる。
樹脂中間膜が可塑剤を含む場合にその含有量は樹脂中間膜の重量に対して20重量%以上であることが好ましい。また、50重量%以下であることが好ましい。
合わせガラスの製造時には、湾曲した二枚のガラス間に樹脂中間膜を挟み込み、加熱して一体化する。そのため、樹脂中間膜は、湾曲したガラス板に追従できるよう柔軟性を高めるために、可塑剤を添加することが多い。
【0068】
上記に説明した、本開示の合わせガラスの製造方法では、樹脂中間膜を設ける段階において、機能層の主面のうちの一方は接着剤層を介してガラス板αで保護されており、露出していない。また、機能層の主面のうちのもう一方は保護層で保護されており、露出していない。そのため、機能層の両面が保護された状態で、樹脂中間膜が設けられることになる。そのため、樹脂中間膜に含まれる可塑剤等の劣化因子から機能層を保護して、合わせガラスを製造することができる。
【0069】
また、本開示の合わせガラスの製造方法の第一の態様では、接着剤層を有する機能性フィルムをガラス板に貼り付ける。この場合、機能性フィルムをガラス板に貼り付けた状態で別の層を機能性フィルム上に形成する工程が不要になる。ガラス板に貼り付けた状態での層形成は工程上の難易度が高いため、後述する合わせガラスの製造方法の第二の態様に比べて、第一の態様が工程上有利である。また、湾曲したガラスに貼り付けた機能性フィルムに別の層を形成することも難易度が高いので、湾曲したガラス板に対して実施する工程としては、第一の態様が工程上有利である。
【0070】
なお、保護層がフィルムであって、基材と保護層が一体化したフィルムを用いる場合、機能性フィルムをガラス板に貼り付けることで、基材と保護層が一体化したフィルムが露出しているので、機能性フィルムから基材を除去せずに、基材と保護層が一体化したフィルムを覆うように樹脂中間膜を設ける。
【0071】
[本開示の機能性フィルム]
本開示の機能性フィルムは、基材、保護層及び機能層がこの順に積層された機能性フィルムである。
これは図1Aに示す機能性フィルム1aに相当する。
基材、保護層及び機能層の好ましい態様は、本開示の合わせガラスの製造方法で使用する機能性フィルムの構成として説明した態様と同じである。
【0072】
また、本開示の機能性フィルムは、機能層上にさらに接着剤層が設けられたものであってもよい。これは図1Bに示す機能性フィルム1bに相当する。
接着剤層の好ましい態様は、本開示の合わせガラスの製造方法で使用する機能性フィルムの構成として説明した態様と同じである。
【0073】
本開示の機能性フィルムは、本開示の合わせガラスの製造方法において好適に使用することができる。
【0074】
[本開示の合わせガラス]
本開示の合わせガラスは、ガラス板αと、ガラス板βと、前記ガラス板αが前記ガラス板βと対向する面に貼り付けられた機能性フィルムと、前記ガラス板αと前記ガラス板βの間にある樹脂中間膜とを備える合わせガラスであって、前記機能性フィルムは、接着剤層、機能層及び保護層がこの順に積層されてなり、前記接着剤層が前記ガラス板αに貼り付けられており、前記保護層の主面が前記樹脂中間膜に覆われている、合わせガラスである。
【0075】
本開示の合わせガラスは図1Eに示す合わせガラス100に相当する。
図1Eに示す合わせガラス100は、ガラス板α(20)と、ガラス板β(10)と、ガラス板α(20)がガラス板β(10)と対向する面である第三主面23に貼り付けられた機能性フィルム1cと、ガラス板α(20)とガラス板β(10)の間にある樹脂中間膜30とを備える合わせガラスであって、機能性フィルム1cは、接着剤層40、機能層50及び保護層60がこの順に積層されてなり、接着剤層40がガラス板α(20)に貼り付けられており、保護層60の主面が樹脂中間膜30に覆われている。
【0076】
この合わせガラス100では、機能層50の主面の一方は接着剤層40を介してガラス板α(20)で保護されており、露出していない。また、機能層50の主面のうちのもう一方は保護層60で保護されており、露出していない。樹脂中間膜30に含まれる可塑剤等の劣化因子から機能層50が保護され、機能層50の劣化が防止された合わせガラスとなっている。
【0077】
本開示の合わせガラスにおいて、保護層が膜厚の薄いフィルムである場合、フィルムは接着剤層、機能層とともにガラス板αに貼り付けられ、剥離されずに合わせガラス内に残ったものであってもよい。
【0078】
機能層と保護層と中間膜の間の密着性を高めるために、保護層と中間膜の間、及び/又は保護層と機能層の間に、前述のシランカップリング剤が塗布されていたり、粘着剤層が形成されていたりしてもよい。粘着剤として、例えばアクリル系やシリコーン系の粘着剤を使用できる。
【0079】
本開示の合わせガラスの使用例として、移動体に搭載される合わせガラスとしての使用例について説明する。
【0080】
本開示の合わせガラスは、移動体に搭載される合わせガラスであり、ガラス板βの第一主面が、移動体の室外側に露出される面であり、第一主面が凸面、かつ、第二主面が凹面の湾曲形状であり、ガラス板αの第四主面が、移動体の室内側に露出される面であり、第四主面が凹面、かつ、第三主面が凸面の湾曲形状であることが好ましい。
また、本開示の合わせガラスは、ヘッドアップディスプレイ装置を構成する合わせガラスであることが好ましい。
【0081】
ヘッドアップディスプレイ装置が搭載される移動体としては、車(乗用車、トラック、バス等)、電車、汽車、船、飛行機等が挙げられる。これらの中では乗用車であることが好ましい。
また、移動体においてヘッドアップディスプレイ装置が搭載される位置としては乗用車のウィンドシールド(フロントガラス)、バックウインドウ(リヤガラス)等が挙げられる。
以下、乗用車のウィンドシールドに使用されるヘッドアップディスプレイ装置を例にして、ヘッドアップディスプレイ装置について説明する。
【0082】
図3は、本開示の合わせガラスを含むヘッドアップディスプレイ装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。ヘッドアップディスプレイ装置の図面において、P偏光を両矢印の記号、S偏光を二重丸の記号で示す。一つの光路に両方の記号が付されている場合は、P偏光とS偏光のどちらであってもよいことを意味する。
【0083】
図3には、ヘッドアップディスプレイ装置130aを示している。ヘッドアップディスプレイ装置130aは、移動体に搭載されており、合わせガラス100がヘッドアップディスプレイ装置130aの一部を構成している。
【0084】
合わせガラス100のガラス板β(10)の第一主面11が、移動体の室外側123に露出される面であり、第一主面11が凸面、かつ、第二主面12が凹面の湾曲形状であり、ガラス板α(20)の第四主面24が、移動体の室内側122に露出される面であり、第四主面24が凹面、かつ、第三主面23が凸面の湾曲形状となっている。
【0085】
ヘッドアップディスプレイ装置130aでは、映像部131から投影光137が照射される。
ここで、映像部131の発光点132、第一主面11で投影光137が反射する反射点133、視認者135の視点134の3点を含む平面が入射面である。
移動体が車両である場合、車両において、映像部131は車両のダッシュボード等に配置することが好ましい。
【0086】
ヘッドアップディスプレイ装置130aでは、機能性フィルム1cが第三主面23に設けられている。また、機能性フィルム1cの接着剤層40が第三主面23と接着されている。
【0087】
機能性フィルム1cが第三主面23に設けられている場合、移動体の室外側123からの自然光が樹脂中間膜30を経て機能性フィルム1cに到達する。樹脂中間膜30において自然光に含まれる紫外線を吸収させることができるため、機能層50の紫外線による劣化を防止することができる。このような効果を発揮させるためには樹脂中間膜30に紫外線吸収剤を含有させておくことが好ましい。
また、機能性フィルム1cを第三主面23に設ける場合、凸面に機能性フィルム1cを接着させることになる。凸面を上にしてガラス板α(20)をコンベア上で搬送して機能性フィルム1cを接着させることができるため、合わせガラスを製造する工程における作業性に優れる。
【0088】
機能性フィルム1cは第三主面23の一部に設けられており、機能性フィルム1cが設けられている部分が投影光137が入射される部分となっている。機能性フィルム1cの機能層50は、合わせガラスに入射する光の特性を変化させる機能を有する。
本開示の合わせガラスがヘッドアップディスプレイ装置に用いられる場合、機能層は位相差層であることが好ましく、機能性フィルムが位相差フィルムであることが好ましい。
【0089】
以下には、機能層として位相差層が設けられたヘッドアップディスプレイ装置について説明する。
【0090】
投影光137がP偏光である場合、偏光サングラス越しで虚像を観察する、サングラスモードで使用することができる。まず、映像部131から出射されたP偏光の投影光137は、第四主面24に照射される。この時の角度はブリュースター角付近(例えば、ブリュースター角-10°以上、ブリュースター角+10°以下、ブリュースター角が56°であれば46°~66°)が好ましい。P偏光が第四主面24に対してブリュースター角で照射されると、第四主面24での反射が生じずに、投影光137は合わせガラス100に入射される。合わせガラス100に入射されたP偏光は機能性フィルム1cの機能層50に入射されると振動方向が変わりS偏光となる。
ヘッドアップディスプレイ装置130aにおいては、第四主面24以外のいずれかの面で反射が生じればよいので、機能性フィルム(位相差フィルム)として1/2波長フィルム(半波長フィルム)や、1/4波長フィルム等を用いることが可能である。
位相差フィルムを通過した後の光の振動方向は、位相差フィルムの種類や光軸の向きによって様々だが、例えば、位相差フィルムとして1/2波長フィルムを用いている場合は、投影面に入射する投影光の振動方向と、位相差シートの光軸とがなす角度をdθとしたとき、投影光の振動方向を2dθ回転させた方向になる。
次に、投影光137が第一主面11へ到達すると、反射して反射像を形成する。この時、反射光としてS偏光が反射され、反射しなかった他の光は第一主面11を通過し、室外側へ放出される。
次に、第一主面11で形成された反射像は、再度、位相差フィルムを通過し、P偏光になる。視認者135は、第一主面11での反射像に基づく光路138の延長上にある虚像136を視認する。
この虚像136はP偏光からなるので、視認者135は偏光サングラス越しでも、虚像136を視認することができる。
この場合、視認者は、ガラス板β(10)の第一主面11に形成された反射像に基づく虚像を観察することになる。
【0091】
機能性フィルム1cは、ヘッドアップディスプレイ装置130aにおいて投影光137が照射される領域に設けられていればよいので、ヘッドアップディスプレイ装置130aにおいて投影光137が照射される領域に機能性フィルム1cを設ける。投影光137が照射されないその他の領域は機能性フィルム1cを形成しない領域とすることができる。
【0092】
なお、ヘッドアップディスプレイ装置の例として、入射する光にP偏光を用いたP-HUD装置の例を用いて説明したが、入射する光にS偏光を用いたS-HUD装置であってもよい。
【0093】
図4は、本開示の合わせガラスを含むヘッドアップディスプレイ装置の構成の別の一例を模式的に示す断面図である。
【0094】
図4にはヘッドアップディスプレイ装置130bを示している。ヘッドアップディスプレイ装置130bは、移動体に搭載されており、合わせガラス100がヘッドアップディスプレイ装置130bの一部を構成している。
映像部131の発光点132、第四主面24で投影光137が反射する反射点133、視認者135の視点134の3点を含む平面が入射面である。
投影光137がS偏光である場合、まず、映像部131から出射されたS偏光の投影光137は、第四主面24に照射される。この時の角度はブリュースター角付近(例えば、ブリュースター角-10°以上、ブリュースター角+10°以下、ブリュースター角が56°であれば46°~66°)が好ましい。この時、反射光としてS偏光が反射され、反射像を形成する。この場合、視認者は、ガラス板α(20)の第四主面24に形成された反射像に基づく虚像136を観察することになる。
合わせガラス100内を進行した投影光137は、機能性フィルム1cの機能層50に入射されると振動方向が変わる。
ヘッドアップディスプレイ装置130bにおいては、第四主面24以外のいずれかの面で反射が生じなければよいので、機能性フィルム(位相差フィルム)として1/2波長フィルム(半波長フィルム)や、1/4波長フィルム等を用いることが可能である。
位相差フィルムを通過した後の光の振動方向は、位相差フィルムの種類や光軸の向きによって様々だが、例えば、位相差フィルムとして1/2波長フィルムを用いている場合は、投影面に入射する投影光の振動方向と、位相差シートの光軸とがなす角度をdθとしたとき、投影光の振動方向を2dθ回転させた方向になる。
S偏光は位相差フィルムを通過し、P偏光になる。P偏光が第一主面11にブリュースター角で入射すれば、第一主面11で反射を生じず室外側に向かって透過する。そのため、合わせガラス100に入射された投影光137の第一主面11での反射に起因するゴーストが生じることが抑制される。
【0095】
機能性フィルムが設けられる領域は、例えば縦寸法が50mm~500mmの領域とすることができ、横寸法が50mm~900mmの領域とすることができる。
縦寸法と横寸法を合わせた領域としては縦50mm×横50mm~縦500mm×横900mmの領域とすることができる。
【0096】
また、合わせガラスの面積に占める、機能性フィルムが設けられた領域の割合は1%以上であることが好ましく、50%以下であることが好ましく、20%以下であることも好ましく、10%以下であることも好ましい。
【0097】
[本開示の合わせガラスの製造方法の第二の態様]
次に、本開示の合わせガラスの製造方法のうちの第二の態様について説明する。
本開示の合わせガラスの製造方法のうちの第二の態様は、基材、機能層及び接着剤層がこの順に積層された機能性フィルムと、ガラス板αとガラス板βとを準備し、ガラス板αに前記接着剤層を接触させて、前記機能性フィルムを前記ガラス板αに貼り付け、前記機能性フィルムから前記基材を除去して機能層を露出させ、前記機能層上に保護層を形成し、前記保護層を覆うように樹脂中間膜を設け、ガラス板βを前記樹脂中間膜によって貼り合わせて合わせガラスを製造する、合わせガラスの製造方法である。
【0098】
図5A図5B図5C図5D、及び図5Eは、本開示の合わせガラスの製造方法の工程の一例を模式的に示す工程図である。
図5Aには機能性フィルムを準備する手順の一例を示している。図5Aには、基材90、機能層50及び接着剤層40が積層された機能性フィルム1dを示している。
基材、機能層及び接着剤層の好ましい態様は、本開示の合わせガラスの製造方法の第一の態様で使用する機能性フィルムの構成として説明した態様と同じである。
【0099】
図5Bには、ガラス板α(20)に接着剤層40を接触させて、機能性フィルム1dをガラス板α(20)に貼り付けた状態を示している。
機能性フィルム1dはガラス板α(20)の第三主面23に貼り付ける。
ガラス板の好ましい態様は、本開示の合わせガラスの製造方法の第一の態様で使用するガラス板の構成として説明した態様と同じである。
【0100】
続いて、図5Cに示すように、機能性フィルム1dから基材90を除去して機能層50を露出させる。図5Cには、接着剤層40及び機能層50が積層された機能性フィルム1eを示している。
次に、図5Dに示すように、機能層50上に保護層60を形成する。
保護層は保護層の材料を含む樹脂溶液を機能層に塗布し、必要に応じて硬化することにより形成することができる。また、保護層がフィルムである場合、機能層上に積層することにより形成することができる。また、保護層が無機材料層である場合にはスパッタリング等の成膜方法によって保護層を形成することもできる。
図5Dには、接着剤層40、機能層50及び保護層60が積層された機能性フィルム1cを示している。
図5Dに示した状態は、図1Dに示した状態と同じであり、ガラス板α(20)に、接着剤層40、機能層50及び保護層60が積層された機能性フィルム1cが貼り付けられた状態である。
保護層の好ましい態様は、本開示の合わせガラスの製造方法の第一の態様で使用する保護層の構成として説明した態様と同じである。
【0101】
次に、図5Eに示すように、保護層60を覆うように樹脂中間膜30を設け、ガラス板β(10)を樹脂中間膜30によって貼り合わせて合わせガラス100を製造する。
この工程は図1Eに示す工程として説明した工程と同様である。
樹脂中間膜の好ましい態様は、本開示の合わせガラスの製造方法の第一の態様で使用する樹脂中間膜の構成として説明した態様と同じである。
【0102】
上記に説明した、本開示の合わせガラスの製造方法の第二の態様では、樹脂中間膜を設ける段階において、機能層の主面のうちの一方は接着剤層を介してガラス板αで保護されており、露出していない。また、機能層の主面のうちのもう一方は保護層で保護されており、露出していない。そのため、機能層の両面が保護された状態で、樹脂中間膜が設けられることになる。そのため、樹脂中間膜に含まれる可塑剤等の劣化因子から機能層を保護して、合わせガラスを製造することができる。
【0103】
また、本開示の合わせガラスの製造方法の第二の態様では、基材、機能層及び接着剤層がこの順に積層された機能性フィルムを使用する。このように積層された機能性フィルムは、既存の流通品として入手できるため、工程の自由度が高く、さまざまな機能性フィルムに対してこの工程を実施することができる。
【実施例0104】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はかかる実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例で使用した材料は以下のとおりである。
接着剤層に含有させるシランカップリング剤:官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤
接着剤層となる熱可塑性樹脂:PVB[重合度約3500、アセタール化度8±2mol%、溶媒はIPA/水]+シランカップリング剤を1wt%添加
樹脂中間膜となる熱可塑性樹脂:PVB[厚さ0.76mm]、可塑剤としてのトリエチレングリコールジ(2-エチルヘキサノエート)を約40重量%含む
保護層となるUV硬化性樹脂
・エポキシ樹脂1:Tg99℃、架橋密度2.10×10-3[mol/cm
・エポキシ樹脂2:Tg117.9℃、架橋密度5.00×10-3[mol/cm
・ウレタン樹脂
・ポリエンポリチオール樹脂:Tg21.0℃、架橋密度1.60×10-3[mol/cm
【0105】
(実施例1)
基材(厚さ65μmのTACフィルム)に機能層(位相差層)としての液晶層(ネマティック液晶を含む)が厚さ2μmで設けられた機能性フィルムを準備し、50mm×50mmに切断した。
機能性フィルムの液晶層の上に接着剤層となる熱可塑性樹脂(PVB:可塑剤を含まない組成)を塗布して厚さ10μmの接着剤層を形成した。
150mm×150mm×2mmtのガラス板をオーブンで加熱(135~200℃)しておき、加熱したガラス板の中央50mm×50mmの領域に、上記機能性フィルムの接着剤層を向けて接着した。
放冷し、ガラス板の温度が室温付近にまで低下したのちに基材を剥離し、接着剤層及び位相差層のみをガラス板に転写した。表面には位相差層が露出した状態となった。
続いて、位相差層の上に保護層となるUV硬化性樹脂(エポキシ樹脂1)を厚み10μmになるように塗布した。塗布後、UV照射装置を用いて、UV硬化性樹脂を硬化させた。
保護層、位相差層及び接着剤層の厚さの合計は22μmである。
【0106】
樹脂中間膜を挿入し、さらに別のガラス板(150mm×150mm×2mmt)を重ねて、加熱加圧を行うことにより、合わせガラスを製造した。
【0107】
(実施例2)
保護層として厚さ10μmのUV硬化性樹脂(エポキシ樹脂2)を用いる以外は実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。保護層、位相差層及び接着剤層の厚さの合計は22μmである。
【0108】
(実施例3)
保護層として厚さ13μmのUV硬化性樹脂(ウレタン樹脂)を用いる以外は実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。保護層、位相差層及び接着剤層の厚さの合計は25μmである。
【0109】
(実施例4)
保護層として厚さ5μmのUV硬化性樹脂(ポリエンポリチオール樹脂)を用いる以外は実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。保護層、位相差層及び接着剤層の厚さの合計は17μmである。
【0110】
(実施例5)
保護層として厚さ12.5μmの樹脂製のシート(1層目アクリル粘着剤、2層目アクリルエポキシ(アクリレート構造を持つエポキシ樹脂)層、3層目アクリル粘着剤の積層フィルム)を用い、位相差層上に積層する以外は実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。保護層、位相差層及び接着剤層の厚さの合計は24.5μmである。
【0111】
(比較例1)
実施例1において、保護層を塗布しなかった。その他は実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。
【0112】
(比較例2)
比較例1において、基材を剥離しなかった。すなわち、ガラス上には、接着剤層、位相差層、基材が積層され、その厚さの合計は、77μmである。
【0113】
(輪郭領域の透視ひずみの測定)
図1Eの点線Sで囲んだ、位相差層の輪郭のある領域において、JIS R 3212(2021)「自動車用安全ガラス試験方法」に規定される試験方法で、透視ひずみを測定した。実車取り付け角度θは30°とした。その結果、実施例1~5と比較例1において透視ひずみは2分以下であったが、比較例2においては2分を超えていた。
【0114】
(偏光変換ピーク波長の測定)
偏光変換ピーク波長の測定は、紫外可視近赤外分光光度計を用いて行った。偏光変換ピーク波長を測定するために、サンプルに入射する光を直線偏光板に透過させることでS偏光のみとし、積分球の前に同じ偏光板を設置し、S偏光のみが積分球に入射するようにした。また、サンプルを傾け、サンプルに入射角が56°となるように光を入射し、透過率の測定を行った。このような測定系では、サンプル内に入射されたS偏光は位相差層を透過するとP偏光に変換される。このため、P偏光に変換された光は、S偏光のみを透過するように積分球の前に設置した偏光板によって遮断される。すなわち、S偏光からP偏光に変換される割合が高い波長ほど透過率は低下する。この測定において、最も透過率が低くなった波長を偏光変換ピーク波長とした。
【0115】
(耐熱性試験)
保護層による位相差層の劣化抑制効果を確認するために、耐熱性試験を行った。試験条件は100℃、1200hとし、試験前後での偏光変換ピーク波長のシフト量を評価した。比較例1よりもシフト量が減少した場合、保護層として効果があると判定した。
【0116】
ここまでに説明した各実施例及び比較例についての耐熱性試験での偏光変換ピーク波長のシフト量を表1にまとめて示した。
【0117】
【表1】
【0118】
表1に示すように、実施例1~5では、比較例1と比べて偏光変換ピーク波長のシフト量が軽減され、保護層として機能していることが確認された。
【0119】
なお、実施例5は、アクリル樹脂とアクリルエポキシ樹脂の積層体であるシートを用いており、保護層にガラスと屈折率が近いアクリル樹脂を含んでいるので外観がよく、エポキシ樹脂を含んでいるのでピーク波長のシフト量も抑えられ、保護層としての効果も高かった。
【符号の説明】
【0120】
1a、1b、1c、1d、1e 機能性フィルム
10 ガラス板β
11 第一主面
12 第二主面
20 ガラス板α
23 第三主面
24 第四主面
30 樹脂中間膜
40 接着剤層
50 機能層
60 保護層
90 基材
100 合わせガラス
122 移動体の室内側
123 移動体の室外側
130a、130b ヘッドアップディスプレイ装置
131 映像部
132 発光点
133 反射点
134 視点
135 視認者
136 虚像
137 投影光
138 光路

図1
図2
図3
図4
図5