(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119366
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】リグナン類含有物の製造方法、リグナン類含有物及び組成物
(51)【国際特許分類】
C11B 1/10 20060101AFI20240827BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240827BHJP
【FI】
C11B1/10
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026215
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】596170550
【氏名又は名称】かどや製油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180275
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 倫太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161861
【弁理士】
【氏名又は名称】若林 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194836
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 優一
(72)【発明者】
【氏名】山上 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 恒平
(72)【発明者】
【氏名】秡川 紫乃
【テーマコード(参考)】
4B018
4H059
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018ME06
4B018ME14
4B018MF01
4H059BA23
4H059BB14
4H059BC13
4H059CA05
4H059CA13
4H059EA21
(57)【要約】
【課題】ゴマ油由来の白土油滓から、高濃度のリグナン類含有物を効率的に製造する製造方法を提供できるようにする。
【解決手段】第1の本発明は、ゴマ油由来の白土油滓と無極性溶媒とを混合し、その後濾過した濾液から前記無極性用溶媒を除去してリグナン類含有物を抽出する無極性溶媒抽出工程を有するリグナン類含有物の製造方法である。第2の本発明は、ゴマ油由来の白土油滓とアルコールとを混合し、その後濾過した濾液から前記アルコールを除去してリグナン類含有物を抽出するアルコール抽出工程を有するリグナン類含有物の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴマ油由来の白土油滓と無極性溶媒とを混合し、その後濾過した濾液から前記無極性用溶媒を除去してリグナン類含有物を抽出する無極性溶媒抽出工程を有するリグナン類含有物の製造方法。
【請求項2】
前記無極性溶媒抽出工程の残渣とアルコールとを混合し、その後濾過した濾液から前記アルコールを除去してリグナン類含有物を抽出するアルコール抽出工程を有する請求項1に記載のリグナン類含有物の製造方法。
【請求項3】
ゴマ油由来の白土油滓とアルコールとを混合し、その後濾過した濾液から前記アルコールを除去してリグナン類含有物を抽出するアルコール抽出工程を有するリグナン類含有物の製造方法。
【請求項4】
前記白土油滓が、焙煎ゴマ油由来の白土油滓であることを特徴とする請求項1又は3に記載のリグナン類含有物の製造方法。
【請求項5】
前記白土油滓が、精製ゴマ油由来の白土油滓であることを特徴とする請求項1又は3に記載のリグナン類含有物の製造方法。
【請求項6】
前記無極性溶媒が、ヘキサンであることを特徴とする請求項1に記載のリグナン類含有物の製造方法。
【請求項7】
前記アルコールが、エタノールであることを特徴とする請求項2又は3に記載のリグナン類含有物の製造方法。
【請求項8】
前記リグナン類含有物が、少なくとも、セサモール、セサミノール、セサミン、エピセサミン、セサモリンを含むことを特徴とする請求項1又は3に記載のリグナン類含有物の製造方法。
【請求項9】
ゴマ油由来の白土油滓を原料とし、少なくとも、0.001~7.9wt%のセサモール、0.001~2.7wt%のセサミノール、0.09~4.7wt%のセサミン、0.13~4.7wt%のエピセサミン、0.001~0.17wt%のセサモリンを含むことを特徴とするリグナン類含有物。
【請求項10】
請求項9に記載のリグナン類含有物を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグナン類含有物の製造方法、リグナン類含有物、及び、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リグナンとは、植物に含まれている化合物群(C6-C3のフェニルプロパン類)の一種で、p-ヒドロキシフェニルプロパン単位の酸化的カップリングにより生成した低分子化合物群である。
【0003】
ゴマ種子には、リグナンの一種であるゴマリグナンが含まれており、その主要な成分として、セサミン、セサモリン、セサモール、セサミノールなどを挙げることができる。例えば、セサミノールには、強力な抗酸化活性、抗動脈硬化作用、抗ガン作用などがあり、セサミノールをはじめとするゴマ種子に含まれているリグナンについては、健康食品、医薬品、化粧品などへの利用が期待されている。
【0004】
特許文献1には、ゴマ種子の粉砕物、脱脂粕から、セサミノールを含む含有物を製造する製造方法が開示されている。一般に、セサミノールはゴマ種子中では、セサミノールに糖が結合した配糖体(セサミノール配糖体)として含まれている。そのため、セサミノールをゴマ種子から抽出するためには、特許文献1に開示されているように、配糖体の糖鎖を切断して、セサミノールを分離する方法が取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ゴマ種子だけでなく、例えばゴマ油の製造過程の中でゴマ油の脱色処理で利用された白土油滓にもリグナンが豊富に含まれていることが考えられているが、これまで白土油滓からリグナンを製造する方法は見当たらない。
【0007】
そこで、本発明は、ゴマ油由来の白土油滓から、高濃度のリグナン類含有物を効率的に製造する製造方法を提供できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するために、第1の本発明は、ゴマ油由来の白土油滓と無極性溶媒とを混合し、その後濾過した濾液から前記無極性用溶媒を除去してリグナン類含有物を抽出する無極性溶媒抽出工程を有するリグナン類含有物の製造方法である。
【0009】
第2の本発明は、ゴマ油由来の白土油滓とアルコールとを混合し、その後濾過した濾液から前記アルコールを除去してリグナン類含有物を抽出するアルコール抽出工程を有するリグナン類含有物の製造方法である。
【0010】
第3の本発明は、ゴマ油由来の白土油滓を原料とし、少なくとも、0.001~7.9wt%のセサモール、0.001~2.7wt%のセサミノール、0.09~4.7wt%のセサミン、0.13~4.7wt%のエピセサミン、0.001~0.17wt%のセサモリンを含むことを特徴とするリグナン類含有物である。
【0011】
第4の本発明は、第3の本発明のリグナン類含有物を含む組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高濃度のリグナン類含有物を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態におけるリグナン類含有物の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図2】第1の実施形態において、焙煎ゴマ油由来の白土油滓を用いて、ヘキサン抽出工程で得た各成分の抽出量を説明する説明図である。
【
図3】第1の実施形態において、焙煎ゴマ油由来の白土油滓を用いて、エタノール抽出工程で得た各成分の抽出量を説明する説明図である。
【
図4】第1の実施形態において、実施例3の工程と、実施例14の工程とで得た各成分の抽出量を説明する説明図である。
【
図5】第1の実施形態において、精製ゴマ油由来の白土油滓を用いて、ヘキサン抽出工程で得た各成分の抽出量を説明する説明図である。
【
図6】第1の実施形態において、精製ゴマ油由来の白土油滓を用いて、エタノール抽出工程で得た各成分の抽出量を説明する説明図である。
【
図7】第1の実施形態において、実施例23の工程と、実施例34の工程とで得た各成分の抽出量を説明する説明図である。
【
図8】第2の実施形態におけるリグナン類含有物の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図9】第2の実施形態において、焙煎ゴマ油由来の白土油滓を用いて、エタノール抽出工程で得た各成分の抽出量を説明する説明図である。
【
図10】第2の実施形態において、精製ゴマ油由来の白土油滓を用いて、エタノール抽出工程で得た各成分の抽出量を説明する説明図である。
【
図11】実施形態に係るゴマ油の製造工程における得られる白土油滓を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(A)第1の実施形態
以下に、本発明のリグナン類含有物の製造方法、リグナン類含有物及び組成物の第1の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0015】
(A-1)第1の実施形態のリグナン類含有物の製造方法
以下では、まず、
図1を用いて第1の実施形態のリグナン類含有物の全体的な製造方法を説明し、その後、2種類の白土油滓のそれぞれを用いたときの結果を比較例と比較しながら説明する。
【0016】
図1は、第1の実施形態におけるリグナン類含有物の製造方法を説明するフローチャートである。
【0017】
[白土油滓の準備]
まず、ゴマ油の製造過程で得られる白土油滓を原料として準備する(ステップS101)。
【0018】
図11は、ゴマ油の製造過程における白土油滓を説明する説明図である。
図11を参照して、ゴマ油の一般的な製造方法を簡単に説明すると共に、白土油滓を説明する。
【0019】
ゴマ種子を蒸煮し、蒸煮したゴマ種子を圧搾して搾油する。なお、ゴマ油には、大別して、焙煎ゴマ油と精製ゴマ油とがある。焙煎ゴマ油は、ゴマ種子を焙煎した後に蒸煮・圧搾して搾油したものであり、精製ゴマ油は、焙煎せず、ゴマ種子を蒸煮・圧搾して搾油したものをいう。
【0020】
圧搾により搾油した油に脱色剤を投入して脱色処理を行ない、油に含まれる色素を取り除く。その際、脱色剤に色素成分が吸着して得られた脱色後の脱色剤を「白土油滓」とする。
【0021】
脱色剤は、例えば、活性炭、酸性白土などとすることができる。例えば、焙煎ゴマ油又は精製ゴマ油に、脱色剤として、例えば0.0~3.0wt程度の活性炭、例えば0.1~3.0wt程度の酸性白土を添加し、所定温度(例えば50~150℃程度)で所定時間(例えば10分~120分程度)静置して脱色する。原油に添加する脱色剤(活性炭、酸性白土など)の添加量は、焙煎ゴマ油の場合と、精製ゴマ油の場合とで変えてもよい。また、
図11の製造工程に限らず、例えば、焙煎ゴマ油又は精製ゴマ油は、脱色工程前にヘキサン抽出したものとしてもよい。
【0022】
この実施形態では、精製ゴマ油の製造過程で得られたものを「精製ゴマ油由来の白土油滓」と呼び、焙煎ゴマ油の製造過程で得られたものを「焙煎ゴマ油由来の白土油滓」と呼ぶ。この実施形態では、これらの白土油滓を原料として用いる。
【0023】
なお、脱色処理の際に得られた白土油滓であれば、上述した精製ゴマ油由来の白土油滓又は焙煎ゴマ油由来の白土油滓に限らない。
【0024】
[ヘキサン抽出工程]
次に、白土油滓にヘキサンを加えて攪拌して脱脂する(ステップS102)。そして、白土油滓にヘキサンを加えた溶液を濾過して(ステップS103)、これにより得た瀘液からヘキサンを除去するために、エバポレーターを用いて、瀘液からヘキサンを蒸発させる(ステップS104)。この脱溶剤処理で得たものを、ヘキサン抽出物とする(ステップS105)。ヘキサン抽出工程では、無極性溶媒であるヘキサンを用いて白土油滓を脱脂して、瀘液からヘキサンを除去することで得た抽出物を、ヘキサン抽出物と呼ぶ。つまり、ヘキサン抽出物は、無極性溶媒(ヘキサン)に溶け込んだリグナン類含有物と言える。
【0025】
なお、この脱脂工程では、無極性のヘキサンを溶媒として用いるが、ヘキサンに限らず、無極性溶媒、若しくは低い極性の溶媒を用いてもよい。例えば、無極性溶媒であれば、ジエチルエーテル、酢酸エチル、シクロヘキサン、イソオクタン等を用いるようにしてもよい。また、極性溶媒であれば、水、酢酸、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトニトリル等を用いるようにしてもよい。
【0026】
また、リグナンの種類は、例えば、セサミン、セサミノール、エピセサミン、エピセサミノール、セサモリン、2-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-6-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)-3,7-ジオキサビシクロ[3,3,0]オクタン、2,6-ビス-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)-3,7-ジオキサビシクロ[3,3,0]オクタン、又は2-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-6-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェノキシ)-3,7-ジオキサビシクロ[3,3,0]オクタン、セサモール、3,4-メチレンジオキシフェノール、5-ヒドロキシ-1,2-メチレンジオキシベンゼン、1,3-ベンゾジオキソール-5-オール、3,4-(メチレンビスオキシ)フェノール、5-ヒドロキシ-1,3-ベンゾジオキソール等がある。この実施形態では、リグナンの一種としてセサモール、セサミノール、セサミン、エピセサミン、セサモリンを抽出する場合を例示するが、これらに限らず、他のリグナンについても抽出できる。
【0027】
[エタノール抽出工程]
ステップS103で濾過して得た残渣に、エタノールを加えて攪拌する(ステップS106)。
【0028】
そして、残渣にエタノールを加えた溶液を濾過して(ステップS107)、残渣を抽出する(ステップS110)と共に瀘液を得る。ステップS107の濾過で得た瀘液からエタノールを除去するために、エバポレーターを用いて、瀘液からエタノールを蒸発する(ステップS108)。この脱溶剤処理で得たものを、エタノール抽出物とする(ステップS109)。エタノール抽出工程では、アルコールであるエタノールを用いて、アルコールに溶け込んだゴマリグナン類含有物を抽出する工程である。
【0029】
(A-2)焙煎ゴマ油由来の白土油滓を用いたときの結果
【0030】
[ヘキサン抽出工程]
図2は、焙煎ゴマ油由来の白土油滓を用いて、ヘキサン抽出工程で、ヘキサン抽出物として得た各成分の抽出量を説明する説明図である。
【0031】
図2では、歩留(wt%)を判断するため、焙煎ゴマ油由来の白土油滓1gに加えるヘキサン量を変化させている。
【0032】
例えば、実施例1の場合、焙煎ゴマ油由来の白土油滓1gに対して加えたヘキサンの量を1mlとし、これを「HEX×1」と表記している。実施例2では、白土油滓1gに対して2mlのヘキサンを加えており、実施例1の場合よりもヘキサン量を2倍にしているので「HEX×2」と表記している。同様に、実施例3~実施例7も、実施例1で加えたヘキサン量に対する倍率を示している。
【0033】
また、
図2において、ヘキサン抽出物にどの成分がどのくらい含まれているかを、高速液体クロマトグラフィ(HPLC:High Performance Liquid Chromatography)で、定性・定量分析した。
【0034】
[HPLC分析条件]
カラム:inertsil ODS-3(5μm 4.6mm×250mm)
検出器:5420 UV-VIS Detector
検出波長:290nm
流量:1.0ml/min
温度:30℃
流入量:10μl
移動相:メタノール:水=7:3
溶解溶媒:2-プロパノール:アセトニトリル=3:1
図2に示すように、ヘキサン抽出物として、セサモール、セサミノール、セサミン、エピセサミン、セサモリンが抽出され、
図2では、各成分の抽出量[mg/100gOIL]を示している。
【0035】
比較例1は、焙煎ゴマ油100g中に含まれる各成分の量を示し、比較例2は、精製ゴマ油100gに含まれる各成分の量を示している。
【0036】
比較例1は、セサモール:29[mg/100g]、セサミノール:6[mg/100g]、セサミン:736[mg/100g]、エピセサミン:0[mg/100g]、セサモリン:382[mg/100g]であった。
【0037】
比較例2は、セサモール:1[mg/100g]、セサミノール:169[mg/100g]、セサミン:285[mg/100g]、エピセサミン:350[mg/100g]、セサモリン:1[mg/100g]であった。
【0038】
これに対して、実施例1~実施例7は、セサモール、セサミノール、セサミン、エピセサミンの抽出量が、比較例1及び2の各成分の抽出量よりも多いことが分かる。
【0039】
図2の結果より、セサモールは0.16~0.81wt%程度、セサミノールは0.10~0.32wt%程度、セサミンは1.0~1.5wt%程度、エピセサミンは1.1~1.5wt%程度、セサモリンは0.04~0.06wt%程度であることが分かる。
【0040】
実施例1~実施例7のように、ヘキサン量が増えることにより、歩留(wt%)の値が大きくなり、実施例5、実施例6、実施例7のように、白土油滓に対するヘキサン量を増やしていくと歩留の値が落ち着くことが分かる。
【0041】
セサモールの抽出量について、実施例1~実施例7のようにヘキサン量が多くなるにつれて、セサモールの抽出量が多くなっていることが分かる。また、比較例1及び比較例2のセサモールの抽出量に比べても多く抽出されていることが分かる。実施例1~実施例7のセサミノールの抽出量については、比較例1のセサミノールの抽出量に比べても多く抽出されていることが分かる。
【0042】
セサミン、エピセサミンについては、比較例1及び比較例2に比べてみても、実施例1~実施例7のセサミン、エピセサミンの抽出量は非常に大きいことが分かる。つまり、セサミン、エピセサミンは、脱脂工程で使用される無極性溶媒のヘキサンに多く溶解しているためと考えられる。
【0043】
セサモリンについては、比較例2のセサモリンの抽出量と比較すると、実施例1~実施例7は、非常に多くのセサモリンを抽出していることが分かる。
【0044】
図2の結果より、白土油滓に対して加えるヘキサン量を変えた実施例1~実施例7のいずれも高濃度のゴマリグナン類含有物を抽出することができた。
【0045】
[エタノール抽出工程]
図3は、焙煎ゴマ油由来の白土油滓を用いて、エタノール抽出工程で、エタノール抽出物として得た各成分の抽出量を説明する説明図である。
図3は、
図2の実施例6([HEX×40])の残渣を用いる場合を例示している。
【0046】
図3でも、歩留(wt%)を判断するため、実施例5のヘキサン抽出工程で得た残渣(HEX×40残渣)1gに加えるエタノール量を変化させている。
【0047】
具体的に、実施例11の「EtOH×1」は、実施例6のヘキサン抽出工程で得た残渣(HEX×40残渣)1gに対して加えたエタノールの量を1mlとし、実施例12は、実施例1で加えたエタノール量の2倍(「EtOH×2」)、すなわち焙煎ゴマ油由来の白土油滓1gに対してエタノール量を2mlとした。同様に、実施例13~実施例17も、実施例11で加えたエタノール量に対する倍率を示している。
【0048】
また、
図3において、エタノール抽出物にどの成分がどのくらい含まれているかを、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)で定性・定量分析し、HPLC分析条件は上述した条件と同様とする。
【0049】
図3に示すように、エタノール抽出物として、セサモール、セサミノール、セサミン、エピセサミン、セサモリンが抽出された。
図3においてセサモールは5.2~6.5wt%程度、セサミノールは0.30~0.59wt%程度、セサミンは0.68~0.81wt%程度、エピセサミンは0.54~0.66wt%程度、セサモリンは0.007~0.030wt%程度であることが分かる。
【0050】
実施例11~実施例17は、セサモール、セサミノール、セサミン、エピセサミンの抽出量が、比較例1及び2の各成分の抽出量よりも多いことが分かる。
【0051】
また、実施例11から実施例17のように、エタノール量が増えることにより、歩留(wt%)の値が大きくなり、実施例14、実施例15、実施例16、実施例17のように、白土油滓に対するエタノール量が10倍、20倍、40倍、80倍となると、歩留の値が落ち着くことが分かる。
【0052】
セサモール、セサミノールについて、比較例1及び比較例2のセサモールとセサミノールの抽出量と比較しても、実施例11~実施例17のセサモールとセサミノールの抽出量は非常に大きな量を抽出していることが分かる。
【0053】
実施例11~実施例17のセサミン、エピセサミンについては、比較例1及び比較例2のセサミン、エピセサミンの抽出量に比べても多く抽出されていることが分かる。
【0054】
セサモリンについては、比較例2のセサモリンの抽出量と比較すると、実施例11~実施例17は、非常に多くのセサモリンを抽出していることが分かる。
【0055】
図3の結果より、白土油滓に対して加えるエタノール量を変えた実施例11~実施例17のいずれも高濃度のゴマリグナン類含有物を抽出することができた。
【0056】
[ヘキサン抽出物とエタノール抽出物との比較]
図2及び
図3を比較すると、
図2のヘキサン抽出物は、セサミン、エピセサミンを、
図3のエタノール抽出物のそれよりも高濃度で抽出していることが分かる。これは、脱脂工程で、セサミン、エピセサミンが、無極性のヘキサンに多く溶解しているからだと考えられる。
【0057】
また、
図3のエタノール抽出物は、セサモール、セサミノールを、
図2のヘキサン抽出物のそれよりも高濃度で抽出していることが分かる。これは、アルコールであるエタノールに、セサモール、セサミノールが多く溶解しているからだと考えられる。
【0058】
さらに、
図2及び
図3の結果より、ヘキサン抽出工程では、リグナンをなるべく多く残渣に残し、脂質を除去する観点から、実施例1~実施例7のうち、「実施例3」がより好適と考えられる。
【0059】
また、エタノール抽出工程では、歩留とセサモールの抽出量を指標とすると、実施例11~実施例17のうち、「実施例14」がより好適と考えられる。
【0060】
したがって、実施例3のヘキサン量でヘキサン抽出工程を実施し、このヘキサン抽出工程で得た残渣を用いて、実施例14のエタノール量でエタノール抽出工程を実施した。
図4はその結果である。
図4より、実施例3では、セサモール0.21wt%程度、セサミノール0.13wt%程度、セサミン1.1wt%程度、エピセサミン1.1wt%程度、セサモリン0.04wt%程度であり、これらは好適であり、高濃度の抽出ができた。また、
図4より、実施例14では、セサモール4.4wt%程度、セサミノール1.3wt%程度、セサミン1.7wt%程度、エピセサミン1.5wt%程度、セサモリン0.07wt%程度であり、これらは好適であり、高濃度で抽出できた。
図4の結果より、高濃度のリグナンを効果的に抽出していることが分かる。
【0061】
(A-3)精製ゴマ油由来の白土油滓を用いたときの結果
【0062】
[ヘキサン抽出工程]
図5は、精製ゴマ油由来の白土油滓を用いて、ヘキサン抽出工程で、ヘキサン抽出物として得た各成分の抽出量を説明する説明図である。
【0063】
ここでも、精製ゴマ油由来の白土油滓に対して加えるヘキサン量を変えて分析した。また、定性・定量分析の条件も上述したHPLC分析条件と同じである。
【0064】
比較例21は、セサモール:31[mg/100g]、セサミノール:3[mg/100g]、セサミン:629[mg/100g]、エピセサミン:0[mg/100g]、セサモリン:1[mg/100g]であった。
【0065】
比較例22は、セサモール:0[mg/100g]、セサミノール:150[mg/100g]、セサミン:254[mg/100g]、エピセサミン:146[mg/100g]、セサモリン:0[mg/100g]であった。
【0066】
実施例21~実施例27の結果より、ヘキサン量が増えることにより、セサモール、セサミノール、セサミン、エピセサミン、セサモリンのそれぞれの抽出量が多くなっていることが分かる。
【0067】
図5において、セサモールは0.001~0.011wt%程度、セサミノールは0.0~0.001wt%程度、セサミンは0.090~0.280wt%程度、エピセサミンは0.130~0.330wt%程度、セサモリンは0.000~0.001wt%程度であることが分かる。
【0068】
実施例21~実施例27のセサミン、エピセサミンの抽出量は、比較例2のそれと比較しても多く量を抽出できたことが分かる。特に、エピセサミンについては、比較例21及び比較例22と比較しても、実施例21~実施例27のいずれにおいても高濃度で抽出していることが分かる。
【0069】
[エタノール抽出工程]
図6は、精製ゴマ油由来の白土油滓を用いて、エタノール抽出工程で、エタノール抽出物として得た各成分の抽出量を説明する説明図である。
図6は、
図5の実施例26([HEX×40])の残渣を用いる場合を例示している。
【0070】
ここでも、ヘキサン抽出工程で得た残渣に対して加えるエタノール量を変えて分析した。また、定性・定量分析の条件も上述したHPLC分析条件と同じである。
【0071】
図6において、セサモール0.570~0.660wt%程度、セサミノールは0.620~0.670wt%程度、セサミンは1.050~1.480wt%程度、エピセサミンは0.910~1.260wt%程度、セサモリンは0.014~0.026wt%程度であることが分かる。
【0072】
実施例32~実施例37のエタノール抽出物には、セサモール、セサミノール、セサミン、エピセサミンが、比較例21及び22の各成分の抽出量よりも多く抽出されていることが分かる。
【0073】
セサモール、セサミノールについて、比較例21及び比較例22のセサモールとセサミノールの抽出量と比較しても、実施例32~実施例37のセサモールとセサミノールの抽出量は非常に大きな量を抽出していることが分かる。
【0074】
セサミン、エピセサミンについては、実施例32~実施例37のセサミン、エピセサミンの抽出量は、比較例21及び比較例22のそれに比べても多く抽出されていることが分かる。
【0075】
セサモリンについて、実施例32~実施例37のセサモリンの抽出量は、比較例21及び比較例22のそれに比べても多く抽出されていることが分かる。
【0076】
図6の結果より、白土油滓に対して加えるエタノール量を変えた実施例32~実施例37のいずれも高濃度のゴマリグナン類含有物を抽出することができた。
【0077】
[ヘキサン抽出物とエタノール抽出物との比較]
図5及び
図6を比較すると、
図5のヘキサン抽出物は、セサミン、エピセサミンを高濃度で抽出していることが分かる。これは、脱脂工程で、セサミン、エピセサミンが、無極性のヘキサンに多く溶解しているからだと考えられる。
【0078】
また、
図6のエタノール抽出物は、セサモール、セサミノールを高濃度で抽出していることが分かる。これは、アルコールであるエタノールに、セサモール、セサミノールが多く溶解しているからだと考えられる。
【0079】
さらに、
図5及び
図6の結果より、ヘキサン抽出工程では、リグナンをなるべく多く残渣に残し、脂質を除去する観点から、実施例21~実施例27のうち、「実施例23」がより好適と考えられる。
【0080】
また、エタノール抽出工程では、歩留とセサモールの抽出量を指標とすると、実施例31~実施例37のうち、「実施例34」がより好適と考えられる。
【0081】
したがって、実施例23のヘキサン量(HEX×5)でヘキサン抽出工程を実施し、このヘキサン抽出工程で得た残渣を用いて、実施例34のエタノール量(EtOH×10)でエタノール抽出工程を実施した。
図7はその結果である。
【0082】
図7より、実施例23では、セサモール0.002wt%程度、セサミノール0.001wt%程度、セサミン0.110wt%程度、エピセサミン0.150wt%程度、セサモリン0.00wt%程度であり、これらは好適であり、高濃度の抽出ができた。また、
図7より、実施例34では、セサモール0.390wt%程度、セサミノール0.330wt%程度、セサミン1.1wt%程度、エピセサミン0.970wt%程度、セサモリン0.008wt%程度であり、これらは好適であり、高濃度で抽出できた。
図7の結果より、高濃度のリグナンを効果的に抽出していることが分かる。
【0083】
(A-4)第1の実施形態の効果
以上のように、第1の実施形態によれば、白土油滓(焙煎ゴマ油由来と精製ゴマ油由来のもの)にヘキサンを加えて脱脂処理をして、その後、濾過した瀘液を脱溶剤処理してヘキサン抽出物を得ることで、高濃度のリグナン類含有物を経済的に製造することができる。
【0084】
また、ヘキサン抽出工程の残渣にエタノールを加えて、その後、濾過した瀘液を脱溶剤処理してエタノール抽出物を得ることで、高濃度のリグナン類含有物を経済的に製造することができる。
【0085】
さらに、焙煎ゴマ油由来と精製ゴマ油由来のいずれの白土油滓を原料とした場合でも、高濃度のリグナン類化合物を含む、ヘキサン抽出物、エタノール抽出物を得ることができる。
【0086】
(B)第2の実施形態
【0087】
(B-1)第2の実施形態のリグナン類含有物の製造方法
図8は、第2の実施形態におけるリグナン類含有物の製造方法を説明するフローチャートである。
【0088】
[白土油滓の準備]
まず、ゴマ油製造工程で得られる白土油滓を原料として準備する(ステップS201)。
【0089】
第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、精製ゴマ油由来の白土油滓と、焙煎ゴマ油由来の白土油滓との2種類の油滓のそれぞれを原料とする。
【0090】
[エタノール抽出工程]
次に、白土油滓にエタノールを加えて攪拌する(ステップS202)。そして、白土油滓にエタノールを加えた溶液を濾過して(ステップS203)、残渣を抽出する(ステップS206)と共に瀘液を得る。ステップS203の濾過で得た瀘液からエタノールを除去するために、エバポレーターを用いて、瀘液からエタノールを蒸発する(ステップS204)。この脱溶剤処理で得たものを、エタノール抽出物とする(ステップS205)。エタノール抽出工程では、アルコールであるエタノールを用いて、アルコールに溶け込んだゴマリグナン類含有物を抽出する工程である。
【0091】
(B-2)焙煎ゴマ油由来の白土油滓を用いたときの結果
図9は、焙煎ゴマ油由来の白土油滓を用いて、エタノール抽出工程で、エタノール抽出物として得た各成分の抽出量を説明する説明図である。
【0092】
この実施形態でも、白土油滓に加えるエタノール量を変えて分析した。また、定性・定量分析の条件も、第1の実施形態のHPLC分析条件と同じである。
【0093】
図9の結果より、実施例41~実施例47は、セサモール、セサミノール、セサミン、エピセサミン、セサモリンの抽出量が、比較例21及び22の各成分の抽出量よりも多いことが分かる。
【0094】
図9より、セサモール1.600~7.900wt%程度、セサミノール0.210~2.700wt%程度、セサミン1.200~4.700wt%程度、エピセサミン1.200~4.700wt%程度、セサモリン0.04~0.170wt%程度であることが分かる。
【0095】
実施例41~実施例47のように、エタノール量が増えることにより、歩留の値は大きくなる。
【0096】
実施例41~実施例47のセサモール、セサミノール、セサミン、エピセサミン、セサモリンの抽出量は、比較例21及び比較例22の各成分の抽出量に比べて非常に大きいことが分かる。特に、実施例41、実施例42、実施例43における、セサモール、セサミノール、セサミン、エピセサミン、セサモリンの抽出量は顕著に多いことが分かる。
【0097】
このように、実施例41~実施例47の各成分の抽出量は、比較例21及び比較例22のそれに比べて非常に多きが、エタノール量が増えるにつれて各成分の抽出量が減少傾向にある、若しくは、各成分の抽出量がある値に収束していることも分かる。
【0098】
(B-3)精製ゴマ油由来の白土油滓を用いたときの結果
図10は、精製ゴマ油由来の白土油滓を用いて、エタノール抽出工程で、エタノール抽出物として得た各成分の抽出量を説明する説明図である。
【0099】
ここでも、白土油滓に加えるエタノール量を変えて分析した。また、定性・定量分析の条件も、第1の実施形態のHPLC分析条件と同じである。
【0100】
図10より、セサモール0.090~0.350wt%程度、セサミノール0.120~0.470wt%程度、セサミン0.390~0.840wt%程度、エピセサミン0.400~0.900wt%程度、セサモリン0.004~0.017wt%程度であることが分かる。
【0101】
図10の結果より、実施例51~実施例57は、セサモール、セサミノール、セサミン、エピセサミン、セサモリンの抽出量が、比較例21及び22の各成分の量よりも多いことが分かる。
【0102】
(B-4)第2の実施形態の効果
以上のように、第2の実施形態によれば、脱脂処理をせず、白土油滓にエタノールを加えて、その後、濾過した瀘液を脱溶剤処理してエタノール抽出物を得ることで、高濃度のリグナン類含有物を経済的に製造することができる。
【0103】
(C)第3の実施形態
上述した第1の実施形態、第2の実施形態で抽出したリグナン類含有物は、少なくとも、セサモール、セサミノール、セサミン、エピセサミン、セサモリンが含まれている。これらリグナンは、強力な抗酸化活性があり、コレステロール低下作用、アルコール代謝改善効果、抗高血圧作用、ビタミン増強調整作用、抗動脈硬化作用、糖尿病予防効果、抗ガン作用などがある。
【0104】
そのため、リグナン類含有物を含む組成物は、医薬品、サプリメント等の健康食品(経口組成物)、化粧品などへの利用が期待されている。