(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119375
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/06 20060101AFI20240827BHJP
B60C 15/04 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B60C15/06 C
B60C15/04 B
B60C15/04 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026235
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松澤 佑樹
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA12
3D131BA03
3D131BA05
3D131BA18
3D131BA20
3D131BB01
3D131BB03
3D131BC09
3D131BC31
3D131HA15
3D131HA16
3D131HA33
3D131KA06
(57)【要約】
【課題】高荷重走行時の耐久性能が向上したタイヤを提供すること。
【解決手段】ビード部、カーカス層、およびクリンチ部を備えたタイヤであって、ビード部にはビードコアが埋設され、クリンチ部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率(70℃E*C)が20MPa以下であり、タイヤの最大負荷能力WL(kg)とクリンチ部を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδC)が下記式(1)を満たす、タイヤ。
(70℃tanδC+0.205)/WL<2.57×10-4 (1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビード部、カーカス層、およびクリンチ部を備えたタイヤであって、
前記ビード部にはビードコアが埋設され、
前記クリンチ部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、
前記クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率(70℃E*C)が20MPa以下であり、
前記タイヤの最大負荷能力WL(kg)と前記クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδC)が下記式(1)を満たす、タイヤ。
(70℃tanδC+0.205)/WL<2.57×10-4 (1)
【請求項2】
前記クリンチ部の最大厚みをT(mm)としたとき、Tと70℃E*Cとの積(T×70℃E*C)が270以下である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記ゴム成分がスチレンブタジエンゴムを含有する、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム組成物がリカバードカーボンブラックを含有する、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項5】
WLが1000kg以上である、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記ビードコアが、1本のコアコードと、前記コアコードの周囲にらせん状に配置された1以上の外側コードからなる、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記コアコードの直径が、前記1以上の外側コードのいずれの直径よりも大きい、請求項6記載のタイヤ。
【請求項8】
前記1以上の外側コードの本数が5~10本である、請求項6記載のタイヤ。
【請求項9】
前記ビード部が、ビードコアからタイヤ半径方向外側に配置されたビードエイペックス、および、前記カーカス層の巻き上げ部よりもタイヤ半径方向外側に配置されたビード補強層を有する、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記クリンチ部が、前記ビード補強層よりタイヤ半径方向外側に配置された、請求項9記載のタイヤ。
【請求項11】
前記ビードコアが、1以上のコードおよびコードを被覆するコードトッピングゴムを有し、前記コードトッピングゴムの100%モジュラスが5.0MPa以上10.0MPa以下である、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項12】
ASTM-1871に準拠して測定された、前記コードトッピングゴムからの前記コードの引抜力が、500N以上2000N以下である、請求項11記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤのライフ性能向上が求められる中、トレッド部だけでなく、クリンチ部、サイドウォール部、ビード部等の部材についても長寿命化させる必要がある。なかでもクリンチ部は繰り返し変形を受けやすい。
【0003】
特許文献1には、所定のクリンチエイペックス用ゴム組成物で構成されるクリンチエイペックスを備え、低発熱性および高速耐久性能が向上されたタイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他方、環境負荷への配慮に対する要望が高まっている昨今において、電気自動車の普及が進んでいる。電気自動車にはバッテリーの重量も加わる。そのため、タイヤには、従来よりも高荷重で走行することを想定した耐久性能が要求されると考えられる。
【0006】
本発明は、高荷重走行時の耐久性能が向上したタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
ビード部、カーカス層、およびクリンチ部を備えたタイヤであって、
前記ビード部にはビードコアが埋設され、
前記クリンチ部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、
前記クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率(70℃E*C)が20MPa以下であり、
前記タイヤの最大負荷能力WL(kg)と前記クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδC)が下記式(1)を満たす、タイヤに関する。
(70℃tanδC+0.205)/WL<2.57×10-4 (1)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高荷重走行時の耐久性能が向上したタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施態様に係るタイヤの概略部分断面図である。
【
図2】本発明の他の実施態様に係るタイヤの概略部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態であるタイヤは、ビード部、カーカス層、およびクリンチ部を備えたタイヤであって、前記ビード部にはビードコアが埋設され、前記クリンチ部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、前記クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率(70℃E*C)が20MPa以下であり、前記タイヤの最大負荷能力WL(kg)と前記クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδC)が下記式(1)を満たす、タイヤである。
(70℃tanδC+0.205)/WL<2.57×10-4 (1)
【0011】
理論に拘束されることは意図しないが、本発明のタイヤにおいて高荷重走行時の耐久性能が向上するメカニズムとしては、例えば以下のように考えられる。
【0012】
クリンチ部は繰り返し変形を受けやすい。本発明のタイヤは、(1)クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率が20MPa以下であることにより、ゴム組成物の柔軟性が向上し、クリンチ部の変形に合わせて柔軟に変形できるようになるため、耐久性能が向上する。
【0013】
タイヤ最大負荷能力WLが大きいと、タイヤの体積が大きくなり、タイヤ全体において局所的な歪みは発生しにくくなる。また、ゴム組成物の70℃におけるtanδを小さくすると、走行時のクリンチ部の温度上昇を抑制することができる。そこで、(2)70℃tanδおよびWLが上記式を満たすことにより、WLが大きく、70℃tanδを小さくするようにすることで、クリンチ部にかかる歪みおよび発熱を低減することができる。そして、これらが協働することで高荷重走行時の耐久性能が向上するという、特筆すべき効果が達成されると考えられる。
【0014】
クリンチ部の最大厚みをT(mm)としたとき、Tと70℃E*Cとの積(T×70℃E*C)が270以下であることが好ましい。
【0015】
クリンチ部の厚みは薄い方が、クリンチ部のゴム組成物の体積が減り、クリンチ部の発熱を抑制できるので、走行時のクリンチ部の温度上昇を抑制することができる。T×70℃E*Cが270以下であることで、ゴム組成物の柔軟性が低い場合にもクリンチ部の温度上昇を抑制することができ、耐久性能がさらに向上すると考えられる。
【0016】
前記ゴム成分は、スチレンブタジエンゴム(SBR)を含有するが好ましい。SBRを含有することで、ゴム組成物中にSBRのスチレンが集合したドメインが形成され、そのドメインによりクリンチ変形時の応力を緩和させることができ、クリンチ部の温度上昇を抑制することができると考えられる。
【0017】
前記ゴム組成物はリカバードカーボンブラック(rCB)を含有することが好ましい。rCBは表面が焼却処理されているので、ゴム組成物中のポリマーとの結合が他のフィラーよりも弱く、ゴム組成物が変形した際にゴム分子鎖が応力を緩和しやすくなり、クリンチ部内部でタイヤ転動時の衝撃を吸収しやすくなるため、耐久性能がさらに向上すると考えられる。
【0018】
WLは1000kg以上であることが好ましい。WLが大きいと、タイヤの体積が大きくなり、タイヤ全体において局所的な歪みは発生しにくくなり、耐久性能が向上すると考えられる。
【0019】
ビードコアは、1以上の互いに平行に配置された配列体を積層した帯状体から形成(以下、テープビード構造という)されてもよく、1本のコアコードと前記コアコードの周囲にらせん状に配置された1以上の外側コードから形成(以下、ケーブルビード構造という)されてもよいが、1本のコアコードと前記コアコードの周囲にらせん状に配置された1以上の外側コードから形成されることが好ましい。また、前記コアコードの直径は、前記1以上の外側コードのいずれの直径よりも大きいことが好ましい。そして、前記1以上の外側コードの本数は5~10本であることが好ましい。
【0020】
クリンチ部に隣接するビードコアが所定の構造であることにより、クリンチ部に変形が生じる際に、ビードコア周辺から動くことができるようになり、歪みが集中することを抑制することができ、耐久性能がさらに向上すると考えられる。
【0021】
ビード部は、ビードコアからタイヤ半径方向外側に配置されたビードエイペックス、および、カーカス層の巻き上げ部よりもタイヤ半径方向外側に配置されたビード補強層を有することが好ましい。
【0022】
ビード部が所定の構造であることにより、タイヤ幅方向の剛性が高くなり、クリンチ部の局所的な変形が抑制され耐久性能がさらに向上すると考えられる。
【0023】
クリンチ部は、前記ビード補強層よりタイヤ半径方向外側に配置されることが好ましい。タイヤ幅方向の剛性が高まり、耐久性能がさらに向上すると考えられるためである。
【0024】
ビードコアは、1以上のコードおよびコードを被覆するコードトッピングゴムを有し、前記コードトッピングゴムの100%モジュラスは5.0MPa以上10.0MPa以下であることが好ましい。また、ASTM-1871に準拠して測定された、前記コードトッピングゴムからの前記コードの引抜力は、500N以上2000N以下であることが好ましい。ビード部の剛性が高くなり、タイヤの耐久性能がさらに向上すると考えられるためである。
【0025】
<定義>
「クリンチ部の最大厚みT(mm)」は、クリンチ部外表面における法線Lに沿って計測されるクリンチ部の厚みのうち、最大の厚みである。なお、「クリンチ部の最大厚みT(mm)」は、タイヤを、タイヤ回転軸を含む面で切断し、ビード部の幅を正規リムの幅に合わせた状態で測定される。
【0026】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、JATMAであれば“標準リム”、ETRTOであれば“Measuring Rim”、TRAであれば“Design Rim”であり、JATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、参照時に適用サイズがあればその規格に従う。なお、前記の規格体系において定めを持たないサイズのタイヤの場合は、そのタイヤにリム組可能であり、リム/タイヤの間でエア漏れを発生させない最小径のリムのうち、最も幅の狭いものを指すものとする。
【0027】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば“最高空気圧”、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値であり、正規リムと同様にJATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、参照時に適用サイズがあればその規格に従う。そして、規格に定められていないタイヤの場合、前記正規リムを標準リムとして記載されている別のタイヤサイズ(規格に定められているもの)の正規内圧(ただし、250KPa以上)を指す。なお、250KPa以上の正規内圧が複数記載されている場合には、その中の最小値を指す。
【0028】
「正規状態」は、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。
【0029】
「最大負荷能力(WL)(kg)」は、正規状態で測定されたタイヤ断面幅をWt(mm)、タイヤ断面高さをHt(mm)、タイヤ外径をDt(mm)としたとき、下記式(2)および(3)により算出される値である。Vはタイヤが占める空間の仮想体積である。前記のタイヤ断面幅Wtは、前記の状態において、タイヤ側面に模様または文字などがある場合にはそれらを除いたものとしてのサイドウォール外面間の最大幅である。前記のタイヤ断面高さHtは、ビード部底面からトレッド最表面までの距離であり、タイヤの外径とリム径の呼びとの差の1/2である。
V={(Dt/2)2-(Dt/2-Ht)2}×π×Wt (2)
WL=0.000011×V+100 (3)
【0030】
「リカバードカーボンブラック」とは、カーボンブラックを含む使用済みのタイヤ等の製品の熱分解プロセスから得られるカーボンブラックであって、JIS K 6226-2:2003に準拠した熱重量測定法で、空気中の加熱で酸化燃焼させたとき、燃焼しない成分である灰分の質量(灰分量)の割合が13質量%以上であるカーボンブラックをいう。すなわち、前記酸化燃焼による減量分の質量(カーボン量)が87質量%未満である。リカバードカーボンブラックは、リカバードカーボンともいい、rCBで表すこともある。
【0031】
「オイルの含有量」は、油展ゴムに含まれるオイル量も含む。
【0032】
<測定方法>
「70℃tanδ」は、粘弾性測定装置、例えばGABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪±1%、伸長モードの条件下で測定される損失正接である。損失正接測定用サンプルは、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの加硫ゴム組成物である。タイヤから切り出して作製する場合には、タイヤのクリンチ部から、タイヤ周方向に対する接線方向が長辺、タイヤ幅方向が厚さ方向となるように切り出す。
【0033】
「70℃E*」は、温度70℃、周波数10Hz、動歪±1%の条件下で測定する複素弾性率(MPa)である。複素弾性率測定用サンプルは、70℃tanδの場合と同様にして作製される。
【0034】
「100%モジュラス」は、厚さ1mmの7号ダンベル形状の試験片を作製し、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張試験特性の求め方」に準じて、23℃雰囲気下にて、引張速度3.3mm/秒の条件で引張試験を実施した際の100%伸張時応力(MPa)である。
【0035】
「コードの引抜力」は、ASTM-1871“Standard Test Method for Adhesion Between Tire Bead Wire and Rubber”に準拠し、室温(23℃)、速度50mm/分の条件下で測定される、引抜までの最大荷重(N)である。
【0036】
「平均一次粒子径」は、粒子を透過型または走査型電子顕微鏡で写真撮影し、粒子400個の粒子径の算術平均により求められる値である。粒子の形状が球形の場合には球の直径を粒子径とし、球形以外の場合には顕微鏡画像から円相当径({4×(粒子の面積)÷π}の正の平方根)を算出して粒子径とする。カーボンブラック等に適用される。
【0037】
「カーボンブラックのN2SA」は、JIS K 6217-2:2017に準じて測定される。
【0038】
「スチレン含量」は、1H-NMR測定により算出される値であり、例えば、SBR等のスチレンに由来する繰り返し単位を有するゴム成分に適用される。「シス含量(シス-1,4-結合ブタジエン単位量)」は、JIS K 6239-2:2017に従い、赤外吸収スペクトル分析により算出される値であり、例えば、BR等のブタジエンに由来する繰り返し単位を有するゴム成分に適用される。
【0039】
<タイヤ>
本発明の一実施形態であるタイヤの作製手順について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本発明を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0040】
本実施形態に係るタイヤの最大負荷能力WLは、本発明の効果の観点から、800kg以上がより好ましく、900kg以上がさらに好ましく、1000kg以上がさらに好ましく、1100kg以上が特に好ましい。また、最大負荷能力WLは、本発明の効果をより良好に発揮する観点から、例えば、1800kg以下、1500kg以下、1300kg以下とすることができる。
【0041】
本実施形態に係るタイヤについて、以下適宜図面を用いて説明するが、図面は例示にすぎない。
図1に示される本発明の一実施形態のタイヤ1は、トレッド部2と、少なくとも一層のカーカス層9と、トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部3と、それぞれにビードコア5が埋設された一対のビード部6と、クリンチ部4と、カーカス層9のタイヤ半径方向外側に配された少なくとも一層のベルト層7を備えている。
【0042】
本発明のタイヤのビード部6は、サイドウォール部3のタイヤ軸方向内側に位置している。ビード部6は、ビードコア5と、ビードコアからタイヤ半径方向外側に配置されたビードエイペックス11とを備えていることが好ましい。
【0043】
本実施形態に係るタイヤは、ビードコア5からタイヤ半径方向外側に配置されたビードエイペックス11、およびカーカス層9のタイヤ半径方向外側に配置されたビード補強層10を有することが好ましい。その場合には、クリンチ部4は、ビード補強層10よりタイヤ半径方向外側に配置されることが好ましい。
【0044】
≪ビード部≫
図1において、ビードエイペックス11は、タイヤ半径方向外向きに先細りである。カーカス層9は、ビードコア5の周りを、タイヤ軸方向内側から外側に向かって、巻き上げられた状態で係止されている。カーカス層9の巻き上げられた部分を、カーカス層9の巻き上げ部という。
【0045】
ビード部6には、ビードコア5が埋設される。ビードコアは、二層以上とすることが好ましく、1~3本のコアコードからなるコア層と1以上の外側コードからなる二層であることがより好ましい。さらに好ましくは、1本のコアコードと、コアコードにらせん状に配置された1以上の外側コードからなる二層である。コアコードの直径は、外側コードのいずれの直径よりも大きいことが好ましい。
【0046】
外側コードの本数は3本以上が好ましく、5本以上がより好ましく、6本以上がさらに好ましい。また、外側コードの本数は、15本以下が好ましく、10本以下がより好ましく、8本以下がさらに好ましい。
【0047】
ビードコアを1本のコアコードと、コアコードにらせん状に配置された1以上の外側コードからなる二層とすることで、コアコードが2本以上であるよりも嵩が減少し、コード断面当たりの強度が高くなり、耐久性能がより向上すると考えられる。
【0048】
ビードコアは、コードを被覆するコードトッピングゴムを有することが好ましい。コードトッピングゴムはゴム成分を含むゴム組成物から構成される。なお、コードトッピングゴムを構成するゴム組成物の配合は特に制限されない。コードトッピングゴムの100%モジュラスは、2.5MPa以上が好ましく、5.0MPa以上がより好ましく、7.0MPa以上がさらに好ましい。また、該100%モジュラスは、15.0MPa以下が好ましく、10.0MPa以下がより好ましい。
【0049】
なお、ゴム組成物の100%モジュラスは、フィラー、軟化剤、加硫剤、加硫促進剤等の種類や配合量により適宜調整することができる。例えば、ゴム組成物のゴム成分中の総スチレン量を増加させること、フィラーの配合量を増やすこと、加硫剤、加硫促進剤を増やすこと、軟化剤としてガラス転移温度の高い樹脂などを用いること、軟化剤の配合量を減らすことなどにより、100%モジュラスを高めることができる。
【0050】
コードトッピングゴムからのコードの引抜力は、500N以上が好ましく、900N以上がより好ましく、1000N以上がさらに好ましく、1200N以上が特に好ましい。また、該引抜力は、2500N以下が好ましく、2000N以下がより好ましく、1600N以下がさらに好ましい。なお、コードトッピングゴムからのコードの引抜力は、上記方法により、ASTM-1871に準拠して測定される。
【0051】
なお、コードトッピングゴムからのコードの引抜力は、コードトッピングゴムを構成するゴム組成物のフィラー、軟化剤、加硫剤、加硫促進剤等の種類や配合量により適宜調整することができる。
【0052】
≪クリンチ部≫
クリンチ部4は、
図2に示すように、タイヤ半径方向外側にリムガードを有する形態であってもよい。
【0053】
クリンチ部4の最大厚みTは、本発明の効果の観点から、5.0mm以上が好ましく、8.0mm以上がより好ましく、10.0mm以上がさらに好ましく、12.0mm以上がさらに好ましく、15.0mm以上が特に好ましい。また、クリンチ部4の最大厚みTは、本発明の効果の観点から、40.0mm以下が好ましく、35.0mm以下がより好ましく、30.0mm以下がさらに好ましく、20.0mm以下が特に好ましい。
【0054】
本発明において、クリンチ部はゴム成分を含むゴム組成物により構成される。クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率(70℃E*C)は、ゴム組成物の柔軟性が向上させる観点から、20MPa以下であり、18MPa以下が好ましく、15MPa以下がより好ましく、10MPa以下がさらに好ましく、8.0MPa以下が特に好ましい。一方、クリンチ部の変形を抑制する観点からは、70℃E*Cは、3.0MPa以上が好ましく、5.0MPa以上がより好ましく、7.0MPa以上がさらに好ましい。なお、70℃E*Cは、前記測定方法により測定される。
【0055】
70℃E*Cは、フィラー、軟化剤、加硫剤、加硫促進剤等の種類や配合量により適宜調整することができる。例えば、加硫剤(特に硫黄)や加硫促進剤の配合量を多くすると、70℃E*Cは上昇する傾向がある。
【0056】
クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδC)は、走行時のクリンチ部の温度上昇を抑制する観点から、0.100以下が好ましく、0.090以下がより好ましく、0.080以下がさらに好ましく、0.075以下がさらに好ましく、0.070以下がさらに好ましく、0.065以下が特に好ましい。また、70℃tanδCは、0.020以上が好ましく、0.030以上がより好ましく、0.040以上がさらに好ましい。なお、70℃tanδCは、前記測定方法により測定される。
【0057】
70℃tanδCは、フィラー、軟化剤、加硫剤、加硫促進剤等の種類や配合量により適宜調整することができる。例えば、フィラー(特にカーボンブラック)の配合量を少なくすると、70℃tanδCは低下する傾向がある。
【0058】
本発明において、(70℃tanδC+0.205)/WLは、2.57×10-4未満であり、2.55×10-4未満が好ましく、2.50×10-4以下がより好ましく、2.48×10-4以下がさらに好ましく、2.45×10-4以下が特に好ましい。式(1)の右辺の下限値は、特に制限されないが、例えば1.00×10-4以上、1.50×10-4以上、2.00×10-4以上とすることができる。
【0059】
本発明において、クリンチ部4の最大厚みT(mm)と70℃E*Cとの積(T×70℃E*C)は、ゴム組成物の柔軟性が低い場合にもクリンチ部の温度上昇を抑制し、耐久性能を向上する観点から、300以下が好ましく、270以下がより好ましく、250以下がさらに好ましく、200以下が特に好ましく、150以下が最も好ましい。また、T×70℃E*Cの下限値は特に制限されないが、例えば、80以上、90以上、100以上とすることができる。
【0060】
<ゴム成分>
本実施形態に係るクリンチ部を構成するゴム組成物(以下、特に断りのない限り、本実施形態に係るゴム組成物という)は、ゴム成分として、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、およびスチレンブタジエンゴム(SBR)のいずれか1以上を含むことが好ましく、イソプレン系ゴムおよびBRを含有することが好ましく、SBRを含有することがより好ましく、イソプレン系ゴム、BR、およびSBRの3成分を含有することがさらに好ましい。さらにこれら以外の他のゴム成分を含有していてもよい。また、ゴム成分は、イソプレン系ゴム、BR、およびSBRのみからなるゴム成分としてもよい。
【0061】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0063】
ゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、45質量%以上が特に好ましい。一方、ゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量は、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、70質量%以下が特に好ましい。
【0064】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス含量が50モル%未満のBR(ローシスBR)、シス含量が90モル%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。これらのBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)、宇部興産(株)、JSR(株)等より市販されているものを使用することができる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。ハイシスBRのシス含量は、95モル%以上が好ましく、96モル%以上がより好ましく、97モル%以上がさらに好ましい。なお、BRのシス含量は、前記測定方法により測定される。
【0066】
BRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、本発明の効果の観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上が特に好ましい。一方、BRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下がさらに好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、65質量%以下が特に好ましい。
【0067】
(SBR)
SBRとしては特に限定はなく、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。なかでもS-SBRおよび変性SBRが好ましい。さらに、これらSBRの水素添加物(水素添加されたSBR)等も使用することができる。これらのSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
SBRのスチレン含量は、40質量%以下が好ましく、36質量%以下がより好ましく、32質量%以下がさらに好ましく、28質量%以下が特に好ましい。また、SBRのスチレン含量は、5質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、13質量%以上がさらに好ましく、16質量%以上が特に好ましい。なお、SBRのスチレン含量は、前記測定方法により測定される。
【0069】
SBRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、5質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、15質量%以上が特に好ましい。一方、ゴム成分中のSBRの含有量は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0070】
(その他のゴム成分)
ゴム成分は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外のゴム成分を含むこともでき、そのようなゴム成分としては、例えば、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等の非ジエン系ゴムが挙げられる。
【0071】
<フィラー>
本実施形態に係るゴム組成物は、フィラーとしてカーボンブラックおよび/またはシリカを含有することが好ましく、カーボンブラックを含有することがより好ましい。また、フィラーは、カーボンブラックのみからなるフィラーとしてもよい。
【0072】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。また、環境負荷の観点、および、カーボンブラック表面とゴム分子鎖との摩擦を減らし、発熱性を抑制する観点から、使用済みタイヤの熱分解から得られるリカバードカーボンブラック(rCB)を用いることができる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、rCB以外のカーボンブラックとrCBを併用することが好ましい。
【0073】
リカバードカーボンブラックは、使用済み空気入りタイヤの熱分解プロセスから得ることができる。例えば、欧州特許出願公開第3427975号明細書では、「ゴム化学と技術」、Vol.85、No.3、408~449頁(2012)、特に、438、440、442頁に言及し、酸素を排除した550~800℃での有機材料の熱分解、または、比較的低い温度での真空熱分解により得られることが記載されている([0027])。このような熱分解プロセスから得られるカーボンブラックは、特許第6856781号公報の[0004]で言及されているように、通常、その表面に官能基を欠くものである(熱分解カーボンブラックと市販のカーボンブラックとの表面形態および化学の比較、Powder Technology 160(2005)190~193)。
【0074】
リカバードカーボンブラックは、その表面に官能基を欠くものであってもよく、あるいは、その表面に官能基を含むように処理されたものであってもよい。リカバードカーボンブラックの表面に官能基を含むように行う処理は、常法により実施することができる。例えば、欧州特許出願公開第3173251号明細書では、熱分解プロセスから得られたカーボンブラックを、酸性条件下で、過マンガン酸カリウムで処理することにより、その表面にヒドロキシルおよび/またはカルボキシル基を含むカーボンブラクを得ている。また、特許第6856781号公報では、熱分解プロセスから得られたカーボンブラックを、少なくとも1つのチオール基またはジスルフィド基を含むアミノ酸化合物で処理して、その表面を活性化したカーボンブラックを得ている。本実施形態に係るリカバードカーボンブラックは、これらの表面に官能基を含むように処理されたカーボンブラックをも含むものである。
【0075】
リカバードカーボンブラックは、Strable Green Carbon社、LDCarbon社等より市販されているものを使用することができる。
【0076】
カーボンブラックの平均一次粒子径は、40nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましく、60nm以上がさらに好ましく、70nm以上が特に好ましい。一方、該平均一次粒子径は、補強性を得る観点からは、100nm以下が好ましく、95nm以下がより好ましく、90nm以下がさらに好ましい。なお、カーボンブラックの平均一次粒子径は、前記測定方法により測定される。
【0077】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、本発明の効果の観点から、90m2/g以下が好ましく、80m2/g以下がより好ましく、70m2/g以下がさらに好ましく、60m2/g以下が特に好ましい。また、該N2SAは、10m2/g以上が好ましく、20m2/g以上がより好ましく、30m2/g以上がさらに好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、前記測定方法により測定される。
【0078】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、補強性を得る観点から、30質量部以上が好ましく、35質量部以上がより好ましく、40質量部以上がさらに好ましく、45質量部以上が特に好ましい。また、柔軟性を得て応力を緩和させる観点からは、100質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましく、80質量部以下がさらに好ましく、70質量部以下がさらに好ましく、60質量部以下がさらに好ましく、50質量部以下が特に好ましい。
【0079】
カーボンブラックの総含有量に占めるリカバードカーボンブラックの含有率は、特に制限されないが、例えば、1質量%超、5質量%超、10質量%超、20質量%超、25質量%超、30質量%超とすることができる。一方、補強性の観点から、95質量%未満が好ましく、90質量%未満がより好ましく、85質量%未満がさらに好ましい。
【0080】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。なお、上記のシリカの他に、もみ殻などのバイオマス材料を原料としたシリカを適宜用いてもよい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0081】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、発熱性を過度に高めることなく、剛性と補強性を確保する観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましく、20質量部以上が特に好ましい。また、ゴムの比重を低減させる観点からは、100質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましく、80質量部以下がさらに好ましい。
【0082】
(その他のフィラー)
カーボンブラックおよびシリカ以外のフィラーとしては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等、従来からタイヤ工業において一般的に用いられているものを配合することができる。
【0083】
<その他の配合剤>
本実施形態に係るゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、軟化剤、ワックス、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0084】
軟化剤としては、例えば、オイル、樹脂成分、液状ゴム等が挙げられる。
【0085】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、動物油脂等が挙げられる。前記プロセスオイルとしてはパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルを使用することもできる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、軽度抽出溶媒和物(MES)、処理留出物芳香族系抽出物(TDAE)、重ナフテン系オイル等が挙げられる。また、ライフサイクルアセスメントの観点から、ゴム混合機やエンジンに用いられた後の廃油や、飲食店で使用された廃食用油を精製したものを用いてもよい。
【0086】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、5質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0087】
樹脂成分としては、特に限定されないが、タイヤ工業で慣用される石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
樹脂成分を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、発熱性抑制の観点からは、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0089】
液状ゴムは、常温(25℃)で液体状態のポリマーであれば特に限定されないが、例えば、液状ブタジエンゴム(液状BR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)、液状イソプレンゴム(液状IR)、液状スチレンイソプレンゴム(液状SIR)、液状ファルネセンゴム等が挙げられる。これらの液状ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
液状ゴムを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、液状ゴムの含有量は、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0091】
ゴム成分100質量部に対する軟化剤の合計含有量は、本発明の効果の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましく、7質量部以上が特に好ましい。また、軟化剤の合計含有量は、100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましい。
【0092】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0093】
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0095】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0096】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0097】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0098】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.5質量部以下がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0099】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0100】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系若しくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、所望の効果がより好適に得られる点から、スルフェンアミド系、グアニジン系、およびチアゾール系加硫促進剤からなる群から選ばれる1以上の加硫促進剤が好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤がより好ましい。
【0101】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)およびN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)が好ましい。
【0102】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)が好ましい。
【0103】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0104】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8.0質量部以下が好ましく、7.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下がさらに好ましく、5.0質量部以下が特に好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0105】
<製造>
本実施形態に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0106】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。
【0107】
混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0108】
前記ゴム組成物から構成されるクリンチ部を備えた本実施形態に係るタイヤは、通常の方法により製造することができる。すなわち、ゴム成分に対して上記各成分を必要に応じて配合した未加硫のゴム組成物を、クリンチ部の形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上でトレッド部、カーカス層、サイドウォール部、ビード部、およびその他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0109】
<用途>
本実施形態に係るタイヤは、乗用車用タイヤ、重荷重用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤに好適に用いることができる。なお、乗用車用タイヤとは、四輪で走行する自動車に装着されることを前提としたタイヤであり、その最大負荷能力WLが1400kg以下のものを指す。また、本実施形態に係るタイヤは、全シーズン用タイヤ、夏用タイヤ、スタッドレスタイヤ等の冬用タイヤに使用可能である。
【実施例0110】
以下では、実施をする際に好ましいと考えられる例(実施例)を示すが、本発明の範囲は実施例に限られない。
【0111】
以下に示す各種薬品を用いて表1~表4に従って配合を変化させて得られるゴム組成物を用いて作製されるクリンチ部を備えるタイヤを検討して下記評価方法に基づいて算出した結果を表1~表4に示す。
NR:TSR20
BR:宇部興産(株)製のUBEPOL BR(登録商標)150B(シス含量:97モル%)
SBR:JSR(株)製のHPR850(S-SBR、スチレン含量:27.5質量%、ビニル含量:59.0モル%、非油展品)
カーボンブラック(CB)1:三菱ケミカル(株)製のダイアブラックE(N550、N2SA:41m2/g、平均一次粒子径:81nm)
カーボンブラック(CB)2:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN660(N2SA:35m2/g、平均一次粒子径:80nm)
rCB:タイヤの熱分解プロセスから得られたカーボンブラック(灰分量:17質量%)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤1:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
老化防止剤2:大内新興化学工業(株)製のノクラックRD(ポリ(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン))
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスNH-70S(アロマ系プロセスオイル)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
硫黄:日本乾溜工業(株)製のセイミOT(10%オイル含有不溶性硫黄)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS))
【0112】
(実施例および比較例)
表1~表4に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度170℃になるまで5分間混練りし、混練物を得る。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。得られた未加硫ゴム組成物を、所定の形状の口金を備えた押し出し機でクリンチ部の形状に押し出し成形し、トレッド部、カーカス層、サイドウォール部、コード-ゴム複合体としたビード部(ビードコアはコードおよびコードを被覆するコードトッピングゴムを有する。コードトッピングゴムの100%モジュラスは7.0MPa、コードトッピングゴムからのコードの引抜力は1300Nとする。)、およびその他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、各試験用タイヤを製造する。なお、表1~表4において、ビード部に埋設されるビードコアの構造を、互いに平行に配置された4本のコードの配列体を4層に積層した帯状体とする場合をテープビード構造と示し、1本のコアコードとコアコードの周囲にらせん状に配置された1以上の外側コードから形成される場合をケーブルビード構造と示す。
【0113】
<70℃tanδおよび70℃E*の測定>
各試験用タイヤのクリンチ部から、タイヤ周方向に対する接線方向が長辺、タイヤ幅方向(クリンチ部表面の法線方向)が厚さ方向となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出してゴム試験片を作製する。各ゴム試験片について、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪10%、動歪±1%、伸長モードの条件下でtanδおよび複素弾性率(E*)を測定する。
【0114】
<高荷重走行時耐久性能>
各試験用タイヤをそれぞれ正規リムに組み込み、正規内圧にまで空気を充填した後、ドラム上で、1000kgの荷重をかけた状態で時速80kmで走行させ、タイヤが損傷するまでの距離について基準比較例(表1~表2においては比較例9、表3~表4においては比較例18)を100とした値を高荷重走行時耐久性能指数とする。指数が大きいほど高荷重走行時の耐久性能に優れることを示す。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
<実施形態>
本発明の実施形態の例を以下に示す。
〔1〕ビード部、カーカス層、およびクリンチ部を備えたタイヤであって、
前記ビード部にはビードコアが埋設され、
前記クリンチ部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、
前記クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率(70℃E*C)が20MPa以下であり、
前記タイヤの最大負荷能力WL(kg)と前記クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδC)が下記式(1)を満たす、タイヤ。
(70℃tanδC+0.205)/WL<2.57×10-4 (1)
〔2〕前記クリンチ部の最大厚みをT(mm)としたとき、Tと70℃E*Cとの積(T×70℃E*C)が270以下である、上記〔1〕記載のタイヤ。
〔3〕前記ゴム成分がスチレンブタジエンゴムを含有する、上記〔1〕または〔2〕に記載のタイヤ。
〔4〕前記ゴム組成物がリカバードカーボンブラックを含有する、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔5〕WLが1000kg以上である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔6〕前記ビードコアが、1本のコアコードと、前記コアコードの周囲にらせん状に配置された1以上の外側コードからなる、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔7〕前記コアコードの直径が、前記1以上の外側コードのいずれの直径よりも大きい、上記〔6〕記載のタイヤ。
〔8〕前記1以上の外側コードの本数が5~10本である、上記〔6〕または〔7〕に記載のタイヤ。
〔9〕前記ビード部が、ビードコアからタイヤ半径方向外側に配置されたビードエイペックス、および、前記カーカス層の巻き上げ部よりもタイヤ半径方向外側に配置されたビード補強層を有する、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔10〕前記クリンチ部が、前記ビード補強層よりタイヤ半径方向外側に配置された、上記〔9〕記載のタイヤ。
〔11〕前記ビードコアが、1以上のコードおよびコードを被覆するコードトッピングゴムを有し、前記コードトッピングゴムの100%モジュラスが5.0MPa以上10.0MPa以下である、上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔12〕ASTM-1871に準拠して測定された、前記コードトッピングゴムからの前記コードの引抜力が、500N以上2000N以下である、上記〔11〕記載のタイヤ。