(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119376
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】超音波診断装置、パルスドプラ血流音の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/06 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
A61B8/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026236
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 政太朗
(72)【発明者】
【氏名】石黒 稔道
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD03
4C601DE03
4C601EE09
4C601EE10
4C601JB11
4C601JB46
4C601KK16
4C601KK17
(57)【要約】
【課題】パルスドプラについての視覚情報と聴覚情報とを一致させることにより、生体組織の状態を容易に観察及び判断することができる超音波診断装置を提供すること。
【解決手段】本発明の超音波診断装置は、被検体に対する超音波の送受信によって得た反射波信号をパルスドプラ法に従って解析し、血流の流速分布を示すパルスドプラ画像2を表示装置の表示画面上に表示する。それとともに、超音波診断装置は、血流の流速を示すパルスドプラ血流音を音声出力装置から出力する。また、超音波診断装置は音声ゲイン調整手段を備える。音声ゲイン調整手段は、ユーザが行う画像ゲイン調整作業に基づきパルスドプラ画像2の輝度を増減させると同時に、輝度の増減に連動してパルスドプラ血流音の音量も増減させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対する超音波の送受信によって得た反射波信号をパルスドプラ法に従って解析し、血流の流速分布を示すパルスドプラ画像を表示装置の表示画面上に表示するとともに、前記血流の流速を示すパルスドプラ血流音を音声出力装置から出力する超音波診断装置であって、
ユーザが行う画像ゲイン調整作業に基づき前記パルスドプラ画像の輝度を増減させると同時に、前記輝度の増減に連動して前記パルスドプラ血流音の音量も増減させる音声ゲイン調整手段を備える
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記音声ゲイン調整手段は、前記反射波信号の解析により得られた前記血流の速度成分に基づいて、前記パルスドプラ血流音の音量を調整することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記音声出力装置は、前記反射波信号から抽出された複素信号に基づいて前記パルスドプラ血流音を出力するものであり、
前記血流の速度成分の積算値を係数として用いて、前記複素信号を重み付けする重み付け演算手段を備える
ことを特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記重み付け演算手段は、前記速度成分の積算値が大きいほど前記複素信号の出力を大きくし、前記速度成分の積算値が小さいほど前記複素信号の出力を小さくするように、重み付け演算を行うことを特徴とする請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
被検体に対する超音波の送受信によって得た反射波信号をパルスドプラ法に従って解析し、血流の流速分布を示すパルスドプラ画像を表示装置の表示画面上に表示するとともに、前記血流の流速を示すパルスドプラ血流音を音声出力装置から出力する超音波診断装置における前記パルスドプラ血流音の制御プログラムであって、プロセッサに、
ユーザが行う画像ゲイン調整作業に基づき前記パルスドプラ画像の輝度を増減させると同時に、前記輝度の増減に連動して前記パルスドプラ血流音の音量も増減させる音声ゲイン調整ステップを実行させる
ことを特徴とするパルスドプラ血流音の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を利用して、血流の流速分布を示すパルスドプラ画像を表示するとともに、血流の流速を示すパルスドプラ血流音を出力する超音波診断装置、パルスドプラ血流音の制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、牛、馬、豚等の家畜を診断する診断装置として、超音波診断装置がよく知られている。この種の超音波診断装置では、生体内部の生体組織に対する超音波の送受信によって得た反射波信号をパルスドプラ法に従って解析し、血流の流速分布を示すパルスドプラ画像を生成し、そのパルスドプラ画像を表示装置の表示画面上に表示することが行われている。なお、パルスドプラ法とは、血流からのエコー信号(反射波信号)を高速フーリエ変換し、パルスドプラ画像(FFT画像)を表示する方法である。これにより、医師等のユーザは、表示画面上に表示された流速分布に基づいて、血管または心臓などの状態を診断することが可能になる。
【0003】
また、血流の流速分布を表示画面上に表示するだけでなく、血流の流速を示すパルスドプラ血流音をスピーカ等の音声出力装置から出力する超音波診断装置が従来提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような超音波診断装置では、超音波プローブが生体組織の動脈付近を検出した際に、流速分布が表示画面上に表示される。それとともに、脈動に対応して周期的に周波数が変化する音である「シュン、シュン」という音が、音声出力装置からパルスドプラ血流音として出力される。また、超音波プローブが生体組織の静脈付近を検出した際にも、流速分布が表示画面上に表示される。それとともに、周期性のない一定音量の「サー」という音が、音声出力装置からパルスドプラ血流音として出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、超音波プローブを生体組織から離した際や、超音波プローブを生体組織の血流がない部位(例えば、膿の塊等)に接触させた際に、血流の流速分布(パルスドプラ画像)が表示画面上に表示されていないにもかかわらず、音声出力装置から「サー」というノイズ音が出力されることがある。この場合、視覚で得られる視覚情報と聴覚で得られる聴覚情報とが一致しなくなるため、ユーザは、生体組織の状態を観察及び判断することが困難である。よって、血流の流速分布が表示されているときには音を出力するように調整し、血流の流速分布が表示されていないときには音を出力しないように調整したいという要望がある。
【0006】
しかしながら、パルスドプラ画像に対しては画像ゲイン調整を行うことができるものの、音の出力については従来調整方法が提案されていない。仮に、音の出力を調整できたとしても、パルスドプラ画像とは別々に調整する必要があるため、視覚情報と聴覚情報とを一致させることは困難である。よって、画像ゲイン調整を行って表示画面にノイズ成分を表示させないようにしたとしても、音が聞こえてしまう可能性が高い。なお、ノイズ音は静脈のパルスドプラ血流音に似ているため、聞こえてくる音が静脈のパルスドプラ血流音なのかノイズ音なのかを区別できないという問題がある。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、パルスドプラについての視覚情報と聴覚情報とを一致させることにより、生体組織の状態を容易に観察及び判断することができる超音波診断装置、パルスドプラ血流音の制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、被検体に対する超音波の送受信によって得た反射波信号をパルスドプラ法に従って解析し、血流の流速分布を示すパルスドプラ画像を表示装置の表示画面上に表示するとともに、前記血流の流速を示すパルスドプラ血流音を音声出力装置から出力する超音波診断装置であって、ユーザが行う画像ゲイン調整作業に基づき前記パルスドプラ画像の輝度を増減させると同時に、前記輝度の増減に連動して前記パルスドプラ血流音の音量も増減させる音声ゲイン調整手段を備えることを特徴とする超音波診断装置をその要旨とする。
【0009】
従って、請求項1に記載の発明によると、音声ゲイン調整手段が、パルスドプラ画像の輝度を高くするのに連動してパルスドプラ血流音の音量が大きくなる一方、パルスドプラ画像の輝度を低くするのに連動してパルスドプラ血流音の音量が小さくなる。これにより、視覚情報であるパルスドプラ画像の輝度と聴覚情報であるパルスドプラ血流音の音量とが一致する。そのため、パルスドプラ画像及びパルスドプラ血流音に基づいて、生体組織の状態を容易に観察及び判断することが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記音声ゲイン調整手段は、前記反射波信号の解析により得られた前記血流の速度成分に基づいて、前記パルスドプラ血流音の音量を調整することをその要旨とする。
【0011】
従って、請求項2に記載の発明によると、音声ゲイン調整手段が、パルスドプラ画像として表示される血流の速度成分に基づいてパルスドプラ血流音の音量を調整する。その結果、パルスドプラ血流音の音量がパルスドプラ画像の輝度に確実に連動する。よって、パルスドプラ血流音の音量調整を適切に行うことができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、前記音声出力装置は、前記反射波信号から抽出された複素信号に基づいて前記パルスドプラ血流音を出力するものであり、前記血流の速度成分の積算値を係数として用いて、前記複素信号を重み付けする重み付け演算手段を備えることをその要旨とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3において、前記重み付け演算手段は、前記速度成分の積算値が大きいほど前記複素信号の出力を大きくし、前記速度成分の積算値が小さいほど前記複素信号の出力を小さくするように、重み付け演算を行うことをその要旨とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、被検体に対する超音波の送受信によって得た反射波信号をパルスドプラ法に従って解析し、血流の流速分布を示すパルスドプラ画像を表示装置の表示画面上に表示するとともに、前記血流の流速を示すパルスドプラ血流音を音声出力装置から出力する超音波診断装置における前記パルスドプラ血流音の制御プログラムであって、プロセッサに、ユーザが行う画像ゲイン調整作業に基づき前記パルスドプラ画像の輝度を増減させると同時に、前記輝度の増減に連動して前記パルスドプラ血流音の音量も増減させる音声ゲイン調整ステップを実行させることを特徴とするパルスドプラ血流音の制御プログラムをその要旨とする。
【0015】
従って、請求項5に記載の発明によると、音声ゲイン調整ステップにおいて、パルスドプラ画像の輝度を高くするのに連動してパルスドプラ血流音の音量を大きくする一方、パルスドプラ画像の輝度を低くするのに連動してパルスドプラ血流音の音量を小さくする。これにより、視覚情報であるパルスドプラ画像の輝度と聴覚情報であるパルスドプラ血流音の音量とが一致する。そのため、パルスドプラ画像及びパルスドプラ血流音に基づいて、生体組織の状態を容易に観察及び判断することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上詳述したように、請求項1~5に記載の発明によると、パルスドプラについての視覚情報と聴覚情報とを一致させることにより、生体組織の状態を容易に観察及び判断することができる超音波診断装置、パルスドプラ血流音の制御プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態における超音波診断装置を示す概略構成図。
【
図2】超音波診断装置の電気的構成を示すブロック図。
【
図4】(a)~(c)は、パルスドプラ画像の明るさと血流の速度成分の積算値(係数)との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
図1,
図2に示されるように、本実施形態の超音波診断装置11は、牛、馬、豚等の家畜の妊娠を診断する動物用の診断装置である。超音波診断装置11は、生体組織1(被検体)に対する超音波の送受信によって得た反射波信号を、パルスドプラ法に従って解析するようになっている。なお、本実施形態では、超音波診断装置11を家畜の妊娠検査に使用することから、家畜における卵胞や黄体などといった部位が生体組織1となる。
【0020】
また、超音波診断装置11は、装置本体12と、その装置本体12に接続される超音波プローブ13とを備えている。超音波プローブ13は、信号ケーブル14と、信号ケーブル14の先端に接続されるプローブヘッド15と、信号ケーブル14の基端に設けられるプローブ側コネクタ16とを備えている。装置本体12には本体側コネクタ17が設けられ、本体側コネクタ17には、超音波プローブ13のプローブ側コネクタ16が着脱可能に接続されている。
【0021】
図1に示されるように、超音波プローブ13のプローブヘッド15は、複数の超音波振動子(図示略)を有している。超音波プローブ13の使用時には、プローブヘッド15を生体組織1に対して接触させ、この状態で超音波を送受信する。なお、超音波プローブ13の形式は特に限定されないが、本実施形態のものはコンベックス式電子走査を行うためのコンベックスプローブであり、例えば5MHzの超音波を発信する。
【0022】
次に、超音波診断装置11の電気的な構成について詳述する。
【0023】
図2に示されるように、超音波診断装置11の装置本体12は、コントローラ21、メモリ22、表示装置23、入力装置24、スピーカ25(音声出力装置)及び記憶装置26を備えている。プロセッサであるコントローラ21は、周知の中央処理装置(CPU)を含んで構成されたコンピュータであり、メモリ22に記憶されている制御プログラムを実行し、装置全体を統括的に制御する。また、コントローラ21は、生体組織1に対する超音波の送受信を行う。
【0024】
表示装置23は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、CRTディスプレイ、投影式ディスプレイなどのカラーディスプレイである。表示装置23は、生体組織1の断層像(図示略)やパルスドプラ画像2(
図3参照)を表示画面23a(
図1参照)上に表示するために用いられる。さらに、表示装置23は、各種設定の入力画面を表示画面23a上に表示するためにも用いられる。
【0025】
入力装置24は、例えば、スイッチ類、各種のポインティング・デバイスなどによって構成されており、ユーザ(例えば医師)からの指示の入力やパラメータの入力に用いられる。なお、ポインティング・デバイスの例としては、タッチパッド、タッチパネル、ペンタブレット、トラックボール、ジョイスティックなどを挙げることができる。また、本実施形態の入力装置24は、パルスドプラ画像2の画像ゲイン調整作業においても、ユーザからの指示の入力に用いられる。
【0026】
スピーカ25は、血流の流速を示すパルスドプラ血流音を出力するために用いられる。また、記憶装置26は、例えば、磁気ディスク装置、光ディスク装置、半導体記憶装置などであり、制御プログラム(パルスドプラ血流音の制御プログラムなど)や各種のデータを記憶している。コントローラ21は、入力装置24による指示に従い、プログラムやデータを記憶装置26からメモリ22へ転送し、それを逐次実行する。なお、コントローラ21が実行するプログラムは、フレキシブルディスク等の磁気ディスク、CD、DVD、BD等の光ディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリ、フラッシュメモリ、SDカード等の半導体メモリなどの記憶媒体に記憶されたプログラムでもよいほか、通信媒体を介してダウンロードしたプログラムでもよい。このようなプログラムは、実行される前に記憶装置26にインストールされる。
【0027】
図2に示されるように、装置本体12は、パルス発生回路31、送信回路32、受信回路33及び信号処理部34を備えている。パルス発生回路31は、コントローラ21からの制御信号に応答して動作し、所定周期のパルス信号を生成して出力する。送信回路32は、超音波プローブ13における超音波振動子の素子数に対応した複数の遅延回路(図示略)を含んでいる。送信回路32は、パルス発生回路31から出力されるパルス信号に基づいて、各超音波振動子に応じて遅延させた駆動パルスを出力する。各駆動パルスの遅延時間は、超音波プローブ13から出力される超音波が所定の照射点で焦点を結ぶように設定されている。
【0028】
受信回路33は、図示しない信号増幅回路、遅延回路、整相加算回路を含んで構成されている。受信回路33では、超音波プローブ13における各超音波振動子で受信した各反射波信号(エコー信号)が増幅される。
【0029】
本実施形態の信号処理部34は、位相合成部41、Bモードデータ生成部42、画像処理部43、パルスドプラデータ生成部44及び音声データ生成部45を備えている。位相合成部41は、増幅された各反射波信号を入力し、受信指向性を考慮した遅延時間を各反射波信号に付加した後に整相加算する。この加算によって、各超音波振動子が受信した反射波信号の位相差が調整される。
【0030】
Bモードデータ生成部42は、図示しない対数変換回路、包絡線検波回路、A/D変換回路などから構成されている。Bモードデータ生成部42は、位相差が調整された反射波信号に基づいて信号強度を輝度に変換する処理(即ち、Bモード処理)を行い、断層像を得るためのBモードデータを生成する。対数変換回路は反射波信号を対数変換し、包絡線検波回路は対数変換回路の出力信号の包絡線を検波する。また、A/D変換回路は、包絡線検波回路から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換(A/D変換)する。
【0031】
画像処理部43は、Bモードデータ生成部42から出力される信号に基づいて所定の画像処理を行い、断層像(Bモード画像)の画像データを生成する。具体的に言うと、画像処理部43は、反射波信号の振幅(信号強度)に応じた輝度の画像データを生成する。なお、画像処理部43で生成された画像データは、逐次メモリ22に記憶される。そして、メモリ22に記憶された断層像の画像データに基づいて、生体組織1の断層像が白黒の濃淡で表示装置23の表示画面23aに表示される。
【0032】
パルスドプラデータ生成部44は、バンドパスフィルタ51(BPF)、直交検波器52、ローパスフィルタ53(LPF)、サンプルアンドホールド回路54(積算手段)、ウォールモーションフィルタ55、フーリエ変換部56(フーリエ変換手段)及びスペクトル演算部57(スペクトル演算手段)を備えている。バンドパスフィルタ51は、位相合成部41によって位相差が調整された反射波信号から信号帯域以外のノイズを除去することにより、反射波信号から所定帯域の信号を抽出する帯域フィルタである。直交検波器52は、バンドパスフィルタ51によって抽出された信号から、複素信号であるI信号及びQ信号を抽出する。
【0033】
ローパスフィルタ53は、直交検波器52によって抽出されたI信号及びQ信号のそれぞれから高調波成分を除去する。サンプルアンドホールド回路54は、サンプルゲートを設定した状態で、高調波成分が除去されたI信号及びQ信号を一定範囲内(深さ方向)で積算することにより、積算I信号(ΣI信号)及び積算Q信号(ΣQ信号)を生成する。
【0034】
ウォールモーションフィルタ55は、積算I信号及び積算Q信号のそれぞれから、生体(家畜)の体動に関する情報をノイズとして除去するハイパスフィルタである。フーリエ変換部56は、積算I信号及び積層Q信号に対して高速フーリエ変換(FFT)等の信号処理による周波数解析(ドプラ解析)を行う。スペクトル演算部57は、フーリエ変換部56によって変換された積算I信号及び積算Q信号をスペクトル演算することにより、血流の速度成分を算出する。
【0035】
そして、画像処理手段である画像処理部43は、血流の速度成分に基づいて、血流の流速分布を示すパルスドプラ画像2(FFT画像)の画像データを生成する。また、画像処理部43は、反射波信号の振幅(信号強度)に応じた輝度の画像データを生成する。なお、画像処理部43で生成された画像データは、逐次メモリ22に記憶される。そして、メモリ22に記憶されたパルスドプラ画像2の画像データに基づいて、血流の流速分布をドプラ波形で示すグラフ3が表示装置23の表示画面23aに表示される(
図3参照)。
【0036】
音声データ生成部45は、速度成分積算部61及び重み付け演算部62(重み付け演算手段)を備える。速度成分積算部61は、反射波信号の解析により得られた血流の各速度成分を積算し、得られた各速度成分の積算値(Σ)を重み付け演算の係数とする。なお、パルスドプラ画像2の画像データの輝度が高いほど、各速度成分の積算値が大きくなり、パルスドプラ画像2の画像データの輝度が低いほど、各速度成分の積算値が小さくなる。即ち、積算値(係数)は、パルスドプラ画像2の明るさを数値に置き換えたデータである。
【0037】
また、重み付け演算部62は、速度成分積算部61によって得られた積算値(係数)を用いて、ウォールモーションフィルタ55によってノイズが除去された積算I信号を重み付けする。本実施形態の重み付け演算部62は、積算I信号に係数を乗じることにより、積算I信号を重み付けする。また、重み付け演算部62は、係数が大きいほど積算I信号の出力を大きくし、係数が小さいほど積算I信号の出力を小さくするように、重み付け演算を行う。本実施形態では、パルスドプラ画像2の明るさが最大となる場合に係数が「1」となり、明るさが最小となる場合に係数が「0」となり、積算I信号に乗じる係数は、0以上1以下の範囲内で一次関数的に変化する(
図4(a)参照)。
【0038】
そして、スピーカ25は、反射波信号から抽出され、重み付け演算部62によって重み付けされた積算I信号に基づいて、パルスドプラ血流音を音声として出力する。なお、デジタル信号である積算I信号は、図示しないD/A変換部によってアナログ信号に変換された後にスピーカ25に入力され、パルスドプラ血流音としてスピーカ25から出力される。
【0039】
次に、パルスドプラ血流音の制御プログラムに基づいて実行される処理を以下に説明する。
【0040】
まず、超音波診断に関する情報として、家畜の識別番号、年齢、診断日時などの管理情報等の入力を促すメッセージが表示装置23の表示画面23aに表示される。ここで、ユーザにより入力装置24が操作されることにより、各種情報が入力される。そして、入力された情報は、一旦メモリ22に記憶される。
【0041】
各種情報の入力が完了した後、超音波プローブ13による超音波の送受信が開始される。具体的には、パルス発生回路31が動作し、所定周期のパルス信号が送信回路32に供給される。そして、送信回路32では、パルス信号に基づいて、各超音波振動子に対応した遅延時間を有する駆動パルスが生成され、超音波プローブ13に供給される。これにより、超音波プローブ13の各超音波振動子が振動して、超音波が生体組織1に向けて照射される。
【0042】
なお、生体組織1内を伝播する超音波の一部は、生体組織1における組織境界面(例えば血管壁)などで反射して超音波プローブ13で受信される。このとき、超音波プローブ13の各超音波振動子によって、反射波が電気信号(反射波信号)に変換される。そして、その反射波信号は、受信回路33で増幅等された後、信号処理部34に入力される。
【0043】
その後、反射波信号に基づいて、生体組織1の断層像の画像データが生成される。具体的に言うと、信号処理部34の位相合成部41を経て位相差調整された反射波信号をBモードデータ生成部42に入力し、そこで反射波信号に対して対数変換や包絡線検波といった信号処理を行った後、反射波信号をA/D変換する。さらに、A/D変換された反射波信号を画像処理部43に入力して所定の画像処理を行わせることにより、断層像の画像データを生成させる。なお、生成された画像データは、一旦メモリ22に記憶される。そして、記憶された画像データがメモリ22から読み出されて表示装置23に転送され、生体組織1の断層像が、白黒の濃淡で表示装置23の表示画面23aに表示される。
【0044】
また、本実施形態では、反射波信号に基づいて、パルスドプラ画像2の画像データが生成される。具体的に言うと、
図5に示されるように、位相合成部41によって位相差調整された反射波信号がバンドパスフィルタ51に入力され、反射波信号から信号帯域以外のノイズが除去されることにより、反射波信号から所定帯域の信号が抽出される。さらに、バンドパスフィルタ51によって抽出された信号が直交検波器52に入力され、抽出された信号からI信号及びQ信号が抽出される。
【0045】
次に、直交検波器52によって抽出されたI信号及びQ信号がローパスフィルタ53に入力され、I信号及びQ信号のそれぞれから高調波成分が除去される。さらに、高調波成分が除去されたI信号及びQ信号がサンプルアンドホールド回路54に入力され、サンプルゲートを設定した状態でI信号及びQ信号が積算されることにより、積算I信号(ΣI信号)及び積算Q信号(ΣQ信号)が生成される。
【0046】
そして、積算I信号及び積算Q信号がウォールモーションフィルタ55に入力され、積算I信号及び積算Q信号のそれぞれから、家畜の体動に関する情報がノイズとして除去される。次に、ノイズが除去された積算I信号及び積算Q信号は、フーリエ変換部56に入力され、高速フーリエ変換(FFT)による周波数解析(ドプラ解析)が行われる。さらに、フーリエ変換部56によって変換された積算I信号及び積算Q信号は、スペクトル演算部57に入力されてスペクトル演算されることにより、血流の速度成分が算出される。
【0047】
次に、算出された血流の速度成分は、画像処理部43に入力された際に所定の画像処理(画像ゲイン調整作業、時間軸・流速軸フィルタリングなど)が行われることにより、パルスドプラ画像2の画像データが生成される。なお、生成された画像データは、一旦メモリ22に記憶される。そして、パルスドプラ画像2の画像データは、メモリ22から読み出されて表示装置23に転送され、血流の流速分布を示すグラフ3が表示装置23の表示画面23aに表示される(
図3参照)。
【0048】
図3に示すパルスドプラ画像2は、時間(横軸)と流速(縦軸)との関係を示すグラフ3を表示するものであって、このグラフ3は、スペクトラム分布の強度を示すパルスドプラ波形である。
図3は、表示画面23aの左側の第1期間T1にグラフ3が現れる一方、表示画面23aの右側の第2期間T2にグラフ3が現れていない状態を例示している。なお、第1期間T1では、超音波プローブ13が生体組織1の血管(ここでは動脈)付近に接触した状態となっている。一方、第2期間T2では、超音波プローブ13が生体組織1から離れた状態となっている。
【0049】
また、本実施形態では、パルスドプラ画像2の輝度に連動して、パルスドプラ血流音の音量が調整される。具体的に言うと、まず、反射波信号の解析により得られた血流の各速度成分が、速度成分積算部61によって積算される。その結果、得られた各速度成分の積算値(Σ)が、重み付け演算の係数となる。
【0050】
次に、得られた各速度成分の積算値(係数)と、ウォールモーションフィルタ55によってノイズが除去された積算I信号とが、重み付け演算部62に入力される。次に、重み付け演算部62は、積算I信号に係数を乗じた値を算出する重み付け演算を行い、算出した値を出力値として出力する。詳述すると、パルスドプラ画像2が明るい場合は、重み付けの値(係数)が大きくなり、パルスドプラ血流音が大きくなる。一方、パルスドプラ画像2が暗い場合は、重み付けの値(係数)が小さくなり、パルスドプラ血流音が小さくなる。
【0051】
そして、重み付け演算部62によって重み付けされた積算I信号に基づいて、血流の流速を示すパルスドプラ血流音がスピーカ25から出力される。具体的に言うと、デジタル信号である積算I信号は、D/A変換部によってアナログ信号に変換された後にスピーカ25に入力され、パルスドプラ血流音としてスピーカ25から出力される。これにより、パルスドプラ画像2が表示装置23の表示画面23a上に表示されるとともに、パルスドプラ血流音がスピーカ25から出力される。なお、
図3の状態では、超音波プローブ13が生体組織1の動脈付近に接触した第1期間T1において、「シュン、シュン」というパルスドプラ血流音が聞こえるようになる。一方、超音波プローブ13が生体組織1から離れた第2期間T2においては、パルスドプラ血流音が聞こえなくなる(無音となる)。
【0052】
また、コントローラ21は、ユーザが行う画像ゲイン調整作業に基づきパルスドプラ画像2の輝度を増減させると同時に、輝度の増減に連動してパルスドプラ血流音の音量も増減させる音声ゲイン調整ステップを実行することができる。即ち、コントローラ21は、『音声ゲイン調整手段』としての機能を有している。
【0053】
例えば、生体組織1において血流のある領域(血管付近)に超音波プローブ13を接触させたにもかかわらず、表示装置23の表示画面23aに波形(血流の流速分布を示すグラフ3)が何も表示されないことがある。この場合、ユーザは、入力装置24を操作して、パルスドプラ画像2の画像データの輝度(ゲイン)を高くする。これにより、表示画面23aにグラフ3が表示される。それとともに、速度成分積算部61によって積算される血流の各速度成分の積算値(平均値)、即ち、重み付け演算の係数が大きくなる。その結果、重み付け演算部62によって重み付けされた積算I信号(係数を乗じた積算I信号)が、大きくなって(または、元の信号のまま)出力され、パルスドプラ血流音の音量が大きくなる。即ち、積算値(係数)は、ユーザによる入力装置24の操作により調整可能である。
【0054】
ところが、パルスドプラ画像2の画像データの輝度を高くした場合、表示装置23の表示画面23aにノイズ成分が表示されてしまうことがある。また、グラフ3が表示される第1期間T1(
図3参照)において音(パルスドプラ血流音)が聞こえるだけでなく、グラフ3が表示されずに暗くなっている第2期間T2(
図3参照)においても、「サー」というノイズ音が聞こえてしまうことがある。これらの場合、ユーザは、入力装置24を操作してパルスドプラ画像2の画像データの輝度を低くし、これに伴って血流の各速度成分の積算値である係数を小さくする。これにより、重み付け演算部62によって重み付けされた積算I信号が、小さくなって(または0になって)出力され、ノイズ音の音量が小さな音または無音となる。その結果、第1期間T1においてパルスドプラ血流音が聞こえる一方、第2期間T2においては、音が小さな音または無音となる。即ち、グラフ3の状態で見えている血流は音として聞こえ、不要なノイズ音は聞こえなくなる。
【0055】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0056】
(1)本実施形態の超音波診断装置11では、コントローラ21が、パルスドプラ画像2の輝度を高くするのに連動してパルスドプラ血流音の音量が大きくなる一方、パルスドプラ画像2の輝度を低くするのに連動してパルスドプラ血流音の音量が小さくなる。これにより、視覚情報であるパルスドプラ画像2の輝度と聴覚情報であるパルスドプラ血流音の音量とが一致する。そのため、パルスドプラ画像2及びパルスドプラ血流音に基づいて、生体組織1の状態を容易に観察及び判断することが可能となる。
【0057】
(2)本実施形態では、積算I信号に対して血流の速度成分の積算値を乗じることにより、積算I信号が重み付けされ、積算I信号に基づいて出力されるパルスドプラ血流音の音量が増減される。つまり、簡単な重み付け演算によって、パルスドプラ血流音の音量を適切な値に調整することができる。
【0058】
(3)特許文献1の段落[0027]には、超音波振動子を生体に擦り付けた際の定格を超えるような過大信号がスピーカに入ることを防ぐために、信号レベルを監視し、信号レベルが所定値を超えたときは、スピーカを駆動する音響用パワーアンプが信号を出力しないように制御(ミュート)する技術が提案されている。しかしながら、特許文献1は、ノイズ音を抑える技術ではないため、静脈のパルスドプラ血流音であるのかノイズ音であるのかを判別できない可能性がある。一方、本実施形態は、ノイズ音を抑える技術であるため、聞こえてくる音はパルスドプラ血流音であると判別することができる。
【0059】
(4)ところで、パルスドプラデータ生成部44のサンプルアンドホールド回路54によって生成された積算I信号及び積算Q信号には、血流の流れに関する情報に加えて、血流の流れよりも動きが遅い「体動」に関する情報も含まれている。しかし、パルスドプラ画像2を表示したりパルスドプラ音を出力したりするためには、体動に関する情報が邪魔になるという問題がある。そこで、本実施形態では、ウォールモーションフィルタ55が、生成された積算I信号及び積算Q信号から体動に関する情報をノイズとして除去するため、ノイズのないパルスドプラ画像2やパルスドプラ音を生成することができる。
【0060】
なお、上記実施形態を以下のように変更してもよい。
【0061】
・上記実施形態の重み付け演算部62は、積算I信号を重み付けしていたが、積算I信号とは別の複素信号である積算Q信号を重み付けするようにしてもよい。
【0062】
・上記実施形態の重み付け演算部62は、積算I信号に係数(血流の速度成分の積算値)を乗じることにより、積算I信号を重み付けしていた。しかし、重み付け演算部62は、積算I信号を累乗(例えば、2乗、4乗など)することにより、積算I信号を重み付けしてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、重み付け演算部62が積算I信号に乗じる係数が、0以上1以下の範囲内で一次関数的に変化するようになっていた。しかし、係数は、例えば0以上1以下の範囲内で段階的に変化するものであってもよい(
図4(b)参照)。また、係数は、所定の閾値A1以上である場合に「1」となり、所定の閾値A1未満である場合に「0」となるものであってもよい(
図4(c)参照)。なお、係数は、1よりも大きく変化するものであってもよいし、0よりも小さく変化するものであってもよい。
【0064】
・上記実施形態では、積算I信号の出力を変化させる重み付け演算を行っていたが、重み付け演算とは別の演算により積算I信号の出力を変化させてもよい。
【0065】
・上記実施形態の速度成分積算部61は、画像処理部43に生成されたパルスドプラ画像2の画像データに基づいて、血流の各速度成分を積算していた。しかし、速度成分積算部61は、スペクトル演算部57によるスペクトル演算により算出された血流の各速度成分を積算するものであってもよい。
【0066】
・上記実施形態では、CPU(コントローラ21)が、位相合成部41、Bモードデータ生成部42、画像処理部43、バンドパスフィルタ51、直交検波器52、ローパスフィルタ53、サンプルアンドホールド回路54、ウォールモーションフィルタ55、フーリエ変換部56、スペクトル演算部57、速度成分積算部61及び重み付け演算部62の機能を実現させていた。しかし、これらは別個の回路で構成されていてもよい。
【0067】
・上記実施形態では、牛、馬、豚等の家畜の生体組織1を被検体としたが、家畜以外の動物の生体組織であってもよく、人間の生体組織であってもよい。また、上記実施形態の超音波診断装置11は、妊娠検査以外の用途、例えば、受傷部位や悪性新生物の状態観察や治癒の経過観察などの用途に用いられても勿論構わない。
【0068】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0069】
(1)請求項3または4において、前記重み付け演算手段は、前記複素信号に前記係数を乗じることにより、前記複素信号を重み付けすることを特徴とする超音波診断装置。
【0070】
(2)請求項3または4において、前記係数は、ユーザによって調整可能であることを特徴とする超音波診断装置。
【0071】
(3)請求項1乃至4のいずれか1項において、前記反射波信号から所定帯域の信号を抽出する帯域フィルタと、前記帯域フィルタによって抽出された信号から複素信号であるI信号及びQ信号を抽出する直交検波器と、前記I信号を積算して積算I信号を生成するとともに、前記Q信号を積算して積算Q信号を生成する積算手段と、前記積算I信号及び前記積算Q信号をフーリエ変換するフーリエ変換手段と、前記フーリエ変換手段によって変換された前記積算I信号及び前記積算Q信号をスペクトル演算することにより、前記血流の速度成分を算出するスペクトル演算手段と、前記血流の速度成分に基づいて、前記パルスドプラ画像の画像データを生成する画像処理手段と、前記血流の速度成分の積算値を係数として用いて、前記積算I信号または前記積算Q信号を重み付けする重み付け演算手段と、前記重み付け演算手段によって重み付けされた前記積算I信号または前記積算Q信号に基づいて、前記パルスドプラ血流音を出力する前記音声出力装置とを備えることを特徴とする超音波診断装置。
【0072】
(4)請求項1乃至4のいずれか1項において、前記被検体は生体組織であることを特徴とする超音波診断装置。
【符号の説明】
【0073】
1…被検体としての生体組織
2…パルスドプラ画像
11…超音波診断装置
21…音声ゲイン調整手段及びプロセッサとしてのコントローラ
23…表示装置
23a…表示画面
25…音声出力装置としてのスピーカ
62…重み付け演算手段としての重み付け演算部