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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119384
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】無線伝送方法
(51)【国際特許分類】
   H04J 99/00 20090101AFI20240827BHJP
   H04B 7/06 20060101ALI20240827BHJP
   H04W 48/08 20090101ALI20240827BHJP
   H04W 72/1268 20230101ALI20240827BHJP
   H04W 72/20 20230101ALI20240827BHJP
【FI】
H04J99/00 100
H04B7/06 670
H04W48/08
H04W72/1268
H04W72/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026248
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】森山 雅文
(72)【発明者】
【氏名】山添 正裕
(72)【発明者】
【氏名】松田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】松村 武
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA23
5K067DD34
5K067EE02
5K067EE10
5K067JJ22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】逐次干渉除去(SIC)技術を利用して移動によるフェージングに起因して受信電力の変動を抑圧する無線伝送方法を提供する。
【解決手段】複数の無線端末からの送信データを共通の基地局で受信する無線伝送方法では、無線端末が、基地局に対してグラントフリー(GF)伝送の開始要求を行い、GFを要求した無線端末の性能、送信するデータ量、送信頻度及び最新の無線伝搬路情報を基地局に伝送する。基地局が、端末状態通知、GF用のリソース(PRB)使用状況及び他の無線端末の状態を把握して、端末状態通知を伝送した無線端末に対してGF伝送を許可するか決定し、通知された端末状態に基づいてGF伝送を許可するとき、前記決定されたPRBや基地局受信電力等の無線端末のGF伝送に必要な情報を伝送する。GF構成通知情報を受けた無線端末は、GF構成通知情報と受信電力の測定を行った測定結果の信号を送信する際の送信電力を計算する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無線端末からの送信データを共通の基地局で受信する無線伝送方法であって、
前記複数の無線端末において前記基地局に対してグラントフリー(GF)伝送の開始要求を示すGF要求を行うGF要求ステップと、
前記複数の無線端末において前記GF要求ステップによりGF要求をした無線端末の性能、送信するデータ量、送信頻度、及び最新の無線伝搬路情報を前記基地局に伝送する端末状態通知ステップと、
前記基地局において端末状態通知、GF用のリソース(PRB)使用状況及び他無線端末の状態を把握して前記GF要求ステップで端末状態通知を伝送した無線端末に対してGF伝送を許可するか決定するリソース割り当て決定ステップと、
前記基地局において前記端末状態通知ステップにより通知された端末状態に基づいてGF伝送許可又はGF伝送不許可を通知する通知ステップと、
前記通知ステップにより基地局においてGF伝送を許可するとき、前記リソース割り当て決定ステップで決定されたPRB、基地局受信電力Pd、端末固有のDMRS、及び基地局送信電力PBSからなる無線端末のGF伝送に必要な情報を伝送するGF構成通知ステップと、
前記複数の無線端末において前記GF構成通知ステップによりGF構成通知情報を受けた無線端末が、前記GF構成通知情報と受信電力Prの測定を行った測定結果の信号を送信する際の送信電力PTPCを計算する送信電力決定ステップと、
を少なくとも備えること、
を特徴とした無線伝送方法。
【請求項2】
更に前記複数の無線端末から基地局に対して、送信すべきペイロードを符号化、変調を行って物理上り共有チャネル(PUSCH)を生成し、生成したPUSCHを送信ダイバーシチ(CDD)を利用して送信するデータ送信ステップを備えること、
を特徴とした請求項1記載の無線伝送方法。
【請求項3】
更に前記基地局において、複数端末が同一のPRBにデータを送信したとき、重畳信号を逐次干渉除去(SIC)を使って分離する信号分離ステップを備えること、
を特徴とした請求項1又は2記載の無線伝送方法。
【請求項4】
更に前記複数の無線端末において、これ以上送信すべきペイロードが発生しないと判断したとき、前記基地局に対してGFを終了することを通知するGF終了ステップを備えること、
を特徴とした請求項1記載の無線伝送方法。
【請求項5】
更に前記複数の無線端末において、前記無線伝搬路情報が閾値以上に大きく変動したとき、前記基地局に対してGF伝送の再設定要求を送信する再設定要求ステップを備えること、
を特徴とした請求項1記載の無線伝送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の無線端末からの送信データを共通の基地局で受信する無線伝送方法に関し、特に5Gからbeyond5Gに向けて多数接続かつ低遅延が可能なNOMA通信方式の高品質化を実現するのに好適な無線伝送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線端末の急増が予測され、5GのmMTCで規定される無線端末の密度は100万台/km2であり、6Gにおいては1000万台/km2になると予測されている。また、低遅延化に向けての技術開発も進められており、URLLCでは遅延を1ms以内にするよう定められており6Gでは更なる低遅延化が求められる。
【0003】
<5Gからbeyond5Gへ>
第5世代移動通信システム(5G)の普及が進んでいる。5GではeMBB(Enhanced Mobile Broadband)、URLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)及びmMTC(Massive Machine Type Communications)が定義されており、ユースケースに応じて高品質な無線通信環境がユーザに提供されている。IoT(Internet of Things)通信においては低遅延通信又は多数接続が求められる。この場合、ユースケースに応じた通信技術として上記のURLLC又はmMTCが適用される。しかし、現在の5Gのシステムでは、低遅延と多数接続の両方を同時に実現するところまでは求められていない。更なる通信品質の進化が求められるbeyond5Gでは、多くの無線機器でのミッションクリティカルな通信が求められるようになると、低遅延と多数接続の両方が同時に必要になることが予想される。例えば、高密度に配置された工場機械の制御通信や混雑した都市での安全運行システム用の通信などの対応が必要である。そこで、本発明者らは、低遅延と大容量接続の両立を実現するシステムについて検討した。
【0004】
<低遅延と多数接続を両立させる方式>
<低遅延とCG方式>
低遅延のためには、URLLCには割り込み(Preemption)等の技術が組み込まれている。しかし、本発明者らはランダムアクセス手順が最も低遅延の実現を阻害するボトルネックと考える。ランダムアクセス手順は端末局UE(user equipment)が送信許可であるグラントを得るためネゴシエーションである。これが数msの時間が必要であり低遅延化を妨げている。そこで本発明者らCG(Configured Grant)により設定されたセミパーシステントスケジューリング(Semi Persistent Scheduling:SPS)又はGF(Grant Free)の活用を検討した。事前にUEにグラントを与えることにより、UEが送信毎にグラントを取得する必要がないため、低遅延の実現を達成することができる。
【0005】
<多数接続とNOMA方式>
多数接続のためには、周波数利用効率をさらに向上させる技術が求められる。これを実現するため、近年、filtered-OFDM[4]などの技術が提案されている。それらの技術の中で、非直交多元接続(non-orthogonal multiple access:NOMA)は周波数利用効率の向上を実現する有力な技術の一つである。NOMAは無線資源であるPRB(physical resource block)を他のUEと共有する方式である。NOMA方式の中にも様々な方式が提案されているが、電力領域(power domain:PD)において多重する電力領域NOMA(PD-NOMA)は、既存の5GNRの仕様へのインパクトが小さく、5Gへの導入の障壁が小さいNOMA方式である。PD-NOMAにおける信号復調方式(干渉の除去)には、逐次干渉除去(successive interference cancellation:SIC)がよく利用される。SICは重畳された受信信号から最も受信電力が強い信号を復調して、そのレプリカ信号を生成して重畳信号から差し引いていく方式である。本発明でもPD-NOMAにSICを適用することを検討した。
【0006】
<CGとNOMAの組み合わせ>
本発明ではCGにNOMAを組み合わせて、低遅延と多数接続を実現させる方策を検討した。従来のCGでは複数のUEに同じPRBが割り当てられないが、本方式では複数のUEに同一のPRBを割り当てる。UEは送信毎にグラントを取得しないので、PRBが複数端末で共有されると、基地局において信号が衝突してしまうおそれがある。本方式ではPD-NOMA伝送を予め想定しておりこれを許容することができる。基地局に干渉対策を予め備えて、衝突して重畳信号になった場合にそれを分離できるようにしておけば、基地局はそれぞれのUEの信号を取り出すことが可能である。このようにCGにより低遅延を実現しつつ、信号が衝突した場合でもSICにより信号を分離することにより多数接続を実現させる。
【0007】
<SICを利用するNOMAのための電力制御とフェージングの問題>
SICを利用するNOMAの場合、各UEが信号を送信しそれが基地局へ受信されるとき、その受信信号の電力は基地局で指示した値に調整されている必要がある。SICで信号を分離するためには、各UEから到来する信号に受信電力差を設定されている必要があるからである。UEの送信電力は送信電力制御(transmit power control:TPC)により調整される。基地局が各UEへ行う受信電力の値の指示はCGの設定時に行われる。ただし、CGの仕組みの制約上、UEが基地局とのネゴシエーションなしで信号を送信するため、基地局が端末局の送信電力を細かく制御することは難しい。この理由から、TPCはクローズドループのTPCではなくオープンループのTPCが採用される。オープンループTPCを用いても、複信方式が時分割複信(time division duplex:TDD)の場合、基地局からのダウンリンク(DL)信号の受信電力を測定することによって、基地局が指示した規定受信電力になるように送信電力が調整できる。
【0008】
しかし、瞬時値(フェージング)変動が速い場合、瞬時値変動の影響を受けてオープンループTPCを用いても規定の電力を保つのが難しくなる。この瞬時値変動(フェージング)の問題例を図8(a)(b)(c)に示し、フェージング環境とSICの課題を図9(a)(b)に示す。図8(a)は基地局とIoT端末1,2,3との間でA、B、Cの位置で通信しているとき、矢印方向にIoT端末が移動したときの状態を示している。IoT端末1は車、IoT端末2はスマートウォッチ、IoT端末3はドローンを表している。図8(b)IoT端末1は基地局から離れるので、位置に対する受信電力は小さい。IoT端末2、3は移動により位置が近づくので、受信電力はほぼ等しい。図8(c)はTPCの初期設定を行っても半波長λ/2(λ=10cm@3GHz)の移動で受信電力が30dB程度劇的に変化することを示している。図9(a)はIoT端末1、4、5がA、B、Eの位置でフェージング環境下において通信を行っていたとき、位置AとBとが近いので受信電力に電力差がなく、SICは失敗することを示している。図9(b)はレイリーフェージングの電力変動の確立分布を表している。縦軸は確率分布密度を示し、横軸は受信電力を表している。図9(b)から受信電力の変動によって確率分布密度が変化することを示す。このように、フェージングにより短い時間で受信電力が大きく変動することは問題である。これに対応するため、将来のフェージングを予測する方法もあるが、UEに大きな計算負荷が課せられれる。変動量を抑えるため、基地局の受信ダイバーシチを備えるという方法もある。しかしながら、多数接続を達成したいという目標から複数の受信アンテナは、ダイバーシチというよりも、MIMO技術である空間分割多重(space division multiplexing:SDM)によりUE接続台数の増加に利用されることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-146115号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】M.MORIYAMA, K TAKIZAWA, M. Oodo, H. Tezuka, and F. Kojima,"Experimental Evaluation of a Novel Up-Link NOMA System for IoT Communication Equipping Repetition Transmission and Receive Diversity,"IEICE Tranzactions on Comminications, VOL.E102-B, NO.8 AUGUST 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1では、非直交多元接続(NOMA)、グラントフリー(GF)、逐次干渉除去(SIC)技術を利用し、端末から送信信号と連送信号を基地局に送信し、複数端末から送信された同時接続数の増大と低遅延の両方の信号に衝突が発生しても、通信品質を担保し、高い信頼性を持つ共用方式の通信を行う技術が開示されているが、フェージング問題に対しては考慮されていなかった。
上記非特許文献1では、上記特許文献1をベースとしたシステムの実環境における評価を開示したもので、通信性能を向上させるための連送と受信ダイバーシチを採用しているが、同様にフェージング問題に対しては考慮されていなかった。
前記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的とするところは、SICを利用する非直交多元接続システムにおいて、移動によるフェージングに起因して受信電力の変動を抑圧することが可能な無線伝送方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述した問題点を解決するために、TPCを低遅延及び低計算量で動作させるためには、根本の原因である移動によるフェージング変動を抑圧できればよい。これが可能であれば、一度送信電力を設定すれば、移動によるTPC設定の修正が不要となることから、端末局基地局間のネゴシエーション又はフェージング変動の予測が不要となる。本発明ではフェージングによる受信電力変動を抑圧するため、各端末局に複数の送信アンテナを設けさせて、各アンテナから送信される信号に対して巡回シフトを施して送信させる方式を提案する。これにより、基地局においては、各送信アンテナからの複数パスの信号が合成されて周波数軸信号において平均化されることによりフェージングによる受信電力の変動を抑圧することが可能となる。
【0013】
第1発明に係る無線伝送方法は、複数の無線端末からの送信データを共通の基地局で受信する無線伝送方法であって、前記複数の無線端末において前記基地局に対してグラントフリー(GF)伝送の開始要求を示すGF要求を行うGF要求ステップと、前記複数の無線端末において前記GF要求ステップによりGF要求をした無線端末の性能、送信するデータ量、送信頻度、及び最新の無線伝搬路情報を前記基地局に伝送する端末状態通知ステップと、前記基地局において端末状態通知、GF用のリソース(PRB)使用状況及び他無線端末の状態を把握して前記GF要求ステップで端末状態通知を伝送した無線端末に対してGF伝送を許可するか決定するリソース割り当て決定ステップと、前記基地局において前記端末状態通知ステップにより通知された端末状態に基づいてGF伝送許可又はGF伝送不許可を通知する通知ステップと、前記通知ステップにより基地局においてGF伝送を許可するとき、前記リソース割り当て決定ステップで決定されたPRB、基地局受信電力Pd、端末固有のDMRS、及び基地局送信電力PBSからなる無線端末のGF伝送に必要な情報を伝送するGF構成通知ステップと、前記複数の無線端末において前記GF構成通知ステップによりGF構成通知情報を受けた無線端末が、前記GF構成通知情報と受信電力Prの測定を行った測定結果の信号を送信する際の送信電力PTPCを計算する送信電力決定ステップと、を少なくとも備えること、を特徴とした。
【0014】
第2発明に係る無線伝送方法は、第1発明において、更に前記複数の無線端末から基地局に対して、送信すべきペイロードを符号化、変調等を行って物理上り共有チャネル(PUSCH)を生成し、生成したPUSCHを送信ダイバーシチ(CDD)を利用して送信するデータ送信ステップを備えること、を特徴とした。
【0015】
第3発明に係る無線伝送方法は、第1発明又は第2発明において、更に前記基地局において、複数端末が同一のPRBにデータを送信したとき、重畳信号を逐次干渉除去(SIC)を使って分離する信号分離ステップを備えること、を特徴とした。
【0016】
第4発明に係る無線伝送方法は、第1発明において、更に前記複数の無線端末において、これ以上送信すべきペイロードが発生しないと判断したとき、前記基地局に対してGFを終了することを通知するGF終了ステップを備えること、を特徴とした。
【0017】
第5発明に係る無線伝送方法は、第1発明において、更に前記複数の無線端末において、前記無線伝搬路情報が閾値以上に大きく変動したとき、前記基地局に対してGF伝送の再設定要求を送信する再設定要求ステップを備えること、を特徴とした。
【発明の効果】
【0018】
端末局の各送信アンテナに施された巡回シフトは受信信号では遅延となるため、基地局では合成信号は周波数選択性フェージングを受けた信号となる。この信号は、周波数領域上から見れば、受信電力をランダム化されていると言えることから、平均すれば受信電力の変動を抑圧できていることになる。これより、一度TPCを設定すれば端末が移動してもSICに必要な電力差を確保し続けることが可能となる。但し、長距離変動やシャドウイングが変化した場合はTPCの再設定が必要である。当該発明の適用により干渉信号以外の熱雑音を無視できる条件では送信アンテナ数とTPCの初期設定電力値を調整することでブロック誤り率(BLER)を任意の値まで低減することが可能である。BLER=1×10-3を目標のBLERとすればSICに必要な電力差の初期設定を約3dB低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の原理的な説明を行うための概念図である。
図2図2は、本発明の実施形態における端末(UE)の信号処理構成図である。
図3図3は、本発明の実施形態における基地局(BS)の信号処理構成図である。
図4図4は、本発明の実施形態を示す無線伝送方法を説明するためのフローチャートである。
図5図5は、本発明の実施形態におけるTPCによる電力制御を説明するための図である。
図6図6(a)は複数アンテナで送信ダイバーシチを適用した一例を示す図である。図6(b)における受信電力と時間との関係を示す図である。
図7図7(a)は計算機シミュレーションおけるレイリーフェージング環境を示す図である。図7(b)は図7(a)のレイリーフェージング環境おける送信電力と位置との関係を示す図である。図7(c)は送信アンテナの本数を変更したときの3台NOMA特性図である。
図8図8(a)はIoT端末が矢印方向に移動したときのフェージング問題説明図である。図8(b)は図8(a)のレイリーフェージング環境おける受信電力と位置との関係を示す図である。図8(c)は半波長λ/2移動したときの受信電力の変動説明図である。
図9図9(a)はフェージング環境の問題説明図である。図9(b)はレイリーフェージングの電力変動の確立分布密度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を適用した無線伝送方法の実施形態について、ブロック図を用いて詳細に説明する。なお、ブロック図における符号については、同様の機能をもったブロック図には、特別の事情がない限り、同じ符号を用いるものとする。
【0021】
<本発明の原理的な説明>
<送信ダイバーシチ>
瞬時値変動による受信電力の変動を抑え、SICを正常に動作させるため、本発明では送信ダイバーシチの適用を提案する。送信信号を複数のアンテナで送信する方式である。もちろん、受信ダイバーシチと同様に、送信ダイバーシチのアンテナ増加は送信データ量の増加のためにも使える。しかし、本発明のシステムはIoTの小データ伝送を想定しているので、データ量の増加ではなくダイバーシチとして使うのが効果的と考える。つまりアンテナ数の増加は信頼性の確保に使う。誤り訂正符号の符号化率を低下させてSDMを用いて増加した伝送シンボルを伝送する方式も考えられるが、ダイバーシチではなく空間分割多重を用いて伝送シンボルを増やすことは基地局の信号処理が大きくなりすぎる恐れがある。
送信ダイバーシチは複数本の送信アンテナを設けることにより、受信電力を一定値に抑えることにより、SICに必要な受信電力差を保ち、SICを安定して動作させるために利用する。本発明では、受信側は既存のままの受信処理で利用でき、かつ、アンテナ数の数に制限がないcyclic delay diversity(CDD)を利用する。IoT端末は送信データが少なく狭帯域通信になるため、周波数ダイバーシチ効果が得られにくいため、強制的に周波数ダイバーシチ効果を作り出すCDDは有効な送信ダイバーシチ方式であると考える。
【0022】
<CTMA及び本発明の構成>
以上をまとめると本システムはIoT通信のために多数接続と低遅延を実現するものである。多数接続にはNOMA、低遅延にはGFを適用している。SICを用いるNOMAにおいて、信号分離には受信電力差が必要であることからTPCを採用して端末は送信電力を調整する必要がある。しかしながら、GFで利用される開ループではフェージングの対策が充分でない。そこで、今回、受信電力の安定のためCDDの送信ダイバーシチを適用するNOMAシステムを検討した。本発明者らはこれをCTMA(Cyclic shift Transmit diversity Multiple Access)と名付けた。CTMAとは、低遅延と多数接続を実現させる送信SDを利用する非直交多元接続通信方式のことを意味し、本明細書では、無線伝送方法又は無線伝送システムとCTMAを併存して使用する。
以下、本実施形態について説明する。
【0023】
<本実施形態>
<CTMAのシステム構成>
本実施形態の無線伝送方法であるCTMAについて、GFを獲得するための初期アクセスやその他の必要な手続きについて概要を説明した後、UE及びgNBの物理層の信号処理について説明する。
【0024】
<CGのための信号処理>
本発明ではUEが電源投入後の端末登録等の処理は終わっていることを想定している。無線端末の状態はRRC Connected及びConnected Inactiveになっているとする。図1にCGへの移行の概念図を示す。以下、図1によりCGへの移行について説明する。
まず、低遅延通信を必要とする端末(UE)はGF状態となるため、図1のように基地局に対してGF要求を行う。基地局(BS)はGFを許可する場合、GF用のPRBを端末(UE)に与えるが、このPRBは多数接続のために他のUEと共有させても良い。ただし、DMRSは直交させるように設定する。また、基地局は端末から得られる伝搬路情報(channel state information:CSI)を用いて、自局の送信電力を報知するとともに端末からの信号の受信電力を指定する。何台の端末を重畳させるか、受信電力の差はいくらにするか等については別に検討すべき問題としている。基地局は指定するPRBは自由に設定できるが、時間軸的に連続させるようにするの設定するのが低遅延の観点から望ましい。
【0025】
UEはGFが許可されたら、送信すべきペイロードが発生次第、その指定されたPRBに信号を送信する。この送信ではNOMA伝送になるか単一伝送になるかは他端末次第である。UEのオープンループTPCは、DLの受信電力を測定してBSの送信電力から伝搬損失を計算して、指定された受信電力になるように送信電力を調整して送信する。ここで、送信ダイバーシチのおかげで、受信電力の瞬時値変動(フェージング)は抑圧できる。なお、シャドーイングや超区間変動が変化したとUEが判断した場合は、NOMAの設定をやり直すため、BSに対して今のGF設定を破棄して新規のGF設定の要求を出す。
【0026】
<無線端末(UE):構成>
図2は、実施形態の無線端末の物理層の信号処理システム構成図である。図2では、送信データ処理の主要構成を示し、受信データの処理の構成については、図示を省略している。
本実施形態の無線端末の送信部は、図2に示すように、CRC部11と、FEC符号部12と、レートマッチング部13と、変調部14と、IFFT部15と、CP付加部16と、TPC部17と、アンテナ18(アンテナ(1))と、サイクリックシフト部19と、CP付加部20と、TPC部21と、アンテナ22(アンテナ(2))と、を有する。
【0027】
<無線端末(UE):構成の説明>
CRC部11は、送信すべきデータに巡回冗長検査(CRC:Cyclic Redundancy Check)ビットを付加し符号化を行う。
FEC符号部12は、FEC(Forward Error Correction)の前方誤り訂正符号化を行う。
レートマッチング部13は、前方誤り訂正符号に対してレートマッチングを行う。
変調部14は、レートマッチング部13によりレートマッチング後に変調を行い、基地局から指定されたDMRSを付加する。
IFFT部15は、DMRSが付加された変調信号に対して逆高速フーリエ変換付加後に送信ダイバーシチ(CDD)処理を行う。
CP付加部16は、サイクリックプレフィックス付加部でCP(共通パラメータ)を挿入し、後段のTPC部17で基地局から指定された受信電力になるように信号を増幅する。
TPC(Transmit Power Control)部17は、伝送パワーコントロールを行う。
アンテナ18は、第1の送信アンテナであり(アンテナ(1))、基地局に対して送信電力を送信する。
サイクリックシフト部19は、シフト量Sだけ送信タイミングをずらす巡回シフト(サイクリックシフト)を行うものである。その後に、CP付加部16、TPC部17、アンテナ18と同様に、CP付加部20、TPC部21、アンテナ22を経由してTPC部21で送信電力制御がなされる。
CP付加部20は、CP付加部16と同様であるので、説明を省略する。
TPC部21は、TPC部17と同様であるので、説明を省略する。
アンテナ22は、第2の送信アンテナであり(アンテナ(2))、基地局から指定された受電電力になるように、電力制御された送信電力が放射される。
【0028】
図2にUEの物理層の信号処理を示す。ここでは、GFの設定は完了しているものとする。信号処理はIFFT部15までは5GNRの処理と同じである。送信すべきデータが発生したUEはそのデータにCRCビットを付加して符号化する。この動作はデータが得られたらすぐに行う。レートマッチング後に変調を行い、基地局から指定されたDMRSを付加後にIFFTを実施して送信ダイバーシチ処理を行う。そして、最後にTPCで基地局から指定された受信電力になるように信号を増幅する。
図2には送信アンテナが2本の場合である。CDDは送信信号をサイクリックシフトするものである。サイクリックシフト量Sを変えることでアンテナの制限数はない。サイクリックシフトすることで時間軸ではシンボル間干渉、周波数軸では周波数選択制フェージングとなり、周波数ダイバーシチ効果が得られる。送信ダイバーシチの効果に受信電力は平均受信電力に近づけることができる。
【0029】
<基地局:構成>
図3は、実施形態の基地局の物理層の信号処理システム構成図である。図3では、受信データ処理の主要構成を示し、送信データの処理の構成については、図示を省略している。
本実施形態の基地局は、図3に示すように、アンテナ31と、CP除去部32と、FFT部33と、加算器34と、等化部35と、復調部36と、レートマッチング部37と、FEC復号部38と、CRC部39と、CRC部40と、FEC符号部41と、レートマッチング部42と、変調部43と、乗算器44と、を有する。
<基地局(BS):構成の説明>
アンテナ31は、端末1、端末2,,,,端末kからの送信電力を受信するアンテナである。
CP除去部32は、CP(共通パラメータ)除去部である。
FFT(Fast Fourier Transform)部33は、高速フーリエ変換を行うためのものである。
加算器34は、FFT部33の出力とSICループのチャネル周波数応答(Channel Frequency Response:CFR)を加算する。
等化部35は、加算器34の出力をCFRを元に等化を行う。
復調部36は、等化部35の出力を復調する。
レートマッチング部37は、レートマッチングを行って誤り訂正符号を行う。
FEC復号部38は、FEC復号化を行う。
CRC部39は、FEC復号化データをCRC部39でCRCエラーをチェックし、CRCエラーがなければ、物理上り(アップリンク)共有チャネル(PUSCH)の復号が完了する。
基地局は、次の信号を復調するため、SICループを利用する。SICでは、PUSCHのペイロードを再変調する。CRC部40、FEC符号部41、レートマッチング部42、変調部43、乗算器44の処理は端末(UE)と同様であるので、説明を省略する。
【0030】
図3に基地局の信号処理を示す。基地局の信号処理についても5GNRのgNBと同じ処理[X]を行うが、SICの処理が加わっている。基地局には複数のUEからの信号が到来する。受信信号は重畳信号となる。基地局ではCPを削除した後、FFT後にDMRSから推定したチャンネル周波数応答(Channel Frequency Response:CFR)を基に等化を行って復調する。その後、レートマッチングを行って誤り訂正符号を行う。この信号にCRCエラーがなければPUSCHの復号が完了する。基地局は次の信号を復調するため、SICを利用する。SICではPUSCHのペイロードを再変調する。CRCを付加した信号を符号化、誤り訂正、レートマッチング後に変調を行う。この処理はUEと同じ処理になる。その信号にCFRを乗算してFFT後の信号から引き算する。これにより2番目に強い信号を復調する。この処理を全UE復調するかCRCでエラーが発生するまで実行する。
【0031】
図4は、本実施形態の無線伝送方法を示すフローチャートである。以下、本実施形態の無線伝送方法について図4を用いて説明する。
<401:初期接続ステップ>
基地局はダウンリンクにおいて、同期信号、報知情報を定期的に定められたサブフレームにて送信する。端末は同期信号を受信して基地局に同期するとともに報知情報から基地局に接続するのに必要な接続情報を得る。端末局は接続情報を利用して基地局に接続して初期接続を行う。この初期接続ステップ401は、既存5Gの動作と同様である。
【0032】
<402:GF要求ステップ>
グラントフリー(GF)伝送を開始したい端末は、基地局に対してGF要求を行う。このGF要求ステップ402は、既存5Gの動作と同様である。
【0033】
<403:端末状態通知ステップ>
無線端末は無線端末の性能、送信するデータ量、送信頻度、最新の無線伝搬路情報等を基地局に伝送する。この端末状態通知ステップ403により基地局はNOMA-SICを実現するために必要な情報を収集することができる。
【0034】
<404:リソース割り当て決定ステップ>
基地局において端末状態通知、GF用のリソース(PRB)使用状況及び他無線端末の状態を把握してGF要求ステップ402で端末状態通知を伝送した無線端末に対してGF伝送を許可するか決定する。この際、基地局は他端末とPRBを共用させることができる。このリソース割り当て決定ステップ404によりGF伝送時のPRBの共用化を行う。また、基地局は端末状態通知を受け取ることでSICに必要な電力差を計算できる機能を有する。
【0035】
<405:GF伝送許可/不許可ステップ>
基地局において端末状態通知ステップ403により通知された端末状態に基づいてGF伝送許可又はGF伝送不許可を端末に通知する。このGF伝送許可/不許可ステップ405は、既存5Gの動作と同様である。
【0036】
<406:GF構成通知ステップ>
基地局においてGFを許可する場合はリソース割り当て決定ステップ404で決定されたPRB、基地局受信電力Pd、端末固有のDMRS、基地局送信電力PBSなどの端末のGF伝送に必要な情報を伝送する。このGF構成通知ステップ406は、端末にNOMA-SICを実現させるための情報を伝送するため必要なステップである。
【0037】
<407:送信電力決定ステップ>
端末において406のGF構成通知を受けて、その情報と受信電力Prの測定を行って信号を送信する際の送信電力PTPCを計算する。この例を図5に示す。
図5に示すように、基地局送信電力をPBS、伝搬損失をPloss、基地局受信電力をPd(x)、端末の受信電力をPrとすると、以下の関係式より端末の送信電力PTPCを求めることができる。
伝搬損失Ploss=PBS-Pr
基地局受信電力Pd=PTPC-Ploss
よって、送信電力PTPCは、
送信電力PTPC=Pd+Ploss
により計算することができる。
この送信電力決定ステップ407は、NOMA-SICを実現させるために必要なステップである。
【0038】
<408:送信ダイバーシチによりデータ送信ステップ>
端末は送信すべきペイロードが発生するとすぐにそのペイロードを符号化、変調等を行う。例えば、5GNRの物理上り共有チャンネル(PUSCH)を生成し、生成したPUSCHを送信ダイバーシチ(CDD)を利用して基地局に送信する。これにより、送信ダイバーシチの利用により基地局における受信信号の変動を抑えることができる。
【0039】
<409:SICによる信号分離ステップ>
複数端末が同一のPRBにデータを送信した場合は、基地局は重畳信号をSICを使って分離する。この例を図6(a)(b)に示す。
図6(a)に示すように、端末1に送信アンテナが2本あると、基地局100における受電電力は、図6(b)に示すようになる。すなわち、1本の送信アンテナだけであると、図6(b)の破線のような電波しか得られないが、送信アンテナが2本あると、図6(b)の一点鎖線のような電波も受信できる。この2つの電波をサイクリックシフト(巡回シフト)によりタイミングをずらすことにより、図6(b)に示すような実線の信号(電波)を分離することができる。このように、アンテナ数の増加をデータ転送に使用しないで、ダイバーシチの安定性に使用することにより、フェージング環境とSICの課題(図9参照)を解決することができる。但し、1端末しか送信していない場合はSICは利用されない。また、基地局はDMRSを用いて端末の識別、無線伝搬路推定を実施する。この信号分離ステップ409は、DMRSによる端末識別、無線伝搬路推定及びSICの実行するステップである。
【0040】
<410:GF終了/再設定ステップ>
端末はこれ以上送信すべきペイロードが発生しないと判断した場合は基地局に対してGFを終了することを通知する。また、無線伝搬路情報が閾値以上に大きく変動した場合は基地局に対してGFの再設定要求を送出し、端末状態通知ステップ403からの動作に戻る。ここで、無線伝搬路情報が閾値以上に大きく変動した場合とは、例えば、長距離変動やシャドウングなどである。このGF終了/再設定ステップ410は、本発明の特徴的な機能である。これは、無線伝搬路が変動した際のGFのための送信電力の再設定を行う機能である。
【0041】
<計算機シミュレーション結果>
図7(a)(b)(c)にCTMAを採用した場合の計算機シミュレーションの結果を示す。図7(c)の例では、CTMAを採用した場合のBLER特性を示している。評価は伝送PUSCHのブロック誤り率(BLER:BLock Error Rate)とした。UEは3台用意して同一PRBに信号を送出した。SICのための送信電力差(SIC)は0dB~9dBと変化させる。また、平均的な伝搬損失はどのUEとも同じにする。UEの送信アンテナは1本から4本とし、基地局の受信アンテナは2本とした。フェージング環境は1パスレイリーフェージング環境として、雑音はゼロに設定した。また、適応符号化変調としてMCS(Modulation Coding Scheme)は「3」と設定した。
【0042】
<発明の作用効果>
本発明者らは低遅延及び多数接続を実現する無線伝送方法(CTMA)を発明した。CTMAでは低遅延にGFを採用し、多数接続にはNOMAを適用する。同一のPRBをUEにGFで割り当てるため信号が衝突する恐れがあるが、この場合はNOMA伝送と考えられるためGFとNOMAは相性が良い。また、瞬時値変動に対応するため送信ダイバーシチとしてCDDを適用して、フェージングを安定させる方法を発明した。計算機シミュレーションでは、CDDの適用により必要なSIRを低減できることが分かった。本発明者らの提案したCTMAにより低遅延及び多数接続が実現できる無線システムが構成できることが期待される。
【符号の説明】
【0043】
1、2、3、4、5 端末(IoT端末)
11 CRC部
12 FEC符号部
13 レートマッチング部
14 変調部
15 IFFT部
16 CP付加部
17 TPC部
18 アンテナ
19 サイクリックシフト部
20 CP付加部
21 TPC部
22 アンテナ
31 アンテナ
32 CP除去部
33 FFT部
34 加算器
35 等化部
36 復調部
37 レートマッチング部
38 FEC復号部
39 CRC部
40 CRC部
41 FEC符号部
42 レートマッチング部
43 変調部
44 乗算器
100 基地局
401 初期接続ステップ
402 GF要求ステップ
403 端末状態通知ステップ
404 リソース割り当て決定ステップ
405 GF許可/不許可ステップ
406 GF構成通知ステップ
407 送信電力決定ステップ
408 送信ダイバーシチによりデータ送信(PUSCH)ステップ
409 SICによる信号分離ステップ
410 GF終了/再設定ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9