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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119396
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】半導体基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 33/02 20060101AFI20240827BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20240827BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240827BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20240827BHJP
   C30B 25/18 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C30B33/02
C30B29/38 D
H01L21/31 E
H01L21/20
C30B25/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026267
(22)【出願日】2023-02-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/移動体への光無線給電システムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 成仁
(72)【発明者】
【氏名】中田 敦士
【テーマコード(参考)】
4G077
5F045
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AA03
4G077AB10
4G077BE11
4G077BE15
4G077DB08
4G077ED05
4G077ED06
4G077EF03
4G077FE02
4G077FE06
4G077FE20
4G077GA05
4G077HA12
4G077TK06
4G077TK08
5F045AA03
5F045AA04
5F045AA20
5F045AB14
5F045AB17
5F045AB18
5F045AC12
5F045AC15
5F045AD10
5F045AD11
5F045AD12
5F045AD13
5F045AD14
5F045AD15
5F045AF09
5F045BB12
5F045CB02
5F045HA16
5F152LL03
5F152LL05
5F152LM09
5F152LN03
5F152LN04
5F152LN21
5F152LN26
5F152MM09
5F152MM10
5F152MM11
5F152MM13
5F152MM18
5F152NN05
5F152NN12
5F152NN13
5F152NP09
5F152NQ09
(57)【要約】
【課題】表面に多数のVピットが形成された半導体層のVピットをなくして表面を平坦化させる。
【解決手段】半導体基板の製造方法では、表面に多数のVピットが形成されたIII族窒化物半導体の第1半導体層13を有する第1基板10と、表面にIII族窒化物半導体の第2半導体層23を有する第2基板20とを準備し、それらの第1及び第2基板10,20を、第1基板10が上側及び第2基板20が下側となり且つ第1及び第2半導体層13,23が対向するように配置するとともに、第1及び第2半導体層13,23の間にNHガスを流しながら、第1及び第2半導体層13,23をアニールする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に多数のVピットが形成されたIII族窒化物半導体の第1半導体層を有する第1基板と、表面にIII族窒化物半導体の第2半導体層を有する第2基板と、を準備する基板準備ステップと、
前記基板準備ステップで準備した前記第1及び第2基板を、前記第1基板が上側及び前記第2基板が下側となり且つ前記第1及び第2半導体層が対向するように配置するとともに、前記第1及び第2半導体層の間にNHガスを流しながら、前記第1及び第2半導体層をアニールするアニールステップと、
を含む半導体基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された半導体基板の製造方法において、
前記第2半導体層を形成するIII族窒化物半導体が前記第1半導体層を形成するIII族窒化物半導体と同一である半導体基板の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載された半導体基板の製造方法において、
前記第1半導体層を形成するIII族窒化物半導体がInGaNである半導体基板の製造方法。
【請求項4】
表面にIII族窒化物半導体の半導体層を有する半導体基板であって、
前記半導体層に形成された多数のVピットが半導体材料で埋められた半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスでは、種々の目的で半導体層をアニール(熱処理)する。例えば、特許文献1には、NHガスを流しながらInGaN層をアニールすることにより、発光層内の歪みを抑制することが開示されている。また、非特許文献1には、各々、サファイア基板上にAlN層を結晶成長させた一対の基板を準備し、それらの基板をAlN層同士が対向するように配置するとともに、AlN層間にNガスを流しながらAlN層をアニールすることにより、AlN結晶の品質を改善することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2008/078301
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H. Miyake et al., J. Cryst. Growth 456 (2016) 155.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
III族窒化物半導体を用いた受光デバイスでは、通常、活性層がInGaN層で構成される。ところが、この活性層のInGaN層を、下地層のGaN層の上に結晶成長させた場合、下地層と活性層との間における半導体の格子不整合差による欠陥のためにエネルギー変換効率が低いという問題がある。
【0006】
そこで、下地層をInGaN層で構成し、その上に活性層のInGaN層を結晶成長させれば、活性層のInGaN層への欠陥の導入が抑制されるとともに、下地層と活性層との間における半導体の格子不整合差が減少することとなり、高いエネルギー変換効率が得られると考えられる。
【0007】
しかしながら、下地層をInGaN層で構成した場合、結晶内に含まれる多数の欠陥に起因して表面に多数のVピット(V字型欠陥)が形成され、そのため表面平坦性が劣るという問題がある。InGaN層の膜厚が厚くなるに従ってVピットは大きくなるので、この問題は、InGaN層の膜厚が臨界膜厚を超えるような厚さの場合に特に著しいものとなる。そして、下地層の表面平坦性が劣ると、活性層を形成するための下地層の面積が少なくなるため、それに伴って活性層も小さくなり、また、活性層の結晶成長が不均一となるため、エネルギー変換効率が低くなるという問題を招く。このように、従来、下地層としてのInGaN層に形成されたVピットを減らすべくVピットを覆うようにInGaNの膜を成長させようとしても上述のとおりでVピットをなくして成長させることは、現実にはできなかった。
【0008】
本発明の課題は、表面に多数のVピットが形成された半導体層のVピットをなくして表面を平坦化させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、表面に多数のVピットが形成されたIII族窒化物半導体の第1半導体層を有する第1基板と、表面にIII族窒化物半導体の第2半導体層を有する第2基板とを準備する基板準備ステップと、前記基板準備ステップで準備した前記第1及び第2基板を、前記第1基板が上側及び前記第2基板が下側となり且つ前記第1及び第2半導体層が対向するように配置するとともに、前記第1及び第2半導体層の間にNHガスを流しながら、前記第1及び第2半導体層をアニールするアニールステップとを含む半導体基板の製造方法である。
【0010】
本発明は、表面にIII族窒化物半導体の半導体層を有する半導体基板であって、前記半導体層に形成された多数のVピットが半導体材料で埋められている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面に多数のVピットが形成されたIII族窒化物半導体の第1半導体層を有する第1基板及び表面にIII族窒化物半導体の第2半導体層を有する第2基板を、第1基板が上側及び第2基板が下側となり且つ第1及び第2半導体層が対向するように配置するとともに、第1及び第2半導体層の間にNHガスを流しながら、第1及び第2半導体層をアニールすることにより、上側の第1基板において、第1半導体層のVピットをなくして表面を平坦化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1及び第2基板の断面図である。
図2】アニールステップを示す説明図である。
図3A】アニールステップの第1の変形例を示す説明図である。
図3B】アニールステップの第2の変形例を示す説明図である。
図4A】試験評価1でアニール時に上側に配置されたサンプル基板1についてのアニール前、アニール時間10分、20分、及び30分での表面InGaN層の表面のSEM像である。
図4B】試験評価1でアニール時に上側に配置されたサンプル基板2についてのアニール前、アニール時間10分、20分、及び30分での表面InGaN層の表面のSEM像である。
図4C】試験評価1でアニール時に上側に配置されたサンプル基板3についてのアニール前、アニール時間10分、20分、及び30分での表面InGaN層の表面のSEM像である。
図5A】試験評価1でアニール時に上側に配置されたサンプル基板1についてのアニール時間10分、20分、及び30分での表面InGaN層の表面のカソードルミネッセンス(CL)の像である。
図5B】試験評価1でアニール時に上側に配置されたサンプル基板2についてのアニール時間10分、20分、及び30分での表面InGaN層の表面のカソードルミネッセンス(CL)の像である。
図5C】試験評価1でアニール時に上側に配置されたサンプル基板3についてのアニール時間10分、20分、及び30分での表面InGaN層の表面のカソードルミネッセンス(CL)の像である。
図6A】試験評価1でアニール時に下側に配置されたサンプル基板1についてのアニール時間10分、20分、及び30分での表面InGaN層の表面の光学顕微鏡の像である。
図6B】試験評価1でアニール時に下側に配置されたサンプル基板2についてのアニール時間10分、20分、及び30分での表面InGaN層の表面の光学顕微鏡の像である。
図6C】試験評価1でアニール時に下側に配置されたサンプル基板3についてのアニール時間10分、20分、及び30分での表面InGaN層の表面の光学顕微鏡の像である。
図7】試験評価1で上側に配置されたサンプル基板1について、アニール前及びアニール後のそれぞれの表面InGaN層の表面についてのオージェ電子分光法による分析結果を示すグラフである。
図8】試験評価2でアニール時に上側に配置されたサンプル基板1乃至3のそれぞれについてのアニール前及びアニール後の表面InGaN層の表面のSEM像である。
図9A】試験評価2で上側に配置されたサンプル基板1について、アニール後の表面InGaN層の表面についてのオージェ電子分光法による分析結果を示すグラフである。
図9B】試験評価2で上側に配置されたサンプル基板2について、アニール後の表面InGaN層の表面についてのオージェ電子分光法による分析結果を示すグラフである。
図10A】試験評価3でアニール時にサンプル基板Xが下側に配置されたときに上側に配置されたサンプル基板1についてのアニール時間10分での表面InGaN層の表面のSEM像である。
図10B】試験評価3でアニール時にサンプル基板Xが下側に配置されたときに上側に配置されたサンプル基板3についてのアニール時間10分での表面InGaN層の表面のSEM像である。
図11A】試験評価3でアニール時にサンプル基板Yが下側に配置されたときに上側に配置されたサンプル基板2についてのアニール時間10分での表面InGaN層の表面のSEM像である。
図11B】試験評価3でアニール時にサンプル基板Yが下側に配置されたときに上側に配置されたサンプル基板3についてのアニール時間10分での表面InGaN層の表面のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態について説明する。
【0014】
実施形態に係る半導体基板の製造方法は、基板準備ステップと、アニールステップとを含む。
【0015】
<基板準備ステップ>
基板準備ステップでは、図1に示すような第1及び第2基板10,20を準備する。第1基板10は、第1ベース基板11上に、第1低温バッファ層12、第1中間半導体層13、及び第1表面半導体層14が順に積層されている。同様に、第2基板20は、第2ベース基板21上に、第2低温バッファ層22、第2中間半導体層23、及び第2表面半導体層24が順に積層されている。
【0016】
ここで、第1及び第2ベース基板11,21としては、例えば、サファイア基板、ZnO基板、SiC基板等が挙げられる。第1及び第2ベース基板11,21の主面は、a面、c面、m面、及びr面のいずれであってもよく、また、他の面方位の結晶面であってもよいが、これらのうちのc面であることが好ましい。ここで、「主面」とは、半導体の積層成長方向に対して垂直な面をいい、通常は基板表面における最も広い面である。
【0017】
第1及び第2低温バッファ層12,22は、それぞれ第1及び第2ベース基板11,21上にエピタキシャル結晶成長したIII族窒化物半導体で形成された半導体層である。第1及び第2低温バッファ層12,22を形成するIII族窒化物半導体としては、例えば、二元化合物のGaN、InN、AlN;三元化合物のAlGaN、InGaN;四元化合物のAlGaInN等が挙げられる。第1及び第2低温バッファ層12,22の膜厚は、例えば10nm以上50nm以下である。
【0018】
第1及び第2中間半導体層13,23は、それぞれ第1及び第2低温バッファ層12,22上にエピタキシャル結晶成長したIII族窒化物半導体で形成されている。第1及び第2中間半導体層13,23を形成するIII族窒化物半導体としては、第1及び第2低温バッファ層12,22と同様、例えば、二元化合物のGaN、InN、AlN;三元化合物のAlGaN、InGaN;四元化合物のAlGaInN等が挙げられる。第1中間半導体層13は、第1低温バッファ層12と同一のIII族窒化物半導体で形成されていても、第1低温バッファ層12とは異なるIII族窒化物半導体で形成されていても、どちらでもよい。第2中間半導体層23は、第2低温バッファ層22と同一のIII族窒化物半導体で形成されていても、第2低温バッファ層22とは異なるIII族窒化物半導体で形成されていても、どちらでもよい。第1及び第2中間半導体層13,23の膜厚は、例えば50nm以上5000nm以下である。
【0019】
第1表面半導体層14は、第1中間半導体層13上にエピタキシャル結晶成長したIII族窒化物半導体で形成されている。アニールステップでアニールする前の第1表面半導体層14の表面には、多数のVピットが形成されている。具体的には、アニール前の第1表面半導体層14の表面のVピット密度は、2×10cm-2以上である。第1表面半導体層14を形成するIII族窒化物半導体としては、表面に多数のVピットが形成されることから、例えば、二元化合物では{11-22}GaN;三元化合物ではInGaNが挙げられる。第1表面半導体層14は、第1中間半導体層13と同一のIII族窒化物半導体で形成されていても、第1中間半導体層13とは異なるIII族窒化物半導体で形成されていても、どちらでもよい。第1表面半導体層14の膜厚は、例えば50nm以上5000nm以下である。
【0020】
第2表面半導体層24は、第2中間半導体層23上にエピタキシャル結晶成長したIII族窒化物半導体で形成されている。第2表面半導体層24を形成するIII族窒化物半導体としては、第1及び第2低温バッファ層12,22並びに第1及び第2中間半導体層13,23と同様、例えば、二元化合物のGaN、InN、AlN;三元化合物のAlGaN、InGaN;四元化合物のAlGaInN等が挙げられる。第2表面半導体層24は、第2中間半導体層23と同一のIII族窒化物半導体で形成されていても、第2中間半導体層23とは異なるIII族窒化物半導体で形成されていても、どちらでもよい。第2表面半導体層24は、第1表面半導体層14とは異なるIII族窒化物半導体で形成されていてもよいが、アニールにより第1InGaN層の表面を平坦化する観点から、第1表面半導体層14と同一のIII族窒化物半導体で形成されていることが好ましい。第2表面半導体層24の膜厚は、例えば50nm以上5000nm以下である。
【0021】
第1及び第2基板10,20は、化学気相成長法(CVD)により作製することができる。化学気相成長法(CVD)としては、例えば、有機金属気相成長法(MOVPE)、ハイドライド気相成長法(HVPE)等が挙げられるが、第1及び第2基板10,20の作製には、これらのうちの有機金属気相成長法(MOVPE)が好ましい。
【0022】
<アニールステップ>
アニールステップでは、リアクタのチャンバー内において、図2に示すように、基板準備ステップで準備した第1及び第2基板10,20を、第1基板10が上側及び第2基板20が下側となり且つ第1及び第2表面半導体層14,24が対向するように配置するとともに、第1及び第2表面半導体層14,24の間にNHガスを流しながら、第1及び第2表面半導体層14,24をアニールする。つまり、第1及び第2基板10,20に対し、フェイストゥフェイス(Face to Face)アニールを施す。
【0023】
実施形態に係る半導体基板の製造方法によれば、上記のように表面に多数のVピットが形成されたIII族窒化物半導体の第1表面半導体層14を有する第1基板10及びIII族窒化物半導体の第2表面半導体層24を有する第2基板20を、第1基板10が上側及び第2基板20が下側となり且つ第1及び第2表面半導体層14,24が対向するように配置するとともに、第1及び第2表面半導体層14,24の間にNHガスを流しながら、第1及び第2表面半導体層14,24をアニールすることにより、上側の第1基板10において、第1表面半導体層14のVピットをなくして表面を平坦化させることができる。これは、第1及び第2表面半導体層14,24を対向させた状態でアニールすることにより、下側の第2表面半導体層24から、上側の第1表面半導体層14のVピットを埋めるように半導体材料が移動するためであると考えられる。加えて、アニールにより、第1表面半導体層14の転位が横方向に移動することも一因であると考えられる。
【0024】
ここで、第1及び第2表面半導体層14,24は、それらが対向するように配置されている。第1及び第2表面半導体層14,24は、それらが間隔をおいて対向するように配置されていることが好ましいが、必ずしもそれらの間に間隔が設けられていなくてもよい。第1及び第2表面半導体層14,24の間隔は、アニールにより第1表面半導体層14の表面を平坦化する観点から、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.5mm以下である。
【0025】
NHガスの流量は、アニールにより第1表面半導体層14の表面を平坦化する観点から、好ましくは0.1slm以上10slm以下、より好ましくは1slm以上5slm以下である。なお、NHガスとともに、キャリアガスとしてNガスやHガスを一緒に流してもよい。
【0026】
アニール温度は、アニールにより第1表面半導体層14の表面を平坦化する観点から、好ましくは600℃以上1150℃以下、より好ましくは800℃以上1150℃以下である。アニールによって第1表面半導体層14の表面にInGaNを結晶成長させて平坦化する観点では、アニール温度は、好ましくは800℃以上1100℃以下、より好ましくは850℃以上1100℃以下、さらに好ましくは950℃以上1050℃以下である。
【0027】
アニール時間は、アニールにより第1表面半導体層14の表面を平坦化する観点から、好ましくは1分以上60分以下、より好ましくは5分以上30分以下、さらに好ましくは10分以上20分以下である。
【0028】
アニールした後における第1表面半導体層14の表面のVピット密度は、好ましくは1×10cm-2以下、より好ましくは1×10cm-2以下である。
【0029】
アニールした後における第1表面半導体層14の表面の状態、二乗平均粗さ(RMS)、表面に存在する元素は、例えば、それぞれ走査電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、オージェ電子分光装置を用いて測定される。
【0030】
アニールした後、チャンバから上側に配置した第1基板10を回収する。そして、それを、表面にIII族窒化物半導体の第1表面半導体層14を有し、その第1表面半導体層14に形成された多数のVピットが半導体材料で埋められて平坦化した半導体基板として、各種の半導体デバイスの製造に用いる。例えば、表面が平坦化した高品質のInGaN層を備えた半導体基板であれば、InGaN層を下地層として、その上にエネルギー変換効率の高い赤色LED、LD、太陽電池、受光デバイス等を作り込むことができる。
【0031】
なお、上記実施形態では、第2基板20の表面に設けられた第2表面半導体層24を、第1基板10の表面の第1表面半導体層14に対向するように配置する構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、例えば、図3Aに示すように、第2基板20の表面に設けられた第2低温バッファ層22を、第1基板10の表面の第1表面半導体層14に対向するように配置する構成であってもよく、また、図3Bに示すように、第2基板20の表面に設けられた第2中間半導体層23を、第1基板10の表面の第1表面半導体層14に対向するように配置する構成であってもよい。
【実施例0032】
(試験評価1)
主面がc面のサファイア基板上に、有機金属気相成長法(MOVPE)により、膜厚30nmの低温GaNバッファ層、膜厚2000nmのアンドープGaN層、及び膜厚200nmの表面InGaN層を順にエピタキシャル結晶成長させたサンプル基板1を複数枚作製した。サンプル基板1の表面InGaN層の表面のVピット密度は3.30×10cm-2であった。また、フォトルミネッセンスによる表面InGaN層中のインジウム、ガリウム及び窒素のモル比率はIn:Ga:N=2:98:100であった。
【0033】
また、表面InGaN層の膜厚をそれぞれ400nm及び700nmとしたことを除いてサンプル基板1と同一構成のサンプル基板2及び3をそれぞれ複数枚作製した。サンプル基板2の表面InGaN層の表面のVピット密度は2.54×10cm-2であった。サンプル基板3の表面InGaN層の表面のVピット密度は2.23×10cm-2であった。
【0034】
サンプル基板1乃至3のそれぞれについて、圧力100kPaのリアクタのチャンバ内(流路面積800mm(=8mm×100mm))において、サンプル基板の一対を、一方が上側及び他方が下側となり且つ一方の表面InGaN層を他方の表面InGaN層に対向するように載せて配置し、キャリアガスの純度99.999%のNガスとともに純度99.999%のNHガスを流量5slmで流しながら、表面InGaN層をアニール温度1150℃及びアニール時間10分としてアニールする実験を行った(図2参照)。キャリアガスのNガスの流量は、NHガスの流量の約10倍とした。また、アニール時間を20分及び30分とする実験も行った。
【0035】
図4A乃至Cは、それぞれ上側に配置されたサンプル基板1乃至3について、アニール前、アニール時間10分、20分、及び30分での表面InGaN層の表面を示す。図5A乃至Cは、それぞれ上側に配置されたサンプル基板1乃至3について、アニール時間10分、20分、及び30分での表面InGaN層の表面のカソードルミネッセンス(CL)の像を示す。図6A乃至Cは、それぞれ下側に配置されたサンプル基板1乃至3について、アニール時間10分、20分、及び30分での表面InGaN層の表面を示す。図7は、上側に配置されたサンプル基板1について、アニール前及びアニール後(アニール時間30分)のそれぞれの表面InGaN層の表面についてオージェ電子顕微鏡を用いたオージェ電子分光法による分析結果を示す。
【0036】
表1は、上側に配置されたサンプル基板1乃至3について、アニール前、アニール時間10分、20分、及び30分での表面InGaN層の表面のVピット密度、並びにカソードルミネッセンス(CL)のスペクトルピーク波長を示す。また、上側に配置されたサンプル基板2のアニール前及びアニール時間を20分としたもの、並びに上側に配置されたサンプル基板3のアニール前及びアニール時間を10分及び20分としたものについて、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した二乗平均粗さ(RMS)を示す。RMSは、同一の基板上で1カ所以上の部位で測定した。
【0037】
【表1】
【0038】
図4A乃至C及び表1の結果によれば、上側に配置されたサンプル基板1乃至3では、アニールにより、表面InGaN層のVピットが埋められてなくなったことがわかる。表1から上側に配置されたサンプル基板2及び3では、アニール前の表面粗さが8.2nm~54nmであったのが、アニール後は0.67nm~5.3nmとなり、InGaN層の表面が平坦化された。また、上側に配置されたサンプル基板1の表面には図7のオージェ電子分光法によりGaNが結晶成長していることが確認された。図6A乃至Cの結果によれば、アニールした後の下側に配置されたサンプル基板1乃至3では、表面InGaN層の表面が荒れていることから、これは、下側に配置されたサンプル基板の表面InGaN層から、上側に配置されたサンプル基板の表面InGaN層のVピットを埋めるように半導体材料が移動したためであると考えられる。また、図5A乃至Cの結果によれば、カソードルミネッセンス(CL)の分析より、アニールにより、上側に配置されたサンプル基板1乃至3では、転位が横方向に移動しているのが認められ、これも、上側に配置されたサンプル基板の表面InGaN層の表面の平坦化の一因であると考えられる。
【0039】
(試験評価2)
サンプル基板1乃至3のそれぞれについて、アニール温度1050℃及びアニール時間20分としたことを除いて試験評価1と同様の実験を行った。
【0040】
図8は、上側に配置されたサンプル基板1乃至3について、アニール前及びアニール後での表面InGaN層の表面を示す。図9A及びBは、それぞれ上側に配置されたサンプル基板1及び2について、アニール後の表面InGaN層の表面についてオージェ電子顕微鏡を用いたオージェ電子分光法による分析結果を示す。また、表2は、上側に配置されたサンプル基板1乃至3について、アニール前及びアニール後での表面InGaN層の表面のVピット密度を示す。また、上側に配置されたサンプル基板2及び3のアニール前及びアニール後について、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した二乗平均粗さ(RMS)を示す。RMSは、同一の基板上で1カ所測定した。
【0041】
【表2】
【0042】
図8及び表2の結果によれば、上側に配置されたサンプル基板1乃至3では、アニールにより、表面InGaN層のVピットが埋められてなくなったことがわかる。表2の結果から上側に配置されたサンプル基板2及び3では、アニール前の表面粗さが8.2nm~54nmであったのが、アニール後は1.8nm~3.8nmとなりInGaN層の表面が平坦化されていることが分かる。また、図9A及びBの結果から上側に配置されたサンプル基板1及び2の表面にはオージェ電子分光法によりInGaNが結晶成長していることが確認された。
【0043】
(試験評価3)
主面がc面のサファイア基板上に、有機金属気相成長法(MOVPE)により、膜厚30nmの低温GaNバッファ層をエピタキシャル結晶成長させたサンプル基板Xを複数枚作製した。また、主面がc面のサファイア基板上に、有機金属気相成長法(MOVPE)により、膜厚30nmの低温GaNバッファ層、及び膜厚2000nmのアンドープGaN層を順にエピタキシャル結晶成長させたサンプル基板Yを複数枚作製した。
【0044】
圧力100kPaのリアクタのチャンバ内(流路面積800mm(=8mm×100mm))において、表面InGaN層の膜厚が200nmのサンプル基板1が上側及びサンプル基板Xが下側となり且つサンプル基板1の表面InGaN層をサンプル基板Xの低温GaNバッファ層に対向するように載せて配置し、キャリアガスの純度99.999%のNガスとともに純度99.999%のNHガスを流量5slmで流しながら、表面InGaN層及び低温GaNバッファ層をアニール温度1150℃及びアニール時間10分としてアニールする実験を行った(図3A参照)。このとき、キャリアガスのNガスの流量は、NHガスの流量の約10倍とした。また、サンプル基板1に代えて表面InGaN層の膜厚が700nmのサンプル基板3を用いた実験も行った。さらに、サンプル基板Xに代えてサンプル基板Yを用い、且つサンプル基板1に代えて表面InGaN層の膜厚が400nmのサンプル基板2及びサンプル基板3をそれぞれ用いた実験も行った(図3B参照)。
【0045】
図10A及びBは、アニール時にサンプル基板Xが下側に配置されたときに、それぞれ上側に配置されたサンプル基板1及び3についてのアニール時間10分での表面InGaN層の表面を示す。図11A及びBは、アニール時にサンプル基板Yが下側に配置されたときに、それぞれ上側に配置されたサンプル基板2及び3についてのアニール時間10分での表面InGaN層の表面を示す。表3は、それぞれの基板の組み合わせにおいて上側に配置されたサンプル基板1乃至3について、アニール時間10分での表面InGaN層のカソードルミネッセンス(CL)のスペクトルピーク波長を示す。
【0046】
【表3】
【0047】
図10A及びB、図11A及びB、並びに表3の結果によれば、下側に配置されたサンプル基板X及びYの表面のIII族窒化物半導体がGaNであって、上側に配置されたサンプル基板1乃至3の表面のIII族窒化物半導体のInGaNとは異なるものの、試験評価1の場合と同様、上側に配置されたサンプル基板1乃至3の表面InGaN層のVピットが埋められて減少し、その結果、表面InGaN層の表面が平坦化されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、半導体基板及びその製造方法の技術分野について有用である。
【符号の説明】
【0049】
10 第1基板
11 第1ベース基板
12 第1低温バッファ層
13 第1中間半導体層
14 第1表面半導体層
20 第2基板
21 第2ベース基板
22 第2低温バッファ層
23 第2中間半導体層
24 第2表面半導体層
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B