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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011940
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】印刷層の除去方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
B29B17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114302
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】中尾 宰
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA08
4F401AA10
4F401AA11
4F401AA22
4F401AB07
4F401AC13
4F401AD02
4F401BB12
4F401CA14
4F401CA48
4F401EA04
4F401EA58
4F401EA59
4F401EA62
4F401EA63
4F401EA79
(57)【要約】
【課題】熱収縮性フィルムから印刷層を十分に除去することができる、印刷層の除去方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る印刷層の除去方法は、印刷層を有する熱収縮性フィルムを準備するステップと、前記熱収縮性フィルムを粉砕し、1.7cm角以下の粉砕片を形成するステップと、前記粉砕片に熱を付与し、減容するステップと、減容した前記粉砕片に洗浄液を供給し、当該粉砕片から前記印刷層を除去するステップと、前記洗浄液と前記粉砕片との混合物を濾過し、前記粉砕片を濾物として回収するステップと、を備えている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷層を有する熱収縮性フィルムを準備するステップと、
前記熱収縮性フィルムを粉砕し、1.7cm角以下の粉砕片を形成するステップと、
前記粉砕片に熱を付与し、減容するステップと、
減容した前記粉砕片に洗浄液を供給し、当該粉砕片から前記印刷層を除去するステップと、
前記洗浄液と前記粉砕片との混合物を濾過し、前記粉砕片を濾物として回収するステップと、
を備えている、印刷層の除去方法。
【請求項2】
印刷層を有する熱収縮性フィルムを準備するステップと、
前記熱収縮性フィルムに熱を付与し、減容するステップと、
減容した前記熱収縮性フィルムを粉砕し、1.7cm角以下の粉砕片を形成するステップと、
前記粉砕片に洗浄液を供給し、当該粉砕片から前記印刷層を除去するステップと、
前記洗浄液と前記粉砕片との混合物を濾過し、前記粉砕片を濾物として回収するステップと、
を備えている、印刷層の除去方法。
【請求項3】
印刷層を有する熱収縮性フィルムを準備するステップと、
前記熱収縮性フィルムに熱を付与し、減容するステップと、
洗浄液が収容された容器に、減容した前記熱収縮性フィルムを投入するとともに、当該熱収縮性フィルムを前記容器内で粉砕し、1.7cm角以下の粉砕片を形成しつつ前記印刷層を除去するステップと、
前記洗浄液と前記粉砕片との混合物を濾過し、前記粉砕片を濾物として回収するステップと、
を備えている、印刷層の除去方法。
【請求項4】
印刷層を有する熱収縮性フィルムを準備するステップと、
前記熱収縮性フィルムを粉砕し、1.7cm角以下の粉砕片を形成するステップと、
洗浄液が収容された容器に、前記粉砕片を投入するとともに、加熱した前記洗浄液により、前記粉砕片を減容しつつ前記印刷層を除去するステップと、
前記洗浄液と前記粉砕片との混合物を濾過し、前記粉砕片を濾物として回収するステップと、
を備えている、印刷層の除去方法。
【請求項5】
前記洗浄液は、アルコール系溶媒、環状エーテル系溶媒、酢酸エステル系溶媒、ケトン系溶媒、またはアルカリ系溶媒を含有する、請求項1から4のいずれかに記載の印刷層の除去方法。
【請求項6】
前記減容は、100℃以下の熱を付与することで行われる、請求項1から4のいずれかに記載の印刷層の除去方法。
【請求項7】
前記熱収縮性フィルムの厚みが、20μm以上である、請求項1から4のいずれかに記載の印刷層の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷層を有する熱収縮性フィルムから印刷層を除去する除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂材料の再生の要請から、樹脂製ボトル等の容器に取り付けられていた熱収縮性フィルムから印刷層を除去し、熱収縮性フィルムを再利用する方法が提案されている。例えば、特許文献1では、印刷層を有する熱収縮性フィルムを予備加熱した後、破砕して粉砕片を形成し、この粉砕片からアルカリ脱離により印刷層を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公報第2021/157399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の方法では、印刷層の除去が十分とは言えず、さらに効果的な印刷層の除去方法が要望されていた。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、熱収縮性フィルムから印刷層を十分に除去することができる、印刷層の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
項1.印刷層を有する熱収縮性フィルムを準備するステップと、
前記熱収縮性フィルムを粉砕し、1.7cm角以下の粉砕片を形成するステップと、
前記粉砕片に熱を付与し、減容するステップと、
減容した前記粉砕片に洗浄液を供給し、当該粉砕片から前記印刷層を除去するステップと、
前記洗浄液と前記粉砕片との混合物を濾過し、前記粉砕片を濾物として回収するステップと、
を備えている、印刷層の除去方法。
【0007】
項2.印刷層を有する熱収縮性フィルムを準備するステップと、
前記熱収縮性フィルムに熱を付与し、減容するステップと、
減容した前記熱収縮性フィルムを粉砕し、1.7cm角より小さい粉砕片を形成するステップと、
前記粉砕片に洗浄液を供給し、当該粉砕片から前記印刷層を除去するステップと、
前記洗浄液と前記粉砕片との混合物を濾過し、前記粉砕片を濾物として回収するステップと、
を備えている、印刷層の除去方法。
【0008】
項3.印刷層を有する熱収縮性フィルムを準備するステップと、
前記熱収縮性フィルムに熱を付与し、減容するステップと、
洗浄液が収容された容器に、減容した前記熱収縮性フィルムを投入するとともに、当該熱収縮性フィルムを前記容器内で粉砕し、1.7cm角以下の粉砕片を形成しつつ前記印刷層を除去するステップと、
前記洗浄液と前記粉砕片との混合物を濾過し、前記粉砕片を濾物として回収するステップと、
を備えている、印刷層の除去方法。
【0009】
項4.印刷層を有する熱収縮性フィルムを準備するステップと、
前記熱収縮性フィルムを粉砕し、1.7cm角以下の粉砕片を形成するステップと、
洗浄液が収容された容器に、前記粉砕片を投入するとともに、加熱した前記洗浄液により、前記粉砕片を減容しつつ前記印刷層を除去するステップと、
前記洗浄液と前記粉砕片との混合物を濾過し、前記粉砕片を濾物として回収するステップと、
を備えている、印刷層の除去方法。
【0010】
なお、加熱した洗浄液とは、予め加熱した洗浄液のほか、粉砕片を投入後に加熱した洗浄液のいずれも含む。
【0011】
項5.前記洗浄液は、アルコール系溶媒、環状エーテル系溶媒、酢酸エステル系溶媒、ケトン系溶媒、またはアルカリ系溶媒を含有する、項1から4のいずれかに記載の印刷層の除去方法。
【0012】
項6.前記減容するステップでは、100℃以下の熱を付与する、項1から5のいずれかに記載の印刷層の除去方法。
【0013】
項7.前記熱収縮性フィルムの厚みが、20μm以上である、項1から6のいずれかに記載の印刷層の除去方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱収縮性フィルムから印刷層を十分に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る印刷層の除去方法の一実施形態について説明する。本実施形態では、印刷層を有する熱収縮性フィルムから、印刷層を除去する方法について説明する。まず、対象となる熱収縮性フィルムについて説明した後、印刷層の除去方法について説明する。
【0016】
<1.対象となる熱収縮性フィルムの例>
本実施形態において対象となる熱収縮性フィルムは、印刷層を有するものであり、例えば、樹脂製のボトル等の容器の外周面に取り付けられたシュリンクラベル等が該当する。また、そのようなシュリンクラベルとしては、市場から回収されたもののほか、印刷不良として市場に流通前に回収されたものを対象とすることができる。
【0017】
熱収縮性フィルムは、基材と、その少なくとも一方の面に形成された印刷層とを有する。基材を構成する材料は、特には限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等からなるポリエステルフィルム;ポリスチレン等からなるスチレン系フィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン、環状オレフィン系樹脂等のオレフィン系樹脂からなるオレフィン系フィルム;塩化ビニル樹脂からなる塩化ビニル系フィルム;ポリアミド系樹脂からなるポリアミド系フィルムなどが挙げられる。これらは発泡フィルムであってもよい。また、熱収縮性フィルムは単層であってもよく、2層以上の積層体であってもよい。
【0018】
基材が複数層で形成される場合、カールを抑制する観点から、両面に同種、同厚の樹脂材料を配置することが好ましい。例えば、熱収縮性フィルムを3層で形成する場合、A(厚み10μm)/B/A(厚み10μm)のように厚みが同じで同種の樹脂材料であるAにより、それとは異種のBという材料を挟んだような積層体であることが好ましい。但し、本発明が対象とする熱収縮性フィルムの基材はこれに限定されず、両面の材料が同種ではあるが厚みが異なっていたり、あるいは全て異なる材料が積層されたものであってもよい。
【0019】
熱収縮性フィルムの少なくとも一方向(主収縮方向)の熱収縮率は、各種容器等への収縮密着性の点から、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがさらに好ましく、30%以上であることが特に好ましい。熱収縮性フィルムの厚さは、例えば、20μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがさらに好ましい。これは、熱収縮性フィルムの厚さが薄すぎると、カールしやすくなり、印刷層の除去が容易ではなくなるからである。熱収縮性フィルムの厚さの上限は特には限定されないが、例えば、100μm程度とすることができる。なお、これらの熱収縮性フィルムの物性は、ボトル等の容器への装着前のものである。
【0020】
印刷層を構成する顔料の種類は特に限定されないが、バインダ樹脂が含まれていることが好ましい。バインダ樹脂の種類として、アクリル樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができ、硬化剤を用いて硬化するバインダ樹脂を含んでいる構成でもよい。また、印刷層を接着させるための易接着層(プライマー層)が設けられていてもよい。易接着層の構成樹脂としては特に限定されないが、アクリル樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルアルコール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂などが挙げられる。印刷層の形成方法も特には限定されないが、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、レーザー印刷、スクリーン印刷などが挙げられる。印刷層は、単層であってもよく、多層であってもよい。また、印刷層の厚さは用途等により適宜選択することができ、例えば0.1~100μm程度とすることができるが、十分に印刷層を除去するためには、印刷層が薄い方が好ましく、例えば、50μm以下であることが好ましい。
【0021】
また、印刷層の色は、後述する有機溶媒が含有された洗浄液で除去可能であれば、特には限定されない。
【0022】
<2.印刷層の除去方法>
次に、上記のような熱収縮性フィルムから印刷層を除去する方法について説明する。除去方法は、主として以下のステップを含んでいる。
(1)熱収縮性フィルムの粉砕ステップ
(2)粉砕された粉砕片に熱を付与し、減容するステップ
(3)洗浄液を準備するステップ
(4)印刷層の除去ステップ
(5)印刷層が除去された粉砕片を回収するステップ
(6)回収された粉砕片を原料として再利用するステップ
以下、各ステップについて詳細に説明する。
【0023】
<2-1.熱収縮性フィルムの粉砕ステップ>
まず、熱収縮性フィルムを1.7cm角以下、好ましくは1.5cm角以下の大きさ、さらに好ましくは1.0cm角以下の大きさに裁断し、粉砕片を形成する。1.7cm角以下の大きさとは、一辺が1.7cmの正方形に含まれる大きさであるが、その形状は特には限定されない。これにより、洗浄液と接触しやすくなり、印刷層を効率的に除去することができる。
【0024】
<2-2.粉砕片の減容ステップ>
次に、上記のように粉砕された粉砕片に熱を付与して、粉砕片を収縮し、減容する。熱を付与する方法としては、例えば、(1)熱風を当てる、(2)蒸気を当てる、(3)高温の液中に浸す、等の方法があるが、コスト及び簡便さの観点から、熱風を当てる方法を採用することが好ましい。このとき、粉砕片に付与する熱の温度は、粉砕片が収縮すれば特に限定されないが、例えば、100℃以下であることが好ましい。また、乾燥中の粉砕片同士のブロッキングを避けるためには、80℃以下であることがさらに好ましい。
【0025】
このように、粉砕片が収縮することで、一度の工程で後述する洗浄液に投入できる粉砕片の量を多くすることができるため、処理効率を向上することができる。また、使用する洗浄液の量も減らすことができるため、コストの観点からも効果的である。
【0026】
また、粉砕片が収縮することで収縮しない印刷層がひずみ、粉砕片の基材から印刷層が層剥離して浮きあがる。これにより、後述する工程において、浮いた印刷層と基材との隙間に洗浄液が浸透しやすくなるため、印刷層を除去しやすくなる。また、印刷層は粒子を密着させるためにバインダ樹脂を含んでおり、あるいは易接着層が設けられている。そのため、これらが洗浄液の浸透により膨潤することで基材から剥がれ、洗浄液中に分散することで印刷層が基材から除去される。このように粉砕片が収縮することで、印刷層の除去が促進される。
【0027】
<2-3.洗浄液の準備ステップ>
洗浄液を専用タンクに溜め、必要に応じて適切な温度まで洗浄液を加熱して貯蔵する。貯蔵された洗浄液は適宜、印刷層の除去工程のタンクに供給する。また、印刷層の除去に使用した洗浄液を精製(蒸留など)して得た純度の高い洗浄液を、そのタンクに貯蔵して再利用することもできる。
【0028】
洗浄液は、粉砕片を構成する樹脂の劣化を引き起こさずに印刷層を除去することができる有機溶媒が含有されており、例えば、アルコール系溶媒、環状エーテル系溶媒、または酢酸エステル系溶媒、またはケトン系溶媒を含有することが好ましい。アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等の1価アルコール、グリコール系のアルコール等を用いることができる。環状エーテル系溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン等を用いることができる。また、酢酸エステル系溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等を用いることができる。また、ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等を用いることができる。この中から、熱収縮性フィルムの材質に合わせて、適した溶媒を含有する洗浄液を適宜選定することができる。また、使用する溶媒は1種類でも良く、2種類以上を組み合わせた混合溶媒でも良い。さらに、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウム等の無機水酸化物やアミン化合物等のアルカリを含むアルカリ系溶媒も使用可能であり、アルカリ系溶媒は、洗浄液中に1~50v/v%の比率で含まれることが好ましい。加えて、洗浄効果を調整するために水を加えることも可能である。
【0029】
また、洗浄液は、中性系、カチオン系、アニオン系やノニオン系等の界面活性剤成分を含む溶媒を加えることも可能である。界面活性剤を加えることで、印刷層をフィルムから浮かせて、印刷層の除去を助ける働きが期待できる他、洗浄液に溶解せず、洗浄液中に浮遊している印刷剥離片や不溶印刷層成分を凝集させて、再びフィルムに付着することを抑制できる効果がある。界面活性剤溶媒は、洗浄液中に1~10v/v%の比率で含まれることが好ましく、界面活性剤溶媒を調整する溶媒は特に限定されないが、水、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、酢酸エステル系溶媒やケトン系溶媒等が挙げられる。
【0030】
<2-4.印刷層の除去ステップ>
次に、上述した専用タンクから洗浄液を除去用タンクに供給した後、この除去用タンクに粉砕片を投入し、洗浄液を室温以上の温度に加熱しながら攪拌する。室温以上の温度とは、例えば、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。印刷層の除去を十分に行うには、攪拌時間は長い方がよく、例えば、10分以上が好ましく、30分以上がさらに好ましい。これにより、印刷層が粉砕片から除去される。また、必要に応じて不活性ガス下で本工程を実施することもできる。例えば、ポリアミド系樹脂等の樹脂は、酸素存在下で熱を加えた場合、熱劣化を引き起こすことがある。そのため、不活性ガス雰囲気下で、この処理を行うことが好ましい。具体的には、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを除去用タンク内に満たした状態で、洗浄液の昇温と攪拌を行う。より好ましくは、専用タンク内の洗浄液を不活性ガスでバブリングして、液中に溶けた酸素を前もって不活性ガスに置換しておく。上記のように準備した洗浄液を除去用タンク内に供給する前に、除去用タンク内を前もって不活性ガスで満たしておくことが更に好ましい。
【0031】
こうして、粉砕片から除去された印刷層は、洗浄液に混入し、洗浄液と粉砕片が混合した混合物が生成される。
【0032】
<2-5.粉砕片を回収するステップ>
続いて、上記混合物を濾過し、濾物として粉砕片を得る。その後、濾物を乾燥すると、印刷層が除去された粉砕片が回収される。濾過方法は特に限定されないが、濾過しながら更に同一の洗浄液をフィルムに噴射して付着した印刷剤や除去しきれなかった印刷層を洗い流すことができる。あるいは、印刷層が含まれる洗浄液を濾液として回収した後、更に洗浄液あるいはリンス液に濾物を浸漬させて攪拌し、粉砕片に付着した印刷剥離片や除去しきれなかった印刷層を除去する。ここでいうリンス液とは、界面活性剤が含まれる水溶液を指し、印刷成分に界面活性剤の疎水性基が浸透・吸着することで、界面活性剤の親水性基が水に分散しようとする力を借りて、粉砕片に残った印刷剥離片や印刷層を浮かせて除く効果がある。その後、この混合物を、濾過し、濾物として印刷層が除去された粉砕片が回収する。
【0033】
また、異種の樹脂材料が積層された熱収縮性フィルムの場合、濾物を回収した後、樹脂材料の組み合わせに合わせた有機溶媒を選定し、異種材料をそれぞれ溶剤により分離して、それぞれの樹脂を単離することができる。例えば、A,Bの2種類の樹脂材料が積層された熱収縮性フィルムから、印刷層が除去された粉砕片を得た場合には、この粉砕片を、例えば、Aが溶解するが、Bが溶解しない溶媒に浸漬し、Aを溶解する。その後、Aが溶解した溶液とBとの混合物を濾過し、Bを回収する。また、濾液を冷却するなどの方法でAを析出させて濾過しAを濾物として回収する。こうして、印刷層が除去されたA,Bをそれぞれ回収することができる。
【0034】
<2-6.粉砕片の再利用ステップ>
この工程は、必要に応じて行えばよいが、例えば、上記の工程で得たフィルム片を溶融混錬して、ペレットや成形品を得る。取り扱いの容易さからペレット化してから、そのペレットを用いて各種製品に成形することが好ましい。また、必要に応じて、ペレットを溶融して成膜することができる。
【0035】
<2-7.変形例1>
(1)熱収縮性フィルムの粉砕ステップと(4)印刷層の除去ステップを同時に実施する工程を用いても良い。実施する方法は特に限定されないが、例えば、洗浄液の入った除去工程のタンクに、事前に減容・粗破砕された熱収縮性フィルムを供給しながら、このタンク内の洗浄液を適切な温度まで昇温及び攪拌して更にフィルムを粉砕することができる。その際、粉砕する方法は特に限定されないが、刃が付いた複数枚の攪拌翼で攪拌してミキサーのように粉砕する方法や、タンクに入れた金属粒子と一緒に攪拌することで粒子との衝突によりフィルムを粉砕する方法等が挙げられる。これらの粉砕方法と平行して、タンク内でフィルムから印刷層を除去することもできる。なお、粗破砕の程度は特には限定されず、1.7cm角より大きければよい。例えば、粗破砕することなく、減容した熱収縮性フィルムをタンクに投入することもできる。
【0036】
<2-8.変形例2>
(2)粉砕された粉砕片に熱を付与し、減容する減容ステップと、(4)印刷層の除去ステップと、を同時に実施する工程を用いても良い。実施する方法は特に限定されないが、例えば、粉砕された熱収縮性フィルムを洗浄液の入った除去工程のタンクに入れ、必要に応じて不活性ガスで該タンク内を置換する。続いて、タンク内の洗浄液を適切な温度まで昇温し、攪拌する。この方法では、昇温された洗浄液によって粉砕片が熱収縮して減容しながら、印刷層の除去が平行して実施される。また、タンク内に供給した洗浄液を事前に適切な温度まで昇温させた状態で、粉砕片をタンクへ投入しても良い。
【0037】
<3.特徴>
以上のような印刷層の除去方法によれば、次の効果を得ることができる。
【0038】
(1)熱収縮性フィルムを1.7cm角以下の大きさに粉砕するため、粉砕片がカールするのを抑制することができる。粉砕片が大きいと、収縮させたときにカールし、これによって、例えば、粉砕片の端部同士が接触すると印刷層が除去できない可能性がある。これに対して、本実施形態では、熱収縮性フィルムを1.7cm角以下の大きさに粉砕するため、収縮時のカールを抑制し、その結果、印刷層の除去が妨げられるのを抑制することができる。なお、粉砕片の全てが完全に1.7cm角以下でなくてもよく、例えば、粉砕片の90%以上が1.7cm角以下であればよい。
【0039】
(2)本実施形態で用いる洗浄液は、例えば、アルコール系溶媒、環状エーテル系溶媒、酢酸エステル系溶媒、ケトン系溶媒、またはアルカリ系溶媒を含有することが好ましい。
【0040】
例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等、高分子構造にエステル結合やアミド結合等の化学結合を有する樹脂材料は、アルカリ条件下では加水分解反応を引き起こし、分子量が低下して強度物性や機能性の著しい低下を引き起こす。また、既存のアルカリ系溶媒を含有する洗浄液を用いた印刷層の除去技術では、洗浄剤のアルカリ性が十分に強いため、上記のような樹脂材料は処理後に劣化した状態で回収される。
【0041】
(3)減容ステップと、印刷層の除去ステップを分けた場合には、減容した粉砕片を準備することができ、保管に要する容器等を小さくすることができる。また、減容した後の粉砕片を、除去工程のタンクに投入することができるため、タンクに多量の粉砕片を投入することができる。したがって、処理効率を向上することができる。
【0042】
(4)本実施形態では、熱収縮性フィルムを粉砕した後に、熱を付与して減容を行っているが、これにより、カールが生じ得る減容ステップに先立って、カールの発生を抑制することができる。但し、カールの発生を抑制できるのであれば、粉砕ステップの前に減容ステップを実施することもできる。
【0043】
例えば、熱収縮性フィルムが巻き取られたロールから熱収縮性フィルムを繰り出し、これに熱を加えて収縮させた後、別のロールで巻き取るようにする。これにより、収縮させた熱収縮性フィルムをロール状に巻き取ることができる。その後、このロールを粉砕すれば、粉砕片にカールが生じるのを抑制することができる。
【実施例0044】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0045】
<1.熱収縮性フィルムの準備>
まず、表1に示すとおり、実施例1~6及び比較例1~4に係る熱収縮性フィルムを準備した。各熱収縮性フィルムの収縮前の大きさは10cm角(100cm2)とした。
【表1】
PS:ポリスチレン系樹脂
PET:ポリエステル系樹脂
COC:環状オレフィン系樹脂
PP:ポリプロピレン系樹脂
【0046】
表1に示すように、実施例3及び比較例3に係る熱収縮性フィルムは、PETとPSとを積層した複層のフィルムであり、実施例4~6及び比較例4に係る熱収縮性フィルムは、COCとPPとを積層した複層のフィルムであるが、それ以外は単一の材料で形成された単層のフィルムである。また、熱収縮率は、乾熱80℃のTD方向の熱収縮率である。
【0047】
各熱収縮性フィルムには、次のように印刷層が形成されている。まず、熱収縮性フィルムの一方の面に下地層として白色インキによるベタの層を印刷し、その上にデザイン層として、黒色インキによる格子柄を印刷する。また、バインダ樹脂としてウレタン樹脂を用いた。また、印刷方法はグラビア印刷であり、印刷層の厚みは平均で1~2μmである。
【0048】
次に、上記各熱収縮性フィルムに対し、上述した(1)~(5)のステップを実施した。まず、各熱収縮性フィルムを以下のように粉砕した後、粉砕片を入れた500mLのビーカーを乾燥機に入れ、設定温度80℃で10分間放置した。こうして、以下の表2に示すように、収縮された粉砕片が得られた。なお、実施例1~6における粉砕片の面積はいずれも2.5cm2未満であり、1.7cm角以下のサイズであった。一方、比較例1~4における粉砕片の面積はいずれも4.0cm2より大きく、1.7cm角より大きいサイズであった。
【表2】
【0049】
また、嵩比重は、次のように測定した。まず、250mLメスシリンダーの約100mLの目盛まで、圧密ストレスを加えないように漏斗を使って粉砕片を静かに入れていく。その後、必要ならば粉砕片の層の上面を圧密しないように注意深くならし、疎充填体積(V0)を最小目盛単位まで読み取る。次に、メスシリンダーの重さを差し引いた粉砕片の重量(M)を測定・算出する。そして、嵩密度(g/cm3)としてM/V0を算出した。その結果、実施例1~6は、比較例1~4に比べ嵩比重が大きくなっている。したがって、減容が十分に行われていることが分かる。
【0050】
次に、減容した粉砕片に対し、以下の条件A~Fで印刷層を除去した。
・条件A:減容した粉砕片を、50mlのイソプロビルアルコール(IPA)の洗浄液に浸し、液温を50℃にして10分間攪拌を行った。
・条件B:減容した粉砕片を、50mlのIPAの洗浄液に浸し、液温を50℃にして30分間攪拌を行った。
・条件C:減容した粉砕片を、IPA45mlとベンジルアルコール5mlとの混合液に浸し、液温を30℃にして40分間攪拌を行った。
・条件D:減容した粉砕片を、アルカリ系洗浄液(5重量%の水酸化ナトリウム水溶液25ml、IPA12.5ml、及びベンジルアルコール5mlの混合液)に浸し、液温を40℃にして10分間攪拌を行った。
・条件E:減容した粉砕片を、アルカリ系洗浄液(5重量%の水酸化ナトリウム水溶液25ml、IPA12.5ml、及びベンジルアルコール5mlの混合液)に浸し、液温を50℃にして30分間攪拌を行った。
【0051】
<2.評価>
その後、混合物を濾過し、得られた濾物を乾燥させることで、粉砕片を回収した。そして、回収した粉砕片を目視し、次のように評価した。
1:目視で印刷が残っていない。
2:端部やフィルムの重なり部分にわずかに印刷が確認できる。
3:目視で印刷が残っている。
結果は、以下の通りである。
【表3】
【0052】
表3に示すように、粉砕片の大きさが小さいほど、印刷層が十分に除去されていることが分かる。特に、実施例1~6のように粉砕片の大きさが1.7cm角以下であれば、条件A~Eの全てで「1」または「2」の評価が得られている。一方、比較例1~4のように粉砕片の大きさが1.7cm角より大きいと、条件A~Eのいずれかが「3」の評価が得られており、溶媒や攪拌時間によっては印刷層が十分に除去できないことが分かった。また、例えば、実施例2と実施例7を比較すると、熱収縮性フィルムの厚みが小さいほど、条件にかかわらず、印刷層が除去されやすいことも分かった。
【0053】
次に、洗浄液による樹脂材料の劣化について検討する。一例として、実施例3を用い、条件B(有機溶媒)と条件E(アルカリ)で印刷層を除去して回収した粉砕片の各層(PET層、PS層)について、重量平均分子量等を測定した。結果は、以下の通りである。なお、以下の表4の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準PMMA換算の値である。分子量分布は、上述した数平均分子量(Mn)と上述した重量平均分子量(Mw)とから算出したMw/Mnである。
【表4】
【0054】
表4の結果から、PET層について、Mw/Mnを比較すると、条件Bでは洗浄前に比べてほとんど変化していないのに対して、条件Eは洗浄前に比べ約2倍近くの値となり、分子量分布が広くなっていることがわかる。次に、MwとMnを比較すると、条件Bでは洗浄前に比べ大きく変化していないのに対して、条件Eでは大きく減少している。これは、PET層がアルカリ系洗浄液を用いることでエステル結合に加水分解が生じ、低分子量が生成したためであると考えられる。また、Mwの減少から、樹脂材料の強度物性や機能性の低下を引き起こすと考えられる。以上から、PET層については、アルカリ系洗浄液を含まない洗浄液(条件B)は、アルカリ系洗浄液(条件E)よりも樹脂の劣化を抑制することができると分かった。
【0055】
一方、PS層については、条件Bと条件Eともに洗浄前後でMw/Mnに大きな変化は確認できない。次に、MwとMnを比較すると、条件Bと条件Eともに洗浄前後で大きく変化していないため、印刷層の除去操作による樹脂材料の強度物性等の低下の影響は小さいと考えられる。これは、PS樹脂に加水分解を生じる結合が含まれてないためであると推察できる。したがって、PS層については、いずれの洗浄液を用いても樹脂の劣化が生じにくいことが分かった。