(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119407
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】パン類及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 2/14 20060101AFI20240827BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20240827BHJP
A21D 10/00 20060101ALI20240827BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20240827BHJP
【FI】
A21D2/14
A21D2/36
A21D10/00
A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026288
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】勝矢 祥平
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 理奈
(72)【発明者】
【氏名】橋脇 文香
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB02
4B032DG02
4B032DG05
4B032DG08
4B032DK03
4B032DK07
4B032DK12
4B032DK33
4B032DK43
4B032DK45
4B032DK54
(57)【要約】
【課題】3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩を含んでいても、味覚が良好で、血中ケトン体濃度を上昇できるパン類を提供する。
【解決手段】3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩と、穀物粉とを組み合わせてパン類を調製する。前記3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩は、(R)-3-ヒドロキシ酪酸のナトリウム塩であってもよい。前記3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩を、3-ヒドロキシ酪酸換算で、穀物粉100質量部に対して0.5~20質量部の割合で含んでいてもよい。さらに、食塩を、塩化ナトリウム換算で、穀物粉100質量部に対して0.75質量部以下の割合で含んでいてもよい。3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩が、(R)-3-ヒドロキシ酪酸のナトリウム塩を含み、(R)-3-ヒドロキシ酪酸のナトリウム塩と食塩とのモル比が、ナトリウム換算で、前者/後者=100/0~50/50であってもよい。前記パン類は、食パンであってもよい。前記パン類は、血糖値の上昇を抑制するためのパン類であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩と、穀物粉とを含むパン類。
【請求項2】
前記3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩が、(R)-3-ヒドロキシ酪酸のナトリウム塩を含む請求項1記載のパン類。
【請求項3】
穀物粉が、小麦粉、ライ麦粉、米粉、大豆粉及びひよこ豆粉から選択される少なくとも一種である請求項1又は2記載のパン類。
【請求項4】
前記3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩を、3-ヒドロキシ酪酸換算で、穀物粉100質量部に対して0.5~20質量部の割合で含む請求項1又は2記載のパン類。
【請求項5】
さらに、食塩を、塩化ナトリウム換算で、穀物粉100質量部に対して0.75質量部以下の割合で含む請求項1又は2記載のパン類。
【請求項6】
3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩が(R)-3-ヒドロキシ酪酸のナトリウム塩を含み、(R)-3-ヒドロキシ酪酸のナトリウム塩と食塩とのモル比が、ナトリウム換算で、前者/後者=100/0~50/50である請求項1又は2記載のパン類。
【請求項7】
食パンである請求項1又は2記載のパン類。
【請求項8】
血糖値の上昇を抑制するためのパン類である請求項1又は2記載のパン類。
【請求項9】
少なくとも3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩と、穀物粉、水及びイーストとを混合して捏ねて未発酵生地を調製する混合工程と、前記未発酵生地を一次発酵する一次発酵工程と、一次発酵させた生地を成形して二次発酵する二次発酵工程と、二次発酵させた生地を焼成する焼成工程とを含む請求項1又は2記載のパン類の製造方法。
【請求項10】
前記混合工程で、3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩を、水と混合した形態で添加する請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
前記混合工程で、さらに、食塩を、塩化ナトリウム換算で、穀物粉100質量部に対して0.75質量部以下の割合で添加する請求項9記載の製造方法。
【請求項12】
前記一次発酵工程で、温度28~30℃、湿度70~80%の条件下で、75~100分発酵させる請求項9記載の製造方法。
【請求項13】
前記焼成工程で、生地を150~175℃で加熱して釜伸びさせた後、180~200℃で焼成する請求項9記載の製造方法。
【請求項14】
3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩、穀物粉、水及びイーストを含む未発酵生地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシ酪酸(以下、単に「3HB」又は「BHB」と称する場合がある)及び/又はその塩を含むパン類及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケトジェニックダイエットやてんかん治療などにおいて、糖質の摂取を制限し、血中のケトン体濃度を上昇させる食事方法が知られている。血中ケトン体濃度を上げる方法として、中鎖脂肪酸(MCT)を摂取する方法やケトン体そのものを直接摂取する方法がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、炭素数8~12の脂肪酸を含有する油脂と、大豆蛋白質分解物を含有する、ケトン食用の栄養組成物が開示されている。特許文献1では、炭素数8~12の脂肪酸を特に多く含む油脂としてMCTオイルが記載され、MCTオイルの摂取により、尿及び血中ケトン体量(濃度)が上昇することが示されている。
【0004】
非特許文献1には、高脂肪食を摂取するケトジェニックダイエットの代替として、糖質制限をすることなく利用可能な経口摂取用のケトン前駆体(D-β-ヒドロキシブチレート(D-BHB))のサプリメントが開示されている。試験されたD-BHBのサプリメントは、D-BHBのナトリウム塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩を含み、このサプリメントを経口摂取すると、急速に吸収、代謝され、血中ケトンをミリモル濃度レベルまで増加させることが報告されている。
【0005】
しかし、特許文献1のように、MCTオイルを摂取する方法では、栄養の偏りが生じるだけでなく、カロリー過多となる虞がある。
【0006】
非特許文献1では、サプリメントの形態で摂取するため、栄養の偏りやカロリー面での課題は解消できるものの、非特許文献1のD-BHBのサプリメントは、D-BHBのナトリウム塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩を含むため、過剰の塩分摂取が懸念され、健康上、好ましくない。また、ケトン体を、食事とは別に付加的に摂取する必要があり、精神的に大きな負担となり得る。さらに、ケトン体(3-ヒドロキシ酪酸)そのものの酸味が非常に強く、ケトン体(3-ヒドロキシ酪酸)を直接多量に摂取することが困難である。
【0007】
一方、ケトン体を、糖質を含む食品と同時に摂取すると、前記糖質を含む食品を単独で摂取する場合に比べて、血糖値の上昇が抑制されるという報告がある。非特許文献2には、ケトン体と砂糖水とを同時に摂取すると、砂糖水を単独で摂取した場合と比較して血糖値の上昇が抑制されることが示されている。
【0008】
食事と密接な関係のある血糖値は、高すぎても低すぎても、身体に様々な不具合をもたらす。血糖値が常に高い状態にあると、血液が濃くなり、脱水状態になるだけでなく、糖尿病や心筋梗塞、肝硬変といった疾病にかかりやすくなるというリスクが生じる。一方、糖質を制限し、低血糖の状態になると、集中力の低下、無気力、頭痛や吐き気などが生じ、最悪の場合、昏睡状態に陥ることもある。そのため、血糖値を適正な範囲にコントロールすることが重要である。
【0009】
このように、血糖値のコントロールは急務であり、ケトン体(3-ヒドロキシ酪酸)と同時に摂取可能な食品の普及が期待されるが、ケトン体(3-ヒドロキシ酪酸)そのものの味が良好でないため、伸び悩んでいるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Cuenoud Bernard et al. Metabolism of Exogenous D-Beta-Hydroxybutyrate, an Energy Substrate Avidly Consumed by the Heart and Kidney, 2020
【非特許文献2】Pete J. Cox et.al Nutritional Ketosis Alters Fuel Preference and Thereby Endurance Performance in Athletes,Cell Metabolism, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩(以下、単に「3HB(塩)」と称する場合がある)を含んでいても、味覚が良好で、血中ケトン体濃度を上昇できるパン類及びその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、血糖値の急激な上昇又は変動を抑制可能なパン類及びその製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、塩分摂取を抑制しつつ、味覚に優れるパン類及びその製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、味覚だけでなく、食感や外観も良好なパン類及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩と、穀物粉とを組み合わせてパン類を調製すると、3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩を含んでいても、味覚が良好で、血中ケトン濃度を上昇でき、糖質を多く含んでいる食品にもかかわらず血糖値の上昇を抑制可能であることを見出し、発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明のパン類は、[1]3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩と、穀物粉とを含む。
【0018】
前記態様[1]のパン類において、[2]前記3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩は、(R)-3-ヒドロキシ酪酸のナトリウム塩を含んでいてもよい。前記態様[1]又は[2]のパン類において、[3]穀物粉は、小麦粉、ライ麦粉、米粉、大豆粉及びひよこ豆粉から選択される少なくとも一種であってもよい。
【0019】
これらの態様[1]~[3]のいずれかの前記パン類において、[4]前記3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩を、3-ヒドロキシ酪酸(遊離又は酸の形態の3HB)換算で、穀物粉100質量部に対して0.5~20質量部の割合で含んでいてもよい。前記態様[1]~[4]のいずれかにおいて、[5]前記パン類は、さらに、食塩を、塩化ナトリウム換算で、穀物粉100質量部に対して0.75質量部以下の割合で含んでいてもよい。前記態様[1]~[5]のいずれかの前記パン類は、[6]前記3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩が(R)-3-ヒドロキシ酪酸のナトリウム塩を含み、(R)-3-ヒドロキシ酪酸のナトリウム塩と食塩とのモル比が、ナトリウム換算で、前者/後者=100/0~50/50であってもよい。前記態様[1]~[6]のいずれかの前記パン類は、[7]食パンであってもよい。前記態様[1]~[7]のいずれかの前記パン類は、血糖値の上昇(特に急激な上昇)を抑制するためのパン類であってもよい。
【0020】
本発明には、[9]少なくとも3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩と、穀物粉、水及びイーストとを混合して捏ねて未発酵生地を調製する混合工程と、前記未発酵生地を一次発酵する一次発酵工程と、一次発酵させた生地を成形して二次発酵する二次発酵工程と、二次発酵させた生地を焼成する焼成工程とを含む前記態様[1]~[8]のいずれかのパン類の製造方法も含まれる。
【0021】
前記態様[9]において、[10]前記混合工程で、3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩を、水と混合した形態で添加してもよい。前記態様[9]又は[10]において、[11]前記混合工程で、さらに、食塩を、塩化ナトリウム換算で、穀物粉100質量部に対して0.75質量部以下の割合で添加してもよい。前記態様[9]~[11]のいずれかの製造方法において、[12]前記一次発酵工程で、温度28~30℃、湿度70~80%の条件下で、75~100分発酵させてもよい。前記態様[9]~[12]のいずれかにおいて、[13]前記焼成工程で、生地を150~175℃で加熱して釜伸びさせた後、180~200℃で焼成してもよい。
【0022】
本発明は、[14]3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩、穀物粉、水及びイーストを含む未発酵生地も包含する。
【0023】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「塩(しお)」は、「食塩」と同義に用いる場合がある。
【発明の効果】
【0024】
本発明のパン類は、3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩と、穀物粉とを組み合わせているため、若干不快感(酸の形態では酸味、塩の形態では若干の苦味)のある3HB(塩)を含んでいるにもかかわらず、味覚が良好であり、前記パン類を摂取するだけで、糖質を制限することなく簡便に血中ケトン体濃度を上昇できる。
【0025】
また、本発明のパン類では、3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩を、パン類の基本材料である塩(食塩)の代替として使用できるため、塩分摂取量を低減、若しくは過剰な塩分摂取を予防、抑制可能にしつつ、バランスのよい味覚を有する。さらに、3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩を含んでいても、味覚だけでなく、食感や外観(見た目)も、3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩を含まないパン類と遜色なく良好であるため、抵抗なく安心して摂取することができる。
【0026】
さらに、本発明のパン類は、食事と同時に3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩を手軽に摂取でき、パン類のように糖質を多く含む食品を摂取しても、血糖値の急激な上昇又は変動を抑制できる。そのため、前記パン類は、血糖コントロールに有用であり、糖質制限若しくは血糖コントロールが必要な人であっても、安心して摂取することができる。
【0027】
なお、塩分を過剰摂取すると、インスリンが十分に作用しなくなる「インスリン抵抗性」を引き起こす場合があるが、本願発明では、塩分過多を抑制できるため、インスリン抵抗性の発現を抑制でき、この点からも血糖コントロールに貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、実施例5~8及び比較例1で得られた食パンの出来上がりの断面の状態を示す図である。
【
図2】
図2は、比較例1及び実施例6の官能試験の結果を比較したグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1の血中ケトン体濃度の経時変化を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例1の血糖値の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[パン類]
本発明のパン類は、3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩(3HB(塩))と、穀物粉とを含む。
【0030】
(3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩(3HB(塩)))
3HB(塩)は、光学異性体(R体又はS体)であってもよく、ラセミ体であってもよいが、3HB(塩)は、R体((R)-3-ヒドロキシ酪酸((R)3HB(塩)))が生体機能を有するため、(R)3HB(塩)を少なくとも含むのが好ましい。また、S体((S)-3-ヒドロキシ酪酸((S)3HB(塩)))の割合が多すぎると、生体的適合性、安全性が低下する。そのため、(S)3HB(塩)の割合が少ない方が好ましく、不可避的に含まれる割合であるのが特に好ましい。3HB(塩)中のR体の質量割合は、10質量%以上であってもよく、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。3HB(塩)中のR体の光学純度(鏡像体又は光学異性体過剰率)は、例えば50%e.e.以上(例えば80%e.e.以上)、好ましくは90%e.e.以上(例えば95~100%e.e.)、さらに好ましくは98~100%e.e.(例えば99~100%e.e.、特に実質的に100%e.e.)である。
【0031】
3HBの塩は、生理学的又は薬理学的に許容可能な塩基性化合物との塩であればよく、酸の形態の3HBを完全に中和した塩であってもよく、部分的に中和した塩(部分中和塩)であってもよい。3HBは、塩基性化合物で中和でき、塩基性化合物は、塩基性無機化合物であってもよく、塩基性有機化合物であってもよい。
【0032】
塩基性無機化合物には、例えば、金属炭酸塩又は金属炭酸水素塩、金属水酸化物、金属フッ化物、金属リン酸塩、金属ホウ酸塩などが含まれる。
【0033】
金属炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩などが挙げられる。
【0034】
金属炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩などが挙げられる。
【0035】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物などが挙げられる。
【0036】
金属フッ化物としては、例えば、フッ化カリウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属フッ化物などが挙げられる。
【0037】
金属リン酸塩としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムなどのアルカリ金属リン酸塩;リン酸水素二ナトリウムなどのアルカリ金属リン酸水素塩;リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムなどのアルカリ金属リン酸二水素塩などが挙げられる。
【0038】
金属ホウ酸塩としては、例えば、四ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)などのアルカリ金属ホウ酸塩などが挙げられる。
【0039】
塩基性有機化合物には、例えば、金属アルコキシド、有機酸塩、塩基性アミノ酸又はその塩、アルキルアミン、アルカノールアミンなどが含まれる。
【0040】
金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0041】
有機酸塩としては、例えば、酢酸ナトリウムなどの飽和モノカルボン酸アルカリ金属塩;乳酸ナトリウムなどのヒドロキシモノカルボン酸アルカリ金属塩;リンゴ酸三ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、酒石酸二ナトリウムなどのヒドロキシポリカルボン酸アルカリ金属塩;クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸水素二カリウムなどのアルカリ金属ヒドロキシポリカルボン酸水素塩;クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二水素カリウムなどのアルカリ金属ヒドロキシポリカルボン酸二水素塩などが挙げられる。
【0042】
塩基性アミノ酸としては、例えば、リジン、ヒドロリジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン、シトルリン、ヒドロキシジンなどが挙げられる。塩基性アミノ酸の塩としては、例えば、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩、マグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【0043】
アルキルアミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。
【0044】
アルカノールアミンとしては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどが挙げられる。
【0045】
これらの塩基性化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0046】
3HBの塩(部分中和塩を含む)のpHは2以上であってもよく、例えば2~8、好ましくは2.2~7、さらに好ましくは2.5~6、より好ましくは3~5.5、最も好ましくは3.5~5程度である。
【0047】
塩の種類としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩などが挙げられる。これらの3HBの塩は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、味覚に優れる点から、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が好ましく、特に、多くの食品に使用される食塩(塩化ナトリウム)の代替として好適に使用でき、食品への適応性に優れる点から、ナトリウム塩が好ましい。
【0048】
3HB(塩)は、3HB単独、3HBと3HBの塩との混合物、3HBの塩単独のいずれであってもよい。
【0049】
3HB(塩)は、酸の形態(3HB)であってもよい。酸の形態(3HB)では、強い酸味を呈し、食品と組み合わせるには不向きであり、一方、塩の形態(3HBの塩)では、味覚は比較的良好であるものの、塩分を摂取することになるため、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の予防、改善の点からは、摂取を控えるのが望ましい。しかし、本発明では、3HBの塩(特に、(R)3HBのナトリウム塩)を、塩(食塩)の代替として使用できるため、塩分摂取量を低減、若しくは過剰な塩分摂取を予防、抑制できる。そのため、3HB(塩)は、3HBの塩(特に、(R)3HBのナトリウム塩)を少なくとも含むのが好ましい。
【0050】
3HB(塩)中の3HBの塩(特に、(R)3HBのナトリウム塩)の割合は、50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0051】
3HB(塩)は、結晶形であってもよく、非晶形であってもよい。また、3HB(塩)は、市販品を用いてもよい。市販品としては、化学合成された3HB(塩)、微生物により発酵生産した3HB(塩)などが挙げられる。これらのうち、R体の純度が高い点から、発酵生産した3HB(塩)が好ましく、バイオマス原料(生物由来の資源)を用いて微生物により発酵生産した3HB(塩)が特に好ましい。
【0052】
なお、3HBの塩は、粉末の形態では、潮解性やブロッキング性を示す場合が多い。このような潮解性やブロッキング性を改善するために、例えば、前記3HBの塩を賦形剤とともに粉末化したり、前記3HBの塩を粉末化した後に粉末状の賦形剤を混合して使用してもよい。
【0053】
賦形剤は、有機賦形剤及び/又は無機賦形剤を使用できる。有機賦形剤としては、例えば、結晶セルロース;D-マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、ラクチトール、還元性水飴などの糖アルコール;乳糖(無水乳糖、乳糖水和物を含む)、ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖などの糖類(単糖類又は二糖類);オリゴ糖、コーンスターチ、デキストリン、馬鈴薯デンプン、小麦デンプン、米デンプン、部分アルファー化デンプン、アルファー化デンプンなどのデンプン類(又は多糖類)などが挙げられる。無機賦形剤としては、例えば、軽質無水ケイ酸、無水リン酸水素カルシウム、無水リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどが挙げられる。これらの賦形剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、結晶セルロース、糖アルコール、糖類(単糖類又は二糖類)及びデンプン類(又は多糖類)などが好ましく、軽質無水ケイ酸、無水リン酸水素カルシウムなども好ましい。
【0054】
賦形剤の割合は、3HBの塩及び/又は賦形剤の種類、粉末化のしやすさ、吸湿性などに応じて適宜選択できるが、例えば、3HBの塩と賦形剤の総量に対し、1~90質量%、好ましくは2~80質量%、さらに好ましくは10~70質量%、特に20~65質量%である。
【0055】
なお、本発明のパン類は、3HBのオリゴマーをさらに含んでいてもよい。3HBオリゴマーの平均重合度は2以上であればよいが、例えば2~100、好ましくは2~10、さらに好ましくは2~5、より好ましくは2~4.5、最も好ましくは2~4である。3HBのオリゴマーは、3HBの製造過程などにおいて、不可避的に混入したオリゴマーであってもよい。
【0056】
3HBオリゴマーの割合は、3HB(塩)100質量部に対して10質量部以下であってもよく、好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、最も好ましくは1質量部以下である。本発明のパン類は、3HBのオリゴマーを実質的に含んでいなくてもよく、3HBのオリゴマーを含んでいないのが特に好ましい。
【0057】
(穀物粉)
穀物粉は、穀類(又は穀物)を粉砕して得られる粉(又は粉末)であり、パン類を製造するための主原料である。穀物粉は、パン類を製造可能である限り、慣用の穀物粉を使用できる。穀物粉としては、強力粉、超強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム小麦粉などの小麦粉;大麦粉;ライ麦粉;オート麦(オーツ麦、燕麦);上新粉、だんご粉、もち粉、白玉粉などの米粉;玄米粉;大豆粉;ひよこ豆粉;トウモロコシ粉;葛粉;コーンスターチ、馬鈴薯デンプン、小麦デンプン、米デンプン、甘藷デンプン、タピオカデンプン、緑豆デンプン、サゴデンプン、エンドウ豆デンプンなどのデンプン(前記賦形剤としてのデンプン類も含む)などが挙げられる。これらの穀物粉は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの穀物粉のうち、強力粉、超強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム小麦粉などの小麦粉;ライ麦粉;上新粉、だんご粉、もち粉、白玉粉などの米粉;玄米粉;大豆粉;ひよこ豆粉などが好ましく、強力粉、超強力粉、準強力粉、全粒粉などの小麦粉;ライ麦粉;もち粉などの米粉;玄米粉などがさらに好ましい。穀物粉は少なくとも、強力粉、超強力粉、準強力粉、全粒粉などの小麦粉を含んでいてもよい。
【0058】
穀物粉は、少なくともデンプン(糖質)を含み、主成分は、デンプン(糖質)とタンパク質である。穀物粉(特に、小麦粉)の中のデンプン(糖質)含有量は、例えば、40~80質量%、好ましくは45~78質量%、さらに好ましくは50~76質量%程度であってもよく、より好ましくは55~75質量%程度であってもよい。穀物粉(特に、小麦粉)の中のタンパク質は、グルテンを形成可能なグルテニンとグリアジンとを含んでいてもよく、穀物粉は、米粉のように、グルテンフリーの穀物粉であってもよい。穀物粉(特に、小麦粉)の中のタンパク質含有量は、例えば、5~25質量%、好ましくは6~20質量%、さらに好ましくは10~17質量%程度であってもよく、より好ましくは10.5~16質量%、特に11~15質量%程度であってもよい。
【0059】
3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩(3HB(塩))の割合は、遊離又は酸の形態の3HB換算で、穀物粉100質量部に対して、例えば0.1~100質量部程度から選択でき、好ましくは0.3~50質量部、さらに好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは0.6~15質量部、特に0.8~10質量部(例えば1~5質量部)である。穀物粉中のデンプン(糖質)100質量部に対する3HB(塩)の割合は、穀物粉の種類に応じて適宜選択でき、例えば、0.1~200質量部程度であってもよく、好ましくは0.2~150質量部、さらに好ましくは0.3~100質量部、より好ましくは0.5~75質量部、特に、0.7~50質量部であってもよい。例えば、小麦粉(特に、強力粉)では、小麦粉100gあたりの糖質が約70g(70質量%)であり、小麦粉(特に、強力粉)中のデンプン(糖質)100質量部に対する3HB(塩)の割合は、例えば、0.15~140質量部程度であってもよく、好ましくは0.45~70質量部、さらに好ましくは0.75~30質量部、より好ましくは1~20質量部、特に、1.2~15質量部である。穀物粉に対する3HB(塩)の割合が、多すぎると、味覚が悪くなる虞があり、少なすぎると、血中ケトン濃度を十分に上昇できず、血糖値の上昇を有効に抑制できない虞がある。
【0060】
(塩又は食塩)
本発明のパン類は、さらに、必要により、塩(食塩)を含んでいてもよい。塩は必ずしも必要でないが、製パンの過程において、発酵のコントロール、生地の調整(引締め)、味覚などの点から、少量の塩を含んでいてもよい。
【0061】
本発明では、3HB(塩)、例えば、3HBのナトリウム塩(以下、単に「3HB-Na」と称する場合があり、特に、(R)3HBのナトリウム塩(以下、単に「(R)3HB-Na」と称する場合がある))を用いることにより、血中ケトン濃度を上昇させたり、血糖値の急激な上昇又は変動を抑制したりできる。通常のパン類の製造に使用される塩(食塩)の量を「基準量」としたとき、この基準量の塩に加え、(R)3HB-Naを添加すると、塩分摂取過多となる虞がある。しかし、本発明では、(R)3HB-Naを、前記基準量の塩(食塩)の代替として用いることができるため、塩分摂取量を低減、若しくは過剰に塩分を摂取するのを抑制できる。また、(R)3HB-Naは、ナトリウム成分を含むため、軽い塩味があり、(R)3HB-Naを塩(食塩)の代わりに使用しても、味覚において塩と同等に作用する。そのため、血中ケトン濃度を上昇させたり、血糖値の上昇を抑制したりするために(R)3HB-Naを添加しても、塩分過多になることがなく、良好な味覚を示すことが可能である。
【0062】
前記基準量の塩の全量又は一部を(R)3HB-Naで代替する場合、前記基準量の塩の量を100としたとき、例えば30~100、好ましくは35~100、さらに好ましくは40~95程度の塩を、ナトリウム換算で、その塩に相当する量の(R)3HB-Naで代替してもよい。
【0063】
なお、前記基準量の塩の量は、パン類の種類に応じて適宜選択でき、穀物粉100質量部に対し、0.5~3質量部、好ましくは0.7~2.5質量部程度である。
【0064】
なお、前記基準量の塩の全量又は一部を、(R)3HB-Naで代替すると、前記基準量の塩を含むパン類(通常のパン類)と比較して、パン類の膨らみが不十分となったり、塩味の物足りなさを感じたりする場合がある。そのため、前記基準量の塩の全量又は一部(特に全量)を(R)3HB-Naで代替し、必要であれば、さらに補助的に塩(食塩)を添加してもよい。前記基準量の塩の全量を(R)3HB-Naで代替する場合、補助的に添加する塩(食塩)の量は、穀物粉100質量部に対して、例えば、2質量部以下程度から選択でき、好ましくは1.75質量部以下(例えば0.001~1.5質量部)、さらに好ましくは1.25質量部以下(例えば0.01~1.2質量部)、より好ましくは1質量部以下(例えば0.02~0.9質量部)、特に0.8質量部以下(例えば0.05~0.7質量部)である。また、製パンにおいて使用する食塩には、塩化ナトリウム以外のミネラル成分などが含まれている場合がある。そのため、前記基準量の塩の全量を(R)3HB-Naで代替する場合、補助的に添加する塩(食塩)の量は、穀物粉100質量部に対して、塩化ナトリウム換算で、例えば、2質量部以下程度から選択でき、好ましくは1.7質量部以下(例えば0.001~1.4質量部)、さらに好ましくは1.2質量部以下(例えば0.01~1.1質量部)、より好ましくは1質量部以下(例えば0.02~0.8質量部)、特に0.75質量部以下(例えば0.05~0.6質量部)であってもよい。補助的に添加する塩(食塩)の割合が、多すぎると、塩分過多になる虞があり、少なすぎると、生地の膨らみや味覚(塩味)が不十分となる虞がある。
【0065】
なお、基準量の食塩のうちの一部を(R)3HB-Naで代替する場合、代替しない分量の食塩は、添加しなくてもよく、前記補助的に添加する塩として使用してもよい。
【0066】
(R)3HB-Naと、食塩(特に、食塩中の塩化ナトリウム)とのモル比は、ナトリウム換算で、例えば、前者/後者=100/0~40/60、好ましくは100/0~50/50、さらに好ましくは99/1~60/40、より好ましくは95/5~65/35であってもよい。食塩に対する(R)3HB-Naのモル比が、小さすぎると、塩味が強くなる虞がある。
【0067】
本発明では、(R)3HB-Naを、前記基準量の塩(食塩)の代替として用いることができるため、塩分摂取量を低減、若しくは過剰に塩分を摂取するのを抑制できる。前記基準量の塩の全量又は一部を(R)3HB-Naで代替した場合の(R)3HB-Na及び食塩(特に、食塩中の塩化ナトリウム)の添加量の総量は、前記基準量の塩の量1モルとしたとき、ナトリウム換算で0.3~1.4モル、好ましくは0.35~1.3モル、さらに好ましくは0.4~1.2モル程度であってもよい。(R)3HB-Na及び塩の添加量の総量が多すぎると、塩分過多となる虞があり、少なすぎると塩味が不十分となり、生地が膨らみにくくなる虞がある。
【0068】
(他の成分)
本発明のパン類は、甘味やコク、香りを加えたり、焼き色を付けたりするために、必要に応じて、さらに、副材料として、糖類、油脂類、卵及び/又は乳製品、添加剤などの他の成分を含んでいてもよい。
【0069】
(糖類)
本発明のパン類は、糖類を必須成分としないが、甘味を加えるだけでなく、焼き色や香りをつけるため、糖類及び/又は甘味料(非糖質甘味料)をさらに含んでいてもよい。
【0070】
糖類としては、例えば、アラビノース、キシロースなどのペントース、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトース、マンノース、ソルボースなどのヘキソース、プシコースに代表される希少糖、蜂蜜などの単糖;ショ糖(例えば、白糖や精製白糖、粉糖、グラニュー糖、きび糖、黒糖、三温糖など)、乳糖(ラクトース)、異性化乳糖(ラクチュロース)、麦芽糖(マルトース)、イソマルトース、トレハロースなどの二糖;マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、澱粉分解物(デキストリン)などのオリゴ糖(三糖以上のオリゴ糖);キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、還元麦芽糖水飴(マルチトール)、還元デンプン糖化物、還元パラチノース、還元乳糖(ラクチトール)などの糖アルコール類などが挙げられる。これらの糖類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0071】
甘味料としては、例えば、ステビア、カンゾウ、アマチャなどの天然甘味料;サッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテームなどの人工甘味料などが挙げられる。これらの甘味料は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0072】
これらの糖類又は甘味料のうち、グルコース、フルクトースなどの単糖、ショ糖(スクロース)、ラクトースなどの二糖が好ましく、ショ糖(スクロース)などの二糖が特に好ましい。
【0073】
糖類及び甘味料の総量の割合は、糖類又は甘味料の甘味の程度に応じて適宜選択でき、例えば、穀物粉100質量部に対して、30質量部以下、好ましくは0.5~15質量部であってもよい。例えば、糖類としてショ糖(スクロース)を用いる場合、糖類の割合は、穀物粉100質量部に対して、0.01~12質量部、好ましくは0.1~10質量部、さらに好ましくは0.5~8質量部程度であってもよい。
【0074】
(油脂類)
本発明のパン類は、油脂類をさらに含んでいてもよい。
【0075】
油脂類は、食用油脂であれば特に限定されず、植物性油脂、動物性油脂、加工油脂のいずれであってもよい。
【0076】
植物性油脂としては、例えば、大豆油、綿実油、あまに油、ひまし油、紅花油、米油、胚芽米油、コーン油、ゴマ油、向日葵油、米糖油、キャノーラ油などの菜種油、落花生油、パーム核油、オリーブ油、グレープシード油などの植物油(サラダ油、白絞油);ヤシ油、カロチーノ油などのパーム油、カカオ脂などの植物脂(植物脂肪)などが挙げられる。
【0077】
動物性油脂としては、例えば、バター、牛脂、乳脂肪、豚脂(ラード)、魚油などの動物脂が挙げられる。
【0078】
加工油脂としては、例えば、マーガリン、ショートニング、ステアリン酸トリグリセリドなどの中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)などが挙げられる。
【0079】
これらの油脂類は、分別油、エステル交換油、水素添加油であってもよい。これらの油脂類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0080】
これらの油脂類のうち、植物油(サラダ油)、バター、マーガリン、ショートニングが好ましく、バター、ショートニングがさらに好ましい。
【0081】
油脂類の割合は、穀物粉100質量部に対して、例えば、20質量部以下、好ましくは15質量部以下(例えば、0.01~12質量部)、さらに好ましくは10質量部以下(例えば、0.1~8質量部)程度であってもよい。
【0082】
(卵及び/又は乳製品)
本発明のパン類は、卵及び/又は乳製品をさらに含んでいてもよい。
【0083】
卵は、全卵であってもよく、卵黄のみ、卵白のみであってもよい。
【0084】
卵の使用量は、例えば、穀物粉100質量部に対して、5~50質量部、10~40質量部程度であってもよい。
【0085】
乳製品としては、飲食用の乳製品であれば特に制限されず、例えば、生乳、普通牛乳(牛乳)、加工乳、乳児用液体ミルク、乳飲料などの液状乳;スキムミルク(脱脂粉乳)、育児用粉ミルクなどの粉乳;練乳;生クリーム、コーヒークリームなどのクリーム類;ヨーグルト・乳酸菌飲料;ナチュラルチーズ、プロセスチーズなどのチーズ類などが例示できる。これらの乳製品は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0086】
これらの卵又は乳製品のうち、普通牛乳(牛乳)、加工乳などの液状乳、スキムミルク、育児用粉ミルクなどの粉乳、生クリームなどのクリーム類、ヨーグルトなどが好ましい。
【0087】
乳製品の割合は、例えば、穀物粉100質量部に対して、15質量部以下、好ましくは10質量部以下(例えば、0.01~8質量部)、さらに好ましく7.5質量部以下(例えば、0.1~5質量部)程度であってもよい。
【0088】
(添加剤)
本発明のパン類は、飲食料分野で利用される慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0089】
慣用の添加剤としては、例えば、ケトンエステル類(例えば、3HBと1,3-ブタンジオールとのケトンエステルなど)、ビタミン類(例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンB12など)、食物繊維(例えば、小麦ふすま、コーンふすま、オーツブラン、コーンファイバー、大豆食物繊維、ビートファイバー、結晶セルロース、寒天、キトサン、キチン、ヘミセルロース、リグニン、グルカンなど)、着香料(メントール、バニラビーンズ、オレンジなどの果汁、レモンライム、レモンピールなど)、着色料(食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号などの食用色素;食用レーキ色素;ベンガラなど)、調味料、膨張剤又は発泡剤(重曹など)、増粘安定剤又は保水乳化安定剤(ペクチン、セルロースなどの増粘多糖類など)、pH調整剤(重曹、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウムなどの無機塩など)、強化パウダー、保存料(防腐剤、抗菌剤など)、消泡剤、乳化剤、酸化防止剤、光安定剤、醸造用剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0090】
慣用の添加剤の割合(合計割合)は、穀物粉100質量部に対して0.01~50質量部程度の範囲から選択でき、例えば0.01~10質量部、好ましくは0.1~5質量部、さらに好ましくは0.2~3質量部である。
【0091】
(トッピング材)
また、本発明のパン類は、見た目、味覚、栄養のバランスの観点から、さらに、トッピング材が装飾又は混合されていてもよい。
【0092】
トッピング材としては、慣用のトッピング材を使用でき、例えば、アーモンド、くるみ、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、ピスタチオ、かぼちゃの種、ひまわりの種、けし、落花生などのナッツ類(種実類);冷凍フルーツ、フルーツペースト、ドライフルーツなどのフルーツ類;抹茶パウダーなどの抹茶類;カカオパウダー、ココアパウダー、チョコレートチップなどのチョコレート・カカオ類;キャラメル類などが例示できる。これらのトッピング材は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0093】
本発明のパン類は、例えば、角形食パン、山形食パンなどの食パン、コッペパン、乾パン、フランスパン、ロールパン、クロワッサン、イングリッシュマフィン、ナン、ベーグルなどの食事パン;揚げパン、あんぱん、カレーパン、クリームパン、ジャムパン、コロネ、メロンパンなどの菓子パン又は総菜(惣菜)パンなどであってもよい。これらのパン類のうち、3HB(塩)を塩(食塩)の代替として使用しやすく、飽きの来ない食感及び風味を有する食事パンが好ましく、特に、角形食パン、山形食パンなどの食パンであるのが好ましい。
【0094】
本発明のパン類では、比較的不快感のある3HB(塩)を含んでいるにもかかわらず、味覚が良好であり、前記パン類を摂取するだけで、糖質を制限することなく簡便に血中ケトン体濃度を上昇できる。また、パン類は、通常、糖質(デンプンや糖類など)を多く含み、摂取すると血糖値が急激に上昇するが、本発明のパン類は、3HB(塩)を含むため、糖質を多く含んでいても、血糖値(血中グルコース濃度)の上昇(特に急激な上昇)が抑制され、血糖値の変動をゆるやかにできる。
【0095】
すなわち、本発明のパン類を摂取すると、通常のパン類を摂取した場合に比べて最高血中グルコース濃度(Cmax)が小さく、最高血中グルコース濃度(Cmax)に到達する時間(Tmax)が長い。例えば、通常のパン類を摂取した場合のCmaxは、例えば100~140mg/dL、好ましくは110~130mg/dL程度であり、Tmaxは、例えば10~20分、好ましくは12~18分程度であるのに対し、本発明のパン類を摂取した場合のCmaxは、例えば90~125mg/dL、好ましくは100~120mg/dL程度であり、Tmaxは、例えば20~40分、好ましくは25~35分程度である。
【0096】
なお、本発明のパン類を一口大サイズにカットし、恒温槽(25℃)で保管し、カビが発生するまでの期間を目視で確認したところ、通常のパン類と同等の期間であり、本発明のパン類は、栄養となる3HB(塩)を含むにもかかわらず、腐敗が早くなることがなく、保存安定性に優れる。
【0097】
[パン類の製造方法]
本発明のパン類は、3HB(塩)を使用する以外、慣用の製パンの方法で製造することができる。本発明のパン類は、3HB(塩)と、主原料としての穀物粉に加え、水、イースト、及び必要に応じて塩を用いて製造できる。
【0098】
(水)
本発明の製造方法では、通常、水を用いる。パン類の製造において、水は、穀物粉のグルテン形成、イーストの生育、食感の調整、生地の引き締めなどの重要な役割を果たしている。
【0099】
水は、飲料用水であれば特に制限されないが、使用する水のpHや硬度に応じて発酵状態や生地の硬さなどに大きく影響を受けるため、所望のパン類の形態や仕上がり具合に応じて、使用する水のpHや硬度を調整することが好ましい。
【0100】
水は、通常、イーストの働きを活性化するため、やや酸性である水が使用されることが多く、pHは、例えば5.5~7.5、好ましくは5.7~7.0、さらに好ましくは6.0~6.8程度である。また、水の硬度は、発酵をスムーズに進行させる点から、やや硬度の大きい水(中硬水)が使用されることが多く、硬度(水1Lあたりのミネラル含有量)は、例えば50~120mg/L、好ましくは80~110mg/L程度であってもよい。
【0101】
水の割合(使用量)は、穀物粉100質量部に対して、例えば30~120質量部、好ましくは50~100質量部程度である。
【0102】
(イースト)
本発明の製造方法では、通常、生地の発酵や熟成に大きく関与するイースト(パン酵母、パン酵母菌)を用いる。
【0103】
イーストは、慣用のイーストを使用でき、例えば、生イースト、ドライイースト、インスタントドライイースト、セミドライイーストなどが例示できる。これらのイーストは、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。これらのうち、汎用性、取扱性に優れる点から、インスタントドライイーストが好適に使用される。
【0104】
イーストの割合(使用量)は、穀物粉100質量部に対して、例えば0.05~20質量部、好ましくは0.1~10質量部、さらに好ましくは0.5~5質量部程度である。
【0105】
本発明では、例えば、3HB(塩)と、穀物粉、水及びイーストとを混合して捏ねて未発酵生地を調製する混合工程と、捏ね上げた生地(未発酵生地)を一次発酵する一次発酵工程と、一次発酵させた生地を成形して二次発酵する二次発酵工程と、二次発酵させた生地を焼成する焼成工程とを含む方法で製造できる。なお、一次発酵させた生地及び二次発酵させた生地を併せて「発酵生地」と称する場合がある。
【0106】
(混合工程)
混合工程では、少なくとも3HB(塩)と、穀物粉、水及びイーストとを混合し、得られる混合物を捏ねて生地(未発酵生地、発酵前生地)を生成すればよい。未発酵生地が、3HB(塩)、穀物粉、水及びイーストに加え、必要に応じて、塩(食塩)、前記副材料(糖類、油脂類、卵及び/又は乳製品、添加剤など)、トッピング材などをさらに含む場合、全ての材料を混合してもよく、一部の材料を予め混合し、得られる混合物に残りの材料を添加し混合してもよい。また、各材料において、全量を一度に添加して混合してもよく、全量を複数回に分けて添加して混合してもよい。
【0107】
例えば、全ての材料を混合して生地を作り上げる方法(ストレート方法)であってもよく;一部の材料を予め混合して捏ね、得られた生地に残りの材料を添加し混合する方法(中種法)であってもよく;穀物粉の一部を予め熱湯で捏ねて作成した餅状の生地を、残りの材料に添加する方法(湯種法)であってもよく;穀物粉と水とを混合して、穀物粉に十分吸水させた後、残りの材料に添加する方法(オートリーズ)などであってもよい。これらの方法において、3HB(塩)はいずれの段階で添加してもよい。
【0108】
具体的には、本発明では、例えば、混合工程において、油脂類(例えば、バター)以外の材料を予め混合して捏ね、つながった生地に対して前記油脂類(例えば、バター)を添加してさらに混合して捏ねてもよい。そうすることで、生地に薄い膜を形成することができる。
【0109】
材料としての3HB(塩)は、塊(ダマ)を含んでいる場合があるため、必要に応じて他の粉末材料とともに予めふるいにかけておくのが好ましい。3HB(塩)は、粉末の形態で、他の粉末材料とともに添加してもよく、3HB(塩)を、水(仕込み水)と混合した形態(特に、水溶液の形態)で添加してもよい。3HB(塩)を、水溶液の形態で添加すると、3HB(塩)を、生地に対して容易に均一に混合又は分散させることができ、キメが細かく、食感に優れるパン類が得られる。
【0110】
また、本発明では、3HB(塩)を、食塩の代替として使用できるため、必ずしも塩を添加する必要がないが、味覚の面だけでなく、発酵(生地の膨らみ)をコントロールしたり、キメ(気泡の大きさ)を細かくしたりできる点から、塩を少量添加することが好ましい。
【0111】
添加する塩の割合は、前記と同様の割合であってもよく、例えば、穀物粉100質量部に対して、塩化ナトリウム換算で、2質量部以下、好ましくは1質量部以下(例えば0.02~0.8質量部)、特に0.75質量部以下(例えば0.05~0.6質量部)である。
【0112】
材料の混合、捏ね上げは、慣用のパンミキサー(縦型ミキサー、スパイラルミキサーなど)、パン捏ね機(ニーダー)などを使用できる。
【0113】
捏ね温度は、例えば20~32℃、好ましくは23~29℃程度である。捏ねる時間(材料を分割して添加する場合はその合計時間)は、捏ね温度などに応じて適宜選択でき、生地に滑らかな薄い膜が形成される時間であればよく、例えば15~40分、好ましくは20~30分程度である。
【0114】
(一次発酵工程)
一次発酵工程では、前記混合工程で捏ね上げた生地(未発酵生地)を発酵(一次発酵)すればよい。
【0115】
一次発酵温度は、例えば、25~32℃程度、好ましくは28~30℃であってもよい。また一次発酵湿度は、例えば、65~80%程度、好ましくは70~80%程度であってもよい。
【0116】
一次発酵させる時間は、温度や湿度、イーストや生地の状態などに応じて適宜選択できるが、例えば65~120分、好ましくは70~110分、さらに好ましくは75~105分である。
【0117】
なお、一次発酵工程において、イーストの活動を活発にしたり、生地の力を強くし、生地の状態を整えたりするためのパンチ(ガス抜き)を入れてもよい。
【0118】
一次発酵した生地に対し、室温(例えば、15~25℃程度)で10~30分、好ましくは15~25分程度のベンチタイムを設けてもよい。
【0119】
(二次発酵工程)
二次発酵工程では、一次発酵させた生地を成形してさらに発酵(二次発酵)すればよい。一次発酵させた生地は、丸型に成形してもよく、俵型に成形してもよい。
【0120】
成形した生地を二次発酵させる温度は、例えば、20~40℃程度、好ましくは25~37℃であってもよい。また二次発酵湿度は、例えば、65~80%程度、好ましくは70~80%程度であってもよい。
【0121】
二次発酵させる時間は、温度や湿度、イーストや生地の状態などに応じて適宜選択できる。二次発酵時間は、例えば20~90分、好ましくは25~75分、さらに好ましくは30~70分程度であってもよい。また、二次発酵時間は、実際の発酵の進み具合を目視で経時的に観察しながら決めてもよい。パン類が食パン(山形食パン)である場合、二次発酵時間は、例えば、パン生地が、型の上端から0.5~2cm、好ましくは0.6~1.5cm程度膨出するまでの時間を目安としてもよく、例えば、30~100分、好ましくは45~80分程度であってもよい。
【0122】
(焼成工程)
焼成工程では、二次発酵させた生地を焼成する。焼成する温度は、例えば170~230℃、好ましくは180~225℃、さらに好ましくは190~220℃程度であってもよい。
【0123】
本発明では、塩の代替として3HB(塩)を使用するため、発酵コントロールの働きをする塩の含有量が少なくなる。そのため、前記基準量の塩を含むパン類に比べて発酵のコントロールが難しく、生地の膨らみが不十分となる場合がある。また、本発明のパン類は、生地の皮の厚みにも影響を受けるためか、焼成工程において、初めから比較的高い温度(例えば190~220℃程度)で焼成すると、初期段階から表面が焼き固まり、焼き色が濃くなる傾向がある。そのため、本発明では、焼成工程において、比較的低い温度(一次焼成温度)で一定時間加熱(又は焼成)して生地を釜伸び(窯伸び)させて生地をさらに膨らませ、その後、一次焼成温度より高い温度(二次焼成温度)でさらに焼成すると、膨らみ不足、焼成不足が起こることなく、キメ細かく食感に優れるパン類を製造可能である。
【0124】
一次焼成温度は、例えば140~180℃、好ましくは150~175℃、さらに好ましくは155~170℃程度であってもよい。一次焼成温度で焼成する時間は、例えば5~30分、好ましくは10~25分程度であってもよい。
【0125】
二次焼成温度は、一次焼成温度より高い温度であればよく、例えば170~220℃、好ましくは175~210℃、さらに好ましくは180~200℃程度であってもよい。二次焼成温度で焼成する時間は、例えば10~40分、好ましくは15~30分程度であってもよい。
【0126】
なお、前記混合工程、一次発酵工程、二次発酵工程及び焼成工程は、この順に従って、各工程が終了した後、後続する工程を行ってもよいが、ある工程の途中で(又は中断して)後続する工程を行い、再度、先行する工程を行ってもよい。例えば、混合工程において、一部の材料を混合し、捏ねた生地を一次発酵させて、一次発酵した生地に、残りの材料を添加して混合してもよい。
【実施例0127】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。用いた原料及び評価方法は以下の通りである。
【0128】
[原料]
(R)3HB-Na:大阪ガスケミカル(株)製「OKETOA(登録商標)」(塊(ダマ)をなくすため予めふるいに通して使用)
イースト:インスタントドライイースト((株)日清製粉製「スーパーカメリヤ」)。
【0129】
[評価方法]
(血中ケトン体濃度及び血糖値)
血中ケトン体濃度及び血糖値は、アボットジャパン合同会社製「FreeStyleリブレ」を用いて測定した。なお、血中ケトン体濃度の測定では、電極として、アボットジャパン合同会社製「β-ケトン測定電極III」を、血糖値の測定では、アボットジャパン合同会社製「FSプレシジョン血糖測定電極」を使用した。
【0130】
(官能試験)
実施例及び比較例で調製された食パンを4人のパネラーが試食し、甘味、しょっぱさ及びもちもち感の3項目について、以下の基準で評価した。
【0131】
(甘味)
5…甘味が強すぎて食べることが不可または困難
4…甘味が強い
3…甘味を感じる
2…甘味を少し感じる
1…甘味を全く感じない。
【0132】
(しょっぱさ)
5…しょっぱさが強すぎて食べることが不可または困難
4…しょっぱさが強くて不味い
3…しょっぱさを感じる
2…しょっぱさを少し感じるが問題のないレベル
1…しょっぱさを全く感じない。
【0133】
(もちもち感)
5…もちもち感が強く弾力があり、噛み切りにくい
4…もちもち感があるが、簡単に噛み切れる
3…もちもち感が少しある
2…もちもち感よりもさくさく感が強い
1…もちもち感を全く感じず、さくさく感を感じる。
【0134】
(実施例1)
以下の表1の材料(食パン1斤型1台分)を用いて食パンの製造条件の検討を行った。なお、表中、「通常パン」は、通常のパン類の製造に使用される量(基準量)の塩(食塩)を含むパンを、「3HBパン」は、(R)3HB-Naを含み、前記基準量の塩の全量又は一部を(R)3HB-Naで代替したパンを示す。また、(R)3HB-Na 10.8gは、ナトリウム換算で、食塩5gに相当する。すなわち、表1の3HBパンは、前記基準量の塩の全量を、ナトリウム換算で、同量の(R)3HB-Naで代替したパンであると言える。
【0135】
【0136】
通常パン及び3HBパンについて、それぞれ、表1の材料のうち、バター以外の材料をパンミキサー(大正電機販売(株)製、L-ニーダー)に入れて15分捏ね、つながってきた生地にバターを添加し、なめらかな薄い膜ができるまで、さらに10分捏ねた(捏ね温度26.5℃)。捏ね上げた生地を温度28℃、湿度75%の条件下で一次発酵させた。一次発酵の開始30分の時点でパンチ(ガス抜き)し、さらに、30分発酵を続けた。一次発酵後、20分のベンチタイムを設け、俵型に成形して型に入れ、温度36℃、湿度75~80%の条件下で70分間、二次発酵させた。生地高さ13.5cmで、200℃で30分焼成した。得られた食パンの高さ(最大高さ)は、通常パンで15cm、3HBパンで、通常パンのバラツキの範囲内である14cmであった。3HBパンは、通常パンに比べて、発酵後の伸び(釜伸び)が少なく、釜伸びする前に焼き固まり、断面の気泡が粗く、焼き色も強かった。通常パン、3HBパンの食感は、ともにパサつきはなく、しっとりしていた。
【0137】
(実施例2)
実施例1での3HBパンの不十分な釜伸び、気泡の粗さ及びパンの膨らみ具合の改善を試みるため、表1で示される分量の3HBパンについて、捏ね上げ温度、一次発酵及び二次発酵の条件及び焼成条件を表2のように代えた以外は実施例1と同様に製造した。また、実施例2では、成形した生地(発酵生地)の形状による違いを確認するため、俵型成形と丸型成形の両方について試み、焼成工程では、両者の焼きムラを防ぐために焼成15分の時点で左右位置の入替(左右入替)を行った。
【0138】
実施例2では、二次発酵後、俵型成形、丸型成形のいずれも、生地高さは12cmであった。得られた食パンの高さ(最大高さ)は、俵型成形で13cm、丸型成形で13.5cmであった。焼成温度は実施例1よりも10℃低い190℃であったが、俵型成形、丸型成形のいずれも未だ焼き色が濃く、表面が焼き固まっていた。また、実施例2でも、俵型成形、丸型成形のいずれも、発酵後の伸び(釜伸び)が少なく、断面の気泡が粗かった。俵型成形のパン、丸型成形のパンの食感は、ともにパサつきはなく、しっとりしていた。
【0139】
【0140】
(実施例3)
実施例2での3HBパンの焼き色の濃さ、不十分な膨らみ具合の改善を試みるため、表1で示される分量の3HBパンについて、捏ね上げ温度、一次発酵の条件、二次発酵の条件及び焼成条件を表2のように変え、ベンチタイムを設けない以外は実施例2と同様に製造した。なお、実施例3では、実施例2でボリュームが出た丸型成形を採用し、一次発酵工程でパンチを行わなかった。
【0141】
また、実施例3では、型に対する生地の量を検討するため、表1に示される通常量の材料で作成した生地に加え、表3に示される増量した材料で作製した生地(増量パン)についても検討した。また、実施例3の焼成工程では、通常量パンと増量パンとで、焼きムラを防ぐために焼成15分の時点で、両者の左右位置の入替(左右入替)を行った。
【0142】
【0143】
実施例3では、二次発酵後、生地高さは、通常量パンで13cm、増量パンで14cmであった。得られた食パンの高さ(最大高さ)は、通常量パンで15cm、増量パンで16cmであった。一次焼成温度を、実施例1よりも40℃低い160℃としたため、通常量パン、増量パンのいずれも焼き固まる前に釜伸びし、ボリュームが出たが、断面に色ムラと塊(ダマ)が確認できた。また、通常量パン、増量パンのいずれも、気泡が大きく、キメも粗かった。食感は、通常量パン、増量パンのいずれもパサつきはなく、むっちりとした噛み応えがあった。
【0144】
(実施例4)
実施例3での3HBパンの色ムラと塊(ダマ)の改善を試みるため、表1で示される分量の3HBパンについて、捏ね上げ温度、一次発酵の条件、発酵生地の形状、二次発酵の条件及び焼成条件を表2のように変える以外は実施例3と同様に製造した。
【0145】
なお、実施例3では、塊(ダマ)が確認されたことから、実施例4では、(R)3HB-Naの添加形態について検討した。すなわち、(R)3HB-Naを予め仕込み水と混合した水溶液の形態(表2中「水」と示す)と、他の粉末材料とともにふるった粉末の形態(表2中「粉末」と示す)との2つの形態で添加し、食パンを製造した。なお、実施例4の焼成工程では、水溶液の形態と粉末の形態とで、焼きムラを防ぐために焼成15分の時点で、両者の左右位置の入替(左右入替)を行った。
【0146】
実施例4では、二次発酵後、生地高さは、前記2つの形態ともに13cmであった。得られた食パンの高さ(最大高さ)は、水溶液の形態での添加で14.7cm、粉末の形態での添加で13.7cmであった。
【0147】
前記2つの形態ともに、得られた食パンは断面の色ムラがなく、比較的キメも細かくなめらかであった。なお、(R)3HB-Naを、粉末の形態で添加した食パンよりも、仕込み水と予め混合して水溶液の形態で添加した食パンのほうが、よく伸び、気泡も細かかった。食感は、両者のいずれもパサつきはなく、しっとりとしていた。
【0148】
(実施例5~8及び比較例1)
表4に示す材料(食パン1斤型1台分)を用いて、表5に示す条件で食パンを製造し、味覚、食感及び外観について評価した。ここで、比較例1は、(R)3HB-Naで代替していない通常パンである。なお、二次発酵時間は、各実施例及び比較例において、型上約1cmまで発酵が進んだときの時間を示す。
【0149】
【0150】
【0151】
実施例5~8及び比較例1で得られた食パンの出来上がりの断面の状態を
図1に示す。
【0152】
実施例5及び6の食パンは、生地がキメ細かくふんわりとしていて、通常パンである比較例1と目視で遜色なかった。実施例7及び8の食パンは、実施例5及び6や比較例1よりも気泡は大きかった。特に、実施例8では、生地が詰っているような部分が見られた。
【0153】
また、実施例5及び6の食パンは、味覚について、ほんのり塩味を感じ、食感については、ふんわりとしていて、味覚、食感ともに、通常パンとほぼ同じであった。実施例7及び8の食パンは、食塩の添加量が増えるため、塩味がやや強く、食感にも少し弾力が感じられた。焼き色・焼きムラについては、実施例8で少し焼き色がつきやすい印象であったものの、固さや外観上、問題のないレベルであり、実施例5~8で良好であった。実施例5~8の食パンの高さ(最大高さ)は、14.2cm(実施例5)、14.7cm(実施例6)、14.2cm(実施例7)、14.2cm(実施例8)であった。実施例5~8のうち、味覚、生地のキメ細かさやふんわり感、見た目の点から実施例6の食パンが通常パン(比較例1)に最も近かった。
【0154】
比較例1及び実施例6で調製した食パンについて、4人のパネラーによって評価した結果を表6(比較例1)及び表7(実施例6)に示す。
【0155】
【0156】
比較例1で得られた食パンを食した各パネラーの感想は以下の通りであった。
【0157】
No.1:食感がよい
No.2:もちもち感がある
No.3:シンプルな味で若干しょっぱさを感じる
No.4:後味がよく、柔らかい。
【0158】
【0159】
実施例6で得られた食パンを食した各パネラーの感想は以下の通りであった。
【0160】
No.1:甘く、もちもちとした感じがある
No.2:やや後味で独特の香り水溶液の形態残る気がするが、味はおいしい
No.3:若干、3HB-Naの苦味を感じるように思うが、問題なく食べられる
No.4:違和感なく、とてもおいしい。
【0161】
比較例1及び実施例6の官能試験の結果を比較したグラフを
図2に示す。
【0162】
図1、
図2、表6及び表7から明らかなように、実施例6の食パンは、若干不快感(苦味)を有する(R)3HB-Naを含んでいても、比較例1の食パンと同等レベルの味覚を示し、見た目(外観)も比較例の食パンと遜色がないため、通常の食パンと同じように抵抗なく食べることができた。
【0163】
(実施例9)
パン類と(R)3HB-Naとを同時に摂取した場合の血中ケトン体濃度と血糖値の変化を調べるために以下のような実験を行った。
【0164】
[材料]
食パン:フジパン(株)製 本仕込食パン(4枚切)
3HB(BHB)ゼリー:大阪ガスケミカル(株)製[1本あたりの組成:R-BHB 4.0g、カリウム0.4g、ゲル化剤1.2g、pH調整剤0.1g、スクラロース/アセスファムK 0.1g、着色料 微量、調整水124.2g]。
【0165】
食パン3枚に、BHBゼリー1.7本を塗布して食するBHB群、食パン3枚だけを食するControl群に対し、食後の血中ケトン体濃度と血糖値の経時変化を調べた。なお、食パンの枚数、及びBHBゼリーの本数は、実施例6の3HBパンに含まれる(R)3HB-Naの割合(パンの重量あたりの割合)と3HB換算で同じ割合になるように決定した。
【0166】
食後の血中ケトン体濃度及び血糖値の経時変化を、それぞれ、表8及び表9、
図3及び
図4に示す。
【0167】
【0168】
【0169】
表8及び
図3から明らかなように、Control群では、血中ケトン体濃度が上昇せず、ほぼ一定の値を示しているのに対し、BHB群では、血中ケトン体濃度が経時的に上昇した。また、表9及び
図4から明らかなように、Control群では、食後18分程度で最高血中グルコース濃度(C
max)に到達し(T
max:18分程度)、C
maxが117~120mg/dLであるのに対し、BHB群では、食後30分程度で最高血中グルコース濃度(C
max)に到達し(T
max:30分程度)、C
maxが109~112mg/dLであった。すなわち、BHB群では、Control群に比べ、C
maxに到達する時間(T
max)が遅く、C
maxは小さく、血糖値がゆるやかに上昇し、その変動も小さかった。食パンに、BHBゼリーを塗布することなく、前記BHBゼリー1.7本分に含まれるR-BHBに相当する量(3HB換算)の(R)3HB-Naを含有させても、血中ケトン体濃度及び血糖値の挙動について、同等の挙動を示すものと期待される。
本発明のパン類は、医薬や食品の分野で、血中ケトン体濃度を上げることが望ましい用途、例えば、ケトジェニックダイエットやてんかんの治療等に利用できる。また、本発明のパン類は、血糖値の上昇を抑制することもできるため、糖質制限や血糖コントロールが必要な人であっても、安心して有効に利用できる。