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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119416
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   B60B 35/14 20060101AFI20240827BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240827BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240827BHJP
   F16C 35/063 20060101ALI20240827BHJP
   B60B 35/18 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B60B35/14 U
F16C19/18
F16C33/58
F16C35/063
B60B35/14 V
B60B35/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026300
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 晃
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA01
3J117BA10
3J117DA02
3J117DB07
3J117DB10
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA53
3J701BA56
3J701FA46
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】等速自在継手と車輪用軸受との位相のずれを抑制しながら、等速自在継手を車輪用軸受に容易に嵌合することができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】車輪用軸受装置1においては、貫通孔3eの第1孔31の内周面には、軸方向に沿って延びるスプライン嵌合可能な凹部3hが形成され、等速自在継手20におけるステム部23の外周面には、軸方向に沿って延び、凹部3hとスプライン嵌合可能な凸部24が形成され、凸部24は、凹部3hに対して全体的に密着した状態でスプライン嵌合する第1凸部25と、第1凸部25よりもアウター側に位置し、凹部3hに対して径方向、周方向、または径方向と周方向との両方において隙間を有した状態でスプライン嵌合可能な第2凸部26とを備え、第2凸部26は、外径、周方向の幅、または外径と周方向の幅との両方が、軸方向の一側から他側へ向けて大きくなる形状を有している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
車輪取付フランジおよび軸方向に貫通する貫通孔が形成されたハブ輪と、前記ハブ輪の前記貫通孔に嵌合可能な嵌合部を有する等速自在継手と、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面と、を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
を備えた車輪用軸受装置であって、
前記貫通孔の内周面には、軸方向に沿って延びるスプライン嵌合可能な凹部が形成され、
前記等速自在継手における前記嵌合部の外周面には、軸方向に沿って延び、前記凹部とスプライン嵌合可能な凸部が形成され、
前記凸部は、
前記凹部に対して全体的に密着した状態でスプライン嵌合する第1凸部と、
前記第1凸部よりも軸方向の一側に位置し、前記凹部に対して径方向、周方向、または径方向と周方向との両方において隙間を有した状態でスプライン嵌合可能な第2凸部とを備え、
前記第2凸部は、外径、周方向の幅、または外径と周方向の幅との両方が、軸方向の一側から他側へ向けて大きくなる形状を有している車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記凹部のピッチ円直径位置において、前記第2凸部の軸方向における他端部の周方向の幅は、前記第2凸部の軸方向における一端部の周方向の幅よりも大きく、
前記凹部のピッチ円直径位置において、前記凹部の周方向における幅は、前記第2凸部の軸方向における他端部の周方向の幅と同じ、または前記第2凸部の軸方向における他端部の周方向の幅よりも大きい請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記第2凸部の軸方向における他端部の外径は、前記第2凸部の軸方向における一端部の外径よりも大きく、
前記凹部の内径は、前記第2凸部の軸方向における他端部の外径と同じ、または前記第2凸部の軸方向における他端部の外径よりも大きい請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記第2凸部のピッチ円直径位置において、前記第2凸部の軸方向における他端部の周方向の幅は、前記第2凸部の軸方向における一端部の周方向の幅よりも大きく、
前記第2凸部のピッチ円直径位置において、前記凹部の周方向における幅は、前記第2凸部の軸方向における他端部の周方向の幅と同じ、または前記第2凸部の軸方向における他端部の周方向の幅よりも大きく、
前記第2凸部の軸方向における他端部の外径は、前記第2凸部の軸方向における一端部の外径よりも大きく、
前記凹部の内径は、前記第2凸部の軸方向における他端部の外径と同じ、または前記第2凸部の軸方向における他端部の外径よりも大きい請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記貫通孔は、前記凹部の底を形成する大径面と、前記凹部の周方向における両側に位置する小径面とを有し、
前記小径面は、軸方向において前記凹部の他端に位置する第1小径面と、軸方向において前記第1小径面よりも一側に位置する第2小径面とを有し、
前記第1小径面の内径は、前記大径面の内径よりも小さく、前記第2小径面の内径よりも大きい請求項1~請求項4の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されるように、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受と、前記車輪用軸受にトルク伝達可能に結合される等速自在継手とを備えた車輪用軸受装置が知られている。
【0003】
このような車輪用軸受装置においては、車輪用軸受を構成するハブ輪が有する貫通孔に軸方向に沿って延びる凹部が形成され、等速自在継手の車輪用軸受との嵌合部に軸方向に沿って延びる凸部が形成されており、車輪用軸受の凹部と等速自在継手の凸部とがスプライン嵌合することにより、車輪用軸受と等速自在継手とが結合されている。
【0004】
また、ハブ輪の貫通孔には、凹部の等速自在継手が挿入される側の端部に隣接して、ガイド用凹部が形成されている。ガイド用凹部は、等速自在継手の凸部が嵌合した際に、凸部に対して径方向または周方向に隙間が形成される形状に形成されており、凸部が凹部に嵌合する際には、ガイド用凹部に沿ってガイドされながら凹部に嵌合するため、凸部の凹部に対する位置決めが容易となっている。
【0005】
凸部を凹部に嵌合する際に、凸部の凹部に対する位置決めを容易にする構成としては、等速自在継手の嵌合部に、凹部に対して全体的に密着した状態でスプライン嵌合する第1凸部と、第1凸部よりも嵌合部の挿入方向における先端側に位置し、貫通孔の凹部に対して径方向、周方向、または径方向と周方向との両方において隙間を有した状態でスプライン嵌合可能な第2凸部とを形成した構成が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5323338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、等速自在継手の嵌合部に第1凸部と第2凸部とを形成した構成の場合、第2凸部と凹部との隙間が大きいと、第1凸部が凹部に挿入されるときに第1凸部と凹部との位相にずれが生じて、第1凸部が凹部に対して全体的に密着した状態でスプライン嵌合されなかったり、第1凸部を凹部に圧入する際に要する圧入力が増大したりするおそれがある。
【0008】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、等速自在継手を車輪用軸受に対してスプライン嵌合する際に、等速自在継手と車輪用軸受との位相のずれを抑制しながら、等速自在継手を車輪用軸受に容易に嵌合することができる車輪用軸受装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、車輪取付フランジおよび軸方向に貫通する貫通孔が形成されたハブ輪と、前記ハブ輪の前記貫通孔に嵌合可能な嵌合部を有する等速自在継手と、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面と、を有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体とからなる車輪用軸受と、を備えた車輪用軸受装置であって、前記貫通孔の内周面には、軸方向に沿って延びるスプライン嵌合可能な凹部が形成され、前記等速自在継手における前記嵌合部の外周面には、軸方向に沿って延び、前記凹部とスプライン嵌合可能な凸部が形成され、前記凸部は、前記凹部に対して全体的に密着した状態でスプライン嵌合する第1凸部と、前記第1凸部よりも軸方向の一側に位置し、前記凹部に対して径方向、周方向、または径方向と周方向との両方において隙間を有した状態でスプライン嵌合可能な第2凸部とを備え、前記第2凸部は、外径、周方向の幅、または外径と周方向の幅との両方が、軸方向の一側から他側へ向けて大きくなる形状を有している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、等速自在継手の嵌合部の凸部とハブ輪の凹部との位相のずれを抑制しながら、凸部を容易に凹部に嵌合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図2】ステム部の先端部がハブ輪の貫通孔に挿入された状態の車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図3】ステム部の第1凸部、第2凸部、および溝部を示す側面断面図である。
図4】ステム部の第1凸部および第2凸部を軸方向と直交する外径側から見た図である。
図5】(a)はステム部の第2凸部がハブ輪の凹部に嵌合した状態を示す側面断面図であり、(b)は図5(a)のA-A断面図であり、(c)は図5(a)のB-B断面図である。
図6】(a)はステム部の第1凸部がハブ輪の凹部に圧入されている状態を示す側面断面図であり、(b)は図6(a)のC-C断面図である。
図7】小径面が第1小径面と第2小径面とを有した形状に形成された第1孔のインナー側端部を示す図であって、(a)は側面断面図であり、(b)は図7(a)のE-E断面図である。
図8】車輪用軸受装置の別実施形態を示す一部側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0013】
[車輪用軸受装置]
図1に示す車輪用軸受装置1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態である。
【0014】
以下の説明において、軸方向とは車輪用軸受装置1の回転軸心Xに沿った方向を表す。また、アウター側とは、軸方向の一側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表し、インナー側とは、軸方向の他側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表す。
【0015】
車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3、内輪4、および等速自在継手20と、転動列である二列のインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6と、インナー側シール部材9Aと、アウター側シール部材9Bとを備えている
【0016】
外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材9Aが嵌合可能なインナー側開口部2aが形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材9Bが嵌合可能なアウター側開口部2bが形成されている。
【0017】
インナー側シール部材9Aがインナー側開口部2aに嵌合されることにより、外輪2と内方部材とによって形成された環状空間15のインナー側の開口端が塞がれている。アウター側シール部材9Bがアウター側開口部2bに嵌合されることにより、環状空間15のアウター側の開口端が塞がれている。
【0018】
外輪2の内周面には、インナー側の外側軌道面2cと、アウター側の外側軌道面2dとが形成されている。外輪2の外周面2oには、外輪2を車体側部材(ナックル)に取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体的に形成されている。車体取り付けフランジ2eには、車体側の部材と外輪2とを締結する締結部材が挿通されるボルト孔2fが設けられている。
【0019】
ハブ輪3の外周面3oにおけるインナー側端部には、アウター側端部よりも縮径され軸方向に延びる小径段部3aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。
【0020】
車輪取り付けフランジ3bは、ネジ孔3fを有している。ネジ孔3fは、車輪取り付けフランジ3bに組み付けられるホイールおよびブレーキロータを固定するためのホイールボルトが螺合される孔である。なお、ネジ孔3fは、ハブボルトが螺合される孔によって構成されていてもよい。
【0021】
ハブ輪3には、外輪2のアウター側の外側軌道面2dに対向するようにアウター側の内側軌道面3cが形成されている。また、ハブ輪3においては、車輪取り付けフランジ3bの基部側にアウター側シール部材9Bが摺接するリップ摺動面3dが形成されている。
【0022】
ハブ輪3の内径部には、軸方向に沿って形成され、等速自在継手20が結合される貫通孔3eが形成されている。貫通孔3eは、ハブ輪3を軸方向に貫通している。
【0023】
貫通孔3eは、第1孔31と、第2孔32と、第3孔33とを有している。第1孔31は、内径が軸方向に沿って均一な大きさとなるように形成されている。第2孔32は第1孔31のアウター側に位置しており、第2孔32の内径は、第1孔31の内径以上の大きさとなるように形成されている。つまり、第2孔32は、第1孔31以上の径を有している。第1孔31と第2孔32との間には、段差面34が形成されている。段差面34は、第1孔31の軸心となる回転軸心Xに対して垂直な面である。
【0024】
第3孔33は第1孔31のインナー側に位置しており、第3孔33の内径は、第1孔31の内径以上の大きさとなるように形成されている。つまり、第3孔33は、第1孔31以上の径を有している。
【0025】
ハブ輪3の小径段部3aには、内輪4が圧入されている。内輪4は、インナー側端部にインナー側端面4bを有している。ハブ輪3の小径段部3aに圧入された内輪4は、ハブ輪3によってかしめられることにより固定されており、ハブ輪3は、内輪4のインナー側端面4bをかしめるためのかしめ部3kを有している。内輪4は、かしめ部3kによってかしめられることにより、インナー側ボール列5およびアウター側ボール列6に予圧を付与している。
【0026】
内輪4の外周面には、内側軌道面4aが形成されている。つまり、ハブ輪3のインナー側に、内輪4によって内側軌道面4aが構成されている。内側軌道面4aは、外輪2のインナー側の外側軌道面2cに対向している。
【0027】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール7が保持器8によって保持されることにより構成されている。インナー側ボール列5は、内輪4の内側軌道面4aと、外輪2のインナー側の外側軌道面2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、ハブ輪3の内側軌道面3cと、外輪2のアウター側の外側軌道面2dとの間に転動自在に挟まれている。
【0028】
車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3および内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、車輪用軸受装置1は、複列円錐ころ軸受によって構成されていてもよい。
【0029】
等速自在継手20は、シャフト21と、マウス部22と、ステム部23とを有している。
【0030】
シャフト21は、エンジンやモータ等の駆動源からの駆動力が入力される軸部材である。マウス部22は、シャフト21を回転軸心Xに対して回動可能に支持している。シャフト21は、マウス部22にトルク伝達可能に結合されている。マウス部22は、アウター側端部に、ハブ輪3のかしめ部3kと当接する当接面22aを有している。ステム部23はマウス部22と一体的に形成されており、マウス部22から軸方向におけるアウター側へ向けて延びている。
【0031】
[ハブ輪とステム部との嵌合構造]
図2図6に示すように、ハブ輪3の貫通孔3eにおける第1孔31の内周面には、軸方向に沿って延びるスプライン嵌合可能な凹部3hが形成されている。凹部3hは、周方向に沿って複数形成されている。凹部3hの軸方向長さはL1である。
【0032】
等速自在継手20におけるステム部23の外周面には、軸方向に沿って延び、凹部3hとスプライン嵌合可能な凸部24が形成されている。凸部24は、周方向に沿って複数形成されている。等速自在継手20のステム部23は、ハブ輪の貫通孔に嵌合可能な嵌合部の一例である。
【0033】
周方向に沿って形成される複数の凹部3hにより雌スプラインが構成され、周方向に沿って形成される複数の凸部24により雄スプラインが構成されている。凸部24とスプライン嵌合する凹部3hにおけるピッチ円PCのピッチ円直径はDである。
【0034】
ハブ輪3の貫通孔3eにおいては、凹部3hが形成される第1孔31の軸方向の両側に位置する第2孔32および第3孔33が、第1孔31以上の径を有しているため、第1孔31の内周面に凹部3hを形成する際に、ブローチ加工により凹部3hを形成することができ、凹部3hを容易に加工することが可能である。
【0035】
凸部24は、第1凸部25と、第1凸部25のアウター側に位置する第2凸部26とを有している。第1凸部25と第2凸部26とは、周方向において同じ位相に位置するように形成されている。
【0036】
第1凸部25は凹部3hよりも大径に形成されており、凹部3hに対して締め代nを有している。つまり、第1凸部25の外径R2は、凹部3hの内径R1よりも大きく形成されている。また、凹部3hのピッチ円直径Dの位置であるピッチ円直径位置において、凹部3hの周方向における幅はW1であり、第1凸部25の周方向における幅はW2であって、幅W2は幅W1よりも大きく形成されている(W1<W2)。第1凸部25は凹部3hに対して圧入することにより、凹部3hに対して全体的に密着した状態で嵌合可能となっている。
【0037】
第2凸部26は凹部3hよりも小径に形成されており、凹部3hとの間に隙間を有した状態でスプライン嵌合可能に構成されている。第2凸部26は、外径がアウター側からインナー側へ向かって増加する形状に形成されており、第2凸部26のアウター側端部における外径R3は、第2凸部26のインナー側端部における外径R4よりも小さくなるように形成されている(R3<R4)。第2凸部26のアウター側端部は、第2凸部の軸方向における一端部の一例であり、第2凸部26のインナー側端部は、第2凸部の軸方向における他端部の一例である。
【0038】
第2凸部26のアウター側端部における外径R3は、凹部3hの内径R1よりも小さくなるように形成されている(R3<R1)。第2凸部26のインナー側端部における外径R4は、凹部3hの内径R1と同じ大きさとなるように、または凹部3hの内径R1よりも小さくなるように形成されている(R4≦R1)。本実施形態においては、第2凸部26の外径R4は、凹部3hの内径R1と同じ大きさとなるように形成されている。
【0039】
第2凸部26は、凹部3hに対する径方向の隙間がアウター側からインナー側へ向けて小さくなる形状を有している。つまり、第2凸部26は、外径がアウター側からインナー側へ向けて大きくなる形状を有している。
【0040】
凹部3hのピッチ円直径Dの位置であるピッチ円直径位置において、第2凸部26のアウター側端部における周方向の幅はW3であり、第2凸部26のインナー側端部における周方向の幅はW4である。第2凸部26は、ピッチ円直径位置における幅がアウター側からインナー側へ向かって増加する形状に形成されており、第2凸部26のアウター側端部における幅W3は、第2凸部26のインナー側端部における幅W4よりも小さくなるように形成されている(W3<W4)。
【0041】
第2凸部26のアウター側端部における幅W3は、凹部3hの幅W1よりも小さくなるように形成されている(W3<W1)。第2凸部26のインナー側端部における幅W4は、凹部3hの幅W1と同じ大きさとなるように、または凹部3hの幅W1よりも小さくなるように形成されている(W4≦W1)。本実施形態においては、第2凸部26の幅W4は、凹部3hの幅W1と同じ大きさとなるように形成されている。
【0042】
第2凸部26は、凹部3hに対する周方向の隙間がアウター側からインナー側へ向けて小さくなる形状を有している。つまり、第2凸部26は、周方向の幅がアウター側からインナー側へ向けて大きくなる形状を有している。
【0043】
本実施形態においては、第2凸部26は、外径と周方向の幅との両方が、アウター側からインナー側へ向けて大きくなる形状を有しているが、外径のみがアウター側からインナー側へ向けて大きくなる形状、または周方向の幅のみがアウター側からインナー側へ向けて大きくなる形状に形成することもできる。
【0044】
第2凸部26は、主に、凸部24と凹部3hとをスプライン嵌合する際に凹部3hによりガイドされて、凹部3hと第1凸部25との径方向または周方向、更には径方向と周方向両方における位相合わせを行うための凸部である。
【0045】
第1凸部25と第2凸部26とは軸方向において間隔を隔てて配置されており、第1凸部25と第2凸部26との間には、第1凸部25および第2凸部26よりも内径側に凹んだ溝部27が形成されている。溝部27の軸方向長さはL2である。第1凸部25と第2凸部26との軸方向の間隔の大きさである軸方向長さL2は、凹部3hの軸方向長L1よりも小さく形成されている。
【0046】
第1凸部25および第2凸部26は、例えばステム部23の外周面に転造加工を施すことにより形成することができる。また、溝部27は、第1凸部25および第2凸部26を形成した後に、第1凸部25と第2凸部26との間の部分に対し、内径側へ向けて切削加工等の機械加工を施すことにより形成することができる。
【0047】
第1凸部25と第2凸部26との間において機械加工により溝部27を形成することで、溝部27と面する第1凸部25のアウター側端面25aを、容易に軸方向に対して垂直な面に形成することができる。溝部27を機械加工により形成した場合、第1凸部25のアウター側端面25aは機械加工面となる。
【0048】
ステム部23にはシャフト21からの捩りトルクが伝達されるため、その捩りトルクに耐えられるように、凸部24は熱硬化処理が施された硬化部Hであることが好ましい。そのため、第1凸部25は、熱硬化処理が施された硬化部Hであり、この場合、第1凸部25の全体を硬化部Hとして形成することができる。よって、アウター側端面25aを含んだ第1凸部25の全体を硬化部Hとして形成することができる。つまり、第1凸部25のインナー側端部からアウター側端部までを硬化部Hとして形成することができる。
【0049】
また、ステム部23における第1凸部25が形成された部分に加えて、ステム部23における第2凸部26が形成された部分を熱硬化処理が施された硬化部Hとして形成することもできる。
【0050】
第1凸部25および第2凸部26に施す熱硬化処理としては、高周波焼入れおよび浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイルの中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用によりジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。また、浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面に炭素を拡散浸透させ、その後に焼入れを行う焼入れ方法である。
【0051】
一方、凹部3hは、ハブ輪3における熱硬化処理が施されていない非処理材(生材)である部分に形成されている。つまり、ハブ輪3における凹部3hが形成された部分は、熱硬化処理が施されていない非処理部として形成することができる。
【0052】
ステム部23は、アウター側端部に雄ねじ部23aを有しており、雄ねじ部23aにナット41を螺装することで、貫通孔3eの第1孔31にステム部23が嵌合した状態で、ハブ輪3と等速自在継手20とが締結されている。これにより、ハブ輪3と等速自在継手20とが固定されている。
【0053】
ステム部23の雄ねじ部23aにナット41を螺装した場合、等速自在継手20におけるマウス部22の当接面22aがハブ輪3のかしめ部3kに当接するとともに、ナット41がハブ輪3の段差面34に係止した状態となる。この場合、ナット41の座面となる段差面34は第1孔31の軸心に対して垂直な面に形成されているため、雄ねじ部23aにナット41を螺装したときに必要な軸力を得ることが可能であり、ハブ輪3と等速自在継手20との固定状態を安定して保持することができる。
【0054】
車輪用軸受装置1においては、等速自在継手20のステム部23とハブ輪3とを嵌合させる場合、ステム部23をハブ輪3の貫通孔3eにインナー側から挿入した後、雄ねじ部23aにナット41を螺装してステム部23を貫通孔3eのアウター側に引き込むことにより、ステム部23の凸部24とハブ輪3の凹部3hとを嵌合させることが可能となっている。
【0055】
この場合、ステム部23をハブ輪3の貫通孔3eにインナー側から挿入すると、図5に示すように、まずステム部23の第2凸部26がハブ輪3の凹部3hにスプライン嵌合される。
【0056】
第2凸部26のアウター側端部(外径R3および幅W3を有する部分)は凹部3hよりも小径および幅狭に形成されており、第2凸部26のアウター側端部と凹部3hとの間には、周方向および径方向において隙間mが形成されている(図5(b)「図5(a)のA-A断面図」参照)。従って、第2凸部26のアウター側端部を凹部3hに挿入し始めるときには、第2凸部26の凹部3hへの挿入が容易となる。
【0057】
また、第2凸部26のインナー側端部(外径R4および幅W4を有する部分)は凹部3hと同径および同幅に形成されており、第2凸部26のインナー側端部と凹部3hとの間には隙間mがなく、第2凸部26と凹部3hとは接触している(図5(c)「図5(a)のB-B断面図」参照)。従って、第2凸部26がインナー側端部まで凹部3hに挿入されると、凹部3hによって第2凸部26の周方向の位置決めがなされて凹部3hと第2凸部26との周方向の位相が合い、凹部3hの周方向における中央部の位置と、第2凸部26の周方向における中央部の位置とが一致する。
【0058】
これにより、ステム部23の凸部24をハブ輪3の凹部3hに嵌合する際に、第2凸部26が凹部3hによって案内されて、凸部24と凹部3hとの周方向の位相決めを行うことができる。従って、ステム部23の凸部24とハブ輪3の凹部3hとの位相のずれを抑制しながら、凸部24を容易かつ確実に凹部3hに嵌合させることができ、等速自在継手20のハブ輪3に対する組付性を向上することが可能となっている。
【0059】
また、凹部3hの内径および周方向の幅が、第2凸部26のインナー側端部の外径および周方向の幅よりも大きい場合であっても、第2凸部26の凹部3hに対する挿入が進むにつれて第2凸部26と凹部3hとの間の隙間mが小さくなっていき、凸部24と凹部3hとの周方向の位相決めがなされる。従って、ステム部23の凸部24とハブ輪3の凹部3hとの位相のずれを抑制しながら、凸部24を容易かつ確実に凹部3hに嵌合させることが可能である。
【0060】
なお、本実施形態においては、第2凸部26のアウター側端部は、凹部3hに対して周方向および径方向の両方において隙間mを有した状態でスプライン嵌合しているが、第2凸部26のアウター側端部は、凹部3hに対して周方向のみに隙間mを有した状態、または径方向のみに隙間mを有した状態でスプライン嵌合するように形成することもできる。
【0061】
図5に示す状態から、ステム部23をさらに貫通孔3eのアウター側へ向けて挿入すると、図6に示すように、第1凸部25(外径R2および幅W2を有する部分)が凹部3hに嵌合される。この場合、第1凸部25は凹部3hよりも大径に形成されていて、凹部3hは第1凸部25に対する締め代nを有しているため、第1凸部25は凹部3hに圧入される。(図6(b)「図6(a)のC-C断面図」参照)
【0062】
また、第1凸部25は周方向において第2凸部26と同じ位相に形成されているため、凹部3hの周方向における中央部の位置と、第1凸部25の周方向における中央部の位置とが一致した状態で、第1凸部25が凹部3hに圧入される。
【0063】
第1凸部25が凹部3hに圧入されると、凹部3hの内周面に第1凸部25の形状が転写される。この場合、第1凸部25により凹部3hの内周面が極僅かに切削加工され、また極僅かな塑性変形および弾性変形を付随的に伴いながら、凹部3hの内周面に第1凸部25の形状が転写される。
【0064】
第1凸部25が凹部3hに圧入されて、第1凸部25と凹部3hとがスプライン嵌合された状態では、第1凸部25の外周面と凹部3hの内周面とは全体的に密着している。第1凸部25と凹部3hとが全体的に密着した状態でスプライン嵌合することにより、スプライン嵌合した部分の許容トルクを増大させることが可能である。
【0065】
第1凸部25により凹部3hの内周面が切削加工される際には、凹部3hと第1凸部25との周方向の位相が一致しているため、第1凸部25による凹部3hの切削量が、第1凸部25の周方向における両側で均一になる。
【0066】
これにより、第1凸部25と凹部3hとがスプライン嵌合された際に、第1凸部25の外周面と凹部3hの内周面とを全体的に安定して密着させることが可能となる。また、第1凸部25を凹部3hに圧入する際に要する圧入力を小さく抑えることができ、ステム部23の第1凸部25をハブ輪3の凹部3hに容易に嵌合することが可能となる。
【0067】
また、第1凸部25を凹部3hに圧入して、第1凸部25により凹部3hの内周面が切削加工されると、凹部3hの切削により切削片3jが生じるが、生じた切削片3jは第1凸部25と第2凸部26との間の溝部27において保持することができる。これにより、切削片3jが車輪用軸受装置1の各部に飛び散ることを抑制することができる。
【0068】
なお、第1凸部25を凹部3hに圧入する際には、例えば等速自在継手20をハブ輪3に対して軸方向におけるアウター側へ押圧することにより、第1凸部25を凹部3hに圧入することができる。
【0069】
また、ステム部23の凸部24をハブ輪3の凹部3hに嵌合する場合、溝部27の軸方向長さL2が凹部3hの軸方向長L1よりも小さく形成されているため、第2凸部26と凹部3hとが嵌合した状態で、第1凸部25の凹部3hに対する圧入を開始することができる。これにより、第1凸部25を凹部3hに圧入する際に、第1凸部25と凹部3hとの位相を確実に合わせることができ、凸部24と凹部3hと全体的に均等に密着させて嵌合させることができる。
【0070】
また、第1凸部25を凹部3hに圧入する場合、第1凸部25のアウター側端面25aが軸方向に対して垂直な面であると、第1凸部25による凹部3hの内周面の切削加工を行い易い。本実施形態においては、第1凸部25と凹部3hとの間の溝部27を機械加工により形成しているため、第1凸部25のアウター側端面25aを、軸方向に対して垂直な面に容易に加工することができ、凸部24と凹部3hとの嵌合作業を容易にすることが可能である。
【0071】
さらに、第1凸部25は熱硬化処理が施された硬化部Hであり、凹部3hは熱硬化処理が施されていない非処理部であるため、第1凸部25を凹部3hに圧入した際に、第1凸部25により凹部3hの内周面を容易に切削加工することができ、凸部24と凹部3hとの嵌合作業を容易にすることが可能である。
【0072】
特に、第1凸部25を凹部3hに圧入する際に、凹部3hに最初に接触する第1凸部25のアウター側端部が硬化部Hとして形成されているため、凹部3hの内周面を容易に切削加工することが可能となっている。
【0073】
また、図7に示すように、ハブ輪3の貫通孔3eにおける第1孔31は、凹部3hの底を形成する大径面311と、凹部3hの周方向における両側に位置する小径面312とを有している。大径面311と小径面312とは周方向において交互に配置されており、大径面311と、大径面311と小径面312との間の傾斜面313と、により凹部3hが形成されている。
【0074】
ハブ輪3においては、小径面312を、軸方向において凹部3hのインナー側端に位置する第1小径面312aと、軸方向において第1小径面312aよりもアウター側に位置する第2小径面312bとを有した形状に形成することができる。
【0075】
大径面311の内径は、凹部3hの内径と同じR1である。小径面312における第1小径面312aの内径はR5であり、小径面312における第2小径面312bの内径はR6である。
【0076】
この場合、第1小径面312aの内径R5は、大径面311の内径R1よりも小さいとともに、第2小径面312bの内径R6よりも大きく、第1小径面312aと第2小径面312bとの間には段差が形成されている(R6<R5<R1)。
【0077】
このように、凹部3hのインナー側端に、第2小径面312bよりも大径の第1小径面312aを形成することで、凹部3hのインナー側端部に対する第1凸部25の圧入開始時に、第1孔31における大径面311の両側の傾斜面313の第1凸部25による切削量を減少させることができると共に、切削量が減少することで、周方向に両側で切削量をより均一にできる。これにより、小さな圧入力で、第1凸部25と凹部3hとの周方向の位相を確実に合わせた状態で、第1凸部25を凹部3hに嵌合させることが可能となる。
【0078】
[車輪用軸受装置の別実施形態]
車輪用軸受装置1は、図8に示す車輪用軸受装置1Aのように構成することもできる。車輪用軸受装置1Aは、ハブ輪3および等速自在継手20に代えてハブ輪3Aおよび等速自在継手20Aを備えるとともに、内輪4を備えていない点で、車輪用軸受装置1と異なっている。ハブ輪3Aは、主に小径段部3aおよびかしめ部3kを有していない点で、ハブ輪3と異なっている。等速自在継手20Aは、主に内側軌道面28を有している点で、内側軌道面を有していない等速自在継手20と異なっている。
【0079】
内側軌道面28は、マウス部22におけるアウター側端部の外周面に形成されており、外輪2のインナー側の外側軌道面2cに対向している。インナー側ボール列5は、外輪2のインナー側の外側軌道面2cと、等速自在継手20におけるマウス部22の内側軌道面28との間に転動自在に挟まれている。
【0080】
つまり、車輪用軸受装置1Aにおいては、外輪2の外側軌道面2cに対向する内側軌道面28を有する等速自在継手20が、内輪を兼ねる構成となっているため、内方部材はハブ輪3Aおよび等速自在継手20Aにより形成されている。
【0081】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0082】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2c (インナー側の)外側軌道面
2d (アウター側の)外側軌道面
3 ハブ輪
3a 小径段部
3b 車輪取り付けフランジ
3c 内側軌道面
3e 貫通孔
3h 凹部
4 内輪
4a 内側軌道面
5 インナー側ボール列
6 アウター側ボール列
7 ボール
8 保持器
20 等速自在継手
23 ステム部
24 凸部
25 第1凸部
26 第2凸部
28 内側軌道面
31 第1孔
311 大径面
312 小径面
312a 第1小径面
312b 第2小径面
PC ピッチ円
D (ピッチ円の)直径
R1 (凹部または大径面の)内径
R3 (第2凸部のアウター側端部の)外径
R4 (第2凸部のインナー側端部の)外径
R5 (第1小径面の)内径
R6 (第2小径面の)内径
W1 (凹部の)周方向の幅
W3 (第2凸部のアウター側端部の)周方向の幅
W4 (第2凸部のインナー側端部の)周方向の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8