(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119417
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240827BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240827BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240827BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20240827BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C19/18
F16C33/58
F16J15/3232 201
F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026301
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 晃
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE23
3J006AE30
3J006AE42
3J006CA01
3J042AA09
3J042AA12
3J042BA05
3J042CA10
3J042DA10
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA16
3J216CA01
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB04
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC16
3J216CC35
3J216CC42
3J216CC68
3J216DA01
3J216FA04
3J216GA03
3J216GA10
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA53
3J701BA56
3J701BA69
3J701BA73
3J701BA78
3J701FA38
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】密封装置の耐泥水性を向上しながら低トルク化を図ることができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】車輪用軸受装置1においては、アウター側シール部材10は、外輪2に嵌合される芯金11と、芯金11に一体的に接合されるシール部材12とを備え、ハブ輪3は、内側軌道溝3cと、車輪取り付けフランジ3bのインナー側のフランジ面3kと、フランジ面3kよりもアウター側に凹んだシールランド部3dとを備え、シール部材12は、シールランド部3dと接触する接触リップ12cと、フランジ面3kよりもアウター側においてシールランド部3dと隙間をもって対向する第1非接触リップ12dおよび第2非接触リップ12eとを有し、シールランド部3dは、接触リップ12cが接触する接触部31と、第1非接触リップ12dおよび第2非接触リップ12eと隙間をもって対向する非接触部32とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道溝を有する外方部材と、
径方向外側へ延びるハブフランジを有するハブ輪と、前記ハブ輪に連結された軌道面形成部材とからなり、前記ハブ輪および前記軌道面形成部材に前記外側軌道溝に対向する内側軌道溝が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道溝間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、
前記密封装置は、前記外方部材における軸方向一端部に嵌合される芯金と、前記芯金に一体的に接合されるシール部材とを備え、
前記ハブ輪は、前記内側軌道溝と、前記ハブフランジの軸方向他側に面するフランジ面と、前記内側軌道溝と前記フランジ面との間に位置し、前記フランジ面よりも軸方向一側に凹んだシールランド部とを備え、
前記シール部材は、前記芯金から前記ハブフランジ側へ向けて延出し、前記シールランド部と接触する接触リップと、前記接触リップよりも外径側において前記芯金から前記ハブフランジ側へ向けて延出し、前記フランジ面よりも軸方向一側において前記シールランド部と隙間をもって対向する非接触リップとを有し、
前記シールランド部は、前記接触リップが接触する接触部と、前記非接触リップと隙間をもって対向する非接触部とを有する車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記非接触リップは、第1非接触リップと、前記第1非接触リップよりも内径側に位置し、前記第1非接触リップよりも軸方向一側へ延出する第2非接触リップとを有し、
前記シールランド部における前記非接触部は、前記第1非接触リップと対向する第1非接触部と、前記第1非接触部よりも軸方向一側へ凹んでおり、前記第2非接触リップと対向する第2非接触部とを有し、
前記第2非接触リップの先端は、前記第1非接触部の底面よりも軸方向一側に位置する請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記第1非接触リップは、前記第2非接触リップよりも大きな厚みを有する請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記シールランド部における前記非接触部は、旋削加工面または研削加工面を有する請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記ハブ輪は、前記フランジ面とシールランド部との間に位置し、外径側から内径側へ向かうに従って軸方向一側へ傾斜する傾斜面を有する請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記傾斜面の前記フランジ面に対する傾斜角度は、20°以上、かつ40°以下である請求項5に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記傾斜面の外径側端は、前記フランジ面よりも軸方向他側に位置している請求項5に記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
軸方向における前記フランジ面から前記シールランド部の底面までの距離Aと、軸方向における前記フランジ面から前記傾斜面の内径側端までの距離Bとが、
B/A≧0.15
の関係を満たし、
かつ、
径方向における前記傾斜面の外径側端から前記傾斜面の内径側端までの距離Cと、径方向における前記傾斜面の外径側端から前記シールランド部の内径側端までの距離Dとが、
C/D≧0.2
の関係を満たす請求項5~請求項7の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項9】
内周に複列の外側軌道溝を有する外方部材と、
径方向外側へ延びるハブフランジを有するハブ輪と、前記ハブ輪に連結された軌道面形成部材とからなり、前記ハブ輪および前記軌道面形成部材に前記外側軌道溝に対向する内側軌道溝が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道溝間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、
前記ハブ輪は、前記内側軌道溝と、前記ハブフランジの軸方向他側に面するフランジ面と、前記内側軌道溝と前記フランジ面との間に位置し、前記フランジ面よりも軸方向一側に凹んだシールランド部と、前記フランジ面とシールランド部との間に位置し、外径側から内径側へ向かうに従って軸方向一側へ傾斜する傾斜面とを備え、
前記密封装置は、前記外方部材における軸方向一端部に嵌合される芯金と、前記芯金に一体的に接合される第1シール部材と、前記シールランド部に嵌装される金属環と、前記金属環と前記傾斜面との間に介装される第2シール部材とを備え、
前記第1シール部材は、前記芯金から前記ハブフランジ側へ向けて延出し、前記金属環と接触する接触リップと、前記接触リップよりも外径側において前記芯金から前記ハブフランジ側へ向けて延出し、前記金属環と隙間をもって対向する非接触リップとを有する車輪用軸受装置。
【請求項10】
前記シール部材は、前記外方部材の外周面よりも外径側、かつ前記外方部材の軸方向一端部よりも軸方向一側に突出する堰部を有し、
前記金属環の外径側端部は、前記堰部よりも内径側、かつ径方向から見て前記堰部と重なる位置に位置する請求項9に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置には、外方部材と内方部材とによって形成された環状空間の開口端を塞ぎ、泥水等の異物の入り込みを防止する密閉装置が設けられている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の車輪用軸受装置においては、内方部材であるハブ輪が径方向外側に延びる車輪取付フランジを有しており、車輪取付フランジの基端部には、密封装置のシール部材が接触するシールランド部が形成されている。
【0004】
シールランド部は、車輪取付フランジのインナー側端面からアウター側へ窪んだ凹部に形成されている。凹部にはシール部材の一部が収まっており、シール部材における3枚のシールリップがシールランド部に接触している。また、凹部のシール部材が接触している部分よりも外径側には、外輪のアウター側端部が進入しており、外輪のアウター側端部と凹部の内周面とで、ラビリンス部を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、特許文献1に記載の車輪用軸受装置においては、3枚のシールリップがシールランド部に接触するとともに、外輪のアウター側端部と凹部の内周面とでラビリンス部を構成することにより、密封装置の耐泥水性を向上している。
【0007】
しかし、ハブ輪のシールランド部には3枚のシールリップが接触しているため、車輪用軸受装置のトルクが高くなりがちであった。
【0008】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、密封装置の耐泥水性を向上しながら低トルク化を図ることができる車輪用軸受装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道溝を有する外方部材と、径方向外側へ延びるハブフランジを有するハブ輪と、前記ハブ輪に連結された軌道面形成部材とからなり、前記ハブ輪および前記軌道面形成部材に前記外側軌道溝に対向する内側軌道溝が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道溝間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、前記密封装置は、前記外方部材における軸方向一端部に嵌合される芯金と、前記芯金に一体的に接合されるシール部材とを備え、前記ハブ輪は、前記内側軌道溝と、前記ハブフランジの軸方向他側に面するフランジ面と、前記内側軌道溝と前記フランジ面との間に位置し、前記フランジ面よりも軸方向一側に凹んだシールランド部とを備え、前記シール部材は、前記芯金から前記ハブフランジ側へ向けて延出し、前記シールランド部と接触する接触リップと、前記接触リップよりも外径側において前記芯金から前記ハブフランジ側へ向けて延出し、前記フランジ面よりも軸方向一側において前記シールランド部と隙間をもって対向する非接触リップとを有し、前記シールランド部は、前記接触リップが接触する接触部と、前記非接触リップと隙間をもって対向する非接触部とを有する。
【0010】
また、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道溝を有する外方部材と、径方向外側へ延びるハブフランジを有するハブ輪と、前記ハブ輪に連結された軌道面形成部材とからなり、前記ハブ輪および前記軌道面形成部材に前記外側軌道溝に対向する内側軌道溝が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道溝間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、前記ハブ輪は、前記内側軌道溝と、前記ハブフランジの軸方向他側に面するフランジ面と、前記内側軌道溝と前記フランジ面との間に位置し、前記フランジ面よりも軸方向一側に凹んだシールランド部と、前記フランジ面とシールランド部との間に位置し、外径側から内径側へ向かうに従って軸方向一側へ傾斜する傾斜面とを備え、前記密封装置は、前記外方部材における軸方向一端部に嵌合される芯金と、前記芯金に一体的に接合される第1シール部材と、前記シールランド部に嵌装される金属環と、前記金属環と前記傾斜面との間に介装される第2シール部材とを備え、前記第1シール部材は、前記芯金から前記ハブフランジ側へ向けて延出し、前記金属環と接触する接触リップと、前記接触リップよりも外径側において前記芯金から前記ハブフランジ側へ向けて延出し、前記金属環と隙間をもって対向する非接触リップとを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、密封装置の耐泥水性を向上しながら低トルク化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】アウター側シール部材およびハブ輪における車輪取り付けフランジの基端部を示す側面断面図である。
【
図3】ハブ輪に対して研削砥石による研削加工を行う様子を示す側面断面図である。
【
図4】ハブ輪における車輪取り付けフランジの基端部を示す側面断面図である。
【
図5】第2実施形態に係るハブ輪における車輪取り付けフランジの基端部を示す側面断面図である。
【
図6】第3実施形態に係るハブ輪における車輪取り付けフランジの基端部を示す側面断面図である。
【
図7】第2実施形態に係るアウター側シール部材およびハブ輪における車輪取り付けフランジの基端部を示す側面断面図である。
【
図8】第2実施形態に係る車輪用軸受装置を示す一部側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0014】
[車輪用軸受装置]
図1に示す車輪用軸受装置1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態であり、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。
【0015】
以下の説明において、軸方向とは車輪用軸受装置1の回転軸心Xに沿った方向を表す。また、アウター側とは、軸方向の一側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表し、インナー側とは、軸方向の他側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表す。
【0016】
車輪用軸受装置1は第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3および内輪4と、転動列である二列のインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6と、インナー側シール部材9およびアウター側シール部材10とを具備する。内輪4は、ハブ輪に連結された軌道面形成部材の一例である。
【0017】
外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材9が嵌合可能なインナー側開口部2aが形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材10が嵌合可能なアウター側開口部2bが形成されている。
【0018】
インナー側シール部材9がインナー側開口部2aに嵌合されることにより、外方部材である外輪2と内方部材であるハブ輪3および内輪4とによって形成された環状空間Sのインナー側の開口端が塞がれている。アウター側シール部材10がアウター側開口部2bに嵌合されることにより、環状空間Sのアウター側の開口端が塞がれている。
【0019】
アウター側シール部材10は、環状空間Sの軸方向一端側であるアウター側の開口端を塞ぐ密封装置である。インナー側シール部材9は、環状空間Sの軸方向他端側であるインナー側の開口端を塞ぐ密封装置である。このように、インナー側シール部材9およびアウター側シール部材10により環状空間Sのインナー側およびアウター側の開口端を塞ぐことで、泥水等の異物が車輪用軸受装置1の内部へ浸入することを抑制している。
【0020】
外輪2の内周面には、インナー側の外側軌道溝2cと、アウター側の外側軌道溝2dとが形成されている。外輪2の外周面には、外輪2を車体側部材に取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体的に形成されている。車体取り付けフランジ2eには、車体側部材と外輪2とを締結する締結部材(ここでは、ボルト)が挿入されるボルト孔2gが設けられている。
【0021】
ハブ輪3の外周面3jにおけるインナー側端部には、アウター側端部よりも縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。
【0022】
車輪取り付けフランジ3bには、複数のボルト孔3fが形成されている。ボルト孔3fには、ハブ輪3と車輪又はブレーキ部品とを締結するためのハブボルト3iが圧入されている。車輪取り付けフランジ3bは、径方向外側へ延びるハブフランジの一例である。なお、本実施形態においては、ボルト孔3fにはハブボルト3iが圧入されているが、ボルト孔3fは、ホイールボルト用のタップ孔に形成することも可能である。
【0023】
ハブ輪3の外周面3jには、外輪2のアウター側の外側軌道溝2dに対向するようにアウター側の内側軌道溝3cが設けられている。つまり、内方部材のアウター側には、ハブ輪3によって内側軌道溝3cが構成されている。
【0024】
車輪取り付けフランジ3bのインナー側の基端部には、アウター側シール部材10が摺接するシールランド部3dが形成されている。内側軌道溝3cは、軸方向においてシールランド部3dのインナー側に隣接して位置している。車輪取り付けフランジ3bは、インナー側に面するフランジ面3kを有している。フランジ面3kはシールランド部3dの外径側に位置しており、シールランド部3dは内側軌道溝3cとフランジ面3kとの間に位置している。
【0025】
シールランド部3dは、フランジ面3kよりもアウター側へ凹んだ円環状の溝形状を有している。車輪取り付けフランジ3bのインナー側の側面においては、フランジ面3kとシールランド部3dとの間に傾斜面3mが形成されている。
【0026】
ハブ輪3の小径段部3aには、内輪4が設けられている。内輪4は、ハブ輪3の小径段部3aに圧入されている。内輪4は、転動列であるインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6に予圧を付与している。
【0027】
内輪4の外周面には、外輪2のインナー側の外側軌道溝2cと対向するようにインナー側の内側軌道溝4aが設けられている。つまり、内方部材のインナー側には、内輪4によって内側軌道溝4aが構成されている。
【0028】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール7が保持器8によって保持されることにより構成されている。インナー側ボール列5は、内輪4の内側軌道溝4aと、外輪2のインナー側の外側軌道溝2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、ハブ輪3の内側軌道溝3cと、外輪2のアウター側の外側軌道溝2dとの間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、外方部材と内方部材との両軌道溝間に転動自在に収容されている。
【0029】
車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3および内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、車輪用軸受装置1は複列アンギュラ玉軸受に替えて複列円錐ころ軸受を構成していてもよい。
【0030】
[アウター側シール部材]
図2に示すように、アウター側シール部材10は、外輪2におけるアウター側端部の外周面2hに嵌合される芯金11と、芯金11に一体的に接合されるシール部材12とを備えている。
【0031】
芯金11は、例えば鋼板により構成されており、外輪2のアウター側端部の外周面2hに嵌合される円筒状の嵌合部11aと、嵌合部11aのアウター側端部から内径側へ延び、外輪2のアウター側端面と当接する当接部11bと、当接部11bから内径側へ延びる内径部11cとを有している。
【0032】
シール部材12は、例えば合成ゴム等の弾性部材によって形成されており、芯金11に加硫接着によって接合されている。シール部材12は、基部12aと、ラジアルリップ12bと、接触リップ12cと、第1非接触リップ12dと、第2非接触リップ12eと、堰部12fとを有している。基部12aは、芯金11の嵌合部11aから当接部11bを経由して、内径部11cに至るまでの範囲に接合されている。
【0033】
ラジアルリップ12bは、シール部材12の内径側端部に位置しており、芯金11の内径部11cから、径方向内側かつインナー側へ向けて延出している。ラジアルリップ12bは、グリースの油膜を介してハブ輪3のシールランド部3dに摺接している。
【0034】
接触リップ12cは、ラジアルリップ12bよりも外径側において、芯金11の内径部11cから、車輪取り付けフランジ3b側かつ径方向外側へ向けて延出している。接触リップ12cの先端部はフランジ面3kよりもアウター側に入り込んでおり、接触リップ12cはフランジ面3kよりもアウター側においてグリースの油膜を介してシールランド部3dと接触している。接触リップ12cは、シールランド部と接触する接触リップの一例である。
【0035】
第1非接触リップ12dは、接触リップ12cよりも外径側において、芯金11の内径部11cから、車輪取り付けフランジ3b側かつ径方向外側へ向けて延出している。
【0036】
第1非接触リップ12dの先端部はフランジ面3kよりもアウター側に入り込んでおり、第1非接触リップ12dはフランジ面3kよりもアウター側においてシールランド部3dと隙間をもって対向している。第1非接触リップ12dは、フランジ面3kよりもアウター側においてシールランド部と隙間をもって対向する非接触リップの一例である。
【0037】
第2非接触リップ12eは、径方向において接触リップ12cと第1非接触リップ12dとの間に位置している。つまり、第2非接触リップ12eは、第1非接触リップ12dよりも内径側に位置している。第2非接触リップ12eは、芯金11の内径部11cから、車輪取り付けフランジ3b側へ向けて延出している。
【0038】
第2非接触リップ12eの先端部は、フランジ面3kよりもアウター側に入り込んでおり、第2非接触リップ12eはフランジ面3kよりもアウター側においてシールランド部3dと隙間をもって対向している。第2非接触リップ12eは、フランジ面3kよりもアウター側においてシールランド部3dと隙間をもって対向する非接触リップの一例である。第2非接触リップ12eは、第1非接触リップ12dよりもアウター側へ延出している。
【0039】
本実施形態においては、アウター側シール部材10におけるシール部材12は第1非接触リップ12dおよび第2非接触リップ12eを有しており、複数の非接触リップを有している。但し、シール部材12は、1つの非接触リップを有する構成、または3つ以上の非接触リップを有する構成とすることも可能である。
【0040】
堰部12fは、芯金11の嵌合部11aから外径側へ延出しており、外輪2の外周面2hよりも外径側に突出している。堰部12fとフランジ面3kとは、軸方向において隙間をもって対向している。
【0041】
アウター側シール部材10においては、シール部材12の第1非接触リップ12dおよび第2非接触リップ12eと、ハブ輪3のシールランド部3dとによってラビリンスシールが構成されている。第1非接触リップ12dおよび第2非接触リップ12eとシールランド部3dとによってラビリンスシールを構成することにより、アウター側シール部材10の内部へ泥水等の異物が浸入することを抑制している。
【0042】
この場合、シールランド部3dは、フランジ面3kよりもアウター側に凹んでおり、第1非接触リップ12dおよび第2非接触リップ12eの先端部はフランジ面3kよりもアウター側に位置している。従って、フランジ面3kと堰部12fとの間からアウター側シール部材10の内部へ浸入した泥水等の異物が、第1非接触リップ12dおよび第2非接触リップ12eの先端部に直接かかることが抑制され、アウター側シール部材10の耐泥水性を向上することが可能である。
【0043】
さらに、アウター側シール部材10においては、ラジアルリップ12bと接触リップ12cとの2枚のシールリップがシールランド部3dに接触しているだけなので、アウター側シール部材10の耐泥水性を向上しながら低トルク化を図ることが可能となっている。
【0044】
アウター側シール部材10においては、泥水等の異物がフランジ面3kと堰部12fとの間からアウター側シール部材10の内部へ浸入した場合、泥水等の異物は第2非接触リップ12eよりも先に第1非接触リップ12dに接触するため、第1非接触リップ12dには第2非接触リップ12eよりも大きな力が作用する。
【0045】
従って、アウター側シール部材10においては、第1非接触リップ12dの肉厚を、第2非接触リップ12eの肉厚よりも大きく形成している。これにより、第1非接触リップ12dに大きな力が作用した場合でも、第1非接触リップ12dが変形することを抑制可能となっている。また、第1非接触リップ12dの変形を抑制するために、第1非接触リップ12dの硬度が第2非接触リップ12eの硬度よりも高くなるようにシール部材12を形成することも可能である。
【0046】
[ハブ輪]
図2に示すように、ハブ輪3の車輪取り付けフランジ3bにおいては、外径側から基端部側へ向けて、フランジ面3k、傾斜面3m、およびシールランド部3dの順に位置している。つまり、車輪取り付けフランジ3bにおいては、フランジ面3kとシールランド部3dとの間に傾斜面3mが位置している。傾斜面3mは、外径側から内径側へ向かうに従ってアウター側へ傾斜している。傾斜面3mの外径側端は、軸方向においてフランジ面3kと同じ位置にあり、傾斜面3mの内径側端は、軸方向においてフランジ面3kよりもアウター側に位置している。
【0047】
シールランド部3dは、接触リップ12cが接触する接触部31と、第1非接触リップ12dおよび第2非接触リップ12eと隙間をもって対向する非接触部32とを有している。接触部31は、非接触部32よりも内径側に位置している。接触部31のインナー側かつ内径側には、内側軌道溝3cが位置している。
【0048】
接触リップ12cは、フランジ面3kよりもアウター側において接触部31と接触している。第1非接触リップ12dおよび第2非接触リップ12eは、フランジ面3kよりもアウター側において非接触部32と隙間をもって対向している。
【0049】
ハブ輪3においては、フランジ面3k、傾斜面3m、シールランド部3d、内側軌道溝3c、内側軌道溝3cよりもインナー側の外周面3j、および小径段部3aが旋削工具により旋削加工され、シールランド部3dにおける接触部31、内側軌道溝3c、内側軌道溝3cよりもインナー側の外周面3j、および小径段部3aは、旋削加工の後に、研削砥石GSによる研削加工がさらに行われる。
【0050】
ハブ輪3においては、摩耗防止および回転曲げモーメント負荷時の応力集中に対応するために、少なくとも内側軌道溝3cおよびシールランド部3dにおける接触部31が形成されている範囲に、焼入れが施された熱処理部を有している。熱処理部においては、ハブ輪の表面硬度および強度が向上している。熱処理部における焼入れは、高周波焼入れや浸炭焼入れ等によって行うことが可能である。研削砥石GSによる研削加工は、内側軌道溝3cおよび接触部31等に対する熱処理の後に行われる。
【0051】
図3に示すように、ハブ輪3に対して研削砥石GSによる研削加工を行う際には、例えばシールランド部3dにおける接触部31、内側軌道溝3c、内側軌道溝3cよりもインナー側の外周面3j、および小径段部3aに対して同時に研削加工を行う。この場合、研削砥石GSは、車輪取り付けフランジ3bのフランジ面3kに対して傾斜角度θ1だけ傾斜した方向に移動しながらハブ輪3に対する研削加工を行う。なお、インナー側の外周面3jは、研削加工をせずに旋削加工のままとすることも可能である。
【0052】
図4に示すように、ハブ輪3における傾斜面3mのフランジ面3kに対する傾斜角度はθ2である。傾斜面3mの傾斜角度θ2は、研削砥石GSの移動方向の傾斜角度θ1と同程度に設定されている。従って、研削砥石GSはハブ輪3に近づく方向へ移動するときに傾斜面3mに沿って移動することができ、ハブ輪3と干渉することなく円滑に移動することが可能となる。
【0053】
このように、ハブ輪3においては、シールランド部3dの外径側に傾斜面3mが配置されているため、研削砥石GSはハブ輪3と干渉することなく円滑に移動することが可能となり、シールランド部3dの接触部31、内側軌道溝3c、外周面3j、および小径段部3aを同時に研削加工することが容易となる。
【0054】
例えば、研削加工を行う際の研削砥石GSの移動方向の傾斜角度θ1が30°であった場合、傾斜面3mの傾斜角度θ2は、20°以上、かつ40°以下に設定することが好ましい。傾斜面3mの傾斜角度θ2をこのように設定することで、研削砥石GSをより円滑に移動することが可能となり、研削砥石GSによるシールランド部3dの接触部31、内側軌道溝3c、外周面3j、および小径段部3aの同時加工をさらに容易に行うことができる。
【0055】
研削加工が行われるシールランド部3dの接触部31は、接触部31の軸方向における最もアウター側に位置する底面31aを有している。底面31aは、シールランド部3dの全体においても軸方向における最もアウター側に位置する部分であり、シールランド部3dの底面でもある。
【0056】
ハブ輪3においては、軸方向におけるフランジ面3kからシールランド部3dの底面31aまでの距離Aと、軸方向におけるフランジ面3kから傾斜面3mの内径側端までの距離Bとが、B/A≧0.15の関係を満たすように、傾斜面3mが形成されている。
【0057】
また、径方向における傾斜面3mの外径側端から傾斜面3mの内径側端までの距離Cと、径方向における傾斜面3mの外径側端からシールランド部3dの内径側端までの距離Dとが、C/D≧0.2の関係を満たすように、傾斜面3mが形成されている。
【0058】
このように、B/A≧0.15、およびC/D≧0.2の関係を満たすように傾斜面3mを形成することで、車輪用軸受装置1の大きさやシールランド部3dの大きさが変化した場合でも、研削砥石GSと傾斜面3mとが干渉することなく、研削砥石GSによる研削加工を行うことが可能となる。
【0059】
ハブ輪3においては、旋削加工が行われるフランジ面3k、傾斜面3mおよびシールランド部3dにおける非接触部32は旋削加工面を有している。また、旋削加工の後に研削加工が行われる、シールランド部3dにおける接触部31、内側軌道溝3c、内側軌道溝3cよりもインナー側の外周面3j、および小径段部3aは研削加工面を有している。
【0060】
なお、本実施形態においては、シールランド部3dにおける非接触部32は、傾斜面3mよりもアウター側に窪んでいるため、研削砥石GSによって接触部31等と同時に研削加工を行うことが困難であるが、非接触部32に研削加工を施さない仕様とすることで、接触部31等の研削加工を容易にすることができる。
【0061】
但し、ハブ輪3においては、シールランド部3dの非接触部32に対して研削加工を行うことも可能である。この場合は、シールランド部3dにおける非接触部32は、研削加工面を有する。
【0062】
[ハブ輪の第2実施形態]
傾斜面3mを備えたハブ輪3は、
図5に示すハブ輪3Aのように構成することもできる。ハブ輪3Aは、突出面3nを有しており、傾斜面3mの外径側端がフランジ面3kよりもインナー側に位置している点で、突出面3nを有しておらず、傾斜面3mの外径側端が軸方向においてフランジ面3kと同じ位置に位置するハブ輪3と異なっている。ハブ輪3Aのその他の構成は、ハブ輪3と同様である。
【0063】
突出面3nは、径方向においてフランジ面3kと傾斜面3mとの間に位置しており、軸方向においてフランジ面3kよりもインナー側に突出している。突出面3nは、軸方向においてアウター側シール部材10のシール部材12と隙間をもって対向している。突出面3nは、径方向において、シール部材12の第1非接触リップ12dよりも外径側、かつ堰部12fの外径側端よりも内径側に位置している。
【0064】
突出面3nの外径側端は、外径側へ向かうに従ってアウター側へ傾斜する曲面3pによってフランジ面3kと滑らかに接続されている。突出面3nは傾斜面3mの外径側に連続して形成されており、突出面3nの内径側端は傾斜面3mの外径側端と接続されている。傾斜面3mの外径側端は、フランジ面3kよりもインナー側に位置している。
【0065】
第1非接触リップ12dの先端部、第2非接触リップ12eの先端部、および接触リップ12cの先端部は、それぞれ突出面3nおよび傾斜面3mよりもアウター側に位置している。
【0066】
このように構成されるハブ輪3Aにおいては、フランジ面3kに沿って内径側へ流れる泥水は、曲面3pを経由して内径側に流れることで、シール部材12の堰部12f等に当たった後に、シール部材12に沿って第1非接触リップ12dの基端部に到達する。
【0067】
従って、フランジ面3kに沿って内径側へ流れる泥水が、フランジ面3kの内径側端から第1非接触リップ12dの基端部に直接到達することがなく、第1非接触リップ12dにかかる負荷を低減することが可能である。
【0068】
また、ハブ輪3Aにフランジ面3kよりもインナー側に突出する突出面3nを形成することで、第1非接触リップ12dよりも外径側のシール部材12と傾斜面3mとで囲まれた空間の体積を大きく形成することができ、突出面3nとシール部材12との間からアウター側シール部材10の内部に浸入してきた泥水の貯溜空間を増大させることが可能である。
【0069】
[ハブ輪の第3実施形態]
傾斜面3mを備えたハブ輪3は、
図6に示すハブ輪3Bのように構成することもできる。ハブ輪3Bは、非接触部32Aを有するシールランド部3dAを備えている点で、非接触部32を有するシールランド部3dを備えたハブ輪3と異なっている。ハブ輪3Bのその他の構成は、ハブ輪3と同様である。
【0070】
非接触部32Aは、第1非接触リップ12dと対向する第1非接触部321と、第2非接触リップ12eと対向する第2非接触部322とを有している。第1非接触部321は第2非接触部322よりも外径側に位置している。
【0071】
第1非接触リップ12dは、フランジ面3kよりもアウター側において第1非接触部321と隙間をもって対向している。第2非接触リップ12eは、フランジ面3kよりもアウター側において第2非接触部322と隙間をもって対向している。
【0072】
第1非接触部321は、第1非接触部321の軸方向における最もアウター側に位置する底面321aを有しており、第2非接触部322は、第2非接触部322の軸方向における最もアウター側に位置する底面322aを有している。
【0073】
第2非接触部322は第1非接触部321よりもアウター側に凹んでおり、第2非接触部322の底面322aは、第1非接触部321の底面321aよりもアウター側に位置している。第2非接触リップ12eの先端は、第1非接触部321の底面321aよりもアウター側に位置している。
【0074】
このように構成されるハブ輪3Bにおいては、フランジ面3kに沿って内径側へ流れる泥水が、フランジ面3kとシール部材12との間からアウター側シール部材10の内部へ浸入した場合、第1非接触リップ12dよりも外径側のシール部材12と傾斜面3mとで囲まれた空間内に貯溜される。
【0075】
さらに、第1非接触リップ12dよりも外径側のシール部材12と傾斜面3mとで囲まれた空間内に貯溜された泥水が、第1非接触リップ12dの先端を超えて溢れ出た場合には、溢れ出た泥水は第2非接触リップ12eと第1非接触リップ12dとで囲まれた空間内に浸入する。
【0076】
この場合、第2非接触リップ12eの先端は第1非接触部321の底面321aよりもアウター側に位置しているため、泥水が第2非接触リップ12eの先端を超えて、第2非接触リップ12eよりも内径側に位置する接触リップ12cに到達することが抑制される。これにより、アウター側シール部材10の耐泥水性を向上することが可能となっている。
【0077】
[アウター側シール部材の第2実施形態]
アウター側シール部材10は、
図7に示すアウター側シール部材10Aのように構成することもできる。アウター側シール部材10Aは、シール部材12に代えてシール部材12Aを備えるとともに、スリンガ13と、弾性部材14とを備えている点で、シール部材12を備えるとともに、スリンガ13と弾性部材14とを備えていないアウター側シール部材10と異なっている。アウター側シール部材10Aのその他の構成は、アウター側シール部材10と同様である。シール部材12Aは、第1シール部材の一例である。スリンガ13は、金属環の一例である。
【0078】
スリンガ13は、ハブ輪3のシールランド部3dに嵌装されている。スリンガ13は、例えば鋼板により構成されており、嵌装部13aと、延出部13bと、外径部13cとを有している。
【0079】
嵌装部13aは、シールランド部3dの接触部31に沿った形状に形成されており、接触部31に嵌装されている。嵌装部13aは、径方向においてシール部材12のラジアルリップ12bと対向しており、嵌装部13aとラジアルリップ12bとはグリースの油膜を介して接触している。嵌装部13aは、軸方向においてシール部材12の接触リップ12cと対向しており、嵌装部13aと接触リップ12cとはグリースの油膜を介して接触している。
【0080】
延出部13bは、嵌装部13aの外径側端からインナー側かつ外径側へ直線的に延びている。延出部13bの外周面は、シールランド部3dの非接触部32および傾斜面3mと隙間をもって対向している。延出部13bの内周面は、シール部材12Aの第1非接触リップ12dおよび第2非接触リップ12eと隙間をもって対向している。
【0081】
外径部13cは、延出部13bの外径側端から外径側へ延びている。外径部13cのアウター側面は、傾斜面3mおよびフランジ面3kと隙間をもって対向しており、外径部13cのインナー面はシール部材12Aと隙間をもって対向している。
【0082】
シール部材12Aの接触リップ12c、第1非接触リップ12d、および第2非接触リップ12eの先端は、外径部13cよりもアウター側に位置している。
【0083】
スリンガ13における外径部13cの先端面およびアウター側面と、延出部13bの外周面とには、弾性部材14が一体的に接合されている。弾性部材14は、例えば合成ゴムにより形成されている。弾性部材14は、第2シール部材の一例である。
【0084】
弾性部材14における延出部13bの外周面に位置する部分には、延出部13bからアウター側かつ外径側に突出する突起14aが形成されている。突起14aはハブ輪3の傾斜面3mに接触しており、ハブ輪3の傾斜面3mとスリンガ13の延出部13bとの間を密封している。つまり、弾性部材14は、スリンガ13と傾斜面3mとの間に介装されており、スリンガ13と傾斜面3mとの間をシールしている。
【0085】
シール部材12Aは、堰部12fに代えて堰部12fAを有している点で、シール部材12と異なっている。シール部材12Aのその他の構成は、シール部材12と同様である。
【0086】
堰部12fAは、外輪2の外周面2hよりも外径側、かつ外輪2のアウター側端部よりもアウター側に突出している。スリンガ13の外径部13cは、は、堰部12fAよりも内径側、かつ径方向から見て堰部12fAと重なる位置に位置している。
【0087】
このように、スリンガ13を備えたアウター側シール部材10Aにおいては、シール部材12Aの第1非接触リップ12dおよび第2非接触リップ12eと、スリンガ13の延出部13bとによってラビリンスシールが構成されている。第1非接触リップ12dおよび第2非接触リップ12eとスリンガ13とによってラビリンスシールを構成することにより、アウター側シール部材10Aの内部へ泥水等の異物が浸入することを抑制している。
【0088】
この場合、第1非接触リップ12dおよび第2非接触リップ12eの先端部は外径部13cよりもアウター側に位置している。従って、外径部13cとシール部材12Aとの間からアウター側シール部材10Aの内部へ浸入した泥水等の異物が、第1非接触リップ12dおよび第2非接触リップ12eの先端部に直接かかることが抑制され、アウター側シール部材10Aの耐泥水性を向上することが可能である。
【0089】
さらに、アウター側シール部材10Aにおいては、ラジアルリップ12bと接触リップ12cとの2枚のシールリップがスリンガ13に接触しているだけなので、アウター側シール部材10Aの耐泥水性を向上しながら低トルク化を図ることが可能となっている。
【0090】
また、アウター側シール部材10Aにおいては、堰部12fAと、スリンガ13の外径部13cとが径方向から見て重なる位置に位置しており、堰部12fAとスリンガ13とでラビリンスシールを構成している。従って、泥水等の異物がスリンガ13の外径部13cとシール部材12Aとの間からアウター側シール部材10Aの内部へ浸入することを抑制して、アウター側シール部材10Aの耐泥水性を向上することが可能である。
【0091】
また、アウター側シール部材10Aにおいては、弾性部材14の突起14aが、スリンガ13の延出部13bと傾斜面3mとの間に介装されていて、スリンガ13と傾斜面3mとの間をシールしているため、ハブ輪3とスリンガ13との間に泥水等の異物が浸入して、ハブ輪3が錆びることを抑制可能となっている。
【0092】
この場合、ハブ輪3の傾斜面3mに研削加工を施して、傾斜面3mが研削加工面を有する構成とすることで、傾斜面3mに対する弾性部材14のシール性を向上することもできる。
【0093】
[車輪用軸受装置の第2実施形態]
車輪用軸受装置1は、
図8に示す車輪用軸受装置1Aのように構成することもできる。車輪用軸受装置1Aは、ハブ輪3Cに連結される等速自在継手20を備えており、内輪4を備えていない。等速自在継手20は、ハブ輪に連結された軌道面形成部材の一例である。
【0094】
等速自在継手20は、駆動源からの駆動力が入力されるシャフトを支持するマウス部22と、マウス部22からアウター側へ向けて延びるステム部23とを備えている。ハブ輪3Cは、軸方向に貫通する貫通孔3eを有しており、貫通孔3eとステム部23とはスプライン嵌合している。
【0095】
マウス部22におけるアウター側端部の外周面には、外輪2のインナー側の外側軌道溝2cに対向する内側軌道溝28が形成されている。インナー側ボール列5は、外輪2のインナー側の外側軌道溝2cと、等速自在継手20におけるマウス部22の内側軌道溝28との間に転動自在に挟まれている。
【0096】
つまり、車輪用軸受装置1Aにおいては、外輪2の外側軌道溝2cに対向する内側軌道溝28を有する等速自在継手20が、内輪を兼ねる構成となっている。
【0097】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0098】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2b アウター側開口部
2c (インナー側の)外側軌道溝
2d (アウター側の)外側軌道溝
3、3A、3B ハブ輪
3b 車輪取り付けフランジ
3c 内側軌道溝
3d、3dA シールランド部
3k フランジ面
3m 傾斜面
4 内輪
4a 内側軌道溝
5 インナー側ボール列
6 アウター側ボール列
10、10A アウター側シール部材
11 芯金
12、12A シール部材
12c 接触リップ
12d 第1非接触リップ
12e 第2非接触リップ
12f、12fA 堰部
13 スリンガ
13c 外径部
14 弾性部材
20 等速自在継手
28 内側軌道溝
31 接触部
32、32A 非接触部
321 第1非接触部
321a 底面
322 第2非接触部
A (フランジ面からシールランド部の底面までの軸方向の)距離
B (フランジ面から傾斜面の内径側端までの軸方向の)距離
C (傾斜面の外径側端から内径側端までの径方向の)距離
D (傾斜面の外径側端からシールランド部の内径側端までの径方向の)距離
θ2 (傾斜面の)傾斜角度