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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119434
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】マイクロポーラス層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240827BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240827BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240827BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/86 H
H01M4/88 K
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026327
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000100780
【氏名又は名称】アイシン化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 栄也
(72)【発明者】
【氏名】相武 将典
(72)【発明者】
【氏名】谷井 理沙子
(72)【発明者】
【氏名】牧野 肇
(72)【発明者】
【氏名】坂本 百合香
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS01
5H018BB01
5H018BB08
5H018DD05
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE06
5H018EE07
5H018EE08
5H018EE11
5H018EE12
5H018EE16
5H018EE18
5H018HH03
5H018HH05
5H018HH08
5H018HH09
5H018HH10
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】本開示は、高い強度と高い撥水性を有するマイクロポーラス層を提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態のマイクロポーラス層は、エタノールを25wt%含む水溶液の転落角が30°未満であり、且つサイカス評価による強度が0.068Nを超える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールを25wt%含む水溶液の転落角が30°未満であり、且つサイカス評価による強度が0.068Nを超える、マイクロポーラス層。
【請求項2】
溶融粘度が異なる2種以上のフッ素樹脂を含む、請求項1に記載のマイクロポーラス層。
【請求項3】
フッ素樹脂及び導電性粒子を含み、
フッ素樹脂及び導電性粒子の合計100質量%当たり、フッ素樹脂が0質量%を超え、40質量%以下である、請求項1に記載のマイクロポーラス層。
【請求項4】
フッ素樹脂Aと、フッ素樹脂Aよりも溶融粘度の低いフッ素樹脂Bとを含み、
フッ素樹脂Aとフッ素樹脂Bとの質量比であるフッ素樹脂A/フッ素樹脂B(質量比)が、1/6~3/1である、請求項1に記載のマイクロポーラス層。
【請求項5】
二種以上のフッ素樹脂を含む、マイクロポーラス層形成用ペーストが塗布されたガス拡散層基材を、融点の高いフッ素樹脂の融点-10℃よりも高温で、1~5分間焼成する、マイクロポーラス層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロポーラス層に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質からなる電解質膜の両面に電極(触媒層)が接合された膜電極接合体(MEA)を備えている。また、固体高分子形燃料電池において、触媒層の外側には、一般に、ガス拡散層が配置されている。ガス拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。さらに、ガス拡散層の外側には、ガス流路を備えたセパレータが配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEA、ガス拡散層及びセパレータからなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。ガス拡散層には、水管理性の観点からマイクロポーラス層を設けることが従来から提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、炭素シートとマイクロポーラス層とを有するガス拡散電極基材であって、前記炭素シートは多孔質であって、前記マイクロポーラス層に含まれる炭素粉末のDBP吸油量が70~155ml/100gであり、前記マイクロポーラス層は、マイクロポーラス層の目付(W)とマイクロポーラス層の厚さ(L)から算出される染み込みの指標(L/W)が1.10~8.00であり、マイクロポーラス層の厚さ(L)が10~100μmであることを特徴とする、ガス拡散電極基材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/076132号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、高い強度と高い撥水性を有するマイクロポーラス層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、高い強度と高い撥水性を両立するマイクロポーラス層を見出し、本開示に至った。
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
【0007】
(1) エタノールを25wt%含む水溶液の転落角が30°未満であり、且つサイカス評価による強度が0.068Nを超える、マイクロポーラス層。
(2) 溶融粘度が異なる2種以上のフッ素樹脂を含む、(1)に記載のマイクロポーラス層。
(3) フッ素樹脂及び導電性粒子を含み、
フッ素樹脂及び導電性粒子の合計100質量%当たり、フッ素樹脂が0質量%を超え、40質量%以下である、(1)又は(2)に記載のマイクロポーラス層。
(4) フッ素樹脂Aと、フッ素樹脂Aよりも溶融粘度の低いフッ素樹脂Bとを含み、
フッ素樹脂Aとフッ素樹脂Bとの質量比であるフッ素樹脂A/フッ素樹脂B(質量比)が、1/6~3/1である、(1)~(3)のいずれかに記載のマイクロポーラス層。
(5) 二種以上のフッ素樹脂を含む、マイクロポーラス層形成用ペーストが塗布されたガス拡散層基材を、融点の高いフッ素樹脂の融点-10℃よりも高温で、1~5分間焼成する、マイクロポーラス層の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、高い強度と高い撥水性を有するマイクロポーラス層を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態のマイクロポーラス層及びマイクロポーラス層の製造方法について詳細に説明する。本実施形態のマイクロポーラス層は、エタノールを25wt%含む水溶液の転落角が30°未満であり、且つサイカス評価による強度が0.068Nを超えるマイクロポーラス層である。
【0010】
(マイクロポーラス層)
マイクロポーラス層(以下、MPLとも記す)は、通常はガス拡散層基材の表面に形成され、マイクロポーラス層及びガス拡散層基材により、ガス拡散層を構成する。ガス拡散層は、通常は固体高分子形燃料電池の構成部材の一つとして使用される。固体高分子形燃料電池において、マイクロポーラス層は、ガス拡散層基材の触媒層側の表面に形成される層であり、触媒層で精製した水の排出を促進させるために設けられる部材である。MPLは、通常は導電性粒子と、撥水性樹脂とを含む。本実施形態の撥水性樹脂としては、フッ素樹脂が挙げられ、溶融粘度が異なる2種以上のフッ素樹脂を用いることが好ましい。
【0011】
フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共同合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレンが挙げられる。ある実施形態においてはフッ素樹脂としては溶融粘度が異なる2種以上のフッ素樹脂が用いられ、更なる態様においては溶融粘度が異なる2種類のフッ素樹脂が用いられる。
【0012】
MPLは、フッ素樹脂Aと、フッ素樹脂Aよりも溶融粘度の低いフッ素樹脂Bとを含むことが好ましい態様の一つである。フッ素樹脂Aは、フッ素樹脂Bよりも溶融粘度の高い樹脂であり、フッ素樹脂Bはフッ素樹脂Aよりも溶融粘度の低い樹脂である。すなわち、フッ素樹脂A及びフッ素樹脂Bは、二種類のフッ素樹脂の溶融粘度を比較することにより決まる相対的な概念である。なお、本開示において、溶融粘度は、各フッ素樹脂の融点より50℃高い温度での溶融粘度である。フッ素樹脂の溶融粘度は、各種文献から求めてもよく、自身で測定してもよく、製品のカタログ等から調べてもよい。
【0013】
フッ素樹脂A及びフッ素樹脂Bの組み合わせとしては、フッ素樹脂AがPTFEであり、フッ素樹脂BがPFA、FEP、PCTFE、又はETFEである組み合わせが挙げられる。具体例としては、フッ素樹脂AがPTFE、フッ素樹脂BがPFAの組み合わせ、フッ素樹脂AがPTFE、フッ素樹脂BがFEPの組み合わせが挙げらる。MPLにおいて、溶融粘度の高いフッ素樹脂Aは、少なくとも一部が塊状でMPL中に存在してもよく、フッ素樹脂Aが塊状でMPL中に存在する場合には、塊のサイズは10μm以下であることが好ましい。一方、溶融粘度の低いフッ素樹脂Bは、導電性粒子の表面をコーティングしていることが好ましい。フッ素樹脂Aとフッ素樹脂Bとの溶融粘度の差としては、特に限定はないが、10~10P(ポアズ)であることが好ましい態様の一つである。
【0014】
フッ素樹脂Aとフッ素樹脂Bとの質量比であるフッ素樹脂A/フッ素樹脂B(質量比)としては、特に制限はないが、例えば、1/6~3/1であり、好ましくは1/5~1/1であり、より好ましくは1/4~3/4である。
【0015】
フッ素樹脂の量としては、フッ素樹脂及び導電性粒子の合計100質量%当たり、フッ素樹脂が0質量%を超え、40質量%以下であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることが特に好ましい。
【0016】
フッ素樹脂として、フッ素樹脂A及びフッ素樹脂Bを用いる場合には、フッ素樹脂Aが3~25質量%であり、フッ素樹脂Bが7~25質量%であることが好ましく、フッ素樹脂Aが5~20質量%であり、フッ素樹脂Bが10~25質量%であることがより好ましく、フッ素樹脂Aが5~15質量%であり、フッ素樹脂Bが15~25質量%であることが更に好ましい。
【0017】
導電性粒子としては、導電性を有する物質であれば限定されないが、例えば、炭素材料、酸化スズ、貴金属、窒化チタン、これらの混合物が挙げられる。導電性粒子としては、炭素材料、窒化チタンが好ましい。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、黒鉛、活性炭が挙げられる。導電性粒子としては、カーボン粒子であることが好ましい態様の一つであり、平均粒径が20~150nmのカーボン粒子がより好ましい。導電性粒子としては、例えば、導電性に優れ、比表面積が大きいカーボンブラックを用いることが好ましく、導電性が高いアセチレンブラックがより好ましい。
【0018】
MPLの厚さは、通常は10μm超であり、好ましくは15μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上である。MPLの厚さが厚くなりすぎると、ガス拡散抵抗が増大し、燃料電池の出力が低下する場合があるため、MPLの厚さは、好ましくは60μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下であり、より好ましくは40μm以下である。
【0019】
MPLは、エタノールを25wt%含む水溶液の転落角が30°未満であるため、MPLは優れた撥水性を有している。転落角は25°未満であることが好ましく、20°未満であることがより好ましい。転落角の下限は特に制限はないが、通常は4°以上である。転落角は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0020】
MPLは、サイカス評価による強度が0.068Nを超えるため、MPLは優れた強度を有している。サイカス評価による強度は0.08Nを超えることが好ましく、0.1Nを超えることがより好ましい。サイカス評価による強度の上限は特に制限はないが、通常は0.3N以下である。サイカス評価による強度は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0021】
(マイクロポーラス層の製造方法)
MPLは、例えばマイクロポーラス層形成用ペーストを、ガス拡散層基材に塗布し、焼成することにより、得ることができる。MPLの製造方法としては、二種以上のフッ素樹脂を含む、マイクロポーラス層形成用ペーストが塗布されたガス拡散層基材を、融点の高いフッ素樹脂の融点-10℃よりも高温で、1~5分間焼成する、マイクロポーラス層の製造方法が挙げられる。
【0022】
マイクロポーラス層形成用ペーストは、通常は前述の炭素材料等の導電性粒子と、フッ素樹脂等の撥水性樹脂を含む。マイクロポーラス層形成用ペーストは、塗工性の観点から分散媒を通常は含み、導電性粒子及び撥水性樹脂を均一に分散させる観点から分散剤を含むことが好ましい。
【0023】
分散媒としては、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられ、環境負荷の観点から水が好ましい。分散剤としては、特に制限はないが、例えば界面活性剤、具体的には非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等が挙げられる。マイクロポーラス層形成用ペーストに分散剤が含まれる場合には、分散剤及びその焼成物の少なくとも一部がMPLに含まれていてもよい。
【0024】
分散媒、分散剤の量としては特に制限はなく、マイクロポーラス層形成用ペーストの塗工性の観点、導電性粒子及び撥水性樹脂を均一に分散させる観点から適宜設定することができる。例えば、分散剤は導電性粒子に対する固形分比で、3~20質量%、好ましくは5~15質量%で用いることができる。
【0025】
マイクロポーラス層形成用ペーストの調製方法としては、各成分が均一になるまで、混合、混練等を行う方法が挙げられる。
【0026】
ガス拡散層基材としては特に制限はなく、カーボンペーパー、カーボンクロス等のカーボン多孔質体を用いることができる。
【0027】
マイクロポーラス層形成用ペーストを、ガス拡散層基材に塗布する方法としては、特に制限はなく、例えばダイ塗工機を用いて行うことができる。
【0028】
前記焼成は、マイクロポーラス層形成用ペーストが、二種以上のフッ素樹脂を含む場合には、通常は融点の高いフッ素樹脂の融点-10℃よりも高温で行われる。なお、融点の高いフッ素樹脂とは、フッ素樹脂が二種類の場合にはより融点の高いフッ素樹脂を意味し、フッ素樹脂が三種類以上の場合には最も融点の高いフッ素樹脂を意味する。焼成は、好ましくは330℃以上で行われ、より好ましくは340℃以上で行われ、更に好ましくは345℃以上で行われる。焼成の時間は、通常は1~5分であり、好ましくは2分~4分40秒であり、3分~4分20秒である。
【0029】
焼成は、通常焼成炉で行われ、焼成炉としては例えばバッチ炉、連続炉を用いることができる。
【実施例0030】
以下、実施例を挙げて本実施形態を説明するが、本開示はこれらの例によって限定されるものではない。
【0031】
(実施例、比較例)
以下の工程1~4を経てマイクロポーラス層付きガス拡散層を製造した。
溶融粘度の高いフッ素樹脂Aとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(AGC製PTFEディスパーション(品番:AD911E))を用いた。
溶融粘度の低いフッ素樹脂Bとして、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)(ダイキン製PFAディスパーション(品番:AD-2CRER))を用いた。
カーボンは、粒径が20~150nmであり、燃料電池用途に使用可能な導電性を有し、金属コンタミネーションが低減されたものを用いた。
【0032】
各実施例、比較例は、工程1のフッ素樹脂の種類、カーボンに対する比率が異なり、工程4の温度、時間が異なる以外は、同様の方法で行った。
【0033】
比較例1はフッ素樹脂A(PTFE)の融点(327℃)-10℃より低い温度である、150℃で工程4の焼成を行った。それ以外の実施例、比較例では、317℃以上の温度で焼成を行った。
【0034】
また比較例1~8はフッ素樹脂としてフッ素樹脂A単独又はフッ素樹脂B単独を使用してMPLを作成した。
【0035】
[工程1]
導電性粒子としてのカーボンと、フッ素樹脂と、分散剤と、イオン交換水とを用意し、それらを調合し、混合物を得た。
【0036】
実施例、比較例では、工程1及び後述の工程2により、マイクロポーラス層形成用ペースト(MPL形成用ペースト)を製造した。マイクロポーラス層形成用ペーストは、フッ素樹脂及び導電性粒子(カーボン)の合計100質量%当たりカーボンが60~90質量%、フッ素樹脂が10~40質量%であり、分散剤がカーボンに対する固形分比で5~15質量%となるように調製した。
【0037】
[工程2]
工程1によって得られた混合物を、攪拌機を用いて混練し、MPL形成用ペーストを得た。すなわち、工程1によって得られた混合物を、各材料が均一に散らばるように混練した。
【0038】
[工程3]
工程2によって得られたMPL形成用ペーストを、ガス拡散層基材にダイ塗工機を用いて塗工した。ガス拡散層基材としては、多孔質体であるカーボンペーパーを使用した。
【0039】
[工程4]
工程3によってMPL形成用ペーストが塗工されたガス拡散層基材を乾燥、焼成することにより、燃料電池に使用可能なマイクロポーラス層付きガス拡散層を製造した。
【0040】
各実施例、比較例におけるフッ素樹脂、フッ素樹脂及びカーボンの合計100質量%中のフッ素樹脂Aの量(質量%)及びフッ素樹脂Bの量(質量%)、並びに工程4における焼成温度(℃)及び焼成時間を以下の表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
(転落角)
実施例、比較例で得たマイクロポーラス層付きガス拡散層の、マイクロポーラス層について、撥水性評価を行い、転落角を求めた。
【0043】
転落角測定器を用いた。エタノールを25wt%含む水溶液の25μlの液滴をマイクロポーラス層表面に滴下し、液滴が転落する最小の傾斜角を求め、転落角とした。転落角を表2に示す。
【0044】
(サイカス評価)
実施例、比較例で得たマイクロポーラス層付きガス拡散層の、マイクロポーラス層について、サイカス評価を行った。
【0045】
特開2021-118181号公報及び該公報が引用するサイカス法の原理図(http://www.wintes.co.jp/genrizusaicas.htmlより引用)に従い、以下の条件で測定した平均水平抵抗力(N)を、マイクロポーラス層のサイカス評価による強度とした。
【0046】
切刃には、刃幅1mm、すくい角20度、刃60度、逃げ角10度の物を用いた。切刃を用いて、マイクロポーラス層表面に水平抵抗力及び垂直抵抗力をかけた。マイクロポーラス層に切刃を押しつけると、切刃が2軸運動し、マイクロポーラス層が切刃により切削される(切り込み段階)。さらに、切刃が深さ10μmに到達後、切刃の運動を2軸運動から1軸運動に変え(深さ10μmは一定)、150秒間の水平抵抗力の平均値を取得し、当該平均値を、平均水平抵抗力(N)とした。平均水平抵抗力(N)を表2に示す。
【0047】
(発電評価)
電解質膜と触媒層との一体化品の両側を実施例、比較例で得たマイクロポーラス層付きガス拡散層を用いて、触媒層とマイクロポーラス層とが接するように挟み込み、膜電極接合体とした。得られた膜電極接合体を燃料電池用単セルに組み込み、燃料電池を製造した。以下の条件で発電評価(発電性能試験)を行った。単セルの溝/リブ幅は0.4/0.2mmで、金メッキ等で表面約3μmを処理したセルを用いた。
【0048】
[過加湿(RH165%)条件下発電性能試験]
得られた燃料電池を、下記条件にて発電させた。
・アノードガス:相対湿度(RH)165%(露点55℃)の水素ガス
・カソードガス:相対湿度(RH)165%(露点55℃)の空気
・セル温度(冷却水温度):45℃
発電により電流密度I-電圧V曲線を得た。得られたI-V曲線の3.0A/cmのセル電圧(V)を表2に示す。
【0049】
[高加湿(RH80%)条件下発電性能試験]
得られた燃料電池を、下記条件にて発電させた。
・アノードガス:相対湿度(RH)80%(露点55℃)の水素ガス
・カソードガス:相対湿度(RH)80%(露点55℃)の空気
・セル温度(冷却水温度):60℃
発電により電流密度I-電圧V曲線を得た。得られたI-V曲線の4.0A/cmのセル電圧(V)を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
転落角30°未満を、撥水性に優れると評価し、平均水平抵抗力0.068N超を強度に優れると評価した。また、セル電圧[3.0A/cm、165%RH]0.493V超且つセル電圧[4.0A/cm、80%RH]0.459V超を発電性能に優れると評価した。
【0052】
比較例1では、フッ素樹脂としてPTFEのみを用い、PTFEの融点以下の温度で焼成した。得られたマイクロポーラス層付きガス拡散層は、マイクロポーラス層の強度が低かった。これは低温で焼成したためPTFEが焼成時に溶け広がることがなく、カーボンを結着させる効果が不十分なためであると考えられる。
【0053】
比較例2~5では、フッ素樹脂としてPTFEのみを用い、実施例と同程度の温度で焼成した。得られたマイクロポーラス層付きガス拡散層は、マイクロポーラス層の撥水性、及び発電性能が劣っていた。
【0054】
比較例6~8では、フッ素樹脂としてPFAのみを用い、実施例と同程度の温度で焼成した。得られたマイクロポーラス層付きガス拡散層は、マイクロポーラス層の強度が劣っていた。
【0055】
比較例2~8の結果は、焼成によるフッ素樹脂の溶け広がり方の差異によるものであると本発明者らは推測した。すなわち、PTFEは溶け広がりが悪く、サブミクロンのサイズで、マイクロポーラス層中に残り、これがカーボン同士を結着させ高強度になるが、カーボンの一部をコーティングすることができず、低い撥水性、低い発電性能になると考えられる。一方PFAは、溶け広がりがよく、サブミクロンのサイズでマイクロポーラス層中に残ることがなく、カーボン同士を結着させることが困難となり強度に劣るが、カーボンのコーティングを十分に行う事ができ、高い撥水性、高い発電性能を示す傾向にあると考えられる。
【0056】
実施例では、2種類のフッ素樹脂を用いることにより、優れた強度、撥水性、発電性能を実現することが可能なマイクロポーラス層が得られた。
【0057】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0058】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。