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特開2024-119438電極シートの製造方法および製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119438
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】電極シートの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240827BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20240827BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20240827BHJP
   B30B 3/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04 A
H01G11/86
B30B3/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026335
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(74)【代理人】
【識別番号】100218084
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊光
(72)【発明者】
【氏名】前田 篤志
【テーマコード(参考)】
4E090
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
4E090AA04
4E090AB04
4E090HA10
5E078BB24
5E078BB34
5E078LA08
5H050BA14
5H050BA17
5H050CA07
5H050CB08
5H050GA03
5H050GA29
(57)【要約】
【課題】各ロットの初期段階から電極シートの活物質層の厚さを狙いの厚さとする。
【解決手段】プレス工程では、プレス後の活物質層の厚さが測定され、測定された活物質層の厚さに基づいてプレス条件がフィードバック制御される。設定工程S60では、初期プレス条件をロット毎に設定する。設定工程S60の推定工程S60Aでは、初期プレス条件およびプレス条件と活物質層の厚さと間の予め求められた相関に基づき、直前のロットの活物質層の厚さを推定する。補正値算出工程S60Bでは、直前のロットの活物質層の厚さBと、推定工程S60Aで推定された直前のロットの活物質層の厚さとの差分Eを算出し、差分Eを補正するような初期プレス条件の補正値Vを前記相関に基づいて算出する。補正工程S60Dでは、補正前の初期プレス条件Fに補正値Vを付加して初期プレス条件G1を求める。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の電極箔と、前記電極箔に形成された活物質層と、を備える電極シートの製造方法であって、
ロールプレス機の向かい合う一対のプレスロールにより、前記電極シートをロット毎に連続的にプレスするプレス工程と、
前記ロールプレス機の初期プレス条件をロット毎に設定する設定工程と、を含み、
前記プレス工程では、プレス後の前記活物質層の厚さが測定され、前記ロールプレス機のプレス条件が前記測定された活物質層の厚さに基づいてフィードバック制御され、
前記設定工程は、
前記初期プレス条件および前記プレス条件と前記活物質層の厚さと間の予め求められた相関に基づき、直前のロットの前記初期プレス条件と、前記直前のロットのフィードバック制御されたプレス条件とから、前記直前のロットの前記活物質層の厚さを推定する推定工程と、
前記直前のロットの前記活物質層の厚さと、前記推定工程で推定された前記直前のロットの前記活物質層の厚さとの差分を算出し、前記差分を補正するような初期プレス条件の補正値を前記相関に基づいて算出する補正値算出工程と、
補正前の初期プレス条件に前記補正値を付加して前記初期プレス条件を求める補正工程と、を含んでいる、
電極シートの製造方法。
【請求項2】
前記活物質層の目付量を前記電極シートのロット毎に取得する目付量取得工程をさらに含み、
前記相関は、
前記活物質層の目付量毎に予め求められている、前記初期プレス条件と前記活物質層の厚さとの間の第1の相関と、
前記プレス条件の変化量と前記活物質層の厚さの変化量と間の予め求められた第2の相関と、を含み、
前記設定工程は、前記第1の相関に基づき、前記目付量取得工程で取得された目付量に応じて前記補正前の初期プレス条件を求める補正前条件算出工程を含み、
前記推定工程では、前記第1の相関および前記第2の相関に基づいて前記直前のロットの前記活物質層の厚さを推定し、
前記補正値算出工程では、前記第1の相関に基づいて前記補正値を算出する、
請求項1に記載の電極シートの製造方法。
【請求項3】
前記推定工程において使用されるフィードバック制御されたプレス条件は、前記直前のロットの電極シートの終端部におけるプレス条件であり、
前記補正値算出工程において使用される前記直前のロットの前記活物質層の厚さは、前記プレス工程において測定された、前記直前のロットの電極シートの終端部における前記活物質層の厚さである、
請求項1に記載の電極シートの製造方法。
【請求項4】
前記初期プレス条件は、前記一対のプレスロールの間の間隔を含み、
前記フィードバック制御されるプレス条件は、プレス荷重である、
請求項1に記載の電極シートの製造方法。
【請求項5】
前記ロールプレス機は、
前記一対のプレスロールを接近または離反可能に支持する一対の支持部材と、
前記一対の支持部材を接近または離反させる駆動装置と、
前記一対の支持部材の間に挟持されるとともに前記一対の支持部材の接近離反方向の長さが可変に構成され、前記一対の支持部材の間の間隔を調整することにより前記一対のプレスロールの間の間隔を設定可能なギャップ設定部材と、を備え、
前記設定工程は、前記ギャップ設定部材の長さを調整することにより前記一対のプレスロールの間の間隔を前記初期プレス条件に一致させることを含み、
前記プレス工程では、前記一対のプレスロールの間の間隔は、フィードバック制御された前記駆動装置のプレス荷重に応じて、前記ギャップ設定部材が弾性変形することにより変化する、
請求項4に記載の電極シートの製造方法。
【請求項6】
向かい合う一対のプレスロールを備え、帯状の電極箔と前記電極箔に形成された活物質層とを備える電極シートを前記一対のプレスロールによりロット毎に連続的にプレスするロールプレス機を含み、
前記ロールプレス機は、
プレス後の前記活物質層の厚さを測定する測定装置と、
前記測定装置によって測定された前記活物質層の厚さに基づいてプレス条件をフィードバック制御するプレス制御部と、
初期プレス条件をロット毎に設定する設定部と、を備え、
前記設定部は、
前記初期プレス条件および前記プレス条件と前記活物質層の厚さと間の予め求められた相関が記憶された記憶部と、
前記相関に基づき、直前のロットの前記初期プレス条件と、前記直前のロットのフィードバック制御されたプレス条件とから、前記直前のロットの前記活物質層の厚さを推定する推定部と、
前記測定装置によって測定された前記直前のロットの前記活物質層の厚さと、前記推定部によって推定された前記直前のロットの前記活物質層の厚さとの差分を算出し、前記差分を補正するような初期プレス条件の補正値を前記相関に基づいて算出する補正値算出部と、
補正前の初期プレス条件に前記補正値を付加して前記初期プレス条件を求める補正部と、を備えている、
電極シートの製造装置。
【請求項7】
前記活物質の目付量を前記電極シートのロット毎に取得する目付量取得装置をさらに備え、
前記相関は、
前記活物質層の目付量毎に予め求められている、前記初期プレス条件と前記活物質層の厚さとの間の第1の相関と、
前記プレス条件の変化量と前記活物質層の厚さの変化量と間の予め求められた第2の相関と、を含み、
前記設定部は、前記第1の相関に基づき、前記目付量取得装置で取得された目付量に応じて、前記補正前の初期プレス条件を求める補正前条件算出部を備え、
前記推定部は、前記第1の相関および前記第2の相関に基づいて前記直前のロットの前記活物質層の厚さを推定し、
前記補正値算出部は、前記第1の相関に基づいて前記補正値を算出する、
請求項6に記載の電極シートの製造装置。
【請求項8】
前記推定部は、前記直前のロットの電極シートの終端部におけるフィードバック制御されたプレス条件を用いて前記活物質層の厚さを推定し、
前記補正値算出部は、前記直前のロットの電極シートの終端部において測定された前記活物質層の厚さを用いて前記補正値を算出する、
請求項6に記載の電極シートの製造装置。
【請求項9】
前記初期プレス条件は、前記一対のプレスロールの間の間隔を含み、
前記フィードバック制御されるプレス条件は、プレス荷重である、
請求項6に記載の電極シートの製造装置。
【請求項10】
前記ロールプレス機は、
前記一対のプレスロールを接近または離反可能に支持する一対の支持部材と、
前記一対の支持部材を接近または離反させる駆動装置と、
前記一対の支持部材の間に挟持されるとともに前記一対の支持部材の接近離反方向の長さが可変に構成され、前記一対の支持部材の間の間隔を調整することにより前記一対のプレスロールの間の間隔を設定可能なギャップ設定部材と、を備え、
前記設定部は、前記ギャップ設定部材の長さを調整することにより前記一対のプレスロールの間の間隔を前記初期プレス条件に一致させるように構成され、
前記一対のプレスロールの間の間隔は、前記プレス制御部によりフィードバック制御された前記駆動装置のプレス荷重に応じて、前記ギャップ設定部材が弾性変形することにより変化する、
請求項9に記載の電極シートの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの電極シートの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、二次電池用電極の金属製ウェブを上下のプレスロールの間を連続的に通過させてプレスするプレスロール装置が開示されている。特許文献1に記載のプレスロール装置は、ウェブの厚みを連続的に測定するインライン膜厚計を備え、ウェブの厚さが所定量減少したことが確認される毎にベンド圧力を所定量ずつ増加させるように構成されている。ベンド圧力は、プレス圧力とは逆方向に掛ける圧力であり、上下のプレスロールの湾曲を抑制するための圧力である。特許文献1によれば、ベンド圧力を増加させることにより、上下のプレスロール間のギャップが広がる。特許文献1によれば、ベンド圧力を増加させることにより、プレスロールの熱膨張変形によって上下のプレスロール間のギャップが次第に狭くなりウェブの厚さが次第に薄くなることを抑制できる、とされている。
【0003】
また、例えば特許文献2には、プレスロール対と、プレスロール対を支持するハウジング対と、ハウジング対の間の間隔を調整するクサビと、を有するプレス装置が開示されている。特許文献2に記載のプレス装置は、プレスロール対等の温度を検出する温度センサを備えている。特許文献2に記載の方法によれば、集電箔上に形成される活物質層の目付量(単位面積当たりの重量)の情報を取得し、目付量とクサビの位置と活物質層の厚さとに関する予め用意された関係からクサビの位置を設定する。これにより定めたクサビの位置は基準温度のときのものであるため、特許文献2に記載の方法では、温度センサによって検出された温度に基づいて、プレスロール対間の適切な隙間を求める。プレス工程では、プレスロール対間の隙間は、プレスロール対等の温度に応じて補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-175501号公報
【特許文献2】特開2017-91649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2に記載されているように、例えば、ロールプレス機のプレスロールの温度のような要因により、電極シートの活物質層のプレス後の厚さは変化する。特許文献1に記載されているように、測定した活物質層の厚さに基づいてプレスロール間の間隔をフィードバック制御すれば、活物質層の厚さを所望の範囲内に収めることができると考えられる。しかし、そのような制御によっても、電極シートの各ロットの初期には十分なフィードバックができていないため、電極シートの初端部には、活物質層の厚さが狙いの範囲内に収まっていない部分が多くできやすい。
【0006】
ここでは、ロットの初期段階から活物質層の厚さを狙いの厚さとしやすい電極シートの製造方法を提案する。また、ロットの初期段階から活物質層の厚さを狙いの厚さとしやすい電極シートの製造装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される電極シートの製造方法は、帯状の電極箔と、前記電極箔に形成された活物質層と、を備える電極シートの製造方法であって、ロールプレス機の向かい合う一対のプレスロールにより前記電極シートをロット毎に連続的にプレスするプレス工程と、前記ロールプレス機の初期プレス条件をロット毎に設定する設定工程と、を含んでいる。前記プレス工程では、プレス後の前記活物質層の厚さが測定され、前記ロールプレス機のプレス条件が前記測定された活物質層の厚さに基づいてフィードバック制御される。前記設定工程は、推定工程と、補正値算出工程と、補正工程と、を含んでいる。前記推定工程では、前記初期プレス条件および前記プレス条件と前記活物質層の厚さと間の予め求められた相関に基づき、直前のロットの前記初期プレス条件と、前記直前のロットのフィードバック制御されたプレス条件とから、前記直前のロットの前記活物質層の厚さを推定する。前記補正値算出工程では、前記直前のロットの前記活物質層の厚さと、前記推定工程で推定された前記直前のロットの前記活物質層の厚さとの差分を算出し、前記差分を補正するような初期プレス条件の補正値を前記相関に基づいて算出する。前記補正工程では、補正前の初期プレス条件に前記補正値を付加して前記初期プレス条件を求める。
【0008】
上記方法において、直前のロットの活物質層の厚さと推定工程で推定された直前のロットの活物質層の厚さとの差分は、主として、例えば温度のような非制御の因子の影響によるものである。上記電極シートの製造方法によれば、直前のロットにおける非制御の因子の影響を補正するような補正値を算出し、かかる補正値によって初期プレス条件を補正する。そのため、電極シートの各ロットの初期段階から活物質層の厚さが狙いの厚さとなりやすい。
【0009】
また、ここに開示される電極シートの製造装置は、向かい合う一対のプレスロールを備え、帯状の電極箔と前記電極箔に形成された活物質層とを備える電極シートを前記一対のプレスロールによりロット毎に連続的にプレスするロールプレス機を含んでいる。前記ロールプレス機は、プレス後の前記活物質層の厚さを測定する測定装置と、前記測定装置によって測定された前記活物質層の厚さに基づいてプレス条件をフィードバック制御するプレス制御部と、初期プレス条件をロット毎に設定する設定部と、を備えている。前記設定部は、記憶部と、推定部と、補正値算出部と、補正部と、を備えている。前記記憶部には、前記初期プレス条件および前記プレス条件と前記活物質層の厚さと間の予め求められた相関が記憶されている。前記推定部は、前記相関に基づき、直前のロットの前記初期プレス条件と、前記直前のロットのフィードバック制御されたプレス条件とから、前記直前のロットの前記活物質層の厚さを推定する。前記補正値算出部は、前記測定装置によって測定された前記直前のロットの前記活物質層の厚さと、前記推定部によって推定された前記直前のロットの前記活物質層の厚さとの差分を算出し、前記差分を補正するような初期プレス条件の補正値を前記相関に基づいて算出する。前記補正部は、補正前の初期プレス条件に前記補正値を付加して前記初期プレス条件を求める。
【0010】
上記装置によっても、上記した方法と同様の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電極シート製造装置の模式図である。
図2】ロールプレス機の模式的な側面図である。
図3】プレス装置の模式的な正面図である。
図4】第1の相関を表すグラフである。
図5】第2の相関を表すグラフである。
図6】電極シート製造の工程図である。
図7】目付量取得工程および設定工程の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、蓄電デバイスの電極シートの製造装置、および、蓄電デバイスの電極シートの製造方法の一実施形態を説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、各図は、模式図であり、必ずしも実際の実施品が忠実に反映されたものではない。
【0013】
[電極シート製造装置の構成]
図1は、一実施形態に係る電極シート製造装置10の模式図である。電極シート製造装置10は、ここでは、リチウムイオン二次電池の電極シート1(図2参照)を製造するものである。ただし、電極シートは、リチウムイオン二次電池の電極シート1には限定されず、公知の各種蓄電デバイスの電極シートであってもよい。蓄電デバイスとは、電気エネルギーを取り出し可能なデバイス全般を指す用語であって、リチウムイオン二次電池やニッケル水素電池等のいわゆる蓄電池(化学電池)と、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(物理電池)と、を包含する。
【0014】
電極シート1は、帯状の電極箔2と、電極箔2に形成された活物質層3と、を備えている。正極シートは、予め定められた幅および厚さの帯状の電極箔2(例えば、アルミニウム箔)の表面に、正極活物質を含む正極活物質層3が形成された部材である。正極活物質は、例えば、リチウムイオン二次電池では、リチウム遷移金属複合材料のように、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸収しうる材料である。負極シートは、予め定められた幅および厚さの帯状の電極箔2(例えば、銅箔)の表面に、負極活物質を含む負極活物質層3が形成された部材である。負極活物質は、例えば、リチウムイオン二次電池では、天然黒鉛のように、充電時にリチウムイオンを吸蔵し、充電時に吸蔵したリチウムイオンを放電時に放出しうる材料である。正極活物質および負極活物質は、上記した材料以外にも種々提案されており、特に限定されない。
【0015】
図1に示すように、電極シート製造装置10は、計量装置20と、混錬装置30と、塗工装置40と、乾燥装置50と、ロールプレス機60と、を備えている。
【0016】
計量装置20は、活物質層3の原料を計量する。計量された活物質層3の原料は混合され、混錬装置30により混錬される。混錬によってスラリー状にされた活物質層3の原料は、塗工装置40により、電極箔2に塗工される。塗工装置40は、電極箔2に塗工した活物質層3の原料の量を電極シート1のロット毎に把握可能に構成されている。塗工装置40は、例えば、原料の残重量の塗工前と塗工後との差から、塗工した活物質層3の原料の量を把握する。塗工装置40は、活物質層3の目付量をロット毎に取得する目付量取得装置の一例である。活物質層3の目付量は、活物質層3の面積当たりの重量である。
【0017】
乾燥装置50は、塗工したスラリー状の活物質層3の原料を乾燥させる。なお、活物質層3の目付量をロット毎に取得する目付量取得装置は、乾燥装置50に設けられていてもよい。ロールプレス機60は、電極シート1をロット毎に連続的にプレスし、活物質層3の厚さを所定の範囲内の厚さに調整するものである。
【0018】
図2は、ロールプレス機60の模式的な側面図である。図2に示すように、本実施形態に係るロールプレス機60は、巻出装置60Aと、プレス装置60Bと、巻取装置60Cと、を備えている。活物質層3が乾燥された電極シート1は、ロールで巻出装置60Aに供給される。巻取装置60Cは、巻出装置60Aから繰り出され、プレス装置60Bによってプレスされた電極シート1を巻き取る。ロールプレス機60は、巻出装置60A、プレス装置60B、および巻取装置60Cの動作を制御する制御装置70を備えている。
【0019】
図3は、プレス装置60Bの模式的な正面図である。図3に示すように、プレス装置60Bは、電極シート1の厚さ方向(ここでは上下方向)に向かい合う一対のプレスロール61,62と、一対のプレスロール61,62を接近または離反可能に支持する一対のハウジング63,64と、一対のハウジング63,64の間に挟持されたギャップ設定機構65と、一対のハウジング63,64を接近または離反させる駆動装置66と、プレス荷重を測定するロードセル67と、プレス後の活物質層3の厚さを測定するインライン膜厚計68と、一対のプレスロール61,62を回転させる回転装置69と、を備えている。
【0020】
ロールプレス機60は、電極シート1を一対のプレスロール61,62により、ロット毎に連続的にプレスする。駆動装置66は、ここでは、下ハウジング64を上下方向に移動させるように構成されている。駆動装置66は、下ハウジング64を介して下ロール62を上下方向に移動させることにより、一対のプレスロール61,62を接近離反させる。駆動装置66は、下ハウジング64を支持する昇降クサビ66aを備えている。駆動装置66は、斜辺同士で接する上下一対の昇降クサビ66aを水平方向にずらすことにより、下ハウジング64を上下方向に移動させる。ロードセル67は、駆動装置66の駆動により下ハウジング64に加わる荷重、すなわち、ロールプレス機60のプレス荷重を測定する。回転装置69は、一対のプレスロール61,62を回転させることにより、電極シート1を巻取装置60Cの方に送るように構成されている。回転装置69は、一対のプレスロール61,62のうちの一方だけを回転させるように構成されていてもよい。
【0021】
ギャップ設定機構65は、一対のプレスロール61,62の間の間隔Grを設定する機構である。ギャップ設定機構65は、一対のハウジング63,64の間に挟持され、一対のハウジング63,64の接近離反方向(ここでは上下方向)の長さが可変に構成された上下一対のギャップ設定クサビ65aを備えている。ギャップ設定クサビ65aは、一対のプレスロール61,62の間の間隔Grを設定可能なギャップ設定部材の一例である。上下一対のギャップ設定クサビ65aは、斜辺同士で接している。ギャップ設定機構65は、一対のギャップ設定クサビ65aを水平方向にずらす図示しない駆動部を備えている。ギャップ設定機構65は、一対のギャップ設定クサビ65aを水平方向にずらすことにより、ギャップ設定クサビ65aの上下方向の長さを変化させる。ギャップ設定クサビ65aは、一対のハウジング63,64の間の間隔を調整することにより、一対のプレスロール61,62の間の間隔Grを設定する。ギャップ設定機構65によって設定される一対のプレスロール61,62の間の間隔Grは、プレス開始の前に設定される初期プレス条件の1つである。本実施形態では、プレスロール61,62の間の間隔Grは、プレス中には変更不可である。
【0022】
図2に示すように、制御装置70は、プレス制御部71と、設定部72と、を備えている。プレス制御部71は、インライン膜厚計68によって測定された活物質層3の厚さに基づいて、ロールプレス機60のプレス条件をフィードバック制御する。本実施形態では、インライン膜厚計68によって測定された活物質層3の厚さに基づいて、ロールプレス機60のプレス荷重(ロードセル67により測定される)をフィードバック制御する。プレス制御部71によりフィードバック制御されるプレス条件は、ここでは、プレス荷重である。ギャップ設定機構65の設定によって定まる一対のプレスロール61,62の間の間隔Grは、プレス中は変更できないが、プレス制御部71によりフィードバック制御された駆動装置66のプレス荷重に応じて、ギャップ設定クサビ65aが弾性変形することにより変化する。これにより、インライン膜厚計68によって測定された活物質層3の厚さに基づき、狙いの厚さに近づけるように活物質層3の厚さを制御することが可能になる。
【0023】
設定部72は、目付量取得装置(ここでは、塗工装置40)で取得された活物質層3の目付量に応じて、初期プレス条件をロット毎に設定する。初期プレス条件には、一対のプレスロール61,62の間の間隔Grが含まれている。本実施形態では、初期プレス条件におけるプレス荷重は、目付量によらず決められている。
【0024】
図2に示すように、設定部72は、記憶部72Aと、推定部72Bと、補正前条件算出部72Cと、補正値算出部72Dと、補正部72Eと、空運転制御部72Fと、を備えている。
【0025】
記憶部72Aには、活物質層3の目付量毎に予め求められている初期プレス条件と活物質層3の厚さとの間の相関(以下、第1の相関とも呼ぶ)と、プレス条件の変化量と活物質層3の厚さの変化量と間の予め求められた相関(以下、第2の相関とも呼ぶ)とが記憶されている。図4は、第1の相関を表すグラフである。図5は、第2の相関を表すグラフである。
【0026】
図4に示すような、初期プレス条件(プレスロール61,62の間の間隔Gr)と活物質層3の厚さとの間の第1の相関は、間隔Grを変更してプレスした電極シート1のサンプルの活物質層3の厚さを測定することによって得られる。プレス時の周囲温度およびプレスロール61,62の温度は、常温域の所定温度である。プレス荷重は、初期プレス条件のプレス荷重である。ここでは、活物質層3の目付量を変えた3種類のサンプルについて、上記相関が求められている。図4においてグラフGF1で表されているサンプルは、目付量の上限値となるように活物質層3を形成した上限サンプルである。図4においてグラフGF2で表されているサンプルは、目付量の下限値となるように活物質層3を形成した下限サンプルである。図4においてグラフGF3で表されているサンプルは、目付量のセンター値となるように活物質層3を形成した中央サンプルである。
【0027】
図4に示すように、3つのグラフGF1~GF3はいずれも、間隔Grが広くなると活物質層3の厚さが厚くなることを示している。また、3つのグラフGF1~GF3は、目付量が大きいほど活物質層3の厚さが厚くなる(同じプレス条件でプレスしてもより復元する)ことを示している。グラフGF1とGF3との間およびグラフGF2とGF3との間は、例えば、線形補間される。なお、活物質層3の目付量の影響を考慮しない場合には、第1の相関は目付量毎に求められていなくてもよい。
【0028】
図5に示すような、プレス条件(プレス荷重)の変化量と活物質層3の厚さの変化量と間の第2の相関は、プレス荷重を変更してプレスした電極シート1のサンプルの活物質層3の厚さを測定することによって得られる。プレスロール61,62の温度を含むプレス時の環境は、図4のグラフを得たときと同じである。プレスロール61,62の間の間隔Grおよび活物質層3の目付量は、生産時に想定される間隔Grおよび目付量を大きく逸脱しない限りで特に限定されない。図5においては、グラフGF4の傾きが参照される。プレスロール61,62の間の間隔Grおよび活物質層3の目付量は、プレス荷重の変化量と活物質層3の厚さの変化量との比、すなわちグラフGF4の傾きにあまり影響しない。
【0029】
推定部72Bは、上記した第1の相関および第2の相関に基づき、直前のロットの活物質層3の目付量と、直前のロットの初期プレス条件(ここでは、プレスロール61,62の間の間隔Gr)と、直前のロットのフィードバック制御されたプレス条件(ここでは、プレス荷重)とから、直前のロットの活物質層3の厚さを推定する。ここで推定される活物質層3の厚さは、図4および図5を得たときの環境条件(周囲温度およびプレスロール61,62の温度が所定温度であることを少なくとも含む)において予想される活物質層3の厚さである。推定部72Bは、ここでは、直前のロットの電極シート1の終端部におけるフィードバック制御されたプレス条件(プレス荷重)を用いて活物質層3の厚さを推定する。直前のロットの活物質層3の厚さの推定方法の詳細は後述する。
【0030】
補正前条件算出部72Cは、第1の相関に基づき、目付量取得装置(塗工装置40)で取得された目付量に応じて、補正前の初期プレス条件(ここでは、プレスロール61,62の間の間隔Gr)を求める。取得される目付量および求められる間隔Grは、これからプレスする電極シート1に係るものである。補正前の間隔Grを求める方法の詳細は後述する。
【0031】
補正値算出部72Dは、インライン膜厚計68によって測定された直前のロットの活物質層3の厚さと、推定部72Bによって推定された直前のロットの活物質層3の厚さとの差分を算出し、その差分を補正するような初期プレス条件(プレスロール61,62の間の間隔Gr)の補正値を、第1の相関に基づいて算出する。補正値の算出方法の詳細は後述する。補正値算出部72Dは、ここでは、直前のロットの電極シート1の終端部において測定された活物質層3の厚さを用いて補正値を算出する。
【0032】
補正部72Eは、補正前の初期プレス条件に補正値を付加して初期プレス条件を求める。設定部72は、ロールプレス機60の初期プレス条件を補正部72Eによって求められた初期プレス条件に一致させる。詳しくは、設定部72は、ギャップ設定クサビ65aの長さを調整することにより一対のプレスロール61,62の間の間隔Grを初期プレス条件に一致させる。
【0033】
空運転制御部72Fは、予め定められた時間以上、電極シート1のプレスが行われなかった場合に、ロールプレス機60を空運転させる。空運転により、ロールプレス機60の状態が維持され、次のロットと直前のロットとの間で状態の差異が拡大するのが抑制される。空運転では、電極シート1が供給されていない状態で回転装置69が制御され、一対のプレスロール61,62が回転される。これにより、プレスロール61,62の摺動部分(例えばベアリング)が発熱し、プレスロール61,62の温度低下が抑制される。ただし、空運転は上記したものには限定されない。空運転では、例えば、一対のプレスロール61,62の間にダミーシートが挟まれた状態で、一対のプレスロール61,62が回転されてもよい。ダミーシートは、好適には、一対のプレスロール61,62に傷をつけないよう、例えば、柔らかい樹脂やゴム等により形成されていてもよい。
【0034】
[電極シートの製造工程]
以下では、本実施形態に係る電極シート製造装置10による電極シート1の製造工程について説明する。図6は、電極シート製造装置10による電極シート1製造の工程図である。図6に示すように、電極シート1の製造工程は、計量工程S10と、混錬工程S20と、塗工工程S30と、乾燥工程S40と、目付量取得工程S50と、初期プレス条件の設定工程S60と、プレス工程S70と、を含んでいる。なお、図6に示す電極シート1の製造工程は一例に過ぎない。電極シート1の製造工程は、例えば、他の工程を含んでいてもよく、一部の工程が省略されていてもよい。
【0035】
計量工程S10~乾燥工程S40の詳細は省略する。目付量取得工程S50では、活物質層3の目付量を電極シート1のロット毎に取得する。目付量取得工程S50はプレス工程S70よりも前に行われる。なお、活物質層3の目付量の影響を考慮しない場合には、目付量取得工程S50は行われなくてもよい。
【0036】
プレス工程S70では、ロールプレス機60の向かい合う一対のプレスロール61,62により、電極シート1をロット毎に連続的にプレスする。プレス工程S70では、プレス後の活物質層3の厚さがインライン膜厚計68によって測定され、ロールプレス機60のプレス条件(ここでは、プレス荷重)が、測定された活物質層3の厚さに基づいてフィードバック制御される。
【0037】
設定工程S60では、目付量取得工程S50で取得された活物質層3の目付量に応じて、ロールプレス機60の初期プレス条件、ここではプレスロール61,62の間の間隔Grがロット毎に設定される。設定工程S60で設定される初期プレス条件は、直前のロットの結果を反映している。図7は、目付量取得工程S50および設定工程S60のより詳細な工程図である。図7に示すように、設定工程S60は、ステップS61~S68を含んでいる。
【0038】
図7に示すように、ステップS61では、直前のロットの活物質層3の目付量と、直前のロットの初期プレス条件(ここでは、一対のプレスロール61,62の間の間隔Gr)から、第1の相関に基づく活物質層3の厚さが算出される。図4に示すように、例えば、直前のロットにおいて、間隔Grの設定値がG0であり、目付量が上限(グラフGF1に対応)であった場合、第1の相関に基づく活物質層3の厚さはAと算出される。厚さAは、直前のロットにおいて、図4図5のグラフを取得したときと環境が同じであり、かつ、プレス荷重が初期プレス条件に維持されたと想定した場合の活物質層3の推定厚さである。
【0039】
ステップS62では、直前のロットのプレス終了時における活物質層3の厚さが取得される。この活物質層3の厚さは、直前のロットのプレス工程においてインライン膜厚計68により測定された、直前のロットの電極シート1の終端部における活物質層3の厚さである。言い換えると、直前のロットの中でも直前の活物質層3の厚さである。以下では、ステップS62で取得された活物質層3の厚さをBとする。
【0040】
ステップS63では、第1の相関に基づいて推定された活物質層3の厚さAと、ステップS62で取得された活物質層3の厚さ(実際の厚さ)Bとの差分が算出される。すなわち、差分C=A-Bが算出される。差分Cは、直前のロットにおける環境の影響と、プレス荷重のフィードバック制御(初期プレス条件からのプレス荷重の変化)の影響とにより生じたものである。
【0041】
ステップS64では、プレス荷重の変化量と活物質層3の厚さの変化量と間の第2の相関に基づき、プレス荷重のフィードバック制御に起因する活物質層3の厚さの変化量が推定される。図5に示すように、直前のロットのプレス工程S70が終了したときに、プレス荷重P1が初期プレス条件のプレス荷重P0よりもΔPだけ増加していた場合、直前のロットの終端部における活物質層3の厚さは、プレス荷重の増加の影響により、Dだけ減少したと推定される。
【0042】
ステップS65では、ステップS63で算出された活物質層3の厚さ差分C(環境の影響およびプレス荷重の変化の影響を示す)から、プレス荷重の変化の影響を示す変化量Dが差し引かれる。すなわち、E=C-Dの計算が行われる。Eは、直前のロットにおいて環境の影響により生じた、活物質層3の厚さの推定値との差異である。
【0043】
ステップS66では、第1の相関に基づき、目付量取得工程S50で取得された目付量に応じて、補正前の初期プレス条件(プレスロール61,62の間の間隔Gr)が求められる。例えば、これからプレス工程S70を行うロットの目付量が下限(グラフGF2に対応)であり、活物質層3の狙いの厚さがT1であった場合、図4に示すように、補正前のプレスロール61,62の間の間隔Grは、とりあえず補正前の間隔Fに設定される。なお、活物質層3の目付量の影響を考慮しない場合には、補正前の初期プレス条件は、予め定められていてもよい。その場合、ステップS66は省略されてもよい。
【0044】
ステップS67では、環境要因による活物質層3の厚さの差分Eを補正するような初期プレス条件の補正値Vを第1の相関に基づいて算出する。すなわち、図4に示すように、差分Eを第1の相関に基づいてプレスロール61,62の間の間隔Grの補正値Vに換算する。なお、図4に示すように、グラフGF1~GF3は概ね平行(概ね傾きが同じ)なので、補正値Vは、活物質層3の目付量によっては、ほとんど変動しない。
【0045】
ステップS68では、ステップS66で求められた補正前のプレスロール61,62の間の間隔Fに補正値Vが付加され、補正後のプレスロール61,62の間の間隔G1=F+Vが算出される。この間隔G1が次のロットの初期プレス条件となる。
【0046】
上記ステップS61~S68は、適宜に順番の変更が可能である。ステップS61およびS64は、第1の相関および第2の相関に基づき、直前のロットの活物質層3の目付量と、直前のロットの初期プレス条件と、直前のロットのフィードバック制御されたプレス条件とから、直前のロットの活物質層3の厚さ(推定厚さA-推定変化量Dに相当)を推定する推定工程S60Aに相当する。推定工程S60Aは、図7に示す例のように不連続に行われてもよく、連続して行われてもよい。なお、活物質層3の目付量の影響を考慮しない場合には、直前のロットの活物質層3の推定厚さは、目付量とは関係なく求められてもよい。
【0047】
ステップS62、S63、S65、およびS67は、直前のロットの活物質層3の厚さBと、推定工程S60Aで推定された直前のロットの活物質層3の厚さ(A-D)との差分E(=A-D-B)を算出し、その差分Eを補正するような初期プレス条件の補正値Vを第1の相関に基づいて算出する補正値算出工程S60Bに相当する。補正値算出工程S60Bは、図7に示す例のように不連続に行われてもよく、連続して行われてもよい。
【0048】
ステップS66は、第1の相関に基づき、目付量取得工程S50で取得された目付量に応じて、補正前の初期プレス条件Fを求める補正前条件算出工程S60Cに相当する。ステップS68は、補正前の初期プレス条件Fに補正値Vを付加して初期プレス条件G1を求める補正工程S60Dに相当する。補正前条件算出工程S60Cは、補正工程S60Dの前であれば、どの時点で行われてもよい。
【0049】
[実施形態の作用効果]
以下に、本実施形態に係る電極シート1の製造方法によって奏することのできる作用効果について説明する。なお、下記の方法を実現するための電極シート製造装置10の構成も、同様の作用効果を奏する。
【0050】
本実施形態に係る電極シート1の製造方法は、帯状の電極箔2と電極箔2に形成された活物質層3とを備える電極シート1の製造方法であって、ロールプレス機60の向かい合う一対のプレスロール61,62により電極シート1をロット毎に連続的にプレスするプレス工程S70と、ロールプレス機60の初期プレス条件をロット毎に設定する設定工程S60と、を含んでいる。プレス工程S70では、プレス後の活物質層3の厚さが測定され、ロールプレス機60のプレス条件が、測定された活物質層3の厚さに基づいてフィードバック制御される。
【0051】
設定工程S60は、推定工程S60A(ステップS61およびS64)と、補正値算出工程S60B(ステップS62、S63、S65、およびS67)と、補正工程S60D(ステップS68)と、を含んでいる。推定工程S60Aでは、初期プレス条件およびプレス条件と活物質層3の厚さと間の予め求められた相関(ここでは、第1の相関および第2の相関)に基づき、直前のロットの初期プレス条件と、直前のロットのフィードバック制御されたプレス条件とから、直前のロットの活物質層3の厚さを推定する。補正値算出工程S60Bでは、直前のロットの活物質層3の厚さBと、推定工程S60Aで推定された直前のロットの活物質層3の厚さ(A-D)との差分Eを算出し、その差分Eを補正するような初期プレス条件の補正値Vを上記した相関に基づいて算出する。補正工程S60Dでは、補正前の初期プレス条件Fに補正値Vを付加して初期プレス条件G1を求める。
【0052】
上記方法において、直前のロットの活物質層3の厚さBと推定工程S60Aで推定された直前のロットの活物質層3の厚さ(A-D)との差分Eは、主として、例えば温度のような非制御の因子の影響によるものである。本実施形態に係る方法によれば、直前のロットにおける非制御の因子の影響を補正するような補正値Vを算出し、かかる補正値Vによって初期プレス条件を補正する。そのため、電極シート1の各ロットの初期段階から活物質層3の厚さが狙いの厚さとなりやすい。かかる補正をしない従来の方法では、電極シート1の各ロットの初期には、プレス条件のフィードバックが十分にできない。そのため、電極シート1の初端部に、活物質層3の厚さが狙いの範囲内に収まっていない部分が多くできやすい。
【0053】
なお、従来の典型的な方法では、初期プレス条件(例えば、プレスロール間の間隔)の調整と活物質層の厚さの測定(電極シートの一部を切り出して行う)とを繰り返して、ロット毎に好適な初期プレス条件を決めてから工程を開始することもあり、そのような方法では、時間的なロス、および、活物質層の厚さ測定のための切り出しによる電極シートの廃棄量が多かった。
【0054】
本実施形態では、電極シート1の製造方法は、活物質層3の目付量を電極シート1のロット毎に取得する目付量取得工程S50をさらに含んでいる。上記した初期プレス条件およびプレス条件と活物質層3の厚さと間の相関は、第1の相関と第2の相関とを含んでいる。第1の相関は、活物質層3の目付量毎に予め求められている、初期プレス条件と活物質層3の厚さとの間の相関である。第2の相関は、プレス条件の変化量と活物質層3の厚さの変化量と間の予め求められた相関である。設定工程S60は、補正前条件算出工程S60C(ステップS66)を含んでいる。補正前条件算出工程S60Cでは、第1の相関に基づき、目付量取得工程S50で取得された目付量に応じて補正前の初期プレス条件Fを求める。推定工程S60Aでは、第1の相関および第2の相関に基づいて直前のロットの活物質層3の厚さを推定する。補正値算出工程S60Bでは、第1の相関に基づいて補正値Vを算出する。かかる方法によれば、活物質層3の目付量の影響も考慮した初期プレス条件G1を得ることができる。活物質層3の目付量によっても、プレス後の活物質層3の厚さは変化する。
【0055】
本実施形態では、推定工程S60Aにおいて使用されるフィードバック制御されたプレス条件は、直前のロットの電極シート1の終端部におけるプレス条件である。また、補正値算出工程S60Bにおいて使用される直前のロットの活物質層3の厚さは、プレス工程S70において測定された、直前のロットの電極シート1の終端部における活物質層3の厚さBである。これからプレス工程S70を行うロットが晒される環境は、直前のロットの終端部が晒された環境と連続性があり、これに近いと考えられる。よって、かかる方法によれば、より信頼性の高い補正値Vを得ることができる。
【0056】
本実施形態では、初期プレス条件は、一対のプレスロール61,62の間の間隔Grを含んでいる。また、フィードバック制御されるプレス条件は、プレス荷重である。かかる方法によれば、初期プレス条件としての一対のプレスロール61,62の間の間隔Grを補正することにより、電極シート1の各ロットの初期段階から活物質層3の厚さを狙いの厚さに近くできる。そのため、その後のプレス荷重のフィードバック制御によって活物質層3の厚さを狙いの厚さとすることが迅速に可能である。
【0057】
本実施形態では、ロールプレス機60は、一対のプレスロール61,62を接近または離反可能に支持する一対のハウジング63,64と、一対のハウジング63,64を接近または離反させる駆動装置66と、一対のハウジング63,64の間に挟持されるとともに一対のハウジング63,64の接近離反方向の長さが可変に構成されたギャップ設定クサビ65aと、を備えている。ギャップ設定クサビ65aは、一対のハウジング63,64の間の間隔を調整することにより、一対のプレスロール61,62の間の間隔Grを設定可能なギャップ設定部材の一例である。設定工程S60は、ギャップ設定クサビ65aの長さを調整することにより一対のプレスロール61,62の間の間隔Grを初期プレス条件G1に一致させることを含んでいる。プレス工程S70では、一対のプレスロール61,62の間の間隔Grは、フィードバック制御された駆動装置66のプレス荷重に応じて、ギャップ設定クサビ65aが弾性変形することにより変化する。かかる方法によれば、フィードバック制御されるプレス荷重によって、初期プレス条件としてのプレスロール61,62の間の間隔Grを変化させ、活物質層3の厚さを変化させることができる。
【0058】
[他の実施形態]
以上、ここで提案される電極シートの製造装置および製造方法の一実施形態について説明した。しかし、上記した実施形態は一例に過ぎず、他の態様で実施することもできる。例えば、上記した実施形態では、ロールプレス機60の初期プレス条件は一対のプレスロール61,62の間の間隔Grであり、フィードバック制御されるプレス条件はプレス荷重であった。しかし、ロールプレス機60の初期プレス条件およびフィードバック制御されるプレス条件は、これには限定されない。例えば、ロールプレス機の初期プレス条件およびフィードバック制御されるプレス条件は、ともにプレスロールの間の間隔であってもよい。
【0059】
上記の場合、プレス条件の変化量と活物質層の厚さの変化量と間の第2の相関は、初期プレス条件と活物質層の厚さとの間の第1の相関と同じものであってもよい。この場合、初期プレス条件としてのプレスロール間隔の変化と、フィードバック制御されるプレス条件としてのプレスロール間隔の変化とは同様の結果を招来する。図7で示した工程との比較では、例えば、ステップS64に相当するステップが図7とは異なってもよい。この場合のステップS64に相当するステップでは、フィードバック制御に起因する活物質層の厚さの変化量は、図4に示す第1の相関に基づいて推定されてもよい。
【0060】
上記した実施形態では、プレス後の活物質層3の厚さはロールプレス機60のインライン膜厚計68によって測定されたが、例えば、プレス工程後の検査工程等において測定された厚さであってもよい。
【0061】
その他、上記した実施形態は、特に言及された場合を除いて本発明を限定しない。また、ここで開示される技術は、種々変更でき、特段の問題が生じない限りにおいて、各構成要素やここで言及された各処理は適宜に省略され、または、適宜に組み合わされ得る。
【0062】
本明細書は、以下の各項に記載の開示を含んでいる。
【0063】
項1:
帯状の電極箔と、前記電極箔に形成された活物質層と、を備える電極シートの製造方法であって、
ロールプレス機の向かい合う一対のプレスロールにより、前記電極シートをロット毎に連続的にプレスするプレス工程と、
前記ロールプレス機の初期プレス条件をロット毎に設定する設定工程と、を含み、
前記プレス工程では、プレス後の前記活物質層の厚さが測定され、前記ロールプレス機のプレス条件が前記測定された活物質層の厚さに基づいてフィードバック制御され、
前記設定工程は、
前記初期プレス条件および前記プレス条件と前記活物質層の厚さと間の予め求められた相関に基づき、直前のロットの前記初期プレス条件と、前記直前のロットのフィードバック制御されたプレス条件とから、前記直前のロットの前記活物質層の厚さを推定する推定工程と、
前記直前のロットの前記活物質層の厚さと、前記推定工程で推定された前記直前のロットの前記活物質層の厚さとの差分を算出し、前記差分を補正するような初期プレス条件の補正値を前記相関に基づいて算出する補正値算出工程と、
補正前の初期プレス条件に前記補正値を付加して前記初期プレス条件を求める補正工程と、を含んでいる、
電極シートの製造方法。
【0064】
項2:
前記活物質層の目付量を前記電極シートのロット毎に取得する目付量取得工程をさらに含み、
前記相関は、
前記活物質層の目付量毎に予め求められている、前記初期プレス条件と前記活物質層の厚さとの間の第1の相関と、
前記プレス条件の変化量と前記活物質層の厚さの変化量と間の予め求められた第2の相関と、を含み、
前記設定工程は、前記第1の相関に基づき、前記目付量取得工程で取得された目付量に応じて前記補正前の初期プレス条件を求める補正前条件算出工程を含み、
前記推定工程では、前記第1の相関および前記第2の相関に基づいて前記直前のロットの前記活物質層の厚さを推定し、
前記補正値算出工程では、前記第1の相関に基づいて前記補正値を算出する、
項1に記載の電極シートの製造方法。
【0065】
項3:
前記推定工程において使用されるフィードバック制御されたプレス条件は、前記直前のロットの電極シートの終端部におけるプレス条件であり、
前記補正値算出工程において使用される前記直前のロットの前記活物質層の厚さは、前記プレス工程において測定された、前記直前のロットの電極シートの終端部における前記活物質層の厚さである、
項1または2に記載の電極シートの製造方法。
【0066】
項4:
前記初期プレス条件は、前記一対のプレスロールの間の間隔を含み、
前記フィードバック制御されるプレス条件は、プレス荷重である、
項1~3のいずれか一つに記載の電極シートの製造方法。
【0067】
項5:
前記ロールプレス機は、
前記一対のプレスロールを接近または離反可能に支持する一対の支持部材と、
前記一対の支持部材を接近または離反させる駆動装置と、
前記一対の支持部材の間に挟持されるとともに前記一対の支持部材の接近離反方向の長さが可変に構成され、前記一対の支持部材の間の間隔を調整することにより前記一対のプレスロールの間の間隔を設定可能なギャップ設定部材と、を備え、
前記設定工程は、前記ギャップ設定部材の長さを調整することにより前記一対のプレスロールの間の間隔を前記初期プレス条件に一致させることを含み、
前記プレス工程では、前記一対のプレスロールの間の間隔は、フィードバック制御された前記駆動装置のプレス荷重に応じて、前記ギャップ設定部材が弾性変形することにより変化する、
項4に記載の電極シートの製造方法。
【0068】
項6:
向かい合う一対のプレスロールを備え、帯状の電極箔と前記電極箔に形成された活物質層とを備える電極シートを前記一対のプレスロールによりロット毎に連続的にプレスするロールプレス機を含み、
前記ロールプレス機は、
プレス後の前記活物質層の厚さを測定する測定装置と、
前記測定装置によって測定された前記活物質層の厚さに基づいてプレス条件をフィードバック制御するプレス制御部と、
初期プレス条件をロット毎に設定する設定部と、を備え、
前記設定部は、
前記初期プレス条件および前記プレス条件と前記活物質層の厚さと間の予め求められた相関が記憶された記憶部と、
前記相関に基づき、直前のロットの前記初期プレス条件と、前記直前のロットのフィードバック制御されたプレス条件とから、前記直前のロットの前記活物質層の厚さを推定する推定部と、
前記測定装置によって測定された前記直前のロットの前記活物質層の厚さと、前記推定部によって推定された前記直前のロットの前記活物質層の厚さとの差分を算出し、前記差分を補正するような初期プレス条件の補正値を前記相関に基づいて算出する補正値算出部と、
補正前の初期プレス条件に前記補正値を付加して前記初期プレス条件を求める補正部と、を備えている、
電極シートの製造装置。
【0069】
項7:
前記活物質の目付量を前記電極シートのロット毎に取得する目付量取得装置をさらに備え、
前記相関は、
前記活物質層の目付量毎に予め求められている、前記初期プレス条件と前記活物質層の厚さとの間の第1の相関と、
前記プレス条件の変化量と前記活物質層の厚さの変化量と間の予め求められた第2の相関と、を含み、
前記設定部は、前記第1の相関に基づき、前記目付量取得装置で取得された目付量に応じて、前記補正前の初期プレス条件を求める補正前条件算出部を備え、
前記推定部は、前記第1の相関および前記第2の相関に基づいて前記直前のロットの前記活物質層の厚さを推定し、
前記補正値算出部は、前記第1の相関に基づいて前記補正値を算出する、
項6に記載の電極シートの製造装置。
【0070】
項8:
前記推定部は、前記直前のロットの電極シートの終端部におけるフィードバック制御されたプレス条件を用いて前記活物質層の厚さを推定し、
前記補正値算出部は、前記直前のロットの電極シートの終端部において測定された前記活物質層の厚さを用いて前記補正値を算出する、
項6または7に記載の電極シートの製造装置。
【0071】
項9:
前記初期プレス条件は、前記一対のプレスロールの間の間隔を含み、
前記フィードバック制御されるプレス条件は、プレス荷重である、
項6~8のいずれか一つに記載の電極シートの製造装置。
【0072】
項10:
前記ロールプレス機は、
前記一対のプレスロールを接近または離反可能に支持する一対の支持部材と、
前記一対の支持部材を接近または離反させる駆動装置と、
前記一対の支持部材の間に挟持されるとともに前記一対の支持部材の接近離反方向の長さが可変に構成され、前記一対の支持部材の間の間隔を調整することにより前記一対のプレスロールの間の間隔を設定可能なギャップ設定部材と、を備え、
前記設定部は、前記ギャップ設定部材の長さを調整することにより前記一対のプレスロールの間の間隔を前記初期プレス条件に一致させるように構成され、
前記一対のプレスロールの間の間隔は、前記プレス制御部によりフィードバック制御された前記駆動装置のプレス荷重に応じて、前記ギャップ設定部材が弾性変形することにより変化する、
項9に記載の電極シートの製造装置。
【符号の説明】
【0073】
1 電極シート
2 電極箔
3 活物質層
10 電極シート製造装置
20 計量装置
30 混錬装置
40 塗工装置
50 乾燥装置
60 ロールプレス機
60A 巻出装置
60B プレス装置
60C 巻取装置
61,62 プレスロール
63,64 ハウジング(支持部材)
65 ギャップ設定機構
65a ギャップ設定クサビ(ギャップ設定部材)
66 駆動装置
66a 昇降クサビ
67 ロードセル
68 インライン膜厚計(測定装置)
69 回転装置
70 制御装置
71 プレス制御部
72 設定部
72A 記憶部
72B 推定部
72C 補正前条件算出部
72D 補正値算出部
72E 補正部
72F 空運転制御部
A 初期プレス条件からの推定厚さ
B 測定厚さ
D プレス圧変化による厚さ変化の推定値
E 推定厚さと測定厚さとの差分
F 補正前の初期プレス条件(プレスロール間隔)
V 補正値
G1 初期プレス条件(プレスロール間隔)
S10 計量工程
S20 混錬工程
S30 塗工工程
S40 乾燥工程
S50 目付量取得工程
S60 設定工程
S60A 推定工程
S60B 補正値算出工程
S60C 補正前条件算出工程
S60D 補正工程
S70 プレス工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7