(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119445
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】連続鋳造装置
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20240827BHJP
B22D 11/11 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B22D11/10 310F
B22D11/11 B
B22D11/10 310G
B22D11/10 360Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026349
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100212026
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真生
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】前川 浩規
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MB20
(57)【要約】
【課題】本開示は、清浄性の高い溶鋼を得ることが可能な連続鋳造装置を説明する。
【解決手段】連続鋳造装置は、内部に貯留している溶鋼を、底壁に設けられた排出孔を通じて鋳型に注湯するように構成されたタンディッシュと、タンディッシュの上方に配置されており、タンディッシュに向けて下方に延びるノズルを通じてタンディッシュに溶鋼を注湯するように構成された取鍋と、ノズルから排出孔に向かう溶鋼の流れ方向において並ぶように、タンディッシュの底部に配置された複数の気泡発生部と、複数の気泡発生部にそれぞれガスを供給するように構成された供給部とを備える。複数の気泡発生部は、流れ方向に沿って延びるタンディッシュの一の側壁寄りに位置している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に貯留している溶鋼を、底壁に設けられた排出孔を通じて鋳型に注湯するように構成されたタンディッシュと、
前記タンディッシュの上方に配置されており、前記タンディッシュに向けて下方に延びるノズルを通じて前記タンディッシュに溶鋼を注湯するように構成された取鍋と、
前記ノズルから前記排出孔に向かう溶鋼の流れ方向において並ぶように、前記タンディッシュの底部に配置された複数の気泡発生部と、
前記複数の気泡発生部にそれぞれガスを供給するように構成された供給部とを備え、
前記複数の気泡発生部は、前記流れ方向に沿って延びる前記タンディッシュの一の側壁寄りに位置している、連続鋳造装置。
【請求項2】
前記複数の気泡発生部のうち少なくとも一つは、前記タンディッシュの底壁に配置されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記複数の気泡発生部のうち少なくとも一つは、前記タンディッシュの前記一の側壁のうち底壁の近傍に配置されている、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記複数の気泡発生部のうち前記流れ方向において最上流側に位置する一の気泡発生部の上流側において、前記タンディッシュの底壁に設けられ、且つ、前記流れ方向から見たときに前記一の気泡発生部を避けるように前記タンディッシュの幅方向に延びる堰部材をさらに備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
内部に貯留している溶鋼を、底壁に設けられた排出孔を通じて鋳型に注湯するように構成されたタンディッシュと、
前記タンディッシュの上方に配置されており、前記タンディッシュに向けて下方に延びるノズルを通じて前記タンディッシュに溶鋼を注湯するように構成された取鍋と、
前記ノズルから前記排出孔に向かう溶鋼の流れ方向において延びる長尺状の気泡発生部と、
前記気泡発生部にそれぞれガスを供給するように構成された供給部とを備え、
前記気泡発生部は、前記流れ方向に沿って延びる前記タンディッシュの一の側壁寄りに位置している、連続鋳造装置。
【請求項6】
前記気泡発生部は、前記タンディッシュの底壁に配置されている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記気泡発生部は、前記タンディッシュの前記一の側壁のうち底壁の近傍に配置されている、請求項4に記載の装置。
【請求項8】
前記気泡発生部の上流側において、前記タンディッシュの底壁に設けられ、且つ、前記流れ方向から見たときに前記気泡発生部を避けるように前記タンディッシュの幅方向に延びる堰部材をさらに備える、請求項5~7のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、連続鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、溶鋼(金属溶湯)を貯留する取鍋の下方に配置された連続鋳造用タンディッシュを開示している。取鍋の底壁には、タンディッシュに向けて延びるノズルが設けられている。タンディッシュは、ノズルを介して取鍋から流出した溶鋼を一時的に貯留するように構成されている。
【0003】
ところで、タンディッシュ内においては、ノズルから吐出された溶鋼は、比較的速い流れで、タンディッシュの底壁に衝突した後、その向きを変えて、当該底壁面沿って水平方向に流れる。ところが、溶鋼中には介在物(例えば、アルミナ等からなる粒状の固形物など)が存在しており、溶鋼が速い流れでタンディッシュの底壁にまで到達すると、介在物もタンディッシュの底壁近傍まで沈んでしまう。このとき、介在物は溶鋼との比重差で浮上するが、その浮上速度は介在物の体積に依存する。したがって、体積の小さい、すなわち粒径の小さい介在物は、浮上速度が遅く、溶鋼中に沈んだまま湯面に浮かび上がらず、溶鋼の速い流れに随伴してタンディッシュから鋳型に向けて排出されてしまう懸念がある。
【0004】
また、溶鋼がタンディッシュの底壁に衝突すると、その反転流としての上昇流が生ずる。当該上昇流は、湯面に到達すると、湯面上を被覆しているスラグを溶鋼に巻き込んでしまうことがある。このときも、スラグが、溶鋼中に沈んでしまい、溶鋼の速い流れに随伴してタンディッシュから鋳型に向けて排出されてしまう懸念がある。以上のような場合、鋳型を経て製造された鋳片に不純物(上記の介在物、スラグ等)が混入してしまい、製品の品質低下をもたらす要因となり得る。
【0005】
そこで、特許文献1では、タンディッシュ内に、下堰及び上堰を溶鋼の流れ方向において交互に配置している。これにより、溶鋼は、タンディッシュ内において蛇行しながら流れるので、溶鋼内の介在物等が湯面に浮上しやすくなる。しかしながら、下堰及び上堰は通常、耐火物で構成されているので、溶鋼と接することで溶損することがある。そのため、下堰及び上堰の交換のためのランニングコストが生じうる。また、溶損した耐火物の一部が溶鋼に混入することで、新たな介在物ともなり得る。
【0006】
一方、特許文献2は、下堰及び上堰に代えて、タンディッシュの底壁に多孔質レンガを設けた連続鋳造用タンディッシュを開示している。特許文献2では、多孔質レンガを通じてガスをタンディッシュ内に供給することにより、溶鋼内に、上昇流を伴う多数の気泡を発生させ、溶鋼内の介在物等を湯面に浮上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1-224152号公報
【特許文献2】特開昭61-082955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この場合、多孔質レンガの下流側において、溶鋼が上昇流により湯面の近傍を流れていく。そのため、多孔質レンガと鋳型との間におけるタンディッシュの下部空間で溶鋼が滞留しやすくなる。したがって、当該下部空間に存在した、介在物等を比較的多く含む溶鋼が、注湯末期に鋳型に流れ込み、製品の品質低下をもたらす要因となり得る。
【0009】
そこで、本開示は、清浄性の高い溶鋼を得ることが可能な連続鋳造装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
連続鋳造装置の一例は、内部に貯留している溶鋼を、底壁に設けられた排出孔を通じて鋳型に注湯するように構成されたタンディッシュと、タンディッシュの上方に配置されており、タンディッシュに向けて下方に延びるノズルを通じてタンディッシュに溶鋼を注湯するように構成された取鍋と、ノズルから排出孔に向かう溶鋼の流れ方向において並ぶように、タンディッシュの底部に配置された複数の気泡発生部と、複数の気泡発生部にそれぞれガスを供給するように構成された供給部とを備える。複数の気泡発生部は、流れ方向に沿って延びるタンディッシュの一の側壁寄りに位置している。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る連続鋳造装置によれば、清浄性の高い溶鋼を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、連続鋳造装置の一例を側方から見た概略図である。
【
図3】
図3は、
図1の連続鋳造装置を上方から見た概略図である。
【
図4】
図4は、連続鋳造装置の他の例を側方から見た概略図である。
【
図5】
図5は、
図4の連続鋳造装置を上方から見た概略図である。
【
図6】
図6は、連続鋳造装置の他の例を示す、
図1のII-II線における断面図である。
【
図7】
図7は、連続鋳造装置の他の例を上方から見た概略図である。
【
図8】
図8は、連続鋳造装置の他の例を上方から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。なお、本明細書において、図の上、下、右、左というときは、図中の符号の向きを基準とすることとする。
【0014】
図1~
図3を参照して、連続鋳造装置1の構成について説明する。連続鋳造装置1は、
図1に示されるように、取鍋10と、タンディッシュ12と、蓋部材14と、鋳型16と、鋳片支持ロール18と、供給部20と、複数の多孔質体22(気泡発生部)とを備える。
【0015】
取鍋10は、溶鋼M(溶湯ともいう。)を貯留する容器である。取鍋10の底壁には、タンディッシュ12に向けて下方に延びるノズル10aが設けられている。そのため、取鍋10内の溶鋼Mは、ノズル10aを通じて、タンディッシュ12内に供給(注湯)される。
【0016】
タンディッシュ12は、取鍋10の下方に配置されている。タンディッシュ12は、ノズル10aから吐出された溶鋼Mを内部に一時的に貯留するように構成されている。タンディッシュ12内に貯留されている溶鋼Mの湯面は、スラグSgによって覆われている。
タンディッシュ12は、
図1~
図3に例示されるように、底壁12aと、一対の側壁12b(12b1,12b2)と、一対の端壁12cと、フランジ部材12dとを含む。
【0017】
底壁12aは、取鍋10のノズル10a側(
図1の左側であり、溶鋼Mの流れ方向における上流側)から鋳型16側(
図1の右側であり、溶鋼Mの流れ方向における下流側)にかけて延びている。一対の側壁12bは、底壁12aの各側縁に一体的に接続されており、当該各側縁から上方に向けて延びている。一対の側壁12bの離隔距離、すなわちタンディッシュ12の幅は、例えば、600mm~800mm程度であってもよい。一対の端壁12cは、底壁12aの各端縁(底壁12aの長手方向において対向する上流側の端縁及び下流側の端縁)に一体的に接続されており、当該各端縁から上方に向けて延びている。
【0018】
上流側の端壁12cの各側縁は、一対の端壁12cのうち上流側の側縁と一体的に接続されている。下流側の端壁12cの各側縁は、一対の端壁12cのうち下流側の側縁と一体的に接続されている。フランジ部材12dは、水平方向に拡がるように、一対の側壁12bの上縁及び一対の端壁12cの上縁に設けられている。フランジ部材12dによって囲まれる空間は、タンディッシュ12の開口部12eを構成している。
【0019】
蓋部材14は、
図1に例示されるように、タンディッシュ12の開口部12eを覆うように、フランジ部材12dに取り付けられている。蓋部材14のうち上流側の部分には、取鍋10のノズル10aが通過可能な開口部14aが設けられている。
【0020】
鋳型16は、タンディッシュ12の下方に配置されている。鋳型16は、タンディッシュ12の底壁12aに設けられたノズル12f(排出孔)から流出した溶鋼Mを冷却しながら所定形状に成形するように構成されている。すなわち、タンディッシュ12は、内部に貯留している溶鋼Mを鋳型16に供給(注湯)するように構成されている。そのため、溶鋼Mは、タンディッシュ12内において、取鍋10のノズル10aからタンディッシュ12のノズル12fに向かうように流動する。
【0021】
鋳片支持ロール18は、鋳型16から引き抜かれた鋳片Stを、冷却しつつ搬送するように構成されている。
【0022】
供給部20は、複数の多孔質体22を通じて、不活性ガス(例えば、アルゴンガス、窒素ガスなど)をタンディッシュ12内に供給するように構成されている。供給部20は、ガス源20aと、配管20bとを含む、ガス源20aは、不活性ガスを貯留するように構成されている。配管20bは、ガス源20aと、複数の多孔質体22とを接続するように延びている。配管20bと複数の多孔質体22とは、例えば、一方に設けられた雄ネジ部が、他方に設けられた雌ネジ部に螺合されることで、接続されてもよい。
【0023】
複数の多孔質体22は、供給部20から供給された不活性ガスが内部を通過することにより、タンディッシュ12内の溶鋼Mに気泡Bを発生させるように構成されている。複数の多孔質体22は、例えば、多孔質状の耐火物(耐火レンガなど)であってもよい。
【0024】
複数の多孔質体22は、取鍋10のノズル10aとタンディッシュ12のノズル12fとの間において、タンディッシュ12の底壁12aに配置されている。
図1に示される例では、ノズル10aとノズル12fとの間に、4つの多孔質体22が配置されている。流れ方向(タンディッシュ12の長手方向)における複数の多孔質体22の間隔は、例えば、300mm~500mm程度に設定されていてもよい。各多孔質体22は、例えば、タンディッシュ12の底壁12aを貫通する貫通孔内に取り付けられていてもよい。
【0025】
図2及び
図3に例示されるように、複数の多孔質体22は、一対の側壁12bのうち一方の側壁12b1寄りに位置している。換言すれば、複数の多孔質体22は、タンディッシュ12の長手方向から見たときに、タンディッシュ12の幅方向における中央と、側壁12b1との間に位置している。これらの複数の多孔質体22に供給部20から不活性ガスが供給されることで、各多孔質体22からの気泡Bが、上方に向かうにつれて拡がるように溶鋼M内に形成される。すなわち、供給部20から不活性ガスが各多孔質部材24aに供給されることによって、気泡Bが上昇流Fと共に溶鋼M内に形成される(
図1及び
図2を参照)。
【0026】
[作用]
以上の例によれば、取鍋10のノズル10aからタンディッシュ12内に吐出された溶鋼は、タンディッシュ12の底壁12aに衝突してその向きを変え、底壁12aに沿って水平方向に流れる(
図1の矢印Ar1を参照)。溶鋼Mは、複数の多孔質体22のうち流れ方向において最上流側に位置する多孔質体22aよって形成された気泡Bを伴う上昇流Fに到達する。溶鋼Mは、下流側に流れながら、当該上昇流Fによって、タンディッシュ12の側壁12b1に沿って上昇して、湯面に到達する(
図2の矢印Ar2を参照)。湯面に到達した溶鋼Mは、下流側に流れながら、側壁12b1からの反力によってその向きを側壁12b2に変えて、湯面に沿った水平流れとなる(
図2の矢印Ar3を参照)。溶鋼Mは、下流側に流れながら、側壁12b2に衝突して下降流となり、側壁12b2に沿って降下して、タンディッシュ12の底面に到達する(
図2の矢印Ar4を参照)。溶鋼Mは、下流側に流れながら、タンディッシュ12の底面に衝突して、その向きを側壁12b1に変えて(
図2の矢印Ar5を参照)、最上流側の多孔質体22aの下流側に位置する多孔質体22bよって形成された気泡Bを伴う上昇流Fに到達する。以降、溶鋼Mの流れが同様に変化することで、タンディッシュ12内において溶鋼Mの螺旋流が発生する(
図3の矢印Ar6を参照)。このように、複数の多孔質体22から形成される気泡Bを伴う上昇流Fにより、溶鋼Mがタンディッシュ12内を螺旋状に流れるようになるので、溶鋼Mがタンディッシュ12内に長時間滞留し、溶鋼M内の介在物等がより湯面に浮上しやすくなる。また、気泡Bを伴う上昇流Fによって溶鋼Mが上昇する際に、溶鋼M内の介在物等が気泡Bの界面に補足される。しかも、溶鋼M内には多数の気泡Bが発生し、気泡Bの表面積がかなりの大きさとなるため、溶鋼M内の介在物等の除去性が極めて高まる。以上により、清浄性の高い溶鋼Mを得ることが可能となる。
【0027】
以上の例によれば、複数の多孔質体22が、タンディッシュ12の底壁12aに配置されている。そのため、タンディッシュ12の底壁12aに配置されている多孔質体22からは気泡Bが真っ直ぐ上方に吹き出すので、多孔質体22よって形成された気泡Bを伴う上昇流Fがより勢いよく上方に向かいやすくなる。したがって、タンディッシュ12内において螺旋流がより形成されやすくなる。その結果、より清浄性の高い溶鋼Mを得ることが可能となる。
【0028】
[変形例]
本明細書における開示はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特許請求の範囲及びその要旨を逸脱しない範囲において、以上の例に対して種々の省略、置換、変更などが行われてもよい。
【0029】
(1)取鍋10のノズル10aとタンディッシュ12のノズル12fとの間において、複数の多孔質体22がタンディッシュ12の底部に配置されていてもよい。この場合、複数の多孔質体22のうち少なくとも一つの多孔質体22が、タンディッシュ12の底壁12aに配置されていてもよい。
【0030】
(2)
図4及び
図5に例示されるように、多孔質体22は、タンディッシュ12の長手方向に延びる長尺状を呈しており、側壁12b1寄りに配置されていてもよい。この場合、供給部20は、多孔質体22のうちその長手方向において異なる複数の箇所にガスを供給するように構成されていてもよい。この場合も、多孔質体22のうちガスの各吹出口(配管20bの各出口)において、気泡Bが上昇流Fと共に溶鋼M内に形成される。そのため、以上の例と同様に、そのため、タンディッシュ12内において溶鋼Mが螺旋状に流れると共に、溶鋼M内の介在物等が気泡Bに補足されやすくなる。したがって、より清浄性の高い溶鋼Mを得ることが可能となる。なお、他の変形例においても、長尺状の多孔質体22を適用しうる。
【0031】
(3)注湯末期では、溶鋼Mの表面に浮上している介在物やスラグSgなどが鋳型16に入り込まないよう、湯面の高さがある程度低くなったら(例えば、タンディッシュ12の底壁12aから50mm程度になったら)鋳造処理を停止し、タンディッシュ12内に残った溶鋼M(「残湯」ともいう。)をタンディッシュ12の中で凝固させる処理、排滓させる処理などが行われる。そこで、連続鋳造装置1は、
図6に例示されるように、タンディッシュ12の側壁12b1のうち底壁12aの近傍に配置された多孔質体24(気泡発生部)を含んでいてもよい。すなわち、タンディッシュ12の底部には、タンディッシュ12の側壁12b1のうち底壁12aの近傍も含まれる。
【0032】
この場合、多孔質体24の高さ位置は、タンディッシュ12の底壁12aよりも高いため、残湯が凝固する際に、多孔質体24内での溶鋼Mの詰まりが発生し難くなる。したがって、多孔質体24のメンテナンスの手間やコストを低減することが可能となる。なお、多孔質体24の高さ位置は、残湯の湯面の高さ(例えば、タンディッシュ12の底壁12aから50mm程度)よりも高く設定されていてもよい。
【0033】
タンディッシュ12の側壁12b1のうち底壁12aの近傍に多孔質体24を設ける場合、
図6に例示されるように、タンディッシュ12の底壁12aにも多孔質体22が設けられていてもよい。この場合、多孔質体22よって形成された気泡Bを伴う上昇流F(
図6の矢印Ar2を参照)と、多孔質体24よって形成された気泡Bを伴う上昇流(
図6の矢印Ar7を参照)とが合流して、これらの上昇流により、溶鋼Mが湯面に向けて上昇しやすくなる。そのため、タンディッシュ12内において螺旋流がより形成されやすくなる。したがって、より清浄性の高い溶鋼Mを得ることが可能となる。
【0034】
これらの多孔質体22,24は、
図6に例示されるように、同一の縦断面内に位置していてもよいし、一方が他方に対して流れ方向においてずれて位置していてもよい。あるいは、タンディッシュ12の側壁12b1のうち底壁12aの近傍に多孔質体24を設ける場合、タンディッシュ12の底壁12aに多孔質体が設けられていなくてもよい。
【0035】
(4)
図7に例示されるように、連続鋳造装置1は、複数の多孔質体22のうち最上流に位置する多孔質体22aの上流側において、タンディッシュ12の底壁12aに設けられた堰部材26をさらに備えていてもよい。堰部材26は、流れ方向(タンディッシュ12の長手方向)から見たときに、多孔質体22aを避けるようにタンディッシュ12の幅方向において延びていてもよい。換言すれば、堰部材26は、タンディッシュ12の幅方向において、側壁12b2と、多孔質体22aとの間で延びていてもよい。堰部材26のうち側壁12b2側の部分は、側壁12b2と接触していてもよい。
【0036】
図7に例示されるように、堰部材26の上流側の側面は、流れ方向に対して傾斜する傾斜面であってもよい。当該傾斜面は、側壁12b2から側壁12b1に向かうにつれて、上流側から下流側に向かうように傾斜していてもよい。すなわち、堰部材26は、上方から見たときに三角形状(例えば、直角三角形状など)を呈する三角柱であってもよい。堰部材26は、流れ方向における幅がタンディッシュ12の幅方向において略一定に構成されていてもよい。すなわち、堰部材26は、上方から見たときに四角形状(例えば、矩形状)を呈する四角柱であってもよい。堰部材26は、耐火物(例えば、耐火レンガ)によって構成されていてもよい。堰部材26の高さは、例えば、50mm~100mm程度であってもよい。
【0037】
この場合、取鍋10のノズル10aからタンディッシュ12内に吐出された溶鋼Mは、タンディッシュ12の底壁12aに衝突してその向きを変え、底壁12aに沿って水平方向に流れた後(
図7の矢印Ar1を参照)、最上流に位置する多孔質体22aによって形成される気泡Bを伴う上昇流Fに至る前に、堰部材26に衝突する。すなわち、溶鋼Mの流れ方向が、堰部材26によって、最上流に位置する多孔質体22aに近づくように強制的に変えられる(
図7の矢印Ar8を参照)。そのため、堰部材26の存在により、溶鋼Mの多くが最上流に位置する多孔質体22aに誘導されるため、旋回流が形成されやすくなる。したがって、より清浄性の高い溶鋼Mを得ることが可能となる。
【0038】
(5)本開示に係る技術は、多ストランド用の連続鋳造装置に適用されてもよい。この場合も、上記の例と同様に、清浄性の高い溶鋼Mを得ることが可能となる。
【0039】
ここで、本開示に係る技術が、4ストランド用の連続鋳造装置1に適用された場合の例について、
図8を参照して説明する。
図8に例示される連続鋳造装置1においては、タンディッシュ12の各端壁12cの近傍のそれぞれに、ノズル12fが設けられており、各端壁12cの略中央に取鍋10のノズル10aが配置されている。また、
図8に例示される連続鋳造装置1においては、取鍋10のノズル10aと各ノズル12fとの間にそれぞれノズル12gが設けられており、各ノズル12gの下方にそれぞれ鋳型16が配置されている。そのため、ノズル10aから吐出された溶鋼Mは、タンディッシュ12の一方の端壁12cと他方の端壁12cとにそれぞれ流れていく。ノズル10aと一方の端壁12cとの間には、溶鋼Mの流れ方向(タンディッシュ12の長手方向)に沿って並ぶ複数の多孔質体22が、側壁12b1寄りに配置されている。ノズル10aと他方の端壁12cとの間にも、溶鋼Mの流れ方向(タンディッシュ12の長手方向)に沿って並ぶ複数の多孔質体22が、側壁12b1寄りに配置されている。
【0040】
(6)以上の例では、タンディッシュ12内の溶鋼Mに気泡Bを発生させるために多孔質体22を用いていたが、溶鋼Mに気泡Bを発生させることができれば、多孔質体22以外の他の部材又は手段が用いられてもよい。例えば、多孔質体22に代えて、タンディッシュ12の底壁12a及び/又は側壁12b1に、配管(気泡発生部)が設けられてもよい。この場合、供給部20から不活性ガスが当該配管を通じてタンディッシュ12内の溶鋼Mに供給されることで、溶鋼Mに気泡Bが発生する。
【0041】
[他の例]
例1.連続鋳造装置の一例は、内部に貯留している溶鋼を、底壁に設けられた排出孔を通じて鋳型に注湯するように構成されたタンディッシュと、タンディッシュの上方に配置されており、タンディッシュに向けて下方に延びるノズルを通じてタンディッシュに溶鋼を注湯するように構成された取鍋と、ノズルから排出孔に向かう溶鋼の流れ方向において並ぶように、タンディッシュの底部に配置された複数の気泡発生部と、複数の気泡発生部にそれぞれガスを供給するように構成された供給部とを備える。複数の気泡発生部は、流れ方向に沿って延びるタンディッシュの一の側壁寄りに位置している。
【0042】
この場合、取鍋のノズルからタンディッシュ内に吐出された溶鋼は、タンディッシュの底壁に衝突してその向きを変え、底壁に沿って水平方向に流れた後、複数の気泡発生部のうち流れ方向において最上流側に位置する一の気泡発生部よって形成された気泡を伴う上昇流に到達する。溶鋼は、下流側に流れながら、当該上昇流によって、タンディッシュの一の側壁に沿って上昇して、湯面に到達する。湯面に到達した溶鋼は、下流側に流れながら、当該一の側壁からの反力によってその向きをタンディッシュの他の側壁に変えて、湯面に沿った水平流れとなる。溶鋼は、下流側に流れながら、タンディッシュの他の側壁に衝突して下降流となり、当該他の側壁に沿って降下して、タンディッシュの底面に到達する。溶鋼は、下流側に流れながら、タンディッシュの底面に衝突して、その向きをタンディッシュの一の側壁に変えて、複数の気泡発生部のうち別の気泡発生部よって形成された気泡を伴う上昇流に到達する。以降、溶鋼の流れが同様に変化することで、タンディッシュ内において溶鋼の螺旋流が発生する。このように、複数の気泡発生部から形成される気泡を伴う上昇流により、溶鋼がタンディッシュ内を螺旋状に流れるようになるので、溶鋼がタンディッシュ内に長時間滞留し、溶鋼内の介在物等がより湯面に浮上しやすくなる。また、気泡を伴う上昇流によって溶鋼が上昇する際に、溶鋼内の介在物等が気泡の界面に補足される。しかも、溶鋼内には多数の気泡が発生し、気泡の表面積がかなりの大きさとなるため、溶鋼内の介在物等の除去性が極めて高まる。以上により、清浄性の高い溶鋼を得ることが可能となる。
【0043】
例2.例1の装置において、複数の気泡発生部のうち少なくとも一つは、タンディッシュの底壁に配置されていてもよい。この場合、タンディッシュの底壁に配置されている気泡発生部からは気泡が真っ直ぐ上方に吹き出すので、気泡発生部によって形成された気泡を伴う上昇流がより勢いよく上方に向かいやすくなる。そのため、タンディッシュ内において螺旋流がより形成されやすくなる。したがって、より清浄性の高い溶鋼を得ることが可能となる。
【0044】
例3.例1又は例2の装置において、複数の気泡発生部のうち少なくとも一つは、タンディッシュの一の側壁のうち底壁の近傍に配置されていてもよい。ところで、注湯末期では、溶鋼の表面に浮上している介在物やスラグなどが鋳型に入り込まないよう、湯面の高さがある程度低くなったら鋳造処理を停止し、タンディッシュ内に残った溶鋼(「残湯」ともいう。)をタンディッシュの中で凝固させる処理、排滓させる処理などが行われる。このとき、タンディッシュの側壁のうち底壁の近傍に配置されている気泡発生部の高さ位置は、タンディッシュの底面よりも高い。そのため、残湯が凝固、排滓などする際に、当該気泡発生部内での溶鋼の詰まりが発生し難くなる。したがって、当該気泡発生部のメンテナンスの手間やコストを低減することが可能となる。
【0045】
例4.例1~例3のいずれかの装置は、複数の気泡発生部のうち流れ方向において最上流側に位置する一の気泡発生部の上流側において、タンディッシュの底壁に設けられ、且つ、流れ方向から見たときに一の気泡発生部を避けるようにタンディッシュの幅方向に延びる堰部材をさらに備えていてもよい。この場合、取鍋のノズルからタンディッシュ内に吐出された溶鋼は、タンディッシュの底壁に衝突してその向きを変え、底壁に沿って水平方向に流れた後、一の気泡発生部によって形成される気泡を伴う上昇流に至る前に、堰部材に衝突する。すなわち、溶鋼の流れ方向が、堰部材が位置していない一の気泡発生部に向けて強制的に誘導される。そのため、堰部材の存在により螺旋流が形成されやすくなる。したがって、より清浄性の高い溶鋼を得ることが可能となる。
【0046】
例5.連続鋳造装置の他の例は、内部に貯留している溶鋼を、底壁に設けられた排出孔を通じて鋳型に注湯するように構成されたタンディッシュと、タンディッシュの上方に配置されており、タンディッシュに向けて下方に延びるノズルを通じてタンディッシュに溶鋼を注湯するように構成された取鍋と、ノズルから排出孔に向かう溶鋼の流れ方向において延びる長尺状の気泡発生部と、気泡発生部にそれぞれガスを供給するように構成された供給部とを備える。気泡発生部は、流れ方向に沿って延びるタンディッシュの一の側壁寄りに位置している。この場合、例1の装置と同様の作用効果が得られる。
【0047】
例6.例5の装置において、気泡発生部は、タンディッシュの底壁に配置されていてもよい。この場合、例2の装置と同様の作用効果が得られる。
【0048】
例7.例5又は例6の装置において、気泡発生部は、タンディッシュの一の側壁のうち底壁の近傍に配置されていてもよい。この場合、例3の装置と同様の作用効果が得られる。
【0049】
例8.例5~例7のいずれかの連続鋳造装置は、気泡発生部の上流側において、タンディッシュの底壁に設けられ、且つ、流れ方向から見たときに気泡発生部を避けるようにタンディッシュの幅方向に延びる堰部材をさらに備えていてもよい。この場合、例4の装置と同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0050】
1…連続鋳造装置、10…取鍋、10a…ノズル、12…タンディッシュ、12a…底壁、12b,12b1…側壁、12f,12g…ノズル(排出孔)、16…鋳型、20…供給部、22,22a,22b,24…多孔質体(気泡発生部)、26…堰部材、B…気泡、M…溶鋼。