IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 上野製薬株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119457
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】エンベロープウイルス不活化剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/40 20060101AFI20240827BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240827BHJP
   D06M 13/152 20060101ALI20240827BHJP
   D06M 13/188 20060101ALI20240827BHJP
   A61P 31/12 20060101ALN20240827BHJP
   A61P 31/16 20060101ALN20240827BHJP
   A61P 31/14 20060101ALN20240827BHJP
   A61P 31/20 20060101ALN20240827BHJP
   A61P 31/18 20060101ALN20240827BHJP
   A61P 31/22 20060101ALN20240827BHJP
   A61K 31/235 20060101ALN20240827BHJP
   A61K 47/08 20060101ALN20240827BHJP
   A61K 9/08 20060101ALN20240827BHJP
   A61K 47/46 20060101ALN20240827BHJP
   A61K 9/70 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
A01N37/40
A01P1/00
D06M13/152
D06M13/188
A61P31/12
A61P31/16
A61P31/14
A61P31/20
A61P31/18
A61P31/22
A61K31/235
A61K47/08
A61K9/08
A61K47/46
A61K9/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026367
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】本岡 良太
(72)【発明者】
【氏名】大塚 良一
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
4H011
4L033
【Fターム(参考)】
4C076AA13
4C076AA71
4C076CC35
4C076DD40
4C076EE58
4C076EE58A
4C076FF02
4C076FF12
4C206AA10
4C206DB17
4C206DB43
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA37
4C206NA01
4C206NA14
4C206ZB33
4C206ZC55
4H011AA04
4H011BB06
4H011DA10
4L033AB04
4L033AC10
4L033BA13
4L033BA21
(57)【要約】
【課題】本発明は、不活化効果に優れるエンベロープウイルス不活化剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、式(1)
【化1】
[式中、Rは炭素原子数6~8のアルキル基を示す]
で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩を含む、エンベロープウイルス不活化剤に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】
[式中、Rは炭素原子数6~8のアルキル基を示す]
で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩を含む、エンベロープウイルス不活化剤。
【請求項2】
4-ヒドロキシ安息香酸アルキルは4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルおよび/または4-ヒドロキシ安息香酸2-エチルヘキシルである、請求項1に記載のエンベロープウイルス不活化剤。
【請求項3】
4-ヒドロキシ安息香酸アルキルは4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルである、請求項1に記載のエンベロープウイルス不活化剤。
【請求項4】
さらに溶剤を含み、pHは5以上9以下である、請求項1に記載のエンベロープウイルス不活化剤。
【請求項5】
溶剤を含まない、請求項1に記載のエンベロープウイルス不活化剤。
【請求項6】
エンベロープウイルスはインフルエンザウイルス、コロナウイルス、C型肝炎ウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、ヒトRSウイルス、エボラウイルス、D型肝炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、水痘ウイルス、帯状疱疹ウイルス、B型肝炎ウイルスおよびヒト免疫不全ウイルスからなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載のエンベロープウイルス不活化剤。
【請求項7】
エンベロープウイルスはインフルエンザウイルスである、請求項1に記載のエンベロープウイルス不活化剤。
【請求項8】
被処理領域または被処理体に、請求項1に記載のエンベロープウイルス不活化剤を適用することを含む、エンベロープウイルス不活化方法。
【請求項9】
式(1)
【化2】
[式中、Rは炭素原子数6~8のアルキル基を示す]
で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩を含む、エンベロープウイルス不活化繊維。
【請求項10】
エンベロープウイルスはインフルエンザウイルス、コロナウイルス、C型肝炎ウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、ヒトRSウイルス、エボラウイルス、D型肝炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、水痘ウイルス、帯状疱疹ウイルス、B型肝炎ウイルスおよびヒト免疫不全ウイルスからなる群から選択される1種以上である、請求項9に記載のエンベロープウイルス不活化繊維。
【請求項11】
エンベロープウイルスはインフルエンザウイルスである、請求項9に記載のエンベロープウイルス不活化繊維。
【請求項12】
JIS L 1922:2016に準拠して測定した抗ウイルス活性値が2.0以上である、請求項9に記載のエンベロープウイルス不活化繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンベロープウイルスに対する不活化効果に優れるエンベロープウイルス不活化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、一般に直径0.1μm程度の微小な粒子であり、単独では増殖できない。そのため、ある宿主細胞に侵入し増殖した後、また別の宿主細胞に侵入し増殖する、というサイクルを繰り返している。これにより、時には生体に対して重篤な感染症を引き起こし、多くの疾病や死亡の要因となっている。
【0003】
近年、病原性のウイルスに対して治療薬やワクチンの開発が進んでおり、一定の有効性が確認されている。しかしながら、薬で対応できるウイルス感染症は限定的であり、また、ウイルスは容易に変異するため、変異に対応したワクチンをその都度打ち続けなければならない。これらのことから、身の回りの製品や手指を小まめに消毒したり、抗ウイルス効果のある製品を使用したりすることで、感染を予防することが特に重要である。
【0004】
ウイルスには、エンベロープと呼ばれる脂溶性の外膜(脂質二重膜)を持つエンベロープウイルスと、エンベロープを持たないノンエンベロープウイルスが存在する。コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどに代表されるエンベロープウイルスは、アルコールや界面活性剤等でエンベロープを破壊することによって、容易に不活化することが知られている。また、パラベン(4-ヒドロキシ安息香酸エステル)のように、従来防腐剤や抗菌剤として使用される化合物についても、エンベロープウイルスに対する不活化効果が報告されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、炭素原子数1~4の低級アルキルパラベンを有効成分とする溶液剤がインフルエンザウイルスB型に対する不活化効果を有することが報告されている。
【0006】
特許文献2には、パラベンを包含する化合物と、アルコールを少なくとも含む溶媒と、を含み、pHが9.5超14.0以下である、抗ウイルス用組成物が提案されており、ブチルパラベン、ベンジルパラベン(4-ヒドロキシ安息香酸ベンジルエステル)および4-ヒドロキシ安息香酸オレイルエステルを、それぞれ抗ウイルス剤とする組成物が抗インフルエンザウイルス活性を示すことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9-328404号公報
【特許文献2】国際公開2019/087881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来用いられてきたパラベンはエンベロープウイルスに対する抗ウイルス活性が十分とは言えず、さらに特許文献2の組成物のように強い塩基性条件下では、時間の経過とともに加水分解が進み、長期保存ができないものであった。また、このような溶剤は更なる抗ウイルス効果を期待してエタノールを含有するものが多いが、エタノールは揮発性があるため、使用後、抗ウイルス効果を長時間持続させることができず、繊維製品などに適用することが困難であった。
【0009】
従って、単独でエンベロープウイルスに対する不活化効果に優れる薬剤が望まれていた。
【0010】
本発明の目的は、不活化効果に優れるエンベロープウイルス不活化剤を提供することにある。また、本発明の目的は、エンベロープウイルスに対する不活化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の4-ヒドロキシ安息香酸エステルまたはその塩がエンベロープウイルスに対して高い不活化効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]式(1)
【化1】
[式中、Rは炭素原子数6~8のアルキル基を示す]
で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩を含む、エンベロープウイルス不活化剤。
[2]4-ヒドロキシ安息香酸アルキルは4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルおよび/または4-ヒドロキシ安息香酸2-エチルヘキシルである、[1]に記載のエンベロープウイルス不活化剤。
[3]4-ヒドロキシ安息香酸アルキルは4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルである、[1]または[2]に記載のエンベロープウイルス不活化剤。
[4]さらに溶剤を含み、pHは5以上9以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のエンベロープウイルス不活化剤。
[5]溶剤を含まない、[1]~[3]のいずれかに記載のエンベロープウイルス不活化剤。
[6]エンベロープウイルスはインフルエンザウイルス、コロナウイルス、C型肝炎ウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、ヒトRSウイルス、エボラウイルス、D型肝炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、水痘ウイルス、帯状疱疹ウイルス、B型肝炎ウイルスおよびヒト免疫不全ウイルスからなる群から選択される1種以上である、[1]~[5]のいずれかに記載のエンベロープウイルス不活化剤。
[7]エンベロープウイルスはインフルエンザウイルスである、[1]~[5]のいずれかに記載のエンベロープウイルス不活化剤。
[8]被処理領域または被処理体に、[1]~[7]のいずれかに記載のエンベロープウイルス不活化剤を適用することを含む、エンベロープウイルス不活化方法。
[9]式(1)
【化2】
[式中、Rは炭素原子数6~8のアルキル基を示す]
で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩を含む、エンベロープウイルス不活化繊維。
[10]エンベロープウイルスはインフルエンザウイルス、コロナウイルス、C型肝炎ウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、ヒトRSウイルス、エボラウイルス、D型肝炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、水痘ウイルス、帯状疱疹ウイルス、B型肝炎ウイルスおよびヒト免疫不全ウイルスからなる群から選択される1種以上である、[9]に記載のエンベロープウイルス不活化繊維。
[11]エンベロープウイルスはインフルエンザウイルスである、[9]に記載のエンベロープウイルス不活化繊維。
[12]JIS L 1922:2016に準拠して測定した抗ウイルス活性値が2.0以上である、[9]~[11]のいずれかに記載のエンベロープウイルス不活化繊維。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエンベロープウイルス不活化剤によれば、エンベロープウイルスに対して高い不活化効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のエンベロープウイルス不活化剤は、有効成分として式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩を含む。
【化3】
[式中、Rは炭素原子数6~8のアルキル基を示す]
【0015】
式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルとしては、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘプチル、4-ヒドロキシ安息香酸オクチルおよび4-ヒドロキシ安息香酸2-エチルヘキシルからなる群から選択される1種以上が挙げられ、エンベロープウイルス不活化効果に優れる点で4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルおよび/または4-ヒドロキシ安息香酸2-エチルヘキシルが好ましく、安全性に優れる点で4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルが特に好ましい。
【0016】
本発明に使用される式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルの塩は、上記4-ヒドロキシ安息香酸アルキルのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が好ましい。アルカリ金属の具体例としては、ナトリウム、カリウムおよびリチウムからなる群から選択される1種以上が挙げられ、アルカリ土類金属としては、マグネシウムおよび/またはカルシウムが挙げられる。
【0017】
本発明で使用される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩は、市販のものを用いてもよく、また、例えば、本発明の出願人により先に提案した特願2016-240132に記載されるように、酸触媒の存在下、4-ヒドロキシ安息香酸と脂肪族アルコールとを反応させることによって得られたものを用いてもよい。
【0018】
本発明のエンベロープウイルス不活化剤は、使用目的に応じた形態で用いることができるが、具体的には以下の形態が挙げられる。
<1>式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩を単独でそのままエンベロープウイルス不活化剤として使用する形態。
<2>式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩を固体担体に担持させた固体製剤をエンベロープウイルス不活化剤として使用する形態。
<3>式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩を溶剤に溶解または分散させた液体製剤をエンベロープウイルス不活化剤として使用する形態。
<4>式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩を樹脂中に混錬した樹脂組成物をエンベロープウイルス不活化剤として使用する形態。
【0019】
<1>の単独でそのままエンベロープウイルス不活化剤として使用する形態において、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩は、溶剤を含まないエンベロープウイルス不活化剤としてそのまま用いられる。
【0020】
<2>の固体担体に担持させた固体製剤をエンベロープウイルス不活化剤とする形態において、使用し得る固体担体としては、例えば、カオリン、タルク、ベントナイト、クレー、珪藻土、炭酸カルシウム、シリカ、ゼオライト等の鉱物質又は無機質粉末;木粉、大豆粉、小麦粉、澱粉等の植物質粉末;PCP(多孔性配位高分子)、MOF(金属有機構造体)などの多孔質体;フェノール樹脂、ポリアミド、(メタ)アクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリエステル等のプラスチック;該プラスチックからなる合成繊維;ポリブタジエン等のゴムまたはその粉末;樟脳、ナフタレン、パラジクロロベンゼン、トリオキサン、シクロドデカン、アダマンタン等の昇華性粉末;リンター、パルプ等の天然繊維;羊毛、綿、絹などの動植物性繊維;レーヨンなどの再生繊維;ガラス繊維などの無機繊維などが挙げられる。
【0021】
この場合、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩は、これを固体担体に直接担持させて固体製剤としてよく、或いは、これを溶剤に溶解または分散させた液体を固体担体に担持させた後に乾燥することにより固体製剤としてもよい。
使用し得る溶剤としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ケロシン、パラフィン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;および酢酸エチル、ラウリン酸ヘキシル等のエステル類;ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。
【0022】
<3>の溶剤に溶解または分散させた液体製剤をエンベロープウイルス不活化剤とする形態において、使用し得る溶剤としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ケロシン、パラフィン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;および酢酸エチル、ラウリン酸ヘキシル等のエステル類;ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。
【0023】
この場合、液体製剤としてのエンベロープウイルス不活化剤は、広範囲のpHで用いることができ、その範囲は特に限定されないが、安全性ならびにエンベロープウイルス不活化剤分解による不活化効果低下抑制の点で、pHは5以上9以下であることが好ましく、6以上8以下であることがより好ましく、6.5以上7.5以下であることがさらに好ましい。
【0024】
<4>の樹脂中に練り込んだ樹脂組成物をエンベロープウイルス不活化剤とする形態において、使用する樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂およびゴム類が挙げられる。
【0025】
熱可塑性樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超分子量ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂類;ポリプロピレン系樹脂類;エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン・メタアクリル酸共重合樹脂等のポリオレフィン系樹脂類;塩化ビニル、塩化ビニデン単独重合体等の塩化ビニル(ビニリデン)系樹脂等の塩素系樹脂類;ポリスチレン、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂等のスチレン系樹脂類;ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル樹脂類;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂類;ポリアセタール樹脂、PPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂、PEI(ポリエーテルイミド)樹脂、PES(ポリエーテルスルホン)樹脂、変性PPE樹脂、PPS(ポリフェニレンスルフィド)樹脂等のポリエーテル系樹脂類;PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂等の熱可塑性ポリエステル樹脂類;PVF(ポリフッ化ビニル)樹脂等のフッ素樹脂類;PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂等のポリエーテルケトン系樹脂類;スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー樹脂類;ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド、PSU(ポリサルホン)樹脂、プラストマー、加水分解性樹脂、水和分解型樹脂、吸水性樹脂が挙げられる。
【0026】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂、グアナミン樹脂、ポリイミド樹脂、尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂などが挙げられる。
【0027】
ゴム類としては、ブチルゴム、イソプレンゴム、SBR(スチレンブタジエンゴム)、NIR(ニトリルイソプレンゴム)、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、EPDM(エチレンプロピレンジエン共重合体ゴム)、EPM(エチレンプロピレン共重合体ゴム)、ブタジエンゴム、アクリルゴム、塩素化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、プロピレンオキサイドゴム、エチレン・アクリルゴム、ノルボルネンゴム、水素化ニトリルゴム、ポリエーテル系ゴム、四フッ化エチレン・プロピレンゴム、クロロスルホン化ゴム、多硫化ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、天然ゴムなどが挙げられる。
【0028】
これらの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂およびゴム類は、単独で使用してもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、ポリマーアロイ化して使用してもよく、ブレンドして使用してもよく、あるいはフィルム等に成形して得たそれぞれの樹脂層を積層して使用してもよい。
【0029】
上記<1>~<4>の使用形態において、いずれの場合も、必要により他の剤、例えば抗菌剤、殺菌剤、抗黴剤、他のウイルス不活化剤、着色剤、可塑剤、帯電防止剤、分散剤等の各種添加剤、強化剤、界面活性剤および粉末増量剤等の充填剤等を併用してもよい。また、他の剤と併用する場合、その使用量(質量)は、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩の使用量(質量)と同量以下とすることが、安全性の観点から好ましい。
【0030】
上述した形態のエンベロープウイルス不活化剤は、スプレー剤、エアゾール剤、ポンプ剤、液剤、塗布剤、貼付剤、マット剤、シート剤、テープ剤、粉剤、顆粒剤、ゲル剤、クリーム剤、フィルム、容器、塗料、繊維、ペレット等の剤型に調製することができる。
【0031】
本発明のエンベロープウイルス不活化剤において、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩の含有量は、エンベロープウイルス不活化剤の剤型や適用方法、適用場所に応じて適宜決定することができる。
【0032】
例えば、溶剤に溶解または分散させた液体製剤、樹脂との混錬により得られた樹脂組成物ならびに固体担体に担持させた固体製剤としてエンベロープウイルス不活化剤を使用する場合、いずれも式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩の割合が、各製剤の質量に対して、好ましくは0.0001~50質量%、より好ましくは0.001~30質量%、更に好ましくは0.01~20質量%となるように含有させるのがよい。
【0033】
本発明のエンベロープウイルス不活化剤の不活化対象となるエンベロープウイルスとしては、エンベロープウイルスに分類されるウイルスであれば特に限定されない。例えばインフルエンザウイルス、コロナウイルス、C型肝炎ウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、ヒトRSウイルス、エボラウイルス、D型肝炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、水痘ウイルス、帯状疱疹ウイルス、B型肝炎ウイルスおよびヒト免疫不全ウイルスからなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0034】
本発明のエンベロープウイルス不活化剤は、エンベロープウイルスが存在し得る被処理領域または被処理体にこれを適用し、エンベロープウイルスの不活化を促進することができる。すなわち、本発明は、被処理領域または被処理体に、前記のエンベロープウイルス不活化剤を適用することを含む、エンベロープウイルスの不活化方法にも関する。
【0035】
被処理領域または被処理体は特に限定されない。被処理体としては、マスク、手袋、靴下、衣服、エアフィルター、布巾、ハンカチ、タオル等の繊維製品が挙げられる。
【0036】
本発明のエンベロープウイルス不活化剤の被処理領域への適用手段としては、撒布、噴霧、塗布等の方法が挙げられ、また、被処理体への適用手段としては、混錬、撒布、噴霧、塗布または含浸等の方法が挙げられる。
【0037】
本発明はまた、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸アルキルまたはその塩を含む、抗エンベロープウイルス繊維に関する。
【化4】
[式中、Rは炭素原子数6~8のアルキル基を示す。]
このような繊維は、マスク、手袋、靴下、衣服、エアフィルター、布巾、ハンカチ、タオル等の繊維製品に加工し得る。
【0038】
本発明の抗エンベロープウイルス繊維は、JIS L 1922:2016(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)に準拠して測定した抗ウイルス活性値が、2.0以上であるのが好ましく、3.0以上であるのがより好ましく、4.0以上であるのがさらに好ましい。
【実施例0039】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。

<抗ウイルス性試験>
(概要)
試験ウイルス:A型インフルエンザウイルス(H3N2),A/Hong Kong/8/68(TC-adapted) ATCC VR-1679
宿主細胞:MDCK細胞(イヌ腎臓由来細胞) ATCC CCL-34
試験サンプル:0.4g
洗い出し液:SCDLP培地
放置条件:25℃、2時間
感染価測定法:プラーク測定法
【0040】
(操作手順)
1.宿主細胞にウイルスを感染させ、培養後、遠心分離によって細胞残渣を除去したものをウイルス懸濁液とする。
2.1.で得られたウイルス懸濁液を滅菌蒸留水を用いて10倍希釈し、1.0~5.0×10PFU/mLに調整したものを試験ウイルス懸濁液とする。
3.各検体に試験ウイルス懸濁液を0.2mL接種する。
4.25℃、2時間作用後、洗い出し液を20mL加え、ボルテックスミキサで撹拌し、検体からウイルスを洗い流す。
5.プラーク測定法にてウイルス感染価を測定する。
【0041】
[参考例1]4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル(NHPB)の製造
撹拌機、温度センサーおよびディーンスターク装置を備えた300mLスケールの4つ口フラスコ(反応容器)に、4-ヒドロキシ安息香酸91.2g(0.66モル)、1-ヘキサノール101.1g(0.99モル)および触媒としてp-トルエンスルホン酸一水和物1.8gを加え、38mL/分の窒素気流下、145℃まで昇温し、同温度で6時間反応させ、NHPBを含む粗組成物を得た。そこへ48%水酸化ナトリウムを加えて中和させた後、蒸留により精製し、NHPB(純度99.8wt%)を得た。
【0042】
[実施例1]<NHPBの抗ウイルス性試験>
アセトン9.0gに対し、参考例1で得られたNHPB1.0gを加え、撹拌・溶解し、10質量%NHPB/アセトン溶液を作製した。その後、綿(カナキン3号)5.0gに対し、10質量%NHPB/アセトン溶液を5.0g滴下した後、常温下で通風乾燥し、NHPB10質量%を含有する綿を作製した。その後、作製試料を用い、抗ウイルス性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0043】
[実施例2]<NHPBの抗ウイルス性試験>
アセトン9.9gに対し、参考例1で得られたNHPB0.1gを加え、撹拌・溶解し、1質量%NHPB/アセトン溶液を作製した。その後、綿(カナキン3号)5.0gに対し、1質量%NHPB/アセトン溶液を5.0g滴下した後、常温下で通風乾燥し、NHPB1質量%を含有する綿を作製した。その後、作製試料を用い、抗ウイルス性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例3]
NHPBをEHPB(4-ヒドロキシ安息香酸2-エチルヘキシル、上野製薬株式会社製)に変更した以外は、実施例2と同様に抗ウイルス性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例4]
アセトン9.9gに対し、参考例1で得られたNHPB0.1gを加え、撹拌・溶解後、さらに水5.0gを加え、0.67質量%NHPB/アセトン水溶液を作製した。その後、pH測定を実施した。結果を表2に示す。
【0046】
[実施例5]
NHPBをEHPB(4-ヒドロキシ安息香酸2-エチルヘキシル、上野製薬株式会社製)に変更した以外は、実施例4と同様にpH測定を実施した。結果を表2に示す。
【0047】
[比較例1]
NHPBをPEE(4-ヒドロキシ安息香酸エチル、上野製薬株式会社製)に変更した以外は、実施例2と同様に抗ウイルス性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0048】
[比較例2]
NHPBをNPE(4-ヒドロキシ安息香酸プロピル、上野製薬株式会社製)に変更した以外は、実施例2と同様に抗ウイルス性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例3]
NHPBをCEPB(4-ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、上野製薬株式会社製)に変更した以外は、実施例2と同様に抗ウイルス性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表1の通り、実施例1~3(NHPB、EHPB)は、比較例1~3(PEE、NPE、CEPB)と比較して抗ウイルス活性値[Mv]が高く、より高いウイルス不活化効果を有することが示された。