(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119460
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/15 20060101AFI20240827BHJP
C07C 65/11 20060101ALI20240827BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C07C51/15
C07C65/11
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026370
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】芝 一休
(72)【発明者】
【氏名】本岡 良太
(72)【発明者】
【氏名】土谷 美緒
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC22
4H006AC46
4H006AD10
4H006AD15
4H006BA02
4H006BA32
4H006BB11
4H006BB12
4H006BB14
4H006BB15
4H006BB16
4H006BB17
4H006BB20
4H006BB21
4H006BB24
4H006BB25
4H006BB31
4H006BC10
4H006BC11
4H006BE41
4H039CA65
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸が簡便かつ高収率で得られる製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、溶媒中で、式(1)
[式中、Mはカリウム、ナトリウム、リチウム、ルビジウムまたはセシウムを示す]
で表される2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩と二酸化炭素とを、酢酸カリウムの存在下で反応させる工程を含む、式(2)
で表される2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸の製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中で、式(1)
【化1】
[式中、Mはカリウム、ナトリウム、リチウム、ルビジウムまたはセシウムを示す]
で表される2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩と二酸化炭素とを、酢酸カリウムの存在下で反応させる工程を含む、式(2)
【化2】
で表される2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
Mはカリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(1)で表される2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応を、二酸化炭素圧力0.1MPa以上10MPa以下の条件下で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
式(1)で表される2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応を、温度100℃以上300℃未満の条件下で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
溶媒は、軽油、灯油、ガソリン、潤滑油、白油、N,N-ジメチルホルムアミド、アルキルベンゼン、アルキルナフタリン、水素化トリフェニル、ジフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、iso-オクチルアルコールおよび2-エチルヘキサノールからなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
溶媒は軽油である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記反応工程は前記式(2)で表される2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を含む粗組成物を得る工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記粗組成物をさらに精製する工程を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記精製工程は懸濁洗浄、再結晶、および再沈殿からなる群から選択される1種以上の工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記精製工程は懸濁洗浄工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記精製工程で使用する溶媒は、水、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、2-エチルヘキサノール、エチレングリコール、グリセリン、酢酸、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン、クロロホルム、ジオキサン、酢酸エチル、酢酸プロピルおよび酢酸ブチルからなる群から選択される1種以上である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記精製工程で使用する溶媒は水である、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸(3,6-ジヒドロキシ-2,7-ナフタレンジカルボン酸とも称する)は、ヒドロキシ基を2個有する芳香族ジカルボン酸であり、ポリエステル、ポリアミド、アラミド等の合成樹脂のモノマー、顔料や医薬品中間体などの原料として有用である。
【0003】
従来、フェノール性水酸基を有する化合物にカルボキシル基を導入する方法としては、コルベ・シュミット反応が知られている。コルベ・シュミット反応としては、例えば、アルカリ金属のフェノキシド(フェノールのアルカリ金属塩)に高温・高圧で二酸化炭素を接触させてオルト位をカルボキシル化させ、酸による中和後にサリチル酸を得る化学反応が挙げられる。
【0004】
2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸に関しても、このコルベ・シュミット反応によって製造する方法が知られている。例えば、2,7-ジヒドロキシナフタレンのナトリウム塩を水素化ターフェニル溶媒中、二酸化炭素圧力4~6MPa、温度300~330℃で4~6時間反応させる方法(特許文献1)が提案されている。
【0005】
また、その他の製法として、2,7-ジヒドロキシナフタレンのカリウム塩を炭酸水素カリウムと均一に混合・粉砕し、粉砕混合物を水熱反応釜で300℃、3時間反応させる方法(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許出願公開第101654412号公報
【特許文献2】中国特許出願公開第110776411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの方法によると、ある程度の収率で2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸が得られるものの、工業的なスケールでの生産には更なる収率の向上が求められる。また、特許文献1の製法は反応時の二酸化炭素圧力がやや高く反応温度も高いという問題があり、特許文献2の製法は大量の粉砕混合物を均一に調整して固体間反応を効率化することが困難であるといった問題があった。したがって、簡便かつ高収率で2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を製造する方法が求められていた。
【0008】
本発明の目的は、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸が簡便かつ高収率で得られる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、溶媒中、酢酸カリウムの存在下で、2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩と二酸化炭素とを反応させることにより、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸が高収率で得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕溶媒中で、式(1)
【化1】
[式中、Mはカリウム、ナトリウム、リチウム、ルビジウムまたはセシウムを示す]
で表される2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩と二酸化炭素とを、酢酸カリウムの存在下で反応させる工程を含む、式(2)
【化2】
で表される2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸の製造方法。
〔2〕Mはカリウムである、〔1〕に記載の方法。
〔3〕式(1)で表される2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応を、二酸化炭素圧力0.1MPa以上10MPa以下の条件下で行う、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕式(1)で表される2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応を、温度100℃以上300℃未満の条件下で行う、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕溶媒は、軽油、灯油、ガソリン、潤滑油、白油、N,N-ジメチルホルムアミド、アルキルベンゼン、アルキルナフタリン、水素化トリフェニル、ジフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、iso-オクチルアルコールおよび2-エチルヘキサノールからなる群から選択される1種以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕溶媒は軽油である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕前記反応工程は前記式(2)で表される2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を含む粗組成物を得る工程である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕前記粗組成物をさらに精製する工程を含む、〔7〕に記載の方法。
〔9〕前記精製工程は懸濁洗浄、再結晶、および再沈殿からなる群から選択される1種以上の工程を含む、〔8〕に記載の方法。
〔10〕前記精製工程は懸濁洗浄工程を含む、〔8〕に記載の方法。
〔11〕前記精製工程で使用する溶媒は、水、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、2-エチルヘキサノール、エチレングリコール、グリセリン、酢酸、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン、クロロホルム、ジオキサン、酢酸エチル、酢酸プロピルおよび酢酸ブチルからなる群から選択される1種以上である、〔8〕~〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕前記精製工程で使用する溶媒は水である、〔8〕~〔10〕のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を簡便かつ高収率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の式(2)で表される2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸の製造方法においては、式(1)で表される2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩を二酸化炭素と反応させる、いわゆるコルベ・シュミット反応が用いられる。本発明において、反応は通常撹拌下で行われる。
【化3】
[式中、Mはカリウム、ナトリウム、リチウム、ルビジウムまたはセシウムを示す。]
【化4】
【0013】
本発明において使用される反応装置としては、通常のコルベ・シュミット反応において使用される反応装置であればよく、例えば、撹拌機を備え、高圧反応に対応可能なオートクレーブが好適に使用できる。さらに、温度制御機能を有し、炭酸ガスや不活性ガスの導入管、温度計支持管、圧力計および排気管などを有するものがより好ましい。
【0014】
本発明において使用される式(1)で表される2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩としては、2,7-ジヒドロキシナフタレンジカリウム塩、2,7-ジヒドロキシナフタレンジナトリウム塩、2,7-ジヒドロキシナフタレンジリチウム塩、2,7-ジヒドロキシナフタレンジルビジウム塩、2,7-ジヒドロキシナフタレンジセシウム塩が挙げられる。入手の容易さ、コストおよび反応性の点から、2,7-ジヒドロキシナフタレンジカリウム塩が好ましい。
【0015】
2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩は、2,7-ジヒドロキシナフタレンを、アルカリ金属水酸化物や、アルカリ金属tert-ブトキシド、アルカリ金属メトキシド、アルカリ金属エトキシド、アルカリ金属iso-プロポキシドなどのアルカリ金属アルコキシドを用いて、ジアルカリ金属塩とすることにより得ることができる。特に、経済性を考慮すると、2,7-ジヒドロキシナフタレンとアルカリ金属水酸化物を用いてジアルカリ金属塩とするのが好ましい。
【0016】
より具体的には、2,7-ジヒドロキシナフタレンジカリウム塩は、2,7-ジヒドロキシナフタレンを、水酸化カリウムや、tert-ブトキシカリウム、メトキシカリウム、エトキシカリウム、iso-プロポキシカリウムなどのカリウムアルコキシドを用いて、ジカリウム塩とすることにより得ることができる。特に、経済性を考慮すると、2,7-ジヒドロキシナフタレンと水酸化カリウムを用いてジカリウム塩とするのが好ましい。
【0017】
本発明では、2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応は、酢酸カリウムの存在下で行われる。
【0018】
酢酸カリウムは、2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩1モル当たり通常0.5~10.0モル、好ましくは1.0~8.0モル、より好ましくは1.5~5.0モル、さらに好ましくは2.0~3.0モル存在させるのがよい。
【0019】
本発明の方法において、2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩と酢酸カリウムは、それぞれ別に調製してもよいし、酢酸と2,7-ジヒドロキシナフタレンの混合物に塩基を加えて酢酸カリウムと2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩を同時に調製してもよい。
【0020】
また、出発原料として2,7-ジヒドロキシナフタレンを用い、上述した酢酸カリウムを2,7-ジヒドロキシナフタレンをカリウム塩とするための塩基として使用し、余剰(未反応)の酢酸カリウムの存在下で、引き続き2,7-ジヒドロキシナフタレンカリウム塩と二酸化炭素を反応させてもよい。この場合、酢酸カリウムは2,7-ジヒドロキシナフタレン1モル当たり通常1.01~11.0モル、好ましくは1.1~9.0モル、より好ましくは1.2~6.0モル、さらに好ましくは1.5~4.0モル存在させるのがよい。
【0021】
本発明では、2,7-ジヒドロキシナフタレンアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応は、溶媒中で実施される。
【0022】
本発明の反応で使用される溶媒としては、軽油、灯油、ガソリン、潤滑油、白油、N,N-ジメチルホルムアミド、アルキルベンゼン、アルキルナフタリン、水素化トリフェニル、ジフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、iso-オクチルアルコールおよび2-エチルヘキサノールからなる群から選択される1種以上が挙げられる。中でも生成率に優れる点で軽油が最も好ましい。
【0023】
本発明に使用される溶媒の使用量は、式(1)で表される2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩100質量部に対して100~3000質量部(2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩に対して1~30質量倍)が好ましく、150~2000質量部がより好ましく、200~1500質量部がさらに好ましく、300~1000質量部が特に好ましい。溶媒の使用量が上記範囲内にあると、効率よく2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸の生成率を向上させることができる。
【0024】
2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応は、通常100以上300℃未満で行われ、好ましくは150~280℃、より好ましくは200~270℃の温度下で行うことができる。100℃より低温では、反応が進行し難い傾向があり、300℃より高温では、反応が頭打ちとなりエネルギーが損失するとともに、分解などの副反応が生じるおそれがある。
【0025】
2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応は、通常0.1MPa以上10MPa以下、好ましくは0.1~5MPa、より好ましくは0.15~3.5MPa、さらに好ましくは0.2~1MPaの圧力下、好適には二酸化炭素による圧力下で行なわれる。反応時の圧力が10MPaを超えると高圧に耐える装置が必要となるなど、工業的に有利ではない場合がある。
【0026】
反応時間は、通常30分~24時間、好ましくは1時間~20時間、より好ましくは2時間~16時間、特に好ましくは3~12時間の間で適宜選択することができる。
【0027】
溶媒中、式(1)で表される2,7-ジヒドロキシナフタレンジアルカリ金属塩と二酸化炭素とを、酢酸カリウムの存在下で反応させる工程によって、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を含む反応液が得られる。
【0028】
2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を含む反応液に酸水溶液を添加し、部分的に中和後、分液することにより2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸アルカリ金属塩を含む水層が得られる。その後、得られた水層を塩酸、硫酸などで酸析することにより、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を含む粗組成物が得られる。
【0029】
2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を含む粗組成物とは、目的物である2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸以外に、反応原料や触媒および反応副生物などの不純物を含む組成物を意味する。不純物の含有量は反応方法によっても異なるが、通常は粗組成物中1~30質量%であり、別の場合には3~25質量%である。尚、本明細書において、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を含む粗組成物のことを単に「粗2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸」とも称する。
【0030】
酸析の前に、必要により、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸のアルカリ金属塩を水溶性溶媒に溶解させた状態での有機溶媒による洗浄や、不溶性の異物を除去するためのろ過処理、着色性物質、金属などを除去するための活性炭などによる吸着剤処理を行ってもよい。
【0031】
得られた2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を含む粗組成物は、さらに精製工程に供することによって、より高純度のものとすることが可能である。
【0032】
精製工程は、懸濁洗浄、再結晶および再沈殿からなる群から選択される1種以上の工程を含むのが好ましく、懸濁洗浄工程を含むのがより好ましい。
【0033】
精製工程で使用する溶媒(懸濁洗浄溶媒、再結晶溶媒、再沈殿工程で用いられる良溶媒および貧溶媒)としては、水、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、2-エチルヘキサノール、エチレングリコール、グリセリン、酢酸、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン、クロロホルム、ジオキサン、酢酸エチル、酢酸プロピルおよび酢酸ブチルからなる群から選択される1種以上が挙げられる。中でも、不純物除去効果に優れる点で水が好ましい。
【0034】
懸濁洗浄工程は、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を含む粗組成物に懸濁洗浄溶媒を加えて、懸濁状態で撹拌することによって行われる。
【0035】
懸濁洗浄における溶媒の量は、溶媒の種類によっても異なるが、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を含む粗組成物と上記溶媒1~50質量倍であることが好ましく、3~40質量倍であることがより好ましく、5~30質量倍であることが最も好ましい。
【0036】
懸濁洗浄する際の温度は、用いる溶媒の種類および混合比率によっても異なるため特に限定されないが、好ましくは15℃~200℃、より好ましくは20℃~150℃、さらに好ましくは30℃~100℃である。
【0037】
再結晶工程は、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を含む粗組成物を再結晶溶媒で溶解させた後、晶析させることによって行われる。
【0038】
再結晶工程における溶媒の量は、溶媒の種類によっても異なるが、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を含む粗組成物と上記溶媒1~50質量倍であることが好ましく、3~40質量倍であることがより好ましく、5~30質量倍であることが最も好ましい。
【0039】
再結晶において、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を含む粗組成物を溶媒に溶解する際の温度は、用いる溶媒の種類および混合比率によって異なるため特に限定されないが、好ましくは20~200℃、より好ましくは40~150℃、さらに好ましくは60~130℃である。
【0040】
再結晶工程における晶析は、好ましくは0~80℃、より好ましくは、5~60℃、さらに好ましくは10~40℃の温度下で攪拌しながら行われる。尚、晶析の前に不溶物をろ過して除去するのが好ましい。
【0041】
再沈殿工程は、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を含む粗組成物を良溶媒で溶解させた溶液中に貧溶媒を添加し、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸の固体を析出させることによって行われる。
【0042】
再沈殿工程で用いられる良溶媒および貧溶媒は上記精製工程で使用する溶媒の中からそれぞれ適宜選択することができる。好適な良溶媒はN,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、N-メチル-2-ピロリドンであり、好適な貧溶媒はキシレン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサノンである。
【0043】
上記精製工程後、濾過等の常套手段により固液分離し、目的物である2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を回収する。固液分離に際し、適宜有機溶媒または水を注いで結晶を洗浄するのが好ましい。固液分離における洗浄に用いる溶媒は、粗2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸に対して、1~50質量倍であることが好ましく、3~40質量倍であることがより好ましく、5~30質量倍であることが最も好ましい。
【0044】
固液分離によって回収された結晶は、常圧下において通風乾燥するか、あるいは減圧下で乾燥し、溶媒を留去することによって、高純度の2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を得ることができる。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
各化合物は、以下の方法によって分析した。
<超高速液体クロマトグラフ(UPLC)>
装置:Waters alliance 2690/2996
カラム型番:L-column ODS、5μm 4.6×150mm
液量:1.0mL/分
溶媒比:メタノール/水(pH2.3)=40/60(25分)→3分→90/10(17分)
波長:229nm
カラム温度:40℃
【0047】
[実施例1]
攪拌機、温度調節器を備えた500mL四つ口フラスコに、2,7-ジヒドロキシナフタレン72.0g(0.45モル)、酢酸54.0g(0.90モル)、H2O72.0g及び48%水酸化カリウム水溶液210.0g(1.80モル)を加え、窒素気流下、50℃まで昇温し、同温度で1時間攪拌した。その後、混合液を減圧乾燥(10hPa、160℃)し、2,7-ジヒドロキシナフタレンジカリウムと酢酸カリウムの混合物190.0gを得た。得られた2,7-ジヒドロキシナフタレンジカリウムと酢酸カリウムの混合物190g及び軽油1039.0gを2Lオートクレーブに加え、260℃まで撹拌しながら昇温した。260℃到達後、二酸化炭素0.6MPa条件下にて、3時間反応した。反応終了後、80℃まで冷却し、水370.0gを加え、攪拌機、温度調節器を備えた5L底抜き四つ口フラスコに移し、さらに水1540.0gを加え、攪拌・静置後、分液し、反応水層を得た。
【0048】
得られた反応水層をUPLCにて2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸および中間体である2,7-ジヒドロキシ-3-ナフタレンカルボン酸(すなわち3,6-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸)への転化率、ならびに2,7-ジヒドロキシナフタレンの残存率について、定量分析を行った。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例2]
反応温度を260℃から250℃へ変更した以外は、実施例1と同様に反応水層を得た。得られた反応水層をUPLCにて2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ジヒドロキシ-3-ナフタレンカルボン酸への転化率ならびに2,7-ジヒドロキシナフタレンの残存率について、定量分析を実施した。結果を表1に示す。
【0050】
[比較例1]
反応物を2,7-ジヒドロキシナフタレンジカリウムと酢酸カリウムの混合物から2,7-ジヒドロキシナフタレンジカリウムに変更した以外は、実施例1と同様に反応水層を得た。得られた反応水層をUPLCにて2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ジヒドロキシ-3-ナフタレンカルボン酸への転化率ならびに2,7-ジヒドロキシナフタレンの残存率について、定量分析を実施した。結果を表1に示す。
【0051】
[比較例2]
反応物を2,7-ジヒドロキシナフタレンジカリウムと酢酸カリウムの混合物から、2,7-ジヒドロキシナフタレンジカリウムと炭酸カリウムの混合物へ変更した以外は、実施例1と同様に反応水層を得た。得られた反応水層をUPLCにて2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ジヒドロキシ-3-ナフタレンカルボン酸への転化率ならびに2,7-ジヒドロキシナフタレンの残存率について、定量分析を実施した。結果を表1に示す。
【0052】
[比較例3]
反応物を2,7-ジヒドロキシナフタレンジカリウムと酢酸カリウムの混合物から、2,7-ジヒドロキシナフタレンジナトリウムと酢酸ナトリウムの混合物へ変更した以外は、実施例1と同様に反応水層を得た。得られた反応水層をUPLCにて2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ジヒドロキシ-3-ナフタレンカルボン酸への転化率ならびに2,7-ジヒドロキシナフタレンの残存率について、定量分析を実施した。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例4]
反応物を2,7-ジヒドロキシナフタレンジカリウムと酢酸カリウムの混合物から、2,7-ジヒドロキシナフタレンジナトリウムと炭酸ナトリウムの混合物へ変更した以外は、実施例1と同様に反応水層を得た。得られた反応水層をUPLCにて2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ジヒドロキシ-3-ナフタレンカルボン酸への転化率ならびに2,7-ジヒドロキシナフタレンの残存率について、定量分析を実施した。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
<粗2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸の取得>
実施例1で得られた反応水層を撹拌機、温度センサーおよび還流管を備えた5Lの底抜き四つ口フラスコへ移し、80℃まで昇温した。昇温後、同温度にて2-エチルヘキサノール306.0g及びキシレン613.0gの混合溶媒にて2回洗浄した。得られた水層にカルボラフィン5.0gを添加し、80℃にて1時間攪拌した。攪拌後、フィルターろ過にてカルボラフィンを除去した水層を攪拌機、温度センサーおよび還流管を備えた5Lの四つ口フラスコに移し、80℃にて72%硫酸119g加え、酸析した(pH2.0)。析出した固体を濾別し水293.0g、MeOH287.0gで洗浄した後、80℃で通風乾燥することにより、粗2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を72.6g得た(歩留97.7モル%)。得られた粗2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸の組成を表2に示す。
【0055】
<懸濁洗浄工程>
撹拌機、温度センサーおよび還流管を備えた2Lの四つ口フラスコに、得られた粗2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を72.6gおよび水1404.0gを加えて、窒素気流下、90℃、3時間懸濁洗浄を実施した。懸濁液を固液分離した後、水382.0g、MeOH232.0gで洗浄し、回収した結晶を80℃で通風乾燥することにより、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸を72.0g得た(歩留99.2モル%)。得られた2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸の組成を表2に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
表1に示す通り、溶媒中、酢酸カリウムの存在下、反応を実施した本発明の実施例1、2は、酢酸カリウムを添加していない比較例1~4と比較して、2,7-ジヒドロキシ-3,6-ナフタレンジカルボン酸生成率が大幅に向上していることが分かる。また、表2に示す通り、さらに精製工程を実施することにより不純物を有意に除去可能であることが分かる。