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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119475
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】液滴吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/015 20060101AFI20240827BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240827BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/14 501
B41J2/14 613
B41J2/16 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026399
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】吉野 隆晃
(72)【発明者】
【氏名】垣内 徹
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF07
2C057AF08
2C057AG15
2C057AG16
2C057AG44
2C057AG47
2C057AG48
2C057AN01
2C057AQ06
2C057AR08
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】高周波の駆動で安定した吐出と階調表現とを実現する。
【解決手段】駆動信号Xの駆動周波数をf(単位:kHz)、メインパルスPmの終点からキャンセルパルスPcの始点までの時間をTw(単位:μsec)、キャンセルパルスPcの幅をTc(単位:μsec)としたときに、下記式(1)及び(2)を成立させる(換言すると、50kHz以上の任意の周波数fでアクチュエータ22xを駆動する場合に、下記式(1)及び(2)が成立するように、Tw+Tcを設定する)。
50≦f≦-11.3×(Tw+Tc)+120 ・・・(1)
Tw+Tc≦5.2 ・・・(2)
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルと、
前記ノズルに連通する圧力室と、
前記圧力室内の液体に圧力を付与するアクチュエータと、
前記アクチュエータに対して駆動信号を付与する制御部と、を備え、
前記駆動信号は、1ドットを形成するための1吐出周期内に、液滴を吐出させるためのメインパルスと、前記メインパルスの後に印加されるキャンセルパルスであって、前記メインパルスの印加によって生じる前記圧力室内の圧力波をキャンセルするためのキャンセルパルスとを含み、前記圧力室の容積を所定容積から増大させた後前記所定容積以下に減少させることで前記ノズルから液滴を吐出させる引き打ち方式であり、
前記駆動信号の駆動周波数をf(単位:kHz)、前記メインパルスの終点から前記キャンセルパルスの始点までの時間をTw(単位:μsec)、前記キャンセルパルスの幅をTc(単位:μsec)としたときに、下記式(1)及び(2)が成立することを特徴とする、液滴吐出装置。
50≦f≦-11.3×(Tw+Tc)+120 ・・・(1)
Tw+Tc≦5.2 ・・・(2)
【請求項2】
下記式(3)が成立することを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出装置。
Tc≦-0.4Tw+4.3 ・・・(3)
【請求項3】
前記メインパルス及び前記キャンセルパルスが矩形状であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記液滴により記録される画像の解像度である記録解像度が1200dpi以上であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
複数の前記ノズルが、50dpi以上の密度で第1方向に配列され、前記第1方向と交差する第2方向に並ぶ複数のノズル列を構成し、
前記複数のノズル列間において、前記ノズルの前記第1方向の位置がずれていることを特徴とする、請求項4に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記メインパルスの幅をTm(単位:μsec)、前記圧力室及び前記ノズルを含む個別流路内における圧力波の往復伝搬時間をAL(Acoustic Length)(単位:μsec)としたときに、下記式(4)が成立することを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出装置。
AL×0.7≦Tm≦AL×1.3 ・・・(4)
【請求項7】
前記ALが6μsec以下であることを特徴とする、請求項6に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記ノズルを構成する部材が金属からなることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項9】
前記アクチュエータがユニモルフ型の圧電素子であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項10】
前記圧力室が形成された流路部材であって、前記圧力室が開口した表面を有する流路部材と、
前記流路部材の前記表面に配置され、前記圧力室を封止する封止部材と、を備え、
前記アクチュエータは、前記封止部材における前記流路部材と反対側の面に接着された積層体であって、圧電層及び電極を含む積層体であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の液滴吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルと、ノズルに連通する圧力室と、圧力室内の液体に圧力を付与するアクチュエータと、アクチュエータに対して駆動信号を付与する制御部とを備えた液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のインク噴射装置(液滴吐出装置)は、1ドット当たりの印字命令に対し(1吐出周期内に)2つの噴射パルス信号と1つの非噴射パルス信号との合計3つのパルス信号を有する駆動信号をアクチュエータに付与することで、インク流路内に圧力波を発生させ、ノズルからインク滴を吐出させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-280463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液滴吐出装置においては、近年、高速記録の観点から、アクチュエータを高周波で駆動させることが求められている。駆動信号の周波数が20kHz程度であれば、特許文献1に記載されているような駆動信号によってノズルから安定して液滴を吐出させることができる。しかしながら、駆動信号の周波数をさらに高くすると、特許文献1に記載されているような駆動信号では、吐出が不安定になる。さらに、駆動信号の構成によっては、ノズルから吐出される液滴の量を調整できず、階調表現を実現不能になる。
【0005】
本発明の目的は、高周波の駆動で安定した吐出と階調表現とを実現可能な液滴吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る液滴吐出装置は、ノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内の液体に圧力を付与するアクチュエータと、前記アクチュエータに対して駆動信号を付与する制御部と、を備え、前記駆動信号は、1ドットを形成するための1吐出周期内に、液滴を吐出させるためのメインパルスと、前記メインパルスの後に印加されるキャンセルパルスであって、前記メインパルスの印加によって生じる前記圧力室内の圧力波をキャンセルするためのキャンセルパルスとを含み、前記圧力室の容積を所定容積から増大させた後前記所定容積以下に減少させることで前記ノズルから液滴を吐出させる引き打ち方式であり、前記駆動信号の駆動周波数をf(単位:kHz)、前記メインパルスの終点から前記キャンセルパルスの始点までの時間をTw(単位:μsec)、前記キャンセルパルスの幅をTc(単位:μsec)としたときに、下記式(1)及び(2)が成立することを特徴とする。
50≦f≦-11.3×(Tw+Tc)+120 ・・・(1)
Tw+Tc≦5.2 ・・・(2)
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係るプリンタ1の概略平面図である。
図2】プリンタ1に含まれるヘッド3の平面図である。
図3図2のIII-III線に沿ったヘッド3の断面図である。
図4】プリンタ1の電気的構成を示すブロック図である。
図5】ヘッド3のドライバIC5Dがアクチュエータ22xに供給する駆動信号Xを示すグラフである。
図6図5に示すTw+Tcと限界周波数Flとの関係を示すグラフである。
図7図5に示すTw+Tcとインク滴の体積との関係を示すグラフである。
図8図5に示すキャンセルパルスPcの印加に応じて意図しないインク滴が吐出されたときのTw,Tcの関係を示すグラフである。
図9】本発明の変形例に係る駆動信号Xを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態に係るプリンタ1は、図1に示すように、ヘッド3を保持しつつ走査方向(鉛直方向と直交する方向)に移動可能なキャリッジ2と、ヘッド3及びキャリッジ2の下方において用紙Pを支持するプラテン6と、用紙Pを搬送方向(走査方向及び鉛直方向と直交する方向)に搬送する搬送機構4と、制御部100とを備えている。ヘッド3の下面に、複数のノズル31が形成されている。
【0009】
キャリッジ2は、走査方向に延びる一対のガイドレール7,8に支持されている。キャリッジ2は、制御部100の制御によりキャリッジモータ2M(図4参照)が駆動することで、ガイドレール7,8に沿って走査方向に移動する。
【0010】
搬送機構4は、搬送方向にプラテン6及びキャリッジ2を挟む位置に配置された2つのローラ対11,12を含む。ローラ対11,12は、制御部100の制御により搬送モータ4M(図4参照)が駆動することで、用紙Pを挟持した状態で回転する。これにより、用紙Pが搬送方向に搬送される。
【0011】
ヘッド3は、図2及び図3に示すように、流路部材21と、流路部材21の表面21aに配置されたアクチュエータ部材22と、流路部材21とアクチュエータ部材22との間に配置された封止部材23とを含む。
【0012】
流路部材21は、図3に示すように、9枚のプレート41~49で構成されている。プレート41~49は、鉛直方向(各プレート41~49の厚み方向)に互いに積層されている。プレート41~49は、金属材料(ステンレス鋼等)からなる。
【0013】
プレート41には、複数の圧力室30が形成されている。プレート49には、複数のノズル31が形成されている。プレート41の表面41aが流路部材21の表面21aに該当し、プレート49の裏面49bが流路部材21の裏面21bに該当する。表面21aに複数の圧力室30が開口し、裏面21bに複数のノズル31が開口している。
【0014】
複数のノズル31は、図2に示すように、搬送方向に配列され、走査方向に並ぶ4つのノズル列31Rを構成している。各ノズル列31Rにおいて、複数のノズル31は、50dpi以上の密度で、ピッチDの間隔で配列されている。4つのノズル列31R間において、ノズル31の搬送方向における位置は、D/4ずつずれている。これにより、ヘッド3における搬送方向の記録解像度(ノズル31から吐出されるインク滴により記録される画像の解像度)は、1200dpi以上となっている。
【0015】
プレート44~48には、4本の共通流路29(図2参照)が形成されている。プレート42,43には、圧力室30毎に、圧力室30と共通流路29とを連通させる連通流路35が形成されている。プレート42~48には、圧力室30毎に、圧力室30とノズル31とを接続する接続流路36が形成されている。圧力室30は、接続流路36を介して、ノズル31に連通している。
【0016】
4本の共通流路29は、図2に示すように、それぞれ搬送方向に延び、走査方向に並んでいる。共通流路29は、ノズル列31R毎に設けられている。各共通流路29から、各ノズル列31Rのノズル31に連通する圧力室30に、連通流路35(図3参照)を介してインクが供給される。そして後述のようにアクチュエータ部材22の各アクチュエータ22xが変形することで、圧力室30内のインクに圧力が付与され、接続流路36を通ってノズル31からインクが吐出される。
【0017】
このように、流路部材21には、4本の共通流路29と、各共通流路29に連通する複数の個別流路32(圧力室30及びノズル31を含む流路であり、共通流路29の出口から連通流路35、圧力室30及び接続流路36を介してノズル31に至る流路)とが形成されている。
【0018】
流路部材21の表面21aには、図2に示すように、2つの供給口27と、2つの帰還口28とが形成されている。2つの供給口27は、4つの共通流路29に対して搬送方向の上流側に配置されている。2つの帰還口28は、4つの共通流路29に対して搬送方向の下流側に配置されている。供給口27及びの帰還口28は、それぞれ、チューブ等を介して、インクタンク9(図1参照)に連通している。各供給口27は、走査方向に互いに隣接する2つの共通流路29に連通し、インクタンク9から当該2つの共通流路29にインクを供給する。各帰還口28は、走査方向に互いに隣接する2つの共通流路29に連通し、当該2つの共通流路29からインクタンク9にインクを帰還させる。
【0019】
アクチュエータ部材22は、図2に示すように、流路部材21の表面21aの中央に配置されており、供給口27及び帰還口28を覆わず、表面21aに開口する全ての圧力室30を覆っている。アクチュエータ部材22は、図3に示すように、2つの圧電層61,62と、共通電極52と、複数の個別電極51とを含む。圧電層61,62及び共通電極52は、図2に示すアクチュエータ部材22の外形を画定し、鉛直方向から見て流路部材21よりも一回り小さい矩形状である。一方、個別電極51は、圧力室30毎に設けられており、圧力室30のそれぞれと鉛直方向に重なっている。
【0020】
封止部材23は、図2に示すように、アクチュエータ部材22と同様、流路部材21の表面21aの中央に配置されており、供給口27及び帰還口28を覆わず、表面21aに開口する全ての圧力室30を覆っている。封止部材23は、鉛直方向から見て流路部材21よりも一回り小さくかつアクチュエータ部材22よりも一回り大きい矩形状である。封止部材23は、表面21aに接着剤を介して接着され、圧力室30を封止している。封止部材23は、圧電層61,62と異なる材料(ステンレス鋼等の、インク透過性の低い材料)からなる。
【0021】
本実施形態において、各圧電層61,62の厚みは10μm以上、封止部材23の厚みは10μm程度、各電極51,52の厚みは0.5~1.5μm程度である。
【0022】
複数の個別電極51及び共通電極52は、ドライバIC5D(図4参照)と電気的に接続されている。ドライバIC5Dは、共通電極52の電位をグランド電位に維持する一方、個別電極51の電位を所定の駆動電位とグランド電位との間で変化させる。具体的には、ドライバIC5Dは、制御部100からの制御信号に基づいて駆動信号を生成し、当該駆動信号を個別電極51に供給する。これにより、個別電極51の電位が所定の駆動電位とグランド電位との間で変化する。このとき、圧電層61において個別電極51と共通電極52とで挟まれた部分が、圧電横効果により面方向に収縮する。これに伴い、アクチュエータ部材22において圧力室30と鉛直方向に重なる部分(アクチュエータ22x)が封止部材23と共に圧力室30に向かって凸となるように変形することにより、圧力室30の容積が減少し、圧力室30内のインクに圧力が付与される。当該インクは、接続流路36を通ってノズル31から吐出される。これと同時に、共通流路29内のインクが連通流路35を通って圧力室30に供給され、また、インクタンク9から共通流路29にインクが供給される。
【0023】
アクチュエータ部材22に含まれる複数のアクチュエータ22xは、ユニモルフ型の圧電素子であり、ドライバIC5Dによる各個別電極51への電圧の印加に応じて独立して変形可能である。
【0024】
制御部100は、図4に示すように、CPU101と、ROM102と、RAM103とを含む。ROM102には、CPU101が各種制御を行うためのプログラムやデータが格納されている。RAM103は、CPU101がプログラムを実行する際に用いるデータを一時的に記憶する。CPU101は、外部装置(パーソナルコンピュータ等)や入力部(プリンタ1の筐体の外面に設けられたスイッチやボタン)から入力されたデータに基づいて、ROM102やRAM103に記憶されているプログラムやデータにしたがい、各種制御を実行する。
【0025】
制御部100の制御によりドライバIC5Dが個別電極51に供給する駆動信号の一例が、図5に示されている。
【0026】
図5に示す駆動信号Xは、1ドットを形成するための1吐出周期(時点t0から時点t1までの時間)内に、それぞれ矩形状の3つのパルスを含む。当該3つのパルスは、メインパルスPmと、メインパルスPmの前に印加されるプレパルスPpと、メインパルスPmの後に印加されるキャンセルパルスPcとで構成される。
【0027】
メインパルスPmは、ノズル31から所定サイズのインク滴を吐出させるためのものである。
【0028】
プレパルスPp及びキャンセルパルスPcは、サテライト滴やミストを抑制するためのものであり、メインパルスPmの幅Tmよりも小さい幅Tp,Tcを有する。サテライト滴及びミストは、メインパルスPmの印加により生じたインク滴(メイン滴)から分離した、メイン滴よりも小さいサイズのインク滴である。ミストは、サテライト滴よりも小さいサイズのインク滴である。プレパルスPpは、当該吐出周期よりも前の吐出周期で生じた圧力室30内の圧力波をキャンセルする。キャンセルパルスPcは、当該吐出周期においてメインパルスPmの印加によって生じる圧力室30内の圧力波をキャンセルする。
【0029】
本実施形態では、初期状態(時点t0)において、個別電極51に所定の駆動電位(VDD)が付与されており、圧電層61において個別電極51と共通電極52とで挟まれた部分が面方向に収縮し、アクチュエータ部材22において圧力室30と鉛直方向に重なる部分(アクチュエータ22x)が封止部材23と共に圧力室30に向かって凸に変形している。そして、メインパルスPmの始点t2において、個別電極51がグランド電位(0V)となると、圧電層61において個別電極51と共通電極52とで挟まれた部分の面方向の収縮が解除され、アクチュエータ22xが封止部材23と共に平坦になる。これにより、圧力室30の容積が初期状態よりも増加し、共通流路29から個別流路32にインクが吸い込まれる。さらにその後、メインパルスPmの終点t3において、個別電極51に駆動電位(VDD)が付与されると、圧電層61において個別電極51と共通電極52とで挟まれた部分が再び面方向に収縮し、アクチュエータ22xが封止部材23と共に圧力室30に向かって凸に変形する。このとき、圧力室30の容積低下によりインクの圧力が上昇し、ノズル31からインク滴が吐出される。
【0030】
つまり、駆動信号Xは、圧力室30の容積を所定容積から増大させた後所定容積以下に減少させることでノズル31からインクを吐出させる「引き打ち方式」である。「引き打ち方式」では、圧力室30の容積が増大する際に圧力室30内に負の圧力波が生じ、その後負の圧力波が反転して正の圧力波として圧力室30に戻ってきたタイミングで圧力室30の容積を減少させることで、圧力室30内に正の圧力波を生じさせ、これら圧力波を重畳させる。このような圧力波の重畳により、圧力室30内のインクに大きな圧力が付与され、吐出圧を高めることができる。
【0031】
また近年、高速記録の観点から、アクチュエータ22xを高周波で駆動させることが求められている。しかしながら、図5に示すような1吐出周期内にメインパルスPmとキャンセルパルスPcとを含む駆動信号Xでは、周波数が50kHz以上となると、吐出が不安定になり得る。
【0032】
本願発明者等は、鋭意研究の結果、Tw(メインパルスPmの終点t3からキャンセルパルスPcの始点t4までの時間)とTc(キャンセルパルスPcの幅)との和が、限界周波数Fl(連続して吐出されるインク滴同士がつながらず、インク滴毎にドットが独立して形成される、限界の周波数)と相関していることを知見した。
【0033】
なお、パルスの「始点」とは、電位が初期状態の電位から当該パルスの所定電位に変位するタイミングをいう。パルスの「終点」とは、電位が当該パルスの所定電位から初期状態の電位に変位するタイミングをいう。本実施形態では、図5に示すように、パルスの始点で電位が下降し、パルスの終点で電位が上昇する。
【0034】
図6に、Tw+Tcと限界周波数Flとの関係が示されている。図6では、Tp(プレパルスPpの幅)、Tv(プレパルスPpの終点からメインパルスPmの始点t2までの時間)、Tm(メインパルスPmの幅)、Tw(メインパルスPmの終点t3からキャンセルパルスPcの始点t4までの時間)、Tc(キャンセルパルスPcの幅)の少なくともいずれかが互いに異なる複数の駆動信号Xを用いてアクチュエータ22xを駆動した場合の、それぞれの限界周波数Flの値がプロットされている。また、図6には、限界周波数Flを回帰分析した式「-11.3×(Tw+Tc)+120」が、破線で示されている。
【0035】
したがって、本実施形態では、駆動信号Xの駆動周波数をf(単位:kHz)、メインパルスPmの終点からキャンセルパルスPcの始点までの時間をTw(単位:μsec)、キャンセルパルスPcの幅をTc(単位:μsec)としたときに、下記式(1)を成立させる(換言すると、50kHz以上の任意の周波数fでアクチュエータ22xを駆動する場合に、下記式(1)が成立するように、Tw+Tcを設定する)。式(1)が成立することで、高周波の駆動で安定した吐出を実現できる。
50≦f≦-11.3×(Tw+Tc)+120 ・・・(1)
【0036】
さらに、本願発明者等は、TwとTcとの比率を変化させることでノズル31から吐出されるインク滴の量を調整できるものの、Tw+Tcの値によっては調整できる範囲が限られることを知見した。
【0037】
図7に、Tw+Tcとインク滴の体積との関係が示されている。図7から、Tw+Tcが5.2を超えると、インク滴の体積が最小のもので2.5plを超えており、小さいサイズのインク滴を吐出させることができないことがわかる。
【0038】
したがって、本実施形態では、上記式(1)に加え、下記式(2)を成立させる。式(2)が成立することで、ノズル31から吐出されるインク滴の量を調整でき、階調表現を実現できる。
Tw+Tc≦5.2 ・・・(2)
【0039】
さらに、本願発明者等は、キャンセルパルスPcの幅Tcが大き過ぎると、キャンセルパルスPcがメインパルスPmとして機能し、キャンセルパルスPcの印加に応じて意図しないインク滴が吐出され得ることを知見した。
【0040】
図8に、キャンセルパルスPcの印加に応じて意図しないインク滴が吐出されたとき(2滴吐出時)のTw,Tcの関係が示されている。図8では、2滴吐出時のTw,Tcの値がプロットされている。また、図8には、2滴吐出時のTcを回帰分析した式「-0.4Tw+4.3」が、破線で示されている。
【0041】
したがって、本実施形態では、上記式(1)(2)に加え、下記式(3)を成立させる。式(3)が成立することで、キャンセルパルスPcがメインパルスPmとして機能せず、キャンセルパルスPcの印加に応じてインク滴が吐出されない。これにより、画像の濃度が所望の濃度よりも大きくなることが抑制される。
Tc≦-0.4Tw+4.3 ・・・(3)
【0042】
メインパルスPm及びキャンセルパルスPcが矩形状である(図5参照)。メインパルスPm及び/又はキャンセルパルスPcが矩形状以外の形状(例えば台形形状)の場合、上記式(1)(2)が成立するようにパルスPm,Pcを設計するのが困難である。この点、本実施形態では、メインパルスPm及びキャンセルパルスPcが矩形状であるため、上記式(1)(2)が成立するようにパルスPm,Pcを設計するのが容易である。
【0043】
記録解像度が1200dpi以上である。1200dpi以上の高解像度を実現するには、高周波駆動と階調表現とが有効である。この点、本実施形態では、上記式(1)(2)を成立させることで高周波駆動と階調表現とを実現できるため、1200dpi以上の高解像度を実現し、高品質の画像を得ることができる。
【0044】
複数のノズル31は、50dpi以上の密度で搬送方向(第1方向)に配列され、走査方向(第2方向)に並ぶ4つのノズル列31Rを構成している。4つのノズル列31R間において、ノズル31の搬送方向の位置がずれている。これにより、1200dpi以上の高解像度を実効的に実現できる。
【0045】
さらに本実施形態では、メインパルスPmの幅をTm(単位:μSec)、個別流路32内における圧力波の往復伝搬時間をAL(Acoustic Length)(単位:μsec)としたときに、下記式(4)を成立させる(換言すると、式(4)が成立するように、Tmを設定する)。これにより、吐出圧を高めることができる。
AL×0.7≦Tm≦AL×1.3 ・・・(4)
【0046】
ALは、6μsec以下である。ALが6μsecを超えると、メインパルスPmの幅Tmが長く(ひいては、1吐出周期の長さが長く)なり、高周波の駆動を実現し難い。この点、本実施形態では、ALが6μsec以下であるため、メインパルスPmの幅Tmが短く(ひいては、1吐出周期の長さが短く)なり、高周波の駆動を実現し易い。
【0047】
ノズル31を構成する部材(図3に示すプレート49)が、金属からなる。金属は、ポリイミド等の樹脂に比べ、耐摩耗性に優れる。そのため、長期の使用においても、ノズル31の摩耗が少なく、高周波の駆動で安定した吐出を実現できる。
【0048】
アクチュエータ22xは、封止部材23の上面(封止部材23における流路部材21と反対側の面)に接着された、圧電層61,62及び電極51,52を含む積層体である。この場合、封止部材23がアクチュエータ22xと流路部材21との間に配置されているため、仮に圧電層61,62にクラックが生じたとしても、流路部材21内のインクが圧電層61,62のクラックに侵入せず、クラックへのインクの侵入による不具合(電極51,52のショート等)を回避できる。
【0049】
<変形例>
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0050】
本発明に係る駆動信号Xは、上述の実施形態(図5参照)のようにメインパルスPm及びキャンセルパルスPcが矩形状であることに限定されない。また、本発明に係る駆動信号Xは、上述の実施形態(図5参照)のようにプレパルスPpを含むことに限定されない。さらに、本発明に係る駆動信号Xは、上述の実施形態(図5参照)のようにメインパルスPmの駆動電位(VDD)とキャンセルパルスPcの駆動電位(VDD)とが互いに同じであることに限定されない。また、上述の実施形態において、アクチュエータを構成する電極は、個別電極及び共通電極を含む2層構成であるが、3層構成(例えば、高電位及び低電位が選択的に付与される駆動電極と、高電位に保持される高電位電極と、低電位に保持される低電位電極とを含む構成)であってもよい。
【0051】
例えば、図9の変形例に係る駆動信号Xは、上記の3層構成の駆動電極に適用されるものであり、パルスの始点で電位が上昇し、パルスの終点で電位が下降している。さらに、メインパルスPm及びキャンセルパルスPcが台形形状である。プレパルスPpが省略されている。メインパルスPmの駆動電位(Vm)とキャンセルパルスPcの駆動電位(Vc)とが互いに異なっている。
【0052】
図9のようにメインパルスPm及びキャンセルパルスPcが台形形状の場合、駆動電位(Vm)の半分(Vm/2)の電位のときのメインパルスPmの幅をTm、駆動電位(Vc)の半分(Vc/2)の電位のときのキャンセルパルスPcの幅をTcとして、Twを導出する。
【0053】
上述の実施形態(図5参照)及び変形例(図9参照)において、キャンセルパルスPcの幅TcはメインパルスPmの幅Tmよりも小さいが、これに限定されない。
【0054】
ヘッドは、シリアル式に限定されず、ライン式であってもよい。
【0055】
吐出対象は、用紙に限定されず、例えば布、基板、プラスチック部材等であってもよい。
【0056】
ノズルから吐出される液体は、インクに限定されず、任意の液体(例えば、インク中の成分を凝集又は析出させる処理液等)であってよい。
【0057】
本発明は、プリンタに限定されず、ファクシミリ、コピー機、複合機等にも適用可能である。また、本発明は、画像の記録以外の用途で使用される液滴吐出装置(例えば、基板に導電性の液滴を吐出して導電パターンを形成する液滴吐出装置)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 プリンタ(液滴吐出装置)
21 流路部材
21a 表面
22 アクチュエータ部材
22x アクチュエータ
23 封止部材
30 圧力室
31 ノズル
31R ノズル列
32 個別流路
51 個別電極
52 共通電極
61,62 圧電層
100 制御部
X 駆動信号
Pm メインパルス
Pc キャンセルパルス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9