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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119507
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】長繊維不織布及び土木用資材
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/011 20120101AFI20240827BHJP
   D04H 3/105 20120101ALI20240827BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
D04H3/011
D04H3/105
D04H3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026470
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 祿弘
(72)【発明者】
【氏名】小田 勝二
(72)【発明者】
【氏名】浦谷 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】峯村 慎一
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA21
4L047AA29
4L047AB03
4L047BA03
4L047BA08
4L047CA19
4L047CB01
4L047CB05
4L047CC10
(57)【要約】
【課題】垂直方向での難燃性を持ち、湿熱環境下においても引張強力を保持できる長繊維不織布を提供する。
【解決手段】
本発明の長繊維不織布は、構成繊維がリン含有化合物を共重合したポリエステルから成り、目付が400g/m以上、厚さが2.0mm以上、引張最大破断点強力が縦横ともに925N/5cm以上、貫入抵抗が850N以上、である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成繊維がリン含有化合物を共重合したポリエステルから成り、
目付が400g/m以上、
厚さが2.0mm以上、
引張最大破断点強力が縦横ともに925N/5cm以上、
貫入抵抗が850N以上、
であることを特徴とする長繊維不織布。
【請求項2】
前記構成繊維におけるリン原子の含有率は100~2000ppmである請求項1に記載の長繊維不織布。
【請求項3】
ニードルパンチ加工されていることを特徴とする請求項1に記載の長繊維不織布。
【請求項4】
湿熱サイクル試験後の貫入抵抗保持率が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の長繊維不織布。
【請求項5】
JIS L1091 A-4法の燃焼性試験にて、燃焼長平均が5.5cm以下であり、最大燃焼長が8.5cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の長繊維不織布。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1に記載の長繊維不織布を含むことを特徴とする土木用資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性を有する長繊維不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物処理場では、底面や側面に遮水シートが設置されて、その上に遮水シートが破れることを防ぐ目的として不織布にて構成された保護マットが必要とされる。このような保護マットは、突起のある廃棄物で破れると土壌汚染となりうるため、破れにくさが要求される。また、長期間の湿熱条件に耐える強度が必要とされる。さらに、熱処分された焼却物や、電池による発火のリスクがあるため、難燃性が求められる。また、屋内処分場などの側面は垂直方向への設置が多く、表面のみならず素材全体が難燃である必要がある。
【0003】
例えば特許文献1には、ポリ乳酸径重合体による難燃性保護マットが提案されている。
【0004】
また、保護マットではないが、特許文献2には、リン原子含有させたエアーバック用ラッピング材が開示されており、長時間の高温高湿化で高い強度保持率を維持している。特許文献3には、不織布の片面や両面に分子量1万以上のポリウレタン系バインダと燐系難燃剤を塗布したポリエステル系難燃性スパンボンド不織布が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-286654号公報
【特許文献2】特願2002-377520号公報
【特許文献3】特開平4-222267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の保護マットは、ポリ乳酸が生分解性の性質を持つため、長期にわたる湿熱耐性に課題がある。また、特許文献2のラッピング材は、エンボス加工を用いて製造するため、保護マットに要求される突起物に耐うる厚さを出すことができない。また、特許文献3の不織布は、例えば屋内処分場のような垂直な壁面へ貼り付けた場合、表面は難燃であるが素材全体が難燃ではないため、垂直方向へ燃焼部位が広がるリスクが懸念される。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされ、その目的は、垂直方向での難燃性を持ち、湿熱環境下においても引張強力を保持できる長繊維不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ついに本発明を完成するに至った。本発明は以下の構成を取る。
(1)構成繊維がリン含有化合物を共重合したポリエステルから成り、目付が400g/m以上、厚さが2.0mm以上、引張最大破断点強力が縦横ともに925N/5cm以上、貫入抵抗が850N以上、であることを特徴とする長繊維不織布。
(2)前記構成繊維におけるリン原子の含有率は100~2000ppmである(1)に記載の長繊維不織布。
(3)ニードルパンチ加工されていることを特徴とする(1)または(2)に記載の長繊維不織布。
(4)湿熱サイクル試験後の貫入抵抗保持率が90%以上であることを特徴とする(1)~(3)のいずれか1に記載の長繊維不織布。
(5)JIS L1091 A-4法の燃焼性試験にて、燃焼長平均が5.5cm以下であり、最大燃焼長が8.5cm以下であることを特徴とする(1)~(4)のいずれか1に記載の長繊維不織布。
(6)(1)~(5)のいずれか1に記載の長繊維不織布を含むことを特徴とする土木用資材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、垂直方向に強い難燃性を持ちつつ、屋外の湿熱環境下でも一定の強度を保持できる長繊維不織布を得ることができる。そのため、本発明の長繊維不織布は、廃棄物処分場などで使用しても、突起物などで容易に破れず、且つ難燃性を有しているため、保護マット等の土木用資材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の長繊維不織布は、構成繊維がリン含有化合物を共重合したポリエステルから成る。
【0011】
本発明の長繊維不織布の構成繊維がリン含有化合物を共重合したポリエステルから成るため、長繊維不織布全体を難燃にすることができる。よって、長繊維不織布を例えば屋内処分場のような垂直な壁面へ貼り付けて用いる場合でも、垂直方向へ燃焼部位が広がることを抑制できる。難燃性としては、例えば、JIS L1091 A-4法の燃焼性試験にて、燃焼長平均が5.5cm以下であり、最大燃焼長が8.5cm以下であることが、好ましい。
【0012】
本発明の長繊維不織布の目付は400g/m以上が好ましい。目付が400g/mよりも小さいと、厚さや機械強度が低下し突起物などで破れる可能性があり、防水シートを保護する保護マットとしての機能を果たせない。また、目付は1300g/m以下が好ましい。1300g/mを超えると、ニードルパンチ加工時の針折れ等のトラブルが発生しやすいため適さない。
【0013】
本発明の長繊維不織布は、厚さが2.0mm以上が好ましい。厚さが2.0mm以上であることで、保護マットに用いた場合に要求される突起物に耐うる厚さを出すことができる。
【0014】
本発明の長繊維不織布は、引張最大破断点強力が縦横ともに925N/5cm以上であることが好ましい。引張最大破断点強力が縦横ともに925N/5cm以上であると、保護マットに要求される引張強力を保持できる。
【0015】
本発明の長繊維不織布は、貫入抵抗が850N以上であることが好ましい。貫入抵抗が850N以上であると、突起物に耐える保護マットとしての機能を発揮できる。
【0016】
本発明の長繊維不織布は、後段にて説明する湿熱サイクル試験後の貫入抵抗保持率が90%以上であることが好ましい。湿熱サイクル試験後の貫入抵抗保持率が90%以上であることで、長期間高温にさらされても、強度を保持することができる。
【0017】
さらに、本願発明の長繊維不織布は、ペネトレーションが50~200本/cmであることが好ましい。ペネトレーションが50本/cmより少ないと、繊維交絡性が低下し接点が減少することで、シートが弱く破れやすくなってしまう。逆に200本/cmよりも多いと、繊維層がつぶれ厚さが低下し遮水シートの保護マットとして用いた場合に、クッション性が損なわれてしまう。
【0018】
本発明の長繊維不織布は、その構成繊維のリン原子含有量が質量で100~2000ppmであることが好ましい。リン含有量が100ppmよりも小さいと難燃性が悪くなり、JIS A4法による難燃性を安定して得ることができない。また、2000ppmよりも大きくなると屋外環境下における湿熱性による強度保持率が低下してしまい、長時間の耐久性に耐えることができなくなる。また、繊維の強度が低下し、機械特性が損なわれることとなる。かかる範囲のリン原子を含有することにより、実用で問題の無い程度の繊維自体の強度を維持し、且つ高い難燃性と耐磨耗性を有する土木シートが得られるからである。より好ましくは500~2000ppmである。
【0019】
リン化合物の付与方法としては、樹脂への練り込みか或いは不職布表面に難燃樹脂を塗布も考えられるが、時間が経過するにつれ難燃性能が低下する傾向がある。これはリン化合物が加水分解等によりブリードアウトするためである。 リン共重合ポリエステル繊維においては、加水分解によるブリードアウトが発生しないため時間経過における難燃性能低下がほとんど発生しない。
【0020】
本発明の長繊維不織布は、例えば、スパンボンド法を用い、リン含有化合物を共重合したポリエステルを紡糸し、捕集したフィラメントを圧着して不織布シートを得て、これをニードルパンチ加工して、得ることができる。
【0021】
製造において、共重合ポリエステルを紡糸する際に紡糸口金温度を270~300℃にすることが望ましい。300℃を超えると糸切れといった問題が生じ、270℃未満であると強度が弱いといった問題が生じるからである。
【0022】
本発明の長繊維不織布は、圧着面積率は10~30%が好ましい。そこで、製造においては、凸部圧着面の面積が10~30%に設定したドット状のエンボス文様を用いるのが好ましい。本発明では、凹状ドットの形状文様は特には限定されないが、好ましい文様としては、楕円柄、ダイヤ柄や織目柄などが例示できる。線圧は加熱温度および速度との兼ね合いも配慮する必要があり、例えば10m/分では、ローラー表面温度は130~220℃が好ましく、より好ましくは160~220℃である。線圧は10~40kN/mが好ましい。
【0023】
ニードルパンチの方法は、公知の技術を用いることができる。ニードル密度は不織布の得たい強力によるが、30~200ヶ/cm、好ましくは60~160ヶ/cmである。
【実施例0024】
以下に、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0025】
まず、実施例及び比較例の物性値の測定方法について説明する。
【0026】
<不織布の厚さ(mm)>
厚さは、JIS L 1913 6.1(2020)に準拠し、0.5kPaの圧力を10秒かけ、n=10で測定した。
【0027】
<不織布の目付(g/m)>
目付は、JIS L 1913 6.2(2020)に準拠し、20cm×20cmのサイズの試料で測定した。
【0028】
<不織布の最大点引張強力(N/5cm)>
最大点引張張力は、JIS L 1913 6.3(2020)に準拠し、長さ20cm×5cmのサイズの試料を用いて、つかみ間隔100mm、引張り速度100±10mm/minの速度、縦横それぞれn=5として測定した。
【0029】
<貫入抵抗(N)>
貫入抵抗は、ASTM D 4833記載の方法に準拠し、貫入棒は8mmφで30°の面取りされた形状を用い、突刺速度300mm/min、n=6として測定した。
【0030】
<難燃性(cm)>
JIS L 1091 A-4法(2020)に準拠した燃焼性試験を実施し、縦横それぞれn=5の炭化長平均値とそれぞれの炭化長最大値とを測定した。
【0031】
<貫入抵抗強度保持率>
JIS C 60068-2-30に準拠し、高温側は55℃で、1サイクルを24時間で合計20サイクル(計480時間)する湿熱サイクル試験の実施前後に、貫入抵抗測定を実施し、貫入抵抗強度保持率を算出した。
【0032】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例における物性等の評価方法は次の通りである。
(実施例1)
テレフタル酸をカルボン酸成分としエチレングリコールをグリコール成分とし、リン含有化合物(S)をリン原子含有率が600ppmとなるよう共重合させたリン原子含有共重合ポリエステルを用いた。これを、口金温度285℃にて溶融紡糸し、フィラメントをネット上にランダム捕集した後、190℃のエンボスローラで圧着して、目付480g/mのスパンボンド不織布シートを製造した。次いで、フォスター製の40番手ニードルを用いて、ニードル密度120ケ/cm、針深度10mmでニードルパンチ加工して実施例1の長繊維不織布を得た。この長繊維不織布は、目付478g/m、厚さ3.8mm、最大引張強力縦1931N/5cm、最大引張強力横1240N/5cm、貫入抵抗978N、湿熱サイクル試験後の貫入抵抗強度保持率93%、難燃性は最大炭化長4.2cm、平均炭化長3.6cmであった。
【0033】
(実施例2)
実施例1と同じ原料で、リン原子含有率が1000ppmとなるよう共重合させたリン原子含有共重合ポリエステルを用いて、口金温度285℃にて溶融紡糸し、フィラメントをネット上にランダム捕集した後、190℃のエンボスローラで圧着して、目付480g/mのスパンボンド不織布シートを製造した。次いで、フォスター製の40番手ニードルを用いて、ニードル密度120ケ/cm、針深度10mmでニードルパンチ加工して、実施例2の長繊維不織布を得た。この長繊維不織布は、目付478g/m、厚さ3.8mm、最大引張強力縦1929N/5cm、最大引張強力横1303N/5cm、貫入抵抗964N、湿熱サイクル試験後の貫入抵抗強度保持率92%、難燃性が最大炭化長3.5cm、平均炭化長3.2cmであった。
【0034】
(実施例3)
実施例1と同じ原料で、リン原子含有率が2000ppmとなるよう共重合させたリン原子含有共重合ポリエステルを用いて口金温度285℃にて溶融紡糸し、フィラメントをネット上にランダム捕集した後、エンボスローラ(190℃)で圧着して、目付480g/mのスパンボンド不織布シートを製造した。次いで、フォスター製の40番手ニードルを用いて、ニードル密度120ケ/cm、針深度10mmでニードルパンチ加工して、実施例3の長繊維不織布を得た。この長繊維不織布は、目付483g/m、厚さ3.6mm、最大引張強力縦1912N/5cm、最大引張強力横1239N/5cm、貫入抵抗903N、湿熱サイクル試験後の貫入抵抗強度保持率90%、難燃性が最大炭化長4.3cm、平均炭化長3.0cmであった。
【0035】
(比較例1)
実施例1と同じ原料で、リン原子含有率が3000ppmとなるよう共重合させたリン原子含有共重合ポリエステルを用いて、口金温度285℃で溶融紡糸し、フィラメントをネット上にランダム捕集した後、190℃のエンボスローラで圧着して、目付480g/mのスパンボンド不織布シートを製造した。次いで、フォスター製の40番手ニードルを用いて、ニードル密度120ケ/cm2、針深度10mmでニードルパンチ加工して比較例1の長繊維不織布を得た。この長繊維不織布は、目付479g/m、厚さ3.4mm、最大引張強力縦1795N/5cm、最大引張強力横1029N/5cm、貫入抵抗801N、湿熱サイクル試験後の貫入抵抗強度保持率82%、難燃性が最大炭化長3.5cm、平均炭化長3.0cmであった。
【0036】
(比較例2)
リン原子を含有していない汎用ポリエステルを用いて、口金温度285℃で溶融紡糸し、フィラメントをネット上にランダム捕集した後、190℃のエンボスローラで圧着して、目付480g/mのスパンボンド不織布シートを製造した。次いで、フォスター製の40番手ニードルを用いて、ニードル密度120ケ/cm、針深度10mmでニードルパンチ加工して、比較例2の長繊維不織布を得た。この長繊維不織布は、目付475g/m、厚さ4.0mm、最大引張強力縦2050N/5cm、最大引張強力横1306N/5cm、貫入抵抗1012N、湿熱サイクル試験後の貫入抵抗強度保持率98%、難燃性が最大炭化長8.7cm、平均炭化長5.9cmであった。
【0037】
(比較例3)
実施例1と同じ原料で、リン原子含有率が1800ppmとなるよう共重合させたリン原子含有共重合ポリエステルを用いて、口金温度285℃で溶融紡糸し、フィラメントをネット上にランダム捕集した後、240℃のエンボスローラで圧着して、ニードルパンチ加工しない、比較例3の長繊維不織布を得た。この長繊維不織布は、目付300g/m、厚さ0.8mm、最大引張強力縦500N/5cm、最大引張強力横355N/5cm、貫入抵抗488N、難燃性が最大炭化長9.8cm、平均炭化長6.6cmであった。
【0038】
実施例1~3及び比較例1~3の結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から分かるように、実施例1~3の長繊維不織布は、垂直方向での難燃性を持ち、湿熱耐侯試験後においても引張強力を保持できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により、垂直方向での難燃性を持ち、湿熱耐侯試験後においても引張強力を保持できる難燃性保護マットを提供することができ、産業に大いに貢献できる。