(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119532
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/12 20060101AFI20240827BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20240827BHJP
B60C 9/18 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/00 B
B60C9/18 N
B60C9/18 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026512
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗山 智久
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BA05
3D131BB01
3D131BC02
3D131BC13
3D131BC19
3D131BC31
3D131DA34
3D131DA58
3D131EA02U
3D131EB11V
3D131EB11X
3D131EB86X
3D131EB91X
3D131EB94X
3D131EB98X
(57)【要約】
【課題】WET性能を低下させることなく、転がり抵抗の低減を達成できるタイヤ2の提供。
【解決手段】タイヤ2は、トレッド4とベルト14とを備える。ベルト14は、内側層38と外側層40とを備える。外側層40の端は内側層38の端の軸方向内側に位置する。ショルダー陸部52sに周方向に連続してのびる周方向サイプ50が刻まれる。周方向サイプ50の溝幅はショルダー周方向主溝48sの溝幅よりも狭い。周方向サイプ50は、軸方向においてショルダー周方向主溝48sと外側層40の端との間に位置する。ショルダー周方向主溝48sから周方向サイプ50までの軸方向距離DXの、ショルダー周方向主溝48sから外側層40の端までの軸方向距離DYに対する比率(DX/DY)は10%以上95%以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面と接地するトレッドと、前記トレッドの径方向内側に位置するベルトとを備え、
前記トレッドが、周方向に連続してのびる複数の周方向主溝を有し、
複数の前記周方向主溝が、前記トレッドを、軸方向に並列した少なくとも3本の陸部に区分し、
複数の前記周方向主溝のうち軸方向において最も外側に位置する周方向主溝が、ショルダー周方向主溝であり、
少なくとも3本の前記陸部のうち軸方向において最も外側に位置する陸部が、ショルダー陸部であり、
前記ベルトが、内側層と、前記内側層の径方向外側に位置する外側層とを備え、
前記外側層の端が前記内側層の端の軸方向内側に位置し、
前記ショルダー陸部に、周方向に連続してのびる周方向サイプが刻まれ、
前記周方向サイプの溝幅が前記ショルダー周方向主溝の溝幅よりも狭く、
前記周方向サイプが軸方向において前記ショルダー周方向主溝と前記外側層の端との間に位置し、
前記ショルダー周方向主溝から前記周方向サイプまでの軸方向距離の、前記ショルダー周方向主溝から前記外側層の端までの軸方向距離に対する比率が10%以上95%以下である、
タイヤ。
【請求項2】
前記周方向サイプの溝幅が0.8mm以上1.5mm未満である、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記トレッドが、前記路面と接地するキャップ部と、前記キャップ部の径方向内側に位置するベース部とを備え、
30℃での前記ベース部の損失正接が、30℃での前記キャップ部の損失正接よりも低い、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記周方向サイプの溝底が、前記キャップ部と前記ベース部との境界よりも径方向外側に位置する、
請求項3に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記周方向サイプの溝深さの、前記キャップ部の厚さに対する比率が、40%以上95%以下である、
請求項4に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記ベース部の端が、前記内側層の端の軸方向内側に位置する、
請求項3に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記ベース部の軸方向幅の、前記外側層の軸方向幅に対する比率が、95%以上105%以下である、
請求項6に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記周方向サイプがその長さ方向及び深さ方向のそれぞれにジグザグにのびる、
請求項1に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。詳細には、本発明は乗用車に装着されるタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
環境への配慮から、車両に装着されるタイヤにおいては、転がり抵抗の低減が求められている。そのために、タイヤを構成する要素の数を減らす、要素の厚さを低減する、要素を構成する材料に低発熱材料を採用する等の検討が行われている(例えば、下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ウェット路面におけるグリップ性能(以下、WET性能)を低下させることなく、転がり抵抗の低減を達成できる、タイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るタイヤは、路面と接地するトレッドと、前記トレッドの径方向内側に位置するベルトとを備える。前記トレッドは、周方向に連続してのびる複数の周方向主溝を有する。複数の前記周方向主溝は、前記トレッドを、軸方向に並列した少なくとも3本の陸部に区分する。複数の前記周方向主溝のうち軸方向において最も外側に位置する周方向主溝がショルダー周方向主溝である。少なくとも3本の前記陸部のうち軸方向において最も外側に位置する陸部がショルダー陸部である。前記ベルトは、内側層と、前記内側層の径方向外側に位置する外側層とを備える。前記外側層の端は前記内側層の端の軸方向内側に位置する。前記ショルダー陸部に、周方向に連続してのびる周方向サイプが刻まれる。前記周方向サイプの溝幅は前記ショルダー周方向主溝の溝幅よりも狭い。前記周方向サイプは軸方向において前記ショルダー周方向主溝と前記外側層の端との間に位置する。前記ショルダー周方向主溝から前記周方向サイプまでの軸方向距離の、前記ショルダー周方向主溝から前記外側層の端までの軸方向距離に対する比率は10%以上95%以下である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、WET性能を低下させることなく、転がり抵抗の低減を達成できる、タイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係るタイヤの一部を示す断面図である。
【
図2】トレッドに設けられる溝を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0009】
本発明のタイヤはリムに組まれる。タイヤの内側には空気が充填され、タイヤの内圧が調整される。リムに組まれたタイヤはタイヤ-リム組立体とも呼ばれる。タイヤ-リム組立体は、リムと、このリムに組まれたタイヤとを備える。
【0010】
本発明において、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけていない状態は、正規状態と称される。
【0011】
本発明においては、特に言及がない限り、タイヤ各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
正規リムにタイヤを組んだ状態で測定できない、タイヤの子午線断面における各部の寸法及び角度は、回転軸を含む平面に沿ってタイヤを切断することにより得られる、タイヤの切断面において、測定される。この測定では、左右のビード間の距離が、正規リムに組んだタイヤにおけるビード間の距離に一致するように、タイヤはセットされる。なお、正規リムにタイヤを組んだ状態で確認できないタイヤの構成は、前述の切断面において確認される。
【0012】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0013】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0014】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0015】
本発明において、タイヤを構成する要素のうち、架橋ゴムからなる要素の損失正接(tanδ)は、JIS K6394の規定に準拠して測定される。測定条件は以下の通りである。
初期歪み=10%
動歪み=±1%
周波数=10Hz
モード=伸長モード
温度=30℃
この測定では、試験片(長さ20mm×幅4mm×厚さ1mm)はタイヤからサンプリングされる。試験片の長さ方向は、タイヤの周方向と一致させる。タイヤから試験片をサンプリングできない場合には、測定対象の要素の形成に用いられるゴム組成物を170℃の温度で12分間加圧及び加熱して得られる、シート状の架橋ゴム(以下、ゴムシートとも称される。)から試験片がサンプリングされる。
本発明において損失正接は、30℃での損失正接で表される。
【0016】
本発明において、タイヤのトレッド部とは、路面と接地する、タイヤの部位である。ビード部とは、リムに嵌め合わされる、タイヤの部位である。サイドウォール部とは、トレッド部とビード部との間を架け渡す、タイヤの部位である。タイヤは、部位として、トレッド部、一対のビード部及び一対のサイドウォール部を備える。
トレッド部の中央部分はクラウン部分とも呼ばれる。トレッド部の端の部分はショルダー部分とも呼ばれる。
【0017】
[本発明の基礎となった知見]
本発明者らの鋭意検討によれば、タイヤの転がり抵抗を低減する技術に関して、以下の事情が明らかになっている。
トレッドはキャップ部とベース部とを備える。キャップ部は路面と接地するトレッド面を有する。通常キャップ部には、低発熱性よりもグリップ性能が重視される。ベース部はキャップ部の径方向内側に位置する。ベース部には低発熱性の架橋ゴムが用いられる。
低発熱性を考慮した架橋ゴムをキャップ部に用いれば、タイヤは転がり抵抗を低減できる。しかし、ウェット路面におけるグリップ性能(以下、WET性能)が低下する。
タイヤには、低い転がり抵抗と良好なWET性能とが求められる。WET性能を低下させることなく、転がり抵抗の低減を達成できる技術の確立が求められている。
タイヤのトレッドでは、接地状態と非接地状態とが繰り返される。トレッド面は、クラウン部分が外向きに膨らむように湾曲する。非接地状態のトレッドでは、ショルダー陸部の陸面はセンター陸部の陸面よりも径方向内側に位置する。トレッドが路面と接地すると、トレッドは路面に押し付けられる。これにより、トレッドは変形する。センター陸部は径方向内向きに動き、接地面は赤道から軸方向外向きに拡がる。そして、ショルダー陸部が接地する。接地状態のトレッドは、トレッド面が逆向きに反りかえるように変形する。ショルダー陸部には圧縮歪みが発生する。
発明者らは、ショルダー陸部に生じる圧縮歪みに着目し、検討を行った。その結果、圧縮歪みの発生を抑制できれば、WET性能を低下させることなく、転がり抵抗の低減を図れることを発明者らは見出し、以下に説明する発明を完成するに至っている。
【0018】
[本発明の実施形態の概要]
[構成1]
本発明の一態様に係るタイヤは、路面と接地するトレッドと、前記トレッドの径方向内側に位置するベルトとを備え、前記トレッドが、周方向に連続してのびる複数の周方向主溝を有し、複数の前記周方向主溝が、前記トレッドを、軸方向に並列した少なくとも3本の陸部に区分し、複数の前記周方向主溝のうち軸方向において最も外側に位置する周方向主溝が、ショルダー周方向主溝であり、少なくとも3本の前記陸部のうち軸方向において最も外側に位置する陸部が、ショルダー陸部であり、前記ベルトが、内側層と、前記内側層の径方向外側に位置する外側層とを備え、前記外側層の端が前記内側層の端の軸方向内側に位置し、前記ショルダー陸部に、周方向に連続してのびる周方向サイプが刻まれ、前記周方向サイプの溝幅が前記ショルダー周方向主溝の溝幅よりも狭く、前記周方向サイプが軸方向において前記ショルダー周方向主溝と前記外側層の端との間に位置し、前記ショルダー周方向主溝から前記周方向サイプまでの軸方向距離の、前記ショルダー周方向主溝から前記外側層の端までの軸方向距離に対する比率が10%以上95%以下である。
【0019】
このようにタイヤを整えることにより、タイヤは、WET性能を低下させることなく、転がり抵抗の低減を達成できる。
【0020】
[構成2]
好ましくは、前述の[構成1]に記載のタイヤにおいて、前記周方向サイプの溝幅が0.8mm以上1.5mm未満である。
【0021】
[構成3]
好ましくは、前述の[構成1]又は[構成2]に記載のタイヤにおいて、前記トレッドが、前記路面と接地するキャップ部と、前記キャップ部の径方向内側に位置するベース部とを備え、30℃での前記ベース部の損失正接が、30℃での前記キャップ部の損失正接よりも低い。
【0022】
[構成4]
好ましくは、前述の[構成3]に記載のタイヤにおいて、前記周方向サイプの溝底が、前記キャップ部と前記ベース部との境界よりも径方向外側に位置する。
【0023】
[構成5]
好ましくは、前述の[構成4]に記載のタイヤにおいて、前記周方向サイプの溝深さの、前記キャップ部の厚さに対する比率が40%以上95%以下である。
【0024】
[構成6]
好ましくは、前述の[構成3]から[構成5]のいずれかに記載のタイヤにおいて、前記ベース部の端が、前記内側層の端の軸方向内側に位置する。
【0025】
[構成7]
好ましくは、前述の[構成6]に記載のタイヤにおいて、前記ベース部の軸方向幅の、前記外側層の軸方向幅に対する比率が95%以上105%以下である。
【0026】
[構成8]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成7]のいずれかに記載のタイヤにおいて、前記周方向サイプがその長さ方向及び深さ方向のそれぞれにジグザグにのびる。
【0027】
[本発明の実施形態の詳細]
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ2の一部を示す。このタイヤ2は、乗用車用空気入りタイヤである。
図1は、タイヤ2の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ2の断面(以下、子午線断面)の一部を示す。
図1において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。
図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表す。
【0028】
図1において符号PCで示される位置は、タイヤ2の外面と赤道面との交点である。交点PCはタイヤ2の赤道とも称される。赤道面上に溝が位置する場合は、溝がないと仮定して得られる仮想外面に基づいて赤道PCは特定される。赤道PCはタイヤ2の径方向外端でもある。
【0029】
図1において符号PWで示される位置はタイヤ2の軸方向外端である。模様や文字等の装飾が外面にある場合、外端PWは、装飾がないと仮定して得られる仮想外面に基づいて特定される。
図1において両矢印WAで示される長さはタイヤ2の断面幅(JATMA等参照)である。断面幅WAは、第一外端PWから第二外端PWまでの軸方向距離である。断面幅WAはタイヤ2の最大幅であり、外端PWはこのタイヤ2が最大幅WAを示す位置(以下、最大幅位置)である。断面幅WAは正規状態のタイヤ2において特定される。
【0030】
このタイヤ2は、要素として、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のクリンチ8、一対のビード10、カーカス12、ベルト14、バンド16、インナーライナー18、一対のクッション20及び一対のインスレーション22を備える。
【0031】
トレッド4は、トレッド面24において路面と接地する。トレッド4は路面と接地するトレッド面24を有する。トレッド面24は径方向外向きに凸な形状を有する。
【0032】
タイヤ2の外面において、トレッド面24にはサイド面26が連なる。タイヤ2の外面は、トレッド面24と、一対のサイド面26とを備える。
子午線断面においてトレッド面24の輪郭は、軸方向に並ぶ複数の円弧を含む。複数の円弧のうち軸方向において外側に位置する円弧はショルダー円弧であり、最小の半径Rsを有する。このショルダー円弧にサイド面26の輪郭線が連なる。
符号PTで示される位置は、ショルダー円弧と、このショルダー円弧の隣に位置する円弧との境界である。直線LTは、境界PTでショルダー円弧と接する接線である。
符号PSで示される位置は、ショルダー円弧とサイド面26の輪郭線との境界である。直線LSは、境界PSでショルダー円弧と接する接線である。
符号TEは、接線LTと接線LSとの交点である。本発明においては、この交点TEがトレッド4の基準端である。両矢印WTで示される長さは、第一の基準端TEから第二の基準端TEまでの軸方向距離である。本発明においては、軸方向距離WTがトレッド4の幅である。
このタイヤ2では、トレッド4の幅WTの、タイヤ2の断面幅WAに対する比率(WT/WA)は75%以上90%以下である。
【0033】
トレッド4は、キャップ部28と、ベース部30とを備える。
キャップ部28はトレッド面24を含む。キャップ部28は路面と接地する。キャップ部28は、耐摩耗性及びグリップ性能が考慮された架橋ゴムからなる。
ベース部30はキャップ部28の径方向内側に位置する。ベース部30の端30eはキャップ部28の端28eの軸方向内側に位置する。ベース部30はその全体が、キャップ部28に覆われる。トレッド4が摩耗してベース部30が露出しない限り、ベース部30は路面と接地しない。ベース部30では、キャップ部28のように耐摩耗性及びグリップ性能は考慮されない。
図1において両矢印Bで示される長さは、ベース部30の厚さである。ベース部30の厚さBは、赤道面に沿って計測される。
ベース部30は低発熱性の架橋ゴムからなる。30℃でのベース部30の損失正接(以下、ベース部30の損失正接LTb)は、30℃でのキャップ部28の損失正接(以下、キャップ部28の損失正接LTc)よりも低い。具体的には、ベース部30の損失正接LTbのキャップ部28の損失正接LTcに対する比率(LTb/LTc)は0.15以上が好ましく、0.55以下が好ましい。
このタイヤ2では、ベース部30の損失正接Ltbは0.11以下であることが好ましい。ベース部30は転がり抵抗の低減に貢献する。この観点において損失正接Ltbは低いほど好ましいので、好ましい下限は設定されない。
【0034】
このタイヤ2では、その子午線断面において、ベース部30は、クラウン部分においては、一様な厚さを有し、ショルダー部分においては、端に近づくほど徐々に薄くなるように構成される。
例えば、赤道面に沿って計測されるトレッド4の厚さに対するベース部30の厚さBの比率は10%以上80%以下の範囲で設定される。転がり抵抗を重視する場合、ベース部30は厚くなるようにトレッド4は構成される。グリップ性能を重視する場合、ベース部30は薄くなるように、トレッド4は構成される。
【0035】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端に連なる。サイドウォール6は、トレッド4の径方向内側に位置する。サイドウォール6は、耐カット性を考慮した架橋ゴムからなる。
【0036】
それぞれのクリンチ8はサイドウォール6の径方向内側に位置する。クリンチ8はリムRと接触する。クリンチ8は耐摩耗性が考慮された架橋ゴムからなる。
【0037】
それぞれのビード10はクリンチ8の軸方向内側に位置する。ビード10はサイドウォール6の径方向内側に位置する。
ビード10は、コア32と、エイペックス34とを備える。コア32は周方向にのびる。図示されないが、コア32はスチール製のワイヤーを含む。エイペックス34はコア32の径方向外側に位置する。エイペックス34は径方向外向きに先細りである。エイペックス34は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。
【0038】
カーカス12は、トレッド4、一対のサイドウォール6及び一対のクリンチ8の内側に位置する。カーカス12は、一対のビード10である、第一のビード10と第二のビード10との間を架け渡す。カーカス12は少なくとも1枚のカーカスプライ36を含む。
【0039】
このタイヤ2のカーカス12は、転がり抵抗の低減が考慮され、1枚のカーカスプライ36で構成される。図示されないが、カーカスプライ36は並列された多数のカーカスコードを含む。これらカーカスコードは赤道面と交差する。このタイヤ2のカーカス12はラジアル構造を有する。このタイヤ2では、有機繊維からなるコードがカーカスコードとして用いられる。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0040】
カーカスプライ36は、プライ本体36aと、一対の第一折り返し部36bとを含む。プライ本体36aは、第一のビード10と第二のビード10との間を架け渡す。それぞれの折り返し部36bは、プライ本体36aに連なりそれぞれのビード10で軸方向内側から外側に向かって折り返される。
【0041】
ベルト14はトレッド4の径方向内側に位置する。ベルト14はカーカス12に積層される。
図1において両矢印WRで示される長さはベルト14の軸方向幅である。軸方向幅WRはベルト14の第一の端14eから第二の端14eまでの軸方向距離である。前述の赤道面は、ベルト14の軸方向幅WRの中心においてこのベルト14と交差する。
このタイヤ2では、ベルト14の軸方向幅WRは、トレッド4の幅WTの85%以上100%以下である。
【0042】
ベルト14は、内側層38と、外側層40とを備える。内側層38はプライ本体36aの径方向外側に位置し、プライ本体36aに積層される。外側層40は内側層38の径方向外側に位置し、内側層38に積層される。
このタイヤ2では、内側層38と外側層40との間に1又は2以上の層が設けられてもよい。軽量化の観点から、ベルト14は、内側層38及び外側層40からなる2枚の層で構成されるのが好ましい。
【0043】
図1に示されるように、外側層40の端40eは内側層38の端38eの軸方向内側に位置する。外側層40は内側層38よりも狭い。外側層40の端40eから内側層38の端38eまでの長さは3mm以上10mm以下である。前述のベルト14の軸方向幅WRは、幅広の内側層38の軸方向幅で表される。内側層38の端38eがベルト14の端14eである。
【0044】
図示されないが、内側層38及び外側層40はそれぞれ、並列した多数のベルトコードを含む。これらベルトコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのベルトコードは赤道面に対して傾斜する。ベルトコードが赤道面に対してなす角度(ベルトコードの傾斜角度)は10度以上35度以下である。内側層38に含まれるベルトコード(内側ベルトコード)の傾斜の向きは、外側層40に含まれるベルトコード(外側ベルトコード)の傾斜の向きと逆向きである。内側ベルトコードの傾斜角度と、外側ベルトコードの傾斜角度とは、同じである。ベルトコードの材質はスチールである。
【0045】
バンド16は、径方向においてトレッド4とベルト14との間に位置する。バンド16はベルト14に積層される。
図示されないが、バンド16は、らせん状に巻かれたバンドコードを含む。バンドコードはトッピングゴムで覆われる。バンドコードは実質的に周方向に延びる。詳細には、バンドコードが周方向に対してなす角度は、5°以下である。バンド16はジョイントレス構造を有する。有機繊維からなるコードがバンドコードとして用いられる。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。
バンド16の端16eはベルト14の端14eの軸方向外側に位置する。ベルト14の端14eからバンド16の端16eまでの長さは3mm以上7mm以下である。バンド16はベルト14の端14eを拘束する。
【0046】
このタイヤ2のバンド16はフルバンドである。フルバンドは赤道面を挟んで相対する両端を有する。バンド16は赤道面と交差する。バンド16はベルト14全体を覆う。バンド16はベルト14全体を拘束する。このタイヤ2では、接地面の形状変化が抑えられる。
このバンド16が、赤道面を挟んで軸方向に離して配置され、ベルト14の端14eの部分を覆うように構成された一対のエッジバンドであってもよい。この場合、このバンド16はタイヤ2の軽量化に貢献する。トレッド4の剛性を高めるために、このバンド16がフルバンドと一対のエッジバンドとで構成されてもよい。軽量化と接地面の安定化との観点から、このタイヤ2のバンド16は、
図1に示されたバンド16のようにフルバンドで構成されるのが好ましい。
【0047】
インナーライナー18は、カーカス12の内側に位置する。インナーライナー18はタイヤ2の内面を構成する。インナーライナー18は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー18は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0048】
それぞれのクッション20は、軸方向において離して配置される。クッション20は、ベルト14及びバンド16の端と、カーカス12との間に位置する。クッション20は低い剛性を有する架橋ゴムからなる。このタイヤ2においてクッション20は必須の要素ではない。タイヤ2の仕様によってはこのクッション20は設けられなくてもよい。
【0049】
それぞれのインスレーション22は、カーカス12とインナーライナー18との間に位置する。インスレーション22の第一端22eaは、ベルト14の端14eの軸方向内側に位置する。インスレーション22の第二端22ebは最大幅位置PWの径方向内側に位置する。インスレーション22の第二端22ebはビード10の径方向外側に位置する。インスレーション22は接着性が考慮された架橋ゴムからなる。
このタイヤ2では、インスレーション22が設けられている部分においては、インスレーション22を介してインナーライナー18がカーカス12に接合される。第一のインスレーション22の第一端22eaと、図示されない第二のインスレーション22の第一端22eaとの間の部分、及び、インスレーション22の第二端22ebから内側部分のように、インスレーション22が設けられていない部分では、インナーライナー18は直接カーカス12に接合される。インナーライナー18全体がインスレーション22によってカーカス12に接合されてもよい。転がり抵抗の低減の観点から、
図1に示されるように、軸方向において離間して配置される一対のインスレーション22が設けられ、それぞれのインスレーション22がベルト14の端14eと最大幅位置PWとの間のゾーンに配置されるのが好ましい。
【0050】
このタイヤ2のトレッド4には溝42が刻まれる。トレッド4は溝42を有する。これにより、トレッドパターンが構成される。トレッド面24のうち溝42以外の部分は陸面44とも呼ばれる。
【0051】
図2は、トレッド4に刻まれる溝42の一例を示す。
図2はこの溝42の断面を示す。
図2に基づいて溝42の主たる構成が説明される。
【0052】
溝42は、溝口42Mを含む一対の壁面42Wと、溝底42Tを含む底面42Bとを有する。溝42の溝幅は、一対の壁面42Wである第一壁面42Wと第二壁面42Wとの間の距離、すなわち壁面間距離で表される。
図2において両矢印WGで示される長さは、溝口42Mにおける溝42の溝幅である。溝幅WGは、溝口42Mを構成する一対のエッジ42Eである第一エッジ42Eから第二エッジ42Eまでの最短距離で表される。
溝口42Mのエッジが面取りされ、溝42の溝口42Mにテーパー加工が施されている場合は、特に言及がない限り、壁面42Wの輪郭線の延長線と、陸面44の輪郭線の延長線との交点を仮想的にエッジとして、溝口42Mにおける溝幅WGが得られる。
両矢印DGで示される長さは、溝42の溝深さである。溝42の溝深さDGは、左右のエッジ42Eを結ぶ線分から溝42の溝底42Tまでの最短距離で表される。
例えば、溝42の位置、溝幅WG及び溝深さDGは、タイヤ2の仕様に応じて適宜決められる。
【0053】
図2のA部に示される溝42aは主溝である。主溝42aは溝口42Mにおいて1.5mm以上の溝幅WGを有する。主溝42aは広い溝幅を有する。主溝42aは、タイヤ2が路面と接地しても一対の壁面42Wが互いに接触することがない溝である。
本発明においては、1.5mm以上で、トレッド4の幅WTの2%を超える溝幅WGを有する溝42が主溝である。
図2のB部に示される溝42bは細溝である。細溝42bも溝口42Mにおいて1.5mm以上の溝幅WGを有する。細溝42bは、主溝42aに比べて狭い溝幅を有する。細溝42bは、タイヤ2が路面と接地すると一対の壁面42Wが互いに接触することがある溝である。
本発明においては、1.5mm以上で、トレッド4の幅WTの、2%以下の溝幅WGを有する溝42が細溝である。
図2のC部に示される溝42cはサイプである。サイプ42cは溝口42Mにおいて1.5mm未満の溝幅WGを有する。サイプ42cは細溝42bに比べてさらに狭い溝幅を有する。
本発明においては、1.5mm未満の溝幅WGを有する溝42がサイプである。
径方向においてタイプの異なる溝を組み合わせて、溝42を構成する場合は、溝口42Mを含む部分の溝に基づいて、溝42のタイプが特定される。
【0054】
図1に示されたタイヤ2の溝42は、周方向に連続して延びる溝として、周方向溝46を含む。このタイヤ2では、軸方向に並列した複数の周方向溝46がトレッド4に刻まれる。
複数の周方向溝46のうち、軸方向において最も外側に位置する周方向溝46が周方向サイプ50である。周方向サイプ50とは、周方向に連続してのびるサイプである。
複数の周方向溝46のうち、一対の周方向サイプ50の間に位置する周方向溝46が周方向主溝48である。周方向主溝48とは、周方向に連続してのびる主溝である。
複数の周方向溝46は、軸方向に並列した複数の周方向主溝48と、軸方向において最も外側に位置する一対の周方向サイプ50とを含む。
【0055】
図1に示されたタイヤ2では、4本の周方向主溝48がトレッド4に刻まれる。
4本の周方向主溝48のうち、軸方向において最も外側に位置する周方向主溝48がショルダー周方向主溝48sである。ショルダー周方向主溝48sの軸方向内側に位置する周方向主溝48がミドル周方向主溝48mである。
このタイヤ2のトレッド4には、一対のミドル周方向主溝48mと、一対のショルダー周方向主溝48sとが刻まれる。
【0056】
図1において両矢印dで示される長さは周方向主溝48の溝深さである。符号wで示される長さは周方向主溝48の溝幅である。
周方向主溝48の溝深さdは、トレッド4の厚さの70%以上95%以下であることが好ましい。溝深さdを特定するためのトレッド4の厚さには、溝42がないと仮定して得られる仮想厚さが用いられる。この仮想厚さは、溝深さdの計測位置におけるトレッドの厚さと溝深さdとの和で表される。
周方向主溝48の溝幅wは、トレッド4の幅WTの3%以上15%以下であることが好ましい。
【0057】
このタイヤ2では、軸方向に並列した複数の周方向主溝48がトレッド4に刻まれる。これにより、このトレッド4には少なくとも3本の陸部52が構成される。複数の周方向主溝48は、トレッド4を、軸方向に並列した少なくとも3本の陸部52に区分する。
【0058】
図1に示されるように、このタイヤ2のトレッド4には5本の陸部52が構成される。これら陸部52の陸面はトレッド面24に含まれる。
5本の陸部52のうち、軸方向において最も外側に位置する陸部52がショルダー陸部52sである。ショルダー陸部52sの軸方向内側に位置する陸部52がミドル陸部52mである。ミドル陸部52mの軸方向内側に位置する陸部52、すなわち、軸方向に並列した5本の陸部52のうち、中央に位置する陸部52が、センター陸部52cである。このタイヤ2では、センター陸部52cは赤道PCを含む。
このタイヤ2のトレッド4には、センター陸部52cと、一対のミドル陸部52mと、一対のショルダー陸部52sとが構成される。
【0059】
ショルダー陸部52sの軸方向幅は、ショルダー周方向主溝48sとショルダー陸部52sの陸面との境界からトレッド4の端TEまでの軸方向距離で表される。
このタイヤ2では、ショルダー陸部52sの軸方向幅の、トレッド4の幅WTに対する比率は、15%以上30%以下であることが好ましい。
センター陸部52cやミドル陸部52mのように、2本の周方向主溝48の間に位置する陸部52の軸方向幅は、陸面の軸方向幅で表される。この軸方向幅は、トレッド4に刻まれる周方向主溝48の本数、溝幅w等が考慮され適宜決められる。
【0060】
タイヤのトレッドでは、接地状態と非接地状態とが繰り返される。トレッド面は、クラウン部分が外向きに膨らむように湾曲する。非接地状態のトレッドでは、ショルダー陸部の陸面はセンター陸部の陸面よりも径方向内側に位置する。トレッドが路面と接地すると、トレッドは路面に押し付けられる。トレッドは変形する。センター陸部は径方向内向きに動き、接地面は赤道から軸方向外向きに拡がる。そして、ショルダー陸部が接地する。接地状態のトレッドは、トレッド面が逆向きに反りかえるように変形する。ショルダー陸部には圧縮歪みが発生する。
【0061】
発明者らは、ショルダー陸部に生じる圧縮歪みに着目し、検討を行った。その結果、圧縮歪みの発生を抑制できれば、WET性能を低下させることなく、転がり抵抗の低減を図れること、ショルダー陸部の特定の領域(具体的には、ショルダー周方向主溝と外側層の端との間の部分)に溝を刻むと圧縮歪みの発生を効果的に抑制できること、溝のタイプによっては刻んだ溝を起点にベルト・エッジ・ルース(BEL)やトレッド・ルース・クラッキング(TLC)のような損傷が生じる恐れがあることを発明者らは見出し、本発明を完成するに至っている。
【0062】
図3は、
図1に示されたタイヤ2の一部を示す。
図3は、トレッド部のショルダー陸部52sを示す。
このタイヤ2のショルダー陸部52sには周方向サイプ50が刻まれる。周方向サイプ50は周方向に連続してのびる。周方向サイプ50は内側陸部54と外側陸部56とにショルダー陸部52sを区分する。
図3に示されるように、周方向サイプ50は、軸方向において、ショルダー周方向主溝48sと外側層40の端40eとの間に位置する。周方向サイプ50の溝幅はショルダー周方向主溝48sの溝幅wよりも狭い。
周方向サイプ50がショルダー陸部52sの剛性に与える影響は小さい。ショルダー陸部52sは必要な剛性を有する。このタイヤ2では、コーナリングパワーの低下が抑えられる。
【0063】
図3において両矢印DYで示される長さは、ショルダー周方向主溝48sから外側層40の端40eまでの軸方向距離である。両矢印DXで示される長さは、ショルダー周方向主溝48sから周方向サイプ50までの軸方向距離である。軸方向距離DXは内側陸部54の陸面の軸方向幅である。
【0064】
前述したように、このタイヤ2では、周方向サイプ50は、軸方向において、ショルダー周方向主溝48sと外側層40の端40eとの間に位置する。特に、このタイヤ2では、ショルダー周方向主溝48sから周方向サイプ50までの軸方向距離DXの、ショルダー周方向主溝48sから外側層40の端40eまでの軸方向距離DYに対する比率(DX/DY)は10%以上95%以下である。
比率(DX/DY)が10%以上であるので、周方向サイプ50とショルダー周方向主溝48sとが干渉しあうことが抑えられる。内側陸部54は必要な剛性を有する。周方向サイプ50が圧縮歪みの発生を抑制することに効果的に貢献できる。圧縮歪みの発生が抑えられるので、このタイヤ2では転がり抵抗の低減が図れる。この観点から、この比率(DX/DY)は、35%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましい。
比率(DX/DY)が95%以下であるので、周方向サイプ50が外側層40の端40eから適切な距離をあけて配置される。周方向サイプ50と外側層40の端40eとが干渉しあうことが抑えられる。外側層40の端40eの部分に、ルースのような損傷が発生することが抑えられる。この場合においても、周方向サイプ50は、圧縮歪みの発生抑制機能を安定にしかも十分に発揮できる。圧縮歪みの発生が抑えられるので、このタイヤ2では転がり抵抗の低減が図れる。この観点から、比率(DX/DY)は90%以下が好ましく、85%以下がより好ましい。
【0065】
このタイヤ2では、ショルダー陸部52sの中でも、ショルダー周方向主溝48sと外側層40の端40eとの間の部分の特定領域に、ショルダー周方向主溝48sの溝幅よりも狭い溝幅を有する周方向サイプ50が刻まれる。これにより、圧縮歪みの発生が抑えられ、転がり抵抗の低減が図れる。
特定領域に刻まれる周方向溝46は、前述の細溝ではなく、この細溝よりもさらに狭い溝幅を有する周方向サイプ50である。周方向サイプ50は、溝幅が狭いため、他の要素と干渉しにくい。周方向サイプ50を設ける位置の自由度は、細溝よりも高い。このタイヤ2は、圧縮歪みの低減に貢献できる位置の近くに周方向サイプ50を設けることができる。言い換えれば、圧縮歪みの低減のために細溝を設けた場合に、この細溝を起点とする損傷が生じた位置に、周方向サイプ50を設けたとしても、この周方向サイプ50を起点とする損傷は生じにくい。このタイヤ2の耐久性は、圧縮歪みの低減のために細溝を設けたタイヤのそれに比べて格段に向上する。周方向サイプ50がその機能を発揮し続けるので、タイヤ2は転がり抵抗をさらに低減できる。
このタイヤ2では、転がり抵抗の低減のために、キャップ部28を構成する架橋ゴムに低発熱性を考慮する必要はない。このタイヤ2は、WET路面でのグリップ性能(以下、WET性能)を重視した架橋ゴムでキャップ部28を構成できる。
このタイヤ2は、WET性能を低下させることなく、転がり抵抗の低減を達成できる。
【0066】
図4は、
図3に示されたショルダー陸部52sの一部を示す。
図4は、周方向サイプ50が設けられている部分を示す。
【0067】
図4において両矢印WGcで示される長さは、周方向サイプ50の溝幅である。溝幅WGcは正規状態のタイヤ2において特定される。
符号αで示される長さは周方向サイプ50の溝深さである。符号βで示される長さはキャップ部28の厚さである。厚さβは、周方向サイプ50は設けられていないとして、溝深さαを示す線分に沿って計測される。キャップ部28の厚さβは、周方向サイプ50の位置において、周方向サイプ50が設けられていないと仮定して得られる、キャップ部28の厚さである。
【0068】
前述したように周方向サイプ50の溝幅WGcは、ショルダー周方向主溝48sの溝幅wよりも狭い。溝幅WGcは好ましくは1.5mm未満である。これにより、周方向サイプ50によるショルダー陸部52sの剛性への影響が抑えられる。ショルダー陸部52sは必要な剛性を有する。このタイヤ2はコーナリングパワーの低下を抑制できる。この観点から、溝幅WGcは1.4mm以下であるのが好ましく、1.3mm以下であるのがより好ましい。
周方向サイプ50が圧縮歪みの低減に効果的に貢献できる観点から、溝幅WGcは0.8mm以上であるのが好ましく、0.9mm以上であるのがより好ましく、1.0mm以上であるのがさらに好ましい。
【0069】
周方向サイプ50の溝底50Tは、キャップ部28とベース部30との境界よりも径方向外側に位置する。言い換えれば、周方向サイプ50の溝底50Tとベース部30との間にキャップ部28が位置する。溝底50Tとベース部30との間に位置するキャップ部28は、周方向サイプ50を起点とする損傷の発生を抑制する。周方向サイプ50がその機能を安定に発揮できる。このタイヤ2は、周方向サイプ50を起点とする損傷の発生リスクの低減と、転がり抵抗の低減とを図ることができる。この観点から、周方向サイプ50の溝底50Tは、キャップ部28とベース部30との境界よりも径方向外側に位置するのが好ましい。
【0070】
周方向サイプ50の溝深さαの、キャップ部28の厚さβに対する比率(α/β)は、40%以上95%以下であるのが好ましい。
比率(α/β)が40%以上に設定されることにより、周方向サイプ50が圧縮歪みの発生を抑制することに効果的に貢献できる。圧縮歪みの発生が抑制されるので、このタイヤ2は転がり抵抗の低減を図ることができる。この観点から、比率(α/β)は40%以上であるのが好ましく、60%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのがさらに好ましい。
比率(α/β)が95%以下に設定されることにより、キャップ部28が周方向サイプ50を起点とする損傷の発生リスクの低減に貢献できる。損傷の発生リスクが低減されるので、周方向サイプ50がその機能を安定に発揮できる。このタイヤ2は、周方向サイプ50を起点とする損傷の発生リスクの低減と、転がり抵抗の低減とを図ることができる。この観点から、比率(α/β)は90%以下であるのがより好ましい。
【0071】
ショルダー陸部52sが路面に押し付けられると、周方向サイプ50の溝底50Tには歪みが生じる。この歪みは、転がり抵抗の増大因子として作用する恐れがある。その場合、周方向サイプ50が有する圧縮歪みの発生抑制機能によってもたらされる転がり抵抗の低減効果の一部が溝底50Tに生じる歪みによって相殺される。
【0072】
このタイヤ2では、例えば、
図4に示されるように、周方向サイプ50の径方向内側にはベース部30が位置する。前述したように、ベース部30の損失正接LTbはキャップ部28の損失正接LTcよりも低い。
このタイヤ2では、周方向サイプ50の径方向内側に位置するベース部30が、周方向サイプ50の溝底50Tに生じる歪みを起因とする発熱を抑制する。このタイヤ2は、周方向サイプ50が有する圧縮歪みの発生抑制機能によってもたらされる転がり抵抗の低減効果を十分に発揮できる。
周方向サイプ50の溝底50Tがベース部30で構成されてもよい。しかしベース部30はキャップ部28に比べて脆い。周方向サイプ50の溝底50Tに歪が集中すると、この溝底50Tを起点とする損傷が発生する恐れがある。周方向サイプ50の溝底50Tでの損傷リスクを低減できる観点から、周方向サイプ50の溝底50Tとベース部30との間にはキャップ部28が配置されているのが好ましい。
【0073】
図4において両矢印γで示される長さは、周方向サイプ50の溝底50Tにおけるベース部30の厚さである。ベース部30の厚さγは、周方向サイプ50の溝深さαを示す線分に沿って計測される。
【0074】
このタイヤ2では、周方向サイプ50の溝底50Tにおけるベース部30の厚さγの、赤道面に沿って計測されるベース部30の厚さBの比率(γ/B)は40%以上80%以下であるのが好ましい。
比率(γ/B)が40%以上に設定されることにより、周方向サイプ50の径方向内側に位置するベース部30が、周方向サイプ50の溝底50Tに生じる歪みを起因とする発熱を抑制する。このタイヤ2は、周方向サイプ50が有する圧縮歪みの発生抑制機能によってもたらされる転がり抵抗の低減効果を十分に発揮できる。この観点から、比率(γ/B)は50%以上であるのがより好ましい。
比率(γ/B)が80%以下に設定されることにより、このタイヤ2は、周方向サイプ50の溝底50Tでの損傷リスクを低減できる。この観点から、比率(γ/B)は70%以下であるのがより好ましい。
【0075】
図5は、
図1に示されたタイヤ2の一部を示す。
図5はトレッド部の一部を示す。
図5に示されるように、ベース部30の端30eは内側層38の端38eの軸方向内側に位置する。ベース部30の端30eの位置は、軸方向において、外側層40の端40eの位置とほぼ一致する。
図5において両矢印WBで示される長さはベース部30の軸方向幅である。この軸方向幅WBは、ベース部30の第一の端30eから第二の端30eまでの軸方向距離である。両矢印WSで示される長さは外側層40の軸方向幅である。この軸方向幅WSは、外側層40の第一の端40eから第二の端40eまでの軸方向距離である。
【0076】
走行中のタイヤでは、ショルダー陸部の部分は活発に動く。そのため、この部分には、転がり抵抗の増大因子である、様々な歪みが発生する。ベルトの端の部分に生じる歪みは、ベルト・エッジ・ルース(BEL)等の損傷発生の一因ともなる。
低発熱性の架橋ゴムからなるベース部のボリュームを確保し、転がり抵抗の低減を図るために、従来タイヤでは、ベース部の端はバンドの端の軸方向外側に配置され、ベルト及びバンド全体をベース部が覆うように、トレッドは構成される。
しかし低発熱性の架橋ゴムの強度は低い。そのため、前述した構成を有する従来のトレッドでは、BEL等の損傷が発生するリスクの存在は否めない。転がり抵抗の低減効果を、タイヤが安定して発揮し続けることができるよう、損傷リスクの低減を図れる技術の確立も求められている。
【0077】
このタイヤ2では、周方向サイプ50をショルダー陸部52sの特定領域に刻むことで、転がり抵抗の増大因子である圧縮歪みの発生が抑制される。そのため、ベース部30の端30eが内側層38の端38eの軸方向内側に位置するようにトレッド4を構成しても、タイヤ2の転がり抵抗を低減できる。ショルダー部分をキャップ部28のみで構成できるので、BEL等の損傷の発生リスクの低減が図れる。このタイヤ2は、転がり抵抗の低減効果を安定して発揮し続けることができる。このタイヤ2は車両の燃費性能の向上に貢献できる。WET性能を重視した架橋ゴムでキャップ部28を構成できるので、このタイヤ2は、良好なWET性能も発揮し続けることができる。この観点から、このタイヤ2では、ベース部30の端30eは内側層38の端38eの軸方向内側に位置するのが好ましい。
【0078】
損傷発生のリスク低減の観点から、ベース部30の端30eの位置は、軸方向において、外側層40の端40eの位置とほぼ一致するのが好ましい。具体的には、ベース部30の軸方向幅WBの、外側層40の軸方向幅WSに対する比率(WB/WS)は、95%以上105%以下であることが好ましい。
比率(WB/WS)が95%以上に設定されることにより、トレッド4に占めるベース部30のボリュームが高まる。このトレッド4は転がり抵抗の低減に貢献できる。この観点から、この比率(WB/WS)は98%以上であるのがより好ましい。
比率(WB/WS)が105%以下に設定されることにより、ベルト14及びバンド16の端から十分に離してベース部30が配置される。このベース部30の配置は損傷の発生リスクの低減に貢献できる。この観点から、この比率(WB/WS)は102%以下であるのがより好ましい。
【0079】
図6は周方向サイプ50の変形例を示す。前述の周方向サイプ50は深さ方向及び長さ方向のそれぞれにストレートにのびるサイプ(以下、ストレートサイプ50S)である。
図6に示された周方向サイプ50が、
図6に示されるように、直線深さ方向及び長さ方向のそれぞれにジグザグにのびるサイプ(以下、ジグザグサイプ50Z)であってもよい。
ジグザグサイプ50Zの壁面は、凹凸のある三次元形状を有する。ジグザグサイプ50Zは、ミウラ折り(三次元)サイプとも呼ばれる。言い換えれば、ジグザグサイプ50Zは、ミウラ折り構造のブレードによって形づけられる。
走行中のタイヤ2において、ジグザグサイプ50Zの壁面同士が接触し、互いに支え合う。壁面が三次元形状を有するので、平面からなる壁面を有するサイプ、すなわちストレートサイプ50Sに比べて、壁面同士が効果的に支え合う。このジグザグサイプ50Zは、見かけ上、ショルダー陸部52sの剛性を高める。ショルダー陸部52sの変形が効果的に抑制されるので、このタイヤ2は圧縮歪みの低減を図ることができる。このタイヤ2は、コーナリングパワーの増大も図ることができる。このような観点から、周方向サイプ50は、その長さ方向及び深さ方向のそれぞれにジグザグにのびるのが好ましい。
【0080】
周方向サイプ50が、その長さ方向及び深さ方向のそれぞれにジグザグにのびる場合、
周方向サイプ50が軸方向においてショルダー周方向主溝48sと外側層40の端40eとの間に位置し、周方向サイプ50の溝幅WGcが0.8mm以上1.5mm未満であり、そして周方向サイプ50の溝底50Tが、キャップ部28とベース部30との境界よりも径方向外側に位置することで、周方向サイプ50が、タイヤ2のWET性能を低下させることなく、転がり抵抗を低減させることに効果的に貢献できる。
【0081】
ジグザグサイプ50Zの深さ方向の折り回数は3回以上8回以下であるのが好ましい。これにより、壁面同士が効果的に支え合うことができ、ショルダー陸部52sはその剛性を効果的に高めることができる。ショルダー陸部52sの変形が効果的に抑制されるので、このタイヤ2は圧縮歪みの低減を図ることができる。この観点から、折り回数は4回以上7回以下であるのがより好ましい。なお、
図6に示されたジグザグサイプ50Zの深さ方向の折り回数は4回である。
なお、ジグザグサイプ50Zの長さ方向の折り回数は、ジグザグサイプ50Zの長さに応じて適宜決められる。
【0082】
以上説明したように、本発明によれば、WET性能を低下させることなく、転がり抵抗の低減を達成できる、タイヤ2が得られる。特に、本発明は、ショルダー陸部52sの軸方向幅の、トレッド4の幅WTに対する比率が15%以上30%以下である、乗用車用タイヤ2において、顕著な効果を奏する。
【実施例0083】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0084】
[実施例1]
図1に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤの呼び=205/55R16 91V)を得た。
【0085】
ショルダー陸部の軸方向幅の、トレッドの幅WTに対する比率は、17%であった。
ショルダー周方向主溝の溝幅wは、トレッドの幅WTの5%であった。
周方向サイプはストレートサイプであった。このことが表1のサイプの欄に「S」で示されている。
周方向サイプの溝幅WGcは1.2mmであった。
ベース部の損失正接LTbは0.10であった。キャップ部の損失正接LTcは0.27であった。
ショルダー周方向主溝から周方向サイプまでの軸方向距離DXの、ショルダー周方向主溝から外側層の端までの軸方向距離DYに対する比率(DX/DY)は80%であった。
周方向サイプの溝深さαの、キャップ部の厚さβに対する比率(α/β)は90%であった。
【0086】
[比較例1]
ショルダー陸部に周方向サイプを設けなかった他は実施例1と同様にして、比較例1のタイヤを得た。
【0087】
[比較例2]
比較例1のタイヤにおけるキャップ部を、低発熱性を考慮した架橋ゴムで構成されたキャップ部に置き換えた他は比較例1と同様にして、比較例2のタイヤを得た。
【0088】
[比較例3]
周方向サイプを、2.0mmの溝幅を有する周方向細溝に置き換えた他は実施例1と同様にして、比較例3のタイヤを得た。
【0089】
[実施例2]
図6に示されるように周方向サイプをジグザグサイプとした他は実施例1と同様にして、実施例2のタイヤを得た。周方向サイプをジグザグサイプとしたことが、表1のサイプの欄に「Z」で示されている。ジグザグサイプの深さ方向の折り回数は4回であった。
【0090】
[転がり抵抗]
転がり抵抗試験機を用い、試作タイヤが下記の条件でドラム上を速度80km/hで走行するときの転がり抵抗係数(RRC)を測定した。その結果が比較例1を100とした指数で下記表1の「RRC」の欄に示されている。数値が大きいほど、タイヤの転がり抵抗は低い。
リム:16×6.5J
内圧:210kPa
縦荷重:4.82kN
【0091】
[WET性能]
試作タイヤをリム(サイズ=16×6.5J)に組み、空気を充填してタイヤの内圧を250kPaに調整した。タイヤを試験車両(乗用車)に装着した。ウェット路面(水膜厚=1.4mm)のテストコースで試験車両を走行させて、ラップタイムを計測した。その結果が比較例1を100とした指数で下記表1の「WET」の欄に示されている。数値が大きいほど、WET性能に優れる。
【0092】
[耐久性能]
試作タイヤをリム(サイズ=16×6.5J)に組み、空気を充填して内圧を250kPaとした。このタイヤをドラム式走行試験機に装着した。7.33kNの縦荷重をタイヤに負荷し、このタイヤを、100km/hの速度で、ドラム(半径=1.7m)の上で走行させた。20000km走行の時点で、タイヤに損傷(BEL及びTLC)の発生が確認されないことを合格基準とした。合格基準を満たした場合を「G」、合格基準を満たさなかった場合を「NG」として、その結果が下記表1の「耐久性能」の欄に示されている。
【0093】
[コーナリングパワー]
試作タイヤをリム(サイズ=16×6.5J)に組み、空気を充填して内圧を250kPaとした。このタイヤをフラットベルト式走行試験機に装着した。キャンバー角は0度に設定された。4.3kNの縦荷重をタイヤに負荷し、スリップ角を1.0度として、10km/hの速度で、このタイヤをベルト上で走行させ、コーナリングパワーを計測した。その結果が比較例1を100とした指数で下記表1の「CP」の欄に示されている。数値が大きいほど、コーナリングパワーは大きく、操縦安定性に優れる。この評価では、指数が97以上であれば、コーナリングパワーの低下は小さく抑制されているとして許容される。
【0094】
[高速耐久性能]
試作タイヤをリム(サイズ=16×6.5J)に組み、空気を充填して内圧を230kPaとした。このタイヤをドラム式走行試験機にネガティブキャンバー角を付して装着した。キャンバー角は-3°に設定された。4.48kNの縦荷重をタイヤに負荷し、このタイヤを、270km/hの速度で、ドラム(半径=1.7m)の上で走行させた。タイヤが破壊するまでの走行時間を測定した。その結果が比較例1を100とした指数で下記表1の「H/S」の欄に示されている。数値が大きいほど、高速耐久性能に優れる。この評価では、指数が97以上であれば、高速耐久性能の低下は小さく抑制されているとして許容される。
【0095】
【0096】
表1に示されているように、実施例では、WET性能を低下させることなく、転がり抵抗の低減が達成されるとともに、転がり抵抗低減効果が持続的に発揮されることが確認されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。