(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119559
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
H03H9/25 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026551
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功一
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎二
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA24
5J097BB15
5J097EE06
5J097EE08
5J097EE10
5J097FF04
5J097FF05
5J097GG03
5J097GG04
5J097GG07
5J097KK01
5J097KK05
5J097KK09
(57)【要約】
【課題】空隙を有する中間層の支持基板からの剥がれを抑制することが可能な弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波デバイスは、支持基板10と、支持基板上に設けられる圧電層14と、圧電層上に設けられ、複数の電極指18を備える少なくとも一対の櫛型電極20と、支持基板と圧電層との間に設けられる第1中間層28と、支持基板と第1中間層との間に設けられ、第1中間層内の空隙率より空隙率が高い第2中間層11と、支持基板と第2中間層との間に設けられ、第2中間層の空隙率より空隙率が低い第3中間層15とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられる圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられる第1中間層と、
前記支持基板と前記第1中間層との間に設けられ、前記第1中間層内の空隙率より空隙率が高い第2中間層と、
前記支持基板と前記第2中間層との間に設けられ、前記第2中間層の空隙率より空隙率が低い第3中間層と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記第1中間層の空隙率は3%以下であり、
前記第2中間層の空隙率は5%以上であり、
前記第3中間層の空隙率は3%以下である請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられる圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられる第1中間層と、
前記支持基板と前記第1中間層との間に設けられ、前記第1中間層のQ値よりQ値が小さい第2中間層と、
前記支持基板と前記第2中間層との間に設けられ、前記第2中間層のQ値よりQ値が大きい第3中間層と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項4】
前記第2中間層と前記第3中間層とは、同じ材料からなる請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記第3中間層の厚さは、15nm以上かつ1500nm以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記第3中間層は、前記第2中間層と前記第1中間層との間と、前記第2中間層の側面と、に設けられる請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記第1中間層は、酸化シリコン膜である第4中間層と、前記酸化シリコン膜と前記第2中間層との間に設けられ、酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜、窒化酸化アルミウム膜、窒化シリコン膜または炭化シリコン膜である第5中間層と、を備える請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記圧電層は、単結晶タンタル酸リチウム基板または単結晶ニオブ酸リチウム基板である請求項7に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記圧電層の厚さは、前記複数の電極指の平均ピッチの2倍以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを備えるフィルタ。
【請求項11】
請求項10に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えば一対の櫛型電極を有する弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の通信機器に用いられる弾性波共振器として、弾性表面波共振器が知られている。弾性表面波共振器を形成する圧電層を支持基板に接合することが知られている。支持基板と圧電層との間に空隙を有する減衰層を設けることが知られている(例えば特許文献1)。支持基板と圧電層との間にQ値の低い中間層を設けることが知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2020-510354号公報
【特許文献2】特開2022-025374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空隙を有する減衰層等の中間層を支持基板に接するように設けると、中間層が支持基板から剥がれることがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、空隙を有する中間層の支持基板からの剥がれを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられる圧電層と、前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられる第1中間層と、前記支持基板と前記第1中間層との間に設けられ、前記第1中間層内の空隙率より空隙率が高い第2中間層と、前記支持基板と前記第2中間層との間に設けられ、前記第2中間層の空隙率より空隙率が低い第3中間層と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記第1中間層の空隙率は3%以下であり、前記第2中間層の空隙率は5%以上であり、前記第3中間層の空隙率は3%以下である構成とすることができる。
【0008】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられる圧電層と、前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられる第1中間層と、前記支持基板と前記第1中間層との間に設けられ、前記第1中間層のQ値よりQ値が小さい第2中間層と、前記支持基板と前記第2中間層との間に設けられ、前記第2中間層のQ値よりQ値が大きい第3中間層と、を備える弾性波デバイスである。
【0009】
上記構成において、前記第2中間層と前記第3中間層とは、同じ材料からなる構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第3中間層の厚さは、15nm以上かつ1500nm以下である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第3中間層は、前記第2中間層と前記第1中間層との間と、前記第2中間層の側面と、に設けられる構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第1中間層は、酸化シリコン膜である第4中間層と、前記酸化シリコン膜と前記第2中間層との間に設けられ、酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜、窒化酸化アルミウム膜、窒化シリコン膜または炭化シリコン膜である第5中間層と、を備える構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記圧電層は、単結晶タンタル酸リチウム基板または単結晶ニオブ酸リチウム基板である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記圧電層の厚さは、前記複数の電極指の平均ピッチの2倍以下である構成とすることができる。
【0015】
本発明は、上記弾性波デバイスを備えるフィルタである。
【0016】
本発明は、上記フィルタを備えるマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、空隙を有する中間層の支持基板からの剥がれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)および
図1(b)は、実施例1における弾性波共振器の平面図および断面図である。
【
図2】
図2(a)から
図2(d)は、実施例1に係る弾性波共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実験1における中間層11の断面模式図である。
【
図4】
図4は、実施例1における中間層11の密度に対するスプリアス応答の反射率を示す図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、実験2における厚さT5に対するメインΔYおよび反射係数を示す図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、それぞれ実施例1および実施例1の変形例1におけるZに対する空隙率を示す図である。
【
図7】
図7は、実施例2に係る弾性波共振器の断面図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(e)は、実施例2に係る弾性波共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)は、実施例2に係る弾性波共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図10】
図10(a)は、実施例3に係るフィルタの回路図、
図10(b)は、実施例3の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例0020】
実施例1では弾性波デバイスが弾性波共振器を有する例を説明する。
図1(a)および
図1(b)は、実施例1における弾性波共振器の平面図および断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、支持基板および圧電層の積層方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、圧電層の結晶方位のX軸方向およびY軸方向とは必ずしも対応しない。圧電層が回転YカットX伝搬基板の場合、X方向は結晶方位のX軸方向となる。
【0021】
図1(a)および
図1(b)に示すように、支持基板10上に圧電層14が設けられている。支持基板10と圧電層14との間に中間層13(第4中間層)が設けられている。中間層13と支持基板10との間に中間層12(第5中間層)が設けられている。中間層12と13とは中間層28(第1中間層)を形成する。中間層28と支持基板10との間に中間層11(第2中間層)が設けられている。支持基板10と中間層11との間に中間層15(第3中間層)が設けられている。中間層15、11、12、13および圧電層14の厚さをそれぞれT5、T1、T2、T3、およびT4とする。
【0022】
圧電層14上に弾性波共振器26が設けられている。弾性波共振器26はIDT22および反射器24を有する。反射器24はIDT22のX方向の両側に設けられている。IDT22および反射器24は、圧電層14上の金属膜16により形成される。
【0023】
IDT22は、対向する一対の櫛型電極20を備える。櫛型電極20は、複数の電極指18と、複数の電極指18が接続されたバスバー19と、を備える。一対の櫛型電極20の電極指18が交差する領域が交差領域25である。交差領域25の長さが開口長である。一対の櫛型電極20は、交差領域25の少なくとも一部において電極指18が1本ごとに交互に設けられている。交差領域25において複数の電極指18が主に励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極20のうち一方の櫛型電極20の電極指18のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。複数の電極指18のピッチ(電極指18の中心間のピッチ)をDとすると、一方の櫛型電極20の電極指18のピッチは電極指18の2本分のピッチDとなる。反射器24は、IDT22の電極指18が励振した弾性波(弾性表面波)を反射する。これにより弾性波はIDT22の交差領域25内に閉じ込められる。
【0024】
圧電層14は、例えば単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO3)層、単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO3)層、または単結晶水晶層であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム層である。圧電層14の厚さT4は、スプリアスおよび損失を抑制する観点から1λ以下が好ましく、0.5λ以下がより好ましい。圧電層14が薄くなりすぎると弾性波が励振され難くなることから、厚さT4は、0.1λ以上が好ましい。なお、λは2×Dであり、DはIDT22のX方向における平均ピッチである。平均ピッチDは、IDT22のX方向における幅を電極指18の本数で除することにより算出できる。
【0025】
支持基板10は、例えばサファイア基板、アルミナ基板、シリコン基板、スピネル基板、水晶基板、石英基板または炭化シリコン基板である。サファイア基板は単結晶Al2O3基板であり、アルミナ基板は多結晶または非晶質Al2O3基板であり、シリコン基板は単結晶または多結晶のシリコン基板であり、スピネル基板は多結晶または非晶質MgAl2O4基板であり、水晶基板は単結晶SiO2基板であり、石英基板は多結晶または非晶質SiO2基板であり、炭化シリコン基板は多結晶または単結晶のSiC基板である。支持基板10のX方向の線膨張係数は圧電層14のX方向の線膨張係数より小さい。これにより、弾性波共振器の周波数温度依存性を小さくできる。
【0026】
中間層13は、例えば温度補償膜であり、圧電層14の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する絶縁層である。例えば圧電層14の弾性定数の温度係数は負であり、中間層13の弾性定数の温度係数は正である。中間層13は、例えば無添加またはフッ素等の添加元素を含む酸化シリコン(SiO2)層であり、例えば多結晶または非晶質である。これにより、弾性波共振器の周波数温度係数を小さくできる。中間層13が酸化シリコン層の場合、中間層13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より遅くなる。
【0027】
中間層13が温度補償の機能を有するためにはメイン応答の弾性波のエネルギーが中間層13内にある程度存在することが求められる。弾性表面波のエネルギーが集中する範囲は弾性表面波の種類に依存するものの、典型的には弾性表面波のエネルギーは圧電層14の上面から2λ(λは弾性波の波長)の範囲に集中し、特に圧電層14の上面からλの範囲に集中する。そこで、中間層13の下面から圧電層14の上面までの距離(厚さT3+T4)は、2λ以下が好ましく、1λ以下がより好ましい。
【0028】
中間層12を伝搬するバルク波の音速は、中間層13および圧電層14を伝搬するバルク波の音速より速い。これにより、圧電層14および中間層13内にメイン応答の弾性波のエネルギーが閉じ込められる。一方、メイン応答の周波数より高い周波数を有する高周波スプリアス応答の弾性波は、中間層13から中間層12に通過しやすい。中間層12を通過するスプリアス応答の不要な弾性波は、中間層12において減衰する。このため、支持基板10の上面において反射されたスプリアス応答の弾性波がIDT22に到達することにより生じるスプリアスを抑制できる。中間層12は、例えば多結晶または非晶質であり、酸化アルミニウム層、窒化シリコン層、窒化アルミニウム層、窒化酸化アルミニウム膜または炭化シリコン層等の絶縁層である。メイン応答の弾性波を中間層13および圧電層14内に閉じ込める観点から、中間層12の厚さT2は、中間層13の厚さT3より厚く、例えば0.3λ以上が好ましく、1λ以上が好ましい。特性を向上させる観点から厚さT1および厚さT2は各々10λ以下が好ましい。
【0029】
中間層11は、スプリアス応答の不要な弾性波を減衰させる減衰層である。これにより、支持基板10の上面において反射されたスプリアス応答の弾性波がIDT22に到達することにより生じるスプリアスを抑制できる。中間層11は孔等の空隙を有する層であり、例えば多孔質層であり、例えば密度の低い層である。これにより、中間層11の機械振動のQ値が低い材料となる。中間層11は、中間層12の材料と同じでもよいし、異なっていてもよい。中間層11は、例えば酸化アルミニウム膜、窒化シリコン膜、窒化アルミニウム膜、窒化酸化アルミニウム膜または炭化シリコン膜等の無機絶縁体、樹脂等の有機絶縁体、または導電体である。中間層11のバルク波の音速は、中間層12のバルク波の音速より速くてもよいし遅くてもよい。中間層11の厚さT1は、例えば0.2λ以上が好ましく、0.5λ以上がより好ましい。中間層11の厚さT1は、例えば10λ以下である。
【0030】
中間層15は、中間層11より緻密であり、空隙率(porosity)の小さな層である。例えば、中間層15は、ほとんど孔等の空隙を有しておらず空隙率はほぼ0%である。中間層15は、例えば多結晶または非晶質であり、酸化アルミニウム層、窒化シリコン層、酸化シリコン膜、窒化アルミニウム層、窒化酸化アルミニウム膜または炭化シリコン層である。
【0031】
金属膜16は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)またはモリブデン(Mo)を主成分とする膜である。電極指18と圧電層14との間にチタン(Ti)膜、クロム(Cr)膜または窒化チタン(TiN)膜等の密着膜が設けられていてもよい。密着膜は電極指18より薄い。電極指18を覆うように絶縁層が設けられていてもよい。絶縁層は保護膜または温度補償膜として機能する。
【0032】
弾性波の波長λは例えば1μmから6μmである。2本の電極指18を1対としたときの対数は例えば20対から300対である。IDT22のデュティ比は、(電極指18の太さ)/(電極指18のピッチ)であり、例えば30%から70%である。IDT22の開口長は例えば10λから50λである。
【0033】
(実施例1の製造方法)
図2(a)から
図2(d)は、実施例1に係る弾性波共振器の製造方法を示す断面図である。
図2(a)に示すように、支持基板10上に中間層15および11を成膜する。中間層15および11の成膜には、例えばスパッタリング法を用いる。中間層15と11とは、同じ成膜装置を用いて成膜してもよいし、異なる成膜装置を用いて成膜してもよい。中間層15と11とを同じ成膜装置を用い成膜する場合、中間層15と11とで成膜条件を異ならせることで、中間層15には孔がほとんど形成せず、中間層11に孔を形成することができる。例えば、中間層15および11が酸化アルミニウムであり、中間層15および11をスパッタリング法を用い形成する場合、中間層15を成膜するときのパワー(DC(Direct Current)パワーおよび/またはRF(Radio Frequency)パワー)に対し、中間層11を成膜するときのパワーを低くすることで、中間層15を緻密で孔のほとんどない層とし、中間層11を、孔等を有する層とすることができる。
【0034】
図2(b)に示すように、中間層11上に中間層28として、中間層12および13を成膜する。中間層12および13の成膜には例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いる。中間層11と12とは、同じ成膜装置を用いて成膜してもよいし、異なる成膜装置を用いて成膜してもよい。中間層11と12とを同じ成膜装置を用い成膜する場合、中間層11と12とで成膜条件を異ならせることで、中間層11に孔を形成し、中間層12に孔を形成しないことができる。中間層15、11および12を同じ装置において成膜することで、各層成膜後に大気に暴露されないため各層の密着性を向上できる。
【0035】
図2(c)に示すように、中間層28上に圧電層14を貼り付ける。圧電層14の貼り付けには、例えば表面活性化法を用いる。中間層28と圧電層14との間には接合層が形成されていてもよい。
【0036】
図2(d)のように、圧電層14の上面を例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用い研磨することで、圧電層14を薄膜化する。その後、
図1(a)および
図1(b)のように、圧電層14上に金属膜16を用い弾性波共振器26を形成する。
【0037】
(実験1)
中間層11の密度を変えたサンプルを作成し高周波スプリアスを測定した。サンプルの作製条件は以下である。
波長λ(2×D):2μm
金属膜16:アルミニウム膜
圧電層14:厚さT4が0.3λの42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板
中間層13:厚さT3が0.2λの酸化シリコン層
中間層12:厚さT2が3λかつ密度が3.2g/cm3の酸化アルミニウム層
中間層11:厚さが1λの酸化アルミニウム層
中間層15:厚さが30nmかつ密度が3.2g/cm3以上の酸化アルミニウム層
支持基板10:密度が4.0g/cm3のサファイア基板
中間層15、11および12は、同じCVD装置内において成膜した。
中間層11と同じ成膜条件を用いて成膜した酸化アルミニウム膜を用い、中間層11の密度を測定した。
【0038】
図3は、実験1における中間層11の断面模式図である。
図3は、中間層11と同じ成膜条件を用い密度が2.85g/cm
3の酸化アルミニウム層を形成したときのTEM(Transmission Electron Microscope)画像を模式した図である。
図3に示すように、酸化アルミニウム30内に孔32が設けられている、孔32の径は数nmから数100nmである。中間層15および12の成膜条件を用い酸化アルミニウム層を形成したときのTEM画像では、孔32はほとんど観測されない。
【0039】
図4は、実施例1における中間層11の密度に対するスプリアス応答の反射率を示す図である。ドットは測定点であり、直線は近似直線である。弾性波共振器の反射係数S11をスミスチャートで表したとき、スプリアス応答が生じると、S11がスミスチャートの外周からスミスチャートの中心の方に円を描く。縦軸の反射係数は、このスプリアス応答に起因する円の最も中心に近い点を、スミスチャートの外周の動径が1とした極座標で表したときの動径で表した指標である。
図4の反射係数が1に近いことは、スプリアス応答が小さいことに対応する。
【0040】
図4に示すように、中間層11の密度が低くなるとスプリアス応答が小さくなる。このように、中間層11の密度は、中間層11の空隙率に相関する。中間層11が緻密であり、空隙率がほぼ0%のとき、酸化アルミニウムの密度は約3.2g/cm
3である。中間層11の空隙率が大きくなると、密度が小さくなる。例えば、空隙率がほぼ0%の中間層15および12に対し密度が10%小さい中間層11では、空隙率は5%から10%程度である。
【0041】
中間層15を設けずに、支持基板10に直接中間層11を成膜すると、中間層11が支持基板10から剥がれてしまう。発明者らの実験によれば、密度が3.0g/cm3以下の中間層11を成膜すると、中間層11が支持基板10から剥がれることがある。これは、中間層11に孔32が設けられているため、中間層11と支持基板10との密着性が低下したためと考えられる。
【0042】
(実験2)
中間層15の厚さT5を変えたサンプルを作成した。中間層11の密度は2.85g/cm3である。
【0043】
まず、中間層15の厚さT5を0nm、15nm、50nmおよび300nmとし、
図2(b)のように中間層15、11、12および13を成膜した後に膜剥がれが発生するか確認した。その結果、厚さT5が0nmのサンプル(すなわち、中間層15を成膜しないサンプル)では、膜剥がれが発生した。一方、厚さT5が15nm、50nmおよび300nmのサンプルでは、膜剥がれが発生しなかった。
【0044】
次に、中間層15の厚さT5を0nm、750nmおよび1500nmとし、弾性波共振器26を作製した。
図5(a)および
図5(b)は、実験2における厚さT5に対するメインΔYおよび反射係数を示す図である。メインΔYは、共振周波数および反共振周波数におけるアドミッタンスの絶対値を任意単位(arbitrary unit)で示し、メインΔYが大きいことはメイン応答の特性がよいことを示している。反射係数はスプリアス応答の反射率であり、
図3の反射係数と同じ指標である。メインΔYおよび反射係数は、作製したウエハ内の平均値を示している。
【0045】
図5(a)に示すように、厚さT5が0μmに比べ厚さT5が750nmおよび1500nmでは、メインΔYが大きい。厚さT5が0μmでは、メインΔYが小さいのは、ウエハ内に中間層11が支持基板10から剥がれた箇所があるためと考えられる。厚さT5が750nmおよび1500nmでは、メインΔYはほぼ同じである。厚さT5を1500nmとしてもメインΔYの劣化はほとんどない。
【0046】
図5(b)に示すように、スプリアス応答の反射係数は、
図4の密度が3.0g/cm
3以下の反射係数とほぼ同じであり、中間層15の厚さT5によらずほぼ一定である。厚さT5が大きくなると反射係数は多少改善しているようにも見える。
図5(a)および
図5(b)に示すように中間層15の厚さT5は1500nmとしても、特性の劣化およびスプリアス応答の抑制効果の劣化はない。
【0047】
実施例1によれば、中間層11の空隙率は中間層12の空隙率より高い。これにより、圧電層14から中間層28を通過し、支持基板10において反射し、IDT22に至るスプリアス応答の弾性波を減衰させることができる。しかし、中間層11が支持基板10に接すると、中間層11と支持基板10との密着性が悪化し、中間層11が支持基板10から剥離しやすくなる。そこで、支持基板10と中間層11との間に、中間層11の空隙率より低い空隙率を有する中間層15を設ける。これにより、中間層11が支持基板10から剥離しにくくなる。
【0048】
圧電層14に近い中間層28の空隙率が高いと、メイン応答の弾性波が減衰し、メイン応答の特性が劣化する可能性がある。よって、中間層28の空隙率は、3%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。中間層15の空隙率が高いと、中間層15が支持基板10から剥がれやすくなる。この観点から、中間層15の空隙率は、3%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。スプリアス応答の弾性波を減衰する観点から、中間層11の空隙率は、5%以上が好ましく、7%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。中間層11の空隙率が高すぎると、中間層15の機械的強度が低下する。この観点から、中間層11の減衰率は、50%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。
【0049】
機械振動のQ値が低くなると、弾性波の減衰係数が大きくなり、弾性波が減衰しやすくなる。よって、中間層11のQ値は中間層28のQ値より低く、中間層15のQ値は中間層11のQ値より高い。中間層11のQ値は中間層15および12のQ値の0.8倍が好ましく、0.5倍以下がより好ましい。
【0050】
中間層11と15とを同じ材料からなる層とすることで、
図2(a)のように、中間層11と15とを同じ成膜装置内において成膜できる。よって、中間層15の表面が大気に露出しないため、中間層11と15との密着性を向上できる。中間層11と15とが同じ材料からなる場合、中間層11の密度は中間層15の密度の0.95倍以下が好ましく、0.93倍以下がより好ましく、0.8倍以上が好ましい。
【0051】
中間層11と12とを同じ材料からなる層とすることで、中間層11と12とを同じ成膜装置内において成膜できる。よって、中間層11の表面が大気に露出しないため、中間層11と12との密着性を向上できる。中間層11と12とが同じ材料からなる場合、中間層11の密度は中間層12の密度の0.95倍以下が好ましく、0.93倍以下がより好ましく、0.8倍以上が好ましい。
【0052】
中間層15が支持基板10から剥がれないようにする観点から、中間層15の厚さT5は、15nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。特性を劣化させない観点から、中間層15の厚さT5は、1500nm以下が好ましく、1000nm以下がより好ましい。
【0053】
スプリアス応答の弾性波を減衰させる観点から、中間層11の厚さT1は、電極指18の平均ピッチDの0.4倍(0.2λ)以上が好ましく、1.0倍(0.5λ)以上がより好ましい。機械的強度の低下を抑制する観点から、中間層11の厚さT1は、電極指18の平均ピッチDの10倍(5λ)以下が好ましく、5倍以下(2.5λ)がより好ましい。
【0054】
中間層13を、酸化シリコン膜とし、中間層12を酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜、窒化酸化アルミウム膜、窒化シリコン膜または炭化シリコン膜とする。これにより、中間層13が温度補償膜として機能し、中間層12は、メイン応答の弾性波を圧電層14および中間層13に閉じ込め、かつスプリアス応答の弾性波を減衰させる境界層として機能する。なお、酸化シリコン膜は、温度補償膜として機能する膜であり、フッ素等の不純物を含んでもよい。酸化シリコン膜における酸化シリコンの含有率は50モル%以上であり、80モル%以上であり、90モル%以上である。酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜、窒化酸化アルミウム膜、窒化シリコン膜および炭化シリコン膜におけるそれぞれ酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化酸化アルミウム、窒化シリコンおよび炭化シリコンの含有率は、例えば90モル%以上である。
【0055】
圧電層14は、単結晶タンタル酸リチウム基板または単結晶ニオブ酸リチウム基板である。この場合、特に、スプリアス応答の弾性波が問題となる。よって、中間層11および15を設けることが好ましい。
【0056】
メイン応答の弾性波のエネルギーを中間層13内に存在させる観点から、圧電層14の厚さT4は複数の電極指18の平均ピッチDの2倍以下が好ましく、1倍以下がより好ましい。圧電層14を機能させる観点から、圧電層14の厚さT4は複数の電極指18の平均ピッチDの0.1倍以上が好ましく、0.2倍以上がより好ましい。
【0057】
[実施例1の変形例1]
図6(a)および
図6(b)は、それぞれ実施例1および実施例1の変形例1におけるZに対する空隙率を示す図である。ZはZ方向(厚さ方向)の位置を示し、空隙率は中間層15、11および12の空隙率を示している。中間層11の空隙率φは、空隙を含む全体の体積に対する空隙の体積により定義される。例えばTEM等の電子顕微鏡画像から空隙率を算出できる。
【0058】
図6(a)に示すように、実施例1では、中間層15および12の空隙率はほぼ0%である。中間層11の空隙率φ0は、ほぼ一定であり、例えば10%である。
図6(b)に示すように、実施例1の変形例1では、中間層15と11との間に変遷層15aが設けられ、中間層11と12との間に変遷層15bが設けられている。変遷層15aでは、変遷層15aを成膜しながら成膜条件を変えることで、空隙率がほぼ0%からφ0に徐々に大きくなる。変遷層15bでは、変遷層15bを成膜しながら成膜条件を変えることで、空隙率がφ0からほぼ0%に徐々に小さくなる。Zに対する空隙率は曲線的に変化してもよい。実施例1の変形例1のように、中間層15と11との間の変遷層15aを設けてもよい。中間層11と12との間の変遷層15bを設けてもよい。変遷層15aおよび15bのいずれか一方を設けなくてもよい。
ステルスダイシング(登録商標)技術を用いるとスクライブライン48の幅を狭くできる。しかし、中間層11のように、空隙率の高い層はレーザ光44が散乱されてしまうため、ステルスダイシング(登録商標)技術を用いることができないことがある。実施例2では、スクライブライン48に中間層11を設けない、よって、ステルスダイシング(登録商標)技術を用いることができる。
実施例1および2において、メイン応答の弾性波がSH(Shear Horizontal)波のとき、スプリアス応答が特に問題となる。圧電層14が30°~60°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板のときSH波が主モードとなる。よって、圧電層14が30°~60°(または36°~50°)回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板の場合に、中間層11および15を設けることが好ましい。弾性波は、弾性表面波以外にLamb波等でもよい。