(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119565
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】光中継装置及び光中継方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/291 20130101AFI20240827BHJP
H01S 5/50 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H04B10/291
H01S5/50 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026558
(22)【出願日】2023-02-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、Beyond 5G研究開発促進事業「Beyond 5G のレジリエンスを実現するネットワーク制御技術の研究開発」 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】中沢 正隆
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真人
(72)【発明者】
【氏名】葛西 恵介
【テーマコード(参考)】
5F173
5K102
【Fターム(参考)】
5F173AS01
5F173AS04
5F173SC03
5K102AA53
5K102AH24
5K102PB03
5K102PB04
5K102PB05
5K102PB14
5K102PH15
5K102PH41
(57)【要約】
【課題】多値データ信号の光S/Nを高く保ちながら伝送することができる光中継装置を提供する。
【解決手段】多値データ信号を送信する光送信機と、前記多値データ信号を受信する光受信機との間に設けられ、前記多値データ信号を中継する光中継装置であって、前記多値データ信号を用いて注入同期することで、前記多値データ信号を増幅する半導体レーザを備える、光中継装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多値データ信号を送信する光送信機と、前記多値データ信号を受信する光受信機との間に設けられ、前記多値データ信号を中継する光中継装置であって、
前記多値データ信号を用いて注入同期することで、前記多値データ信号を増幅する半導体レーザを備える、
光中継装置。
【請求項2】
前記半導体レーザはファブリペロー型半導体レーザである、
請求項1に記載の光中継装置。
【請求項3】
前記半導体レーザはDistributed Feedback (DFB)半導体レーザである、
請求項1に記載の光中継装置。
【請求項4】
前記半導体レーザはDistributed Bragg Reflector (DBR)半導体レーザである、
請求項1に記載の光中継装置。
【請求項5】
前記半導体レーザはVertical Cavity Surface Emitting Laser (VCSEL)である、
請求項1に記載の光中継装置。
【請求項6】
多値データ信号を送信する光送信機と、前記多値データ信号を受信する光受信機との間に設けられ、前記多値データ信号を中継する光中継装置による光中継方法であって、
前記多値データ信号を用いて注入同期することで、前記多値データ信号を増幅する、
光中継方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光中継装置及び光中継方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の光通信では、光の振幅と位相に同時に情報を乗せる多値変調方式を用いたデジタルコヒーレント光伝送に関する研究が進められている。本方式では変調信号の多値度を増大することにより、限られた光周波数帯域内で効率よく伝送容量を増大することができる。しかしながら、多値度の高いデータ信号を正確に復調するためには、高い光S/Nがデータ信号に要求される。そのため多値データ信号の長距離光ファイバ伝送を実現するためには、信号の光S/Nを高く保ちながら、光ファイバ伝送路を伝搬することで減衰したデータ信号の強度を増幅することが出来る光中継技術が極めて重要な役割を果たす。
【0003】
これまで光中継方式として、等化増幅、リタイミング、識別再生を行う再生中継方式(非特許文献1)、及びエルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA: Erbium-Doped Fiber Amplifier)を用いた線形中継方式(非特許文献2)が研究開発されている。再生中継方式は、光信号を一度電気信号に変換して増幅した後、波形整形等を行って再び光信号として送出するものであり、高い光S/Nを保ったまま長距離伝送することが可能である。一方、EDFAを用いた線形中継方式では、光信号を直接増幅しながら中継伝送するためシステムが簡便になる。また電子デバイスを必要としないため、超高速領域まで柔軟に伝送速度を選択でき、波長の異なる複数の光信号の一括増幅が可能であるといった利点がある。このため,線形中継方式は、波長多重方式を適用した伝送システムにおいて、運用波長帯の広帯域化による伝送容量の拡大などにも柔軟に対応することができる。
【0004】
一方、光連続波(正弦波)の光を半導体レーザへ注入同期することによる、光連続波(正弦波)の光S/N改善効果が報告されている(非特許文献3)。注入同期は、自励発振している半導体レーザが外部から入力された基準光信号に位相同期する現象である。微弱で光S/Nが低い基準信号であっても安定な注入同期を実現することが可能であり、注入同期した半導体レーザから強度、光S/Nが共に高い位相同期信号を出力することができる。
【0005】
これまで、光連続波または周期的に位相変調された基準光信号に対する半導体レーザの静的(位相変化の無い光連続波の基準光信号に対する特性)及び動的(位相がダイナミックに変化する基準光信号光に対する特性)な注入同期応答帯域や位相同期特性については理論、実験、両面から多数の研究が成されてきている(非特許文献4)。一般にその応答帯域は半導体レーザの共振器長に反比例する特性を示し、位相同期性能は応答帯域が広いほど良好となることが明らかとなっている(非特許文献5)。
【0006】
しかしながら、位相や振幅がランダムに変化する基準光信号に対する半導体レーザの動的な注入同期応答帯域、パターン効果といった諸特性については、理論的にも実験的にもその詳細が解明されておらず、注入同期による中継方式のコヒーレント光多値通信への応用に関しても検討はなされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y. Higo et al., “Fiber optic line terminating equipment and transmission line repeaters,” J. Inst. Elec. Comm. Eng. Jap., 63(11), 1981.
【非特許文献2】M. Nakazawa et al., “Efficient Er3+ doped optical fiber amplifier pumped by a 1.48 mm InGaAsP laser diode,” App. Phys. Lett., 54(4), 1989.
【非特許文献3】A. Kanno and T. Kawanishi, “Frequency-locked optical two-tone THz signal generation with optical frequency comb and injection-locked laser,” CLEO-PR, WC3-5, 2013.
【非特許文献4】K. Kasai et al., “Broadband injection-locked homodyne receiver for digital coherent transmission using a low Q Fabry-Perot LD,” Opt. Express, 30(8), 2022.
【非特許文献5】R. Lang, “Injection locking properties of a semiconductor laser,” IEEE J. Quantum Electron. 18(6), 1982.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
再生中継方式では、データ信号を光→電気→光のように変換するための回路が必要となるため、高価であり、消費電力も大きくシステムが大型化する。また、EDFAを用いた線形中継方式では、EDFA中で発生する自然放出光に起因する雑音が中継器数の増加に伴って累積するため、長距離伝送後のデータ信号の光S/Nは必然的に劣化してしまい、多値度の高いデータ信号を長距離伝送することが困難となる。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためのものであり、多値データ信号の光S/Nを高く保ちながら長距離光ファイバ伝送することができる、簡便且つ低消費電力な光中継装置及び光中継方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、多値データ信号を送信する光送信機と、前記多値データ信号を受信する光受信機との間に設けられ、前記多値データ信号を中継する光中継装置であって、前記多値データ信号を用いて注入同期することで、前記多値データ信号を増幅する半導体レーザを備える、光中継装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る光中継装置及び光中継方法は、半導体レーザを用いて多値データ信号光へと注入同期を行うことにより、光ファイバ伝送された多値データ信号の光S/Nを高く保ちながら、光増幅することが可能である。これにより、多値度の高いデータ信号を用いた大容量・長距離光ファイバ伝送を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る光伝送システム1の構成の一例を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る光中継装置12の構成の一例を示す図である。
【
図3】第2の実施形態に係る光中継装置12の構成の一例を示す図である。
【
図4】単一周波数の連続波の注入同期を説明する図である。
【
図5】多値データ信号の注入同期を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係る光伝送システム1の構成の一例を示す図である。光伝送システム1は、光送信機11、光中継装置12、光受信機13及び光ファイバ伝送路14を備える。光伝送システム1において、光送信機11が光ファイバ伝送路14を介して光受信機13に信号光を送信する。信号光は例えば、多値データ信号の光である。
光中継装置12は、光送信機11と光受信機13との間に設けられる。光中継装置12は、光送信機11から入力される信号光を注入同期することで増幅し、光受信機13に出力する。光伝送システム1は、
図1に示すように、複数の光中継装置12を備えてもよい。
【0014】
多値データ信号の光の周波数帯域は、通常、注入同期に使用される連続波の光と比較して広い。そのため、光中継装置12の応答帯域に多値データ信号の光の周波数帯域が含まれる方が望ましい。光中継装置12の応答帯域は、光中継装置12に備えられる半導体レーザの共振器長に反比例することから、共振器長は短い方が望ましい。
【0015】
図2は、第1の実施形態に係る光中継装置12の構成を示す図である。光中継装置12は、レンズ121、両端出力型半導体レーザ122、レンズ123を備える。光中継装置12に入力される光はレンズ121によりコリメートされ、両端出力型半導体レーザ122に入力される。両端出力型半導体レーザ122は、入力される信号光に注入同期し、レンズ123に信号光を出力する。両端出力型半導体レーザ122から出力された信号光はレンズ123によりコリメートされ、光中継装置12から出力される。第1の実施形態に係る光中継装置12は、後述する第2の実施形態に係る光中継装置12とは異なり、サーキュレータなしに実現可能である。
【0016】
図3は、第2の実施形態に係る光中継装置12の構成を示す図である。第2の実施形態に係る光中継装置12は、サーキュレータ131、レンズ132、半導体レーザ133を備える。サーキュレータ131は、光送信機11側から光中継装置12に入力される光をレンズ132に出力する。サーキュレータ131は、レンズ132から入力される光を、光受信機13方向に出力する。レンズ132は、サーキュレータ131から入力される光をコリメートし、半導体レーザ133に出力する。レンズ132は、半導体レーザ133から入力される光をコリメートし、サーキュレータ131に出力する。
図3に示す第2の実施形態に係る光中継装置12によれば、
図2に示す第1の実施形態に係る光中継装置12と比較して、片面が完全反射層であるため、注入同期により得られる信号光の光強度、光S/Nが共に高い。
【0017】
両端出力型半導体レーザ122及び半導体レーザ133として、例えばファブリペロー型半導体レーザ、Distributed Feedback (DFB)半導体レーザ、Distributed Bragg Reflector (DBR)半導体レーザ、Vertical Cavity Surface Emitting Laser (VCSEL)が使用される。これらの半導体レーザは、一般に1 mm未満の共振器長で数十mWの出力強度を実現することが出来る。そのため、注入同期の静的及び動的な応答帯域が広く、光S/Nの高い同期信号光を得ることができる。
【0018】
図4は、単一周波数及び位相変化のない連続波による静的な注入同期を説明する図である。半導体レーザは、注入される光(注入光)に自励発振により発生させた光(自励発振光)を注入同期することで、注入光と同じ周波数であり、自励発振光と同じパワーを有する光を出力する。自励発振光のパワーを大きく設定しておくことで、注入同期により増幅と同じ効果を得ることができる。
【0019】
図5は、多値データ信号の注入同期を説明する図である。半導体レーザは、注入される光(多値データ信号)に自励発振により発生させた光(自励発振光)を注入同期することで、多値データ信号と同じ周波数帯と振幅を有する光を出力する。自励発振光のパワーを大きく設定しておくことで、注入同期により増幅と同じ効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る光中継装置は、多値データ信号の光S/Nを高く保ちながら長距離光ファイバ伝送することができる、また、注入同期を行う半導体レーザは再生中継方式を行う装置やEDFAと比較して簡便であり且つ低消費電力である。本発明により、多値度の高いデータ信号を用いた大容量・長距離光ファイバ伝送を実現することができる。
【符号の説明】
【0021】
1 光伝送システム、11 光送信機、12 光中継装置、13 光受信機、14 光ファイバ伝送路、121 レンズ、122 両端出力型半導体レーザ、123 レンズ、131 サーキュレータ、132 レンズ、133 半導体レーザ