(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119567
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】光伝送方法および光伝送装置
(51)【国際特許分類】
H04B 10/2575 20130101AFI20240827BHJP
H04B 10/61 20130101ALI20240827BHJP
H01S 5/04 20060101ALI20240827BHJP
H01S 5/06 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H04B10/2575 120
H04B10/61
H01S5/04
H01S5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026561
(22)【出願日】2023-02-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、Beyond 5G研究開発促進事業「Beyond 5Gのレジリエンスを実現するネットワーク制御技術の研究開発」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】中沢 正隆
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真人
(72)【発明者】
【氏名】葛西 恵介
【テーマコード(参考)】
5F173
5K102
【Fターム(参考)】
5F173SA02
5F173SA16
5F173SC02
5F173SE02
5F173SG12
5F173SG30
5K102AA01
5K102AB13
5K102AD15
5K102AH13
5K102AH14
5K102AH24
5K102KA01
5K102KA39
5K102MA02
5K102MB03
5K102MC02
5K102MD01
5K102MD03
5K102MH03
5K102MH20
5K102MH25
5K102PB01
5K102PH01
5K102RD12
5K102RD26
(57)【要約】
【課題】基地局ベースバンド部とアンテナ無線部との間で無線信号を、簡便な構成且つ高い品質を保持したまま、光ファイバ伝送路を介して伝送する。
【解決手段】地局ベースバンド部とアンテナ無線部との間で、光ファイバ伝送路を介して無線信号を含む信号光伝送させるための光伝送方法において、
前記光ファイバ伝送路を伝送後の前記信号光を前記アンテナ無線部に配置された局発光源からの前記信号光と90度位相が異なる局発光と干渉させることでホモダイン検波を行い、ホモダイン検波された前記無線信号をA/D変換回路によりデジタル信号に変換し、
前記デジタル信号をデジタル信号処理回路によりキャリヤ位相再生、信号歪み補償、ならびに前方誤り訂正を行うことを特徴とする光伝送方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局ベースバンド部とアンテナ無線部との間で、光ファイバ伝送路を介して無線信号を含む信号光伝送させるための光伝送方法において、
前記光ファイバ伝送路を伝送後の前記信号光を前記アンテナ無線部に配置された局発光源からの前記信号光と90度位相が異なる局発光と干渉させることでホモダイン検波を行い、ホモダイン検波された前記無線信号をA/D変換回路によりデジタル信号に変換し、
前記デジタル信号をデジタル信号処理回路によりキャリヤ位相再生、信号歪み補償、ならびに前方誤り訂正を行うことを特徴とする光伝送方法。
【請求項2】
前記基地局ベースバンド部において、前記信号光は、ベースバンドのアナログ信号に前記無線信号を重畳したものであって、前記無線信号は、光へのフォーマット変換を用いず前記ベースバンドのアナログ信号により光変調を行うことを特徴とする請求項1記載の光伝送方法。
【請求項3】
前記信号光に光位相同期用のパイロットトーン信号を重畳することを特徴とする請求項1に記載の光伝送方法。
【請求項4】
前記アンテナ無線部において、注入同期法を用いて前記信号光と前記局発光との間の光位相同期を行うことを特徴とする請求項3記載の光伝送方法。
【請求項5】
前記注入同期法は、前記信号光を前記光ファイバ伝送路で分岐し、前記分岐された一方の前記信号光から、前記パイロットトーン信号を抽出し、前記パイロットトーン信号を前記局発光源に注入して、前記局発光を生成することを特徴とする請求項4記載の光伝送方法。
【請求項6】
前記アンテナ無線部において、光位相同期ループを用いて前記信号光と前記局発光との間の光位相同期を行うことを特徴とする請求項3記載の光伝送方法。
【請求項7】
前記光位相同期ループは、前記ホモダイン検波された前記無線信号を一部分岐し、前記分岐された前記検波された無線信号から、前記パイロットトーン信号を抽出し、前記パイロットトーン信号を前記局発光源に注入して、前記局発光を生成することを特徴とする請求項6記載の光伝送方法。
【請求項8】
前記光ファイバ伝送路を伝送中に生じた符号誤りおよび前記アンテナ無線部を伝送中に生じた符号誤りに対し、前記デジタル信号処理回路で一括して前記信号歪み補償及び前記前方誤り訂正を行うことを特徴とする請求項1記載の光伝送方法。
【請求項9】
基地局ベースバンド部と、
局発光源を有するホモダイン検波回路、A/D変換回路及びデジタル信号処理回路、を備えたアンテナ無線部と、前記基地局ベースバンド部から前記アンテナ無線部へ、無線信号を含む信号光を伝送させる光ファイバ伝送路と、を備え、
前記基地局ベースバンド部は、前記信号光を生成し、
前記アンテナ無線部は、前記光ファイバ伝送路を伝送後の前記信号光を、前記ホモダイン検波回路において、前記局発光源からの前記信号光と90度位相が異なる局発光と干渉させることでホモダイン検波を行い、ホモダイン検波された前記無線信号を前記A/D変換回路によりデジタル信号に変換し、前記デジタル信号処理回路は、前記デジタル信号をキャリヤ位相再生、信号歪み補償、ならびに前方誤り訂正を行うことを特徴とする光伝送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線アクセスネットワークにおいて基地局とアンテナとの間で無線信号を、光ファイバ伝送路を介して伝送させるための光伝送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モバイルデータトラフィックが年率30%で増大を続けている中、Beyond 5Gもしくは6Gに向けて無線アクセスネットワークの高速化を図るために、キャリヤ周波数のミリ波・テラヘルツ波への高周波数化やスモールセル化が検討されている。スモールセル化を実現するためには、無線基地局から各セルに配置された多数のアンテナに大容量データを配信するための経済性の高いモバイルフロントホール伝送技術が重要な基盤となる。
【0003】
最近のモバイルフロントホールにおいては、CPRI(Common Public Radio Interface)またはeCPRI(evolved CPRI)と呼ばれる方式により無線信号をデジタルサンプリングして光ファイバ伝送するデジタルRoF(Radio over Fiber)方式が主に用いられている(例えば、非特許文献1、非特許文献2。デジタルサンプリングされた無線信号は、OOK(On Off Keying)と呼ばれる0と1の2値の強度変調、もしくはPAM(Pulse Amplitude Modulation)と呼ばれる多値振幅変調により光信号に変換される。また、光の振幅と位相の両方を多値変調するQAM(Quadrature Amplitude Modulation)と呼ばれるデジタルコヒーレント伝送方式を用いることによりさらなる高速伝送が可能である。デジタルコヒーレント伝送技術は、その復調においてデジタル信号処理回路(DSP:Digital Signal Processor)を用いることから、ファイバ中の分散・非線形補償あるいは前方誤り訂正(FEC:Forward Error Correction)がソフトウェアにより容易に実現できる。そのため複雑な信号処理をDSPで実装できる点が優れた特徴である。
【0004】
一方、無線信号をデジタルサンプリングせず直接光に乗せて伝送する手法として、アナログRoFが知られている。アナログRoFは、無線信号をサブキャリアに乗せてアナログ波形として伝送する方式(例えば、非特許文献3)と、無線信号の振幅と位相を光の振幅と位相に乗せて伝送する方式(例えば、非特許文献4)に大別される。光ファイバ伝送後の光信号は、前者の場合は直接検波、後者の場合はヘテロダイン検波により、そのまま無線信号に変換することが出来る。このようにアナログRoFはA/D変換、D/A変換を用いないため、簡素で安価な構成でモバイルフロントホールを実現できる点が特徴である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“Common Public Radio Interface(CPRI);Interface Specification“,[online],CPRI Specification v7.0,Technical Report,2015,[令和 5年2月17日検索],インターネット<URL:http://www.cpri.info/downloads/CPRI_v_7_0_2015-10-09.pdf>
【非特許文献2】“Common Public Radio Interface:eCPRI Interface Specification“,[online],eCPRI Specification v1.0,Technical Report,2017,[令和 5年2月17日検索],インターネット<URLhttp://www.cpri.info/downloads/eCPRI_v_1_0_2017-08-22.pdf>
【非特許文献3】鈴木正敏,“光及びモバイル通信システム進化と将来の光無線融合”,信学技報,MWP 2016-71,Jan.2017
【非特許文献4】K.Kasai,T.Hirooka,M.Yoshida and M.Nakazawa,“64 Gbit/s,256QAM coherently-linked optical and wireless transmission in 61 GHz band using novel injection-locked carrier frequency converter”,ECOS 2020,Th1G-7,Dec.(2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、デジタルRoFでは、CPRIまたはeCPRIに準拠した無線信号のデジタルサンプリングに伴い、一般に無線信号速度の5~16倍の光伝送帯域が要求される。例えば10 Gbit/sの無線アクセスでは、光伝送帯域が50~160 Gbit/sとなり、非常に非効率な光伝送方式となる。
【0007】
一方、アナログRoFはCPRIまたはeCPRIによる信号フォーマット変換を必要としないため、光伝送帯域は無線のベースバンド信号と等しい帯域で済む利点はある。しかしながら、従来のアナログRoF伝送では無線信号をそのままアナログ伝送するため、光ファイバ伝送で生じる歪みがそのまま無線信号の波形劣化として変換されてしてしまう課題があった。即ち、光から無線への変換においてDSPによる誤り訂正や歪み補償を行わないため、光区間で波形が劣化してしまい無線伝送区間で高いS/Nが確保できないという課題があった。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためのものであり、簡便な構成で高品質な大容量モバイルフロントホール用光伝送方法および光伝送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明に係る光伝送方法及び光伝送装置は、基地局ベースバンド部とアンテナ無線部との間で、光ファイバ伝送路を介して無線信号を含む信号光伝送させるための光伝送方法において、光ファイバ伝送路を伝送後の信号光をアンテナ無線部に配置された局発光源からの信号光と90度位相が異なる局発光と干渉させることでホモダイン検波を行い、ホモダイン検波された無線信号をA/D変換回路によりデジタル信号に変換し、デジタル信号をデジタル信号処理回路によりキャリヤ位相再生、信号歪み補償、ならびに前方誤り訂正を行うことを特徴とする。
【0010】
上記手法、構成により、光ファイバ伝送中に生じた歪みが除去され、誤りが訂正された高品質な無線信号を出力することができる。
【0011】
また、本発明に係る光伝送方法は、基地局ベースバンド部において、信号光は、ベースバンドのアナログ信号に無線信号を重畳したものであって、無線信号は、光へのフォーマット変換を用いずベースバンドのアナログ信号により光変調を行うことを特徴とする。
【0012】
上記手法により得られる信号光により光変調を行うことによりコヒーレント伝送を行なうことができる。
【0013】
また、本発明に係る光伝送方法は、信号光に光位相同期用のパイロットトーン信号を重畳することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る光伝送方法は、アンテナ無線部において、注入同期法を用いて信号光と局発光との間の光位相同期を行うことを特徴とする。さらに、当該注入同期法は、信号光を光ファイバ伝送路で分岐し、分岐された一方の信号光から、パイロットトーン信号を抽出し、パイロットトーン信号を局発光源に注入して、局発光を生成することを特徴とする。
【0015】
上記手法により、デジタル信号処理回路におけるキャリヤ位相再生を不要とすることができる。
【0016】
また、本発明に係る光伝送方法は、アンテナ無線部において、光位相同期ループを用いて信号光と局発光との間の光位相同期を行うことを特徴とする。さらに、当該光位相同期ループは、ホモダイン検波された無線信号を一部分岐し、分岐された検波された無線信号から、パイロットトーン信号を抽出し、パイロットトーン信号を局発光源に注入して、局発光を生成することを特徴とする。
【0017】
上記手法により、デジタル信号処理回路におけるキャリヤ位相再生を不要とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る光伝送方法及び光伝送装置は、無線信号をデジタルサンプリングせず直接、光に乗せて伝送するため、光伝送帯域は無線のベースバンド信号と等しい帯域で済む。しかも、光から無線への変換においてDSPによる誤り訂正や歪み補償を行うことが可能であるため、光区間で波形が劣化したとしても無線区間で高いS/Nが確保することが出来る。また光信号対雑音比の劣化は光注入同期法により除くことが可能である。その結果、光区間で高いロスバジェットを確保できるため、多数のアンテナへ大容量データを伝送可能な経済性の高いモバイルフロントホールを実現することが出来る。この方式では従来のデジタルRoF伝送方式における無線から光へのデータ信号のフォーマット変換を省くことが出来、システムの簡素化・低遅延化が可能となる特徴がある。また無線部で一括してFECを行うことにより光伝送におけるFECも省くことが出来、新たな光・無線一括FEC方式が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施の形態における光伝送装置を示すブロック構成図である。
【
図2】本発明の第2の実施の形態における光伝送装置を示すブロック構成図である。
【
図3】第2の実施形態で行った80Gbit/sの偏波多重5Gbaud、256QAM信号の光モバイルフロントホール伝送実験の結果である。(a)は、デジタル信号処理回路23において波形歪み補正を実施する前。および(b)は、デジタル信号処理回路23において波形歪み補正を実施した後の256QAMデータ信号のコンスタレーション(X偏波)である。
【
図4】本発明の第3の実施の形態における光伝送装置を示すブロック構成図である。
【
図5】本発明と従来技術を比較するための表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態における光伝送装置の構成を
図1に示す。基地局の信号処理ユニットなどの基地局ベースバンド部(以下、BBUと称する)1は、少なくとも、レーザ光源11、偏波多重IQ変調器12を備える。一方、アンテナのリモート無線ヘッドなどのアンテナ無線部2は、ホモダイン検波回路21、複数のA/D変換器22、デジタル信号処理回路(DSP)23、複数のD/A変換器24、発振器25、IQミキサ26、増幅器27、アンテナ28を備える。
【0021】
BBU1のレーザ光源11から出力される光は、偏波多重IQ変調器12によってデータ変調される。ここで偏波多重IQ変調器12は、アナログの無線ベースバンド信号I、Qで駆動される。無線ベースバンド信号I、Qの直交する2つの偏波(X偏波、Y偏波)にそれぞれ異なるデータ信号(無線信号)(IX、QX)及び(IY、QY)が重畳される。この無線ベースバンド信号I、Qは、必要に応じて高周波増幅器で増幅した後、偏波多重IQ変調器12に供給してもよい。また、データ信号(IX、QX)、(IY、QY)はフォーマット変換されていない。
【0022】
データ信号(IX、QX)、(IY、QY)を乗せたBBU1のからの信号光は、光ファイバ伝送路3を伝送し、アンテナ無線部2で受信される。アンテナ無線部2では、まずホモダイン検波回路21で信号光を検出する。ホモダイン検波回路21は、局発光源29、偏波ダイバーシティ90度光ハイブリッド回路30、平衡光検出器31で構成される。偏波ダイバーシティ90度光ハイブリッド回路30は、データ信号(IX、QX)、(IY、QY)光と、互いに90度位相が異なる2つの局発信号光とを干渉させる部位である。平衡光検出器31は、データ信号と局発信号の平衡検波を行う部位である。ホモダイン検波回路21は、これらの構成により、無線ベースバンド信号(IX、QX)、(IY、QY)を抽出することができる。ホモダイン検波回路21で検出したX、Yの両偏波のデータ信号(IX、QX)、(IY、QY)をA/D変換器22によりデジタル化し、デジタル信号処理回路23によってベースバンド信号の復調処理を行う。本発明の回路で行うデジタル信号処理としては、キャリヤ位相再生、符号誤り訂正の他、必要に応じて分散補償や非線形補償を行うこともできる。その後、デジタル信号処理回路23で復調したベースバンド信号をD/A変換器24でアナログ信号に変換し、発振器25およびミキサ26を用いて所望の無線周波数にアップコンバートする。最後にアンテナ28より電波を放射する。アンテナ28としては空間ダイバーシティアンテナ、または偏波ダイバーシティアンテナを用いてもよい。
【0023】
第1の実施形態では、ホモダイン検波回路21の局発光源29はフリーランニングである。また、位相同期はデジタル信号処理回路23においてソフトウェアにより行う。そのため構成は簡素であるが、信号の多値度が増すと位相同期の精度を上げる必要があり、その収束までに時間を要することがある。また、局発光源には狭線幅の光源が必要となる。
第1の実施形態の当該課題を解決する、第2の実施形態について、以下に述べる。
【0024】
(第2の実施形態)
本発明の変形例である、第2の実施形態における光伝送装置の構成を、
図2に示す。第1の実施形態と共通の要素には、共通の番号を付してある。第1の実施形態との違いとして、ホモダイン検波回路21に光注入同期法(非特許文献4参照。)を用いている。具体的には、BBU1において偏波多重IQ変調器12で無線ベースバンド信号I、Qにデータ信号(I
X、Q
X)、(I
Y、Q
Y)を乗せる際に、同時に位相同期用の連続波(CW(Continuous Wave))パイロットトーン信号を乗せている。パイロットトーン信号の周波数f
PTは、無線ベースバンドI、Qデータ信号光のキャリヤ周波数f
CからΔf/2(Δfは無線ベースバンド信号の帯域幅)以上離れた周波数に設定する。アンテナ無線部2では、信号光を光ファイバ伝送路3で伝送中に2分岐し、一方は周波数f
PTのパイロットトーン信号を抽出する光フィルタ32、もう一方は周波数f
Cの無線ベースバンドI、Qデータ信号光を抽出する光フィルタ33に入射する。光フィルタ32で抽出したパイロットトーン信号を半導体レーザである局発光源29に注入して、出力光を生成する。このとき、局発光源29の半導体レーザに注入するパイロットトーン信号は適切なパワーに増幅してもよい。これにより局発光源29の半導体レーザ周波数と位相は注入同期により注入光の周波数と位相に引き込まれる。注入同期が起こるためには、注入光のパワーおよび局発光源29との周波数差がロッキングレンジと呼ばれる範囲(数GHz~数10GHz(好適には、1GHz~10GHz))に入るように設定しておく。注入同期の結果、局発光の位相は信号光と同期される。その結果、デジタル信号処理回路23ではソフトウェアによるキャリヤ位相再生が不要となる。
【0025】
局発光源29からの出力光を光周波数シフタ34に入射する。光周波数シフタ34は、出力光の発振周波数をシフト(アップ又はダウン)させる。光周波数シフタ34としてはLN(LiNbO3)光強度変調器と光フィルタを組み合わせ、或いは、LN光位相変調器やSSB(Single Side-Band)変調器を用いても良い。
【0026】
偏波ダイバーシティ90度光ハイブリッド回路30は、周波数ダウンシフトした局発光源29の出力光と、光フィルタ33からのデータ信号とが入力され、平衡光検出器31を介してホモダイン検波を行うものである。ホモダイン検波によってベースバンド信号へ変換することができ、当該変換されたX、Y両偏波のデータ信号をサンプリング速度10GS/sで動作するA/D変換器22によってデジタル化し、デジタル信号処理回路23を用いて復調することが可能となる。以下、復調した信号は、第1の実施形態と同様な手法でアンテナ28より送出することができる。
【0027】
第2の実施形態では、信号の変調多値度に関係なく、信号光と局発光の高精度な位相同期を実現できる点が優れた特徴である。また、局発光源の線幅が広くても、パイロットトーン信号と同じ狭線幅の光に変換される。そのため、線幅の広い安価な光源を局発光源29に使うことが出来ることも特徴である。さらに、デジタル信号処理回路23ではソフトウェアによるキャリヤ位相再生が不要となるため、DSPの負荷を軽減することが出来る。これによりDSPの消費電力および処理遅延を低減することが出来る。
【0028】
(第2の実施形態の光伝送装置を用いた実施例)
第2の実施形態の光伝送装置を用いた、80Gbit/sの偏波多重5Gbaud、256QAM信号の光モバイルフロントホール伝送実験について説明する。
【0029】
BBU1において、レーザ光源11として波長1.55μmで発振するCW半導体レーザを用いた。サンプリング速度10GS/sのD/A変換器とDSP回路から成る任意波形生成装置より、データ信号を模擬した80 Gbit/sの偏波多重5Gbaud、256QAM信号ベースバンド信号と、光キャリヤ周波数より10GHz高周波数側にシフトしたパイロットトーン信号を出力している。データ信号としてはOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号を用いてもよい。本信号を偏波多重IQ変調器12へ入力し、レーザ光源11の出力光を変調している。偏波多重IQ変調器12で生成した80 Gbit/s、偏波多重5Gbaud信号、256QAM信号及びパイロットトーン信号は、-3dBmの伝送パワーで、光ファイバ伝送路3として用いた長さ10kmのSMF(Single Mode Fiber)を伝搬し、アンテナ無線部2へ到達する。
【0030】
アンテナ無線部2では、パイロットトーン信号をファイバ伝送路3から光フィルタ32で抽出し、これを局発光源29へ入射して注入同期を行うことで、局発光源29を伝送されてきたQAMデータ信号に位相同期する。局発光源29としては、波長1.55μm帯で発振するCW半導体レーザを用いた。本実験では、およそ0.3度の位相雑音でデータ信号と局発光源との位相同期を行っている。256QAM信号の場合、最隣接するシンボル間の位相差として求められる許容位相雑音は、およそ2度である。したがって、本実験における注入同期回路は、256QAM信号を復調するに十分な性能を有している。注入同期された局発光源29の出力光を、光周波数シフタ34に入射し、その発振周波数を10GHzダウンシフトしている。光周波数シフタ34としてはLN光強度変調器と光フィルタを組み合わせて用いた。並行して、光ファイバ伝送路3から、データ信号を含む信号を、光フィルタ33に入射して、データ信号を抽出した。周波数ダウンシフトした局発光源29の出力光と、光フィルタ33からのデータ信号とを偏波ダイバーシティ90度光ハイブリッド回路30へ入力し、平衡光検出器31を介してホモダイン検波を行った。ホモダイン検波によってベースバンド信号へ変換されたX、Y両偏波のデータ信号をサンプリング速度10GS/sで動作するA/D変換器22によってデジタル化し、デジタル信号処理回路23を用いて復調した。デジタル信号処理回路23においては、光デバイス及び電子デバイスの周波数特性に起因したデータ信号の波形歪みの補正をFIR(Finite Impulse Reaponse)フィルタを用いて行った。
【0031】
図3(a)、(b)に、光ファイバ伝送後の偏波多重5 Gbaud、256QAMベースバンド信号の復調結果示す。本発明のホモダイン検波回路21がない場合は、波形歪み補正や、前方誤り訂正自体出来ない信号となるが、本発明では
図3(a)及び(b)に示されるように、波形歪みや、前方誤り訂正が可能なものとなる。
図3(a)はデジタル信号処理回路23において波形歪み補正を実施する前、
図3(b)、デジタル信号処理回路23において波形歪み補正、前方誤り訂正を実施した後の5 Gbaud、256QAMデータ信号のコンスタレーション(X偏波)である。波形歪み補正を実施しない場合(
図3(a))は、コンスタレ―ションの各シンボル点が広がっており、ビット誤りが大きい。一方、波形歪み補正、前方誤り訂正を実施した場合は(
図3(b))、各シンボル点が明確に分離できており、ビット情報を正確に復調できていることがわかる。
【0032】
本発明では、ホモダイン検波回路21により、一括で補正可能なレベルの信号として伝送でき、また、波形歪み補正、前方誤り訂正を実施することで、ビット情報を正確に復調した高品質な信号を得ることができた。
【0033】
実際の無線アクセスネットワークにおいて、上述のように、デジタル信号処理回路23において復調された信号であるので、当該信号をD/A変換器24を介してアナログ信号へ変換し、発振器25、IQミキサ26を用いて所望の無線周波数にアップコンバートした後、アンテナ28より送出することができる。
【0034】
以上のように、本発明の光モバイルフロントホール伝送方式に依れば、S/Nの高い高品質な無線信号をアンテナへ供給することができる。
【0035】
(第3の実施形態)
本発明の変形例である、第3の実施形態における光伝送装置の構成を、
図4に示す。第2の実施形態同様、信号光と位相同期用のパイロットトーン信号を乗せている。また、第1の実施形態と同様に、信号光は、光ファイバ伝送路3を伝送後、ホモダイン検波回路21で検出される。第1、第2の実施形態との違いとして、ホモダイン検波回路21に光PLL(Phase-Locked Loop)法を用いている。具体的には、ホモダイン検波回路21でホモダイン検波した無線信号の一部を分岐し、RFフィルタ35(中心周波数f
RF=F
C-f
PT)でパイロットトーン信号を抽出した後、ミキサ36により発振器37(発振周波数f
RF)との位相比較をする。検出した誤差信号を、ループフィルタ38を介して局発光源29にフィードバックする。その結果、局発光源29からの出力光の位相は信号光と同期される。そのため、デジタル信号処理回路23ではソフトウェアによるキャリヤ位相再生が不要となる。
【0036】
第3の実施形態では、第2の実施形態と同様、変調多値度に関係なく、信号光と局発光の高精度な位相同期を実現できる点が優れた特徴である。また、デジタル信号処理回路23ではソフトウェアによるキャリヤ位相再生が不要となるため、DSPの負荷を軽減することが出来る。これによりDSPの消費電力および処理遅延を低減することが出来る。なお、復調信号の位相雑音を低減するには局発光源に狭線幅(10kHz~20kHz、好ましくは、10kHz)な光源を用いることが望ましい。
【0037】
本発明と従来技術の比較を
図5に示す。左列のデジタルコヒーレント方式は、基地局ベースバンド部において無線のアナログI/Q信号を光QAM信号に変換してコヒーレント伝送し、アンテナ無線部において光信号を電気信号に変換しDSPにより各種信号処理を行った後、無線信号に変換する。この方式は無線のアナログI/Q信号を光QAM信号に変換するためにA/D変換回路、D/A変換回路が必要になるなど、システムが複雑になり遅延も生じる。また、光と無線は完全に分離されており、各伝送媒体にFECが必要になる。次に、中列のアナログフルコヒーレント方式は、無線のアナログI/Q信号をそのまま光変調しコヒーレント伝送する。そのためA/D変換回路、D/A変換回路が不要であり、システムが簡素化され遅延も低減できる。また、光と無線を融合した一括FECが可能である。一方、アナログ伝送であるため光受信部でDSPによる各種信号処理を行わないため、光ファイバ伝送で生じる歪みがそのまま無線信号の波形劣化として変換されてしてしまう。右列に示した本発明は、アナログフルコヒーレント方式と同様、無線のアナログI/Q信号をそのまま光変調しコヒーレント伝送する。また、光と無線を融合した一括FECが可能である。さらに、アンテナ無線部において光信号を電気信号に変換しDSPにより各種信号処理を行った後無線信号に変換するため、高品質な無線信号の生成が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上詳細に説明したように、本発明は、モバイルフロントホールにおいて、基地局ベースバンド部とアンテナ無線部の間で無線信号を簡便な構成且つ高い品質を保持したまま、光ファイバ伝送路を介して伝送するための光伝送方法を提供することができる。本発明により、効率的且つ経済性の高い大容量光・無線アクセスネットワークを実現できる。
【0039】
開示の技術は上述した各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。各実施形態の各構成及び各処理は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 基地局ベースバンド部(BBU)
11 レーザ光源
12 偏波多重IQ変調器
2 アンテナ無線部
21 ホモダイン検波回路
29 局発光源
30 偏波ダイバーシティ90度光ハイブリッド回路
31 平衡光検出器
32 光フィルタ
33 光フィルタ
34 光周波数シフタ
35 RFフィルタ
36 ミキサ
37 発振器
38 ループフィルタ
22 A/D変換器
23 デジタル信号処理回路
24 D/A変換器
25 発振器
26 IQミキサ
27 増幅器
28 アンテナ
3 光ファイバ伝送路