(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119573
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】アンテナ装置及び無線通信装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/10 20060101AFI20240827BHJP
H01Q 19/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01Q13/10
H01Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026575
(22)【出願日】2023-02-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)総務省 令和4年度から新たに実施する電波資源拡大のための研究開発 令和4年度「周波数資源の有効活用に向けた高精度時刻同期基盤の研究開発」 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 洋平
(72)【発明者】
【氏名】安田 哲
【テーマコード(参考)】
5J020
5J045
【Fターム(参考)】
5J020BC02
5J020BC12
5J020BD04
5J020DA02
5J020DA03
5J045AA02
5J045AA05
5J045NA01
(57)【要約】
【課題】放射する電波の放射角度または受信する電波の到来角度に対する位相の変動を軽減できるアンテナ装置及び無線通信装置を提供する。
【解決手段】貫通孔を有する板状のグランドと、上記貫通孔内に配置され、第1の周波数の電波の半波長に対応する長さを有する板状のアンテナ素子と、上記アンテナ素子が上記電波を放射する放射方向に配置され、上記放射方向視において上記アンテナ素子の上記長さ方向の端部と少なくとも一部が重なるように配置される導波素子と、を備え、上記導波素子は、上記電波の波長の0.1倍から0.38倍に対応する大きさである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する板状のグランドと、
前記貫通孔内に配置され、第1の周波数の電波の半波長に対応する長さを有する板状のアンテナ素子と、
前記アンテナ素子が前記電波を放射する放射方向に配置され、前記放射方向視において前記アンテナ素子の前記長さ方向の端部と少なくとも一部が重なるように配置される導波素子と、を備え、
前記導波素子は、前記電波の波長の0.1倍から0.38倍に対応する大きさである、
アンテナ装置。
【請求項2】
前記導波素子の中心と、前記アンテナ素子の前記長さ方向の端部とが、前記放射方向視において重なるように、前記導波素子が配置される、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記アンテナ素子は、前記長さ方向の中央に給電点が接続される、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記導波素子は前記放射方向視において矩形に形成されており、
前記導波素子上の前記アンテナ素子を横切る辺の長さが、前記第1の周波数の0.1倍から0.38倍に対応する長さである、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記導波素子は前記放射方向視において円形に形成されており、
前記導波素子の直径の長さは、前記第1の周波数の0.1倍から0.38倍に対応する長さである、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記導波素子は矩形枠状に形成されており、
前記導波素子上の前記アンテナ素子を横切る辺の長さが、前記第1の周波数の0.1倍から0.38倍に対応する長さである、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記導波素子と前記アンテナ素子との距離は、前記波長の0.09倍以下である、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記導波素子は、第1の導波素子と第2の導波素子とを含み、
前記第1の導波素子と前記第2の導波素子とは、前記アンテナ素子の前記長さ方向に沿って並んで配置される、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記第1の導波素子と前記第2の導波素子との間隔は、前記波長の0.12倍以上である、
請求項8に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のアンテナ装置を備える、
無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置及び無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信技術が広く利用されていることから、様々な工夫がアンテナに施されている。例えば、無指向性アンテナや自動車の埋め込み型アンテナとして好適な折り返しスロットアンテナが提案されている(例えば、特許文献1-3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-49865号公報
【特許文献2】特開平11-55025号公報
【特許文献3】特開平6-283923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のアンテナから放射された電波を用いて、当該複数のアンテナを備える装置の空間上の位置を検出する技術が利用されている。このような技術では、複数のアンテナから放射される電波の位相が方位角または仰角に対して一定ではない(位相の変動がある)場合、位置の検出精度が低下する。
【0005】
開示の技術の1つの側面は、放射する電波の放射角度または受信する電波の到来角度に対する位相の変動を軽減できるアンテナ装置及び無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の技術の1つの側面は、次のようなアンテナ装置によって例示される。本アンテナ装置は、貫通孔を有する板状のグランドと、上記貫通孔内に配置され、第1の周波数の電波の半波長に対応する長さを有する板状のアンテナ素子と、上記アンテナ素子が上記電波を放射する放射方向に配置され、上記放射方向視において上記アンテナ素子の上記長さ方向の端部と少なくとも一部が重なるように配置される導波素子と、を備え、上記導波素子は、上記電波の波長の0.1倍から0.38倍に対応する大きさである。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、放射する電波の放射角度または受信する電波の到来角度に対する位相の変動を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係るアンテナ装置の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、アンテナ素子をZ方向視した図である。
【
図3】
図3は、アンテナ装置をX方向視した図である。
【
図4】
図4は、アンテナ装置をZ方向視した図である。
【
図5】
図5は、第1シミュレーションの結果を例示する第1の図である。
【
図6】
図6は、第1シミュレーションの結果を例示する第2の図である。
【
図7】
図7は、第1シミュレーションの結果を例示する第3の図である。
【
図8】
図8は、第1比較例に係るスリーブアンテナの一例を示す図である。
【
図9】
図9は、第2シミュレーションの結果を例示する第1の図である。
【
図10】
図10は、第2シミュレーションの結果を例示する第2の図である。
【
図11】
図11は、第2シミュレーションの結果を例示する第3の図である。
【
図12】
図12は、第2比較例に係る折り返しスロットアンテナの一例を示す図である。
【
図13】
図13は、第3シミュレーションの結果を例示する第1の図である。
【
図14】
図14は、第3シミュレーションの結果を例示する第2の図である。
【
図15】
図15は、第3シミュレーションの結果を例示する第3の図である。
【
図16】
図16は、第4シミュレーションに用いたアンテナ装置の一例を示す図である。
【
図17】
図17は、第4シミュレーションの結果を例示する第1の図である。
【
図18】
図18は、第4シミュレーションの結果を例示する第2の図である。
【
図19】
図19は、第4シミュレーションの結果を例示する第3の図である。
【
図20】
図20は、第5シミュレーションの結果を例示する第1の図である。
【
図21】
図21は、第5シミュレーションの結果を例示する第2の図である。
【
図22】
図22は、第5シミュレーションの結果を例示する第3の図である。
【
図23】
図23は、第6シミュレーションの結果を例示する第1の図である。
【
図24】
図24は、第6シミュレーションの結果を例示する第2の図である。
【
図25】
図25は、第6シミュレーションの結果を例示する第3の図である。
【
図26】
図26は、第7シミュレーションの結果を例示する第1の図である。
【
図27】
図27は、第7シミュレーションの結果を例示する第2の図である。
【
図28】
図28は、第7シミュレーションの結果を例示する第3の図である。
【
図29】
図29は、第8シミュレーションによって可視化した電界を模式的に示す第1の図である。
【
図30】
図30は、第8シミュレーションによって可視化した電界を模式的に示す第2の図である。
【
図31】
図31は、第8シミュレーションによって可視化した電界を模式的に示す第3の図である。
【
図32】
図32は、スマートフォンの外観の一例を示す図である。
【
図33】
図33は、円形の導波素子を備えるアンテナ装置の一例を示す図である。
【
図34】
図34は、矩形枠型の導波素子を備えるアンテナ装置の一例を示す図である。
【
図35】
図35は、グランド、アンテナ素子及び導波素子が誘電体基板上に配置されたアンテナ装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施形態>
以下、図面を参照して実施形態についてさらに説明する。
図1は、実施形態に係るアンテナ装置1の一例を示す斜視図である。アンテナ装置1は、グランド10、アンテナ素子20、導波素子31、32及び給電点40を備える。
図1において、グランド10の幅方向をX方向、グランド10の高さ方向をY方向、グランド10から導波素子31、32に向かう方向をZ方向とする。
【0010】
グランド10、アンテナ素子20及び導波素子31、32は、例えば、板状の金属によって形成される。グランド10は、例えば、Z方向視(アンテナ素子20が電波を放射する放射方向視)において矩形に形成される。グランド10には、グランド10を厚さ方向(Z方向)に貫く貫通孔11が形成される。貫通孔11内には、アンテナ素子20が配置される。グランド10は、「グランド」の一例である。貫通孔11は、「貫通孔」の一例である。
【0011】
アンテナ素子20は、例えば、Z方向視において長方形に形成される。
図2は、アンテ
ナ素子20をZ方向視した図である。
図2では、グランド10も例示される。アンテナ素子20は、Y方向に長手方向を有し、X方向に短手方向を有する。アンテナ素子20の長手方向の長さL1は、例えば、アンテナ素子20が放射する電波の周波数の半波長に対応する長さである。アンテナ素子20は、例えば、長手方向の長さがL1の長方形に形成される。アンテナ素子20は、グランド10と接触しないように貫通孔11内に配置される。すなわち、貫通孔11内において、グランド10とアンテナ素子20との間には、隙間が形成される。アンテナ素子20は、長手方向の中央において給電点40に接続される。アンテナ素子20は、給電点40からの給電を受けて、Z方向に電波を放射する。すなわち、アンテナ素子20は、給電素子である。アンテナ素子20が放射する電波は例えば、第5世代移動体通信(5G)で用いられる電波である。以下、本明細書において、アンテナ素子20が放射する電波の波長をλとする。アンテナ素子20は、「アンテナ素子」の一例である。アンテナ素子20が放射する電波の周波数は、「第1の周波数」の一例である。
【0012】
導波素子31、32は、アンテナ素子20の放射方向に配置される。導波素子31、32は、例えば、Z方向視において矩形に形成される。また、導波素子31、32は、Y方向に並んで配置される。
図3は、アンテナ装置1をX方向視した図である。導波素子31、32は、グランド10から距離D1だけ離れた位置に配置される。すなわち、導波素子31、32とグランド10及びアンテナ素子20とは、非接触である。また、導波素子31、32は互いに非接触である。導波素子31、32間の距離は、例えば、42mm(0.12λ)以上である。導波素子31、32は、「第1の導波素子」、「第2の導波素子」の一例である。
【0013】
図4は、アンテナ装置1をZ方向視した図である。
図4では、導波素子31、32を透視して背後にあるグランド10及びアンテナ素子20が見えるようにしている。導波素子31、32は、アンテナ素子20の長手方向の端部21、22とZ方向視において重なるように配置される。導波素子31、32は、例えば、Z方向視において一辺の長さがL3の正方形に形成される。すなわち、横幅W3と縦幅L3とは同一の値となってもよい。なお、導波素子31、32は、Z方向視において長方形に形成されてもよい。すなわち、横幅W3と縦幅L3とは異なる値となってもよい。また、グランド10は、一辺の長さL2の正方形に形成される。なお、グランド10は、正方形以外の形状(例えば、長方形)に形成されてもよい。
【0014】
実施形態に係るアンテナ装置1の特性についてシミュレーション(第1シミュレーション)を行ったので、以下図面を参照して説明する。以下に例示する第1シミュレーションでは、グランド10の一辺の長さL2を200mm、アンテナ素子20の長手方向の長さL1を166mm、導波素子31、32の一辺の長さL3を70mmに設定した。また、グランド10と導波素子31、32との距離D1を15mmに設定した。
【0015】
図5から
図7は、第1シミュレーションの結果を例示する図である。
図5Aでは、XY平面におけるゲインが例示される。
図5Bでは、XY平面における位相が例示される。
図6Aでは、ZX平面におけるゲインが例示される。
図6Bでは、ZX平面における位相が例示される。
図7Aでは、YZ平面におけるゲインが例示される。
図7Bでは、YZ平面における位相が例示される。
【0016】
-10dBi以上のゲインが得られる範囲を通信可能な領域と仮定し、通信可能な領域における位相差の最大値を検討する。以下、本明細書において、XY平面、ZX平面及びYZ平面の夫々において、通信可能な領域内の最も大きい位相、最も小さい位相の差を位相差とする。XY平面における位相差は、
図5を参照すると、最大で15度となる。ZX平面における位相差は、
図6を参照すると、最大で8度となる。また、YZ平面における
位相差は、
図7を参照すると、最大で3度となる。
【0017】
<第1比較例>
ここで、比較例について説明する。
図8は、第1比較例に係るスリーブアンテナ800の一例を示す図である。スリーブアンテナ800は、アンテナ素子801、スリーブ802、本体803及び給電点840を備える。本体803には、電源や信号処理回路等が収容される。スリーブアンテナ800では、スリーブ802の先端に設けられた給電点840に線状のアンテナ素子801が接続される。
【0018】
第1比較例に係るスリーブアンテナ800の特性についてシミュレーション(第2シミュレーション)を行ったので、以下図面を参照して説明する。
図9から
図11は、第2シミュレーションの結果を例示する図である。
図9Aでは、XY平面におけるゲインが例示される。
図9Bでは、XY平面における位相が例示される。
図10Aでは、ZX平面におけるゲインが例示される。
図10Bでは、ZX平面における位相が例示される。
図11Aでは、YZ平面におけるゲインが例示される。
図11Bでは、YZ平面における位相が例示される。
【0019】
-10dBi以上のゲインが得られる範囲を通信可能な領域と仮定し、通信可能な領域における位相差の最大値を検討する。XY平面における位相差は、
図9を参照すると、最大で29度となる。ZX平面における位相差は、
図10を参照すると、最大で50度となる。また、YZ平面における位相差は、
図11を参照すると、最大で59度となる。
【0020】
<第2比較例>
図12は、第2比較例に係る折り返しスロットアンテナ900の一例を示す図である。折り返しスロットアンテナ900は、グランド910、アンテナ素子920及びアンテナ素子920を備える。グランド910には貫通孔911が設けられる。アンテナ素子920は、貫通孔911内に配置され、給電点940からの給電を受けて電波を放射する。第2比較例に係る折り返しスロットアンテナ900は、実施形態に係るアンテナ装置1から導波素子31、32を除いたものということができる。
【0021】
第2比較例に係る折り返しスロットアンテナ900の特性についてシミュレーション(第3シミュレーション)を行ったので、以下図面を参照して説明する。
図13から
図15は、第3シミュレーションの結果を例示する図である。
図13Aでは、XY平面におけるゲインが例示される。
図13Bでは、XY平面における位相が例示される。
図14Aでは、ZX平面におけるゲインが例示される。
図14Bでは、ZX平面における位相が例示される。
図15Aでは、YZ平面におけるゲインが例示される。
図15Bでは、YZ平面における位相が例示される。
【0022】
-10dBi以上のゲインが得られる範囲を通信可能な領域と仮定し、通信可能な領域における位相差の最大値を検討する。XY平面における位相差は、
図13を参照すると、最大で12度となる。ZX平面における位相差は、
図14を参照すると、最大で8度となる。また、YZ平面における位相差は、
図15を参照すると、最大で18度となる。
【0023】
<実施形態と比較例の検証>
第1シミュレーションから第3シミュレーションの結果を検討すると、XY平面、ZX平面及びYZ平面のいずれにおいても、実施形態に係るアンテナ装置1で生じる位相差はスリーブアンテナ800及び折り返しスロットアンテナ900よりも小さなものとなる。また、主放射方向となるZX平面及びYZ平面における位相差は、スリーブアンテナ800及び折り返しスロットアンテナ900と比較してアンテナ装置1では改善されたことが理解できる。すなわち、実施形態に係るアンテナ装置1であれば、主放射方向において位
相差の小さい電波を放射することができる。
【0024】
<バリエーションの検討>
ここで、このような特性を有するアンテナ装置1の各サイズや導波素子31、32の位置について検討を行ったので、以下に説明する。まず、導波素子31の位置について検討する第4シミュレーションについて説明する。
図16は、第4シミュレーションに用いたアンテナ装置1Aの一例を示す図である。アンテナ装置1Aは、アンテナ装置1から導波素子32を除いたものである。第4シミュレーションでは、導波素子31の中心と給電点40とがZ方向視において一致する位置から、+Y方向に120mmまで移動させて、位相差を確認した。
【0025】
図17から
図19は、第4シミュレーションの結果を例示する図である。
図17Aでは、XY平面におけるゲインが例示される。
図17Bでは、XY平面における位相が例示される。
図18Aでは、ZX平面におけるゲインが例示される。
図18Bでは、ZX平面における位相が例示される。
図19Aでは、YZ平面におけるゲインが例示される。
図19Bでは、YZ平面における位相が例示される。
図17から
図19では、導波素子31の移動量0mm、30mm、60mm、90mm、120mmの夫々についてゲイン及び位相差が例示される。
【0026】
図17から
図19を参照すると、導波素子31の中心と給電点40とがZ方向視において重なっている状態(移動量0mm)の状態よりも、導波素子31を+Y方向に移動させた方が、位相差が改善されることが理解できる。すなわち、導波素子31とアンテナ素子20の端部21とがZ方向視において重なっている状態が位相差の改善において好ましいことが理解できる。さらには、導波素子31の中心とアンテナ素子20の端部21とがZ方向視において重なっている状態(移動量120mm)が、位相差の改善においてより好ましいことが理解できる。
【0027】
つづいて、導波素子31、32とグランド10との距離D1(
図3参照)について検討する第5シミュレーションについて説明する。第5シミュレーションでは、距離D1を様々に変更して、ゲインと位相の変動について確認した。
図20から
図22は、第5シミュレーションの結果を例示する図である。
図20Aでは、XY平面におけるゲインが例示される。
図20Bでは、XY平面における位相が例示される。
図21Aでは、ZX平面におけるゲインが例示される。
図21Bでは、ZX平面における位相が例示される。
図22Aでは、YZ平面におけるゲインが例示される。
図21Bでは、YZ平面における位相が例示される。
図20から
図22では、距離D1の5mm、30mm、55mm、80mm、105mm、130mm、155mm、180mm、200mmの夫々についてゲイン及び位相が例示される。
【0028】
図20から
図22を参照すると、導波素子31、32は、距離D1が小さいほど位相差を改善する効果は高いことが理解できる。距離D1は、例えば、30mm以下(0.09λ以下)が好ましく、5mm(0.015λ)以下がより好ましい。
【0029】
つづいて、導波素子31、32の横幅W3(
図4参照)について検討する第6シミュレーションについて説明する。第6シミュレーションでは、導波素子31、32の横幅W3を様々に変更して、ゲインと位相差の変動について確認した。なお、第6シミュレーションでは、縦幅L3は70mm、距離D1は15mmに設定した。
【0030】
図23から
図25は、第6シミュレーションの結果を例示する図である。
図23Aでは、XY平面におけるゲインが例示される。
図23Bでは、XY平面における位相が例示される。
図24Aでは、ZX平面におけるゲインが例示される。
図24Bでは、ZX平面に
おける位相が例示される。
図25Aでは、YZ平面におけるゲインが例示される。
図25Bでは、YZ平面における位相が例示される。
図23から
図25では、横幅W3の5mm、20mm、35mm、50mm、65mm、80mm、95mm、110mm、125mm、140mmの夫々についてゲイン及び位相が例示される。
【0031】
図23から
図25を参照すると、位相差の改善を考慮すると、横幅W3は50mm以上、80mm以下が好ましいと考えられる。換言すれば、アンテナ素子20の長手方向を横切る横幅W3は、0.1λ以上0.38λ以下に対応する長さが好ましいと考えられる。また、位相差の改善には、横幅W3は70mm前後がより好ましいと考えられる。
【0032】
つづいて、導波素子31、32の縦幅L33(
図4参照)について検討する第7シミュレーションについて説明する。第7シミュレーションでは、導波素子31、32の縦幅L3を様々に変更して、ゲインと位相の変動について確認した。なお、第7シミュレーションでは、横幅W3は70mm、距離D1は15mmに設定した。
【0033】
図26から
図28は、第7シミュレーションの結果を例示する図である。
図26Aでは、XY平面におけるゲインが例示される。
図26Bでは、XY平面における位相が例示される。
図27Aでは、ZX平面におけるゲインが例示される。
図27Bでは、ZX平面における位相差が例示される。
図28Aでは、YZ平面におけるゲインが例示される。
図28Bでは、YZ平面における位相差が例示される。
図26から
図28では、縦幅L3の20mm、35mm、50mm、65mm、80mm、95mm、110mm、125mm、140mmの夫々についてゲイン及び位相差が例示される。
【0034】
図26から
図28を参照すると、位相差の改善を考慮すると、縦幅L3は35mm(0.1λ)以上、95mm(0.38λ)以下が好ましいと考えられる。また、位相差の改善には、縦幅L3は70mm前後がより好ましいと考えられる。
【0035】
つづいて、アンテナ装置1によって放射される電界を可視化する第8シミュレーションについて説明する。第8シミュレーションでは、縦幅L3を70mmに設定したアンテナ装置1、縦幅L3を140mmに設定したアンテナ装置1、第2比較例に係る折り返しスロットアンテナ900の夫々について電界を可視化した。
【0036】
図29は、第8シミュレーションによって可視化した電界を模式的に示す第1の図である。
図29では、縦幅L3を70mmに設定したアンテナ装置1について、アンテナ素子20が放射する電波の電界を可視化した。
図29の電界E1は、電界の全体を模式的に示す図である。電界E2は、電界E1においてθ=0度方向の領域を拡大した図である。電界E3は、電界E1においてθ=90度方向の領域を拡大した図である。電界E2及び電界E3には、給電点40から1メートル離れた位置を示す曲線も例示される。
【0037】
図30は、第8シミュレーションによって可視化した電界を模式的に示す第2の図である。
図30では、縦幅L3を140mmに設定したアンテナ装置1について、アンテナ素子20が放射する電波の電界を可視化した。
図30の電界E11は、電界の全体を模式的に示す図である。電界E12は、電界E11においてθ=0度方向の領域を拡大した図である。電界E13は、電界E11においてθ=90度方向の領域を拡大した図である。電界E12及び電界E13には、給電点40から1メートル離れた位置を示す曲線も例示される。
【0038】
図31は、第8シミュレーションによって可視化した電界を模式的に示す第3の図である。
図31では、第2比較例に係る折り返しスロットアンテナ900について、アンテナ素子920が放射する電波の電界を可視化した。
図31の電界E21は、電界の全体を模
式的に示す図である。電界E22は、電界E21においてθ=0度方向の領域を拡大した図である。電界E23は、電界E21においてθ=90度方向の領域を拡大した図である。電界E22及び電界E23には、給電点40から1メートル離れた位置を示す曲線も例示される。
【0039】
図29から
図31を比較すると、縦幅L3を70mmに設定したアンテナ装置1をシミュレーションした
図29では、「θ=0度」及び「θ=90度」のいずれにおいても、「1mライン」が電界の谷に収まっている。一方、縦幅L3を140mmに設定したアンテナ装置1をシミュレーションした
図30及び折り返しスロットアンテナ900をシミュレーションした
図31では、「θ=90度」では「1mライン」が電界の谷に収まっている一方で、「θ=0度」では「1mライン」が電界の谷から外れている。すなわち、縦幅L3を70mmに設定したアンテナ装置1は、縦幅L3を70mmに設定したアンテナ装置1及び折り返しスロットアンテナ900よりも位相差を軽減できているということができる。これは、導波素子31、32によって電波の放射タイミングが調整された結果、電界の谷の位置をずらすことができるため、「θ=0度」及び「θ=90度」の位相差が軽減したものと考えられる。
【0040】
以上説明したアンテナ装置1は、例えば、スマートフォンに実装させることができる。
図32は、スマートフォン100の外観の一例を示す図である。
図32では、外観視できないアンテナ装置1は点線で例示される。スマートフォン100は、筐体110内に3つのアンテナ装置1を備える。なお、
図32ではスマートフォン100が例示されたが、アンテナ装置1はスマートフォン100以外の無線通信装置に実装されてもよい。スマートフォン100以外の無線通信装置としては、例えば、ノートブック型パーソナルコンピュータ、タブレット型コンピュータ、ウェアラブル端末、基地局、ドローン、フィーチャーフォン等を挙げることができる。
【0041】
<実施形態の作用効果>
本実施形態では、アンテナ装置1の貫通孔11内にアンテナ素子20が配置され、アンテナ素子20の電波放射方向に導波素子31、32が配置される。導波素子31、32が配置されることで、電波の放射タイミングが調整され、放射方向による位相差を軽減できる。このような効果は、アンテナ装置1による電波の放射に限定されず、アンテナ装置1による電波の受信においても同様である。
【0042】
本実施形態に係るアンテナ装置1であれば、位相差が軽減されるため、スマートフォン100の3つのアンテナ装置1から放射された電波を用いて、スマートフォン100の空間上の位置を検出する際に、位置の検出精度を高めることができる。例えば、縦幅L3を70mmに設定したアンテナ装置1を用いることで、位置の検出精度は±1cm程度とすることができる。
【0043】
<変形例>
以上説明した実施形態では、導波素子31、32は矩形であったが、導波素子31、32の形状は矩形に限定されない。
図33は、円形の導波素子31A、32Aを備えるアンテナ装置1Aの一例を示す図である。また、
図34は、矩形枠型の導波素子31B、32Bを備えるアンテナ装置1Bの一例を示す図である。
図33及び
図34に例示されるように、導波素子31、32は、様々な形状を採用できる。なお、円形の導波素子31A、32Aの直径は、例えば、横幅W3と同様に、50mm以上、80mm以下(0.1λ以上0.38λ以下)が好ましいと考えられる。また、矩形枠型の導波素子31B、32Bのアンテナ素子20の長手方向を横切る横幅W4の長さは、例えば、横幅W3と同様に、50mm以上、80mm以下(0.1λ以上0.38λ以下)が好ましいと考えられる。
【0044】
また、アンテナ装置1のグランド10、アンテナ素子20及び導波素子31、32には、例えば、電子部品が実装されてもよい。グランド10、アンテナ素子20及び導波素子31、32に電子部品が実装されることで、例えば、アンテナ装置1がスマートフォン100に実装される際に、筐体110内のスペースを有効に活用できる。
【0045】
また、グランド10、アンテナ素子20及び導波素子31、32は、誘電体基板上に配置されてもよい。
図35は、グランド10、アンテナ素子20及び導波素子31、32が誘電体基板B1、B2上に配置されたアンテナ装置1Cの一例を示す図である。
図35では、誘電体基板B1上にグランド10が配置され、グランド10の上に誘電体基板B2が配置され、誘電体基板B2上に導波素子31、32が配置される。このような構成となることで、アンテナ素子20が放射する電波の波長は、誘電体基板B1、B2の誘電率の影響を受けた実効波長となる。
【0046】
また、給電点40には、コンデンサ、インダクタ、スイッチ等が配置されてもよい。コンデンサ、インダクタ、スイッチ等が配置されることで、アンテナ素子20の共振周波数が調整されたり、整合が容易にとれたりする。
【0047】
実施形態に係るアンテナ装置1は、2つの導波素子31、32を備えたが、アンテナ装置1が備える導波素子はひとつでもよいし、3つ以上であってもよい。
【0048】
以上で開示した実施形態や変形例はそれぞれ組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0049】
1・・アンテナ装置
1A・・アンテナ装置
1B・・アンテナ装置
1C・・アンテナ装置
10・・グランド
11・・貫通孔
20・・アンテナ素子
21・・端部
22・・端部
31・・導波素子
32・・導波素子
40・・給電点
100・・スマートフォン
110・・筐体
800・・スリーブアンテナ
801・・アンテナ素子
802・・スリーブ
803・・本体
840・・給電点
900・・折り返しスロットアンテナ
910・・グランド
911・・貫通孔
920・・アンテナ素子
940・・給電点
B1・・誘電体基板
B2・・誘電体基板