(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119575
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】粒状の重金属等吸着材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/12 20060101AFI20240827BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240827BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240827BHJP
B09B 3/10 20220101ALI20240827BHJP
【FI】
B01J20/12 C
B01J20/30
C09K3/00 S
B09B3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026578
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】森 喜彦
(72)【発明者】
【氏名】七尾 舞
(72)【発明者】
【氏名】松山 祐介
(72)【発明者】
【氏名】早川 隆之
【テーマコード(参考)】
4D004
4G066
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB03
4D004AC07
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4G066AA16B
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4G066FA34
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】吸着層の材料として用いうる重金属等吸着材であって、吸着層のpHが酸性領域である場合などにおいても、優れた重金属等吸着性能を有する重金属等吸着材を提供する。
【解決手段】鉱物の粉粒状物及び酸化マグネシウム含有粉粒状物を含む混合物の焼成物からなる粒状の重金属等吸着材であって、上記鉱物の粉粒状物が、非晶質成分として、SiO2を5~40質量%、及び、Al2O3を6~40質量%の各割合で含み、上記酸化マグネシウム含有粉粒状物が、軽焼マグネシア、軽焼マグネシアの部分水和物、炭酸マグネシウム、及び、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる一種以上からなり、上記鉱物の粉粒状物と上記酸化マグネシウム含有粉粒状物の合計量中、上記酸化マグネシウム含有粉粒状物の割合が、5~62質量%である、粒状の重金属等吸着材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物の粉粒状物及び酸化マグネシウム含有粉粒状物を含む混合物の焼成物からなる粒状の重金属等吸着材であって、
上記鉱物の粉粒状物が、非晶質成分として、SiO2を5~40質量%、及び、Al2O3を6~40質量%の各割合で含み、
上記酸化マグネシウム含有粉粒状物が、軽焼マグネシア、軽焼マグネシアの部分水和物、炭酸マグネシウム、及び、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる一種以上からなり、
上記鉱物の粉粒状物と上記酸化マグネシウム含有粉粒状物の合計量中、上記酸化マグネシウム含有粉粒状物の割合が、5~62質量%であることを特徴とする粒状の重金属等吸着材。
【請求項2】
上記鉱物の粉粒状物が、非晶質成分として、Fe2O3を0.3~12質量%の割合で含む請求項1に記載の重金属等吸着材。
【請求項3】
上記鉱物の粉粒状物が、火山灰土からなる請求項1に記載の重金属等吸着材。
【請求項4】
上記火山灰土が、赤玉土、鹿沼土、黒土、及び、ボラ土からなる群より選ばれる一種以上からなる請求項3に記載の重金属等吸着材。
【請求項5】
上記混合物が、上記鉱物の粉粒状物と上記酸化マグネシウム含有粉粒状物の合計量100質量部に対して、20質量部以下の量のバインダーを含む請求項1に記載の重金属等吸着材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の重金属等吸着材を製造するための方法であって、
上記鉱物の粉粒状物と、上記酸化マグネシウム含有粉粒状物を混合して、上記混合物を得る混合物調製工程と、
上記混合物を造粒して、粒度が1~5mmの造粒物を得る造粒工程と、
上記造粒物を200~600℃で加熱して、上記粒状の重金属等吸着材を得る焼成工程、
を含むことを特徴とする粒状の重金属等吸着材の製造方法。
【請求項7】
上記混合物調製工程の前に、上記鉱物の粉粒状物に対して、含水比が35~65%の範囲内となるように乾燥または水分供給を行う水分調整工程を含む請求項6に記載の粒状の重金属等吸着材の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の重金属等吸着材を、地盤の上に供給して、上記重金属等吸着材からなる吸着層を形成させる吸着材供給工程と、
上記吸着層の上に、重金属等を含む被処理物を供給して、上記吸着層と上記被処理物からなる被処理物層との積層体である重金属等溶出抑制構造を形成させる被処理物供給工程、
を含むことを特徴とする重金属等溶出抑制構造の形成方法。
【請求項9】
上記重金属等が、ひ素、鉛、カドミウム、水銀、セレン、シアン、六価クロム、ふっ素、及び、ほう素からなる群より選ばれる一種以上である請求項8に記載の重金属等溶出抑制構造の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状の重金属等吸着材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場で発生する有害な重金属等を含む土砂については、その発生量が多量であることから、吸着層工法を用いて、重金属等を吸着層に固定させる処理方法が、提案されている。
特許文献1に、SiO2の含有率が70~90質量%、およびAl2O3の含有率が5~15質量%である頁岩からなる重金属の吸着層用母材が、記載されている。
特許文献1に、前記の吸着層用母材を含む吸着層用資材として、吸着層用母材1m3あたり、軽焼マグネシアおよび/または軽焼マグネシア部分水和物を必須成分として含む重金属吸着材を10~200kg含む、重金属の吸着層用資材が、記載されている。
特許文献1に、前記の吸着層用資材を用いた吸着層工法として、重金属の吸着層用資材を敷設してなる重金属吸着層の上に、重金属を含む被処理物を載置する工程を含む吸着層工法が、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸着層工法において、重金属等を吸着するための吸着層の母材として、例えば、火山灰土を用いた場合、吸着層のpHの大きさに応じて、重金属等の吸着性能が大きく異なることがある。
例えば、火山灰土のpHが酸性領域(例えば、2~3)である場合、鉛の吸着性能が劣ることが、知られている。
本発明の目的は、吸着層の材料として用いうる重金属等吸着材であって、吸着層のpHが酸性領域である場合などにおいても、優れた重金属等吸着性能を有する重金属等吸着材、及び、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、鉱物の粉粒状物及び酸化マグネシウム含有粉粒状物を含む混合物の焼成物からなる粒状の重金属等吸着材であって、上記鉱物の粉粒状物が、非晶質成分として、SiO2を5~40質量%、及び、Al2O3を6~40質量%の各割合で含み、上記酸化マグネシウム含有粉粒状物が、軽焼マグネシア、軽焼マグネシアの部分水和物、炭酸マグネシウム、及び、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる一種以上からなり、上記鉱物の粉粒状物と上記酸化マグネシウム含有粉粒状物の合計量中、上記酸化マグネシウム含有粉粒状物の割合が、5~62質量%である、粒状の重金属等吸着材によれば、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、以下の[1]~[9]を提供するものである。
[1] 鉱物の粉粒状物及び酸化マグネシウム含有粉粒状物を含む混合物の焼成物からなる粒状の重金属等吸着材であって、上記鉱物の粉粒状物が、非晶質成分として、SiO2を5~40質量%、及び、Al2O3を6~40質量%の各割合で含み、上記酸化マグネシウム含有粉粒状物が、軽焼マグネシア、軽焼マグネシアの部分水和物、炭酸マグネシウム、及び、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる一種以上からなり、上記鉱物の粉粒状物と上記酸化マグネシウム含有粉粒状物の合計量中、上記酸化マグネシウム含有粉粒状物の割合が、5~62質量%であることを特徴とする粒状の重金属等吸着材。
[2] 上記鉱物の粉粒状物が、非晶質成分として、Fe2O3を0.3~12質量%の割合で含む、前記[1]に記載の重金属等吸着材。
[3] 上記鉱物の粉粒状物が、火山灰土からなる、前記[1]又は[2]に記載の重金属等吸着材。
[4] 上記火山灰土が、赤玉土、鹿沼土、黒土、及び、ボラ土からなる群より選ばれる一種以上からなる、前記[3]に記載の重金属等吸着材。
[5] 上記混合物が、上記鉱物の粉粒状物と上記酸化マグネシウム含有粉粒状物の合計量100質量部に対して、20質量部以下の量のバインダーを含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の重金属等吸着材。
[6] 前記[1]~[5]のいずれかに記載の重金属等吸着材を製造するための方法であって、上記鉱物の粉粒状物と、上記酸化マグネシウム含有粉粒状物を混合して、上記混合物を得る混合物調製工程と、上記混合物を造粒して、粒度が1~5mmの造粒物を得る造粒工程と、上記造粒物を200~600℃で加熱して、上記粒状の重金属等吸着材を得る焼成工程、を含むことを特徴とする粒状の重金属等吸着材の製造方法。
[7] 上記混合物調製工程の前に、上記鉱物の粉粒状物に対して、含水比が35~65%の範囲内となるように乾燥または水分供給を行う水分調整工程を含む、前記[6]に記載の粒状の重金属等吸着材の製造方法。
[8] 前記[1]~[5]のいずれかに記載の重金属等吸着材を、地盤の上に供給して、上記重金属等吸着材からなる吸着層を形成させる吸着材供給工程と、上記吸着層の上に、重金属等を含む被処理物を供給して、上記吸着層と上記被処理物からなる被処理物層との積層体である重金属等溶出抑制構造を形成させる被処理物供給工程、を含むことを特徴とする重金属等溶出抑制構造の形成方法。
[9] 上記重金属等が、ひ素、鉛、カドミウム、水銀、セレン、シアン、六価クロム、ふっ素、及び、ほう素からなる群より選ばれる一種以上である、前記[8]に記載の重金属等溶出抑制構造の形成方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の重金属等吸着材は、重金属等を吸着層に固定して処理する方法である吸着層工法における吸着層(被処理物層の下方に位置する層)の材料として用いることができる。この場合、本発明の重金属等吸着材は、吸着層のpHが酸性領域である場合などにおいても、優れた重金属等吸着性能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の重金属等吸着材は、鉱物の粉粒状物、及び、酸化マグネシウム含有粉粒状物を含む。
本発明で用いる鉱物の粉粒状物は、非晶質成分として、SiO2を5~40質量%、及び、Al2O3を6~40質量%の各割合で含む。
本明細書中、「非晶質成分」とは、8N塩酸(HCl)-0.5N水酸化ナトリウム(NaOH)交互溶解法による試料(鉱物の粉粒状物)の減量に相当するものを意味する。例えば、減量前の試料の質量を100質量%とし、処理後に、30質量%まで減量した場合には、70質量%の量に相当するものを、非晶質成分とする。
【0009】
8N塩酸-0.5N水酸化ナトリウム交互溶解法の詳細は、以下のとおりである。
まず、予め105℃で24時間乾燥させた試料(鉱物の粉粒状物)1gを容器(遠心管)に入れた後、この容器内に、8Nの塩酸100ミリリットルを加える。次いで、この容器を30分間振とうした後、2,000rpmで5分間遠心分離を行う。その後、上澄みを捨て、この容器内の沈澱を蒸留水で洗浄する。次いで、この容器内に、0.5Nの水酸化ナトリウム100ミリリットルを加える。その後、この容器を、煮沸した湯浴内に5分間浸した後、2,000rpmで5分間遠心分離を行い、上澄みを捨て、沈澱を得る。
以上の操作(塩酸の添加、遠心分離、洗浄、水酸化ナトリウムの添加、湯浴、及び、遠心分離からなる一連の処理;以下、「処理操作」という。)を5回、繰り返す。
この際、塩酸による抽出液、及び、水酸化ナトリウムによる抽出液の各々におけるSi、Al及びFeの各濃度を、ICP発光分光分析法(ICP-AES;Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)を用いて測定し、「非晶質成分の割合」(試料の全量100質量%中、SiO2、Al2O3等を含む非晶質成分の割合)を算出する。
【0010】
本明細書中、「非晶質成分としてのSiO2の割合」とは、以下の手順で得られるものをいう。
まず、前記「8N塩酸-0.5N水酸化ナトリウム交互溶解法」において、塩酸及び水酸化ナトリウムによる上述の処理操作の回数が5回である場合における上澄み(非晶質成分の抽出液;1~5回のすべてを含むもの)中のSi(元素)の濃度を、ICP発光分光分析法によって定量し、Siの質量の値を得る。この値を、酸化物換算の値(SiO2の量)に換算する。
このSiO2の量(質量基準)を、試料の質量で除して得られる値が、「非晶質成分としてのSiO2の割合」である。
SiO2以外の成分(Al2O3、Fe2O3等)についても、同様である。
【0011】
本発明において、非晶質成分としてのSiO2の割合は、5~40質量%、好ましくは6~30質量%、より好ましくは7~25質量%、特に好ましくは8~20質量%である。該割合が5~40質量%の範囲内であると、雨水等の水と接触する雰囲気下で、本発明の重金属等吸着材を用いた場合であっても、重金属等吸着性能の経時的な低下を抑制することができる。
本発明において、非晶質成分としてのAl2O3の割合は、6~40質量%、好ましくは7~30質量%、より好ましくは8~25質量%、特に好ましくは9~20質量%である。該割合が6~40質量%の範囲内であると、雨水等の水と接触する雰囲気下で、本発明の重金属等吸着材を用いた場合であっても、重金属等吸着性能の経時的な低下を抑制することができる。
【0012】
非晶質成分としてのFe2O3の割合は、好ましくは0.3~12質量%、より好ましくは0.5~11質量%、さらに好ましくは0.7~10質量%、特に好ましくは0.8~9質量%である。該割合が0.3~12質量%の範囲内であると、雨水等の水と接触する雰囲気下における本発明の重金属等吸着材の重金属等吸着性能の経時的な低下を、より効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明で用いる鉱物の粉粒状物の粒度分布は、後述する造粒物(焼成前の粒状の混合物)の粒度を容易に所望のものに調整する観点から、好ましくは、3mm以下の粒度のものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上)の割合で含むものであり、より好ましくは、2mm以下の粒度のものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上)の割合で含むものであり、特に好ましくは、1mm以下の粒度のものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上)の割合で含むものである。
本明細書中、「粒度」とは、粉粒状体における最大寸法(例えば、断面が楕円の形状である場合、長軸の寸法)をいう。
本明細書中、粉粒状物とは、粉体の集合体、粒体の集合体、または、粉体及び粒体を含む集合体を意味する。粉体とは、粉粒状物の構成単位であり、0.1mm未満の粒度を有するものをいう。粒体とは、粉粒状物の構成単位であり、0.1mmを超える粒度を有するものをいう。
【0014】
本発明で用いる鉱物の好ましい一例として、火山灰土が挙げられる。
本発明において、火山灰土の例としては、赤玉土(赤土)、鹿沼土、黒土、ボラ土等が挙げられる。
【0015】
本発明で用いる酸化マグネシウム含有粉粒状物は、軽焼マグネシア、軽焼マグネシアの部分水和物、炭酸マグネシウム、及び、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる一種以上からなるものである。
軽焼マグネシアは、例えば、炭酸マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを含む固形物を、650~1,300℃で焼成することによって得ることができる。
前記の固形物中の炭酸マグネシウムまたは水酸化マグネシウムの割合(炭酸マグネシウムと水酸化マグネシウムの両方を含む場合、これらの合計の割合)は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。該割合が80質量%以上であると、重金属等を吸着する性能をより高めることができる。
【0016】
前記の固形物の例としては、マグネサイト、ドロマイト、ブルーサイト、または、海水中のマグネシウム成分を消石灰等のアルカリで沈澱させて得た水酸化マグネシウム等の、塊状物または粉粒状物が挙げられる。
前記の固形物の焼成温度は、好ましくは650~1,300℃、より好ましくは750~950℃、特に好ましくは800~900℃である。該温度が650℃以上であると、軽焼マグネシアが、より生成し易くなる。該温度が1,300℃以下であると、重金属等を吸着する性能をより高めることができる。
前記の固形物の焼成時間は、固形物の仕込み量や粒度等によっても異なるが、通常、30分間~5時間である。
軽焼マグネシアの部分水和物は、軽焼マグネシアの粉砕物に水を添加して撹拌するか、または、該粉砕物を相対湿度80%以上の雰囲気下に1週間以上保持することによって得ることができる。
【0017】
本発明で用いる酸化マグネシウム含有粉粒状物の粒度は、後述する造粒物(焼成前の粒状の混合物)の粒度を容易に所望のものに調整する観点から、好ましくは、3mm以下の粒度のものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上)の割合で含むものであり、より好ましくは、2mm以下の粒度のものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上)の割合で含むものであり、さらに好ましくは、1mm以下の粒度のものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上)の割合で含むもの(以上、粉粒状物)であり、特に好ましくは、0.1mm未満の粒度のものを100質量%の割合で含むもの(粉状物)である。
本発明において、酸化マグネシウム含有粉粒状物として、粉状物を用いる場合、該粉状物のブレーン比表面積は、例えば、2,000~10,000cm2/g(通常、3,000~9,000cm2/g)である。
【0018】
本発明において、鉱物の粉粒状物と酸化マグネシウム含有粉粒状物の合計量中、酸化マグネシウム含有粉粒状物の割合は、5~62質量%、より好ましくは10~55質量%である。該割合が5質量%未満または62質量%を超えると、吸着層のpHによっては、重金属等吸着性能が劣ることがある。
本発明で用いる混合物の材料として、鉱物の粉粒状物及び酸化マグネシウム含有粉粒状物に加えて、造粒をより容易に行う観点から、バインダーを用いることができる。
バインダーの例としては、ポリ硫酸第二鉄、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。
バインダーの量は、鉱物の粉粒状物と酸化マグネシウム含有粉粒状物の合計量100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは1~10質量部、特に好ましくは2~8質量部である。
【0019】
本発明の粒状の重金属等吸着材の製造方法は、鉱物の粉粒状物と、酸化マグネシウム含有粉粒状物と、必要に応じて用いられるバインダーを混合して、混合物を得る混合物調製工程と、得られた混合物を造粒して、粒度が1~5mmの造粒物を得る造粒工程と、得られた造粒物を200~600℃で加熱して、粒状の重金属等吸着材を得る焼成工程、を含む。
本発明の製造方法は、混合物調製工程の前に、鉱物の粉粒状物を、含水比が35~65%の範囲内となるように乾燥または水分供給を行う水分調整工程を含むことができる。該含水比が35%以上であると、後工程である造粒工程における造粒を、より容易に行うことができる。該含水比が65%以下であると、鉱物の粉粒状物と酸化マグネシウム含有粉粒状物(及び、必要に応じて用いられるバインダー)との混合をより容易かつ効率的に行うことができる。
なお、鉱物の粉粒状物として赤玉土を用いた場合、赤玉土は、通常、湿潤状態(水分の量が多い状態)で35~65%の範囲内の含水比を有するので、湿潤状態にあるものについては、そのまま用いることができる。
鉱物の粉粒状物として鹿沼土を用いた場合、鹿沼土は、通常、湿潤状態で80~100%の範囲内の含水比を有するので、湿潤状態にあるものについては、乾燥させることが望ましい。
【0020】
水分調整工程における乾燥の方法としては、風乾、熱風乾燥(例えば、排熱を利用したもの)等が挙げられる。
水分調整工程における水分供給の方法としては、散水等が挙げられる。
造粒工程における造粒の手段としては、ヘンシェル型ミキサー、混練造粒機「ペレガイア」(登録商標)等が挙げられる。
焼成工程における加熱温度は、酸化マグネシウム含有粉粒状物の材料の種類等によっても異なるが、200~600℃、好ましくは230~580℃、特に好ましくは250~550℃である。該温度が200℃未満であると、例えば炭酸マグネシウムを用いる場合に脱炭酸が十分に進まず、本発明の粒状の重金属等吸着材の重金属等吸着性能が低下する。該温度が600℃を超えると、加熱に要するコストが増大することに加えて、例えば炭酸マグネシウムを用いる場合に本発明の粒状の重金属等吸着材の重金属等吸着性能が低下する。
焼成工程における加熱時間は、酸化マグネシウム含有粉粒状物の材料の種類等によっても異なるが、好ましくは10分間~3時間、より好ましくは20分間~2時間、特に好ましくは30分間~1時間30分である。加熱時間が10分間以上であると、例えば炭酸マグネシウムを用いる場合に脱炭酸が十分に進み、本発明の粒状の重金属等吸着材の重金属等吸着性能が、より向上する。加熱時間が3時間以内であると、加熱に要するコストの増大を抑えることができる。
【0021】
次に、本発明の重金属等吸着材を用いた、重金属等溶出抑制構造(以下、「本発明の重金属等溶出抑制構造」という。)の形成方法について、説明する。
本発明の重金属等溶出抑制構造の形成方法は、本発明の重金属等吸着材を、地盤の上に供給して、重金属等吸着材からなる吸着層を形成させる吸着材供給工程と、この吸着層の上に、重金属等を含む被処理物(例えば、重金属等で汚染された土壌)を供給して、被処理物層を形成させ、吸着層と被処理物層の積層体である重金属等溶出抑制構造を形成させる被処理物供給工程を含む。
吸着層の厚さは、好ましくは、10~100cm、より好ましくは、20~90cm、特に好ましくは30~80cmである。該厚さが10cm以上であると、吸着して固定化させる重金属等の量をより大きくすることができる。該厚さが100cm以下であると、吸着層の形成に要するコストの低減などの点で有利である。
被処理物層の厚さは、好ましくは、50~400cm、より好ましくは、100~300cm、特に好ましくは150~250cmである。該厚さが50cm以上であると、単位面積当たりの被処理物の量が大きいので、大量に処理を行う場合に有利である。該厚さが400cm以下であると、大雨などによって被処理物層が崩壊するおそれが小さくなる。
吸着層で吸着され固定される重金属等としては、ひ素、鉛、カドミウム、水銀、セレン、シアン、六価クロム、ふっ素、及び、ほう素が挙げられる。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[A.使用材料]
(1)鉱物の粉粒状物
鉱物の粉粒状物として、表1に示す3種類の鉱物の粉粒状物A~Cを用いた。
なお、以下の実施例で用いた鉱物の粉粒状物は、いずれも、含水比が38~63%の範囲内のものである。
(a)鉱物の粉粒状物A:赤玉土(採取地:栃木県;3mm以下の粒度のものを80質量%以上の割合で含み、かつ、0.1mm未満の粒度のものの割合が10質量%以下であるもの)
(b)鉱物の粉粒状物B:鹿沼土(採取地:栃木県;4mm以下の粒度のものを80質量%以上の割合で含み、かつ、0.1mm未満の粒度のものの割合が10質量%以下であるもの)
(c)鉱物の粉粒状物C:白土(採取地:福島県;0.1mm以下の粒度のものを80質量%以上の割合で含むもの)
表1中、鉱物の粉粒状物A~Cについて、非晶質成分の組成(SiO2、Al2O3、Fe2O3)を示す。
(2)酸化マグネシウム含有粉粒状物
酸化マグネシウム含有粉粒状物として、以下の方法で調製した軽焼マグネシアの粉状物を用いた。
マグネサイト(炭酸マグネシウムの割合:97質量%)を、850℃で30分間、電気炉で焼成して、軽焼マグネシアを得た。次いで、この軽焼マグネシアを粉砕して、軽焼マグネシアの粉状物(ブレーン比表面積:6,500cm2/g)を得た。
【0023】
(3)バインダー
表4に示す以下の4種類のバインダーを用いた。
ポリ硫酸第二鉄
硫酸バンド(硫酸アルミニウム)
ポリ塩化アルミニウム(PAC)
ポリエチレングリコール(PEG)
(4)ふっ素含有水溶液
ふっ素含有水溶液として、以下の方法で調製した水溶液を用いた。
ふっ素含有化合物(化学式:NaF)からなる試薬を、1ppmの濃度になるようにイオン交換水に溶解させ、ふっ素含有水溶液を得た。
(5)鉛含有水溶液
鉛含有水溶液として、以下の方法で調製した水溶液を用いた。
鉛含有化合物(化学式:Pb(NO3)2)からなる試薬を、10ppmの濃度になるようにイオン交換水に溶解させ、鉛含有水溶液を得た。
(6)ひ素含有水溶液
ひ素含有水溶液として、以下の方法で調製した水溶液を用いた。
ひ素含有化合物(5価のひ素を含むもの;Na2HAsO4・7H2O)からなる試薬を、10ppmの濃度になるようにイオン交換水に溶解させ、ひ素含有水溶液を得た。
【0024】
【0025】
[B.ふっ素の吸着性能試験]
[実施例1]
表1に示す鉱物の粉粒状物Aを用いて、以下の手順で、ふっ素の吸着性能試験を行った。
「鉱物の粉粒状物A」90質量部に、酸化マグネシウム含有粉粒状物10質量部(以上の合計100質量部)を加えて混合し、混合物を得た。この混合物を、ヘンシェル型ミキサを用いて、粒度が1~3mmとなるように造粒して、造粒物を得た。
得られた造粒物を、電気炉(ヤマト科学社製)を用いて250℃で1時間、加熱して、造粒物を焼成してなる粒状の重金属等吸着材(粒度:1~3mm)を得た。
得られた粒状の重金属等吸着材と、イオン交換水を、4:1(吸着材:イオン交換水)の質量比となるように混合して、水を含む吸着層の材料を模した試験用材料を調製した。
試験用材料の調製時から28日を経過した時点において、試験用材料と、ふっ素含有水溶液(水酸化ナトリウムを用いて、pHを12に調整したもの)を、1:1,000(試験用材料:ふっ素含有水溶液)の質量比となるように混合して、スラリーを得た。
このスラリーを24時間、200rpmで振とうした後、メンブレンフィルター(目開き:0.45μm)を用いて濾過し、液分である検液を得た。
この検液中のふっ素濃度(mg/リットル)を、イオンクロマトグラフ法を用いて、測定した。
【0026】
[実施例2、比較例1]
鉱物の粉粒状物Aと酸化マグネシウム含有粉粒状物の配合比を50:50(実施例2)または20:80(比較例1)に変えた以外は実施例1(配合比:90:10)と同様にして、実験を行った。
[比較例2]
鉱物の粉粒状物Aのみを用い、酸化マグネシウム含有粉粒状物を用いない以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
【0027】
[実施例3~4、比較例3~4]
鉱物の粉粒状物として、鉱物の粉粒状物Bを用い、酸化マグネシウム含有粉粒状物として、炭酸マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを用い、他の条件(配合比、加熱温度)を表2のとおりに定め、ふっ素含有水溶液として、pHを7に調整したものを用いた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
[比較例5]
鉱物の粉粒状物として、鉱物の粉粒状物Cを用い、酸化マグネシウム含有粉粒状物として、水酸化マグネシウムを用い、他の条件(配合比、加熱温度)を表2のとおりに定め、ふっ素含有水溶液として、pHを7に調整したものを用いた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
[比較例6]
鉱物の粉粒状物Cのみを用い、酸化マグネシウム含有粉粒状物を用いない以外は比較例5と同様にして、実験を行った。
以上の結果を表2に示す。
【0028】
【0029】
表2中、実施例1~2では、比較例1~2に比べて、検液中のふっ素濃度が小さく、ふっ素の吸着性能が優れていることがわかる。実施例3~4では、比較例3~4に比べて、検液中のふっ素濃度が小さく、ふっ素の吸着性能が優れていることがわかる。比較例5では、鉱物の種類が本発明に該当しないため、検液中のふっ素濃度が、比較例6とほぼ同程度であり、本発明の効果が得られないことがわかる。
【0030】
[C.鉛の吸着性能試験]
[実施例5]
表3に示すように鉱物の粉粒状物と酸化マグネシウム含有粉粒状物の配合比等を定めた以外は実施例1と同様にして、粒状の重金属等吸着材を得た。
得られた粒状の重金属等吸着材と、イオン交換水を、4:1(吸着材:イオン交換水)の質量比となるように混合して、水を含む吸着層の材料を模した試験用材料を調製した。
試験用材料の調製時から28日を経過した時点において、試験用材料と、鉛含有水溶液(塩酸を用いて、pHを2に調整したもの)を、1:1,000(試験用材料:鉛含有水溶液)の質量比となるように混合して、スラリーを得た。
このスラリーを24時間、200rpmで振とうした後、メンブレンフィルター(目開き:0.45μm)を用いて濾過し、液分である検液を得た。
この検液中の鉛濃度(mg/リットル)を、ICP質量分析装置を用いて、測定した。
[比較例7]
鉱物の粉粒状物のみを用い、酸化マグネシウム含有粉粒状物を用いない以外は実施例5と同様にして、実験を行った。
以上の結果を表3に示す。
【0031】
【0032】
表3中、実施例5では、比較例7に比べて、検液中の鉛濃度が小さく、鉛の吸着性能が優れていることがわかる。
【0033】
[D.ひ素の吸着性能試験]
[実施例6]
表4に示すように鉱物の粉粒状物と酸化マグネシウム含有粉粒状物の配合比等を定め、かつ、バインダーとして、ポリ硫酸第二鉄を、鉱物の粉粒状物と酸化マグネシウム含有粉粒状物の合計100質量部に対して5質量部の量で用いた以外は実施例1と同様にして、粒状の重金属等吸着材を得た。
得られた粒状の重金属等吸着材と、イオン交換水を、4:1(吸着材:イオン交換水)の質量比となるように混合して、水を含む吸着層の材料を模した試験用材料を調製した。
試験用材料の調製時から91日を経過した時点において、試験用材料と、ひ素含有水溶液(水酸化ナトリウムを用いて、pHを8に調整したもの)を、1:1,000(試験用材料:ひ素含有水溶液)の質量比となるように混合して、スラリーを得た。
このスラリーを24時間、200rpmで振とうした後、メンブレンフィルター(目開き:0.45μm)を用いて濾過し、液分である検液を得た。
この検液中のひ素濃度(mg/リットル)を、ICP質量分析装置を用いて、測定した。
【0034】
[実施例7~8]
表4に示すようにバインダーの種類を変えた以外は実施例6と同様にして、実験を行った。
[比較例8]
表4に示すように、バインダーの種類を変え、かつ、鉱物の粉粒状物と酸化マグネシウム含有粉粒状物の配合比を変えた以外は実施例6と同様にして、実験を行った。
[比較例9]
鉱物の粉粒状物として、鉱物の粉粒状物Cを用い、かつ、他の条件(配合比)を表4のとおりに定めた以外は実施例7と同様にして、実験を行った。
以上の結果を表4に示す。
【0035】
【0036】
表4中、実施例6~8では、配合比が本発明に該当しない比較例8に比べて、検液中のひ素濃度が小さく、ひ素の吸着性能が優れていることがわかる。比較例9では、鉱物の種類が本発明に該当しないため、検液中のひ素濃度が、比較例8とほぼ同程度であり、本発明の効果が得られないことがわかる。