(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119579
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】陽極酸化処理品の製造方法および陽極酸化処理の電解浴管理装置
(51)【国際特許分類】
C25D 11/04 20060101AFI20240827BHJP
C25D 21/16 20060101ALI20240827BHJP
C25D 21/22 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C25D11/04 G
C25D21/16 B
C25D21/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026583
(22)【出願日】2023-02-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年4月15日発行の雑誌「アルトピア」に掲載 [刊行物等] 令和4年10月14日に業界団体「近畿アルミニウム表面処理研究会」にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】390016540
【氏名又は名称】内外化学製品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】丸亀 和雄
(72)【発明者】
【氏名】鉢木 義信
(72)【発明者】
【氏名】近藤 佑介
(57)【要約】
【課題】環境負荷の低減や低コスト化を図りつつ、電解液における遊離酸の濃度を目標とする濃度に効率よく制御する陽極酸化処理品の製造方法および陽極酸化処理の電解浴管理装置を提供すること。
【解決手段】本発明の陽極酸化処理品の製造方法は、金属の陽極酸化処理を行い、陽極酸化処理品を得る方法であって、前記陽極酸化処理を行う処理槽から電解液をクロマト分離カラムに送液する送液工程と、前記クロマト分離カラムにおいて、前記電解液に含まれる金属塩および遊離酸を互いに分離する分離工程と、分離された前記金属塩を廃液として回収する廃液回収工程と、前記廃液回収工程の後、分離された前記遊離酸を回収し、前記処理槽に戻す遊離酸回収工程と、前記電解液における前記遊離酸の濃度を求め、前記遊離酸の濃度に基づいて設定された補給量の酸を前記処理槽に補給する酸補給工程と、を有することを特徴とする陽極酸化処理品の製造方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の陽極酸化処理を行い、陽極酸化処理品を得る方法であって、
前記陽極酸化処理を行う処理槽から電解液をクロマト分離カラムに送液する送液工程と、
前記クロマト分離カラムにおいて、前記電解液に含まれる金属塩および遊離酸を互いに分離する分離工程と、
分離された前記金属塩を廃液として回収する廃液回収工程と、
前記廃液回収工程の後、分離された前記遊離酸を回収し、前記処理槽に戻す遊離酸回収工程と、
前記電解液における前記遊離酸の濃度を求め、前記遊離酸の濃度に基づいて設定された補給量の酸を前記処理槽に補給する酸補給工程と、
を有することを特徴とする陽極酸化処理品の製造方法。
【請求項2】
前記酸補給工程では、前記遊離酸の濃度、および、前記クロマト分離カラムに送液される前記電解液の送液量に基づいて、前記補給量を設定する請求項1に記載の陽極酸化処理品の製造方法。
【請求項3】
前記送液工程の開始から前記酸補給工程の終了までを稼働サイクルとするとき、
インターバルタイマーによって前記稼働サイクル同士の間に停止期間を設定し、前記停止期間を空けながら前記稼働サイクルを繰り返す請求項1または2に記載の陽極酸化処理品の製造方法。
【請求項4】
前記酸補給工程では、前記電解液の比重に基づいて、前記遊離酸の濃度を測定する請求項1または2に記載の陽極酸化処理品の製造方法。
【請求項5】
金属の陽極酸化処理に用いられた電解液を貯留する処理槽から前記電解液が通液され、前記電解液に含まれる金属塩および遊離酸を互いに分離するクロマト分離カラムと、
前記処理槽に貯留されている前記電解液を前記クロマト分離カラムに送液する送液部と、
分離された前記金属塩を含む液を廃液として回収する廃液回収部と、
前記金属塩を回収した後、分離された前記遊離酸を含む液を回収し、前記処理槽に戻す遊離酸回収部と、
前記遊離酸の濃度に基づいて設定された補給量の酸を前記処理槽に補給する酸補給部と、
を備えることを特徴とする陽極酸化処理の電解浴管理装置。
【請求項6】
前記酸補給部の動作を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記遊離酸の濃度、および、前記送液部が前記クロマト分離カラムに送液した前記電解液の送液量、に基づいて前記補給量を設定する請求項5に記載の陽極酸化処理の電解浴管理装置。
【請求項7】
前記処理槽から前記クロマト分離カラムへの前記電解液の送液の開始から、酸を補給し終えるまで、の動作を稼働サイクルとするとき、
前回の前記稼働サイクルの終了から次回の前記稼働サイクルの開始までの停止期間を設定するインターバルタイマーを備え、
前記インターバルタイマーは、前記停止期間を空けながら前記稼働サイクルを繰り返し行わせる請求項5または6に記載の陽極酸化処理の電解浴管理装置。
【請求項8】
前記酸補給部は、前記電解液の比重に基づいて前記遊離酸の濃度を検出する機能を有する請求項5または6に記載の陽極酸化処理の電解浴管理装置。
【請求項9】
前記送液部、前記廃液回収部、前記遊離酸回収部および前記酸補給部の各動作を制御する制御装置を備える請求項5に記載の陽極酸化処理の電解浴管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽極酸化処理品の製造方法および陽極酸化処理の電解浴管理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルマイト処理のような金属の陽極酸化処理では、稼働に伴って金属イオンが溶出する。陽極酸化処理では、この金属イオンの濃度が上限値を超えないように維持する必要がある。このため、従来は、電解液の入れ替えを定期的に行うことで、金属イオンの濃度を維持している。一方、電解液の入れ替えにより、電解液に含まれる酸も廃棄されることになる。しかしながら、環境負荷の低減や廃液の中和に要するコスト低減への要請から、従来は廃棄されていた酸を回収して、再使用することが求められている。
【0003】
特許文献1には、陰イオン交換樹脂粒子の固定床を有するカラムと、遊離酸および金属陽イオンを含有する液をカラムに供給し、遊離酸を回収して再利用する装置と、金属陽イオンや金属塩を豊富に含む酸性液を排出する装置と、を備える回収装置が開示されている(特許文献1の請求項7)。
【0004】
また、特許文献1には、回収した遊離酸を再利用するとき、回収液に遊離酸を追加することで、回収液における遊離酸の濃度を調整することも開示されている(特許文献1の段落[0044])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、どのような基準に基づいて回収液に遊離酸を追加するかについて、開示されていない。このため、特許文献1に記載の回収装置では、電解液における遊離酸の濃度を、目標とする濃度に維持するといった制御は困難である。
【0007】
そこで、環境負荷の低減や低コスト化を図りつつ、電解液における遊離酸の濃度を目標とする濃度に効率よく制御する陽極酸化処理品の製造方法および陽極酸化処理の電解浴管理装置の実現が課題となっている。
【0008】
本発明の目的は、環境負荷の低減や低コスト化を図りつつ、電解液における遊離酸の濃度を目標とする濃度に効率よく制御する陽極酸化処理品の製造方法および陽極酸化処理の電解浴管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)~(9)の本発明により達成される。
(1) 金属の陽極酸化処理を行い、陽極酸化処理品を得る方法であって、
前記陽極酸化処理を行う処理槽から電解液をクロマト分離カラムに送液する送液工程と、
前記クロマト分離カラムにおいて、前記電解液に含まれる金属塩および遊離酸を互いに分離する分離工程と、
分離された前記金属塩を廃液として回収する廃液回収工程と、
前記廃液回収工程の後、分離された前記遊離酸を回収し、前記処理槽に戻す遊離酸回収工程と、
前記電解液における前記遊離酸の濃度を求め、前記遊離酸の濃度に基づいて設定された補給量の酸を前記処理槽に補給する酸補給工程と、
を有することを特徴とする陽極酸化処理品の製造方法。
【0010】
(2) 前記酸補給工程では、前記遊離酸の濃度、および、前記クロマト分離カラムに送液される前記電解液の送液量に基づいて、前記補給量を設定する上記(1)に記載の陽極酸化処理品の製造方法。
【0011】
(3) 前記送液工程の開始から前記酸補給工程の終了までを稼働サイクルとするとき、
インターバルタイマーによって前記稼働サイクル同士の間に停止期間を設定し、前記停止期間を空けながら前記稼働サイクルを繰り返す上記(1)または(2)に記載の陽極酸化処理品の製造方法。
【0012】
(4) 前記酸補給工程では、前記電解液の比重に基づいて、前記遊離酸の濃度を測定する上記(1)または(2)に記載の陽極酸化処理品の製造方法。
【0013】
(5) 金属の陽極酸化処理に用いられた電解液を貯留する処理槽から前記電解液が通液され、前記電解液に含まれる金属塩および遊離酸を互いに分離するクロマト分離カラムと、
前記処理槽に貯留されている前記電解液を前記クロマト分離カラムに送液する送液部と、
分離された前記金属塩を含む液を廃液として回収する廃液回収部と、
前記金属塩を回収した後、分離された前記遊離酸を含む液を回収し、前記処理槽に戻す遊離酸回収部と、
前記遊離酸の濃度に基づいて設定された補給量の酸を前記処理槽に補給する酸補給部と、
を備えることを特徴とする陽極酸化処理の電解浴管理装置。
【0014】
(6) 前記酸補給部の動作を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記遊離酸の濃度、および、前記送液部が前記クロマト分離カラムに送液した前記電解液の送液量、に基づいて前記補給量を設定する上記(5)に記載の陽極酸化処理の電解浴管理装置。
【0015】
(7) 前記処理槽から前記クロマト分離カラムへの前記電解液の送液の開始から、酸を補給し終えるまで、の動作を稼働サイクルとするとき、
前回の前記稼働サイクルの終了から次回の前記稼働サイクルの開始までの停止期間を設定するインターバルタイマーを備え、
前記インターバルタイマーは、前記停止期間を空けながら前記稼働サイクルを繰り返し行わせる上記(5)または(6)に記載の陽極酸化処理の電解浴管理装置。
【0016】
(8) 前記酸補給部は、前記電解液の比重に基づいて前記遊離酸の濃度を検出する機能を有する上記(5)または(6)に記載の陽極酸化処理の電解浴管理装置。
【0017】
(9) 前記送液部、前記廃液回収部、前記遊離酸回収部および前記酸補給部の各動作を制御する制御装置を備える上記(5)に記載の陽極酸化処理の電解浴管理装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る陽極酸化処理品の製造方法および陽極酸化処理の電解浴管理装置によれば、環境負荷の低減や低コスト化を図りつつ、電解液における遊離酸の濃度を目標とする濃度に効率よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る陽極酸化処理の電解浴管理装置を示す概略図である。
【
図2】実施形態に係る陽極酸化処理品の製造方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の陽極酸化処理品の製造方法および陽極酸化処理の電解浴管理装置について添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
1.陽極酸化処理の電解浴管理装置
まず、実施形態に係る陽極酸化処理の電解浴管理装置について説明する。
図1は、実施形態に係る陽極酸化処理の電解浴管理装置1を示す概略図である。なお、
図1では、鉛直軸をZ軸とし、矢印で示している。そして、矢印の先端方向を「上」、矢印の基端方向を「下」とする。
【0022】
図1に示す陽極酸化処理の電解浴管理装置1は、クロマト分離カラム3と、送液部4と、廃液回収部5と、遊離酸回収部6と、酸補給部7と、制御装置8と、を備える。以下、陽極酸化処理の電解浴管理装置を「電解浴管理装置」と省略する。電解浴管理装置1は、
図1に示す処理槽2に接続され、処理槽2内に貯留されている電解液を適切に管理するための装置である。
【0023】
1.1.処理槽
処理槽2は、金属の陽極酸化処理に用いられる電解液を貯留する容器である。金属の陽極酸化処理は、アルミニウム、チタン、マグネシウム等の金属を陽極とし、電解液中で電解することによって酸素を生じさせ、金属表面に酸化皮膜を形成する表面処理技術である。金属の陽極酸化処理を行う場合、この処理槽2に貯留されている電解液に被処理品を浸漬させる。金属の陽極酸化処理を行うと、電解液の組成が徐々に変化する。具体的には、金属陽イオンの濃度が上昇するとともに、遊離酸の濃度が低下する。なお、電解液中では、金属陽イオンは、主に遊離酸の塩として存在している。本明細書では、金属陽イオンの遊離酸の塩を「金属塩」という。したがって、金属の陽極酸化処理に用いられた後の電解液は、初期よりも濃度が上昇した金属塩と、初期よりも濃度が低下した遊離酸と、を含んでいる。実施形態に係る電解浴管理装置1は、この電解液をクロマト分離カラム3に送液し、遊離酸を回収して処理槽2に戻すとともに、金属塩を廃液として回収する。これにより、遊離酸の再使用が可能になるため、環境負荷の低減および低コスト化を図ることができる。なお、以下の説明では、金属の陽極酸化処理に用いられた後の電解液を「電解液EL」という。
【0024】
金属塩における金属としては、例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、チタン、マグネシウム等が挙げられる。
遊離酸としては、例えば、硫酸、硝酸、シュウ酸、リン酸、クロム酸等が挙げられる。
【0025】
1.2.クロマト分離カラム
クロマト分離カラム3は、例えば樹脂製の筒体32と、その筒体32に充填されている固定相34と、を有する。筒体32は、必要に応じて、固定相34を支持するための多孔板等を有していてもよい。固定相34は、例えば陰イオン交換樹脂粒子を含む。
【0026】
クロマト分離カラム3では、陰イオン交換樹脂粒子によるアシッドリタデーションにより、遊離酸が固定相34を通過する速度が遅くなり、金属塩が先に固定相34を通過する。これを利用して、クロマト分離カラム3では、電解液ELに含まれる金属塩および遊離酸を互いに分離する。電解液ELがクロマト分離カラム3に送液されると、分離された金属塩を含む液が先に排出される。これにより、クロマト分離カラム3によって金属塩の量を減少させることができる。後述する廃液回収部5は、これを廃液として回収する。廃液が排出された後、水をクロマト分離カラム3に通液することで、遊離酸を含む液(遊離酸含有液)が排出される。遊離酸回収部6は、この遊離酸含有液を処理槽2に戻し、再使用に供する。
【0027】
陰イオン交換樹脂粒子は、後述する金属塩と遊離酸とで流出速度に十分な差が生じるように、金属塩に対して相互作用を示す範囲において適宜選択される。陰イオン交換樹脂粒子としては、特に限定されないが、例えば、三菱ケミカル社製のダイヤイオン(登録商標)、ピュロライト社製のピュロライト(登録商標)、ダウ・ケミカル社製のダウエックス(登録商標)等が挙げられる。
【0028】
陰イオン交換樹脂粒子の粒径は、上記の流出速度差をもたらす範囲において適宜設定されればよい。具体的には、陰イオン交換樹脂粒子の粒径は、0.1mm以上であることが好ましく、0.15mm以上であることがより好ましく、0.2mm以上であることがさらに好ましい。これにより、電解液EL等の流体の、陰イオン交換樹脂粒子による圧力損失を抑制することができる。
【0029】
また、陰イオン交換樹脂粒子の粒径は、0.5mm以下であることが好ましく、0.4mm以下であることがより好ましく、0.3mm以下であることがさらに好ましい。さらに、陰イオン交換樹脂粒子の粒径は、均一であることが好ましい。これにより、電解液EL等の流体と陰イオン交換樹脂粒子とを十分に接触させることができる。
【0030】
なお、陰イオン交換樹脂粒子の粒径が前記下限値を下回ると、圧力損失が大きくなり、筒体32の耐圧性を高める必要が生じるおそれがある。一方、陰イオン交換樹脂粒子の粒径が前記上限値を上回ると、電解液EL等の流体と陰イオン交換樹脂粒子との接触性が不十分となるため、例えば遊離酸の回収率が低下するおそれがある。
なお、陰イオン交換樹脂粒子の粒径は、体積基準のメジアン径(D50)である。
【0031】
1.3.送液部
送液部4は、処理槽2に貯留されている電解液ELをクロマト分離カラム3に送液する。
図1に示す送液部4は、配管42と、送液ポンプ44と、送液バルブ46と、を有する。配管42は、処理槽2とクロマト分離カラム3とを接続する。送液ポンプ44は、配管42に設けられ、所定量の電解液ELを処理槽2からクロマト分離カラム3に送液する。送液バルブ46は、配管42に設けられ、配管42を開閉する。送液ポンプ44の動作および送液バルブ46の動作は、制御装置8によって制御される。
【0032】
なお、送液部4の構成は、
図1に示す構成に限定されない。例えば、処理槽2と送液ポンプ44との間には、図示しないポンプおよび開放タンクが追加されていてもよい。この場合、図示しないポンプにより処理槽2の電解液ELを開放タンクに送液し、その後、送液ポンプ44でクロマト分離カラム3に送液する。これにより、電解液ELとともにエアーが巻き込まれて送液された場合でも、開放タンクで脱気できるため、クロマト分離カラム3へのエアーの混入を抑制できる。
【0033】
1.4.廃液回収部
廃液回収部5は、クロマト分離カラム3から廃液を回収する。
図1に示す廃液回収部5は、配管52と、廃液タンク54と、廃液バルブ56と、を有する。配管52は、クロマト分離カラム3と廃液タンク54とを接続する。廃液タンク54は、回収した廃液を貯留する。廃液バルブ56は、配管52に設けられ、配管52を開閉する開閉バルブである。廃液バルブ56の動作は、制御装置8によって制御される。
【0034】
1.5.遊離酸回収部
遊離酸回収部6は、クロマト分離カラム3から遊離酸含有液を回収し、処理槽2に戻す。
図1に示す遊離酸回収部6は、通水回路62と、遊離酸還流回路64と、を有する。
【0035】
このうち、通水回路62は、クロマト分離カラム3から回収した水を、一時的に貯留する機能、および、貯留した水と図示しない水源から供給される水をクロマト分離カラム3に通液する機能、を有する回路である。
図1に示す通水回路62は、配管622と、通水ポンプ624と、通水バルブ626と、配管628と、貯水バルブ630と、水源バルブ634と、貯水タンク632と、を含む。
【0036】
配管622は、水源とクロマト分離カラム3とを接続する。通水ポンプ624は、配管622に設けられ、所定量の水をクロマト分離カラム3に通液する。通水バルブ626は、配管622に設けられ、配管622を開閉する。通水ポンプ624の動作および通水バルブ626、水源バルブ634の動作は、制御装置8によって制御される。
【0037】
配管628は、通水ポンプ624の下流側と上流側との間を迂回するように配設されている。貯水バルブ630は、配管628に設けられ、配管628を開閉する。貯水バルブ630の動作は、制御装置8によって制御される。貯水タンク632は、配管628の途中に設けられ、クロマト分離カラム3から回収した水を一時的に貯留する。
【0038】
また、遊離酸還流回路64は、クロマト分離カラム3で分離された遊離酸を含む遊離酸含有液を、処理槽2に戻す回路である。
図1に示す遊離酸還流回路64は、配管642と、還流バルブ644と、を含む。配管642は、クロマト分離カラム3と処理槽2とを接続する。還流バルブ644は、配管642に設けられ、配管642を開閉する。還流バルブ644の動作は、制御装置8によって制御される。
【0039】
1.6.酸補給部
酸補給部7は、電解液ELにおける遊離酸の濃度に基づいて求められた、必要な補給量の酸を処理槽2に補給する。換言すれば、酸補給部7は、廃液回収部5や遊離酸回収部6の動作によって減少した酸成分を補給する機能を有する。
図1に示す酸補給部7は、配管72と、酸タンク74と、酸補給バルブ76と、酸補給ポンプ78と、濃度検出部79と、を有する。
【0040】
配管72は、酸タンク74と配管642とを接続する。酸タンク74は、補給するための酸を貯留する。酸タンク74に貯留されている酸は、配管72および配管642を介して、処理槽2に補給される。酸補給バルブ76は、配管72に設けられ、配管72を開閉する開閉バルブである。酸補給ポンプ78は、配管72に設けられ、所定量の酸を配管642に注入する。酸補給バルブ76の動作および酸補給ポンプ78の動作は、制御装置8によって制御される。濃度検出部79は、電解液ELにおける遊離酸の濃度を検出するセンサーである。濃度検出部79としては、例えば、電解液ELの比重に基づいて遊離酸の濃度を測定する比重計、中和滴定により遊離酸の濃度を測定する滴定装置等が挙げられる。濃度検出部79による濃度の検出結果は、制御装置8に入力される。なお、濃度検出部79は、必要に応じて設けられればよく、省略されていてもよい。
【0041】
また、酸補給部7は、処理槽2に対して酸を直接補給するようになっていてもよいが、本実施形態では、遊離酸回収部6が有する配管642に対して配管72を接続し、配管642を流れる遊離酸含有液に酸を注入するようになっている。このような構成によれば、酸を偏在させることなく、均一に混和させた状態で処理槽2に対して補給することができる。これにより、より均一な電解液を建浴することができる。
【0042】
1.7.制御装置
制御装置8は、送液部4、廃液回収部5、遊離酸回収部6および酸補給部7の各動作を制御する。制御装置8と各部との間は、図示しない配線を介して電気的に接続されている。なお、配線に代えて無線通信可能になっていてもよい。
図1に示す制御装置8は、機能部として、送液制御部84、廃液回収制御部85、遊離酸回収制御部86、酸補給制御部87、上位制御部88、および、インターバルタイマー89を有する。
【0043】
送液制御部84は、例えば、後述する算出方法で算出した送液量に基づいて送液部4の動作を制御する。廃液回収制御部85は、廃液タンク54に回収する廃液量を設定し、それに基づいて廃液回収部5の動作を制御する。遊離酸回収制御部86は、後述する算出方法で算出した通液水量に基づいて遊離酸回収部6の動作を制御する。酸補給制御部87は、処理槽2に対する酸の補給量を設定し、それに基づいて酸補給部7の動作を制御する。上位制御部88は、各制御部による制御を開始または終了を統括する。電解液ELの送液の開始から、酸を補給し終えるまで、の動作を稼働サイクルとするとき、インターバルタイマー89は、前回の稼働サイクルの終了から次回の稼働サイクルの開始までの停止期間を設定する。そして、前回の稼働サイクルの終了後、あらかじめ定めた停止期間を空けて、次回の稼働サイクルを開始するように、各制御部の動作を制御する。
【0044】
なお、制御装置8は、上述した機能部の全てを有している必要はなく、一部または全部が省略されていてもよいし、2つ以上の機能部が1つに統合されていてもよい。機能部が省略されている場合、省略された機能部の機能を作業者が代替して行うようにすればよい。一方、制御装置8が上述した機能部を有していれば、電解浴管理装置1を自動で動作させることができるので、作業者の負担を軽減することができる。
【0045】
制御装置8の各機能部の機能は、例えば、プロセッサー、メモリーおよび外部インターフェースを備えるハードウェアにおいて、メモリーに格納されているプログラムをプロセッサーが読み出して実行することによって実現される。プロセッサーとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)等が挙げられる。メモリーとしては、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等が挙げられる。外部インターフェースは、CPUやメモリーが接続されている図示しない外部バスと、電解浴管理装置1が備える制御装置8以外の各部と、を接続する機器である。以上のようなハードウェアとして、例えばパーソナルコンピューター、タブレット端末、マイコン基板等が挙げられる。なお、プログラムは、通信ネットワーク等の伝送媒体を介して提供されてもよい。
【0046】
また、各機能部の機能の少なくとも一部は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で実現されていてもよい。
【0047】
また、制御装置8は、図示しない入力部や出力部を備えていてもよい。入力部は、作業者による各種情報の入力を受け付ける。入力部としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等が挙げられる。出力部は、作業者への報知のため、各種情報を表示する。表示部としては、例えば、液晶表示装置、有機EL装置等が挙げられる。
【0048】
以上、電解浴管理装置1について説明したが、電解浴管理装置1は、上記の構成の他、例えば、pHセンサー等を備えていてもよい。また、本実施形態では、上記のバルブおよびポンプの動作は全てが制御装置8で制御されるが、少なくとも一部の動作を手動で行うようになっていてもよい。
【0049】
2.陽極酸化処理品の製造方法
次に、実施形態に係る陽極酸化処理品の製造方法について説明する。
【0050】
陽極酸化処理品とは、素材に対して陽極酸化処理を施してなる製品のことを指す。陽極酸化処理を施すことにより、素材の表面に酸化皮膜を形成することができる。この酸化皮膜は、素材に対し、優れた耐食性、耐摩耗性、絶縁性、美観性等を付与する。一方、陽極酸化処理に伴って、電解液ELの劣化、具体的には、金属陽イオンの濃度の上昇、および、遊離酸の濃度の低下を招く。劣化した電解液ELを用いた場合、陽極酸化処理品の品質低下を招く。
【0051】
そこで、実施形態に係る陽極酸化処理品の製造方法では、環境負荷の低減や低コスト化を図りつつ、電解液ELにおける遊離酸および金属塩の濃度を、目標とする濃度に効率よく制御することを目的とする。
【0052】
図2は、実施形態に係る陽極酸化処理品の製造方法を説明するための工程図である。
図2に示す陽極酸化処理品の製造方法は、陽極酸化処理工程S102と、送液工程S104と、分離工程S106と、廃液回収工程S108と、遊離酸回収工程S110と、酸補給工程S112と、判断工程S114と、待機工程S116と、を有する。本製造方法では、これらの工程を繰り返すことにより、電解液ELにおける遊離酸の濃度を、目標とする濃度に維持することができる。なお、本明細書では、送液工程S104から酸補給工程S112までを「稼働サイクル」ともいう。また、以下の説明では、前述した電解浴管理装置1を用いた方法を例に説明する。
【0053】
2.1.陽極酸化処理工程
陽極酸化処理工程S102では、電解液を貯留した処理槽2に素材を浸漬する。そして、素材を陽極とした電解処理により、素材の表面に酸化皮膜を形成する。これにより、陽極酸化処理品を得る。陽極酸化処理品の製造に伴って、電解液中では、素材から溶出した金属陽イオンが金属塩を生成し、その濃度が徐々に上昇する。また、それとともに、遊離酸の濃度が徐々に低下する。その結果、陽極酸化処理の開始時よりも劣化した電解液ELが生じる。
【0054】
2.2.送液工程
送液工程S104では、送液制御部84によって送液部4の動作が制御され、処理槽2に貯留されている電解液ELを、所定の送液量でクロマト分離カラム3に送液する。クロマト分離カラム3には、あらかじめ陰イオン交換樹脂粒子と水を充填しておく。送液部4によって電解液ELが送液されると、クロマト分離カラム3に充填されている水は下方から上方に向かって電解液ELで置換される。なお、クロマト分離カラム3に充填しておく水は、好ましくは純水であるが、その他の水、例えばイオン交換水や工業用水等であってもよい。
【0055】
また、送液工程S104では、廃液バルブ56を閉じる。さらに、通水バルブ626を開くとともに、貯水バルブ630と水源バルブ634を閉じる。電解液ELを送液によってクロマト分離カラム3の上方から流出する水は、配管622を介して貯水タンク632に貯留される。
【0056】
送液部4による送液量は、例えば、筒体32の内容積の90~130%程度とすることが好ましく、95~125%程度とすることがより好ましい。一例として、クロマト分離カラム3の筒体32の内容積が21Lである場合、送液量を20.5~26.5L程度とすることができる。
【0057】
なお、送液工程S104の実行に先立ち、処理槽2から送液バルブ46までの配管42内を、あらかじめ電解液ELで満たしておいてもよい。その場合、送液ポンプ44と送液バルブ46との間から分岐して処理槽2に戻る図示しないバイパスラインと、そのバイパスラインに設けた図示しないリリーフ弁と、を設けるようにしてもよい。これらを経由させることで、前述した配管42内を電解液ELで満たすことができる。
【0058】
送液量を前記範囲内に設定することで、回収されずに排出されてしまう遊離酸の量が多くなるのを防ぐとともに、電解液ELに含まれる金属塩を分離して濃度を十分に低下させることができる。
【0059】
なお、前記範囲に対して送液量が少なすぎると、廃液量が少なくなるため、結果的に、金属塩の濃度を十分に低下させることができないおそれがある。一方、前記範囲に対して送液量が多すぎると、廃液として排出される遊離酸の量が多くなるため、中和処理に必要なアルカリ量が多くなるおそれがある。この場合、環境負荷が増大するとともに、中和処理の高コスト化を招くことがある。
【0060】
電解液ELがクロマト分離カラム3を充填するまでの間は、上方から水が流出するため、これを貯水タンク632に貯留する。電解液ELの送液によってクロマト分離カラム3の充填が完了すると、通水バルブ626を閉じて、廃液バルブ56を開く。
【0061】
2.3.分離工程
分離工程S106では、クロマト分離カラム3において、電解液ELに含まれる金属塩および遊離酸を互いに分離する。この分離には、固定相34を通過する双方の速度差を利用する。
【0062】
電解液ELの充填完了後、クロマト分離カラム3の上方からは、電解液ELと固定相34との相互作用によって生じた液が排出されるようになる。前述したように、遊離酸が固定相34を通過する速度よりも、金属塩が固定相34を通過する速度の方が大きいため、分離された金属塩を含む液、すなわち廃液がクロマト分離カラム3から排出される。
【0063】
例えば、電解液ELの送液量が27Lで、クロマト分離カラム3にあらかじめ充填されていた水の量が9Lである場合、9Lを送液した時点で、通水バルブ626を閉じて、廃液バルブ56を開け、さらに、残りの分を送液すればよい。送液量は、電解液ELの送液量を積算可能な積算流量計または送液ポンプ44の動作状態等から把握することができる。
【0064】
一方、遊離酸は、固定相34に捕捉される。このため、遊離酸の量に対する金属塩の量の比が電解液ELよりも高くなった液が、廃液として生じる。
【0065】
2.4.廃液回収工程
電解液ELの充填完了後、廃液回収工程S108では、廃液回収制御部85によって廃液回収部5の動作が制御され、通水バルブ626を閉じて、廃液バルブ56を開く。これにより、クロマト分離カラム3から排出された廃液を、配管52を介して廃液タンク54に回収する。例えば、電解液ELの送液量が27Lで、クロマト分離カラム3にあらかじめ充填されていた水の量が9Lである場合、廃液量は18Lとなる。
【0066】
回収した廃液には、金属塩の処理方法に応じた適切な処理を施せばよい。例えば、廃液には、遊離酸が混入していて酸性を示すため、廃液を水酸化ナトリウム等のアルカリによって中和し、必要に応じて希釈する処理を行えばよい。このような処理を行うことで、処理後の廃液を放流することが可能になる。
【0067】
2.5.遊離酸回収工程
遊離酸回収工程S110では、遊離酸回収制御部86によって遊離酸回収部6の動作が制御され、廃液回収工程S108で分離された遊離酸を回収し、処理槽2に戻す。具体的には、まず、廃液バルブ56を閉じた後、通水バルブ626および貯水バルブ630を開く。そして、通水ポンプ624を動作させ、貯水タンク632に貯留されている水をクロマト分離カラム3に通液させる。貯水タンク632が空になったら、貯水バルブ630を閉じ、水源バルブ634を開ける。これにより、引き続き、図示しない水源からクロマト分離カラム3に水が供給される。固定相34と水とが接触すると、固定相34と相互作用している遊離酸が水に放出される。その結果、遊離酸を含む液(遊離酸含有液)が生成される。この遊離酸含有液は、ドナン効果によって初期には電解液ELよりも遊離酸の濃度が高くなる。なお、本工程で通液させる水は、好ましくは純水であるが、その他の水、例えばイオン交換水や工業用水等であってもよい。
【0068】
また、遊離酸回収工程S110では、還流バルブ644を開く。クロマト分離カラム3で生成された遊離酸含有液は、配管642を介して処理槽2に還流する。電解浴管理装置1では、このようにして遊離酸を回収することにより、遊離酸の排出量を減らすことができる。その結果、補給すべき酸の量を減らすことができるので、陽極酸化処理品の製造において環境負荷の低減および低コスト化を図ることができる。
【0069】
なお、クロマト分離カラム3における水の通液方向は、特に限定されないが、好ましくは電解液ELの送液方向と逆方向に設定される。本実施形態では、クロマト分離カラム3の下方から上方に向かって電解液ELが送液されている。このため、水の通液方向は、クロマト分離カラム3の上方から下方へ向かう方向であるのが好ましい。
【0070】
遊離酸回収部6による水の通液量は、送液部4による送液量や酸補給部7による酸補給量等に応じて設定され、特に限定されないが、一例として、送液部4による送液量と酸補給部7による酸補給量との差に対して体積比で0.6倍以上1.3倍以下であるのが好ましく、0.8倍以上1.2倍以下であるのがより好ましく、0.85倍以上1.1倍以下であるのがさらに好ましい。遊離酸含有液を回収し、還流させることを踏まえると、これらの液の収支を合わせることが、陽極酸化処理品の製造プロセスを安定して継続する観点から有用である。なお、水の通液量の算出例を挙げると、送液部4による送液量が26Lであり、酸補給部7による酸補給量が2Lである場合、水の通液量を24L(送液量と酸補給量の差の約1.0倍)とすることができる。
【0071】
なお、前記範囲に対して水の通液量が少なすぎると、固定相34からの遊離酸の回収が不十分となるおそれがある。一方、前記範囲に対して水の通液量が多すぎると、処理槽2に貯留されている電解液ELの液量の増加や、電解液ELの遊離酸濃度が低下するといった液の収支のバランスが崩れるおそれがある。
【0072】
2.6.酸補給工程
酸補給工程S112では、酸補給制御部87によって酸補給部7の動作が制御され、酸補給制御部87が設定した補給量の酸を処理槽2に補給する。酸補給制御部87は、例えば以下のような手順で、酸の補給量を決定する。
【0073】
(1)電解液ELにおける遊離酸の濃度を求める
(2)遊離酸含有液の還流によって減少した酸の量を求める
(3)廃液の排出によって減少した酸の量を求める
(4)手順(1)~(3)の計算結果から、酸の補給量を算出する
【0074】
手順(1)では、電解液ELにおける遊離酸の濃度を求める。遊離酸の濃度は、処理槽2に貯留されている電解液ELや配管42を流れる電解液ELにおいて測定された値であってもよいし、過去の実績(遊離酸の濃度変化の実績)に基づいて推定された値であってもよい。
【0075】
前者の場合、例えば
図1に示す濃度検出部79の検出結果を用いることで、遊離酸の濃度を測定する。濃度検出部79としては、前述したように、比重計や滴定装置等が挙げられるが、このうち、比重計を用いた測定では、電解液ELが含む金属量を推定し、それを比重計の計測値から差し引くことにより、遊離酸の濃度を推定することが可能である。一方、滴定装置を用いた方法では、電解液ELのサンプルを採取し、例えば水酸化ナトリウム水溶液等の滴定液を用いて中和滴定を行うことにより、遊離酸の濃度を推定することが可能である。
【0076】
また、濃度検出部79としてデジタル比重計や自動滴定装置を用いれば、制御装置8は、これらの機器から遊離酸の濃度の測定結果を取得することができる。一方、制御装置8に接続された図示しない入力部を介して、作業者が測定結果を入力するようにしてもよい。
【0077】
後者の場合、酸補給制御部87は、例えば、電解液の建浴の時刻(前回、酸を補給した時刻)と、建浴後に行った陽極酸化処理の時間と、を取得する。そして、取得したこれらのパラメーターを、過去の実績と照らし合わせることにより、遊離酸の濃度を推定することが可能である。ここでは、一例として、電解液ELについて求められた遊離酸の濃度が200g/Lであるものとする。
【0078】
手順(2)では、遊離酸回収部6の動作によって遊離酸を回収して還流させる過程で減少する酸の量(遊離酸の回収による減少量)を求める。遊離酸の回収における回収率は、過去の実績等を踏まえて決定することができる。ここでは、一例として、回収率が87.7%であるものとする。そうすると、遊離酸の回収における遊離酸の減少率は、1-0.877=0.123となり、12.3%となる。次に、減少率から減少量を算出する。送液工程S104における1稼働サイクルの送液量を22.5Lとした場合、遊離酸の回収における遊離酸の減少量は、減少率、遊離酸の濃度および送液量の積として求められ、0.123×200(g/L)×22.5(L)=553.5g/サイクルとなる。したがって、遊離酸の回収による遊離酸の減少量を補うために1稼働サイクルで補給すべき酸の補給量は、553.5g/サイクルとなる。
【0079】
手順(3)では、廃液回収部5の動作によって廃液を回収する過程で減少する酸の量(廃液の回収による減少量)を求める。廃液中において、酸は、金属塩に含まれた状態で回収される。そこで、まず、1稼働サイクルで回収される廃液に含まれる金属の量を「金属排除量」として算出する。一例として、電解液ELにおける金属濃度を9.5g/Lとし、送液工程S104における1稼働サイクルの送液量を22.5Lとした場合、1稼働サイクル当たりの金属排除量は、9.5(g/L)×9.3=88.35g/サイクルとなる。ここで、9.3は、金属排除倍率であり、1稼働サイクル当たりの金属排除量(g/サイクル)の数値が電解液ELにおける金属濃度(g/L)の数値の何倍であるかを表す係数であって、通常はほぼ一定となるため、既知の値である。次に、求められた金属排除量から、その金属に結合している酸の量を算出する。廃液中における金属は、前述したように、遊離酸の塩として含まれている。そこで、遊離酸の塩を形成する酸と金属の式量比から、金属に結合している酸の量を計算する。ここでは、遊離酸の塩が硫酸アルミニウムである場合を例にする。硫酸アルミニウムは、2モルのアルミニウム(Al)と3モルの硫酸(H2SO4)との化合物であることから、88.35g/サイクルのアルミニウムに結合している硫酸の量は、88.35(g/L)×294/54=481.02g/サイクルと計算できる。この値が、廃液の回収による遊離酸の減少量となる。したがって、廃液の回収による減少量を補うために1稼働サイクルで補給すべき酸の補給量は、481.0g/サイクルとなる。
【0080】
手順(4)では、手順(1)~(3)の計算結果に基づき、酸補給工程S112において補給すべき酸の補給量を算出する。まず、手順(2)および手順(3)で求めた酸の補給量を合算する。上記の例では、553.5+481.0=1034.5g/サイクルが、1稼働サイクルで補給すべき酸の補給量となる。
【0081】
次に、この補給量の酸を補給するため、酸補給部7の動作内容を決定する。酸タンク74に貯留されている酸は、原液ではなく、水溶液の場合もある。ここでは、75%硫酸水溶液である場合を例にする。硫酸の補給量が1034.5g/サイクルである場合、75%硫酸水溶液の量は、1034.5(g/サイクル)/0.75=1379.3(g/サイクル)となる。この量の75%硫酸水溶液を一度に補給してもよいが、ここでは、均一に混和させることを考慮して、配管642を流れる遊離酸含有液に対して75%硫酸水溶液を均等に注入する場合について考える。そこで、遊離酸含有液を還流させる時間を算出し、酸の補給量をこの時間で除することにより、75%硫酸水溶液の補給速度を求める。
【0082】
遊離酸含有液を還流させる時間は、クロマト分離カラム3に対する水の通液量と、通水ポンプ624による1分当たりの水の通液量と、で求められる。例えば、クロマト分離カラム3に対する水の通液量が22.5Lであり、通水ポンプ624による1分当たりの水の通液量が3.5L/分である場合、遊離酸含有液を還流させる時間は、22.5(L)/3.5(L/分)=6.43(分)となる。そうすると、75%硫酸水溶液の補給速度は、1379.3(g/サイクル)/6.43(分)=214.5(g/分)となる。
【0083】
酸補給部7が有する酸補給ポンプ78が定量ポンプである場合、その設定値は、単位時間当たりの体積である。算出した補給速度は、質量基準の速度であるため、75%硫酸水溶液の比重に基づいて、体積基準の速度に変換する。変換の結果、75%硫酸水溶液の補給速度は、214.5(g/分)/1.67(g/mL)=128.4(mL/分)となる。したがって、酸補給制御部87は、このような補給速度を実現できるように、酸補給ポンプ78の動作を制御すればよい。
【0084】
以上のような手順で酸の補給量を決定すれば、酸を補給する前の遊離酸の濃度に基づいて、補給すべき酸の補給量を的確に決定することができる。このため、酸の補給後の電解液において遊離酸の濃度を目標とする濃度に効率よく制御することができる。遊離酸の濃度を目標とする濃度に制御することは、品質の高い酸化皮膜を有する陽極酸化処理品を効率よく製造可能であるという点で有用である。
【0085】
なお、上記のように、遊離酸含有液の還流と75%硫酸水溶液の注入とを同時に行う場合、遊離酸回収工程S110および酸補給工程S112は、実質的に同時に実行されることになるが、これらは、異なるタイミングで実行されてもよい。例えば、処理槽2に対して酸を直接補給する場合には、タイミングをずらして両工程を行うようにしてもよい。また、酸の補給量の決定方法は、上記の方法に限定されず、これ以外の方法であってもよい。
【0086】
以上のような手順を経ることで、遊離酸の濃度を手順(1)で求めた値に維持することができる。その一方、手順(1)で求めた遊離酸の濃度は、目標濃度よりも低い場合もある。このような場合、上記の手順に加え、下記の手順を経ることによって、酸の補給量を調整し、目標濃度に近づけるようにしてもよい。ここでは、比重計を用いて遊離酸の濃度を推定し、その結果に基づいて酸の補給量を調整する例について説明する。
【0087】
下記表1は、電解液ELにおけるアルミニウムの濃度(g/L)と、硫酸の濃度(g/L)と、電解液ELの比重と、の関係を示す表である。電解液ELの比重を求めることは、遊離酸の濃度を簡単に推定できるため有用であるが、比重の測定値には、硫酸の濃度だけでなく、アルミニウムの濃度も反映される。一方、電解液ELにおけるアルミニウムの濃度のバラつきは、±0.5g/L程度の範囲に収まる場合が多い。それを踏まえると、比重の測定値から、遊離酸の濃度を推定することができ、それに基づいて、酸の補給量を調整する必要があるか否かを判断することができる。
【0088】
【0089】
上記表1の例では、比重1.1919をしきい値とし、比重の測定値がしきい値未満である場合には、硫酸の濃度がやや低いと推定できることから補給量を増やす調整が必要であると判断し、比重の測定値がしきい値以上である場合には、硫酸の濃度が十分であると推定できることから補給量の調整は不要であると判断している。上記表1には、補給量の調整の要否を併せて表示している。このように、アルミニウムの濃度が±0.5g/L程度のバラつきであれば、比重の測定値から硫酸の濃度が所定の範囲(例えば195~205g/Lの範囲)内に収まるように、酸の補給量を調整することができる。
【0090】
このような酸の補給量の調整は、次のような意義を持つ。
前述した各工程で減少する遊離酸を補う目的で酸を補給するだけでは、電解液の遊離酸の濃度を目標濃度に維持することが難しい場合もある。例えば、前述した廃液回収部5や遊離酸回収部6以外の経路で酸が減少する場合も考えられる。ところが、上記の手順(2)、(3)では、そのような経路で減少する酸を補給量に反映させることができない。
【0091】
これに対し、上記表1に示すように、電解液ELで求めた遊離酸の濃度に基づいて補給量を調整することにより、電解液の遊離酸の濃度を目標濃度に維持しやすくなる。その結果、より高品質の陽極酸化処理品を製造することが可能になる。なお、酸の補給量の調整幅は、比重の測定値としきい値との差や過去の実績を踏まえて設定すればよい。一例として、しきい値から比重の測定値を引いた差が大きいほど、酸の補給量を増やす方向へ調整幅を大きくすればよい。
【0092】
2.7.判断工程
判断工程S114では、上位制御部88が稼働サイクルを終了するか否かを判断する。稼働サイクルを継続する場合、後述する待機工程S116に移行する。一方、稼働サイクルを継続しない場合、フローを終了する。稼働サイクルを継続しない場合の例としては、例えば、1日当たりの稼働サイクル数が予定値に達した場合等が挙げられる。
【0093】
2.8.待機工程
待機工程S116では、インターバルタイマー89に設定された停止期間に基づいて、工程の進行を待機する。インターバルタイマー89は、前回の稼働サイクルの終了からの経過時間をカウントし、設定された停止期間を経過したら、次回の稼働サイクルを開始させる。インターバルタイマー89は、例えば停止期間が終了したタイミングで制御信号を出力し、この制御信号に基づいて、上位制御部88が各制御部による制御を再開させる。これにより、一定の時間間隔で稼働サイクルを繰り返すことができるので、電解液における金属塩の濃度の変動幅を小さくすることができ、金属塩の濃度を一定の濃度に維持しやすくなる。また、停止期間を最適化することにより、電解液ELにおける金属塩の濃度を、目標とする濃度により近づけることができる。
【0094】
インターバルタイマー89は、例えば、以下のような手順で、停止期間を決定する。
(a)電解液ELにおける1日当たりの金属溶出量を求める
(b)1稼働サイクル当たりの金属排除量(g/サイクル)から、1日当たりの稼働サイクル数を求める
(c)1稼働サイクルの送液量から、1稼働サイクルの所要時間を求める
(d)1日の稼働可能時間および1稼働サイクルの所要時間から停止期間を求める
【0095】
手順(a)では、電解液ELにおける1日当たりの金属溶出量を求める。金属溶出量は、陽極酸化処理の条件、例えば、素材の表面積、素材の個数等に応じて変化する。そこで、過去の建浴の実績を踏まえて、1日当たりの金属溶出量を算出する。例えば、アルミニウムの濃度が10g/Lになった電解液1500Lを、1週間(5日間)に1回、全て入れ替えるという建浴の実績がある場合、1週間当たりの金属溶出量は、10(g/L)×1500(L)=15(kg/週)となる。そうすると、1日当たりの金属溶出量は、3000g/日となる。
【0096】
手順(b)では、1稼働サイクル当たりの金属排除量から、1日当たりの稼働サイクル数を求める。1稼働サイクル当たりの金属排除量は、例えば、電解液ELにおける金属濃度を9.0g/Lとし、送液工程S104における1稼働サイクルの送液量を22.5Lとした場合、9.0(g/L)×9.3=83.7g/サイクルとなる。ここで、9.3は、前述した金属排除倍率である。そうすると、1日当たりの稼働サイクル数は、手順(a)で求めた1日当たりの金属溶出量を、1稼働サイクル当たりの金属排除量で除することによって求められる。すなわち、この場合の1日当たりの稼働サイクル数は、3000(g/日)/83.7(g/サイクル)≒36(サイクル/日)となる。
【0097】
手順(c)では、1稼働サイクルの送液量から、1稼働サイクルの所要時間を求める。下記表2は、1稼働サイクルの送液量と、1稼働サイクルの所要時間と、の関係の5例を示す表である。
【0098】
【0099】
前述した例では、1稼働サイクルの送液量を22.5Lとしていることから、その送液量を上記表2に照らすと、1稼働サイクルの所要時間が約12分であることが求められる。なお、上記表2の例から送液速度を計算すると、1.80~1.93(L/分)程度となり、ほぼ一定であることもわかる。したがって、送液速度に基づいて1稼働サイクルの所要時間を求めるようにしてもよい。なお、1稼働サイクルの所要時間の求め方は、上記の方法に限定されず、他の求め方であってもよい。
【0100】
手順(d)では、1日の稼働可能時間および1稼働サイクルの所要時間から、インターバルタイマー89に設定すべき停止期間を求める。
【0101】
まず、手順(b)で求めた1日当たりの稼働サイクル数は36(サイクル/日)であり、手順(c)で求めた1稼働サイクルの所要時間は約12分である。そうすると、1日当たりの稼働サイクル数の所要時間は、12(分)×36(サイクル/日)=432(分)となる。
【0102】
一方、1日の稼働可能時間を、ここでは8時間(480分)とする。そうすると、1日の稼働可能時間から、1日当たりの稼働サイクル数の所要時間を差し引くと、48分が残余時間となる。この残余時間を、1日の稼働サイクル同士のインターバルで等分すると、48(分)/35=1.37(分)となる。この1.37分(1分22秒)が、インターバルタイマー89に設定すべき停止期間となる。
なお、停止期間の決定方法は、上記の方法に限定されず、これ以外の方法であってもよい。
【0103】
また、上述した陽極酸化処理品の製造方法は、陽極酸化処理の電解浴管理方法を利用して陽極酸化処理品を製造する方法である。したがって、陽極酸化処理の電解浴管理方法は、上述した各工程から陽極酸化処理工程S102を除いたものとみなすことができる。
【0104】
また、
図2に示す各工程の順序は、一例である。したがって、
図2に示す各工程のうち、2つ以上の工程を同時に行うようにしてもよいし、工程の順序を
図2に示す順序から入れ替えてもよい。例えば、前述したように、遊離酸回収工程S110および酸補給工程S112を同時に行ってもよい。その場合、酸補給工程S112の終了が、遊離酸回収工程S110の終了より早くなってもよい。また、陽極酸化処理工程S102と並行して他の工程(送液工程S104、分離工程S106、廃液回収工程S108、遊離酸回収工程S110および酸補給工程S112)を行うようにしてもよい。
【0105】
3.実施形態が奏する効果
以上のように、実施形態に係る陽極酸化処理品の製造方法は、金属の陽極酸化処理を行い、陽極酸化処理品を得る方法であって、送液工程S104と、分離工程S106と、廃液回収工程S108と、遊離酸回収工程S110と、酸補給工程S112と、を有する。送液工程S104では、陽極酸化処理を行う処理槽2から電解液ELをクロマト分離カラム3に送液する。分離工程S106では、クロマト分離カラム3において、電解液ELに含まれる金属塩および遊離酸を互いに分離する。廃液回収工程S108では、分離された金属塩を廃液として回収する。遊離酸回収工程S110では、廃液回収工程S108の後、分離された遊離酸を回収し、処理槽2に戻す。酸補給工程S112では、電解液ELにおける遊離酸の濃度を求め、遊離酸の濃度に基づいて設定された補給量の酸を処理槽2に補給する。
【0106】
以上のような構成によれば、電解液ELに含まれる金属塩および遊離酸を互いに分離し、遊離酸を処理槽2に戻すため、遊離酸の排出量を抑えることができる。これにより、陽極酸化処理品の製造において、環境負荷の低減や低コスト化を図ることができる。また、電解液ELにおける遊離酸の濃度に基づいて設定された補給量の酸を処理槽2に補給するため、電解液における遊離酸の濃度を目標とする濃度に効率よく制御することができる。これにより、高品質な陽極酸化処理品を効率よく製造することができる。
【0107】
また、酸補給工程S112では、遊離酸の濃度、および、クロマト分離カラム3に送液される電解液ELの送液量に基づいて、補給量を設定することが好ましい。
これにより、遊離酸の回収に伴って遊離酸が減少した量を、より正確に算出することができ、その算出結果に基づいて補給量をより正確に求めることができる。その結果、電解液における遊離酸の濃度を目標とする濃度により近づけることができる。
【0108】
また、送液工程S104の開始から酸補給工程S112の終了までを稼働サイクルとするとき、インターバルタイマー89によって稼働サイクル同士の間に停止期間を設定し、停止期間を空けながら稼働サイクルを繰り返すことが好ましい。
【0109】
これにより、一定の時間間隔で稼働サイクルを繰り返すことができるので、電解液における金属塩の濃度の変動幅を小さくすることができ、金属塩の濃度を一定の濃度に維持しやすくなる。また、停止期間を最適化することにより、電解液ELにおける金属塩の濃度を、目標とする濃度により近づけることができる。
【0110】
また、酸補給工程S112では、電解液ELの比重に基づいて、遊離酸の濃度を測定する。これにより、遊離酸の濃度をより簡単な操作で測定することができる。また、測定した遊離酸の濃度と目標とする濃度との差に基づいて、補給量を調整するか否かという判断を的確に行える。これにより、遊離酸の濃度を目標とする濃度により近づけることができる。
【0111】
また、実施形態に係る陽極酸化処理の電解浴管理装置1は、クロマト分離カラム3と、送液部4と、廃液回収部5と、遊離酸回収部6と、酸補給部7と、を備える。クロマト分離カラム3は、金属の陽極酸化処理に用いられた電解液ELを貯留する処理槽2から電解液ELが通液され、電解液ELに含まれる金属塩および遊離酸を互いに分離する。送液部4は、処理槽2に貯留されている電解液ELをクロマト分離カラム3に送液する。廃液回収部5は、分離された金属塩を含む液を廃液として回収する。遊離酸回収部6は、金属塩を回収した後、分離された遊離酸を含む液を回収し、処理槽2に戻す。酸補給部7は、遊離酸の濃度に基づいて設定された補給量の酸を処理槽2に補給する。
【0112】
以上のような構成によれば、電解液ELに含まれる金属塩および遊離酸を互いに分離し、遊離酸を処理槽2に戻すため、遊離酸の排出量を抑え得る電解浴管理装置1が得られる。このような電解浴管理装置1は、陽極酸化処理品の製造において、環境負荷の低減や低コスト化に寄与できる。また、電解浴管理装置1では、電解液ELにおける遊離酸の濃度に基づいて設定された補給量の酸を処理槽2に補給するため、電解液における遊離酸の濃度を目標とする濃度に効率よく制御することができる。これにより、高品質な陽極酸化処理品を効率よく製造することができる。
【0113】
また、実施形態に係る陽極酸化処理の電解浴管理装置1は、制御装置8を備える。制御装置8は、酸補給部7の動作を制御する機能を有する。また、制御装置8は、遊離酸の濃度、および、送液部4がクロマト分離カラム3に送液した電解液ELの送液量、に基づいて補給量を設定する。
【0114】
このような構成によれば、遊離酸の回収に伴って遊離酸が減少した量を、より正確に算出することができ、その算出結果に基づいて補給量をより正確に求めることができる。その結果、電解液における遊離酸の濃度を目標とする濃度により近づけることができる。
【0115】
また、実施形態に係る陽極酸化処理の電解浴管理装置1では、処理槽2からクロマト分離カラム3への電解液ELの送液の開始から、酸を補給し終えるまで、の動作を稼働サイクルとする。そして、電解浴管理装置1は、前回の稼働サイクルの終了から次回の稼働サイクルの開始までの停止期間を設定するインターバルタイマー89を備える。このインターバルタイマー89は、停止期間を空けながら稼働サイクルを繰り返し行わせる。
【0116】
このような構成によれば、一定の時間間隔で稼働サイクルを繰り返すことができるので、電解液における金属塩の濃度の変動幅を小さくすることができ、金属塩の濃度を一定の濃度に維持しやすくなる。また、停止期間を最適化することにより、電解液ELにおける金属塩の濃度を、目標とする濃度により近づけることができる。
【0117】
また、実施形態に係る陽極酸化処理の電解浴管理装置1では、酸補給部7が、電解液ELの比重に基づいて遊離酸の濃度を検出する機能を有している。
【0118】
このような構成によれば、遊離酸の濃度をより簡単な操作で測定することができる。また、測定した遊離酸の濃度と目標とする濃度との差に基づいて、補給量を調整するか否かという判断を的確に行える。これにより、遊離酸の濃度を目標とする濃度により近づけることができる。
【0119】
また、実施形態に係る陽極酸化処理の電解浴管理装置1は、送液部4、廃液回収部5、遊離酸回収部6および酸補給部7の各動作を制御する制御装置8を備える。
【0120】
これにより、各部の動作を制御装置8で一元的に制御し、電解浴管理装置1を自動で動作させることができるので、作業者の負担を軽減することができる。
【0121】
以上、本発明の陽極酸化処理品の製造方法および陽極酸化処理の電解浴管理装置を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0122】
例えば、本発明の陽極酸化処理の電解浴管理装置は、前記実施形態の各部が同様の機能を有する任意の構成のものに置換されたものであってもよく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。また、本発明の陽極酸化処理品の製造方法は、前記実施形態に任意の目的の工程を追加したものであってもよい。
【符号の説明】
【0123】
1 電解浴管理装置
2 処理槽
3 クロマト分離カラム
4 送液部
5 廃液回収部
6 遊離酸回収部
7 酸補給部
8 制御装置
32 筒体
34 固定相
42 配管
44 送液ポンプ
46 送液バルブ
52 配管
54 廃液タンク
56 廃液バルブ
62 通水回路
64 遊離酸還流回路
72 配管
74 酸タンク
76 酸補給バルブ
78 酸補給ポンプ
79 濃度検出部
84 送液制御部
85 廃液回収制御部
86 遊離酸回収制御部
87 酸補給制御部
88 上位制御部
89 インターバルタイマー
622 配管
624 通水ポンプ
626 通水バルブ
628 配管
630 貯水バルブ
632 貯水タンク
634 水源バルブ
642 配管
644 還流バルブ
EL 電解液
S102 陽極酸化処理工程
S104 送液工程
S106 分離工程
S108 廃液回収工程
S110 遊離酸回収工程
S112 酸補給工程
S114 判断工程
S116 待機工程