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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011959
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】無機組成物物品
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/14 20060101AFI20240118BHJP
   C03C 10/12 20060101ALI20240118BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C03C10/14
C03C10/12
C03C21/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114328
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 康平
(72)【発明者】
【氏名】吉川 早矢
(72)【発明者】
【氏名】八木 俊剛
【テーマコード(参考)】
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AA04
4G059AA06
4G059AC16
4G059HB03
4G059HB13
4G059HB14
4G059HB15
4G059HB23
4G062AA01
4G062BB01
4G062CC09
4G062DA06
4G062DA07
4G062DB03
4G062DB04
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4G062HH20
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4G062MM01
4G062MM12
4G062MM23
4G062NN29
4G062NN33
4G062QQ03
4G062QQ09
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、粗い表面に落下した際に割れ難い強化結晶化ガラスを提供することにある。また、CTが高すぎず、CS30を向上させた強化結晶化ガラスを提供することにある。
【解決手段】 主結晶相として、α-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体から選ばれる一種類以上を含有し、酸化物換算の質量%で、SiO成分の含量が50.0%~75.0%、LiO成分の含量が3.0%~10.0%、Al成分の含量が5.0%以上15.0%未満、B成分の含量が0%超10.0%以下、P成分の含量が0%超~10.0%であり、質量比SiO/(B+LiO)が3.0~10.0である強化結晶化ガラスを強化した、表面に圧縮応力層を有し、最表面から30μmの深さの圧縮応力CS30と中心引張応力CTの比(CS30/CT)が1.64超~2.50以下である無機組成物物品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主結晶相として、α-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体から選ばれる一種類以上を含有し、
酸化物換算の質量%で、
SiO成分の含量が50.0%~75.0%、
LiO成分の含量が3.0%~10.0%、
Al成分の含量が5.0%以上15.0%未満、
成分の含量が0%超10.0%以下、
成分の含量が0%超~10.0%であり、
質量比SiO/(B+LiO)が3.0~10.0である結晶化ガラスを強化した、
表面に圧縮応力層を有し、最表面から30μmの深さの圧縮応力CS30と中心引張応力CTの比(CS30/CT)が1.64超~2.50以下である無機組成物物品。
【請求項2】
前記結晶化ガラスが、酸化物換算の質量%で、
ZrO成分の含量が0%超10.0%以下、
Al成分とZrO成分の合計含量が10.0%以上
である請求項1に記載の無機組成物物品。
【請求項3】
前記結晶化ガラスが、酸化物換算の質量%で、
O成分の含量が0%~5.0%
である請求項1または請求項2に記載の無機組成物物品。
【請求項4】
前記結晶化ガラスが、酸化物換算の質量%で、
NaO成分の含量が0%~4.0%、
MgO成分の含量が0%~4.0%、
CaO成分の含量が0%~4.0%、
SrO成分の含量が0%~4.0%、
BaO成分の含量が0%~5.0%、
ZnO成分の含量が0%~10.0%、
Sb成分の含量が0%~3.0%
である請求項1または請求項2に記載の無機組成物物品。
【請求項5】
前記結晶化ガラスが、酸化物換算の質量%で、
Nb成分の含量が0%~5.0%、
Ta成分の含量が0%~6.0%、
TiO成分の含量が0%以上1.0%未満
である請求項1または請求項2に記載の無機組成物物品。
【請求項6】
前記結晶化ガラスの結晶化前のガラスのガラス転移温度(Tg)が、610℃以下である請求項1または請求項2に記載の無機組成物物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に圧縮応力層を有する強化結晶化ガラスなどの無機組成物物品に関する。
【0002】
種々のガラスが、スマートフォン、タブレット型PCなどの携帯電子機器のディスプレイを保護するためのカバーガラスや筐体として、また、車載用の光学機器のレンズを保護するためのプロテクターや内装用のベゼルやコンソールパネル、タッチパネル素材、スマートキーなどとしての使用が期待されている。そして、これらの機器は、過酷な環境での使用が求められ、より高い強度を有するガラスに対する要求が強まっている。
【0003】
従来から、保護部材用途などの材料として化学強化ガラスが用いられている。しかし、従来の化学強化ガラスは、スマートフォンなどの携帯機器が落下した際に破損する事故が多く発生し、問題となっている。特に、アスファルトのような凹凸のある粗い表面に落下した際に割れ難い結晶化ガラスが求められている。
【0004】
中心引張応力CT(MPa)が高いと、ガラスが割れた際にガラスの破片が小さく、木っ端みじんとなる傾向がある。また、ガラスを保護部材等の用途として使用する際、ガラス表面を研磨して使用することがあるが、ガラス表面の研磨を行うとCTが下がるため、研磨前のガラスのCTを高くしておく必要があった。しかしながら、研磨工程がない場合にはCTが高すぎてしまうため、ガラスが割れた際に木っ端みじんになるという問題があった。そこで、CTが高すぎないガラスが求められていた。
【0005】
また、最表面の圧縮応力(CS)および最表面から30μmの深さの圧縮応力(CS30)の値を上げるとサンドペーパーによる落球試験の結果が良好となる傾向がある。
一方、CS30の値を上げるとCTの値が上がる傾向があるため、研磨工程がない場合にも対応できるよう、CTの値を上げすぎず、CS30の値が高いガラスが求められていた。
【0006】
特許文献1には、化学強化可能な情報記録媒体用結晶化ガラス基板の材料組成が開示されている。特許文献1に記載のα-クリストバライト系結晶化ガラスは化学強化が可能であり、強度の高い材料基板として利用できると述べられている。しかし、ハードディスク用基板を代表とする情報記録媒体用結晶化ガラスについては、過酷な環境での使用を想定したものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-254984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、粗い表面に落下した際に割れ難い強化結晶化ガラスなどの無機組成物物品を提供することにある。また、CTが高すぎず、CS30を向上させた強化結晶化ガラスなどの無機組成物物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下を提供する。
(構成1)
主結晶相として、α-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体から選ばれる一種類以上を含有し、
酸化物換算の質量%で、
SiO成分の含量が50.0%~75.0%、
LiO成分の含量が3.0%~10.0%、
Al成分の含量が5.0%以上15.0%未満、
成分の含量が0%超10.0%以下、
成分の含量が0%超~10.0%であり、
質量比SiO/(B+LiO)が3.0~10.0である結晶化ガラスを強化した、
表面に圧縮応力層を有し、最表面から30μmの深さの圧縮応力CS30と中心引張応力CTの比(CS30/CT)が1.64超~2.50以下である無機組成物物品。
(構成2)
前記結晶化ガラスが、酸化物換算の質量%で、
ZrO成分の含量が0%超10.0%以下、
Al成分とZrO成分の合計含量が10.0%以上
である構成1に記載の無機組成物物品。
(構成3)
前記結晶化ガラスが、酸化物換算の質量%で、
O成分の含量が0%~5.0%
である構成1または構成2に記載の無機組成物物品。
(構成4)
前記結晶化ガラスが、酸化物換算の質量%で、
NaO成分の含量が0%~4.0%、
MgO成分の含量が0%~4.0%、
CaO成分の含量が0%~4.0%、
SrO成分の含量が0%~4.0%、
BaO成分の含量が0%~5.0%、
ZnO成分の含量が0%~10.0%、
Sb成分の含量が0%~3.0%
である構成1または構成2に記載の無機組成物物品。
(構成5)
前記結晶化ガラスが、酸化物換算の質量%で、
Nb成分の含量が0%~5.0%、
Ta成分の含量が0%~6.0%、
TiO成分の含量が0%以上1.0%未満
である構成1または構成2に記載の無機組成物物品。
(構成6)
前記結晶化ガラスの結晶化前のガラスのガラス転移温度(Tg)が、610℃以下である構成1または構成2に記載の無機組成物物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、LiOの量をコントロールし、SiOの量及びAlの量を調整することで、粗い表面に落下した際に割れ難い強化結晶化ガラスなどの無機組成物物品を製造しやすく、安定的に製造することができる。また、CTが高すぎず、CS30を向上させた無機組成物物品を提供できる。
【0011】
本発明における「無機組成物物品」とは、ガラス、結晶化ガラス、セラミックス、またはこれらの複合材料などの無機組成物材料から構成される。本発明の物品には、例えば、これら無機材料を加工や化学反応による合成などで所望の形状に成形した物品が該当する。また、無機材料を粉砕後、加圧することで得られる圧粉体や圧粉体を焼結することで得られる焼結体なども該当する。ここで得られる物品の形状は、平滑さ、曲率、大きさなどで限定はされない。例えば、板状の基板であったり、曲率を有する成形体であったり、複雑な形状を有する立体構造体などである。また、無機組成物材料を化学強化したものも該当する。
【0012】
本発明の無機組成物物品は、高い強度と加工性を有するガラス系材料であることを活かして機器の保護部材などに使用することができる。スマートフォンのカバーガラスや筐体、タブレット型PCやウェアラブル端末などの携帯電子機器の部材として利用したり、車や飛行機などの輸送機体で使用される保護プロテクターやヘッドアップディスプレイ用基板などの部材として利用可能である。また、その他の電子機器や機械器具類、建築部材、太陽光パネル用部材、プロジェクタ用部材、眼鏡や時計用のカバーガラス(風防)などに使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の無機組成物物品の実施形態および実施例について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
本発明の無機組成物物品は、表面に圧縮応力層を有し、最表面から30μmの深さの圧縮応力(CS30)が120~320MPaである。CS30が120~320MPaであることにより、粗い表面に落下した際に割れ難くなる。CS30は、好ましくは130~310MPaであり、より好ましくは140~300MPaである。
【0015】
中心引張応力CT(MPa)は、化学強化によるガラスの強化度合の指標となる。CTの値が高いと、ガラスが割れた際の破片が小さく、木っ端みじんとなる傾向がある。したがって、ガラスの耐衝撃性のために、中心引張応力CT(MPa)は、好ましくは80MPa以上、より好ましくは90MPa以上、さらに好ましくは95MPa以上である。上限は例えば、160MPa以下、155MPa以下、または150MPa以下である。このような中心引張応力を有することで、化学強化による所望の強化結晶化ガラスを得ることができる。
【0016】
最表面から30μmの深さの圧縮応力CS30と中心引張応力CTの比、すなわちCS30/CTは、強化結晶化ガラスが木っ端みじんになりすぎず、落下した際に割れ難いガラスの指標となる。落下した際に割れにくいガラスを得るためにCS30の値を向上させると、CTの値も向上する傾向があるが、CTの値を上げ過ぎると、ガラスが割れた際に木っ端みじんになり過ぎてしまう。本発明の強化結晶化ガラスは、使用用途にもよるが、木っ端みじんになり過ぎず、落下した際に割れにくいガラス、すなわちCS30/CTが所望の値である。
本発明の強化結晶化ガラスのCS30/CTの下限は、好ましくは1.64超、より好ましくは1.65以上、さらに好ましくは1.70以上を下限とする。
一方、CS30/CTの上限は、好ましくは2.50以下、より好ましくは2.30以下、さらに好ましくは2.25以下を上限とする。
【0017】
本発明の母材となる結晶化ガラスは、主結晶相としてα-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体から選ばれる一種類以上を含有する。これらの結晶相を析出する結晶化ガラスは高い機械的強度を有する。
ここで本明細書における「主結晶相」とは、X線回折図形のピークから判定される結晶化ガラス中に最も多く含有する結晶相に相応する。
【0018】
本明細書中において、各成分の含有量は、特に断りがない場合、全て酸化物換算の質量%で表示する。ここで、「酸化物換算」とは、結晶化ガラス構成成分が全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該酸化物の総質量を100質量%としたときの、結晶化ガラス中に含有される各成分の酸化物の量を、質量%で表記したものである。本明細書において、A%~B%はA%以上B%以下を表す。
【0019】
本発明の母材となる結晶化ガラスは、
酸化物換算の質量%で、
SiO成分の含量が50.0%~75.0%、
LiO成分の含量が3.0%~10.0%、
Al成分の含量が5.0%以上15.0%未満、
成分の含量が0%超10.0%以下、
成分の含量が0%超~10.0%であり、
質量比SiO/(B+LiO)が3.0~10.0
である。
【0020】
上記の主結晶相および組成を有することにより、結晶化ガラスは、ガラス転移温度が低くなり、原料の熔解性が高まり製造しやすくなり、また得られた結晶化ガラスが3D加工など加工しやすくなる。
【0021】
以下、具体的に、本発明の母材となる結晶化ガラスを構成する各成分の組成範囲を述べる。
【0022】
SiO成分は、α-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体から選ばれる一種類以上を構成するために必要な必須成分である。SiO成分の含有量が75.0%以下であると、過剰な粘性の上昇や熔解性の悪化を抑えることができ、また、50.0%以上であると、耐失透性の悪化を抑えることができる。
好ましくは上限を75.0%以下、74.0%以下、73.0%以下、72.0%以下、または70.0%以下とする。また好ましくは下限を50.0%以上、55.0%以上、58.0%以上、または60.0%以上とする。
【0023】
LiO成分は、原ガラスの熔融性を向上させる成分であるが、その量が3.0%以上であると、原ガラスの熔融性を向上させる効果を得ることができ、また、10.0%以下とすることで、二珪酸リチウム結晶の生成の増加を抑えることができる。また、LiO成分は化学強化に関与する成分である。
好ましくは下限を3.0%以上、3.5%以上、4.0%以上、4.5%以上、5.0%以上、または5.5%以上とする。また好ましくは上限を10.0%以下、9.0%以下、8.5%以下、または8.0%以下とする。
【0024】
Al成分は、結晶化ガラスの機械的強度を向上させるのに好適な成分である。Al成分の含有量が15.0%未満とすると、熔解性や耐失透性の悪化を抑えることができ、また、5.0%以上とすると、機械的強度の低下を抑えることができる。
好ましくは上限を15.0%未満、14.5%以下、14.0%以下、13.5%以下、または13.0%以下とする。また、下限を5.0%以上、5.5%以上、5.8%以上、6.0%以上、6.5%以上、または8.0%以上とできる。
【0025】
成分は、結晶化ガラスのガラス転移温度を低下させるのに好適な成分であるが、その量が10.0%以下とすると、化学的耐久性の低下を抑えることができる。
好ましくは上限を10.0%以下、8.0%以下、7.0%以下、5.0%以下、または4.0%以下とする。また、好ましくは下限を0%超、0.001%以上、0.01%以上、0.05%以上、0.10%以上、または0.30%以上とする。
【0026】
ZrO成分は、機械的強度を向上させ得る成分であるが、その量が10.0%以下であると、熔解性の悪化を抑えることができる。
好ましくは上限を10.0%以下、9.0%以下、8.5%以下、または8.0%以下とする。また下限は0%超、1.0%以上、1.5%以上、または2.0%以上とできる。
【0027】
Al成分とZrO成分の含有量の和である[Al+ZrO]が多いと、強化をした際に表面の圧縮応力が大きくなる。好ましくは[Al+ZrO]の下限を10.0%以上、11.0%以上、12.0%以上、または13.0%以上とする。
一方で、22.0%以下とすることで熔解性の悪化を抑えることができる。従って、[Al+ZrO]の上限は、好ましくは22.0%以下、21.0%以下、20.0%以下、または19.0%以下とする。
【0028】
質量比SiO/(B+LiO)は、3.0~10.0であることが好ましい。この質量比を3.0~10.0とすることで、ガラスの低粘性化に寄与し、ガラスを作製しやすくするとともに、化学強化時にイオン交換されるアルカリイオンの量を増大させ、所望のCS30(最表面から30μmの深さの圧縮応力)の無機組成物物品を作製することができる。
従って、質量比SiO/(B+LiO)の下限は、好ましくは3.0以上、より好ましくは3.5以上、さらに好ましくは4.64以上とする。また、質量比SiO/(B+LiO)の上限は、好ましくは10.0以下、より好ましくは9.5以下、さらに好ましくは8.6未満とする。
【0029】
SiO成分、LiO成分、Al成分、およびB成分の含有量の和である[SiO+LiO+Al+B]が多いと、化学強化しやすく強度の高いガラスを得ることができる。したがって、好ましくは[SiO+LiO+Al+B]の下限を75.0%以上、77.0%以上、79.0%、80.0%以上、83.0%以上、または85.0%以上とする。
【0030】
成分は、ガラスの結晶核形成剤として作用させるために添加できる必須成分である。P成分の量を10.0%以下とすることで、ガラスの失透性の悪化やガラスの分相化を抑制できる。
好ましくは上限を10.0%以下、8.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、または4.0%以下とする。また、下限を0%以上、0.5%以上、1.0%以上、または1.5%以上とできる。
【0031】
O成分は、0%超含有する場合に、化学強化に関与する任意成分である。KO成分の下限は、0%超、0.1%以上、0.3%以上、または0.5%以上とできる。
また、KO成分を5.0%以下とすることで、結晶の析出を促すことができる。よって、KO成分の上限は、好ましくは5.0%以下、4.0%以下、3.5%以下、または3.0%以下とできる。
【0032】
NaO成分は、0%超含有する場合に、化学強化に関与する任意成分である。NaO成分を4.0%以下とすることで、所望の結晶相を得られやすくすることができる。NaO成分の上限は、好ましくは4.0%以下、3.5%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.5%以下とできる。
【0033】
MgO成分、CaO成分、SrO成分、BaO成分、ZnO成分は、0%超含有する場合に、低温熔融性を向上させる任意成分であり、本発明の効果を損なわない範囲で含有できる。
そのため、MgO成分は、好ましくは上限を4.0%以下、3.5%以下、3.0%以下、または2.5%以下とできる。また、MgO成分は、好ましくは下限を0%超、0.3%以上、0.4%以上とすることができる。
CaO成分は、好ましくは上限を4.0%以下、3.0%以下、2.5%以下、または2.0%以下とできる。
SrO成分は、好ましくは上限を4.0%以下、3.0%以下、2.5%以下、または2.0%以下とできる。
BaO成分は、好ましくは上限を5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.5%以下、または2.0%以下とできる。
ZnO成分は、好ましくは上限を10.0%以下、9.0%以下、8.5%以下、8.0%以下、または7.5%以下とできる。また、ZnO成分は、好ましくは下限を0%超、0.5%以上、1.0%以上とすることができる。
【0034】
結晶化ガラスは、本発明の効果を損なわない範囲で、Nb成分、Ta成分、TiO成分をそれぞれ含んでもよいし、含まなくてもよい。Nb成分は、0%超含有する場合に、結晶化ガラスの機械的強度を向上させる任意成分である。好ましくは上限を5.0%以下、4.0%以下、3.5%以下、または3.0%以下とできる。Ta成分は、0%超含有する場合に、結晶化ガラスの機械的強度を向上させる任意成分である。好ましくは上限を6.0%以下、5.5%以下、5.0%以下、または4.0%以下とできる。TiO成分は、0%超含有する場合に、結晶化ガラスの化学的耐久性を向上させる任意成分である。好ましくは上限を1.0%未満、0.8%以下、0.5%以下、または0.1%以下とできる。
【0035】
また、結晶化ガラスは、本発明の効果を損なわない範囲でLa成分、Gd成分、Y成分、WO成分、TeO成分、Bi成分をそれぞれ含んでもよいし、含まなくてもよい。配合量は、各々、0%~2.0%、0%~2.0%未満、または0%~1.0%とできる。
【0036】
さらに結晶化ガラスには、上述されていない他の成分を、本発明の結晶化ガラスの特性を損なわない範囲で、含んでもよいし、含まなくてもよい。例えば、Yb、Lu、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、AgおよびMoなどの金属成分(これらの金属酸化物を含む)などである。
【0037】
ガラスの清澄剤としてSb成分を含有させてもよい。一方で、Sb成分を3.0%以下とすることで、可視光領域の短波長領域における透過率が悪くなるのを抑えることができる。従って、好ましくは上限を3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.6%以下とできる。
【0038】
また、ガラスの清澄剤として、Sb成分の他、SnO成分、CeO成分、As成分、およびF、NOx、SOxの群から選択された一種または二種以上を含んでもよいし、含まなくてもよい。ただし、清澄剤の含有量は、好ましくは上限を2.0%以下、より好ましくは1.0%以下、最も好ましくは0.6%以下とできる。
【0039】
一方、Pb、Th、Tl、Os、Be、ClおよびSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあるため、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0040】
本発明の無機組成物物品の圧縮応力層の圧縮応力CS(MPa)は、好ましくは550MPa以上、より好ましくは600MPa以上、さらに好ましくは700MPa以上である。上限は例えば、1400MPa以下、1300MPa以下、1200MPa以下、または1100MPa以下である。このような圧縮応力値を有することでクラックの進展を抑え機械的強度を高めることができる。
【0041】
圧縮応力層の厚さDOLzero(μm)は、結晶化ガラスの厚みにも依存するため限定はされないが、例えば結晶化ガラス基板の厚みが0.7mmの場合の圧縮応力層の厚さは下限を70μm以上、または100μm以上とすることができる。上限は例えば、180μm以下、または160μm以下である。
【0042】
結晶化ガラスを基板とするとき、基板の厚さの下限は、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.4mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であり、結晶化ガラスの厚さの上限は、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.1mm以下、より好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.9mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下である。
【0043】
結晶化ガラスは、以下の方法で作製できる。すなわち、各成分が所定の含有量の範囲内になるように原料を均一に混合し、熔解成形して原ガラスを製造する。次にこの原ガラスを結晶化して結晶化ガラスを作製する。
【0044】
結晶化ガラスのTgは好ましくは610℃以下であり、より好ましくは600℃以下であり、さらに好ましくは590℃以下である。
【0045】
結晶析出のための熱処理は、1段階でもよく2段階の温度で熱処理してもよい。
2段階熱処理では、まず第1の温度で熱処理することにより核形成工程を行い、この核形成工程の後に、核形成工程より高い第2の温度で熱処理することにより結晶成長工程を行う。
2段階熱処理の第1の温度は450℃~750℃が好ましく、より好ましくは500℃~720℃、さらに好ましくは550℃~680℃とできる。第1の温度での保持時間は30分~2000分が好ましく、180分~1440分がより好ましい。
2段階熱処理の第2の温度は550℃~850℃が好ましく、より好ましくは600℃~800℃とできる。第2の温度での保持時間は30分~600分が好ましく、60分~400分がより好ましい。
【0046】
1段階熱処理では、1段階の温度で核形成工程と結晶成長工程を連続的に行う。通常、所定の熱処理温度まで昇温し、当該熱処理温度に達した後に一定時間その温度を保持し、その後、降温する。
1段階熱処理する場合、熱処理の温度は600℃~800℃が好ましく、630℃~770℃がより好ましい。また、熱処理の温度での保持時間は30分~500分が好ましく、60分~400分がより好ましい。
【0047】
無機組成物物品における圧縮応力層の形成方法としては、例えば結晶化ガラスの表面層に存在するアルカリ成分を、それよりもイオン半径の大きなアルカリ成分と交換反応させ、表面層に圧縮応力層を形成する化学強化法がある。また、結晶化ガラスを加熱し、その後急冷する熱強化法、結晶化ガラスの表面層にイオンを注入するイオン注入法がある。
【0048】
本発明の無機組成物物品は、例えば、以下の化学強化方法で製造できる。
結晶化ガラスを、カリウム、ナトリウム及びリチウムを含有する塩、例えば硝酸カリウム(KNO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸リチウム(LiNO)の混合塩や複合塩の溶融塩に接触または浸漬させる。この溶融塩に接触または浸漬させる処理は、1段階又は2段階で処理してもよい。
【0049】
2段階処理の場合、例えば、第1に350℃~550℃で加熱したカリウムとナトリウムの混合塩やナトリウム塩、またはカリウム、ナトリウム及びリチウムの混合塩に1~1440分、好ましくは15~500分、より好ましくは30~300分接触または浸漬させる。続けて第2に350℃~550℃で加熱したカリウム塩、カリウムとナトリウムの混合塩、カリウムとリチウムの混合塩またはカリウムとナトリウムとリチウムの混合塩に1~1440分、好ましくは60~600分接触または浸漬させる。
2段階処理の場合、例えば、1段階目の処理をカリウム(KNO)又はナトリウム(NaNO)またはリチウム(LiNO)の単浴や混合浴とし、2段階目の処理をカリウム、ナトリウム、及びリチウムを含有する塩、例えば硝酸カリウム(KNO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、及び硝酸リチウム(LiNO)の混合塩や複合塩の溶融塩とすることが望ましい。
【0050】
1段階化学強化処理の場合、例えば、350℃~550℃で加熱したカリウムとナトリウムを含有する混合塩やカリウム、ナトリウム、及びリチウムを含有する混合塩、ナトリウムを含有する混合塩、ナトリウムとリチウムを含有する混合塩(カリウム及び/またはナトリウム及び/またはリチウムを含有する混合塩)に1~1440分、好ましくは30~500分接触または浸漬させる。
【実施例0051】
実施例1、比較例1
1.無機組成物物品の作製
結晶化ガラスの各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物などの原料を選定し、これらの原料を表1に記載の組成になるように秤量して均一に混合した。
【0052】
次に、混合した原料を白金坩堝に投入し、電気炉で1300℃~1600℃で、2~24時間熔融した。その後、熔融したガラスを攪拌して均質化してから1000℃~1450℃に温度を下げてから金型に鋳込み、徐冷して原ガラスを作製した。得られた原ガラスを、表1に記載された核形成工程と結晶成長工程の結晶化条件で加熱して結晶化ガラスを作製した。
【0053】
結晶化ガラスの結晶相はX線回折分析装置(ブルカー社製、D8Discover)を用いたX線回折図形において現れるピークの角度から判別した。実施例1のX線回折図形を確認すると、全てα-クリストバライトおよび/またはα-クリストバライト固溶体のピークパターンに相応する位置にメインピーク(最も強度が高くピーク面積が大きいピーク)が認められたことから、全てα-クリストバライトおよび/またはα-クリストバライト固溶体が主結晶相として析出していたと判別した。比較例1は、X線回折分析装置(ブルカー社製、D8Discover)によってα-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体のピークが確認されなかったため、電子回折像による格子像にて確認後、EDXによる解析にて結晶相の確認を行った。その結果、比較例1のガラスの結晶相はMgAl,MgTiであることが確認された。
【0054】
実施例1の結晶化前のガラスのガラス転移点(Tg)を、日本光学硝子工業会規格JOGIS08-2019「光学ガラスの熱膨張の測定方法」に従い、測定した。
【0055】
実施例1及び比較例1で作製した結晶化ガラスを切断および研削し、さらに表2~表5に示す材厚となるように対面平行研磨し、結晶化ガラス基板を得た。この結晶化ガラス基板を母材として用いて化学強化結晶化ガラス基板を得た。
実施例1-1~実施例1-23及び比較例1-1は表2~表5に示す強化条件で2段階強化した。
【0056】
【表1】
【0057】
2.無機組成物物品の評価
得られた強化結晶化ガラス基板について、以下の特性を測定し、落下試験を実施した。結果を表2~5に示す。
【0058】
(1)応力測定
最表面の圧縮応力値(CS)は、折原製作所製のガラス表面応力計FSM-6000LEシリーズを用いて測定し、測定機の光源として365nmの波長の光源を使用した。
また、最表面から30μmの深さの圧縮応力(CS30)は、SLP-1000シリーズを用いて測定し、測定機の光源として518nmの波長の光源を使用した。
【0059】
CS測定に用いる屈折率は、365nmおよび518nmの屈折率の値を使用した。なお、屈折率の値は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じてC線、d線、F線、g線の波長における屈折率の測定値から二次の近似式を用いて算出した。
【0060】
CS測定に用いる光弾性定数は、365nmおよび518nmの光弾性定数の値を使用した。なお、光弾性定数は、波長435.8nm、波長546.1nm、波長643.9nmにおける光弾性定数の測定値から二次の近似式を用いて算出できる。実施例1では光弾性定数として365nmでは31.3、518nmでは30.1を使用した。また比較例1では光弾性定数として365nmでは28.7、518nmでは27.8を使用した。
【0061】
光弾性定数(β)は、試料形状を対面研磨して直径25mm、厚さ8mmの円板状とし、所定方向に圧縮荷重を加え、ガラスの中心に生じる光路差を測定し、δ=β・d・Fの関係式により求めた。この関係式では、光路差をδ(nm)、ガラスの厚さをd(mm)、応力をF(MPa)として表記している。
【0062】
圧縮応力層の圧縮応力が0MPaのときの深さDOLzero(μm)および中心引張応力(CT)、最表面から30μmの深さの圧縮応力(CS30)は、散乱光光弾性応力計SLP-1000を用いて測定した。測定光源は、518nmの波長の光源を使用した。
波長518nmにおける屈折率の値は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じてC線、d線、F線、g線の波長における屈折率の測定値から二次の近似式を用いて算出した。
【0063】
DOLzeroおよびCT測定に用いる波長518nmにおける光弾性定数は、波長435.8nm、波長546.1nm、波長643.9nmにおける光弾性定数の測定値から二次の近似式を用いて算出できる。実施例1では30.1を使用した。また比較例1では光弾性定数として27.8を使用した。
【0064】
(2)基板落下試験
以下の方法でサンドペーパーを用いた落下試験を行った。この落下試験はアスファルト上への落下を擬している。
落下試験サンプルとして、無機組成物物品(縦156mm×横71mm)に同じ寸法のガラス基板を張り付け、落下試験サンプルとした。なお落下試験サンプルの重量はすべて46gとなるようにした。ステンレス基台の上に粗さ#80のサンドペーパーを敷き、前述の落下試験サンプルを無機組成物物品が下になるように、基台から20cmの高さから基台に落下させた。落下後、無機組成物物品が割れなければ高さを5cm高くし、割れるまで高さを上げて落下を繰り返した。試験は3回(n1~n3)実施し、n1~n3の無機組成物物品が割れた高さの平均を算出した。その結果を表2~表5に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】