(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119597
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】マルチフェーズDC/DCコンバータならびにそのコントローラ回路
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
H02M3/155 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026606
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】福本 洋祐
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA15
5H730AS01
5H730AS04
5H730AS05
5H730BB13
5H730BB14
5H730DD04
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD21
5H730FD51
5H730FF01
5H730FG05
(57)【要約】
【課題】専用の設定ピンを利用せずに、マスターチャンネル、スレーブチャンネルの設定が可能なコントローラ回路を提供する。
【解決手段】コントローラIC200は、同じ構成を有する他チャンネルのコントローラ回路200’とともに使用されてマルチフェーズDC/DCコンバータを構成する。判定回路270は、(i)イネーブル端子ENの電圧が、他チャンネルのコントローラ回路200’のイネーブル端子ENに先行してハイとなると、当該コントローラ回路200がマスターチャンネルとスレーブチャンネルのうちの一方であると判定する。判定回路270は、(ii)イネーブル端子ENの電圧が、他チャンネルのコントローラ回路200’のイネーブル端子ENよりも遅れてハイとなると、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルのうちの他方であると判定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ構成を有する他チャンネルのコントローラ回路とともに使用されてマルチフェーズDC/DCコンバータを構成するコントローラ回路であって、
イネーブル信号を受けるべきイネーブル端子と、
(i)前記イネーブル端子の電圧が、前記他チャンネルのコントローラ回路の前記イネーブル端子に先行してハイとなると、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルのうちの一方であると判定し、(ii)前記イネーブル端子の電圧が、他チャンネルのコントローラ回路の前記イネーブル端子よりも遅れてハイとなると、当該コントローラ回路が前記マスターチャンネルと前記スレーブチャンネルのうちの他方であると判定する判定回路と、
を備える、コントローラ回路。
【請求項2】
相互接続端子であって、使用において、他チャンネルの前記相互接続端子と接続される相互接続端子をさらに備え、
前記判定回路は、前記イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおける前記相互接続端子の電圧にもとづいて、当該コントローラ回路が、前記マスターチャンネルであるか前記スレーブチャンネルであるかを判定し、当該コントローラ回路が前記マスターチャンネルと前記スレーブチャンネルの前記一方であると判定した場合に、前記相互接続端子の電圧を変化させる、請求項1に記載のコントローラ回路。
【請求項3】
前記判定回路は、起動時に、当該コントローラ回路がマスターチャンネルであると判定した場合に、前記相互接続端子にハイ電圧を発生させ、
前記イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおいて、前記相互接続端子がロー電圧であるときに、当該コントローラ回路が前記マスターチャンネルと前記スレーブチャンネルの前記一方である判定し、前記イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおいて、前記相互接続端子がハイ電圧であるときに、当該コントローラ回路が前記マスターチャンネルと前記スレーブチャンネルの前記他方であると判定する、請求項2に記載のコントローラ回路。
【請求項4】
前記判定回路は、
前記相互接続端子と電源ラインの間に接続される第1スイッチと、
前記相互接続端子と接地ラインの間に直列に接続される第2スイッチおよび抵抗と、
前記第2スイッチと前記抵抗の接続ノードの電圧をしきい値電圧と比較するコンパレータと、
前記第1スイッチをオフ、前記第2スイッチをオンとして、前記コンパレータの出力を監視し、前記イネーブル端子の電圧がハイに遷移したときの前記コンパレータの出力にもとづいて、当該コントローラ回路がマスターチャンネルであるかスレーブチャンネルであるかを判定し、当該コントローラ回路が前記マスターチャンネルと前記スレーブチャンネルの前記一方であると判定すると、前記第1スイッチをオン、前記第2スイッチをオフするロジック回路と、
を含む、請求項2または3に記載のコントローラ回路。
【請求項5】
前記相互接続端子は、使用において、他チャンネルの前記相互接続端子と接続され、各フェーズのコイル電流を均一化するために使用されるカレントバランス端子である、請求項2または3に記載のコントローラ回路。
【請求項6】
マルチフェーズDC/DCコンバータのコントローラ回路であって、
イネーブル信号を受けるべきイネーブル端子と、
相互接続端子であって、使用において、他チャンネルの前記相互接続端子と接続される相互接続端子と、
(i)前記イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおいて、前記相互接続端子がロー電圧であるときに、当該コントローラ回路がマスターチャンネルおよびスレーブチャンネルのうちの一方であると判定し、前記相互接続端子にハイ電圧を発生させ、(ii)前記イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおいて、前記相互接続端子がハイ電圧であるときに、当該コントローラ回路が前記マスターチャンネルおよび前記スレーブチャンネルのうちの他方であると判定する判定回路と、
を備える、コントローラ回路。
【請求項7】
前記相互接続端子は、各フェーズのコイル電流を均一化するために使用されるカレントバランス端子である、請求項6に記載のコントローラ回路。
【請求項8】
前記判定回路は、
前記相互接続端子と電源ラインの間に接続される第1スイッチと、
前記相互接続端子と接地ラインの間に直列に接続される第2スイッチおよび抵抗と、
前記第2スイッチと前記抵抗の接続ノードの電圧をしきい値電圧と比較するコンパレータと、
前記第1スイッチをオフ、前記第2スイッチをオンとして、前記コンパレータの出力を監視し、前記イネーブル端子の電圧がハイに遷移したときの前記コンパレータの出力にもとづいて、当該コントローラ回路がマスターチャンネルであるかスレーブチャンネルであるかを判定し、当該コントローラ回路が前記マスターチャンネルおよび前記スレーブチャンネルのうちの前記一方であると判定すると、前記第1スイッチをオン、前記第2スイッチをオフするロジック回路と、
を含む、請求項6または7に記載のコントローラ回路。
【請求項9】
ひとつの半導体基板に一体集積化される、請求項1から3、6、7のいずれかに記載のコントローラ回路。
【請求項10】
第1コントローラ回路と、
第2コントローラ回路と、
を備え、
前記第1コントローラ回路および前記第2コントローラ回路は、請求項1から3、6、7のいずれかに記載のコントローラ回路であり、
前記第1のコントローラ回路の前記イネーブル端子には、イネーブル信号が入力され、前記第2のコントローラ回路の前記イネーブル端子には、ローパスフィルタを介して前記イネーブル信号が入力される、マルチフェーズDC/DCコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルチフェーズDC/DCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートホンや、タブレットコンピュータ、車載機器やOA機器等のさまざまな電子機器には、電池電圧や外部電源電圧よりも低い電源電圧を必要とする回路部品が搭載される。このような回路部品に適切な電源電圧を供給するために、降圧DC/DCコンバータ(Buckコンバータ)が利用される。
【0003】
電流のリップルを抑制するために、複数のインダクタを備えるマルチフェーズDC/DCコンバータが用いられる。マルチフェーズDC/DCコンバータは、所定の位相差で動作する複数チャンネルのコンバータを含む。
【0004】
複数チャンネルのコンバータは、ひとつがマスターチャンネル、残りがスレーブチャンネルとして動作する。そのため、マルチフェーズDC/DCコンバータの起動時に、各チャンネルのコントローラ回路それぞれを、マスターチャンネルとスレーブチャンネルに設定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来では、コントローラ回路に、マスター・スレーブ設定ピンを設けておき、設定ピンの電気的状態を、外部から制御することにより、マスターチャンネルとスレーブチャンネルを設定する手法が採られていた。
【0007】
本開示はかかる状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、専用の設定ピンを利用せずに、マスターチャンネル、スレーブチャンネルの設定が可能なコントローラ回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のある態様は、同じ構成を有する他チャンネルのコントローラ回路とともに使用されてマルチフェーズDC/DCコンバータを構成するコントローラ回路に関する。イネーブル信号を受けるべきイネーブル端子と、(i)イネーブル端子の電圧が、他チャンネルのコントローラ回路のイネーブル端子に先行してハイとなると、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルの一方であると判定し、(ii)イネーブル端子の電圧が、他チャンネルのコントローラ回路のイネーブル端子よりも遅れてハイとなると、当該コントローラ回路がスレーブチャンネルであると判定する判定回路と、を備える。
【0009】
本開示の別の態様もまた、マルチフェーズDC/DCコンバータのコントローラ回路に関する。コントローラ回路は、イネーブル信号を受けるべきイネーブル端子と、相互接続端子であって、使用において、他チャンネルの相互接続端子と接続される相互接続端子と、(i)イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおいて、相互接続端子がロー電圧であるときに、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルの一方であると判定し、相互接続端子にハイ電圧を発生させ、(ii)イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおいて、相互接続端子がハイ電圧であるときに、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルの他方であると判定する判定回路と、を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明あるいは本開示の態様として有効である。さらに、この項目(課題を解決するための手段)の記載は、本発明の欠くべからざるすべての特徴を説明するものではなく、したがって、記載されるこれらの特徴のサブコンビネーションも、本発明たり得る。
【発明の効果】
【0011】
本開示のある態様によれば、専用の設定ピンを利用せずに、マスターチャンネルとスレーブチャンネルの設定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態に係るマルチフェーズDC/DCコンバータのブロック図である。
【
図2】
図2は、コントローラICの構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、マルチフェーズDC/DCコンバータの起動時の動作を説明するタイムチャートである。
【
図4】
図4は、判定回路の構成例を示す回路図である。
【
図5】
図5は、
図4の判定回路の動作を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0014】
(実施形態の概要)
一実施形態に係るコントローラ回路は、同じ構成を有する他チャンネルのコントローラ回路とともに使用されてマルチフェーズDC/DCコンバータを構成する。コントローラ回路は、イネーブル信号を受けるべきイネーブル端子と、(i)イネーブル端子の電圧が、他チャンネルのコントローラ回路のイネーブル端子に先行してハイとなると、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルのうちの一方であると判定し、(ii)イネーブル端子の電圧が、他チャンネルのコントローラ回路のイネーブル端子よりも遅れてハイとなると、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルのうちの他方であると判定する判定回路と、を備える。
【0015】
この構成によると、イネーブル端子の電圧変化のタイミングが早いか遅いかによって、マスターチャンネルとスレーブチャンネルを設定できる。これにより、マスターチャンネル、スレーブチャンネルの設定用の端子を省略できる。
【0016】
一実施形態において、コントローラ回路は、相互接続端子をさらに備えてもよい。この相互接続端子は、使用において、他チャンネルの相互接続端子と接続される。判定回路は、イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおける相互接続端子の電圧にもとづいて、当該コントローラ回路が、マスターチャンネルであるかスレーブチャンネルであるかを判定してもよい。判定回路は、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルの一方であると判定した場合に、相互接続端子の電圧を変化させてもよい。
【0017】
この構成によると、他の目的のために設けられている相互接続端子を利用して、他のコントローラ回路に対して、自分自身のイネーブル端子がハイに変化したかどうかの情報を通知できる。
【0018】
一実施形態において、判定回路は、起動時に、当該コントローラ回路がマスターチャンネルであると判定した場合に、相互接続端子にハイ電圧を発生させ、イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおいて、相互接続端子がロー電圧であるときに、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルの一方であると判定し、イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおいて、相互接続端子がハイ電圧であるときに、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルの他方であると判定してもよい。
【0019】
一実施形態において、判定回路は、相互接続端子と電源ラインの間に接続される第1スイッチと、相互接続端子と接地ラインの間に直列に接続される第2スイッチおよび抵抗と、イネーブル端子の電圧がハイに遷移したときに、第2スイッチと抵抗の接続ノードの電圧をしきい値電圧と比較するコンパレータと、第1スイッチをオフ、第2スイッチをオンとして、コンパレータの出力を監視し、イネーブル端子の電圧がハイに遷移したときのコンパレータの出力にもとづいて、当該コントローラ回路がマスターチャンネルであるかスレーブチャンネルであるかを判定し、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルの一方であると判定すると、第1スイッチをオン、第2スイッチをオフするロジック回路と、を含んでもよい。
【0020】
一実施形態において、相互接続端子は、使用において、他チャンネルの相互接続端子と接続され、各フェーズのコイル電流を均一化するために使用されるカレントバランス端子であってもよい。
【0021】
一実施形態に係るマルチフェーズDC/DCコンバータのコントローラ回路は、イネーブル信号を受けるべきイネーブル端子と、相互接続端子であって、使用において、他チャンネルの相互接続端子と接続される相互接続端子と、(i)イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおいて、相互接続端子がロー電圧であるときに、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルの一方であると判定し、相互接続端子にハイ電圧を発生させ、(ii)イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおいて、相互接続端子がハイ電圧であるときに、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルの他方であると判定する判定回路と、を備える。
【0022】
一実施形態において、相互接続端子は、各フェーズのコイル電流を均一化するために使用されるカレントバランス端子であってもよい。
【0023】
一実施形態において、判定回路は、相互接続端子と電源ラインの間に接続される第1スイッチと、相互接続端子と接地ラインの間に直列に接続される第2スイッチおよび抵抗と、イネーブル端子の電圧がハイに遷移したときに、第2スイッチと抵抗の接続ノードの電圧をしきい値電圧と比較するコンパレータと、第1スイッチをオフ、第2スイッチをオンとして、コンパレータの出力を監視し、イネーブル端子の電圧がハイに遷移したときのコンパレータの出力にもとづいて、当該コントローラ回路がマスターチャンネルであるかスレーブチャンネルであるかを判定し、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルの一方であると判定すると、第1スイッチをオン、第2スイッチをオフするロジック回路と、を含んでもよい。
【0024】
一実施形態において、コントローラ回路は、ひとつの半導体基板に一体集積化されてもよい。「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。回路を1つのチップ上に集積化することにより、回路面積を削減することができるとともに、回路素子の特性を均一に保つことができる。
【0025】
一実施形態に係るマルチフェーズDC/DCコンバータは、第1コントローラと、第2コントローラと、を備える。第1コントローラと第2コントローラは、上述のいずれかの構成を有する。第1コントローラ回路のイネーブル端子には、イネーブル信号が入力され、第2コントローラ回路のイネーブル端子には、ローパスフィルタを介してイネーブル信号が入力されてもよい。
【0026】
(実施形態)
以下、本開示を、好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明あるいは開示を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明あるいは開示の本質的なものであるとは限らない。
【0027】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0028】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0029】
図1は、実施形態に係るマルチフェーズDC/DCコンバータ100のブロック図である。マルチフェーズDC/DCコンバータ100は、入力端子(入力ライン)102に直流の入力電圧V
INを受け、所定の目標値V
OUT(REF)に安定化された出力電圧V
OUTを生成し、出力端子(出力ライン)104に接続される負荷に供給する。
【0030】
マルチフェーズDC/DCコンバータ100は、コントローラIC200_1,200_2、インダクタL1,L2、出力キャパシタC1、抵抗R1,R2、遅延回路110を備える。
【0031】
マルチフェーズDC/DCコンバータ100は、イネーブル信号ENのアサート(ハイ)に応答して、動作を開始する。
【0032】
第1コントローラIC200_1および第2コントローラIC200_2は同じ構成を有するコントローラIC200である。
【0033】
コントローラIC200は、入力端子VIN、スイッチング端子SW、接地端子GND、イネーブル端子EN、相互接続端子MT、フィードバック端子FBを備える。
【0034】
コントローラIC200の入力端子VINは、入力電圧VINを受ける。コントローラIC200のスイッチング端子SWは、インダクタを介して出力ライン104と接続される。コントローラIC200の接地端子GNDは接地される。またコントローラIC200のフィードバック端子FBには、出力電圧VOUTに応じたフィードバック電圧VFBが入力される。フィードバック電圧VFBは、抵抗R1,R2によって、出力電圧VOUTを分圧した電圧である。
【0035】
コントローラIC200は、フィードバック電圧VFBが基準電圧と一致するように、スイッチング端子SWの電圧VSWのデューティサイクルをフィードバック制御する。
【0036】
コントローラIC200のイネーブル端子ENには、イネーブル信号ENが入力される。コントローラIC200は、イネーブル信号ENがアサートされると動作を開始する。
【0037】
第1コントローラIC200_1のイネーブル端子ENと、第2コントローラIC200_2のイネーブル端子ENは、異なるタイミングで変化するように接続されている。具体的には、第1コントローラIC200_1のイネーブル端子ENには、イネーブル信号ENが直接入力され、コントローラIC200_2のイネーブル端子ENには、遅延回路110によって遅延されたイネーブル信号ENdが入力される。遅延回路110は、たとえばRCフィルタであってもよい。
【0038】
図2は、コントローラIC200の構成を示すブロック図である。コントローラIC200は、パルス幅変調器210、ロジック回路220、ハイサイドドライバ222、ローサイドドライバ224、判定回路270、カレントバランス回路280を備える。
【0039】
ハイサイドトランジスタM1は、入力端子VINとスイッチング端子SWの間に接続され、ローサイドトランジスタM2、スイッチング端子SWと接地端子GNDの間に接続される。本実施形態では、ハイサイドトランジスタM1はPMOSトランジスタ、ローサイドトランジスタM2はNMOSトランジスタである。ハイサイドトランジスタM1はNMOSトランジスタであってもよく、その場合、コントローラIC200には、ブートストラップ回路が組み込まれる。
【0040】
パルス幅変調器210は、フィードバック電圧VFBを受ける。パルス幅変調器210は、フィードバック電圧VFBが所定の基準電圧VREFに近づくように、言い換えると出力電圧VOUTがその目標レベルVOUT(REF)に近づくように、パルス幅変調信号SPWMのデューティサイクルを変化させる。
【0041】
ロジック回路220は、パルス幅変調信号SPWMにもとづいてハイサイドトランジスタM1およびローサイドトランジスタM2それぞれのオン、オフを指示するハイサイドパルスSHおよびローサイドパルスSLを生成する。ハイサイドドライバ222は、ハイサイドパルスSHにもとづいてハイサイドトランジスタM1を駆動し、ローサイドドライバ224は、ローサイドパルスSLにもとづいてローサイドトランジスタM2を駆動する。
【0042】
本実施形態において、相互接続端子MTは、カレントバランス端子である。マルチフェーズDC/DCコンバータ100では、複数チャンネルの間でコイル電流に偏りがあることは好ましくない。そのために多くのコントローラIC200には、複数チャンネル間で電流をバランスさせるための機能が組み込まれている。各チャンネルのカレントバランス回路280は、自分自身のチャンネルのコイル電流を検出し、他のチャンネルのコイル電流に近づくように、パルス幅変調器210に作用する。カレントバランスの方式はさまざまであり、本開示において特に限定されるものではない。
【0043】
判定回路270は(i)イネーブル端子ENの電圧が、他チャンネルのコントローラIC200’のイネーブル端子ENに先行してハイとなると、当該コントローラIC200がマスターチャンネルとスレーブチャンネルの一方(本実施形態ではマスターチャンネル)であると判定する。反対に、(ii)判定回路270は、イネーブル端子ENの電圧が、他チャンネルのコントローラ回路200’のイネーブル端子ENよりも遅れてハイとなると、当該コントローラ回路200がマスターチャンネルとスレーブチャンネルの他方(本実施形態ではスレーブチャンネル)であると判定する。
【0044】
判定回路270は、他のチャンネルのコントローラIC200’の判定回路と、相互接続端子MTを介して接続されており、自分自身のイネーブル端子ENがハイになったことを、相手に通知できるようになっている。つまり、コントローラIC200の判定回路270は、コントローラIC200’の判定回路270からの通知を受ける前に、イネーブル端子ENがハイになった場合、コントローラIC200のイネーブル端子ENが先行してハイに遷移したと判定する。
【0045】
反対に、コントローラIC200の判定回路270は、コントローラIC200’の判定回路270からの通知を受けた後に、イネーブル端子ENがハイになった場合、コントローラIC200のイネーブル端子ENが、他のコントローラIC200’のイネーブル端子ENよりも遅れてハイに遷移したと判定する。
【0046】
以上がコントローラIC200の構成である。
【0047】
図3は、マルチフェーズDC/DCコンバータ100の起動時の動作を説明するタイムチャートである。
【0048】
時刻t0に、イネーブル信号ENがハイに遷移すると、コントローラIC200_1のイネーブル端子ENがハイとなる。イネーブル端子ENがハイになったタイミングで、相互接続端子MTがローであるから、コントローラIC200_1の判定回路270は、コントローラIC200_1がマスターチャンネルであると判定する。そして、時刻t1に相互接続端子MTをハイに遷移させる。これにより、コントローラIC200_2の層と接続端子MTもハイとなる。
【0049】
時刻t2に、遅延回路110によって遅延されたイネーブル信号ENdがハイに遷移すると、コントローラIC200_2のイネーブル端子ENがハイとなる。イネーブル端子ENがハイになったタイミングで、相互接続端子MTがハイとなっているため、コントローラIC200_2の判定回路270は、コントローラIC200_2がスレーブチャンネルであると判定する。
【0050】
以上がマルチフェーズDC/DCコンバータ100の動作である。
【0051】
実施形態に係るコントローラIC200によれば、イネーブル端子ENの電圧変化が早いチャンネルを、マスターチャンネル、遅いチャンネルをスレーブチャンネルとして動作させることができる。これにより、マスターチャンネル、スレーブチャンネルの設定用の端子を省略できる。
【0052】
そして、マルチフェーズコンバータの動作中に、他の目的のために設けられている相互接続端子MT、たとえばカレントバランスのために設けられているカレントバランス端子を利用して、複数のコントローラICの間で、どちらが先に、イネーブル信号ENがハイに変化したかの情報を共有できる。
【0053】
図4は、判定回路270の構成例を示す回路図である。判定回路270は、第1スイッチSW1、第2スイッチSW2、抵抗R3、コンパレータ272、ロジック回路274を備える。
【0054】
第1スイッチSW1は、相互接続端子MTと電源ライン202の間に接続される。
【0055】
第2スイッチSW2および抵抗R3は、相互接続端子MTと接地ライン204の間に順に直列に接続される。
【0056】
コンパレータ272は、第2スイッチSW2と抵抗R3の接続ノードの電圧VR3をしきい値電圧VTHと比較する。たとえばコンパレータ272の出力COMPは、VR3>VTHのときハイ、VR3<VTHのときローである。
【0057】
ロジック回路274は、第1スイッチSW1をオフ、第2スイッチSW2をオンとし、コンパレータ272の出力COMPを監視する。そして、ロジック回路274は、イネーブル端子ENの電圧がハイに遷移したとき(判定タイミング)のコンパレータ272の出力COMPにもとづいて、当該コントローラ回路200がマスターチャンネルであるかスレーブチャンネルであるかを判定する。具体的には、判定タイミングにおいて、コンパレータ272の出力COMPがローであるとき、マスターチャンネルと判定し、コンパレータ272の出力COMPがハイであるとき、スレーブチャンネルと判定する。
【0058】
ロジック回路274は、コントローラIC200がマスターチャンネルであると判定すると、第1スイッチSW1をオフ、第2スイッチSW2をオンに切りかえる。
【0059】
図5は、
図4の判定回路270の動作を説明するタイムチャートである。初期状態において、コントローラIC200_1、200_2それぞれの第1スイッチSW1はオフであり、それぞれの第2スイッチSW2はオンである。このとき、コントローラIC200_1,コントローラIC200_2の相互接続端子MTは第2スイッチSW2および抵抗R3を介してプルダウンされているから、電圧V
MTはロー(0V)であり、抵抗R3の電圧V
R3もロー電圧であり、コンパレータ272の出力COMPは、ローである。
【0060】
時刻t0にコントローラIC200_1のイネーブル端子ENが先行してハイ電圧に遷移する。このとき、コントローラIC200_1のコンパレータ272の出力COMPはローであるから、コントローラIC200_1の判定回路270は、マスターチャンネルと判定する。
【0061】
判定回路270は、時刻t1に第1スイッチSW1をオンに、第2スイッチSW2をオフに切り替える。これにより、相互接続端子MTの電圧VMTはハイ電圧となる。第2コントローラIC200_2において、第2スイッチSW2はオンであるから、相互接続端子MTの電圧VMTがハイ電圧となると、抵抗R3の電圧VR3もハイ電圧に遷移し、コンパレータ272の出力COMPがハイとなる。
【0062】
時刻t2に、第2コントローラIC200_2のイネーブル端子ENがハイに遷移する。このタイミングにおいて、第2コントローラIC200_2のコンパレータ272の出力COMPはハイであるから、ロジック回路274は、スレーブモードと判定する。
【0063】
続いて、コントローラIC200の変形例を説明する。
【0064】
(変形例1)
実施形態において、ハイサイドトランジスタM1およびローサイドトランジスタM2は、コントローラIC200に集積化されていたが、それらはディスクリート部品としてコントローラIC200に外付けされてもよい。
【0065】
(変形例2)
実施形態では、相互接続端子MTとして、カレントバランス端子を利用したが、本開示はそれに限定されず、他の目的で設けられている既存の端子を、相互接続端子MTとして利用することができる。たとえば位相補償用の外付け部品を接続するための端子が存在する場合、それを相互接続端子MTとして利用してもよい。
【0066】
(変形例3)
実施形態では、イネーブル端子の電圧の遷移タイミングが早い方をマスターチャンネル、遷移タイミングが遅い方をスレーブチャンネルとしたが、それらの対応を逆としてもよい。
【0067】
(変形例4)
さらに、実施形態では、マスターチャンネルとスレーブチャンネルの設定には限定されず、その他の機能の割り当てを、イネーブル端子の電圧の遷移タイミングを利用して行ってもよい。
【0068】
本開示に係る実施形態について、具体的な用語を用いて説明したが、この説明は、理解を助けるための例示に過ぎず、本開示あるいは請求の範囲を限定するものではない。本発明の範囲は、請求の範囲によって規定されるものであり、したがって、ここでは説明しない実施形態、実施例、変形例も、本発明の範囲に含まれる。
【0069】
(付記)
本明細書には以下の技術が開示される。
【0070】
(項目1)
同じ構成を有する他チャンネルのコントローラ回路とともに使用されてマルチフェーズDC/DCコンバータを構成するコントローラ回路であって、
イネーブル信号を受けるべきイネーブル端子と、
(i)前記イネーブル端子の電圧が、前記他チャンネルのコントローラ回路の前記イネーブル端子に先行してハイとなると、当該コントローラ回路がマスターチャンネルとスレーブチャンネルのうちの一方であると判定し、(ii)前記イネーブル端子の電圧が、他チャンネルのコントローラ回路の前記イネーブル端子よりも遅れてハイとなると、当該コントローラ回路が前記マスターチャンネルと前記スレーブチャンネルのうちの他方であると判定する判定回路と、
を備える、コントローラ回路。
【0071】
(項目2)
相互接続端子であって、使用において、他チャンネルの前記相互接続端子と接続される相互接続端子をさらに備え、
前記判定回路は、前記イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおける前記相互接続端子の電圧にもとづいて、当該コントローラ回路が、前記マスターチャンネルであるか前記スレーブチャンネルであるかを判定し、当該コントローラ回路が前記マスターチャンネルと前記スレーブチャンネルの前記一方であると判定した場合に、前記相互接続端子の電圧を変化させる、項目1に記載のコントローラ回路。
【0072】
(項目3)
前記判定回路は、起動時に、当該コントローラ回路がマスターチャンネルであると判定した場合に、前記相互接続端子にハイ電圧を発生させ、
前記イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおいて、前記相互接続端子がロー電圧であるときに、当該コントローラ回路が前記マスターチャンネルと前記スレーブチャンネルの前記一方である判定し、前記イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおいて、前記相互接続端子がハイ電圧であるときに、当該コントローラ回路が前記マスターチャンネルと前記スレーブチャンネルの前記他方であると判定する、項目2に記載のコントローラ回路。
【0073】
(項目4)
前記判定回路は、
前記相互接続端子と電源ラインの間に接続される第1スイッチと、
前記相互接続端子と接地ラインの間に直列に接続される第2スイッチおよび抵抗と、
前記第2スイッチと前記抵抗の接続ノードの電圧をしきい値電圧と比較するコンパレータと、
前記第1スイッチをオフ、前記第2スイッチをオンとして、前記コンパレータの出力を監視し、前記イネーブル端子の電圧がハイに遷移したときの前記コンパレータの出力にもとづいて、当該コントローラ回路がマスターチャンネルであるかスレーブチャンネルであるかを判定し、当該コントローラ回路が前記マスターチャンネルと前記スレーブチャンネルの前記一方であると判定すると、前記第1スイッチをオン、前記第2スイッチをオフするロジック回路と、
を含む、項目2または3に記載のコントローラ回路。
【0074】
(項目5)
前記相互接続端子は、使用において、他チャンネルの前記相互接続端子と接続され、各フェーズのコイル電流を均一化するために使用されるカレントバランス端子である、項目2から4のいずれかに記載のコントローラ回路。
【0075】
(項目6)
マルチフェーズDC/DCコンバータのコントローラ回路であって、
イネーブル信号を受けるべきイネーブル端子と、
相互接続端子であって、使用において、他チャンネルの前記相互接続端子と接続される相互接続端子と、
(i)前記イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおいて、前記相互接続端子がロー電圧であるときに、当該コントローラ回路がマスターチャンネルおよびスレーブチャンネルのうちの一方であると判定し、前記相互接続端子にハイ電圧を発生させ、(ii)前記イネーブル端子の電圧がハイになったタイミングにおいて、前記相互接続端子がハイ電圧であるときに、当該コントローラ回路が前記マスターチャンネルおよび前記スレーブチャンネルのうちの他方であると判定する判定回路と、
を備える、コントローラ回路。
【0076】
(項目7)
前記相互接続端子は、各フェーズのコイル電流を均一化するために使用されるカレントバランス端子である、項目6に記載のコントローラ回路。
【0077】
(項目8)
前記判定回路は、
前記相互接続端子と電源ラインの間に接続される第1スイッチと、
前記相互接続端子と接地ラインの間に直列に接続される第2スイッチおよび抵抗と、
前記第2スイッチと前記抵抗の接続ノードの電圧をしきい値電圧と比較するコンパレータと、
前記第1スイッチをオフ、前記第2スイッチをオンとして、前記コンパレータの出力を監視し、前記イネーブル端子の電圧がハイに遷移したときの前記コンパレータの出力にもとづいて、当該コントローラ回路がマスターチャンネルであるかスレーブチャンネルであるかを判定し、当該コントローラ回路が前記マスターチャンネルおよび前記スレーブチャンネルのうちの前記一方であると判定すると、前記第1スイッチをオン、前記第2スイッチをオフするロジック回路と、
を含む、項目6または7に記載のコントローラ回路。
【0078】
(項目9)
ひとつの半導体基板に一体集積化される、項目1から8のいずれかに記載のコントローラ回路。
【0079】
(項目10)
第1コントローラ回路と、
第2コントローラ回路と、
を備え、
前記第1コントローラ回路および前記第2コントローラ回路は、項目1から3、6、7のいずれかに記載のコントローラ回路であり、
前記第1コントローラ回路の前記イネーブル端子には、イネーブル信号が入力され、前記第2コントローラ回路の前記イネーブル端子には、ローパスフィルタを介して前記イネーブル信号が入力される、マルチフェーズDC/DCコンバータ。
【符号の説明】
【0080】
100 マルチフェーズDC/DCコンバータ
102 入力ライン
104 出力ライン
110 遅延回路
200 コントローラIC
200_1 第1コントローラIC
200_2 第2コントローラIC
210 パルス幅変調器
220 ロジック回路
222 ハイサイドドライバ
224 ローサイドドライバ
M1 ハイサイドトランジスタ
M2 ローサイドトランジスタ
270 判定回路
SW1 第1スイッチ
SW2 第2スイッチ
R3 抵抗
CS1 電流源
272 コンパレータ
274 ロジック回路
280 カレントバランス回路
L1,L2 インダクタ
C1 出力キャパシタ
EN イネーブル端子
MT 相互接続端子