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特開2024-119600高純度シリカ微粒子分散液の製造方法、および高純度シリカ微粒子分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119600
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】高純度シリカ微粒子分散液の製造方法、および高純度シリカ微粒子分散液
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/143 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
C01B33/143
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026609
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 翔大
(72)【発明者】
【氏名】中山 和洋
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA28
4G072CC01
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH21
4G072JJ13
4G072JJ15
4G072JJ21
4G072MM02
4G072MM14
4G072SS01
4G072SS10
4G072TT19
4G072UU01
(57)【要約】
【課題】従来の製造方法に見られた煩雑な問題を解決できる高純度シリカ微粒子分散液の製造方法を提供すること。
【解決手段】下記工程1から工程4までを含む、高純度シリカ微粒子分散液の製造方法。
(工程1)珪酸ナトリウム水溶液に、陽イオン交換処理を行い、pH2以上3以下の範囲の酸性珪酸液を得る工程。
(工程2)前記工程1で得られた酸性珪酸液に、無機酸を添加し混合し、酸性珪酸液をpH1.5以上2.5以下の範囲に調整する工程。
(工程3)前記工程2で得られた酸性珪酸液に、キレートイオン交換処理を行い、続いて陽イオン交換処理を行うことにより精製酸性珪酸液を得る工程。
(工程4)前記工程3で得られた精製酸性珪酸液の一部に、水酸化アルカリ水溶液を添加した後に、加熱し、所定温度で所定時間保持し、さらに、前記工程3で得られた精製酸性珪酸液の別の一部を所定条件で添加して、高純度シリカ微粒子分散液を得る工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1から工程4までを含む、高純度シリカ微粒子分散液の製造方法。
(工程1)
珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度2質量%以上7質量%以下の範囲)に、陽イオン交換処理を行い、pH2以上3以下の範囲の酸性珪酸液を得る工程。
(工程2)
前記工程1で得られた酸性珪酸液に、無機酸を添加し混合し、酸性珪酸液をpH1.5以上2.5以下の範囲に調整する工程。
(工程3)
前記工程2で得られた酸性珪酸液に、キレートイオン交換処理を行い、続いて陽イオン交換処理を行うことにより精製酸性珪酸液を得る工程。
(工程4)
前記工程3で得られた精製酸性珪酸液の一部に、水酸化アルカリ水溶液を添加し、pH10以上13以下の範囲に調整した後に、加熱し、温度50℃以上98℃以下の範囲の温度を20分間以上保持し、さらに、前記工程3で得られた精製酸性珪酸液の別の一部を、添加速度0.001g/min・g以上0.5g/min・g以下(シリカ固形分換算)の範囲の添加速度にて添加し、併せてpH調整剤を同時添加してなる高純度シリカ微粒子分散液を得る工程。
【請求項2】
前記工程2において、前記酸性珪酸液に前記無機酸を添加し混合する際に、スタティックミキサーを用いて混合し、その際、下記数式(F1)で表される混合ファクター(B)の値が1,000以上1,000,000以下の範囲である、請求項1に記載の高純度シリカ微粒子分散液の製造方法。
B=Re×n ・・・(F1)
(B:スタティックミキサーの混合ファクター、n:スタティックミキサーのエレメント数、Re:レイノルズ数)
【請求項3】
下記数式(F2)で表される反応ファクター(A)の値が56以上225以下の範囲を満たすようにして施す、請求項1または請求項2に記載の高純度シリカ微粒子分散液の製造方法。
A=p×s×t ・・・(F2)
(p:前記工程2の無機酸添加後の酸性珪酸液のpHと、前記工程3のキレートイオン交換処理後の酸性珪酸液のpHの平均値、
s:前記工程1および前記工程3の各イオン交換処理にて、通液させる際の空間速度(単位:h-1)の平均値、
t:前記工程1および前記工程3の各イオン交換処理にて、通液させる前の液の温度(単位:℃)の平均値)
【請求項4】
下記数式(F2)において、pの値が1.5以上2.5以下の範囲であり、sの値が2h-1以上6h-1以下の範囲であり、tの値が3℃以上18℃以下の範囲である、請求項3に記載の高純度シリカ微粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
前記工程3で得られた精製酸性珪酸液において、シリカ固形分に対して、Al濃度が5ppm以上80ppm以下であり、Ti濃度が5ppm以上100ppm以下であり、Fe濃度が1ppm以上20ppm以下であり、Ca濃度が1ppm以上8ppm以下であり、Na濃度が1ppm以上20ppm以下であり、Mg濃度が0.2ppm以上5ppm以下であり、Cr濃度が0.05ppm以上1ppm以下であり、Ni濃度が1ppm未満であり、Cu濃度が1ppm未満であり、Zn濃度が1ppm未満である(但し、これらの金属の合計量は200ppm以下に限られる。)、請求項1または請求項2記載の高純度シリカ微粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
シリカ固形分に対して、Al濃度が5ppm以上80ppm以下であり、Ti濃度が5ppm以上100ppm以下であり、Fe濃度が1ppm以上20ppm以下であり、Ca濃度が1ppm以上8ppm以下であり、Na濃度mが1ppm以上20ppm以下であり、Mg濃度が0.2ppm以上5ppm以下であり、Cr濃度が0.05ppm以上1ppm以下であり、Ni濃度が1ppm未満であり、、Cu濃度が1ppm未満であり、Zn濃度が1ppm未満である(但し、これらの金属の合計量は200ppm以下に限られる。)、高純度シリカ微粒子分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ微粒子分散液(シリカゾル)、特に高純度シリカ微粒子分散液(高純度シリカゾル)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、実質的に金属不純物を含まないシリカゾルが提案されており、このような高純度シリカゾルは、例えば半導体シリコンウェハなどの電子材料の研磨剤として好ましく利用することができる。シリカゾル中に金属不純物を含むと、研磨加工時に金属不純物がウェハ内部に拡散し、ウェハ品質が劣化する。そして、このようなウェハを用いて形成された半導体デバイスの性能は著しく低下する。
高純度なシリカゾルの製造方法としては、極力不純物を抑制させる手段として、精製したシリコンアルコキシドを原料としてシリカゾルを合成する製造方法が広く知られている。しかしながら、この製造方法の場合、原料のシリコンアルコキシド(アルコキシシラン)が高価なため、そのような製造方法で得られたシリカゾルの利用は、例えば、付加価値の高い用途や特殊な用途などに限定されていた(特許文献1参照)。
高純度なシリカゾルの別の製造方法としては、珪酸アルカリと鉱酸による湿式反応でシリカゲルを合成し、さらに水酸化第四アンモニウム水溶液を作用させる工程を含むシリカゾルの製造方法が知られている。しかしながら、この製造方法の場合、シリカゲルの調製工程において、キレート剤および過酸化水素を含む酸濃度1規定以上の酸性領域中でシリカゲルを沈殿生成させ、さらに分離および洗浄を必要とするなど、製造効率と経済性に問題があった(特許文献2参照)。
【0003】
特許文献3の高純度シリカゾルの製法では、シリカゾルの製造工程において、珪酸液中の珪酸を構成するシロキサン骨格内に存在するイオン不純物を除去する目的で、珪酸液を酸処理し、具体的にはpH0~2.5にする工程を含む。この酸処理には、例えば、実施例1では、3号珪酸ソーダ水希釈品を陽イオン交換して得られた5%珪酸液(原料投入量から少なくとも約4000g以上と推定される)に対し、35%塩酸500gを用いている。このような多量の酸を含む酸性珪酸液を原料として調製した場合は、シリカゾルの安定性を損ない、ゲル化や凝集沈殿発生の原因となるので、通常は、洗浄処理あるいは陰イオン交換処理が必要となる。特許文献3の製法においても、溶媒置換などの処理を行って塩酸を除去・精製する旨が開示されている。このように多量の酸の除去処理は、高純度シリカゾルの製造において、工数、製造に要する時間および経済面で不利な要素となる。
【0004】
特許文献4の高純度大粒子径シリカゾルの製法では、シリカゾルの製造工程において、活性珪酸の水性コロイド溶液に酸を加えて、pH0~2.0とし、熟成、陽イオン交換、陰イオン交換および再び陽イオン交換を行って、高純度活性珪酸液を調製し、この高純度活性珪酸液を原料として高純度大粒子径シリカゾルを調製するとされている。この製法においては、例えば、実施例1では、活性珪酸の水性コロイド溶液5950gに硝酸(濃度61.3質量%)20.2gを用いており、続いて、48時間の熟成、陽イオン交換、陰イオン交換および陽イオン交換を行うことが開示されており、特許文献3と同様な問題を有している。特に、特許文献4の製法では活性珪酸液を48時間熟成する必要があり、非常に生産効率が悪く経済性に問題がある。
【0005】
特許文献5に記載の高純度水性シリカゾルの製造方法では、水硝子を陽イオン交換して酸性珪酸液とし、さらに強酸を加えてpH0~2.0にて、0~100℃、0.5~120時間の熟成を経て、陰イオン交換することにより高純度シリカゾルを得る製法が記載されている。この製法においては、0~100℃/0.5~120時間の熟成処理が必要であり、熟成時間が長いため生産性が悪く、実用的には、改良が求められていた。
【0006】
特許文献6に記載の高純度シリカゾルの製造方法では、水硝子に強酸の塩を加えて陽イオン交換がなされており、強酸の塩としては、アミノトリス(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸またはこれらの塩の少なくとも1つが用いられていた。このような有機酸を含むシリカゾルは製造時に生じる廃水の処理に手間とコストがかかり、また有機酸を含むシリカゾルはその使用用途が制限されるという問題があった。特に、研磨用途においては、シリカゾルに化学成分を添加して研磨性能を調整することが行われているが、有機酸が研磨性能を悪化させる可能性が指摘されていた。
【0007】
特許文献7に記載のシリカゾルの製造方法では、水溶性アルカリ金属ケイ酸塩またはアルカリ金属ケイ酸塩水溶液を酸性化剤と混合してpH2未満の酸性アルカリ金属ケイ酸塩水溶液を製造し、続いて、所定の陰イオン交換および陽イオン交換処理を行って、珪酸液を調製し、この珪酸液を原料として安定したシリカゾルを得る製法が記載されている。この製法においては、酸性化剤を必要とし、過酸化水素などの酸化剤は、爆発事例が多く発生しており、安全性の問題があった。また、このような酸化剤を含むシリカゾルは安全性の懸念から使用用途が制限されるという問題があった。
【0008】
特許文献8に記載の高純度シリカゾルの製造方法では、珪酸液にシュウ酸と無機強酸を添加混合し、陰イオン交換と陽イオン交換を行って高純度シリカゾルを調製する製法が記載されている。この製法においては、シュウ酸を必要とし、シュウ酸は劇物であるため取り扱う上で注意が必要であった。また、シュウ酸を含むシリカゾルは使用用途が制限され、特に研磨用途においては化学成分を添加して研磨性能を調整することが行われているが、シュウ酸が研磨性能を悪化させる可能性が指摘されていた。
【0009】
特許文献9に記載の高純度水性シリカゾルの製造方法では、強酸などとアルカリ金属珪酸塩を所定の条件で水に溶解させ、陽イオン交換、続いて陰イオン交換し、更に水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを加えて水性シリカゾルを調製し、更に該水性シリカゾルを陽イオン交換し、アンモニアを加えてpH8~10.5に調整して、安定で高純度な水性シリカゾルを得る製法が記載されている。同文献の実施例1では、上記操作に加えて、陰イオン交換後に再度陽イオン交換をおこなっている。この製法においては、イオン交換処理の回数が多く非常に生産効率が悪いという問題がある。また、酸性珪酸液に陰イオン交換処理をしているため、酸性珪酸液の安定化のために必要な陰イオンが除かれるため珪酸液のpHが高くなり、珪酸液の安定性が著しく低下してゲル化し易いという問題もあった。
【0010】
特許文献4の高純度大粒子径シリカゾルの製法では、特許文献3の製法で見られるような問題に加えて、前記のとおり48時間の熟成処理を必要としており、製造上さらに不利な点があるといえる。特許文献5も熟成(保持工程)に時間を要する問題点を有していた。
【0011】
特許文献6に記載の高純度シリカゾルの製造方法では、製造中に有機酸を含む排水が生じ、この廃水を処理するために手間とコストがかかる面で問題を有していた。さらに、研磨性能への影響の点で問題があった。
【0012】
特許文献7に記載のシリカゾルの製造方法では、前記のとおり酸性化剤を必要とし、安全性の点で問題があった。
特許文献8に記載の高純度シリカゾルの製造方法では、劇物であるシュウ酸を必要とし、取り扱い、および研磨性能への影響の点で問題があった。
【0013】
特許文献9に記載の高純度水性シリカゾルの製造方法では、前記のとおりイオン交換操作を始め操作ないし処理が多く、実用的には改良が求められていた。珪酸液から陰イオンを除去しているため、陰イオン交換後の酸性珪酸液のpHは4.0程度となっており、このような酸性珪酸液は安定性が非常に悪く極めて短時間にゲル化が生じる。そのため、このような陰イオン交換を必須とするシリカゾルの製法は、安定的に生産することが難しいという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平01-278413号公報
【特許文献2】特開2000-247625号公報
【特許文献3】特開昭61-158810号公報
【特許文献4】特開昭63-285112号公報
【特許文献5】特開平04-002606号公報
【特許文献6】特表2003-514742号公報
【特許文献7】特表2014-511330号公報
【特許文献8】特開平04-231319号公報
【特許文献9】特開平06-016414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従来の高純度シリカゾル製造方法で見られた、酸を除去するための陰イオン交換処理、製造工程の中間段階の珪酸液を所定条件(pH範囲ないし温度範囲など)にて所定時間範囲保持してなる熟成処理、その他煩雑な処理が不要であり、研磨性能を低下させるような薬剤の添加を必要としない高純度シリカ微粒子分散液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様によれば、下記工程1から工程4までを含む、高純度シリカ微粒子分散液の製造方法が提供される。
(工程1)
珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度2質量%以上7質量%以下の範囲)に、陽イオン交換処理を行い、pH2以上3以下の範囲の酸性珪酸液を得る工程。
(工程2)
前記工程1で得られた酸性珪酸液に、無機酸を添加し混合し、酸性珪酸液をpH1.5以上2.5以下の範囲に調整する工程。
(工程3)
前記工程2で得られた酸性珪酸液に、キレートイオン交換処理を行い、続いて陽イオン交換処理を行うことにより精製酸性珪酸液を得る工程。
(工程4)
前記工程3で得られた精製酸性珪酸液の一部に、水酸化アルカリ水溶液を添加し、pH10以上13以下の範囲に調整した後に、加熱し、温度50℃以上98℃以下の範囲の温度を20分間以上保持し、さらに、前記工程3で得られた精製酸性珪酸液の別の一部を、添加速度0.001g/min・g以上0.5g/min・g以下(シリカ固形分換算)の範囲の添加速度にて添加し、併せてpH調整剤を同時添加してなる高純度シリカ微粒子分散液を得る工程。
【0017】
本発明の一態様によれば、シリカ固形分に対して、Al濃度が5ppm以上80ppm以下であり、Ti濃度が5ppm以上100ppm以下であり、Fe濃度が1ppm以上20ppm以下であり、Ca濃度が1ppm以上8ppm以下であり、Na濃度mが1ppm以上20ppm以下であり、Mg濃度が0.2ppm以上5ppm以下であり、Cr濃度が0.05ppm以上1ppm以下であり、Ni濃度が1ppm未満であり、、Cu濃度が1ppm未満であり、Zn濃度が1ppm未満である(但し、これらの金属の合計量は200ppm以下に限られる。)、高純度シリカ微粒子分散液が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、従来の高純度シリカゾル製造方法で見られた、酸を除去するための陰イオン交換処理、製造工程の中間段階の珪酸液を所定条件にて所定時間範囲保持してなる熟成処理、その他煩雑な処理が不要であり、研磨性能を低下させるような薬剤の添加を必要としない高純度シリカ微粒子分散液の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[高純度シリカ微粒子分散液の製造方法]
本実施形態に係る高純度シリカ微粒子分散液の製造方法は、下記工程1から工程4までを含む方法である。
本実施形態に係る製造方法によれば、以下に述べるような煩雑な問題を解決することができる。
例えば、イオン交換工程が増えると、イオン交換後の珪酸液を受けるタンクないし貯蔵するタンクを設ける必要が生じる。さらに、イオン交換プロセス毎にシリカ成分のロスが生じるため収率が低下するという問題がある。また、珪酸液を貯蔵するために設けたタンクのメンテナンスやイオン交換樹脂の再生や洗浄も行われるため、再生に必要な薬液量や洗浄水の量が増加し、その処理にも工程に負荷がかかる。
一般的に、珪酸液を陰イオン交換すると、珪酸液のpHが弱酸性から中性領域に上昇し、珪酸液がゲル化しやすくなる。このため、陰イオン交換後の珪酸液は極めて短時間で次の工程に投入するなど、迅速に使用する必要があり、そのような工程管理、時間管理および品質管理の負担が増大する。
また、珪酸液を所定時間保持する熟成処理をして酸処理を行う場合、珪酸液を所定時間保持しないと使用できないため、シリカ粒子調製に必要な珪酸液を、シリカ粒子の調製工程に合わせて予め計画的に調製する必要がある。そのため、シリカ粒子調製において連続的に複数バッチの調合を行う場合、前記保持時間とシリカ粒子調製工程の開始時間に合わせて、複数の酸処理保持用のタンクを準備する必要がある。この場合、複数のタンクおよび酸処理珪酸液の管理が必要となり生産が非常に複雑となる。
なお、本明細書において、シリカ微粒子分散液のことをシリカゾルとも表記する。
【0020】
[工程1:酸性珪酸液の調製]
工程1においては、珪酸ナトリウム水溶液(シリカ濃度2質量%以上7質量%以下の範囲)に、陽イオン交換処理を施し、pH2以上3以下の範囲の酸性珪酸液を得る。
ここで使用する珪酸ナトリウム水溶液としては、珪酸ナトリウムを水に溶解した、いわゆる水硝子(珪酸ソーダ)ないしは希釈水硝子を用いることができる。珪酸ナトリウム水溶液に含まれるSiO濃度は、2質量%以上7質量%以下の範囲であることが必要である。SiO濃度が前記範囲であれば、後述するイオン交換処理において、イオン交換樹脂層内でのゲル化が生じ難いので好ましい。
このような濃度範囲の珪酸ナトリウム水溶液は、例えば、市販の水硝子を水、イオン交換水、純水あるいは超純水で希釈して得ることができる。このような水硝子は、例えば、NaO・nSiO・mHOの組成式で表され、SiO濃度22質量%以上38質量%以下の範囲、NaO濃度5質量%以上19質量%以下の範囲、SiO:NaO(モル比)が0.5以上4以下の範囲、並びに、pH9以上の範囲にあるものが挙げられる。
【0021】
(陽イオン交換樹脂)
陽イオン交換処理に用いる陽イオン交換樹脂としては、格別に制限されるものではないが、例えば、H型陽イオン交換樹脂を用いることが好ましい。また、陽イオン交換樹脂は、ビーズ状、または繊維状など、その形態は問わない。本実施形態においては、カラムに陽イオン交換樹脂を充填して通液する方法が好ましい。
【0022】
(陽イオン交換温度)
一般に、イオン交換操作においては、イオン交換温度と、イオン交換される液体とイオン交換樹脂との接触時間[空間速度(Space Velocity:SV)]が重要な因子である。ここで、イオン交換温度としては、イオン交換樹脂に通液させる前の溶液の温度、イオン交換樹脂を充填したカラムの内部の温度、イオン交換樹脂を含む溶液の温度、イオン交換中のイオン交換塔内部の温度、および、イオン交換塔のカラム出口から流出する溶液の温度などが挙げられる。本実施形態においては、イオン交換反応に影響の大きい因子として、イオン交換温度をイオン交換樹脂に通液させる前の溶液の温度とした。
一般に、イオン交換反応の温度が高いほど、イオン交換効率は高くなり、さらに、後述するリーチング効果も高まるが、希釈した水硝子(珪酸ナトリウム水溶液)あるいは酸性珪酸液などのイオン交換の場合、温度が高くなると、特に酸性珪酸液は重合が進みゲル化しやすくなる傾向にあり、酸性珪酸液の安定性は低下する。また、ゲル化しない場合であっても、重合が進んだ珪酸液を用いて粒子の調合を行った場合、珪酸による自己核生成が生じ、所望のサイズのシリカ微粒子が得られない場合がある。
【0023】
珪酸ナトリウム水溶液を、陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通液させる前の液温[T1]は、3℃以上18℃以下の範囲にあることが好ましい。この温度範囲にあるとイオン交換効率に優れ、得られる酸性珪酸液も安定している。珪酸ナトリウム水溶液の液温が3℃未満の場合、陽イオン交換が効率的に進まない場合があり、またこれ以上温度を下げても珪酸液の安定性はあまり向上しない傾向にある。珪酸ナトリウム水溶液の液温が18℃を超える場合は、不純分の吸着効果は高まるものの酸性珪酸液は重合が進行し、ゲル化し易くなる傾向にあり、酸性珪酸液の安定性が低下しやすくなる傾向にある。また、このような酸性珪酸液を用いて粒子を調合した場合、珪酸による自己核生成が生じ、所望のサイズの粒子が得られない場合がある。
カラムに通液させる前の液温は、より好適には、5℃以上15℃以下の範囲が、さらに好適には6℃以上15℃以下が、最も好適には7℃以上15℃以下が推奨される。なお、珪酸ナトリウム水溶液の温度については、通常、前記温度範囲であれば、そのまま通液させることができる。液温が前記温度範囲を超える場合は、冷却して温度を調整させる。また、カラムに充填させた陽イオン交換樹脂についても、通液中の温度上昇を防ぐ目的で、予め冷蔵などの手段を用いて温度3℃以上18℃以下の範囲に調整しておくことが望ましい。
なお、本明細書では、工程1において、珪酸ナトリウム水溶液を、陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通液させる前の液温をT1と表すことがある。
【0024】
(空間速度)
珪酸ナトリウム水溶液を、陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通液させる際の空間速度[S1]は、2h-1以上6h-1以下の範囲にあることが好ましい。空間速度がこの範囲にあると、珪酸液と陽イオン交換樹脂の接触時間が充分なレベルとなり、イオン交換効率の点で好ましい。空間速度が2h-1未満の場合、イオン除去効果は高まるもののイオン交換に時間がかかるため、生産性が悪く経済性に問題がある傾向にある。空間速度が6h-1を超えるとイオン交換時間が短く経済性は良いものの、イオンの除去効率が低下したり、イオン交換塔内で溶液の偏流が生じ、イオン交換されない溶液が流出する可能性もあるので支障がある傾向にある。
この空間速度は、より好適には、2.5h-1以上5.0h-1以下の範囲が推奨される。なお、一般的に液が濾過材を通過する際の速度を表す場合、空間速度が用いられる。本明細書の場合、イオン交換樹脂を充填したカラムに溶液を通液させる場合の空間速度は、イオン交換樹脂体積当たりの通液速度のため、通液速度(m/h)÷樹脂体積(m)=空間速度(h-1 )の関係となる。
なお、本明細書では、工程1において、珪酸ナトリウム水溶液を陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通液させる際の空間速度をS1と表すことがある。
【0025】
工程1においては、珪酸ナトリウム水溶液を、pH2.0以上3.0以下の範囲の酸性珪酸液となるまで陽イオン交換処理を行う。酸性珪酸液のpH値[P1]が、2.0以上3.0以下の範囲であれば、珪酸液の安定性が向上するため好ましい。一般に、酸性珪酸液は陽イオン交換によってもpH2.0未満になり難い。酸性珪酸液のpHが3.0を超えると珪酸液の安定性が損なわれ、珪酸液の重合が進みやすく、場合によってはゲル化するといった問題がある。得られる酸性珪酸液のpHは、より好適には、2.2以上2.8以下の範囲が推奨される。
本実施形態において、工程1では、後述する反応ファクターAを満たすようにして陽イオン交換処理を施すことが望ましい。反応ファクターAについては後記した。
【0026】
[工程2:酸性珪酸液への酸添加]
工程2においては、工程1で得られたpH2以上3以下の範囲の酸性珪酸液から、不純物となる珪素以外の元素を溶解除去する目的で、酸性珪酸液に無機酸を添加して、酸性珪酸液のpHを1.5以上2.5以下の範囲に調整する。酸性珪酸液のpHが1.5未満の場合、酸量が過剰となり、工程2以降の工程中に粒子が凝集しやすくなるので望ましくない。また、粒子の安定性を保とうとすると、陰イオン除去処理が必要となり、工程が長くなり工程負荷が増大する。酸性珪酸液のpHが2.5を超える場合、酸性珪酸液中の不純物の除去が不十分となりやすい。得られる酸性珪酸液のpHは、好適には、1.6以上2.4以下の範囲が、より好適には、1.7以上2.2以下の範囲が、さらに好適には、1.8以上2.0以下の範囲が推奨される。
なお、本明細書では、工程2において、無機酸を添加した後の酸性珪酸液のpHをP2と表すことがある。
【0027】
(酸リーチング後の珪酸液のpHについて)
一般に、固相中に含まれる不純分を、酸やアルカリで溶出させるプロセスは、リーチング(Leaching)と呼ばれ、固相から特定の元素を水溶液中に溶解あるいは溶出させる操作を意味する。特許文献5で行われている、酸性珪酸液に無機酸を添加する操作もリーチングであり、リーチングで溶出させた金属不純分は、イオン交換などで除去される。なお、酸によるリーチングを「酸リーチング」ともいう。通常、酸リーチングは、リーチング後の酸性珪酸液のpHが低いほど、固相からの特定元素の溶出に有効であることが知られており、特許文献5では珪酸液に強酸を添加しpHを0~1.54に調整している。
【0028】
リーチングによって酸性珪酸液中に溶出させた不純分イオンは、引き続いて行われる陽イオン交換操作を行うことで除かれるが、特許文献5では酸性珪酸液のpHが1.54以下で陽イオン交換処理を行っている。しかしながら、通常、金属不純分を吸着した陽イオン交換樹脂は、塩酸や硫酸などの強酸の作用により陽イオン交換樹脂の再生がなされるため、酸性珪酸液のpHが低いほど、イオン交換樹脂に吸着された不純分イオンが、再び酸性珪酸液中に溶出するという問題が生じる。本発明者らが実際に実験確認したところ、酸性珪酸液のpHが1.5未満ではNaなどのアルカリ金属が脱離しやすくなり、得られた酸性珪酸液はシリカdry1gあたりにNaを数十ppm以上含むという結果が得られた。
【0029】
前述のとおり、リーチング効果を高めるためには、酸性珪酸液のpHを低くする必要があるが、pHが低すぎるとイオン交換樹脂の再生効果によって不純分イオンが脱離して不純分が十分に除去できないという問題が生じる。そのため、リーチング効果と樹脂の再生効果を考慮した最適なpHが必要であり、本発明者らが検討した結果、酸性珪酸液のpHは、前記のとおり、1.5以上2.5以下の範囲が最も好適な条件であった。なお、酸性珪酸液にイオン交換を行う場合、イオン交換前に酸性珪酸液のpHを1.5以上2.5以下の範囲で調整しても構わない。
【0030】
(スタティックミキサーによる混合)
工程2において、酸性珪酸液に無機酸を添加し、pHを低くすることで不純分のリーチングがなされるため、酸性珪酸液と無機酸が均一に混合されていることが非常に重要である。前述の通り、pHが低いほどリーチング効果は高くなるため、混合が不均一な場合は局所的にpHが低くならない箇所が生じ、リーチングが不十分となり、不純分が十分に低減できない場合がある。混合を均一に行うためには、攪拌機で長時間攪拌操作を行えば均一化できる。しかし、工程時間が長くなり過ぎ経済性が低下すること、また工程時間が長くなり過ぎると珪酸液のゲル化が生じる場合もある。仮にゲル化が生じなかったとしても、珪酸の重合が進み、このような珪酸液を粒子の調合に用いた場合、珪酸による自己核生成が生じたり、所望のサイズが得られないという問題が発生する場合がある。そこで短時間で十分に均一混合することが求められる。
短時間で混合するために、酸性珪酸液が流される配管に無機酸の配管を接続して混合する方法が知られているが、2液を十分に混合させるためには送液速度を高くして配管内のレイノルズ数を高めることが必要とされる。しかし、この方法では均一に混合することが難しいため、十分に混合されるまでに時間がかかり、リーチング不良が生じる可能性がある。
【0031】
本発明者らは、静止型混合器、いわゆるスタティックミキサーを用い、その特定のエレメント数範囲において、さらに所定範囲のレイノルズ数とすることで、リーチング不良を起こさず、比較的短時間で混合することができることを見出した。スタティックミキサーは、駆動部のない静止型混合器(ラインミキサー)であり、その構造は一例として、エレメント(長方形の板を左右逆方向に180度捩じったような構造)を必要な数だけ管内に交互に配列してなる構造を有する。必要とされるエレメント数は、対象となる流体の性状やプロセスの目的によりそれぞれ設定される。スタティックミキサー内に入った流体は、配管内に設けられたエレメントにより順次撹拌混合される。スタティックミキサーは様々なタイプがあるが、一例としてエレメントタイプのスタティックミキサーは、右エレメントと左エレメントが交互に配置され、分割、転換、または反転作用を生じさせる方法で、2種類の流体を均一に混合することができる。本実施形態においては、酸性珪酸液と無機酸を均一に混合される。
ここでスタティックミキサーのエレメント数をn、レイノルズ数をReとして、その積B(以下、「混合ファクターB」と称す)を1,000以上1,000,000以下の範囲とすることで、リーチング不良を生じさせず、短時間で均一な混合液を得ることができる。この混合ファクターBの範囲は、より好適には、5,000以上100,000以下の範囲が、さらに好ましくは、8,000以上50,000の範囲が推奨される。
前記エレメント数は、スタティックミキサーのメーカーが目的あるいは用途に応じて任意に設定し、市販されている。市販のスタティックミキサーのエレメント数は、格別に制限されるものではないが、例えば、5以上70以下の範囲で設定されたものが知られている。
なお、混合ファクターBは、下記数式(F1)で示すとおりである。
B=Re×n ・・・(F1)
【0032】
無機酸として、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、またはリン酸などを適宜の濃度の水溶液として用いることができる。無機酸の添加量は、酸性珪酸液のpHが所定範囲に調整できれば特に制限はない。なお、酸性珪酸液に対する無機酸の好適な使用量は、無機酸の種類により異なる。
【0033】
[工程3:精製酸性珪酸液の調製]
工程3においては、前記工程2で得られたpH1.5以上2.5以下の範囲の酸性珪酸液をキレートイオン交換処理し、続いて陽イオン交換処理することにより精製酸性珪酸液を調製する。
このキレートイオン交換処理は、キレートイオン交換樹脂を充填したカラムに酸性珪酸液を通液することにより行うことができる。キレートイオン交換により、珪素以外の金属元素の除去を行い、一層の高純度化を図る。キレートイオン交換は、特に多価の金属元素の除去効率が高い。
【0034】
工程2で得られた酸性珪酸液を、キレートイオン交換樹脂が充填されたカラムに通液させる前の液温[T3a]は3℃以上18℃以下の範囲にあることが好ましい。この温度範囲にあると珪素以外の金属元素の除去効率に優れ、得られる酸性珪酸液も安定している。キレートイオン交換処理に通液する酸性珪酸液の液温が3℃未満の場合、キレートイオン交換が効率的に進まない場合がある。同じく酸性珪酸液の液温が18℃を超える場合は、酸性珪酸液は重合が進行し、ゲル化しやすくなる傾向にあり、得られる酸性珪酸液の安定性が低下しやすくなる。このキレートイオン交換処理に通液する酸性珪酸液の液温は、より好適には、5℃以上15℃以下の範囲が推奨される。さらに好適には6℃以上15℃以下、もっとも好適には7℃以上15℃以下が推奨される。なお、この酸性珪酸液の温度については、通常、前記温度範囲であれば、そのまま通液させることができる。液温が前記温度範囲を超える場合は、冷却して温度を調整させる。また、カラムに充填させた陽イオン交換樹脂についても、通液中の温度上昇を防ぐ目的で、予め冷蔵などの手段を用いて温度3℃以上18℃以下の範囲に調整しておくことが望ましい。
なお、本明細書では、工程3において、酸性珪酸液を、キレートイオン交換樹脂が充填されたカラムに通液させる前の液温をT3aと表すことがある。
【0035】
工程2で得られた酸性珪酸液とキレートイオン交換樹脂との接触時間が長いほど、すなわちイオン交換樹脂を充填したイオン交換塔への通液速度が遅く、空間速度が低いほど、前記金属イオンの除去効率は高くなるが、空間速度が低くなると運転に時間がかかるため生産効率が悪化する。
工程3での酸性珪酸液のキレートイオン交換樹脂への通液速度[S3a]は、格別に制限されるものではないが、好適には、2h-1以上6h-1以下の範囲、より好適には、2.5h-1以上5.0h-1以下の範囲の空間速度で通液することが推奨される。
なお、本明細書では、工程3において、酸性珪酸液を陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通液させる際の空間速度をS3aで表すことがある。
【0036】
工程3においては、キレートイオン交換した後の酸性珪酸液のpH値[P3a]は、1.5以上2.5以下の範囲となることが好ましい。リーチング処理によって固相から液相に不純分イオンは溶出するが、溶出した不純分はppmオーダーであるため、陽イオン交換の前後において酸性珪酸液のpHはほとんど変動しない。逆に、このpH範囲から大きく外れる場合は、工程T中で何らかの汚染が生じていると考えられる。前記酸性珪酸液のpHは、好適には、1.6以上2.4以下の範囲が、より好適には、1.7以上2.2以下の範囲が、さらに好適には、1.8以上2.0以下の範囲が推奨される。
なお、本明細書では、工程3において、キレートイオン交換した後の酸性珪酸液のpH値をP3aと表すことがある。また、本明細書では、工程3でのキレートイオン交換処理のことを処理3aともいう。
なお、本明細書では、工程3においてキレートイオン交換した後の酸性珪酸液のことを「キレートイオン交換した後の酸性珪酸液」ないしは「キレートイオン交換処理後の酸性珪酸液」等とも表記する。
【0037】
キレートイオン交換処理に続いて、陽イオン交換処理を行う。ここで使用する陽イオン交換樹脂は、前述のとおりである。
【0038】
キレートイオン交換処理後の酸性珪酸液を、陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通液させる前の液温[T3b]は3℃以上18℃以下の範囲にあることが好ましい。この温度範囲にあるとイオン交換効率に優れ、得られる精製酸性珪酸液も安定している。前記酸性珪酸液の液温が3℃未満の場合、陽イオン交換が効率的に進まない場合がある。前記酸性珪酸液の液温が18℃を超える場合は、酸性珪酸液は重合が進行し、ゲル化しやすくなる傾向にあり、精製酸性珪酸液の安定性が低下しやすくなる。前記酸性珪酸液の液温は、より好適には、5℃以上15℃以下の範囲、さらに好適には、6℃以上15℃以下の範囲、最も好適には7℃以上15℃以下の範囲が推奨される。なお、前記酸性珪酸液の温度については、通常、前記温度範囲であれば、そのまま通液させることができる。液温が前記温度範囲を超える場合は、冷却して温度を調整させる。また、カラムに充填させた陽イオン交換樹脂についても、通液中の温度上昇を防ぐ目的で、予め冷蔵などの手段を用いて温度3℃以上18℃以下の範囲に調整しておくことが望ましい。
なお、本明細書では、工程3において、キレートイオン交換処理後の酸性珪酸液について、陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通液させる前の液温をT3bと表すことがある。
【0039】
キレートイオン交換処理後の酸性珪酸液とイオン交換樹脂との接触時間が長いほど、すなわちイオン交換樹脂を充填したイオン交換塔への通液速度が遅く、空間速度が低いほど、イオン交換効率は高くなるが、空間速度が低くなると運転に時間がかかるため生産効率が悪化する。
なお、工程3では、陽イオン交換に先だって、キレートイオン交換を行うが、このように複数回に渡ってイオン交換を行う場合、各イオン交換のステップで、それぞれ最適な空間速度を選択しても良いが、各ステップで空間速度が大きく異なると、処理時間が合わなくなり、後続する工程で待ち時間が生じ好ましくない。そのため、複数ステップでイオン交換を行う場合は、同程度の空間速度で行うことが好ましい。
工程3での酸性珪酸液の陽イオン交換樹脂への通液速度[S3b]は、格別に制限されるものではないが、好適には、2h-1以上6h-1以下の範囲、より好適には、2.5h-1以上5.0h-1以下の範囲の空間速度で通液することが推奨される。
なお、本明細書では、工程3において、キレートイオン交換処理後の酸性珪酸液について、陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通液させる際の空間速度をS3bで表すことがある。
【0040】
工程3においては、陽イオン交換した後の精製酸性珪酸液のpH値[P3b]は、1.5以上2.5以下の範囲となることが好ましい。リーチング処理によって固相から液相に不純分イオンは溶出するが、溶出した不純分はppmオーダーであるため、陽イオン交換の前後において酸性珪酸液のpHはほとんど変動しない。逆に、このpH範囲から大きく外れる場合は、工程中で何らかの汚染が生じていると考えられる。前記精製酸性珪酸液のpHは、好適には、1.6以上2.4以下の範囲が、より好適には、1.7以上2.2以下の範囲が、さらに好適には、1.8以上2.0以下の範囲が推奨される。
なお、本明細書では、工程3において、陽イオン交換した後の精製酸性珪酸液のpH値をP3bと表すことがある。また、本明細書では、工程3での陽イオン交換処理のことを処理3bともいう。
【0041】
[工程4:シリカ微粒子分散液の調製]
工程4においては、前記工程3で得られた精製酸性珪酸液の一部に、水酸化アルカリ水溶液を添加し、温度50℃以上98℃以下の範囲で加熱し、温度50℃以上98℃以下の範囲で温度を20分間以上保持し、さらに前記工程3で得られた精製酸性珪酸液の一部を、添加速度0.001g/min・g以上0.5g/min・g以下(シリカ固形分換算)の範囲の添加速度にて添加し、併せてpH調整剤を同時添加してなる高純度シリカ微粒子分散液を得る。
【0042】
具体的には、精製酸性珪酸液の一部をシード液、別の一部をフィード液とし、前記シード液をアルカリ性に調整した後、これをフィード液と混合する。
より具体的には、前記シード液にアルカリを添加して溶液のpHをpH10以上13以下の範囲、好適には、pH10.5以上12以下のアルカリ性の範囲に調整する。
前記アルカリの種類は格別に制限されるものではないが、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア水などを使用することができる。前記アルカリはシード液のpHをpH10以上13以下の範囲に調整できる量が使用される。
【0043】
前記pH範囲に調整されたシード液とアルカリを含む溶液の液温を、50℃以上98℃以下の範囲、好適には、60℃以上98℃以下の範囲、より好適には、65℃以上98℃以下の範囲とし、その温度を20分以上保持する。ここで保持時間は20分以上、より好ましくは30分以上保持することが推奨される。保持時間の上限は格別に制限されるものではないが、通常は90分保持すれば十分といえる。このような保持処理により、シードとなる精製酸性珪酸液の溶解や重合が生じ、均一な核粒子の前駆体となり均一なシリカ微粒子を得られやすい。
【0044】
前記保持処理に続いて、シード液とアルカリを含む溶液にフィード液を添加する。シード液とアルカリを含む溶液に対して、フィード液の使用量は、シリカ換算[質量部]で、シード液とアルカリを含む溶液中のシリカ固形分1質量部に対して、フィード液中のシリカ固形分1質量部以上100質量部以下の範囲となるフィード液が使用される。
フィード液の添加速度は、0.001g/min・g以上0.5g/min・g以下(シリカ固形分換算)の範囲で添加される。フィード液の添加速度がこの範囲にあると、効率よく生産することができ、かつ珪酸の自己核生成が生じない。フィード液の添加速度が0.001g/min・g未満の場合は、調合に非常に時間がかかるため経済性が悪くなるという問題がある。フィード液の添加速度が0.5g/min・gを超える場合は、珪酸の添加速度が速すぎるため、珪酸による自己核生成が生じやすく、所望の粒子径が得られにくいという問題がある。前記フィード液の添加速度は、より好適には0.002g/min・g以上0.3g/min・g以下の範囲が推奨される。
ここで添加速度の単位「g/min・g」は、シード液中のシリカdryに対し、毎分添加されるフィード液の時間あたりのシリカdry供給量を意味する。ここで、単位「g/min・g」は、単位「g/(min・g)」とも表示できる。
【0045】
シード液とアルカリを含む溶液にフィード液を添加する際には、pH調整剤の同時添加を行う。これはシード液とアルカリを含む溶液にフィード液を添加することにより調合液のpHが低下し、過剰な凝集が生じることを防ぐ目的で行う。
前記pH調整剤の使用量は、前記工程2で添加した無機酸が1価の無機酸の場合は該無機酸と等モルとなる量を、無機酸が2価の無機酸の場合は該無機酸の倍モルとなる量を、無機酸が3価の無機酸の場合は該無機酸と3倍モルとなる量を使用する。pH調整剤の添加速度は、アルカリ水溶液の濃度によって変わるため、格別には制限されるものではない。前記pH調整剤の種類は、格別に制限されるものではないが、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア水などを使用することができる。pH調整剤は、調合液のpHをアルカリ性に保ち、逐次添加される精製酸性珪酸液を溶解させ、粒子に沈着させる目的で添加され、フィード液添加時において、シード液、アルカリ及びフィード液からなる系のpHを10以上13以下の範囲に維持する目的で添加される。ここで、フィード液は、好適には、1℃以上30℃以下の範囲、より好適には、1℃以上20℃以下の範囲として、シード液に添加する。
【0046】
好ましくは、上記のようなpHおよび温度に調整したシード液へ、フィード液とpH調整剤を徐々に添加していくと、シード液中でシリカ微粒子が成長し、シリカ微粒子分散液(シリカゾル)が得られる。ここでシード液中へフィード液とpH調整剤を添加した後、15分から5時間程度、温度50℃以上98℃以下の範囲で保持すると、シリカ微粒子が成長しやすいので好ましい。
【0047】
工程4においては、一段階目で、フィード液を添加した後に、二段階目で、フィード液の添加速度を変えて、さらにフィード液を添加しても構わない。
二段階目は、工程3で得られた酸性珪酸液の一部であるフィード液を、一段階目の添加速度の1.0倍以上10.0倍以下の範囲で添加して、高純度シリカ微粒子分散液を得てもよい。
【0048】
本実施形態に係る高純度シリカ微粒子分散液の製造方法においては、次の態様1が好適である。
[態様1:反応ファクターA]
本実施形態に係る高純度シリカ微粒子分散液の製造方法においては、下記数式(F2)で表される反応ファクター(A)の値が56以上225以下の範囲を満たすようにして施すことが好ましい。
A=p×s×t ・・・(F2)
p:前記工程2の無機酸添加後の酸性珪酸液のpHと、前記工程3のキレートイオン交換処理後の酸性珪酸液のpHの平均値、
s:前記工程1および前記工程3の各イオン交換処理にて、通液させる際の空間速度(単位:h-1)の平均値、
t:前記工程1および前記工程3の各イオン交換処理にて、通液させる前の液の温度(単位:℃)の平均値
【0049】
前記のとおり数式(F2)におけるpは、工程2の無機酸添加後の酸性珪酸液のpH[P2]と、前記工程3のキレートイオン交換処理後の酸性珪酸液のpH[P3a]の平均値である。この関係はp=([P2]+[P3a])/2と表すことができる。
【0050】
前記のとおり数式(F2)におけるsは、前記工程1および前記工程3の各イオン交換処理にて、通液させる際の空間速度(単位:h-1)の平均値を表す。すなわち、数式(F2)におけるsは、工程1において陽イオン交換樹脂に珪酸ナトリウム水溶液を通液させた際の通液速度[S1]と、工程3においてキレートイオン交換樹脂に酸性珪酸液を通液させた際の通液速度[S3a]と、同じく工程3において陽イオン交換樹脂に酸性珪酸液を通液させた際の通液速度[S3b]の平均値を意味する。この関係はs=([S1]+[S3a]+[S3b])/3と表すことができる。
【0051】
前記のとおり数式(F2)におけるtは、前記工程1および前記工程3の各イオン交換処理にて、通液させる前の温度の平均値を表す。すなわち、数式(F2)におけるtは、工程1において陽イオン交換樹脂に珪酸ナトリウム水溶液を通液させる前の温度[T1]と、工程3においてキレートイオン交換樹脂に酸性珪酸液を通液させる前の温度[T3a]と、同じく工程3において陽イオン交換樹脂に酸性珪酸液を通液させる前の温度[T3b]の平均値を意味する。この関係はt=([T1]+[T3a]+[T3b])/3と表すことができる。
【0052】
本発明者らは、高純度シリカゾルの製造方法において、効率的に不純分を低減させるために、原料水硝子の陽イオン交換と、中間段階での酸性珪酸液の陽イオン交換の条件に着目し、本発明を完成させた。
すなわち、工程2での無機酸添加後の酸性珪酸液のpH値[P2]とキレートイオン交換処理後の精製酸性珪酸液のpH値[P3a]の平均値[p]、工程1での陽イオン交換処理における珪酸ナトリウム水溶液の空間速度[S1]と,工程3でのキレートイオン交換処理における精製酸性珪酸液の空間速度[S3a]と工程3での陽イオン交換処理における精製酸性珪酸液の空間速度[S3b]の平均値(s)、工程1での陽イオン交換処理に投入する前の珪酸ナトリウム水溶液の液温[T1]と工程3でのキレートイオン交換処理に投入する前の酸性珪酸液の液温[T3a]と工程3での陽イオン交換処理後に投入する前の酸性珪酸液の液温[T3b]の平均値[t]について、p、sおよびtの積をAとするとAは、56以上225以下の範囲であれば、経済性が良く、金属不純分の除去効率も良く、酸性珪酸液と精製酸性珪酸液の安定性も保たれることを本発明者らは見出した。
なお、本発明において、工程の設定上、前記工程2での無機酸添加後の精製酸性珪酸液のpH値(P2)は、工程3でのキレートイオン交換処理前の精製酸性珪酸液のpH値と等しい。また、工程3でのキレートイオン交換処理後の精製酸性珪酸液のpH値(P3a)は、工程3での陽イオン交換処理前の精製酸性珪酸液のpH値と等しい。
【0053】
本実施形態においては、数式(F2)において、pの値は、好適には1.5以上2.5以下の範囲であり、より好適には1.6以上2.4以下の範囲であり、さらに好適には1.7以上2.4以下の範囲であり、特に好適には1.8以上2.4以下の範囲である。また、sの値は、好適には2h-1以上6h-1以下の範囲であり、好適には2.5h-1以上5h-1以下の範囲であり、さらに好適には3.2h-1以上4.8h-1以下の範囲であり、特に好適には3.2h-1以上4.6h-1以下の範囲である。また、tの値は、好適には3℃以上18℃以下の範囲であり、さらに好適には5℃以上15℃以下の範囲であり、さらに好適には6℃以上15℃以下の範囲であり、特に好適には7℃以上15℃以下の範囲である。
【0054】
前記反応ファクターAの値は、好適には、60以上175以下の範囲、より好適には、65以上160以下の範囲、さらに好適には、70以上144以下の範囲が推奨される。
【0055】
また、本実施形態において、得られる高純度シリカ微粒子分散液におけるシリカ微粒子の平均粒子径は格別に制限されるものではない。例えば、平均粒子径3nm以上300nm以下(動的光散乱法)のシリカ微粒子分散液を得ることができる。
【0056】
[高純度シリカ微粒子分散液]
本実施形態に係る高純度シリカ微粒子分散液は、前述の本実施形態に係る高純度シリカ微粒子分散液の製造方法により得ることができる。
本実施形態に係る高純度シリカ微粒子分散液は、シリカ固形分に対して、Al濃度が5ppm以上80ppm以下であり、Ti濃度が5ppm以上100ppm以下であり、Fe濃度が1ppm以上20ppm以下であり、Ca濃度が1ppm以上8ppm以下であり、Na濃度が1ppm以上20ppm以下であり、Mg濃度が0.2ppm以上5ppm以下であり、Cr濃度が0.05ppm以上1ppm以下であり、Ni濃度が1ppm未満であり、Cu濃度が1ppm未満であり、Zn濃度が1ppm未満である(但し、これらの金属の合計量は200ppm以下に限られる。)。
【実施例0057】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。また、実施例および比較例における高純度シリカゾルの各種特性の測定方法については、特に断りの無い限り、以下に記す方法にて実施した。
【0058】
<シリカゾルおよび精製酸性珪酸液などの測定>
1.純度
(1)金属(Al、Ti、Fe、Ca、Mg、Cr、Ni、Cu、Zn、またはNa)含有量
1)試料(シリカゾルまたは精製酸性珪酸液)約10gを白金皿に採取し、0.1mgまで秤量する。
2)硝酸5mLとフッ化水素酸20mLを加えて、サンドバス上で加熱し、蒸発乾固する。
3)液量が少なくなったら、さらにフッ化水素酸20mLを加えてサンドバス上で加熱し、蒸発乾固する。
4)室温まで冷却後、硝酸2mLと水約50mLを加えて、サンドバス上で加熱溶解する。
5)室温まで冷却後、フラスコ(100mL)に入れ、水で100mLに希釈して試料溶液とする。
6)下記測定装置により試料溶液中に存在する各金属の含有量を測定した。
【0059】
[Al、Ti、Fe、Ca、Mg、Cr、およびZnの含有量]
誘導結合プラズマ発光分光分析装置(セイコーインスツル(株)製、SPS5520、高周波誘導結合アルゴンプラズマ中に溶液化した試料を導入し、試料中の各元素を励起発光させ、発光スペクトルにより定量、定性分析を行う装置。測定波長範囲は175~500nm。)により測定した。
[NiおよびCuの含有量]
原子吸光分光光度計(アジレント・テクノロジー(株)製、AA240Z、フレームにより試料を原子蒸気化し、その原子蒸気層に適当な波長の光を照射する。その際、原子によって吸収された光の強さを測定し、これにより試料中の元素濃度を定量する。グラファイト炉を使用する。測定モード:原子吸光、測定波長範囲は190~900nm。)を使用した。
[Naの含有量]
原子吸光分光光度計(日立製作所(株)製、Z-2310、測定波長範囲は190~900nm。)を使用した。
【0060】
(2)SiO濃度
シリカゾルまたは精製酸性珪酸液に含まれるSiO濃度は、試料10gに50%硫酸水溶液2mLを加え、白金皿上にて蒸発乾固し、得られた固形物を1000℃にて1時間焼成後、冷却して秤量する。次に、秤量した固形物を微量の50%硫酸水溶液に溶かし、さらにフッ化水素酸20mLを加えてから、白金皿上にて蒸発乾固し、1000℃にて15分焼成後、冷却して秤量する。これらの重量差よりシリカ含有量を求めた。
【0061】
(3)上記(1)~(2)の測定結果からシリカゾルのシリカ固形分(シリカdry)に対する各元素(Al、Ti、Fe、Ca、Mg、Cr、Ni、Cu、Zn、またはNa)の各濃度(不純分濃度)を測定した。
【0062】
2.pH測定
酸性珪酸液、精製酸性珪酸液およびシリカゾル(シリカ微粒子分散液)のpH測定は、測定用サンプル約50gをポリエチレン製のサンプル瓶に採取し、これを25℃の恒温槽に30分以上浸漬した後、pH4、7および9の標準液で更正が完了した株式会社堀場製作所製のpHメータF22のガラス電極を挿入して実施した。
【0063】
3.平均粒子径の測定
各実施例および比較例において得られたシリカゾル(シリカ微粒子分散液)について、動的光散乱法による粒子径測定装置である大塚電子社製、nanoSAQLAを用いて平均粒子径を測定した。
【0064】
4.レイノルズ数の算出
本願明細書において、レイノルズ数(Re)は次の一般式により求めた。
レイノルズ数(Re)=Duρ/μ
(D:管内径[m]、u:流体の平均流速[m/s]、ρ:流体の密度[Kg/m]、μ:流体の粘性[m/s])
【0065】
[実施例1]
(酸性珪酸液の調製)
・工程1
3号水硝子(シリカ濃度24.3質量%)2700gを純水で希釈し、珪酸ナトリウム水溶液(SiO濃度4.5質量%)14,580gを調製した。得られた珪酸ナトリウム水溶液を12℃に冷却した後、強酸性陽イオン交換樹脂(デュオライトC255LFH、ローム・アンド・ハース社製)6Lに空間速度4.0h-1で通液させて、pH2.6、SiO濃度4.5質量%の酸性珪酸液12,940gを得た。
・工程2
次に、ノリタケカンパニーリミテド社製スタティックミキサーT3-12(エレメント数:12)を用いて、5.0質量%の硫酸水溶液259.2gと、酸性珪酸液12700gの混合を行った。酸性珪酸液12700gを299.8g/分で42.4分かけてスタティックミキサーに導入しながら、同時に5.0質量%の硫酸259.3gを6.1g/minで42.4分かけてスタティックミキサーに導入することで硫酸と酸性珪酸液を混合してリーチング処理を行った。得られたリーチング酸性珪酸液のpHは1.8で、硫酸濃度は1000ppm、SiO濃度4.4質量%であった。なお、スタティックミキサー通液時のレイノルズ数は1270であった。
なお、本願明細書においては、無機酸を添加してリーチング処理が行われた酸性珪酸液のことを「リーチング酸性珪酸液」とも表記する。
・工程3
次に、リーチング酸性珪酸液12,959gを12℃に冷却し、6Lのキレート型イオン交換樹脂(CR-11三菱化学社製)に空間速度3.0h-1で通液させ、11,800gの珪酸液を得た。得られた精製酸性珪酸液のSiO濃度は4.4質量%、pHは1.9であった。
さらに、得られた精製酸性珪酸液を12℃に冷却して6Lの強酸性陽イオン交換樹脂に空間速度4.0h-1で通液させて精製酸性珪酸液は8,980gを得た。精製酸性珪酸液のpHは1.8でSiO濃度は4.3質量%であった。
(シリカゾルの調製)
・工程4
内容積10Lのセパラブルフラスコにシリカdryが13.85gとなるように精製酸性珪酸液(322g)を投入した。次いで48.7%の水酸化カリウム水溶液16.3g計量した。次に、精製珪酸液と水酸化カリウム水溶液、超純水の合計が893.3gとなるように超純水を計量(555g)し、48.7質量%の水酸化カリウム水溶液16.3gと超純水を均一になるまで攪拌した。この希釈水酸化カリウム水溶液を10Lセパラブルフラスコに投入し、十分に攪拌した。10Lセパラブルフラスコ内の溶液のシリカ濃度は1.55質量%で、pHは11.3であった。
続いて、この溶液を攪拌しながら83℃に昇温し、83℃に到達した後30分間温度を保持した。保持が終了した後、精製酸性珪酸液をシリカdryで50.87g(精製酸性珪酸液1183g)を3時間かけて添加速度0.020g/min・g(シリカ固形分換算)で添加し、同時に予め準備しておいた1.0質量%の水酸化カリウム水溶液136gを3時間かけて添加した(一段目添加)。引き続き精製酸性珪酸液をシリカdryで305.1(精製酸性珪酸液7095g)を添加速度0.031g/min・g(シリカ固形分換算)で12時間かけて添加し、同時に予め準備しておいた1.0質量%の水酸化カリウム水溶液817gを12時間かけて添加した(二段目添加)。添加終了後は83℃のまま1時間保持し、その後室温まで冷却した。
得られた液を、限外濾過膜(旭化成ケミカルズ社製SIP-1013)を用いて、12質量%まで濃縮し、ついでロータリーエバポレーターで40質量%まで濃縮して、高純度シリカゾル(高純度シリカ微粒子分散液)を得た。
そして、得られた精製酸性珪酸液およびシリカゾルの金属不純分濃度を測定したところ、シリカ固形分に対する各金属不純分濃度は、表2および表3に示す通りであった。また、製造条件を表1に示す(以下の実施例と比較例も同様。)。さらに、レイノルズ数(Re)、混合ファクターB、並びに、pの値、tの値、sの値および反応ファクターAの算出値を表1に示す(但し、該当する値を測定できない場合と算定できない場合を除く。以下の実施例と比較例も同様。)。また、得られたシリカゾル中のシリカ微粒子の平均粒子径は、34nmであった。
なお、本願明細書においては、シリカ固形分のことを「シリカdry」とも表記する。
【0066】
[実施例2]
実施例1の工程2において、実施例1では酸性珪酸液12,700gに対して、5.0質量%硫酸259.3gを、スタティックミキサーを用いて混合したが、実施例2の工程2では酸性珪酸液12,810gに対して、5.0質量%硫酸水溶液26.2gを、スタティックミキサーを用いて混合した。得られたリーチング珪酸液のpHは2.3であった。
また、実施例1では工程4で使用する48.7質量%の水酸化カリウム水溶液の重量が16.3gであったが、実施例2では工程4で使用する水酸化カリウム水溶液(48.7質量%)の使用量を15.6gとした。
さらに、実施例1では調合中に、1.0質量%の水酸化カリウムを3時間かけて136g添加し、ついで12時間かけて817gを添加したが、実施例2の工程4の調合においては、精製酸性珪酸液と同時に1.0質量%の水酸化カリウム水溶液14gを3時間かけて添加し(一段目添加)、ついで精製酸性珪酸液と同時に1.0質量%の水酸化カリウム水溶液86gを12時間かけて添加した(二段目添加)。実施例2では、ここに記した条件以外は、表1に記した条件で実施した。
【0067】
[実施例3]
実施例1の工程2において、実施例1では酸性珪酸液12,700gに対して、5.0質量%硫酸259.3gを、スタティックミキサーを用いて混合したが、実施例3の工程2では酸性珪酸液12,750gに対して、5.0質量%硫酸水溶液572.7gを、スタティックミキサーを用いて混合した。得られたリーチング酸性珪酸液のpHは1.6であった。
また、実施例1では工程4で使用する48.7質量%の水酸化カリウム水溶液の重量が16.3gであったが、実施例3では工程4で使用する48.7質量%の水酸化カリウム水溶液の使用量を17.5gとした。
さらに実施例1では調合中に1.0質量%の水酸化カリウムを3時間かけて136g添加し、ついで12時間かけて817gを添加したが、実施例3では精製酸性珪酸液と同時に2.0質量%の水酸化カリウム水溶液162gを3時間かけて添加し(一段目添加)、ついで精製酸性珪酸液と同時に2.0質量%の水酸化カリウム水溶液970gを12時間かけて添加した(二段目添加)。実施例3では、ここに記した条件以外は、表1に記した条件で実施した。
【0068】
[実施例4]
実施例1の工程2において、実施例1では酸性珪酸液12,700gに対して、5.0質量%硫酸259.3gを、スタティックミキサーを用いて混合したが、実施例4の工程2では酸性珪酸液12,750gに対して、5.0質量%硫酸水溶液104.1gを、スタティックミキサーを用いて混合した。得られたリーチング酸性珪酸液のpHは2.0であった。
また、実施例1では工程4で使用する48.7質量%の水酸化カリウム水溶液の重量が16.3gであったが、実施例4では、精製酸性珪酸液に添加する水酸化カリウム水溶液(48.7質量%)の使用量を15.9gとした。
さらに実施例1では調合中に1.0質量%の水酸化カリウムを3時間かけて136g添加し、ついで12時間かけて817gを添加したが、実施例4では、工程4での調合中に精製酸性珪酸液と同時に水酸化カリウム水溶液(濃度1.0質量%)59gを3時間かけて添加し(一段目添加)、ついで精製酸性珪酸液と同時に水酸化カリウム水溶液(濃度1.0質量%)352gを12時間かけて添加した(二段目添加)。実施例4では、ここに記した条件以外は、表1に記した条件で実施した。
【0069】
[比較例1]
実施例1の工程2において、実施例1では酸性珪酸液12,700gに対して、5.0質量%硫酸259.3gを、スタティックミキサーを用いて混合したが、比較例1の工程2では酸性珪酸液12,750gに対して、5.0質量%硫酸水溶液1,666.0gを、スタティックミキサーを用いて混合した。得られたリーチング酸性珪酸液のpHは1.2であった。
また、実施例1では工程4で使用する48.7質量%の水酸化カリウム水溶液の重量が16.3gであったが、比較例1では工程4で使用する48.7質量%の水酸化カリウム水溶液の使用量を19.6gとした。
さらに実施例1では調合中に1.0質量%の水酸化カリウムを3時間かけて136g添加し、ついで12時間かけて817gを添加したが、比較例1では工程4での調合中に精製酸性珪酸液と同時に5.0質量%の水酸化カリウム水溶液193gを3時間かけて添加し(一段目添加)、ついで精製酸性珪酸液と同時に水酸化カリウム水溶液(濃度5質量%)1,156gを12時間かけて添加した(二段目添加)。比較例1では、ここに記した条件以外は、表1に記した条件で実施した。
【0070】
[比較例2]
実施例1の工程2において、実施例1では酸性珪酸液12,700gに対して、5.0質量%硫酸259.3gを、スタティックミキサーを用いて混合したが、比較例2の工程2では酸性珪酸液12,900gに対して、5.0質量%硫酸水溶液2633.7gを、スタティックミキサーを用いて混合した。得られたリーチング酸性珪酸液のpHは1.0であった。
また、実施例1では工程4で使用する48.7質量%の水酸化カリウム水溶液の重量が16.3gであったが、比較例2では工程4で使用する48.7質量%の水酸化カリウム水溶液の使用量を24.8gとした。
さらに実施例1では調合中に1.0質量%の水酸化カリウムを3時間かけて136g添加し、ついで12時間かけて817gを添加したが、比較例2では工程4での調合中に精製酸性珪酸液と同時に10.0質量%の水酸化カリウム水溶液171gを3時間かけて添加し(一段目添加)、ついで精製酸性珪酸液と同時に水酸化カリウム水溶液(濃度5質量%)1028gを12時間かけて添加した(二段目添加)。比較例2では、ここに記した条件以外は、表1に記した条件で実施した。
【0071】
[比較例3]
実施例1において、工程1、工程2、工程3および工程4の順で処理を行うが、比較例3では工程2を行わず、工程1、工程3および工程4の順で処理を行った。なお、この際、実施例1の工程4で使用する48.7質量%の水酸化カリウム水溶液の重量が16.3gであったが、比較例3では工程4で使用する水酸化カリウム水溶液(48.7質量%)の使用量を16.0gとした。
さらに実施例1では調合中に1.0質量%の水酸化カリウムを3時間かけて136g添加し、ついで12時間かけて817gを添加したが、比較例3の工程4では1.0質量%の水酸化カリウム水溶液は添加しなかった。比較例3では、ここに記した条件以外は、表1に記した条件で実施した。
なお、比較例3ではリーチング工程がないため、混合ファクターおよび反応ファクターは算出できなかった。
【0072】
[比較例4]
比較例3では工程1、工程3および工程4の順番に処理を行ったが、比較例4では工程3において、キレートイオン交換樹脂への通液を行わずに陽イオン交換樹脂への通液を行った。比較例4では、ここに記した条件以外は、表1に記した条件で実施した。
なお、比較例3ではリーチング工程がないため、混合ファクターおよび反応ファクターは算出できなかった。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】