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特開2024-119633期外収縮判定装置、期外収縮判定方法、および期外収縮判定プログラム
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  • 特開-期外収縮判定装置、期外収縮判定方法、および期外収縮判定プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119633
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】期外収縮判定装置、期外収縮判定方法、および期外収縮判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/02 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
A61B8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026685
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】吉松 淳
(72)【発明者】
【氏名】柿ヶ野 藍子
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】藤丸 雅弘
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD01
4C601DD07
4C601DD15
4C601EE09
4C601JC06
4C601JC11
4C601JC16
(57)【要約】
【課題】心臓の画像から期外収縮の有無を精度良く判定する。
【解決手段】期外収縮判定装置(1)は、心臓の画像における各心室および各心房の領域の面積の時系列変化を示す信号波形を取得する取得部(101)と、当該信号波形に示される面積が基準値となる時点から次に基準値となるまでの時間間隔と所定閾値とを比較することにより期外収縮であるか否かを判定する判定部(104)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓の画像を解析することにより生成された、左心房、左心室、右心房、および右心室の少なくともいずれかの領域の面積の時系列変化を示す信号波形を取得する取得部と、
前記信号波形に示される面積が、当該信号波形の変位に基づいて設定された基準値となる時点から、前記信号波形に示される面積が次に前記基準値となるまでの時間間隔と、所定閾値とを比較することにより期外収縮であるか否かを判定する判定部と、を備える期外収縮判定装置。
【請求項2】
前記信号波形の低周波成分を除去する特定成分除去部をさらに備え、
前記判定部は、低周波成分が除去された前記信号波形において前記時間間隔を特定する、請求項1に記載の期外収縮判定装置。
【請求項3】
前記基準値は、前記信号波形における変位の中心値である、請求項1または2に記載の期外収縮判定装置。
【請求項4】
前記所定閾値は、前記時間間隔の代表値を基準として設定された値である、請求項1または2に記載の期外収縮判定装置。
【請求項5】
1または複数の情報処理装置により実行される期外収縮判定方法であって、
心臓の画像を解析することにより生成された、左心房、左心室、右心房、および右心室の少なくともいずれかの領域の面積の時系列変化を示す信号波形を取得する取得ステップと、
前記信号波形に示される面積が、当該信号波形の変位に基づいて設定された基準値となる時点から、前記信号波形に示される面積が次に前記基準値となるまでの時間間隔と、所定閾値とを比較することにより期外収縮であるか否かを判定する判定ステップと、を含む期外収縮判定方法。
【請求項6】
請求項1に記載の期外収縮判定装置としてコンピュータを機能させるための期外収縮判定プログラムであって、前記取得部および前記判定部としてコンピュータを機能させるための期外収縮判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓の画像から期外収縮の有無を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓の超音波診断動画像から、心臓の左右間の関連、および房室間の関連を把握する技術が広く利用されている。例えば、特許文献1には、超音波診断動画像において複数の心腔における境界位置群を特定し、該境界位置群の追跡結果に基づいて、少なくとも1心拍以上の区間に亘る複数の心腔の境界位置を取得する超音波診断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-149097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、不整脈診断には主に心電図が使用されるが、発生した不整脈が期外収縮であることを判定することが困難な場合があり、判定精度の面で改善の余地があった。なお、期外収縮とは不整脈の一種であり、心臓に異常刺激がおこり、正規の拍動のほかに付加的収縮による拍動が加わるものである。本発明の一態様は、心臓の画像から期外収縮の有無を精度良く判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る期外収縮判定装置は、心臓の画像を解析することにより生成された、左心房、左心室、右心房、および右心室の少なくともいずれかの領域の面積の時系列変化を示す信号波形を取得する取得部と、前記信号波形に示される面積が、当該信号波形の変位に基づいて設定された基準値となる時点から、前記信号波形に示される面積が次に前記基準値となるまでの時間間隔と、所定閾値とを比較することにより期外収縮であるか否かを判定する判定部と、を備える。
【0006】
また、本発明の一態様に係る期外収縮判定方法は、1または複数の情報処理装置により実行される期外収縮判定方法であって、心臓の画像を解析することにより生成された、左心房、左心室、右心房、および右心室の少なくともいずれかの領域の面積の時系列変化を示す信号波形を取得する取得ステップと、前記信号波形に示される面積が、当該信号波形の変位に基づいて設定された基準値となる時点から、前記信号波形に示される面積が次に前記基準値となるまでの時間間隔と、所定閾値とを比較することにより期外収縮であるか否かを判定する判定ステップと、を含む。
【0007】
本発明の各態様に係る期外収縮判定装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記期外収縮判定装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記期外収縮判定装置をコンピュータにて実現させる前記期外収縮判定装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、心臓の画像から期外収縮の有無を精度良く判定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る期外収縮判定装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
図2】心臓の超音波画像から左心房、左心室、右心房、および右心室の各領域を検出した例を示す図である。
図3】期外収縮の判定に用いられる信号波形の例を示す図である。
図4】基準値と閾値の設定方法を説明する図である。
図5】本発明の一実施形態に係る期外収縮判定方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔期外収縮判定装置1の構成〕
本発明の一実施形態に係る期外収縮判定装置1の構成を図1に基づいて説明する。詳細は以下説明するが、期外収縮判定装置1は、心臓の画像から期外収縮の有無を判定する機能を備えている。期外収縮判定装置1によれば、心電図を用いて期外収縮の有無を判定する場合と比べて、より高精度な判定結果を出力することが可能である。
【0011】
図1は、期外収縮判定装置1の要部構成の一例を示すブロック図である。図示のように、期外収縮判定装置1は、プロセッサ10、メモリ11、および記憶装置12を備えている。期外収縮判定装置1は、パーソナルコンピュータ、サーバー、またはワークステーションであってもよい。プロセッサ10は、記憶装置12に記憶されている期外収縮判定プログラムをメモリ11にロードして実行することにより、後述する取得部101から出力制御部106までの各部として機能する。
【0012】
プロセッサ10は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現することもできるし、ソフトウェアによって実現することもできる。ソフトウェアによって実現する場合、プロセッサ10は、例えばCPU(Central Processing Unit)で構成してもよいし、GPU(Graphics Processing Unit)で構成してもよく、これらの組み合わせで構成してもよい。また、この場合、上記ソフトウェアは、記憶装置12に保存しておく。そして、プロセッサ10は、上記ソフトウェアをメモリ11に読み込んで実行する。
【0013】
メモリ11と記憶装置12は、何れも期外収縮判定装置1が使用する各種データを記憶する記憶装置である。メモリ11は記憶装置12と比べて高速でデータの書き込みおよび読出しが可能な記憶装置である。記憶装置12はメモリ11と比べてデータの記憶容量が大きい。メモリ11としては、例えばSDRAM(Synchronous Dynamic Random-Access Memory)等の高速アクセスメモリを適用することもできる。また、記憶装置12としては、例えばHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid-State Drive)、SD(Secure Digital)カード、あるいはeMMC(embedded Multi-Media Controller)等を適用することもできる。
【0014】
また、期外収縮判定装置1は、外部の機器とのインターフェース(IF)として、入力IF部13および出力IF部14を備えている。入力IF部13は、キーボードやマウスなどの入力装置からの入力信号を受け付けるためのインターフェースである。出力IF部14は、期外収縮の有無の判定結果等を外部の機器に出力するためのインターフェースである。例えば、出力IF部14に表示装置を接続し、当該表示装置に期外収縮の有無の判定結果等を表示させることもできる。
【0015】
プロセッサ10は、期外収縮判定プログラムを実行することにより、取得部101、特定成分除去部102、基準値設定部103、判定部104、閾値設定部105、および出力制御部106の各部として機能する。
【0016】
取得部101は、心臓の画像に含まれる、左心房、左心室、右心房、および右心室の少なくともいずれかの領域の面積の時系列変化を示す信号波形を取得する。なお、「信号波形」は、上記領域の面積の時系列変化を示すデータである。心臓の画像、各領域の面積、および信号波形の詳細については後述する。
【0017】
特定成分除去部102は、取得部101が取得する信号波形から特定の周波数成分を除去する処理を行う。詳細は後述するが、例えば、特定成分除去部102は、取得部101が取得する信号波形を、ローパスフィルタおよびハイパスフィルタに供することによって当該信号波形から高周波成分と低周波成分とを除去してもよい。
【0018】
基準値設定部103は、取得部101が取得する信号波形の変位に基づいて基準値を設定する。また、閾値設定部105は、期外収縮の有無を判定するための閾値(所定閾値)を設定する。閾値および基準値の設定方法については後述する。
【0019】
判定部104は、期外収縮であるか否かの判定を行う。具体的には、判定部104は、当該判定にあたって、まず、取得部101が取得する信号波形に示される面積が基準値設定部103により設定された基準値となる時点から、その信号波形に示される面積が次に基準値となるまでの時間間隔を特定する。そして、判定部104は、特定した時間間隔と、閾値設定部105が設定する閾値とを比較することにより、期外収縮であるか否かを判定する。この判定の詳細についても後述する。
【0020】
出力制御部106は、判定部104の判定結果を各種出力装置に出力させる。例えば、出力IF部14を介して表示装置が接続されている場合、出力制御部106は、当該表示装置に判定結果を出力させてもよい。無論、出力の態様は任意であり、表示出力、音声出力、印字出力、およびこれらの組み合わせ等により判定部104の判定結果を出力するようにしてもよい。
【0021】
以上のように、期外収縮判定装置1は、心臓の画像を解析することにより生成された、左心房、左心室、右心房、および右心室の少なくともいずれかの領域の面積の時系列変化を示す信号波形を取得する取得部101と、上記信号波形に示される面積が、当該信号波形の変位に基づいて設定された基準値となる時点から、上記信号波形に示される面積が次に上記基準値となるまでの時間間隔と、所定閾値とを比較することにより期外収縮であるか否かを判定する判定部104と、を備える。
【0022】
本願発明者らは、期外収縮が発生した場合、上記の信号波形に示される面積が基準値となる時点から次に基準値となるまでの時間間隔に特徴的な変化が現れることを見出した。これにより、心臓の画像から期外収縮であるか否かを精度良く判定することができる。
【0023】
〔心臓の画像の解析について〕
上述のように、期外収縮判定装置1は、心臓の画像を解析することにより生成された、左心房、左心室、右心房、および右心室の少なくともいずれかの領域の面積の時系列変化を示す信号波形を用いて期外収縮の有無を判定する。
【0024】
ここでは、上記の信号波形を生成するための心臓の画像の解析について図2に基づいて説明する。図2は、心臓の超音波画像から左心房、左心室、右心房、および右心室の各領域を検出した例を示す図である。より詳細には、図2に示す画像A1が心臓の超音波画像であり、画像A2が当該超音波画像に重畳して各領域の検出結果を示したものである。なお、超音波画像は、心臓およびその周囲に放射した超音波が心臓等の表面で反射した反射波を画像化したものであり、エコー画像と呼ぶこともできる。
【0025】
画像A1における中央よりやや下の領域には心臓が写っており、その外形が視認できると共に、心臓の内部が複数の区画に分かれていることも視認できる。このように、超音波画像においては、心臓が有する2つの心室のそれぞれ、および2つの心房のそれぞれが閉じた領域として視認できる。よって、超音波画像を解析することにより、左心房、左心室、右心房、および右心室の各領域を検出することが可能である。
【0026】
例えば、心臓の超音波画像における左心房、左心室、右心房、および右心室の各領域に、正解データとして左心房、左心室、右心房、および右心室の各ラベル(アノテーションと呼ぶこともできる)を付した教師データを用いて機械学習を行うことにより、心臓の超音波画像から各領域を検出可能な検出モデルを構築することもできる。例えば、畳み込みニューラルネットワークの検出モデルを構築することにより、高精度な領域検出が可能である。
【0027】
図2に示す画像A2にはこのような検出モデルを用いた検出の結果を示している。検出された領域R1~R4は、それぞれ右心室、左心室、左心房、および右心房として検出された領域である。そして、各領域を検出することにより、各領域の面積を数値化することが可能になる。例えば、領域に含まれる画素数(pixel数)により当該領域の面積を表すこともできる。
【0028】
〔信号波形の生成と信号波形からの特定成分の除去について〕
時系列を構成する複数の超音波画像のそれぞれについて上述のような領域検出を行うことにより、領域の面積の時系列変化を示す信号波形を生成することができる。例えば、動画像である超音波画像から、当該超音波画像を構成するフレーム画像を抽出し、各フレーム画像について領域検出を行うことによって信号波形を生成してもよい。このようにして生成された信号波形の例を図3に示している。
【0029】
図3は、期外収縮の判定に用いられる信号波形の例を示す図である。より詳細には、図3のB1には、右心室、左心室、左心房、および右心房の各領域について、当該領域に含まれる画素数の時系列変化を示す信号波形を示している。なお、横軸(時間)の単位は秒である。
【0030】
B1に示すように、各領域の画素数すなわち面積は、何れも同様の周期で増減を繰り返している。ただし、例えば2.5~3.0秒付近では周期的な増減のパターンが乱れている。このような増減パターンの乱れは、不整脈に起因するものである。よって、周期的な増減パターンの乱れを検出することによって、不整脈を検出することができる。また、期外収縮判定装置1によれば、このような信号波形の増減のパターンに基づいて期外収縮の有無の判定を高精度に行うことが可能になっている。
【0031】
ここで、B1のような信号波形をそのまま用いて期外収縮の有無を判定することも可能であるが、特定成分除去部102により特定の周波数成分が除去された信号波形を用いて期外収縮の有無を判定してもよい。この場合、判定部104は、特定の周波成分が除去された信号波形における上述の時間間隔を特定する。これにより、適切な時間間隔を特定することができるため、判定精度を向上させることができる。
【0032】
図3のB2には、同図のB1に示した信号波形から特定の周波数成分を除去することにより得られた信号波形を示している。より詳細には、B2には、波形信号の直流成分とトレンド成分を含む低周波数帯域の成分(低周波成分)と、ノイズ成分が含まれる高周波数帯域の成分(高周波成分)とを除去した信号波形を示している。低周波成分を除去することにより、図示のように信号波形の変位の中心値をゼロとして面積の増減を表す波形を得ることができる。また、高周波成分を除去することにより、図示のようにノイズ成分が除去された滑らかな波形を得ることができる。
【0033】
なお、信号波形の変位の中心値は、信号波形に示される各時刻の面積の平均値である。例えば、10秒間の信号波形であれば、当該信号波形に含まれる全面積値の平均値が変位の中心値となる。
【0034】
ここで、信号波形の元になった画像に写る心臓全体のサイズが一定であれば、その信号波形における各時刻の面積値から、変位の中心値を差し引くことにより、変位の中心値をゼロとして面積の増減を表す波形を得ることができる。ただし、信号波形の元になった画像に写る心臓全体のサイズが経時的に変化する場合(例えば撮影中に撮影装置が移動した場合等)、変位の中心値を差し引く処理では変位の中心値をゼロとして面積の増減を表す波形として妥当なものが得られない。
【0035】
このため、特定成分除去部102は、上述のように、波形信号から低周波成分を除去することが好ましい。この場合、判定部104は、低周波成分が除去された信号波形において時間間隔を特定する。画像に写る心臓全体のサイズの経時的変化のようなトレンド成分は低周波成分に含まれるから、上記の構成によれば、このようなトレンド成分についても除去して、変位の中心値をゼロとして面積の増減を表す妥当な波形を得ることができる。
【0036】
また、特定成分除去部102は、上述のように、高周波成分を除去してもよい。高周波成分を除去することにより、ノイズ成分が除去された滑らかな波形を得ることができ、これは判定部104の判定精度の向上につながる。なお、特定成分除去部102は、移動平均等により信号波形を平滑化してもよく、この場合も同様の効果が得られる。
【0037】
〔基準値と閾値の設定方法〕
基準値と閾値の設定方法について図4に基づいて説明する。図4は、基準値と閾値の設定方法を説明する図である。なお、図4に示す信号波形G1は、図3のB1に示した4つの信号波形のうちの1つについて、その一部を拡大したものである。
【0038】
上述のように、判定部104は、信号波形に示される面積が、当該信号波形の変位に基づいて設定された基準値となる時点から、上記信号波形に示される面積が次に上記基準値となるまでの時間間隔を特定する。基準値設定部103が設定する基準値は、この時間間隔の特定に用いられるものである。
【0039】
基準値設定部103は、信号波形が変位する範囲内であれば、任意の基準値を設定することができる。例えば、基準値設定部103は、信号波形における変位の中心値を基準値に設定してもよい。例えば、図4における基準値は0であり、この基準値を線分Lで示している。なお、上述のように、信号波形の変位の中心値は、信号全体の平均値あるいはトレンド成分の値である。この構成によれば、適切な時間間隔を特定することができるため、判定精度を向上させることができる。
【0040】
また、基準値を0とすることを予め定めておいてもよい。この場合、基準値設定部103は省略し、特定成分除去部102が低周波成分を除去した信号波形を用いて期外収縮の有無を判定すればよい。また、例えば、取得部101が、低周波成分を除去した信号波形を取得するようにしてもよく、この場合、特定成分除去部102も省略すればよい。
【0041】
このように、基準値を0にする場合は、信号波形から直流成分およびトレンド成分を含む低周波成分を除去しておく必要がある。また、低周波成分を除去しない場合には、基準値設定部103は、0点ではなくピーク値(面積値の増減が変化した点)を基準点としてもよい。この場合、判定部104は、基準点間の時間間隔を特定し、特定した時間間隔に基づいて期外収縮であるか否かを判定する。なお、ノイズによる面積値の増減を誤ってピーク値としないようにするため、この場合は高周波成分の除去等により波形信号を平滑化しておくことが好ましい。
【0042】
以上のようにして基準値設定部103が基準値を設定すると、判定部104は、信号波形に示される面積が、当該信号波形の変位に基づいて設定された基準値となる時点から、上記信号波形に示される面積が次に上記基準値となるまでの時間間隔を特定する。
【0043】
例えば、図4の信号波形G1の場合、判定部104は、点P1から点P2までの時間間隔t1、点P2から点P3までの時間間隔t2、点P3から点P4までの時間間隔t3、点P4から点P5までの時間間隔t4、および点P5から点P6までの時間間隔t5をそれぞれ特定する。点P6以降についても同様である。
【0044】
閾値設定部105は、このようにして特定された各時間間隔の代表値を基準として閾値に設定してもよい。各時間間隔の代表値を基準として閾値を設定することにより、信号波形における変動パターンの個人差や体調等による差を加味した適切な判定を行うことが可能になる。なお、代表値は、特定された各時間間隔を代表する値であればよい。例えば、特定された各時間間隔の中央値や平均値を代表値としてもよい。当該時間間隔の中央値や平均値を2倍すると、概ね脈拍と等しい値となる。
【0045】
例えば、閾値設定部105は、上記代表値に所定の値を加算した値を閾値に設定してもよいし、上記代表値から所定の値を減算した値を閾値に設定してもよい。例えば、閾値設定部105は、上記代表値に0.2秒を加算した値、あるいは上記代表値から0.2秒を減算した値を閾値に設定してもよい。また、例えば、閾値設定部105は、上記代表値の所定倍大きい値を閾値に設定してもよいし、上記代表値の所定倍小さい値を閾値に設定してもよい。
【0046】
代表値よりも大きい値を閾値に設定する場合、判定部104は、特定した各時間間隔の中に閾値以上の時間間隔が含まれていれば期外収縮であると判定する。一方、代表値よりも小さい値を閾値に設定する場合、判定部104は、特定した各時間間隔の中に閾値以下の時間間隔が含まれていれば期外収縮であると判定する。
【0047】
また、閾値設定部105は、代表値よりも大きい閾値と、代表値よりも小さい閾値のそれぞれを設定してもよい。この場合、判定部104は、特定した各時間間隔の中に、代表値よりも大きい閾値以上の時間間隔と、代表値よりも小さい閾値以下の時間間隔の少なくとも何れかが含まれていれば期外収縮であると判定すればよい。
【0048】
〔期外収縮判定方法〕
本実施形態に係る期外収縮判定方法について図5に基づいて説明する。図5は、本実施形態に係る期外収縮判定方法の一例を示すフローチャートである。
【0049】
S1(取得ステップ)では、取得部101が、心臓の画像を解析することにより生成された、左心房、左心室、右心房、および右心室の少なくともいずれかの領域の面積の、所定期間における時系列変化を示す信号波形を取得する。例えば、取得部101は、入力IF部13を介して入力される信号波形を取得してもよい。なお、以下では、左心房、左心室、右心房、および右心室のそれぞれに対応する信号波形を取得する例を説明する。
【0050】
S2では、特定成分除去部102が、S1で取得された信号波形から特定の周波数成分を除去する。例えば、上述のように、特定成分除去部102は、ローパスフィルタにより高周波成分を除去すると共に、ハイパスフィルタにより低周波成分を除去してもよい。この処理は、左心房、左心室、右心房、および右心室のそれぞれに対応する各信号波形について行われる。S3~S5の処理についても同様である。
【0051】
S3では、基準値設定部103が、S2で特定の周波数成分が除去された信号波形の変位に基づいて基準値を設定する。例えば、基準値設定部103は、上記信号波形における変位の中心値を基準値に設定してもよい。また、S2で低周波成分を除去して信号波形の変位の中心値がゼロになるようにする場合、基準値は予めゼロに設定しておき、S3の処理は省略してもよい。
【0052】
S4では、判定部104が、S2で特定の周波数成分が除去された信号波形に示される面積が、S3で設定された基準値となる時点から、当該信号波形に示される面積が次に基準値となるまでの時間間隔を特定する。この処理は、所定期間の信号波形の全体を対象として行われ、複数の時間間隔が特定される。
【0053】
S5では、閾値設定部105が、S4で特定された各時間間隔に基づいて、期外収縮の有無を判定するための閾値を設定する。例えば、閾値設定部105は、S4で特定された各時間間隔の代表値を基準として閾値を設定してもよい。また、閾値設定部105は、代表値より大きい閾値と代表値より小さい閾値の少なくとも何れかを設定してもよい。
【0054】
S6(判定ステップ)では、判定部104が、S4で特定された時間間隔とS5で設定された閾値とを比較することにより期外収縮であるか否かを判定する。この判定は、左心房、左心室、右心房、および右心室のそれぞれについて行われ、これらの各領域について期外収縮であるか否かの判定が得られる。これにより、期外収縮の有無のみならず、期外収縮が心臓の何れの領域で発生したかを特定することができる。
【0055】
ここで、判定部104は、複数の領域についての各判定結果に基づいて、期外収縮であるか否かの最終的な判定を行ってもよい。例えば、判定部104は、複数の領域の少なくとも何れかについての判定結果が期外収縮であるというものであれば、最終的な判定結果を期外収縮であるとしてもよい。また、例えば、判定部104は、複数の領域についての判定結果が期外収縮で一致している場合に限り、それらの領域の最終的な判定結果を期外収縮であるとしてもよい。
【0056】
なお、判定部104は、4つの領域全てについて判定を行う代わりに、左右の心房のみ、あるいは左右の心室のみについて判定を行ってもよい。また、判定部104は、4つの領域の何れかのみについて判定を行ってもよい。
【0057】
S7では、出力制御部106が、S6の判定結果を所定の出力装置に出力させ、これにより図5の処理は終了する。なお、判定結果を出力させることなく記憶装置12等に記憶させて処理を終了してもよい。
【0058】
以上のように、本実施形態に係る期外収縮判定方法は、心臓の画像を解析することにより生成された、左心房、左心室、右心房、および右心室の少なくともいずれかの領域の面積の時系列変化を示す信号波形を取得する取得ステップ(S1)と、上記信号波形に示される面積が、当該信号波形の変位に基づいて設定された基準値となる時点から、上記信号波形に示される面積が次に上記基準値となるまでの時間間隔と、所定閾値とを比較することにより期外収縮であるか否かを判定する判定ステップ(S6)と、を含む。よって、期外収縮の有無を精度良く判定することができる。
【0059】
〔変形例〕
上述の実施形態で説明した各処理の実行主体は任意であり、上述の例に限られない。つまり、相互に通信可能な複数の情報処理装置により、期外収縮判定装置1と同様の機能を有する期外収縮判定システムを構築することができる。例えば、図1のプロセッサ10に含まれる各ブロックを複数の情報処理装置に分散して設けることにより、期外収縮判定装置1と同様の機能を有する期外収縮判定システムを構築することができる。
【0060】
例えば、図5に示される期外収縮判定方法において、各ステップの実行主体は、1つの情報処理装置(期外収縮判定装置1)であってもよいし、複数の情報処理装置であってもよい。
【0061】
また、心臓の画像を撮影する撮影装置あるいは心臓の画像を生成する画像生成装置と、撮影または生成された画像を解析することにより上記の信号波形を生成する情報処理装置と、生成された信号波形を用いて期外収縮の有無を判定する期外収縮判定装置1とを含む期外収縮判定システムも本発明の範疇に含まれる。また、この期外収縮判定システムには、期外収縮の有無の判定結果を出力する出力装置が含まれていてもよい。
【0062】
〔ソフトウェアによる実現例〕
上述のように期外収縮判定装置1の機能は、期外収縮判定装置1としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロックとしてコンピュータを機能させるための期外収縮判定プログラムにより実現することができる。
【0063】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、期外収縮判定装置1が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して期外収縮判定装置1に供給されてもよい。
【0064】
また、期外収縮判定装置1の機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、図1に示す各制御ブロック(プロセッサ10に含まれる各部)として機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0065】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上記実施形態に開示された各技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0066】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る期外収縮判定装置は、心臓の画像を解析することにより生成された、左心房、左心室、右心房、および右心室の少なくともいずれかの領域の面積の時系列変化を示す信号波形を取得する取得部と、前記信号波形に示される面積が、当該信号波形の変位に基づいて設定された基準値となる時点から、前記信号波形に示される面積が次に前記基準値となるまでの時間間隔と、所定閾値とを比較することにより期外収縮であるか否かを判定する判定部と、を備える。
【0067】
本発明の態様2に係る期外収縮判定装置は、上記態様1において、前記信号波形の低周波成分を除去する特定成分除去部をさらに備え、前記判定部は、低周波成分が除去された前記信号波形において前記時間間隔を特定してもよい。
【0068】
本発明の態様3に係る期外収縮判定装置は、上記態様1または2において、前記基準値は、前記信号波形における変位の中心値であってもよい。
【0069】
本発明の態様4に係る期外収縮判定装置は、上記態様1から3の何れかにおいて、前記所定閾値は、前記時間間隔の代表値を基準として設定された値であってもよい。
【0070】
本発明の態様5に係る期外収縮判定方法は、1または複数の情報処理装置により実行される期外収縮判定方法であって、心臓の画像を解析することにより生成された、左心房、左心室、右心房、および右心室の少なくともいずれかの領域の面積の時系列変化を示す信号波形を取得する取得ステップと、前記信号波形に示される面積が、当該信号波形の変位に基づいて設定された基準値となる時点から、前記信号波形に示される面積が次に前記基準値となるまでの時間間隔と、所定閾値とを比較することにより、期外収縮であるか否かを判定する判定ステップと、を含む。
【0071】
上記態様1から4のいずれかに記載の期外収縮判定装置としてコンピュータを機能させるための期外収縮判定プログラムであって、前記取得部および前記判定部としてコンピュータを機能させるための期外収縮判定プログラムである。
【符号の説明】
【0072】
1 期外収縮判定装置
101 取得部
102 特定成分除去部
104 判定部
S1 取得ステップ
S6 判定ステップ
図1
図2
図3
図4
図5