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特開2024-119653成分測定装置及び成分測定装置セット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119653
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】成分測定装置及び成分測定装置セット
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/77 20060101AFI20240827BHJP
   G01N 33/49 20060101ALI20240827BHJP
   G01N 33/52 20060101ALI20240827BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20240827BHJP
   A61B 5/1468 20060101ALI20240827BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G01N21/77 B
G01N33/49 K
G01N33/52 A
G01N21/78 Z
A61B5/1468
A61B5/1455
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026708
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】相川 亮桂
(72)【発明者】
【氏名】高木 駿
(72)【発明者】
【氏名】池田 朋弘
【テーマコード(参考)】
2G045
2G054
4C038
【Fターム(参考)】
2G045AA13
2G045CA25
2G045FA13
2G045GC10
2G045JA02
2G045JA07
2G054AA02
2G054AA06
2G054AA07
2G054AB10
2G054CA25
2G054CD04
2G054CE02
2G054EA04
2G054EA05
2G054EA06
2G054FA02
2G054FA07
2G054FA08
2G054GA01
2G054GA03
2G054GB01
2G054GB05
4C038KK10
4C038KL07
4C038KL09
4C038KX01
(57)【要約】
【課題】測定チップの挿入位置のずれが生じ、測定チップの測定スポットにおける、測定用光源及びノイズ推定用光源の照度分布差が変動しても、被測定成分の測定精度の低下を抑制可能な、成分測定装置及び成分測定装置セット、を提供する。
【解決手段】本開示に係る成分測定装置は、試薬を保持する測定チップを挿入可能な挿入空間を区画しており、測定可能状態で、前記測定チップが保持する混合物に測定用波長の照射光を照射可能な測定用光源と、前記測定可能状態で、前記測定チップが保持する前記混合物に、被測定成分以外の成分に基づくノイズ量の推定に利用されるノイズ推定用波長の照射光を照射可能な複数のノイズ推定用光源と、を備え、前記複数のノイズ推定用光源は、前記測定チップの前記挿入空間への挿入方向と直交する装置幅方向において、前記測定用光源の両側に配置されている。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液検体と試薬との呈色反応により生成された生成物を含む混合物の光学的特性に基づいて前記血液検体における被測定成分を測定する成分測定装置であって、
前記試薬を保持する測定チップを挿入可能な挿入空間を区画しており、
前記測定チップが、前記挿入空間に挿入されており、かつ、前記混合物を保持している、測定可能状態で、前記測定チップが保持する前記混合物に測定用波長の照射光を照射可能な測定用光源と、
前記測定可能状態で、前記測定チップが保持する前記混合物に、前記測定用光源の照射光によって測定される前記混合物の吸光度の実測値に含まれる前記被測定成分以外の成分に基づくノイズ量の推定に利用される、前記測定用波長とは異なるノイズ推定用波長の照射光を照射可能な、複数のノイズ推定用光源と、を備え、
前記複数のノイズ推定用光源は、前記測定チップの前記挿入空間への挿入方向と直交する装置幅方向において、前記測定用光源の両側に配置されている、成分測定装置。
【請求項2】
前記複数のノイズ推定用光源は、前記測定チップの前記挿入空間への挿入抜去方向において、前記測定用光源の両側に配置されている、請求項1の成分測定装置。
【請求項3】
前記挿入方向及び前記装置幅方向と直交する装置高さ方向に沿って成分測定装置を見た平面視で、前記複数のノイズ推定用光源は、前記測定用光源を対称中心とした点対称となる位置に配置されている、請求項1又は2に記載の成分測定装置。
【請求項4】
前記複数のノイズ推定用光源は、前記平面視で、前記測定用光源を中心とした周方向の異なる位置に3つ以上設けられている、請求項3に記載の成分測定装置。
【請求項5】
前記ノイズ推定用光源を第1ノイズ推定用光源とし、前記ノイズ推定用波長を第1ノイズ推定用波長とした場合に、
前記測定可能状態で、前記測定チップが保持する前記混合物に、前記ノイズ量の推定に利用される、第2ノイズ推定用波長の照射光を照射可能な、複数の第2ノイズ推定用光源を備え、
前記複数の第2ノイズ推定用光源は、前記装置幅方向において、前記測定用光源の両側に配置されており、
前記測定用波長は、600nm~700nmmであり、
前記第1ノイズ推定用波長、及び、前記第2ノイズ推定用波長は、前記測定用波長より長波長側にある、請求項1又は2に記載の成分測定装置。
【請求項6】
前記測定可能状態で、前記測定チップが保持する前記混合物に、前記ノイズ量の推定に利用される、第3ノイズ推定用波長の照射光を照射可能な、複数の第3ノイズ推定用光源を備え、
前記複数の第3ノイズ推定用光源は、前記装置幅方向において、前記測定用光源の両側に配置されており、
前記第3ノイズ推定用波長は、前記測定用波長より短波長側にある、請求項5に記載の成分測定装置。
【請求項7】
前記測定可能状態で、前記測定チップが保持する前記混合物に、前記ノイズ量の推定に利用される、第4ノイズ推定用波長の照射光を照射可能な、複数の第4ノイズ推定用光源を備え、
前記複数の第4ノイズ推定用光源は、前記装置幅方向において、前記測定用光源の両側に配置されており、
前記第4ノイズ推定用波長は、前記測定用波長より短波長側にある、請求項6に記載の成分測定装置。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の成分測定装置と、
前記測定チップと、を備える、成分測定装置セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成分測定装置及び成分測定装置セットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生化学分野や医療分野において、血液検体としての全血検体中に含まれる被測定成分を測定する手法として、全血を、被測定成分が含まれる部分と、被測定成分が含まれない部分とに分離し、被測定成分の量や濃度を測定する方法が知られている。この種の方法としては、例えば、血漿中のグルコース濃度(mg/dL、mmol/L)を測定するため、フィルタ等を用いて、血液検体から血漿成分を分離する工程を行い、血漿中のグルコース濃度を測定する方法がある。
【0003】
しかしながら、短時間で血液検体中の血漿成分を完全に分離することは難しく、更には分離するために用いられるフィルタ等の性能のばらつきもあるため、分離した血漿成分中に血球成分が一部含まれてしまう可能性があり、精度良くグルコース濃度を測定することが難しい。
【0004】
これに対して、血液検体から被測定成分を分離することなく、血液検体中の被測定成分を測定する一手法として、吸光光度法を用いた全血測定が知られている。この手法によれば、上述した被測定成分の分離工程を行う手法と比較して、被測定成分の測定に要する時間を短縮することができる。但し、被測定成分と異なる別の成分が血液検体中に多く含まれる場合、別の成分が光吸収・光散乱等の光学的現象を引き起こし、その結果、測定上の外乱因子(ノイズ)として作用することがある。そこで、被測定成分の測定精度を維持すべく、この外乱因子の影響を除去することが必要であり、外乱因子の影響を除去する手法が種々提案されている。
【0005】
特許文献1には、ピーク波長の異なる複数の光源を用いることで、外乱因子の影響を除去する成分測定装置が開示されている。特許文献1には、ピーク波長の異なる複数の光源として、測定用光源としての第1光源と、ノイズ推定用光源としての第2~第5光源と、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/173609号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の成分測定装置のように、ピーク波長の異なる複数の光源を用いる場合、各光源は物理的に異なる位置に配置される。そのため、これら複数の光源の位置に対する測定対象の測定位置(以下、「測定スポット」と記載する。)が常に一定であったとしても、各光源による測定スポットでの照度分布を完全に一致させることは困難である。
【0008】
これに対して、特許文献1では、測定用光源及びノイズ推定用光源の位置関係を工夫することで、測定用光源による測定スポットでの照度分布と、ノイズ推定用光源による測定スポットでの照度分布と、の差を小さくしている。これにより、特許文献1の成分測定装置では、測定精度の低下を抑制できる。
【0009】
しかしながら、測定チップを挿入可能に構成されている成分測定装置において、挿入された状態の測定チップが保持する測定スポットに対して、複数の光源から光を照射する場合に、これら複数の光源の位置に対する測定スポットの位置は、測定チップの挿入位置の“ずれ”により変動する。複数の光源の位置に対する測定スポットの位置の変動は、測定用光源による測定スポットでの照度分布と、ノイズ推定用光源による測定スポットでの照度分布と、の差を変動させる。この照度分布の差が大きくなると、ノイズ推定用光源による補正精度は低下する。つまり、測定チップの挿入位置のずれは、成分測定装置の測定精度に影響する。
【0010】
本開示は、測定チップの挿入位置のずれが生じ、測定チップの測定スポットにおける、測定用光源及びノイズ推定用光源の照度分布差が変動しても、被測定成分の測定精度の低下を抑制可能な、成分測定装置及び成分測定装置セット、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の第1の態様としての成分測定装置は、
(1)
血液検体と試薬との呈色反応により生成された生成物を含む混合物の光学的特性に基づいて前記血液検体における被測定成分を測定する成分測定装置であって、
前記試薬を保持する測定チップを挿入可能な挿入空間を区画しており、
前記測定チップが、前記挿入空間に挿入されており、かつ、前記混合物を保持している、測定可能状態で、前記測定チップが保持する前記混合物に測定用波長の照射光を照射可能な測定用光源と、
前記測定可能状態で、前記測定チップが保持する前記混合物に、前記測定用光源の照射光によって測定される前記混合物の吸光度の実測値に含まれる前記被測定成分以外の成分に基づくノイズ量の推定に利用される、前記測定用波長とは異なるノイズ推定用波長の照射光を照射可能な、複数のノイズ推定用光源と、を備え、
前記複数のノイズ推定用光源は、前記測定チップの前記挿入空間への挿入方向と直交する装置幅方向において、前記測定用光源の両側に配置されている、成分測定装置、である。
【0012】
本開示の1つの実施形態としての成分測定装置は、
(2)
前記複数のノイズ推定用光源は、前記測定チップの前記挿入空間への挿入抜去方向において、前記測定用光源の両側に配置されている、上記(1)の成分測定装置、である。
【0013】
本開示の1つの実施形態としての成分測定装置は、
(3)
前記挿入方向及び前記装置幅方向と直交する装置高さ方向に沿って成分測定装置を見た平面視で、前記複数のノイズ推定用光源は、前記測定用光源を対称中心とした点対称となる位置に配置されている、上記(1)又は(2)に記載の成分測定装置、である。
【0014】
本開示の1つの実施形態としての成分測定装置は、
(4)
前記複数のノイズ推定用光源は、前記平面視で、前記測定用光源を中心とした周方向の異なる位置に3つ以上設けられている、上記(3)に記載の成分測定装置、である。
【0015】
本開示の1つの実施形態としての成分測定装置は、
(5)
前記ノイズ推定用光源を第1ノイズ推定用光源とし、前記ノイズ推定用波長を第1ノイズ推定用波長とした場合に、
前記測定可能状態で、前記測定チップが保持する前記混合物に、前記ノイズ量の推定に利用される、第2ノイズ推定用波長の照射光を照射可能な、複数の第2ノイズ推定用光源を備え、
前記複数の第2ノイズ推定用光源は、前記装置幅方向において、前記測定用光源の両側に配置されており、
前記測定用波長は、600nm~700nmmであり、
前記第1ノイズ推定用波長、及び、前記第2ノイズ推定用波長は、前記測定用波長より長波長側にある、上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の成分測定装置、である。
【0016】
本開示の1つの実施形態としての成分測定装置は、
(6)
前記測定可能状態で、前記測定チップが保持する前記混合物に、前記ノイズ量の推定に利用される、第3ノイズ推定用波長の照射光を照射可能な、複数の第3ノイズ推定用光源を備え、
前記複数の第3ノイズ推定用光源は、前記装置幅方向において、前記測定用光源の両側に配置されており、
前記第3ノイズ推定用波長は、前記測定用波長より短波長側にある、上記(5)に記載の成分測定装置、である。
【0017】
本開示の1つの実施形態としての成分測定装置は、
(7)
前記測定可能状態で、前記測定チップが保持する前記混合物に、前記ノイズ量の推定に利用される、第4ノイズ推定用波長の照射光を照射可能な、複数の第4ノイズ推定用光源を備え、
前記複数の第4ノイズ推定用光源は、前記装置幅方向において、前記測定用光源の両側に配置されており、
前記第4ノイズ推定用波長は、前記測定用波長より短波長側にある、上記(6)に記載の成分測定装置、である。
【0018】
本開示の第2の態様としての成分測定装置セットは、
(8)
上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の成分測定装置と、
前記測定チップと、を備える、成分測定装置セット、である。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、測定チップの挿入位置のずれが生じ、測定チップの測定スポットにおける、測定用光源及びノイズ推定用光源の照度分布差が変動しても、被測定成分の測定精度の低下を抑制可能な、成分測定装置及び成分測定装置セット、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の一実施形態としての成分測定装置に、測定チップが装着されている状態の、本開示の一実施形態としての成分測定装置セットの上面図である。
図2図1のI-I線の位置での断面図である。
図3図1のII-II線の位置での断面図である。
図4図1に示す測定チップ単体の上面図である。
図5図4のIII-III線の位置での断面図である。
図6図1に示す成分測定装置の電気ブロック図である。
図7図6に示す演算部の機能ブロック図である。
図8図1に示す成分測定装置における発光部の、測定用光源及び各種のノイズ推定用光源の位置関係を示す図である。
図9図9の左図は、挿入空間における測定チップの装置幅方向の位置を示す図であり、図9の右図は、図9の左図に示す基準状態で、測定用光源及び4種のノイズ推定用光源、並びに、測定チップの測定スポットを区画している測定開口部、を装置高さ方向に沿って見た場合の位置関係を示す図である。
図10図9に示す基準状態での、測定チップの測定スポットにおける、測定用光源及び第1ノイズ推定用光源の装置幅方向の照度分布を示す図である。
図11図9に示す基準状態での、測定チップの測定スポットにおける、測定用光源及び第1ノイズ推定用光源の挿入方向の照度分布を示す図である。
図12A図12Aの左図は、挿入空間における測定チップの装置幅方向の位置を示す図であり、図12Aの右図は、図12Aの左図に示す第1位置ずれ状態で、測定用光源及び4種のノイズ推定用光源、並びに、測定チップの測定スポットを区画している測定開口部、を装置高さ方向に沿って見た場合の位置関係を示す図である。
図12B図12Aに示す第1位置ずれ状態での、測定チップの測定スポットにおける、測定用光源及び第1ノイズ推定用光源の装置幅方向の照度分布を示す図である。
図13A図13Aの左図は、挿入空間における測定チップの装置幅方向の位置を示す図であり、図13Aの右図は、図13Aの左図に示す第2位置ずれ状態で、測定用光源及び4種のノイズ推定用光源、並びに、測定チップの測定スポットを区画している測定開口部、を装置高さ方向に沿って見た場合の位置関係を示す図である。
図13B図13Aに示す第2位置ずれ状態での、測定チップの測定スポットにおける、測定用光源及び第1ノイズ推定用光源の装置幅方向の照度分布を示す図である。
図14A図14Aの左図は、挿入空間における測定チップの挿入抜去方向の位置を示す図であり、図14Aの右図は、図14Aの左図に示す第3位置ずれ状態で、測定用光源及び4種のノイズ推定用光源、並びに、測定チップの測定スポットを区画している測定開口部、を装置高さ方向に沿って見た場合の位置関係を示す図である。
図14B図14Aに示す第3位置ずれ状態での、測定チップの測定スポットにおける、測定用光源及び第1ノイズ推定用光源の挿入方向の照度分布を示す図である。
図15】6種の血液検体それぞれを測定試薬と呈色反応させることにより得られる6種の混合物の吸光度スペクトルを示す図である。
図16】7種の血液検体それぞれの吸光度スペクトルを示す図である。
図17】還元ヘモグロビンの吸収係数及び酸化ヘモグロビンの吸収係数を示す図である。
図18】還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率を示す図である。
図19】回帰分析により推定される測定波長における呈色成分以外の外乱因子(ノイズ)起因の吸光度において、長波長域の占有率と短波長域の占有率とを示すグラフである。
図20図20(a)は、一実施形態としての成分測定方法から測定される吸光度と真値との誤差を示すグラフであり、図20(b)は、比較例としての成分測定方法から測定される吸光度と真値との誤差を示すグラフである。
図21図1に示す成分測定装置による成分測定方法の一例を示すフローチャートである。
図22】2つの呈色成分の吸光度スペクトルを示す図である。
図23】回帰分析により推定される測定波長における呈色成分以外の外乱因子(ノイズ)起因の吸光度において、長波長域の占有率と短波長域の占有率とを示すグラフである。
図24図24(a)は、一実施形態としての成分測定方法から測定される吸光度と真値との誤差を示すグラフであり、図24(b)は、比較例としての成分測定方法から測定される吸光度と真値との誤差を示すグラフである。
図25図8に示す発光部の一変形例を示す図である。
図26図8に示す発光部の一変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示に係る成分測定装置及び成分測定装置セットの実施形態について、図面を参照して例示説明する。各図において同一の構成には、同一の符号を付している。
【0022】
図1は、本開示に係る成分測定装置セットの一実施形態としての成分測定装置セット100の上面図である。図1に示すように、成分測定装置セット100は、本開示に係る成分測定装置の一実施形態としての成分測定装置1と、この成分測定装置1に装着可能な測定チップ2と、を備える。図1では、成分測定装置1に測定チップ2が装着されている状態の成分測定装置セット100を示している。図2は、図1のI-I線の位置での、成分測定装置セット100の断面図である。図3は、図1のII-II線の位置での、成分測定装置セット100の断面図である。図2及び図3では、成分測定装置セット100における、測定チップ2が成分測定装置1に対して装着されている箇所の近傍を拡大して示している。
【0023】
図1図3に示すように、本実施形態の成分測定装置1は、血液検体中の被測定成分としての血漿成分中のグルコースの量、濃度等を測定可能な血糖値測定装置である。また、本実施形態の測定チップ2は、成分測定装置1としての血糖値測定装置の先端部に装着可能な血糖値測定チップである。ここで言う「血液検体」とは、成分毎に分離されておらず、すべての成分を含む全血検体、この全血検体を溶血させた溶血検体、又は、全血検体若しくは溶血検体からノイズとなる成分の一部のみが除去されている検体、を意味する。
【0024】
本実施形態の測定チップ2は、血液検体を測定チップ2の内部に導入可能に構成されている。測定チップ2は、血液検体と反応する試薬22(図4図5参照)を保持している。測定チップ2は、血液検体と試薬22とを反応させて呈色させて(呈色反応させて)生成した生成物を保持する状態で、成分測定装置1の検出対象位置に保持される。一方、成分測定装置1は、検出対象位置に測定チップ2が保持されている状態で、血液検体と試薬22との呈色反応により生成された生成物及び未反応の血液検体が含まれる混合物Xの光学的特性に基づいて、血液検体における被測定成分を検出可能に構成されている。本実施形態の成分測定装置1は、所定波長の測定光を検出対象位置に照射して、混合物Xを透過した測定光(透過光)を検出することにより、血液検体における被測定成分としてのグルコースを測定可能に構成されている。
【0025】
成分測定装置セット100は、例えば、患者等のユーザーが、成分測定装置1及び測定チップ2を使用して、自身の血糖値を測定し、自身で血糖管理を行うことが可能である。但し、成分測定装置セット100は、例えば、医療施設等において、医師、看護師等の医療従事者がユーザーとなり、患者の血糖値を測定するために使用されてもよい。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の成分測定装置セット100では、測定チップ2は、成分測定装置1に装着されている状態で、その一部が成分測定装置1の外側に突出する。そして、測定チップ2は、成分測定装置1から突出している部分に、血液検体を取り込み可能な取込部としての取込開口部24を備えている。取込開口部24から測定チップ2の内部に血液検体を導入することで、血液検体と試薬22(図4図5参照)とが呈色反応し、混合物Xが生成される。この混合物Xは、上述したように、血液検体と試薬22(図4図5参照)とが呈色反応して生成される生成物と、試薬22と未反応の血液検体と、を含む。成分測定装置1は、混合物Xの光学的特性に基づき、血液検体中の被測定成分を測定する。測定チップ2は、1回の測定毎に、成分測定装置1から取り外されて、廃棄される。その一方で、成分測定装置1は、使用前の測定チップ2が新たに装着されて再使用(リユース)される。
【0027】
より具体的には、図1図3に示すように、成分測定装置1は、試薬22(図4図5参照)を保持する測定チップ2を挿入可能な挿入空間Sを区画している。つまり、測定チップ2は、成分測定装置1の先端部から挿入空間Sに挿入され、成分測定装置1の検出対象位置に保持される。
【0028】
以下、測定チップ2が、成分測定装置1の挿入空間Sに挿入されており、かつ、生成物を含む混合物Xを保持している状態を、「測定可能状態」と記載する。図1図3は、測定可能状態を示している。成分測定装置1は、測定可能状態で、測定チップ2が保持する混合物Xに光を照射する発光部66と、混合物Xにより反射又は透過した光を受光する受光部72と、を備える。
【0029】
詳細は後述するが、成分測定装置1の発光部66は、測定可能状態で、測定チップ2が保持する混合物Xに測定用波長λ0の照射光を照射可能な測定用光源67を備える。また、成分測定装置1の発光部66は、測定可能状態で、測定チップ2が保持する混合物Xに、測定用波長λ0とは異なるノイズ推定用波長の照射光を照射可能な、複数種のノイズ推定用光源68を備える。具体的に、本実施形態では、複数種のノイズ推定用光源68として、4種のノイズ推定用光源68a~68dが設けられている。各種のノイズ推定用光源68a~68dは、複数設けられている。図2図3では、説明の便宜上、発光部66全体を示している。発光部66における、測定用光源67、及び、複数種のノイズ推定用光源68a~68dの配置構成の詳細は後述する(図8参照)。また、上記「ノイズ推定用波長の照射光」は、測定用光源67の照射光によって測定される混合物Xの吸光度の実測値に含まれる被測定成分以外の成分に基づくノイズ量の推定に利用される照射光である。ノイズ量の推定の具体例についても後述する。
【0030】
また、本実施形態では、それぞれ複数設けられている、4種のノイズ推定用光源68a~68dを用いているが、この構成に限られない。成分測定装置1において、推定すべきノイズ量は、例えば血液検体の種類や、所望されるノイズ量の推定精度、等に応じて変動する。したがって、成分測定装置1は、少なくとも1種のノイズ推定用光源68を備えればよい。後述するように、本実施形態の成分測定装置1では、血液検体として全血検体を用いると共に、ノイズ量の推定精度を高めることを目的として、4種のノイズ推定用光源68a~68dを用いている。以下、説明の便宜上、4種のノイズ推定用光源68a~68dを、「第1ノイズ推定用光源68a」、「第2ノイズ推定用光源68b」、「第3ノイズ推定用光源68c」、「第4ノイズ推定用光源68d」として区別する。但し、4種のノイズ推定用光源68a~68dを特に区別しない場合は、単に「各種のノイズ推定用光源68」と記載する。
【0031】
このように、成分測定装置1では、測定用光源67及びノイズ推定用光源68を用いて、血液検体における被測定成分を測定することができる。
【0032】
以下、成分測定装置1における挿入空間Sへの、測定チップ2の挿入方向を「挿入方向A1」と記載し、挿入方向A1の逆方向を「抜去方向A2」と記載し、挿入方向A1及び抜去方向A2を併せて「挿入抜去方向A」と記載する。また、成分測定装置1の挿入空間Sに測定チップ2が挿入されている状態で、測定チップ2と、成分測定装置1の測定用光源67(図8参照)及び各種のノイズ推定用光源68(図8参照)と、が対向する方向を対向方向とした場合に、挿入方向A1及び対向方向に直交する方向を「装置幅方向B」と記載する。更に、挿入方向A1及び装置幅方向Bに直交する方向、すなわち、上述した対向方向と平行な方向を「装置高さ方向C」と記載する。
【0033】
かかる場合に、複数設けられている各種のノイズ推定用光源68は、挿入方向A1と直交する装置幅方向Bにおいて、測定用光源67の両側に配置されている(図8等参照)。詳細は後述するが、このように配置されることにより、測定チップ2の挿入位置の装置幅方向Bのずれが生じ、測定チップ2の測定スポットにおける、測定用光源67、及び、各種のノイズ推定用光源68の各光源、の照度分布差が変動しても、測定チップ2の測定スポットにおける測定用光源67の照度分布と、測定チップ2の測定スポットにおける、各種のノイズ推定用光源68の複数の光源の合成照度分布と、の差の変動を抑制できる。そのため、測定チップ2の挿入位置の装置幅方向Bのずれが生じ、測定チップ2の測定スポットにおける、測定用光源67、及び、各種のノイズ推定用光源68の各光源、の照度分布差が変動しても、各種のノイズ推定用光源68の複数の光源の合成照度分布を利用することで、被測定成分の測定精度の低下を抑制できる。
【0034】
以下、本実施形態の成分測定装置1及び測定チップ2の詳細を説明する。
【0035】
<測定チップ2>
まず、図4図5を参照して、本実施形態の測定チップ2の詳細について説明する。図4は、測定チップ2の上面図である。図5は、図4のIII-III線の位置での、測定チップ2の断面図である。図4及び図5に示すように、本実施形態の測定チップ2は、略矩形板状の外形を有するベース部材21と、このベース部材21に保持されている試薬22と、ベース部材21を覆うカバー部材25と、を備えている。
【0036】
ベース部材21の厚み方向(図1図3に示す測定可能状態では、成分測定装置1の装置高さ方向Cと同じ方向)の一方側の外面には溝が形成されている。ベース部材21の溝は、カバー部材25に覆われることにより、厚み方向と直交する方向に延在する中空部となり、この中空部が測定チップ2の流路23を構成している。流路23の一端には、血液検体を外方から取り込み可能な取込部としての取込開口部24が形成されている。また、流路23の内壁のうちベース部材21の溝の溝底部には、試薬22が保持されており、外方から取込開口部24に供給された血液検体は、例えば毛細管現象を利用して流路23に沿って流れ方向(図1図3に示す測定可能状態では、成分測定装置1の挿入方向A1と同じ方向)に移動し、試薬22が保持されている保持位置まで到達し、試薬22と接触する。試薬22には血液検体と呈色反応して発色する発色試薬が含まれている。そのため、試薬22と血液検体が接触すると、試薬22に含まれる発色試薬が発色する呈色反応がおこり、呈色成分を含む混合物X(図2等参照)が生成される。
【0037】
また、カバー部材25と試薬22との間には空隙23aが形成されており、取込開口部24から流路23を流れ方向に移動する血液検体は、空隙23aを通じて、流路23の他端まで到達する。そのため、血液検体を、試薬22の流れ方向全域に接触させ、呈色反応を発生させ、その結果、混合物Xを流路23内に拡がった状態にすることができる。
【0038】
図2図3では、説明の便宜上、試薬22の保持位置を「混合物X」として示しているが、混合物Xは、試薬22の保持位置のみならず、例えば、空隙23aなどの、試薬22の保持位置近傍にも位置している。より具体的に、取込開口部24から流路23に進入する血液検体は、保持位置で試薬22と接触しつつ、空隙23aを通じて流路23の下流端まで到達し、流路23内が血液検体で満たされた状態となる。その後、試薬22が血液検体に溶解するとともに呈色反応が進み、保持位置及びその近傍に生成物を含む混合物Xが位置する状態となる。
【0039】
本実施形態の流路23は、ベース部材21とカバー部材25とにより区画される中空部により構成されているが、流路はこの構成に限られない。ベース部材21の厚み方向の一方側の外面に形成された溝のみにより流路を形成してもよい。
【0040】
カバー部材25は、黒色フィルム部材により構成され、測定用光源67及び各種のノイズ推定用光源68からの照射光が測定チップ2の流路23内に入射することを遮光する遮光部25aと、透明フィルム部材により構成され、遮光部25aの流路23側に積層されている透光部25bと、を備える。
【0041】
遮光部25aには、測定チップ2の測定スポットを区画する、測定開口部25a1が形成されている。測定用光源67及び各種のノイズ推定用光源68からの照射光は、測定開口部25a1を通過することができる。
【0042】
透光部25bは、測定開口部25a1を覆うように、遮光部25aの流路23側に積層されている。測定開口部25a1を通過した測定用光源67及び各種のノイズ推定用光源68からの照射光は、透光部25bを透過し、混合物Xに照射される。
【0043】
但し、遮光部25aの測定開口部25a1は、遮光部25aに形成されている貫通孔でなくてもよい。つまり、遮光部25aの測定開口部25a1は、測定用光源67及び各種のノイズ推定用光源68からの照射光を透過可能な透明部により構成されてもよい。
【0044】
ベース部材21、及び、カバー部材25の透光部25bの材質としては、照射光が透過した後の透過光量が測定に十分なシグナルとなるために透明性の素材を用いることが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、環状ポリオレフィン(COP)や環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリカーボネード(PC)等の透明な有機樹脂材料;ガラス、石英等の透明性な無機材料;が挙げられる。
【0045】
本実施形態の試薬22は、血液検体における被測定成分と反応して、被測定成分の血中濃度に応じた色に呈色する呈色反応を引き起こす発色試薬を含む。本実施形態の試薬22は、流路23を区画するベース部材21の溝底部に塗布されている。本実施形態の試薬22は、血液検体における被測定成分としてのグルコースと反応する。本実施形態の試薬22としては、例えば、(i)グルコースオキシダーゼ(GOD)と(ii)ペルオキシダーゼ(POD)と(iii)1-(4-スルホフェニル)-2,3-ジメチル-4-アミノ-5-ピラゾロンと(iv)N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン,ナトリウム塩,1水和物(MAOS)との混合試薬、あるいはグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)とテトラゾリウム塩との混合試薬などが挙げられる。さらに、電子メディエータや緩衝剤が含まれていてもよい。試薬22の種類、成分については、これらに限定されない。
【0046】
但し、本実施形態の試薬22としては、血液検体中のグルコースとの呈色反応により生成された呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長と、血球中のヘモグロビンの光吸収特性に起因するピーク波長と、が異なるピーク波長となるような発色試薬を選択している。本実施形態の試薬22が含む発色試薬は、呈色成分の吸光度スペクトルが650nm付近にピーク波長を有するが、ピーク波長が650nm付近になる発色試薬に限られない。この詳細は後述する。
【0047】
<成分測定装置1>
次に、本実施形態の成分測定装置1の詳細について説明する。
【0048】
図1図3に示すように、本実施形態の成分測定装置1は、樹脂材料からなるハウジング10と、このハウジング10の上面に設けられたボタン群と、ハウジング10の上面に設けられた液晶又はLED(Light Emitting Diodeの略)等で構成される表示部11と、成分測定装置1に装着された状態の測定チップ2を取り外す際に操作される取り外しレバー12と、を備えている。本実施形態のボタンは、電源ボタン13と、操作ボタン14とを含んでもよい。
【0049】
図1に示すように、ハウジング10は、上述したボタン群及び表示部11が上面に設けられている、上面視の外形が略矩形の本体部10aと、本体部10aから外方に突設され、上面に取り外しレバー12が設けられたチップ装着部10bと、を備えている。図2に示すように、チップ装着部10bの内部には、チップ装着部10bの先端面に形成された先端開口を一端とする、測定チップ2の挿入空間Sが区画されている。成分測定装置1に対して測定チップ2を装着する際は、外方から先端開口を通じて挿入空間S内に測定チップ2を挿入し、測定チップ2を所定位置まで押し込むことにより、成分測定装置1のチップ装着部10bが測定チップ2を係止した状態となり、測定チップ2の成分測定装置1に対する装着が完了する。図1図3は、成分測定装置1に対する測定チップ2の装着が完了した状態を示している。成分測定装置1による測定チップ2の係止は、例えば、チップ装着部10b内に測定チップ2の一部と係合可能な爪部を設ける等、各種構成により実現可能である。
【0050】
成分測定装置1に装着されている測定チップ2を成分測定装置1から取り外す際は、ハウジング10の外部から上述した取り外しレバー12を操作する。これにより、成分測定装置1のチップ装着部10bによる測定チップ2の係止状態が解除される。同時に、ハウジング10内のイジェクトピン26(図2参照)が連動して移動し、測定チップ2を成分測定装置1から取り外すことができる。
【0051】
本実施形態のハウジング10は、上面視(図1参照)で略矩形の本体部10aと、本体部10aから外方に突設されているチップ装着部10bと、を備える構成であるが、測定チップ2を挿入し装着可能な挿入空間Sを区画する構成であればよく、ハウジング10は、本実施形態の形状に限られない。したがって、本実施形態のハウジング10の形状の他に、ユーザーにとって片手で把持し易くするための形状を種々採用することも可能である。
【0052】
表示部11は、成分測定装置1により測定された被測定成分の情報を表示可能である。本実施形態では、成分測定装置1としての血糖値測定装置により測定されたグルコース濃度を表示部11に表示することができる。表示部11には、被測定成分の情報のみならず、成分測定装置1の測定条件やユーザーに所定の操作を指示する指示情報等、各種情報を表示できるようにしてもよい。ユーザーは、表示部11に表示された内容を確認しながら、ボタンを操作することができる。
【0053】
また、上述したように、成分測定装置1は、発光部66及び受光部72を備える。発光部66及び受光部72は、挿入空間Sを挟んで対向して配置されている。図2及び図3に示すように、測定可能状態において、発光部66が発する照射光は、測定チップ2に照射される。受光部72は、発光部66から測定チップ2に照射される照射光のうち測定チップ2を透過した透過光を受光する。受光部72は、測定チップ2が装着されてない状態にて、発光部66から照射される照射光量を計測し、初期値とすることで、発光部66の光量変化を補正することもできる。
【0054】
また、本実施形態の発光部66は、5種の光源を備えている。具体的に、本実施形態の発光部66は、1種の測定用光源67と、4種のノイズ推定用光源68a~68dと、を備えている。測定用光源67は、1つのみの光源を備えている。4種のノイズ推定用光源68a~68dは、それぞれ複数(本実施形態では2つ)の光源を備えている。測定用光源67と、それぞれ複数の光源を備える4種のノイズ推定用光源68a~68dと、の位置関係の詳細は後述する(図8等参照)。
【0055】
図2に示すように、成分測定装置1により被測定成分を測定する際には、測定チップ2を挿入空間Sに挿入して装着する。そして、測定チップ2の一端に設けられている取込開口部24に血液検体を供給すると、血液検体は、例えば毛細管現象により流路23内を移動し、流路23の試薬22が保持されている保持位置まで到達し、この保持位置において、血液検体と試薬22とが反応する。そして、流路23の上記保持位置において、呈色成分を含む混合物Xが生成される。いわゆる比色式の成分測定装置1は、呈色成分と血液検体との混合物Xに向かって照射光を照射し、その透過光量(又は反射光量)を検出し、血中濃度に応じた発色の強度に相関する検出信号を得る。そして、成分測定装置1は、予め作成された検量線を参照することにより、被測定成分を測定することができる。本実施形態の成分測定装置1は、上述したように、血液検体中の血漿成分におけるグルコース濃度を測定可能である。
【0056】
以下、本実施形態の成分測定装置1の更なる詳細について説明する。
【0057】
図6は、図1図3に示す成分測定装置1の電気ブロック図である。図6には、説明の便宜上、成分測定装置1に装着された状態の測定チップ2の断面(図5と同じ断面)を併せて示している。また、図6では、測定チップ2の近傍を拡大した拡大図を左上に別途示している。図6に示すように、成分測定装置1は、上述したハウジング10、表示部11、取り外しレバー12、電源ボタン13及び操作ボタン14の他に、演算部60と、メモリ62と、電源回路63と、測定光学系64と、を備えている。
【0058】
演算部60は、例えば、MPU(Micro-Processing Unit)又はCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサで構成されており、メモリ62に格納されたプログラムを読み出し実行することで、各部の制御動作を実現可能である。メモリ62は、例えばROM(読み出し専用メモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)等であり、揮発性又は不揮発性である非一過性の記憶媒体で構成されてよい。メモリ62には、ここで示す成分測定方法を実行するために必要な各種データ(プログラムを含む)を読出し又は書込み可能である。電源回路63は、電源ボタン13の操作に応じて、演算部60を含む成分測定装置1内の各部に電力を供給し、又はその供給を停止する。
【0059】
測定光学系64は、血液検体中のグルコースと、試薬22中に含まれる発色試薬との呈色反応により生成された呈色成分を含む混合物Xの光学的特性を取得可能な光学システムである。測定光学系64は、具体的には、発光部66と、発光制御回路70と、受光部72と、受光制御回路74と、を備えている。
【0060】
上述したように、発光部66は複数種の光源を備えている。具体的に、本実施形態の発光部66は分光放射特性が異なる照射光(例えば、可視光、赤外光)を放射する5種の光源を備えている。より具体的に、本実施形態の発光部66の5種の光源は、1種の測定用光源67と、4種のノイズ推定用光源68a~68d、である(図8参照)。
【0061】
測定用光源67、及び、4種のノイズ推定用光源68a~68dから発せられる光のピーク波長はそれぞれλ0~λ4である。測定用光源67、及び、4種のノイズ推定用光源68a~68dとしては、発光ダイオード(LED(Light Emitting Diode))素子、有機エレクトロルミネッセンス(EL(Electro-Luminescence))素子、無機EL素子、レーザーダイオード(LD(Laser Diode))素子等の種々の発光素子を適用することができる。測定用光源67、及び、4種のノイズ推定用光源68a~68dとしては、汎用性等を考慮すると上述のLED素子が利用し易い。以下、上述の「ピーク波長」を各光源から発せられる光の波長として説明し、説明の便宜上、測定用光源67のピーク波長λ0を「測定用波長λ0」、第1ノイズ推定用光源68aのピーク波長λ1を「第1ノイズ推定用波長λ1」、第2ノイズ推定用光源68bのピーク波長λ2を「第2ノイズ推定用波長λ2」、第3ノイズ推定用光源68cのピーク波長λ3を「第3ノイズ推定用波長λ3」、及び、第4ノイズ推定用光源68dのピーク波長λ4を「第4ノイズ推定用波長λ4」と記載する。
【0062】
図2図3図6に示すように、本実施形態の受光部72は、発光部66と測定チップ2を挟んで対向して配置された1個の受光素子により構成されている。受光部72は、発光部66の測定用光源67(図8参照)、及び、第1~第4ノイズ推定用光源68a~68d(図8参照)、から測定チップ2の試薬22の保持位置に生成される混合物Xに照射され、測定チップ2を透過した透過光を受光する。受光部72としては、PD(Photo Diodeの略)素子、フォトコンダクタ(光導電体)、フォトトランジスタ(Photo Transistorの略)を含む種々の光電変換素子を適用することができる。
【0063】
発光制御回路70は、測定用光源67(図8参照)、及び、4種のノイズ推定用光源68a~68d(図8参照)、それぞれに駆動電力信号を供給することで、測定用光源67、及び、4種のノイズ推定用光源68a~68d、を点灯させ、又は消灯させる。受光制御回路74は、受光部72から出力されたアナログ信号に対して、対数変換及びA/D変換を施すことでデジタル信号(以下、検出信号という)を取得する。なお、測定用光源67、及び、4種のノイズ推定用光源68a~68dは、測定方法によって同時に点灯させてもよく、あるいは、異なるタイミングで1または複数ずつの光源を点灯させてもよい。
【0064】
図7は、図6に示す演算部60の機能ブロック図である。図7に示すように、演算部60は、測定光学系64による測定動作を指示する測定指示部76、及び、各種データを用いて被測定成分の濃度を測定する濃度測定部77の各機能を実現する。
【0065】
濃度測定部77は、吸光度取得部78と、吸光度補正部84と、を備えている。
【0066】
図7では、メモリ62には、測定光学系64により測定された測定用波長λ0、及び、第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4、それぞれにおける混合物Xの吸光度である、第1~第5実測値D1~D5の実測値データ85と、第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4それぞれでの混合物Xの吸光度に相関する一群の補正係数を含む補正係数データ86と、測定用波長λ0で実測された混合物Xの吸光度を補正係数データ86により補正して得られる混合物X中の呈色成分の吸光度と各種物理量(例えば、グルコース濃度)との関係を示す検量線や、混合物X中のヘモグロビンの吸光度とヘマトクリット値との関係を示す検量線などの検量線データ90と、が格納されている。「ヘマトクリット値」とは、血液検体としての全血検体における血球成分の容積比を百分率で示した値である。
【0067】
上述したように、成分測定装置1は、血液検体と試薬22との呈色反応により生成された混合物Xの光学的特性に基づいて血液検体中の被測定成分を測定可能である。具体的に、成分測定装置1は、測定用波長λ0の照射光を混合物Xに照射して測定される混合物Xの吸光度のうち、第1実測値D1に含まれる呈色成分以外のノイズ量を、第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4の照射光を利用して推定可能である。より具体的に、成分測定装置1は、上述のノイズ量を、第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4の照射光を混合物Xに照射して測定される混合物Xの吸光度の第2~第5実測値D2~D5を利用して推定し、呈色成分の吸光度、更には被測定成分を測定可能である。
【0068】
次に、図8を参照して、測定用光源67、及び、4種のノイズ推定用光源68a~68d、の位置関係の詳細について説明する。図8は、発光部66における測定用光源67及び各種のノイズ推定用光源68の配置構成を示す図である。具体的に、図8は、成分測定装置1を装置高さ方向Cに沿って見た平面視(図1参照)での、測定用光源67、及び、4種のノイズ推定用光源68a~68d、の位置関係を示している。図8に示すように、本実施形態の測定用光源67は、混合物Xへ照射される測定用波長λ0の照射光を発する1つの光源からなる。本実施形態の第1ノイズ推定用光源68aは、混合物Xへ照射される第1ノイズ推定用波長λ1の照射光を発する複数(本実施形態では2つ)の光源68a1、68a2からなる。本実施形態の第2ノイズ推定用光源68bは、混合物Xへ照射される第2ノイズ推定用波長λ2の照射光を発する複数(本実施形態では2つ)の光源68b1、68b2からなる。本実施形態の第3ノイズ推定用光源68cは、混合物Xへ照射される第3ノイズ推定用波長λ3の照射光を発する複数(本実施形態では2つ)の光源68c1、68c2からなる。本実施形態の第4ノイズ推定用光源68dは、混合物Xへ照射される第4ノイズ推定用波長λ4の照射光を発する複数(本実施形態では2つ)の光源68d1、68d2からなる。図8では、説明の便宜上、測定可能状態において、装置高さ方向Cで、測定用光源67、及び、4種のノイズ推定用光源68a~68dと、挿入空間Sに装着されている測定チップ2を挟んで、対向して配置される受光部72、の位置を二点鎖線により示している。
【0069】
図8に示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2は、装置幅方向Bにおいて、測定用光源67の両側に配置されている。より具体的に、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2それぞれの中央位置が、装置幅方向Bにおいて、測定用光源67の中央位置の両側に位置している。
【0070】
図9の左図は、測定可能状態において、測定チップ2の装置幅方向Bの中央位置が、成分測定装置1の挿入空間Sの装置幅方向Bの中央位置と、略一致する基準状態を示している。図9の右図は、この基準状態(図9の左図参照)で、測定用光源67及び4種のノイズ推定用光源68a~68d、並びに、測定チップ2が保持する混合物Xの測定スポットを区画している測定開口部25a1、を装置高さ方向Cに沿って見た場合の位置関係を示している。図9の右図では、測定開口部25a1の位置を一点鎖線により示している。図9の右図に示すように、装置高さ方向Cに沿って見た平面視において、測定用光源67の中央位置は、測定スポットを区画している測定開口部25a1の中心位置と、略一致している。
【0071】
図10は、図9に示す基準状態での、測定開口部25a1により区画されている、測定チップ2の測定スポットにおける、測定用光源67及び第1ノイズ推定用光源68aの装置幅方向Bの照度分布ILD1B、ILD2B、ILD2Ba1、ILD2Ba2を示す図である。図10に示すように、測定開口部25a1により区画されている、測定チップ2の測定スポットでの、測定用光源67の装置幅方向Bの照度分布ILD1Bは、測定スポットの装置幅方向Bの中央位置でピークとなり、測定スポットの装置幅方向Bの両端でゼロとなっている。
【0072】
これに対して、図10に示すように、測定開口部25a1により区画されている、測定チップ2の測定スポットでの、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2それぞれの装置幅方向Bの照度分布ILD2Ba1、ILD2Ba2は、同測定スポットでの測定用光源67の装置幅方向Bの照度分布ILD1Bと一部が重なるが、一致していない。しかしながら、図10に示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2の照度分布ILD2Ba1、ILD2Ba2を合成した合成照度分布ILD2Bは、測定用光源67の照度分布ILD1Bと略一致している。つまり、図8に示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2が、装置幅方向Bにおいて、測定用光源67の両側に配置されていることで、これら光源68a1、68a2の合成照度分布ILD2Bを、測定用光源67の照度分布ILD1Bと略一致させ易くすることができる。これにより、図9に示す基準状態での、第1ノイズ推定用光源68aを用いた実測値D2による、測定用光源67を用いた実測値D1の補正が容易になる。
【0073】
また、本実施形態では、図8に示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2は、挿入抜去方向Aにおいて、測定用光源67の両側に配置されている。より具体的に、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2それぞれの中央位置が、挿入抜去方向Aにおいて、測定用光源67の中央位置の両側に位置している。
【0074】
図11は、図9に示す基準状態での、測定チップ2の測定スポットにおける、測定用光源67及び第1ノイズ推定用光源68aの挿入抜去方向Aの照度分布ILD1A、ILD2A、ILD2Aa1、ILD2Aa2を示す図である。図11に示すように、測定スポットでの測定用光源67の挿入抜去方向Aの照度分布ILD1Aは、測定スポットの挿入抜去方向Aの中央位置でピークとなり、測定スポットの挿入抜去方向Aの両端でゼロとなっている。
【0075】
これに対して、図11に示すように、測定チップ2の測定スポットでの第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2それぞれの挿入抜去方向Aの照度分布ILD2Aa1、ILD2Aa2は、測定チップ2の同測定スポットでの測定用光源67の挿入抜去方向Aの照度分布ILD1Aと、一部が重なるが、一致していない。しかしながら、図11に示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2の照度分布ILD2Aa1、ILD2Aa2を合成した合成照度分布ILD2Aは、測定用光源67の照度分布ILD1Aと略一致している。つまり、図8に示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2が、挿入抜去方向Aにおいて、測定用光源67の両側に配置されていることで、これら光源68a1、68a2の合成照度分布ILD2Aを、測定用光源67の照度分布ILD1Aと略一致させ易くすることができる。これにより、図9に示す基準状態での、第1ノイズ推定用光源68aを用いた実測値D2による、測定用光源67を用いた実測値D1の補正が、より容易になる。
【0076】
更に、本実施形態では、図8に示すように、装置高さ方向Cに沿って成分測定装置1を見た平面視で、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2は、測定用光源67を対称中心とした点対称となる位置に配置されている。より具体的に、装置高さ方向Cに沿って成分測定装置1を見た平面視(図8参照)で、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2の中心位置は、測定用光源67の中心位置を対称中心とした点対称となる位置に配置されている。このようにすることで、挿入抜去方向A及び装置幅方向Bを含む、装置高さ方向Cに直交する任意の方向において、測定開口部25a1により区画されている測定チップ2の測定スポットでの、光源68a1、68a2の合成照度分布ILD2を、同測定スポットでの測定用光源67の照度分布ILD1と略一致させることができる。これにより、図9に示す基準状態での、第1ノイズ推定用光源68aを用いた実測値D2による、測定用光源67を用いた実測値D1の補正が、より一層、容易になる。
【0077】
ここで、本実施形態の第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源は、図8に示す平面視で、測定用光源67を中心とした周方向の異なる位置に設けられている2つの光源68a1、68a2からなるが、光源の数は特に限定されない。第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源は、図8に示す平面視で、測定用光源67を中心とした周方向の異なる位置に設けられている3つ以上の光源であってもよい。この詳細は後述する(図26参照)。
【0078】
図12Aの左図は、測定可能状態において、測定チップ2の装置幅方向Bの中央位置が、成分測定装置1の挿入空間Sの装置幅方向Bの中央位置と、略一致せずに一方側にずれている第1位置ずれ状態を示している。図12Aの右図は、この第1位置ずれ状態(図12Aの左図参照)で、測定用光源67及び4種のノイズ推定用光源68a~68d、並びに、測定チップ2が保持する混合物Xの測定スポットを区画している測定開口部25a1、を装置高さ方向Cに沿って見た場合の位置関係を示している。図12Aの右図では、測定開口部25a1の位置を一点鎖線により示している。図12Aの右図に示すように、装置高さ方向Cに沿って見た平面視において、測定用光源67の中央位置は、測定スポットを区画している測定開口部25a1の中心位置と略一致せずに、図9に示す基準状態と比較して、装置幅方向Bにずれている。
【0079】
図12Bは、図12Aに示す第1位置ずれ状態での、測定チップ2の測定スポットにおける、測定用光源67及び第1ノイズ推定用光源68aの装置幅方向Bの照度分布ILD1B、ILD2B、ILD2Ba1、ILD2Ba2を示す図である。図12Bに示すように、測定チップ2の測定スポットでの測定用光源67の装置幅方向Bの照度分布ILD1Bは、測定スポットの装置幅方向Bの中央位置より装置幅方向Bの一方側にずれた位置でピークとなり、測定スポットの装置幅方向Bの両端でゼロとなっている。
【0080】
これに対して、図12Bに示すように、測定スポットでの第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2それぞれの装置幅方向Bの照度分布ILD2Ba1、ILD2Ba2は、同測定スポットでの測定用光源67の装置幅方向Bの照度分布ILD1Bと一部が重なるが、一致していない。しかしながら、図12Bに示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2の照度分布ILD2Ba1、ILD2Ba2を合成した合成照度分布ILD2Bは、測定用光源67の照度分布ILD1Bと略一致している。つまり、図8に示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2が、装置幅方向Bにおいて、測定用光源67の両側に配置されていることで、これら光源68a1、68a2の合成照度分布ILD2Bを、測定用光源67の照度分布ILD1Bと略一致させ易くすることができる。これにより、図12Aに示す第1位置ずれ状態での、第1ノイズ推定用光源68aを用いた実測値D2による、測定用光源67を用いた実測値D1の補正が容易になる。
【0081】
更に、図8に示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2が、装置幅方向Bにおいて、測定用光源67の両側に配置されていることで、挿入空間Sにおける測定チップ2の装置幅方向Bの位置が変動(例えば、図9に示す基準状態から図12Aに示す第1位置ずれ状態に変動)し、測定開口部25a1により区画される測定スポットでの測定用光源67の装置幅方向Bの照度分布ILD1Bと、同測定スポットでの第1ノイズ推定用光源68aの各光源68a1、68a2の照度分布ILD2Ba1、ILD2Ba2と、の差が変動しても、同測定スポットでの測定用光源67の装置幅方向Bの照度分布ILD1Bと、同測定スポットでの第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2の合成照度分布ILD2Bと、の差の変動を抑制できる。そのため、挿入空間Sにおいて測定チップ2の装置幅方向Bの位置が変動し、測定チップ2の測定スポットにおける、測定用光源67、及び、第1ノイズ推定用光源68aの各光源68a1、68a2、の照度分布差が変動しても、第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源68a1、68a2の合成照度分布ILD2Bを利用することで、成分測定装置1による被測定成分の測定精度の低下を抑制できる。
【0082】
図13Aの左図は、測定可能状態において、測定チップ2の装置幅方向Bの中央位置が、成分測定装置1の挿入空間Sの装置幅方向Bの中央位置と、略一致せずに他方側(図12Aとは逆側)にずれている第2位置ずれ状態を示している。図13Aの右図は、この第2位置ずれ状態(図13Aの左図参照)で、測定用光源67及び4種のノイズ推定用光源68a~68d、並びに、測定チップ2が保持する混合物Xの測定スポットを区画している測定開口部25a1、を装置高さ方向Cに沿って見た場合の位置関係を示している。図13Aの右図では、測定開口部25a1の位置を一点鎖線により示している。図13Aの右図に示すように、装置高さ方向Cに沿って見た平面視において、測定用光源67の中央位置は、測定スポットを区画している測定開口部25a1の中心位置と略一致せずに、図9に示す基準状態と比較して、装置幅方向Bにずれている。
【0083】
図13Bは、図13Aに示す第2位置ずれ状態での、測定チップ2の測定スポットにおける、測定用光源67及び第1ノイズ推定用光源68aの装置幅方向Bの照度分布ILD1B、ILD2B、ILD2Ba1、ILD2Ba2を示す図である。図13Bに示すように、測定スポットでの測定用光源67の装置幅方向Bの照度分布ILD1Bは、測定スポットの装置幅方向Bの中央位置より装置幅方向Bの他方側(図12Bとは逆側)にずれた位置でピークとなり、測定スポットの装置幅方向Bの両端でゼロとなっている。
【0084】
これに対して、図13Bに示すように、測定スポットでの第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2それぞれの装置幅方向Bの照度分布ILD2Ba1、ILD2Ba2は、同測定スポットでの測定用光源67の装置幅方向Bの照度分布ILD1Bと一部が重なるが、一致していない。しかしながら、図13Bに示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2の照度分布ILD2Ba1、ILD2Ba2を合成した合成照度分布ILD2Bは、測定用光源67の照度分布ILD1Bと略一致している。つまり、図8に示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2が、装置幅方向Bにおいて、測定用光源67の両側に配置されていることで、これら光源68a1、68a2の合成照度分布ILD2Bを、測定用光源67の照度分布ILD1Bと略一致させ易くすることができる。これにより、図13Aに示す第2位置ずれ状態での、第1ノイズ推定用光源68aを用いた実測値D2による、測定用光源67を用いた実測値D1の補正が容易になる。
【0085】
更に、図8に示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2が、装置幅方向Bにおいて、測定用光源67の両側に配置されていることで、挿入空間Sにおける測定チップ2の装置幅方向Bの位置が変動(例えば、図9に示す基準状態から図13Aに示す第2位置ずれ状態に変動、又は、図12Aに示す第1位置ずれ状態から図13Aに示す第2位置ずれ状態に変動)し、測定開口部25a1により区画される測定スポットでの測定用光源67の装置幅方向Bの照度分布ILD1Bと、同測定スポットでの第1ノイズ推定用光源68aの各光源68a1、68a2の照度分布ILD2Ba1、ILD2Ba2と、の差が変動しても、同測定スポットでの測定用光源67の装置幅方向Bの照度分布ILD1Bと、同測定スポットでの第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2の合成照度分布ILD2Bと、の差の変動を抑制できる。そのため、挿入空間Sにおいて測定チップ2の装置幅方向Bの位置が変動し、測定チップ2の測定スポットにおける、測定用光源67、及び、第1ノイズ推定用光源68aの各光源68a1、68a2、の照度分布差が変動しても、第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源68a1、68a2の合成照度分布ILD2Bを利用することで、成分測定装置1による被測定成分の測定精度の低下を抑制できる。
【0086】
以上のように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2が、図8に示す平面視で、装置幅方向Bにおいて、測定用光源67の両側に配置されていることで、挿入空間Sにおける測定チップ2の挿入位置が装置幅方向Bに変動しても、成分測定装置1による被測定成分の測定精度の低下を抑制できる。
【0087】
図14Aの左図は、測定可能状態において、測定チップ2の挿入抜去方向Aの位置が、図9に示す基準位置より、挿入方向A1と逆側の抜去方向A2にずれている第3位置ずれ状態を示している。図14Aの右図は、この第3位置ずれ状態(図14Aの左図参照)で、測定用光源67及び4種のノイズ推定用光源68a~68d、並びに、測定チップ2が保持する混合物Xの測定スポットを区画している測定開口部25a1、を装置高さ方向Cに沿って見た場合の位置関係を示している。図14Aの右図では、測定開口部25a1の位置を一点鎖線により示している。図14Aの右図に示すように、装置高さ方向Cに沿って見た平面視において、測定用光源67の中央位置は、測定スポットを区画している測定開口部25a1の中心位置と略一致せずに、図9に示す基準状態と比較して、挿入抜去方向Aにずれている。
【0088】
図14Bは、図14Aに示す第3位置ずれ状態での、測定開口部25a1により区画されている測定チップ2の測定スポットにおける、測定用光源67及び第1ノイズ推定用光源68aの挿入抜去方向Aの照度分布ILD1A、ILD2A、ILD2Aa1、ILD2Aa2を示す図である。図14Bに示すように、測定スポットでの測定用光源67の挿入抜去方向Aの照度分布ILD1Aは、測定スポットの挿入抜去方向Aの中央位置より挿入抜去方向Aにずれた位置でピークとなり、測定スポットの挿入抜去方向Aの両端でゼロとなっている。
【0089】
これに対して、図14Bに示すように、測定スポットでの第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2それぞれの挿入抜去方向Aの照度分布ILD2Aa1、ILD2Aa2は、同測定スポットでの測定用光源67の挿入抜去方向Aの照度分布ILD1Aと一部が重なるが、一致していない。しかしながら、図14Bに示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2の照度分布ILD2Aa1、ILD2Aa2を合成した合成照度分布ILD2Aは、測定用光源67の照度分布ILD1Aと略一致している。つまり、図8に示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2が、挿入抜去方向Aにおいて、測定用光源67の両側に配置されていることで、これら光源68a1、68a2の合成照度分布ILD2Aを、測定用光源67の照度分布ILD1Aと略一致させ易くすることができる。これにより、図14Aに示す第3位置ずれ状態での、第1ノイズ推定用光源68aを用いた実測値D2による、測定用光源67を用いた実測値D1の補正が容易になる。
【0090】
更に、図8に示すように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2が、挿入抜去方向Aにおいて、測定用光源67の両側に配置されていることで、挿入空間Sにおける測定チップ2の挿入抜去方向Aの位置が変動(例えば、図9に示す基準状態から図14Aに示す第3位置ずれ状態に変動)し、測定開口部25a1により区画される測定スポットでの測定用光源67の挿入抜去方向Aの照度分布ILD1Aと、同測定スポットでの第1ノイズ推定用光源68aの各光源68a1、68a2の照度分布ILD2Aa1、ILD2Aa2と、の差が変動しても、同測定スポットでの測定用光源67の挿入抜去方向Aの照度分布ILD1Aと、同測定スポットでの第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2の合成照度分布ILD2Aと、の差の変動を抑制できる。そのため、挿入空間Sにおいて測定チップ2の挿入抜去方向Aの位置が変動し、測定チップ2の測定スポットにおける、測定用光源67、及び、第1ノイズ推定用光源68aの各光源68a1、68a2、の照度分布差が変動しても、第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源68a1、68a2の合成照度分布ILD2Aを利用することで、成分測定装置1による被測定成分の測定精度の低下を抑制できる。
【0091】
以上のように、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2が、図8に示す平面視で、挿入抜去方向Aにおいて、測定用光源67の両側に配置されていることで、挿入空間Sにおける測定チップ2の挿入位置が挿入抜去方向Aに変動しても、成分測定装置1による被測定成分の測定精度の低下を抑制できる。
【0092】
更に、上述したように、本実施形態では、装置高さ方向Cに沿って成分測定装置1を見た平面視(図8参照)で、第1ノイズ推定用光源68aの2つの光源68a1、68a2は、測定用光源67を対称中心とした点対称となる位置に配置されている。そのため、挿入空間Sにおける測定チップ2が、上述した測定チップ2の挿入抜去方向A及び装置幅方向Bに変動(図12図14参照)する場合のみならず、挿入抜去方向A及び装置幅方向Bを含む、装置高さ方向Cと直交する任意の方向に変動する場合であっても、成分測定装置1による被測定成分の測定精度の低下を抑制できる。
【0093】
そして、第1ノイズ推定用光源68aの光源を、図8に示す平面視で、測定用光源67を中心とした周方向の異なる位置に3つ以上配置することで、測定開口部25a1により区画される測定スポットでの、第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源の合成照度分布ILD2を、同測定スポットでの、測定用光源67の照度分布と、より一致させ易くなり、その結果、成分測定装置1による被測定成分の測定精度の低下を、より抑制できる。
【0094】
また、第2ノイズ推定用光源68bの複数の光源68b1、68b2についても同様である。第2ノイズ推定用光源68bの複数の光源68b1、68b2は、図8に示す平面視で、装置幅方向Bにおいて、測定用光源67の両側に配置されている。これによる作用効果は、上述した第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源68a1、68a2と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0095】
更に、第2ノイズ推定用光源68bの複数の光源68b1、68b2は、図8に示す平面視で、挿入抜去方向Aにおいて、測定用光源67の両側に配置されている。これによる作用効果についても、上述した第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源68a1、68a2と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0096】
また、第2ノイズ推定用光源68bの複数の光源68b1、68b2は、図8に示す平面視で、測定用光源67を対称中心とした点対称となる位置に配置されている。これによる作用効果についても、上述した第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源68a1、68a2と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0097】
また更に、本実施形態の第2ノイズ推定用光源68bの光源は2つのみであるが、図8に示す平面視で、測定用光源67を中心とした周方向の異なる位置に3つ以上設けられていてもよい。これによる作用効果についても、上述した第1ノイズ推定用光源68aと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0098】
第3ノイズ推定用光源68cの複数の光源68c1、68c2についても同様である。第3ノイズ推定用光源68cの複数の光源68c1、68c2は、図8に示す平面視で、装置幅方向Bにおいて、測定用光源67の両側に配置されている。これによる作用効果は、上述した第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源68a1、68a2と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0099】
更に、第3ノイズ推定用光源68cの複数の光源68c1、68c2は、図8に示す平面視で、挿入抜去方向Aにおいて、測定用光源67の両側に配置されている。これによる作用効果についても、上述した第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源68a1、68a2と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0100】
また、第3ノイズ推定用光源68cの複数の光源68c1、68c2は、図8に示す平面視で、測定用光源67を対称中心とした点対称となる位置に配置されている。これによる作用効果についても、上述した第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源68a1、68a2と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0101】
また更に、本実施形態の第3ノイズ推定用光源68cの光源は2つのみであるが、図8に示す平面視で、測定用光源67を中心とした周方向の異なる位置に3つ以上設けられていてもよい。これによる作用効果についても、上述した第1ノイズ推定用光源68aと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0102】
第4ノイズ推定用光源68dの複数の光源68d1、68d2についても同様である。第4ノイズ推定用光源68dの複数の光源68d1、68d2は、図8に示す平面視で、装置幅方向Bにおいて、測定用光源67の両側に配置されている。これによる作用効果は、上述した第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源68a1、68a2と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0103】
更に、第4ノイズ推定用光源68dの複数の光源68d1、68d2は、図8に示す平面視で、挿入抜去方向Aにおいて、測定用光源67の両側に配置されている。これによる作用効果についても、上述した第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源68a1、68a2と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0104】
また、第4ノイズ推定用光源68dの複数の光源68d1、68d2は、図8に示す平面視で、測定用光源67を対称中心とした点対称となる位置に配置されている。これによる作用効果についても、上述した第1ノイズ推定用光源68aの複数の光源68a1、68a2と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0105】
また更に、本実施形態の第4ノイズ推定用光源68dの光源は2つのみであるが、図8に示す平面視で、測定用光源67を中心とした周方向の異なる位置に3つ以上設けられていてもよい。これによる作用効果についても、上述した第1ノイズ推定用光源68aと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0106】
図8に示すように、本実施形態の測定用光源67、及び、第1~第4ノイズ推定用光源68a~68dは、薄板状のホルダ部材80に保持されている。本実施形態のホルダ部材80は、上面視で略矩形状の外形を有しており、上面視の中央部に測定用光源67を保持している。そして、ホルダ部材80は、測定用光源67が保持されている中央部の周囲を取り囲むように、第1~第4ノイズ推定用光源68a~68dを保持している。
【0107】
ここで、図8に示す平面視で、測定用光源67から、第1~第4ノイズ推定用光源68a~68dそれぞれの各光源まで、の最短距離Lは、0.4mm以下とされている。この最短距離は、0.35mm以下とされることがより好ましく、0.3mm以下とされることが特に好ましい。このように、第1~第4ノイズ推定用光源68a~68dそれぞれの各光源は、測定用光源67との最短距離Lが小さくなるように、配置されていることが好ましい。このようにすることで、測定開口部25a1により区画される測定スポットおける、第1~第4ノイズ推定用光源68a~68dの各光源の照度分布と、同測定スポットにおける、測定用光源67の照度分布とが、全く重ならない状態になることを、抑制できる。
【0108】
以下、血液検体として全血検体を用いて、全血検体と試薬との呈色反応により生成された混合物X全体の各種波長における吸光度に基づき、被測定成分としてのグルコースの濃度を算出する、成分測定装置1による成分測定方法の一例について説明する。
【0109】
まず、図15及び図16を参照しつつ、血液検体中の被測定成分を、全血検体を用いた吸光度測定に基づいて推定しようとする際の問題点について言及する。以降の実施例では、発色試薬としてテトラゾリウム塩(WST-4)を含み、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)及び電子メディエーターと混合した試薬22を用いた。
【0110】
図15は、ヘマトクリット値及びグルコース濃度が既知である6種の血液検体それぞれを試薬22と反応させることにより得られる6種の混合物Xの吸光度スペクトルを示している。この6種の血液検体を第1~第6検体とする。第1検体は、ヘマトクリット値が20%で、グルコース濃度が0mg/dL(図15中では「Ht20 bg0」と表記)である。第2検体は、ヘマトクリット値が20%で、グルコース濃度が100mg/dL(図15中では「Ht20 bg100」と表記)である。第3検体は、ヘマトクリット値が20%で、グルコース濃度が400mg/dL(図15中では「Ht20 bg400」と表記)である。第4検体は、ヘマトクリット値が40%で、グルコース濃度が0mg/dL(図15中では「Ht40 bg0」と表記)である。第5検体は、ヘマトクリット値が40%で、グルコース濃度が100mg/dL(図15中では「Ht40 bg100」と表記)である。第6検体は、ヘマトクリット値が40%で、グルコース濃度が400mg/dL(図15中では「Ht40 bg400」と表記)である。
【0111】
また、図16は、ヘマトクリット値及びグルコース濃度が既知である7種の血液検体それぞれの吸光度スペクトルを示している。この7種の血液検体を第1~第7検体とする。第1~第6検体は、図15に示す第1~第6検体と同じである。第7検体は、ヘマトクリット値が70%で、グルコース濃度が100mg/dLである。また、ヘマトクリット値が等しい血液検体の吸光度スペクトルは略一致するため、図16ではヘマトクリット値の異なる3つの曲線のみを示している。具体的には、ヘマトクリット値が20%(図16では「Ht20」と表記)、40%(図16では「Ht40」と表記)、70%(図16では「Ht70」と表記)の3つの曲線のみを示している。
【0112】
一般的に、吸光度の測定対象となる呈色成分以外の成分が試料の中に含まれるとき、光学的現象の発生によって呈色成分の吸光度に基づく被測定成分の濃度の測定結果に外乱因子(ノイズ)として影響を与えることがある。例えば、血液検体中の血球成分、測定チップ表面、又は測定チップに付着した塵埃といった微粒子等による「光散乱」や、測定対象となる呈色成分とは別の色素成分(具体的には、ヘモグロビン)による「光吸収」が発生することで、真の値よりも大きい吸光度が測定される傾向がある。
【0113】
具体的に、図16に示す血液検体の吸光度スペクトルは、540nm付近及び570nm付近を中心とする2つのピークを有する。この2つのピークは、主に、赤血球中の酸化ヘモグロビンの光吸収に起因する。また、図16に示す血液検体の吸光度スペクトルでは、600nm以上の波長域において、波長が長くなるにつれて、吸光度が略直線状になだらかに減少している。この略直線状の部分は、主に、血球成分や測定チップに付着した塵や埃といった微粒子等の光散乱に起因する。
【0114】
換言すれば、600nm付近より長波長側の波長域における血液検体の吸光度は、血球成分等による光散乱の影響が支配的である。600nm付近より短波長側の波長域における血液検体の吸光度は、血球成分等による光散乱の影響よりも、ヘモグロビンによる光吸収の影響が大きい。
【0115】
一方、図15に示す混合物Xの吸光度スペクトルでは、図16に示す血液検体の吸光度スペクトルと同様、波長が長くなるにつれて吸光度が次第に小さくなる。しかし、図15に示す混合物Xの吸光度スペクトルは、図16に示す曲線と比較して、可視光の波長域である600nm~700nm辺りにわたって吸光度が増加している。この600nm~700nm辺りにわたって増加している吸光度は、主に、血液検体中のグルコースと試薬22中の発色試薬との呈色反応により生成する呈色成分の吸光特性に起因する。
【0116】
このように、測定対象となる呈色成分の他に、図16に示す吸光特性を有する血液検体を含む混合物Xを用いて、呈色成分由来の吸光度を正確に測定する場合には、所定の測定用波長λ0(例えば650nm)における吸光度の実測値から、血球成分等による光散乱やヘモグロビンによる光吸収などの外乱因子(ノイズ)を除去する必要がある。
【0117】
より具体的には、測定対象となる呈色成分の光吸収率が高い所定の測定用波長λ0(例えば650nm)における、血球成分等による光散乱やヘモグロビンによる光吸収などの外乱因子(ノイズ)量を推定し、同測定波長における吸光度の実測値を補正することが必要となる。
【0118】
以下、成分測定装置1により実行される成分測定方法の一例の詳細について説明する。
【0119】
成分測定装置1は、血液検体としての全血検体と試薬22との呈色反応により生成した生成物としての呈色成分を含む混合物Xの光学的特性に基づいて、血液検体中の被測定成分を測定可能である。具体的に、本実施形態では、血液検体中の血漿成分に含まれるグルコースの濃度を測定する。
【0120】
そして、本実施形態の成分測定装置1は、血液検体中の血球成分、測定チップ2の表面、又は測定チップ2に付着した塵埃といった微粒子による光学的特性と、赤血球中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率と、に基づいて、測定用波長λ0における混合物Xの吸光度の実測値D1を補正することにより、血液検体中のグルコース濃度を算出可能である。換言すれば、本実施形態の成分測定装置1による成分測定方法は、血液検体中の血球成分、測定チップ2の表面、又は測定チップ2に付着した塵埃といった微粒子、による散乱光の情報と、赤血球中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率に基づいて、測定用波長λ0における混合物Xの吸光度の実測値D1を補正する工程を含む。
【0121】
図17は、還元ヘモグロビン(図17では「Hb」と表記)の吸収係数及び酸化ヘモグロビン(図17では「HbO2」と表記)の吸収係数を示している。赤血球中のヘモグロビンは、主に、酸素と結合した酸化ヘモグロビンと、酸素分圧が小さい場所で酸素が解離した還元ヘモグロビンと、を含んでいる。酸化ヘモグロビンは、還元ヘモグロビンが肺を通過して酸素と結合し、動脈を通って体中に酸素を運搬する役割を果たしており、動脈血中に多く確認できる。例えば、指の腹から全血検体を採取する際は、毛細血管の血液となるためこの酸化ヘモグロビンの量が比較的多い。逆に、還元ヘモグロビンは、静脈血中に多く確認できる。
【0122】
還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率は何ら考慮することなく、例えばヘマトクリット値を利用して、測定対象となる呈色成分に対応する測定用波長λ0で得られた吸光度を補正してもよい。しかしながら、図17に示すように、還元ヘモグロビンの吸収係数と、酸化ヘモグロビンの吸収係数とは一致しておらず、還元ヘモグロビンによる吸収量と酸化ヘモグロビンによる吸収量とは波長により異なる。図18に還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビン吸収係数の比率を示す。例えば、測定対象となる呈色成分の吸光度を測定する測定波長が650nmのとき、還元ヘモグロビンの吸収係数は約0.9であり、酸化ヘモグロビンの吸収係数は約0.09である。すなわち、酸化ヘモグロビンの吸収係数は、全ヘモグロビンの吸収係数の約10%に相当する。測定対象となる呈色成分に由来する吸光度をより正確に推定するためには、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率を考慮することが重要である。
【0123】
そのため、成分測定装置1では、混合物Xに含まれる呈色成分の吸光度を測定するための測定波長を650nmとし、この測定用波長λ0で測定された混合物Xの吸光度の実測値D1から、血球成分等の光散乱による影響や、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率を加味したヘモグロビンの光吸収による影響を外乱因子(ノイズ)として除去する補正を行う。これにより、混合物Xに含まれる呈色成分の吸光度を推定し、この推定された吸光度とグルコース濃度との関係を示す検量線を用いてグルコース濃度を算出する。
【0124】
以下、成分測定装置1により実行される成分測定方法の一例の更なる詳細について説明する。
【0125】
まず、本実施形態で用いる試薬22中の発色試薬は、血液検体中のグルコースと呈色反応することにより生成される呈色成分の吸光度が600nm付近にピークを有するものであるが、本実施形態において呈色成分の吸光度を測定する測定波長は650nmとしている。
【0126】
測定対象となる呈色成分の吸光度を測定するための測定用波長λ0は、呈色成分の光吸収率が相対的に大きくなる波長であって、かつ、ヘモグロビンの光吸収による影響が比較的小さい波長を用いればよい。具体的には、測定対象となる呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域に対応し、かつ、全吸光度に対するヘモグロビンの光吸収による吸光度の割合が比較的小さい波長範囲W3(図15図16参照)に属する波長とすればよい。「ピーク波長域の半値全幅域に対応する」波長範囲とは、吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域を特定した際に、短波長側の半値を示す波長から、長波長側の半値を示す波長までの範囲を意味している。本実施形態の測定対象となる呈色成分の吸光度スペクトルは、600nm付近がピーク波長となり、約500nm~約700nmが半値全幅域に対応する波長範囲となる。また、全吸光度におけるヘモグロビンの光吸収による影響は、600nm以上の波長域で比較的小さくなる。したがって、本実施形態において、測定対象となる呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域に対応し、かつ、全吸光度に対するヘモグロビンの光吸収による吸光度の割合が比較的小さい波長範囲W3は、600nm以上、かつ、700nm以下である。そのため、測定用波長λ0としては、本実施形態の650nmに限られず、600nm~700nmの範囲に属する別の波長を測定用波長としてもよい。呈色成分の吸光度を表すシグナルが強く、全吸光度に対するヘモグロビンの光吸収による吸光度の割合をできる限り低減させた波長範囲である方が、呈色成分由来の吸光度をより正確に測定できるため、呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長となる600nm付近よりやや長波長となる650nm付近を測定用波長λ0とすることが好ましい。より具体的には、測定用波長を630nm~680nmの範囲に属する波長とすることが好ましく、640nm~670nmの範囲に属する波長とすることがより好ましく、本実施形態のように650nmとすることが特に好ましい。このような発色試薬の例としてはテトラゾリウム塩が好ましい。
【0127】
更に、本実施形態では、呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域が約500nm~約700nmとなるような発色試薬を使用しているが、ピーク波長域の半値全幅域がこの範囲と異なるような発色試薬を使用してもよい。但し、上述したとおり、ヘモグロビンの吸光特性を考慮し、ヘモグロビンの光吸収による吸光度が大きくなる波長域(600nm以下)と、呈色成分の吸光度スペクトルにおける測定用波長とが重ならないようにすることが望ましい。
【0128】
以下、本実施形態の測定用波長λ0である650nmにおける呈色成分の吸光度を推定するための方法について説明する。成分測定装置1は、測定用波長λ0(本実施形態では650nm)とは異なる4つの第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4における混合物Xの吸光度をそれぞれ実測し、この4つの実測値D2~D5と、予め定めた補正係数データ86とを用いて、測定用波長λ0における混合物Xの吸光度の実測値D1を補正し、測定用波長λ0における呈色成分の吸光度を推定する。以下、説明の便宜上、実測値D1~D5を、「第1実測値D1」、「第2実測値D2」、「第3実測値D3」、「第4実測値D4」、「第5実測値D5」として区別する。
【0129】
具体的に、成分測定装置1は、上述した4つの第2~第4実測値D2~D5として、測定用波長λ0よりも長波長側の2つの第1ノイズ推定用波長λ1及び第2ノイズ推定用波長λ2それぞれにおける混合物Xの吸光度である、2つの第2実測値D2及び第3実測値D3と、測定用波長λ0よりも短波長側の2つの第3ノイズ推定用波長λ3及び第4ノイズ推定用波長λ4それぞれにおける混合物Xの吸光度である、2つの第4実測値D4及び第5実測値D5と、を利用する。第1ノイズ推定用波長λ1及び第2ノイズ推定用波長λ2は、全吸光度において血球成分等の光散乱による影響が支配的な波長域に属している。また、第3ノイズ推定用波長λ3及び第4ノイズ推定用波長λ4は、全吸光度においてヘモグロビンの光吸収による影響が大きい波長域に属している。
【0130】
換言すれば、成分測定装置1は、上述した第2実測値D2及び第3実測値D3として、測定用波長λ0よりも長波長域に属する、例えば、波長範囲W3(図15図16参照)よりも長波長側の長波長域W1(図15図16参照)に属する第1ノイズ推定用波長λ1及び第2ノイズ推定用波長λ2それぞれにおける混合物Xの吸光度を利用する。
【0131】
また、成分測定装置1は、上述した第4実測値D4及び第5実測値D5として、測定用波長λ0よりも短波長域に属する、例えば、波長範囲W3(図15図16参照)よりも短波長側の短波長域W2(図15図16参照)に属する第3ノイズ推定用波長λ3及び第4ノイズ推定用波長λ4それぞれにおける混合物Xの吸光度である第4実測値D4及び第5実測値D5を利用する。
【0132】
成分測定装置1の吸光度取得部78は、上述した第1~第5実測値D1~D5を取得する。具体的には、発光部66の測定用光源67及び4種のノイズ推定用光源68a~68dから、測定用波長λ0及び第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4それぞれの発光波長を含む照射光が混合物Xに対して照射される。そして、受光部72は、それぞれの照射光のうち混合物Xを透過する透過光を受光する。そして、演算部60は、照射光と透過光との関係から各波長における混合物Xの吸光度を算出し、各波長における混合物Xの吸光度である第1~第5実測値D1~D5を、実測値データ85としてメモリ62に格納する。成分測定装置1の吸光度取得部78は、メモリ62から実測値データ85を取得することができる。吸光度取得部78が第1~第5実測値D1~D5を取得する手段は、上述した手段に限られず、各種公知の手段により取得することが可能である。
【0133】
そして、成分測定装置1の吸光度補正部84は、第2~第5実測値D2~D5を用いて第1実測値D1を補正し、測定用波長λ0(本例では650nm)における呈色成分の吸光度を推定する。
【0134】
特に、図15及び図16から分かるように、血球成分等の光散乱が支配的な長波長域W1では、混合物Xの吸光度スペクトルが略直線状になることから、第1ノイズ推定用波長λ1における吸光度である第2実測値D2と、第2ノイズ推定用波長λ2における吸光度である第3実測値D3と、が取得できれば、第2実測値D2と第3実測値D3との間の傾きを求めることにより、測定用波長λ0における、呈色成分起因の吸光度以外の、外乱因子(ノイズ)を起因とする吸光度をある程度推定することは可能である。
【0135】
更に、本実施形態の成分測定装置1は、血液検体中の血球成分等による光学的特性に加えて、赤血球中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率を考慮して、血液検体中のグルコース濃度を算出可能である。そのため、成分測定装置1では、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率により選択される2つの波長(第3ノイズ推定用波長λ3及び第4ノイズ推定用波長λ4)を利用することで、より精度の高い補正を行うことができる。
【0136】
具体的には、第3ノイズ推定用波長λ3として、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの吸収係数の差が、第1の所定値以下となる波長を用いると共に、第4ノイズ推定用波長λ4として、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの吸収係数の差が、上述の第1の所定値より大きくなる波長を用いる。より具体的には、第3ノイズ推定用波長λ3として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率(図18参照)が、所定の閾値としての第1閾値以上となる波長を用いると共に、第4ノイズ推定用波長λ4として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が上述した第1閾値未満となる波長を用いている。換言すれば、第3ノイズ推定用波長λ3及び第4ノイズ推定用波長λ4として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が、第1閾値以上となる波長及び第1閾値未満となる波長の2つの波長を利用する。これにより、上述した吸光度補正部84が、第1実測値D1を、第2~第5実測値D2~D5を用いて補正する際に、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率を考慮した、より精度の高い補正を行うことができる。
【0137】
還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率により選択される2つの波長としては、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率によるヘモグロビンの光吸収の差が大きい2つの波長とすることが好ましい。したがって、本実施形態では、第3ノイズ推定用波長λ3として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が0.8以上となる波長、すなわち、520nm~550nmの範囲に属する波長、又は、565nm~585nmの範囲に属する波長を利用する。また、第4ノイズ推定用波長λ4として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が0.8未満となる波長、すなわち、550nmより大きく、かつ、565nm未満の範囲に属する波長、又は、585nmより大きく、かつ、600nm未満の範囲に属する波長、を利用することが好ましい。但し、第3ノイズ推定用波長λ3としては、ヘモグロビン全体の量やヘマトクリット値を同時に推定することが可能となるように、還元ヘモグロビンの吸収係数と酸化ヘモグロビンの吸収係数とが等しい波長、すなわち、本実施形態では530nm付近、545nm付近、570nm付近又は580nm付近の波長を用いることが好ましく、更にヘモグロビン全体の吸収係数が大きい540~545nmの範囲から選ばれる波長を用いるのが特に好ましい。また、第4ノイズ推定用波長λ4としては、550nmより大きく、かつ、565nm未満の範囲内でも吸収係数の差が最も大きくなる560nm付近、又は、585nmより大きく、かつ、600nm未満の範囲内でも吸収係数の差が最も大きくなる590nm付近、とすることがより好ましい。
【0138】
このように、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率によってヘモグロビン全体の光吸収が大きく変動する短波長域W2において、ヘモグロビン全体の光吸収の差が大きくなる第3ノイズ推定用波長λ3及び第4ノイズ推定用波長λ4を利用することにより、測定用波長λ0(本実施形態では650nm)におけるノイズの吸光度を、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率をも加味して精度よく推定することができる。そのため、成分測定装置1によれば、測定用波長λ0における呈色成分の吸光度、更には、被測定成分の測定(本実施形態ではグルコースの濃度測定)を精度よく行うことができる。
【0139】
本実施形態では、第3ノイズ推定用波長λ3及び第4ノイズ推定用波長λ4のみを、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率の影響を大きく考慮した波長としたが、第3ノイズ推定用波長λ3及び第4ノイズ推定用波長λ4に加えて、第1ノイズ推定用波長λ1及び第2ノイズ推定用波長λ2についても、同様の波長を利用することがより好ましい。
【0140】
具体的には、血球成分等の光散乱が支配的な長波長域W1における第1ノイズ推定用波長λ1として、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの吸収係数の差が、第2の所定値以下となる波長を用いると共に、同じく長波長域W1における第2ノイズ推定用波長λ2として、第2の所定値より大きくなる波長を用いる。より具体的に、第1ノイズ推定用波長λ1として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が、上述の第1閾値以上で、かつ、第2閾値以下となる波長を用いると共に、同じく長波長域W1における第2ノイズ推定用波長λ2として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が上述の第1閾値未満となる波長、又は、第2閾値より大きくなる波長を用いることが好ましい。第2閾値とは、第1閾値よりも大きい別の所定の閾値である。つまり、第1ノイズ推定用波長λ1及び第2ノイズ推定用波長λ2として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が異なる範囲にある2つの波長を利用することが好ましい。これにより、上述した吸光度補正部84が、第1実測値D1を、第2~第5実測値D2~D5を用いて補正する際に、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率をより一層考慮した精度の高い補正を行うことができる。
【0141】
特に、長波長域W1では血球成分等の光散乱による影響が支配的ではあるが、ヘモグロビンの光吸収による影響も被測定成分の測定用波長λ0と同程度含まれるため、第1ノイズ推定用波長λ1及び第2ノイズ推定用波長λ2として、ヘモグロビンの光吸収が、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率により比較的大きく変化する2つの波長を利用することが好ましい。
【0142】
したがって、本実施形態では、第1ノイズ推定用波長λ1として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が0.8以上かつ1.5以下となる範囲に属する波長を利用することが好ましく、790nm~850nmの範囲に属する波長を利用することが好ましい。但し、第2ノイズ推定用波長λ2としては、長波長域W1においてヘモグロビンの光吸収が比較的大きく表れる、還元ヘモグロビンの吸収係数と酸化ヘモグロビンの吸収係数とが等しい波長付近から選ぶのが特に好ましく、本実施形態では800~810nmの範囲から選ばれる波長を用いることが特に好ましい。
【0143】
更に、第2ノイズ推定用波長λ2は、長波長域W1であって、第2ノイズ推定用波長λ2における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度が、測定用波長λ0における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度の10%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは実質的に0%となる波長とする。換言すれば、呈色成分の吸光度スペクトルのピーク波長域の長波長側の裾となる波長以上の波長を利用することが特に好ましい。これにより、呈色成分の光吸収の影響を排除し、長波長域W1における血球成分等の光散乱による影響が支配的なノイズをより正確に推定することができる。したがって、本実施形態では、第2ノイズ推定用波長λ2として、725nm以上であり、かつ、790nm未満の範囲に属する波長を利用することがより好ましい。そして、第2ノイズ推定用波長λ2としては、測定用波長λ0により近い波長が最も好ましいことから、第2ノイズ推定用波長λ2として、呈色成分の吸光度がゼロとなる波長、すなわち、呈色成分の吸光度スペクトルのピーク波長域の長波長側の裾となる波長を利用することが特に好ましい。したがって、本実施形態では、755nmを第2ノイズ推定用波長λ2とすることが特に好ましい。上述した「全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度」の「全吸光度」とは、混合物全体の吸光度を意味する。また、上述した「全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度」の「呈色成分の吸光度」とは、血液検体中の被測定成分と試薬中の発色試薬とが呈色反応することにより生成される生成物の吸光度、すなわち、混合物における呈色成分由来の吸光度を意味する。
【0144】
以上のとおり、成分測定装置1は、測定用波長λ0における混合物Xの吸光度の実測値である第1実測値D1を、第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4それぞれにおける混合物Xの吸光度の実測値である第2~第5実測値D2~D5を用いて補正し、測定用波長λ0における呈色成分の吸光度を推定することができる。
【0145】
以下、成分測定装置1の吸光度補正部84による補正手法について説明する。
【0146】
上述したように、成分測定装置1のメモリ62には、測定光学系64により測定された測定用波長λ0及び第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4それぞれにおける混合物Xの吸光度である第1~第5実測値D1~D5の実測値データ85と、第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4それぞれでの混合物Xの吸光度に相関する一群の補正係数データ86と、測定用波長λ0で実測された混合物Xの吸光度を補正係数データ86により補正して得られる混合物X中の呈色成分の吸光度と各種物理量との関係を示す検量線データ90と、が格納されている。
【0147】
吸光度補正部84は、メモリ62に格納されている実測値データ85及び補正係数データ86に基づき、測定用波長λ0における呈色成分の吸光度を算出する。
【0148】
補正係数データ86は、以下の[数1]で示す式を用いて予め実施された回帰分析によって導出される。
【0149】
【数1】


【0150】
B(λ)とは、波長λにおける、呈色成分の吸光度以外の、外乱因子(ノイズ)を起因とする吸光度を意味しており、多種の血液検体を用いて上記[数1]で示す式によって回帰計算を行い、係数b0、b1、b2、b3及びb4を導出する。具体的に、本実施形態では、上述した第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4の選定基準に基づき、第1ノイズ推定用波長λ1として810nm、第2ノイズ推定用波長λ2として750nm、第3ノイズ推定用波長λ3として545nm、第4ノイズ推定用波長λ4として560nmを用いている。また、多種の血液検体は、成分組成が異なる6つの血液検体を基礎とし、それぞれヘマトクリット値が10%~70%の範囲に調整された血液検体を準備し、調整した血液検体の吸光度スペクトル測定を行い、回帰分析を使用して、係数b0、b1、b2、b3及びb4を導出している。また、今回行った観測数は全部で766回である。そして、導出されたこれらの係数b0~b4に基づき、第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4それぞれでの混合物Xの吸光度に相関する一群の補正係数を導出する。この補正係数を含む補正係数データ86を用いることにより、545nm、560nm、750nm、810nmの混合物Xの吸光度の第2~第5実測値D2~D5から、測定用波長λ0である650nmの混合物Xの吸光度の第1実測値D1を補正し、650nmにおける呈色成分の吸光度を推定することができる。
【0151】
ここで、上記回帰計算によって得られる係数b0~b4それぞれは、測定系に固有の値として定めることが可能であり、ヘマトクリット値によって異なる値ではない。したがって、ヘマトクリット値に応じては、回帰計算に使用するB(λ1)~B(λ4)の数値(実測値)が変動する。
【0152】
図19は、上述の回帰計算において、測定用波長λ0における呈色成分以外の、外乱因子(ノイズ)を起因とする吸光度であるノイズ量(以下、単に「ノイズ吸光度」とも記載)における、長波長域W1の実測値による影響度(図19では「W1」と表記)と、短波長域W2の実測値による影響度(図19では「W2」と表記)と、を示すグラフである。ここで言う「影響度」とは、データの占有率を意味している。図19に示すように、上述の回帰計算により得られた実測データの結果を考察すると、測定用波長λ0におけるノイズ吸光度を、第2~第5実測値D2~D5を用いて推定する際に、長波長域W1の第1ノイズ推定用波長λ1及び第2ノイズ推定用波長λ2での第2実測値D2及び第3実測値D3は、ヘマトクリット値が10%から70%へと大きくなるにつれて、92%から90%へと影響度が減少する(図19の「W1」参照)。その一方で、短波長域W2の第3ノイズ推定用波長λ3及び第4ノイズ推定用波長λ4での第4実測値D4及び第5実測値D5は、ヘマトクリット値が10%から70%へと大きくなるにつれて、8%から10%へと影響度が増加する(図19の「W2」参照)。このように、ヘマトクリット値に応じて使用する長波長域W1と短波長域W2の影響度が変化することにより、測定用波長λ0におけるノイズ吸光度をより正確に推定することができ、結果として測定用波長λ0における呈色成分の吸光度をより正確に推定することができる。また、第2~第5実測値D2~D5に呈色成分の吸収が含まれる場合は、第2~第5実測値D2~D5に補正計算を行い、ノイズ吸光度であるB(λ)を算出する必要がある。
【0153】
成分測定装置1では、第3ノイズ推定用波長λ3として、ヘモグロビンの光吸収による影響が圧倒的に大きい短波長域W2で、還元ヘモグロビンの吸収係数と酸化ヘモグロビンの吸収係数とが等しい波長(図17では530nm、545nm、570nm又は580nm)を用いる場合、この第4実測値D4から、又は、この第4実測値D4と血球成分等の光散乱による影響が大きい長波長域W1で、還元ヘモグロビンの吸収係数と酸化ヘモグロビンの吸収係数とが等しい波長(図17では800nm)を用いた第2実測値D2とを利用して、ヘマトクリット値を算出することが可能である。ヘマトクリット値は、メモリ62に格納されたヘモグロビンの吸光度とヘマトクリット値との検量線から算出可能である。
【0154】
次に、上述した成分測定装置1において、血液検体中の血球成分等や埃などによる散乱光を含む光学的特性と、赤血球中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率と、に基づいて推定した、測定用波長λ0における呈色成分の吸光度の精度についての検証実験の結果を説明する。検体(n=766)は、各血液検体をヘマトクリット値が10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%に調製したものを用いた。
【0155】
図20(a)は、上述した第1ノイズ推定用波長λ1として810nm、第2ノイズ推定用波長λ2として750nm、第3ノイズ推定用波長λ3として545nm、第4ノイズ推定用波長λ4として560nm、測定用波長λ0として650nmを用いた場合に、成分測定装置1の上記成分測定方法により算出される測定用波長λ0でのノイズ吸光度の算出値と、同測定用波長λ0におけるノイズ吸光度の真値と、の誤差を示すグラフである。本実施例では、第2ノイズ推定用波長λ2における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度は、測定用波長λ0における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度の3%に相当する。これに対して図20(b)は、比較例として、上述した第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4のうち810nm及び750nmの2つのみを用いて同様の手法により算出された、測定用波長λ0としての650nmにおけるノイズ吸光度の算出値と、同測定用波長λ0におけるノイズ吸光度の真値と、の誤差を示すグラフである。
【0156】
図20(a)に示す誤差は、標準誤差の2倍が0.0058であるのに対して、図20(b)に示す誤差は、標準誤差の2倍が0.0109であり(不図示)、図20(a)に示す誤差が、図20(b)に示す誤差よりも小さいことがわかる。つまり、本実施形態の成分測定装置1により実行される上述の成分測定方法によれば、長波長域W1の2つの波長(本検証実験では810nm及び750nm)のみから推定した測定用波長λ0における呈色成分の吸光度よりも、精度の高い吸光度を推定することができる。本実施例においては、ヘマトクリット40%とした際に、吸光度誤差0.001は血糖値で1[mg/dL]の誤差に相当する。この成分測定方法を用いた成分測定装置1は、ヘマトクリット10%~70%の幅広いヘマトクリット値の血液検体に対して、血糖値測定誤差を低減させることが可能となる。
【0157】
最後に、上述した成分測定装置1の成分測定方法について、図21を参照してまとめて説明する。図21は、成分測定装置1により実行される成分測定方法を示すフローチャートである。
【0158】
この成分測定方法は、測定用波長λ0における混合物Xの吸光度である第1実測値D1、第1ノイズ推定用波長λ1における混合物Xの吸光度である第2実測値D2、第2ノイズ推定用波長λ2における混合物Xの吸光度である第3実測値D3、第3ノイズ推定用波長λ3における混合物Xの吸光度である第4実測値D4、及び、第4ノイズ推定用波長λ4における混合物Xの吸光度である第5実測値D5、を取得するステップS1と、第1~第5実測値D1~D5の少なくとも1つを利用してヘマトクリット値を算出するステップS2と、第1実測値D1を、第2~第5実測値D2~D5及び、回帰計算によって得られた補正係数を用いて補正し、測定用波長λ0における呈色成分の吸光度を取得するステップS3と、測定用波長λ0における呈色成分の吸光度と算出したヘマトクリット値とから血液検体中の被測定成分を算出するステップS4と、を含む。
【0159】
ステップS1では、上述したように、測定光学系64の発光部66及び受光部72を用いて、第1~第5実測値D1~D5を取得する。本実施形態では、ステップS2において、第4実測値D4に基づいて、又は、第4実測値D4及び第2実測値D2に基づいて、ヘマトクリット値を算出する。具体的には、ステップS2において、第4実測値D4から、または、第4実測値D4及び第2実測値D2から、ヘモグロビンの吸光度を推定し、ヘマトクリット値を算出する。さらに、第4実測値D4に、又は、第4実測値D4及び第2実測値D2に、呈色成分の吸収が含まれる場合は、それぞれ、第4実測値D4に、又は、第4実測値D4及び第2実測値D2に、呈色成分の吸収分を差し引く補正計算を行い取得した補正値から、ヘマトクリット値を算出する。本実施形態では、ヘマトクリット値を、メモリ62に格納されている混合物X中のヘモグロビンの吸光度とヘマトクリット値との関係を示す検量線から算出する。ステップS3では、実際に、第1実測値D1を、第2~第5実測値D2~D5及び回帰計算によって得られた補正係数を用いて補正し、測定用波長λ0における呈色成分の吸光度を推定し、取得する。最後に、ステップS4では、取得した測定用波長λ0における呈色成分の吸光度と、算出したヘマトクリット値と、からグルコース濃度との関係を示す検量線を用いて、グルコース濃度を算出する。
【0160】
ここで、試薬22について、上述した発色試薬とは異なる別の発色試薬を使用した場合について説明する。上述の試薬22は、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)とテトラゾリウム塩(WST-4)を含む測定試薬であるが、ここでは、テトラゾリウム塩(WST-4)に代わって、[化1]で示されるテトラゾリウム塩Aを含む。式中 X=Naである。
【0161】
【化1】
【0162】
図22は、グルコース濃度が300mg/dLのグルコース水溶液を検体として用いた場合の、上述の試薬22に含まれる発色試薬であるWST-4の呈色成分の吸光度スペクトル(図22では「呈色成分1」と表記)と、ここで説明する試薬22に含まれる発色試薬であるテトラゾリウム塩Aの呈色成分の吸光度スペクトル(図22では「呈色成分2」と表記)と、を示す図である。
【0163】
図22に示すように、テトラゾリウム塩Aの呈色成分の吸光度スペクトルは、WST-4の呈色成分の吸光度スペクトルと比較して、より大きく、かつ、より明瞭な吸収ピークを有する。そのため、テトラゾリウム塩Aを含む試薬22の吸収ピークを利用すれば、WST-4を含む試薬22の吸収ピークを利用する場合よりも、呈色成分の吸光度を表すシグナルを検出し易く、被測定成分の測定誤差を低減することができる。また、テトラゾリウム塩Aのピーク波長は、650nm付近であるため、上述した例と同様、測定用波長λ0として650nmを利用することができる。但し、図22に示すように、テトラゾリウム塩Aのピーク波長域は、WST-4のピーク波長域よりも長波長側にずれている。そのため、上述の例で用いた第2ノイズ推定用波長λ2と同じ波長を利用すると、テトラゾリウム塩Aの光吸収による影響を大きく受けるため、被測定成分の測定誤差が生じ易くなる。
【0164】
そこで、発色試薬としてテトラゾリウム塩Aを含む試薬22を用いる場合は、第2ノイズ推定用波長λ2として、発色試薬の光吸収の影響を受けにくい波長範囲に属する波長を利用する。具体的に、テトラゾリウム塩Aを含む試薬22を用いる場合の第2ノイズ推定用波長λ2は、長波長域W1であって、第2ノイズ推定用波長λ2における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度が、測定用波長λ0における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度の10%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは実質的に0%となる波長とする。そのため、本例では、測定用波長λ0を650nmとした場合、第2ノイズ推定用波長λ2として、790nm以上の波長を利用することが好ましく、810nm以上の波長を利用することがより好ましく、830nm以上の波長を利用することが更に好ましく、920nm以上の波長を利用することが特に好ましい。
【0165】
但し、実際に用いるLED素子などの汎用的な光源の特性を考慮すると、950nm以下の波長であることが好ましく、940nm以下であることがより好ましい。
【0166】
測定用波長λ0、第1ノイズ推定用波長λ1、第3ノイズ推定用波長λ3及び第4ノイズ推定用波長λ4については、上述の例で示した波長範囲と同様の波長範囲を利用することができる。そして、測定用波長λ0及び第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4を用いて、上述の例と同様の成分測定方法を実行すれば、血液検体中の血球成分等による光学的特性と、赤血球中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率に応じた補正を行うことができるため、精度の高い測定結果を得ることができる。
【0167】
ここで、テトラゾリウム塩Aを含む試薬22を用いることを想定した上で、上述した第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4の選定基準に基づき、第1ノイズ推定用波長λ1として810nm、第2ノイズ推定用波長λ2として900nm、第3ノイズ推定用波長λ3として545nm、第4ノイズ推定用波長λ4として560nmを用いて、上述の例で示した[数1]の式を用いて回帰分析を実行した。回帰分析の手法は、上述の例で示した手法と同様である。
【0168】
図23は、この回帰計算において、測定用波長λ0におけるノイズ吸光度における、長波長域W1の実測値による影響度(図23では「W1」と表記)と、短波長域W2の実測値による影響度(図23では「W2」と表記)と、を示すグラフである。ここで言う「影響度」とは、上記同様、データの占有率を意味している。図23に示すように、上述の回帰計算により得られた実測データの結果を考察すると、上述の例と同様の結果が得られていることがわかる。具体的に、測定用波長λ0におけるノイズ吸光度を第2~第5実測値D2~D5を用いて推定する際に、長波長域W1の第1ノイズ推定用波長λ1及び第2ノイズ推定用波長λ2での第2実測値D2及び第3実測値D3は、ヘマトクリット値が10%から70%へと大きくなるにつれて、90%から88%へと影響度が減少する(図23の「W1」参照)。その一方で、短波長域W2の第3ノイズ推定用波長λ3及び第4ノイズ推定用波長λ4での第4実測値D4及び第5実測値D5は、ヘマトクリット値が10%から70%へと大きくなるにつれて、10%から12%へと影響度が増加する(図23の「W2」参照)。このように、ヘマトクリット値に応じて使用する長波長域W1と短波長域W2の影響度が変化することにより、測定用波長λ0におけるノイズ吸光度をより正確に推定することができ、結果として測定用波長λ0における呈色成分の吸光度をより正確に推定することができる。第2~第5実測値D2~D5に呈色成分の吸収が含まれる場合は、第2~第5実測値D2~D5に補正計算を行い、ノイズ吸光度であるB(λ)を算出する必要がある。
【0169】
次に、テトラゾリウム塩Aを含む発色試薬を用いた上で、血液検体中の血球成分等による光学的特性と、赤血球中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率と、に基づいて推定した、測定用波長λ0における呈色成分の吸光度の推定精度についての検証実験の結果を説明する。検体(n=766)は、各血液検体をヘマトクリット値が10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%に調製したものを用いた。
【0170】
図24(a)は、上述した第1ノイズ推定用波長λ1として810nm、第2ノイズ推定用波長λ2として900nm、第3ノイズ推定用波長λ3として545nm、第4ノイズ推定用波長λ4として560nm、測定用波長λ0として650nmを用いた場合に、成分測定装置1の上記成分測定方法により算出される測定用波長λ0でのノイズ吸光度の算出値と、同測定用波長λ0におけるノイズ吸光度の真値と、の誤差を示すグラフである。本例では、第2ノイズ推定用波長λ2における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度は、測定用波長λ0における全吸光度に含まれる吸光度の1%に相当する。これに対して図24(b)は、比較例として、上述した第1~第4ノイズ推定用波長λ1~λ4のうち810nm及び900nmの2つのみを用いて同様の手法により算出された、測定用波長λ0としての650nmにおけるノイズ吸光度の算出値と、同測定用波長λ0におけるノイズ吸光度の真値と、の誤差を示すグラフである。
【0171】
図24(a)に示す誤差は、標準誤差の2倍が0.0085であるのに対して、図24(b)に示す誤差は、標準誤差の2倍が0.0140であり(不図示)、図24(a)に示す誤差が、図24(b)に示す誤差よりも小さいことがわかる。つまり、発色試薬の種類にかかわらず、成分測定装置1により実行される成分測定方法によれば、長波長域W1の2つの波長(本検証実験では810nm及び900nm)のみから推定した測定用波長λ0における呈色成分の吸光度よりも、高い精度で吸光度を推定することができる。本例においては、ヘマトクリット40%とした際に、吸光度誤差0.002は血糖値で1[mg/dL]の誤差に相当する。この成分測定方法を用いた成分測定装置1は、ヘマトクリット10%~70%の幅広いヘマトクリット値の血液検体に対して、血糖値測定誤差を低減させることが可能となる。
【0172】
上述したように、本例で用いる第2ノイズ推定用波長λ2は900nmであり、上述した例で用いた第2ノイズ推定用波長λ2である750nmよりも長波長側の波長域に属する。そのため、テトラゾリウム塩Aを含む試薬22を用いる場合の第2ノイズ推定用波長λ2の値は、WST-4を含む試薬22を用いる場合の第2ノイズ推定用波長λ2の値と比較して、測定用波長λ0である650nmからは離れることになる。そのため、この観点では、測定誤差が生じ易い条件となる。しかしながら、図22に示すように、テトラゾリウム塩Aは、WST-4よりも吸収ピークが大きいため、呈色成分の吸光度を表すシグナルをより検出し易い。このシグナルの強さにより、第2ノイズ推定用波長λ2が測定用波長λ0から離れることによる測定誤差の増加を抑制することができる。その結果、測定用波長λ0から離れた第2ノイズ推定用波長λ2を利用しても、被測定成分の測定誤差を小さくすることができる。
【0173】
本開示に係る成分測定装置及び成分測定装置セットは、上述した実施形態の具体的な記載に限られず、特許請求の範囲の記載した発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。上述の実施形態では、被測定成分としてのグルコースの測定として、グルコース濃度を測定しているが、濃度に限らず、別の物理量を測定してもよい。また、上述の実施形態では、血液検体中の被測定成分として、血漿成分中のグルコースを例示しているが、これに限られず、例えば血液検体中のコレステロール、糖類、ケトン体、尿酸、ホルモン、核酸、抗体、抗原等を被測定成分とすることも可能である。したがって、成分測定装置は、血糖値測定装置に限られない。更に、上述の実施形態では、測定チップ2を透過する透過光を受光する受光部72としているが、測定チップ2から反射する反射光を受光する受光部としてもよい。上述の実施形態では、全血検体を分離する工程を持たず、全血検体中の血糖値を測定しているが、全血検体を濾過し、血球成分もしくは塵埃等を一部除去した後の血液検体を測定対象としてもよく、血球を溶解させる薬剤を用いて、測定チップ2内で溶血させた後の溶血検体を測定対象としてもよい。また、全血検体を、試薬22と反応させる測定用エリアと補正を行う補正エリアとに分け、各々計算してもよい。
【0174】
また、上述した実施形態の成分測定装置1では、測定用光源67による吸光度の第1実測値D1を、第1~第4ノイズ推定用光源68a~68dそれぞれによる吸光度の第2~第5実測値D2~D5を用いて補正し、被測定成分の測定を実行しているが、この構成に限られない。成分測定装置1は、例えば、測定用光源67による吸光度の第1実測値D1を、少なくとも1種のノイズ推定用光源68による吸光度の実測値を用いて補正してもよい。つまり、成分測定装置1は、4種のノイズ推定用光源68a~68dの全てを備えなくてもよく、少なくとも1種のノイズ推定用光源68を備えていればよい。成分測定装置1は、例えば、被測定成分の種類、測定前の既知情報、所望の測定精度、等に応じて、1種のみのノイズ推定用光源を備える構成とされてもよく、2種以上のノイズ推定用光源を備える構成とされてもよい。
【0175】
図25は、発光部66が、測定用光源67と、3種のノイズ推定用光源68a~68cと、を備える例を示している。成分測定装置1での測定において、例えば全血検体を用いる場合は、酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンの比率は考慮しなくてもよい。また、成分測定装置1として、酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンの比率を考慮した測定精度まで求められていない場合もある。かかる場合には、成分測定装置1は、図25に示すように、上述した実施形態の第3ノイズ推定用光源68c及び第4ノイズ推定用光源68dのうち1種のみを備える構成であってよい。このように、成分測定装置1が備えるノイズ推定用光源68の種類は、上述した実施形態に示す4種の限られるものではなく、少なくとも1種以上のノイズ推定用光源68を備えていればよい。
【0176】
また、図26に示すように、各種のノイズ推定用光源68の光源の数は、3つ以上であってもよい。図26は、装置高さ方向Cに沿って見た平面視を示している。図26では、第1ノイズ推定用光源68aが、4つの光源68a1~68a4を備える例を示しているが、第2~第4ノイズ推定用光源68b~68dそれぞれについても、3つ以上の光源を備えてもよい。このように、各種のノイズ推定用光源68が、図26に示す平面視で、測定用光源67の周り周方向の異なる位置に、3つ以上の光源を備えることで、各種のノイズ推定用光源68が2つのみの光源を備える構成と比較して、3つ以上の光源による合成照度分布を、測定用光源67の照度分布に、より近づけることができ、挿入空間Sにおける測定チップ2の位置変動による、成分測定装置1の測定精度の低下を、より抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本開示は、成分測定装置及び成分測定装置セットに関する。
【符号の説明】
【0178】
1:成分測定装置
2:測定チップ
10:ハウジング
10a:本体部
10b:チップ装着部
11:表示部
12:取り外しレバー
13:電源ボタン
14:操作ボタン
21:ベース部材
22:試薬
23:流路
23a:空隙
24:供給部
25:カバー部材
25a:遮光部
25a:測定開口部
25b:透光部
26:イジェクトピン
60:演算部
62:メモリ
63:電源回路
64:測定光学系
66:発光部
67:測定用光源
68a:第1ノイズ推定用光源
68a1、68a2:第1ノイズ推定用光源の各光源
68b:第2ノイズ推定用光源
68b1、68b2:第2ノイズ推定用光源の各光源
68c:第3ノイズ推定用光源
68c1、68c2:第3ノイズ推定用光源の各光源
68d:第4ノイズ推定用光源
68d1、68d2:第4ノイズ推定用光源の各光源
69a:第1絞り部
69b:第2絞り部
70:発光制御回路
72:受光部
74:受光制御回路
76:測定指示部
77:濃度測定部
78:吸光度取得部
80:ホルダ部材
84:吸光度補正部
85:実測値データ
86:補正係数データ
90:検量線データ
100:成分測定装置セット
D1:第1実測値
D2:第2実測値
D3:第3実測値
D4:第4実測値
D5:第5実測値
L:測定用光源と各種のノイズ推定用光源の各光源との間の最短距離
S:挿入空間
W1:長波長域
W2:短波長域
W3:半値全幅域に対応する波長範囲
X:混合物
λ0:測定用波長
λ1:第1ノイズ推定用波長
λ2:第2ノイズ推定用波長
λ3:第3ノイズ推定用波長
λ4:第4ノイズ推定用波長
ILD:測定チップの測定スポットでの照度分布
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26