(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119661
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】フィルム加熱延伸装置、フィルムの加熱延伸方法、および延伸フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 55/06 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
B29C55/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026720
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】岩本 博之
【テーマコード(参考)】
4F210
【Fターム(参考)】
4F210AD11
4F210AG01
4F210AG03
4F210AJ08
4F210AK04
4F210QA03
4F210QC02
4F210QD08
4F210QD21
4F210QD25
4F210QD36
4F210QG01
4F210QG11
4F210QG15
4F210QG18
4F210QM03
4F210QM11
4F210QM15
4F210QM20
(57)【要約】
【課題】簡便かつ効率的に、フィルム中に含まれる残溶媒を低減し得る、フィルム加熱延伸装置、フィルムの加熱延伸方法、および延伸フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】第1搬送ローラ(R1)、第2搬送ローラ(R2)、第1加熱部(10)、および延伸部(20)を備え、搬送方向の上流側に、フィルム(F)中に含まれる溶媒の量を調整するための赤外線ヒータを含む第2加熱部(10A)を備える、フィルム加熱延伸装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送方向に搬送されるフィルムをガイドする第1搬送ローラ、
前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側において前記フィルムをガイドする第2搬送ローラ、
前記フィルムの、前記第1搬送ローラと前記第2搬送ローラとの間に位置する第1加熱領域を加熱するように配置された少なくとも1つの赤外線ヒータを含む第1加熱部、
前記第1加熱領域において、加熱された前記フィルムに対して、前記搬送方向に延伸させる張力を付与する延伸部、
前記延伸部に備えられ、前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の上流側に配された第1ニップローラ、および
前記第1ニップローラよりも、さらに前記搬送方向の上流側に配された、前記フィルム中に含まれる溶媒の量を調整するための赤外線ヒータを含む第2加熱部、を備える、フィルム加熱延伸装置。
【請求項2】
前記第2加熱部による加熱により、前記フィルムから揮発した前記溶媒を回収する回収部を備える、請求項1に記載のフィルム加熱延伸装置。
【請求項3】
前記フィルム中に含まれる前記溶媒は、難燃性溶媒である、請求項1に記載のフィルム加熱延伸装置。
【請求項4】
さらに、前記第2加熱部の前記搬送方向の上流側に、第3ニップローラを備える、請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルム加熱延伸装置。
【請求項5】
搬送方向に搬送されるフィルムを第1搬送ローラでガイドする工程(I)、
前記工程(I)において搬送された前記フィルムを、前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側に配置された第2搬送ローラでガイドする工程(II)、
前記フィルムを、前記第1搬送ローラと前記第2搬送ローラとの間に位置する第1加熱領域に配置された少なくとも1つの赤外線ヒータを含む第1加熱部にて加熱する工程(III)、および
前記工程(III)において加熱された前記フィルムに対して、前記搬送方向に延伸させる張力を付与する延伸工程(IV)、を有するフィルムの加熱延伸方法であって、
前記加熱する工程(III)および前記延伸工程(IV)の前に、
赤外線ヒータを含む第2加熱部により、前記フィルムを加熱して、前記フィルム中に含まれる溶媒の量を調整する残揮低減工程(V)、および
前記残揮低減工程(V)後に、前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の上流側に配置された第1ニップローラによって、前記フィルムを、前記第1搬送ローラに向けて搬送する搬送工程(VI)、を有するフィルムの加熱延伸方法。
【請求項6】
搬送方向に搬送されるフィルムを第1搬送ローラでガイドする工程(I)、
前記工程(I)において搬送された前記フィルムを、前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側に配置された第2搬送ローラでガイドする工程(II)、
前記フィルムを、前記第1搬送ローラと前記第2搬送ローラとの間に位置する第1加熱領域に配置された少なくとも1つの赤外線ヒータを含む第1加熱部にて加熱する工程(III)、および
前記工程(III)において加熱された前記フィルムに対して、前記搬送方向に延伸させる張力を付与する延伸工程(IV)、を有するフィルムの加熱延伸方法であって、
前記加熱する工程(III)および前記延伸工程(IV)の前に、
赤外線ヒータを含む第2加熱部により、前記フィルムを加熱して、前記フィルム中に含まれる溶媒の量を調整する残揮低減工程(V)、および
前記残揮低減工程(V)後に、前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の上流側に配置された第1ニップローラによって、前記フィルムを、前記第1搬送ローラに向けて搬送する搬送工程(VI)、を有する延伸フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム加熱延伸装置、フィルムの加熱延伸方法、および延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルムを加熱延伸する技術が知られており、近年では、例えば特許文献1に示されているように、短時間でフィルムを加熱(昇温)させることができる手段として、赤外線ヒータを用いてフィルムを加熱延伸する技術が開発されている。
【0003】
ここで、フィルムを加熱延伸する技術において、フィルムの表面に、機能性材料を含む溶液(塗工液)を塗工し、機能性塗工膜を形成する製膜塗工技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、製膜塗工したフィルム中には残溶媒が数%含まれている。例えば、CPI-アクリルアロイ(すなわち、cis-ポリイソプレンとアクリルポリマーとのポリマーアロイ)の場合は、フィルム中にジクロロメタンが10%程度含まれている。
【0006】
それ故、従来技術では、当該残溶媒を除くために、フィルムを延伸する前に、炉内でフィルムを長時間にわたり乾燥させる工程が必要であった。しかしながら、当該技術は、生産効率および設備費の観点から改善の余地があった。
【0007】
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、簡便かつ効率的に、フィルム中に含まれる残溶媒を低減し得る、フィルム加熱延伸装置、フィルムの加熱延伸方法、および延伸フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕搬送方向に搬送されるフィルムをガイドする第1搬送ローラ、前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側において前記フィルムをガイドする第2搬送ローラ、前記フィルムの、前記第1搬送ローラと前記第2搬送ローラとの間に位置する第1加熱領域を加熱するように配置された少なくとも1つの赤外線ヒータを含む第1加熱部、前記第1加熱領域において、加熱された前記フィルムに対して、前記搬送方向に延伸させる張力を付与する延伸部、前記延伸部に備えられ、前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の上流側に配された第1ニップローラ、および前記第1ニップローラよりも、さらに前記搬送方向の上流側に配された、前記フィルム中に含まれる溶媒の量を調整するための赤外線ヒータを含む第2加熱部、を備える、フィルム加熱延伸装置。
〔2〕前記第2加熱部による加熱により、前記フィルムから揮発した前記溶媒を回収する回収部を備える、〔1〕に記載のフィルム加熱延伸装置。
〔3〕前記フィルム中に含まれる前記溶媒は、難燃性溶媒である、〔1〕または〔2〕に記載のフィルム加熱延伸装置。
〔4〕さらに、前記第2加熱部の前記搬送方向の上流側に、第3ニップローラを備える、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載のフィルム加熱延伸装置。
〔5〕搬送方向に搬送されるフィルムを第1搬送ローラでガイドする工程(I)、前記工程(I)において搬送された前記フィルムを、前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側に配置された第2搬送ローラでガイドする工程(II)、前記フィルムを、前記第1搬送ローラと前記第2搬送ローラとの間に位置する第1加熱領域に配置された少なくとも1つの赤外線ヒータを含む第1加熱部にて加熱する工程(III)、および前記工程(III)において加熱された前記フィルムに対して、前記搬送方向に延伸させる張力を付与する延伸工程(IV)、を有するフィルムの加熱延伸方法であって、前記加熱する工程(III)および前記延伸工程(IV)の前に、赤外線ヒータを含む第2加熱部により、前記フィルムを加熱して、前記フィルム中に含まれる溶媒の量を調整する残揮低減工程(V)、および前記残揮低減工程(V)後に、前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の上流側に配置された第1ニップローラによって、前記フィルムを、前記第1搬送ローラに向けて搬送する搬送工程(VI)、を有するフィルムの加熱延伸方法。
〔6〕搬送方向に搬送されるフィルムを第1搬送ローラでガイドする工程(I)、前記工程(I)において搬送された前記フィルムを、前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側に配置された第2搬送ローラでガイドする工程(II)、前記フィルムを、前記第1搬送ローラと前記第2搬送ローラとの間に位置する第1加熱領域に配置された少なくとも1つの赤外線ヒータを含む第1加熱部にて加熱する工程(III)、および前記工程(III)において加熱された前記フィルムに対して、前記搬送方向に延伸させる張力を付与する延伸工程(IV)、を有するフィルムの加熱延伸方法であって、前記加熱する工程(III)および前記延伸工程(IV)の前に、赤外線ヒータを含む第2加熱部により、前記フィルムを加熱して、前記フィルム中に含まれる溶媒の量を調整する残揮低減工程(V)、および前記残揮低減工程(V)後に、前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の上流側に配置された第1ニップローラによって、前記フィルムを、前記第1搬送ローラに向けて搬送する搬送工程(VI)、を有する延伸フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、簡便かつ効率的に、フィルム中に含まれる残溶媒を低減し得る、フィルム加熱延伸装置、フィルムの加熱延伸方法、および延伸フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るフィルム加熱延伸装置の概略構成の一例を示す模式図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る延伸フィルムの製造方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態および実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0013】
本明細書において、フィルムを加熱延伸させた後に得られるフィルムを「延伸フィルム」と称する場合がある。
【0014】
(フィルム加熱延伸装置)
以下、本発明の一実施形態に係るフィルム加熱延伸装置について、
図1を参照して、説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るフィルム加熱延伸装置の概略構成の一例を示す図である。
図1は、フィルムFの長さ方向に平行な方向から見た図であり、フィルムFの搬送方向の上流側を左側に、下流側を右側に示す。
図1において、搬送方向はフィルムFの長さ方向である。
【0015】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るフィルム加熱延伸装置100は、フィルムFを搬送方向に搬送するものであって、少なくとも、第1搬送ローラR1、第2搬送ローラR2、第1ニップローラ23、第1加熱部10、第2加熱部10A、および、延伸部20を備える。第1搬送ローラR1は、フィルムFを第1加熱部10へガイドする。第2搬送ローラR2は、第1搬送ローラR1よりも搬送方向の下流側においてフィルムFをガイドする。第1加熱部10は、少なくとも1つの赤外線ヒータを含み、フィルムFの、第1搬送ローラR1と第2搬送ローラR2との間に位置する第1加熱領域H1を加熱するように配置されている。延伸部20は、第1加熱領域H1において第1の赤外線I1により加熱されたフィルムFに対して、搬送方向に延伸させる張力を付与する。第1ニップローラ23は、延伸部20に備えられ、第1搬送ローラよりも搬送方向の上流側に配置されている。第2加熱部10Aは、第1ニップローラ23よりも、さらに搬送方向の上流側に配置され、赤外線ヒータを含み、フィルムF中に含まれる溶媒の量を調整する。
【0016】
当該構成によれば、従来必要であった、フィルムFを延伸させる前に炉内で長時間にわたり乾燥させる工程を省くことが可能となる。それ故、簡便かつ効率的に、フィルムF中に含まれる残溶媒を低減することができるとともに、エネルギーの節約、ならびに設備費および生産コストの削減が可能となるとの利点を有する。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」等の達成にも貢献するものである。
【0017】
フィルム加熱延伸装置100により加熱延伸が可能なフィルムFとしては、例えば、熱可塑性樹脂フィルムが挙げられる。かかる熱可塑性樹脂フィルムの具体例としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアクリル系樹脂およびポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0018】
第1搬送ローラR1に対するフィルムFの抱き角度θ1は、特に限定されないが、30°~120°であることが好ましい。また、第2搬送ローラR2に対するフィルムFの抱き角度θ2は、特に限定されないが、30°~120°であることが好ましい。なぜならば、30°未満のとき、フィルムFと第1搬送ローラR1または第2搬送ローラR2との間の摩擦が小さく、フィルムFを保持する力が小さいからである。特に、第1搬送ローラR1および第2搬送ローラR2の間のフィルムFに延伸するための張力が掛かっている場合を考慮すると、フィルムFを十全に保持するために、30°以上が好ましい。なぜならば、120°超のとき、フィルム加熱延伸装置100(および、場合に応じて、周辺設備)に亘るフィルムFの連続する搬送経路を構築しにくいからである。
【0019】
第1搬送ローラR1の幅方向における中央部の直径は、特に限定されないが、150mm以上600mm以下であることが好ましい。第2搬送ローラR2の幅方向における中央部の直径は、特に限定されないが、150mm以上600mm以下であることが好ましい。なぜならば、直径が150mm未満のとき、張力を付与されているフィルムFからの圧
力によって、第1搬送ローラR1または第2搬送ローラR2それ自体が撓むことがあるからである。フィルムFを搬送方向に延伸するために、フィルムFに付与される張力が大きく、フィルムFからの圧力は、大きい。なぜならば、直径が600mm超のとき、第1搬送ローラR1または第2搬送ローラR2それ自体が大きく重くなり、機械的損失が大きくなり、追従性が低下するからである。追従性の低下は、例えば、第1搬送ローラR1または第2搬送ローラR2の周速度の制御値(または目標値)と、実際の周速度との差が大きいという問題を引き起こす。また例えば、第1搬送ローラR1または第2搬送ローラR2の周速度とその上のフィルムFの搬送速度との不一致という問題を引き起こす。
【0020】
なお、本明細書において、中央部とは、ローラの回転軸に沿った方向において、ローラの両端面から略等距離である部分を意図する。
【0021】
フィルム加熱延伸装置100において、第1搬送ローラR1は、第1加熱部10の搬送方向の上流側に位置し、第2搬送ローラR2は、第1加熱部10の搬送方向の下流側に位置する。第1搬送ローラR1と第2搬送ローラR2との間の搬送経路には、別の搬送ローラが設けられておらず、フィルムFの第1加熱領域H1は宙に浮いている。すなわち、フィルムFは、第1搬送ローラR1に接した後、宙に浮いた状態で加熱され、次に、第2搬送ローラR2に接する。本明細書において、第1搬送ローラR1とフィルムFとの接面から、第2搬送ローラR2とフィルムFとの接面までのフィルムFの領域を、第1加熱領域H1と称する。
【0022】
フィルム加熱延伸装置100において、第1加熱部10における赤外線ヒータの温度は、特に限定されないが、200℃~700℃であることが好ましく、300℃~600℃であることがより好ましく、400℃~550℃であることがさらに好ましく、400℃~500℃であることが特に好ましい。当該構成によれば、フィルムに対して過剰な熱の照射を必要最小限に留められる利点を有する。
【0023】
フィルム加熱延伸装置100において、第1加熱部10は、少なくとも1つの赤外線ヒータを含む。第1加熱部10は1つの赤外線ヒータのみを含んでもよく、2つ以上の赤外線ヒータを含んでいてもよい。第1加熱部10が2つ以上の赤外線ヒータを含む場合、それぞれの赤外線ヒータの温度は同じであってもよく、異なる温度であってもよい。フィルムFの過度に急速な加熱を抑制できることから、第1加熱部10が2つ以上の赤外線ヒータを含む場合、搬送方向の上流側の赤外線ヒータの温度が、フィルムFのガラス転移温度よりも低い温度であり、搬送方向の下流側の赤外線ヒータの温度が、フィルムFのガラス転移温度よりも高い温度であることが好ましい。
【0024】
第1加熱部10が含む赤外線ヒータは、近赤外線ヒータであってもよく、遠赤外線ヒータであってもよいが、遠赤外線ヒータが好ましい。遠赤外線ヒータは、近赤外線ヒータと比較して、フィルムFの昇温に要する加熱時間をより短縮することができる。これは特に、フィルムFが、例えばポリイミド等のガラス転移温度(Tg)が比較的高い熱可塑性樹脂を含む場合に有益である。ポリイミド(PI)のガラス転移温度は、摂氏200度以上である。
【0025】
フィルム加熱延伸装置100は、その間にフィルムFを挟むように、第1加熱部10と対向する第1反射板11を備えてもよい。
【0026】
フィルム加熱延伸装置100は、第1搬送ローラR1よりも搬送方向の上流側に位置する第4搬送ローラR4、および、第2搬送ローラR2よりも搬送方向の下流側に位置する第3搬送ローラR3を備えてもよい。
【0027】
延伸部20は少なくとも、第1駆動ローラ21と第2駆動ローラ22とを備える。第1駆動ローラ21および第2駆動ローラ22は各々、フィルムFの搬送を駆動する。第1駆動ローラ21は、第1搬送ローラR1よりも搬送方向の上流側に配置される。第2駆動ローラ22は、第2搬送ローラR2よりも搬送方向の下流側に配置される。第1駆動ローラ21は、第4搬送ローラR4よりも搬送方向の上流側に配置されていてもよく、搬送方向の下流側に配置されていてもよい。また、第2駆動ローラ22は、第3搬送ローラR3よりも搬送方向の上流側に配置されていてもよく、搬送方向の下流側に配置されていてもよい。
【0028】
フィルム加熱延伸装置100は、第1搬送ローラよりも搬送方向の上流側に第1ニップローラ23を備える。そして、延伸部20は第1ニップローラ23を備える。具体的には、第1ニップローラ23は、第1駆動ローラ21へフィルムFを押し付けるように配置される。
【0029】
また、延伸部20は、さらに第2ニップローラ24を備えることが好ましい。第2ニップローラ24は、第2駆動ローラ22へフィルムFを押し付けるように配置されることが好ましい。本発明の一実施形態では、第2ニップローラ24は第2搬送ローラR2よりも搬送方向の下流側に配置される。
【0030】
第1駆動ローラ21に対する第2駆動ローラ22の周速度の比率は、特に限定されないが、110%以上350%以下であることが好ましく、110%以上300%以下であることがより好ましく、150%以上250%以下であることがさらに好ましい。延伸部20の通過前と比較して通過後のフィルムFが、延伸している場合、延伸していない場合、何れの場合も、張力の印加によって通過後のフィルムFの機械的特性が向上する。周速度の比率の上限は、フィルムFの材料に応じて決定される。
【0031】
フィルム加熱延伸装置100は、第1ニップローラ23よりも、さらに搬送方向の上流側に、フィルムF中に含まれる溶媒の量を調整するための赤外線ヒータを含む第2加熱部10Aを備える。当該構成によれば、簡便かつ効率的に、フィルムF中に含まれる残溶媒を低減することができる。
【0032】
第2加熱部10Aは、第1ニップローラ23よりも、さらに搬送方向の上流側に配置された第5搬送ローラR5と、第5搬送ローラR5よりもさらに搬送方向の上流側に配置された第6搬送ローラR6と、の間に位置する、フィルムFの第2加熱領域H2を加熱するように配置されている。第5搬送ローラR5と第6搬送ローラR6との間の搬送経路には、別の搬送ローラが設けられておらず、フィルムFの第2加熱領域H2は宙に浮いている。すなわち、フィルムFは、第6搬送ローラR6に接した後、宙に浮いた状態で加熱され、次に、第5搬送ローラR5に接する。本明細書において、第6搬送ローラR6とフィルムFとの接面から、第5搬送ローラR5とフィルムFとの接面までのフィルムFの領域を、第2加熱領域H2と称する。
【0033】
フィルム加熱延伸装置100において、第2加熱部10Aにおける赤外線ヒータの温度は、溶媒を効率よく揮発できる温度であれば、特に限定されないが、第1加熱部10における赤外線ヒータの温度と同じ、または第1加熱部10における赤外線ヒータの温度と比べて高温であることが好ましい。具体的には、第2加熱部10Aにおける赤外線ヒータの温度は、特に限定されないが、200℃~700℃であることが好ましく、300℃~650℃であることがより好ましく、450℃~600℃であることがさらに好ましく、500℃~600℃であることが特に好ましい。当該構成によれば、フィルム中に含まれる溶媒の揮発量を調整できる利点を有する。
【0034】
フィルム加熱延伸装置100において、第2加熱部10Aは、少なくとも1つの赤外線ヒータを含む。第2加熱部10Aは1つの赤外線ヒータのみを含んでもよく、2つ以上の赤外線ヒータを含んでいてもよい。第2加熱部10Aが2つ以上の赤外線ヒータを含む場合、それぞれの赤外線ヒータの温度は同じであってもよく、異なる温度であってもよい。フィルムFの過度に急速な加熱を抑制できることから、第2加熱部10Aが2つ以上の赤外線ヒータを含む場合、搬送方向の上流側の赤外線ヒータの温度が、フィルムFのガラス転移温度よりも低い温度であり、搬送方向の下流側の赤外線ヒータの温度が、フィルムFのガラス転移温度よりも高い温度であることが好ましい。
【0035】
第2加熱部10Aが含む赤外線ヒータは、近赤外線ヒータであってもよく、遠赤外線ヒータであってもよいが、遠赤外線ヒータが好ましい。遠赤外線ヒータは、近赤外線ヒータと比較して、フィルムFの昇温に要する加熱時間をより短縮することができる。これは特に、フィルムFが、例えばポリイミド等のガラス転移温度(Tg)が比較的高い熱可塑性樹脂を含む場合に有益である。
【0036】
フィルム加熱延伸装置100は、第2加熱部10Aによる加熱により、フィルムFから揮発した溶媒を回収する回収部Dを備えることが好ましい。回収部Dは、第2加熱領域H2のうち、第2加熱部10Aから発せられる第2の赤外線I2が照射される側のフィルムFの面の上部又は全体を覆うように配置されている。回収部Dとしては、例えば、上方式フード、囲い式フード等を使用することができる。これらのフードの上流側には、揮発した溶剤を無害化させる排ガス処理装置を設けることが好ましく、揮発した溶媒を回収し再生できる装置を設けることが特に好ましい。
【0037】
本発明の一実施形態において、フィルムF中に含まれる溶媒は、難燃性溶媒であることが好ましい。具体的には、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム等が挙げられる。
【0038】
フィルム加熱延伸装置100は、その間にフィルムFを挟むように、第2加熱部10Aと対向する第2反射板11Aを備えてもよい。
【0039】
第5搬送ローラR5に対するフィルムFの抱き角度θ5は、特に限定されないが、30°~120°であることが好ましい。また、第6搬送ローラR6に対するフィルムFの抱き角度θ6は、特に限定されないが、30°~120°であることが好ましい。なぜならば、30°未満のとき、フィルムFと第5搬送ローラR5または第6搬送ローラR6との間の摩擦が小さく、フィルムFを保持する力が小さいからである。基本的に、第5搬送ローラR5と第6搬送ローラR6との間、すなわち、第2加熱領域H2では延伸は行わない。一方、第5搬送ローラR5および第6搬送ローラR6の間のフィルムFに延伸するための張力が掛かっている場合を考慮すると、フィルムFを十全に保持するために、30°以上が好ましい。なぜならば、120°超のとき、フィルム加熱延伸装置100(および、場合に応じて、周辺設備)に亘るフィルムFの連続する搬送経路を構築しにくいからである。
【0040】
第5搬送ローラR5の幅方向における中央部の直径は、特に限定されないが、150mm以上600mm以下であることが好ましい。第6搬送ローラR6の幅方向における中央部の直径は、特に限定されないが、150mm以上600mm以下であることが好ましい。なぜならば、直径が150mm未満のとき、第2加熱領域をフィルムFが通過する際、赤外線ヒータで加熱されたフィルムから溶媒が揮発されるのと同時に、フィルムFが収縮(搬送方向・非搬送方向)、搬送方向の収縮量が大きい場合には拘束させる場合(微延伸作用が働く)があり、フィルムFからの圧力によって、第5搬送ローラR5または第6搬送ローラR6それ自体が撓むことがあるからである。また、直径が600mm超のとき、第5搬送ローラR5または第6搬送ローラR6それ自体が大きく重くなり、機械的損失が
大きくなり、追従性が低下するからである。追従性の低下は、例えば、第5搬送ローラR5または第6搬送ローラR6の周速度の制御値(または目標値)と、実際の周速度との差が大きいという問題を引き起こす。また例えば、第5搬送ローラR5または第6搬送ローラR6の周速度とその上のフィルムFの搬送速度との不一致という問題を引き起こす。
【0041】
各搬送ローラ(R1~R6)としては、クラウンローラ、コンケイブローラ、または、ストレートローラ等の公知のローラを採用することができる。フィルムFをより均一に延伸し得ることから、第1搬送ローラR1はクラウンローラであり、第2搬送ローラR2はコンケイブローラであることが好ましい。また、フィルムFをより均一に延伸し得ることから、第3搬送ローラR3は、クラウンローラであることが好ましく、第4搬送ローラR4は、クラウンローラであることが好ましい。第2加熱領域H2においても、加熱時のフィルムFの寸法収縮抑制や走行安定性の観点から、第5搬送ローラR5は、コンケイブローラであることが好ましく、第6搬送ローラは、クラウンローラであることが好ましい。
【0042】
本明細書において、「クラウンローラ」は、幅方向の中央部が最も大きく、中央部から端部に向かって直径が徐々に小さくなるローラを意味する。また、「コンケイブローラ」は、幅方向の中央部が最も小さく、中央部から端部に向かって直径が徐々に大きくなるローラを意味する。また、「ストレートローラ」は、中央部から端部まで直径が一定であるローラを意味する。
【0043】
各搬送ローラ(R1~R6)は、表面に金属材料が露出している金属ローラであっても、芯の外周をゴム材料で被覆したゴムローラであってもよい。ゴムローラである場合、張力を印加されているフィルムFからの圧力によってゴムローラが変形することがないように、硬いゴム材料を用いる。例えば、JIS6253のショアAで65°以上の硬度を有するゴム材料を用いる。
【0044】
第2加熱部10Aの搬送方向の上流側に、第3ニップローラ26を備えることが好ましい。第3ニップローラ26は、第3駆動ローラ25へフィルムFを押し付けるように配置される。本実施形態では、第3ニップローラ26は第6搬送ローラR6よりも搬送方向の上流側に配置される。
【0045】
第3駆動ローラ25に対する第1駆動ローラ21の周速度の比率は、特に限定されないが、98%以上120%以下であることが好ましく、99%以上110%以下であることがより好ましく、99.5%以上105%以下であることがさらに好ましい。すなわち、第3駆動ローラ25から第1駆動ローラ21までの区間において、微延伸することが好ましい。当該構成によれば、フィルムが収縮する際に発生する波打ちを、微延伸させることで抑制することができる。周速度の比率の上限は、フィルムFの材料に応じて決定される。
【0046】
(フィルムの加熱延伸方法および延伸フィルムの製造方法)
本発明の一実施形態に係るフィルムの加熱延伸方法および延伸フィルムの製造方法は、搬送方向に搬送されるフィルムを第1搬送ローラでガイドする工程(I)、前記工程(I)において搬送された前記フィルムを、前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側に配置された第2搬送ローラでガイドする工程(II)、前記フィルムを、前記第1搬送ローラと前記第2搬送ローラとの間に位置する第1加熱領域に配置された少なくとも1つの赤外線ヒータを含む第1加熱部にて加熱する工程(III)、および前記工程(III)において加熱された前記フィルムに対して、前記搬送方向に延伸させる張力を付与する延伸工程(IV)、を有するフィルムの加熱延伸方法および延伸フィルムの製造方法であって、前記加熱する工程(III)および前記延伸工程(IV)の前に、赤外線ヒータを含む第2加熱部により、前記フィルムを加熱して、前記フィルム中に含まれる溶媒の量を
調整する残揮低減工程(V)、および前記残揮低減工程(V)後に、前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の上流側に配置された第1ニップローラによって、前記フィルムを、前記第1搬送ローラに向けて搬送する搬送工程(VI)、を有する。
【0047】
図2は、本発明の一実施形態に係る延伸フィルムの製造方法の一例を示すフロー図である。
図2に示すように、本開示に係る延伸フィルムの製造方法は、(i)第2加熱部により、フィルムFを加熱して、フィルムF中に含まれる溶媒の量を調整する工程(前記残揮低減工程(V)に対応。ステップS5。)と、(ii)残揮低減工程(V)後に、第1搬送ローラR1よりも搬送方向の上流側に配置された第1ニップローラ23によりフィルムFを、第1搬送ローラR1に向けて搬送する工程(前記搬送工程(VI)に対応。ステップS6。)と、(iii)フィルムFを第1搬送ローラR1でガイドする工程(前記工程(I)に対応。ステップS1。)と、(iv)第1加熱領域H1に配置された第1加熱部にてフィルムFを加熱する工程(前記工程(III)に対応。ステップS2。)と、(v)フィルムFを第2搬送ローラR2でガイドする工程(前記工程(II)に対応。ステップS3。)と、を含む。本発明の一実施形態に係る延伸フィルムの製造方法は、前記工程(I)~(III)と同時に、フィルムFを搬送方向に搬送すると共に、第1加熱領域H1を延伸させる張力をフィルムFに付与する(前記延伸工程(IV)に対応。ステップS4。)。これら工程が連続的に行われて、長尺のフィルムFが連続的に生産される。
【0048】
本発明の一実施形態に係るフィルムFの加熱延伸方法および延伸フィルムの製造方法は、上述したフィルム加熱延伸装置100を用いて好適に実施し得る。
【符号の説明】
【0049】
10 第1加熱部
10A 第2加熱部
11 第1反射板
11A 第2反射板
20 延伸部
21 第1駆動ローラ
22 第2駆動ローラ
23 第1ニップローラ
24 第2ニップローラ
25 第3駆動ローラ
26 第3ニップローラ
100 フィルム加熱延伸装置
D 回収部
F フィルム
H1 第1加熱領域
H2 第2加熱領域
I1 第1の赤外線
I2 第2の赤外線
R1 第1搬送ローラ
R2 第2搬送ローラ
R3 第3搬送ローラ
R4 第4搬送ローラ
R5 第5搬送ローラ
R6 第6搬送ローラ
θ1、θ2、θ5、θ6 抱き角度