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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119670
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】不織布
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/728 20120101AFI20240827BHJP
   D04H 1/4291 20120101ALI20240827BHJP
【FI】
D04H1/728
D04H1/4291
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026741
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】植松 武彦
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕太
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA14
4L047AB07
4L047AB08
4L047BA08
4L047CA05
4L047CA07
4L047CB01
(57)【要約】
【課題】
極細繊維で構成され、かつ伸縮性を示す不織布を提供する。
【解決手段】
ポリオレフィン樹脂を含むメジアン繊維径5μm以下の繊維で構成され、下記物性(a)及び(b)を満たす不織布:
(a)200℃の溶融状態における粘度が、せん断速度0.1s-1で15Pa・s以下である;
(b)200℃の溶融状態から降温速度を4℃/分として得られる動的粘弾性曲線において、200℃以下50℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも低く、38℃以下10℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも高い。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂を含むメジアン繊維径5μm以下の繊維で構成され、下記物性(a)及び(b)を満たす不織布:
(a)200℃の溶融状態における粘度が、せん断速度0.1s-1で15Pa・s以下である;
(b)200℃の溶融状態から降温速度を4℃/分として得られる動的粘弾性曲線において、200℃以下50℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも低く、38℃以下10℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも高い。
【請求項2】
ポリオレフィン樹脂を含むメジアン繊維径5μm以下の繊維で構成され、30%伸長時のヒステリシス損失が85%以下、破断伸度が90%以上、下記式からなる1m幅あたりの、坪量で規格化した引張強度が2N・m/g以上4N・m/g以下である不織布。
[坪量で規格化した引張強度]={[試験片の引張強度(N)]/[試験片幅(m)]}/[坪量(g/m)]
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10.5%以下である、請求項1又は2記載の不織布。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂に占める結晶性ポリオレフィン樹脂の割合が5質量%未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項5】
前記繊維の交点の数に占める融着点の数の割合は50%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の不織布と、該不織布とは別の不織布又は紙とを積層してなる積層不織布。
【請求項7】
下記物性(a)及び(b)を満たす、ポリオレフィン樹脂を含む溶融物を、電界紡糸法によりメジアン繊維径5μm以下の繊維状に紡糸して、表面温度を40℃以上70℃以下に設定した捕集機により捕集する工程を含む、不織布の製造方法:
(a)200℃の溶融状態における粘度が、せん断速度0.1s-1で15Pa・s以下である;
(b)200℃の溶融状態から降温速度を4℃/分として得られる動的粘弾性曲線において、200℃以下50℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも低く、40℃以下10℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも高い。
【請求項8】
前記溶融物が、融点が20℃を越えるアニオン性界面活性剤を含む、請求項7に記載の不織布の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布は、優れた通気性、柔軟性等の特性を活かして種々の用途に用いられている。また、不織布に伸縮性を付与し、それ単独で、あるいは他の素材と組み合わせて、紙おむつ、生理用品、衛生マスク、絆創膏、サポーター、メディカルテープなどへの適用性を高める技術が提案されている。
伸縮性を有する不織布として、例えば、特許文献1には、粘着性の無いメルトブローン不織布上に粘着性のメルトブローン不織布が積層し接合された多層伸縮性不織布が記載されている。これらメルトブローン不織布はともに熱可塑性エラストマーからなり伸縮性を備える。この多層伸縮性不織布によれば、製造時に粘着性を有していても、前記の伸縮性を落とさずに、製造設備への粘着現象を抑えることができるとされる。
また、特許文献2には、主として熱可塑性樹脂の繊維からなり、一方向とそれと直交する方向で伸び率を異ならせた不織布が記載されている。特許文献2によれば、このような伸び率の制御により、不織布を事後的に加工すること無く、一方向にだけ伸縮性を有する不織布が得られるとされる。
【0003】
不織布として、近年注目されるようになってきた極細繊維(例えば繊維径5μm以下)を堆積させてなるものがある。ここまで細い繊維からなる不織布を均一に製造する紡糸技術の一例として、例えば電界紡糸法(エレクトロスピニング法)等の溶融紡糸法が用いられる。このような極細繊維を含む不織布は、今後様々な用途に用いることが期待されており、工業化に向けて鋭意検討がなされている。例えば、特許文献3記載のナノファイバーシートは、美容効果を目的として皮膚に貼付することを想定したものである。特許文献3には、表情の変化等で皮膚表面に皺が発生してもナノファイバーシート自体の平滑状態を維持して皮膚の皺に対する隠蔽性を保持する観点から、ナノファイバーシート自体の剛性及び皮膚に対する滑り性を制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-237752号公報
【特許文献2】特開平9-279460号公報
【特許文献3】特開2021-54734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3に記載されるような極細繊維で構成された不織布についても、皮膚等の対象物への密着性を更に高める観点から、伸縮性を付与することが求められるようになってきた。しかし、極細繊維で構成された不織布は、その構成繊維の細さから強度が十分とは言えず、所望の伸縮性を付与するには改善の余地があった。
【0006】
本発明は、極細繊維で構成され、かつ伸縮性を示す不織布に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、不織布の構成繊維としてポリオレフィン樹脂を含む極細繊維を採用した上で、当該不織布ないしその構成繊維の物性を、特定の高温下における溶融状態で特定の低い粘度を示し、かつ、この溶融状態からの降温時に得られる動的粘弾性曲線において、貯蔵剛性率(G’)が損失剛性率(G’’)よりも大きくなる温度域が特定の低温域にくるように制御することにより、電界紡糸法を介した製法によって、極細繊維で構成されながらも所望の優れた伸縮性を示す不織布を実現できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づきさらに検討を重ねて完成されるに至ったものである。
【0008】
本発明は、ポリオレフィン樹脂を含むメジアン繊維径5μm以下の繊維で構成された不織布を提供する。
本発明の不織布は、下記物性(a)及び(b)を満たすことが好ましい。
(a)200℃の溶融状態における粘度が、せん断速度0.1s-1で15Pa・s以下である;
(b)200℃の溶融状態から降温速度を4℃/分として得られる動的粘弾性曲線において、200℃以下50℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも低く、38℃以下10℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも高い。
また、本発明の不織布は、30%伸長時のヒステリシス損失が85%以下であることが好ましい。
また、本発明の不織布は、破断伸度が90%以上であることが好ましい。
また、本発明の不織布は、下記式からなる1m幅あたりの、坪量で規格化した引張強度が2N・m/g以上4N・m/g以下であることが好ましい。
[坪量で規格化した引張強度]={[試験片の引張強度(N)]/[試験片幅(m)]}/[坪量(g/m)]
【0009】
また、本発明は、溶融物を電界紡糸法によりメジアン繊維径5μm以下の繊維状に紡糸して、表面温度を40℃以上70℃以下に設定した捕集機により捕集する工程を含む、不織布の製造方法を提供する。
また、前記溶融物は、ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましい。
また、前記溶融物は、下記物性(a)及び(b)を満たすことが好ましい。
(a)200℃の溶融状態における粘度が、せん断速度0.1s-1で15Pa・s以下である;
(b)200℃の溶融状態から降温速度を4℃/分として得られる動的粘弾性曲線において、200℃以下50℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも低く、38℃以下10℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも高い。
【発明の効果】
【0010】
本発明の不織布は、極細繊維で構成されながらも所望の優れた伸縮性を発現する。本発明の不織布の製造方法によれは、上記の不織布を好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は繊維交点の数に占める融着点の数の割合を測定する際に用いられる観察画像の一例を示す図面代用写真である。
図2図2は、実施例1の各不織布を200℃の溶融状態とし、降温速度を4℃/分として得られる動的粘弾性曲線を示すグラフである。
図3図3は実施例2の各不織布を200℃の溶融状態とし、降温速度を4℃/分として得られる動的粘弾性曲線を示すグラフである。
図4図4は比較例2の各不織布を200℃の溶融状態とし、降温速度を4℃/分として得られる動的粘弾性曲線を示すグラフである。
図5図5は比較例3の各不織布を200℃の溶融状態とし、降温速度を4℃/分として得られる動的粘弾性曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の不織布の好ましい実施形態について説明する。
本発明は、ポリオレフィン樹脂を含むメジアン繊維径5μm以下の繊維で構成された不織布を提供するものである。
本発明の不織布は、好ましくは下記物性(a)及び(b)を満たす。
(a)200℃の溶融状態における粘度が、せん断速度0.1s-1で15Pa・s以下である;
(b)200℃の溶融状態から降温速度を4℃/分として得られる動的粘弾性曲線において、200℃以下50℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも低く、38℃以下10℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも高い。
【0013】
不織布を構成する繊維(構成繊維)は、ポリオレフィン樹脂を含んで構成されることが好ましい。
この不織布の構成繊維は、ポリオレフィン樹脂のみで構成されていてもよく、ポリオレフィン樹脂に加え、本発明の効果を損なわない範囲でポリオレフィン樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。また、必要により各種添加剤を含有することができる。このような添加剤として、界面活性剤、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、ワックス、無機塩から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
不織布の構成繊維中、ポリオレフィン樹脂が主材(主体)として含まれていることが好ましく、その含有量は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、92質量%以上がさらに好ましく、94質量%以上がよりさらに好ましい。また、不織布を構成する樹脂成分を基準にすると、樹脂成分のすべてがポリオレフィン樹脂であること(不織布を構成するポリマーのすべてがポリオレフィンであること、すなわち含有量100質量%であること)が好ましい。
樹脂成分中の熱可塑性樹脂の含有量は、以下の方法で測定することができる。具体的には、樹脂成分をNMR(核磁気共鳴)分析、IR(赤外分光)分析等の各種分析に供して、これらの分析によって得られる各シグナル、スペクトルの位置に基づいて、分子骨格の構造及び分子構造の末端の官能基構造を同定する。これによって、含有する樹脂の種類を同定する。各種熱可塑性樹脂に相当する分子構造を示す測定値の強度から、樹脂成分中に含まれる熱可塑性樹脂の量を算出する。そして、該算出値を合計することにより樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量を測定することができる。
【0014】
上記ポリオレフィン樹脂は、オレフィン単独重合体及び/又はオレフィン共重合体から選ばれる1又は2以上を含むことが好ましい。
オレフィン単独重合体とは、1種類のオレフィンの重合体を意味する。
オレフィン共重合体とは、あるオレフィンと、それとは異なる化学構造を有するオレフィン(例えばプロピレンや1-オクテンや1-ブテンなどの炭素数3以上を有するα―オレフィン)の共重合体、及び、オレフィンと、オレフィン以外の炭素-炭素二重結合を有する化合物(例えば酢酸ビニルやビニルアルコール等のビニル化合物)との共重合体を意味する。
なかでも上記ポリオレフィン樹脂は、モノマー構造を複雑に変えずとも合成時の立体規則性制御によって結晶性を自在に変えやすい観点から、ポリプロピレン樹脂又はエチレン―α―オレフィン共重合体樹脂(α―オレフィンはプロピレンも含む炭素数3以上を有するもの)から選ばれる1又は2以上を含むことが好ましく、ポリプロピレン樹脂がより好ましい。
樹脂成分中に含まれる樹脂の種類は、上述の測定方法に従って特定する。
【0015】
上記ポリオレフィン樹脂の融点は、200℃で溶融状態になれば特に制限はない。上記ポリオレフィン樹脂の融点は180℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましい。
上記ポリオレフィン樹脂の融点は、通常は50℃以上であり、60℃以上が好ましい。
【0016】
不織布の構成繊維は極細繊維を含み、極細繊維とは繊維径が5μm以下の繊維を意味する。このような極細繊維は、後述するように、電界紡糸法により形成することができる。
不織布のメジアン繊維径は、不織布の作用対象面に対する密着性を良くする観点から、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下が更に好ましい。
不織布のメジアン繊維径は、不織布の作用対象面に機能液を保持・固定化する機能や不織布の強度を向上する観点から、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.3μm以上が更に好ましく、0.4μm以上が一層好ましく、0.5μm以上が殊更に好ましい。
【0017】
<メジアン繊維径の測定方法>
(1)測定対象の不織布を10mm×10mmにカットする。これを予め走査型電子顕微鏡用試料台(応研商事株式会社製)に導電性カーボン両面テープ(応研商事株式会社製)を介して貼り付ける。
(2)不織布が貼り付けられた試料台をスパッタリング装置(株式会社日立ハイテク製、Ion Sputter E-1030)に供し、アルゴンガス雰囲気下で6Paに減圧し、白金-パラジウム(Pt-Pd)蒸着を行う。尚、不織布マウント面とPt-Pd電極との距離を30mm、蒸着時間を80秒、蒸着時電流値を30mAとする。
(3)走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテク製、S-4300SE/N)に試料台を供し、高精細モードで観察画像を取得する(加速電圧:5kV、ワーク距離:10mm、観察倍率500倍または1000倍)。同一試料について観察場所を変えて計15箇所より観察画像を取得する。
(4)前記(3)で取得した観察画像より、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製WinRooF2015)を用いて不織布の繊維径を測定する。延べ600本の繊維径測定値より、数平均径、(細径側より)数10%径(D10)、数50%径(メジアン径)、および数90%径(D90)を集計する。このうち、メジアン径を繊維径の代表値とする。
【0018】
本発明の不織布は、上記物性(a)及び(b)を満たすことが好ましい。なお、不織布が上記物性(a)及び(b)を満たすことは、不織布を溶解させた溶融物ないしは紡糸前の溶融物が、上記物性(a)及び(b)を満たすことと同義である。
【0019】
(物性(a))
本発明の不織布は、200℃の溶融状態とした場合に、その粘度が、せん断速度0.1s-1で15Pa・s以下であることが好ましい。このような粘度を示すことにより、本発明の不織布の構成繊維がメジアン繊維径5μm以下の極細繊維となり得る。
この200℃の溶融状態における粘度は、溶融紡糸時に溶融状態の液をより少ないエネルギーで延伸する観点から、せん断速度0.1s-1で15Pa・s以下が好ましく、13Pa・s以下がより好ましく、10Pa・s以下がさらに好ましい。
また、前記粘度は、溶融紡糸時に溶融状態の液が延伸時に千切れることを防止する観点から、せん断速度0.1s-1で3Pa・s以上が好ましく、4Pa・s以上がより好ましく、5Pa・s以上がさらに好ましい。
【0020】
<200℃の溶融状態における粘度の測定方法>
測定対象の不織布を質量20gになるように任意サイズにカットする。その不織布を縦130mm、横80mmの穴を設けた厚み1mmの枠内に供し、200℃でヒートプレス、15℃で冷却プレスを行い、130mm×80mm×厚み1mmの樹脂プレス板を得る。この板からカッターで50mm×50mm×厚み1mmにカットした検体を得る。その検体をアントンパール社製の回転型レオメーター(型番:MCR302)に据え付けられた回転円盤型治具(パラレルプレート、直径:50mm、プレート間距離:1mm)にセットする。検体をセットする前に予め回転円盤型治具は200℃に加熱されている状態にし、検体がセットされた後にプレートの熱によって溶融して上記治具の設定幾何寸法(直径:50mm、プレート間距離:1mm)に不足なく満たされるようにする。尚、上記治具の設定幾何寸法からはみ出した検体由来の溶融液はステンレス製のへらを用いて回収する。検体を上記治具にセットした後、専用の保温チャンバー(アントンパール社製のCTD 450/TD Ready)で囲う。保温チャンバー内部は加熱窒素で満たされるようにし、チャンバー内部の200℃で安定するまで待機する。その後、せん断速度を0.1s-1に設定して上記治具の上側治具を回転させ、少なくとも100秒間0.1s-1のせん断速度を検体に印加する。測定開始から100秒における粘度を測定値とする。
なおシートが積層されている状態であるときは繊維層間で剥離を行い、測定対象となる不織布を取り出して上記の作業へ供する。この手順は他の測定においても同様である。
【0021】
(物性(b))
本発明の不織布は、200℃の溶融状態から降温速度を4℃/分として得られる動的粘弾性曲線において、少なくとも200℃以下50℃以上の温度域で貯蔵剛性率(G’)が損失剛性率(G’’)よりも低いことが好ましい。
また、少なくとも38℃以下10℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも高いことが好ましい。38℃以下10℃以上の温度域で貯蔵剛性率の値は10Pa以上10Pa以下となっていることがより好ましい。
すなわち、本発明の不織布は、従来不織布の構成繊維として用いられてきた樹脂よりも、動的粘弾性曲線において貯蔵剛性率と損失剛性率の各数値が逆転する温度域がより低温側にある。これは、前記低温側でゴム状態を発現する動的粘弾性プロファイルであることを意味する(例えば図2に示す具体例など)。
このような特異な物性の動的粘弾性特性において、貯蔵剛性率と損失剛性率との関係が物性(b)に制御された不織布は、極細繊維がゴム状態で伸縮性を備えることを意味する。加えて、本発明の不織布が、極細繊維同士の交点における融着点(以下、架橋点ともいう)を備えることを意味する。これにより、本発明の不織布は、極細繊維の伸縮性により伸長でき、そればかりか伸長時の破断が生じ難くなって収縮する挙動をも示すものとなる。
このことは、本発明の不織布の製造工程において次のようになることを意味する。すなわち、あまり温度を上げずとも、極細繊維同士がその交点で、極細繊維の形状を維持しながらも流動状態で融着しやすい。不織布となった段階で、極細繊維は前述のゴム状態で伸縮性を具備し、該極細繊維の架橋点の密度をより高めて繊維のネットワーク構造がよりきめ細やかに形成され、所望の優れた伸縮性を発現することができる。
このような本発明の不織布は、物性(b)の動的粘弾性特性により、日常の使用場面の気温状態において伸縮性がより良好に発現されやすくなる。したがって、極細繊維で構成された伸縮性不織布として種々の用途への適用が可能となる。
なお、本発明において不織布が「伸縮性を有する」とは、不織布を30%伸長した時のヒステリシス損失が85%以下であることを意味する。ヒステリシス損失については後で詳しく説明する。
【0022】
<貯蔵剛性率・損失剛性率(動的粘弾性曲線)の測定方法>
前述の<200℃の溶融状態における粘度の測定方法>と同様に不織布より樹脂プレス板を得る。この板からカッターで50mm×50mm×厚み1mmにカットした検体(これを検体形態Aとする)、および、10mm×10mm×厚み1mmにカットした検体(これを検体形態Bとする)を得る。
・検体形態A
検体形態Aについては、前述の<200℃の溶融状態における粘度の測定方法>と同様に、回転型レオメーターに据え付けられた回転円盤型治具にセットする。保温チャンバーで囲い、加熱窒素で保温チャンバー内の温度が200℃で安定するまで待機する。次に、ひずみ振幅を2%(ひずみ振幅:0.02)、角周波数を6.28rad/s(1Hz)に設定する。測定温度を200℃から50℃までの任意の温度範囲で降温速度4℃/分で動的粘弾性測定を行い、貯蔵剛性率(G’)および損失剛性率(G”)を得る。
尚、130℃から50℃の温度領域において流動状態から結晶化またはゴム状状態への物性変化に伴う硬化の影響で上記回転型レオメーターの検出器に過負荷を加える恐れのある検体については、以下のようにする。貯蔵剛性率(G’)および損失剛性率(G”)の見かけ測定値が105Pa付近に上昇してきた温度で測定を止める。ひずみ振幅0.1%(ひずみ振幅:0.001)、角周波数0.1rad/sの動的ひずみ印加の下、15分以内に200℃まで温度上昇する測定プログラムを組むようにする。
・検体形態B
検体形態Bについては、上記回転型レオメーターに据え付けられた回転円盤型治具(パラレルプレート、直径:8mm、プレート間距離:1mm)にセットする。保温チャンバーで囲い、加熱窒素で保温チャンバー内の温度が200℃で安定するまで待機する。次に、ひずみ振幅を以下に述べるように測定の途中で10%(ひずみ振幅0.1)より0.1%(ひずみ振幅0.001)に切り換えられるように、更に角周波数を6.28rad/s(1Hz)に設定する、測定温度を200℃から-25℃までの温度範囲で降温速度4℃/分で動的粘弾性測定を行い、貯蔵剛性率(G’)および損失剛性率(G”)を得る。
ひずみ振幅の切り換えであるが、130℃から40℃の温度領域において流動状態から結晶化またはゴム状状態への物性変化に伴う硬化の影響で、上記回転型レオメーターの検出器に過負荷を加える恐れのある検体については、以下のようにする。貯蔵剛性率(G’)および損失剛性率(G”)の見かけ測定値が105Pa付近に上昇してきた温度を境に、ひずみ振幅0.1%(ひずみ振幅:0.001)に切り換えられるように測定条件を設定する。
尚、このようにひずみ振幅を切り換えるときの温度については、以下のようにする。予備実験により測定対象の不織布に関する示差走査熱量測定における溶融状態からの結晶化温度を得る。また、測定対象の不織布に供された樹脂原料の物性に関するカタログ記載データを参照する。これらの値を基に設定する。
また、-25℃に達した後は、15分以内に200℃まで温度上昇する測定プログラムを組む。ひずみ振幅0.1%(ひずみ振幅:0.001)、角周波数0.1rad/sの動的ひずみ印加しながら迅速に検体を加熱溶融させ、上記回転型レオメーターの検出器の過負荷を軽減する措置を取る。
以上のように同一検体でサイズの異なる検体形態AおよびBを用意し、各々に対応した回転円盤型治具にセットして動的粘弾性測定をした理由は、1種類の寸法の回転円盤型治具で本発明の不織布の流動状態からゴム状態または結晶状態またはガラス状態への物性変化を捉えることが不可能であるからである。
各々検体形態において得られた貯蔵剛性率(G’)および損失剛性率(G”)について、データの基となる動的ひずみと動的応力の位相差や検出トルク値を精査し、検出限界範囲外のデータを間引きした上で、データを重ね合わせ各々剛性率の温度プロファイルを得る。
【0023】
(ヒステリシス損失)
本発明の不織布は、30%伸長時のヒステリシス損失が85%以下であることが好ましい。
なお、本発明においては、不織布を伸長していない状態が0%伸長である。したがって、例えば100%伸長という場合、不織布の長さが2倍になった状態を意味する。このことは、後述の破断伸度についても同様である。
ヒステリシス損失とは、不織布に引張応力を加えたときの、変形及び回復の1サイクルにおける機械的エネルギーの損失率(%)を意味する。
本発明の不織布は、30%伸長時のヒステリシス損失が85%以下の物性を有するものとすることにより、所望の伸縮性を発現することができる。
このヒステリシス損失は、不織布を所望の方向に引っ張った直後に引っ張りを解放したときの収縮応答性を向上する観点から、85%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、75%以下が更に好ましい。
このヒステリシス損失は、不織布の作用対象面に対する追従性を保持する観点から、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上が更に好ましい。
【0024】
<ヒステリシス損失の測定方法>
測定対象の不織布を任意の方向に幅20mm×長さ100mmにカットし、引張試験機に供する(上下チャック間幅50mm)。ロードセル速度100mm/分で30%伸長~0%戻しを1サイクル行い、ヒステリシス損失について伸長時のストローク-荷重曲線で得られる面積を0%戻しのストローク-荷重曲線で得られる面積で除して、ヒステリシス損失を算出する。測定温度は23℃とする。
【0025】
(破断伸度)
本発明の不織布は、破断伸度(破断伸び)が90%以上であることが好ましい。
本発明の不織布は、極細繊維を構成繊維としながらも、上述のように構成繊維の材料物性に伴い不織布構造内の繊維同士の架橋点密度を高めることができ、引っ張っても破れにくく、良好な破断伸度を実現することができる。
本発明の不織布の破断伸度は、上記の作用をより高める観点から、95%以上が好ましく、100%以上がより好ましく、120%以上がさらに好ましい。
本発明の不織布の破断伸度は、たとえば該不織布とこれとは別の伸縮性不織布と積層された伸縮性積層不織布を得た場合、該伸縮性積層不織布が層間剥離なく一体となって伸縮するといった観点から、400%以下が好ましく、350%以下がより好ましく、300%以下がさらに好ましい。
【0026】
<破断伸度の測定方法>
前記<ヒステリシス損失の測定方法>と同じサイズの不織布カットサンプルを引張試験機に供し、引張速度100mm/分で引っ張って測定する。測定温度は23℃とする。
この測定値に基づき、破断伸度を(破断時の該サンプル長さ-該サンプルの元の長さ)/(該サンプルの元の長さ)×100で算出する。
【0027】
(引張強度)
本発明の不織布は、下記式からなる1m幅あたりの、坪量で規格化した引張強度が2N・m/g以上4N・m/g以下であることが好ましい。
[坪量で規格化した引張強度]={[試験片の引張強度(N)]/[試験片幅(m)]}/[坪量(g/m)]
本発明の不織布は、極細繊維を構成繊維としながらも、上述のように構成繊維の材料物性に伴い不織布構造内の繊維同士の架橋点密度を高めることができ、引張強度をより高めることができる。
上記の坪量で規格化した引張強度は、不織布としての形態を維持する観点から、2N・m/g以上が好ましく、2.5N・m/g以上がより好ましい。
上記の坪量で規格化した引張強度は、不織布加工工程におけるカット性を良好にする観点から、4N・m/g以下が好ましく、3.5N・m/g以下がより好ましい。
【0028】
<坪量で規格化した引張強度の測定方法>
上記<破断伸度の測定方法>の測定にて引張強度値を同時測定する。同時測定した引張強度値を試験片の坪量・試験片幅(この場合20mm)で除して得る。その際、単位がN・m/gとなるようにmm単位とm単位の切替を行う。測定温度は23℃とする。
なお、坪量で規格化した引張強度の測定においては、試験片幅を20mmに限定されず、任意の試験幅としてもよい。
【0029】
本発明の不織布では、前述の特定の範囲のヒステリシス損失、破断伸度、及び引張強度の要件を全て有することにより、各物性の特徴が相乗的に作用して、優れた伸縮性を発現し、作用対象面に対する追従性に優れるようになる。
【0030】
本発明の不織布は前述の極細繊維で構成されるために、繊維の調製では好ましくは電界紡糸法が採用され、この電界紡糸工程からそのまま不織布が形成される。このような極細繊維で構成された不織布は、実質的に方向依存性があまり強く出ず、いずれの方向に伸ばした場合でも、上記のヒステリシス損失、破断伸度、及び引張強度を満たすものである。
【0031】
本発明の不織布は、繊維を構成する上記ポリオレフィン樹脂の結晶化度が10%以下であることが好ましい。これにより、得られる不織布の物性を、上記物性(a)及び(b)を満たすものへとより導きやすくなる。
前記結晶化度は、現実的には、10.5%以下である。
前記結晶化度は、耐熱性を向上する観点から、5%以上がより好ましく、7%以上が更に好ましい。
【0032】
<ポリオレフィン樹脂の結晶化度の測定方法>
(1)測定対象の不織布を重量として2mgになるようにカットする。示差走査熱量計測定用試料容器(株式会社日立ハイテクサイエンス製、Al(アルミニウム)オートサンプラー用試料容器P/N GAA-0065(容器サイズ:直径6.8mm、高さ2.5mm)およびAl(アルミニウム)オートサンプラー用カバーP/N GAA0064のセット)に入れ検体とする。
(2)前記(1)で得た検体を示差走査熱量計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、DSC7000X)に入れ、開始温度20℃、昇温速度4℃/分で200℃まで測定する。
(3)前記(2)で得られた測定プロファイルを解析ソフト(株式会社日立ハイテクサイエンス製、TA7000標準解析 バージョン10.3)を用いて不織布の融解に伴う吸熱ピークを特定し、融解エンタルピーを計測する。尚、不織布を構成する樹脂の種類によって吸熱ピークの箇所は1つ以上になることがあり、全ての吸熱ピークにおける融解エンタルピーを計測する。また、全ての吸熱ピークの融解エンタルピーの総和を不織布の融解エンタルピーとする。
(4)前記(3)で得られた不織布の融解エンタルピーより以下の式(I)によって不織布中の樹脂成分の融解エンタルピーを算出する。
Hr=Ha×Wa/Wr 式(I)
Hr:不織布中の樹脂成分の融解エンタルピー[J/g]
Ha:不織布の融解エンタルピー[J/g]
Wa:不織布全構成成分質量含有率の総和、すなわち100%
Wr:不織布中の樹脂成分の質量含有率[%]
(5)前記(4)で得られたHrをポリプロピレン完全結晶の融解熱209J/gで除することにより、不織布中の樹脂成分の結晶化度を算出する。尚、ポリプロピレン完全結晶の融解熱については、H.Bu,S.Z.D.Cheng,B.WunderlichらによるMakromoleculare Chemie, Rapid Communication,第9巻,75頁(1988)に記載されている値を引用する。
【0033】
本発明の不織布は、繊維を構成する上記ポリオレフィン樹脂に占める結晶性ポリオレフィン樹脂の割合が5質量%未満であることが好ましい。本発明において「結晶性ポリオレフィン」とは、ポリオレフィン樹脂を180℃以上で調製した溶融液を降温速度4℃/分にて冷却した際に80℃以上130℃以下の温度域で結晶化するポリオレフィンを意味する。
繊維を構成する上記ポリオレフィン樹脂に占める結晶性ポリオレフィン樹脂の割合は3質量%以下がより好ましく、2.5質量%以下がさらに好ましく、また0質量%以上が好ましい。
これらの上限の範囲内とすることにより、得られる不織布の物性を、上述した所望の物性へと、より導きやすくなる。
【0034】
<結晶性ポリオレフィン樹脂の割合の測定方法>
測定対象の不織布を10mm×10mmにカットする。全反射型赤外分光測定機(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、NICOLET iZ10、ATR結晶としてダイヤモンド使用)に供して赤外分光スペクトルを得る。得られた赤外分光スペクトルに対し解析ソフト(OMNIC9.12.1002/OMNICMC9.12.928/OMNIC Atlus9.12.990)を用いて含有されているポリオレフィン樹脂を推定する。推定にあたっては確定率90%以上のものを採用する。ポリオレフィン樹脂が推定されたら、それに該当するポリオレフィン樹脂について市販の任意の結晶性ポリオレフィン樹脂をモデルとして入手する。
例えば、結晶性ポリエチレンであれば、日本ポリエチレン株式会社製の高密度ポリエチレン、ノバテックTM HD(品番HY350)、結晶性ポリプロピレンであればPolymirae社製のMetocene MF650Yを入手する。これらモデル結晶性ポリオレフィン樹脂は原料有姿がペレット状または顆粒状であるため、有姿のサイズによっては粉砕機で粉砕して2mg秤量する。
これらを前述の<ポリオレフィン樹脂の結晶化度の測定方法>と同様に示差走査熱量計に供する。開始温度20℃、昇温速度4℃/分で200℃まで測定し、更に降温速度4℃/分で200℃から20℃まで測定し、更に20℃から200℃まで昇温速度4℃/分で示差走査熱量測定を行う。得られた測定プロファイルの内、2回目の昇温時の融解エンタルピーを計測する。
一方で測定対象の不織布についても結晶性ポリオレフィン樹脂モデル同様の条件で示差走査熱量測定を行い、2回目の昇温時における融解エンタルピーを計測する。不織布の示差走査熱量測定プロファイルの内、結晶性ポリオレフィン樹脂モデルと同様の温度域における融解エンタルピーが結晶性ポリオレフィン由来のものとし、以下の式(II)によって結晶性ポリオレフィン樹脂の割合を算出する。
[不織布中の結晶性ポリオレフィン樹脂の割合]
=[不織布中の結晶性ポリオレフィン由来の融解エンタルピー]/[結晶性ポリオレフィン樹脂モデル自身の融解エンタルピー] 式(II)
尚、本発明における各比較例においては予め上記Metocene MF650Yが結晶性ポリプロピレンとして唯一配合されていることが既に判っているので、例えば比較例1に対して式(II)を適用すると、不織布の融解エンタルピーが4.7J/g、結晶性ポリプロピレンの融解エンタルピーが100.3J/gであることから、不織布中の結晶性ポリプロピレン樹脂の割合は5.2%と算出される。
【0035】
本発明の不織布は、繊維の交点の数の50%以上において、接触した繊維同士が融着していることが好ましい(融着した交点は、前述の融着点を意味する)。すなわち、繊維の交点の数に占める融着点の数の割合が50%以上であることが好ましい。
本発明の不織布は、繊維交点の数に占める融着点の割合は、100%以下であり、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。
これらの下限の範囲内とすることにより、不織布における繊維同士の架橋点が密に形成された状態となり、極細繊維で構成されながらも、より高い伸縮性を実現することが可能となる。
【0036】
<繊維交点の数に占める融着点の数の割合の測定方法>
前述の<メジアン繊維径の測定方法>の(1)、(2)及び(3)と同様の作業を行い、各不織布について観察倍率1000倍の走査型電子顕微鏡観察画像を取得する。同一試料について観察場所を変えて計5箇所において1箇所あたり試料表面側に焦点を合わせて計5つの観察画像を取得する。画質としては幅1280ピクセル、高さ960ピクセルとする。取得した観察画像より、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製WinRooF2015)を用いて繊維交点をマーキングする。繊維交点における融着点の数を記録し、繊維交点の合計数に占める融着点の数の割合を以下の式(III)によって算出する。この評価においては観察者と記録者の2名で行い、繊維交点数は上記画像解析ソフト上にて観察者の手によるマーキング処理によって集計する。融着点については観察者が下記融着点の定義にしたがって融着点とした繊維交点を、記録者が集計する。
融着点の割合[%]
=融着点の数/繊維交点の合計数×100 (式(III))
尚、繊維交点及び該繊維交点の融着点の定義を以下のように定める。
(繊維交点)
不織布の走査型電子顕微鏡観察画像において、画像自体を410mm×260mmのモニターにて3倍(300%)に拡大した場合に、繊維形状の境界線間の幅(観察画像において確認される繊維幅)が1mmを超えない範囲で焦点が定まったものを選択する。それらが交差している箇所、または交差はしていないが接触している(接している)箇所、または1本の繊維が途中で枝分かれしている箇所を繊維交点と定義する(例えば図1における符号D4,D14,D1の囲み部分)。繊維によっては画像に映っている2本以上の繊維が長手方向にわたって画像撮影領域の全体または一部において接触して繊維束になっているものも観察画像において見られるが、それらについても繊維交点として定義する(例えば図1における符号D5の囲み部分)。例えば4本の繊維が観察画像において隙間なく並んでいる箇所がある場合は繊維交点の数は3とするといったように定める。
尚、不織布という特性上、走査型電子顕微鏡観察において検出器に近い側(検体厚み方向表面側)と遠い側(検体厚み方向検体用試料台側)という不織布の厚みに起因する奥行きが存在する。このため観察画像において見かけ上、繊維が交差しているように見えても当該繊維同士が接触していない場合がある。上述したように、画像自体を410mm×260mmのモニターにて3倍(300%)に拡大した場合に、繊維形状の境界線の幅が1mmを超えない範囲で焦点が定まった複数の繊維は、検体の厚み方向(奥行き)において同等の位置関係にあるとする。このように選択された繊維同士の交点を上述の定義に従って繊維交点とする。
(繊維交点の融着点)
上記で定義した交点の内、以下の二つを繊維交点の融着点と定義する。
(i)前記交点において関連する2本以上の繊維の境界線が明瞭に認められない箇所(例えば図1における符号D4の囲み部分)
(ii)前記交点において関連する1本以上の繊維の、該交点における当該繊維の境界線間の幅が交点以外の境界線間の幅に比べて拡がりを示している箇所(例えば図1における符号D16の囲み部分)
【0037】
本発明の不織布の坪量は、毛管力をより高める観点、強度をより高める観点などから、5g/m以上が好ましく、10g/m以上がより好ましい。
本発明の不織布の坪量は、柔らかさ、皮膚表面等の作用対象物への密着性をより高める観点から、40g/m以下が好ましく、30g/m以下がより好ましい。
【0038】
本発明の不織布は、本発明の不織布とは別の不織布又は紙と重ね合わせて積層不織布とした状態で用いることも好ましい。「別の不織布」は、目的に応じて適宜に選択することができる。例えば、伸縮スパンボンド不織布、非伸縮スパンボンド不織布、伸縮スパンレース不織布、非伸縮スパンレース不織布から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
本発明の不織布に「別の不織布又は紙」を重ね合わせた積層不織布とすることにより、高強度、不織布の対象面への転写性等の特性を付与することができる。前記積層不織布とする場合の本発明の不織布の坪量は、別の不織布又は紙で強度を担保しつつ、毛管力を高め、本発明の不織布の強度を維持する観点から、1g/m以上が好ましく、1.5g/m以上がより好ましく、2g/m以上が更に好ましい。
また、積層状態で柔らかさ、皮膚表面等への密着性をより高める観点から、前記積層不織布とする場合の本発明の不織布の坪量は、8g/m以下が好ましく、6g/m以下がより好ましく、5g/m以下が更に好ましい。
【0039】
続いて本発明の不織布の製造方法について説明する。
本発明の不織布は、例えば、下記製造方法により得ることができる。
溶融物を溶融エレクトロスピニング法によりメジアン繊維径5μm以下の繊維状に紡糸して、表面温度を40℃以上70℃以下に設定した捕集機により捕集する工程を含むことが好ましい。
溶融物はポリオレフィン樹脂を含むことが好ましい。ポリオレフィン樹脂の好ましい種類は上記と同じである。
溶融物は下記物性(a)及び(b)を満たすことが好ましい。
(a)200℃の溶融状態における粘度が、せん断速度0.1s-1で15Pa・s以下である;
(b)200℃の溶融状態から降温速度を4℃/分として得られる動的粘弾性曲線において、200℃以下50℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも低く、38℃以下10℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも高い。
【0040】
上記製造方法において、ポリオレフィン樹脂を含む溶融物の物性(a)及び(b)に関し、本発明の不織布における物性(a)及び(b)の説明がそのまま適用されるものである。
【0041】
上記製造方法では、表面温度を40℃以上70℃以下に設定した捕集機に向けて、上記物性(a)及び(b)を満たす溶融物を、電界紡糸法によってノズルから繊維状に吐出することが好ましい。これにより、捕集する極細繊維状の溶融物が極細でも流動化し過ぎずに適度な流動状態で、その繊維形状を保持しながら、良好に繊維の交点での融着点を形成することができる。前記溶融物はその後の温度低下でゴム状態となって伸縮性を備えた極細繊維となり、該極細繊維の架橋点密度の高いネットワークを形成した、伸縮性を有する不織布を得ることができる。吐出した繊維状の溶融物は、電界で延伸されて5μm以下の極細とすることができる。
この点、従来の電界紡糸法にて得られる極細繊維の不織布では、上記の物性(a)及び(b)の両方の要件を満たすものでなく、本発明の不織布は得難い。従来、物性(b)の要件を満たさないことで、その製造工程における紡糸時の冷却工程で、より高い温度域で繊維構成樹脂が結晶化して硬化せざるを得ず、繊維として伸縮性を有さないものにならざるを得ない。また従来は、繊維が集積されて不織布化する過程において集積前に樹脂結晶化に伴って硬化してしまうため集積時に繊維交点での融着が生じ難い。そのため、従来の極細繊維の不織布では、引っ張るとそのまま繊維が交点を滑りながら破断していき、引っ張りに対する回復力は生じなかった。
これに対し、本発明の不織布は、前述の物性(a)及び(b)の性質を示すことで、伸縮する極細繊維を含んで、融着点による繊維のネットワーク構造を備え、所望の伸縮性を備えたものとなる。
【0042】
上記捕集機の設定温度は、上記の範囲において上記物性(b)等に応じて適宜に設定すればよく、樹脂の流動性を確保する観点から、40℃以上が好ましい。
また、捕集機への貼り付きを防ぐ観点から、70℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、45℃以下が更に好ましい。
なお、上記の点を除き、既存の方法を適宜に適用することができる。
また、紡糸ノズルと捕集機との間の空間も上記と同様の温度範囲で加温することがより好ましい。
【0043】
ポリオレフィン樹脂を含む溶融物は、ポリオレフィン樹脂のみの溶融物であることも好ましく、ポリオレフィン樹脂と他の成分との混合溶融物であることも好ましい。前記ポリオレフィン樹脂としては前述の不織布について示した種々のものを用いることが好ましい。また、前記ポリオレフィン樹脂の融点は前述の不織布について示した範囲とすることが好ましい。
紡糸工程で樹脂溶融液をより均一に帯電させやすくする観点、より細い紡糸繊維をより安定的に得る観点からは、上記溶融物はアニオン性界面活性剤を含むことが好ましい。
このアニオン性界面活性剤は、融点が20℃を越えるアニオン性界面活性剤であることが好ましい。アニオン性界面活性剤の融点が20℃を越える(20℃で固体状である)ことにより、20℃以上30℃以下にてポリオレフィン樹脂のペレット原料と混合する際に混合機の投入口内壁にアニオン界面活性剤が付着せずに混合機に投入することができる。
上記溶融物中、アニオン性界面活性剤の含有量は、ポリオレフィン樹脂を含む樹脂溶融物をマトリクス中に均一に分散させる観点から10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、7質量%以下とすることも好ましい。
また、当該含有量はポリオレフィン樹脂を含む溶融物に一定の帯電性を付与する観点から、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。
【0044】
本発明の不織布の製造方法において、前述の電荷紡糸法にて製造した不織布と別の不織布とを重ね合わせて積層する場合、エンボス処理によって一体化する手段を用いることができる。
【0045】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の不織布及び不織布の製造方法を開示する。
【0046】
<1>
ポリオレフィン樹脂を含むメジアン繊維径5μm以下の繊維で構成され、下記物性(a)及び(b)を満たす不織布:
(a)200℃の溶融状態における粘度が、せん断速度0.1s-1で15Pa・s以下である;
(b)200℃の溶融状態から降温速度を4℃/分として得られる動的粘弾性曲線において、200℃以下50℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも低く、38℃以下10℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも高い。
【0047】
<2>
ポリオレフィン樹脂を含むメジアン繊維径5μm以下の繊維で構成され、30%伸長時のヒステリシス損失が85%以下、破断伸度が90%以上、下記式からなる1m幅あたりの、坪量で規格化した引張強度が2N・m/g以上4N・m/g以下である不織布。
[坪量で規格化した引張強度]={[試験片の引張強度(N)]/[試験片幅(m)]}/[坪量(g/m)]
<3>
前記ポリオレフィン樹脂の結晶化度が5%以上10.5%以下であり、好ましくは7%以上10%以下である、前記<1>又は<2>に記載の不織布。
<4>
前記ポリオレフィン樹脂に占める結晶性ポリオレフィン樹脂の割合が0質量%以上5質量%未満であり、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2.5質量%以下である、前記<1>~<3>のいずれか1に記載の不織布。
<5>
前記繊維の交点の数に占める融着点の数の割合は、50%以上100%以下、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、更に好ましくは80%以上である、前記<1>~<4>のいずれか1に記載の不織布。
【0048】
<6>
前記不織布の構成繊維中、前記ポリオレフィン樹脂の含有量は、70質量%以上100質量%以下であり、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは92質量%以上であり、殊更好ましくは94質量%以上である、前記<1>~<5>のいずれか1に記載の不織布。
<7>
前記ポリオレフィン樹脂は、オレフィン単独重合体及び/又はオレフィン共重合体から選ばれる1又は2以上を含み、好ましくはポリプロピレン樹脂又はポリエチレン―α―オレフィン共重合体(α―オレフィンはプロピレンも含む炭素数3以上を有するもの)から選ばれる1又は2以上を含み、より好ましくはポリプロピレン樹脂から選ばれる1又は2以上を含む、前記<1>~<6>のいずれか1に記載の不織布。
<8>
前記不織布のメジアン繊維径は0.05μm以上3μm以下であり、好ましくは0.1μm以上2μm以下であり、より好ましくは0.3以上μm1μm以下であり、更に好ましくは0.4μm以上であり、一層好ましくは0.5μm以上である、前記<1>~<7>のいずれか1に記載の不織布。
<9>
前記不織布の200℃の溶融状態における粘度は、せん断速度0.1s-1で、3Pa・s以上15Pa・s以下であり、好ましくは4Pa・s以上13Pa・s以下であり、より好ましくは5Pa・s以上10Pa・s以下である、前記<1>~<8>のいずれか1に記載の不織布。
<10>
前記不織布が伸縮性を有し、前記伸縮性を有するとは、不織布を30%伸長した時のヒステリシス損失が85%以下である、前記<1>~<9>のいずれか1に記載の不織布。
【0049】
<11>
前記不織布の30%伸長時のヒステリシス損失は50%以上85%以下であり、好ましくは60%以上80%以下であり、より好ましくは70%以上75%以下である、前記<1>~<10>のいずれか1に記載の不織布。
<12>
前記不織布の破断伸度は90%以上400%以下であり、好ましくは95%以上350%以下であり、より好ましくは100%以上300%以下であり、さらにより好ましくは120%以上300%以下である、前記<1>~<11>のいずれか1に記載の不織布。
<13>
前記不織布の引張強度は2N・m/g以上4N・m/g以下であり、好ましくは2.5N・m/g以上3.5N・m/g以下である、前記<1>~<12>のいずれか1に記載の不織布。
【0050】
<14>
前記不織布の坪量は5g/m以上40g/m以下であり、好ましくは10g/m以上30g/m以下である、前記<1>~<13>のいずれか1に記載の不織布。
【0051】
<15>
前記<1>~<14>のいずれか1に記載の不織布と、該不織布とは別の不織布又は紙とを積層してなる積層不織布。
<16>
前記別の不織布は伸縮スパンボンド不織布、非伸縮スパンボンド不織布、伸縮スパンレース不織布、非伸縮スパンレース不織布から選ばれる1又は2以上を含む、前記<15>に記載の積層不織布。
【0052】
<17>
下記物性(a)及び(b)を満たす、ポリオレフィン樹脂を含む溶融物を、電界紡糸法によりメジアン繊維径5μm以下の繊維状に紡糸して、表面温度を40℃以上70℃以下に設定した捕集機により捕集する工程を含む、不織布の製造方法:
(a)200℃の溶融状態における粘度が、せん断速度0.1s-1で15Pa・s以下である;
(b)200℃の溶融状態から降温速度を4℃/分として得られる動的粘弾性曲線において、200℃以下50℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも低く、38℃以下10℃以上の温度域で貯蔵剛性率が損失剛性率よりも高い。
【0053】
<18>
前記捕集機の設定温度は40℃以上50℃以下であり、好ましくは40℃以上45℃以下である、前記<17>に記載の不織布の製造方法。
【0054】
<19>
前記溶融物が、融点が20℃を越えるアニオン性界面活性剤を含む、前記<17>又は<18>に記載の不織布の製造方法。
【0055】
<20>
前記溶融物中、アニオン性界面活性剤の含有量は1質量%以上10質量%以下であり、好ましくは2質量%以上8質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上7質量%以下である、前記<19>に記載の不織布の製造方法。
<21>
前記ポリオレフィン樹脂の融点は、60℃以上180℃以下、好ましくは170℃以下、より好ましくは160℃以下である、前記<17>~<20>のいずれか1に記載の不織布の製造方法。
【実施例0056】
本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。なお、本実施例において「部」および「%」は、特に断らない限りいずれも質量基準である。
【0057】
[実施例・比較例] 不織布の作製
下表に示す組成(質量%)で原料を溶融混合して溶融物を得た。この溶融物を電界紡糸法により紡糸した。その際、紡糸ノズルの周囲より噴出した加熱熱風により紡糸ノズルと捕集機との間の空間を40℃以上に加温して、紡糸繊維を、表面温度を40℃に加温した捕集機上に捕集するようにした。このとき捕集機のコンベアは動かさず固定し、捕集機のコンベア上の電界紡糸繊維集積域に信越ポリマー株式会社製、商品名:耐熱お料理ペーパークッキングシート30m(剥離処理がされたクッキングシート)を貼り付け、このクッキングシート上に電界紡糸繊維からなる不織布を作製した。尚、捕集機のコンベアを固定して得られた不織布であるため特に不織布自体は方向性を持たない。紡糸ノズルと捕集機との距離は600mmとした。これにより、下表に示すメジアン繊維径を有する坪量20~25g/mの不織布を形成した。上記の作製方法により、不織布層内では、繊維交点で融着点が形成されていた。
得られた不織布をクッキングシートから伸長することなく剥して各種測定および分析に供した。不織布の測定・分析結果を下表及び図2~5に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
実施例1~2において、少なくとも200℃から50℃にかけて貯蔵剛性率(G’)が損失剛性率(G’’)よりも低い状態が維持され、少なくとも38℃以下10℃以上という、より低温の温度域において貯蔵剛性率(G’)と損失剛性率(G’’)の値が逆転して且つ貯蔵剛性率(G’)の値が10~10Paというゴム状の物性を有するという、特異な物性を示していた。これにより、実施例1および2にて得られた不織布は、極細繊維で構成され、かつ伸縮性を示すものであった。
これに対し、比較例1および2では、90℃から70℃付近で貯蔵剛性率(G’)は損失剛性率(G’’)を上回っていた。これと関係して繊維集積時(不織布化時)の繊維交点の融着点の割合が実施例1および2に比べ少なくなっており、破断伸度も90%を下回る結果となった。また、比較例3においては120℃付近で貯蔵剛性率(G’)は損失剛性率(G’’)を上回り、120℃付近で貯蔵剛性率(G’)は108[Pa]以上に上昇しており結晶化している挙動を示した。これと関係して繊維集積時の繊維交点の融着点の割合は比較例1および2よりも更に少なくなっており、不織布伸度も更に低下した。以上のことから比較例3は伸縮性を有する不織布にはなっていなかった。

図1
図2
図3
図4
図5