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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119671
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】繊維シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20240827BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240827BHJP
   B32B 25/16 20060101ALI20240827BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20240827BHJP
   D04H 5/06 20060101ALI20240827BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240827BHJP
   A61F 13/00 20240101ALI20240827BHJP
   A61F 13/02 20240101ALI20240827BHJP
【FI】
B32B5/26
B32B27/32 E
B32B25/16
B32B27/40
D04H5/06
D04H1/728
A61F13/00 301A
A61F13/00 355F
A61F13/02 310A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026742
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕太
(72)【発明者】
【氏名】植松 武彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 良彦
(72)【発明者】
【氏名】小野 真帆子
(72)【発明者】
【氏名】東城 武彦
【テーマコード(参考)】
4F100
4L047
【Fターム(参考)】
4F100AK03A
4F100AK03B
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK28A
4F100AK28B
4F100AK51A
4F100AK51B
4F100BA02
4F100DG01A
4F100DG01B
4F100EC03
4F100GB66
4F100GB90
4F100JA11A
4F100JK05
4F100JK08
4F100YY00A
4F100YY00B
4L047AA14
4L047AA18
4L047AA25
4L047AB02
4L047AB04
4L047AB07
4L047AB08
4L047BA03
4L047BA08
4L047CA02
4L047CA05
4L047CA19
4L047CB01
4L047CC01
4L047CC03
(57)【要約】
【課題】極細繊維を含み、方向性のある伸縮性を発現すると同時に破れや擦過に対する耐性が高い、繊維シートを提供する。
【解決手段】メジアン繊維径0.3μm以上5μm以下である第1繊維層とそれに隣接するメジアン繊維径5μm以上50μm以下である第2繊維層とを有する繊維シートであり、前記第1繊維層と第2繊維層が同一系材料を含み、該同一系材料がオレフィン系樹脂、ジエン系樹脂、およびウレタン系樹脂ならびにこれらの共重合体から選ばれ、前記繊維シートの一方向の伸び率が20以上100以下、該一方向に直交する方向の伸び率が0以上30以下である繊維シート。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メジアン繊維径0.3μm以上5μm以下である第1繊維層とそれに隣接するメジアン繊維径5μm以上50μm以下である第2繊維層とを有する繊維シートであり、
前記第1繊維層と第2繊維層が同一系材料を含み、該同一系材料がオレフィン系樹脂、ジエン系樹脂、およびウレタン系樹脂ならびにこれらの共重合体から選ばれ、
前記繊維シートの一方向の伸び率が20以上100以下、該一方向に直交する方向の伸び率が0以上30以下である繊維シート。
【請求項2】
前記同一系材料がオレフィン系樹脂であり、
前記第1繊維層は低結晶性のオレフィン系樹脂を含む、請求項1記載の繊維シート。
【請求項3】
前記第1繊維層は、走査性電子顕微鏡画像の0.128mm×0.096mmの視野における繊維交点の数に占める融着点の数の割合が、50%以上である、請求項1又は2記載の繊維シート。
【請求項4】
前記第1繊維層の坪量が1g/m以上8g/m以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維シート。
【請求項5】
前記第2繊維層の坪量が8g/m以上50g/m以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維シートを含んでなる絆創膏、包帯、筒状体又は手袋。
【請求項7】
一方向の伸縮性を有する、請求項6記載の絆創膏、包帯、筒状体又は手袋。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維を含んでなるシート(以下、繊維シートという)には、例えば不織布などが含まれ、様々な構造を備えたものがある。
例えば、特許文献1には、粘着性の無いメルトブローン不織布上に粘着性のメルトブローン不織布が積層し接合された多層伸縮性不織布が記載されている。これらメルトブローン不織布はともに熱可塑性エラストマーからなり伸縮特性を備える。該多層伸縮性不織布では、製造時に粘着性を有していても、前記の伸縮特性を落とすことなく製造設備への粘着現象の発生を抑えるようにしている。
特許文献2には、主として熱可塑性樹脂の繊維からなり、一方向とそれと直交する方向で伸び率を異ならせた不織布が記載されている。これにより、一方向にだけ伸縮性を有するものとしたい場合に、不織布に対して事後的に加工する必要が無くなるとされている。
【0003】
繊維シートには、上記の一般的な不織布の他、近年注目されるようになってきた極細繊維(例えば繊維径5μm以下)を堆積させてなるものがある。ここまで細い繊維からなる繊維シートを均一に製造する紡糸技術の一例として、例えば電界紡糸法(エレクトロスピニング法)が用いられる。このような極細繊維を含む繊維シートは、皮膚等の対象物との密着性が高く、今後様々な用途に用いることが期待されており、工業化に向けて鋭意検討がなされている。例えば、特許文献3記載のナノファイバシートは、美容効果を目的に皮膚に貼付するものとして示されている。ここでは、表情の変化等で皮膚表面に皺が発生してもナノファイバシート自体の平滑状態を維持して皮膚の皺に対する隠蔽性を保持する観点から、ナノファイバシート自体の剛性及び皮膚に対する滑り性を制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-237752号公報
【特許文献2】特開平9-279460号公報
【特許文献3】特開2021-54734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3に記載されるような極細繊維を含む繊維シートについて、皮膚等の対象物への密着性を更に高める観点から、伸縮性を付与することが求められるようになってきた。
一方で、前記繊維シートは、その構成繊維の細さから従来の不織布などよりも柔らかい。そのため前記繊維シートには、伸縮性と同時に、破れや擦過に対する耐性の更なる向上が、前述の密着性を損なわない範囲で必要となる。この点について、特許文献1及び2記載の従来の一般的な繊維径の不織布には示されていない。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑み、極細繊維を含み、方向性のある伸縮性を発現すると同時に破れや擦過に対する耐性が高い、繊維シートに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、メジアン繊維径0.3μm以上5μm以下である第1繊維層とそれに隣接するメジアン繊維径5μm以上50μm以下である第2繊維層とを有する繊維シートであり、前記第1繊維層と第2繊維層が同一系材料を含み、該同一系材料がオレフィン系樹脂、ジエン系樹脂、およびウレタン系樹脂ならびにこれらの共重合体から選ばれ、前記繊維シートの一方向の伸び率が20以上100以下、該一方向に直交する方向の伸び率が0以上30以下である繊維シートを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維シートは、極細繊維を含み、方向性のある伸縮性を発現すると同時に破れや擦過に対する耐性が高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る繊維シートの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】(A)は、第1繊維層を単独で指で摘まんだ状態を示す図面代用写真であり、(B)は、本発明の繊維シートを指で摘まんだ状態を示す図面代用写真である。
図3】第1繊維層の極細繊維同士の交点における融着点を模式的に示す説明図である。
図4図4は繊維交点の数に占める融着点の数の割合を測定する際に用いられる観察画像の一例を示す図面代用写真である。
図5】第1繊維層と第2繊維層との間の界面での双方の繊維同士の交点に融着点を含む例を示す模式図であり、(A)は伸長前を示し、(B)は伸長した状態を示す。
図6】(A)~(C)は、繊維シートの圧縮強さを測定する手順を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の繊維シートの好ましい一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1に示すように、本発明の繊維シート10は、第1繊維層1とこれに隣接する第2繊維層2とを有する積層シートである。第1繊維層1は、繊維シート10の表裏面のうち一方の面側10Tに配され、第2繊維層2は、一方の面側10Tと反対側の他方の面側10Bに配される。本発明の繊維シート10は、第1繊維層1及び第2繊維層2に更に他の繊維層を含むものであってもよい。この場合、第1繊維層1の後述の特性を有意に作用させ、第1繊維層1と第2繊維層2との連携作用を損なわないようにする観点から、前記他の繊維層は、第2繊維層2の他方の面側10Bにあることが好ましい。すなわち、第1繊維層1は繊維シート10の最外層に配されることが好ましい。
【0012】
第1繊維層1は、メジアン繊維径(P1)が0.3μm以上5μm以下の極細繊維を含む。例えば電界紡糸法によって形成することができる。このような第1繊維層1は、繊維の細さから繊維単位の凹凸が従来の不織布等の繊維層より抑えられ、対象物(例えば皮膚表面)との接触面積が多くなり、該対象物との密着性が高くなる。このことから、繊維シート10において、第1繊維層1の側を対象物対向面とすることが好ましい。
【0013】
第1繊維層1のメジアン繊維径(P1)は、皮膚表面等の対象物との密着性をより高める観点から、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、2μm以下が更に好ましく、1μm以下が殊更に好ましい。
また、第1繊維層1のメジアン繊維径(P1)は、繰り返しの伸縮動作に耐える耐久性を付与する観点から、0.3μm以上が好ましく、0.4μm以上がより好ましく、0.5μm以上が更に好ましい。
【0014】
第2繊維層2は、メジアン繊維径(P2)が5μm以上50μm以下の繊維を含む。第2繊維層2は、上記メジアン繊維径を有することにより、第1繊維層1の前述の密着性の特性を損なわないようにして、第1繊維層1を含めた繊維シート10全体のシート強度ないし剛性を付与し、破れや擦過に対する耐性を高める。このような第2繊維層2は、この種の物品において通常用いられる方法により、メジアン繊維径を適宜設定して得ることができる。例えば、スパンボンド法を用いて得る不織布などが挙げられる。
【0015】
第2繊維層2のメジアン繊維径(P2)は、繊維シート10全体を薄くし、伸縮し易くする観点から、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、25μm以下が更に好ましい。
また、第2繊維層2のメジアン繊維径(P2)は、破れや擦過に対する耐性を高める観点から、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上が更に好ましい。
【0016】
更に、第1繊維径1のメジアン繊維径(P1)に対する第2繊維径2のメジアン繊維径(P2)の比(P2/P1)は、第1繊維層1の皮膚表面への密着性の特性を維持しながら繊維シート10全体の強度を高める観点から、1.5以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上が更に好ましい。
また、前記比(P2/P1)は、繊維シートの全体厚みを薄くし、伸縮性を高める観点から、170以下が好ましく、150以下がより好ましく、100以下が更に好ましい。
【0017】
(メジアン繊維径の測定方法)
(1)繊維シート10を繊維層間で剥離し測定対象となる繊維層を取り出す。この繊維層を10mm×10mmにカットする。これを予め走査型電子顕微鏡用試料台(応研商事株式会社製)に導電性カーボン両面テープ(応研商事株式会社製)を介して貼り付ける。
(2)前記繊維層が貼り付けられた試料台をスパッタリング装置(株式会社日立ハイテク製、Ion Sputter E-1030)に供する。アルゴンガス雰囲気下で6Paに減圧し、白金-パラジウム(Pt-Pd)蒸着を行う。尚、繊維層マウント面とPt-Pd電極との距離を30mm、蒸着時間を80秒、蒸着時電流値を30mAとする。
(3)走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテク製、S-4300SE/N)に試料台を供し、高精細モードで観察画像を取得する(加速電圧:5kV、ワーク距離:10mm、観察倍率500倍または1000倍)。同一試料について観察場所を変えて計15箇所より観察画像を取得する。
(4)前記(3)で取得した観察画像より、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製WinRooF2015)を用いて繊維層の繊維径を測定する。延べ600本の繊維径測定値より、数平均径、(細径側より)数10%径(D10)、数50%径(メジアン径)、および数90%径(D90)を集計する。このうち、メジアン径を繊維径の代表値とする。
【0018】
第1繊維層1と第2繊維層2とが同一系材料を含んでいる。この同一系材料とは繰り返し単位(モノマー構造)が同一の高分子構造を有する材料のことである。具体的には、同一系材料は、オレフィン系樹脂、ジエン系樹脂、およびウレタン系樹脂ならびにこれらの共重合体から選ばれるものである。
第1繊維層1と第2繊維層2とが同一系材料を含んでいることで、互いの樹脂成分の分子構造が近似し、互いの繊維同士の相溶性が高い。そのため、第1繊維層1と第2繊維層2とが強固に融着されやすく、繊維シート10の一体性を高める。
また、同一系材料は、オレフィン系樹脂、ジエン系樹脂、およびウレタン系樹脂ならびにこれらの共重合体から選ばれるものであり、第1繊維層1と第2繊維層2とが共にエラストマーを含んで伸縮性を備えるものとなる。
【0019】
(第1繊維層1と第2繊維層2が同一系材料を含んでいることの測定方法)
第1繊維層1と第2繊維層2が同一系材料を含んでいることを測定する方法については、各繊維層間で剥離を行い、それぞれの繊維層に含まれる樹脂組成物を測定すればよい。樹脂組成物を核磁気共鳴(NMR)分析、赤外分光(IR)分析等の各種分析に供して、これらの分析によって得られる各シグナル、スペクトルの位置に基づいて、分子骨格の構造及び分子構造の末端の官能基構造を同定する。これによって繊維層毎に、含有する樹脂の種類を同定し、特定する。繊維層毎に特定した樹脂組成物を比較し同一系材料を含んでいるか否かを判断する。
【0020】
本発明の繊維シートは、互いに隣接する第1繊維層1と第2繊維層2とが共に伸縮性を備えながら、一体性が高い。この一体性により、繊維シート10の伸縮時に第1繊維層1と第2繊維層2との界面で剥離が生じ難い。剥離の抑制により、繊維シート10全体にシート強度ないし剛性が生まれ、全体にコシが出てくる。そして、第1繊維層1が第2繊維層2と共に伸縮されやすくなる。これにより、繊維シート10は全体として、繰り返しの伸縮動作に耐え得る耐久性を備える。すなわち、本発明の繊維シート10は、第1繊維層1と第2繊維層2とが高い一体性を備えて、全体のシート強度ないし剛性が高くされた状態で伸縮するようにされている。そのため、繊維シート10の伸縮挙動の中で、第1繊維層1のヨレや擦過が生じ難くなる。また、第1繊維層1における毛抜けも抑制される。
このように繊維シート10は全体として伸縮性と共にシート強度が向上し、伸縮性が発現しても、破れや擦過に対する耐性を高められる。そして、繊維シート10全体の伸縮によって、第1繊維層1は、皮膚表面等の対象物の形状、様々な変化(動き)に追従でき、該変化の下でも前述の密着性の特性を十分発揮することができる。
【0021】
本発明の繊維シート10は、第1繊維層1と第2繊維層2との一体性により剛性が備わり、ハンドリング性が高められる。すなわち、極細繊維からなる第1繊維層1単独の繊維シートの場合よりもコシが得られ(図2(A)及び(B))、取り扱いが容易になるという効果をも奏する。例えば、繊維シート10が何枚も積層された状態や、包装袋や容器等で保管された状態から1枚の繊維シート10を取り出して使用(例えば皮膚表面に貼付)しようとする場合に、コシが取り出し易さに顕著に影響する。また、取り出した際も、本発明の繊維シート10は、第1繊維層1単独の繊維シート(例えば図2(A))よりも丸まり難く、ハンドリング性が高められる。これにより、皮膚表面等の対象物に皺なくきれいに貼り付けることが可能となる。
【0022】
上記の同一系材料は、第1繊維層1及び第2繊維層2の一体性を高め、これらを含む繊維シート10の伸縮性を高める観点から、オレフィン系樹脂が好ましい。オレフィン系樹脂を用いることにより、繊維シート10を伸縮させた際に第1繊維層1と第2繊維層2が剥がれづらくなる。
また、同様の観点から、第1繊維層1は、低結晶性のオレフィン系樹脂を含むことが好ましい。前記「低結晶性」とは、結晶化度が10.5%以下であることを意味し、下記方法により測定することができる。第1繊維層1が低結晶性のオレフィン系樹脂を含むことで、第1繊維層1自体が伸縮し易くなる。
第1繊維層1が低結晶性のオレフィン系樹脂を含む場合、第1繊維層1に占める該低結晶性のオレフィン系樹脂の質量割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、92質量%以上がさらに好ましく、94質量%以上がよりさらに好ましい。
【0023】
(第1繊維層1が低結晶性のオレフィン系樹脂を含むことの測定方法)
第1繊維層1を構成する樹脂組成物をNMR分析、IR分析等の各種分析に供する。これらの分析によって得られる各シグナル、スペクトルの位置に基づいて、分子骨格の構造及び分子構造の末端の官能基構造を同定する。これによって含有する樹脂の種類を同定し、特定する。
次に結晶性については示差走査熱量測定を用いて測定する。樹脂組成物を昇温した際得られる融解熱の合計を完全結晶の融解熱で除する。この値が10.5%より小さければ低結晶性のオレフィン系樹脂を含んでいるものと判断する。
【0024】
上記の同一系材料は、第1繊維層1及び第2繊維層2の一体性を高め、これらを含む繊維シート10の伸縮性を高める観点から、例えば次のような具体例が挙げられる。
すなわち、オレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン(以下、PPと呼ぶ)、ポリエチレンなどが挙げられる。
低結晶性のオレフィン系樹脂としては、立体規則性が制御されたポリプロピレン(メタロセン触媒で立体規則性を制御されて重合されたポリプロピレン)を始めとするα―オレフィンなどが挙げられる。
ジエン系樹脂としては、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどが挙げられる。
ウレタン系樹脂としては、ポリウレタンなどが挙げられる。
オレフィン系樹脂、ジエン系樹脂、ウレタン系樹脂の共重合体として、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・1-オクテン共重合体、エチレン・イソプレン共重合体、エチレン・ブタジエン共重合体、プロピレン・イソプレン共重合体、プロピレン・ブタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・イソプレン共重合体、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体などが挙げられる。
【0025】
繊維シート10は、第1繊維層1及び第2繊維層が共に伸縮性を備えて一体化されている構造において、平面方向における一方向Y(Y方向ともいう)の伸び率が20以上100以下、該一方向に直交する方向X(X方向ともいう)の伸び率が0以上30以下であることが好ましい。これら互いに直交する二方向で伸び率に差が生じることで、繊維シート10は伸縮性に方向性を備える。この一方向Yと該一方向Yに直交する方向Xは、繊維シート10の使用目的に応じて適宜定められる。例えば、繊維シート10の長手方向を一方向Y、幅方向を一方向Yに直交する方向Xとしてもよい。この場合、繊維シート10の長手方向を、適用する物品において必要とする伸縮方向に沿わせることが好ましい。
【0026】
(伸び率の測定方法)
繊維シート10における上記の伸び率は、幅20mm及び長さ70mmの試験片を、つかみ間隔50mmで固定し、引張荷重1.2N時の試験片の伸びを、つかみ間隔50mmに対する割合(%)で示したものをいう。より具体的には、伸び試験前の試験片のつかみ間の長さをL0とし、破断伸長時の試験片のつかみ間の長さをLBとし、伸び率(%)=100×(LB-L0)/L0として求めることができる。測定は、繊維シート10のシート平面内の互いに直交するいずれの二方向、例えば長手方向と該長手方向に直交する幅方向の二方向に沿って行う。
【0027】
繊維シート10が上記伸び率の差によって伸縮性の方向性を有することで、使用目的に応じた伸縮性となるよう好適に制御して、伸縮性を必要としない方向での伸びすぎや伸縮に伴う過剰な負荷を軽減することができる。これにより、第1繊維層1のヨレや擦過、破れをより効果的に抑制することができる。
例えば、繊維シート10を手袋にした場合に、指の長さ方向の伸縮性を大とし、該長さ方向に直交する幅方向の伸縮性を小とすることが好ましい。これにより、使用者の指の先端や水かきに対し、密着性の高い手袋を提供することが可能となる。
一方で、繊維シート10を手袋にした場合に、指の長さ方向の伸縮性を小とし、該長さ方向に直交する幅方向の伸縮性を大とすることも好ましい。これにより、繊維シート10を用いた手袋を装着する際に、使用者の指の太さに応じて密着性の高い手袋を提供することが可能となる。
【0028】
以上の通り、本発明の繊維シート10は、極細繊維を含み、方向性のある伸縮性を発現すると同時に破れや擦過に対する耐性が高いものとなる。
【0029】
繊維シート10の一方向Yにおける伸び率(T1)は、前述の作用をより高める観点から、20%以上が好ましく、25%以上がより好ましく、30%以上が更に好ましい。
前記伸び率(T1)は、繊維シートを任意の形状に加工し装着する観点から、100%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、60%以下が更に好ましい。
繊維シート10の一方向Yに直交する方向Xおける伸び率(T2)は、繊維シートを連続搬送する観点から、0%以上が好ましい。
前記伸び率(T2)は、繊維シートを連続搬送するの観点から、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましい。
【0030】
繊維シート10の一方向Yの伸び率(T1)と、一方向Yに直交する方向Xの伸び率(T2)との差の絶対値|T1-T2|は、繊維シート10の伸縮性の方向性をより明確にし、第1繊維層1のヨレ、擦過及び破れをより効果的に抑制する観点から、0以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上が更に好ましい。
前記差の絶対値|T1-T2|は、繊維シートの皮膚等の対象物への装着性を高める観点から、70以下が好ましく、60以下がより好ましく、50以下が更に好ましい。これにより、例えば繊維シート10を手袋に適用する場合、該手袋における直交する二方向の伸び率のバランスをとって嵌めやすくすることができる。
【0031】
繊維シート10における上記の伸縮性の方向性は、主に第1繊維層1よりも第2繊維層2によって規定される。第1繊維層1は前述の極細繊維を含み、例えば電界紡糸法を用いて樹脂溶液や樹脂溶融液を直接紡糸し堆積させたものであるため、伸縮性の方向性を形成し難い。そのため、第2繊維層2にて主に、繊維シート10の伸縮性の方向性を付与することが好ましい。また、繊維シート10における上記の伸縮性の方向性が主に第2繊維層2によって規定されることにより、繊維シート10の伸長時に、第1繊維層1が破れるよりも前に、第2繊維層2が伸び止まるように好適に制御することができる。この第2繊維層2での伸縮性の方向性は、例えば、搬送方向に伸長させ搬送の過程で冷却固化させることで、搬送方向には伸縮性を有さないが、直交する方向には伸縮性を有する第2繊維層を形成することができる。
【0032】
繊維シート10において第1繊維層1自体の強度をより高める観点から、第1繊維層1の、SEM画像の0.128mm×0.096mmの視野における繊維交点の数に占める融着点(例えば図4における符号D4,D14,D1の囲み部分)の数の割合が、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。これにより、第1繊維層1の極細繊維1本、1本が交点で固定されて強度が高められる。すなわち、第1繊維層1自体の一体性が強化される。例えば、繊維シート10の一方の面側10Tにおける第1繊維層1の表面を指でなぞった際に、繊維の毛羽が立ち難く、繊維の脱落が抑制される。また、繊維交点での融着点で接合面積が抑制されているため、面融着に比して、第1繊維層1自体の剛性の過剰な高まりが抑えられて柔らかさが保持され、前述の密着性の特性が発現されやすくなる。
【0033】
(繊維交点の数に占める融着点の数の割合)
前述の(メジアン繊維径の測定方法)の項の(1)、(2)及び(3)と同様の作業を行い、測定対象の繊維層について観察倍率1000倍のSEM観察画像を取得する。同一試料について、観察場所を変えて、計5箇所において測定する。1箇所あたり試料表面側に焦点を合わせて、計5つの観察画像を取得する。画質としては幅0.128mm、高さ0.096mmとする。取得した観察画像より、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製WinRooF2015)を用いて繊維交点をマーキングし、繊維交点における融着点の数を記録する。繊維交点の合計数に占める融着点の数の割合を以下の式(I)によって算出する。この評価においては観察者と記録者の2名で行う。繊維交点数は上記画像解析ソフト上にて観察者の手によるマーキング処理によって集計する。融着点については観察者が下記融着点の定義にしたがって融着点とした繊維交点を記録者が集計する。
融着点の割合[%]
=融着点の数/繊維交点の合計数×100 (式(I))
尚、繊維交点及び該繊維交点の融着点の定義を以下のように定める。
(繊維交点)
測定対象の繊維層のSEM観察画像において、画像自体を410mm×260mmのモニターにて3倍(300%)に拡大する。この場合に、繊維形状の境界線間の幅(観察画像において確認される繊維幅)が1mmを超えない範囲で焦点が定まったものを選択する。それらが交差している箇所、または交差はしていないが接触している(接している)箇所、または1本の繊維が途中で枝分かれしている箇所を繊維交点と定義する(例えば図4における符号D4,D14,D1の囲み部分)。画像に映っている2本以上の繊維が、長手方向にわたって画像撮影領域の全体または一部において接触して繊維束になっているものが観察画像において見られる場合、それらについても繊維交点として定義する(例えば図4における符号D5の囲み部分)。例えば、4本の繊維が観察画像において隙間なく並んでいる箇所がある場合は、繊維交点の数は3とするといったように定める。尚、繊維層という特性上、SEM観察において検出器に近い側(検体厚み方向表面側)と遠い側(検体厚み方向検体用試料台側)という繊維層の厚みに起因する奥行きが存在する。このため観察画像において見かけ上、繊維が交差しているように見えても当該繊維同士が接触していない場合がある。上述したように、画像自体を410mm×260mmのモニターにて3倍(300%)に拡大した場合に、繊維形状の境界線の幅が1mmを超えない範囲で焦点が定まった複数の繊維は、検体の厚み方向(奥行き)において同等の位置関係にあるとする。このように選択された繊維同士の交点を上述の定義に従って繊維交点とする。
(繊維交点の融着点)
上記で定義した交点の内、(i)前記交点において関連する2本以上の繊維の境界線が明瞭に認められない箇所(例えば図4における符号D4の囲み部分)、(ii)前記交点において関連する1本以上の繊維の、該交点における当該繊維の境界線間の幅が、交点以外の境界線間の幅に比べて拡がりを示している箇所(例えば図4における符号D16の囲み部分)を、繊維交点の融着点と定義する。なおシートが積層されている状態であるときは繊維層間で剥離を行い、測定対象となる繊維層を取り出して上記の作業へ供する。
【0034】
繊維シート10は、上記のような伸縮性を有しながら、第1繊維層1と第2繊維層2との一体性を有し、高い強度を備える。この強度は、破断強度として示される。該破断強度は、前述の伸縮性との関係、伸縮挙動の中での第1繊維層1の擦過及び破れに対する耐性との関係から、前述の伸び率を示す二方向X,Yにおいて下記の範囲にすることが好ましい。
Y方向における破断強度は、伸びに対する耐性を得る観点から1N/20mm以上が好ましく、2N/20mm以上がより好ましく、2.5N/20mm以上が更に好ましい。
X方向における破断強度は、繊維シートの搬送をしやすくする観点から1N/20mm以上が好ましく、3N/20mm以上がより好ましく、5N/20mm以上が更に好ましい。
【0035】
(繊維シート10の破断強度の測定方法)
繊維シート10における破断強度は、幅20mm及び長さ70mmの試験片を、つかみ間隔50mmで固定し、引張速度300mm/分の速度で伸長させ、破断するまでの最大荷重を破断強度とする。測定温度は23℃とする。
【0036】
繊維シート10において、第1繊維層1と第2繊維層2との界面での双方の繊維同士が融着していることが一体性向上の観点から好ましい(例えば図5(A)の融着点32)。また、前記界面での双方の繊維同士は、繊維の形状を保持したまま、双方の繊維交点における融着点により結合していることが、繊維シート10の剛性の過剰な高まりを抑えることができ好ましい。
前記融着は、第1繊維層1及び第2繊維層2が含む樹脂成分が熱により溶融して接着(熱接着など)していることを意味する。第1繊維層1と第2繊維層2とが前述のとおり相溶性の高い同一系材料を含むことから、界面での融着がより強固となる。これにより、第1繊維層1自体の一方の面側10Tでの柔らかさと皮膚表面等への密着性を保持したまま、第1繊維層1と第2繊維層2との一体性がより高められる。特に、繊維シート10の伸縮挙動時に、第1繊維層1と第2繊維層2との界面での剥離をより効果的に抑制でき、両層の追従性がより良好となる(例えば図5(A)から(B))。剥離が抑えられることで、剥離に起因する第1繊維層1のヨレや皺、擦過や破れをより効果的に防止することができる。また、一体性の更なる向上により、繊維シート10に関する前述のハンドリング性がより良好なものとなる。
【0037】
上記作用の更なる向上の観点から、界面での融着の強度は、0.01N/20mm以上が好ましく、0.1N/20mm以上がより好ましく、0.2N/20mm以上が更に好ましい。
また、界面での融着の強度は、現実的には、10N/20mm以下である。
【0038】
(第1繊維層と第2繊維層2との界面での融着の強度の測定方法)
以下の手段にて測定する。
繊維シートの第1繊維層1の表面に粘着性を有するテープを貼付し、該テープを引張試験機でT字剥離する。これにより、第1繊維層1と第2繊維層2との界面での双方の繊維同士の融着の強度を測定できる。第1繊維層と第2繊維層の界面の融着点の数が多いほど、T字剥離した際の抵抗力が増加する。
第1繊維層1の表面側に粘着性を有するテープ(粘着力:4.4N/10mm)を貼付した後、幅20mm及び長さ100mmの試験片を作成する。長手方向側のテープ端部を剥がし、テープ端部および繊維シートをつかみ間隔50mm、引張速度100mm/分で引張り、テープが繊維シートから剥がれる試験力を測定する。得られた試験力の内、つかみ具の移動距離が初期から30mm以上、80mm以内の試験力の平均値を融着の強度、つまり融着力とする。
【0039】
上記の第1繊維層1における繊維交点での融着点、第1繊維層1と第2繊維層2との界面での双方の繊維同士の融着点は、第1繊維層と第2繊維層が前述の同一系材料を含むことで形成されやすい。そして、次のようにして形成することができる。
第2繊維層2の表面上にて、例えば電界紡糸法にて前述の同一系材料を用いた樹脂溶液又は樹脂溶融液をノズルから吐出する。吐出して形成される紡糸繊維(第1繊維層1の構成繊維)を、温度が高く流動性を有する状態で、第2繊維層2上で捕集する。これにより、紡糸繊維同士が交点で融着した状態で捕集でき、紡糸繊維と第2繊維層2の繊維が融着した状態で一体化される。このような紡糸繊維が捕集されることで、前述の繊維交点での融着点を有するネットワークを形成した第1繊維層1が形成される。同時に第1繊維層1と第2繊維層2との界面での双方の繊維同士の融着点を形成できる。上記の紡糸繊維が流動性を有する状態にする温度は、用いられる樹脂原料によって適宜設定される。例えば、第1繊維層1の樹脂原料に低結晶PP樹脂を用いる場合、ゴム状態に変化する40℃以上70℃以下の範囲で紡糸繊維を捕集することが好ましい。また、このような温度は、捕集の受け皿となる第2繊維層2に対して加温し維持することが好ましい。
上記の方法以外に、熱シールによって前述の融着点を形成することもできる。繊維のエラストマーの熱収縮や、樹脂の溶融によるフィルム化を防ぐ観点から、前述のように、熱にさらす時間、回数が少ない紡糸時の融着がより好ましい。
【0040】
繊維シート10において、第1繊維層1の坪量は、1g/m以上8g/m以下が好ましい。第1繊維層1の坪量がこの範囲にあることで、第1繊維層1が持つ前述の柔らかさ、皮膚表面等への密着性、毛管力を伴う製剤液膜の均一化を保持し、これを損なわないようにして強度を備えたものとすることができる。また、坪量が上記範囲に抑えられた第1繊維層1では、前述のメジアン繊維径の極細繊維の本数がその分低減されて繊維空隙の数も減る。これにより、前記繊維空隙の存在による光散乱が抑えられ、第1繊維層1は透明化しやすい。
毛管力をより高める観点、強度をより高める観点から、第1繊維層1の坪量は、1g/m以上が好ましく、1.5g/m以上がより好ましく、2g/m以上が更に好ましい。
また、柔らかさ、皮膚表面等への密着性をより高める観点から、第1繊維層1の坪量は、8g/m以下が好ましく、6g/m以下がより好ましく、5g/m以下が更に好ましい。
【0041】
繊維シート10において、第2繊維層2の坪量は、8g/m以上50g/m以下が好ましい。第2繊維層2の坪量がこの範囲にあることで、繊維シート10全体の強度をより強化して破れや擦過に対する耐性をより高めることができる。また、坪量が上記範囲にされた第2繊維層2では、前述のメジアン繊維径の繊維本数が低減される。
繊維シート10全体の強度を更に高める観点から、第2繊維層2の坪量は、8g/m以上が好ましく、15g/m以上がより好ましく、20g/m以上が更に好ましい。
また、第1繊維層1の柔らかさ、皮膚表面等への密着性を損なわないようにする観点から、第2繊維層2の坪量は、50g/m以下が好ましく、40g/m以下がより好ましく、30g/m以下が更に好ましい。
【0042】
このような繊維シート10は、様々な物品に用いることができる。例えば、皮膚表面に当接させて使用される絆創膏、包帯、筒状体、手袋などに用いることができる。前記筒状体は、具体的には、サポータ、指サック等が挙げられる。
このような物品において、一方向の伸縮性を有することが好ましい。すなわち、繊維シート10における、一方向Yの伸縮方向に沿って伸縮するようにして前記物品に適用することが好ましい。
なお、前記「一方向の伸縮性」とは、前述の(伸び率の測定方法)に基づいてサンプルに1.2N荷重を加えて測定して得られる、互いに直交する二方向の伸び率の差が20%ポイント以上あり、その伸び率が大となる方向をいう。この互いに直交する二方向は、繊維シート10においては、一方向Yと該一方向Yに直交する方向Xである。
【実施例0043】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。なお、本実施例において質量を表現する「部」および「%」は、特に断らない限りいずれも質量基準である。「←」は、左側の欄と同じ内容であることを意味する。「-」は、その項目に該当する値等が無いことを意味する。
【0044】
(実施例1)
樹脂原料PPを用いて、スパンボンド法により、表1に示すメジアン繊維径及び坪量の第2繊維層2を形成した。
樹脂原料PPを用いて樹脂溶融液を調製し、電界紡糸法により紡糸した。その際、紡糸ノズルの周囲より噴出した加熱熱風により紡糸ノズルと捕集装置の間の空間を40℃以上に加温して、紡糸繊維を、流動性を有する状態で第2繊維層2上に捕集させた。また、ノズルと捕集装置との距離は300mmとした。これにより、表1に示すメジアン繊維径及び坪量の第1繊維層1を形成した。上記の作製方法により、第1繊維層1内では、繊維交点で融着点が形成されており、第1繊維層1と第2繊維層2との間の界面で双方の繊維同士の融着点が形成されていた。
これにより、第1繊維層1と第2繊維層2とが強固に一体化され、伸縮性を備える実施例1の繊維シート試料を作製した。得た実施例1の繊維シート試料は、長尺の第2繊維層2の製造時の機械流れ方向(Machine Direction;MD)に沿って100mm、該MD方向に直交する幅方向(Cross Direction;CD)に沿って20mmの矩形のものとして切り出した。すなわち、MD方向及びCD方向が上述の方向X及び方向Yに相当する。
得た繊維シート試料において、表1に示すように、MD方向の伸び率とCD方向の伸び率との差が25%ポイントあった。すなわち、実施例1の伸縮性の方向性は、MD方向であった。
【0045】
(実施例2)
第1繊維層1の坪量を表1に示すものとした以外は、実施例1と同様にして実施例2の繊維シート試料を作製した。
【0046】
(比較例1)
実施例1で作製した第1繊維層1を単独で比較例1の繊維シート試料とした。
【0047】
(比較例2)
実施例1で作製した第2繊維層2を単独で比較例2の繊維シート試料とした。
【0048】
各実施例及び各比較例の繊維シート試料について、下記の試験を行った。
(1)伸び率(1.2N荷重下)
前述の(伸び率の測定方法)に基づき1.2N荷重下で、各繊維シート試料について伸び率を測定した。該伸び率は、各繊維シート試料における、前述のMD方向と該MD方向に直交する幅方向の二方向に沿って測定した。
(2)破断強度
前述の(繊維シート10の破断強度の測定方法)に基づき測定した。
(3)融着力
前述の(第1繊維層1と第2繊維層2との界面での融着の強度の測定方法)に基づき測定した。
(4)圧縮強さ
幅20mm、長さ100mmの試験片Sを10枚重ね、両端S1とS2を20mm重ねたリング状の試験片Qを作成した(図6(A)及び(B))。なおS1とS2の固定にはホチキス等を用い固定した。上記試験片Qの幅方向Xに対し、直径30mm以上の平板W1、W2の2枚で圧縮速度10mm/分の速度で圧縮試験を行った(図6(C))。圧縮試験において最大の圧縮荷重を圧縮強さとして記録した。圧縮強さが大きいほど、シートの剛性が高く、シートのハンドリング性が良好となる。
【0049】
【表1】
【0050】
比較例1においては、伸び率は繊維シートの破断強度が1.2N以下であり測定できなかった。すなわち1.2N程度の荷重を加えた際には破断し、伸びを維持できない。
これに対し、実施例1,2においては、伸び率は表1に記載のようになり伸縮性を発現した。
また実施例1,2は比較例1と比べ、いずれも高い破断強度を持っていた。したがって比較例1と比較して破れに対する耐性が高いことがわかる。
また実施例1,2は第一繊維層と第二繊維層の間に融着力を有しており、これにより擦過に対する耐性が高いことがわかる。
これに加えて、実施例1,2は比較例1と比較例2と比べ、いずれも高い圧縮強さを有していた。このことと、前述の融着力を備えた一体性のある積層構造としたことで、実施例1,2は第1繊維層1単独の比較例1や第2繊維層2単独の比較例2よりもハンドリング性に優れることがわかる。
以上から本発明の繊維シートは伸縮性を発現すると同時に破れや擦過に対する耐性が高いものであることが分かった。それに加えて、本発明の繊維シートは、またハンドリング性にも優れることが分かった。
【符号の説明】
【0051】
1 第1繊維層
2 第2繊維層
10 繊維シート

図1
図2
図3
図4
図5
図6