(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119678
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ストレッチレデューサー圧延における素管の肉厚制御方法
(51)【国際特許分類】
B21B 37/16 20060101AFI20240827BHJP
B21B 37/46 20060101ALI20240827BHJP
B21B 37/78 20060101ALI20240827BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20240827BHJP
B21B 17/14 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B21B37/16 122A
B21B37/46 120
B21B37/78
B21B37/00 300
B21B17/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026753
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】山本 和樹
(72)【発明者】
【氏名】長岡 諒介
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA13
4E124AA15
4E124AA17
4E124BB01
4E124CC03
4E124EE01
(57)【要約】
【課題】ストレッチレデューサー圧延における肉厚精度を高位安定させることによって、収益の向上に寄与するストレッチレデューサーの肉厚制御方法を提供する。
【解決手段】ストレッチレデューサー圧延のテーパー値を決定するに際し、圧延条件のマスターデータ(MD)およびテーパーの感受性を表しそれぞれの外乱要素を含まずに説明変数とした数値を用いたテーパー値予測モデルから予測テーパー値を計算する予測評価工程と、前記テーパー値予測モデルの妥当性を評価するモデルからテーパー初期値を計算し、さらに、前記予測テーパー値をセットアップしてストレッチレデューサー圧延を行った際の鋼管肉厚を計算して、かかる計算上の鋼管肉厚の妥当性を評価する妥当性評価工程と、かかる妥当性の評価の結果に応じて、前記予測テーパー値の補正値W(0を含む)を決めるテーパー値補正工程と、かかるテーパー値補正工程の結果からストレッチレデューサー圧延にセットアップする最終テーパー値を決定する最終テーパー値決定工程とを有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴型圧延ロールによる圧延スタンドを圧延方向に複数配置し、かかる圧延スタンドの先頭スタンドから最終スタンドまでの各ロール間に回転数の差をつけることにより、前記複数の圧延スタンドに通す素管に張力を与えて減肉圧延を施し、所定の鋼管肉厚を得るストレッチレデューサー圧延において、
前記回転数の差を決定するに際し、
圧延条件のマスターデータ(MD)およびテーパーの感受性を表しそれぞれの外乱要素を含まずに説明変数とした数値を用い、予め、かかる数値から最適なテーパー値を予測するモデルとして作成されたテーパー値予測モデルを用い予測テーパー値を計算する予測評価工程と、
前記テーパー値予測モデルの妥当性を評価するモデル(妥当性評価モデル)からストレッチレデューサー圧延前後で素管の肉厚比が変化しないときのテーパー値であるテーパー初期値を計算し、さらに、前記予測テーパー値をセットアップしてストレッチレデューサー圧延を行った際の鋼管肉厚を計算して、かかる計算上の鋼管肉厚の妥当性を評価する妥当性評価工程と、
かかる妥当性の評価の結果に応じて、前記予測テーパー値の補正値W(0を含む)を決めるテーパー値補正工程と、
かかるテーパー値補正工程の結果からストレッチレデューサー圧延にセットアップする最終テーパー値を決定する最終テーパー値決定工程と
を有するストレッチレデューサー圧延における素管の肉厚制御方法。
【請求項2】
前記テーパーの感受性を、
前記複数の圧延スタンドからあらかじめ選択された基準となるスタンドにおける圧延ロールの基準回転数N0に対する、素管の肉厚を1%薄くするために設定するそれぞれのスタンドの回転数Ni(i=1、・・・、end)の比を(Ni/N0)とすると、最終スタンドの回転数比(Nend/N0)と先頭スタンドの回転数比(N1/N0)とを用い、以下の式(1)により算出される定数Aとする請求項1に記載のストレッチレデューサー圧延における素管の肉厚制御方法。
A(%)={1/((Nend/N0)-(N1/N0))}×100・・・(1)
【請求項3】
前記妥当性評価モデルから前記鋼管肉厚の妥当性を評価するに際し、
前記定数Aと、前記予測テーパー値であるTpと、前記テーパー初期値であるBと、ストレッチレデューサー圧延前の目標肉厚に対する実績肉厚比S(%)とを用い、
以下の式(2)によってストレッチレデューサー圧延後の目標肉厚に対する予測肉厚の比T%を計算し、
前記Tが以下の式(3)を満足するかをストレッチレデューサー圧延前に確認する請求項2に記載のストレッチレデューサー圧延における素管の肉厚制御方法。
T(%)=S(%)+A(%)×(Tp(%)-B(%)) ・・・(2)
-5.0% ≦ T(%) ≦ +5.0% ・・・(3)
【請求項4】
前記テーパー値補正工程を、
前記予測肉厚比Tが、前記式(3)を満足する場合は、補正値Wを0とし、前記予測肉厚比Tが、前記式(3)を満足しない場合は、補正値Wを0超とし、前記予測テーパー値Tpにかかる補正値Wを加えるかまたは減じてTp´とし、前記Tが前記式(3)を満足するT´とする工程とする請求項3に記載のストレッチレデューサー圧延における素管の肉厚制御方法。
【請求項5】
前記最終テーパー値決定工程を、
前記補正値Wが0の場合は、前記予測テーパー値Tpをセットアップする最終テーパー値であるTsと決定する一方で、前記補正値Wが0超の場合は、前記Tp´をセットアップする最終テーパー値Ts´とする工程とする請求項4に記載のストレッチレデューサー圧延における素管の肉厚制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間継目無鋼管の製造工程の一つであるストレッチレデューサー圧延の工程において行われる素管の肉厚を制御して、所定の肉厚の熱間継目無鋼管を得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、本発明を用いる熱間継目無鋼管の代表的な製造工程を示す。
まず、ビレットと呼ばれる円柱型の鋼片1を、加熱炉2で所定の温度に加熱したのち、ピアサー3で穿孔圧延を実施し、中空の素管を得る。この素管を、さらに縮径および減肉して目的の素管寸法に近づけるため、マンドレルミル4で延伸圧延を実施する。かかる延伸圧延後の素管は、放熱・抜熱により温度が低下しているため、必要に応じて、加熱炉5を用いて所定の温度まで加熱する。
【0003】
次いで、最終的な目標寸法の鋼管を得るためにストレッチレデューサー6を用いて、複数台の圧延スタンドによるタンデム圧延にて縮径を行うとともにロールの回転数差(テーパー値)を制御して、素管の減肉加工を行う。
【0004】
ストレッチレデューサーにおけるテーパー値について具体的に説明すると、以下の通りになる。
すなわち、
図2に、4番スタンドの回転数に対する各スタンドの回転数の比を取ったグラフを表しているが、
図2において、最も回転数の少ない1番スタンドと最も回転数の多い最終スタンドの、4番スタンドの回転数に対する回転数比の差がテーパー値である。
【0005】
なお、定性的には、かかるテーパー値が大きいと張力が増加して鋼管の肉厚が薄くなる。一方、テーパー値が小さいと張力が減少し鋼管の肉厚は厚くなる。かように、テーパー値をコントロールすることでストレッチレデューサーによる肉厚制御が行われる。
【0006】
ここで、従来の圧延方法では、ロット先頭材を物理式ベースの回帰式を用いて圧延し、目標肉厚との偏差を確認後、2本目以降の圧延材にオペレーターの判断で補正量を加えた圧延を行い、目標の肉厚となるまで繰り返すといった手順を採用していた。
【0007】
ところが、ストレッチレデューサー圧延前の素管寸法は、同一ロット内でもマンドレルミル圧延時のバラツキの影響で異なり、その補正量は素管ごとに大きく異なっている。従って、肉厚の調整は、経験や勘に頼る部分が大きかった。
【0008】
これに対し、かかるストレッチレデューサー圧延における肉厚制御方法として、例えば、特許文献1には、スタンド間の素管張力を圧延後の仕上り管肉厚と目標との偏差を物理式と回帰式に基づいて修正する技術が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、ニューラルネットワークを用いてテーパーを予測し、ストレッチレデューサーの肉厚制御を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4-238608号公報
【特許文献2】特開平9-108721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のようなストレッチレデューサーにおける肉厚制御方法では、素管の圧延温度やスタンドの特性が素管張力に与える影響を無視できないため、これらを考慮した修正式を用いることが望ましい。ところが、最大28スタンド、少なくとも7スタンド程度のロールを配置して行うストレッチレデューサーの圧延では、スタンド台数分の変数が必要であることから多変量となり精度の良い多変量関数を定義することは難しい、という問題がある。
【0012】
さらに、各種変数の初期値に代表されるような定数項もその数が膨大となり管理することが極めて困難であるという問題がある。
【0013】
他方、前記した特許文献2のように、人間の脳神経回路を模擬した深層学習技術の一つであるニューラルネットワークを活用し、その複雑な圧延形態をモデル化してストレッチレデューサーの肉厚制御を行う方法が提案されている。
【0014】
ところが、ストレッチレデューサーの肉厚制御は、外乱因子によるバラツキを多分に含む項目が多いものの、かかるニューラルネットワークは、学習の様子がブラックボックスであることから、かようにバラツキを多分に含む項目のみで学習を行うと、予期せぬ項目を特徴として捉えてしまう。
【0015】
そこで、特許文献2では、外乱因子となり得るロールの偏摩耗量や表面肌の性状を考慮するために、ロールの累積圧延本数という考えが採用されている。
【0016】
しかしながら、かかるロールの特性は、累積された圧延材の変形抵抗や圧延時間といった項目にも大きく作用される。そのため累積圧延本数という考えを採用したとしても、素管長さ、温度などと同様に、肉厚制御にかかる項目はバラツキの大きなものとなってしまい、汎用的にストレッチレデューサーにおける肉厚制御を行うためには、その精度の安定性が課題となる。
【0017】
なお、ニューラルネットワークに対し、機械学習を用いたセットアップ値の予測では、学習に用いたデータ内、すなわち、これまでに経験したことのある内挿となる圧延条件に対しては、優れた予測精度を有する。これに対し、学習データが存在しない、すなわち、これまで経験のない外挿となる圧延条件に対しては、精度が劣化するという課題がある。
【0018】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、熱間継目無鋼管圧延におけるタンデム孔型圧延のセットアップ、すなわち、ストレッチレデューサー圧延における肉厚精度を高位安定させることによって、収益の向上に寄与することを目的とする。加えて、寸法精度を高位安定化することで、寸法が目標値から外れてしまうことによる操業トラブルやかかる操業トラブルの処置などの非定常作業に伴う安全面のリスクを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、熱間継目無鋼管製造プロセスの一つであって、複数のスタンドを用いて圧延を実施する工程である、多くの影響因子が複雑に絡み合うストレッチレデューサー圧延工程における素管の肉厚を制御するものである。
かかる肉厚の制御には、最も回転数の少ないスタンドと最も回転数の多いスタンドの、基準スタンドの回転数に対する回転数比の差であるテーパーの値(テーパー値)を制御する手段が用いられている。
【0020】
発明者らは、かかるテーパー値を決定するために、機械学習を用いることで膨大な数の変数の関係性を精度良く立式することに着目した。さらに、発明者らは、ストレッチレデューサー圧延には、圧延前の外径や肉厚などの計測機器のバラツキを回避することが現実的に不可能である変数や、目標肉厚や長さといった圧延の基礎となる条件であるマスターデータ(MD)以外に、圧延特性を表現する定数であるテーパーの感受性があることに着目した。そして、かかるテーパーの感受性をテーパー特性値(本発明においてA値または定数Aとも呼称する)として、種々の考察を行った。
【0021】
その結果、かかるA値を、説明変数に含む学習済の機械学習モデルに追加で採用することによって、ストレッチレデューサー圧延時のセットアップ項目であるテーパー値の予測精度が格段に安定する可能性があることを知見した。
なお、前記A値は、説明変数であるテーパー値を1変更したら、目的変数である肉厚がX%変化すると考えると、X=Aとなる数である。
【0022】
また、テーパー値をかかるA値の通り設定しても、A値は、あくまで理論上の値であるため、その際の操業条件や測定機器のバラツキによってテーパーの予測精度は上がらない。そこで、発明者らは、このA値を機械学習の説明変数として加えることを試みた。
【0023】
すなわち、多様な材質、縮径量、減肉量等の圧延条件のマスターデータ(MD)を用いて、目的の圧延条件におけるテーパー値を予測するのではなく、まず理論上のA値が類似した圧延条件でグループ分けを行う。次に、それぞれのグループの中で、上記MDを用いて学習済の機械学習モデルを用いたテーパー予測を行うことが予測精度の向上に効果があるのではないかと考えた。
【0024】
ところが、類似したA値によるグループが存在しないような圧延条件、すなわち外挿となる圧延条件におけるテーパーの予測に関しては、機械学習を用いた方法では、機械学習の原理上、優れたテーパーの予測精度を得ることは困難であった。
【0025】
そこで、発明者らは、ストレッチレデューサーの圧延におけるテーパー値とストレッチレデューサー圧延前後の肉厚変化量(%)とに
図3に示すような直線関係があることに着目し、この直線のx軸切片(本発明においてテーパー初期値B値とも呼称する)を学習させ、これをこれから圧延する材料に適用することを試みた。すなわち、機械学習モデルによりB値を予測し、さらに
図3に示す直線の方程式から、予測されたテーパー値(本発明において予測テーパー値とも呼称する)および前工程の肉厚比(=実績肉厚/目標肉厚)(%)を用いてストレッチレデューサー圧延後の肉厚を予測計算する。そうすると、一部を除き予測精度の高い結果が得られることが分かった。
【0026】
発明者らは、さらに予測精度を向上させるために、鋭意検討し、この予測計算値がある管理範囲にあると、ストレッチレデューサー圧延後の肉厚が予測の範囲に入ることを知見した。すなわち、この予測計算値が定められた管理範囲を外れる場合は、A値を用いたテーパー補正または必要に応じたオペレーターによる手介入などによって補正することで、ストレッチレデューサー圧延後の肉厚が予測の範囲に入ることを知見した。
【0027】
すなわち、以上の手順が、ストレッチレデューサーにおいて優れた肉厚精度の熱間継目無鋼管を製造する工程に不可欠であることを知見した。
【0028】
本発明は、以上の知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
1. 穴型圧延ロールによる圧延スタンドを圧延方向に複数配置し、かかる圧延スタンドの先頭スタンドから最終スタンドまでの各ロール間に回転数の差をつけることにより、前記複数の圧延スタンドに通す素管に張力を与えて減肉圧延を施し、所定の鋼管肉厚を得るストレッチレデューサー圧延において、前記回転数の差を決定するに際し、圧延条件のマスターデータ(MD)およびテーパーの感受性を表しそれぞれの外乱要素を含まずに説明変数とした数値を用い、予め、かかる数値から最適なテーパー値を予測するモデルとして作成されたテーパー値予測モデルを用い予測テーパー値を計算する予測評価工程と、前記テーパー値予測モデルの妥当性を評価するモデル(妥当性評価モデル)からストレッチレデューサー圧延前後で素管の肉厚比が変化しないときのテーパー値であるテーパー初期値を計算し、さらに、前記予測テーパー値をセットアップしてストレッチレデューサー圧延を行った際の鋼管肉厚を計算して、かかる計算上の鋼管肉厚の妥当性を評価する妥当性評価工程と、かかる妥当性の評価の結果に応じて、前記予測テーパー値の補正値W(0を含む)を決めるテーパー値補正工程と、かかるテーパー値補正工程の結果からストレッチレデューサー圧延にセットアップする最終テーパー値を決定する最終テーパー値決定工程とを有するストレッチレデューサー圧延における素管の肉厚制御方法。
【0029】
2.前記テーパーの感受性を、前記複数の圧延スタンドからあらかじめ選択された基準となるスタンドにおける圧延ロールの基準回転数N0に対する、素管の肉厚を1%薄くするために設定するそれぞれのスタンドの回転数Ni(i=1、・・・、end)の比を(Ni/N0)とすると、最終スタンドの回転数比(Nend/N0)と先頭スタンドの回転数比(N1/N0)とを用い、以下の式(1)により算出される定数Aとする前記1に記載のストレッチレデューサー圧延における素管の肉厚制御方法。
A(%)={1/((Nend/N0)-(N1/N0))}×100・・・(1)
【0030】
3.前記妥当性評価モデルから前記鋼管肉厚の妥当性を評価するに際し、前記定数Aと、前記予測テーパー値であるTpと、前記テーパー初期値であるBと、ストレッチレデューサー圧延前の目標肉厚に対する実績肉厚比S(%)とを用い、以下の式(2)によってストレッチレデューサー圧延後の目標肉厚に対する予測肉厚の比T%を計算し、前記Tが以下の式(3)を満足するかをストレッチレデューサー圧延前に確認する前記2に記載のストレッチレデューサー圧延における素管の肉厚制御方法。
T(%)=S(%)+A(%)×(Tp(%)-B(%)) ・・・(2)
-5.0% ≦ T(%) ≦ +5.0% ・・・(3)
【0031】
4.前記テーパー値補正工程を、前記予測肉厚比Tが、前記式(3)を満足する場合は、補正値Wを0とし、前記予測肉厚比Tが、前記式(3)を満足しない場合は、補正値Wを0超とし、前記予測テーパー値Tpにかかる補正値Wを加えるかまたは減じてTp´とし、前記Tが前記式(3)を満足するT´とする工程とする前記3に記載のストレッチレデューサー圧延における素管の肉厚制御方法。
【0032】
5.前記最終テーパー値決定工程を、前記補正値Wが0の場合は、前記予測テーパー値Tpをセットアップする最終テーパー値であるTsと決定する一方で、前記補正値Wが0超の場合は、前記Tp´をセットアップする最終テーパー値Ts´とする工程とする前記4に記載のストレッチレデューサー圧延における素管の肉厚制御方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、ストレッチレデューサーの圧延に最も重要な設定値であるテーパー値を高精度に予測することができる。
また、本発明によれば、外挿となる圧延条件においても、ストレッチレデューサー圧延における肉厚精度を高位安定化させることができる。
さらに、本発明によれば、寸法外れによるスクラップとなる製品、製造時に付与される非定常部の吸収代を減少させることができ、収益の向上に寄与することができる。
加えて、寸法精度が向上したことにより、寸法が目標値から外れてしまうことによる操業トラブルやかかる操業トラブルの処置などの非定常作業に伴う安全面のリスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】熱間継目無鋼管の製造プロセスの例を示す図である。
【
図3】テーパー特性値とテーパー初期値の関係性を示す図である。
【
図4】本発明のモデル作成時の実施のフローを示す図である。
【
図5】本発明のストレッチレデューサー圧延前の実施のフローを示す図である。
【
図6】テーパー特性値を加えることによるテーパー予測精度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、熱間継目無鋼管を製造するプロセスの一工程である、複数のスタンドを用いて圧延を実施し、多くの影響因子が複雑に絡み合うストレッチレデューサー圧延工程において、素管の肉厚および鋼管の長さを効果的に制御する方法である。
すなわち、本発明は、
図1に示すように、穴型圧延ロールを圧延方向に複数機配置し、かかるロール間に回転数比差(テーパー)をつけることにより素管に張力を与えて減肉圧延し、目的の鋼管肉厚を得るストレッチレデューサー圧延において、前記ロール間の回転数比差(テーパー)の値(テーパー値)を決定する方法である。
【0036】
かかる方法は、
図4に示すように、素管の材質、鋼管の最終的な目標寸法、ストレッチレデューサー圧延前の素管の寸法実績等、後述するマスターデータ(MD)およびテーパー値の感受性を表し、いずれも外乱要素を含まない説明変数を用いる。そして、かかる説明変数を用い、予め、テーパーの値を予測するモデル(テーパー値予測モデル)およびその妥当性を評価するモデル(妥当性評価モデル)を作成する。
なお、かかるテーパー値予測モデルおよび妥当性評価モデルを作成する過程を、モデル作成工程としてもよい。
【0037】
そして、かかる方法は、
図5に示すように、前記テーパー値予測モデルから予測テーパー値Tsを計算する予測評価工程を有する。
【0038】
また、かかる方法は、
図5に示すように、前記妥当性評価モデルからストレッチレデューサー圧延前後で素管の肉厚比が変化しないときのテーパー値であるテーパー初期値であるBを計算した上で、前記予測テーパー値をセットアップしてストレッチレデューサーを行ったと仮定した際の鋼管肉厚を計算して、かかる計算上の鋼管肉厚の妥当性を評価する妥当性評価工程を有する。
【0039】
さらに、かかる方法は、
図5に示すように、かかる妥当性の評価の結果に応じて、前記予測テーパー値の補正値W(0を含む)を決めるテーパー値補正工程と、かかるテーパー値補正工程の結果からストレッチレデューサー圧延にセットアップする最終テーパー値を決定する最終テーパー値決定工程とを有する。
【0040】
次に、本発明に用いられる設備構成について、
図1に記載のフローを用いて説明する。
まず、熱間継目無鋼管の材料となる円柱型の鋼材ビレット1を加熱炉2にて所定の温度まで加熱後、ピアサー3と呼ばれるマンネスマン効果を利用した熱間穿孔設備により、中空素管を製造する。次いで、かかる中空素管にマンドレルミルバーと呼ばれる中実な圧延工具を挿入する。
【0041】
この状態で、90°交差型に配置された穴型ロールを複数台有するマンドレルミル4と呼ばれる圧延機を通過することで、ロールとバーの間隙によって素管が引き延ばされる。その後、必要に応じ、温度の低下した圧延材に、加熱炉5を用いて所定の温度まで加熱する。
最後に、本発明の対象となる圧延機であるストレッチレデューサー6で張力を付与して、前記素管を、さらに引き延ばすことで最終製品(鋼管)と同等の寸法を得る。
【0042】
かかるストレッチレデューサーでの圧延では、通常2台または3台のロールを用いた穴型のロールから構成される圧延スタンドを7スタンドから最大28スタンド用いたタンデム圧延を行う。
【0043】
最終スタンドの穴型ロールのカリバー径によって外径は決定されるが、肉厚については
図2に記載された後段スタンド(グラフの右側)になる程、基準となるスタンド(今回は4番としている)との回転数比が大きくなるように、つまり張力を付与して減肉加工するために、かかる
図2に記載されたような緩やかなS字カーブを描くよう各スタンドに回転数の配分を行う。
なお、かかる基準となるスタンドは、総スタンド数と各スタンドにおける張力バランスから決定すればよい。また、上記緩やかなS字カーブとは、最終スタンドの断面積と各スタンドの断面積比でテーパーを各スタンドに割り振ったところで決まるカーブである。
【0044】
そして、その際の先頭、最終スタンドのロールの回転数比差をテーパーと呼び、このテーパーの値(テーパー値)をコントロールすることで目的の肉厚および長さに制御する。
【0045】
以下、本発明に用いた説明変数について説明する。
本発明で説明変数として用いた項目は全56項目(圧延スタンドを28スタンド用いた場合)であり、表1にその一覧を示す。この中で、材質、製品外径、製品肉厚、製品長さ、マンドレルミル実績外径、マンドレルミル目標肉厚、マンドレルミル実績長さ、ストレッチレデューサースタンド数、ロール形状、各スタンド回転数などX1~X27および圧延スタンドを28スタンド用いた場合のX29~X56の55項目(本発明において、圧延の基礎となる条件であるマスターデータ(MD)または単に、マスターデータ若しくはMDともいう)は、特に新規なものではなく従来の技術でも用いられている。
【0046】
本発明では、上記マスターデータにテーパーの感受性を表すテーパー特性値A値(表1中X
28)を加えることで、
図6に示すように、機械学習モデルXのテーパー予測精度が改善されている。
【0047】
【0048】
本発明を、
図7を用いてさらに説明する。
本発明は、まず、情報管理用データサーバー7にて管理している材料となるビレット1および各種圧延機を圧延後の鋼管の外径、肉厚、長さ、質量などの測定結果や目標とする最終製品の諸元などの機械学習モデルの説明変数となる項目(マスターデータ)を抽出(前記表1参照)する。
そして、本発明は、マスターデータ(MD)の他に、後述するテーパーの感受性である定数Aを加えた56種類の説明変数を用いて、テーパーを予測する機械学習モデルX8およびテーパー初期値B値を予測する機械学習モデルY12を作成することが重要である。
【0049】
本発明では、複数の圧延スタンドからあらかじめ選択される基準となるスタンドにおける、圧延ロールの基準回転数N
0に対して、素管の肉厚を1%薄くするために設定するそれぞれのスタンドにおける圧延ロールの回転数N
i(i=1、2、・・・、end)との比を(N
i/N
0)とすると、かかる(N
i/N
0)が最大値となる最終スタンドの回転数比(N
end/N
0)と最小値となる先頭スタンドの回転数比(N
1/N
0)とを用い、前記テーパーの感受性を、以下の式(1)により算出されるテーパー特性値Aとする。なお、
図2の説明ではN
0=N
4となる。
A(%)={1/((N
end/N
0)-(N
1/N
0))}×100・・・(1)
【0050】
本発明では、前述した機械学習モデルX、Yの作成は、機械学習モデルX、Yの出力を用いて計算される予測計算鋼管長さ比と実績の鋼管長さ比との差をモデルの精度と考えることができるので、その値の標準偏差の3σが±3%を満たすことができれば、学習モデルは特に種類を問わない。
具体的には、勾配ブースティングを用いることが望ましいが、ロジスティック回帰や2分類回帰モデルや決定木、ランダムフォレストを用いてもよい。
【0051】
このようにして事前作成した学習済の機械学習モデルX、Yを計算用サーバー9に搭載する。機械学習モデルXは予測計算部、機械学習モデルYは妥当性評価部を構成し、ストレッチレデューサー圧延前にセットアップするテーパーを自動で出力し、ストレッチレデューサーの肉厚制御を行う。
【0052】
かような形態で、圧延が開始されると、予測計算部にて説明変数となる55項目が計算用サーバーへ収集される。
次に、計算用サーバーにて前記式(1)を用いてA値を計算し、収集された説明変数にA値を加えて合計56個の説明変数からなるデータセット10を作成する。その後、かかるデータセット10を、機械学習モデルXにて読み込ませストレッチレデューサー圧延前にテーパー値の予測(テーパー値11)を行う。
【0053】
<妥当性の検証>
予測計算部から導出されたテーパー値11をデータセットに加えた新しいデータセット10´を作成し、これを妥当性評価部にて計算用サーバー内に搭載されている機械学習モデルYに読み込ませB値を算出する。その後、後述する式(2)の計算処理により、予測計算されたテーパー値を用いてストレッチレデューサーで圧延した場合の予測される圧延後予測肉厚比Tを求めて、その妥当性を評価する。
【0054】
すなわち、前記妥当性評価モデルから前記鋼管肉厚の妥当性を評価するに際し、前記A値と、前記予測テーパー値Tpと、前記テーパー初期値Bと、ストレッチレデューサー圧延前の目標肉厚に対する実績肉厚比S(%)とを用い、以下の式(2)に代入することよって、ストレッチレデューサー圧延後の目標肉厚に対する予測肉厚比T(%)を計算し、前記Tが以下の式(3)を満足するか否かをストレッチレデューサー圧延前に確認する。
T(%)=S(%)+A(%)×(Tp(%)-B(%)) ・・・(2)
-5.0% ≦ T(%) ≦ +5.0% ・・・(3)
【0055】
<妥当性検証後のテーパーの扱い>
前記妥当性の評価後、テーパー値を補正する。
前記テーパー値の補正は、前記式(2)により求められたTが前記式(3)を満足する場合は、補正値Wを0とし、予測テーパー値Tpをセットアップするテーパー値Tsと決定する。一方、前記式(2)により求められたTが前記式(3)を満足しない場合は、補正値Wを0超とし、予測テーパー値Tpに対しかかる補正値Wを加えるかまたは減じて調整し、予測テーパー値TpをTp´とする。次いで、かかるTp´を前記式(2)のTpに代入して求めたTをT´とし、さらに前記式(3)のTをT´としたときに前記式(3)を満足するT´を求める。そして、かかるテーパー値Tp´をセットアップするテーパー値Ts´とする。
【0056】
すなわち、妥当性評価部にて予測計算されたストレッチレデューサー圧延後の肉厚比Tが管理範囲式(3)を満たす予測テーパー値Tpは、そのままストレッチレデューサーにセットアップされる(補正値Wが0)。一方、肉厚比Tが前記管理範囲を満たさないテーパー値については、これまで圧延実績のない外挿データである。そのため、補正部にて、肉厚を1%変化させるためのテーパー値を導き出すことができる定数Aを用いた補正13またはオペレーターによる手介入補正14(いずれも補正値Wを0超とし、かかる補正値Wを加えたり減じたりする)を挟み、前記式(3)を満足する肉厚比T´とするテーパー値Tp´を求めて最終的なテーパー値Ts´とする。そして、かかるTs´がストレッチレデューサーにセットアップされる。
【0057】
<式(3)の管理範囲>
ここでT(%)の管理範囲は、±3.0%が好ましいが鋼管肉厚公差厳格品が±8.0%であることから、寸法測定装置のバラツキを考量して±5.0%としても良い。さらに、製品の寸法バラツキを低減して歩留向上を目指す場合は±1.0%とすることがさらに好ましい。
-5.0% ≦ T(%) ≦ +5.0% ・・・(3)
【0058】
<学習するデータ>
圧延された実績は、都度、情報管理用データサーバーへ蓄積されるため、一定期間後に新たなデータを加えた学習データセットとして機械学習モデルを再度作成して、外挿となるデータを減らし、かかる機械学習モデルの性能向上を図ることができる。
機械学習モデルX、Yの計算は、情報管理用データサーバーで行うことができる。また、情報管理用データサーバーと計算用サーバーとの二種類に機能を分ける必要はなく、1台のサーバーで情報管理・機械学習モデル計算を行っても良い。
【0059】
なお、本発明に記載の鋼管を製造する方法において、本明細書に記載のない項目は、いずれも常法(例えば、特開2021-171806号公報に記載の方法)を用いることができる。
【実施例0060】
本実施例では、まず情報管理用データサーバー7にて管理している材質、製品(鋼管の)外径、製品(鋼管の)肉厚、製品(鋼管の)長さ、マンドレルミル実績外径、マンドレルミル目標肉厚、マンドレルミル実績長さ、ストレッチレデューサースタンド数、ロール形状、各スタンド回転数など55項目を約315000本分抽出し、それぞれの圧延実績において前記式(1)を用いてテーパー特性値A値を計算し、合計56項目の説明変数を作成した。
これらの説明変数を表2に記載する。
【0061】
【0062】
次にこれらの説明変数を用いてテーパーを予測する機械学習モデルを勾配ブースティング、テーパー初期値B値を予測する機械学習モデルをランダムフォレストにて作成した。
【0063】
これらの学習済モデルを計算用サーバーへ搭載して、圧延条件が外挿条件となる約86000本(ロット数:6000)をストレッチレデューサーにて圧延し、圧延後の熱間継目無鋼管の長さバラツキを製品外径の大中小3段階に分けて、物理式を用いたフィードバック制御を用いた場合の結果と比較して表3に示す。なお、製品外径の大の鋼管とは、ビレット径:210mmを用いて圧延した鋼管のことを指す。また、製品外径の中の鋼管とは、ビレット径:190mmを用いて圧延した鋼管のことを指し、製品外径の小の鋼管とは、ビレット径:110mmを用いて圧延した鋼管のことを指す。
【0064】
【0065】
本発明に従うことより、圧延条件が外挿条件であっても、長さバラツキはおおむね減少し、長さ±5.0%の管理範囲外れ率は最大でも0.42%に減少している。
【0066】
さらに、本実施例の結果を、特に、長さバラツキの大きくなる、ロット先頭材の6000本に絞って整理した結果を表4に示す。
表4に示した通り、長さ±5.0%の管理範囲外れ率は大幅に低減した。これは、圧延特性を説明変数として新たに加え、予測精度が向上し、更に計算負荷が小さい機械学習モデルを採用し、フィードフォワード制御を可能としたことによる効果と言える。
【0067】