(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119679
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20240827BHJP
B22D 11/16 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B22D11/10 C
B22D11/16 106Z
B22D11/16 104N
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026754
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大木 絢介
(72)【発明者】
【氏名】杉森 薫
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MC30
(57)【要約】
【課題】第一溶鋼がタンディッシュ内に残留した状態で第一溶鋼と異鋼種の第二溶鋼が供給される連続鋳造工程において、第一溶鋼と第二溶鋼の湯混ざり終点位置の予測精度を向上させることを目的とする。
【解決手段】異鋼種の溶鋼を連続鋳造する連続鋳造方法において、タンディッシュ内で鋳造中の第一溶鋼の成分の実績値と、次回鋳造予定で前記第一溶鋼と異鋼種の第二溶鋼の成分の実績値とを用いて逐次的に湯混ざり終点位置を算出する工程と、前記第一溶鋼と前記第二溶鋼との密度差に応じて前記湯混ざり終点位置を補正する工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異鋼種の溶鋼を連続鋳造する連続鋳造方法において、
タンディッシュ内で鋳造中の第一溶鋼の成分の実績値と、次回鋳造予定で前記第一溶鋼と異鋼種の第二溶鋼の成分の実績値とを用いて逐次的に湯混ざり終点位置を算出する工程と、
前記第一溶鋼と前記第二溶鋼との密度差に応じて前記湯混ざり終点位置を補正する工程と、
を備える連続鋳造方法。
【請求項2】
前記第一溶鋼の密度が前記第二溶鋼の密度よりも小さい場合、前記湯混ざり終点位置を補正し、
前記第一溶鋼の密度が前記第二溶鋼の密度よりも大きい場合、前記湯混ざり終点位置を補正しない、
請求項1に記載の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、異鋼種の連続鋳造方法であって、連続して鋳造されるストランドの内部及び表面部における前の鋼種に対する後続の鋼種の無次元の相対濃度をそれぞれリアルタイムで取得し、リアルタイムで取得された内部及び表面部の無次元の相対濃度を有するストランドの長手方向の位置を算出し、取得された内部及び表面部の無次元の相対濃度のそれぞれを基準濃度と比較して、ストランドにおける混合部を予測し、予測された混合部を切断する、異鋼種の連続鋳造方法について開示されている。
【0003】
特許文献2には、前鋼種の鋳込み末期の溶鋼をタンディッシュ内に少量残留させた状態で、引き続き次鋼種の溶鋼を供給して次鋼種の鋳込みに移行し、得られた鋳片の異鋼種の継目部を後工程で切断除去するようにした異鋼種連続鋳造方法において、タンディッシュ内に次鋼種の溶鋼を供給する前に、タンディッシュ重量を連続的に測定し、この測定値と予め入力された該タンディッシュの使用履歴(使用回数)に応じた地金およびノロの残留量とから、前鋼種のタンディッシュ内残湯量と切断除去すべき異鋼種の継目範囲を演算し、前鋼種の溶鋼を少量残留させたタンディッシュ内に、次鋼種の溶鋼を供給して次鋼種の鋳込みに移行するようにした、異鋼種連続鋳造方法について開示されている。
【0004】
特許文献3には、成分の異なる溶鋼の連続鋳造操業において、注入開始によってスタートする定周期計算で行う溶鋼成分計算により、各種入力データおよび前回値の計算結果を基に前後チャージが混合する継ぎ目部分の溶鋼成分を逐次計算し、前記前後チャージの目標成分と計算した溶鋼成分を比較して成分不適合な異鋼種混合範囲を決めることにより成分不適の屑鉄片切断長さを決定する、連続鋳造における異鋼種混合範囲決定方について開示されている。
【0005】
特許文献4には、中間容器に前チャージの溶湯を残したまま、ひきつづき成分の異なる後チャージの溶湯を中間容器に供給して連続鋳造するに際し、中間容器内溶湯重量及び鋳片引き抜き速度を連続的に測定してプロセスコンピューターに入力し、該入力とプロセスコンピューターに予め与えられている鋳造寸法とよりレードルから中間容器への注入速度および中間容器からモールドへの注入速度を連続的に算出し、前記測定値と算出値及び鋳片サイズと前後レードル成分値ならびに成分許容範囲を計算機に入力し、該計算機にて成分混合モデルに基いて成分混合シミュレーションを行い、シミュレーション結果の鋳片成分値が前後チャージの溶湯成分範囲から外れる部位の長さを成分混合長とする、連続鋳造における成分混合長決定方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-500206号公報
【特許文献2】特開平10-211559号公報
【特許文献3】特開平8-71712号公報
【特許文献4】特開平1-258857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、連続鋳造湯混ざり操業において、湯混ざりの終点位置を正しく予測できていない場合、分塊後の鋼片にて多量の降格材を発生させてしまい、分塊差益分のコストデメリットとなってしまう。加えて、湯混ざりサンプル増加により鋼片流動の整流化が阻害される虞がある。そのため、湯混ざり終点位置を予測するシステムを使用して湯混ざり屑の最小化を図っているが、現状の予測システムは、タンディッシュ重量や鋳造速度の影響を考慮し、瞬時値を用いて湯混ざり終点位置を算出しているため、流動的に変化するタンディッシュ内の湯混ざりによる混合影響の予測精度に限界があった。また、タンディッシュ残湯量が大きい場合において、逐次計算を用いても湯混ざり終点位置の予測精度が低い、という課題がある。
【0008】
本開示は、第一溶鋼がタンディッシュ内に残留した状態で第一溶鋼と異鋼種の第二溶鋼が供給される連続鋳造工程において、第一溶鋼と第二溶鋼の湯混ざり終点位置の予測精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、異鋼種の溶鋼を連続鋳造する連続鋳造方法において、タンディッシュ内で鋳造中の第一溶鋼の成分の実績値と、次回鋳造予定で前記第一溶鋼と異鋼種の第二溶鋼の成分の実績値とを用いて逐次的に湯混ざり終点位置を算出する工程と、前記第一溶鋼と前記第二溶鋼との密度差に応じて前記湯混ざり終点位置を補正する工程と、を備える連続鋳造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、第一溶鋼がタンディッシュ内に残留した状態で第一溶鋼と異鋼種の第二溶鋼が供給される連続鋳造工程において、第一溶鋼と第二溶鋼の湯混ざり終点位置の予測精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態に係る連続鋳造方法で用いる連続鋳造機の側面図である。
【
図2】第一溶鋼がタンディッシュに供給されている状態を示す、タンディッシュの側断面図である。
【
図3】
図2に示すタンディッシュに、第一溶鋼よりも密度が低い第二溶鋼が供給開始された状態を示す、タンディッシュの側断面図である。
【
図4】
図3に示すタンディッシュに、第二溶鋼が所定時間供給された後の状態を示す、タンディッシュの側断面図である。
【
図5】第一溶鋼がタンディッシュに供給されている状態を示す、タンディッシュの側断面図である。
【
図6】
図5に示すタンディッシュに、第一溶鋼よりも密度が高い第二溶鋼が供給開始された状態を示す、タンディッシュの側断面図である。
【
図7】
図6に示すタンディッシュに、第二溶鋼が所定時間供給された後の状態を示す、タンディッシュの側断面図である。
【
図8】タンディッシュ内の残湯量と、異鋼種の完全混合位置から実際の湯混ざり終点位置までのずれ量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の技術を実施するための形態を図面に基づき説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一又は同様の構成要素であることを意味する。なお、以下に説明する実施形態において重複する説明及び符号については、省略する場合がある。また、以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面に示される、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、複数の図面の相互間においても、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は必ずしも一致していない。
【0013】
以下、本開示の一実施形態に係る連続鋳造方法について説明する。
【0014】
先ず、連続鋳方法で用いる連続鋳造機10の構成について説明する。
【0015】
図1には、本実施形態の連続鋳造方法で用いる連続鋳造機10が示されている。
図1に示されるように、連続鋳造機10は、第一タンディッシュ12と、第二タンディッシュ14と、鋳型16と、支持ロール18と、冷却装置20と、切断機22と、搬送ロール24とを有している。
【0016】
第一タンディッシュ12は、転炉(図示省略)で精錬された溶鋼を収容する取鍋50から注入ノズル52を通じて溶鋼が注がれる容器である。この第一タンディッシュ12の底側には、第二タンディッシュ14に溶鋼を排出する排出ノズル13が設けられている。
【0017】
第二タンディッシュ14は、第一タンディッシュ12から排出ノズル13を通じて排出された溶鋼を一次的に貯留する容器である。第二タンディッシュ14の底側には、鋳型16に溶鋼を排出する浸漬ノズル15が設けられている。
【0018】
鋳型16は、第二タンディッシュ14の浸漬ノズル15から注がれた溶鋼を冷却し、溶鋼の表層を凝固させる型である。この鋳型16により、所定形状の鋳片Sが成形される。この鋳型16としては、例えば、水冷式の銅製鋳型を用いてもよい。
【0019】
支持ロール18は、鋳型16よりも下方に複数配置されており、鋳型16で成形された鋳片Sを支持すると共に下流へ送り出す。
【0020】
冷却装置20は、鋳型16の下方に配置され、支持ロール18で支持されると共に下流に送り出される鋳片Sを冷却する機能を有する装置である。
【0021】
切断機22は、鋳片Sを所定の長さに切断する機能を有する装置である。
【0022】
搬送ロール24は、所定の長さに切断された鋳片Sを次工程に搬送する。
【0023】
次に、本実施形態の異鋼種の連続鋳造方法について説明する。
【0024】
まず、連続鋳造機10により、第一溶鋼W1の鋳込みを行う(
図2参照)。そして、第一溶鋼W1の鋳込み末期に第二タンディッシュ14内に第一溶鋼W1を所定量残留させた状態で、第二溶鋼W2を収容した取鍋50から第一タンディッシュ12を介して第二タンディッシュ14内に第二溶鋼W2の供給を開始する(
図3参照)。そして、第一溶鋼の鋳込みに引き続き第二溶鋼W2の鋳込みを行う(
図4参照)。
【0025】
ここで、
図3に示されるように、第二タンディッシュ14内に第一溶鋼W1を所定量残留させた状態で第二タンディッシュ14内に第二溶鋼W2の供給を開始すると、第二タンディッシュ14内で第一溶鋼W1と第二溶鋼W2とが混合する。連続鋳造して得られた鋳片Sは一体的になっているが、第一溶鋼W1と第二溶鋼W2の境界部分には、第一溶鋼W1と第二溶鋼W2と異なる成分組成の混合部(湯混ざり混合部)WMが形成される。この混合部WMは、製品にならないため、切断機22で切断除去する。混合部WMの終点位置の予測精度が低い場合には、混合部WMを多めに切断除去する必要がある。しかしながら、この混合部WMの長さが長い程歩留が低下することになるため、混合部WMの終点位置の予測精度を向上させる必要がある。
【0026】
そのため、本実施形態の連続鋳造方法では、第二タンディッシュ14内で鋳造中の第一溶鋼W1の成分の実績値と、次回鋳造予定で第一溶鋼W1と異鋼種の第二溶鋼W2の成分の実績値とを用いて逐次的(一例として4秒間隔)に湯混ざり終点位置を算出する。なお、ここでいう湯混ざり終点位置とは、第一溶鋼W1と第二溶鋼W2の混合部WMの終点位置と同じ位置を指す。なお、取得される第一溶鋼W1と第二溶鋼W2の成分は、例えば、カーボンやマンガン等であるが、本開示はこれに限定されない。
なお、湯混ざり終点位置は、以下の式(1)を基に求められる。
【0027】
【数1】
C1:完全混合後の溶鋼の成分値
F :溶鋼の流出量
CB:流入成分値
V1:容積(定常、非定常)
CO:溶鋼の初期成分値
t :混合時間
【0028】
上記の式1を用いて第一溶鋼W1と第二溶鋼W2が完全混合(互いの成分値の差が0.025%以下)しているか否かを逐次的に求める。第二タンディッシュ14内の溶鋼の全ての成分が第二溶鋼W2側の成分スペック内に入ると、その時間から湯混ざり混合部WMの終点位置を求める。混合部WMの終点位置が求められると、式(1)による計算が終了となる。
【0029】
そして、湯混ざり混合部WMの終点位置を求めた後に、第一溶鋼W1と第二溶鋼W2との密度差に応じて、混合部WMの終点位置を予め実験的に求めた補正係数を用いて補正する。具体的には、第一溶鋼W1の密度が第二溶鋼W2の密度よりも小さい場合、湯混ざり終点位置を補正し、第一溶鋼W1の密度が第二溶鋼W2の密度よりも大きい場合、湯混ざり終点位置を補正しない。
ここで、第一溶鋼W1と第二溶鋼W2とに密度差がある場合に、補正するか否かについては、
図2~
図7を用いて詳細に説明する。
【0030】
図2~
図4では、第一溶鋼W1の密度が第二溶鋼W2よりも高い場合の湯混ざり状況を示している。
図2に示される第一溶鋼W1の鋳込み末期に、第二溶鋼W2を第二タンディッシュ14に供給開始すると、
図3に示されるように、第二溶鋼W2と第一溶鋼W1とが混ざる。このとき、第二溶鋼W2と第一溶鋼W1とが混ざった混合部WMの密度よりも第一溶鋼W1の密度が高いため、第一溶鋼W1が第二タンディッシュ14の底部に溜まり、混合部WMよりも先に第二タンディッシュ14から排出される(
図4参照)。このため、式(1)を用いて求めた湯混ざり終点位置にずれが生じにくい(
図8参照)。
【0031】
一方、
図5~
図7では、第一溶鋼W1の密度が第二溶鋼W2よりも低い場合の湯混ざり状況を示している。
図5に示される第一溶鋼W1の鋳込み末期に、第二溶鋼W2を第二タンディッシュ14に供給開始すると、
図6に示されるように、第二溶鋼W2と第一溶鋼W1とが全体的に混ざる。しかしながら、一部の第一溶鋼W1は、混合部WMよりも密度が低いため、混合部WMの表面に浮上する場合がある。このように第一溶鋼W1が浮上した状態で、混合部WMが排出されていくと、
図7に示されるように、第二溶鋼W2の表面に第一溶鋼W1が少量残るため、式(1)で求めた湯混ざり終点位置にずれが生じやすい(
図8参照)。
【0032】
湯混ざり終点位置にずれが生じた場合は、第二溶鋼W2を第二タンディッシュ14に供給する前の第一溶鋼W1の残湯量と、式(1)で求めた湯混ざり終点位置からのずれ量を
図8に示すグラフを基に補正する。一例として、残湯量が10トンのときには、式(1)で求めた湯混ざり終点位置を2.5mm遅らせた位置に補正する。
このようにして、湯混ざり終点位置を補正する。
【0033】
上記のように
図8のグラフを基にした補正情報を基に連続鋳造機10が有する演算装置(図示省略)で補正することにより、湯混ざり終点位置を精度良く算出することができる。これにより、湯混ざり屑(湯混ざり混合部)を適正化できるため、コストを削減することが可能となる。
【0034】
なお、
図8に示される異鋼種の密度差に基づく湯混ざり終点位置のずれ量については、塩水と純水の濃度差を基に求めている。これは第一溶鋼を塩水又は純水、第二溶鋼を純水又は塩水に置き換えて得られる結果と、第一溶鋼と第二溶鋼を実際に用いた場合に得られる結果はほぼ同じと考えられるためである。なお、塩水及び純粋と、第一溶鋼及び第二溶鋼の置き換えは、例えば、フルード数を用いることが好ましい。
【0035】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において上記以外にも種々変形して実施することが可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
14 第二タンディッシュ(タンディッシュ)
W1 第一溶鋼
W2 第二溶鋼