(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119680
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】表面性状検査装置及び表面性状検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/954 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
G01N21/954 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026755
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 武男
(72)【発明者】
【氏名】太田 祥之
(72)【発明者】
【氏名】猪原 拓海
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA82
2G051AB02
2G051AC17
2G051BA02
2G051BB03
2G051BB11
2G051CA03
2G051CA04
2G051CA06
2G051CB01
(57)【要約】
【課題】模様きずを検出することができる表面性状検査装置を提供する。
【解決手段】表面性状検査装置は、電縫管の内面で管軸方向に延びる検査領域に対向し、管軸方向に沿って移動可能な筐体と、筐体によって検査領域から抽出された対象領域の法線方向の位置に保持され、対象領域を全周に亘る方向から照明する照明部と、照明部で照明された対象領域を含む領域を撮像して、撮像画像を生成する撮像部と、電縫管の内面の表面性状を検査する検査部とを有する。検査領域は、鋼板を電縫管に加工する際に溶接が行われた溶接部と対向し、溶接部に生じる溶接ビードを切断する際の切削工具を保持するローラと接触した領域であり、電縫管の内面との間に高さの差がなく特定の方向からしか反射光を観測できない模様きずが発生している可能性がある領域である。検査部は、撮像画像に基づいて、対象領域に模様きずがあるか否かを判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電縫管の内面の表面性状を検査する表面性状検査装置であって、
前記電縫管の内面で前記電縫管の管軸方向に延びる検査領域に、一定の距離を開けて対向し、前記一定の距離を保ちながら前記電縫管の管軸方向に沿って相対的に移動可能な筐体と、
前記筐体によって前記検査領域から抽出された対象領域の法線方向の位置に保持され、前記対象領域を全周に亘る方向から照明する照明部と、
前記筐体によって前記対象領域の法線方向の位置に保持され、少なくとも前記照明部で照明された前記対象領域を含む領域を撮像して、撮像画像を生成する撮像部と、
前記撮像画像に基づいて、前記電縫管の内面の表面性状を検査する検査部と、
を有し、
前記検査領域は、前記電縫管の内面で、鋼板を前記電縫管に加工する際に溶接が行われた溶接部と対向し、前記溶接部に生じる溶接ビードを切断する際の切削工具を保持するローラと接触した領域であり、前記電縫管の表面との間に高さの差がなく特定の方向からしか反射光を観測できない模様きずが発生している可能性がある領域であり、
前記対象領域は、前記筐体が相対的に移動する毎に、前記検査領域における前記筐体に対向する位置に設定される領域であり、
前記検査部は、前記撮像画像に基づいて、前記対象領域に前記模様きずがあるか否かを判定する、表面性状検査装置。
【請求項2】
前記照明部は、前記対象領域と対向する位置に配置された光拡散部材と、
前記光拡散部材の周方向に配列され、前記光拡散部材に向けて光を照射する複数の光源と、を有する、請求項1に記載の表面性状検査装置。
【請求項3】
前記照明部は、前記対象領域を覆うドーム状に配列され、前記対象領域に向けて光を照射する複数の光源を有する、請求項1に記載の表面性状検査装置。
【請求項4】
前記照明部は、前記対象領域を覆うドーム状に形成され、前記対象領域側の面が反射面である反射部材と、
前記反射部材の周方向に配列され、前記反射面に向けて光を照射する複数の光源と、を有する、請求項1に記載の表面性状検査装置。
【請求項5】
電縫管の内面の表面性状を検査する表面性状検査方法であって、
前記電縫管の内面で前記電縫管の管軸方向に延びる検査領域に、一定の距離を開けて対向する筐体を用い、前記筐体を前記一定の距離を保ちながら前記電縫管の管軸方向に沿って相対的に移動させる筐体移動ステップと、
前記筐体によって前記検査領域から抽出された対象領域の法線方向の位置に保持された照明部を用い、前記対象領域を全周に亘る方向から照明する照明ステップと、
前記筐体によって前記対象領域の法線方向の位置に保持された撮像部を用い、少なくとも前記照明部で照明された前記対象領域を含む領域を撮像して、撮像画像を生成する撮像ステップと、
前記撮像画像に基づいて、前記電縫管の内面の表面性状を検査する検査ステップと、
を有し、
前記検査領域は、前記電縫管の内面で、鋼板を前記電縫管に加工する際に溶接が行われた溶接部と対向し、前記溶接部に生じる溶接ビードを切断する際の切削工具を保持するローラと接触した領域であり、前記電縫管の表面との間に高さの差がなく特定の方向からしか反射光を観測できない模様きずが発生している可能性がある領域であり、
前記対象領域は、前記筐体が相対的に移動する毎に、前記検査領域における前記筐体に対向する位置に設定される領域であり、
前記検査ステップは、前記撮像画像に基づいて、前記対象領域に前記模様きずがあるか否かを判定する、表面性状検査方法。
【請求項6】
前記照明ステップにおいて、前記対象領域と対向する位置に配置された光拡散部材と、前記光拡散部材の周方向に配列され、前記光拡散部材に向けて光を照射する複数の光源とを有する照明部を用いる、請求項5に記載の表面性状検査方法。
【請求項7】
前記照明ステップにおいて、前記対象領域を覆うドーム状に配列され、前記対象領域に向けて光を照射する複数の光源を有する照明部を用いる、請求項5に記載の表面性状検査方法。
【請求項8】
前記照明ステップにおいて、前記対象領域を覆うドーム状に形成され、前記対象領域側の面が反射面である反射部材と、前記反射部材の周方向に配列され、前記反射面に向けて光を照射する複数の光源とを有する照明部を用いる、請求項5に記載の表面性状検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面性状検査装置及び表面性状検査方法に係り、詳しくは、撮像画像に基づいて電縫管の内面の表面性状を検査する表面性状検査装置及び表面性状検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鋼管の内面を検査する鋼管内面検査では、鋼管の端から鋼管内部をのぞき込み、鋼管内部を直接目視する目視検査、又は、鋼管の端から挿入したカメラを用いた目視検査が実施される。このような鋼管内面検査では、検査員の技量に負う部分が大きく、きずの検出能に個人差が生じる。特に、鋼管の軸方向の深部については個人差が生じやすくなるが、鋼管の内面のきずが見逃されたまま鋼管が流出した場合、重大なクレームとなる虞がある。また、鋼管内面検査に超音波探傷検査又は渦電流探傷検査等が適用されることもあるが、鋼管の内面には、超音波探傷検査又は渦電流探傷検査等では検出が困難であるきずが発生している場合がある。
【0003】
そこで、光学的手段を用いた検査方法が提案されている。例えば、特許文献1に記載の検査方法では、同じ部位に予め定められた異なる2方向からタイミングを変えて交互に光を照射し、予め定められた異なる2方向から撮像することにより2つの撮像画像を取得し、2つの撮像画像を差分することにより、凹凸の無い無害な模様きずを消去しつつ、受光強度が変化する凹凸きずを抽出する。
【0004】
また、特許文献2に記載の検査方法では、撮像装置と対向する位置から円環状のレーザ光と円錐状の照明光とを照射し、レーザ光の乱反射光を撮像することにより得られた乱反射画像と、照明光の正反射光を撮像することにより得られた正反射画像とに基づいてきずを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-224069号公報
【特許文献2】特開2017-053790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
対象物の表面に発生するきずには、対象物の表面の法線方向から観察した場合に、例えば凹凸きずのように、きずに深さがある(対象物の表面からの高さの差が大きい)ことで、きずに対する光の入射方向によらず、きずの存在を反射光として観察できるタイプのきずと、逆に、例えば模様きずのように、深さがなく(対象物の表面からの高さの差がなく平坦)、きずに対する光の入射方向によって、きずの存在を反射光として観察できたり観察できなかったりする(ほとんどの入射方向では観察できないが、ある特定の入射方向の場合のみ観察できる)タイプのきずとがある。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の検査方法のように、予め定められた異なる2方向から光が交互に照射する技術では、(幅に対して比較的深い)深さがある(対象物の表面からの高さの差が大きい)タイプのきずであれば、一方の方向からの光の照射で、一方の方向からの光の照射方向から見てきずの凹みの手前側に影ができ、他方の方向からの光の照射で、他方の方向からの光の照射方向から見てきずの凹みの手前側に影ができるので、それらを画像化して差分を取れば、常に明るい表面に対し、きずの部分は相対的に暗く映ることから、きずを顕在化することが可能となる。一方で、模様きずのような深さがない(対象物の表面からの高さの差がなく平坦)タイプのきずであれば、2方向のどちらの光の照射であっても、きず部分は、きず以外の対象物の表面と同じように、明るく照明されるため、画像化して差分を取ったところで、きずは顕在化されず検出することができない。
【0008】
また、特許文献2に記載の検査方法のように、撮像装置と対向する位置から円環状のレーザ光と円錐状の照明光とを照射しても、特定の方向からしか反射光を観測できない模様きずを検出することができない場合がある。
【0009】
そこで、本発明は、模様きずを検出することができる表面性状検査装置及び表面性状検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1態様は、電縫管の内面の表面性状を検査する表面性状検査装置であって、前記電縫管の内面で前記電縫管の管軸方向に延びる検査領域に、一定の距離を開けて対向し、前記一定の距離を保ちながら前記電縫管の管軸方向に沿って相対的に移動可能な筐体と、前記筐体によって前記検査領域から抽出された対象領域の法線方向の位置に保持され、前記対象領域を全周に亘る方向から照明する照明部と、前記筐体によって前記対象領域の法線方向の位置に保持され、少なくとも前記照明部で照明された前記対象領域を含む領域を撮像して、撮像画像を生成する撮像部と、前記撮像画像に基づいて、前記電縫管の内面の表面性状を検査する検査部と、を有し、前記検査領域は、前記電縫管の内面で、鋼板を前記電縫管に加工する際に溶接が行われた溶接部と対向し、前記溶接部に生じる溶接ビードを切断する際の切削工具を保持するローラと接触した領域であり、前記電縫管の表面との間に高さの差がなく特定の方向からしか反射光を観測できない模様きずが発生している可能性がある領域であり、前記対象領域は、前記筐体が相対的に移動する毎に、前記検査領域における前記筐体に対向する位置に設定される領域であり、前記検査部は、前記撮像画像に基づいて、前記対象領域に前記模様きずがあるか否かを判定する、表面性状検査装置である。
【0011】
本発明の第2態様は、第1態様に係る検査装置において、前記照明部は、前記対象領域と対向する位置に配置された光拡散部材と、前記光拡散部材の周方向に配列され、前記光拡散部材に向けて光を照射する複数の光源とを有する表面性状検査装置である。
【0012】
本発明の第3態様は、第1態様に係る検査装置において、前記照明部は、前記対象領域を覆うドーム状に配列され、前記対象領域に向けて光を照射する複数の光源を有する表面性状検査装置である。
【0013】
本発明の第4態様は、第1態様に係る検査装置において、前記照明部は、前記対象領域を覆うドーム状に形成され、前記対象領域側の面が反射面である反射部材と、前記反射部材の周方向に配列され、前記反射面に向けて光を照射する複数の光源と、を有する表面性状検査装置である。
【0014】
本発明の第5態様は、電縫管の内面の表面性状を検査する表面性状検査方法であって、前記電縫管の内面で前記電縫管の管軸方向に延びる検査領域に、一定の距離を開けて対向する筐体を用い、前記筐体を前記一定の距離を保ちながら前記電縫管の管軸方向に沿って相対的に移動させる筐体移動ステップと、前記筐体によって前記検査領域から抽出された対象領域の法線方向の位置に保持された照明部を用い、前記対象領域を全周に亘る方向から照明する照明ステップと、前記筐体によって前記対象領域の法線方向の位置に保持された撮像部を用い、少なくとも前記照明部で照明された前記対象領域を含む領域を撮像して、撮像画像を生成する撮像ステップと、前記撮像画像に基づいて、前記電縫管の内面の表面性状を検査する検査ステップと、を有し、前記検査領域は、前記電縫管の内面で、鋼板を前記電縫管に加工する際に溶接が行われた溶接部と対向し、前記溶接部に生じる溶接ビードを切断する際の切削工具を保持するローラと接触した領域であり、前記電縫管の表面との間に高さの差がなく特定の方向からしか反射光を観測できない模様きずが発生している可能性がある領域であり、前記対象領域は、前記筐体が相対的に移動する毎に、前記検査領域における前記筐体に対向する位置に設定される領域であり、前記検査ステップは、前記撮像画像に基づいて、前記対象領域に前記模様きずがあるか否かを判定する、表面性状検査方法である。
【0015】
本発明の第6態様は、第5態様に係る検査方法の前記照明ステップにおいて、前記対象領域と対向する位置に配置された光拡散部材と、前記光拡散部材の周方向に配列され、前記光拡散部材に向けて光を照射する複数の光源とを有する照明部を用いる表面性状検査方法である。
【0016】
本発明の第7態様は、第5態様に係る検査方法の前記照明ステップにおいて、前記対象領域を覆うドーム状に配列され、前記対象領域に向けて光を照射する複数の光源を有する照明部を用いる表面性状検査方法である。
【0017】
本発明の第8態様は、第5態様に係る検査方法の前記照明ステップにおいて、前記対象領域を覆うドーム状に形成され、前記対象領域側の面が反射面である反射部材と、前記反射部材の周方向に配列され、反射面に向けて前記光を照射する複数の光源とを有する照明部を用いる表面性状検査方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、模様きずを検出することができる表面性状検査装置及び表面性状検査方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る検査装置及び鋼管の一例を示す側面図である。
【
図2】実施形態に係る照明装置及び撮像装置の一例を示す二面図である。
【
図3】実施形態に係る鋼管の一例を示す断面図である。
【
図4】実施形態に係る検査領域に模様きずが生成される様子の一例を示す説明図である。
【
図5】実施形態に係る処理装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】実施形態に係る処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】実施形態に係る検査処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図8】第1変形例に係る鋼管の一例を示す断面図である。
【
図9】第2変形例に係る鋼管の一例を示す断面図である。
【
図10】第3変形例に係る検査装置の一例を示す側面図である。
【
図11】第4変形例に係る鋼管の一例を示す側面図である。
【
図12】第5変形例に係る照明装置及び撮像装置の一例を示す二面図である。
【
図13】第6変形例に係る照明装置及び撮像装置の一例を示す二面図である。
【
図14】第7変形例に係る検査装置及び鋼管の一例を示す側面図である。
【
図15】第8変形例に係る対象領域を示す平面図である。
【
図16】第8変形例に係る第1撮像画像と第2撮像画像を示す図である。
【
図17】第8変形例に係る第1検査画像と第2検査画像を示す図である。
【
図18】第9変形例に係る検査装置の一例を示す側面図である。
【
図19】第1参考例に係る模様きずと撮像画像の一例を示す図である。
【
図20】第2参考例に係る模様きずと撮像画像の一例を示す図である。
【
図21】第3参考例に係る模様きずと撮像画像の一例を示す図である。
【
図22】第4参考例に係る凹凸きず及び正常起伏部と撮像画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(凹凸きず及び模様きずの説明)
はじめに、凹凸きず及び模様きずについて説明する。対象物の表面に発生するきずには、例えば凹凸きずのように、きずに(幅に対して比較的深い)深さがある(対象物の表面からの高さの差が大きい)ことで、きずに対する光の入射方向によらず、きずの存在を反射光として観察できるタイプのきずと、逆に、例えば模様きずのように、深さがなく(対象物の表面からの高さの差がなく平坦)、きずに対する光の入射方向によって、きずの存在を反射光として観察できたり観察できなかったりする(ほとんどの入射方向では観察できないが、ある特定の入射方向の場合のみ観察できる)タイプのきずとがある。以下、具体的に説明する。
【0021】
図19に、第1参考例に係る模様きず72と撮像画像106A、106Bの一例を示す。
図19に示す例では、第1光源102A及び第2光源102Bによって対象領域104に対して予め定められた異なる2方向から光が交互に照射される。撮像装置100は、対象領域104の法線方向に対象領域104と対向する位置に配置されている。
【0022】
図19(A)に示す模様きず72は、矢印Aの方向に光が照射された場合に、撮像装置100に反射光が入射し、矢印Aの方向とは反対方向に光が照射された場合に、撮像装置100に反射光が入射しないという反射特性を有する。したがって、第1光源102Aによって矢印Aの方向に光が照射された場合には、模様きず72を像として含む撮像画像106Aが撮像装置100によって得られ、第2光源102Bによって矢印Aの方向とは反対方向に光が照射された場合には、模様きず72を像として含まない撮像画像106Bが撮像装置100によって得られる。
【0023】
図19(B)に示す模様きず72は、矢印Bの方向に光が照射された場合に、撮像装置100に反射光が入射し、矢印Bの方向とは反対方向に光が照射された場合に、撮像装置100に反射光が入射しないという反射特性を有する。したがって、第2光源102Bによって矢印Bの方向に光が照射された場合には、模様きず72を像として含む撮像画像106Bが撮像装置100によって得られ、第1光源102Aによって矢印Bの方向とは反対方向に光が照射された場合には、模様きず72を像として含まない撮像画像106Aが撮像装置100によって得られる。
【0024】
このように、特定の方向からしか反射光を観測できない模様きず72については、光の入射方向によって検出できない場合がある。
【0025】
図20に、第2参考例に係る模様きず72と撮像画像106A、106Bの一例を示す。
図20に示す例においても、第1光源102A及び第2光源102Bによって対象領域104に対して予め定められた異なる2方向から光が交互に照射される。
【0026】
図20(A)に示す模様きず72は、第1光源102A及び第2光源102Bの光軸と直交する矢印Aの方向に光が照射された場合にのみ、撮像装置100に反射光が入射するという反射特性を有する。したがって、第1光源102A及び第2光源102Bによって対象領域104に対して予め定められた異なる2方向から光が交互に照射された場合でも、模様きず72を像として含まない撮像画像106A、106Bが撮像装置100によって得られる。
【0027】
図20(B)に示す模様きず72は、第1光源102A及び第2光源102Bの光軸と直交する矢印Bの方向に光が照射された場合にのみ、撮像装置100に反射光が入射するという反射特性を有する。したがって、第1光源102A及び第2光源102Bによって対象領域104に対して予め定められた異なる2方向から光が交互に照射された場合でも、模様きず72を像として含まない撮像画像106A、106Bが撮像装置100によって得られる。
【0028】
このように、特定の方向からしか反射光を観測できない模様きず72については、光の入射方向によって検出できない場合がある。
【0029】
図21に、第3参考例に係る模様きず72と撮像画像106A、106Bの一例を示す。
図21に示す例では、模様きず72の反射特性は、
図20に示す例と同様であるが、第1光源102A及び第2光源102Bの配置が
図20に示す例とは異なる。
【0030】
すなわち、
図21に示す例では、矢印A、Bの方向と第1光源102A及び第2光源102Bの光軸とが平行になるように、第1光源102A及び第2光源102Bが配置されている。したがって、
図21(A)に示す例では、第1光源102Aによって矢印Aの方向に光が照射された場合には、模様きず72を像として含む撮像画像106Aが撮像装置100によって得られる。同様に、
図21(B)に示す例では、第2光源102Bによって矢印Bの方向に光が照射された場合には、模様きず72を像として含む撮像画像106Bが撮像装置100によって得られる。しかしながら、
図21(A)に示す例では、第2光源102Bによって矢印Aとは逆方向から光が照射された場合には、模様きず72を像として含まない撮像画像106Bが得られ、また、
図21(B)に示す例では、第1光源102Aによって矢印Bとは逆方向から光が照射された場合には、模様きず72を像として含まない撮像画像106Aが得られる。
【0031】
このように、特定の方向からしか反射光を観測できない模様きず72を光の入射方向によって検出することができない場合がある。
【0032】
図22に、第4参考例に係る凹凸きず70及び正常起伏部73と撮像画像106の一例を示す。ここでいう凹凸きず70は、例えば、対象物と他の物体とが接触することで対象物の表面に生じた、打痕や亀裂等の(幅に対して比較的深い)深さを持ったきずである。また、正常起伏部73は、対象物の表面がわずかに凹んだ(幅に対して比較的浅い深さを持った)領域であり、対象物の表面を研磨する等の手当てをすることで、対象物の欠陥とはならなくなる部分であり、欠陥となる模様きず72や凹凸きず70とは区別されるものである。
図22に示す例では、対象領域104の周囲に複数の光源102(一例として、8個の光源102)が配置されており、凹凸きず70及び正常起伏部73の周囲の全周に亘る方向から光が照射される。凹凸きず70に各光源102によって光が照射された場合には、凹凸きず70が幅に対して比較的深い深さを持っていることから、凹凸きず70の深さ方向の奥まで光が入らず、光の照射方向によらず陰が生じるため、凹凸きず70は、撮像装置100に暗く映ることになる(凹凸きず70の周囲の領域は明るく映る)。即ち、凹凸きず70はそもそも光の照射方向によらず反射光を観測することができる。一方、正常起伏部73に各光源102によって光が照射された場合には、正常起伏部73にほとんど深さがない(幅に対して比較的浅い深さしかない)ことから、ある方向から照射された光によって生じるはずの陰が、逆方向からの照射方向からの光によって打ち消されることになるため、正常起伏部73は、撮像装置100に写らない(正常起伏部73の明るさと、正常起伏部73の周囲の領域の明るさが同じとなる)。
このため、各光源102によって光が順次に照射された場合には、各光源102に対応するいずれの撮像画像106にも凹凸きず70が像として含まれるが、一方で、正常起伏部73は像として含まれない。したがって、
図22に示す例では、複数の光源102によって同時に光を照射することにより、不良とならない正常起伏部73の影響を排除しつつ、不良となる凹凸きず70だけを像として検出することができる。
【0033】
(実施形態に係る検査装置及び検査方法の概略の説明)
以下に説明する実施形態に係る検査装置及び検査方法は、上記知見に基づいてなされたものである。つまり、実施形態に係る検査装置及び検査方法は、特定の方向からしか反射光を観測できない模様きずを検出することができるものである。以下、具体的に説明する。
【0034】
(検査装置10の構成の説明)
図1に、本実勢形態に係る検査装置10及び鋼管60の一例を示す側面図を示す。また、
図2に、本実施形態に係る照明装置12及び撮像装置14の一例を示す二面図を示す。
本実施形態における表面性状検査装置の例である検査装置10は、対象物の表面性状の一例として、電縫管(電縫鋼管。以下では単に鋼管60とも称する)の内面の性状を検査する装置であり、照明装置12と、撮像装置14と、筐体16と、処理装置18とを有する。なお、照明装置12は、本発明の照明部の一例であり、撮像装置14は、本発明の撮像部の一例である。また、鋼管60は、対象物の一例である。
【0035】
照明装置12、撮像装置14、及び筐体16は、鋼管60の内側に配置される。照明装置12及び撮像装置14は、筐体16に収容されており、筐体16によって保持されている。
【0036】
筐体16は、鋼管60の内面で鋼管60の管軸方向に延びる検査領域に、一定の距離を開けて対向し、当該一定の距離を保ちながら鋼管60の管軸方向に沿って相対的に移動可能な構造物である。即ち、筐体16は、中空の構造をしており、図示しない筐体16を保持する保持部(例えばアーム等によって鋼管60外部から保持されてもよく、筐体に車輪等を設けてもよい)によって、筐体16と鋼管60の内面との距離が一定となるように保持されるとともに、照明装置12及び撮像装置14を、筐体16の内部の特定の位置に固定的に保持することで、照明装置12及び撮像部14と鋼管60の内面(特に、後述する対象領域62)との距離を一定とする。
また、筐体16は、鋼管60の内面との距離を一体にしたまま、鋼管60の管軸方向に移動可能(上述の保持部を用いて移動させてもよい)に構成されており、筐体16内に保持された撮像装置14によって、鋼管60の内面の後述する対象領域を、検査領域の全長に亘って順次撮像することが可能なように構成されている。なお、相対的に移動といっているように、静止した鋼管60に対して筐体16が動いても良いし、静止した筐体16に対して鋼管60が動いてもよい。筐体16は、鋼管60の管軸方向に移動するための駆動部(例えば、モータアクチュエータなど)を有する。
【0037】
ここでいう検査領域は、鋼管60の内面で、鋼板を鋼管60(電縫管)に加工する際に溶接が行われた溶接部と対向し、当該溶接部に生じる溶接ビードを切断する際の切削工具を保持するローラと接触した領域であり、鋼管60の表面との間に高さの差がなく特定の方向からしか反射光を観測できない模様きず72が発生している可能性がある領域を指す。
より具体的には、鋼管60の内面は内側を向くことから、他の物体と想定外に接触してきずが付くといったことはあまりなく、きずの種類や発生原因はある程度限定される。このような中で発生するきずの例として模様きず72がある。
鋼板を、平板状からU字状を経てO字状に丸めながら溶接し、電縫管とする際の溶接部には、鋼板の端部同士が突き合わされることで溶接ビードが生じる。溶接ビードは製品としての電縫管としては不要なものであるため、切削工程にて切削されて取り除かれるが、切削工程で用いる切削工具は、鋼管60を溶接ビードが上側となるように配置した状態で、鋼管60の内部の下側寄りの位置に車輪となるローラを下ろし、転動させることで、溶接ビードとの位置関係を変えながら切削を行う。そのため、ローラが、鋼管60の内面の溶接ビードと対向する側の所定の領域に接触することになるため、きずの原因となる場合がある。このきずの例として本発明でいう模様きず72があり、模様きず72が生じる場所は、ローラが接触する場所に限定されることになる。このローラが接触し、模様きず72が生じる可能性のある領域を、検査領域と称するものとする。
検査領域はローラが接触し転動した領域であるため、鋼管60の内面で、溶接ビードの位置とは対向する位置(即ち、ローラが1輪なら鋼管60の内面の溶接ビードの略真逆の位置となり、ローラが複数の輪なら溶接ビードとは逆側の複数の領域が該当する等、ローラの態様に依存する)において、鋼管60の管軸方向に細長く延びることになる。
【0038】
照明装置12は、筐体16によって前記検査領域から抽出された対象領域62の法線方向の位置に保持され、対象領域62を全周に亘る方向から照明するライトである。
ここでいう対象領域62は、筐体16が相対的に移動する毎に、検査領域における筐体16に対向する位置に設定される領域である。即ち、模様きず72を検査するために、後述する撮像装置14で検査領域を撮像することになるが、検査領域が広い(長い)場合があるため、撮像装置14の撮像視野に入るように、撮像装置14(即ち、筐体16)と対向する検査領域の一範囲を対象領域62と称して区別し、筐体16が鋼管60に対して相対的に動くたびに、対象位置を変えながら、対象領域62単位で検査を行うようにしている。
【0039】
図3に、本実施形態に係る鋼管60の一例を示す断面図を示す。鋼管60の内面には、模様きず72が発生している可能性がある検査領域中に、検査の対象となる対象領域62が設定される。電縫管である鋼管60は溶接部64を有する。溶接部64は、鋼板を平板状からU字状を経てO字状に丸めながら溶接することで生じた、鋼板の端面と端面との継ぎ目に相当し、溶接の際の鋼板の端面と端面との突合せの結果として、溶接部64には溶接ビードが形成されている。対象領域62は、鋼管60の内面の溶接部64に生じる溶接ビードを切断する際の切削工具を保持するローラと接触した領域である検査領域の一部であり、鋼管60の内面のうちの溶接部64と対向する領域に生じる。
図3(A)に示す例では、溶接部64と対向する一つの領域に対象領域62が設定されており、
図3(B)に示す例では、溶接部64と対向する二つの領域に対象領域62がそれぞれ設定されている。
【0040】
照明装置12は、例えば、対象領域62に全周に亘る方向から光を照射可能な構成として、光拡散部材20と、複数の光源22とを有する構成とすることができる。光拡散部材20は、対象領域62の法線方向に対象領域62と対向する位置に配置されている。光拡散部材20は、照射された光を拡散する複数の拡散プリズム24を有する。拡散プリズム24は、対象領域62と対向する面上に二次元状に配列して形成されている。光拡散部材20は、対象領域62で反射した反射光が透過する光透過性を有している。
図1及び
図2に示す例では、光拡散部材20は、四角形状に形成されているが、四角形状以外の形状(例えば、円形状又は楕円形状等)に形成されていてもよい。
複数の光源22は、光拡散部材20の外周部に設けられており、光拡散部材20の周方向に配列されている。複数の光源22は、光拡散部材20に向けて光を照射する。複数の光源22から光が照射されると、光拡散部材20で光が拡散することにより、対象領域62に全周に亘る方向から照射される光を含む照明光L1が生成される。
照明装置12は、対象領域62に全周に亘る方向から光を照射する。ここで、対象領域62に全周に亘る方向から照射される光とは、対象領域62の法線方向から見て、対象領域62の外縁側から対象領域62の中心位置方向に向けて、周方向の全周の各方向から対象領域62に照射される光のことを指す。なお、
図2に示す例では、対象領域62の周方向の全周に亘って対象領域62に光が照射されるが、対象領域62の周方向の複数の方角(例えば、8以上の方角)から対象領域62に光が照射されることにより、実質的に対象領域62の周方向の全周に亘って対象領域62に光が照射される場合も、対象領域62に全周に亘る方向から光を照射することに相当する。
【0041】
撮像装置14は、筐体16によって対象領域62の法線方向の位置に保持され、少なくとも照明装置12で照明された対象領域62を含む領域を撮像して、撮像画像を生成するカメラである。即ち、撮像装置14は、鋼管60の内面のうちの検査の対象となる対象領域62と対向して配置される。対象領域62は、上述のように検査領域の内、撮像装置14の光軸(視軸)に対向し、撮像装置14の撮像範囲に収まる領域である。撮像装置14は、撮像装置14の視軸と対象領域62の法線とが一致する位置に配置される。照明装置12は、撮像装置14の視軸上で撮像装置14と対象領域62との間に配置される。
撮像装置14は、照明装置12の背後で、対象領域62と対向する位置に配置されている。具体的には、撮像装置14は、照明装置12に対する対象領域62と反対側に配置されており、かつ対象領域62の法線方向から見て照明装置12の中心部と重なる位置に配置されている。対象領域62が模様きず72を有し、模様きず72によって対象領域62の法線方向に反射した反射光(すなわち、乱反射光)が得られた場合には、反射光は、光拡散部材20を透過して撮像装置14に入射する。すなわち、撮像装置14は、対象領域62の法線方向に反射した反射光が入射する位置に配置されている。なお、対象領域62の法線方向に反射する反射光は、本発明の特定の方向に反射する反射光の一例である。
撮像装置14は、光拡散部材20を通じて対象領域62を撮像してモノクロ又はカラーの撮像画像を生成することが可能なカメラである。撮像装置14は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)、又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子が二次元に配列された二次元カメラとしてよい。
【0042】
処理装置18は、撮像装置14と有線又は無線により通信可能に接続されており、撮像装置14によって生成された撮像画像に基づいて、対象領域62に模様きずがあるか否かを判定する。
【0043】
図4に、本実施形態に係る検査領域に模様きず72が生成される様子の一例を示す。電縫管の製造工程には、溶接ビードを切削する切削工程がある。切削工程では、溶接ビードを切削する工具を保持するバーに設けられたローラ66が鋼管60の内面のうちの溶接部64と対向する対象領域62を転動する。ここで、切削工程は、溶接ビードによって溶接部64を形成する溶接工程の後に実行される。切削工程では、溶接工程で飛散した金属粒子68が対象領域62に付着している場合がある。対象領域62に金属粒子68が付着している状態で金属粒子68の上をローラ66が通過すると、金属粒子68が鋼管60の母材に押し込まれ、母材に押し込まれた金属粒子68によって表面性状における欠陥が生じるが、この欠陥を模様きず72と称する。模様きず72の表面は、ローラ66によって転写されることにより微小な凹凸を含むが、模様きず72の周囲の面と同様にほぼ平滑な面によって形成される。そのため、模様きず72は、深さがなく(対象物の表面からの高さの差がなく平坦)、きずに対する光の入射方向によって、きずの存在を反射光として観察できたり観察できなかったりする(ほとんどの入射方向では観察できないが、ある特定の入射方向の場合のみ観察できる)という特性を有する。
【0044】
図5に、本実施形態に係る処理装置18の機能的な構成の一例を示すブロック図を示す。処理装置18は、検査装置10に係る種々の制御や、鋼管60の検査に係る種々の演算を行う装置であり、後述するハードウェア構成のコンピュータによって構成される。処理装置18は、機能的な構成として、制御部30と、検査部32とを含む。
【0045】
制御部30は、照明装置12、撮像装置14及び筐体16(筐体16の駆動部)の各々を制御する。具体的には、制御部30は、検査開始時に、筐体16を検査領域内の特定の対象領域62に対向する位置に移動させ、照明装置12をオンにし、対象領域62に対する光の照射を開始させる。これにより、模様きず72を有する可能性のある対象領域62に、照明装置12によって全周に亘る方向から光が照射される。なお、検査が終了するまで、照明装置12はオンの状態のままである。
【0046】
また、制御部30は、対象領域62に全周に亘る方向から光が照射されている状態で、撮像装置14に、所定のタイミングに合わせて、対象領域62を撮像させることにより撮像画像を生成させる。そして、制御部30は、撮像装置14で生成された撮像画像を取得する。制御部30は、タイミング信号発生器から出力されるタイミング信号に基づいて、種々の制御のタイミングを同期させることができる。
【0047】
検査部32は、制御部30により取得された撮像画像に基づいて、対象領域62に対する検査を行う。検査部32は、検査を行うための機能部として、画像処理部34及び判定部36を有する。検査部32による検査では、制御部30で取得された撮像画像に対して検査部32の各機能部がデータ処理を行うことにより、対象領域62に模様きず72があるか否かの判定結果を得る。
【0048】
画像処理部34は、撮像画像に対して所定の画像処理を実行する。具体的には、画像処理部34は、撮像画像に対して、シェーディング及びスムージング等の所定の前処理を実行する。また、画像処理部34は、前処理後の撮像画像を、所定の閾値に基づいて2値化する。閾値は、鋼管60の種類等に基づいて予め実験的に定めておいてよい。そして、画像処理部34は、2値化後の撮像画像から、所定の処理によりノイズ成分を除外する。これにより、対象領域62に模様きず72がある場合には、撮像画像から模様きず72の部分が抽出される。
【0049】
判定部36は、画像処理後の撮像画像に基づいて、対象領域62に模様きず72があるか否かを判定する。具体的には、判定部36は、2値化後の撮像画像に、模様きず72に対応する画像領域が検出された場合には、対象領域62に模様きず72があると判定する。判定部36による判定結果は、例えば、外部に出力される。
【0050】
なお、各対象領域62に対する検査が終了する毎に照明装置12及び撮像装置14が鋼管60の軸方向に移動することにより、各対象領域62に対する検査が鋼管60の軸方向に順次に実行される。判定部36は、各対象領域62に対して撮像画像が得られる毎に各対象領域62に模様きず72があるか否かを判定してもよく、検査領域上に設定される全ての対象領域62に対して撮像画像が得られた後に、各対象領域62に模様きず72があるか否かを判定するようにしてもよい。
【0051】
また、鋼管60の内面は内側を向くことから、他の物体と想定外に接触してきずが付くといったことはあまりなく、きずの種類や発生原因はある程度限定されることから、対象領域62に模様きず72以外のきずが生じることは比較的少ないが、対象領域62が模様きず72ではなく凹凸きず70を有する場合にも、凹凸きず70で反射した反射光が撮像装置14に入射する場合がある。この場合にも、判定部36が撮像画像に基づいて対象領域62に模様きず72があると判定することになる。しかしながら、凹凸きず70と模様きず72とを判別することよりも、対象領域62が模様きず72を有する場合に模様きず72を検出できることの方が重要であるので、対象領域62が凹凸きず70を有する場合に判定部36が模様きず72があると判定することは特に問題にはならない。
【0052】
図6に、処理装置18のハードウェア構成の一例を示す。処理装置18は、コンピュータによって構成される。処理装置18は、CPU(Central Processing Unit)40、メモリ42、記憶装置44、入力装置46、出力装置48、記憶媒体読取装置50、及び通信I/F(Interface)52を有する。各構成は、バス54を介して相互に通信可能に接続されている。
【0053】
記憶装置44には、検査処理を実行するためのプログラムが格納されている。CPU40は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各構成を制御したりする。すなわち、CPU40は、記憶装置44からプログラムを読み出し、メモリ42を作業領域としてプログラムを実行する。CPU40は、記憶装置44に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。
【0054】
メモリ42は、RAM(Random Access Memory)により構成され、作業領域として一時的にプログラム及びデータを記憶する。記憶装置44は、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、又はSSD(Solid State Drive)等により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム及び各種データを格納する。
【0055】
入力装置46は、例えば、キーボードやマウス等の、各種の入力を行うための装置である。出力装置48は、例えば、ディスプレイやプリンタ等の、各種の情報を出力するための装置である。出力装置48として、タッチパネルディスプレイを採用することにより、入力装置46として機能させてもよい。
【0056】
記憶媒体読取装置50は、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、ブルーレイディスク、又はUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の各種の記憶媒体に記憶されたデータの読み込みや、記憶媒体に対するデータの書き込み等を行う。通信I/F52は、他の機器と通信するためのインターフェースである。通信I/F52には、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、又はWi-Fi(登録商標)等の規格のインターフェースが用いられる。
【0057】
(検査方法の説明)
図7に、処理装置18のCPU40により実行される検査処理の流れの一例を示す。CPU40が記憶装置44から検査処理を実行するためのプログラムを読み出して、メモリ42に展開して実行することにより、CPU40が処理装置18の各機能部として機能し、検査処理が実行される。これにより、検査装置10において検査方法が実行される。検査方法では、先ず、ステップS10で、制御部30が、筐体16を制御し、筐体16を鋼管60に対して相対的に移動させることで、照明装置12及び撮像装置14を対象領域62と対向する位置に配置する。なお、筐体16を手動で移動させてもよい。ステップS10は、筐体移動ステップに相当する。
【0058】
次に、ステップS12で、制御部30が、照明装置12を制御することでオンにする。これにより、照明装置12が、対象領域62を全周に亘る方向から照明する照明ステップを実行する。
【0059】
次に、ステップS14で、制御部30が、対象領域62を撮像するように撮像装置14を制御する。これにより、対象領域62に全周に亘る方向から光が照射されている状態で、撮像装置14が、対象領域62を撮像して撮像画像を生成する撮像ステップを実行する。
【0060】
次に、ステップS16で、画像処理部34が、撮像画像に対して所定の画像処理(例えば、所定の前処理、2値化処理、及びノイズ除外処理)を実行する画像処理ステップを実行する。これにより、対象領域62に模様きず72がある場合には、撮像画像から模様きず72の部分が抽出される。
【0061】
次に、ステップS18で、判定部36は、画像処理後の撮像画像に基づいて対象領域62に模様きず72があるか否かを判定する判定ステップを実行する。これにより、対象領域62に模様きず72があるか否かの判定結果が得られる。そして、検査処理は終了する。
【0062】
(検査装置10及び検査方法の効果)
以上説明したように、本実施形態では、撮像装置14に特定の方向からしか反射光を観測できない模様きず72を有する可能性のある検査領域のうちの、筐体16(即ち、撮像装置14)に対向する対象領域62に、全周に亘る方向から照明装置12によって光が照射される。また、対象領域62に全周に亘る方向から光が照射されている状態で、撮像装置14によって対象領域62が撮像されて撮像画像が生成される。そして、撮像画像に基づいて、対象領域62に模様きず72があるか否かが判定される。ここで、対象領域62に模様きず72がある場合には、画像処理後の撮像画像に模様きず72に対応する画像領域が検出されるので、この場合には、対象領域62に模様きず72があると判定される。このように、本実施形態によれば、対象領域62に模様きず72がある場合には、模様きず72を検出することができる。
図22に例示したように、不良となる打痕や亀裂等の(幅に対して比較的深い)深さを持った凹凸きず70と、不良とならない対象物の表面がわずかに凹んだ(幅に対して比較的浅い深さを持った)正常起伏部73とが混在している場合には、きずが生じている可能性がある領域に対して全周に亘る方向から光を照射して検査すれば、正常起伏部73が消失し、凹凸きず70が顕在化した画像が生成できることから、不良を検知するのに有効である。一方で、模様きず72は高さがないことから、上記の手法は本来適用すべきではない(高さがない模様きず72は画像上から消失してしまうと考えられる)。しかしながら、模様きず72は、特定の方向からしか反射光を観測できないという特性がある特殊な種類のきずであるため、模様きず72を検出するためには、(上記の手法に反して)あえて全周に亘る方向から光を照射する必要があり、そうすることではじめて(高さがないにもかかわらず)模様きず72を検出することができることが分かった。そのため、本実施形態を用いることにより、模様きず72を確実に検出することができるようになる。
【0063】
また、対象領域62は、溶接部64を有する電縫管の内面のうちの溶接部64と対向する領域である。したがって、対象領域を検査することで、電縫管の溶接工程で飛散した金属粒子68によって形成された模様きず72を効率的に検出することができる。
【0064】
また、照明装置12は、対象領域62と対向する位置に配置された光拡散部材20と、光拡散部材20の周方向に配列され、光拡散部材20に向けて光を照射する複数の光源22とを有する。これにより、複数の光源22から照射された光が光拡散部材20で拡散することにより、対象領域62に全周に亘る方向から照射される光を含む照明光L1を生成することができる。
【0065】
(変形例)
図8に、第1変形例に係る鋼管60の一例を示す。上記実施形態において、鋼管60は、電縫管であるが、
図8に示すように、鋼管60は、電縫管以外の鋼管でもよい。また、上記実施形態において、対象領域62は、溶接部64と対向する領域であるが、溶接部64と対向する領域とは異なる領域でもよい。また、鋼管60が水平に配置された場合に、対象領域62は、
図8(A)に示すように、鋼管60の内面のうちの鉛直方向下側の領域でもよく、
図8(B)に示すように、鋼管60の内面のうちの鉛直方向上側の領域でもよい。
【0066】
また、対象領域62は、鋼管60の内面の全周でもよい。また、対象領域62が変更される場合には、撮影分解能を一定に保つために、撮像装置14と対象領域62との距離が一定に保たれてもよい。また、対象領域62が変更される場合に、撮像装置14と対象領域62との距離を一定に保つための移動装置が用いられてもよい。
【0067】
また、対象領域62は、一例として、溶接部64を有する電縫管の内面のうちの溶接部64と対向する領域であるが、電縫管以外の鋼管60の内面でもよく、鋼管60以外の部材の面でもよい。
【0068】
図9に、第2変形例に係る鋼管60の一例を示す。上記実施形態において、鋼管60は、一定の内径を有する構成であるが、
図9(A)から
図9(B)に示すように、内径が変化する構成でもよい。また、対象領域62が変更されることにより鋼管60の内径が変化する場合には、撮影分解能を一定に保つために、撮像装置14と対象領域62との距離が一定に保たれてもよい。また、鋼管60の内径が変化する場合に、撮像装置14と対象領域62との距離を一定に保つための移動装置が用いられてもよい。
【0069】
図10に、第3変形例に係る検査装置10の一例を示す。
図10に示すように、撮像装置14は、視軸が鋼管60の軸方向と平行になるように配置され、撮像装置14と照明装置12との間には、撮像装置14の視野を対象領域62の側に90度屈曲させるミラー80が配置されていてもよい。このように構成されていても、対象領域62が模様きず72を有し、模様きず72によって対象領域62の法線方向に反射した反射光が得られる場合には、反射光をミラー80を介して撮像装置14に入射させることができる。
【0070】
図11に、第4変形例に係る鋼管60を示す。
図11に示す検査装置10は、
図10に示す検査装置10と同様の構成である。ミラー80を有する検査装置10は、
図11(A)から
図11(B)に示すように、内径が変化する鋼管60に対して適用されてもよい。
【0071】
図12に、第5変形例に係る照明装置12を示す。
図12に示す例において、照明装置12は、複数の光源22を有する。複数の光源22は、対象領域62を覆うドーム状(一例として、半球状)に配列されており、対象領域62に向けて光を照射する。なお、複数の光源22は、互いに密接していてもよいし、互いの間に隙間を有していてもよい。このように構成されていても、対象領域62に全周に亘る方向から照射される光を含む照明光L1を生成することができる。
【0072】
図13に、第6変形例に係る照明装置12を示す。
図13に示す例において、照明装置12は、反射部材82と、複数の光源22とを有する。反射部材82は、対象領域62を覆うドーム状(一例として、半球状)に形成されている。反射部材82の対象領域62側の面は、反射面である。複数の光源22は、反射部材82の周方向に環状に配列されており、反射面に向けて光を照射する。このように構成されていても、対象領域62に全周に亘る方向から照射される光を含む照明光L1を生成することができる。
【0073】
図14に、第7変形例に係る検査装置10を示す。
図14に示す例において、検査装置10は、レーザ光源84を有する。レーザ光源84は、照明光L1とは異なる波長のレーザ光L2を対象領域62に照射する。撮像装置14は、照明光L1及びレーザ光L2が照射された状態で、対象領域62を撮像する。処理装置18は、撮像装置14によって生成された撮像画像に基づいて、模様きず72の有無を判定することに加えて、凹凸きず70の深さを算出する。凹凸きず70の深さは、例えば、レーザ光L2の反射光に基づいて光切断法により算出される。
【0074】
図15に、第8変形例に係る対象領域62を示す。
図15に示す対象領域62は、
図14に示す検査装置10が用いられる場合の対象領域である。
図15に示すように、対象領域62は、レーザ光L2が照射される第1領域62Aと、照明光L1が照射される第2領域62Bとに区分けされていてもよい。この場合には、第1領域62Aに対して凹凸きず70の深さを算出する処理と、第2領域62Bに対して模様きず72を検出する処理とを分けて行うことができるので、例えば、共通の領域に対して凹凸きず70の深さを算出する処理と、模様きず72を検出する処理とを行う場合に比して、CPU40の負荷を軽減することができる。
【0075】
図16に、第8変形例に係る第1撮像画像86Aと第2撮像画像86Bを示す。
図16(A)に示す第1撮像画像86Aは、
図15に示す第1領域62Aが撮像されることにより得られた画像であり、
図16(B)に示す第2撮像画像86Bは、
図15に示す第2領域62Bが撮像されることにより得られた画像である。各対象領域62が順次に撮像されることにより、複数の第1撮像画像86Aと、複数の第2撮像画像86Bとが得られる。
【0076】
図17に、第8変形例に係る第1検査画像88A及び第2検査画像88Bを示す。
図17(A)に示す第1検査画像88Aは、複数の第1撮像画像86Aが連結されることにより生成された画像であり、
図17(B)に示す第2検査画像88Bは、複数の第2撮像画像86Bが連結されることにより生成された画像である。一例として、第1検査画像88Aには、複数の凹凸きず70が像として含まれており、第2検査画像88Bには、複数の模様きず72が像として含まれている。第1検査画像88Aでは、凹凸きず70を示す像の色が凹凸きず70の深さによって異なる。第1検査画像88A及び第2検査画像88Bが生成されることにより、第1検査画像88Aの座標に基づいて各凹凸きず70の位置を特定することができ、第2検査画像88Bの座標に基づいて各模様きず72の位置を特定することができる。
【0077】
図18に、第8変形例に係る検査装置10を示す。
図18に示すように、
図10に示すミラー80を有する検査装置10に、
図14に示すレーザ光源84が適用されてもよい。
【0078】
以上、本発明の一例について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0079】
10 検査装置
12 照明装置
14 撮像装置
16 筐体
18 処理装置
20 光拡散部材
22 光源
24 拡散プリズム
30 制御部
32 検査部
34 画像処理部
36 判定部
40 CPU
42 メモリ
44 記憶装置
46 入力装置
48 出力装置
50 記憶媒体読取装置
52 通信I/F
54 バス
60 鋼管
62 対象領域
62A 第1領域
62B 第2領域
64 溶接部
66 ローラ
68 金属粒子
70 凹凸きず
72 模様きず
80 ミラー
82 反射部材
84 レーザ光源
86A 第1撮像画像
86B 第2撮像画像
88A 第1検査画像
88B 第2検査画像
100 撮像装置
102 光源
102A 第1光源
102B 第2光源
104 対象領域
106 撮像画像
106A 撮像画像
106B 撮像画像
L1 照明光
L2 レーザ光