(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119745
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】分離膜、分離膜モジュールおよび膜分離システム
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20240827BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240827BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/00
B01D69/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024009902
(22)【出願日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2023025794
(32)【優先日】2023-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】三原 崇晃
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA01
4D006GA41
4D006HA01
4D006JA25C
4D006MA01
4D006MA09
4D006MA10
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4D006MA24
4D006MA31
4D006MB15
4D006MB16
4D006MC01
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4D006MC88
4D006NA05
4D006NA39
4D006NA46
4D006PA01
4D006PB14
4D006PB18
4D006PB19
4D006PB64
4D006PB65
4D006PB66
(57)【要約】 (修正有)
【課題】外部からの荷重に対し優れた耐性を有することで、歩留りよく膜を製造可能とし、且つ膜の使用中においては新たな欠陥の生成が抑制され、分離係数を維持しつつ高いガス透過性能を有する分離膜、ガス分離膜モジュール、および膜分離システムを提供する。
【解決手段】無機材料を主成分とする緻密な分離層を有する中空糸分離膜であって、前記分離層の内表面側に無機材料を主成分とする多孔質層Bを、外表面側に炭素を主成分とする多孔質層Aをそれぞれ有し、前記多孔質層Aは少なくとも一部が連続相を形成してなる骨格部と、空隙部とからなる中空糸分離膜。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料を主成分とする緻密な分離層を有する中空糸分離膜であって、前記分離層の内表面側に無機材料を主成分とする多孔質層Bを、外表面側に炭素を主成分とする多孔質層Aをそれぞれ有し、前記多孔質層Aは少なくとも一部が連続相を形成してなる骨格部と、空隙部とからなる中空糸分離膜。
【請求項2】
前記多孔質層Aの平均膜厚L1と、前記分離層の平均膜厚L2の比L1/L2が5以上100以下である請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
前記多孔質層Aの平均膜厚L1が1μm以上50μm以下である請求項1に記載の分離膜。
【請求項4】
前記多孔質層Aの平均空隙率が35%以上70%以下である請求項1に記載の分離膜。
【請求項5】
前記多孔質層Aが空隙部も連続相を形成した共連続多孔構造を有する請求項1に記載の分離膜。
【請求項6】
前記多孔質層Aに、前記共連続多孔構造を有する部分が50%以上含まれている請求項5に記載の分離膜。
【請求項7】
前記多孔質層Aの前記共連続多孔構造の構造周期が0.002μm以上5μm以下である請求項5に記載の分離膜。
【請求項8】
前記多孔質層Bが共連続多孔構造を有する請求項1に記載の分離膜。
【請求項9】
気体分離用である請求項1に記載の分離膜。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の分離膜が複数本収納された分離膜エレメント。
【請求項11】
ベッセルに、請求項10に記載の分離膜エレメントが1本以上収納された、または、請求項1~9に記載の分離膜が複数本直接収納された分離膜モジュール。
【請求項12】
請求項11に記載の分離膜モジュールを1本以上備えた膜分離システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分離膜およびそれを用いた分離膜モジュール、膜分離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
混合ガスや混合液体から特定の成分を選択的に分離・精製する手段として、膜分離法が利用されている。
【0003】
膜分離法は相変化を伴わないため、他の流体分離法と比較して省エネルギーであり、注目されている。分離膜の種類としては、例えば、ポリイミド膜、酢酸セルロース膜などの有機高分子膜、ゼオライト膜、シリカ膜、炭素膜などの無機膜などが提案されている。
【0004】
なかでも炭素膜やゼオライト膜などの無機膜は、物質を分子ふるいにより分離することが可能であることや、耐薬品性、耐圧性に優れることから、無機材料からなる分離機能層を有する分離膜が種々提案されている。
【0005】
例えば、多孔質セラミックス中空糸膜の表面に炭素薄膜を担持させてなる多孔質セラミックス複合中空糸膜(例えば、特許文献1参照)、中空糸状の第1の炭素膜と、前記第1の炭素膜の外表面に設けられた第2の炭素膜と、を備え、前記第2の炭素膜は、金属元素と、硫黄元素とを含む、中空糸炭素膜(例えば、特許文献2参照)、多孔質支持体と多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有するゼオライト膜複合体(例えば、特許文献3参照)などが挙げられる。
【0006】
しかしながら、これら炭素やゼオライトなどの無機材料を主成分とする緻密層を最表層に有する分離膜は、緻密層が硬質であることから、膜製造工程においてはローラーや、搬送コンベア等との接触、モジュール化工程や膜使用中においては膜同士の接触、膜と膜を収納するエレメント筐体との接触、分離対象の流体中に含まれる異物粒子との接触時の応力により緻密層が破壊されることでピンホール欠陥となり、ピンホール欠陥から分離対象物が漏出してしまう。これにより、膜製造工程では歩留りの悪化、膜モジュール使用中においては分離機能低下を引き起こすという特有の課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-99901号公報
【特許文献2】特開2013-63415号公報
【特許文献3】特開2022-93397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、外部からの荷重に対し優れた耐性を有することで、歩留りよく膜を製造可能とし、且つ膜の使用中においては新たな欠陥の生成が抑制され分離係数を維持しつつ高いガス透過性能を有する分離膜およびガス分離膜モジュール、膜分離システムの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題を解決すべく、本発明は次の構成を有する。
(1) 無機材料を主成分とする緻密な分離層を有する中空糸分離膜であって、前記分離層の内表面側に無機材料を主成分とする多孔質層Bを、外表面側に炭素を主成分とする多孔質層Aをそれぞれ有し、前記多孔質層Aは少なくとも一部が連続相を形成してなる骨格部と、空隙部とからなる中空糸分離膜。
(2) 前記多孔質層Aの平均膜厚L1と、前記分離層の平均膜厚L2の比L1/L2が5以上100以下である上記(1)に記載の分離膜。
(3) 前記多孔質層Aの平均膜厚L1が1μm以上50μm以下である上記(1)に記載の分離膜。
(4) 前記多孔質層Aの平均空隙率が35%以上70%以下である上記(1)に記載の分離膜。
(5) 前記多孔質層Aが空隙部も連続相を形成した共連続多孔構造を有する上記(1)に記載の分離膜。
(6) 前記多孔質層Aに、前記共連続多孔構造を有する部分が50%以上含まれている上記(5)に記載の分離膜。
(7) 前記多孔質層Aの前記共連続多孔構造の構造周期が0.002μm以上5μm以下である上記(5)に記載の分離膜。
(8) 前記多孔質層Bが共連続多孔構造を有する上記(1)に記載の分離膜。
(9) 気体分離用である上記(1)に記載の分離膜。
(10) 上記(1)~(9)のいずれかに記載の分離膜が複数本収納された分離膜エレメント。
(11) ベッセルに、上記(10)に記載の分離膜エレメントが1本以上収納された、または、上記(1)~(9)に記載の分離膜が複数本直接収納された分離膜モジュール。
(12) 上記(11)に記載の分離膜モジュールを1本以上備えた膜分離システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多孔質層Aが分離機能層よりも外表面側にあることで、膜の最外表面にかかる外部応力や衝撃を多孔質層Aにより分散または吸収でき、無機物を主成分とする緻密な分離層にかかる負荷が低減され、外部応力や衝撃に対し耐性を有した分離膜およびそれを用いた分離膜モジュール、膜分システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】第4の層を含む中空糸分離膜の断面拡大図を示す。
【
図4】第4および5の層を含む中空糸分離膜の断面拡大図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本明細書において、「~」はその両端の数値を含む範囲を示すものとする。
【0013】
<分離膜>
本発明における中空糸分離膜は、中空糸状の分離膜であって、緻密な分離層を有し、緻密な分離層よりも外表面側に多孔質層Aを有し、緻密な分離層よりも内表面側に多孔質層Bを有する分離膜である。中空糸分離膜の中空部側の表面を内表面とし、もう一方の表面を外表面とする。以下、中空糸分離膜を単に分離膜といい、緻密な分離層を単に分離層という場合がある。
図1に中空糸分離膜の長さ方向に対し垂直な方向の断面図を示す。1は断面図、2は中空部を示す。
図2にその断面図の拡大図を示す。3は多孔質層A、4は分離層、5は多孔質層Bを示す。
【0014】
中空糸分離膜は、たとえば上述した多孔質層Aと分離層、分離層と多孔質層Bとがそれぞれ隣接している態様の他、分離膜に付与したい機能に合わせて第4の層、第5の層などさらに別の層を有していても良い(
図3,4参照)。
図3において6は第4の層、
図4において7は第5の層を示す。
【0015】
中空糸状とは、分離膜が繊維状であって、かつ繊維軸に垂直な分離膜の断面において中空部が観察される状態を指す。ここで繊維状とは、後述する平均外径に対して分離膜の長手方向の長さが100倍以上である状態を指す。
【0016】
中空糸分離膜の平均外径は、細いほど柔軟で折損に強く耐圧性も向上し、後述する分離膜モジュールとした際のモジュール体積あたりの膜面積を向上させることができるため好ましく、10,000μm以下が好ましく、1,000μm以下がより好ましく、500μm以下が特に好ましい。また、太いほど分離層を安定して保持できるほか、機械的強度に優れ、流体の圧力損失を低減できるため好ましく、10μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、100μm以上が特に好ましい。
【0017】
分離膜の外径とは、中空糸分離膜の繊維軸に対して垂直に形成された断面において、中空部を含む断面積に対し、前記断面積と同等の面積を有する円の直径を指す。分離膜の平均外径は、分離膜の無作為に選択した20箇所において求めた分離膜の外径を算術平均した値とする。たとえば、断面はクロスセクションポリッシャー(CP)法により形成し、
均した値とする。たとえば、断面はクロスセクションポリッシャー(CP)法により形成し、断面の観察は走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。
【0018】
本発明の分離膜が分離対象とする流体は特に限定されるものではないが、後述する無機材料を主成分とする分離層を有する分離膜の耐熱性や耐薬品性を活かし、耐熱性や耐薬品性が必要な用途において好適に用いることができる。耐熱性や耐薬品性が必要な用途としては、例えば発電所や高炉等の排気ガスからの二酸化炭素分離・貯蔵システム、石炭ガス化複合発電におけるガス化した燃料ガス中からの硫黄成分除去、バイオガスや天然ガスの精製、有機ハイドライドからの水素精製、有機溶剤が含まれる混合液体からの有機溶剤除去・脱水などが挙げられる。さらに、本発明の分離膜は、多孔質層を備えることで耐圧性を有しているため、高圧ガスの分離においても好適に用いることができる。このように本発明の分離膜は気体分離用にも好適に供することができる。
【0019】
<分離層>
本発明の分離膜は無機材料を主成分とした緻密な分離層を有する。
【0020】
断面の観察は走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。
【0021】
本発明の中空糸分離膜の繊維軸に垂直な断面における、中空部を含む断面積S1に対する、中空部の面積S2の比率S2/S1の平均値が、高いほど中空部を流体の流路として利用した際の圧力損失が低減できるため好ましく、小さいほど分離膜の耐圧性が向上するため好ましく、0.01以上0.9以下が好ましく、0.1以上0.5以下がより好ましい。
【0022】
S2/S1の平均値は、分離膜の無作為に選んだ20箇所の断面から求めたS2/S1を算術平分離層とは、例えば分離対象物質のサイズによって分離するふるい効果や、親和性の違い等によって物質を分離する層を指し、分離膜において実質的に分離機能を担う層を指す。
【0023】
本発明の分離膜を構成する分離層は、単層あるいは複数層で形成されており、対象となる用途に応じて適宜選択されるものとする。単層からなる分離層は、製造が容易であるほか、均一性が高いため好ましい。複数層で形成された分離層は、それぞれ構成する層で分離特性や物理特性といった機能を分離することが可能であることから好ましい。
【0024】
緻密な分離層とは、実質的に形態的に観測可能な細孔を有しない分離層である。具体的には、CP法により形成させた断面を、1±0.1(nm/画素)となる倍率でSEMにより観察した際に、明確な細孔が観察されない部分が500nm四方の領域以上の面積で存在する場合、実質的に細孔を有さず緻密であると判断するものとする。
【0025】
分離層の主成分は無機材料である。主成分とは、分離層を構成するすべての物質を100重量%とした場合に、分離層に50重量%を超えて含まれている成分を指す。
【0026】
無機材料は、化学的、熱的安定性が有機化合物と比較して優れる場合が多く、耐久性の高い分離層が得られ、分離層の主成分となる無機材料は炭素またはケイ素のいずれかを含むことが好ましい。ケイ素を含んでいる無機材料としては、ゼオライトなどのアルミノ珪酸塩、シリコーン、シロキサンなどが挙げられる。炭素を含んでいる無機材料としては、樹脂炭化物や、グラフェン、黒鉛などが挙げられる。耐薬品性、耐熱性の観点から炭素であることが特に好ましい。つまり、分離層は炭素を主成分とすることが好ましい。
【0027】
分離層が炭素を主成分とするとは、前述の主成分についての説明にかかわらず、分離層を構成するすべての原子を100原子数%とした場合に、炭素原子数の比率(以下、炭素原子数比率という)が50原子数%を超えていることを意味する。分離層の炭素原子数比率が高いほど、耐熱性と耐薬品性に優れるため、分離層の炭素原子数比率は60原子数%以上が好ましく、70原子数%以上であると更に好ましい。一方、分離層の炭素原子数比率が高すぎると、ガス分子の透過速度が低下することがあるため、分離層の炭素原子数比率は99原子数%以下であることが好ましく、90原子数%以下であるとより好ましい。
【0028】
分離層中の炭素原子数比率は、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて、分離層の断面もしくは表面から加速電圧15keVの条件で元素分析を行うことにより求めることができる。分離層の膜厚が薄く、EDXでの分析において他の層の影響を受ける可能性がある場合は、局所分析が可能な電子エネルギー損失分光法(EELS)で分析しても良い。
【0029】
炭素を主成分とする分離層の形成方法は、特に限定はされないが、例えば炭化可能な前駆体樹脂を不活性ガス雰囲気下で熱分解温度以上の温度で焼成することで得ることができる。
【0030】
炭化可能な前駆体樹脂(以下、炭素膜前駆体樹脂という場合がある)としては、不活性ガス雰囲気で600℃まで加熱処理を行った場合に5重量%以上の残分を示すものである。このような炭素膜前駆体樹脂は、従来公知のものを採用でき、具体的にはポリアクリロニトリル、芳香族ポリイミド、ポリベンズオキサゾール、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、フェノール樹脂、酢酸セルロース、ポリフルフリルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、リグニン、木質タール、固有多孔性ポリマー(PIM)等が挙げられるが、これらに限定されない。特に炭素膜前駆体樹脂がポリアクリロニトリル、芳香族ポリイミド、ポリベンズオキサゾール、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、固有多孔性ポリマー(PIM)だと、加熱処理後に残存して形成される分離層は、分離対象物である流体の透過速度および分離性に優れるため好ましく、ポリアクリロニトリルまたは芳香族ポリイミドがより好ましい。また流体の透過速度や分離性を制御する目的で、前記した炭素膜前駆体樹脂に対して、共重合することも好ましい。共重合成分としては前記した炭素膜前駆体樹脂に対して反応する化合物であれば特に限定されず、加熱処理後に残存して形成される分離層の性能を高める目的で選択されることが好ましい。
【0031】
分離層の平均膜厚は、特に限定されず、用途等に応じて適宜設定できる。一般的には膜厚が薄いほうが流体の透過速度が向上し亀裂欠陥が発生しにくくなるため、分離層の平均膜厚は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。一方、膜厚が厚い程ピンホールなどが抑制され流体のリークを抑制して分離機能が向上すること、使用中の内的、外的な応力に対する耐久性が高くなることから、分離層の平均膜厚は1nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、100nm以上が特に好ましい。
【0032】
分離層の膜厚とは、SEMを用いて分離膜の断面を観察したとき、分離層の一方の界面から、もう一方の界面までの最短距離とする。平均膜厚とは分離膜の任意の20箇所において分離層の膜厚を測定し算術平均した値を指す
分離層の界面とは、SEMにより分離層の断面を、1±0.1(nm/画素)となる倍率で中空糸分離膜の外表面側と内表面側にそれぞれ視野を移動させながら観察した際に、空隙が初めて観察される位置を界面とする。
【0033】
<多孔質層A>
本発明の分離膜は、緻密な分離層より外表面側に炭素を主成分とする多孔質層Aを有する。多孔質層Aは骨格部と空隙部とで構成され、骨格部と空隙部のうち骨格部の少なくとも一部が連続相を形成している。緻密な分離層よりも外表面側に多孔質層Aを有することで、分離層に直接荷重がかからなくなることに加え、骨格部の少なくとも一部が連続相を形成していることで分離膜の最外表面にかかった荷重を多孔質層Aの骨格部により分散することができ、緻密な分離層に同等の荷重が直接かかった場合に比べ単位面積当たりの荷重が低減され、緻密な分離層に欠陥が発生しにくくなる。これにより、製膜における歩留り向上や、膜使用中における新たな欠陥形成を抑制することで分離性能を維持しやすくなる効果、すなわち欠陥抑制機能の付与が可能になる。また、欠陥抑制機能を多孔質層Aに持たせることにより、さらなる分離層の薄膜化ができ分離膜の流体透過度を向上させることが可能となるメリットを有する。さらに、骨格部が連続相を形成していることで、後述する膜モジュールの使用中や、膜の製造、膜モジュール化などの取り扱い中において、骨格部を構成する材料が脱落しにくくなるため、例えば単に粒子を被覆したような多孔質層に比べて長期間にわたり多孔質層の機能を維持することが可能となる。
【0034】
多孔質とは、CP法により精密に中空糸分離膜の繊維軸に垂直な断面を形成し、SEMで1±0.1(nm/画素)となる倍率で断面観察した際に、断面において複数の窪みや、細孔が観察される状態を指す。
【0035】
中でも好ましい態様となる骨格部が連続相を形成している状態とは、CP法により中空糸分離膜の繊維軸に垂直な断面を形成し、SEMで1±0.1(nm/画素)となる倍率で断面観察した際に、骨格部が奥行方向や断面方向に連続していることを指し、単に粒子が堆積しているだけの構造とは区別される。
【0036】
骨格部が連続相を形成している態様として、例えば、空隙部が連続相を形成していない形態として、骨格部を海成分、空隙部を島成分とするいわゆる海島構造が挙げられる。一方で、多孔質層Aの流体の流路としての機能を向上させる観点から、空隙部も連続相を形成している形態が好ましく、多孔質層Aの流体透過性と荷重の分散性を両立する観点から骨格部と空隙部がそれぞれ連続しつつ三次元的に絡み合った共連続多孔構造を有することが特に好ましい。
【0037】
共連続多孔構造は、CP法により形成した中空糸分離膜の断面において、多孔質層AをSEMで1±0.1(nm/画素)となる倍率で観察することで確認できる。
【0038】
さらに共連続多孔構造は、荷重をより均一に分散させる観点から、骨格部と空隙部が規則的に絡み合い周期構造を有するような均一性の高い構造が好ましく、例えば、個別の粒子が凝集・連結した構造や、凝集・連結した鋳型粒子を除去することにより生じた空隙とその周囲の骨格により形成された構造のような、不規則な構造とは区別される。
【0039】
共連続多孔構造の構造周期は0.002μm以上5μm以下が好ましい。構造周期が0.002μm以上であると空隙部に流体が通過する際の圧力損失が低下するため、流体が効率的に緻密な分離層まで透過することが可能となり、0.01μm以上がより好ましく、0.05μm以上がさらに好ましい。一方、構造周期が5μm以下であると、荷重を均一に分散することができるため外部からの荷重への耐性が向上し欠陥ができにくくなることから、4μm以下がより好ましい。
【0040】
共連続多孔構造の構造周期は、本発明の分離膜の多孔質層Aに対しX線を入射し、小角で散乱して得られた散乱強度のピークトップの位置における散乱角度2θの値により、下式で算出される。
P=λ/(2sinθ)
P:構造周期(μm)、λ:入射X線の波長(μm)
ここで多孔質層Aの構造周期が大きくて小角での散乱が観測できない場合は、X線コンピュータ断層撮影(X線CT)によって構造周期を得る。具体的には、X線CTによって撮影した三次元画像をフーリエ変換した後に、その二次元スペクトルの円環平均を取り、一次元スペクトルを得る。その一次元スペクトルにおけるピークトップの位置に対応する特性波長を求め、その逆数より多孔質層Aの構造周期を算出する。
【0041】
なお、上記の構造周期の解析に際して、緻密な分離層の構造周期は上記の範囲外となるため解析に影響はない。一方で後述する多孔質層Bは、多孔質層Aと構造周期が重複する可能性があり、多孔質層Aのみの構造周期を正確に解析できなくなる恐れがあるため、X線を照射する際に多孔質層Bに同時に照射されないようにすることや、X線CT像においては多孔質層Bを取り除いた三次元画像を用いる必要がある。
【0042】
共連続多孔構造の均一性は、本発明の分離膜の多孔質層AにX線を入射した際の散乱強度のピークの半値幅により評価することができる。具体的には、横軸を散乱角度2θ、縦軸を散乱強度とするグラフにおいて、散乱強度のピークの半値幅が小さいほど均一性が高いことを意味する。ピークの半値幅は5°以下が好ましく、1°以下がより好ましく、0.1°以下がさらに好ましい。
【0043】
上記におけるピークの半値幅とは、ピークの頂点を点Aとし、点Aからグラフの縦軸に平行な直線を引き、該直線とスペクトルのベースラインとの交点を点Bとしたとき、点Aと点Bを結ぶ線分の中点(点C)におけるピークの幅である。なお、ここでのピークの幅とは、ベースラインに平行で、かつ点Cを通る直線上の幅のことである。
【0044】
上述する共連続多孔構造は、共連続多孔構造による流体透過性と荷重の分散性を効率よく発揮する観点から、緻密部や海島構造による多孔質部などの共連続多孔構造以外の構造の割合が小さいほど好ましく、つまり多孔質層Aの割合が大きいほど好ましく、多孔質層Aは共連続多孔構造を有する部分が10%以上の割合で含まれていることが好ましく、50%以上がより好ましい。
【0045】
共連続多孔構造の割合は、無作為に選んだ分離膜の繊維軸に垂直な断面から無作為に4か所ずつ選択しSEM像を取得して、共連続多孔構造の断面積の割合を計算し、これを無作為に選定した5断面分において実施した合計20箇所分の共連続多孔構造の断面積の割合を算術平均した値とする。この時、観察倍率は多孔質な構造が観察できる倍率であればよいが多孔質層Aの膜厚の範囲内で観察し、例えば緻密な分離層などの他の層を含まないよう留意する。
【0046】
緻密部とは、CP法により形成させた断面を、1±0.1(nm/画素)となる倍率でSEMにより観察した際に、明確な細孔が観察されない部分が500nm四方の領域以上の面積で存在する場合、緻密部と判断するものとする。
【0047】
多孔質層Aの平均空隙率は10%以上80%以下が好ましい。平均空隙率が高いほど流体の流路としての圧力損失が小さくなり、流体の透過速度が向上するほか、多孔質層Aが柔らかくなることで変形また多孔質層Aの一部が破壊されることにより、異物や他の膜との接触に伴う荷重や運動エネルギーを吸収しやすくなる。そのため、平均空隙率は25%以上がより好ましく、35%以上がさらに好ましい。一方、平均空隙率が低いほど多孔質層Aの破壊強度が向上するためより大きい荷重に耐えられるようになる。そのため、75%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましい。
【0048】
空隙率とは、樹脂包埋した試料をCP法により精密に形成させた多孔質層Aの断面を、1±0.1(nm/画素)となる倍率にて70万画素以上の解像度で観察し、その画像から計算に必要な着目領域を512画素四方で設定し、その着目領域の面積をA1、空隙部分の面積の総和をB1として、以下の式で算出する。骨格部と空隙部の境界が不鮮明な場合はコントラストを明確にするために適当な染色処理を施しても良い。平均空隙率とは、空隙率を無作為に選択した多孔質層Aの断面20箇所において算出し算術平均した値である。
【0049】
多孔質層Aの空隙率(%)=B1/A1×100
多孔質層Aの平均膜厚L1は、厚いほど荷重が直接分離層に届きにくくなり欠陥抑制効果が向上するため好ましく、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、5μm以上が特に好ましい。薄いほど流体の流路としての機能が向上するため好ましく、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下が特に好ましい。
【0050】
欠陥抑制効果と、多孔質層Aの流体の流路としての機能を両立する観点から、L1は1μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0051】
多孔質層Aの膜厚とは、SEMを用いて分離膜の断面を観察したとき、多孔質層Aの一方の界面から、もう一方の界面までの最短距離とする。多孔質層Aの平均膜厚L1とは分離膜の任意の20箇所において多孔質層Aの膜厚を測定し算術平均した値を指す。 多孔質層Aの平均膜厚L1と、分離層の平均膜厚L2の比L1/L2は高いほど欠陥抑制効果が高まるため好ましく、1以上が好ましく、5以上がより好ましい。小さいほど分離層の透過性を阻害しにくくなるため分離膜としてのガス透過性が向上するため好ましく、200以下が好ましく、100以下がより好ましい。欠陥抑制効果と、分離膜としてのガス透過性を両立する観点から、L1/L2は5以上100以下であることが好ましい。
【0052】
多孔質層Aは炭素を主成分とする。多孔質層Aの主成分が炭素であることにより、化学的、熱的安定性および力学的強度に優れた多孔質層Aが得られる。
【0053】
多孔質層Aが炭素を主成分とするとは、前述の主成分についての説明にかかわらず、多孔質層Aを構成するすべての原子を100原子数%とした場合に、炭素原子数の比率(以下、炭素原子数比率という)が50原子数%を超えていることを意味する。多孔質層Aの炭素原子数比率が高いほど、耐熱性と耐薬品性、力学的強度に優れるため、多孔質層Aの炭素原子数比率は60原子数%以上が好ましく、70原子数%以上であると更に好ましい。一方、多孔質層Aの炭素原子数比率が低いほど、多孔質層Aの骨格部が柔軟になり異物粒子や膜同士の衝突などに対する耐性が向上する観点から、多孔質層Aの炭素原子数比率は99原子数%以下であることが好ましく、90原子数%以下であるとより好ましい。
【0054】
多孔質層A中の炭素原子数比率は、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて、多孔質層Aの断面もしくは表面から加速電圧15keVの条件で元素分析を行うことにより求めることができる。
【0055】
炭素を主成分とする多孔質層Aの形成方法は、特に限定はされないが、例えば分離層より外表面側に炭化可能な前駆体樹脂を付与した後に、不活性ガス雰囲気下で熱分解温度以上の温度で焼成することで得ることができる。
【0056】
多孔質層Aと分離層が隣接している場合、多孔質層Aの空隙部には分離層の一部が入り込んでいてよく、入り込んでいる場合にはアンカー効果により多孔質層Aと分離層の剥離強度が向上する。
【0057】
<多孔質層B>
本発明の分離膜は、緻密な分離層より内表面側に無機材料を主成分とする多孔質層Bを有する。緻密な分離層より内表面側に多孔質層Bを有することで、多孔質層Bが分離層を支える効果が生じ、分離膜の耐圧性が向上する効果がある。
【0058】
多孔質とは、CP法により精密に中空糸分離膜の繊維軸に垂直な断面を形成し、SEMで1±0.1(nm/画素)となる倍率で断面観察した際に、断面において複数の窪みや、細孔が観察される状態を指す。
【0059】
多孔質層Bは、骨格部と空隙部で構成され、骨格部を海部、空隙部を島部とした海島構造や、骨格部が粒子状の構造を持ち、一次粒子が複数連結した粒子連結構造、後述する共連続多孔構造等が含まれる。
【0060】
多孔質層Bは共連続多孔構造を有することが好ましく、上述の方法により確認できる。共連続多孔構造を有することで、骨格部が構造体全体を支えあう効果が生じて応力を多孔質層B全体に分散させるため、圧縮や曲げ等の外力に対して大きな耐性を有し、耐圧性の高い分離膜が得られる。また、空隙部が三次元的に連通しているため、ガスや液体等の流体を供給または排出させるための流路としての役割を有する。
【0061】
さらに多孔質層Bは、共連続多孔構造の中でも、骨格部と空隙部が規則的に絡み合い周期構造を有するような均一性の高い構造が好ましく、構造周期は10nm~10μmであることがさらに好ましい。共連続多孔構造が構造周期を有することは、共連続多孔構造の均一性が高い、すなわち骨格部の太さや空隙部のサイズの均一性が高いことを意味し、高い圧縮強度が得られやすい態様であることを意味する。構造周期が10μm以下であると、骨格部と空隙部が微細な構造となって荷重の分散性が向上し圧縮強度が向上する。構造周期は5μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。一方、構造周期が10nm以上であると、空隙部に流体を流す際の圧力損失が減少して流体の透過速度が向上し、より省エネルギーで流体分離を行うことができる。構造周期は100nm以上がより好ましく、300nm以上がさらに好ましい。
【0062】
共連続構造の構造周期は、上述の方法で測定できる。多孔質層Bは、多孔質層Aと構造周期が重複する可能性があり、多孔質層Bのみの構造周期を正確に解析できなくなる恐れがあるため、X線を照射する際に多孔質層Aに同時に照射されないようにすることや、X線CT像においては多孔質層Aを取り除いた三次元画像を用いる必要がある。
【0063】
さらに、共連続多孔構造は均一な構造であるほど、多孔質層全体に応力を分散させる効果が得られるため、圧縮強度が高くなる。共連続多孔構造の均一性の高さは、X線の散乱強度の強度ピークの半値幅により決定でき、上述の方法で測定できる。ピークの半値幅は5°以下が好ましく、1°以下がより好ましく、0.1°以下がさらに好ましい。
【0064】
多孔質層Bの平均空隙率は20%以上70%以下が好ましい。平均空隙率が高いほど多孔質層Bの流体の流路としての機能が向上するため、平均空隙率は25%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。一方、平均空隙率が低いほど応力を支える骨格部の割合が増えるためより大きい圧縮に耐えられるよう多孔質層Bの支持体としての機能が向上し耐圧性に優れた分離膜が得られるため好ましく、67%以下がより好ましく、65%以下がさらに好ましい。
【0065】
空隙率とは、樹脂包埋した試料をCP法により精密に形成させた多孔質層Bの断面を、1±0.1(nm/画素)となる倍率にて70万画素以上の解像度で観察し、その画像から計算に必要な着目領域を512画素四方で設定し、その着目領域の面積をA2、細孔部分の面積の総和をB2として、以下の式で算出する。骨格部と空隙部の境界が不鮮明な場合はコントラストを明確にするために適当な染色処理を施しても良い。平均空隙率とは、空隙率を無作為に選択した多孔質層Aの断面20箇所において算出し算術平均した値である。
【0066】
多孔質層Bの空隙率(%)=B2/A2×100
多孔質層Bは、空隙部が、その表面、すなわち前述した分離層との界面および中空部との界面に開孔していることが好ましい。空隙部が分離層との界面に開孔していると、分離層から多孔質支持体またはその逆に流体が透過する際の圧力損失が減少するため、分離膜の透過速度を向上させることができる。また、多孔質層B表面に凹凸が生じることとなるため、アンカー効果により分離層との接着性が向上し、使用中の剥離を抑制して耐久性に優れた分離膜が得られる。
【0067】
多孔質層Bは、前述した分離層との界面における空隙部の開孔直径が大きいほど分離膜のガス透過速度が向上するため、平均開孔直径は2nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、50nm以上がさらに好ましい。一方、当該開孔直径が大きすぎると、分離層を形成させる際に分離層を構成する成分が多孔質層の内部深くにまで浸透して、表面に均一に積層できない場合があるため、平均開孔直径は500nm以下が好ましく、400nm以下がより好ましく、300nm以下がさらに好ましい。
【0068】
ここで、分離層との界面に空隙部が開孔している、とは、多孔質層Bの任意の断面をイオンミリング装置などにより精密に作製し、SEMで観察した際に多孔質層Bにある空隙と界面とが直接接触する部分が観測される状態を言う。平均開孔直径は、多孔質層Bの空隙部と界面とが直接接触している界面部分の一方の分離層と多孔質層Bの骨格部との接触点から他方の接触点までを界面に沿って測定した長さを、任意の10箇所について測定し、その平均値を以って計算される。
【0069】
多孔質層Bの主成分は無機材料である。主成分とは、多孔質層Bを構成するすべての物質を100重量%とした場合に、多孔質層Bに50重量%を超えて含まれている成分を指す。
【0070】
無機材料は、化学的、熱的安定性が有機化合物と比較して優れる場合が多く、耐久性の高い多孔質層Bが得られ、多孔質層Bの主成分となる無機材料は炭素またはケイ素のいずれかを含むことが好ましい。ケイ素を含んでいる無機材料としては、ゼオライトなどのアルミノ珪酸塩、シリコーン、シロキサンなどが挙げられる。炭素を含んでいる無機材料としては、樹脂炭化物や、グラフェン、黒鉛などが挙げられる。耐薬品性、耐熱性の観点から炭素であることが特に好ましい。つまり、多孔質層Bは炭素を主成分とすることが好ましい。
【0071】
多孔質層Bが炭素を主成分とするとは、前述の主成分についての説明にかかわらず、多孔質層Bを構成するすべての原子を100原子数%とした場合に、炭素原子数の比率(以下、炭素原子数比率という)が50原子数%を超えていることを意味する。多孔質層Bの炭素原子数比率が高いほど、耐熱性と耐薬品性に優れ、さらに力学的強度に優れ耐圧性が向上するため、分離層の炭素原子数比率は60原子数%以上が好ましく、70原子数%以上であると更に好ましい。一方、分離層の炭素原子数比率が低いほど、柔軟になる分離膜の取り扱い性が向上する観点から、多孔質層Bの炭素原子数比率は99原子数%以下であることが好ましく、90原子数%以下であるとより好ましい。
【0072】
多孔質層B中の炭素原子数比率は、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて、多孔質層Bの断面から加速電圧15keVの条件で元素分析を行うことにより求めることができる。
【0073】
炭素を主成分とする多孔質層Bの形成方法は、特に限定はされないが、例えば炭化可能な前駆体樹脂を不活性ガス雰囲気下で熱分解温度以上の温度で焼成することで得ることができる。
<中空糸分離膜の製造方法>
本発明の分離膜の製造方法は、様々な製造方法で達成可能であり、その方法は特に限定されない。
【0074】
本発明の中空糸分離膜は、多孔質層Bからなる中空糸状の多孔質繊維の表面に順に緻密な分離層、多孔質層Aを形成する方法や、多孔質層Aからなる中空糸状の多孔質繊維の内表面に緻密な分離層、多孔質層Bを形成する方法や、緻密な分離層で構成された中空糸分離膜の外表面、内表面にそれぞれ多孔質層A、多孔質層Bを形成する方法、三十管口金などを用いてすべての層を同時に形成する方法などが挙げられ、形成する順番は特に限定されない。各層を別の工程で形成する場合、例えば緻密な分離層を薄膜化しやすいなど各層の自由度が高まり分離膜構造の設計が容易となり、複数の層を一つの工程で形成する場合は少ない工程数で分離膜を製造することができるなどのメリットがある。
【0075】
以下、多孔質層Bから順に形成する方法について例示するが、本発明の分離膜の製造方法を限定するものではない。
【0076】
<多孔質層Bの形成方法>
無機材料を主成分とする多孔質層Bはたとえば中空糸状の多孔質アルミナ管など公知のものを用いてもよい。
【0077】
一例として炭素を主成分とする多孔質層Bからなる中空糸状の多孔質炭素支持体の形成方法について下記するが、多孔質層Bの形成方法を限定するものではない。
【0078】
多孔質炭素支持体は、例えば多孔質炭素支持体の前駆体樹脂(以下、支持体前駆体樹脂ということがある)を含む中空糸状の成形物(以下、支持体前駆体繊維ということがある)を炭化することにより得ることができる。
【0079】
支持体前駆体樹脂とは、炭化時に炭素として残り多孔質炭素支持体の炭素の骨格部を形成することができる樹脂を指す。
【0080】
支持体前駆体樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、芳香族ポリエステル、ポリアミック酸、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリエーテルイミドや、それらの共重合体などが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、リグニン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリフルフリルアルコール樹脂や、それらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、溶液紡糸可能な熱可塑性樹脂が好ましく、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリイミドが特に好ましい。
【0081】
支持体前駆体樹脂の重量平均分子量(MW)は、紡糸工程における糸切れを抑制する観点から、10,000以上が好ましい。一方、支持体前駆体樹脂の重量平均分子量(MW)は、成形性を向上させる観点から、1,000,000以下が好ましい。
【0082】
支持体前駆体繊維には、支持体前駆体樹脂のほか、成形後に消失させることが可能な消失成分を添加しておくことが好ましい。例えば、炭化時等の事後的な加熱により消失する樹脂(「消失樹脂」ということがある)との樹脂混合物としておくことや、炭化時等の事後的な加熱により消失する粒子を分散させておくこと等によって、多孔質構造を形成することができるとともに、多孔質構造を形成する細孔の平均直径を所望の範囲に容易に調整することができる。安定的に共連続多孔構造を形成するためには、支持体前駆体樹脂のほか、成形後に消失させることが可能な消失成分を添加して多孔構造を形成する方法が好ましい。
【0083】
支持体前駆体樹脂を得る手段の一例として、消失樹脂を添加する例を記載する。まず、支持体前駆体樹脂と消失樹脂を混合させて樹脂混合物を得る。混合比は、支持体前駆体樹脂10~90重量%に対し、消失樹脂10~90重量%とすることが好ましい。混合比を変化させることによって、例えば空隙率や、共連続多孔構造の構造周期などをコントロールすることが可能である。
【0084】
ここで消失樹脂は、支持体前駆体樹脂と相溶する樹脂を選択することが好ましい。相溶方法は、樹脂同士のみの混合でもよく、溶媒を加えてもよい。このような支持体前駆体樹脂と消失樹脂の組み合わせは限定されないが、ポリアクリロニトリル/ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル/ポリビニルフェノール、ポリアクリロニトリル/ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル/ポリ乳酸などが挙げられる。
【0085】
得られた樹脂混合物は、成形する過程で相分離させることが好ましい。相分離させる方法は限定されず、熱誘起相分離法、非溶媒誘起相分離法などが挙げられる。
【0086】
樹脂混合物の相分離の形態として、海島構造や、共連続構造、層状構造、粒子連結構造などが知られるが、炭化後の多孔質炭素支持体が共連続多孔構造を有するためには、支持体前駆体繊維が支持体前駆体樹脂と消失樹脂の共連続構造、または消失樹脂を洗浄等により取り除くことで得られる支持体前駆体樹脂と空隙の共連続多孔構造を有していることが好ましく、後述する溶液紡糸において、樹脂混合物を非溶媒誘起相分離法により相分離させることで共連続構造が得られやすく好ましい。
【0087】
共連続構造とするためには、樹脂混合物がスピノーダル分解による相分離を起こしている時点で構造を固定化することが好ましい。スピノーダル分解は、相溶する樹脂の組み合わせにおいて、炭化可能樹脂と消失樹脂それぞれのポリマーの分子量や樹脂混合物の粘度、後述する凝固浴中の非溶媒の種類や組成を適切に調整することで発生させることができる。
【0088】
支持体前駆体繊維は、例えば溶液紡糸により得ることができる。溶液紡糸とは、樹脂を各種溶媒に溶解させて紡糸原液を調製し、樹脂の非溶媒となる溶媒からなる浴中を通過させて樹脂を凝固して繊維を得る方法である。溶液紡糸としては、例えば、乾式紡糸、乾湿式紡糸、湿式紡糸などが挙げられる。
【0089】
例えば、上述のように作製した樹脂混合物を二重管構造の中空糸紡糸口金の外管から押し出し、紡糸口金の内管から、空気や窒素などのガス、紡糸原液と同一の溶媒、消失樹脂が溶解した溶液などを同時に吐出する方法により、中空糸状の成形物を得ることができる。
【0090】
また、紡糸条件を適切に制御することにより、支持体前駆体繊維の外周に緻密な層が形成されることを抑制し、多孔質炭素支持体の表面を開孔させることができる。例えば、非溶媒誘起相分離法を利用して紡糸する場合、紡糸原液や凝固浴の組成や温度を適切に制御したり、または内管から紡糸溶液を吐出し、外管から紡糸溶液と同一の溶媒や消失樹脂を溶解した溶液などを同時に吐出したりする手法が挙げられる。
【0091】
前述の方法により紡糸した繊維を、凝固浴中で凝固させ、続いて水洗および乾燥させることにより、支持体前駆体繊維を得ることができる。ここで、凝固液としては水、エタノール、食塩水、およびそれらと工程1で使用する溶媒との混合溶媒などが挙げられる。なお、乾燥工程の前に凝固浴中や水浴中に浸漬して、溶媒や消失樹脂を溶出させることもできる。
【0092】
前述の方法により作製した支持体前駆体繊維は、炭化処理を行う前に不融化処理を行うことができる。不融化処理を行うことで、例えば紡糸工程で形成した多孔質な構造を炭化後にも維持しやすくなり空隙率、共連続多孔構造の構造周期などをコントロールしやすくなるメリットがある。不融化処理としては、例えば、酸素存在下で支持体前駆体繊維を加熱して酸化架橋を起こす方法、電子線、ガンマ線などの高エネルギー線を支持体前駆体繊維に照射して架橋構造を形成する方法、反応性基を持つ物質を支持体前駆体繊維に含浸、混合して架橋構造を形成する方法などが挙げられる。これらを2種以上組み合わせてもよい。それらの中でも、支持体前駆体繊維を酸素存在下で加熱して酸化架橋を起こす方法は、プロセスが簡便であり製造コストが安くなるため好ましい。
【0093】
必要に応じ不融化処理を行った支持体前駆体繊維は、最終的に炭化されて多孔質炭素支持体となる。炭化は不活性ガス雰囲気で加熱することにより行うことが好ましい。不活性ガスとしては、ヘリウム、窒素、アルゴンなどが挙げられる。不活性ガスの流量は、加熱装置内の酸素濃度を充分に低下させられる量であればよく、加熱装置の大きさ、原料の供給量、炭化温度などによって適宜最適な値を選択することが好ましい。消失樹脂は炭化時の熱による熱分解で除去してもよい。
【0094】
連続的に炭化処理を行う場合、生産性を高くするために、一定温度に保たれた加熱装置内に支持体前駆体繊維をローラーやコンベヤ等を用いて連続的に供給しつつ取り出す方法が好ましい。
【0095】
バッチ式処理により炭化処理を行う場合、昇温速度や降温速度は任意に設定できる。生産性の観点から、昇温速度および降温速度はいずれも1℃/分以上が好ましい。一方、昇温速度や降温速度の上限は限定されず、亀裂などの欠陥が生じない範囲で任意に設定できる。
【0096】
また、炭化温度の保持時間は亀裂などの欠陥が生じない範囲で任意に設定でき、長いほど耐薬品性や耐久性に優れるため好ましく、短いほど柔軟性が高くなるため好ましく、1分間以上3時間以下が好ましい。
【0097】
炭化温度は、500℃以上2,400℃以下が好ましい。ここで、炭化温度とは、炭化処理を行う際の最高到達温度である。多孔質層Bの支持体としての機能を向上させる観点から、炭化温度は900℃以上がより好ましい。一方、脆性低減、取扱性向上の観点から、炭化温度は1,500℃以下がより好ましい。炭化温度が高いほど、炭素原子比率を高く制御でき、温度が低いほど炭素原子比率を低く制御することができる。
【0098】
また、上述の不活性ガスと活性ガスとの混合ガス雰囲気下で加熱することにより、多孔質炭素支持体の表面を化学的にエッチングし、支持体の骨格部表面に活性炭のような微細な細孔を形成することができ、例えば後述する緻密な分離層との接着性を向上させることができる。活性ガスとしては、例えば、酸素、二酸化炭素、水蒸気、空気、燃焼ガスが挙げられる。不活性ガス中の活性ガスの濃度は、0.1ppm以上100ppm以下が好ましい。
【0099】
<緻密な分離層の形成方法>
無機材料を主成分とする緻密な分離層は、前述の方法で製造した中空糸状の多孔質支持体上に公知の方法で形成させることができ、例えばゼオライトの種結晶を多孔質支持体上に付与した後に水熱合成することでゼオライトを主成分とする分離層を形成する方法や、分離層の前駆体樹脂を多孔質支持体表面にコーティング後に炭化することで炭素を主成分とする緻密な分離層(以下、緻密炭素層という)を形成することができる。
【0100】
一例として緻密炭素層の形成方法について下記するが、緻密な分離層の形成方法を限定するものではない。
【0101】
炭化後に緻密炭素層となる前駆体樹脂(以下、緻密炭素層前駆体樹脂という)としては、炭化後に流体の分離性を示す各種樹脂を採用できる。緻密炭素層前駆体樹脂としては、例えば、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリイミド、ポリベンズオキサゾール、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、フェノール樹脂、酢酸セルロース、ポリフルフリルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、リグニン、木質タール、固有多孔性ポリマー(PIM)などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリイミド、ポリベンズオキサゾール、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、固有多孔性ポリマー(PIM)は、流体の透過速度および分離性に優れるため好ましく、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリイミドがより好ましい。なお、緻密炭素層前駆体樹脂は、前述の支持体前駆体樹脂と同じでもよく、異なってもよい。
【0102】
緻密炭素層前駆体樹脂層の形成方法は限定されず、公知の方法を採用できる。一般的な形成方法は、緻密炭素層前駆体樹脂そのものを多孔質支持体上にコートする方法であるが、緻密炭素層前駆体樹脂の前駆体を多孔質
支持体上にコートした後、その前駆体を反応させて緻密炭素層前駆体樹脂を形成する方法や、多孔質支持体の外部と内部から反応性のガスや溶液を流して反応させる対向拡散法などが挙げられる。反応の例としては、加熱または触媒による重合、環化、架橋反応などが挙げられる。
【0103】
緻密炭素層前駆体樹脂のコート方法の例としては、ディップコート法、ノズルコート法、スプレー法、蒸着法、キャストコート法などが挙げられる。製造方法の容易性から、ディップコート法またはノズルコート法が好ましい。
【0104】
ディップコート法は、多孔質支持体を、緻密炭素層前駆体樹脂またはその前駆体の溶液を含むコート原液に浸漬した後引き出す方法である。
【0105】
ディップコート法におけるコート原液の粘度は、多孔質支持体の表面粗さや引上げ速度、所望の膜厚などの条件によって任意に設定することができる。コート原液の粘度が高いと均一な緻密炭素層前駆体樹脂層を形成できる。そのため、せん断速度0.1s-1におけるせん断粘度は、10mPa・s以上が好ましく、50mPa・s以上がより好ましい。一方、コート原液の粘度が低いほど薄膜化して流体の透過速度が向上する。そのため、せん断速度0.1s-1におけるせん断粘度は、1,000mPa・s以下が好ましく、800mPa・s以下がより好ましい。
【0106】
ディップコート法における多孔質支持体の引上げ速度もコート条件によって任意に設定することができる。引上げ速度が速いと緻密炭素層前駆体樹脂層の厚みが厚くなり、外力に対しての耐性を高めることができ欠陥を抑制できる。そのため、引上げ速度は1mm/分以上が好ましく、10mm/分以上がより好ましい。一方、引上げ速度が遅いと、緻密炭素層前駆体樹脂層の膜厚均一性が向上し、また、薄膜化するため流体の透過速度が向上する。そのため、引上げ速度は1,000mm/分以下が好ましく、800mm/分以下がより好ましい。コート原液の温度は20℃以上80℃以下が好ましい。コート原液の温度が高いと表面張力が低下して多孔質支持体への濡れ性が向上し、緻密炭素層前駆体樹脂層の厚みが均一になる。
【0107】
ノズルコート法は、緻密炭素層前駆体樹脂層またはその前駆体の溶液であるコート原液に満たされたノズル内に多孔質支持体を通過させることにより、多孔質支持体上に緻密炭素層前駆体樹脂層またはその前駆体を積層する方法である。コート原液の粘度や温度、ノズル径、多孔質支持体の通過速度は任意に設定できる。
【0108】
のちの不融化処理工程や炭化工程において、マルチフィラメントで処理する場合には、融着および、分繊時の欠陥抑制のため、油剤を付与することが好ましい。油剤としては、例えば、シリコーン系油剤、非シリコーン系油剤などが挙げられる。シリコーン系油剤としては、例えば、アミノ変性シリコーンやエポキシ変性シリコーンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0109】
コーティング工程を経て得られた緻密炭素層前駆体樹脂層が形成された多孔質支持体(以下、炭素膜前駆体という)は、炭化処理の前に不融化処理を行ってもよい。不融化処理の方法は限定されず、前述の多孔質炭素支持体の前駆体の不融化処理に準じる。
【0110】
必要に応じてさらに不融化処理を行った炭素膜前駆体を加熱して、緻密炭素層前駆体樹脂層を炭化し、多孔質支持体の表面に緻密炭素層を形成した分離膜(以下、炭素膜という)を得ることができる。
【0111】
炭化においては、炭素膜前駆体を不活性ガス雰囲気において加熱することが好ましい。不活性ガスの流量は、加熱装置内の酸素濃度を充分に低下させられる量であればよく、加熱装置の大きさ、原料の供給量、炭化温度などによって適宜最適な値を選択することが好ましい。不活性ガスの流量の上限についても限定されないが、経済性や加熱装置内の温度変化を少なくする観点から、温度分布や加熱装置の設計に合わせて適宜設定することが好ましい。
【0112】
本工程における炭化温度は炭素膜の透過速度および分離係数が向上する範囲で任意に設定できる。炭化温度が高いほど炭素構造がグラファイト化するため分離係数が高くなりやすく、炭化温度が低いほど透過速度が高くなりやすく、500度以上800度以下が好ましい。
【0113】
炭素膜は、所望の透過速度および分離係数を得るために、公知の各種後処理をすることができる。後処理の例としては、加熱処理や化学気相成長(CVD)法による細孔制御などが挙げられる。
【0114】
上述の工程で得られた、無機材料を主成分とする緻密な分離層とその内表面側に無機材料を主成分とした多孔質層Bを有する分離膜(以下、無機膜という)は、分離膜を形成したあと、ローラーやコンベア表面と分離層とが接触する前に多孔質層Aの前駆体が分離層表面に形成されることが欠陥抑制の観点から好ましい。
【0115】
<多孔質層Aの形成方法>
炭素を主成分とした多孔質層Aは、以上の工程で得られた無機膜の表面に形成することができる。
【0116】
多孔質層Aの形成方法としては限定されないが、炭化可能な前駆体樹脂を含む粒子を無機膜の表面に堆積させた後に必要に応じて熱処理により前駆体樹脂を含む粒子を部分的に溶融、連結させたあとに炭化する方法や、後工程により除去可能な鋳型粒子と炭化可能な前駆体樹脂溶液を無機膜の表面にコーティングした後に炭化し、鋳型粒子を除去し空隙を作り出す方法などが挙げられる。
【0117】
炭素を主成分とした多孔質層A(以下、多孔質炭素層)の形成方法の一例について下記するが、多孔質層Aの形成方法を限定するものではない。
【0118】
多孔質炭素層は、炭化可能な前駆体樹脂(以下、多孔質炭素層前駆体樹脂)を少なくとも含んだ層を無機膜表面に形成した後に、炭化処理することによって得られる。
【0119】
多孔質炭素層前駆体樹脂とは、炭化時に炭素として残り多孔質炭素層の炭素の骨格部を形成することができる樹脂を指す。
【0120】
多孔質炭素層前駆体樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、芳香族ポリエステル、ポリアミック酸、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリエーテルイミドや、それらの共重合体などが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、リグニン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリフルフリルアルコール樹脂や、それらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、溶液紡糸可能な熱可塑性樹脂が好ましく、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリイミドが特に好ましい。
【0121】
多孔質炭素層前駆体樹脂には、多孔質炭素層前駆体樹脂のほか、成形後に消失させることが可能な消失成分を添加しておくことが好ましい。例えば、炭化時等の事後的な加熱により消失する樹脂(「消失樹脂」ということがある)との樹脂混合物としておくことや、炭化時等の事後的な加熱により消失する粒子を分散させておくこと等によって、多孔質構造を形成することができるとともに、多孔質構造を形成する細孔の平均直径を所望の範囲に容易に調整することができる。安定的に共連続多孔構造を形成するためには、多孔質炭素層前駆体樹脂のほか、成形後に消失させることが可能な消失成分を添加して多孔構造を形成する方法が好ましい。
【0122】
多孔質炭素層前駆体樹脂を得る手段の一例として、消失樹脂を添加する例を記載する。まず、多孔質炭素層前駆体樹脂と消失樹脂を混合させて樹脂混合物を得る。混合比は、多孔質炭素層前駆体樹脂10~90重量%に対し、消失樹脂10~90重量%とすることが好ましい。これら比率をコントロールすることで、空隙率や、共連続多孔構造の構造周期などを制御することができる。
【0123】
ここで消失樹脂は、多孔質炭素層前駆体樹脂と相溶する樹脂を選択することが好ましい。相溶方法は、樹脂同士のみの混合でもよく、溶媒を加えてもよい。このような支持体前駆体樹脂と消失樹脂の組み合わせは限定されないが、ポリアクリロニトリル/ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル/ポリビニルフェノール、ポリアクリロニトリル/ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル/ポリ乳酸などが挙げられる。
【0124】
得られた樹脂混合物は、成形する過程で相分離させることが好ましい。相分離させる方法は限定されず、熱誘起相分離法、非溶媒誘起相分離法などが挙げられる。
【0125】
樹脂混合物の相分離の形態として、海島構造や、共連続構造、層状構造、粒子連結構造などが知られるが、炭化後の多孔質炭素層が共連続多孔構造を有するためには、多孔質炭素層前駆体樹脂層が、多孔質炭素層前駆体樹脂と消失樹脂の共連続構造、または消失樹脂を洗浄等により取り除くことで得られる多孔質炭素層前駆体樹脂と空隙の共連続多孔構造を有していることが好ましい。後述する溶液を用いた多孔質炭素層前駆体樹脂層の形成において、樹脂混合物を非溶媒誘起相分離法により相分離させることで共連続構造が得られやすく好ましい。
【0126】
共連続構造とするためには、樹脂混合物がスピノーダル分解による相分離を起こしている時点で構造を固定化することが好ましい。スピノーダル分解は、相溶する樹脂の組み合わせにおいて、多孔質炭素層前駆体樹脂と消失樹脂それぞれのポリマーの分子量や樹脂混合物の粘度、後述する凝固浴中の非溶媒の種類や組成を適切に調整することで発生させることができる。
【0127】
無機膜への多孔質炭素層前駆体樹脂層の形成方法は限定されず、公知の方法を採用できる。一般的な形成方法は、多孔質炭素層前駆体樹脂そのものを無機膜上にコートする方法であるが、多孔質炭素層前駆体樹脂の前駆体を無機膜上にコートした後、その前駆体を反応させて多孔質炭素層前駆体樹脂層を形成する方法も挙げられる。
【0128】
多孔質炭素層前駆体樹脂のコート方法の例としては、ディップコート法、ノズルコート法、スプレー法、蒸着法、キャストコート法などが挙げられる。製造方法の容易性から、ディップコート法またはノズルコート法が好ましい。
【0129】
ディップコート法は、無機膜を、多孔質炭素層前駆体樹脂またはその前駆体の溶液を含むコート原液に浸漬した後引き出す方法である。
【0130】
ディップコート法におけるコート原液の粘度は、無機膜の表面粗さや引上げ速度、所望の膜厚などの条件によって任意に設定することができる。コート原液の粘度が高いと均一な多孔質炭素層前駆体樹脂層を形成できる。そのため、せん断速度0.1s-1におけるせん断粘度は、10mPa・s以上が好ましく、50mPa・s以上がより好ましい。一方、コート原液の粘度が低いほど薄膜化して流体の透過速度が向上する。そのため、せん断速度0.1s-1におけるせん断粘度は、100,000mPa・s以下が好ましく10,000mPa・s以下がより好ましい。
【0131】
ディップコート法における無機膜の引上げ速度もコート条件によって任意に設定することができる。引上げ速度が速いと多孔質炭素層前駆体樹脂層の厚みが厚くなり、荷重に対しての耐性を高めることができるため欠陥抑制効果が向上する。そのため、引上げ速度は1mm/分以上が好ましく、10mm/分以上がより好ましい。一方、引上げ速度が遅いと、多孔質炭素層前駆体樹脂層の膜厚均一性が向上し、また、薄膜化するため多孔質炭素層の流体の流路としての機能が向上する。そのため、引上げ速度は1,000mm/分以下が好ましく、800mm/分以下がより好ましい。コート原液の温度は20℃以上80℃以下が好ましい。コート原液の温度が高いと表面張力が低下して無機膜への濡れ性が向上し、多孔質炭素層前駆体樹脂層の厚みが均一になる。
【0132】
ノズルコート法は、多孔質炭素層前駆体樹脂またはその前駆体の溶液であるコート原液に満たされたノズル内に無機膜を通過させることにより、無機膜上に多孔質炭素層前駆体樹脂またはその前駆体を積層する方法である。コート原液の粘度や温度、ノズル径、多孔質炭素支持体の通過速度は任意に設定できる。
【0133】
ディップコートまたはノズルコート法により多孔質炭素層前駆体樹脂溶液をコーティングされた無機膜を、続く凝固浴で相分離および構造固定化、水洗浴で溶媒除去後、乾燥させることで多孔質炭素層前駆体樹脂層が形成された無機膜が得られる。凝固浴では、コーティングされた多孔質炭素層前駆体樹脂溶液を非溶媒誘起相分離させることができ、相溶する組み合わせの樹脂混合物溶液をコーティングに用いた場合には凝固浴の非溶媒の組成や、温度、通過時間などの凝固条件を適正化することで、スピノーダル分解中に構造を固定化することができ、共連続構造を有する多孔質炭素層前駆体樹脂層が得られる。ディップコート、ノズルコート後から凝固浴に入るまでに空気中の水分により水を非溶媒とする非溶媒相分離が進行すること場合もあり、コートから凝固浴に入るまでの空走時間や外気温、湿度をコントロールすることによっても相分離構造を制御することが可能である。凝固浴は1段である必要はなく、組成や温度の異なる複数の凝固浴を用いても良い。
【0134】
多孔質炭素層前駆体樹脂層が形成された無機膜は、必要に応じて炭化処理の前に加熱処理により多孔質炭素層前駆体樹脂層を緻密化し空隙率を調整することができる。加熱処理は多孔質炭素層前駆体樹脂のガラス転移温度以上、熱分解温度以下で行われることが好ましい。加熱雰囲気は、窒素雰囲気であることが好ましいが、空気雰囲気で加熱し後述する不融化処理を同時に行っても良い。
【0135】
多孔質炭素層前駆体樹脂層が形成された無機膜は、必要に応じ炭化処理の前に不融化処理をすることができる。不融化処理の方法は限定されず、多孔質炭素支持体の前駆体の不融化処理に準じる。
【0136】
必要に応じてさらに不融化処理を行った多孔質炭素層前駆体樹脂層が形成された無機膜を炭化することで、多孔質炭素層が形成された無機膜が得られる。
【0137】
炭化は不活性ガス雰囲気で行われることが好ましく、不活性ガスの流量は、加熱装置内の酸素濃度を充分に低下させられる量であればよく、加熱装置の大きさ、原料の供給量、炭化温度などによって適宜最適な値を選択することが好ましい。不活性ガスの流量の上限についても限定されないが、経済性や加熱装置内の温度変化を少なくする観点から、温度分布や加熱装置の設計に合わせて適宜設定することが好ましい。
【0138】
多孔質炭素層前駆体樹脂層が形成された無機膜の炭化工程における炭化温度は、多孔質炭素層の欠陥抑制効果や、流体の流路としての機能を向上させる範囲で任意に設定できる。炭化温度が高いほど、炭素骨格の炭素原子比率が高くなるため強度や耐薬品性が向上するため好ましく、炭化温度が低いほど、炭素骨格の炭素原子比率が低くなるため炭素骨格が柔らかくなることで膜同士や異物粒子の衝突によるエネルギーを吸収しやすくなるため好ましく、500~1000℃であることが好ましい。
【0139】
<分離膜モジュール>
本発明の膜分離システムは、後述する分離膜モジュールを1本以上備え、流体の輸送のための配管や、必要に応じ、分離条件制御のための圧力調整器および圧力計や流量調整機、加圧または減圧のためのコンプレッサー等を備えることを特徴とする。流体から粗大粒子を除去するためのプレフィルターや、例えば膜分離システムが気体分離用である場合には、脱水、脱硫、脱硝、気液分離等の前処理工程を備えていても良く、膜の特性に応じて必要な前処理工程を選択し組み合わせることができる。
【0140】
本発明の分離膜モジュールは、後述する分離膜エレメントがベッセル内に1本以上収納されてなるか、または上述した分離膜が複数本ベッセルに直接収納されてなることを特徴とする。ベッセル内に分離膜エレメントが収納される態様は、膜交換の際の交換作業が容易となるため好ましく、高圧用途などベッセル重量が大きくなる場合において、比較的軽量な分離膜エレメントのみを輸送、交換すれば良くなるメリットがある。分離膜がベッセル内に直接収納されてなる場合には、分離膜モジュールを作る場合に、必要な工程数が減るため好ましい。
【0141】
本発明のモジュールおよびシステムが分離対象とする流体は特に限定されるものではないが、無機材料を主成分とする分離層を有する分離膜の耐熱性や耐圧性を活かし、耐熱性や耐薬品性が必要な用途において好適に用いることができる。耐熱性や耐薬品性が必要な用途としては、例えば発電所や高炉等の排気ガスからの二酸化炭素分離・貯蔵システム、石炭ガス化複合発電におけるガス化した燃料ガス中からの硫黄成分除去、バイオガスや天然ガスの精製、有機ハイドライドからの水素精製、有機溶剤が含まれる混合液体からの有機溶剤除去・脱水などが挙げられる。
【0142】
分離膜モジュール内に含まれる全分離膜本数に対する前記中空糸分離膜の本数の割合は、欠陥抑制効果によりモジュールとしての分離性能を維持しやすくなる観点から、10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。割合は、モジュール内に含まれる分離膜のうち20本を無作為に選択し、前記多孔質層Aを有する分離膜の本数の割合を求める操作を3セット実施し、3セットの平均値を割合とする。このとき、各セット毎に測定のために取り出した分離膜はモジュール内には戻さず、次のセットの分離膜20本をモジュール内から取り出すものとする。また、モジュール内に含まれる全分離膜本数が60本に満たない場合は、全分離膜本数において分析し、割合を算出するものとする。
【0143】
本発明の分離膜モジュールにおいて、ベッセルの断面形状は、ベッセルの耐圧性を向上させる観点から、楕円形や円形などが好ましく、円形がより好ましい。ここで、ベッセルの断面とは、ベッセルの、分離膜の長さ方向に垂直な断面を言う。ベッセルの材質としては、例えば、金属、樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)等が挙げられ、設置場所の環境や使用される状況に応じて、適宜選択することができる。耐圧性や耐熱性が要求される用途においては、強度と成形加工性を兼ね備えた金属が好ましく、ステンレス等がより好ましい。
【0144】
ベッセルに配置される流入口および流出口は、分離膜へ流体を導く機能を有する。分離膜が全量ろ過方式で用いられる場合には、流入出口を1箇所有していればよく、クロスフローろ過方式で用いられる場合には、流入口および流出口を合わせて2箇所以上有することが好ましい。ベッセルの機械的強度を保つ範囲において、複数の流入口および流出口を有してもよい。この場合、流入口および/または流出口と分離膜との間に、流体の通過を妨げない範囲でメッシュやフェルト等の布帛を配置することが好ましく、流体の拡散や分離膜の保護の効果を奏する。
【0145】
本発明の分離膜モジュールにおいて、1つのベッセルに収納される膜エレメントの数は、1つであっても複数であってもよいが、大きな膜面積が求められる用途の場合は、複数の膜エレメントをベッセル内へ収納することが好ましい。複数の膜エレメントは、直列に接続されてもよいし、並列に接続されてもよい。
【0146】
膜エレメント中に充填された分離膜の充填率は、高いほど単位モジュール体積当たりの膜面積が大きくなりモジュールあたりに処理できるガス量が増えるため好ましく、低いほど分離膜間の流体が拡散しやすくなることで偏流が起こりにくくなり、流体の濃度が均一化して膜が高効率に利用できるため好ましい。充填率は、3%以上80%以下が好ましく、15%以上50%以下がさらに好ましい。ここで、エレメント中に充填された分離膜の充填率はエレメントの断面積あたりの分離膜の断面積の合計で算出される。このとき、エレメントの筐体部分の断面積はエレメントの断面積に含まない。
【実施例0147】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各実施例および比較例における評価は、以下の方法で行った。
(SEMによる形態観察)
多孔質層Aの平均膜厚L1、分離層の平均膜厚L2、分離膜の外径、内径は、CP法により形成した分離膜の断面をSEMで観察することにより測定した。
多孔質層Aの平均膜厚L1は、分離膜の任意の20箇所において後述の方法により多孔質層Aの膜厚を測定し算術平均した値とした。多孔質層Aの膜厚とは、上記断面をSEMで観察したとき、多孔質層Aの一方の界面から、もう一方の界面までの最短距離とした。
【0148】
分離層の平均膜厚L2とは分離膜の任意の20箇所において後述の方法により分離層の膜厚を測定し算術平均した値とした。分離層の膜厚とは、上記断面をSEMで観察したとき、分離層の一方の界面から、もう一方の界面までの最短距離とした。
【0149】
分離膜の平均外径は、分離膜の無作為に選択した20箇所において後述の方法により分離膜の外径を求め算術平均した値とした。分離膜の外径は、上記断面をSEMで観察したとき、中空部を含む断面積に対し、前記断面積と同等の面積を有する円の直径とした。
分離膜の平均内径は、分離膜の無作為に選択した20箇所において後述の方法により分離膜の内径を求め算術平均した値とした。分離膜の内径は、上記断面をSEMで観察したとき、中空部の断面積に対し、前記断面積と同等の面積を有する円の直径とした。(平均空隙率の測定)
多孔質層Aの空隙部が連続相を形成した分離膜については、樹脂により包埋したあと、CP法により精密に分離膜の断面を形成した後、SEM観察により得られた断面像から、着目面積に対する樹脂に包埋された部分と(空隙部の面積)を測定し、空隙部を算出した。1断面あたり無作為に選んだ4か所を5断面分、合計20箇所について空隙率を測定し算術平均した。このとき基本的に空隙部は樹脂に包埋され断面観察においては、空隙部は樹脂部として観察されるが、包埋の過程で残存した空隙も一部残っており、観察においては空隙の残っていない部分を測定した。
【0150】
空隙部が連続相を形成していない分離膜については、樹脂包埋せずにCP法により精密に分離膜の断面を形成した後、SEM観察により得られた断面像から空隙率を算出し、同様に20箇所分の空隙率を算術平均した。
(構造周期の測定)
構造周期は高輝度X線を用いた小角X線散乱法により測定した。多孔質層Aのみに照射可能なようにビーム径を調整し、分離膜の多孔質層AにのみX線を照射し、散乱像を取得したあと、散乱角度毎に散乱強度を円環平均した散乱データから構造周期を求めた。
(各測定前の分離膜の欠陥検査)
分離膜20cmを用意し、分離膜の片方の端部を封止し、もう一方の端部から加圧できるように欠陥検査エレメントを作成し、0.4MPaGの圧空で中空部側から加圧した状態で空中で5秒間保持したあと、加圧したまま分離膜を水中に沈め欠陥検査した。このとき膜からバブルが発生しなかったものを「欠陥無し」と判定した。
(耐荷重検査)
3cm×3cmの底面で表面を鏡面バフ加工した40gでステンレスのブロックを用意した。欠陥検査により欠陥が無いことを確認した15cmの分離膜が直線状になるようにアルミホイル上に規制し、その上に40gのステンレスブロックを静かに乗せ、1分静置した。その後ブロックをのせた分離膜15cmを用いて欠陥検査を行った。合計10本分実施し、ブロックを載のせた後に欠陥が無かった分離膜の本数に応じて点数をつけた。5点:9~10本、4点:7~8本、3点:5~6本、2点:3~4本、1点:2本以下とした。
(耐衝撃性検査)
直径2cmの円形の底面を有する4gアルミのブロックを用意した。欠陥検査により欠陥が無いことを確認した15cmの分離膜が直線状になるようにアルミホイル上に規制し、分離膜から2cmの高さでアルミのブロックの円形の底面が下向きになるように把持した状態から、分離膜上に合計3回自由落下させ、ブロックと分離膜とを衝突させた。その後ブロックを衝突させた分離膜を用いて欠陥検査を行った。合計10本分実施し、欠陥が無い分離膜の本数に応じて点数をつけた。5点:9~10本、4点:7~8本、3点:5~6本、2点:3~4本、1点:2本以下とした。
(ガス透過度維持率の測定)
各実施例および比較例により得られた分離膜のうち、欠陥検査により欠陥が無いことを確認した分離膜を用いてモジュールを作製し、ガス透過速度を測定した。維持率は、多孔質層A付与前後それぞれで測定した透過速度から計算した。測定ガスは二酸化炭素を用い、JIS K7126-1(2006)の圧力センサ法に準拠して、測定温度25℃の条件で、外圧式により二酸化炭素の単位時間当たりの透過側の圧力変化を測定した。ここで、供給側と透過側の圧力差を0.2MPaに設定した。
【0151】
続いて、ガス透過速度Qを下記式により算出した。また、各成分のガス透過速度の比を分離係数αとした。ここで、膜面積はガスの透過に寄与する領域における外径および長さから算出した。欠陥補修した部分は透過に寄与しないものとして、膜面積には含めなかった。
【0152】
透過度=[透過ガス量(nmol)]/[膜面積(m2)×時間(s)×圧力差(Pa)
(耐圧性試験)
上述の方法で欠陥が無いことを確認した分離膜10cmを用いて、分離膜の一方の端部を封止し、耐圧性試験用のエレメントを作製した。水中で大気圧から10MPaまで徐々に分離膜に対して外側から水圧をかけ、膜が破壊される際の圧力を調べた。0.2MPa水圧を上げ5秒ホールドした後、さらに0.2MPa上げ5秒ホールドすることを繰り返して圧力を上げていった際に、圧力降下が確認される直前の到達圧力を破壊圧力とした。破壊圧力が10MPa以上であった水準は良、10MPa未満の水準は可とした。
[実施例1]
多孔質層Bとして、以下の方法により中空部を有する多孔質炭素支持体を作製した。
【0153】
ポリサイエンス社製ポリアクリロニトリル(PAN)(MW15万)11重量部と、シグマ・アルドリッチ社製ポリビニルピロリドン(PVP)(MW4万)11重量部と、富士フイルム和光純薬(株)製ジメチルスルホキシド(DMSO)78重量部を混合し、100℃で撹拌して支持体前駆体樹脂溶液を調製した。
【0154】
得られた支持体前駆体樹脂溶液を25℃まで冷却した後、同心円状の三重口金の口金を用いて、内管からDMSO81重量%水溶液を、中管から前記支持体前駆体樹脂溶液を、外管からDMSO94重量%水溶液をそれぞれ同時に吐出した後、30℃の純水からなる凝固浴へ導き、その後循環式熱風乾燥機により80℃で10分間乾燥して中空糸状の多孔質炭素支持体前駆体を作製した。その後、多孔質炭素支持体の前駆体を250℃の電気炉中に通し、空気雰囲気下で3時間加熱して不融化処理を行った。不融化処理した多孔質炭素支持体の前駆体を650℃の窒素雰囲気中で10分間炭化処理して、炭素を主成分とする中空糸状の多孔質炭素支持体を作製した。作製した多孔質炭素支持体の外表面および内表面(中空部表面)はともに開孔しており、また中空糸断面を観察したところ、共連続多孔構造が観察された。
【0155】
次に、多孔質炭素支持体へ緻密な分離層を以下の方法により形成した。
【0156】
ポリイミド系の炭素膜前駆体樹脂(Huntsman社製Matrimid)15重量部と、関東化学社製N-メチルー2-ピロリジノン(NMP)85重量部とを混合し、80℃で5時間攪拌して、炭素膜前駆体樹脂溶液を得た。中空部に炭素膜前駆体溶液が入らないように両端をクイックメンダーにより目止めした多孔質炭素支持体を用いて、ディップコート法により多孔質炭素支持体表面に炭素膜前駆体樹脂溶液をコーティングしたあと、水浴中に入れ凝固させ、100℃の熱風乾燥機内で乾燥させ炭素膜前駆体を得た。その後、炭素膜前駆体を320℃の窒素雰囲気中で加熱し緻密炭素層前駆体樹脂を緻密化させた後に、600℃の窒素雰囲気中で10分間炭化処理し炭素膜を得た。
【0157】
次に、炭素膜へ多孔質層Aを以下の方法により形成した。
【0158】
ポリサイエンス社製ポリアクリロニトリル(PAN)(MW15万)5重量部と、シグマ・アルドリッチ社製ポリビニルピロリドン(PVP)(MW4万)5重量部と、富士フイルム和光純薬(株)製ジメチルスルホキシド(DMSO)90重量部を混合し、100℃で撹拌して多孔質炭素層前駆体樹脂溶液を調製した。
【0159】
得られた多孔質炭素層前駆体樹脂溶液を25℃まで冷却し、中空部に多孔質炭素層前駆体溶液が入らないように両端をクイックメンダーにより目止めした炭素膜を用いて、ディップコート法により炭素膜の表面に多孔質炭素層前駆体樹脂層をコーティングしたあと、水/DMSO=15/87(重量比)の凝固浴中に2分間浸漬し凝固させ、水浴中で凝固液を洗い流した。そして、80℃の熱風乾燥機内で乾燥し、中空糸分離膜前駆体を得た。
その後、中空糸分離膜前駆体を580℃の窒素雰囲気中で10分間炭化処理し、多孔質層A、緻密な分離層、多孔質層Bを有する中空糸分離膜を得た。表1、2に測定結果等を示した。
[実施例2]
より薄い分離層を形成し、L1/L2を大きくするために炭素膜前駆体樹脂溶液の組成を、炭素膜前駆体樹脂(Huntsman社製Matrimid)10重量部と、関東化学社製N-メチルー2-ピロリジノン(NMP)90重量部とした以外は実施例1と同様の方法で中空糸分離膜を得た。表1、2に測定結果等を示した。
[実施例3]
より薄い多孔質層Aを形成するため多孔質炭素層前駆体樹脂溶液の組成を、ポリサイエンス社製ポリアクリロニトリル(PAN)(MW15万)3重量部と、シグマ・アルドリッチ社製ポリビニルピロリドン(PVP)(MW4万)3重量部と、富士フイルム和光純薬(株)製ジメチルスルホキシド(DMSO)94重量部とした以外は実施例1と同様の方法で中空糸分離膜を得た。表1、2に測定結果等を示した。
[実施例4]
より空隙率の高い多孔質層Aを形成するため多孔質炭素層前駆体樹脂溶液の組成を、 ポリサイエンス社製ポリアクリロニトリル(PAN)(MW15万)2.5重量部と、シグマ・アルドリッチ社製ポリビニルピロリドン(PVP)(MW4万)10重量部と、富士フイルム和光純薬(株)製ジメチルスルホキシド(DMSO)87.5重量部とした以外は実施例1と同様の方法で中空糸分離膜を得た。表1、2に測定結果等を示した。
[実施例5]
より空隙率の低い多孔質層Aを形成するため多孔質炭素層前駆体樹脂溶液の組成を、 ポリサイエンス社製ポリアクリロニトリル(PAN)(MW15万)6重量部と、シグマ・アルドリッチ社製ポリビニルピロリドン(PVP)(MW4万)1.5重量部と、富士フイルム和光純薬(株)製ジメチルスルホキシド(DMSO)92.5重量部とした以外は実施例1と同様の方法で中空糸分離膜を得た。表1、2に測定結果等を示した。
[実施例6]
より大きい構造周期を有する多孔質層Aを形成するため水/DMSO=6/94(重量比)の凝固浴中に5分間浸漬し凝固させた以外は実施例1と同様の方法で中空糸分離膜を得た。表1、2に測定結果等を示した。
[実施例7]
海島構造を有する多孔質層Aを形成するため水/DMSO=4/96(重量比)の凝固浴中に10分間浸漬し凝固させた以外は実施例1と同様の方法で中空糸分離膜を得た。表1、2に測定結果等を示した。
[実施例8]
海島構造を有する多孔質層Bを形成するため多孔質炭素支持体前駆体の紡糸時に同心円状の二重口金の口金を用いて、内管から芯液としてDMSO81重量%水溶液を、外管から鞘液として前記支持体前駆体樹脂溶液を吐出し、芯鞘紡糸した糸を水/DMSO=6/94(重量比)の凝固浴中を5分間通過させた後に凝固浴に導いた以外は実施例1と同様の方法で、中空糸分離膜を得た。表1、2に測定結果等を示した。
[実施例9]
共連続多孔構造と緻密部が混在した多孔質層Aを形成するために、実施例1で用いた多孔質炭素層前駆体樹脂溶液に対し、3wt%のMatrimid粉末を添加し分散させた溶液を多孔質炭素層前駆体樹脂溶液として用いた以外は実施例1と同様の方法で中空糸分離膜を得た。多孔質層Aは共連続多孔構造がメインであるが一部に緻密部が混ざった構造であった。表1、2に測定結果等を示した。
[比較例1]
実施例7と同様の法で得られた多孔質層Bである炭素膜へ、下記の方法でシリカ粒子を堆積させ多孔質層を形成させた。信越化学社製のコロイダルシリカ(MP-2040)を用いて、炭素膜へディップコート後に80℃の熱風乾燥機内で乾燥させることを5回繰り替えし、シリカ粒子を層状に炭素膜表面へ形成し中空糸分離膜を得た。表1、2に測定結果等を示した。
[比較例2]
比較例1と同じ方法で作製した中空糸分離膜を、1200℃の窒素雰囲気中で30分間加熱して粒子層に含まれる粒子同士を焼結し中空糸分離膜を得た。表1、2に測定結果等を示した。
[比較例3]
多孔質層Aを設けない以外は実施例7と同様にして作製した中空糸分離膜について、各種分析した。表1、2に測定結果等を示した。
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