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特開2024-119749ペロブスカイト太陽電池およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119749
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ペロブスカイト太陽電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 39/10 20230101AFI20240827BHJP
   H10K 30/57 20230101ALI20240827BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20240827BHJP
   H10K 30/82 20230101ALI20240827BHJP
   H10K 30/85 20230101ALI20240827BHJP
   H10K 30/86 20230101ALI20240827BHJP
   H10K 30/88 20230101ALI20240827BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20240827BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240827BHJP
【FI】
H10K39/10
H10K30/57
H10K30/40
H10K30/82
H10K30/85
H10K30/86
H10K30/88
H10K85/50
H10K85/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024012369
(22)【出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023025692
(32)【優先日】2023-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業 「鉛フリーペロブスカイトタンデム太陽電池の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】白井 康裕
(72)【発明者】
【氏名】柳田 真利
(72)【発明者】
【氏名】カダカ ビ ドゥラバ
(72)【発明者】
【氏名】宮野 健次郎
【テーマコード(参考)】
3K107
5F251
【Fターム(参考)】
3K107AA03
3K107DD71
3K107DD84
3K107FF19
3K107GG26
3K107GG28
5F251AA20
5F251BA11
5F251CB13
5F251CB15
5F251CB18
5F251CB24
5F251CB29
5F251DA15
5F251FA04
5F251GA03
5F251XA01
5F251XA61
(57)【要約】
【課題】 低コストで光電変換効率および出力が高くかつコンパクトなタンデム構造型のペロブスカイト太陽電池を提供すること。
【解決手段】 太陽光を透過する1枚の透明基板を有し、透明基板の第1主表面側に第1と第2の端子電極を有する第1のペロブスカイト太陽電池セルが形成されており、透明基板の第2主表面側に第3と第4の端子電極を有する第2のペロブスカイト太陽電池セルが形成されており、第1および第3の端子電極は透明基板に接しているペロブスカイト太陽電池とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光を透過する1枚の透明基板を有し、
前記透明基板の第1主表面側に第1と第2の端子電極を有する第1のペロブスカイト太陽電池セルが形成されており、
前記透明基板の第2主表面側に第3と第4の端子電極を有する第2のペロブスカイト太陽電池セルが形成されており、
前記第1および第3の端子電極は前記透明基板に接している、ペロブスカイト太陽電池。
【請求項2】
前記透明基板は、第1の主表面上に第1の透明電極層、および第2の主表面上に第2の透明電極層が形成されており、
前記第1の透明電極層は前記第1の端子電極と電気的に接触しており、
前記第2の透明電極層は前記第3の端子電極と電気的に接触しており、
前記第1および第2のペロブスカイト太陽電池セルは共に、電子輸送層、ペロブスカイト層およびホール輸送層を有し、
前記ペロブスカイト層は前記電子輸送層および前記ホール輸送層に接している、請求項1記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項3】
前記第1のペロブスカイト太陽電池セルは、前記第1の端子電極に電気的に接続する第1の透明電極層、第1のホール輸送層、第1のペロブスカイト層、第1の電子輸送層、第1のホールブロッキング層および前記第2の端子電極に電気的に接続する第1の電極層を有し、
前記第2のペロブスカイト太陽電池セルは、前記第3の端子電極に電気的に接続する第2の透明電極層、第2のホール輸送層、第2のペロブスカイト層、第2の電子輸送層、第2のホールブロッキング層および前記第4の端子電極に電気的に接続する第2の電極層を有する、請求項1または2に記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項4】
前記第1のホール輸送層と前記第1のペロブスカイト層の間に表面補償帯が形成されている、請求項3記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項5】
前記表面補償帯は、[2-(3,6-ジメトキシ-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸からなる、請求項4記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項6】
前記第1の電子輸送層側の前記第1のペロブスカイト層の表面、および前記第2の電子輸送層側の前記第2のペロブスカイト層の表面は、共にピペラジン二ヨウ化水素酸塩で修飾されている、請求項3から5の何れか1項記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項7】
前記第1のペロブスカイト太陽電池セルのペロブスカイトのバンドギャップは、前記第2のペロブスカイト太陽電池セルのペロブスカイトのバンドギャップと異なる、請求項1から6の何れか1項記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項8】
前記第1のペロブスカイト太陽電池セル側が太陽光入射側であり、
前記第1のペロブスカイト太陽電池セルのペロブスカイトのバンドギャップは、前記第2のペロブスカイト太陽電池セルのペロブスカイトのバンドギャップより広い、請求項1から7の何れか1項記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項9】
前記第1のペロブスカイト太陽電池セルのペロブスカイトのバンドギャップは、1.5eV以上3.0eV以下である、請求項8記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項10】
前記第2のペロブスカイト太陽電池セルのペロブスカイトのバンドギャップは、1.2eV以上3.0eV以下である、請求項8または9に記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項11】
前記第1および第2の端子電極に電気的に接続する第1のDC-DCコンバータ回路と、
前記第3および第4の端子電極に電気的に接続する第2のDC-DCコンバータ回路を有する、請求項1から10の何れか1項記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項12】
前記第1および第2のDC-DCコンバータ回路は、前記第1のDC-DCコンバータ回路の出力電流が前記第2のDC-DCコンバータ回路の出力電流と等しくなるように出力調整がなされた回路であり、
前記第1のDC-DCコンバータ回路の出力端子は前記第2のDC-DCコンバータ回路の出力端子と電気的に直列に接合された、請求項11記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項13】
前記第1および第2のDC-DCコンバータ回路は、前記第1のDC-DCコンバータ回路の出力電圧が前記第2のDC-DCコンバータ回路の出力電圧と等しくなるように出力調整がなされた回路であり、
前記第1のDC-DCコンバータ回路の出力端子は前記第2のDC-DCコンバータ回路の出力端子と電気的に並列に接合された、請求項11記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項14】
第1主表面および第2主表面に透明電極が形成された1枚の太陽光を透過する透明基板を準備することと、
第2の透明電極である前記第2主表面上に形成されている前記透明電極を機械的接触および汚染から保護することと、
第1の透明電極である前記第1主表面上に形成されている前記透明電極の上に第1のペロブスカイト太陽電池セルを形成することと、
前記第1のペロブスカイト太陽電池セルを形成後に、前記第2の透明電極の上に第2のペロブスカイト太陽電池セルを形成することからなり、
前記第1のペロブスカイト太陽電池セルの形成は、第1のホール輸送層、表面補償帯層および第1のペロブスカイト層を順次形成することと、前記第1のペロブスカイト層の表面をピペラジン二ヨウ化水素酸塩で第1の表面処理することと、前記第1の表面処理後、第1の電子輸送層、第1のホールブロッキング層、第1の透明電極層およびグリッド電極を順次形成することからなり、
前記第2のペロブスカイト太陽電池セルの形成は、第2のホール輸送層および第2のペロブスカイト層を順次形成することと、前記第2のペロブスカイト層の表面をエチレンジアミンで第2の表面処理することと、前記第2の表面処理後、第2の電子輸送層、第2のホールブロッキング層および電極を順次形成することからなり、
前記第1のペロブスカイト層は、前記第2のペロブスカイト層の材料よりバンドギャップの広い材料である、ペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【請求項15】
前記第2の透明電極を機械的接触および汚染から保護する方法は、前記第2の透明電極を保護膜で覆う方法であり、前記保護膜は前記第2のホール輸送層形成前に除去する、請求項14記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【請求項16】
前記表面補償帯層は、[2-(3,6-ジメトキシ-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸からなる、請求項14または15に記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【請求項17】
前記第1のホール輸送層は、スパッタリング法によって形成されるNiO膜である、請求項14から16の何れか1項記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【請求項18】
前記表面補償帯層の形成、前記第1の表面処理、前記第1の電子輸送層の形成、前記第1のホールブロッキング層の形成、前記第2のホール輸送層の形成、および前記第2の表面処理の各工程において熱処理を行う、請求項14から17の何れか1項記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【請求項19】
前記熱処理は、65℃以上120℃以下で行われる、請求項18記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト太陽電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの地球環境問題の観点から化石燃料に代わるクリーンなエネルギー源として、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換できる太陽電池が注目されている。特に、持続可能な低炭素社会実現には太陽電池の大量導入が不可欠と考えられている。
【0003】
現在実用化されているシリコン太陽電池の効率が理論限界に近づく中、より高い効率を目指してタンデム太陽電池が注目されている。特に、低温・塗布プロセスで成膜可能なペロブスカイト材料を用いたオールペロブスカイトのタンデム型太陽電池が実現すれば、究極の軽量・低コスト・高効率太陽電池の実現が期待できる。
【0004】
タンデム型太陽電池は、例えば、非特許文献1、2にその開示があるが、大別すると、(a)1枚の透明基板の上に2つのペロブスカイト太陽電池をITOなどによるバリア層を介して積層させた2端子型オールペロブスカイトのタンデム型太陽電池、(b)2端子型のペロブスカイト太陽電池を機械的に2個直列に配置した端子数が計4個あるメカニカルスタックペロブスカイト太陽電池、および(c)分光板を介して太陽光を2方向に分光し、その分光先の各々に計2個の2端子型のペロブスカイト太陽電池を配置したオプティカルスタックペロブスカイト太陽電池(特許文献1参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表特許 WO2016/009956
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature Photonics,2021,411-425
【非特許文献2】Advanced Science,2019,6,1801704
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記2端子型オールペロブスカイトのタンデム型太陽電池は、タンデム配置されたペロブスカイト太陽電池の各サブセル(広バンドギャップのサブセルと狭バンドギャップのサブセル)間の電流マッチングを必要とすることから、設計自由度が低く、高い光電変換効率や高い出力を得にくいという問題が知られている。
メカニカルスタックペロブスカイト太陽電池は、上部配置と下部配置のセル間の設計制約事項が少なく、高い光電変換効率や高い出力を得やすいという特徴があるが、デバイスコストの半分近くを占める透明基板を2枚必要とし、コストが高いという問題がある。
オプティカルスタックペロブスカイト太陽電池は、透明基板2枚に加え分光板も必要とすることからコストが高く、加えて分光板が透明基板に対して斜めに配置されることから嵩(デバイスの体積)が大きくなるという問題がある。さらに、太陽光に対して常に適切な角度で向き合う必要があるため、2軸追尾システム等が必要という問題がある。
【0008】
本発明の課題は、上記従来のタンデム型ペロブスカイト太陽電池の問題を解決し、低コストで光電変換効率および出力が高くかつコンパクトなタンデム構造型のペロブスカイト太陽電池、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するための本発明の構成を下記に示す。
【0010】
(構成1)
太陽光を透過する1枚の透明基板を有し、
前記透明基板の第1主表面側に第1と第2の端子電極を有する第1のペロブスカイト太陽電池セルが形成されており、
前記透明基板の第2主表面側に第3と第4の端子電極を有する第2のペロブスカイト太陽電池セルが形成されており、
前記第1および第3の端子電極は前記透明基板に接している、ペロブスカイト太陽電池。
(構成2)
前記透明基板は、第1の主表面上に第1の透明電極層、および第2の主表面上に第2の透明電極層が形成されており、
前記第1の透明電極層は前記第1の端子電極と電気的に接触しており、
前記第2の透明電極層は前記第3の端子電極と電気的に接触しており、
前記第1および第2のペロブスカイト太陽電池セルは共に、電子輸送層、ペロブスカイト層およびホール輸送層を有し、
前記ペロブスカイト層は前記電子輸送層および前記ホール輸送層に接している、構成1記載のペロブスカイト太陽電池。
(構成3)
前記第1のペロブスカイト太陽電池セルは、前記第1の端子電極に電気的に接続する第1の透明電極層、第1のホール輸送層、第1のペロブスカイト層、第1の電子輸送層、第1のホールブロッキング層および前記第2の端子電極に電気的に接続する第1の電極層を有し、
前記第2のペロブスカイト太陽電池セルは、前記第3の端子電極に電気的に接続する第2の透明電極層、第2のホール輸送層、第2のペロブスカイト層、第2の電子輸送層、第2のホールブロッキング層および前記第4の端子電極に電気的に接続する第2の電極層を有する、構成1または2に記載のペロブスカイト太陽電池。
(構成4)
前記第1のホール輸送層と前記第1のペロブスカイト層の間に表面補償帯が形成されている、構成3記載のペロブスカイト太陽電池。
(構成5)
前記表面補償帯は、[2-(3,6-ジメトキシ-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸からなる、構成4記載のペロブスカイト太陽電池。
(構成6)
前記第1の電子輸送層側の前記第1のペロブスカイト層の表面、および前記第2の電子輸送層側の前記第2のペロブスカイト層の表面は、共にピペラジン二ヨウ化水素酸塩で修飾されている、構成3から5の何れか1項記載のペロブスカイト太陽電池。
(構成7)
前記第1のペロブスカイト太陽電池セルのペロブスカイトのバンドギャップは、前記第2のペロブスカイト太陽電池セルのペロブスカイトのバンドギャップと異なる、構成1から6の何れか1項記載のペロブスカイト太陽電池。
(構成8)
前記第1のペロブスカイト太陽電池セル側が太陽光入射側であり、
前記第1のペロブスカイト太陽電池セルのペロブスカイトのバンドギャップは、前記第2のペロブスカイト太陽電池セルのペロブスカイトのバンドギャップより広い、構成1から7の何れか1項記載のペロブスカイト太陽電池。
(構成9)
前記第1のペロブスカイト太陽電池セルのペロブスカイトのバンドギャップは、1.5eV以上3.0eV以下である、構成8記載のペロブスカイト太陽電池。
(構成10)
前記第2のペロブスカイト太陽電池セルのペロブスカイトのバンドギャップは、1.2eV以上3.0eV以下である、構成8または9に記載のペロブスカイト太陽電池。
(構成11)
前記第1および第2の端子電極に電気的に接続する第1のDC-DCコンバータ回路と、
前記第3および第4の端子電極に電気的に接続する第2のDC-DCコンバータ回路を有する、構成1から10の何れか1項記載のペロブスカイト太陽電池。
(構成12)
前記第1および第2のDC-DCコンバータ回路は、前記第1のDC-DCコンバータ回路の出力電流が前記第2のDC-DCコンバータ回路の出力電流と等しくなるように出力調整がなされた回路であり、
前記第1のDC-DCコンバータ回路の出力端子は前記第2のDC-DCコンバータ回路の出力端子と電気的に直列に接合された、構成11記載のペロブスカイト太陽電池。
(構成13)
前記第1および第2のDC-DCコンバータ回路は、前記第1のDC-DCコンバータ回路の出力電圧が前記第2のDC-DCコンバータ回路の出力電圧と等しくなるように出力調整がなされた回路であり、
前記第1のDC-DCコンバータ回路の出力端子は前記第2のDC-DCコンバータ回路の出力端子と電気的に並列に接合された、構成11記載のペロブスカイト太陽電池。
(構成14)
第1主表面および第2主表面に透明電極が形成された1枚の太陽光を透過する透明基板を準備することと、
第2の透明電極である前記第2主表面上に形成されている前記透明電極を機械的接触および汚染から保護することと、
第1の透明電極である前記第1主表面上に形成されている前記透明電極の上に第1のペロブスカイト太陽電池セルを形成することと、
前記第1のペロブスカイト太陽電池セルを形成後に、前記第2の透明電極の上に第2のペロブスカイト太陽電池セルを形成することからなり、
前記第1のペロブスカイト太陽電池セルの形成は、第1のホール輸送層、表面補償帯層および第1のペロブスカイト層を順次形成することと、前記第1のペロブスカイト層の表面をピペラジン二ヨウ化水素酸塩で第1の表面処理することと、前記第1の表面処理後、第1の電子輸送層、第1のホールブロッキング層、第1の透明電極層およびグリッド電極を順次形成することからなり、
前記第2のペロブスカイト太陽電池セルの形成は、第2のホール輸送層および第2のペロブスカイト層を順次形成することと、前記第2のペロブスカイト層の表面をエチレンジアミンで第2の表面処理することと、前記第2の表面処理後、第2の電子輸送層、第2のホールブロッキング層および電極を順次形成することからなり、
前記第1のペロブスカイト層は、前記第2のペロブスカイト層の材料よりバンドギャップの広い材料である、ペロブスカイト太陽電池の製造方法。
(構成15)
前記第2の透明電極を機械的接触および汚染から保護する方法は、前記第2の透明電極を保護膜で覆う方法であり、前記保護膜は前記第2のホール輸送層形成前に除去する、構成14記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
(構成16)
前記表面補償帯層は、[2-(3,6-ジメトキシ-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸からなる、構成14または15に記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
(構成17)
前記第1のホール輸送層は、スパッタリング法によって形成されるNiO膜である、構成14から16の何れか1項記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
(構成18)
前記表面補償帯層の形成、前記第1の表面処理、前記第1の電子輸送層の形成、前記第1のホールブロッキング層の形成、前記第2のホール輸送層の形成、および前記第2の表面処理の各工程において熱処理を行う、構成14から17の何れか1項記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
(構成19)
前記熱処理は、65℃以上120℃以下で行われる、構成18記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、低コストで光電変換効率および出力が高くかつコンパクトなタンデム構造型のペロブスカイト太陽電池およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池101aの構造を示す模式図である。
図2】本発明の4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池101の構造を示す模式図である。
図3】本発明の4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池の製造工程を、断面図を用いて示した工程図である。
図4】本発明の4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池の製造工程を、断面図を用いて示した工程図である。
図5】本発明の4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池の製造工程を、断面図を用いて示した工程図である。
図6】本発明の4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池の製造工程を、断面図を用いて示した工程図である。
図7】本発明の4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池の製造工程を、断面図を用いて示した工程図である。
図8】本発明の4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池の製造工程をフローチャート図で示すフローチャート図である。
図9】本発明の4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池の製造工程を示したフローチャート図で、実施例ベースでその詳細が示されている図である。
図10】実施例1における4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池101の製造工程を断面構造図を用いて示した工程図である。
図11】試作した素子の光電変換特性を示す特性図で、(a)は電流値の電圧依存性、(b)は変換効率の経過時間依存性を示す。
図12】試作した素子の光電変換特性を示す特性図で、(a)は電流値の電圧依存性、(b)は変換効率の経過時間依存性を示す。
図13】試作した素子の光電変換特性を示す特性図で、(a)は電流値の電圧依存性、(b)は変換効率の経過時間依存性を示す。
図14】試作した素子の光電変換特性を示す特性図で、(a)は電流値の電圧依存性、(b)は変換効率の経過時間依存性を示す。
図15】実施例3における4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池102の製造工程を断面構造図を用いて示した工程図である。
図16】比較例における2端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池103の構造を示す構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明のペロブスカイト太陽電池およびその製造方法について説明する。
【0014】
<構造>
実施の形態1のペロブスカイト太陽電池101aは、図1に示すように、太陽光を十分透過する透明基体11を有し、透明基体11の第1主表面側には第1の端子電極2、第1のペロブスカイト層3および第2の端子電極4を有する第1のペロブスカイト太陽電池セル32が配置され、第2主表面側には第3の端子電極5、第2のペロブスカイト層6および第4の端子電極7を有する第2のペロブスカイト太陽電池セル33が配置されている。
【0015】
ここで、第1の端子電極2は透明電極からなる、あるいは第1の端子電極と電気的に接触する透明電極を有する導電性のある電極で、同様に、第2の端子電極5も透明電極からなる、あるいは第2の端子電極と電気的に接触する透明電極を有する導電性のある電極であり、第1の端子電極2も第2の端子電極5も透明基体11に物理的に接している。
【0016】
透明基体11の両面に透明電極が機械的に接することで、光学的な光量ロスが低減され、機械的強度も確保され、機械的強度が確保されることから透明基体11の薄膜化も可能になり、コスト低減も図れる。透明基体11の両主表面にITOなどによる端子電極用透明電極が形成された基板は、汎用基板として商品化することも可能で、多量生産によるコスト低減と高い品質管理が可能になる。
【0017】
実施の形態1のペロブスカイト太陽電池101aの構造は、従来の4端子タンデムと同様に各セルの電流マッチングの制約が緩和され材料の設計自由度が大幅に向上する利点を有する。
ペロブスカイト太陽電池101aは、各サブセルが電気的には結合していないため、各サブセルの電流マッチングが不要である。
2端子タンデム構造のペロブスカイト太陽電池では、太陽光入射とは反対側(ボトムセル側)のペロブスカイト層のバンドギャップを1.3eVと仮定した場合、効率よく高い出力を得るためにはトップセル側のペロブスカイト層のバンドギャップを約1.8eVにする制約がある。一方、実施の形態1のペロブスカイト太陽電池101aでは、トップセル側のペロブスカイト層のバンドギャップを1.5~3.0eVという幅広い選択肢の材料にて高い効率が得られる。
【0018】
また、透明基体(ガラス基板)はモノリシック2端子タンデムと同様に1枚であるため、従来の4端子タンデムの課題である基板が2枚という基板コストの問題を解決できる。
さらに、従来の4端子タンデムのもう一つの課題である2個の太陽電池の機械的接合の難しさ(接合コストと光学的損失の増大)についても、1枚のガラス基板の上下に成膜終了と同時に接合も完了するため、解決される。
【0019】
第1のペロブスカイト太陽電池セル32および第2のペロブスカイト太陽電池セル33はともに、電子輸送層、ペロブスカイト層およびホール輸送層を有し、ペロブスカイト層はその一方の主表面で前記電子輸送層に接し、他方の主表面で前記ホール輸送層に接する構造を有する。すなわち、第1のペロブスカイト太陽電池セル32は、第1の電子輸送層、第1のペロブスカイト層および第1のホール輸送層が順次積層配置された構造を有し、第2のペロブスカイト太陽電池セル33は、第2の電子輸送層、第2のペロブスカイト層および第2のホール輸送層が順次積層配置された構造を有する。
【0020】
ここで、第1のペロブスカイト太陽電池セル32および第2のペロブスカイト太陽電池セル33はともに、ホールブロッキング層を有することが好ましい。すなわち、第1のペロブスカイト太陽電池セル32は、第1の端子電極に電気的に接続する第1の透明電極層12a、第1のホール輸送層13、第1のペロブスカイト層15、第1の電子輸送層16、第1のホールブロッキング層17、前記第2の端子電極に電気的に接続する透明電極18および第1の電極19を有し、第2のペロブスカイト太陽電池セル33は、第3の端子電極に電気的に接続する第2の透明電極層12b、第2のホール輸送層21、第2のペロブスカイト層22、第2の電子輸送層23、第2のホールブロッキング層24および前記第4の端子電極に電気的に接続する第2の電極層25を有することが好ましい(図2参照)。
ホールブロッキング層を備えることにより、ホールの逆流がより一層抑制されて光電変換効率が改善され、出力が高まり、経時安定性も向上する。
【0021】
さらに、図2に示すように、第1のホール輸送層13と第1のペロブスカイト層15の間に表面補償帯14が形成されていることが好ましい。表面補償帯14は、第1のホール輸送層13および第1のペロブスカイト層15の空乏(Vacancy)を抑えてペロブスカイト太陽電池101の光電変換効率を向上させる層であり式(1)記載のX-nPACzからなる。ここで、式(1)中、XはORまたはRで、Oは酸素、Rは炭素数が1以上12個以下の直鎖の炭化水素基を表し、nは2以上12以下の整数を表す。
【0022】
【化1】
・・・(1)
【0023】
次に、本発明のペロブスカイト太陽電池を構成する各層について説明する。
【0024】
透明基体11は、太陽光を透過させ、所定値以上の剛性を持つものであれば特に限定されない。石英ガラス、フリントガラスやソーダ石灰フロートガラスなどの各種のガラス(白板ガラス)を好んで用いることができるが、アクリルやポリカーボネートなどの透明なプラスチックなども用いることができる。ガラスは、太陽光に対して透明度が高く(透過率が高く)、十分な剛性をもち、また耐光性、耐候性に優れるという特徴をもつ。プラスチックは、容易に自在な形状に加工が可能であり、また柔軟性を付与させることができるため、曲面状の太陽電池を作製したり、太陽電池を柔軟に曲げて使用したりする上で好ましい。
【0025】
第1の透明電極層12aおよび第2の透明電極層12bの材料は、インジウムスズ酸化物(ITO)が好ましい。この膜は、耐光性を向上させる観点からスパッタリング法で成膜することが好ましい。具体的には、ターゲットをITO、スパッタリングガスをアルゴン(Ar)ガスやクリプトン(Kr)ガスなどの貴ガスとしたRFスパッタリングが好ましい。基板温度は室温でよいが、室温に限るものではない。また、ITO成膜後150℃以上の熱処理を加えると、太陽光透過率の向上と電気抵抗の低抵抗化が図れるので好ましい。一方で、300℃を超える熱処理は、逆に電気抵抗が上がるため好ましくない。
ITOは透明度が高く、透明性導電膜としては比較的電気抵抗率が低いという特徴がある。さらに、インジウム(In)やスズ(Sn)が酸化されて固定化されるため、これらの金属は拡散しにくく、耐光性向上に必要な相互拡散防止機能を有する。
第1の透明電極層12aおよび第2の透明電極層12bのITOの膜厚は、薄いほど高まって好ましい透過率と厚いほど下がって好ましい膜抵抗のトレードオフ関係により、150nm以上500nm以下が好ましい。ITOの膜抵抗は低いほど良く、15Ω/sq以下であることが好ましい。
【0026】
第1の透明電極層12aおよび第2の透明電極層12bの抵抗を下げるために、ITO膜と透明基体11との間に金属リード線を加えてもよい。金属リード線の材質としては、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)等を挙げることができる。金属リード線は、透明基体11上にスパッタ法または蒸着法等で形成し、その上にITO膜を形成することが好ましい。ただし、金属リード線を設けることにより、入射光量の低下を招くので、金属リード線の太さは、0.01mm以上3mm以下であることが好ましい。
【0027】
第1のホール輸送層13は、スパッタリング法などのPVD(Physical Vapor Deposition)法で形成された無機のNiO膜が好ましい。第1のホール輸送層13を無機のNiO膜(0<x≦4)で構成することによって、ピンホールやクラックが少ない大きい面積の層を形成することができ、また、光照射耐性が高くなる。
第1のホール輸送層13の厚さは、4nm以上50nm以下であることが好ましく、4nm以上18nm以下がより好ましい。第1のホール輸送層13の厚さをこの範囲にすると高い光電変換効率を得ることが可能になる。さらに、第1のホール輸送層13の厚さを15nm以上18nm以下とすると、高い長期信頼性を兼ね備えることが可能になる。これは、NiO薄膜のピンホールが抑制されることに起因する。
【0028】
第1のホール輸送層13の導電性を向上させるため、NiO膜にNi以外の金属イオンをドーピングすることも好ましい。金属イオンとしては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等のイオンが挙げられる。具体的な金属イオンは、Li、Na、K、Mg2+、Cu2+、Fe2+、Mn2+、およびZn2+から選ばれる少なくとも一種であり、さらにより好ましくはLiおよびMg2+から選ばれる少なくとも一種である。LiとMg2+を同時に使用してもよい。ドーピング濃度は、0.5mol%以上50mol%以下が好ましく、2mol%以上30mol%以下がより好ましい。これらの金属イオンは、例えばスパッタリングを行うときのターゲット材料に含有させておくことにより、第1のホール輸送層13に導入することが可能である。
【0029】
第2のホール輸送層21としては、PEDOT:PSS、NiO、Spiro-OMeTADおよびP3HTを挙げることができる。この中で、PEDOT:PSSは狭バンドギャップのペロブスカイト太陽電池と相性がよく、狭バンドギャップのペロブスカイトから高い効率で安定的にホールを輸送することを可能にする。
【0030】
表面補償帯14は、前述のように、前記式(1)記載のX-nPACzからなる層である。表面補償帯14は、PVD法によって形成されたNiOが第1のホール輸送層13に用いられる場合に特に大きな効果が得られる。
【0031】
ここで、式(1)中のnは2または4がより好ましく、式(1)中のXがOCHで、nが2、すなわち式(2)に示されるMeO-2PACz([2-(3,6-ジメトキシ-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸)であることが、Vacancyの形成がより抑制され、光電変換効率がより高まるので、さらに一層好ましい。
【0032】
【化2】
・・・・・(2)
【0033】
表面補償帯14により、第1のホール輸送層13との界面、特に第1のホール輸送層13として用いられたNiO膜との界面、および第1のペロブスカイト層15の空乏(Vacancy)が抑えられて、ペロブスカイト太陽電池101の光電変換効率が向上する。ここで、Vacancyは、沃素(I)、塩素(Cl)または臭素(Br)などのハロゲン化物イオンの空乏を指す。
【0034】
この表面補償帯14の効果は、単体のペロブスカイト太陽電池でも高い効果を発揮するが、トップ側ファースト(太陽光入射側の太陽電池セルを最初に作る方法)で作製されるタンデム型のペロブスカイト太陽電池の場合、特に大きな効果を発揮する。この表面補償帯14は、タンデム型のペロブスカイト太陽電池作製の熱処理による悪影響抑制から、PVD法形成のNiOによる第1のホール輸送層13とともに、第1のペロブスカイト太陽電池セル32を作製する際に形成しておくのが好ましい。
【0035】
なお、X-nPACzは、NiO上に塗布して熱処理を施すことでNiOが表面修飾される。この熱処理の温度としては20℃以上150℃以下が表面修飾を促すのに好適であり、この温度範囲の熱処理を好んで用いることができる。
【0036】
第1のペロブスカイト層15および第2のペロブスカイト層22を構成する材料は、特に限定されず、CHNHPbI、CH(NHPbI、CsPbI、CHNHSnI、CHNHSnPb(1-x)、CH(NHSnI等が挙げられ、好ましくはCHNHPbI、CH(NHPbIを挙げることができる。
さらに、これらの材料の沃素(I)の一部を塩素(Cl)によって置き換えた材料、例えば、CHNHPbI3―xClにすると光電変換効率と光照射耐性が向上し、放置経時変化が少なくなるのでより好ましい。ここで、沃素の一部を塩素に置換する反応としては、相互拡散法(Chlorine-mediated Interdiffusion method)を挙げることができる。
【0037】
第1のペロブスカイト層15および第2のペロブスカイト層22は単層の膜でも複数の層からなる積層膜でもよい。
単層膜の場合は、製造工程が少なく、太陽電池としての量産性に富み、コストを下げることができるという特徴がある。
一方、積層膜の場合は、光の吸収帯が異なるペロブスカイトを複数積層させたタンデム構造にすることにより、広い波長帯の光を効率よく吸収させて太陽電池全体としての光電変換効率を高めることができるという特徴がある。積層膜の例としては、例えば広いバンドギャップを有するFAaCsbRb1-a-bPb(IBr1-x(FA=(IBr1-x(FA=ホルムアミジニウム(HNCHNH),0<a≦1,0<b≦1,0<x≦1)、ペロブスカイトを狭いバンドギャップを有するSn系ペロブスカイト上へ積層した構造が挙げることができる。
【0038】
第1のペロブスカイト層15および第2のペロブスカイト層22は、スピンコートなどの塗布法により形成することができる。例えば、溶剤に溶かしたペロブスカイト前駆体を準備し、それをスピンコート後、熱処理を加えることにより第1のペロブスカイト層15および第2のペロブスカイト層22を形成することができる。
第1のペロブスカイト層15および第2のペロブスカイト層22形成の具体例としてCHNHPbIを挙げると、ヨウ化メチルアンモニウムCHNHI(「MAI」と略する)とヨウ化鉛PbIを溶剤に溶かしたペロブスカイト前駆体溶液を準備し、それをスピンコートする。溶剤としては、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)を用いることができる。スピンコートの際に、ストライエーションの低減と膜厚均一性を目的に、揮発調製として少量のトルエンなども滴下すると好ましい。熱処理の温度は65℃以上120℃以下が好ましい。
【0039】
第1のペロブスカイト層15のバンドギャップは、第2のペロブスカイト層22のバンドギャップと異なることが好ましい。バンドギャップが異なることにより、太陽光を効率的に吸収出来て高出力化を図ることが可能になる。
【0040】
また、第1のペロブスカイト太陽電池セル側32を太陽光入射側とし、第1のペロブスカイト層15のバンドギャップを第2のペロブスカイト層のバンドギャップより広くすることが好ましい。この配置により、太陽光の吸収効率が高まり、高出力化を図ることが可能になる。
ここで、第1のペロブスカイト層のバンドギャップを1.5eV以上3.0eV以下とすると、タンデム型の前段で太陽光を効率よく吸収できて高出力化を図ることができるので好ましい。
さらに、第2のペロブスカイト層のバンドギャップを1.2eV以上3.0eV以下とすると、前段である第1のペロブスカイト太陽電池セル32を通して入射する太陽光を効率よく吸収できて高出力化を図ることができるので好ましい。
【0041】
第1のペロブスカイト層15および第2のペロブスカイト層22を形成した後は、第1のペロブスカイト層15および第2のペロブスカイト層22の表面をピペラジン二ヨウ化水素酸塩(PZDI)、エチレンジアミン(EDAI2)から選ばれる1以上で表面処理をしておくことが好ましい。この表面処理を施すことによって、ペロブスカイト結晶表面の欠陥を修復するという効果が得られる。
【0042】
第1の電子輸送層16および第2の電子輸送層23を構成する材料は特に限定されず、例えば、n型導電性高分子、n型低分子有機半導体、グラフェン材料、n型金属酸化物を挙げることができる。好ましくは、[6,6]-フェニル-C61-ブチル酸メチルエステル(PCBM)を挙げることができる。
PCBMは、塗布法により形成することが可能であり、スループットと製造コストの観点から好ましく用いることができる。また、C60も好んで使用することができる。真空蒸着法で形成可能なC60は熱処理を必要としないので、熱処理によるダメージ回避の観点から、第1の電子輸送層16としてPCBM、第2の電子輸送層23としてC60が特に好ましい。
【0043】
第1のホールブロッキング層17および第2のホールブロッキング層24は、金属イオンがドープされた酸化膜、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、および酸化スズから選ばれる少なくとも一種、あるいはBCPを挙げることができる。ドープされる金属イオンは、例えば、W6+、Nb5+、Sb5+、Ta5+、Al3+、Y3+、Ga3+から選ばれる少なくとも一種である。ドーピング濃度は0.5mol%以上50mol%以下、好ましくは0.5mol%以上20mol%以下である。
【0044】
ここで、第1のホールブロッキング層17は、次工程のITO膜形成がスパッタリング法で行われるため、スパッタリングに対して耐性のある酸化金属膜とすることが好ましい。例えば、第1のホールブロッキング層17として、1.6mol%のアルミニウムがドープされた亜鉛酸化膜(AZO)を好んで用いることができる。また、第1のホールブロッキング層17として、BCPのような有機膜をはじめとしてスパッタリングに対して耐性の低い膜を用いる場合は、その表面にAZOのような金属酸化物膜を形成しておくことが好ましい。
【0045】
第2のホールブロッキング層24は、熱処理によるダメージを回避する観点から、真空蒸着法で形成可能なBCP(Bathocuproine)を好んで用いることができる。
なお、第2のホールブロッキング層24の形成では、第1のホールブロッキング層17の形成のときとは異なって、次工程でスパッタリング法を用いる必要性が薄いので、スパッタリング耐性の低いBCPのような有機膜を保護膜なしで用いることができる。
【0046】
第1のホールブロッキング層17および第2のホールブロッキング層24の厚みは30nm以上150nm以下であることが好ましく、電気抵抗と層の厚さの均一性を考慮すると、40nm以上100nm以下がより好ましい。
【0047】
第1のペロブスカイト太陽電池セル32を構成する太陽光入射側の電極は、光を透過させる必要性から、透明電極18とグリッド電極19からなる。
【0048】
透明電極18としては、ITO(インジウムスズ酸化物)を好んで用いることができる。
ITO膜の形成方法としては、ターゲットをITO、スパッタリングガスをアルゴン(Ar)ガスやクリプトン(Kr)ガスなどの貴ガスとしたRFスパッタリングが好ましい。基板温度は室温でよいが、室温に限るものではない。また、ITO成膜後熱処理を加えることが有効であるが、第1のペロブスカイト層15などにダメージを与えないように、熱処理を加える場合は、120℃以下、好ましくは100℃以下の熱処理とする。
【0049】
グリッド電極19および裏面電極25は、銀などの金属膜、具体的には、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、銅(Cu)、金(Au)などの金属あるいはAl-Siなどの合金を挙げることができる。形成方法としては、熱蒸着法、スパッタリング法、MOCVD法、および塗布形成法を挙げることができる。ここで、熱蒸着法や塗布形成法以外の方法で成膜する場合は、被成膜の表面をAZOのような保護膜で保護しておくことが好ましい。
なお、端子用の配線は、グリッド電極19および/または裏面電極25を活用して、その引き出し線の形で作製してよい。
ペロブスカイト太陽電池101aおよび101は、基板が1枚で、そこにペロブスカイト層などの薄膜が順次積層されたものなので、コンパクトな太陽電池である。
【0050】
<製造方法>
実施の形態1で示したペロブスカイト太陽電池101の製造方法を、断面構造図である図3から図7、および製造工程をフローチャートで示した図8を参照しながら説明する。
ペロブスカイト太陽電池101は、透明基体11の第1および第2主表面に透明電極12aおよび12bを備えた透明基板31を準備する基板準備工程(図3(a)、工程S11)、透明電極12bを傷や汚染から保護する保護工程、透明電極12aの上に第1のホール輸送層13を形成する第1のホール輸送層形成工程(工程S12)、第1のホール輸送層13上にX-nPACz層からなる表面補償帯14を形成する表面補償帯形成工程(工程S13)、表面補償帯14上に第1のペロブスカイト層15を形成する第1のペロブスカイト層形成工程(図3(c)、工程S14)、第1のペロブスカイト層15を表面処理する表面処理工程(工程S15)、表面処理を施した第1のペロブスカイト層15上に第1の電子輸送層16を形成する第1の電子輸送層形成工程(工程S16)、第1の電子輸送層16上に第1のホールブロッキング層17を形成する第1のホールブロッキング層形成工程(工程S17)、第1のホールブロッキング層17上にITOなどの太陽光に対して透明な導電性酸化物膜を形成する導電性酸化物膜形成工程(工程S18)、および導電性酸化物膜18に電気的に接触するグリッド電極19を形成するグリッド電極形成工程(図4、工程S19)からなる第1のペロブスカイト太陽電池セル32の作製工程(トップセル作製工程)と、トップセル作製工程に引き続いて行われる透明電極12bの保護膜20が除去されて清浄化された透明電極12b(図5)の上に第2のホール輸送層21を形成する第2のホール輸送層形成工程(工程S20)、第2のホール輸送層21上に第2のペロブスカイト層12を形成する第2のペロブスカイト層形成工程(図6、工程S21)、第2のペロブスカイト層22を表面処理する表面処理工程(工程S22)、表面処理を施した第2のペロブスカイト層22上に第2の電子輸送層23を形成する第2の電子輸送層形成工程(工程S23)、第2の電子輸送層23上に第2のホールブロッキング層24を形成する第2のホールブロッキング層形成工程(工程S24)、第2のホールブロッキング層24上に裏面電極25を形成する裏面電極形成工程(工程S25)を順次行って第2のペロブスカイト太陽電池セル33を作製することによって製造される(図7)。なお、保護膜20による保護工程とその保護膜20の除去工程はオプションであり、傷や汚染から透明電極12bが保護される保護手段か講じられていればその工程は省くことができる。
【0051】
第1のホール輸送層13は、無機のニッケル酸化膜(NiO)からなることが好ましく、スパッタリング法などのPVD法によって成膜される膜からなることが好ましい。ここで、スパッタリング法はPVD法の中でも量産性に富み、製造安定性も高いので好んで用いることができる。その生産性から、ターゲットとしてNiOを用いてRFマグネトロンスパッタリング装置で第1のホール輸送層13を成膜する方法を好んで用いることができるが、ターゲットとしてNiを用い、酸素存在下でスパッタリングする方法を用いることもできる。
【0052】
表面補償帯(X-nPACz層)14は前記式(1)記載の物質からなる層である。ここで、式(1)中、XはORまたはRで、Oは酸素、Rは炭素数が1以上12個以下の直鎖の炭化水素基を表し、nは2以上12以下の整数を表す。式(1)中のnは2または4がより好ましく、式(1)中のXがOCHで、nが2、すなわち式(2)に示されるMeO-2PACzであることがさらに一層好ましい。
表面補償帯14の形成方法としては、スピンコート法、ディップ法、スプレーコーティング法、蒸着法からなる群より選ばれる1を挙げることができる。この中でも、欠陥が少なく量産性が高いスピンコート法およびディップ法を好んで用いることができる。
X-nPACzはNiO上に形成した後、20℃以上150℃以下の熱処理を施すことが好ましい。本処理によりX-nPACzは表面補償帯として作用し、第1のホール輸送層13は緻密で面内均一性も高くなる。
【0053】
第1のホール輸送層13の厚みは、4nm以上50nm以下であることが好ましく、電気抵抗と層の厚さ均一性を考慮すると、10nm以上50nm以下がより好ましい。
第1のペロブスカイト層15は塗布形成法で形成することが量産性と欠陥低減の観点から好ましく、第1のペロブスカイト層15は塩素を含有するペロブスカイトが好ましい。また、塗布形成後に65℃以上120℃以下の熱処理を施しておくことが太陽電池としての長期安定性確保および光電変換効率の向上の観点から好ましい。
【0054】
第1の電子輸送層16としては、PCBM膜、フラーレンC60膜、またはPCBM膜とC60膜との積層膜を挙げることができる。これらの膜は、塗布形成法、真空蒸着法などによって形成することができる。
第1のホールブロッキング層17は、アルミニウム亜鉛酸化膜(AZO)、LiF膜、またはBCP膜からなることが好ましい。これらの膜は、塗布形成法、真空蒸着法などによって形成することができる。
導電性酸化膜(透明電極)18は、ITOをスパッタリング法により堆積させることによって作製できる。
グリッド電極19は、金属や合金膜を蒸着法、スパッタリング法、MOCVD法、塗布法によって形成することができる。
【0055】
第2のホール輸送層21は、PEDOT:PSS、NiO、Spiro-OMeTADおよびP3HTを挙げることができ、その手法としては、塗布法、スパッタリング法およびCVD法を挙げることができる。
この中で、PEDOT:PSSは、狭バンドギャップのペロブスカイト太陽電池と相性がよく、狭バンドギャップのペロブスカイトから高い効率で安定的にホールを輸送することを可能にする。また、PEDOT:PSSはコストの低い塗布法で形成できるので好んで用いることができる。
第2のホール輸送層21の厚みは、4nm以上50nm以下であることが好ましく、電気抵抗と層の厚さ均一性を考慮すると、10nm以上50nm以下がより好ましい。
【0056】
第2のペロブスカイト層22は塗布形成法で形成することが量産性と欠陥低減の観点から好ましく、第2のペロブスカイト層22は塩素を含有するペロブスカイトが好ましい。また、塗布形成後に65℃以上120℃以下の熱処理を施しておくことが太陽電池としての長期安定性確保および光電変換効率の向上の観点から好ましい。
【0057】
第2の電子輸送層23としては、PCBM膜、フラーレンC60膜、またはPCBM膜とC60膜との積層膜を挙げることができる。これらの膜は、塗布形成法、真空蒸着法などによって形成することができる。この中でも、前述のようにC60は熱処理を必ずしも必要としないことから好んで用いることができる。
第2のホールブロッキング層24は、アルミニウム亜鉛酸化膜(AZO)、LiF膜、またはBCP膜からなることが好ましい。これらの膜は、塗布形成法、真空蒸着法などによって形成することができる。この中でも、前述のようにBCPは熱処理を必ずしも必要としないことから好んで用いることができる。
裏面電極20は、金属や合金膜を蒸着法、スパッタリング法、MOCVD法、塗布法によって形成することができる。
【0058】
保護膜20としてはカプトンテープなどを用いることができるが、製造装置を工夫し、透明電極12bが機械的接触などによる汚染や傷から守られる状態になっていれば、保護膜20は必ずしも必要ではない。
【0059】
ここで、表面補償帯層14の形成、第1の表面処理、第1の電子輸送層16の形成、第1のホールブロッキング層17の形成、第2のホール輸送層21の形成、および第2の表面処理の各工程において熱処理を行うと、光電変換効率が高まり、また製造安定性および経時変化安定性が高まるため好ましい。
その時の熱処理は、65℃以上120℃以下が好ましく85℃を超えて120℃未満がより好ましく、100℃が特に好ましい。この温度範囲であれば、出力および光電変換効率が高く、チップ間ばらつきも小さなものになる。
【0060】
以上のようにしてペロブスカイト太陽電池を製造すると、そのペロブスカイト太陽電池は光電変換効率の高い太陽電池になる。
【0061】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明のペロブスカイト太陽電池の電子回路について説明する。
【0062】
第1の端子電極2および第2の端子電極4に電気的に接続する第1のDC-DCコンバータ回路と、第3の端子電極5および第4の端子電極7に電気的に接続する第2のDC-DCコンバータ回路を有し、第1のDC-DCコンバータ回路の出力電流が第2のDC-DCコンバータ回路の出力電流と等しくなるように出力調整がなされた回路とし、第1のDC-DCコンバータ回路の出力端子は第2のDC-DCコンバータ回路の出力端子と電気的に直列に接合すると、第1のペロブスカイト太陽電池セル32と第2のペロブスカイト太陽電池セル33の出力を効率よく引き出して高い出力が得られる太陽電池になる。
【0063】
または、第1および第2のDC-DCコンバータ回路を、第1のDC-DCコンバータ回路の出力電圧が第2のDC-DCコンバータ回路の出力電圧と等しくなるように出力調整がなされた回路とし、第1のDC-DCコンバータ回路の出力端子が前記第2のDC-DCコンバータ回路の出力端子と電気的に並列に接合された太陽電池とすると、第1のペロブスカイト太陽電池セル32と第2のペロブスカイト太陽電池セル33の出力を効率よく引き出して高い出力が得られる太陽電池になる。
【実施例0064】
(実施例1)
以下、本発明を断面構造図2、工程図3から7、フローチャート図9およびプロセスの詳細も示した工程図10を参照しながら実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
1.太陽電池の作製
1-1.透明電極層を備えた透明基板の準備
太陽光を十分に透過する白板ガラスからなる透明基体11の第1主表面にITO膜12a、第2主表面にもITO膜12bが形成された透明基板31を準備した(図3(a)、工程S11a)。
ここで、透明基体11の大きさは、縦37mm、横35mmそして厚さ0.7mmであり、ITO膜12a、12bは透明電極状にパターン化されたものとした。ITO膜12a、12bの膜厚は150nmであり、その膜抵抗は約15Ω/sqである。
なお、透明基板31の第2主表面に低粘着耐熱性カプトンテープ20を貼り付けてその表面を保護した(図3(b)、図10(a)、工程S11b)。
【0066】
1-2.第1のホール輸送層の形成
ITO膜12aの上に第1のホール輸送層13としてNiO膜をスパッタリング法により20nmの膜厚で成膜した(工程S12a)。この成膜にはRFマグネトロンスパッタリング装置(SVC-700 RFINA、サンユー電子(株)製)を用いた。ターゲットは99.9%純度のNiO((株)高純度化学研究所製)である。スパッタリングガスをアルゴン(Ar)ガスとし、スパッタリングチャンバーの真空度を<2×10-3Paにした後、アルゴンガスを20sccmの流量でチャンバー内に導入し、室温下50Wのパワーでスパッタリングを行った。このときのアルゴンのガス圧は3.5Paである。
【0067】
1-3.表面補償帯の形成
窒素で満たされたグローブボックス内で6mgのMeO-2PACz([2-(3,6-ジメトキシ-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸)を18mLのエタノールに溶解させ、0.22μmシリンジフィルターでろ過してMeO-2PACz溶液を得た。この溶液を第1のホール輸送層13(NiO膜)上に滴下して300rpm30秒のスピンコーティングを行い、ホットプレート上で100℃10分の熱処理を行って、MeO-2PACzからなる表面補償帯(SCL:Surface Compensation Layer)14を第1のホール輸送層13上に形成した(図10(b)、工程S13a)。
【0068】
1-4.第1のペロブスカイト層(広バンドギャップペロブスカイト層)の形成
次に、MeO-2PACzにより表面処理された第1のホール輸送層13の上、すなわち表面補償帯14の上にハロゲン化鉛ペロブスカイト(FA0.84Cs0.12Rb0.04PbI2.32Br0.68)からなる広バンドギャップペロブスカイト層15を第1のペロブスカイト層として約300nmの膜厚で塗布法により形成した(図3(c)、図10(c)、工程S14a)。
具体的には、1.95mLのDMFと0.65mLのDMSOからなるDMF-DMDO中の6mgの5-AVAl、0.2gのPbI(関東化学、純度98%)、0.636gのPbBr(TCI、純度98%)、312.うmgのホルムアミジニウム(FA)ヨウ化物塩(FAI)、67.4mgのCsI、および18.4mgのRbIを調製し、それを表面補償帯が形成された第1のホール輸送層であるNiOx膜13の上にスピンコートした。スピンコート開始から34秒後に、クロロベンゼン(CB)溶媒をスピンコート中の基板の中心付近に滴下し、ペロブスカイトトップ層を結晶化させた。上記工程を経て広バンドギャップペロブスカイト層15を形成した。なお、外部量子効率の長波長側立ち上がり特性から広バンドギャップペロブスカイト層15のバンドギャップを推定したところ、その値は約1.68eVであった。
【0069】
1-5.添加剤のペロブスカイト表面処理
ピペラジン二ヨウ化水素酸塩(Piperazine Dihydriodide,PZDI)を(PZDIで12mg、0.2重量%相当)6mLのIPA溶媒に溶かした溶液を第1のペロブスカイト層15の上に滴下し、5000rpmで50秒スピンコートし、最後に100℃で5分アニールを行った(工程S15a)。
【0070】
1-6.第1の電子輸送層の形成
以下の手順で、PCBM([6,6]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester)からなる第1の電子輸送層16を作製した(工程S16a)。電子輸送材料を99%純度のPCBM(SIGMA-ALDRICH社)で2重量%相当)1mLの無水クロルベンゼンに溶かした溶液を第1のペロブスカイト層15上に滴下後、先ず1000rpm7秒、引き続いて4000rpm30秒の条件でスピンコートし、100℃10分の熱処理を加え、膜厚50nmの第1の電子輸送層16を形成した。
【0071】
1-7.第1のホールブロッキング層の形成
AvantamaAGを含む(アルミニウムがドープされた)酸化亜鉛ナノ粒子(AZOナノ粒子)が懸濁されたインキであるNanograde N-21X(ナノグレード社)を滴下後、先ず1500rpm5.5秒、引き続いて4000rpm20秒の条件でスピンコートしてPCBMからなる第1の電子輸送層16の上に厚100nmのAZO膜からなるホールブロッキング層17を100℃10分の熱処理により作製した(図10(d)、工程S17a)。
【0072】
1-8.導電性酸化膜(ITO)の形成
以下の手順で、約100nmの膜厚のITOからなる透明電極18を作製した(工程S18a)。
このITO膜の成膜にはDCスパッタリング装置(SH-250、ULVAC製)を用いた。ターゲットは99.9%純度のITO(高純度化学製)である。スパッタリングガスをアルゴンガスとし、スパッタリングチャンバーの真空度を<2.0×10-3Paにした後、アルゴンガスを11~12sccmの流量でチャンバー内に導入し、室温下50Wのパワーでスパッタリングを行った。このときのアルゴンのガス圧は約0.15Paである。
【0073】
1-9.グリッド電極の形成
熱蒸着法により厚さ約3000~5000nmの銀(Ag)を堆積させてグリッド電極19を形成し、透明基板31の第1主表面上に第1のペロブスカイト太陽電池セル32を作製した(図4、10(e)、工程S19a)。
【0074】
1-10.封止
得られたセルにカバーガラスを設置して紫外線硬化性のレジンであるUVRESIN XNR5516Z(NagaseChemteX製)を用いて封止し(図示なし)、カプセル化して第1のペロブスカイト太陽電池セル32の電気特性の評価を行った。
【0075】
1-11.第2のペロブスカイト太陽電池セル作製の準備
封止後、透明基板31の第2の主表面を保護していたカプトンテープを剥離し、さらに酸素プラズマにより剥離後のITO面12bを清掃した(図5、10(f)、工程S19b)。
【0076】
1-12.第2のホール輸送層の形成
ITO膜12bの上に第2のホール輸送層21としてPEDOT:PSS(Clevios P VP AI4083)膜をスピンコート法により約20nmの膜厚で成膜した(図10(g)、工程S20a)。3000rpmで30秒にてスピンコートし、100℃で5分アニールをした。
【0077】
1-13.第2のペロブスカイト層(狭バンドギャップペロブスカイト層)の形成
次に、PEDOT:PSS上に第2のペロブスカイト層として、ハロゲン化鉛ペロブスカイト(FA0.6MA0.26Cs0.1Pb0.5Sn0.5)からなる狭バンドギャップペロブスカイト層22を約600nmの膜厚で塗布法により形成した(図6、10(h)、工程S21a)。具体的には、1.372mLのDMFと0.344mLのDMSOからなるDMF-DMDO中の553.3mgのPbI(関東化学、純度98%)、446.5mgのSnI、18.8mgのSnF、350.9mgのホルムアミジニウム(FA)ヨウ化物塩(FAI)、31.2mgのCsI、38.2mgのメチルアンモニウム(MA)ヨウ化物塩(MAI)および10.8mgのMAのSCN塩(MASCN)を調製し、それを第2のホール輸送層であるPEDOT:PSS膜21の上にスピンコートした。スピンコート開始から40秒後に、クロロベンゼン(CB)溶媒をスピンコート中の基板の中心付近に滴下し、ペロブスカイト層を結晶化させた。上記工程を経て狭バンドギャップペロブスカイト層22を形成した。なお、外部量子効率の長波長側立ち上がり特性から狭バンドギャップペロブスカイト層22のバンドギャップを推定したところ、その値は約1.24eVであった。
【0078】
1-14.添加剤によるペロブスカイト表面処理
エチレンジアミン(Ethylene Diamine,EDAI2)を(EDAI2で12mg、0.2重量%相当)6mLのIPA溶媒に溶かした溶液を狭バンドギャップペロブスカイト層22の上に滴下し、5000rpmで50秒のスピンコートし、100℃で5分アニールをした(工程S22a)。
【0079】
1-15.第2の電子輸送層の形成
C60を真空蒸着装置で狭バンドギャップペロブスカイト層22上に約30nm蒸着し、第2の電子輸送層23を形成した(工程S23a)。
【0080】
1-16.第2のホールブロッキング層の形成
BCP(Bathocuproine)を真空蒸着装置によりC60からなる第2の電子輸送層23の上に約6nm、第2のホールブロッキング層24として積層した(工程S24a)。
【0081】
1-17.裏面電極の形成
熱蒸着法により厚さ150nmの銀(Ag)を堆積させて裏面電極25を形成した(図7、10(i)、工程S25a)。
【0082】
以上の工程により、狭バンドギャップペロブスカイト層22を有する第2のペロブスカイト太陽電池セル33を、広バンドギャップペロブスカイト層15を有する第1のペロブスカイト太陽電池セル32が形成されている面とは反対面の透明基板31上に形成した。
【0083】
1-18.封止
得られたセルにカバーガラスを設置して紫外線硬化性のレジンであるUVRESIN XNR5516Z(NagaseChemteX製)を用いて封止し(図示なし)、カプセル化して電気特性の評価を行った(図7)。
【0084】
2.光電変換特性評価
上記作製方法によって作製したペロブスカイト太陽電池101のJ-V特性を、AM1.5Gスペクトルフィルターを使用して1-SUN規格の条件で測定した。
ここで、光は広バンドギャップペロブスカイト層15が配置されている第1のペロブスカイト太陽電池セル32側からペロブスカイト太陽電池101に照射した。したがって、第2のペロブスカイト太陽電池セル33は、実使用時と同じように、第1のペロブスカイト太陽電池セル32および透明基板31を通ってきた光での光電変換評価である。その結果を表1に示す。表1および表2には、第1のペロブスカイト太陽電池セル32と第2のペロブスカイト太陽電池セル33の各々に対して下記項目の評価結果、および第1と第2のペロブスカイト太陽電池セルが4端子タンデム配置されているペロブスカイト太陽電池101としての変換効率(Total η)の評価結果が示されている。その項目は、短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、曲線因子(FF)、直列抵抗(R)、並列抵抗(Rsh)および変換効率(η)である。なお、表1と表2の差は、試料の作製時期であり、表2の方が作製時期が遅い。作製プロセス自体は変えていないが、表2の時期の方がプロセス安定性が増し、作製途中の放置時間も少なくなっている。
【0085】
なお、製造ばらつきを評価するために、表1では、#1から#3の同一仕様の3枚の基板を用い、同一プロセス条件で試料を作製した。各基板には4つのチップが搭載されているので、計12チップを評価した。表2では、#4から#6の同一仕様の3枚の基板を用い、同一プロセス条件で試料を作製した。各基板には4つのチップが搭載されているので、計12チップを評価した。
また、参考までに、#2基板を用いた第1チップにおけるJ-V特性曲線と光電変換効率ηの時間変化について測定した結果を、入射光側(Top側)の第1ペロブスカイト太陽電池セル32の場合図11、奥側(Bottom側)の第2ペロブスカイト太陽電池セル33の場合図12に示す。
ここで、両図の(a)はJ-V特性曲線、(b)は光電変換効率ηの時間変化を示している。図(a)中のCyc1は1回目(0秒経過)、Cyc5は5回目(80秒経過)のI-Vカーブ測定結果を表す。図(b)中のGoは印加電圧増加方向へのI-Vスキャン、Retは印加電圧減少方向へのI-Vスキャン、そしてAveはGoとRetの平均値を示している。
【0086】
その結果、ペロブスカイト太陽電池101として、15.2~18.4%、平均17.1%という高い変換効率ηが得られた。
このような高い光電変換効率ηが得られたのは、光が広バンドギャップペロブスカイト層15側から狭バンドギャップペロブスカイト層22側へと入り、その光吸収の関係からフォトンの収率が高いことと、広バンドギャップペロブスカイト層15側を最初に作り、その後、耐熱的な安定性が広バンドギャップペロブスカイト層15より劣る狭バンドギャップペロブスカイト層22を作製したことによる。なお、参考までに、実施例1の熱処理条件一覧を表3に示す。
【0087】
【表1】

【表2】

【表3】
【0088】
(実施例2)
実施例2では、実施例1に準拠させた構造の4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池101に対して、そのプロセス温度依存性を調べた。具体的には、第2のホール輸送層21であるPEDOT:PSS(工程S20、S20a)の熱処理条件を120℃10分として、その他は実施例1と同様にして評価した。そのJ-V特性曲線と光電変換効率ηの時間変化について測定した結果を、実施例1と同様に、入射光側(Top側)の第1ペロブスカイト太陽電池セル32の場合図13、奥側(Bottom側)の第2ペロブスカイト太陽電池セル33の場合図14に示す。ここで、両図の(a)はJ-V特性曲線、(b)は光電変換効率ηの時間変化を示している。
【0089】
その結果、第2のペロブスカイト太陽電池セル33の熱処理の影響も受ける第1ペロブスカイト太陽電池セル32のJ-V特性曲線は、サイクル1と5で有意な差が見られ、また、第1ペロブスカイト太陽電池セル32の光電変換効率ηは100℃5分の熱処理のときの12.4%より大幅に低い8.5%に留まった。この結果、第1ペロブスカイト太陽電池セル32と第2ペロブスカイト太陽電池セル33の各部を合わせた4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池101の変換効率は、120℃10分熱処理により100℃5分の熱処理のときの18.2%より低い14.0%であった。なお、第2ペロブスカイト太陽電池セル33のJ-V特性曲線は、サイクル1と5で大きな差は認められず、第2ペロブスカイト太陽電池セル33の光電変換効率ηは100℃5分の熱処理のときの5.8%に近い5.5%であった。
【0090】
次に、第1ペロブスカイト太陽電池セル32の各部の熱処理温度を100℃から85℃に変えたときの第1のペロブスカイト太陽電池セル32の光電変換特性に与える影響を第1のペロブスカイト太陽電池セル32作製段階で評価した。評価方法と評価項目は実施例1と同様である。その結果を表4に示す。
表4から明らかなように、85℃の熱処理では十分なアニール効果が得られず、基板毎に特性が大きく変化する不安定な結果となった。したがって、熱処理温度としては、85℃を超える熱処理が好ましいことが確認された。
【0091】
【表4】
【0092】
次に、第1ペロブスカイト太陽電池セル32の各部の熱処理温度を100℃に固定して、その処理時間を3分、5分および10分の3水準に変えたときの第1のペロブスカイト太陽電池セル32の光電変換特性に与える影響を第1のペロブスカイト太陽電池32作製段階で評価した。評価方法と評価項目は実施例1と同様である。その結果を表5に示す。その結果、最初に作製する第1のペロブスカイト太陽電池セル32の各部の熱処理温度は100℃とすることにより、安定して高い光電変換効率ηが得られることがわかった。
【0093】
【表5】
【0094】
(実施例3)
実施例3では、最初に、狭バンドギャップペロブスカイト層22を有する第2のペロブスカイト太陽電池セル33を透明基板31上に作製し、その後、広バンドギャップペロブスカイト層15を有する第1のペロブスカイト太陽電池セル32を作製したペロブスカイト太陽電池102について、その光電変換特性を実施例1と同様にして調べた。その作製プロセスの詳細を図15に示す。
【0095】
その結果、後で作製した第1のペロブスカイト太陽電池セル32側の光電変換効率ηは14%と実施例1の場合と大差はなかったが、後続の熱処理の影響を受ける第2のペロブスカイト太陽電池セル33側の光電変換効率ηは1%と低いものとなり、第1ペロブスカイト太陽電池セル32と第2ペロブスカイト太陽電池セル33の各部を合わせた4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池101の変換効率は15%であった。
15%という光電変換効率も高い値であるが、実施例3の構造より実施例1、すなわち、広バンドギャップペロブスカイト層15を有する第1のペロブスカイト太陽電池セル32から作製する作製方法は、高い光電変換効率ηを得る観点から、特に好ましいことが示された。
【0096】
(比較例)
比較例では、2端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池103を試作してその光電変換特性を調べた。
比較例で試作した2端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池103は、図16に示すように、1枚のガラス基板51上に広バンドギャップペロブスカイト層55を有する第3のペロブスカイト太陽電池セル42が形成され、さらにITO膜58を挟んで狭バンドギャップペロブスカイト層60を有する第4のペロブスカイト太陽電池セル43が積層された太陽電池である。
【0097】
2端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池103は下記の工程により作製した。
最初に、第1の主表面上に第3のITO膜52が形成されたガラス基板51を準備し、ITO膜52上に第3のホール輸送層53として、実施例1と同様に、スパッタリング法によって堆積されたNiO膜を形成し、さらにそのNiO膜上にMeO-2PACsによる表面補償帯54を形成した。
その後、第3の広バンドギャップペロブスカイト層55を塗布法により形成した。ここで、広バンドギャップペロブスカイト層55の組成はFA0.84Cs0.12Rb0.04PbI0.77Br0.23とした。
しかる後、広バンドギャップペロブスカイト層55の表面を実施例1と同様にPZDIで表面処理した。
その後、第3の電子輸送層56としてC60MC12、第3のホールブロッキング層58としてAZO、そして第4のITO膜58を順次積層して第3のペロブスカイト太陽電池セル42を形成した。
【0098】
次に、第4のITO膜58上に第4のホール輸送層59として実施例1と同様にしてPEDOT:PSSをスピンコートした。
その後、第4のペロブスカイト層60として、組成がFA0.8MA0.1Cs0.05Pb0.5Sn0.5Iからなる狭バンドギャップペロブスカイト層を塗布法により形成した。
しかる後、実施例1と同様にして、エチレンジアミンで第4のペロブスカイト層60の表面を表面処理し、第4の電子輸送層61としてC60を蒸着した。
さらに、実施例1と同様にして、第4のホールブロッキング層62としてBCPを蒸着し、熱蒸着法により銀からなる裏面電極63を形成した。
以上の工程により、第4のITO膜58上に第4のペロブスカイト太陽電池セル43を積層して、2端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池103を作製した。
【0099】
作製した2端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池103の特性を実施例1と同様にして評価した結果を表6に示す。光電変換効率ηは3.07~5.26%であり、実施例1の1/3以下に留まった。
【0100】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明により、低コストで変換効率および出力が高くかつコンパクトなペロブスカイト太陽電池およびそのペロブスカイト太陽電池の製造方法が提供されるので、産業の発展に大いに寄与することが期待される。
【符号の説明】
【0102】
2 第1の端子電極 (透明電極)
3 第1のペロブスカイト層
4 第2の端子電極
4a 透明電極
4b 電極
5 第3の端子電極 (透明電極)
6 第2のペロブスカイト層
7 第4の端子電極 (裏面電極)
11 透明基体 (白板ガラス)
12a 第1の透明電極層 (ITO膜)
12b 第2の透明電極層 (ITO膜)
13 第1のホール輸送層 (NiO膜)
14 表面補償帯 (SCL、MeO-2PACz層)
15 第1のペロブスカイト層、広バンドギャップペロブスカイト層(FA0.84Cs0.12Rb0.04PbI2.3Br0.68
16 第1の電子輸送層 (PCBM膜)
17 第1のホールブロッキング層 (AZO膜)
18 透明電極、導電性酸化膜 (ITO膜)
19 グリッド電極 (Ag)
20 保護フィルム (カプトンテープ)
21 第2のホール輸送層 (PEDOT:PSS)
22 第2のペロブスカイト層、狭バンドギャップペロブスカイト層 (FA0.6MA0.26Cs0.1Pb0.5Sn0.5
23 第2の電子輸送層 (C60)
24 第2のホールブロッキング層 (BCP)
25 裏面電極 (Ag)
31 透明基板
32 第1のペロブスカイト太陽電池セル
33 第2のペロブスカイト太陽電池セル
42 第3のペロブスカイト太陽電池セル
43 第4のペロブスカイト太陽電池セル
51 ガラス基板
52 第3のITO膜
53 第3のホール輸送層 (NiO膜)
54 表面補償帯 (MeO-2PACz層)
55 第3のペロブスカイト層、広バンドギャップペロブスカイト層
56 第3の電子輸送層 (C60MC12)
57 第3のホールブロッキング層 (AZO膜)
58 第4のITO膜
59 第4のホール輸送層 (PEDOT:PSS)
60 第4のペロブスカイト層、狭バンドギャップペロブスカイト層 (FA0.8MA0.1Cs0.05Pb0.5Sn0.5I)
61 第4の電子輸送層 (C60)
62 第4のホールブロッキング層 (BCP)
63 裏面電極 (銀)
101 4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池 (ペロブスカイト太陽電池)
101a 4端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池 (ペロブスカイト太陽電池)
103 2端子タンデム型ペロブスカイト太陽電池 (ペロブスカイト太陽電池)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16