(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119775
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】生体試料中の移動物体の特性を決定するための顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20240827BHJP
G02B 21/36 20060101ALI20240827BHJP
G02B 21/06 20060101ALI20240827BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G02B21/00
G02B21/36
G02B21/06
G01N21/64 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024024482
(22)【出願日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】10 2023 201 620.6
(32)【優先日】2023-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】20 2023 103 998.7
(32)【優先日】2023-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】506151659
【氏名又は名称】カール ツァイス マイクロスコピー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CARL ZEISS MICROSCOPY GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】スタニスラフ カリーニン
(72)【発明者】
【氏名】ディーター フーゼ
(72)【発明者】
【氏名】ゲオルク ヴィーザー
(72)【発明者】
【氏名】オリバー ホルブ
【テーマコード(参考)】
2G043
2H052
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043EA01
2G043HA01
2G043LA03
2H052AA08
2H052AA09
2H052AC04
2H052AC15
2H052AC16
2H052AC34
2H052AD16
2H052AD35
2H052AF14
2H052AF25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、生体試料中の移動物体の特性を決定する方法に関する。
【解決手段】方法は、検出器アレイの形態の検出器(414)の複数の検出器素子を用いて、測定期間にわたって複数回、試料内に生成された共焦点体積からの検出放射を検出するステップを含み、検出器素子の測定値は、それぞれ個別に分析することができる。検出器素子の少なくとも1つのペアが選択され、ペアの各パートナーは、少なくとも1つの検出器素子によって形成される。相互相関は、少なくとも1つのペアの検出器素子の検出された測定値から生成され、選択された検出器素子の1つから第1の方向に開始して、さらに選択された検出器素子までの相互相関が計算される。本発明の特徴は、第2のサブステップにおいて、さらに選択された検出器素子から第2の方向(逆方向)に開始して、第1の選択された検出器素子までの相互相関がさらに計算されることである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の移動物体の特性を決定するための顕微鏡(M)であって、
生体試料を配置するための試料空間と、
前記試料内に生成された共焦点体積からの検出放射を捕捉するための対物レンズ(47)と、
検出ビーム経路(410)であって、該該検出ビーム経路(410)に沿って、捕捉された前記検出放射が複数の検出器素子(1~32)を有する検出器アレイの形態の検出器(414)に導かれ、前記検出器(414)は、前記対物レンズ(47)の後側像平面と共役な平面に配置され、前記検出器素子(1~32)からの測定値は、各々個別に読み出されて分析されることができる、検出ビーム経路(410)と、
励起放射を提供するための光源(41)であって、照明ビーム経路(42)内に、前記励起放射を整形して前記試料空間に共焦点体積を形成するためのビーム整形光学ユニット(44)が存在し、および/または検出ビーム経路(410)内に、前記検出放射を整形するためのビーム整形光学ユニット(411)が存在する、光源(41)と
を備える、顕微鏡(M)。
【請求項2】
前記ビーム整形光学ユニット(44)は、スリット絞り、ビームエキスパンダ、またはピンホールを含む、請求項1に記載の顕微鏡(M)。
【請求項3】
前記ビーム整形光学ユニット(44)は、空間光変調器を含む、請求項1または2に記載の顕微鏡(M)。
【請求項4】
分析および制御ユニット(413)を備え、
前記分析および制御ユニット(413)は、ステップAにおいて、前記検出器(414)を使用して、測定期間にわたって複数回、前記試料内に生成された共焦点体積からの検出放射を捕捉し、各場合に、前記検出器素子(1~32)からの前記測定値を個々に分析することが可能であり、前記検出器素子(1~32)のうちの少なくとも1つのペアを選択するように構成され、ペアの各パートナーは、少なくとも1つの検出器素子(1~32)によって形成され、
前記分析および制御ユニット(413)は、ステップBにおいて、少なくとも1つのペアの前記検出器素子(1~32)から取得された前記測定値のそれらの間の相関を生成するように構成され、
前記分析および制御ユニット(413)は、第1のサブステップB1において、前記選択された検出器素子(1~32)のうちの1つから第1の方向に開始して、さらに選択された検出器素子(1~32)までの相関を計算するように構成され、
任意選択的に、
前記分析および制御ユニット(413)は、ステップBの第2のサブステップB2において、前記さらに選択された検出器素子(1~32)から第2の方向(逆方向)に開始して、第1の選択された検出器素子(1~32)までの相関をさらに計算するように構成され、
前記分析および制御ユニット(413)は、ステップCにおいて、選択された検出器素子(1~32)からの前記測定値の強度の変化の発生に関して前記相関を分析するように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の顕微鏡。
【請求項5】
前記第1のサブステップB1および/またはサブステップB2の前記相関は、相互相関である、請求項4に記載の顕微鏡(M)。
【請求項6】
複数のペアの相関が計算され、全てのペアは、共通のパートナーとして少なくとも1つの検出器素子(1~32)を有している、請求項5に記載の顕微鏡(M)。
【請求項7】
前記ペアのそれぞれのさらなるパートナーは、前記共通のパートナーから同一の距離に配置されている、請求項6に記載の顕微鏡(M)。
【請求項8】
複数の検出器素子(1~32)は、組み合わせられて、拡張されたペアのパートナーのそれぞれ1つを形成する、請求項1~7のいずれか一項に記載の顕微鏡(M)。
【請求項9】
検出器素子(1~32)の複数のペアまたは複数の拡張されたペアのグループが定義され、複数のペアまたは複数の拡張されたペアの中心点の仮想接続線は、互いに平行に延びている、請求項1~8のいずれか一項に記載の顕微鏡(M)。
【請求項10】
前記複数のペアまたは前記複数の拡張されたペアの測定値から生成される第1の方向および/または第2の方向における相互相関の平均値が形成される、請求項9に記載の顕微鏡(M)。
【請求項11】
検出器素子(1~32)の複数のグループが決定され、前記複数のグループの間のそれぞれの仮想接続線は、互いに異なる向きである、請求項9または10に記載の顕微鏡(M)。
【請求項12】
少なくとも2つの異なるグループの複数のペアまたは複数の拡張されたペアの測定値の相互相関が形成される、請求項39~511のいずれか1項に記載の顕微鏡(M)。
【請求項13】
物体の速度および/または移動方向は、特に、異なる向きの複数のペアまたは複数の拡張されたペアにわたって複数の相互相関を計算し、そのようにして得られたすべての曲線を、方向および/または速度をパラメータとしてフィッティングすることによって、前記相互相関に基づいて決定される、請求項12に記載の顕微鏡(M)。
【請求項14】
ペアのパートナーは、それぞれ、関連するペアに属さない少なくとも1つの検出器素子(1~32)によって空間的に分離されている、請求項8~10のいずれか一項に記載の顕微鏡(M)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中の移動物体の特性を決定するための顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光相関分光法(fluorescence correlation spectroscopy,FCS)は、共焦点走査型顕微鏡法、特に共焦点レーザ走査型顕微鏡法の分野の方法であり、例えば細胞内の分子の挙動のダイナミクスを調べる場合などにその価値が証明されている。
【0003】
以下でFCSとも略されるこの方法は、継続的にさらに開発されており、したがって、さまざまな種類のFCSが利用可能である(例えば、非特許文献1および非特許文献2)。その1つは、「スポット変動FCS(spot-variation FCS)」として知られるものである(例えば、非特許文献3)。このプロセスでは、励起放射が集束され、試料に向けられる。伝播方向(通常は光軸)を横切る方向(x方向またはy方向)および伝播方向(z方向)の両方における励起放射の集束ビームの集束および焦点の広がりのために、試料における共焦点検出と併せて、いわゆる共焦点体積(この文脈では、単に「焦点」とも呼ばれる)が照明される。異なるサイズの共焦点体積について輝度情報(測定値)を取得することができる。この目的のために、照明目的に使用される対物レンズの開口数(NA)を変化させることができ、例えば、可変虹彩絞り、レボルバもしくはスライダ上に配置された異なる複数のピンホール、または望遠鏡が、励起ビーム経路内に設けられ、それに応じて制御される。輝度情報は、光検出器(例えば、フォトダイオード)によって取得される。
【0004】
Scipioniらによる刊行物(非特許文献4)は、スポット変動FCSの改良を開示している。取得目的のために、空間分解平面検出器が使用され、その複数の検出器素子は、個々にかつ互いに独立して読み取られ、評価されることができる。特に、「Airyscan検出器」と呼ばれる検出器タイプがScipioniらで使用されており、それは、検出ビーム経路の中間像面に配置され、そのそれぞれの検出器素子は、個々のピンホールとして作用する(非特許文献5)。この方法構成では、選択された複数の検出器素子からの輝度情報が評価され、検出器素子の選択によって異なるサイズの仮想ピンホールがシミュレートされる。このようにして、実際に照明される共焦点励起体積が一定のままであっても、変化する複数の共焦点測定体積を仮想的に生成することが可能である。Scipioniらによる刊行物(2018年)による手順は、単一の測定によって4つまでの異なる測定体積から輝度情報を同時に取得することを可能にする。
【0005】
これまで、従来技術から知られているFCSの変形形態は、検出された拡散プロセスおよび分子の移動の速度および方向に関する記述を提供していないか、または限定された記述しか提供していない。
【0006】
1つの共焦点体積のみを有するFCS法の場合でも、計算に使用される関数は、流速に依存する項を含む。しかしながら、この項は、流れの方向に関して感度を有しない。
複数の共焦点体積の作成および使用も可能である(非特許文献6~9)。しかしながら、これらは、流れの方向を決定するために、ビーム経路の複雑な位置合わせおよび複数の測定を必要とする。理論的には、3つ以上の共焦点体積を適用することにより、流れる動きの速度および方向を決定することが可能になるが、これは複雑な技術的構成を必要とする。試料内を移動する分子の速度および方向を測定するためのさらなるデバイスは、例えば、特許文献1および特許文献2から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許第10327486号明細書
【特許文献2】米国特許第7158295号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Lenne et al.,EMBO J.25,2006年:3245-3256
【非特許文献2】Wenger et al.,Biophys. J.92,2007年:913-919
【非特許文献3】Wawreznieck et al.,Biophys. J.89,2005年:4029-4042
【非特許文献4】Scipioni et al.,Nature Communications,2018年,DOI:10.1038/s41467-018-07513-2
【非特許文献5】Huff,Nature Methods,Application Notes,2015年12月
【非特許文献6】Blom et al.,Applied Optics 41,2002年:6614-6620
【非特許文献7】ArbourおよびEnderlein,Lab Chip 10,2010年:1286-1292
【非特許文献8】Brister et al.,Lab Chip 5,2005年:785-791
【非特許文献9】Polatynska et al.,Journal of Chemistry and Physics 146,2017年,DOI:10.1063/1.4977047
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、生体試料中の移動物体の特性を決定するためのさらなる選択肢を提案することである。
この目的は、独立請求項の主題によって達成される。従属請求項は、有利な発展形態に関する。
【0010】
生体試料中の移動物体の特性を決定するための顕微鏡は、生体試料を配置するための試料空間と、試料内に生成された共焦点体積からの検出放射を捕捉するための対物レンズとを備えている。検出ビーム経路も設けられ、捕捉された検出放射は、それに沿って、複数の検出器素子を有する検出器アレイの形態の検出器に導かれる。この場合、検出器は、対物レンズの後側像平面と共役な平面(「ピンホール面」とも呼ばれる)に配置される。検出器素子からの測定値は、それぞれ個別に読み取られ、分析され得る。光源は、励起放射を提供する目的で設けられている。照明ビーム経路には、励起放射を整形して試料空間に共焦点体積を形成するためのビーム整形光学ユニットが存在する。代替的にまたは追加的に、検出ビーム経路には、検出放射を整形するためのビーム整形光学ユニットが存在する。
【0011】
例えば、前述のAiryscan検出器またはSPADアレイのうちの1つが、検出器として設けられていてよい。例えば、マイクロレンズアレイなどの光学素子が、検出器素子の前に配置されていてもよい。
【0012】
本発明は、照明放射または検出放射のビーム形状が現在の要件に従って適合されることによって有利に実施することができる。この目的のために、制御された方法で調整可能な虹彩絞りを、ビーム整形光学ユニットとして、顕微鏡の照明ビーム経路または検出ビーム経路に配置することができる。例えば、照明ビーム経路の直径の減少は、対物レンズ瞳の入力側にアンダーフィルをもたらし、したがって、共焦点体積の増加をもたらす。
【0013】
本発明による顕微鏡の一実施形態では、制御可能な方法で調整可能な(レーザ)ビームエキスパンダを、ビーム整形光学ユニットとして、顕微鏡の照明ビーム経路または検出ビーム経路に配置することができる。ビームエキスパンダは、典型的には、伸縮構造に基づいている。共焦点体積は、同様に、電動可変ビームエキスパンダの設定の効果によって増加または減少させることができる。
【0014】
本発明による顕微鏡の別の実施形態では、スリット絞りを、ビーム整形光学ユニットとして照明ビーム経路または検出ビーム経路に配置することができ、その結果、ビーム経路に対して横方向に細長いPSFが生成される。同様に、PSFを空間的および/または時間的に変調する光学素子、例えば空間光変調器(SLM)または対応して調整可能な位相マスク、および/または制御可能にビーム経路に挿入することおよびビーム経路から取り出すことができる位相マスクの存在も可能である。
【0015】
上述の絞りまたは光学素子は、有利に制御することができ、その光学効果に狙った方法で影響を及ぼすことができる。
有利には、本発明による顕微鏡は、分析ユニットも備える。それは、測定値が評価されることが意図される検出器素子を選択するのに役立つ。さらに、評価の方法、例えば、測定値の組み合わせ(ビニング)、ペアおよび拡張されたペアの定義(下記参照)、ならびに各々の場合に適用される評価のアルゴリズムが選択され、実行されることができる。分析ユニットは、組み合わされた分析および制御ユニットとして設計されてもよい。例えば、そのような分析ユニットまたは分析および制御ユニットは、コンピュータ、マイクロコントローラ、またはFPGAであってよい。以下では、例として分析および制御ユニットを参照する。制御ユニットは、顕微鏡の素子を制御するための制御コマンドを生成する。制御コマンドの構成は、分析ユニットからの要件および/または結果によって影響され得る。
【0016】
顕微鏡の分析および制御ユニットは、有利には、ステップAにおいて、検出器を使用して、測定期間(測定時間期間、測定区間、例えば、それぞれの測定期間当たり10秒から数分)にわたって複数回、試料内に生成された共焦点体積からの検出放射を捕捉し、各場合に、検出器素子からの測定値を個々に分析するように構成されている。さらに、検出器素子の少なくとも1つのペアが選択されてよく、ペアの各パートナーは、少なくとも1つの検出器素子によって形成されている。検出器素子の測定値は、それぞれ個別に分析されることができる。選択された検出器素子の測定値をそれぞれ互いに組み合わせることも可能である(「ビニング」)。
【0017】
ステップBにおいて、少なくとも1つのペアの検出器素子から取得された測定値のそれらの間の相関が生成される。このプロセスでは、第1のサブステップB1において、選択された検出器素子のうちの1つから第1の方向に開始して、さらに選択された検出器素子までの相関が計算される。この第1の方向は、順方向とも呼ばれ得る。
【0018】
分析および制御ユニットの構成は、任意選択で、第2のサブステップB2がステップBにおいて実行されることを可能にし、第2のサブステップB2において、さらに選択された検出器素子から第2の方向(逆方向)に開始して、第1の選択された検出器素子までの相関がさらに計算される。
【0019】
ステップCにおいて、選択された検出器素子からの測定値の強度の変化の発生に関して相関を分析することができる。
分析および制御ユニットの構成は、方法およびその構成の記載に基づいて以下に説明される。
【0020】
本発明の概念は、生体試料中の移動物体の特性を決定するための方法も含む。方法は、以下に示すステップを含む。ステップAにおいて、試料内に生成された共焦点体積内に起点がある検出放射が捕捉される。捕捉は、検出器アレイの複数の検出器素子によって、測定期間(測定時間期間、測定区間、例えば、それぞれの測定期間当たり10秒から数分)にわたって複数回、実施され、検出器アレイは、対物レンズの後側像平面に共役な平面(「ピンホール面」とも呼ばれる)に配置される。検出器素子の測定値は、それぞれ個別に分析されることができる。選択された検出器素子の測定値をそれぞれ互いに組み合わせることも可能である(「ビニング」)。
【0021】
方法のステップBにおいて、検出器素子の少なくとも1つのペアが選択され、ペアの各パートナーは、少なくとも1つの検出器素子によって形成されている。取得された測定値の相互相関が、少なくとも1つのペアの測定値から、それらの間で生成される。このプロセスでは、第1のサブステップB1において、選択された検出器素子のうちの1つから第1の方向に開始して、さらに選択された検出器素子までの相互相関が計算される。この第1の方向は、順方向とも呼ばれ得る。
【0022】
この方法の特徴は、第2のサブステップB2において、さらに選択された検出器素子から第2の方向(逆方向)に開始して、第1の選択された検出器素子までの相互相関がさらに計算されることである。
【0023】
ステップCにおいて、相互相関またはその結果が、選択された検出器素子からの測定値の強度の変化の発生に関して分析される。
この説明では、方向という用語は、開始点および仮想伝搬線を有するベクトルの意味で使用される。これは、水平において、例えば、第1の方向(順方向)が開始点から0°に向かって進み、第2の方向(逆方向)が開始点から180°に向かって進むことを意味する(
図4も参照)。これは、異なる向きの(極)座標系についても同様である。
【0024】
本発明の重要な態様は、試料内の特定の物体の移動の発生に関する情報を得るために、また、さらに、例えば、移動方向および速度に関するステートメントを作成することができるように、選択された個々に読み取り可能な検出器素子からの測定値を使用することにある。この説明の範囲内で、物体とは、例えばタンパク質、核酸などの分子、特に凝集体、複合体、集塊およびキレートを指す。さらに、本発明は、物体の移動に影響を及ぼす障害物およびプロセスに関するステートメントを作成することを可能にする。従来技術と比較して、有利には、物体の濃度が高い場合および/または変化する場合であっても、ならびに検出放射の強度が高い場合であっても、意味のある結果を得ることが可能である。
【0025】
マークされた物体の濃度は、本発明のさらなる構成で決定され得る。この情報は、例えば、ユーザのためのグラフィック表示を標準化するために使用することができる。濃度は、点拡がり関数(point spread function,PSF)、拡散時間および物体の数の知識を用いて決定することができる。これは、本説明の意味の範囲内で物体として捉えられる、例えば、遺伝子の発現およびタンパク質の翻訳が起こる生体試料を観察する場合にも有利である。変化する濃度に関する情報は、測定値を評価する際に有利に考慮することができる。これにより、従来技術とは対照的に、変化する高い濃度の物体を備えた試料を、本発明によって検査することも可能になり、有利に高いSNR(信号対雑音比)を有するデータを得ることができる。
【0026】
物体の濃度を決定するために、FCS法の基礎を形成する以下の関数が使用される。
【0027】
【0028】
ここで、τは時間オフセット(遅延時間)を示し、Iは強度を示す。
捕捉された検出放射の強度および共焦点体積におけるその変動は、例えば数秒間の期間(測定期間)にわたって捕捉される。時間的強度トレースは、このようにして得られる。強度変化は、例えば拡散または他の動きの結果として、共焦点体積を通過する個々の蛍光物体の数の変化に基づく。時間的自己相関の範囲内で、時間的強度トレースは、時間遅延の後に再びそれ自体と比較することができる。結果として得られる相関関数(例えば、
図9および
図10のグラフを参照)は、物体の数および拡散時間に関する情報を導出することを可能にする。この目的のために、強度の振幅および時間的減衰挙動、すなわちゼロライン(ベースライン)への収束が用いられる。
【0029】
時間遅延された強度トレースの類似性は、拡散時間を導出するために強調される。それらが最初に互いに類似している場合、すなわち経時的にほとんど変化しない場合、値G(τ)は高いままである。G(τ)は、類似性が減少する場合に落ち込む。したがって、高い拡散速度は、より低い速度よりも急激に低下する曲線をもたらす。結果として得られた、ベースラインまでの収束時間(
図10参照)が、拡散時間の基準値となる。
【0030】
物体の濃度は、強度(振幅)の時間的変化に基づいて決定される。物体は、あるタイムスパン、例えば測定期間中に、共焦点体積内に移動し、共焦点体積から出る。任意の所与の時間に共焦点体積内に少数の物体しか位置していない場合、すなわち濃度が低い場合、少数の物体の移動は、すでに強度の著しい変化をもたらす。対照的に、濃度が高い場合、個々の物体の動きは、強度値の振幅の変化にほとんど寄与しない。グラフ表示の場合、グラフは、高濃度の場合に高い相関値で開始し、一方、開始点は、低濃度の場合に低くなる。
【0031】
物体の拡散係数および濃度を決定するために、PSFの特定の設計、特にその現在の直径に関する知識が必要とされる。PSFは、顕微鏡の構成要素、例えば、光学レンズ、絞り、対物レンズ、ならびに使用される照明放射または励起放射および捕捉される検出放射(放出される放射、蛍光)の波長によって影響を受ける。利用可能な技術的情報に基づいて、理論上のPSFまたはPSFの理論上の直径を提供し、これを実験に適用することが可能である。
【0032】
理論上の直径は、実際のPSFの直径からずれることがあり、計算された拡散係数および濃度の値と実際の拡散係数および濃度の値との間に最大±30%の偏差が生じる可能性がある。
【0033】
理論上のPSFは、多くの用途に十分であり、時間のかかる較正を不要にする。しかしながら、この状況では、未知の光学系およびそれらの製造公差を考慮することは不可能である。光学系、特に顕微鏡の個々の較正に関するオプションの可能性によって、是正措置が提供される。これは、ユーザによってまたは自動的に実施することができる。このようにして、偏差を約±5%に低減することができる。
【0034】
本発明の範囲内で、検出器の検出器素子の各々が共焦点体積のわずかに異なる部分を撮像するという状況が使用される。したがって、複数の異なる検出焦点が生成され、その測定値が分析され、検出器素子および任意選択的にその上流に配置された光学素子、例えばマイクロレンズアレイ、の製造および配置の非常に高い精度は、有利には、いわゆるAiryscan検出器(非特許文献5)およびSPAD(single photon avalanche diode)検出器のアレイの場合、それぞれの共焦点体積の距離に関する非常に正確な知識をもたらす。従来技術からの解決策と比較して、それぞれの共焦点体積の位置および性質に関する正確な知識は、有利には、例えば、基準として既知の色素分子を使用するその較正を省くことを可能にする。
【0035】
本発明による基本的な手順は、32チャネルを有するAiryscan検出器(非特許文献5)に基づいて、以下の例によって説明される。
図4から例として分かるように、Airyscan検出器を使用することにより、ペアを形成する検出器素子間にそれぞれの検出器素子の間隔が残り、かつ外側の検出器素子が使用されていない場合に、6つの相互相関が計算することができる(以下を参照)。この場合、反対方向に対して計算された相互相関の間の差は、検出放射を引き起こすかまたは放出する物体の移動を示す。
【0036】
移動物体の速度および方向を決定するために、式[2]に関して指定された形式の実験的な相互相関を作成するか、またはより詳細なモデルによって実験的な相互相関を作成することが可能である。
【0037】
[1]に関する式は以下の通りである。
【0038】
【0039】
ここで、vは流速(フィットパラメータ)であり、αは流れ方向と検出器素子を接続するベクトルとの間の角度(フィットパラメータ)であり、r0は(拡張された)ペアの検出器素子の焦点間の距離であり、w0は検出器素子のXYにおける共焦点体積の1/e2半径であり、Dは拡散係数であり、Gdiff(τ)は拡散項(2Dまたは3D)である。後者は、検出器素子の動きがない場合の自己相関を表す。
【0040】
パラメータr0は、検出器素子の互いからの間隔から直接計算することはできず、経験的または理論的に決定しなければならない。この理由は、照明放射のPSF(点拡がり関数)と検出放射のPSFとが同じではないという状況に見出すことができる。一方では、パラメータr0は、静的試料、例えば色溶液が測定されることによって決定することができ、r0はフィッティングされるパラメータとして挿入され、流速はv=0に設定される。あるいは、r0は、例えば、理論上のPSFとの相互相関を使用し、式[1]を用いてフィッティングすることにより、理論上のPSFから導出することができる。
【0041】
異なる方向について複数の相互相関をフィッティングすると、角度αに関するフィッティングの安定性が改善される。さらに、2焦点FCSの場合とは異なり、単一のセットの測定値からすべての相互相関を決定することが可能である。
【0042】
さらなる方法構成では、複数の検出器素子を組み合わせて、以下で拡張されたペアと呼ばれるペアの部分またはパートナーのそれぞれ1つを形成することが可能である。この場合、拡張されたペアのパートナーごとに取得された測定値は、拡張されたペアの2つのパートナーの、計算によって組み合わされた測定値間の相互相関が決定される前に、計算によって組み合わされ、例えば平均化される。
【0043】
本発明は、検出器素子の1つのペアのみ、または1つの拡張されたペアを使用して実施することができる。信号対雑音比を改善するために、さらなる構成において、検出器素子の複数のペアおよび/または複数の拡張されたペアのグループを定義することができる。この場合、各ペアまたは拡張されたペアの中心点の仮想接続線は、互いに実質的に平行に延びている。仮想接続線は、単なる例として、異なる検出器素子の中心点で開始してよいが、これらは全て、例えば0°に向かって延びる(
図5も参照)。ペアごとに取得された測定値が平均化された後、式[1]は、このように選択されたペアの測定値に再び適用することができる。これは、第2の方向、すなわち、例えば180°に向かう逆方向についても同様である。これらの場合、順方向は、共通の第1の方向と呼ぶこともでき、逆方向は、共通の第2の方向と呼ぶこともできる。
【0044】
特に、より詳細な分析および/または計算のために、ペアまたは拡張されたペアの測定値から生成された、第1の方向および/または第2の方向における相互相関の平均値を、それぞれの場合に形成することができる。
【0045】
本発明による顕微鏡によって実施可能な方法の利点は、複数のペアまたは複数の拡張されたペアを同時に分析することができるという状況にある。この場合、ペアまたは拡張されたペアのグループが有利に分析され、グループの各々の(拡張された)ペアの間の仮想接続線のそれぞれの共通方向が、互いに異なるように並べられる。
【0046】
本発明による顕微鏡の有利な構成では、例えば少なくとも2つの異なるグループの、例えば異なる向き(Ausrichtung)の複数のペア/複数の拡張されたペアにわたる複数の相互相関、またはその平均値を計算することが可能である(上記参照)。任意選択的に、このようにして得られた全ての曲線は、対応する方向および/または速度をパラメータとしてフィッティングされてよい(グローバルフィット)。
【0047】
それぞれのペア/拡張されたペアの検出器素子を選択するとき、選択されるペアを、その関連するペアに属さない少なくとも1つの検出器素子によってそれぞれ空間的に分離することにより、十分な拡散経路または流路をマッピングすることが可能である。したがって、拡張されたペアに属する検出器素子は、少なくとも検出器素子の幅に対応する距離だけ互いに離れるように選択されることができる。
【0048】
以下に説明されるように、共焦点体積の十分に類似した半径を有し、互いからの距離が同じである検出器素子が特に選択されるべきである。これは、エッジにおける検出器素子からの測定値が、別々に評価されるか、または破棄されることを意味する。
【0049】
上述したように、本発明の可能な構成では、第1のサブステップB1および/またはサブステップB2の相関は、相互相関である。この場合、2つのデータソースの時系列からの測定値、具体的には、関連するペアの関係するパートナーの測定値が相互に相関される。本明細書で説明されるように、サブステップB1およびB2の相互相関は、例えば、移動物体の方向および速度に関する情報を得るために使用することができる。
【0050】
本発明のより具体的な応用では、いわゆる非対称拡散の発生を調べることも可能である。例えば、細胞コンパートメントが観察される場合、(拡散)障壁が存在する場合、または結合プロセスが生じる場合に、そのような非対称性が生じる可能性があり、その効果の結果として、拡散は、同じ強さではなく、全ての方向において同じ確率で起こるわけではない。
【0051】
本発明によってこのような非対称拡散を調べるために、複数のペアの相関を計算することが可能である。このプロセスに特有なのは、すべてのペアが共通のパートナーとして少なくとも1つの検出器素子を有することである。共通のパートナーは、単一の検出器素子とすることができる。拡張されたペアに関して説明されるように、共通のパートナーが複数の組み合わされた(「ビニングされた」)検出器素子によって形成されることも可能である。評価される検出器素子の選択により、可能性のある非対称性の兆候が重畳されるのを避けるため、ペアのそれぞれの他のパートナーは、有利には、共通のパートナーから同一の距離に配置される。
【0052】
本発明の効率を向上させるために、共焦点体積を生成するために使用され、照明ビーム経路に沿って試料空間に向けられる照明放射および/または捕捉された検出放射の点拡がり関数(PSF)を、特に、ペアまたは拡張されたペアのパートナーとして後続の分析のために提供されるかまたはそれに適した検出器素子が測定値を取得するように整形することが可能である。
【0053】
例えば、照明ビーム経路の断面は、細長い楕円形の断面を有するように、それぞれのビーム経路に対して横方向に引き伸ばすことができる。このようなビーム整形は、適切なスリット絞りによって、または適切に制御された空間光変調器(SLM)の効果によって達成することができる。
【0054】
移動物体のさらなる特性は、本発明による顕微鏡によって決定されたデータに基づいて、特に相互相関の結果に基づいて、導出することができる。したがって、検出放射の起点において、媒体、例えば試料のマトリックスまたは溶媒の局所温度(マイクロ温度)を決定することが有利に可能である。
【0055】
さらに、検出放射の起点における媒体の粘度、より正確には、検出放射のそれぞれの成分の粘度を決定することが可能である。例えば、基礎となるのは、アインシュタイン・ストークス方程式として知られる方程式[3]である。
【0056】
【0057】
ここで、
Dは拡散係数であり、
kBはボルツマン定数であり、
Tは絶対温度であり、
ηは媒体の動的粘度であり、
rは、物体の流体力学的半径(ストークス半径)である。
【0058】
この関係の要素の複数の温度依存性は、式[2]から明らかである。粘度ηまたはその変化は、例えば、温度Tが一定で圧力変化が生じる場合に決定することができる。
本発明は、例示的な実施形態および図面に基づいて以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】
図1は、検出器アレイの第1の例の概略図である。
【
図2】
図2は、検出器アレイの第2の例の概略図である。
【
図3】
図3は、本発明による顕微鏡の例示的な実施形態の概略図である。
【
図4】
図4は、例として選択された検出器アレイおよび検出器素子のペアの概略図である。
【
図5】
図5は、検出器アレイおよび検出器素子の選択されたペアのグループの概略図である。
【
図6】
図6は、例として選択された検出器アレイおよび検出器素子の拡張されたペアの概略図である。
【
図7】
図7は、検出器アレイおよび検出器素子の選択されたペアの第1の構成の概略図であり、中央の検出器素子は、全てのペアについて共通のパートナーとして機能する。
【
図8】
図8は、検出器アレイおよび検出器素子の選択されたペアの第2の構成の概略図であり、中央の検出器素子は、全てのペアについて共通のパートナーとして機能する。
【
図9】
図9は、異なる濃度の試料の2つの相関関数の例示的なグラフである。
【
図10】
図10は、異なる拡散速度の試料の2つの相関関数の例示的なグラフである。
【
図11】
図11は、本発明による方法の構成のダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0060】
例示的な実施形態および図において、同一の技術的要素には同じ参照符号が付されている。
図1には、いわゆるAiryscan検出器の形態の検出器414が、その検出面または検出領域の平面図で示されている。この実施形態の検出器414は、32個の検出器素子1~32を備え、空間分解検出器414として使用することができる。検出器素子1~32の取得された輝度情報(測定値)は、個別に読み出すことができ、必要に応じて互いに組み合わせることもできる(「ビニング」)。検出放射のビームの広がり(
図3も参照)は、例えば、1.25エアリーユニット(AU)で検出面に入射するように選択することができる。例えば、検出器素子1~32の各々は、0.2AUの部分を検出することができる。参照符号「1」によって示される中央の検出器素子は、検出ビーム経路410の光軸(oA)上に位置する(
図3参照)。
【0061】
図2は、例えば、SPADアレイ、CMOSチップまたはsCMOSチップにおいて実現され得るような、検出器素子1~31の行列配置における空間分解検出器414のさらなる実施形態を示す。ここでもまた、検出器素子1~31からの輝度情報は、個別に、または所望に応じて組み合わせて読み出すことができる。
【0062】
図3は、本発明による顕微鏡Mを概略的に示す。これは、光源41、例えばレーザ光源を備え、光源41から励起放射(照明放射)のビームが放射され、照明ビーム経路42(励起ビーム経路42)に沿って案内される。励起放射の整形および/またはコリメーションのための任意選択的な光学素子は示されていない。照明ビーム経路42には、ビームの広がりの制御された変更のためのビーム整形光学ユニット44が配置され、このビーム整形光学ユニット44は、例示的な実施形態では、制御された方法で調節可能な絞りの形態である。別の実施形態では、タレットまたはスライドも設けることができ、それによって異なる絞りを照明ビーム経路42に導入することができる。代替的に、ビーム整形光学ユニット44は、制御された方法で調整可能である望遠鏡、ビームエキスパンダ、ズーム光学ユニット、音響光学素子、またはSLMであってもよい。
【0063】
ビーム整形光学ユニット44は、駆動部416によって照明ビーム経路42の外に移動させられて(破線で示す)、異なる開口数をもたらすことができ、そのそれぞれの角度範囲内で、励起放射を、撮像される試料48に向けることができる。ビーム整形光学ユニット44は、さらなる実施形態では、励起放射に対するその透過率に関して、特に、孔直径(ピンホール、虹彩絞り)またはスリットもしくは透明領域(調節可能なスリット開口、音響光学素子)の長さおよび幅または角度合わせおよび位相情報に関して調節可能であってよい。
【0064】
ビーム整形光学ユニット44を通過した後、励起放射は、励起放射に対して透過性を有し、励起放射を通過させるメインカラースプリッタ43に入射する。メインカラースプリッタ43の下流では、励起放射は、共通ビーム経路4210と呼ばれる顕微鏡Mのビーム経路の一部を通過し、それに沿って励起放射および検出放射(下記参照)が共に案内されるか、または共に案内されることができる。
【0065】
その後に配置されたスキャナ46によって、ミラー45によってその前に偏向された励起放射のビームは、制御可能に偏向され、対物レンズ47の入射瞳EPに向けられることができる。ミラー45は、コンパクトな設計を可能にし、励起ビーム経路42の偏向が必要とされない、または想定されない場合、デバイスのさらなる実施形態では省略されてもよい。
【0066】
ビーム整形光学ユニット44の作用によってその横方向の広がりが設定され、スキャナ46によって制御可能に偏向される励起放射は、対物レンズ47の作用によって、撮像される試料48が試料ステージ49上に存在し得る試料空間に集束される。共焦点検出と組み合わせることで、そのように集束されて放射された励起放射によって、共焦点励起体積がもたらされる。
【0067】
共焦点励起体積内の励起放射によって試料48内にもたらされる検出放射は、対物レンズ47によって捕捉され、励起ビーム経路42と一致する検出ビーム経路410(破線で示す)に沿ってメインカラースプリッタ43まで案内される。
【0068】
本発明によるデバイスのさらなる実施形態では、検出放射は、さらなる対物レンズ(図示せず)によって捕捉することができる。そのような場合、励起ビーム経路42および検出ビーム経路410は、互いから完全に分離され得るか、またはそれらは、例えば、さらなるカラースプリッタ(図示せず)によって再び組み合わされて、共通ビーム経路4210を形成する。
【0069】
図示された例示的な実施形態では、検出放射は、スキャナ46を通過する結果として静止ビームに変換され(「デスキャン(descannt)」)、メインカラースプリッタ43に到達する。これは、励起放射の波長とは異なる検出放射の波長に対して反射性を有している。メインカラースプリッタ43で反射された検出放射は、検出ビーム経路410内に任意選択的に設けられたズーム光学ユニット411に到達する。ズーム光学ユニットは、ズーム駆動部412によって調整可能である。さらなる実施形態では、メインカラースプリッタ43の透過率および反射率は、逆に実装されてもよく、その結果、励起放射が反射され、検出放射が通過することができる。したがって、ビーム経路42および410は、それに応じて設計されなければならない。
【0070】
ビーム整形光学ユニット44、スキャナ46、ズーム駆動部412、駆動部415および416、ならびに任意選択で光源41は、データおよび制御コマンドを交換するために、分析および制御ユニット413に適切に接続される。例えば、分析および制御ユニット413は、コンピュータまたは適切な制御回路であり、本発明による方法を実行するように構成されている。特に、それは、上述のペア、拡張されたペアおよび/またはグループからの画像データの相互相関を実行および評価するように構成され、任意選択的に、移動物体の拡散係数、流速および流れ方向、局所温度および/または局所粘度を決定するように構成されている。
【0071】
ズーム光学ユニット411は、検出放射のビームの広がりの制御された変更のための手段であり、捕捉された検出放射のビームの広がりを、中間像(「ピンホール面」)において検出ビーム経路410に同様に配置された空間分解検出器414の検出領域(検出面)のサイズに適合させるために使用することができる。その目的は、検出領域を可能な限り完全に照明すること、またはそれぞれの要件に応じて適合させることである。したがって、検出放射は、ズーム光学ユニット411によって検出器414に向けられ、ズーム駆動部412によってそのビームの広がりに関して適応される。
【0072】
任意選択的に、分析および制御ユニット413および検出器414は、例えば、分析および制御ユニット413が、検出器414から取得された輝度情報に基づいて、制御コマンドを生成し、および/またはこれらを検証することを可能にするように、相互接続され得る。例として、これらの制御コマンドは、光源41、手段44、スキャナ46、ズーム駆動部412、および/または試料ステージ49の任意選択の駆動部415を制御する働きをする。
【0073】
図4~
図6は、それぞれ、Airyscan検出器タイプの検出器414の検出器素子1~32に基づく技術的状況を示す。これは、
図2に示されるタイプの検出器414についても同様である。以下の明細書の関連する検出器素子の番号については、
図1を参照されたい。以下の
図4~
図6では、中央の検出器素子1は、分かりやすくするために、パターンによる塗りつぶしなしで示されている。
【0074】
図4は、(
図1に対して反時計回りに約30°回転された)検出器414の検出領域の平面図を再び示す。説明の目的のために、方向は、検出器素子1から進む方向に定義され、例として、0°と180°との間、および-60°と-120°との間の角度値によって示される。矢印は、例として選択された検出器素子の3つのペアを示すために使用され、各矢印の始点と終点とは、関連するペアの1つのパートナーを示す。矢印方向は、各ペアのパートナーによって取得された強度値(輝度値、測定値)に基づいて実行された合計6つの相互相関の順方向および逆方向を示す。異なるパターンの塗りつぶしは、中央の検出器素子1の周りに配置された3つのリングを強調している。
【0075】
図4に関連して例として示されるペアおよび方向のみが相互相関の決定に用いられる場合、他の検出器素子によって取得される測定値は考慮されないままであるので、方法の効率は低い。しかしながら、共焦点体積w0の半径が、中央の検出器素子1および検出器素子2~19の内側の2つのリングについてほぼ一定である状況を利用する場合、180°→0°の方向について
図5に例として示されるように、各方向について9ペアの検出器素子を選択および定義することが可能である。そこから得られた9つの曲線を平均し、式[1]を用いてフィッティングすることができる。複数の曲線の使用は、信号対雑音比を改善する。
【0076】
他の5つの方向(-120°→60°、-60°→120°、0°→180°、60°→-120°および120°→-60°、図示せず)についての相互相関も同様に計算することができる。検出器素子20~32からの画像データは、廃棄されるか、または計算によって個別に結合することもできる。
【0077】
別の方法構成では、例えばズーム光学ユニット411(
図3参照)の選択された結像比および結果として得られる個々のチャネル(検出器素子)の信号強度に応じて、検出器素子20~32または
図2による検出器素子19~31からの測定値を使用することもできる。
【0078】
本発明による方法の代替的な構成では、複数の検出器素子が組み合わされて拡張されたペアを形成する。
図6では、これは、拡張されたペアの一方のパートナーの要素としての検出器素子5、6、7、16、17、および18と、拡張されたペアの他方のパートナーの要素としての検出器素子2、3、4、10、11、および12との例として示されている。この例では、180°→0°の方向(共通の第1の方向、順方向)および0°→180°の方向(共通の第2の方向、逆方向)について相互相関を計算することができ、拡張されたペアの各パートナーの要素からの測定値は、予め平均化されている。拡張されたペアのそれぞれのパートナーの中心点は、検出器素子1~32のうちの1つの範囲よりも大きく互いに離隔されている。
【0079】
図7および
図8は、分析および制御ユニット413(図示せず)が、測定値の強度の非対称な分布の存在を検査し、特に、そこから非対称拡散を推定することができるように構成されている本発明の構成に関する。
【0080】
本発明の上述の構成とは対照的に、例示的な実施形態では、中央の検出器素子1および特定の検出器素子8~19のみが選択され、それぞれペアワイズ相互相関が計算される(「ペア相関(Paarkorrelation)」とも呼ばれ、それぞれ矢印およびハッチングによって強調されている)。この場合、中央の検出器素子1は、選択されたペアの各々に対して共通の検出器素子として使用される。検出器素子8~19のうち、検出器素子8、10、12、14、16、および18(内側の検出器素子、
図7)は、検出器素子9、11、13、15、17、および19(外側の検出器素子、
図8)よりも中央の検出器素子1にわずかに近い。中央の検出器素子1からの距離のこれらの小さな差でも、相関の結果に影響を及ぼし得るので、内側の検出器素子と外側の検出器素子とをこのように区別することが勧められる。
【0081】
個々の相互相関は、12個の方向(
図7および
図8)における物体の集中および拡散を記述し、中央の検出器素子1は、各場合において始点を形成する(矢印を参照)。測定値の差が12個の方向のうちの1つまたは複数で生じる場合、これらは、識別され、例えばユーザのためにグラフィカルに準備することができる。より明確な説明のために、得られた値は、表示される前に基準値に対して参照される(正規化される)ことができる。
【0082】
発生する拡散に関する差を確立することができるが、本発明のこの構成では、測定される物体の移動方向を決定することができない。
意味のある結果を得るために、中央の検出器素子1は、例えば障壁に向けられてはならず、その代わりに、例として、試料の区画のうちの1つ、例えば生体試料の細胞の内部に向けられなければならない。
【0083】
図9には、検出放射を放出する物体の異なる濃度の試料の2つの相関関数の例示的なグラフが示されている。遅延時間(測定期間)に沿って、検出放射の取得された強度の発生する振幅の相関は、それぞれの場合で減少している。このプロセスでは、個々の物体が、現在取得されている強度に対して既に有意な影響を有しているので、より低い濃度の試料の相関(破線)は、より高い濃度の試料の相関よりも速く減少する。
【0084】
例として、
図10は、異なる拡散速度の2つの試料の挙動を示す。経時的な(自己)相関は、速い拡散(より高い拡散速度)の場合に急速に減少するが、これは、より低い拡散速度ではよりゆっくりと起こる。
【0085】
図11は、本発明による方法の可能な構成を示すために用いられる。最初に、測定値が以下のステップで使用されることが意図される検出器素子の少なくとも1つのペアが選択され、定義される。これは、ペアのグループまたは拡張されたペアについても同様である。試料空間から到来する検出放射が捕捉され、選択されたペアの、結果として得られる測定値が読み取られて、それぞれ順方向および逆方向の対応する相互相関の計算にこれらを供給することができる。次に、相互相関の結果が分析される。
【0086】
相互相関の計算に続いて、または分析の結果に応答して、さらなるデータの取得および/または検出器素子の新しいペアの選択が、任意選択的に可能である。
本発明による方法の実際の実施は、メニューナビゲーション(「ウィザード(wizard)」)によって支援することができ、メニューナビゲーションは、各場合において、個々の方法ステップのための適切なオプションをユーザに提案する。
【0087】
メニューナビゲーションの使用は、いくつかの技術的要件がユーザによって指定されることを意味する。例えば、使用されるべき対物レンズ、サポートされるレーザライン、および正しいビーム経路(照明および/または検出)が指定される。追加的または代替的に、使用される色素または蛍光色素をユーザが指定することができる。適切なレーザライン、ビーム経路および/または制御パラメータは、メニューナビゲーションによって適宜提案または設定される。さらに、その後に良好な品質の測定値を得るために、したがって複数の相互相関を計算することを可能にするために、使用される検出器414の正確な位置合わせが必要である。
【0088】
さらなるステップでは、試料の参照画像を記録することができる。例えば、異なる波長(「トラック」)での試料の画像は、1つまたは複数の位置で記録されてよく、かつ表示されることができる。ユーザおよび/または適切なプログラミング(例えば、画像評価方法、人工知能の使用)は、表示されたデータに基づいて少なくとも1つの関心領域(ROI)を選択することができる。複数の波長を使用する利点は、実行される関心領域の選択のためのより高い情報密度にある。続いて、選択された位置のFCS測定が実行される。これは、1つの波長のみを用いて実施される。
【0089】
ユーザは、参照画像をマップとして使用することができ、そのマップ上で、例えば、1つのスポットの位置を最大10個まで定義することができる(ステップ3)。対応するシンボル(例えば、「スポット選択アイコン」)は、選択されたスポット位置と、関連する検出器素子、特に検出器素子1~19を有する内側リングの画像座標との間のリンクされた関係を再現する。取得された測定値の量および/または質は、任意選択的にスポットごとに、例えば異なるカラーコードで表示されるカウントデータによって、グラフィカルに表示することができる。これにより、ユーザは、任意選択的に第2のトラック(上記参照)を用いて、必要に応じて位置を異なるように選択することができる。CMP(counts per molecule,分子当たりのカウント)を最適化するために、検出放射を励起するために使用されるレーザの強度、利得(例えば、PMTの高電圧)、および観察されるz位置を更新することが可能である。
【0090】
メニューナビゲーションの第4のステップは、参照画像が存在する場合にのみ利用可能である。測定値は、各ステップにおいてメタファイルに格納される。メニューナビゲーションがもう一度開始された場合、すべての値を取り出すことができる。
【符号の説明】
【0091】
1~32…検出器素子
41…光源
42…照明ビーム経路、励起ビーム経路
43…メインカラースプリッタ
44…ビーム整形光学ユニット
45…ミラー
46…スキャナ
47…対物レンズ
48…試料
49…試料ステージ
410…検出ビーム経路
411…ズーム光学ユニット
412…ズーム駆動部
413…分析および制御ユニット
414…検出器
415…駆動部
416…駆動部
4210…共通ビーム経路
【手続補正書】
【提出日】2024-03-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の移動物体の特性を決定するための顕微鏡(M)であって、
生体試料を配置するための試料空間と、
前記試料内に生成された共焦点体積からの検出放射を捕捉するための対物レンズ(47)と、
検出ビーム経路(410)であって、該該検出ビーム経路(410)に沿って、捕捉された前記検出放射が複数の検出器素子(1~32)を有する検出器アレイの形態の検出器(414)に導かれ、前記検出器(414)は、前記対物レンズ(47)の後側像平面と共役な平面に配置され、前記検出器素子(1~32)からの測定値は、各々個別に読み出されて分析されることができる、検出ビーム経路(410)と、
励起放射を提供するための光源(41)であって、照明ビーム経路(42)内に、前記励起放射を整形して前記試料空間に共焦点体積を形成するためのビーム整形光学ユニット(44)が存在し、および/または検出ビーム経路(410)内に、前記検出放射を整形するためのビーム整形光学ユニット(411)が存在する、光源(41)と
を備える、顕微鏡(M)。
【請求項2】
前記ビーム整形光学ユニット(44)は、スリット絞り、ビームエキスパンダ、またはピンホールを含む、請求項1に記載の顕微鏡(M)。
【請求項3】
前記ビーム整形光学ユニット(44)は、空間光変調器を含む、請求項1または2に記載の顕微鏡(M)。
【請求項4】
分析および制御ユニット(413)を備え、
前記分析および制御ユニット(413)は、ステップAにおいて、前記検出器(414)を使用して、測定期間にわたって複数回、前記試料内に生成された共焦点体積からの検出放射を捕捉し、各場合に、前記検出器素子(1~32)からの前記測定値を個々に分析することが可能であり、前記検出器素子(1~32)のうちの少なくとも1つのペアを選択するように構成され、ペアの各パートナーは、少なくとも1つの検出器素子(1~32)によって形成され、
前記分析および制御ユニット(413)は、ステップBにおいて、少なくとも1つのペアの前記検出器素子(1~32)から取得された前記測定値のそれらの間の相関を生成するように構成され、
前記分析および制御ユニット(413)は、第1のサブステップB1において、前記選択された検出器素子(1~32)のうちの1つから第1の方向に開始して、さらに選択された検出器素子(1~32)までの相関を計算するように構成され、
任意選択的に、
前記分析および制御ユニット(413)は、ステップBの第2のサブステップB2において、前記さらに選択された検出器素子(1~32)から第2の方向(逆方向)に開始して、第1の選択された検出器素子(1~32)までの相関をさらに計算するように構成され、
前記分析および制御ユニット(413)は、ステップCにおいて、選択された検出器素子(1~32)からの前記測定値の強度の変化の発生に関して前記相関を分析するように構成されている、請求項1または2に記載の顕微鏡(M)。
【請求項5】
前記第1のサブステップB1および/またはサブステップB2の前記相関は、相互相関である、請求項4に記載の顕微鏡(M)。
【請求項6】
複数のペアの相関が計算され、全てのペアは、共通のパートナーとして少なくとも1つの検出器素子(1~32)を有している、請求項5に記載の顕微鏡(M)。
【請求項7】
前記ペアのそれぞれのさらなるパートナーは、前記共通のパートナーから同一の距離に配置されている、請求項6に記載の顕微鏡(M)。
【請求項8】
複数の検出器素子(1~32)は、組み合わせられて、拡張されたペアのパートナーのそれぞれ1つを形成する、請求項1または2に記載の顕微鏡(M)。
【請求項9】
検出器素子(1~32)の複数のペアまたは複数の拡張されたペアのグループが定義され、複数のペアまたは複数の拡張されたペアの中心点の仮想接続線は、互いに平行に延びている、請求項1または2に記載の顕微鏡(M)。
【請求項10】
前記複数のペアまたは前記複数の拡張されたペアの測定値から生成される第1の方向および/または第2の方向における相互相関の平均値が形成される、請求項9に記載の顕微鏡(M)。
【請求項11】
検出器素子(1~32)の複数のグループが決定され、前記複数のグループの間のそれぞれの仮想接続線は、互いに異なる向きである、請求項9に記載の顕微鏡(M)。
【請求項12】
少なくとも2つの異なるグループの複数のペアまたは複数の拡張されたペアの測定値の相互相関が形成される、請求項9に記載の顕微鏡(M)。
【請求項13】
物体の速度および/または移動方向は、特に、異なる向きの複数のペアまたは複数の拡張されたペアにわたって複数の相互相関を計算し、そのようにして得られたすべての曲線を、方向および/または速度をパラメータとしてフィッティングすることによって、前記相互相関に基づいて決定される、請求項12に記載の顕微鏡(M)。
【請求項14】
ペアのパートナーは、それぞれ、関連するペアに属さない少なくとも1つの検出器素子(1~32)によって空間的に分離されている、請求項8に記載の顕微鏡(M)。
【外国語明細書】