(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119780
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】吸引器具
(51)【国際特許分類】
A61M 27/00 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
A61M27/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024025557
(22)【出願日】2024-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2023025812
(32)【優先日】2023-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開年月日:2023年4月20日、公開ウェブサイトのアドレス:https://seeds.tech-manage.co.jp/blogs/post/WL-04549、公開者:高柳亮(テックマネッジ株式会社内) [刊行物等]公開年月日:発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書 別紙1参照、公開場所:発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書 別紙1参照、公開者:高柳亮(テックマネッジ株式会社内)
(71)【出願人】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100195062
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 涼子
(72)【発明者】
【氏名】牛込 創
(72)【発明者】
【氏名】高橋 広城
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】柳田 剛
(72)【発明者】
【氏名】本田 江美
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 豪
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA40
4C267CC07
(57)【要約】
【課題】鏡視下手術の吸引操作に用いることのできる新たな技術を提供する。
【解決手段】鏡視下手術に用いられる吸引器具は、可撓性を有し一端が吸引装置と接続されるチューブと、チューブの他端においてチューブの孔を被覆する多孔質部材と、を備え、多孔質部材は液体を吸収可能、且つ、液体を透過可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡視下手術に用いられる吸引器具であって、
可撓性を有し、一端が吸引装置と接続されるチューブと、
前記チューブの他端において前記チューブの孔を被覆する多孔質部材と、
を備え、
前記多孔質部材は、液体を吸収可能、且つ、液体を透過可能である、
吸引器具。
【請求項2】
請求項1に記載の吸引器具において、
前記多孔質部材は、ガーゼと、スポンジと、からなる群より選ばれる少なくとも一種である、
吸引器具。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の吸引器具において、
前記多孔質部材は、前記チューブの他端と接着されている、
吸引器具。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の吸引器具において、
前記多孔質部材は、糸によって、前記チューブの他端と縫い合わされている、
吸引器具。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の吸引器具において、
前記多孔質部材は、5mm以上10mm以下の径を有する球形である、
吸引器具。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の吸引器具において、
前記チューブの外径は、3mm以上10mm以下である、
吸引器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸引器具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、手術支援ロボットを用いて遠隔操作によって鏡視下手術が行われることがある。手術時には、血液や組織液等の体液や洗浄液等の液体を吸引しながら手術が行われることが望まれる。従来法としての医師の手によって直接的に行われる手術と同様に、ロボット手術の場合においても、助手が吸引管等を用いて手動で吸引操作を行うことがある(例えば、非特許文献1)。また、例えば、非特許文献2には、金属製の吸引嘴管が装着された吸引カテーテルが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Raheem S et al., Variability and interpretation of communication taxonomy during robot-assisted surgery: do we all speak the same language? BJU Int. 2018 Jul;122(1):99-105
【非特許文献2】Tsuruta K et al., Easy Suction Technique During Robotic-Assisted Thoracoscopic Lobectomy. Ann Thorac Surg., 2021 Nov;112(5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
助手によって手動で吸引操作を行う場合には、骨や臓器等との干渉が起こりやすく、所望の部位に吸引管を誘導して吸引することが困難であった。また、非特許文献2に記載の技術によれば、金属製の吸引嘴管を用いるため、組織を傷つけないように注意を要する。このような課題は、ロボット支援下手術に限らず、全ての鏡視下手術において共通する課題であった。このため、鏡視下手術の吸引操作に用いることのできる新たな技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、鏡視下手術に用いられる吸引器具が提供される。この吸引器具は、可撓性を有し、一端が吸引装置と接続されるチューブと、前記チューブの他端において前記チューブの孔を被覆する多孔質部材と、を備え、前記多孔質部材は、液体を吸収可能、且つ、液体を透過可能である。この形態の吸引器具によれば、液体を吸収および透過可能な多孔質部材によってチューブの孔が被覆されているので、鏡視下手術の吸引操作に用いることができる。
【0007】
(2)上記(1)に記載の吸引器具において、前記多孔質部材は、ガーゼと、スポンジと、からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。この形態の吸引器具によれば、多孔質部材を介して液体を吸引する構成を実現できる。
【0008】
(3)上記(1)または上記(2)に記載の吸引器具において、前記多孔質部材は、前記チューブの他端と接着されていてもよい。この形態の吸引器具によれば、多孔質部材とチューブとの結合強度が低下することを抑制できる。
【0009】
(4)上記(1)または上記(2)に記載の吸引器具において、前記多孔質部材は、糸によって、前記チューブの他端と縫い合わされていてもよい。この形態の吸引器具によれば、多孔質部材とチューブとが外れてしまうことを抑制できる。
【0010】
(5)上記(1)から上記(4)までのいずれか一項に記載の吸引器具において、前記多孔質部材は、5mm以上10mm以下の径を有する球形であってもよい。この形態の吸引器具によれば、吸引圧が低下することを抑制しつつ、吸引部分が過度に大きくなることを抑制できる。
【0011】
(6)上記(1)から上記(5)までのいずれか一項に記載の吸引器具において、前記チューブの外径は、3mm以上10mm以下であってもよい。この形態の吸引器具によれば、吸引圧の低下を抑制しつつ、大きな手術ポートを要することを抑制できる。
【0012】
なお、本開示は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、鏡視下手術に用いられる吸引器具の製造方法や、吸引器具の鏡視下手術での利用等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】吸引器具の製造方法の一例を示すための説明図。
【
図4】実施例としての吸引器具の使用例を示す説明図。
【
図5】実施例における吸引器具を用いた吸引および展開の様子を示す説明図。
【
図6】実施例に用いた吸引器具の概略構成を模式的に示す説明図。
【
図7】チューブと多孔質部材との接着位置を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本開示の一実施形態としての吸引器具10の概略構成を模式的に示す説明図である。吸引器具10は、鏡視下手術に用いられる。鏡視下手術とは、胸部や腹部等の手術において、ポート内に挿入された内視鏡によって映し出された映像をモニターで見ながら行う手術である。適用される鏡視下手術としては、特に限定されないが、例えば、腹腔鏡手術、胸腔鏡手術、直腸の手術、肝臓の手術、食道の手術、胸部手術、婦人科手術、泌尿器科の骨盤手術等が挙げられる。鏡視下手術は、ダ・ヴィンチ(da Vinci)(登録商標)サージカルシステム(Intuitive Surgical社製)等の手術支援ロボットを用いて行われてもよい。
【0015】
吸引器具10は、チューブ20と、多孔質部材30とを備える。チューブ20は、可撓性を有する。チューブ20には、流体の流路となる孔22が形成されている。チューブ20の一端24は、図示しない吸引装置と接続される。本実施形態において、チューブ20の一端24には、図示しない吸引装置の吸引管と連結するためのコネクタ28が設けられているが、コネクタ28は省略されていてもよい。多孔質部材30は、吸引器具10の先端部分に設けられている。多孔質部材30は、チューブ20の他端26においてチューブ20の孔22を被覆する。多孔質部材30は、液体を吸収可能、且つ、液体を透過可能に構成されている。
【0016】
本実施形態において、チューブ20は、円環状の断面視形状を有する部材によって形成されている。より具体的には、本実施形態のチューブ20は、ポリ塩化ビニル製のカテーテルによって形成されている。なお、チューブ20は、ポリ塩化ビニルに限らず、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコン、ナイロン等、可撓性を有する任意の材料によって形成されていてもよい。また、チューブ20は、カテーテルに限らず、可撓性を有するとともに流体の流路となる孔22が形成された任意の筒状部材によって形成されていてもよい。また、チューブ20の断面視形状は、円環状に限らず、楕円環状や多角形環状等であってもよい。チューブ20の外径は、特に限定されず、例えば、手術のポートの大きさに応じて設定されてもよく、手術の種類に応じて設定されてもよく、多孔質部材30の大きさに応じて設定されてもよい。チューブ20の外径は、吸引圧が低下することを抑制する観点から、2mm以上であることが好ましく、大きな手術ポートを要することを抑制する観点から、15mm以下であることが好ましい。チューブ20の外径は、2mm以上15mm以下であることが好ましく、3mm以上10mm以下であることがより好ましく、4mm以上8mm以下であることがさらに好ましい。チューブ20の内径、すなわち孔22の径は、チューブ20の外径に応じて設定されてもよい。なお、本開示における「チューブ20の外径」とは、チューブ20の長手方向に垂直な断面におけるチューブ20の最大寸法を意味する。また、「チューブ20の径方向」とは、チューブ20の長手方向に垂直な断面において孔22の略中心を通る方向を意味する。
【0017】
本実施形態において、多孔質部材30は、球状に巻き込まれたガーゼによって形成されている。より具体的には、球形のツッペルガーゼによって形成されている。多孔質部材30は、ガーゼに限らず、液体を吸収可能、且つ、液体を透過可能な任意の部材であってもよい。例えば、ガーゼと、スポンジと、からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。多孔質部材30は、例えばガーゼとスポンジとが組み合わされて形成されていてもよい。また、多孔質部材30の構成材料は、液体を吸収可能、且つ、液体を透過可能である限り特に限定されず、例えば、綿、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、レーヨン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、セルロース等の軟質材料であってもよい。なお、本実施形態の多孔質部材30には、X線造影糸が含まれているが、X線造影糸が省略されていてもよい。また、多孔質部材30は、球形に限らず、円柱形状や円錐形状、立方体形状等、他の任意の形状を有していてもよいが、球形であることが好ましい。なお、本開示における「球形」には、楕円球や、多面体形状等、略球状の形体も含まれる。
【0018】
多孔質部材30の大きさは、特に限定されず、例えば、手術のポートの大きさに応じて設定されてもよく、手術の種類に応じて設定されてもよく、チューブ20の外径や内径に応じて設定されてもよい。多孔質部材30の大きさは、チューブ20の孔22を被覆して吸引圧の低下を抑制する観点から、チューブ20の径方向に沿った最大寸法が4mm以上であることが好ましく、吸引器具10の先端部分が過度に大きくなることを抑制する観点から、チューブ20の径方向に沿った最大寸法が15mm以下であることが好ましい。多孔質部材30は、4mm以上15mm以下の径を有する球形であることが好ましく、5mm以上10mm以下の径を有する球形であることがより好ましく、6mm以上8mm以下の径を有する球形であることがさらに好ましい。
【0019】
多孔質部材30の大きさ、より具体的にはチューブ20の径方向に沿った最大寸法は、チューブ20の孔22を被覆して吸引圧の低下を抑制する観点から、チューブ20の外径よりも大きいことが好ましい。多孔質部材30の上記最大寸法は、チューブ20の外径よりも、1mm以上5mm以下の範囲内において大きいことが好ましく、2mm以上4mm以下の範囲内において大きいことがより好ましい。なお、多孔質部材30の一部は、チューブ20の他端26において孔22の内部に入り込んでいてもよい。
【0020】
図2は、吸引器具10の製造方法の一例を示すための説明図である。本実施形態の多孔質部材30は、糸40によって、チューブ20の他端26と縫い合わされている。
図2では、チューブ20と多孔質部材30とを一体化させて吸引器具10を製造する手順を写真により示している。まず、(a)に示すように、チューブ20の材料を用意する。チューブ20の材料として側孔が形成されている材料を用いる場合には、吸引力の低下を抑制するために、(b)に示すように側孔形成部分を切断する。なお、側孔形成部分を切断する工程は、省略されていてもよい。次に、(c)に示すように、チューブ20の他端26および多孔質部材30に糸40を通し、縫い合わせる。縫い合わせる工程では、多孔質部材30によってチューブ20の孔22が塞がれるように縫い合わせる。縫い合わせる工程では、チューブ20と多孔質部材30とを強固に結合する観点から、チューブ20の他端26において、チューブ20の径方向に糸40を貫通させることが好ましい。最後に、(d)に示すように、糸40を結ぶ。これにより、吸引器具10が完成する。なお、多孔質部材30とチューブ20とは、糸40によって縫い合わされることに限らず、例えば融着や圧着等の任意の方法によって連結されていてもよい。吸引器具10は、使用前または販売前等に、ガス滅菌やガンマ線滅菌、電子線滅菌、加熱滅菌等の滅菌手段によって滅菌される。
【0021】
多孔質部材30は、チューブ20の他端26と接着されていることが好ましい。接着によって多孔質部材30とチューブ20とが連結されていることにより、多孔質部材30とチューブ20との結合強度が低下することを抑制できる。また、接着によって多孔質部材30とチューブ20とが連結されていることにより、吸引器具10の製造上の品質がばらつくことを抑制できる。多孔質部材30とチューブ20との接着に用いられる接着剤としては、特に限定されないが、人体への安全性の観点から、光硬化型接着剤であることが好ましい。光硬化型接着剤としては、特に限定されず、可視光硬化型接着剤や紫外線硬化型接着剤等が挙げられるが、人体への安全性、接着性、浸透性の観点から、紫外線硬化型接着剤であることがより好ましい。紫外線硬化型接着剤としては、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂系の紫外線硬化型接着剤、エポキシ樹脂系の紫外線硬化型接着剤等が挙げられる。接着によって多孔質部材30とチューブ20とが連結される態様においては、結合強度が低下することを抑制する観点から、チューブ20の他端26の外周面に接着剤が塗布されることが好ましい。チューブ20の他端26の外周面に接着剤が塗布されることによって、接着剤がチューブ20の孔22に入り込むことを抑制でき、孔22が閉塞されることを抑制できる。なお、チューブ20の他端26の外周面に加えて、または、外周面に代えて、チューブ20の他端26の端面に接着剤が塗布されてもよい。
【0022】
鏡視下手術において、吸引器具10は、チューブ20の他端26側がマルチポート等のポート内に挿入される。手術時に滲出した血液や組織液等の体液や、手術に用いられる洗浄液等の液体は、多孔質部材30およびチューブ20を介して吸引される。吸引器具10は、ポート内に静置されて用いられてもよく、ポート内において、鉗子で多孔質部材30を把持して移動させることによって、所望の吸引箇所で吸引が行われてもよい。また、鉗子で多孔質部材30を把持したまま多孔質部材30を動かすことによって、組織の剥離展開が行われてもよい。なお、吸引時には、ポート外において、コッヘル鉗子等を用いてチューブ20の一部を潰すことにより、吸引圧が調節されてもよい。
【0023】
以上説明した本開示の吸引器具10によれば、液体を吸収可能、且つ、液体を透過可能な多孔質部材30によってチューブ20の孔22が被覆されているので、鏡視下手術の吸引操作に用いることができる。本開示の吸引器具10は、ガーゼ等の多孔質部材30を介して液体が吸引されるので、本願とは異なり金属製の吸引嘴管を備える構成と比較して、組織を傷つけてしまうことを抑制できる。また、吸引の際に目詰まりすることを抑制でき、吸引効率が低下することを抑制できる。また、本願とは異なり多孔質部材30が省略された構成と比較して、吸引の際に組織が吸着することを抑制でき、吸引効率が低下することを抑制できる。
【0024】
また、本開示の吸引器具10によれば、ポート内において多孔質部材30を鉗子で掴むことによって、吸引器具10の先端部分を吸引箇所へと誘導することができる。このため、本願とは異なり金属製の吸引嘴管を備える構成と比較して、鉗子で容易に掴むことができるので、吸引箇所に容易に誘導することができる。また、本願とは異なりポート外から手動で吸引操作を行う場合と比較して、吸引操作を行うための器具が骨や臓器等と干渉することを抑制できる。この結果として、吸引効率の低下を抑制できるので、手術の効率の低下を抑制できる。
【0025】
また、本開示の吸引器具10によれば、本願とは異なり金属製の吸引嘴管を備える構成と比較して、組織を傷つけてしまうことを抑制できる。このため、ポート内において多孔質部材30を鉗子で把持して動かすことができるため、所望の位置において組織を押さえることができる。また、ポート内において多孔質部材30を鉗子で把持して動かすことにより、多孔質部材30の摩擦係数を利用して、組織の剥離展開を行うことができる。したがって、本開示の吸引器具10は、吸引に加えて、組織を押さえることや剥離展開のための器具として利用することができる。すなわち、本開示の鏡視下手術用吸引器具は、ガーゼと、スポンジと、からなる群より選ばれる少なくとも一種によって形成された多孔質部材を備えることにより、組織を傷つけずに組織の剥離展開が可能である。この結果として、例えばリトラクター等の吸引以外を目的とする器具と、吸引を目的とする器具とを交換する作業を省略でき、また、吸引動作と他の動作とを切り替える手間を省略できる。また、吸引器具10によって組織の剥離展開を行うことができるので、術野を容易に確保できる。
【0026】
また、本開示の吸引器具10によれば、糸40によって多孔質部材30とチューブ20の他端26とが縫い合わされているので、多孔質部材30とチューブ20とが外れてしまうことを抑制できる。また、本開示の吸引器具10によれば、チューブ20が可撓性を有するため、吸引箇所に誘導する際に組織を傷つけてしまうことを抑制でき、また、他の器具と干渉することを抑制できる。また、本開示の吸引器具10によれば、カテーテル挿入用のポート等を介して使用できるため、特別なアシスタントポートを要することを抑制できる。
【0027】
本開示の吸引器具10は、ロボット支援下手術において特に好適する。より具体的には、ロボット支援下手術において、ロボット鉗子で多孔質部材30を把持して吸引および展開を行うことができるので、手術の迅速性が低下することを抑制できる。例えば、手術ロボットの操作部を操作する医師であるコンソールサージョン自身が、出血や浸出液等を容易に吸引できるので、術野を容易に確保することができる。また、例えば、吸引のために、本願とは異なり手術ロボットのインスツルメントとして専用の吸引鉗子を用いる構成と比較して、施術用のチャネルが減ることを抑制できるので、手術効率の低下を抑制できる。また、助手の手によってポートの外側から手動で吸引操作を行う場合と比較して、吸引のための器具と、ロボット鉗子やアームとの干渉を抑制でき、また、吸引箇所へと容易に誘導できる。
【実施例0028】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
図3は、実施例に用いた吸引器具を示す説明図である。チューブとして、16Fr、長さ56cmの吸引カテーテル(ニプロ株式会社製)を用いた。多孔質部材として、X線で識別可能なガーゼボール(オオサキツッペル・Xベル型 S、オオサキメディカル株式会社製)を用いた。吸引カテーテルの先端に形成された側孔を予め切断し、吸引カテーテルの先端に、3-0ナイロン糸を用いてガーゼボールを縫い付けた。吸引圧を調整するために、コッヘル鉗子を準備した。
【0030】
図4は、実施例としての吸引器具の使用例を示す説明図である。da Vinci Xi サージカルシステム(Intuitive Surgical社製、「da Vinci」は登録商標)を用いてロボット直腸切除術を行なった。全身麻酔導入後、臍の正中線を小切開し、そこに8mmカメラポートと12mmポートを備えたマルチチャンネルポート装置(EZ Access/Lap protector、株式会社八光製、「EZ Access」は登録商標)を設置した。左上腹部にダヴィンチポート1個、右下腹部にダヴィンチポート2個、右上腹部に5mmの助手用ポートを挿入し、腹腔内操作を行った。骨盤内の吸引が必要な場合は、吸引器具をマルチチャンネルポート装置の12mmポートから骨盤内に入れ、吸引装置に接続した。助手がコッヘル鉗子を用いて吸引チューブを部分的に塞ぎ、吸引圧を調整した。
【0031】
図5は、実施例における吸引器具を用いた吸引および展開の様子を示す説明図である。
図5に示される(a)~(c)の画像では、それぞれ紙面左側にロボット鉗子の先端部およびロボット鉗子に把持された多孔質部材が示されている。
図5の(a)および(b)に示すように、コンソールサージョンの操作により、吸引器具の多孔質部材を把持して移動させ、吸引することが可能であった。吸引器具は、狭い骨盤腔内において、周囲の組織を吸着することなく、骨盤底部に溜まった滲出液や出血を吸引することができた。また、
図5の(c)に示すように、コンソールサージョンの操作によって、吸引器具の多孔質部材を把持した状態で組織の剥離展開を行うことができ、術野を広げることができた。この結果として、狭い骨盤腔内で良好な視野を確保しながら手術を継続することができた。
【0032】
<多孔質部材の径に応じた剥離展開性の評価>
図6は、実施例に用いた吸引器具の概略構成を模式的に示す説明図である。
図7は、チューブと多孔質部材との接着位置を示す説明図である。チューブとして、16Fr.(外径約5.3mm)、長さ56cmのポリ塩化ビニル製チューブを用いた。多孔質部材として、以下の表1に示す径を有する球形のツッペルガーゼ(X線入りツッペルB S、長谷川綿行株式会社製)を用いた。UV接着剤(ThreeBond 3094、スリーボンド社製)を用いて、チューブの先端にツッペルガーゼを接着した。より具体的には、UV接着剤を、チューブの先端外周面に塗布機で塗布し、延ばした。その後、
図7に示されるように、ツッペルガーゼの結びの部分をチューブの孔の先端と対向させ、チューブ先端を包み込むようにツッペルガーゼを被せて、UV照射することによって接着を行なった。接着の状態に応じて、UV接着剤を追加塗布して接着した。上述の実施例と同様の方法によって、12mmのポートから吸引器具を挿入した。先端部の幅が5mmであるコッヘル鉗子によって多孔質部材を把持し、10箇所について、吸引および剥離展開を行なった。剥離展開性について、以下の評価基準に従って評価した。なお、評価Cも、実用可能なレベルである。結果を表1に示す。
A:10箇所全てにおいて、剥離展開できた。
B:9箇所において、剥離展開できた。
C:8箇所において、剥離展開できた。
D:剥離展開できたのは、7箇所以下だった。
【0033】
【0034】
表1に示す結果によれば、多孔質部材の径が4mm以上であることにより、剥離展開性に優れ、多孔質部材の径が5mm以上であることにより、剥離展開性にさらに優れることがわかった。
【0035】
<チューブの外径に応じた吸引性の評価>
【0036】
多孔質部材として、10mmの径を有する球形のツッペルガーゼ(X線入りツッペルB S、長谷川綿行株式会社製)を用いた。チューブとして、以下の表2に示す外径を有する、長さ56cmのポリ塩化ビニル製チューブを用いた。上記実施例と同様の接着方法によって、UV接着剤(ThreeBond 3094、スリーボンド社製)を用いて、チューブの先端にツッペルガーゼを接着した。鏡視下手術に用いられる吸引装置に吸引器具を接続し、手術時の吸引力の下限値を41.9kPaに設定した。先端部の幅が5mmであるコッヘル鉗子によって多孔質部材を把持し、体液および血液に模した液体の吸引を10回行なった。吸引性について、以下の評価基準に従って評価した。なお、評価Cも、実用可能なレベルである。結果を表2に示す。
A:10回全てにおいて、滲出液や出血を95%以上吸引できた。
B:8回以上10回未満、滲出液や出血を95%以上吸引できた。
C:8回以上10回未満、滲出液や出血を80%以上95%未満吸引できた。
D:滲出液や出血を80%以上吸引できたのは、7回以下だった。
【0037】
【0038】
表2に示す結果によれば、チューブの外径が2mm以上であることにより、吸引性に優れ、チューブの外径が3mm以上であることにより、吸引性にさらに優れることがわかった。
【0039】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。