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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119802
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】樹皮からの有価成分の抽出
(51)【国際特許分類】
   C07G 99/00 20090101AFI20240827BHJP
   C08H 8/00 20100101ALI20240827BHJP
   C08H 7/00 20110101ALI20240827BHJP
   C07G 1/00 20110101ALI20240827BHJP
【FI】
C07G99/00 A
C08H8/00
C08H7/00
C07G1/00
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024075930
(22)【出願日】2024-05-08
(62)【分割の表示】P 2021522024の分割
【原出願日】2019-10-23
(31)【優先権主張番号】20185891
(32)【優先日】2018-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(71)【出願人】
【識別番号】512068592
【氏名又は名称】テクノロギアン トゥトキムスケスクス ヴェーテーテー オイ
【氏名又は名称原語表記】TEKNOLOGIAN TUTKIMUSKESKUS VTT OY
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100167623
【弁理士】
【氏名又は名称】塚中 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】ターヤ タミネン
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ニエメラ
(72)【発明者】
【氏名】スティナ グラングヴィスト
(72)【発明者】
【氏名】サミ アラクルッチ
(72)【発明者】
【氏名】ミイカ ルースカネン
(72)【発明者】
【氏名】アンナ カリオラ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】タンニンに富む樹皮原料からタンニン及びリグニン等の有価成分を抽出するプロセスを提供する。
【解決手段】アルカリ蒸解工程を行った後に酸沈殿を行い、残った樹皮パルプから有価成分を分離する、プロセスを提供する。さらに、化学パルプ化プラントの樹皮の副流に対する、前記プロセスの使用であって、本プロセスの抽出後に残っている液を、木材パルプ化プロセスの流れ、典型的には黒液の流れに戻すと同時に、使用済みパルプを、更なる処理、例えば、漂白して、溶解パルプを得ることができる、使用を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニンに富む樹皮原料から有価成分を抽出するプロセスであって、
アルカリ蒸解工程を行った後に酸沈殿を行い、残った樹皮パルプから前記有価成分を分
離することを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
前記樹皮原料を、針葉樹種の樹皮若しくは丸太から、又はオーク、アカシア、ヤナギ、
クリ若しくはユーカリの樹皮から、好ましくは針葉樹の樹皮から選択し、好ましくは前記
樹皮原料が粉砕された樹皮チップの形態であることを特徴とする、請求項1に記載のプロ
セス。
【請求項3】
前記樹皮原料を、針葉樹種のマツ及びトウヒの樹皮から選択することを特徴とする、請
求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
水酸化ナトリウム(NaOH)と硫化ナトリウム(NaS)とを含む白液、及び典型
的なアルカリ蒸解条件を用いて、前記原料を蒸解することにより黒液を得ることを特徴と
する、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記アルカリ蒸解段階から得られた黒液を、前記残った樹皮パルプから分離することを
特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記蒸解段階の条件として、14~20%の有効アルカリ(EA)、150~178℃
、及び60~180分の蒸解時間を適用することを特徴とする、請求項1~5のいずれか
一項に記載のプロセス。
【請求項7】
16~18%の有効アルカリ含有量を有する白液を適用することを特徴とする、請求項
6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記蒸解段階で160~170℃の温度を適用することを特徴とする、請求項6又は7
に記載のプロセス。
【請求項9】
前記蒸解段階での前記蒸解条件を、2時間以上、好ましくは2~3時間維持することを
特徴とする、請求項6~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記アルカリ蒸解段階から得られた黒液を、硫酸(HSO)を使用して、60~9
0℃の温度、好ましくは70~80℃の温度で、pH2~3に酸性化することにより、前
記酸沈殿を行うことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記酸沈殿の生成物を、好ましくは濾過によって、タンニン及びリグニン等のポリフェ
ノールを含む固体画分と、蒸解化学物質及びいくつかの分解生成物を含む液体画分とに分
離することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
アルカリ蒸解の前に、前記樹皮に対して前処理を行い、ケイ素及び灰分を除去するか、
或いは、ケイ素及び灰分の含有量を少なくとも減少させ、
前記前処理が、
任意選択的に、前記原料を粉砕して、5mm未満の粒径の有する材料を得る工程と、
30~50℃の温度で、好ましくは1%の濃度を有する硝酸で洗浄する等の、強鉱酸
、弱酸、又はキレート剤で洗浄する工程と、
前記蒸解段階用の固体を分離して回収する工程と、
を含むことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記樹皮原料から前記有価成分の第1の部分を分離するために、アルカリ蒸解前に、前
記原料を水溶液に加え、得られた混合物を70~110℃で1~5時間加熱することによ
り、熱水抽出(HWE)を行うことを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載
のプロセス。
【請求項14】
得られた熱水抽出物を、膜分離によって、主としてポリフェノールを含む有機画分と、
無機画分とに分離することを特徴とする、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
黒液の酸沈殿からのBLタンニンを、典型的にはヒドロキシメチル化を用いて、更に処
理して、フェノール樹脂を得るか、或いは、黒液の酸沈殿からのBLタンニンを、酸化に
よって更に処理し、可溶性タンニンを得ることを特徴とする、請求項1~14のいずれか
一項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記酸沈殿後に残っている樹皮パルプを、酵素加水分解によって更に処理し、グルコー
ル加水分解物を得るか、或いは、前記酸沈殿後に残っている樹皮パルプを、漂白によって
更に処理し、溶解パルプを得ることを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載
のプロセス。
【請求項17】
化学パルプ化プラントの樹皮の副流に対する、請求項1~16のいずれか一項に記載の
プロセスの使用であって、
パルプ化を受けることを目的とした木質材の樹皮剥ぎから前記樹皮を得て、前記プロセ
スの抽出後に残っている液を、木材パルプ化プロセスの流れ、典型的には黒液の流れに戻
す、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用樹皮の副流(サイドストリーム)へのアルカリ蒸解プロセスの適用に
関するものである。
【0002】
特に本発明は、タンニンに富む樹皮から有価成分を抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
木材原料は、パルプ化プロセスを行う前に、典型的には樹皮剥ぎ(debarking
)に付される。ほとんどの樹種の樹皮は、セルロースの含有量が低く、且つ、パルプ化プ
ロセスに対して有害な影響を及ぼす成分の含有量が比較的高い。そのため、樹皮の分離は
プロセス全体においては有利であると考えられている。
【0004】
残りの樹皮残渣は、典型的にはパルプ工場のエネルギー源として使用され、余剰分は、
低価値の固形燃料とみなされる。
【0005】
しかしながら、いくつかの樹種の樹皮にはタンニン等の有価成分が豊富に含まれ、これ
を樹皮から分離することで有用性の高いものとなり得るため、樹皮を廃棄物として処理す
ることは、木材原料を有効に利用する方法とは言えない。
【0006】
従って、木材原料のより多くの部分を利用するプロセスが必要とされている。
【0007】
樹皮は、樹種及び加工履歴等のその起源に基づいて中身が異なることが知られている(
例えば、Miikka Ruuskanenによる修士論文(2017年)を参照)。
【0008】
熱水抽出によってタンニンを抽出することが検討され、アルカリ溶液を使用して樹皮を
抽出することに関しての最初の試みはかなり前から行われていた(例えば、米国特許第8
36号を参照)が、低収量でしか得られず、経済的に実現性に欠けると考えられてきた。
更に、タンニンの抽出では、他の樹皮成分、即ち、樹皮の主要部分が使用されずに残って
しまう。
【0009】
タンニン画分を得るためのこのような抽出は、例えば、スペイン特許公開第53706
0号に記載され、これには、アルカリで促進された抽出プロセスが記載され、得られた抽
出物が熱硬化性バインダー及び接着剤に使用されることが記載されている。
【0010】
樹皮抽出物は、樹脂製品に使用され、例えば、アルカリ抽出後に加熱して樹脂製品を得
ることを記載している米国特許第2819295号、並びに、樹脂の調製において樹皮抽
出物を使用することを記載している、M. Kubota, et al. (1987
)等において、樹脂製品に使用されている。
【0011】
樹皮のアルカリ蒸解は、樹皮と木材(木質)との間の組成の違いもあって、これまであ
まり検討されていなかった。しかしながら、Z. Feng and R. Alen
(2003)には、ケナフ樹皮をソーダで蒸解して、セルロースパルプを製造することが
記載されている。特に、プロセスの条件を最適化して、高い脱リグニンを提供した。
【0012】
これらの文献は、主に木材のパルプ化に対して、樹皮がもたらす問題に注目している。
【0013】
樹皮の成分を利用するために、これまで最も多く検討されてきた手法は熱水抽出(HW
E)であるが、これらに記載された手法は、主に、ソーダ蒸解等の、リグニンの溶解が期
待できない条件に焦点を当てていた。実際、熱水抽出の収量は低く、溶媒抽出又は膜濾過
による精製及び濃縮が必要となる。
【0014】
上記の刊行物が示すように、アルカリ溶液を使用して樹皮を抽出することに関しての最
初の試みは、かなり前から行われている。しかしながら、現在利用可能なプロセス概念で
は、付加価値のある用途のために回収できる有価な樹皮成分は、わずかな画分しかない。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、独立請求項の特徴によって定義される。いくつかの具体的な実施形態は、従
属項で定義される。
【0016】
本発明の第1の態様によれば、タンニンに富む樹皮原料から有価成分を抽出するプロセ
スが提供される。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、針葉樹種の樹皮から、又はオーク、アカシア、ヤナギ、
クリ若しくはユーカリの樹皮からタンニン及びリグニンを抽出するプロセスが提供される
【0018】
また一方で、特にこのプロセスは、ポリフェノール、即ち、タンニン及びリグニンに加
えて、無機物、グルコース加水分解物又は溶解パルプ等の成分を含む樹皮から様々な画分
を分離する手段を提供するように設計されている。
【0019】
アルカリ蒸解は、通常用いられる熱水抽出よりも著しく高い割合の樹皮ポリフェノール
を抽出する。更に、ソーダ蒸解から得られたポリフェノール画分は、単純な酸沈殿によっ
て回収できる。
【0020】
或いは、熱水抽出(HWE)の後にアルカリ蒸解を行うことができ、ソーダ蒸解の前に
、ポリフェノールの第1の部分を樹皮原料から分離できる。これにより、このプロセスの
ポリフェノール、特にタンニンの総収量が増加し得る。
【0021】
本プロセスから得られたポリフェノール画分(本明細書では、BLタンニンと称する)
は、一般的にフェノールを代替する原料となり得るものである。
【0022】
本プロセスから得られたポリフェノール画分は、フェノールホルムアルデヒド(PF)
型樹脂の原料となり得るものである。該ポリフェノール画分は、タンニン成分によって、
樹皮剥ぎされた標準の丸太のソーダ蒸解から得られた工業用リグニン(technica
l lignins)よりも反応部位を多く含むためである。
【0023】
従来のHWEプロセスによって得られたネイティブ型タンニン(本明細書では、HWE
タンニンと称する)は、伝統的に、例えば、革のなめしに適していると考えられる。
【0024】
ポリフェノール画分には、先に述べたタンニン及びリグニンに加えて、いくつかのスベ
リン由来のヒドロキシ脂肪酸が含まれていると予想される。これらは、ポリフェノール画
分に更なる機能をもたらす。
【0025】
アルカリ蒸解中に起こるタンニンの構造変化は、その後の使用に関して有害でないこと
が見出された。これは、本発明の重要な知見の一つである。
【0026】
本発明者らによるもう一つの驚くべき知見は、ポリフェノール画分の成分、特にタンニ
ンが、酸沈殿を用いて回収できることである。従来、これらの成分は水への溶解度が高す
ぎて、そのような沈殿ができないと考えられていた。
【0027】
本概念は、既存のパルプ工場、特に工場がリグニン回収ラインを設置している場合に、
統合できるという特別な利点がある。なぜなら、本プロセスは同様の蒸解条件を利用し、
木材パルプ化プロセスの化学物質回収システムに戻すのに適した使用済み蒸解液を生成す
るからである。
【0028】
また、本概念は、単糖を製造するための原料としての使用、漂白後のパルプを溶解する
ための原料としての使用、複合材の強化繊維のための原料としての使用等の様々な用途で
の使用に適したパルプをもたらす。
【0029】
また、使用済み蒸解液からは、抽出物、ヒドロキシル酸、及びその他有価成分を回収で
きる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明の好ましい実施形態のプロセスに含まれてもよい全てのプロセス工程を示す概略図である。
図2図2は、タンニン抽出後のトウヒ樹皮残渣中のトリメチルシリル化化合物をRTX-5カラムで分離した、いくつかの樹皮抽出物のGC-MSデータを示し、同定された樹脂としては、1 ピマル酸、2 サンダラコピマル酸、3 イソピマル酸、4 パルストリン酸、5 レボピマル酸、6 デヒドロアビエチン酸、7 アビエチン酸、8及び9 異性体の7-ヒドロキシデヒドロアビエチン酸、10 ヒドロキシ樹脂酸、11 12-ヒドロキシデヒドロアビエチン酸、12及び13 ヒドロキシ樹脂酸、14 15-ヒドロキシデヒドロアビエチン酸、15 7-オキソデヒドロアビエチン酸、16 オキソ樹脂酸、17 ヒドロキシ樹脂酸、18 ジヒドロキシデヒドロアビエチン酸、並びに19 15-ヒドロキシ-7-オキソデヒドロアビエチン酸が挙げられ、クロマトグラム中のその他ピークは、とりわけ、脂肪酸及び中性ジテルペンが挙げられる。
図3図3は、一つのトウヒ樹皮ソーダ蒸解物(SPFC)からのトリメチルシリル化極性カルボン酸をRTX-5カラムで分離した、樹皮の蒸解後の試料に対するGC/MSデータを示し、選択された主な化合物としては、1 乳酸、2 グリコール酸、3 2-ヒドロキシブタン酸、4 シュウ酸、5 グリセロール+リン酸、6 コハク酸、7 グリセリン酸、8 C-メチルタルトロン酸、9 タルトロン酸、10 シトラマル酸、11 リンゴ酸、12 2,5-ジドロキシペンタン酸、13 3-デオキシ-スレオ-ペントン酸1,4-ラクトン(3-deoxy-threo-pentonic acid 1,4-lactone)、14 2-ヒドロキシグルタル酸、15 キシロイソサッカリン酸1,4-ラクトン、16 アンヒドロイソサッカリン酸、17 2-ヒドロキシアジピン酸、18 α-グルコイソサッカリン酸1,4-ラクトン、19 β-グルコイソサッカリン酸1,4-ラクトン、20 レボグルコサン、21~23 異性体のグルコイソサッカリン酸ラクトン、24~25 異性体の3-デオキシヘキソン酸1,4-ラクトン、26 2,5-ジヒドロキシアジピン酸(2つの異性体)、27 β-グルコイソサッカリン酸、並びに28 α-グルコイソサッカリン酸が挙げられ、更に、この結果では、クロマトグラムには示されていないが、20~23分において溶出するいくつかのダイマー型化合物が少量含まれている。
図4図4は、樹皮残渣からの酵素的に加水分解された糖質をDNSで分析したものを示す。
図5図5は、市販の分子界面活性剤(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、LAS)、水溶性タンニン、及び参照試料としてのクラフトリグニンを用いて、酸化前後の沈殿タンニンの関数としての水(pH11)の表面張力を示す。
図6図6は、パルプ試料のフィブリル化において、樹皮パルプ(最大3回のパス)及びクラフトパルプ(最大5回のパス)のパス数の関数としての試料サイズと形状分布の変化を示す。
図7図7は、フィブリル化した樹皮試料(参照針葉樹クラフトパルプCNF)中の微粉及びミクロンサイズの残留繊維粒子の割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<定義>
本文脈において、「タンニンに富む樹皮」という用語は、5重量%超、典型的には10
~40重量%のタンニンを含むことを示す、特定の樹種の樹皮を包含する。
このようなタンニンに富む樹皮を有する樹種としては、樹皮中の典型的なタンニン含有
量が30~40重量%のマングローブ及びミモザ、典型的な樹皮タンニン含有量が10~
20重量%のマツ(ラジアータパイン)、並びに典型的な樹皮タンニン含有量が10~1
5重量%のトウヒ及びオークが挙げられる。
次に、「有価成分」という用語は、タンニン(縮合タンニン及び加水分解タンニンの両
方)に加えて、リグニン、並びにスチルベン、フラボノイド、リグナン、単純フェノール
、及びフェノール酸等の種々の抽出物及びヒドロキシル酸をも含むポリフェノールを包含
する。
タンニン及びリグニンは典型的には共抽出されるため、本文脈中で言及されているタン
ニン画分は、更に分離する前に、典型的にはいくらかのリグニンを含む。
具体的には、本文脈では、主に2つのタンニン画分について説明する。1つは、「HW
Eタンニン」であり、これは原料の任意の前処理、即ち、熱水抽出(HWE)から得られ
る。本明細書で説明されるもう1つのタンニン画分は、「BLタンニン」であり、これは
原料の蒸解から得られる(BL=黒液)。
【0032】
本発明は、タンニンに富む樹皮原料から有価成分を抽出するプロセスに関する。これは
、アルカリ蒸解後に酸沈殿を行い、残りの樹皮パルプから有価成分を分離する。
【0033】
このプロセスは、樹皮からタンニンを抽出するのに特に好適である。但し、リグニンも
原料から分離され得る。
【0034】
本発明のプロセスで使用される原料は、典型的には、針葉樹種の樹皮から、又はマング
ローブ、ミモザ、オーク、アカシア、ヤナギ、クリ若しくはユーカリの樹皮から選択され
、針葉樹の樹皮は、その入手可能性だけでなく、その高いタンニン含有量であるが故に好
ましく、また、本発明のプロセスで使用される原料は、一般的に適切な組成物と組み合わ
される。
【0035】
最も好ましい針葉樹は、マツ及びトウヒの種である。
【0036】
原料として使用される樹皮は、典型的には、パルプ工場又はその他樹皮剥ぎプロセスか
ら直接適切な形態で得られる。材料は、その供給源に関係なく、典型的には、粉砕された
樹皮チップの形態でプロセスに加えられる。
【0037】
原料を蒸解する工程は、好ましくは、水酸化ナトリウム(NaOH)と硫化ナトリウム
(NaS)とを含む白液を用いて、通常のクラフト蒸解条件を用いて行われ、所望のポ
リフェノール(BLタンニン)を含む黒液が提供される。この黒液は、残った樹皮パルプ
から分離できる。
【0038】
本発明の1つの実施形態によれば、使用される蒸解条件は、14~20%の有効アルカ
リ(EA)、150℃~178℃、及び60~140分の蒸解時間である。好ましくは、
白液は、16~18%の有効アルカリ含有量を有し、また、好ましい蒸解温度は160℃
~170℃であり、好ましい蒸解時間は1時間以上であり、より好ましくは1.5~2時
間である。
【0039】
得られた黒液からポリフェノール画分(BLタンニン)を分離するために、蒸解工程の
後に酸沈殿工程を行う。酸沈殿は、二酸化炭素を使用して行うことができ、任意で硫酸(
SO)等の酸を使用して、好ましくは60~90℃の温度、より好ましくは70~
80℃の温度で、pH1~4、好ましくはpH2~3に酸性化することを含むことができ
る。
【0040】
酸沈殿によって得られた生成物は、好ましくは濾過によって、残りの液(liquoe
)から分離され、リグニンをも含むBLタンニン含有固体画分が提供され、その結果、蒸
解用化学物質、並びにいくつかの分解生成物を含む液体画分が残る。
【0041】
BLタンニン画分は、典型的には、上述のタンニン及びリグニンに加えて、いくつかの
スベリン由来のヒドロキシ脂肪酸も含む。
【0042】
1つの実施形態によれば、このBLタンニン画分を更に処理して、フェノール樹脂が得
られる。これは、例えば、ホルムアルデヒドを使用するヒドロキシメチル化によって行う
ことができる。
【0043】
別の実施形態によれば、BLタンニン画分を酸化して、向上した可溶性を有するタンニ
ン画分が得られる。酸化は、従来、非水溶性の工業用リグニンを水溶性に変換する手段と
して適用されている。酸化は、リグニンのアニオン電荷を増加させることが分かっている
。今回、本明細書に記載されたBLタンニンでも同じことを試み、成功した。
【0044】
未修飾のタンニンは、pH値が11以上のアルカリ性の条件での水にのみ溶解する。し
かしながら、タンニンを酸化させると、タンニンが水に溶解するpHの範囲が、少なくと
も8以上の範囲に広がることが見出された。
【0045】
また、熱水抽出したタンニン(HWEタンニン)は、BLタンニンと比較して、水への
溶解度が高いが、酸化したタンニンは、例えば、界面活性剤としての使用により適してい
る。
【0046】
典型的には、酸素(O)ガスを用いて、好ましくは高圧条件で酸化を行う。
【0047】
酸化は、使用済み蒸解液(BLタンニンさえも溶解するアルカリ溶液)中で直接行うか
、或いは、任意の酸沈殿及びアルカリへの再溶解の後に行うことができる。
【0048】
酸沈殿後に残っている液体画分の蒸解用化学物質は、好ましくはリサイクルされる。こ
の残りの蒸解用液は、通常のセルロースパルプ化プロセスの蒸解用液と非常に類似してい
るので、本プロセスの液は、例えば、これらの通常の液と組み合わせることができる。
【0049】
本発明の好ましい実施形態によれば、ソーダパルプ化の前に、樹皮の段階的な前処理に
よって、例えば熱水抽出によって、ケイ素及び灰分(ashes)を除去するか、或いは
ケイ素及び灰分の含有量を少なくとも減少させることができる。ケイ素成分及び灰分成分
は、一度黒液に供給されると除去するのが難しいため、セルロースパルプ化プロセスにと
って有害である。但し、少量であれば本プロセスはこれらの成分の存在に耐え得るため、
前処理工程は必須ではない。
【0050】
この結果として、本プロセスの蒸解化工程の前に、熱水抽出(HWE)を行うことがで
き、この熱水抽出では、無機物を分離するために、また場合によっては樹皮原料からタン
ニン又はその他の有価成分の第1の部分を回収するために、原料を水溶液に加え、得られ
た混合物を70~110℃で1~5時間加熱する。
【0051】
このようにして得られた熱水抽出物は、例えば膜分離によって、主としてタンニンの第
1の部分を含む有機画分、即ちHWEタンニン画分と、無機画分とに分離することが好ま
しい。
【0052】
別の好ましい実施形態によれば、任意の前処理工程は、例えば、1~3%、典型的には
約1%の濃度を有し、30℃~50℃、好ましくは約40℃の温度等に昇温させた硝酸、
硫酸又は塩酸の溶液等の無機又は有機酸の水溶液を用いて原料を洗浄し、使用済み溶液か
ら固体を分離することにより行うことができる。この分離は、好ましくは真空下で行い、
回転式真空ドラム洗浄機で行うことが好適である。得られた分離された固体は、酸洗浄に
用いたときと同じ温度の水ですすぎ、例えば機械的なプレス機でプレスし、残留水分を除
去することが好ましい。最後に、使用した酸を、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)を
用いて中和する。
【0053】
前処理の別の選択肢としては、抽出化学物質としてNaCO及び尿素を使用するか
、或いは、EDTA等のキレート剤を使用する予備抽出がある。
【0054】
上述したように、このプロセスは、原料の蒸解及び酸沈殿を伴う任意の前処理の後に続
ける。
【0055】
蒸解して残った樹皮パルプにも、価値のある成分が含まれている。従って、この画分も
更に処理することが好ましい。
【0056】
このように、本発明の好ましい実施形態によれば、蒸解からの樹皮パルプを酵素加水分
解によって処理し、グルコース加水分解物が得られるか、或いは、蒸解からの樹皮パルプ
を漂白によって処理し、溶解パルプが得られる。
【0057】
プロセスをこの段階で実施する際の酵素加水分解の更なる利点は、アルカリ蒸解(先行
するHWEの有無にかかわらず)が樹皮パルプの酵素加水分解性を向上させることであり
、これはBLタンニン画分の除去が酵素の接近しやすさを向上させるためである。この糖
の流れ(ストリーム)は、発酵に非常に適している。
【0058】
本発明の更なる実施形態によれば、蒸解からの樹皮パルプは、セルロースナノファイバ
ー(CNF)を製造するための原料として使用される。
【0059】
本発明のプロセスは、通常の木材パルプ化プロセスと非常に類似しているという利点を
有し、これにより、本プロセスは、これらのパルプ工場の現場での適用が容易に可能であ
る。
【0060】
この結果として、本発明は、化学パルプ化プラントの樹皮の副流に対するこのプロセス
の使用にも関するものであり、樹皮は、パルプ化を目的とした木質材の樹皮剥ぎから得ら
れる。BLタンニンを回収した後に残る樹皮のパルプ化液は、木材パルプ化プロセスの流
れ、典型的には黒液の流れに戻すこともできる。
【0061】
本発明の生成物画分の好適な用途は、通常の可溶性リグニンの用途と非常に似ている。
1つの選択肢によれば、タンニン及びリグニンを含むBLタンニン画分を使用して、樹脂
、特にPF樹脂を調製できる。このタンニン画分は、セルロースパルプ化プロセスから得
られる一般的に使用されるリグニン画分よりも、上記の目的に更に適している。なぜなら
、上記BLタンニン画分のタンニン及びリグニンの混合物は、混合物に更なる反応部位を
導入するからである。
【0062】
開示された本発明の実施形態では、本明細書に開示された、特定の構造、プロセス工程
、又は材料に限定されるものではなく、関連する技術分野の当業者によって認識され得る
それらの等価物にまで拡張されることが理解されるべきである。また、本明細書で使用さ
れている用語は、特定の実施形態を説明する目的のみで使用され、限定することを意図し
たものではないことも理解されるべきである。
【0063】
本明細書全体を通して、一実施形態(one embodiment)又は1つの実施
形態(an embodiment)への言及は、実施形態に関連して記載される特定の
特徴、構造、又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する
。このことから、本明細書全体の様々なところで「一実施形態において(in one
embodiment)」又は「1つの実施形態において(in an embodim
ent)」という表現が表れても、必ずしも全てが同じ実施形態を指しているわけではな
い。また、例えば、「約」又は「実質的に」等の用語を使用して数値を参照する場合には
、正確な数値も開示されている。
【0064】
複数の、品目、構造要素、構成要素、及び/又は材料は、本明細書で使用される場合に
は、便宜上、共通リストで提示されてもよい。しかしながら、これらのリストは、リスト
の各メンバーが個別に固有のメンバーとして識別されているかのうように解釈されるべき
である。
【0065】
更に、記載された、特徴、構造、又は特性は、1つ又は複数の実施形態において任意の
適切な手段で組み合わせてもよい。この説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供
するために、多数の具体的な詳細が提供される。しかしながら、関連する技術分野の当業
者であれば、1つ又は複数の具体的な詳細がなくても本発明を実施できることを認識し得
る。
【0066】
本明細書の実施例は、1つ又は複数の特定の適用において本発明の原理を例示するもの
であるが、当業者であれば、発明者の能力を発揮することなく、且つ、本発明の原理及び
概念から逸脱することなく、実施の形態、使用方法及び詳細に多数の変更を行うことがで
きることは明確であり得る。それゆえに、以下に示すクレームによる場合を除き、本発明
が限定されることを目的とするものではない。
【実施例0067】
<実施例1-樹皮試料の評価及び前処理>
これまでにプロセス変数として、パルプ工場と製材所が比較され、針葉樹の樹皮の典型
的な供給源としてトウヒ及びマツの種が検討されてきた。更に、樹皮の乾燥の効果につい
ても研究がされてきた。
【0068】
この比較の結果は、Miikka Ruuskanenによる修士論文(2017年)
に示されている。
【0069】
樹皮の任意の前処理として、熱水抽出を検討した。トウヒパルプ工場の樹皮、水(及び
任意の化学物質)を、90℃、10%の濃度(バッチあたり50gの樹皮)で回転式オー
トクレープに投入した。反応器は30分後に目標抽出温度(90℃)に達した。90分後
に一回で1つの反応容器を取り出し、ウォーターホースで冷却した。抽出物と、不溶性の
樹皮ケーキとを真空濾過により分離した。抽出物を秤量し、pHを測定した。抽出物を遠
心分離し、溶解タンニンを含む上澄みを凍結乾燥して、乾燥タンニンの抽出物を得た。濾
過して得られた不溶性樹皮ケーキを脱イオン水(2×500mL)で洗浄し、秤量し、乾
燥固体を測定した。
【0070】
タンニン抽出物(水溶液)及び抽出された樹皮試料(表に記載されているものを代表)
の一式を、GC/MSによって、可能性のある低モル質量のタンニン画分、抽出物、及び
その他無極性の低モル質量の化合物を調べた。分析のために、タンニン溶液と湿った樹皮
残渣を、それぞれエーテルとヘプタンで抽出した。有機抽出物を、GC/MSにかけた。
【0071】
【表1】
【0072】
樹皮残渣(タンニン抽出後)に見られる主要な低モル質量の化合物は、常に樹脂酸であ
り、その濃度はマツ由来の試料よりもトウヒ由来の試料の方が明らかに高いようであった
。時折、いくつかの樹皮材中に、酸化した樹脂酸(特にヒドロキシデヒドロアビエチン酸
)が比較的多く含まれるものがあった(図2)。これらの酸化は、工場での木材又は樹皮
の保管中における自動酸化によって既に行われていたと考えるのが妥当である。樹皮材中
に大抵見られる他の化合物としては、フラボノイド、カテキン、ヒドロキシスチルベン、
及びリグナン等のその他のフェノール化合物が挙げられる。
【0073】
また、HWEタンニン抽出物の糖質の組成についても分析した(表2)。
【0074】
【表2】
【0075】
重量リグニン(Gravimetric lignin)及び酸可溶性リグニンの両方
を分析した。選択した試料のメトキシル含有量を分析し、試料中のリグニン対タンニンの
量を明らかにした。リグニン及びタンニンの両方をクラーソンリグニン法で検出する。非
リグニン成分は、クラーソンリグニン試料で見られたメトキシルの量をグアヤシル型リグ
ニンのメトキシルの理論量と比較することにより、クラーソンによって分析された成分の
総量から差し引くことができる。
【0076】
クラーソン法では、未処理のトウヒパルプ工場の樹皮に40.29%のリグニンが含ま
れていることが示された。しかしながら、クラーソン試料で検出されたメトキシル含有量
はわずか4.89%であった。このことから、クラーソン法で分析されたリグニンのうち
、実際にリグニンであったのは34%に過ぎず、66%が他のもの(主にタンニン)であ
ると結論付けることができた。このことから、この樹皮のリグニン含有量を14%に修正
した。未処理の樹皮試料中のメトキシルの検出量をリグニンの理論量で割ると、リグニン
含有量とほぼ同じ値、即ち1.50%/14%=10.7%となった。これは、樹皮中の
全てのメトキシル基がリグニンも由来することを意味する。これは必ずしも全ての樹皮試
料に当てはまるわけではないが、重量リグニンの分析で検討する必要がある。
【0077】
これらの原理を適用して、選択した樹皮及び抽出物の試料のリグニン及びタンニンの含
有量を分析した。パルプ工場の樹皮の元のタンニン含有量は28%と測定され、リグニン
含有量は計算方法に応じて11~12%と測定された。タンニン含有量は、抽出(水、又
はNaCO/尿素)によってわずかに減少する。抽出物には、わずかなリグニンの混
入があるだけである。しかしながら、抽出物中のタンニンの含有量は、35~39%に過
ぎず、残りはおそらく灰分、糖質及び抽出化学物質で構成されている。
【0078】
分析した抽出物中のリグニン及びタンニンの含有量を表3に示し、選択した試料の元素
組成を表4に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
異なる抽出化学物質、並びに抽出温度及び時間を用いて、90分の抽出からの凍結乾燥
抽出物の化学組成を分析した(表1を参照)。糖質の組成のわずかな違いしか検出できな
かった。糖質の分析のために、試料を2段階の酸加水分解で前処理した。糖質の含有量(
多糖類とした場合)は、抽出条件に応じて15~30%の間で変動した。
【0082】
また、熱水抽出後に残っている残渣の組成も分析した(表5及び表6を参照)
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
このようにして、分析方法を評価するために使用された選択した試料の化学組成を上述
のように計算した(表7)。
【0086】
【表7】
【0087】
<実施例2-ソーダ/クラフト蒸解>
ソーダパルプ化の実行は、小規模のタンニン抽出に使用したのと同じ、1L反応器での
実験によって試験した。樹皮に対する液の比率を4L/kgとし、昇温時間を110~1
20分とした。ソーダパルプ化は、固形物に20%のNaOHの有効アルカリチャージ(
active alkali charge)により、160℃及び170℃で、60分
、90分又は120分行った。最初の一連の実験では、1%のNaCO及び1%の尿
素を抽出化学物質として用いて予備抽出された、パルプ工場のトウヒ樹皮を原料として使
用した。
【0088】
先の実験に基づき、160℃、90分の条件を選択して、起源の異なる樹皮を比較した
【0089】
一定の撹拌下で、約100mLの各黒液を1MのHClでpH2.5まで酸性化した。
4750rpmで15分遠心分離し、上澄みを回収した。次いで、約100mLの酸性水
(HClでpHを2.5に調整)を加えて沈殿物を洗浄し、その後遠心分離を行った。こ
の洗浄工程を2回行った。沈殿した試料を凍結乾燥した。
【0090】
タンニン抽出実験で使用したのと同じ樹皮試料を試験した。樹皮を、タンニン抽出後及
び直接(コントロール)の両方をソーダ蒸解した。沈殿したBLタンニンを詳細に分析し
た。
【0091】
ソーダ蒸解からのいくつかの樹皮の、パルプ収量、及び黒液の酸性化により回収された
沈殿BLタンニンの収量を表8に示す。樹種(トウヒ及びマツ)、起源(パルプ工場又は
製材所)、条件(未処理又は乾燥)、及び任意の前処理法(非前処理又は熱水抽出)に基
づいて変更した試料を使用した。得られたタンニンの収量は樹皮の起源によって異なるも
のの、一般的には、パルプ工場の試料の方がより高い収量が得られた。特に、パルプ工場
の試料は、HWEタンニン抽出の原料としては不十分であることが見られたため、ソーダ
蒸解に直接使用できる可能性が高い。
【0092】
トウヒ樹皮のタンニン試料を、熱水抽出後に、又は事前の抽出をせずに直接、樹皮から
アルカリ(ソーダ)蒸解によって分解し、BLタンニンが得られた。リグニンの一部は、
タンニンと一緒に抽出され、反応部位が増加することで、ホルムアルデヒド反応に対する
画分の活性化が高まることが期待された。
【0093】
【表8】
【0094】
<実施例3-ソーダ蒸解で得られた黒液の分析>
上記処理の実行に続いて、使用済み黒液のUV280を行った。20L/gcmの吸光
度値を用いて、吸光度を濃度に変換した。6つの異なる蒸解条件の結果を表9に示す。全
ての試験条件で、リグニンのような材料が十分に溶解し、残留樹皮の収量もほぼ同じであ
った。
【0095】
【表9】
【0096】
異なる樹皮化合物のソーダ蒸解中の反応に関する追加情報として、8つのパルプ化使用
済み液(黒液)の代表的な選択物をGC/MSで分析した。この作業では、エーテル抽出
によって回収された、極性化合物(典型的にはヒドロキシ酸)及び無極性化合物の両方を
対象とした。極性化合物の分析では、0.3mLの液試料(内部標準としてキシリトール
を添加した後)をカチオン交換(H)し、濾過し、蒸発乾固させ、トリメチルシリル化
した。誘導化された試料をGC/MSにかけた。無極性化合物の分析では、4mLの液試
料を2MのHClでpH2~3に酸性化(内部標準としてサリチル酸及びヘプタデカン酸
を添加した後)し、エーテルで2回抽出した。エーテル抽出物を合わせて、蒸発乾固させ
、トリメチルシリル化し、極性化合物としてGC/MSで分析した(図4)。最終的な同
定は、内部ライブラリ(in-house library)及び豊富な文献のコレクシ
ョンを用いて行った。指標となる濃度は、補正なしのピークサイズに基づいた。
【0097】
木の種類及び材料の起源によって多少の違いはあるものの、分析した全てのマツ及びト
ウヒの黒液には、大抵は同じ極性化合物が見られた(表10)(試料の同一性については
、表8を参照)。化合物の同定により、かなりの量の糖質由来のヒドロキシ酸が、ポリウ
ロン酸塩に由来することが知られているジカルボン酸型(ピーク8~11、14、17、
21~23、及び26~28)であることが判明した。更に、ジカルボン酸であるシュウ
酸(ピーク4)は、針葉樹の樹皮に含まれる典型的な成分であるシュウ酸カルシウムに明
らかに由来する。カルシウム塩であるため、樹皮の熱水抽出中には溶解しない。
【0098】
【表10】
【0099】
また、他にも興味深い発見もあり、ごく少量のペントースに特徴的な生成物(ピーク3
及び15)が形成されていた。より主要な生成物は、具体的にはヘキソースに由来するも
のであった(ピーク12~13、16、及び18~19)。最も単純なヒドロキシ酸(ピ
ーク1~2)は、どんな糖質にも由来し得るため、具体的な情報はほとんどない。
【0100】
無極性化合物のGC/MS分析の結果、量には差があるものの、まだ完全に同定されて
いない最大150種の異なる化合物が検出された。しかしながら、これまでに明らかにな
っていることは、各黒液には、脂肪酸及び樹脂酸、並びにその他抽出物に加えて、多糖類
、リグニン、タンニン、及びスベリンの分解物又は加水分解生成物が存在することである
。興味深いことに、タンニン由来のカテコール誘導体は、常に単量体のリグニン画分より
も豊富であった。
【0101】
<実施例4-ソーダ蒸解後に残ったパルプの分析>
1%のNaCO及び1%の尿素で抽出し、その後ソーダ蒸解した樹皮試料の化学組
成を分析した。クラーソンリグニン試料のメトキシル含有量を用いて、上述のようにリグ
ニン含有量を補正した。分析の結果、ソーダ蒸解により、糖質組成物が豊富になっている
ことが判明した(表11)。その結果、抽出工程では糖質含有量がわずかに豊富になって
いるだけであったが、ソーダパルプ化ではより顕著な効果が得られ、試料の糖質含有量は
65%まで豊富になることがわかった。ソーダパルプ化の条件は、糖質の収量に大きな影
響を与えないことが分かった。ソーダ蒸解は、樹皮からの残ったタンニンを全て溶解する
ものの、ソーダ蒸解後であってもかなりの量のリグニンが残渣に残った。
【0102】
【表11】
【0103】
糖質、特にグルカンが全体的に豊富であることは、表12の糖質の組成の分析から明ら
かである。
【0104】
【表12】
【0105】
<実施例5-酸沈殿物>
様々な蒸解条件を用いて得られた、選択した黒液(BL)の試料(120g)を1Mの
塩酸を使用して酸性化し、BLタンニン画分中の溶解タンニン(及びリグニン)を沈殿さ
せた(表13を参照)。沈殿した試料を冷凍乾燥し、固体を回収した。収量は、同じ表1
3に示す通りであった。これらの結果に示されているように、このように蒸解時間が絶対
的な収量に与える影響はわずかであり、温度が高いほど収量は幾分か増加した。沈殿物の
収量を比較すると、その違いは明確であり、蒸解時間と激しさの関数として明らかに増加
した。
【0106】
【表13】
【0107】
次いで、更にいくつかのBLタンニン試料を選択して(表14参照)分析し、フェノー
ルホルムアルデヒド樹脂への適合性を決定した。
【0108】
<実施例6.BLタンニンとホルムアルデヒドの反応性>
31P NMR分析を実施して、試料の反応部位(遊離C3/5部分)及びアルカリ消
費部位(フェノール性ヒドロキシル及びカルボン酸)の度合いを決定し、ヒドロキシメチ
ル化に対する試薬の分量の設計を補助した(表14)。
【0109】
【表14】
【0110】
樹皮の履歴に応じて試料間にいくらかの差異はあるものの、その差異はシリーズ間で一
貫していなかった。
【0111】
BLタンニンをヒドロキシメチル化して、ホルムアルデヒドの消費量を測定した。ヒド
ロキシメチル化反応は、ミキサーブレードで連続的に撹拌しながら100mLフラスコを
備えたRadley製の反応器(表14の最初の3つの試料)、又は小型の磁石を有する
拡販の10mLバイアルを備えたオイルバス(残りの試料)で行った。BLタンニンのア
ルカリ消費部位に対して、NaOH(40M)を0.65等量添加した。最初の3つの試
料には、それぞれ19.2mmol、20.8mmol及び21.8mmolのNaOH
を添加した。更に、1gのBLタンニンに対して10mmolのホルムアルデヒドを添加
した。これは、表14に示した理論上の反応部位に対して過剰であった。ヒドロキシメチ
ル化では乾燥固体の含有量は10%であった。
【0112】
BLタンニン/アルカリ混合物の開始pHは、12.0~12.5の間で変動した。こ
の混合物を60℃で一昼夜撹拌し、BLタンニン及びアルカリが完全に溶解したことを確
認した。一昼夜撹拌した後、混合物のpH値は9.5~10.0の間で変動した。
【0113】
37.5重量%ホルマリン溶液としてホルムアルデヒドを混合物に添加した。10分間
ゆっくりとホルマリンを添加した。表14の最初の3つの試料について、60分及び24
0分(最後の時点)の2つの時点の試料を採取した。ヒドロキシメチル化後にGC(ガス
クロマトグラフィー)を用いて、試料のホルムアルデヒド含有量を分析した。反応時間が
長くなると(240分)、より多くのホルムアルデヒドが消費された。この情報に基づき
、残りのBLタンニン試料については、最後の240分の時点のみを検討した。BLタン
ニンのホルムアルデヒド消費量を表15に示す。ほとんどの場合、240分での実際の消
費量は、理論的に決定された部位の50~60%に相当する。
【0114】
【表15】
【0115】
<実施例7.BLタンニンフェノールホルムアルデヒド樹脂の合成>
BLタンニン、アルカリ(0.65等量)及び水(2/3)を反応器に加え、ホルムア
ルデヒドを10分の間に遅滞なく加える(所定の消費量に応じて入れる)。ヒドロキシメ
チル化の時間を0.5時間(60℃)とする。BLタンニン混合物とホルムアルデヒドと
は積極的に反応し、柔らかい沈殿物を形成した。フェノール(BLタンニンに対して1:
1)、0.65等量のアルカリ、ホルムアルデヒド(フェノールに対して2:1)及び1
/3の水を反応に加えると、主に柔らかい粒子が溶解した。この混合物を60℃で30分
間機械的に撹拌し、その後90℃に昇温した。2.5時間後に目標の粘度(3.5~4.
5P)に達した。次いで、反応を停止し、この試料を氷槽で冷却した。トウヒ樹皮のアル
カリ蒸解から沈殿させたBLタンニンを使用した3つの別々の実験では、最終的なpH値
は10.3~11.0の範囲であった。
【0116】
上述の試料中の遊離ホルムアルデヒドの量は、0.12%、0.09%及び0.12%
であった。このように、3つの試料全てについて、ほとんど全てのホルムアルデヒドがB
Lタンニン及びフェノールと反応した。また、試料中の遊離フェノールの量は、3.3%
、3.9%及び2.3%であり、これも許容レベルであった。樹脂の平均(Mw)モル質
量値は、4740~5140g/molの範囲であった。
【0117】
自動接着評価システム(ABES)装置を用いて試料の接着強度を試験した。プレス温
度を150℃に設定し、プレス時間を45秒、90秒、180秒、300秒、480秒と
した。BLタンニンPF樹脂(50%フェノール置換)は、5.2~6.0N/mm
剪断強度の値を示した。
【0118】
<実施例8-酵素加水分解>
樹皮を、そのまま、及びタンニン抽出後、及び更なるソーダ蒸解後に、酵素的に加水分
解する可能性を評価した。実験は、試験管内において、2%の濃度(100mgのオーブ
ン乾燥樹皮)、45℃、pH5.0(50mMの酢酸ナトリウム緩衝液)で、磁気撹拌し
ながら48時間、3階に分けて行った。加水分解実験は、市販のセルラーゼ、β-グルコ
シダーゼ、ペクチナーゼの製品を異なる用量で組み合わせて行った(表16)。セルラー
ゼ Celluclast 1.5Lを10FPU/g(低用量)又は25FPU/g(
高用量)で使用、β-グルコシダーゼ Novozym 188を200nkat/g(
低用量)又は500nkat/g(高用量)で使用し、ペクチナーゼ Pectinex
Ultra SP-Lを0又は5000nkat/g(高用量)で使用した。試料を1
0分間沸騰させて、酵素反応を停止した。3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)法で還
元糖を測定することにより、加水分解率を分析した。
【0119】
【表16】
【0120】
抽出した樹皮試料とソーダパルプ化した樹皮試料の両方で得られた加水分解率は、未処
理の樹皮試料と抽出した樹皮試料で得られた加水分解率よりも著しくに高かった(図4
。パルプ化温度を上げると、加水分解率は高くなった。即ち、加水分解率は160℃及び
170℃でパルプ化した後で、それぞれ58%及び66%となった。
【0121】
<実施例9-漂白>
加水分解の別の選択肢として、パルプをO1-O2-HCE-SDDJ-D0-E1-
D1n-D2-Aの順序で漂白した。これは、2段階の酸素脱リグニン、SiOを除去
するための熱アルカリ抽出(HCE)、スーパーDJJによる微粉除去、二酸化塩素漂白
、そして最後に金属を除去するための酸段階からなる。
【0122】
その結果を以下の表に示す。表17によると、多糖類はパルプ化と漂白で豊富になるが
、ポリフェノール(リグニン及びタンニン)の含有量は高いままである。樹皮試料のリグ
ニン含有量ついて、カッパー価は信頼できる指標ではない。また、灰分が多く、リグニン
含有量を人為的にある程度増加させる可能性がある。
【0123】
【表17】
【0124】
表18は、試料全体に対するパルプ化後及び漂白後の多糖類画分の組成を、100%に
正規化して示したものである。グルコース(セルロース及びその他のグルカンに由来)は
、パルプ化で非常に豊富になり、漂白では更に豊富になる。
【0125】
【表18】
【0126】
灰分の合計含有量は、特にパルプ化後に高くなる(表19)。特にFe及びSiは、漂
白後及びSi除去後であっても残る。
【0127】
【表19】
【0128】
表20に示すように、漂白パルプの白色度(brightness)は81(完全な白
色度ではない)、粘度は400mL/G(許容範囲)、フォックの数値(Fock nu
mber)は93.8%(ビスコース法における反応性が非常に良好であることを示す)
であった。溶解パルプの一般的な試験方法が存在しないため、溶解パルプとしての適用性
の試験方法としてフォックの数値を使用する。
【0129】
漂白段階での収量は53%であり、これは通常の木材パルプ漂白よりも低かった。但し
、1回だけの予備実験であり、最適化は行わなかった。
【0130】
【表20】
【0131】
樹皮成分の収量及び回収量に関する背景情報として、トウヒパルプ工場の樹皮の蒸解実
験の物質収支を以下の表21及び22に示す。
【0132】
【表21】
【0133】
【表22】
【0134】
蒸解によるグルカンの収量は、典型的には75%であり、これは樹皮のグルカンの約1
/4がセルロース以外であることを示唆している。元の樹皮中のポリフェノールは、黒液
を酸化することにより、BLタンニン画分として60~70%の収量で回収でき、残りは
黒液中に残り、またパルプ画分中にも残る。
【0135】
<実施例10-パルプ自体の処理>
補強を目的とする材料への適合性を評価するために、漂白パルプの繊維特性を決定した
(表23)。この点に関しては、更なる試験を行わなかった。
【0136】
【表23】
【0137】
<実施例11-アルカリ-O酸化によるタンニンの可溶化>
実施例2に記載のように、160℃のアルカリで90分間蒸解することによって得られ
、HSOを添加してpHを2.5に下げて単離された、黒液タンニン画分を以下の酸
化に用いた。
【0138】
タンニンを豊富に含む酸性の洗浄済み樹皮沈殿物(dm.19.0%)をアルカリに溶
解して、タンニンを15%含み、且つ13.4(T=22℃)のpHを有する溶液を得た
。使用したアルカリの量は、タンニンの28%であった。このアルカリ性タンニン溶液を
、反応容器内で酸素(O)の加圧下、効率的なガス混合状態で酸化した。この酸化では
、NaOH溶液を反応器に供給して、pHを制御した。反応を30分間保持した。2つの
酸化試験を行った。第1の試験(TanniOx 1)では、タンニンに対して、30%
のNaOHを反応器に供給し、第2の試験(TanniOx)では、タンニンに対して、
15%のNaOHを使用した。酸化中に消費されたOは、それぞれ、タンニンの17%
及び15%に寄与した。酸化溶液中のタンニン含有量は、UV280(a=25.78L
/gcm)を用いて測定した。また、酸化溶液は、アルカリSECでモル質量についても
決定し、高分子電解質の滴定(Muetek製)で電荷についても決定した。その結果を
表24に示す。
【0139】
【表24】
【0140】
アルカリで溶解した沈殿タンニンに対して、上述の手順を行った。しかしながら、使用
済み蒸解液のタンニンを直接酸化することも可能である。
【0141】
<実施例12-タンニンによる水表面張力の低下>
水の表面張力(空気雰囲気中)を、白金板を備えたウィルヘルミープレート張力計を用
いて(注意して)、タンニン濃度の関数として測定した。種々のタンニンの試料と参考資
料を使用した。試料の起源は実施例11に記載され、試料の処理方法は以下に記載する。
【0142】
試料を所定の濃度(0.001~100g/L)のホウ砂-NaOH緩衝液に溶解して
、pH11の溶液を得た。pH11の条件は、タンニンとクラフトリグニンの溶解を可能
にするために選択された。また、ホウ酸-ホウ砂緩衝液、pH8を使用して、水溶性の酸
化したタンニン(TanniOx 2)の溶液を調製した。pH11及び8は、例えば、
典型的には洗浄プロセスを助けるために界面活性剤を含むアルカリ性洗浄剤のpH条件を
表す。
【0143】
その結果を図5に示す。
【0144】
この結果が示すように、ソーダ蒸解の黒液から沈殿したタンニンと、その酸化体は、両
方ともバイオベースの高分子界面活性剤として使用できる。しかしながら、実施例11及
び12を組み合わせた結果が示すように、酸化によって、より広いpH条件、例えば、p
H8以下でタンニンを使用できる。
【0145】
タンニン及び酸化タンニンは、高分子界面活性剤として、洗浄剤又はクリーニング剤の
処方に最終的に使用される可能性があり、また、高分子表面活性剤を必要とするその他の
多くの最終用途にも使用される可能性がある。沈殿タンニンの表面張力低下作用は、水溶
性タンニン又はクラフトリグニンよりも明らかに優れている。
【0146】
<実施例13-樹皮パルプのフィブリル化>
実施例2で得られた樹皮パルプを洗浄し、固形分18%でフィブリル化する前に凍結さ
せた。この材料を粉砕機(増幸産業製)により予備精製した(パス1:1300rpm、
0.18mmのギャップ、パス2:1300rpm、0.14mmのギャップ、合計2k
Wh/kg)。更にフィブリル化は、pH約9で、脱イオン水で希釈した固形分2%での
微細流動化(M110-EH)によって実験室規模で行った(固形分2%での流動化、パ
ス1:400μm+200μmチャンバー、1000bar、パス2-3:400μm+
100μmチャンバー、1800bar)。
【0147】
試料サイズと形状の分布は、CNF製品の原料として典型的に使用されている参照針葉
樹クラフトパルプと比較して、樹皮試料としてはかなり不均一であった。しかしながら、
フィブリル化により、非常に類似したCFN製品が製造された(図6を参照)。また、S
WクラフトパルプのCNFと比較して、樹皮パルプのCNFは、繊維のアスペクト比が低
く、繊維のネットワークが弱く、並びに微粉の含有量が多いことが分かり(図7を参照)
、粘性が低いことも分かった。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本材料は、木材の更なる画分を利用する手段として使用でき、また、一般的に、通常利
用されているいくつかの樹種の樹皮も従来のセルロースパルプ化プロセスを適用するため
に使用できる。
【0149】
具体的に、本材料は、樹皮原料からポリフェノール、特にタンニンを抽出するのに有用
である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0150】
【特許文献1】スペイン特許公開第537060号
【特許文献2】米国特許第836号
【特許文献3】米国特許第2819295号
【非特許文献】
【0151】
【非特許文献1】Z. Feng and R. Alen, “Selectivity of soda-AQ pulping of kenaf bark”, Cellulose Chemistry and Technology 36 (2003) 367-374,
【非特許文献2】M. Kubota, et al., ”Use of Karamatsu bark extracts for wood adhesives. VII”, Rinsan Shikenjoho 1 (1987) 10-17, Japanese. (窪田ら、「カラマツ樹皮抽出物の木材接着剤への利用(第7報)」、林産試場報 Vol.1 (1978) 10~17ページ)
【非特許文献3】M. Ruuskanen, “The influence of the origin and treatment history of spruce and pine bark on the extraction of tannin”, Master’s thesis, University of Helsinki (May 2017)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-06-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニンに富む樹皮原料から有価成分を抽出するプロセスであって、
アルカリ蒸解工程を行った後に酸沈殿を行い、残った樹皮パルプ前記有価成分を分離すること、及び、前記酸沈殿後に残っている樹皮パルプを、酵素加水分解によって更に処理し、グルコール加水分解物を得るか、或いは、前記酸沈殿後に残っている樹皮パルプを、漂白によって更に処理し、溶解パルプを得ること、又は前記樹皮パルプを、セルロースナノファイバーを製造するための原料として、若しくは複合材の強化繊維のための原料として、使用することを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
前記樹皮原料を、針葉樹種の樹皮若しくは丸太から、又はオーク、アカシア、ヤナギ、クリ若しくはユーカリの樹皮から、好ましくは針葉樹の樹皮から選択し、好ましくは前記樹皮原料が粉砕された樹皮チップの形態であることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記樹皮原料を、針葉樹種のマツ及びトウヒの樹皮から選択することを特徴とする、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
水酸化ナトリウム(NaOH)と硫化ナトリウム(Na2S)とを含む白液、及び典型的なアルカリ蒸解条件を用いて、前記原料を蒸解することにより黒液を得ることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記アルカリ蒸解段階から得られた黒液を、前記残った樹皮パルプ分離することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記蒸解段階の条件として、14~20重量%の有効アルカリ(EA)、150~178℃、及び60~180分の蒸解時間を適用することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
16~18重量%の有効アルカリ含有量を有する白液を適用することを特徴とする、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記蒸解段階で160~170℃の温度を適用することを特徴とする、請求項6又は7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記蒸解段階での前記蒸解条件を、2時間以上、好ましくは2~3時間維持することを特徴とする、請求項6~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記アルカリ蒸解段階から得られた黒液を、硫酸(H2SO4)を使用して、60~90℃の温度、好ましくは70~80℃の温度で、pH2~3に酸性化することにより、前記酸沈殿を行うことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記酸沈殿の生成物を、好ましくは濾過によって、タンニン及びリグニン等のポリフェノールを含む固体画分と、蒸解化学物質及びいくつかの分解生成物を含む液体画分とに分離することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
アルカリ蒸解の前に、前記樹皮に対して前処理を行い、ケイ素及び灰分を除去するか、或いは、ケイ素及び灰分の含有量を少なくとも減少させ、
前記前処理が、
任意選択的に、前記原料を粉砕して、5mm未満の粒径の有する材料を得る工程と、
30~50℃の温度で、好ましくは1%の濃度を有する硝酸で洗浄する等の、強鉱酸、弱酸、又はキレート剤で洗浄する工程と、
前記蒸解段階用の固体を分離して回収する工程と、
を含むことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記樹皮原料から前記有価成分の第1の部分を分離するために、アルカリ蒸解前に、前記原料を水溶液に加え、得られた混合物を70~110℃で1~5時間加熱することにより、熱水抽出(HWE)を行うことを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
得られた熱水抽出物を、膜分離によって、主としてポリフェノールを含む有機画分と、無機画分とに分離することを特徴とする、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
黒液の酸沈殿からのBLタンニンを、典型的にはヒドロキシメチル化を用いて、更に処理して、フェノール樹脂を得るか、或いは、黒液の酸沈殿からのBLタンニンを、酸化によって更に処理し、可溶性タンニンを得ることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
化学パルプ化プラントの樹皮の副流に対する、請求項1~15のいずれか一項に記載のプロセスの使用であって、
パルプ化を受けることを目的とした木質材の樹皮剥ぎから前記樹皮を得て、前記プロセスの抽出後に残っている液を、木材パルプ化プロセスの流れ、典型的には黒液の流れに戻す、使用。
【外国語明細書】