(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011982
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】駆動回路、およびそれを備えた半導体装置、並びにそれを備えたスイッチング電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20240118BHJP
H03K 17/06 20060101ALI20240118BHJP
H03K 17/695 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H03K17/06 063
H03K17/695
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114365
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城石 勇太
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 匠
(72)【発明者】
【氏名】名手 智
【テーマコード(参考)】
5H740
5J055
【Fターム(参考)】
5H740BA12
5H740BB01
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
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5H740MM08
5J055AX05
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5J055EZ03
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5J055EZ17
5J055FX06
5J055FX33
(57)【要約】
【課題】スイッチング素子の昇温によるスイッチング素子における損失の増加を抑制可能な駆動回路を提供する。
【解決手段】駆動回路(46)は、スイッチング素子(40)を駆動可能に構成されている。駆動回路(46)は、スイッチング素子(40)の温度情報を取得して、スイッチング素子(40)をターンオンするときとターンオフするときの少なくとも一方のときに、温度情報に基づいてスイッチング素子(40)の駆動能力を可変する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子を駆動可能に構成された駆動回路であって、
前記スイッチング素子の温度情報を取得して、前記スイッチング素子をターンオンするときとターンオフするときの少なくとも一方のときに、前記温度情報に基づいて前記スイッチング素子の駆動能力を可変する駆動回路。
【請求項2】
前記温度情報を取得する温度モニターと、
前記温度モニターの取得した前記温度情報に応じた傾きで可変するゲート電圧を、前記スイッチング素子に印加する出力部と、
備える請求項1に記載の駆動回路。
【請求項3】
前記温度モニターは、順方向電圧が温度に依存して変化するダイオードを含み、前記順方向電圧又はこれに応じた電圧を前記温度情報として出力する請求項2に記載の駆動回路。
【請求項4】
前記出力部は、
前記ダイオードに接続される第1端子と、所定の電圧を印加される第2端子と、前記第1端子と前記第2端子の電位差を所定の増幅率に増幅した出力電圧を出力する出力端子と、を有する演算増幅器と、
前記出力端子と前記スイッチング素子との間に接続され、前記出力電圧の電圧値に基づいて前記ゲート電圧の傾きを変化させる調整部と、
を含んで構成される請求項3に記載の駆動回路。
【請求項5】
前記出力部は、
所定の定電流を出力又は遮断する複数の定電流源を有し、各前記定電流源のうち出力状態の前記定電流源の電流値に応じた出力電流を出力する可変電流源と、
前記順方向電圧の電圧値に基づいて、各前記定電流源を出力状態又は遮断状態に切り替える制御部と、
前記出力電流の電流値に基づいて前記ゲート電圧の傾きを変化させる調整部と、
を含んで構成される請求項3に記載の駆動回路。
【請求項6】
前記スイッチング素子と、
請求項1から5のいずれかに記載の駆動回路と、
を備える半導体装置。
【請求項7】
前記スイッチング素子と、
請求項1から5のいずれかに記載の駆動回路と、
を備えるスイッチング電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書中に開示されている発明は、駆動回路、およびそれを備えた半導体装置、並びにそれを備えたスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチング電源装置や半導体装置には、スイッチング素子が用いられている(特許文献1)。特許文献1のスイッチング電源装置では、スイッチング素子をON/OFFすることで、入力電圧から所望の出力電圧を生成する。
【0003】
このようなスイッチング素子には、ドレイン・ソース間にドレイン電流が流れることで損失が生じる。このような損失には、主に、オン抵抗によってオン状態で定常的に生じる損失(以下「Ron損失」と称する)と、オフ状態からオン状態に切り替わる際の遷移中に生じる損失(以下「ターンオン損失」と称する)と、オン状態からオフ状態に切り替わる際の遷移中に生じる損失(以下「ターンオフ」と称する)と、を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したようなスイッチング素子のオン抵抗は、スイッチング素子の昇温に追従するように上昇する、いわゆる正の温度特性を有する。このため、スイッチング素子が昇温すると、スイッチング素子における損失が、Ron損失の増加に伴って増加してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書中に開示されている発明の駆動回路は、スイッチング素子を駆動可能に構成された駆動回路であって、前記スイッチング素子の温度情報を取得して、前記スイッチング素子をターンオンするときとターンオフするときの少なくとも一方のときに、前記温度情報に基づいて前記スイッチング素子の駆動能力を可変する。
【0007】
また、本明細書中に開示されている発明の半導体装置は、前記スイッチング素子と、上記構成の駆動回路と、を備える。
【0008】
また、本明細書中に開示されている発明のスイッチング電源装置は、前記スイッチング素子と、上記構成の駆動回路と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本明細書中に開示されている発明の駆動回路によれば、スイッチング素子における損失がスイッチング素子の昇温によって増加することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るスイッチング電源を示す図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るスイッチング素子のゲート信号、ドレイン電圧、ドレイン電流を示すグラフである。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るスイッチング素子の温度と、スイッチング損失の関係を表すグラフである。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係るスイッチング電源を示す図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態のスイッチング素子の温度と、ゲート電圧のスルーレートを示すグラフである。
【
図6】
図6は、第2実施形態のスイッチング素子の温度と、スイッチング損失の関係を表すグラフである。
【
図7】
図7は、変形例に係るスイッチング電源を示す図である。
【
図8】
図8は、さらなる変形例に係るスイッチング電源を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、MOS(Metal Oxide Semiconductor)電界効果トランジスタとは、ゲートの構造が、「導電体または抵抗値が小さいポリシリコン等の半導体からなる層」、「絶縁層」、及び「P型、N型、又は真性の半導体層」の少なくとも3層からなる電界効果トランジスタをいう。つまり、MOS電界効果トランジスタのゲートの構造は、金属、酸化物、及び半導体の3層構造に限定されない。
【0012】
本明細書において、定電流とは、理想的な状態において一定である電流を意味しており、実際には温度変化等により僅かに変動し得る電流である。
【0013】
以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態に係るスイッチング電源1を示す図である。本実施形態のスイッチング電源1は、絶縁型のフライバック電源である。スイッチング電源1は、一次回路系(GND1系)と二次回路系(GND2系)との間を電気的に絶縁しつつ一次回路系に供給される直流入力電圧Vinを所望の直流出力電圧Voutに変換して二次回路系から出力する。スイッチング電源1は、トランス20と、二次系整流平滑回路30と、半導体装置70と、を有する。
【0014】
トランス20は、一次巻線21と二次巻線22を含んで構成されている。一次巻線21は、一次回路系に含まれている。二次巻線22は、二次回路系に含まれている。一次巻線21と二次巻線22は、一次回路系と二次回路系との間を電気的に絶縁しつつ互いに磁気結合されている。
【0015】
一次巻線21の第1端(巻始端)は、直流入力電圧Vinの印加端に接続されている(図示省略)。一次巻線21の第2端(巻終端)は、後述するスイッチング素子40のドレインに接続されている。二次巻線22の第1端(巻終端)は、二次系整流平滑回路30の入力端(後述するダイオード31のアノード)に接続されている。二次巻線22の第2端(巻始端)は、二次回路系の接地端GND2に接続されている。
【0016】
二次系整流平滑回路30は、二次回路系に設けられたダイオード31及びキャパシタ32を含む。二次系整流平滑回路30は、トランス20の二次巻線22に現れる誘起電圧を整流及び平滑して直流出力電圧Voutを生成する。ダイオード31のアノードは、二次巻線22の第1端(巻終端)に接続されている。ダイオード31のカソードとキャパシタ32の第1端は、直流出力電圧Voutの出力端に接続されている。キャパシタ32の第2端は、二次回路系の接地端GND2に接続されている。
【0017】
半導体装置20は、トランス20の駆動主体となるスイッチング制御ICであり、後述するスイッチング素子40と、抵抗44と、駆動回路46とを含んで構成されている。
【0018】
スイッチング素子40は、Nチャネル型のMOSFET(metal oxide semiconductor field effect transistor)である。スイッチング素子40のドレインには、一次巻線21の第2端(巻終端)と共にスナバ回路41の入力端(後述するダイオード42のアノード)に接続されている。スイッチング素子40のソースは、抵抗44を介して一次回路系の接地端GND1に接続されている。スイッチング素子40のゲートは、後述する駆動回路46に接続されている。
【0019】
スイッチング素子40は、直流入力電圧Vinの印加端からトランス20の一次巻線21を介して一次回路系の接地端GND1に至る電流経路を、ゲートに印加されるゲート信号G1(ゲート電圧)に応じて導通/遮断することにより、一次巻線21に流れる一次電流Ipをオン/オフする。スイッチング素子40は、ゲート信号G1がハイレベルであるときにオンとなり、ゲート信号G1がローレベルであるときにオフとなる。
【0020】
スナバ回路41は、一次回路系に設けられたダイオード42、キャパシタ43、および抵抗45を含む。スナバ回路41は、一次巻線21に発生する過渡的なサージ電圧を吸収するための保護回路である。キャパシタ43の第1端は、ダイオード42のカソードに接続されている。キャパシタ43の第2端は、一次巻線21の第1端(巻始端)と共に、直流入力電圧Vinの印加端に接続されている(図示省略)。抵抗45の第1端は、キャパシタ43の第1端と共にダイオード42のカソードに接続されている。抵抗45の第2端は、キャパシタ43の第2端に接続されている。
【0021】
駆動回路46は、スイッチング素子40のゲートに接続され、スイッチング素子40を駆動可能に構成されている。駆動回路46は、スイッチング素子40の温度情報(例えば、スイッチング素子40のジャンクション温度と相関のあるスイッチング素子40の周囲温度に応じた情報)を取得して、温度情報に基づいてゲート信号G1の傾き(立ち上がり時間)を変化させることで、スイッチング素子40の駆動能力を可変する。以下、駆動回路46について詳細に説明する。
【0022】
駆動回路46は、電流源47と、温度モニター48と、出力部38と、を備えている。温度モニター48は、スイッチング素子40の温度情報を取得可能である。出力部38は、取得された温度情報に基づいて所定のゲート信号G1を生成し、スイッチング素子40のゲートに供給する。
【0023】
本実施形態の温度モニター48は、温度の上昇に応じて順方向電圧が低下する温度特性をもつダイオード53である。ダイオード53は、スイッチング素子40の比較的近傍に配置され、スイッチング素子40の発熱を受けて昇温する。本実施形態に係る温度情報とは、スイッチング素子40の周囲温度に応じて変化する順方向電圧の電圧値とする。ダイオード53のアノードは、電流源47が接続されている。ダイオード53のカソードは、接地端GND1に接続されている。
【0024】
出力部38は、演算増幅器54と、調整部39と、を含んで構成されている。演算増幅器54は、-端子(第1端子)と、+端子(第2端子)と、出力端子とを有するオペアンプである。演算増幅器54の+端子には、ダイオード53のアノードと共に、電流源47の出力端が接続されている。演算増幅器54の-端子は、抵抗56と、内部電源55を介して接地端GND1に接続されている。また、演算増幅器54の-端子には、演算増幅器54の出力端子が抵抗57を介して接続されている。
【0025】
演算増幅器54の出力端子は、調整部39の入力端(後述するトランジスタ60のドレイン)に、抵抗58を介して接続されている。演算増幅器54は、-端子に印加された電圧値と+端子に印加された電圧値との差分値を所定の増幅率で増幅した出力電圧を、抵抗58に印加する。
【0026】
ダイオード53の順方向電圧をVF、内部電源55の電圧値をV1、演算増幅器54の出力端子の電圧値をV2、抵抗58の第1カレントミラー50側の端子の電圧値をV3、抵抗56の抵抗値をR1、抵抗57の抵抗値をR2、抵抗58の抵抗値をR3、とすると、以下の(1)式、(2)式の関係が成立する。
・・・・・・(1)
【0027】
調整部39の出力端(後述するハイサイドトランジスタMHのドレインと後述するローサイドトランジスタMLのドレインとの接続ノード)は、スイッチング素子40のゲートに接続されている。調整部39は、演算増幅器54の出力電圧に基づいて、ゲート信号G1の傾き(立ち上がり時間)を変化させる。
【0028】
調整部39は、第1カレントミラー50と、第2カレントミラー51と、第3カレントミラー52と、ハイサイドトランジスタMHと、ローサイドトランジスタMLと、信号制御部10と、を含んで構成されている。トランジスタ49およびローサイドトランジスタMLは、Nチャネル型のMOSFETである。ハイサイドトランジスタMHは、Pチャネル型のMOSFETである。
【0029】
第1カレントミラー50は、トランジスタ60と、トランジスタ61とを含んで構成されている。トランジスタ60、61は、Pチャネル型のMOSFETである。トランジスタ60およびトランジスタ61の各ゲートは、トランジスタ60のドレインに接続されている。上述した通り、トランジスタ60のドレインは、演算増幅器54の出力端子に接続されている。トランジスタ60のソースは、トランジスタ61のソースと共に電源電圧Vccに接続されている。トランジスタ61のドレインは、第2カレントミラー51の入力端(後述するトランジスタ62のドレイン)に接続されている。
【0030】
第1カレントミラー50は、抵抗58に流れる電流I1を所定のミラー比でミラーすることにより、トランジスタ61のドレインからミラー電流Id1を出力する。
【0031】
第2カレントミラー51は、トランジスタ62と、トランジスタ63とを含んで構成されている。トランジスタ62、63は、Nチャネル型のMOSFETである。トランジスタ62およびトランジスタ63の各ゲートは、トランジスタ62のドレインに接続されている。トランジスタ62およびトランジスタ63の各ソースは、接地端GND1に接続されている。トランジスタ63のドレインは、第3カレントミラー52の入力端(後述するトランジスタ64のドレイン)に接続されている。
【0032】
第2カレントミラー51は、トランジスタ61から出力されたミラー電流Id1を所定のミラー比でミラーすることにより、トランジスタ63のドレインからミラー電流Id2を出力する。
【0033】
第3カレントミラー52は、トランジスタ64と、トランジスタ65とを含んで構成されている。トランジスタ64、65は、Pチャネル型のMOSFETである。トランジスタ64およびトランジスタ65の各ゲートは、トランジスタ64のドレインに接続されている。トランジスタ64のソースは、トランジスタ65のソースと共に電源電圧Vccに接続されている。トランジスタ65のドレインは、ハイサイドトランジスタMHのソースに接続されている。
【0034】
第3カレントミラー52は、トランジスタ63から出力されたミラー電流Id2を所定のミラー比でミラーすることにより、トランジスタ65のドレインからミラー電流Id3を出力する。
【0035】
ハイサイドトランジスタMHのドレインは、ローサイドトランジスタMLのドレインと共に、スイッチング素子40のゲートに接続されている。ローサイドトランジスタMLのソースは、接地端GND1に接続されている。
【0036】
ハイサイドトランジスタMHのゲートは、信号制御部10の外部端子T1に接続されている。ローサイドトランジスタMLのゲートは、信号制御部10の外部端子T2に接続されている。
【0037】
信号制御部10は、トランス20の駆動主体となるスイッチング制御ICである。信号制御部10は、ハイサイドトランジスタMHおよびローサイドトランジスタMLの各ゲート信号を生成する。ハイサイドトランジスタMHはハイレベルのゲート信号G1を生成し、ローサイドトランジスタMLは、ローレベルのゲート信号G1を生成する。
【0038】
次に、駆動回路46によるスイッチング素子40の駆動能力の可変について、詳細に説明する。スイッチング素子40が昇温し、スイッチング素子40の周囲温度が上昇すると、ダイオード53の温度も上昇する。ダイオード53が昇温すると、ダイオード53の順方向電圧が低下する。
【0039】
上述した通り、スイッチング素子40の昇温によってダイオード53が昇温すると、順方向電圧が低下する。順方向電圧VFが低下すると、上記(1)式から、演算増幅器54の出力電圧V2が低下する。出力電圧V2が低下すると、上記(2)式から、抵抗58に流れる電流I1も大きくなる。
【0040】
すると、第1カレントミラー50~第3カレントミラー52を介してハイサイドトランジスタMHに流れ込むミラー電流Id3も大きくなる。ミラー電流Id3が大きくなるのに応じて、ローレベルのゲート信号G1の立ち上がり時間が短くなる。このように、駆動回路46は、スイッチング素子40の温度情報を取得して、その温度情報に応じてスイッチング素子40のゲート信号G1の傾き(立ち上がり時間)を変化させる。
【0041】
図2は、本実施形態に係るスイッチング素子40のゲート信号G1(Gate)、ドレイン電圧(DRAIN)、ドレイン電流(IDRAIN)を示すグラフである。グラフの左側(
図2のA1の部分)は、温度モニター48および出力部38を備えていないスイッチング電源(以下、「参考例」と称する)におけるスイッチング素子のグラフである。グラフの右側(
図2のA2の部分)は、本実施形態の駆動回路46を備えたスイッチング電源1におけるスイッチング素子40のグラフである。
【0042】
参考例のスイッチング素子40は、オフ状態のとき(時間t1までの期間)、ゲート信号G1がローレベルになっている。そして、オフ状態からオン状態に切り替わるとき(時間t1からt2の間の期間)、ゲート信号G1の電圧値がローレベルからハイレベルに向かって上昇する。ゲート信号G1の電圧値の上昇に伴って、ドレイン電圧は低下し、ドレイン電流は上昇する。この期間中に生じた電力(損失)をターンオン損失とする。
【0043】
参考例のスイッチング素子40は、時間t2から時間t3までの期間において、ゲート信号G1がハイレベルに到達し、そのまま維持される。
【0044】
参考例のスイッチング素子40がオン状態からオフ状態に切り替わるとき(時間t3からt4までの期間)、ゲート信号G1がハイレベルからローレベルへ低下する。このとき、ゲート信号G1の電圧値の低下に伴って、ドレイン電圧は上昇し、ドレイン電流は低下する。この期間中に生じた電力(損失)は、ターンオフ損失となる。
【0045】
一方、本実施形態のスイッチング電源1は、上述した通り、駆動回路46がスイッチング素子40の温度情報を取得して、その温度情報に基づいてスイッチング素子40のゲート信号G1の傾きを変化させる構成を採用している。このため、スイッチング素子40がオフ状態からオン状態に切り替わるとき(時間t1´からt2´までの期間)、参考例のものと比べて、ゲート信号G1の立ち上がり時間が短くなっている。換言すると、ゲート信号G1がローレベルからハイレベルに到達するまでの時間間隔(t1´からt2´までの期間)が、参考例のもの(t1からt2までの期間)よりも、短くなっている。このため、本実施形態のスイッチング素子40は、ターンオン時に発生する電力(ターンオン損失)の量が、参考例のものと比べて低下している。
【0046】
図3は、本実施形態に係るスイッチング素子40の温度(Ta)と、スイッチング素子40における損失(Lo)の関係を表すグラフである。破線で示すグラフは、参考例のスイッチング素子40のスイッチング損失を示し、実線で示すグラフは、本実施形態のスイッチング素子40のスイッチング損失を示している。スイッチング損失は、Ron損失と、ターンオン損失と、ターンオフ損失の合計値から算出している。
【0047】
上述した通り、Ron損失は、スイッチング素子40の温度が上昇するにつれて増加する。このため、
図3に示すように、参考例のスイッチング素子40は、温度が上昇するにつれて、スイッチング素子40における損失も比例的に増加している。一方、本実施形態のスイッチング素子40は、上述した通り、スイッチング素子40が昇温してRon損失が増加したとしても、Ron損失の増加分を相殺するようにターンオン損失が減少する。このため、
図3に示すように、スイッチング素子40の温度が上昇したとしても、スイッチング素子40における損失の上昇を抑制することができる。
【0048】
従って、上記実施形態の駆動回路46を採用することで、スイッチング素子40の昇温によるスイッチング素子40における損失の増加を抑制することができる。
【0049】
次に、第2実施形態のスイッチング電源1について説明する。なお、以下では、第1実施形態との相違点を述べ、第1実施形態と同様の構成は同じ符号を付して説明を省略している。
図4は、第2実施形態に係るスイッチング電源1を示す図である。
【0050】
本実施形態のスイッチング電源1に係る出力部38は、可変電流源67と、セレクター69(制御部)と、調整部39と、を備えている。
【0051】
可変電流源67は、複数の定電流源68a~68hと、スイッチ端子SW1~SW7を含んで構成されている。定電流源68a~68hは、それぞれ電源電圧Vccに接続されている。定電流源68aは、第2カレントミラー51のトランジスタ62のドレインに接続されている。
【0052】
スイッチ端子SW1~SW7のそれぞれの出力端は、トランジスタ62のドレインに接続されている。定電流源68b~68hは、スイッチ端子SW1~SW7を介して、トランジスタ63のドレインに対して導通状態、または遮断状態に切り替え可能に設けられている。
【0053】
セレクター69は、ダイオード53のアノードに接続されている。セレクター69は、ダイオード53の取得した温度情報に基づいて、スイッチ端子SW1~SW7のそれぞれを導通状態、または遮断状態に切り替える。
【0054】
具体的には、セレクター69には、ダイオード53の順方向電圧の電圧値に応じたスイッチ端子SW1~SW7の導通状態、遮断状態のパターンが、予め記憶されている。ダイオード53の順方向電圧がセレクター69に印加されると、その順方向電圧の電圧値に基づいて、スイッチ端子SW1~SW7の導通状態、遮断状態を切り換える。このとき、セレクター69は、順方向電圧が所定値ずつ低下するにつれて、スイッチ端子SW1~SW7を1つずつ導通状態に切り替える。
【0055】
可変電流源67は、ドレイン電流Id4を、トランジスタ62のドレインに出力する。ドレイン電流Id4の電流値は、定電流源68b~68hのうち導通状態のものの電流値と、定電流源68aの電流値との合計値となる。ドレイン電流Id4は、第2カレントミラー51および第3カレントミラー52を介して、所定のドレイン電流としてハイサイドトランジスタMHのドレインに流れ込む。なお、第2カレントミラー51のトランジスタ62およびトランジスタ63の各ソースは、接地端GND1に接続されている。
【0056】
図5は、本実施形態のスイッチング素子40の温度(Ta)と、ゲート信号G1のスルーレート(SR)を示すグラフである。
図6は、本実施形態のスイッチング素子40の温度(Ta)と、スイッチング素子40における損失(Lo)の関係を表すグラフである。
図6の破線で示すグラフは、上述した参考例のスイッチング素子40における損失を示し、実線で示すグラフは、本実施形態のスイッチング素子40における損失を示している。
【0057】
スイッチング素子40の温度が上昇し、ダイオード53が昇温すると、ダイオード53の順方向電圧が低下する。すると、上述したように可変電流源67の出力するドレイン電流Id4が段階的に上昇する。その結果、
図5に示すように、スイッチング素子40は昇温するにつれてスルーレートが上昇し、ターンオン損失を低減することができる。これにより、
図6に示すように、スイッチング素子40が昇温してもスイッチング素子40における損失の上昇を抑制することができる。
【0058】
なお、本発明の構成は、上記各実施形態のほか、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0059】
例えば、上記各実施形態では、スイッチング素子40のターンオン時にのみスイッチング素子40の駆動能力を可変する構成を採用しているが、ターンオフ時にも同様に駆動能力を可変する構成を採用することもできる。
【0060】
この場合、
図7に示すように、第2カレントミラー51は、トランジスタ66を備えている。トランジスタ66のドレインは、ロ―サイドトランジスタ63のソースに接続される。トランジスタ66のソースは、接地端GND1に接続されている。トランジスタ63のソースは、トランジスタ66のソースに接続されている。また、トランジスタ62およびトランジスタ63の各ゲートを、トランジスタ66のゲートに接続する。これにより、ターンオン損失だけでなく、ターンオフ損失も低減可能となり、スイッチング素子40の発熱に伴うスイッチング素子40における損失の上昇をより効果的に抑制できる。
【0061】
また、スイッチング素子のターンオフ時にのみスイッチング素子40の駆動能力を可変する構成を採用することもできる。この場合、
図8に示すように、第2カレントミラー51は、トランジスタ62と、トランジスタ66とを含んで構成されている。トランジスタ66のドレインは、ローサイドトランジスタMLのソースに接続されている。
【0062】
明細書中に開示されている駆動回路(46)は、スイッチング素子(40)を駆動可能に構成された駆動回路(46)であって、前記スイッチング素子(40)の温度情報を取得して、前記スイッチング素子(40)をターンオンするときとターンオフするときの少なくとも一方のときに、前記温度情報に基づいて前記スイッチング素子(40)の駆動能力を可変する構成(第1の構成)とされている。
【0063】
なお、第1の構成からなる駆動回路(46)において、前記温度情報を取得する温度モニター(48)と、前記温度モニター(48)の取得した前記温度情報に応じた傾きで可変するゲート電圧(G1)を、前記スイッチング素子(40)に印加する出力部(38)と、を備える構成(第2の構成)にするとよい。
【0064】
また、第2の構成からなる駆動回路(46)において、前記温度モニター(48)は、順方向電圧が温度に依存して変化するダイオード(42)を含み、前記順方向電圧又はこれに応じた電圧を前記温度情報として出力する構成(第3の構成)にするとよい。
【0065】
また、第3の構成からなる駆動回路(46)において、前記出力部(38)は、前記ダイオード(42)に接続される第1端子と、所定の電圧を印加される第2端子と、前記第1端子と前記第2端子の電位差を所定の増幅率に増幅した出力電圧を出力する出力端子と、を有する演算増幅器と、前記出力端子と前記スイッチング素子(40)との間に接続され、前記出力電圧の電圧値に基づいて前記ゲート電圧(G1)の傾きを変化させる調整部(39)と、を含んで構成される構成(第4の構成)とするとよい。
【0066】
また、第3の構成からなる駆動回路(46)において、前記出力部(38)は、所定の定電流を出力又は遮断する複数の定電流源(68a~68h)を有し、各前記定電流源(68a~68h)のうち出力状態の前記定電流源(68a~68h)の電流値に応じた出力電流を出力する可変電流源(67)と、前記順方向電圧の電圧値に基づいて、各前記定電流源(68a~68h)を出力状態又は遮断状態に切り替える制御部(69)と、前記出力電流の電流値に基づいて前記ゲート電圧(G1)の傾きを変化させる調整部(39)と、を含んで構成される構成(第5の構成)とするとよい。
【0067】
また、明細書中に開示されている半導体装置(70)は、前記スイッチング素子(40)と、上記第1~第5のいずれかの構成の駆動回路(46)と、を備える構成(第6の構成)とされている。
【0068】
また、明細書中に開示されているスイッチング電源装置(1)は、前記スイッチング素子(40)と、上記第1~第5のいずれかの構成の駆動回路(46)と、を備える構成(第7の構成)とされている。
【0069】
第1の構成に係る駆動回路(46)によれば、スイッチング素子(40)における損失がスイッチング素子(40)の昇温によって増加することを抑制できる。
【0070】
また、第2の構成に係る駆動回路(46)によれば、温度モニター(48)が取得したスイッチング素子(40)の温度情報に応じて、スイッチング素子(40)の駆動能力をより好適に変化させることができる。
【0071】
また、第3の構成に係る駆動回路(46)によれば、スイッチング素子(40)の温度情報を、ダイオード(42)の順方向電圧の変化によって取得することができる。これにより、温度情報に応じてより好適にスイッチング素子(40)の駆動能力を可変することができる。
【0072】
また、第4の構成に係る駆動回路(46)によれば、ダイオード(42)の順方向電圧の変化に応じてスイッチング素子(40)の駆動能力が可変する構成とすることができる。このため、複雑な制御系統を設けることなく、スイッチング素子(40)の駆動能力をより好適に変化させることができる。
【0073】
また、第5の構成に係る駆動回路(46)によれば、温度情報に応じて段階的にスイッチング素子(40)の駆動能力を変化させることができる。
【0074】
また、第6の構成に係る半導体装置(70)によれば、スイッチング素子(40)における損失がスイッチング素子(40)の昇温によって増加することを抑制可能な半導体装置(70)を提供できる。
【0075】
また、第7の構成に係るスイッチング電源装置(1)によれば、スイッチング素子(40)における損失がスイッチング素子(40)の昇温によって増加することを抑制可能なスイッチング電源装置(1)を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、あらゆる分野(家電分野、自動車分野、産業機械分野など)で用いられるスイッチング電源装置に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 スイッチング電源
10 信号制御部
20 トランス
21 一次巻線
22 二次巻線
30 二次系整流平滑回路
31 ダイオード
32 キャパシタ
38 出力部
39 調整部
40 スイッチング素子
41 スナバ回路
42 ダイオード
43 キャパシタ
46 駆動回路
47 電流源
48 温度モニター
50 第1カレントミラー
51 第2カレントミラー
52 第3カレントミラー
53 ダイオード
54 演算増幅器
44、45、55、58、59 抵抗
56、57 導線経路
49、60~66 トランジスタ
67 可変電流源
68a~68h 定電流源
69 セレクター(制御部)
70 半導体装置
G1 ゲート信号(ゲート電圧)
GND1 接地端
GND2 接地端
I1 電流
Id1 ミラー電流
Id2 ミラー電流
Id3 ミラー電流
Id4 ドレイン電流
MH ハイサイドトランジスタ
ML ローサイドトランジスタ
SW1~SW7 スイッチ端子
T1 外部端子
T2 外部端子
Vcc 電源電圧
Vin 直流入力電圧
Vout 直流出力電圧
t1 時間
t´1 時間
t2 時間
t´2 時間
t3 時間